以下、本発明の車両の減速制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1から図8を参照して、第1実施形態について説明する。
本実施形態の目的は、マニュアルダウンシフトや変速点制御が行われるときに、フィーリング(ドライバビリティ)の良好な車両の減速制御装置を提供することである。本実施形態の他の目的は、マニュアルダウンシフトや変速点制御が行われるときに、減速トルク抜けを生じることなく変速が行われる車両の減速制御装置を提供することである。本実施形態の更に他の目的は、マニュアルダウンシフトや変速点制御が行われるときに、エンジン回転数(自動変速機の入力回転速度)の一時低下が抑制される車両の減速制御装置を提供することである。
(1)本実施形態は、マニュアルダウンシフトや変速点制御が行われるときに、車両に制動力を生じさせる制動手段(ブレーキやモータジェネレータを含む)を作動させて減速度を発生させる車両の減速制御装置において、上記制動手段の作動による減速度が発生し始める時期近傍まで、減速トルク抜け(変速時の解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルの状態)が発生しないように、マニュアルダウンシフト又は変速点制御の、ダウンシフト指令の出力を遅延させるものである。
(2)本実施形態は、マニュアルダウンシフトや変速点制御による変速が行われるに際して、解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルになる時期に合わせて、変速機に入力されるトルクを増大させるものである。変速機に入力されるトルクには、エンジントルク、MG制御手段によるトルクが含まれる。
(3)本実施形態は、マニュアルダウンシフトや変速点制御が行われるときに、車両に制動力を生じさせる制動手段を作動させて減速度を発生させる車両の減速制御装置において、上記制動手段の作動による減速度が発生し始める時期近傍まで、減速トルク抜け(変速時の解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルの状態)が発生しないように、マニュアルダウンシフト又は変速点制御の、ダウンシフト指令の出力を遅延させ、かつ、そのダウンシフト指令が行われるに際して、解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルになる時期に合わせて、変速機に入力されるトルクを増大させるものである。
上記において、マニュアルダウンシフトとは、運転者がエンジンブレーキ力の増加を望むときに手動操作により行うダウンシフトを意味する。また、変速点制御とは、車両の前方のコーナRや路面勾配や交差点を含む車両が走行する道路に関する走行道路情報や、車間距離を含む車両が走行する道路の交通に関する道路交通情報等の情報に基づいて行われる、相対的に低速側への変速による減速制御である。即ち、変速点制御には、路面勾配に基づく降坂制御と、コーナRに基づくコーナ制御と、交差点情報に基づく交差点制御と、車間距離に基づく追従制御とが含まれる。
図2において、符号10は自動変速機、40はエンジン、200はブレーキ装置である。自動変速機10は、電磁弁121a、121b、121cへの通電/非通電により油圧が制御されて5段変速が可能である。図2では、3つの電磁弁121a、121b、121cが図示されるが、電磁弁の数は3に限定されない。電磁弁121a、121b、121cは、制御回路130からの信号によって駆動される。
エンジン40の吸気配管41には、電子式スロットルバルブ43が設けられている。アクセルペダル(図示せず)の操作によって変化するアクセル開度がアクセル開度センサ(図示せず)によって検出されると、制御回路130は、そのアクセル開度に基づいて、スロットル弁制御指令をスロットル開度制御装置(図示せず)に出力する。そのスロットル開度制御装置は、そのスロットル弁制御指令に基づいて、電子スロットルバルブ43の開度を制御する。
スロットル開度センサ114は、電子スロットルバルブ43の開度を検出する。エンジン回転数センサ116は、エンジン40の回転数を検出する。車速センサ122は、車速に比例する自動変速機10の出力軸120cの回転数を検出する。シフトポジションセンサ123は、シフトポジションを検出する。パターンセレクトスイッチ117は、変速パターンを指示する際に使用される。
