JP4126247B2 - 平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
この発明は平版印刷版の支持体に使用されるアルミニウム合金圧延板に関し、より詳しくは、電気化学的粗面化処理(電解グレイニング)を施して使用される平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板として、電解グレイニング性に優れた平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム合金板を支持体とする感光性平版印刷版は、従来からオフセット印刷に幅広く使用されている。平版印刷版の原版は、一般に支持体としてのアルミニウム合金板の表面を粗面化し、さらに陽極酸化処理後、感光剤を塗布し乾燥して感光層を形成することによって製造される。このような平版印刷版原版を使用するにあたっては、画像に露光された後、現像液によって現像され、ポジ型の平版印刷版原版では露光部が除去され、またネガ型の平版印刷版原版では非露光部が除去され、製版されて平版印刷版となる。その後、平版印刷版は、その表面にインクが塗布され印刷に供される。このように平版印刷版原版では、露光によって感光層の物性を変化させ、この物性変化を利用して製版を行っている。
【0003】
ところで平版印刷版用支持体としてのアルミニウム合金板の粗面化処理方法としては、従来からボールグレインやブラシグレイン等の機械的粗面化処理法、塩酸や硝酸等を主体とする電解液を用いて電解エッチングする電気化学的粗面化処理法(電解グレイニング)、酸溶液やアルカリ溶液によりエッチングする化学的粗面化法等が知られているが、これらのうちでも電気化学的粗面化処理法により得られた粗面が印刷性能に優れることから、最近では電気化学的粗面化処理法により粗面化するかまたは電気化学的粗面化処理法と他の粗面化処理法とを組み合わせて粗面化することが主流となっている。
【0004】
平版印刷版の支持体としては、一般に軽量でかつ表面処理性、加工性に優れたアルミニウム合金板を使用するのが通常であるが、このような目的のアルミニウム合金板としては、従来は、JIS A1050、JIS A1100、JISA3003等からなる板厚0.1〜0.5mm程度のアルミニウム合金圧延板(冷間圧延板)が用いられており、このようなアルミニウム合金圧延板は、表面を粗面化し、その後必要に応じて陽極酸化処理を施して印刷版に使用されている。具体的には、特開昭48−49501号に記載されている機械的粗面化処理、化学的エッチング処理、陽極酸化皮膜処理を順に施したアルミニウム平版印刷版、あるいは特開昭51−146234号に記載されている電気化学的処理、後処理、陽極酸化処理をその順に施したアルミニウム平版印刷版、特公昭48−28123号に記載されている化学エッチング処理、陽極酸化処理を順に施したアルミニウム平版印刷版、あるいは機械的粗面化処理後に特公昭48−28123号に記載されている処理を施したアルミニウム平版印刷版等が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
現在の各種製造業においては、省エネルギ、省コスト、短納期化は緊急かつ最重要の要請となっており、平版印刷版用支持体の製造においても同様である。このような要請に応えるためには、平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板に対して粗面化処理を施すにあたって、粗面化処理速度を高める必要がある。
【0006】
しかしながら従来の平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板では、電気化学的粗面化処理(電解グレイニング)における処理速度を速めようとすれば、圧延板の表面状態によっては、充分にエッチングされていない未エッチ部分が生じたり、粗面化が不均一となって、平版印刷版用支持体として使用し得なくなる事態が生じることがある。そこで従来の一般的な平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板よりも電気化学的粗面化処理性(電解グレイニング性)が優れていて、より高速の電気化学的粗面化処理でも、未エッチ部分が生じてしまうことを防止し、安定して均一な粗面を形成することができる材料の開発が強く望まれている。
【0007】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、電解グレイニング性が優れていて、電気化学的粗面化処理において未エッチ部分が生じたりすることなく、安定して均一な粗面を形成し得る平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は前述の課題を解決するべく鋭意実験・検討を重ねた結果、Fe、Si、Cu、Tiを必須元素として含有するアルミニウム合金を素材とし、その圧延板の表面の残油量を適切に規制し、さらには圧延板の表面性状条件として所定の水濡れ性指標条件を満たすように表面性状を適切に調整することによって、電気化学的粗面化処理により未エッチ部分が生じたりすることなく、安定して優れた電解グレイニング性を示し得ることを見出し、この発明をなすに至ったのである
【0009】
具体的には、請求項1の発明の平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板は、Cu0.0001〜0.03%、Ti0.005〜0.03%、Fe0.1〜0.5%、Si0.05〜0.20%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、しかも板表面の残油量が5〜40mg/m2の範囲内に調整されていることを特徴とするものである。
【0011】
また請求項2の発明の平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板の製造方法は、Cu0.0001〜0.03%、Ti0.005〜0.03%、Fe0.1〜0.5%、Si0.05〜0.20%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を所定の板厚まで圧延して圧延板とした後、歪矯正を行なうと同時に歪矯正時に与える油量によって板表面の残油量を5〜40mg/m2の範囲内に調整し、板表面性状として水濡れ性指標時間を、
