JP4127676B2 - 電子式電力量計および電力関連量演算回路 - Google Patents

電子式電力量計および電力関連量演算回路 Download PDF

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Description

【技術分野】
【0001】
この発明は、電力量を計測する電子式電力量計および電力関連量演算回路に関し、特に、有効電力、有効電力量、無効電力、無効電力量、皮相電力、ひずみ電力、電流実効値、電圧実効値、電流と電圧との位相差、これらの各次数の高調波における値などの電力関連量を演算できる電子式電力量計および電力関連量演算回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来例1.
従来の電子式電力量計は、たとえば日本国特許3080207号に参照されるように、電圧センサ(PT)および電流センサ(CT)により測定された電圧および電流のアナログ量をディジタル値に変換する手段として、第1および第2の逐次比較型AD変換器を有し、これらのディジタル出力(電圧および電流)を乗算器により演算して電力Wを得る構成となっている。
【0003】
一般に、第1、第2の逐次比較型AD変換器は、アナログ入力信号に対して、出力を等しい分解能で離散的に増加するようなディジタル値に量子化しているので、低レベルの入力信号に対して絶対的なディジタル変換精度を得るためには、高分解能の逐次比較型AD変換器が必要である。
【0004】
一方、ディジタル変換精度を上げる方法として、第1、第2の逐次比較型AD変換器のサンプリング周波数を上げる方法(いわゆる、オーバーサンプリング)が知られている。たとえば、サンプリング周波数を、ナイキストの定理から決定されるサンプリング周波数の128倍の周波数に上げると、量子化雑音が広い帯域に分散するので、各周波数成分スペクトルのレベルが低下して、信号周波数成分の雑音レベルは改善される。このことは、第1および第2の逐次比較型AD変換器の分解能を数ビット分だけ高めたことと等価である。
【0005】
しかしながら、上記従来例1を用いて高精度の電子式電流量計を得るためには、高分解能の第1および第2の逐次比較型AD変換器と、多ビットを入力とする乗算器とが必要となるので、回路構成が複雑となり、コストの上昇を招くことになる。特に、モノリシックIC化して大量生産を実現しようとする場合には、極めて不利な条件となっていた。
【0006】
従来例2.
また、上記日本国特許3080207号には、上述の問題を解決するための一例として、電流および電圧をそれぞれ積分器で積分し、比較器を通してディジタル値を出力するとともに、このディジタル出力を遅延してD/A変換した値を上記積分器の入力側にフィードバックする手法も開示されている。
【0007】
この場合、上記電流および電圧をオーバーサンプリング周波数によりそれぞれ量子化する第1および第2のデルタシグマAD変調器と、量子化された電流および電圧をディジタルフィルタによりそれぞれ移動平均する第1および第2の移動平均処理手段と、移動平均処理された電流および電圧を乗算して電力値を求める乗算手段と、乗算により求めた電力値を積算する積算手段とを備えている。
【0008】
このように、従来例2によれば、低周波域の量子化ノイズを大幅に低減することができる。すなわち、AD変換器の有効な出力ビットが、逐次型AD変換器の場合と比べて実質的に増加したこととなるので、高精度の電子式電力量計を簡単な回路構成で得ることができ、特に、モノリシックIC化する場合に、回路を簡易化することができる。
【0009】
しかしながら、上述したように、従来の電子式電力量計は、電力量をリアルタイムに計量(または、表示)することが要求されている理由から、サンプリングタイミング毎(AD変換器のサンプリング周波数は固定)に電流と電圧とを直接乗算して電力量を演算している。また、ナイキスト周波数以上の高周波成分の入力信号(電流および電圧)を、ローパスフィルタを介して取得することにより、電力量を演算している。こうして算出された電力量は、基本波および高調波が合成されたものであり、基本波のみまたは高調波のみを計測することはできない。また、無効電力や高調波の無効電力も計測することもできない。
【0010】
他方、近年の電力機器には、サイリスタやインバータを使用したものが多く、電流に高調波が含まれることが多いので、高調波を含む電力関連量の多様な計測が要求されている。
【0011】
ここで、高調波成分を検出するための周知のフーリエ変換を適用して演算すれば、従来の電力量計でも、理論上は高調波成分を計測することが可能と考えられる。しかしながら、AD変換器のサンプリング周波数が電源周波数の自然数倍ではないので、電流および電圧のフーリエ変換値は、隣接する次数(フーリエ変換の結果、K次高調波成分がK+1次高調波成分)にも含まれる。
【0012】
したがって、高調波成分を得るためには、AD変換器のサンプリング周波数が固定されていることから、電源周波数を用いた高調波の修正演算が必要となり、この修正演算のために電源周波数の検出のみならず演算自体が必要となるので、特にリアルタイム性が要求される電子式電力量計としては、高価なプロセッサ(CPU)が必要となる。
【0013】
この場合、電子式電力量計とは用途が異なる構成として、サンプリング周波数が高速なAD変換器と、演算速度が高速なプロセッサを搭載した高精度且つ高価な計測器と同様の構成が必要となるので、民需品として汎用的に使用される電子式電力量計に採用することはできない。
【0014】
また、修正演算を不要とするために、AD変換器のサンプリング周波数を電源周波数の自然数倍に追従させようとすると、CPUからサンプリング周波数を制御するためには、従来例1の逐次AD変換器を用いた場合、たとえば、数KHzのサンプリング周波数に対して、数MHzのCPU出力クロックの分解能が要求されるが、計測したい高調波の次数が高くなると、CPUから高精度にサンプリング周波数を制御することはできない。
【0015】
他方、従来例1の逐次AD変換器をオーバーサンプリングにより計測する場合(または、従来例2のデルタシグマAD変換器を用いた場合)を例にとると、オーバーサンプリング周波数が数百kHz〜数MHz(>>数KHz)であるのに対して、CPUの出力クロックは数MHz〜数十MHzの分解能なので、CPUから高精度にサンプリング周波数を制御することはできない。
【0016】
また、発明者らが先に提案した特許願(PCT2002JP00045:未公開)に記載されたように、ヒルベルト変換により電流を回転させれば、基本波の有効電力および無効電力などを演算することができる。しかしながら、同一のヒルベルト変換器によって90度回転できる周波数は狭い(基本波で90度回転できるヒルベルト変換器は、高調波は90度からずれた角度の回転となる)ので、基本波以外の無効電力を1つのヒルベルト変換器により求めることは困難である。
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来の電子式電力量計および電力関連量演算回路は、以上のように構成されており、従来例1の電子式電流量計で高精度を得るためには、高分解能の第1および第2の逐次比較型AD変換器と、多ビットを入力とする乗算器とが必要となるので、回路構成が複雑となり、コストの上昇を招くという問題点があった。
【0018】