加速度センサ90は、車両の減速度(減速加速度)を検出する。マニュアルシフト判断部95は、運転者の手動操作に基づいて、運転者の手動操作によるダウンシフト(マニュアルダウンシフト)又はアップシフトの必要性を示す信号を出力する。路面μ検出・推定部115は、路面の摩擦係数μを検出又は推定する。車間距離計測部100は、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサ又はミリ波レーダーセンサなどのセンサを有し、先行車両との車間距離を計測する。相対車速検出・推定部112は、自車と前方の車両との相対車速を検出又は推定する。
道路勾配計測・推定部118は、CPU131の一部として設けられることができる。道路勾配計測・推定部118は、加速度センサ90により検出された加速度に基づいて、道路勾配を計測又は推定するものであることができる。また、道路勾配計測・推定部118は、平坦路での加速度を予めROM133に記憶させておき、実際に加速度センサ90により検出した加速度と比較して道路勾配を求めるものであることができる。
ナビゲーションシステム装置113は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としており、演算処理装置と、車両の走行に必要な情報(地図、直線路、カーブ、登降坂、高速道路など)が記憶された情報記憶媒体と、自立航法により自車両の現在位置や道路状況を検出し、地磁気センサやジャイロコンパス、ステアリングセンサを含む第1情報検出装置と、電波航法により自車両の現在位置、道路状況などを検出するためのもので、GPSアンテナやGPS受信機などを含む第2情報検出装置等を備えている。
制御回路130は、スロットル開度センサ114、エンジン回転数センサ116、車速センサ122、シフトポジションセンサ123、加速度センサ90の各検出結果を示す信号を入力し、また、パターンセレクトスイッチ117のスイッチング状態を示す信号を入力し、また、路面μ検出・推定部115による検出又は推定の結果を示す信号を入力し、また、マニュアルシフト判断部95からのシフトの必要性を示す信号を入力し、また、ナビゲーションシステム装置113からの信号を入力し、また、相対車速検出・推定部112による検出又は推定の結果を示す信号を入力し、また、車間距離計測部100による計測結果を示す信号を入力する。制御回路130は、これらの入力した情報に基づいて、降坂制御と、コーナ制御と、交差点制御と、追従制御を含む変速点制御のシフト判断(指令)の有無を判断する。
制御回路130は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU131、RAM132、ROM133、入力ポート134、出力ポート135、及びコモンバス136を備えている。入力ポート134には、上述の各センサ114、116、122、123、90からの信号、上述のスイッチ117からの信号、路面μ検出・推定部115、マニュアルシフト判断部95、車間距離計測部100、相対車速検出・推定部112、及びナビゲーションシステム装置113のそれぞれからの信号が入力される。出力ポート135には、電磁弁駆動部138a、138b、138c、及びブレーキ制御回路230へのブレーキ制動力信号線L1が接続されている。ブレーキ制動力信号線L1では、ブレーキ制動力信号SG1が伝達される。また、制御回路130は、エンジン40の点火時期の遅角制御を行う。
ROM133には、予め図1のフローチャートに示す動作(制御ステップ)が格納されているとともに、自動変速機10のギヤ段を変速するための変速マップ及び変速制御の動作(図示せず)が格納されている。制御回路130は、入力した各種制御条件に基づいて、自動変速機10の変速を行う。
ブレーキ装置200は、制御回路130からブレーキ制動力信号SG1を入力するブレーキ制御回路230によって制御されて、車両を制動する。ブレーキ装置200は、油圧制御回路220と、車両の車輪204、205、206、207に各々設けられる制動装置208、209、210、211とを備えている。各制動装置208、209、210、211は、油圧制御回路220によって制動油圧が制御されることにより、対応する車輪204、205、206、207の制動力を制御する。油圧制御回路220は、ブレーキ制御回路230により、制御される。