珪酸ソーダ系の日本パーカライジング製のFC315水溶液の0.01%水溶液を70℃に加熱して、20cm×20cmの正方形のアルミニウム圧延板をその溶液中に浸漬し、浸漬後水に30秒浸漬し、その後圧延板を水中から引き上げて、引き上げた時の圧延板表面が全面水で濡れているかどうか目視判定し、全面が水で濡れるまでの前記水溶液に対する浸漬時間、
と定義し、その水濡れ性指標時間が10秒以下の条件を満たす平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板を得ることを特徴とするものである。
【0012】
さらに請求項3の発明の平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板製造方法は、Cu0.0001〜0.03%、Ti0.005〜0.03%、Fe0.1〜0.5%、Si0.05〜0.20%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を所定の板厚まで圧延して圧延板とした後、アルカリ脱脂処理を施し、水洗浄もしくは湯洗浄を行なった後、表面を乾燥させてから油を塗布して、板表面の残油量が5〜40mg/m2の範囲内となるように調整し、板表面性状として水濡れ性指標時間を、
珪酸ソーダ系の日本パーカライジング製のFC315水溶液の0.01%水溶液を70℃に加熱して、20cm×20cmの正方形のアルミニウム圧延板をその溶液中に浸漬し、浸漬後水に30秒浸漬し、その後圧延板を水中から引き上げて、引き上げた時の圧延板表面が全面水で濡れているかどうか目視判定し、全面が水で濡れるまでの前記水溶液に対する浸漬時間、
と定義し、その水濡れ性指標時間が10秒以下の条件を満たす平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板を得ることを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
先ずこの発明の平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板における合金成分の限定理由について説明する。
【0014】
Fe:
Fe含有量が0.1%未満では再結晶時の結晶粒径が粗大となり、電気化学的粗面化処理により得られる粗面化面のピット(以下これを電解粗面化ピットと記す)が不均一となる。一方Fe含有量が0.5%を越えればAl−Fe系やAl−Fe−Si系の粗大化合物が多くなり、電解粗面化ピットが不均一となる。そのためFe含有量は0.1〜0.5%の範囲内とした。
【0015】
Si:
Si含有量が0.05%未満では電解粗面化ピットが不均一となる。一方Si含有量が0.20%を越えればAl−Fe−Si系の粗大化合物が多くなって電解粗面化ピットが不均一となり、また耐バーニング性(耐熱軟化特性)が低下して、過酷インキ汚れ性が低下し、さらには電気化学的粗面化処理後の色調が黒味を帯びすぎて商品価値を損なう。そのため、Si含有量は0.05〜0.20%の範囲内とした。
【0016】
Cu:
Cuは電解グレイニング性に大きな影響を及ぼす。Cu含有量が0.0001%未満では、電解粗面化ピットが不均一になる。一方、Cu量が0.03%を越えても電解粗面化ピットが不均一になり、また粗面化処理後の色調が黒味を帯びすぎて商品価値を損なう。そのためCu含有量は0.0001〜0.03%の範囲内とした。
【0017】
Ti:
Tiも電解グレイニング性に大きな影響を及ぼし、またアルミニウム合金鋳塊の組織状態にも大きな影響を及ぼす。Tiが0.005%未満では、電解粗面化ピットが不均一になり、また鋳塊の結晶粒が微細化されずに粗大な結晶粒組織となるため、マクロ組織に圧延方向に沿う帯状の筋が発生して、電気化学的粗面化処理後にも帯状に筋が残存し、平版印刷版用支持体として好ましくなくなる。そこでTi含有量は0.005〜0.03%の範囲内とした。
【0018】
以上の各元素のほかは、基本的にはAlおよび不可避的不純物とすれば良い。
【0019】
なお一般にアルミニウム合金板においては、鋳塊結晶組織を微細化して圧延板のキメ、ストリークスを防止するため、少量のTiを単独で、または微量のBと組合せて添加することがあり、この発明の平版印刷版支持体用アルミニウム合金においても、Tiとともに微量のBを添加することは許容される。但しB量が1ppm未満では、上記の効果が得られず、一方B量が50ppmを越えればBの添加効果が飽和するばかりでなく、粗大なTiB2粒子による線状欠陥が生じやすくなるから、Bを添加する場合のB添加量は1〜50ppmの範囲内とすることが好ましい。
【0020】
その他の不純物としては、JIS 1050相当の不純物量(Mg0.05%以下、Mn0.05%以下、Zn0.05%以下、その他合計0.05%以下)程度であれば、平版印刷版支持体用のアルミニウム合金としてその特性を損なうことはない。
【0021】
なおまた、この発明における必須の添加元素ではないが、In、Sn、Pb、Ni、Beは、微量の添加で電気化学的粗面化処理における電解エッチングを促進し、均一かつ微細な電解粗面化ピットを形成する効果があり、この発明のアルミニウム合金圧延板の場合もこれらのうちの1種または2種以上を少量添加することは許容される。これらのうちIn、Sn、Pb、Niは、それぞれ0.001%未満では前述の効果がなく、一方0.05%を越えて含有されれば微細な電解粗面化ピットが形成されず、かつ耐食性が著しく低下し、全面腐食が発生しやすくなるから、In、Sn、Pb、Niの含有量はいずれも0.001〜0.05%の範囲内とすることが好ましい。一方Beは、より微量でも電気化学的粗面化処理における電解エッチングを促進し、均一かつ微細な電解粗面化ピットを形成する効果があるが、Be量が0.0001%未満では前述の効果がなく、一方0.01%を越えて含有されれば微細な電解粗面化ピットが形成されなくなってくるから、Be含有量は0.0001〜0.01%の範囲内とすることが好ましい。
【0022】
さらに請求項1の発明の平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板においては、圧延板表面に残留している油の量、すなわち残油量を適切に調整することが重要である。すなわち、圧延板表面には、冷間圧延時やその後の必要に応じて行われる歪矯正時に与えられる油(主として鉱物性の油)が少量残留するのが通常であるが、その表面残油量が電解粗面化処理時における未エッチ部分の発生に影響を与えるから、その表面残油量を5mg/m2〜40mg/m2に調整する必要がある。