また、従来の電子式電力量計は、サンプリングタイミング毎に電流と電圧とを直接乗算して電力量を演算し、基本波および高調波が合成された電力量を算出しているので、基本波のみまたは高調波のみを計測することができないうえ、無効電力や高調波の無効電力も計測することもできないという問題点があった。
【0019】
また、周知のフーリエ変換を適用して高調波成分を計測しようした場合には、AD変換器のサンプリング周波数が電源周波数の自然数倍ではなく、フーリエ変換値が隣接する次数にも含まれることから、電源周波数を用いた高調波の修正演算が必要となるので、高価なプロセッサが必要となり、汎用的に使用される電子式電力量計に採用することができないという問題点があった。
【0020】
また、逐次AD変換器をオーバーサンプリングにより計測する場合や、デルタシグマAD変換器を用いた場合には、オーバーサンプリング周波数が非常に高い(数百kHz〜数MHz)ので、CPU出力クロックの分解能(数MHz〜数十MHz)で高精度にサンプリング周波数を制御することができず、AD変換器のサンプリング周波数を電源周波数の自然数倍に追従させて修正演算を不要にすることができないという問題点があった。
【0021】
さらに、ヒルベルト変換により電流を回転させて、基本波の有効電力および無効電力などを演算した場合には、同一のヒルベルト変換器によって90度回転できる周波数が狭いので、基本波以外の無効電力を1つのヒルベルト変換器により求めることができないという問題点があった。
【0022】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、サンプリング周波数の制御精度を向上させて高精度に電力量を得ることのできる電子式電力量計および電力関連量演算回路を提供することを目的とする。
【0023】
また、この発明は、簡易な構成で、基本波の電力量のみならず、高調波の電力量を計測可能な電子式電力量計および電力関連量演算回路を提供することを目的とする。
特に、この発明は、電源効率を見るのに必要な無効電力を、高調波をも含めて高精度に計測して、電力有効利用のための指標となる力率を高精度に得ることのできる電子式電力量計および電力関連量演算回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この発明に係る電子式電力量計は、電路(電源ライン)の電流および電圧を示す測定信号をAD変換器によりディジタル値に変換して取り込み、このディジタル値に基づいて電源ラインの電力量を演算するためのマイクロプロセッサ(CPU)からなる電子式電力量計において、電源ラインの電源周波数を検出する電源周波数検出手段と、マイクロプロセッサのクロック回路とは別に設けられ、電源周波数に基づいてAD変換器のサンプリング周波数を制御するサンプリング周波数制御手段と、サンプリング周波数制御手段からの制御電圧に応じてAD変換器のサンプリング周波数を変化させる電圧制御発振器とを備え、サンプリング周波数制御手段は、サンプリング周波数が電源周波数の自然数倍となるようにサンプリング周波数を制御し、電力量演算手段は、高調波電力量を演算するための高調波演算部を含む電子式電力量計であって、サンプリング周波数制御手段は、電源周波数の立上りまたは立下りのゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出手段と、電源周波数の前回の立上りまたは立下りのゼロクロス点から一周期経過した時点での電源周波数のAD変換値から、電源周波数の遅れまたは進みを電源位相差として検出する電源位相差検出手段とを含み、電源位相差に基づいてAD変換器のサンプリング周波数を制御するように構成され、電力量演算手段は、電源周波数の一周期分の電圧および電流の測定信号をパッキングするAD変換データパッキング手段と、AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換して第1の電力値を演算する電力演算部と、一周期分の電圧または電流をパッキングするのに要したパッキング時間を検出するパッキング時間検出手段と、第1の電力値をパッキング時間毎に保持するとともに、所定演算周期のサンプリング指令が生成される毎に、第1の電力値を第2の電力値として出力する電力出力手段と、第2の電力値を積算して、第2の電力値の積算値が所定値に達する毎に電力量パルスを出力する電力量パルス出力手段と、AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換して、高調波の各次数毎の電流、電圧、有効電力または無効電力を含む電力関連値および電力関連値の位相差を演算する電力演算部とを含むので、サンプリング周波数の制御精度を向上させて高精度に電力量を取得するとともに、簡易な構成で基本波に加え高調波の電力量を計測できる。また、CPUへの負荷が少なく簡易な構成とできるうえ、リアルタイム性も満たすことができる。
【0025】
また、サンプリング周波数制御手段は、サンプリング周波数が電源周波数の2のn乗(nは自然数)となるように制御するように構成され、電力量演算手段は高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)により高調波電力量を演算する高速フーリエ変換手段を有するので、演算を高速化することができ、リアルタイム性に優れる。
【0026】
また、AD変換器はオーバーサンプリングを要するデルタシグマ型からなるので、高精度且つモノリシックIC化に好適である。
【0028】
また、サンプリング周波数制御手段は、電源ラインの電圧の絶対位相を検出する手段と、電圧の前回の絶対位相から一周期経過した時点での絶対位相の遅れまたは進みを電圧位相差として検出する手段と、電圧位相差に基づいてAD変換器のサンプリング周波数を制御する手段とを有するので、ホワイトノイズの影響を抑制することができる。
【0029】
また、電圧位相差検出手段は、0度、90度、180度、または270度の絶対位相を基準とするように構成されたので、調整の幅を広くとることができる。
【0030】
サンプリング周波数補正手段は、AD変換器のサンプリング周波数を補正するサンプリング周波数補正手段を有し、サンプリング周波数補正手段は、サンプリング周波数の制御量を求める制御量演算手段と、サンプリング周波数の制御量をD/A変換して出力するD/A変換手段と、D/A変換手段の出力電圧をオフセットさせるオフセット手段とを含み、オフセット手段は、電源ラインの規定周波数側に所定電圧だけオフセットさせるように構成されたので、簡易且つビット数が小さなD/A変換手段を使用することができる。
【0031】
また、所定電圧(オフセット電圧)を外部から調整するためのオフセット電圧調整手段を設けたので、種々の電路に適用できるとともに、簡易且つビット数が小さなD/A変換手段を使用することができる。
【0033】
また、電力量演算手段は、電力関連値の位相差が被測定側の真の電力関連値の位相差となるように回転演算することにより、一周期分の電流または電圧を補正する位相補正手段を含むので、計測精度を向上させることができる。
【0034】