油圧制御回路220は、ブレーキ制御信号SG2に基づいて、各制動装置208、209、210、211に供給する制動油圧を制御することで、ブレーキ制御を行う。ブレーキ制御信号SG2は、ブレーキ制動力信号SG1に基づいて、ブレーキ制御回路230により生成される。ブレーキ制動力信号SG1は、自動変速機10の制御回路130から出力され、ブレーキ制御回路230に入力される。ブレーキ制御の際に車両に与えられるブレーキ力は、ブレーキ制動力信号SG1に含まれる各種データに基づいてブレーキ制御回路230により生成される、ブレーキ制御信号SG2によって定められる。
ブレーキ制御回路230は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU231、RAM232、ROM233、入力ポート234、出力ポート235、及びコモンバス236を備えている。出力ポート235には、油圧制御回路220が接続されている。ROM233には、ブレーキ制動力信号SG1に含まれる各種データに基づいて、ブレーキ制御信号SG2を生成する際の動作が格納されている。ブレーキ制御回路230は、入力した各制御条件に基づいて、ブレーキ装置200の制御(ブレーキ制御)を行う。
次に、自動変速機10の構成を図3に示す。図3おいて、内燃機関にて構成されている走行用駆動源としてのエンジン40の出力は、入力クラッチ12、流体式動力伝達装置としてのトルクコンバータ14を経て自動変速機10に入力され、図示しない差動歯車装置および車軸を介して駆動輪へ伝達される。入力クラッチ12とトルクコンバータ14との間には、電動モータおよび発電機として機能する第1モータジェネレータMG1が配設されている。
トルクコンバータ14は、入力クラッチ12に連結されたポンプ翼車20と、自動変速機10の入力軸22に連結されたタービン翼車24と、それらポンプ翼車20およびタービン翼車24の間を直結するためのロックアップクラッチ26と、一方向クラッチ28によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車30とを備えている。
自動変速機10は、ハイおよびローの2段の切り換えを行う第1変速部320と、後進変速段および前進4段の切り換えが可能な第2変速部340とを備えている。第1変速部32は、サンギヤS0、リングギヤR0、およびキャリアK0に回転可能に支持されてそれらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合わされている遊星ギヤP0から成るHL遊星歯車装置360と、サンギヤS0とキャリアK0との間に設けられたクラッチC0および一方向クラッチF0と、サンギヤS0およびハウジング38間に設けられたブレーキB0とを備えている。
第2変速部34は、サンギヤS1、リングギヤR1、およびキャリアK1に回転可能に支持されてそれらサンギヤS1およびリングギヤR1に噛み合わされている遊星ギヤP1から成る第1遊星歯車装置400と、サンギヤS2、リングギヤR2、およびキャリアK2に回転可能に支持されてそれらサンギヤS2およびリングギヤR2に噛み合わされている遊星ギヤP2から成る第2遊星歯車装置420と、サンギヤS3、リングギヤR3、およびキャリアK3に回転可能に支持されてそれらサンギヤS3およびリングギヤR3に噛み合わされている遊星ギヤP3から成る第3遊星歯車装置440とを備えている。
サンギヤS1とサンギヤS2は互いに一体的に連結され、リングギヤR1とキャリアK2とキャリアK3とが一体的に連結され、そのキャリアK3は出力軸120cに連結されている。また、リングギヤR2がサンギヤS3および中間軸48に一体的に連結されている。そして、リングギヤR0と中間軸48との間にクラッチC1が設けられ、サンギヤS1およびサンギヤS2とリングギヤR0との間にクラッチC2が設けられている。また、サンギヤS1およびサンギヤS2の回転を止めるためのバンド形式のブレーキB1がハウジング38に設けられている。また、サンギヤS1およびサンギヤS2とハウジング38との間には、一方向クラッチF1およびブレーキB2が直列に設けられている。この一方向クラッチF1は、サンギヤS1およびサンギヤS2が入力軸22と反対の方向へ逆回転しようとする際に係合させられる。
キャリアK1とハウジング38との間にはブレーキB3が設けられており、リングギヤR3とハウジング38との間には、ブレーキB4と一方向クラッチF2とが並列に設けられている。この一方向クラッチF2は、リングギヤR3が逆回転しようとする際に係合させられる。