【0023】
ここで、圧延後の表面残油量が5mg/m2未満では、圧延素板コイルの輸送時に板と板がこすれて微小な傷が入りやすく、平版印刷版支持体用素板には適さない。一方、表面残油量が40mg/m2を越えて残留されれば、平版印刷版製造メーカーにおける脱脂工程用の有機溶媒やアルカリ液等の脱脂処理液の劣化を著しくして、脱脂処理液の脱脂能力を早期に低下させ、これにより圧延素板表面に吸着している油を完全に除去することが困難となってしまう。そしてこの状態で次の電気的粗面化処理工程に進めば、油分が残っている箇所では通電せず、未エッチ部分として残留しやすくなる。そこで圧延板表面の残油量を5〜40mg/m2の範囲内に規制することとした。
【0024】
一方請求項2、請求項3の発明の平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板の製造方法においては、残油量のみならず、圧延板表面の性状の指標として、水濡れ性を評価し、その水濡れ性指標がある条件を満たすことも重要である。すなわち、水濡れ性はアルミニウム圧延素板が水に濡れるかどうかの性能であるが、特に水濡れ性指標として、珪酸ソーダ系の日本パーカライジング製の市販のFC315水溶液の0.01%水溶液を70℃に加熱し、20cm×20cmの正方形のアルミニウム圧延素板をその溶液中に一定時間浸漬し、浸漬後水に30秒浸漬し、その後圧延素板を水中から引き上げて、引き上げた時のアルミニウム表面が全面水で濡れているかどうか目視判定し、全面が水で濡れるまでのFC315の0.01%水溶液浸漬時間(これをこの明細書では“水濡れ性指標時間”と記す)を用いれば、その水濡れ性指標時間が電解グレイニング性と相関し、特にその水濡れ性指標時間が10秒以下の場合に電解グレイニング性が安定して優れることが判明した。具体的には、この水濡れ性指標時間が10秒以内であれば電気化学的粗面化処理時におけるエッチングが均一となって、特に未エッチング部分が発生することがなく、一方この水濡れ性指標時間が10秒を越えれば、電気化学的粗面化処理時に未エッチング部分が残りやすく、不均一なエッチングとなることが判明した。そこで請求項2、請求項3の発明では、前述のように水濡れ性指標時間を10秒以下と規定することとした。
【0025】
なおこの発明においては特に限定しないが、優れた電解グレイニング性を安定して得るためには、結晶粒径を適切に調整することが望ましい。すなわち、電解粗面化ピットの均一性に関して、圧延板の表面における結晶粒の圧延方向に直角な方向の平均粒径が60μm以下であることが望ましい。この値が60μmを越えれば、粗面化面に数mmの大きさの色調ムラが目視でわかる程度に発生して、製品としての価値が低下するおそれがある。
【0026】
次にこの発明の平版印刷版支持体用アルニウム合金圧延板の製造方法について説明する。
【0027】
先ず前述のような成分組成を有するアルミニウム合金の溶湯を溶製して、DC鋳造法や、駆動鋳型を用いた連続鋳造法等によって鋳造する。
【0028】
ここで、この発明の場合、前述の成分組成の合金を溶製した後、鋳造までの間には、溶湯に対して脱ガス処理を行なって、ガス量を0.25cc/100gAl以下に低減させることが好ましい。0.25cc/100gAlを越えるガス量を含んで鋳造して最終的に得られた圧延板では、結晶粒界付近にガスが集積して、電気化学的粗面化処理時に結晶粒界が優先してエッチングされ、粗面化が不均一になってしまうおそれがある。具体的な脱ガス処理法の種類は特に限定されるものではないが、例えばガスによる炉内溶湯処理法、すなわち塩素や窒素ガスを溶湯中に吹き込んで溶湯中の水素ガスを脱ガスする方法や、炉外溶湯処理法としてのSNIFプロセス、すなわちノズルよりAr−Cl2の混合ガスを溶湯中に吹込み、羽根付回転体を高速で回転させて脱ガスを行う方法、さらには脱ガス用フラックスによる方法、すなわち脱ガスフラックスとして、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物、フッ化物を主成分とする塩などを用いて、そのフラックスを溶湯中に吹込んだり、溶湯中に供給して溶湯を撹拌したりする方法などを適用することが好ましい。
【0029】
脱ガス処理後に鋳造して得られた鋳塊に対しては、望ましくは500〜620℃の範囲内の温度で均質化処理を行う。このように均質化処理を行なうことによって、不純物元素が拡散して電気化学的粗面化処理時におけるピットの生成がより均一化され、また後の中間焼鈍時において再結晶粒径が微細化されやすくなる。ここで、均質化処理の保持時間は鋳塊サイズ等により適当な時間を定めればよいが、通常は1〜20時間程度とすればよい。1時間未満では均質化処理の効果が得られず、一方20時間を越えても均質化処理の効果は飽和し、経済的に好ましくなくなる。
【0030】
均質化処理後は、一旦鋳塊を冷却した後、熱間圧延のための加熱処理を行うこともできるが、均質化処理後350〜450℃まで冷却してそのまま熱間圧延を開始しても良い。
【0031】
次いで熱間圧延を行なうが、熱間圧延開始温度は350〜450℃の範囲内とすることが好ましい。熱間圧延開始温度が350℃未満では、熱間圧延中に再結晶が発生せず、鋳塊組織が残ってしまうため、最終圧延板に対して電気化学的粗面化処理を行なえば、帯状もしくは筋状に外観ムラ(ストリークス)が発生して、印刷版としての表面外観品質に対して好ましくなくなる。一方熱間圧延開始温度が450℃を越えれば、熱間圧延中において再結晶粒が粗大化し、電気化学的粗面化処理時に筋状の模様(ストリークス)が発生して印刷版としての表面外観品質が低下する。そこで熱間圧延は350〜450℃で開始することが望ましい。
【0032】
熱間圧延中における再結晶粒が微細化されるほど、製品板のストリークスは発生しにくくなる。そこで熱間圧延においては、350〜450℃の温度域で圧延を開始し、各パスの圧下率、特に粗圧延上り板厚近くのパスでの圧下量を大きくして、粗圧延上り板厚に近い段階でできるだけ微細に再結晶させることが好ましい。その意味から、熱間圧延の粗圧延の終了前1パスまたは2パスを圧延率40%以上で行なうことが望ましい。
【0033】
熱間圧延における粗圧延後の仕上げ圧延では、終了温度を200〜280℃の範囲内とすることが好ましい。仕上げ圧延終了温度が200℃未満では、圧延油が蒸発せずに残って表面腐食を発生させるおそれがある。一方仕上げ圧延終了温度が280℃を越えれば、熱間圧延での残留量加工歪が少なくなってしまい、中間焼鈍時における再結晶粒が大きくなってしまう。そこで仕上げ圧延終了温度は200〜280℃とすることが好ましい。なお熱間圧延の上がり板厚は、通常は1.5〜6mm程度の範囲内であれば特に問題はない。