また、この発明に係る電力関連量演算回路は、電源ラインの電流および電圧を示す測定信号をディジタル値に変換して取り込むためのAD変換器と、電源ラインの電源周波数を検出する電源周波数検出手段と、ディジタル値を一周期分パッキングするAD変換データパッキング手段と、AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換するフーリエ変換手段と、フーリエ変換手段による変換結果に基づいて、有効電力、有効電力量、無効電力、無効電力量、皮相電力、ひずみ電力、電流実効値、電圧実効値、または、電流と電圧との位相差、を含む電力関連量を演算する電力関連量演算手段と、電流または電圧の周波数に基づいて、AD変換器のサンプリング周波数の補正量を演算するサンプリング周波数補正手段と、補正量に応じて変化するサンプリング周波数をAD変換器に出力する電圧制御発振器とを備え、電力関連量演算手段は、電源周波数の一周期分の電圧および電流の測定信号をパッキングするAD変換データパッキング手段と、AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換して第1の電力値を演算する電力演算部と、一周期分の電圧または電流をパッキングするのに要したパッキング時間を検出するパッキング時間検出手段と、第1の電力値をパッキング時間毎に保持するとともに、所定演算周期のサンプリング指令が生成される毎に、第1の電力値を第2の電力値として出力する電力出力手段と、第2の電力値を積算して、第2の電力値の積算値が所定値に達する毎に電力量パルスを出力する電力量パルス出力手段と、AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換して、高調波の各次数毎の電流、電圧、有効電力または無効電力を含む電力関連値および電力関連値の位相差を演算する電力演算部とを含み、サンプリング周波数補正手段は、サンプリング周波数の制御量を求める制御量演算手段と、サンプリング周波数の制御量をD/A変換して出力するD/A変換手段と、D/A変換手段の出力電圧をオフセットさせるオフセット手段とを含み、オフセット手段は、電源ラインの規定周波数側に所定電圧だけオフセットさせるように構成されたので、サンプリング周波数の制御精度を向上させて高精度に電力量を得ることができる。
【0035】
この発明は、上記回路構成のように、電源周波数のL倍(Lは自然数)にAD変換のサンプリング周波数を追従させるサンプリング周波数補正手段と電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator:VCO)を用いることで、AD変換器のサンプリング周波数を高精度に制御でき、その結果、電力関連量を高精度に得ることができる。特に、電源効率を把握するのに必要な無効電力を、高調波を含めて高精度に計測することができるので、電力有効利用のための指標となる力率を高精度に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について説明する。
この発明は、従来の電子式電力量計の演算とは異なり、1周期分のデータをフーリエ変換(好ましくは、FFT)により電力量などを演算するものである。
まず、この発明の実施の形態1に用いられる演算の理論について簡単に説明する。
【0037】
AD変換器のサンプリング周波数が電源周波数の自然数倍のとき、フーリエ変換により、以下の電力関連量を計測することができる。
AD変換器のサンプリング周波数を電源周波数のL倍(Lは自然数)とし、高調波次数をn次とする。n=0のときDC成分、n=1のとき基本波(1次高調波)となる。このときフーリエ変換により得ることのできる最大の高調波次数Hは、以下の式(1)で表される。
【0038】
【数1】
Figure 0004127676
【0039】
ただし、式(1)において、floor( )は小数点以下を切り捨てる関数であり、したがって、Hは自然数である。
AD変換で得られたL点のデータをフーリエ変換すると、振幅および位相情報を持った複素数値がDC成分からH次高調波成分まで得られる。電圧および電流のAD変換データL点に対してフーリエ変換して得られるn次高調波の複素数値を、それぞれ、Vn_cmp、In_cmpとし、これらを以下の式(2)、式(3)で表す。
【0040】
【数2】
Figure 0004127676
【0041】
ただし、式(2)、式(3)において、jは虚数単位、「・」は乗算記号である。また、Vn_re、Vn_im、In_re、In_imは、実数である。以下、フーリエ変換後の値は、実効値で正規化されているものとする。
ここで、n次高調波の有効電力Wnは、以下の式(4)で求められる。
【0042】
【数3】
Figure 0004127676
【0043】
また、全ての高調波を含む電力Wは、以下の式(5)で求められる。
【0044】
【数4】
Figure 0004127676
【0045】
ここで、n次高調波の無効電力varnは、以下の式(6)で求められる。
【0046】
【数5】
Figure 0004127676
【0047】
このとき、無効電力が正の場合には、電流は電圧に対して遅れ、無効電力が負の場合には、電流は電圧に対して進みである。また、全ての高調波を含む無効電力は、以下の式(7)で求められる。
【0048】
【数6】
Figure 0004127676
【0049】
n次高調波の電圧実効値Vrmsnは、以下の式(8)で求められる。
【0050】
【数7】
Figure 0004127676
【0051】
全ての高調波を含む電圧実効値Vrmsは、以下の式(9)で求められる。
【0052】
【数8】
Figure 0004127676
【0053】
n次高調波の電流実効値Irmsnは、以下の式(10)で求められる。
【0054】
【数9】
Figure 0004127676
【0055】
全ての高調波を含む電流実効値Irmsは、以下の式(11)で求められる。
【0056】
【数10】
Figure 0004127676
【0057】
n次高調波の皮相電力VAnは、以下の式(12)で求められる。
【0058】
【数11】
Figure 0004127676
【0059】
また、全ての高調波を含む皮相電力VAは、以下の式(13)で求められる。
【0060】
【数12】
Figure 0004127676
【0061】
電源電圧および電流に基本波のみしか存在しなければ、有効電力W、無効電力および皮相電力VAの関係は、以下の式(14)を満たす。
【0062】
【数13】
Figure 0004127676
【0063】
しかし、高調波が存在する場合には、上記式(14)は成り立たず、歪み電力が存在する。歪み電力Dは、以下の式(15)で求められる。
【0064】
【数14】
Figure 0004127676
【0065】
歪み電力Dは、正の実数であり、負の値とはならない。
フーリエ変換により得られるn次高調波の電圧および電流の複素数値Vn_cmpおよびIn_cmpは、ベクトル図として図1のように表される。ただし、図1において、横軸は実軸、縦軸は虚軸である。
【0066】
図1において、θは複素数値Vn_cmpの絶対位相、φは複素数値In_cmpの絶対位相である。ここで、絶対位相の基準は横軸正方向であり、反時計方向が進み(正)、時計方向が遅れ(負)を示している。
複素数値Vn_cmpを基準として、Vn_cmpとIn_cmpとの位相差(φ−θ)をPhase_VnInとすると、位相差Phase_VnInは、以下の式(16)で求められる。
【0067】
【数15】
Figure 0004127676
【0068】