以上のように構成された自動変速機10では、例えば図4に示す作動表に従って後進1段および変速比が順次異なる前進5段(1st〜5th)の変速段の何れかに切り換えられる。図4において「○」は係合で、空欄は解放を表し、「◎」はエンジンブレーキ時の係合を表し、「△」は動力伝達に関与しない係合を表している。前記クラッチC0〜C2、およびブレーキB0〜B4は何れも油圧アクチュエータによって係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
次に、図1及び図5を参照して、第1実施形態の動作について説明する。
図1は、第1実施形態の制御フローを示すフローチャートである。
図5は、本実施形態を説明するための変速時の過渡特性を示すタイムチャートである。図5には、自動変速機10の入力回転速度400、点火時期の遅角制御指令501、エンジントルク502、ブレーキ制御量406、解放クラッチ及び係合クラッチのクラッチトルク407,408、出力軸トルクないしは車両に作用する減速加速度(G)404が示されている。
まず、図5を参照して、本実施形態で解決すべき問題点について説明する。
図5において、符号400a、407a、408a、及び402で示す破線は、従来の自動変速機10のダウンシフト時のそれぞれ、入力回転速度(400a)、解放クラッチトルク(407a)、係合クラッチトルク(408a)、及び出力軸トルクないしは車両に作用する減速G(402)の過渡特性を示している。
以下に、上記破線400a、407a、408a、及び402で示される、従来のダウンシフト時の過渡特性について説明する。
アクセルが全閉の状態で、符号Aの時点において、マニュアルシフトとして、又は変速点制御として、自動変速機10をダウンシフトする必要有りと判断されるとする。従来一般には、そのダウンシフトする必要有りとの判断がなされると同時(時点A)に、ダウンシフト指令が出力される。その結果、破線407aで示すように、ダウンシフト指令が出力された時点Aから、解放側のクラッチ(又はブレーキ)圧が低下し始める。図5では、簡単のため、油圧ではなくクラッチトルクとして記述される。
上記A点で出力されたダウンシフト指令に係る変速の種類、又は自動変速機10が、解放側クラッチ(407a)と係合側クラッチ(408a)のアンダーラップを生じるものであれば、係合クラッチトルク408aは、解放側クラッチ(407a)の接続が解除された後の例えば時点Fから立ち上がり始める。
解放クラッチトルク407aの低下に伴い、Cの時点からクラッチ滑りが始まる。それに伴い、C時点から出力軸トルク402がゼロ側に移行する。また、C時点から入力回転数速度(エンジン回転速度)400aが低下し始める。その後、係合側クラッチ(408a)が係合を開始するF時点までは、ニュートラルに近い状態となる(D時点からF時点までがトルク抜けとして記される)。
また、ダウンシフト指令が出力(A時点)されてから、車速と変速の種類によって決まる所定の時間の経過後に、変速が実際に(実質的に)開始される。図5では、F時点から変速が開始され、それに伴いF点から、自動変速機10の変速による減速度402が増大し始めるとともに、入力回転速度400aが上昇し始める(F時点で変速が始まり、J時点で変速が終了する)。
以上のことから、運転者が減速度を望んでマニュアルシフトを行った場合、又は、運転者が変速点制御の制御開始条件であるアクセルOFF又はブレーキONの操作を行った場合にも、D〜F間のトルク抜け(ニュートラル区間)や、エンジン回転数(400a)の低下があり、フィーリングが悪いという問題がある。
次に、上記のニュートラル区間(D〜F時点)を無くすために、比較的応答性の速いブレーキを作動させる制御を行った場合について説明する。符号406は、ブレーキ制御力を示しており、符号404は、車両の実減速度を示している。
変速シーケンスは、上記の破線400a、407a、408a及び402で示した上記内容と変わらないが、自動変速機10による減速度402が増大する時点Fよりも前の、E時点からブレーキ力が働くため(406参照。ブレーキ力の立ち上がりタイミングは、ブレーキの応答性によって決まり本例ではE時点とされる)、車両の実減速度404は、E時点から立ち上がる。上記のように、ブレーキを作動させない場合には、F点からしか実減速度(402)が立ち上がらないことと比較すると、フィーリング面での向上がみられる。