【0034】
さらに熱間圧延工程は、前述の水濡れ性にも影響を与える。すなわち熱間圧延時には、アルミニウム板表面からアルミニウム小片がロールとの摩擦により剥がれてロールに付着し、そのアルミニウムが再度アルミニウム板の表面に凝着する現象、すなわちコーティングが発生することがあり、このようなコーティングが発生すれば、最終板においてもその表面の水濡れ性が低下し、前述の水濡れ性指標時間10秒以下の条件を満たすことが困難となる。このような熱間圧延工程でのコーティングを防止するためには、回転するロールに砥粒の含有されたブラシや鋼鉄線を押し当てて、ロールに付着したアルミニウム小片を掻き取って除去することが望ましい。このようにしてコーティングを少なくすれば、最終板における板表面の水濡れ性が良好となり、水濡れ性指標時間10秒以下を容易に達成することができる。
【0035】
熱間圧延後には、必要に応じて1次冷間圧延を行う。1次冷間圧延は必須ではないが、1次冷間圧延を行なえば中間焼鈍時の結晶粒が微細になり、電解粗面化面をより均一な表面品質としやすくなる。
【0036】
熱間圧延後、または必要に応じて1次冷間圧延を行なった後には、中間焼鈍を行なう。この中間焼鈍は450〜580℃の範囲内の温度で行なうことが望ましい。中間焼鈍温度が450℃未満では耐バーニング性が低下する。一方580℃を越える高温で中間焼鈍すれば、結晶粒が粗大化されて、電解粗面化面に色調ムラが発生するおそれがある。なお中間焼鈍はバッチタイプ炉もしくは連続焼鈍炉で行なうのが通常であるが、再結晶粒の微細化の点からは連続焼鈍炉で行なうことが好ましい。この場合加熱昇温速度は数℃〜20℃/秒であり、また冷却速度も同程度であり、さらに保持時間は3分以内とすることが好ましい。
【0037】
中間焼鈍後には、最終板厚まで2次冷間圧延を行なう。この2次冷間圧延においては、トータルの圧延率が65%以上となるように行なうことが望ましい。すなわち、2次冷間圧延は主として平版印刷版の取扱い性向上や版に取り付けたときの耐久性を増すために、所要の強度を得るために行なうが、2次冷間圧延率が65%未満では強度が不足して好ましくなくなる。
【0038】
なおこの2次冷間圧延や前述の1次冷間圧延でも、ロールとの摩擦によってコーティングが発生することがあり、その場合は前述の水濡れ性に悪影響を与えるから、これらの冷間圧延工程でも熱間圧延工程と同様にしてコーティングの発生を可及的に抑えることが望ましい。
【0039】
上述のように最終板厚まで冷間圧延された板については、ローラーレベラー、テンションレベラー等の歪矯正ラインを通して、平面性を改善してもよい。
【0040】
このようにして仕上られた圧延板は、最終的に板表面の残油量が5〜40mg/m2の範囲内となっている必要がある。この残油量の調整は、前述の歪矯正ラインにおいて、歪矯正と同時に行なうことができる。すなわち歪矯正ラインにおいて、主として圧延油、もしくは鉱物油および高濃度アルコール、さらにはこれらにエステル等を添加した油などをミストで一定量噴霧して、圧延板表面残油量を5〜40mg/m2の範囲内に調整する。
【0041】
あるいはまた、歪矯正ラインを通さないで製品圧延板とする場合や、歪矯正ラインを通した後の圧延板について、一旦アルカリ液での脱脂処理を行ない、水洗浄もしくは湯洗浄を行なって乾燥させた後、改めて鉱物油等のミストを圧延板表面に一定量噴霧し、表面残油量を5〜40mg/m2の範囲内に調整しても良い。
【0042】
なおここで上記の残油量5〜40mg/m2の値は、あくまでアルミニウム合金圧延板製造メーカーにおいて出荷される段階の圧延板について規定している。すなわちアルミニウム合金圧延板製造メーカーから出荷されて、平版印刷版製造メーカーに受け入れられたアルミニウム合金圧延板に対しては、その平版印刷版製造メーカーにおいて後述するような粗面化処理等の種々の表面処理を行なうのが通常であり、かつその表面処理の第1段階として脱脂処理を行なうのが通常であり、この脱脂処理によって圧延板表面の油が除去されてしまうことはもちろんである。
【0043】
また前述のようにして仕上られた平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板は、既に述べたように水濡れ性指標時間が10秒以下であるような表面性状を有している必要があるが、既に述べたように熱間圧延工程や冷間圧延工程においてコーティングを可及的に防止することによって、水濡れ性指標時間10秒以下を確保することが可能である。
【0044】
以上のようにして得られた平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板については、一般に平版印刷版製造メーカーにおいて、所定の表面処理を施して平版印刷版とする。このように平版印刷版とするまでのプロセスの代表的なものの概要は、次の通りである。
[脱脂]→[デスマット]→[粗面化]→[陽極酸化]→[親水化]→[感光剤塗布・乾燥]→[マット塗布]→[裁断・包装]
【0045】
そこでこれらの処理工程について以下に説明する。
【0046】
先ず脱脂工程は、アルミニウム合金圧延板表面に付着している圧延油等を除去する工程である。この脱脂処理には、洗剤有機溶媒、アルカリ等が使用される。
【0047】
次いでデスマット処理を施すのが通常である。このデスマット処理は、アルカリ脱脂で生じたスマットを除去するものである。
【0048】
次いで、非画像部の保水性と画像部となる感光層との密着性を付与するために、アルミニウム合金圧延板表面に粗面化処理を施す。この発明のアルミニウム合金圧延板は、前述のように電気化学的粗面化処理(電解グレイニング)に適しており、電気化学的粗面化処理と機械的粗面化処理および/または化学的粗面化処理との組合わせにも好適である。電気化学的粗面化処理はアルミニウム合金圧延板の表面に微細な凹凸を付与することが容易であるため、印刷性の優れた平版印刷版を作るのに適している。この電気化学的粗面化処理は、一般に硝酸または塩酸を主体とする水溶液中で、直流または交流を用いて行なうのが通常である。
【0049】