位相差Phase_VnInは、電圧に対して電流が進んでいるときが「正」、遅れているときが「負」である。また、位相差Phase_VnInの範囲は、±180度である。
【0069】
上記においては、単相2線式についてのみ記述したが、単相3線式、三相3線式、三相4線式についても、同様に求めることができる。有効電力、無効電力および皮相電力は各相で求められた値を加算したものから、歪み電力は加算した各電力から、式(16)を利用して求められる。
新たに、各相の電圧間の位相を求めることもできる。すなわち、まず、A相のn次高調波電圧Van_cmpを、以下の式(17)とする。
【0070】
【数16】
Figure 0004127676
【0071】
また、B相のn次高調波電圧Vbn_cmpを、以下の式(18)とする。
【0072】
【数17】
Figure 0004127676
【0073】
このとき、A相を基準とした位相差Phase_VanVbnは、以下の式(19)で求められる。
【0074】
【数18】
Figure 0004127676
【0075】
ただし、式(19)において、Vabnはab相間の擬似的な有効電力、Vabn'はab相間の擬似的な無効電力を表す。
また、相の異なる電圧および電流についても、同じ方法で位相差を算出することができる。
【0076】
このように、AD変換器のサンプリング周波数が電源周波数の自然数倍であれば、フーリエ変換の演算結果を利用して高調波毎、高調波を含む全ての電力関連量、または、必要な高調波を含む電力関連量を得ることができる。
特に、無効電力を全ての高調波において得られることは特筆すべき点である。また、AD変換器のサンプリング周波数を電源周波数の2のN乗倍(Nは自然数)とすると、フーリエ変換の演算にFFTを利用することができる。したがって、通常はAD変換のサンプリング周波数は、電源周波数の自然数倍、且つ2のN乗倍とすることが好ましい。
【0077】
次に、この発明の実施の形態1による電子式電力量計の具体的な動作について説明する。
ここでは、この発明の実施の形態1によるVCO制御方法として、電源電圧のゼロクロスによりロックする方法について説明する。
図2はこの発明の実施の形態1による電子式電力量計の具体的な回路構成を示すブロック図である。
【0078】
図2において、AD変換器1は、センサ(図示せず)により検出された電圧Vおよび電流Iをディジタル値に変換する。AD変換器1の出力端子には、AD変換データパッキング手段2、フーリエ変換手段3および電力関連量演算手段4が順次接続されている。
AD変換データパッキング手段2は、電源周波数の一周期分の電圧および電流の測定信号をパッキングする。また、AD変換データパッキング手段2は、電源ライン上の電源周波数を検出する機能と、電源周波数の立上りまたは立下りのゼロクロス点を検出する手段とを有する。
【0079】
また、フーリエ変換手段3はフーリエ変換を行い、電力関連量演算手段4(電力量演算手段)は、高調波を含む電力関連量を演算するための高調波演算部としても機能する。
AD変換データパッキング手段2によりパッキングされたデータは、サンプリング周波数補正手段5を介して、AD変換器1を制御するための電圧制御発振器(以下、「VCO」と記す)6に入力される。
【0080】
AD変換器1に入力される電圧Vおよび電流Iは、センサ出力であり、電源上の物理電圧および電流そのものではなく、AD変換器1の入力に合わせられた値である。また、AD変換器1の入力側にアンチエリアシングフィルタや増幅用のオペアンプなど(図示せず)が配設される場合もある。
AD変換データパッキング手段2は、電源1周期分のAD変換データをL点毎にまとめる。
【0081】
フーリエ変換手段3は、AD変換データパッキング手段2から入力される電源1周期分のAD変換データ(L点)に対して、L点(一周期)毎にフーリエ変換を行う。
電力関連量演算手段4は、フーリエ変換演算処理後の電圧および電流の複素数値から電力関連量を演算する。
【0082】
サンプリング周波数補正手段5は、AD変換データパッキング手段2から入力されるデータに基づいて、AD変換サンプリング周波数を電源周波数の自然数L倍にロックするように、VCO6への電圧出力を制御する。
【0083】
VCO6は、サンプリング周波数補正手段5からの電圧出力をクロック出力に変換する。VCO6からAD変換器1へのクロック出力は、AD変換器1が逐次AD変換器の場合にはサンプリング周波数であり、デルタシグマAD変換器の場合にはオーバーサンプリング周波数である。ただし、AD変換器1がクロック信号の分周機能を有する場合には、VCO6は分周前のクロック出力を供給する。
【0084】
次に、図3および図4の説明図を参照しながら、図2に示したこの発明の実施の形態1による動作について説明する。
まず、図3に基づいて、サンプリング周波数補正手段5について説明する。図3は、図1と同様に、実軸(横軸)と虚軸(縦軸)とからなるベクトル空間を示している。
【0085】
図3のように、基本波の位相は、電源周波数が遅くなると遅れ、速くなると進むので、VCO6からのAD変換サンプリング周波数は、基本波の位相が進んだときには速くし、遅れたときには遅くするように制御される。このような制御を行う最も単純な方法は、フィードバック制御である。
【0086】
ここで、フィードバック係数をε、m回目に行ったVCO制御電圧をVcntrl_m、m回目の電圧基本波とm+1回目の電圧基本波との位相差をΨ(進みが正)とすると、m+1回目に行うVCO制御電圧Vcntrl_m+1は、以下の式(20)で表される。
【0087】
【数19】
Figure 0004127676
【0088】
ここで、VCO制御電圧値が大きいほど、クロック周波数が速くなるものとする。フィードバック係数ε(ε>0)は、制御に適正な値を使用するVCO6や追従速度などから決定される。
【0089】
上記式(20)のフィードバックを行う誤差量として位相差をそのまま用いると、位相を求めるための三角関数の演算が必要となって演算量が増加してしまうので、位相差Ψに対して1対1対応し且つ単調増加または単調減少の関係にあるものを誤差量として利用する。この誤差量Errorを用いると、上記式(20)は、以下の式(21)で表される。
【0090】
【数20】
Figure 0004127676
【0091】
ここで、誤差量Errorは、電源周波数が遅くなる(位相が遅れる)と正の値となり、電源周波数が早くなる(位相が進む)と負の値になる。したがって、位相差に対して、単調増加のときには符号反転し、単調減少のときにはそのままの値を誤差量Errorとして使用することができる。
【0092】
以下の周波数追従に関する処理は、誤差量Errorを位相以外の量に置き換えて演算量を減らすために実行されるものである。
VCO制御電圧Vcntrl(サンプリング周波数補正手段5の電圧出力)は、通常、D/A変換器により生成される。
【0093】
なぜなら、たとえば、PWM(Pulse Width Modulator:パルス幅変調)出力を用いた場合には、ローパスフィルタが必要となるので追従速度が遅くなるからである。なお、D/A変換前に、VCO制御電圧Vcntrlが発振しないように、ローパスフィルタを挿入してもよいが、この場合も追従速度が遅くなる。
【0094】
ここでは、最も基本的なフィードバック制御を例にとって説明するが、誤差量Errorに基づいてVCO制御電圧Vcntrlを決定できるものであれば、何でも使用することができる。
【0095】