しかしながら、上記のようにブレーキを作動させた場合であっても、D〜E間のニュートラル区間、及びC〜F間のエンジン回転数(400a)の低下は依然として残っており、フィーリングの悪さが残っている。即ち、A点でダウンシフトする必要有りとの判断がなされると同時に、ブレーキ制御を開始させたとしても、ブレーキの応答性の関係で実際にブレーキの作動が開始されるのは、ニュートラル区間(D〜)に入った後(E点)である。このように、ブレーキの応答性の限界から、ニュートラル区間を完全に無くすことはできない。
また、物理的な(自動変速機10の)ニュートラル区間は、ブレーキの作動とは無関係であるから、上記のブレーキをさせない場合と同様に、エンジン回転速度(400a)は、実際に変速が開始されるF点(402参照)までは低下し続け、変速開始時点Fからしか上昇しないことになるから、遅れ感をぬぐいきれず、フィーリングが悪い。
そこで、本実施形態では、以下の動作を行うこととする。
本実施形態において、符号400は、入力回転速度を示し、符号401は、出力軸トルクないしは車両に作用する減速Gを示し、符号407は、解放クラッチトルクを示し、符号408は、係合クラッチトルクを示し、符号501は、遅角指令を示し、符号502は、エンジントルクを示している。
(1)まず、従来、ダウンシフト指令の出力が、ダウンシフトする必要有りとの判断がなされると同時のA点で行われていたのに対し、本実施形態では、ダウンシフト指令の出力を上記判断の時(A点)から所定時間T1だけ遅延させ、B点に行う。その結果、解放クラッチトルク407の低下がB点から開始され、ブレーキによる減速G(404)が発生する時期の近傍のE点まで、解放側クラッチ(407)が滑ることなく、高速側(変速前)の変速段のエンジンブレーキレベル401が確保される。このことから、トルク抜けが生じることなく、車両に作用する減速Gは、高速側の変速段のエンジンブレーキレベル401からブレーキによる減速G(404)に移行し、そのブレーキによる減速G(404)を漸次増加させることによって、見かけ上、E点近傍からダウンシフトが開始されたと同じ状態にする。
(2)また、エンジン回転数(400)に関しては、解放側クラッチ(407)が滑り、(物理的な)ニュートラル区間に向かう時点E近傍で、エンジントルク502が上昇するように電子スロットルバルブ43及び点火時期を制御する(501)。これにより、E点近傍で、エンジン回転数(400)を低下させることなく、エンジン回転数(400)を上昇させることができる。これにより、あたかもブレーキによる減速Gの発生と同期する感じでエンジン回転数(400)が上昇する。これは、見かけ上、変速開始時期がE点近傍まで早まったと同じ現象であり、自然かつ高応答な好フィーリングである。
さらに、従来のエンジン回転数(400a)に比べて、本実施形態のエンジン回転数(400)は、初期低下が少ないため、変速開始を遅らせているにもかかわらず、変速終了時期はむしろ早くなる(I点)という優れた特性が得られる。
なお、電子スロットルバルブ43及び点火時期を制御して、エンジントルクを上昇させる制御は、従来から行われている。その従来からのエンジントルクアップ時期は、通常、エンジン回転数(400a)が、高速側の変速段の(C点より前の)エンジン回転数(400a)を所定量上回った時点であるので、H点近傍である。
以下に、図1を参照して、本実施形態の動作の詳細について説明する。
[ステップS1]
図1に示すように、ステップS1では、スロットル開度センサ114の検出結果に基づいて、制御回路130により、アクセル(スロットル開度)が全閉か否かが判定される。アクセルが全閉である場合(ステップS1−Y)には、ステップS2に進む。図5では、図示はしないが、符号Aの時点と同時又はそれよりも前にアクセル開度が全閉になっている。
一方、ステップS1の判定の結果、アクセルが全閉であるとは判定されない場合(ステップS1−N)には、本実施形態のブレーキ制御、電子スロットル制御、及び遅角制御を終了する旨の指令が出力され、また、所定時間T1用のタイマーのカウント値に所定時間T1を加算する指令が出力される(ステップS14)。ここで、ブレーキ制御、電子スロットル制御、及び遅角制御が実行されていない場合には、そのままの状態が継続される。