このような粗面化処理によって、平均深さ約0.05〜1μm、平均直径約0.2〜20μmのクレーターまたはハニカム状のピットをアルミニウム合金圧延板の表面に30〜100%の分散密度(面積率)で生成することができる。ここで、電気化学的粗面化処理においては、充分なピットを表面に設けるために必要なだけの電気量、すなわち電流と通電時間との積が重要な条件となるが、省エネルギの観点からは、より少ない電気量で充分なピットを生成することが好ましい。この発明においては、電気化学的粗面化処理の条件は限定されるものではなく、一般的な条件で行うことができるが、いずれの場合も、所要電気量を大幅に削減することができる。所要電気量は、所望のピットの深さ、直径、および分散の均一性、分散密度により異なるが、好ましくは250〜500C/dm2の範囲であれば、均一微細な電解粗面を得ることができる。
【0050】
電気化学的粗面化処理と機械的粗面化処理を組み合わせる場合の機械的粗面化処理は、アルミニウム合金圧延板の表面を、一般的には平均表面粗さRaを0.35〜1.0μm、好ましくは0.40〜0.80μmとするために行われる。平均表面粗さRaは、JISB0601−1994で規定される、支持体表面のうねり状態を示す因子であるが、これが大きいほど凹凸が大きく、保水性が良好となる。機械的粗面化処理の条件も特に制限されるものではないが、特公昭50−40047号公報に記載されている方法に従って行うことができる。また化学的粗面化処理も特に制限されるものではなく、公知の方法に従って実施できる。
【0051】
粗面化処理に引き続いては、アルミニウム合金圧延板の表面の耐磨耗性を高めるために陽極酸化処理を行なうのが通常である。この場合に使用される電解質は多孔質酸化皮膜を形成するものであれば、いかなるものでもよい。一般には、硫酸、リン酸、シュウ酸、クロム酸、またはこれらの混合物が用いられる。電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。陽極酸化処理の条件は、電解質によってかなり変動するので、特定しにくいが、一般的には電解質の濃度が1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度1〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10〜300秒であればよい。
【0052】
また印刷時の耐汚れ性能を向上させるため、電気化学的粗面化処理および水洗を行った後、アルカリ溶液で軽度のエッチング処理を行ってから水洗し、アルミニウム板の表面に残存するアルカリに不溶の物質(スマット)を除去する酸によるデスマット処理を行った後、水洗し、硫酸中で直流電解を行って陽極酸化皮膜を設けてもよい。
【0053】
上述のようにして陽極酸化処理を行なった後には、必要に応じて、シリケート等による親水化処理を行なってもよい。
【0054】
以上の段階までで平版印刷版用支持体を得ることができるが、さらにその支持体を平版印刷版とするためには、支持体表面に感光剤を塗布、乾燥して感光層を形成する。感光剤は特に限定されるものではなく、通常感光性平版印刷版に用いられるものを使用することができる。そして、リスフィルムを用いて画像を焼付け、現像処理、ガム引き処理を行うことで、印刷機に取り付け可能な印刷版とすることができる。また、レーザー等を使って、フィルムを用いずに画像を直接焼付けることもできる。
【0055】
感光剤としては、露光の前後で現像液に対する溶解性または膨潤性が変化するものであればいずれでも差支えない。感光剤の代表的なものを以下に列挙する。
【0056】
(1)o−キノンジアジド化合物からなる感光層ポジ型感光性化合物としては、o−ナフトキノンジアジド化合物で代表されるo−キノンジアジド化合物が挙げられる。o−ナフトキノンジアジド化合物としては、特公昭43−28403号公報に記載されている1,2−ジアゾナフトキノンスルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステルが好ましい。米国特許第3,046,120号および第3,188,210号明細書に記載された1,2−ジアゾナフトキノンスルホン酸クロライドとフェノール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステルも好ましい。その他公知のo−ナフトキノンジアジド化合物も使用可能である。
【0057】
特に好ましいo−ナフトキノンジアジド化合物は、分子量が1,000以下のポリヒドロキシ化合物と1,2−ジアゾナフトキノンスルホン酸クロライドとの反応で得られた化合物である。ポリヒドロキシ化合物の水酸基1当量に対し、1,2−ジアゾナフトキノンスルホン酸クロライドを0.2〜1.2当量の割合で、特に0.3〜1.0当量の割合で反応させるのが好ましい。1,2−ジアゾナフトキノンスルホン酸クロライドとしては、1,2−ジアゾナフトキノン−5−スルホン酸クロライドが好ましいが、1,2−ジアゾナフトキノン−4−スルホン酸クロライドも使用可能である。
【0058】
o−ナフトキノンジアジド化合物は、1,2−ジアゾナフトキノンスルホン酸クロライドの置換基の位置および導入量の種々異なるものの混合物になるが、水酸基が全て1,2−ジアゾナフトキノンスルホン酸エステルに転換されたものが混合物に占める割合(完全にエステル化されたものの含有率)は5モル%以上であること、特に20〜90モル%であることが好ましい。
【0059】
またo−ナフトキノンジアジド化合物を用いずに、ポジ型に作用する感光性化合物として、例えば特公昭56−2696号公報に記載されているo−ニトロカルビノールエステル基を有するポリマーも使用可能である。さらに、光分解により酸を発生する化合物と、酸により解離する−C−O−C−基または−C−O−Si−基を有する化合物との組合せ系も使用可能である。例えば、光分解により酸を発生する化合物とアセタールまたはO,N−アセタール化合物との組合せ(特開昭48−89003号)、オルトエステルまたはアミドアセタール化合物との組合せ(特開昭51−120714号)、主鎖にアセタールまたはケタール基を有するポリマーとの組合せ(特開昭53−133429号)、エノールエーテル化合物との組合せ(特開昭55−12995号)、N−アシルイミノ炭素化合物との組合せ(特開昭55−126236号)、主鎖にオルトエステル基を有するポリマーとの組合せ(特開昭56−17345号)、シリルエステル化合物との組合わせ(特開昭60−10247号)およびシリルエーテル化合物との組合わせ(特開昭60−37549号、特開昭60−121446号)等が挙げられる。
【0060】