図4は電源周波数を示す説明図であり、横軸は時間、縦軸は電源振幅を示している。
AD変換器1のサンプリング周波数は、電源周波数のk倍(電源周波数の自然数倍、且つ2のN乗倍)としたときに、L点サンプリングしたうちの1つの電圧(AD変換値)が立上りのゼロクロスとなるように制御される。
【0096】
このとき、完全にロックしていれば(電源周波数に変動がなければ)、電圧のAD変換値は毎回「0」となる。しかし、AD変換値は、電源周波数が早くなると正の値となり、遅くなると負の値となる(図4参照)。
誤差量Errorは、±90度の範囲で位相差に対して1対1対応し且つ単調増加を示すことにより、毎回選ばれるサンプリングポイントのAD変換値を符号反転した値とすることができる。
【0097】
ただし、サンプリング周波数の自然数倍の周波数、または自然数分の1の周波数でもロックするために、VCO制御電圧Vcntrlは、1/2倍〜2倍のサンプリング周波数となる値に制限される必要がある。
【0098】
この発明の実施の形態1においては、サンプリング周波数が電源周波数の自然数倍、且つ2のN乗倍に設定されているので、サンプリング周波数の1/2倍でもロックすることになる。また、上記式(21)内のフィードバック量である「ε・Error」にも制限を加える必要がある。
【0099】
ここでは、サンプリング周波数を電源電圧のゼロクロス点の立上りにロックさせたが、立下りにロックさせてもよく、この場合には、誤差量ErrorとしてAD変換値そのものが使用されることになる。
【0100】
以上のように、AD変換器1のサンプリング周波数を電源周波数の自然数倍に追従させることにより、フーリエ変換手段3によりフーリエ変換した結果から直接高調波成分を得ることができるので、簡易な構成で基本波の電力量に加え高調波の電力量も計測することができる。
【0101】
また、サンプリング周波数が数kHz、CPUのクロックが数MHzのものに、VCO6を組み合わせることにより構成でき、AD変換器1として特段に高精度のものが必要となる訳ではないので、モノリシックIC化する際にもチップ面積が大きくならず好ましい。
【0102】
また、VCO6により発振周波数を制御するので、CPUのクロックを使用してAD変換器1のサンプリング周波数を直接制御する場合よりも制御精度を高くすることができ、高調波の電力量を高精度に計測することができる。
【0103】
また、AD変換器1として、デルタシグマ形のものを使用しても、VCO6によりオーバーサンプリング周波数を微調整することができるので、電力量を含む電力関連量の計量精度がよく、且つ、モノリシックIC化に好適である。
また、上述したように、AD変換器1のサンプリング周波数は、電源周波数の自然数倍且つ2のN乗倍に設定し、フーリエ変換手段3は、FFTを使用することが演算速度の観点から好ましい。
【0104】
また、上記構成により、有効電力、有効電力量、無効電力、無効電力量、皮相電力、ひずみ電力、電流実効値、電圧実効値、電流と電圧との位相差、または、これらの各次数の高調波における値などの、従来構成では計測演算することのできない電力関連量を計測演算することができる。
たとえば、電源効率の算出に必要な無効電力を、高調波をも含めて高精度に計測することができ、電力有効利用のための指標となる力率を高精度に取得することもできる。
【0105】
また、サンプリング周波数補正手段5はCPUの演算機能で実現可能なうえ、上記構成は、サンプリング周波数補正手段5にVCO6を組み合わせるのみで実現可能なので、単純化することができる。
また、サンプリング周波数補正手段5は、ADデータパッキング手段2の出力データに基づいて、ゼロクロス点(立上り、または、立下り)を基準にロックさせるので、CPUにおいて複雑な演算が発生することはなく、単純な構成にすることができる。
また、上記式(21)内の誤差量Errorをフィードバック制御により追従させたので、追従性がよくリアルタイム性に優れる。
【0106】
実施の形態2.
なお、VCO6の制御において、FFTの基本波の絶対位相を同じ位置にロックしてもよい。
図5はこの発明の実施の形態2による要部回路構成を示すブロック図であり、VCO制御方法として、FFTの基本波の絶対位相を同じ位置にロックする場合を示している。図5において、前述(図2参照)と同様のものについては、同一符号の後に「A」を付して詳述を省略する。
【0107】
この場合、フーリエ変換手段3Aは、サンプリング周波数補正手段5AおよびVCO6Aと関連してサンプリング周波数制御手段を構成しており、電源電圧の絶対位相を検出する手段と、絶対位相の遅れまたは進みを電圧位相差として検出する手段とを含む。
また、サンプリング周波数補正手段5Aは、フーリエ変換手段3Aからのデータに基づいて、VCO6Aに対するVCO制御電圧を出力する。
【0108】
図6は、この発明の実施の形態2によるAD変換器1Aのサンプリング周波数を電源周波数の自然数L倍に追従させるための補正処理を示す説明図であり、前述の図1、図3と同様に、実軸(横軸)と虚軸(縦軸)とからなるベクトル空間を示している。
前述のように、電圧の基本波の絶対位相は、AD変換器1Aのサンプリング周波数が電源周波数の自然数L倍にロックされていれば、毎回同じ値となるが、電源周波数が遅くなると遅れ方向に回転し、速くなると進み方向に回転する。
【0109】
まず、基本波のFFT演算後の複素数値の前回値V1_cmp_preおよび現在値V1_cmpを、以下の式(22)で表した場合について考慮する。
【0110】
【数21】
Figure 0004127676
【0111】
このとき、位相差Phase_V1_Errorは、以下の式(23)で求められる。
【0112】
【数22】
Figure 0004127676
【0113】
ここで、位相差Phase_V1_Errorの範囲は、±90度である。
また、電圧の振幅が毎回ほぼ一定値とすると、式(23)の分母は定数と見なされる。また、式(23)の分子は、位相差に対して1対1対応し、単調減少となる。したがって、誤差量Errorを式(23)の分子とすれば、誤差量Errorは、以下の式(24)で表すことができる。
【0114】
【数23】
Figure 0004127676
【0115】
このとき、±90度以上の位相差があると、符号が反転する。また、サンプリング周波数の自然数倍、または自然数分の1でもロックするので、VCO制御電圧Vcntrlは、1/2倍〜2倍のサンプリング周波数となる値に制限される必要がある。また、フィードバック量(ε・Error)にも制限を加える必要がある。
以上のように構成することにより、この発明の実施の形態2では、前述の実施の形態1(ゼロ点の立上り、または立下りでロックする)による効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0116】
すなわち、フーリエ変換手段3Aによりフーリエ変換(好ましくは、FFT)した電圧(または、電流)の位相をロックしたので、前述の実施の形態1のように電圧波形のゼロクロス点でロックするものに比較し、ホワイトノイズや高調波が重畳したときの高精度化に優れている。
【0117】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態2では、絶対位相の基準について具体的に言及しなかったが、FFTの基本波の絶対位相を0度、90度、180度、270度にロックしてもよい。
