JP4120869B2 - バイオチップ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
物質間の相互作用を評価できるバイオチップに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、DNAや蛋白質などの生体分子の機能を調べるあるいは、発現遺伝子、蛋白質を明らかにする手段として、生体分子間の相互作用を評価する試みがなされている。その一つとして分子を固体表面に固定化して測定する方法が知られている。固相に生体分子を固定化する方法として、表面に導入した官能基を起点とし、共有結合、イオン結合によって固定化する手段が挙げられる。あるいはビオチンやストレプトアビジンなどの特異性の高い結合相手をもつ分子を表面に固定化しておき、ペアとなる分子を導入した生体分子を表面に固定化する方法も挙げられる。
【0003】
しかし、従来の技術ではチップ全体に官能基あるいは結合分子を導入するものがほとんどであり、生体分子を固定化していない状態では固定化部位とバックグラウンド部の区別がない。そのため、バックグラウンド部に存在する官能基や結合蛋白へ、サンプルが非特異的吸着するのを無視できない場合がある。また、微少量だけ特定の位置に生体分子溶液をスポットする技術も必須であり、高価なスポッティング装置が必要となる。
【0004】
米国特許では、固定化部位に生体分子を固定化し、バックグラウンド部に起点となる官能基あるいは結合分子が存在しない親水性高分子を固定化したアレイを作製する手段が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この発明では、生体分子もしくは生物分子集合体を表面に固定化する際にはバックグラウンド部は可逆性疎水性保護基が固定化されており、スポッティングが容易である。しかし、生体分子もしくは生物分子集合体を表面に固定化したのちに塩基性有機溶媒を用いて疎水性保護基を除去し、親水性高分子を固定化する操作が必要であり、非常に煩雑かつ、塩基性有機溶媒が生体分子もしくは生物分子集合体に悪影響を与えることが懸念される。また、親水性高分子を固定化する際に固定化した生体分子もしくは生物分子集合体に悪影響を与えることが懸念される。具体的には親水性高分子が固定化生体分子に結合し、生体分子の機能が損なわれる点である。
【0005】
そこで、バックグラウンド部には非特異的吸着がほとんどなく、固定化部位に生体分子もしくは生物分子集合体を、活性を保ったまま固定化できるバイオチップが望まれている。
【0006】
本発明はバックグラウンド部には非特異的吸着を抑制する親水性高分子を固定化し、固定化部位には固定化させるための起点となる物質もしくは官能基を有する物質が固定化されているバイオチップを得ることを可能とする。
【0007】
【特許文献1】
米国特許6127129号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、バックグラウンド部には非特異的吸着がほとんどなく、固定化部位に生体分子もしくは生物分子集合体を、活性を保ったまま固定化できるバイオチップを得ることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
1.生体分子もしくは生物分子集合体を表面に固定化するためのバイオチップを製造する方法であって、該生体分子もしくは生物分子集合体を固定化する部分(固定化部位)以外のバックグラウンド部に予め親水性高分子を固定化した後で、該生体分子もしくは生物分子集合体を固定化させるための起点となる物質もしくは官能基を有する物質を固定化する方法。
【0011】
2.固定化部位の大きさが2500μm 2 以上であることを特徴とする1のバイオチップを製造する方法。
【0012】
3.金を蒸着した透明ガラスもしくは透明プラスチックを基板として用いることを特徴とする1又は2のバイオチップを製造する方法。
【0013】
4.バイオチップが表面プラズモン共鳴(SPR)現象を用いて、チップに固定化されている生体分子もしくは生物分子集合体への反応を解析するためのものであることを特徴とする1〜3のいずれかのバイオチップを製造する方法。
【0014】
5.バイオチップが、チップに複数の生体分子もしくは生物分子集合体を固定化し、SPRイメージング法によって同時に複数の反応を解析するためのものであることを特徴とする1〜4のいずれかのバイオチップを製造する方法。
【0015】
6.固定化部位の起点となる物質がビオチン、グルタチオン、ストレプトアビジン、アミロース、抗体よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1〜5のいずれかのバイオチップを製造する方法。
【0016】