感光層の感光性組成物中に占めるポジ型感光性化合物(前記のような組合せ系も含む)の割合は10〜50質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましい。
【0061】
o−キノンジアジド化合物は単独でも感光層を構成し得るが、結合剤(バインダー)としてのアルカリ水に可溶な樹脂とともに使用することが好ましい。アルカリ水に可溶な樹脂としては、ノボラック樹脂があり、例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、m−/p−混合クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール混合(m−、p−、m−/p−混合のいずれでもよい)−ホルムアルデヒド樹脂等のクレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール変性キシレン樹脂、ポリヒドロキシスチレン、ポリハロゲン化ヒドロキシスチレン、特開昭51−34711号公報に開示されているようなフェノール性水酸基を含有するアクリル系樹脂、特開平2−866号公報に記載のスルホンアミド基を有するアクリル系樹脂や、ウレタン系樹脂等種々のアルカリ可溶性のポリマーを含有させることができる。アルカリ可溶性のポリマーは重量平均分子量が500〜20,000で、数平均分子量が200〜60,000のものが好ましい。
【0062】
アルカリ可溶性のポリマーは全組成物の70質量%以下含有される。さらに米国特許第4,123,279号明細書に記載されているように、t−ブチルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、オクチルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂のような炭素数3〜8のアルキル基を置換基として有するフェノールとホルムアルデヒドとの重縮合で得られる樹脂を併用することは画像の感脂性を向上させるので好ましい。
【0063】
感光性組成物には、感度を高めるために環状酸無水物、露光後直ちに可視像を得るための焼出し剤、画像着色剤としての染料やその他の充填材等を含有させることができる。環状酸無水物は、米国特許第4,115,128号明細書に記載されているように無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシ−△4−テトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水マレイン酸、クロル無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸等が使用される。環状酸無水物は、全組成物の質量に対して1〜15質量%含有させることによって、感度を最大3倍程度に高めることができる。露光後直ちに可視像を得るための焼出し剤としては、露光によって酸を放出する感光性化合物と塩を形成し得る有機染料の組合せを代表として挙げることができる。
【0064】
具体的には、特開昭50−36209号公報、特開昭53−8128号公報に記載されているo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸ハロゲニドと塩形成性有機染料の組合せや、特開昭53−36233号公報、特開昭54−74728号公報、特開昭60−3626号公報、特開昭61−143748号公報、特開昭61−151644号公報、特開昭63−58440号公報に記載されているトリハロメチル化合物と塩形成性有機染料の組合せを挙げることができる。画像の着色剤としては、前記の塩形成性有機染料以外の他の染料も使用可能である。塩形成性有機染料を含めて好適な染料は油溶性染料や塩基染料である。
【0065】
具体的には、オイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上は全て、オリエント化学工業株式会社製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、ローダミンB(CI45170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)等を挙げることができる。特開昭62−293247号公報に記載されている染料が特に好ましい。
【0066】
感光性組成物は、前記諸成分を溶解する溶媒に溶解させて支持体に塗布される。溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、トルエン、酢酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、水、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフルフリルアルコール、アセトン、ジアセトンアルコール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジエチレングリコール、ジメチルエーテル等が挙げられる。これらは混合して使用することもできる。
【0067】
溶液に占める前記成分(固形分)は2〜50質量%である。塗布量は用途により異なるが、例えば感光性平版印刷版について言えば、一般的に固形分として0.5〜3.0g/m2が好ましい。塗布量が少なくなるにつれて感光性は増大するが、感光膜の物性が低下する。
【0068】
感光性組成物には、塗布性を良くするために界面活性剤、例えば特開昭62−170950号公報に記載されているようなフッ素系界面活性剤を含有させる。好ましい含有量は、全感光性組成物の0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0069】
(2)ジアゾ樹脂とバインダーとからなる感光層ネガ作用型感光性ジアゾ化合物としては、米国特許第2,063,631号明細書および米国特許第2,667,415号明細書に開示されているジアゾニウム塩とアルドールやアセタールのような反応性カルボニル基を有する有機縮合剤との反応生成物であるジフェニルアミン−p−ジアゾニウム塩とホルムアルデヒドとの縮合生成物(いわゆる感光性ジアゾ樹脂)が好適に用いられる。
【0070】