以下、この発明の実施の形態3によるVCO制御方法について説明する。この場合、電圧の基本波の座標を固定する位置(FFTの基本波の絶対位相)は、0度、90度、180度、270度のいずれかに選択される。
【0118】
図7は実施の形態3によるVCO制御動作を示す説明図であり、図1、図3、図6と同様に、実軸(横軸)と虚軸(縦軸)とからなるベクトル空間を示している。
まず、0度にロックすることについて考える。
電源周波数が遅くなると位相が遅れるので、前述の式(2)内の実数値V1_imが負となり、電源周波数が速くなると実数値V1_imが正となる。
【0119】
実数値V1_imは、±90度の範囲で位相差に対して1対1対応し、且つ単調増加の関係にある。したがって、誤差量Errorは、以下の式(25)で表すことができる。
【0120】
【数24】
Figure 0004127676
【0121】
ここで、VCO制御電圧Vcntrlの制限、フィードバック量の制限は、上記実施の形態2と同様に必要である。
この方法により、誤差量Errorの演算量を上記実施の形態2の場合よりも少なくすることができ、且つ、1つ前(前回)の座標を記憶することが不要となる。
【0122】
位相差が±90度を超えると、誤差量Errorは単調増加の関係ではなくなるが、符号は変化しない。したがって、誤差量Errorを以下の式(26)のように設定すれば、±180度の範囲で位相差に対して誤差量Errorを単調減少の関係にすることができる。
【0123】
【数25】
Figure 0004127676
【0124】
通常、電圧基本波の実効値Vrms1は、ほとんど変化しないので、定数として扱うことも可能である。この方法により、±90度のフィードバック範囲を±180度にすることができる。
90度、180度、270度にロックするときも同様に誤差量を定義することができる。
すなわち、上記式(25)と同様に、90度の場合の誤差量Errorは、以下の式(27)で表される。
【0125】
【数26】
Figure 0004127676
【0126】
また、180度の場合の誤差量Errorは、以下の式(28)で表される。
【0127】
【数27】
Figure 0004127676
【0128】
また、270度の場合の誤差量Errorは、以下の式(29)で表される。
【0129】
【数28】
Figure 0004127676
【0130】
また、上記式(26)と同様に、90度の場合の誤差量Errorは、以下の式(30)で表される。
【0131】
【数29】
Figure 0004127676
【0132】
また、180度の場合の誤差量Errorは、以下の式(31)で表される。
【0133】
【数30】
Figure 0004127676
【0134】
また、270度の場合の誤差量Errorは、以下の式(32)で表される。
【0135】
【数31】
Figure 0004127676
【0136】
以上のように、FFTの基本波の絶対位相を0度、90度、180度、270度にロックすることにより、上記実施の形態2による効果に加えて、±90度であったフィードバック範囲を±180度に拡大させることができ、調整レンジを広くとることができる。
【0137】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態1〜3では、サンプリング周波数補正手段に関連するD/A変換部のビット数について言及しなかったが、ビット数の小さなD/A変換器を用いてもよい。
【0138】
図8はこの発明の実施の形態4による要部回路構成を示すブロック図であり、前述(図2、図5)と同様のものについては、同一符号の後に「B」を付して詳述を省略する。
図8においては、ビット数の小さなD/A変換器に関連したサンプリング周波数補正手段5BおよびVCO6Bの周辺部のみが示されている。
この場合、サンプリング周波数補正手段5Bは、ビット数の小さなD/A変換器を有している。
【0139】
サンプリング周波数補正手段5BとVCO6Bとの間には、減衰器51および加算器52が挿入されている。加算器52は、ビット数の小さなD/A変換器に関連してオフセットされたVCO制御電圧を設定する。
【0140】
加算器52は、VCO制御電圧が電源の規定周波数(たとえば、60Hz)となるように、オフセット電圧VOFFを加算したVCO制御電圧をVCO6Bに出力する。これにより、D/A変換器のビット当たりに制御できる周波数を細かくすることが可能になる。
【0141】
VCO6Bが出力するクロック周波数の範囲が大きい場合、サンプリング周波数を細かく制御するために、D/A変換器に要求されるビット数が多くなる。そこで、D/A変換器からの出力が「0」のときに、VCO6Bからのクロック周波数が電源の規定周波数(60Hz)側となるように制御する。
好ましくは、加算器52は、VCO6Bのクロック周波数が電源の規定周波数となるように、オフセット電圧VOFFを加算する。
【0142】
図9はこの発明の実施の形態4による制御動作を示す説明図であり、D/A変換器(サンプリング周波数補正手段5B)の出力電圧と、減衰器51の出力電圧と、VCO制御電圧と、オフセット電圧VOFFとの関係を示している。
【0143】
図9のように、オフセット電圧VOFFを中心に、D/A変換器の出力電圧を制御すれば、D/A変換器に要求されるビット数を抑制することができ、安価で小型のD/A変換器を用いて、電力関連量を高精度に計量することができる。
【0144】
次に、VCO制御電圧をさらに調整可能に構成した場合について説明する。
図10は図8内の減衰器51および加算器52を具体的に示すブロック構成図であり、加算器52がオフセット電圧VOFFの調整を可能に構成された場合を示している。
図10において、減衰器51は、D/A変換器の出力電圧を分圧する抵抗器R1および可変抵抗器R2を備え、分圧電圧を調整することにより、VCO制御電圧の制御範囲を調整できるように構成されている。
【0145】
また、加算器52は、オフセット電圧VOFFを分圧する抵抗器R3および可変抵抗器R4と、D/A出力電圧の分圧電圧(減衰器51の出力電圧)とオフセット電圧VOFFの分圧電圧とを加算してVCO制御電圧を出力する電圧加算回路52Bとを備えている。
可変抵抗器R2およびR4の可変調整部は、外部から任意に調整できるように、電子式電力量計の外部に設けられている。
【0146】
図10の回路構成により、VCO制御電圧のレンジのみならず、実際に加算されるオフセット電圧が調整可能になっている。
VCO制御電圧のレンジとは、図9内のVCO制御電圧の矢印長さに対応し、たとえば8ビットのD/A変換器に対して、45Hz〜66Hzを割り振るときの電圧範囲を意味する。
【0147】
また、オフセット電圧VOFFは、図9内の0Vからのずれ量(矢印参照)に相当し、この場合、任意に調整可能となっている。
すなわち、減衰器51内の可変抵抗器R2を調整すると、VCO制御電圧のレンジが変化し、加算器52内の可変抵抗器R4を調整すると、電圧加算回路52Bに実際に入力されるオフセット電圧が変化する。
【0148】
このように、D/A変換器の制御範囲(または、オフセット電圧のオフセット量)を可変としたので、適用する電路に応じて高精度に電力関連量を計量することができ、また、規定周波数が変化する場合にも安価で小型のD/A変換器により対応することができる。
【0149】
実施の形態5.