7.固定化部位の起点となる官能基を有する物質の官能基がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、マレイミド基、スクシンイミド基、ニトロソ三酢酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1〜6のいずれかのバイオチップを製造する方法。
【0017】
8.バックグラウンド部に固定化される親水性高分子がポリエチレングリコールであることを特徴とする1〜7のいずれかのバイオチップを製造する方法。
【0018】
9.ポリエチレングリコールの分子量が1000以上であることを特徴とする1〜8のいずれかのバイオチップを製造する方法。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。バイオチップは生体分子もしくは生物分子集合体を表面に固定化し、相互作用解析や発現遺伝子、蛋白質などのスクリーニングに有効である。本発明では生体分子もしくは生物分子集合体を固定化する部分(固定化部位)と、固定化部位以外のバックグラウンド部は明確に区別されている。固定化部位には固定化させるための起点となる物質もしくは官能基を有する物質が固定化されている。生体分子もしくは生物分子集合体は起点物質あるいは官能基を介して水素結合、共有結合、イオン結合あるいは疎水結合によって表面に固定化される。バックグラウンド部には固定化部位に高密度で存在する起点物質もしくは官能基は基本的に存在せず、サンプル内に存在する物質の非特異的吸着を抑制するために親水性高分子が固定化されている。
【0020】
固定化部位に導入される結合分子あるいは官能基は特に限定されるものではないが、結合の起点として容易に目的の生体分子あるいは生物分子集合体を結合し固定化できるものが好ましい。結合分子としてはビオチン、ストレプトアビジン、グルタチオン、アミロース、抗体が好ましい。ビオチンとストレプトアビジンはそれぞれが強固に結合することが知られている。グルタチオンにはグルタチオン−S−トランスフェラーゼ融合蛋白、アミロースにはマルトース結合蛋白、抗体として抗マウス抗体を用いた場合、マウス由来の抗体を結合することができる。
【0021】
固定化部位の起点となる官能基としてはカルボキシル基、アミノ基、チオール基、マレイミド基、スクシンイミド基、ニトロソ三酢酸基が好ましい。
【0022】
固定化部位の起点となる結合分子もしくは官能基の導入方法は特に限定されるものではないが、金蒸着表面の場合はチオールを末端にもつ化合物を利用して、表面に直接あるいは間接に導入することができる。あるいはガラス表面の場合はシランカップリング剤を用いることで表面に物質を導入することができる。また、別の方法として結合分子あるいは官能基をもつ物質をスピンコートにより表面にコーティングすることも可能である。
【0023】
本発明では固定化部位に固定化される生体分子もしくは生物分子集合体を結合して固定化することが容易であるが、バックグラウンド部には固定化部位に存在する起点物質もしくは官能基が基本的に存在しないため、生体分子もしくは生物分子集合体が固定化できない。固定化部位とバックグラウンド部が明確にすることによって、より精密な解析が可能となる。固定化部位とバックグラウンド部を分ける手段としては光照射によるパターン化技術や、スタンプ技術などが挙げられる。
【0024】
バイオチップの素材としてはガラスあるいは透明プラスチックが好ましい。金を蒸着したガラスや透明プラスチックは金−硫黄結合によって官能基や結合分子を導入することが容易であり特に好ましい。結合分子や官能基を末端にもつアルカンチオールを金表面に結合させることができる。あるいは、ベースとなる官能基や結合分子を末端にもつアルカンチオールを金表面に結合させ、導入するべき結合分子もしくは官能基をもつ化合物を表面に存在する結合分子あるいは官能基に結合させて固定化する方法、あるいは複数のステップで架橋剤などを用いて結合分子もしくは官能基を導入する手段などが考えられる。
【0025】
また、光を照射してパターン化する手法は金表面に応用することができ、紫外線により金−硫黄結合を酸化して洗浄除去し、新たにアルカンチオールを金表面に結合させることができる。
【0026】
非特異的吸着を抑制する親水性高分子は非イオン性であることが好ましい。イオン結合による非特異吸着を抑制するためである。具体的にはポリエチレングリコールやポリビニルアルコールなどの合成高分子、デキストランなどの糖類が挙げられるが、ポリエチレングリコールが特に好ましい。さらに分子量1000以上の方が非特異的吸着を抑制する効果があり好ましい。固定化する方法は表面に直接あるいは間接でもよい。金表面に直接固定化する場合、チオール基末端の親水性高分子を固定化する方法などが挙げられる。金表面に間接的に固定化する場合、一旦、末端に官能基をもつアルカンチオールを金表面に固定化し、その次にアルカンチオールが有する官能基を起点として親水性高分子を固定化することができる。あるいは親水性高分子を表面にコーティングする方法も可能である。
【0027】