他の有用な縮合ジアゾ化合物は特公昭49−48001号公報、特公昭49−45322号公報、特公昭49−45323号公報等に記載されている。この型の感光性ジアゾ化合物は通常水溶性無機塩の形で得られるので、水溶液として塗布することができる。また、水溶性ジアゾ化合物を特公昭47−1167号公報に記載される方法により、1個またはそれ以上のフェノール性水酸基、スルホン酸基またはその両者を有する芳香族または脂肪族化合物と反応させ、その生成物である実質的に水不溶性の感光性ジアゾ樹脂を使用することもできる。
【0071】
ジアゾ樹脂の含有量は、感光層中に5〜50質量%含有されているのがよい。その含有量が少なくなれば感光性は当然増大するが、経時安定性が低下する。最適のジアゾ樹脂の含有量は約8〜20質量%である。一方、バインダーとしては、種々のポリマーが使用可能である、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基、スルホンアミド基、活性メチレン基、チオアルコール基、エポキシ基を含むものがよい。
【0072】
具体的には、英国特許第1,350,521号明細書に記載されているシェラック、英国特許第1,460,978号明細書および米国特許第4,123,276号明細書に記載されているようなヒドロキシエチル(メタ)アクリレート単位を主たる繰返単位として含むポリマー、米国特許第3,751,257号明細書に記載されているポリアミド樹脂、英国特許第1,074,392号明細書に記載されているフェノール樹脂、および、例えばポリビニルフォルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のようなポリビニルアセタール樹脂、米国特許第3,660,097号明細書に記載されている線状ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコールのフタレート化樹脂、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂、ポリアミノスチレンやポリアルキルアミノ(メタ)アクリレートのようなアミノ基を含むポリマー、酢酸セルロース、セルロースアルキルエーテル、セルロースアセテートフタレート等のセルロース誘導体が包含される。
【0073】
ジアゾ樹脂とバインダーからなる組成物には、さらに、英国特許第1,041,463号明細書に記載されているようなpH指示薬、米国特許第3,236,646号明細書に記載されているリン酸、染料等の添加剤を含有させることができる。
【0074】
感光層の膜厚は0.1〜30μm、より好ましくは0.5〜10μmである。支持体上に設けられる感光層の量(固形分)は約0.1〜約7g/m2、好ましくは0.5〜4g/m2である。
【0075】
以上のようにして支持体上に感光層を形成した後には、製版における版の露光時のフィルムとの真空密着の作業性向上のため、感光層表面のマット化、すなわち微小な凸凹を形成する処理を行なうのが通常である。
【0076】
そしてマット化後、切断・梱包され、平版印刷版の製品となる。
【0077】
そしてその後、平版印刷版は画像露光され、しかる後常法により現像を含む処理によって樹脂画像が形成される。例えば、感光層(1)を有するポジ型感光性平版印刷版の場合には、画像露光後、米国特許第4,259,434号明細書および特開平3−90388号公報に記載されているようなアルカリ水溶液で現像することにより露光部分の感光層が除去されて、印刷に供される。
【0078】
【実施例】
この発明を、実施例によりさらに具体的に説明するが、この発明は以下の実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0079】
実施例1:
表1の合金No.1〜6に示すアルミニウム合金の溶湯を溶製し、脱ガス処理を行なった後、半連続鋳造により500mm×1200mm×3500mmの鋳塊を鋳造した。その鋳塊に540℃×2時間の均質化熱処理し、室温まで徐冷して、片面10mmずつ面削を行なった後、加熱して熱間圧延を390℃で開始し、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延を行って250℃で4mmに巻き上げた。さらに1.5mmまで1次冷間圧延を施した後、連続焼鈍炉を用いて中間焼鈍を行なった。中間焼鈍条件は、加熱速度約20℃/s、冷却速度約20℃/sで500℃、0秒の保持(500℃に到達したらすぐに冷却)とした。その後2次冷間圧延を0.3mm厚まで行なった。次いで圧延板コイルをテンションレベリングラインに通して歪矯正を行なった。このテンションレベリングラインにおいては、クレンゾルを調整しながらミストして、圧延板表面の残油量を調整した。
【0080】
得られた圧延板について、表面の残油量を調べるとともに、平版印刷版支持体の評価として電解グレイニング性を調べた。なお残油量および電解グレイニング性は、次のようにして調べた。
【0081】
表面残油量の測定:
アルミニウム圧延板を3枚重ねて10cm角に切出した。そして周囲をセロハンテープで密封し、その後2cm間隔に切断し、切断した2cmの板からテープを切って真中の1枚のみピンセットで取り出して試験管に入れた。なお試験管に入れる枚数は残油量により適宜定めた。そして特急試薬の四塩化炭素を15cc注ぎ、シェーカーで撹拌してアルミニウム圧延板表面の油を四塩化炭素に溶解させ、IR(赤外線分光光度計)で定量を行なった。
【0082】
電解グレイニング性(電気化学的粗面化処理性)評価:
電解グレイニング性評価は、素板に対し表2に示すような表面処理を施して行なった。各処理は、表2に示す左側の処理から順に行ない、各処理の間で水洗を行なった。なお本実施例においては、ブラシによる機械的粗面化は行なわなかった。ここで脱脂工程としてのアルカリエッチング処理(1)では、NaOH濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%、液温65℃の溶液を使用した。また電気化学的粗面化処理においては、電解液として硝酸濃度1質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%の溶液を使用し、交流電流で電解を行なった。また電気化学的粗面化処理における電気量は300C/dm2とした。さらに表2における電気化学的粗面化処理後のアルカリエッチング処理(2)は、前述のアルカリエッチング処理(1)と同じ条件で行なった。その後の陽極酸化処理は、電解液として15質量%の硫酸溶液を使用し、直流電流で行なった。このようにして表面処理を行なった面について、肉眼及びSEMで観察し、電解グレイニング性を評価した。すなわち、肉眼では帯状、筋状のストリークスや数mmの花びら状の模様等の有無を観察し、SEMでは微小なピットが均一であるか否か、また未エッチ部分があるか否かを調べた。評価としては、粗面化が均一で未エッチ部分がない場合を○印とし、未エッチ部分があるかまたは粗面化が不均一の場合を×印とした。