なお、上記実施の形態2〜4では特に言及しなかったが、図11のように、電力関連量演算手段4Cの後段に、電力量をパルス出力する電力量パルス出力手段7を設けてもよい。
【0150】
図11はこの発明の実施の形態5による要部回路構成を示すブロック図であり、前述(図2、図5)と同様のものについては、同一符号の後に「C」を付して詳述を省略する。
この場合、電力量パルス出力手段7は、固定クロックで演算された電力をサンプリングして、パルス処理を行う。
【0151】
一般に、電力量計においては、電力量パルス出力を電源1周期よりも短い間隔で出力することが要求されている。
従来の電力量計では、電流Iと電圧Vとを直接乗算して電力量を演算しているので、上記電力量パルス出力の要求を容易に満たすことができるが、この発明においては、フーリエ変換(FFT)により1周期毎の電流および電圧を演算し、その演算結果から電力量を求めているので、1周期毎の電力量パルス出力では上記要求を満たすことができない。
たとえば、図11において、電力関連量演算手段4Cは、FFT演算処理が終了する毎に呼び出されて、有効電力、無効電力、皮相電力など必要な電力を算出するものと仮定する。
【0152】
このとき、時々刻々と変化する電源周波数に対して、1周期毎に電源1周期の長さをカウンタなどで保持しておき、このカウンタ値(電源1周期)と電力値とを乗算して加算すれば電力量(電力の時間積分値)が得られる。しかしながら、このような演算処理によれば、電力量パルス出力手段7は、電源1周期毎の電力量パルスのみしか出力することができない。
【0153】
以下、この問題点を解決してフーリエ変換を用いた際のリアルタイム性を改善したこの発明の実施の形態5による動作について説明する。
図12はこの発明の実施の形態5によるCPUの電力演算および電力量パルス出力動作を示すタイミングチャートである。図12において、t、t+1、・・・は、各処理動作の実行タイミング毎のデータ内容に対応している。
【0154】
この場合、AD変換データパッキング手段2Cは、L点パッキングするのに要したパッキング時間を検出する機能を有し、電力関連量演算手段4Cは、サンプリング指令毎に演算された電力を出力する機能を有する。
まず、図12の最上段に示すタイミングで、AD変換データパッキング手段2CがL点パッキングするのに要した時間(1周期分の時間)を記録する。
【0155】
続いて、CPUは、パッキングデータをフーリエ変換手段3Cによりフーリエ変換し、電力関連量演算手段4Cにより電力(第1の電力値)を演算する(図12内の第2段参照)。このとき、電力の演算タイミングでの各データ内容は、データパッキングの処理タイミングでの内容(最上段参照)よりも1周期分だけ遅れたことになる(t−1、t、・・・参照)。
【0156】
次に、L点パッキングに要した時間(記録された時間:最上段参照)と、上記パッキングデータから演算した電力(フーリエ変換後、演算した電力:第2段参照)とを、電力関連量演算手段4Cから電力量パルス出力手段7に渡す(図12内の第3段参照)。
このとき、記録された時間に応じて、電力量パルス出力手段7に渡す時間(第3段のセル幅)が長短変化する。この電力出力タイミングでのデータ内容は、データパッキング時よりも2周期分だけ遅れたことになる(t−2、t−1、・・・参照)。
【0157】
CPUは、電力量パルス出力手段7に渡された電力を、電源周波数の1周期よりも短い一定周期(固定クロック)でサンプリングし、各サンプリング毎の電力(第3段の値、第2の電力)を電力量として加算する(図12内の第4段参照)。
すなわち、図12に示した例では、電源周波数の1周期当たりで約6回のサンプリングがあり、同一のデータパッキングに対応した電力出力に対するサンプリング毎に、同じ値の電力量が加算されることになる。
【0158】
最後に、電力量パルス出力手段7は、上記電力量の加算値が所望の電力量に達する毎に、電力量パルスを出力する(図12内の第5段参照)。
以上のように構成することにより、リアルタイム性の要求を満たしつつ、電力量パルスを高精度に出力することができる。
なお、このときのサンプリング周期が短いほど精度を高くすることができるので、一定周期(固定クロック)は、電力量パルスの出力周期に比べて、できるだけ短く設定することが望ましい。
【0159】
実施の形態6.
なお、上記実施の形態5では、特に言及しなかったが、高調波毎の電圧と電流との位相差を補正してもよい。
図13は高調波毎の電圧と電流との位相差を補正可能に構成したこの発明の実施の形態6による要部回路構成を示すブロック図であり、前述(図11)と同様のものについては、同一符号の後に「D」を付して詳述を省略する。
図13において、フーリエ変換手段3Dと電力関連量演算手段4Dとの間には位相補正手段8が挿入されており、位相補正手段8は、電圧または電流の絶対位相を回転演算することにより、高調波毎の電圧と電流との位相差を補正する。
一般に、電流センサ(CTなど)や電圧センサ(PTなど)は、電源ラインにおける電圧および電流の位相に影響を与える。また、電圧および電流の位相は、AD変換器1Dに入力側に配設されたアナログ回路によっても影響を受ける。
したがって、電源ラインにおける電力関連量を正確に計測するためには、上記アナログ回路系によって歪められた位相を補正する必要がある。
たとえば、n次高調波の電圧と電流との位相が図1に示した関係にある場合、電源ラインでの位相差が「0」の場合には、電圧をθ−φだけ回転演算するか、または、電流をφ−θだけ回転演算すればよく、電源ラインでの位相差が「0」で無い場合には、その位相差となるように回転演算すればよい。
ここで、電流を回転演算した場合に得られる新しい電流In_cmp_newを、以下の式(33)で表すものとする。
【0160】
【数32】
Figure 0004127676
【0161】
このとき、新しい電流In_cmp_newは、以下の式(34)により求められる。
【0162】
【数33】
Figure 0004127676
【0163】
電力関連量を算出するときには、新しい電流In_cmp_newの値を使用する。高調波毎にこの補正を行うことで高精度に電力関連量を算出できる。
なお、ここでは、電力関連値として電圧または電流を選択し、その絶対位相を回転演算して高調波毎の位相差を補正したが、力関連量演算手段4Dにより演算された有効電力および無効電力を回転演算してもよく、この場合も同等の作用効果を奏することは言うまでもない。
【発明の効果】
【0164】
以上のように、この発明によれば、有効電力、有効電力量、無効電力、無効電力量、皮相電力、ひずみ電力、電流実効値、電圧実効値、電流と電圧との位相差、これらの各次数の高調波における値などの電力関連量を演算できるので、一般家庭用向けのみならず、時間帯別の電力量管理が必要な需要家向けの電子式電力量計および電力関連量演算回路に有用である。また、無効電力量をも計量することにより、力率を管理する需要家向けのみならず、インバータなどの高調波発生機器を使用する需要家向けの電子式電力量計および電力関連量演算回路に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電力関連量の演算理論を示す説明図であり、電圧および電流のベクトル図を例にとって示している。
【図2】この発明の実施の形態1に係る電子式電力量計の要部回路構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る電子式電力量計における電源周波数が変化したときの基本波の電圧の挙動を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る電子式電力量計における電源電圧のゼロクロス点およびサンプリングの起点を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係る電子式電力量計の要部回路構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態2によるAD変換器のサンプリング周波数を電源周波数の自然数倍に追従させるための補正処理を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態3に係る電子式電力量計のサンプリングの起点を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態4に係る電子式電力量計の要部回路構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態4に係る電子式電力量計によりVCO制御電圧をオフセットさせる動作例を示す説明図である。