透明基板上に金薄層を蒸着したチップは、一般的な蛍光やラジオアイソトープなどによるラベル化で相互作用解析が可能であるだけでなく、表面プラズモン共鳴(SPR)による検出が可能である。SPRはラベルフリーかつリアルタイムに相互作用解析が可能な技術でありSPR共鳴角付近で光の反射光をモニターする。
【0028】
特にSPRイメージングはチップ全体に光を当て、その反射光をCCDカメラで撮影する手法であり、本発明のチップを用いて複数の生体分子あるいは生物分子集合体を固定化し、複数の相互作用を同時に解析することが可能である。
【0029】
SPRイメージングで観察するためには固定化部位の大きさは2500μm2以上が好ましい。それ以下であると像がはっきりせず、観察が困難なためである。
【0030】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0031】
[実施例]
厚さ1mm、18mm×18mmのSF10製透明ガラス基板上にクロム1nmを蒸着した後、金を45nm蒸着した。蒸着の厚みは水晶発振子にてモニターした。金が表面に蒸着された基板を8−Amino−1−Octanethiol, Hydrochrolide(8−AOT,同仁化学研究所製)の1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、8−AOTの自己組織化表面を形成させた。
【0032】
分子量2000のスクシンイミド基末端ポリエチレングリコール(mPEG−SPA,Sheawater Polymers社製)をリン酸緩衝液に10mg/mlで溶解し、金表面の8−AOTに2時間反応させ、PEGを表面に固定化した。水晶上にクロムでパターンを描いたフォトマスクを基板上に置き、Oriel社製1000Wキセノンアークランプにて一時間照射してパターン化を行った。フォトマスクのパターンは500μm×500μmの四角形が100個並んだものである。
【0033】
照射後、ミリQ水とエタノールで洗浄したのち、7−Carboxy−1−Heptanethiol(7−CHT、同仁化学研究所製)の1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、光を照射した部分に7−CHTの自己組織化表面を形成させた。次に0.2M水溶性カルボジイミド(ナカライテスク社製)、0.05M N−ヒドロキシスクシンイミド(ナカライテスク社製)をリン酸緩衝液に溶解させ、15分間反応させ、7−CHTのカルボキシル基を活性化させた。すぐに1mMのAB−NTA(同仁化学研究所製)を30分反応させ、ニトロソ三酢酸(NTA)基を固定化部位に導入した。未反応のスクシンイミド基は1Mエタノールアミン溶液(pH8.5)でブロッキングした。こうして得られたバイオチップは固定化部位にNTA基を有し、バックグラウンドは親水性高分子であるポリエチレングリコールが固定化されている。
【0034】
このバイオチップを2.5mM塩化ニッケル(II)のリン酸緩衝液溶液に一時間浸漬し、NTA−Niキレートを形成させたのち、Hisタグ付きMycペプチドとHisタグ付きFlagペプチド、Hisタグ付き不活性化チロシンヒドロキシナーゼ(TH)を図1に示すパターンでチップの中央に4箇所ならべてスポッティングし、5分後ただちにSPRイメージング機器(SPRImager:GWC instruments社製)にセットした。観察は10mM Hepes、150mM NaCl、0.005%ノニデットP−40、pH7.2の緩衝液中で実施した。1μg/mlの抗Myc抗体(Santa Cruz社製)を入れる前と入れて15分後の写真を撮影し、前後の画像の差をとった結果を図2に示す(図内の点線枠はスポット位置)。また、抗Flag抗体(Sigma社製)を入れる前と入れた後の画像の差を図3(図内の点線枠はスポット位置)に示す。抗Myc抗体がMycペプチドに、抗Flag抗体がFlag抗体に選択的に結合しているのを観察することができた。
【0035】
[比較例1]
実施例と同様の金蒸着基板を7−CHTの1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、全面に7−CHTの自己組織化表面を形成させた。次に0.2M水溶性カルボジイミド、0.05M N−ヒドロキシスクシンイミドをリン酸緩衝液に溶解させ、15分間反応させ、7−CHTのカルボキシル基を活性化させた。すぐに1mMのAB−NTAを30分反応させ、NTA基を固定化部位に導入した。未反応のスクシンイミド基は1Mエタノールアミン溶液(pH8.5)でブロッキングした。こうして得られたバイオチップは基板全面にNTA基を有している。
【0036】
このバイオチップを2.5mM塩化ニッケル(II)のリン酸緩衝液溶液に一時間浸漬し、NTA−Niキレートを形成させたのち、ヒスチジンタグ付き蛋白をスポッティングした。しかし、スポット形状は一定でなく観察しにくい。また、蛋白が結合していない部分にもNTA−Niキレートが形成されているため、バックグラウンド部がブランクとして機能せず、データが取りづらい。
【0037】