【0083】
以上のようにして調べた板表面残油量および電解グレイニング性評価の結果を表3に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
表3に示すように、圧延板表面の残油量がこの発明の請求項1で規定する条件を満たす本発明例のサンプルNo.1〜3、No.5、No.9では、電解グレイニング性が良好で、電気化学的粗面化処理面に未エッチング部分も存在しなかった。一方サンプルNo.4では、合金成分組成はこの発明で規定する範囲内であるが、表面の残油量が多く、電気化学的粗面化処理面に未エッチング部分が残ってしまった。またサンプルNo.6、No.7、No.10は、いずれも本発明成分組成範囲外の比較合金を用いた例であり、この場合板表面の残油量は少ないが、合金元素の影響で電解グレイニング性が不均一となった。さらにサンプルNo.8も比較合金を用い、しかも残油量も多い例であり、この場合電解グレイニング性が不均一で未エッチング部分が残った。
【0094】
実施例2:
表4の合金No.7、No.8に示す化学成分組成を有するアルミニウム合金を溶製し、実施例1と同様に0.3mm厚の圧延板を製造した。この製造過程中、熱間圧延では、熱間圧延時のコーティング防止用のロールブラシ条件は弱くしており、そのため最終冷間圧延板のままでは水濡れ性指標時間が20秒であった。そこでこれをさらに脱脂処理としてリン酸ソーダ系の薬剤を用いて80℃で処理した。この脱脂処理では、処理時間を変化させて数種の条件で行なった。その後80℃の湯で洗浄し、乾燥後鉱物油を一定量ミストで塗布して、板の表面残油量を変化させた。その後、表面残油量、水濡れ性指標時間とその後の電解グレイニング性を調査した。表面残油量、水濡れ性指標時間、電解グレイニング性の調査方法、評価基準は、実施例1の場合と同様である。その結果を表5に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
サンプルNo.11、No.12は、いずれもこの発明の成分組成範囲内の合金について、表面残油量、水濡れ性指標時間がともにこの発明で規定する条件を満たしたものであり、この場合電解グレイニング性は良好であり、未エッチング部分も生じなかった。一方No.13は表面残油量が多く、この影響もあって水濡れ性指標時間がこの発明で規定する条件を満たさず、電気化学的粗面化処理で未エッチング部分が残留してしまった。またサンプルNo.14の場合は、この発明で規定する成分組成範囲外の比較合金を用いかつ水濡れ性指標時間も大きいため、電気化学的粗面化処理で未エッチング部分が発生し、また不均一なエッチング状態となった。
【0098】
【発明の効果】
前述の実施例からも明らかなように、この発明による平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板は、電解グレイニング性が優れていて、電気化学的粗面化処理により未エッチング部分が生じることなく、均一な粗面を形成することができ、平版印刷版支持体に最適である。
Claims (3)
- Cu0.0001〜0.03%(mass%、以下同じ)、Ti0.005〜0.03%、Fe0.1〜0.5%、Si0.05〜0.20%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、しかも板表面の残油量が5〜40mg/m2の範囲内に調整されていることを特徴とする、電気化学的粗面化処理を施して使用される、電解グレイニング性に優れた平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板。
- Cu0.0001〜0.03%、Ti0.005〜0.03%、Fe0.1〜0.5%、Si0.05〜0.20%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を所定の板厚まで圧延して圧延板とした後、歪矯正を行なうと同時に歪矯正時に与える油量によって板表面の残油量を5〜40mg/m2の範囲内に調整し、板表面性状として水濡れ性指標時間を、
珪酸ソーダ系の日本パーカライジング製のFC315水溶液の0.01%水溶液を70℃に加熱して、20cm×20cmの正方形のアルミニウム圧延板をその溶液中に浸漬し、浸漬後水に30秒浸漬し、その後圧延板を水中から引き上げて、引き上げた時の圧延板表面が全面水で濡れているかどうか目視判定し、全面が水で濡れるまでの前記水溶液に対する浸漬時間、
と定義し、その水濡れ性指標時間が10秒以下の条件を満たす平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板を得ることを特徴とする、電解グレイニング性に優れた平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板の製造方法。 - Cu0.0001〜0.03%、Ti0.005〜0.03%、Fe0.1〜0.5%、Si0.05〜0.20%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を所定の板厚まで圧延して圧延板とした後、アルカリ脱脂処理を施し、水洗浄もしくは湯洗浄を行なった後、表面を乾燥させてから油を塗布して、板表面の残油量が5〜40mg/m2の範囲内となるように調整し、板表面性状として水濡れ性指標時間を、
珪酸ソーダ系の日本パーカライジング製のFC315水溶液の0.01%水溶液を70℃に加熱して、20cm×20cmの正方形のアルミニウム圧延板をその溶液中に浸漬し、浸漬後水に30秒浸漬し、その後圧延板を水中から引き上げて、引き上げた時の圧延板表面が全面水で濡れているかどうか目視判定し、全面が水で濡れるまでの前記水溶液に対する浸漬時間、
と定義し、その水濡れ性指標時間が10秒以下の条件を満たす平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板を得ることを特徴とする、電解グレイニング性に優れた平版印刷版支持体用アルミニウム合金圧延板の製造方法。
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