【図10】この発明の実施の形態4に係る電子式電力量計によりVCO制御電圧をさらに調整可能な電圧加算回路を示すブロック構成図である。
【図11】この発明の実施の形態5に係る電子式電力量計の要部回路構成を示すブロック図である。
【図12】この発明の実施の形態5に係る電子式電力量計における電力量パルス出力を示すタイミングチャートである。
【図13】この発明の実施の形態6に係る電子式電力量計の要部回路構成を示すブロック図である。

Claims (9)

  1. 電源ラインの電流および電圧を示す測定信号をディジタル値に変換して取り込むためのAD変換器と、前記ディジタル値に基づいて前記電源ラインの電力量を演算するための電力量演算手段を含むマイクロプロセッサとを有する電子式電力量計において、
    前記電源ラインの電源周波数を検出する電源周波数検出手段と、
    前記マイクロプロセッサのクロック回路とは別に設けられ、前記電源周波数に基づいて前記AD変換器のサンプリング周波数を制御するサンプリング周波数制御手段と、
    前記サンプリング周波数制御手段からの制御電圧に応じて前記AD変換器のサンプリング周波数を変化させる電圧制御発振器とを備え、
    前記サンプリング周波数制御手段は、前記サンプリング周波数が前記電源周波数の自然数倍となるように前記サンプリング周波数を制御し、
    前記電力量演算手段は、高調波電力量を演算するための高調波演算部を含む電子式電力量計であって、
    前記サンプリング周波数制御手段は、
    前記電源周波数の立上りまたは立下りのゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出手段と、
    前記電源周波数の前回の立上りまたは立下りのゼロクロス点から一周期経過した時点での前記電源周波数のAD変換値から、前記電源周波数の遅れまたは進みを電源位相差として検出する電源位相差検出手段とを含み、
    前記電源位相差に基づいて前記AD変換器のサンプリング周波数を制御するように構成され、
    前記電力量演算手段は、
    前記電源周波数の一周期分の電圧および電流の測定信号をパッキングするAD変換データパッキング手段と、
    前記AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換して第1の電力値を演算する電力演算部と、
    前記一周期分の電圧または電流をパッキングするのに要したパッキング時間を検出するパッキング時間検出手段と、
    前記第1の電力値を前記パッキング時間毎に保持するとともに、所定演算周期のサンプリング指令が生成される毎に、前記第1の電力値を第2の電力値として出力する電力出力手段と、
    前記第2の電力値を積算して、前記第2の電力値の積算値が所定値に達する毎に電力量パルスを出力する電力量パルス出力手段と、
    前記AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換して、高調波の各次数毎の電流、電圧、有効電力または無効電力を含む電力関連値および前記電力関連値の位相差を演算する電力演算部と
    を含むことを特徴とする電子式電力量計。
  2. 前記サンプリング周波数制御手段は、前記サンプリング周波数が電源周波数の2のn乗(nは自然数)となるように前記サンプリング周波数を制御し、
    前記電力量演算手段は、高速フーリエ変換手段を含み、高速フーリエ変換により高調波電力量を演算するように構成されたことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の電子式電力量計。
  3. 前記AD変換器は、オーバーサンプリングを要するデルタシグマ型のAD変換器であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の電子式電力量計。
  4. 前記サンプリング周波数制御手段は、
    前記電源ラインの電圧の絶対位相を検出する絶対位相検出手段と、
    前記電圧の前回の絶対位相から一周期経過した時点での前記絶対位相の遅れまたは進みを電圧位相差として検出する電圧位相差検出手段とを含み、
    前記電圧位相差に基づいて前記AD変換器のサンプリング周波数を制御するように構成されたことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の電子式電力量計。
  5. 前記電圧位相差検出手段は、0度、90度、180度、または270度の絶対位相を基準とするように構成されたことを特徴とする請求の範囲第4項に記載の電子式電力量計。
  6. 前記サンプリング周波数制御手段は、前記AD変換器のサンプリング周波数を補正するサンプリング周波数補正手段を有し、
    前記サンプリング周波数補正手段は、
    前記サンプリング周波数の制御量を求める制御量演算手段と、
    前記サンプリング周波数の制御量をD/A変換して出力するD/A変換手段と、
    前記D/A変換手段の出力電圧をオフセットさせるオフセット手段とを含み、
    前記オフセット手段は、前記電源ラインの規定周波数側に所定電圧だけオフセットさせるように構成されたことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の電子式電力量計。
  7. 前記オフセット手段は、前記所定電圧を外部から調整するためのオフセット電圧調整手段を有することを特徴とする請求の範囲第6項に記載の電子式電力量計。
  8. 前記電力量演算手段は、
    前記電力関連値の位相差が被測定側の真の電力関連値の位相差となるように回転演算することにより、前記一周期分の電流または前記電圧を補正する位相補正手段を含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の電子式電力量計。
  9. 電源ラインの電流および電圧を示す測定信号をディジタル値に変換して取り込むためのAD変換器と、
    前記電源ラインの電源周波数を検出する電源周波数検出手段と、
    前記ディジタル値を一周期分パッキングするAD変換データパッキング手段と、
    前記AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換するフーリエ変換手段と、
    前記フーリエ変換手段による変換結果に基づいて、有効電力、有効電力量、無効電力、無効電力量、皮相電力、ひずみ電力、電流実効値、電圧実効値、または、電流と電圧との位相差、を含む電力関連量を演算する電力関連量演算手段と、
    前記電流または前記電圧の周波数に基づいて、前記AD変換器のサンプリング周波数の補正量を演算するサンプリング周波数補正手段と、
    前記補正量に応じて変化するサンプリング周波数を前記AD変換器に出力する電圧制御発振器とを備え、
    前記電力関連量演算手段は、
    前記電源周波数の一周期分の電圧および電流の測定信号をパッキングするAD変換データパッキング手段と、
    前記AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換して第1の電力値を演算する電力演算部と、
    前記一周期分の電圧または電流をパッキングするのに要したパッキング時間を検出するパッキング時間検出手段と、
    前記第1の電力値を前記パッキング時間毎に保持するとともに、所定演算周期のサンプリング指令が生成される毎に、前記第1の電力値を第2の電力値として出力する電力出力手段と、
    前記第2の電力値を積算して、前記第2の電力値の積算値が所定値に達する毎に電力量パルスを出力する電力量パルス出力手段と、
    前記AD変換データパッキング手段によりパッキングされたデータをフーリエ変換して、高調波の各次数毎の電流、電圧、有効電力または無効電力を含む電力関連値および前記電力関連値の位相差を演算する電力演算部とを含み、
    前記サンプリング周波数補正手段は、
    前記サンプリング周波数の制御量を求める制御量演算手段と、
    前記サンプリング周波数の制御量をD/A変換して出力するD/A変換手段と、
    前記D/A変換手段の出力電圧をオフセットさせるオフセット手段とを含み、
    前記オフセット手段は、前記電源ラインの規定周波数側に所定電圧だけオフセットさせるように構成されたことを特徴とする電力関連量演算回路。
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