[比較例2]
実施例と同様の金蒸着基板を8−AOTの1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、8−AOTの自己組織化表面を形成させた。1mgのFmoc−OSu(Nova Biochem社製)をDMSO300μlに溶解し、pH7の100mM TEA緩衝液200μl加え、基板上で反応させ、表面をFmocで覆った。実施例と同様にフォトマスクを用いて一時間照射しパターン化を行った。照射後、ミリQ水とエタノールで洗浄したのち、8−AOTの1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、光を照射した部分に8−AOTの自己組織化表面を形成させた。次にSulfo−SMCC(Pierce社製)をリン酸緩衝液に溶解させ、スポッティングを行って15分間反応させ、スポット部の表面をマレイミド基とした。
【0038】
次に5‘チオール末端DNAを16時間反応させて、DNAを固定化した。0.9mlのTris(2−Aminoethyl)Amineと5.1mlのDimethyl Formamideを混合した塩基性有機溶媒を基板上に与え、バックグラウンド部のFmocを除去した。最後に分子量2000のスクシンイミド基末端ポリエチレングリコール(mPEG−SPA,SheawaterPolymers社製)をリン酸緩衝液に10mg/mlで溶解し、金表面の8−AOTに2時間反応させ、PEGを表面に固定化した。この方法は非常に手間がかかるだけでなく、固定化した物質に負担がかかる。Fmocを除去する際の有機溶媒の固定化物質への影響、PEGの固定化物質への反応性が問題となる。特に蛋白質を表面に固定化する場合に適応するのは困難である。
【0039】
【発明の効果】
本発明のSPR用バイオチップは、バックグラウンド部には非特異的吸着がほとんどなく、固定化部位に生体分子もしくは生物分子集合体を、活性を保ったまま固定化できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例のSPR用バイオチップのMyc、Flag、THスポッティングパターンを示す図
【図2】抗Myc抗体を入れる前と入れた後の画像の差をとった結果図
【図3】抗Flag抗体を入れる前と入れた後の画像の差をとった結果図

Claims (9)

  1. 生体分子もしくは生物分子集合体を表面に固定化するためのバイオチップを製造する方法であって、該生体分子もしくは生物分子集合体を固定化する部分(固定化部位)以外のバックグラウンド部に予め親水性高分子を固定化した後で、該生体分子もしくは生物分子集合体を固定化させるための起点となる物質もしくは官能基を有する物質を固定化する方法。
  2. 固定化部位の大きさが2500μm2以上であることを特徴とする請求項1に記載のバイオチップを製造する方法。
  3. 金を蒸着した透明ガラスもしくは透明プラスチックを基板として用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオチップを製造する方法。
  4. バイオチップが表面プラズモン共鳴(SPR)現象を用いて、チップに固定化されている生体分子もしくは生物分子集合体への反応を解析するためのものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のバイオチップを製造する方法。
  5. バイオチップが、チップに複数の生体分子もしくは生物分子集合体を固定化し、SPRイメージング法によって同時に複数の反応を解析するためのものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバイオチップを製造する方法。
  6. 固定化部位の起点となる物質がビオチン、グルタチオン、ストレプトアビジン、アミロース、抗体よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のバイオチップを製造する方法。
  7. 固定化部位の起点となる官能基を有する物質の官能基がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、マレイミド基、スクシンイミド基、ニトロソ三酢酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のバイオチップを製造する方法。
  8. バックグラウンド部に固定化される親水性高分子がポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のバイオチップを製造する方法。
  9. ポリエチレングリコールの分子量が1000以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のバイオチップを製造する方法。
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