[ステップS2]
ステップS2では、制御回路130により、フラグFがチェックされる。本制御フローの最初は、フラグFは0であるので、ステップS3に進む。一方、フラグFが1である場合には、ステップS7に進み、フラグFが2である場合には、ステップS9に進み、フラグFが3である場合には、ステップS11に進む。
[ステップS3]
ステップS3では、制御回路130により、シフト判断(指令)の有無が判定される。ここでは、マニュアルシフト判断部95から、自動変速機10の変速段を相対的に低速側に変速(ダウンシフト)する必要性を示す信号が出力されているか否か、及び、車間距離計測部100、相対車速検出・推定部112、ナビゲーションシステム装置113、及び道路勾配計測・推定部118等からの情報に基づいて変速点制御としてダウンシフトする必要性を示す信号が出力されているか否かが判定される。この場合の変速点制御には、降坂制御と、コーナ制御と、交差点制御と、追従制御が含まれる。
図5では、符号Aの時点でステップS3の判定が行われる。ステップS3の判断の結果、マニュアルシフト判断部95から、又は変速点制御として、ダウンシフトする必要性を示す信号が出力されていると判定された場合(ステップS3−Y)には、ステップS4に進む。一方、そのように判定されない場合(ステップS3−N)には、本制御フローは、リセットされる。
図5の例では、ダウンシフトする必要性を示す信号に関して、制御回路130では、Aの時点において、ダウンシフトする必要性有りと判定された場合(ステップS3−Y)が示されている。後述するように、制御回路130は、上記Aの時点におけるダウンシフトする必要性有りとの判定結果に基づいて、そのAの時点から所定時間T1が経過した後の符号Bの時点にて、ダウンシフト指令を出力する(ステップS7、ステップS8)。
[ステップS4]
ステップS4では、制御回路130により、目標減速度403の最大目標減速度Gtが求められるとともに、目標減速度403の勾配αが決定される。まず、最大目標減速度Gtについて説明し、その後、勾配αについて説明する。
A.最大目標減速度Gtについて
最大目標減速度Gtは、本実施形態において車両が減速制御される際の目標減速度403の最大値であり、自動変速機10の変速により車両に作用する減速度402の最大値402maxと概ね同じとなるように決定される。図5において、符号402で示す破線は、上記Aの時点でダウンシフトする必要性有りとの判定がなされる(上記ステップS3)と同時(時点A)にダウンシフト指令が出力されたと仮定した場合の、自動変速機10の出力軸120cの負トルクに対応した減速加速度を示している。符号402で示す破線は、変速の種類(例えば4速→3速、3速→2速のように、変速前の変速段と変速後の変速段の組合わせ)と車速によって決まる。
自動変速機10の変速による減速度402の最大値402maxは、予めROM133に格納された最大減速度マップ(図6)が参照されて決定される。その最大減速度マップには、最大減速度402maxの値が変速の種類と車速に基づく値として定められている。図6に示すように、自動変速機10の出力軸120cの回転速度Noが1000[rpm]であるときに、5速へのダウンシフトが行われると、変速による減速度402の最大値402maxは、−0.04Gである。回転速度Noが3000[rpm]であるときに、4速へのダウシフトが行われると、変速による減速度402の最大値402maxは、−0.07Gである。
なお、上記において、最大目標減速度Gtは、変速による最大減速度402maxと概ね同じ値にされるとして説明したが、これに代えて、最大目標減速度Gtは、変速の種類(変速後の変速段)や車速や多重変速の有無によって、必要に応じて、変速による最大減速度402maxよりも大きな値となるように決定されることができる。変速時により十分な減速感を得るためである。
B.勾配αについて
ステップS4では、制御回路130により、上記最大目標減速度Gtとともに、目標減速度403の勾配αが決定される(図5参照)。図5において、G点から先の符号401は、本実施形態において、ダウンシフトする必要性有りとの判定がなされた時点A(上記ステップS3)から所定時間T1が経過した後の時点Bにて、ダウンシフト指令が出力されたときの(ステップS7、ステップS8)、自動変速機10の出力軸120cの負トルクに対応した減速加速度を示している。
勾配αの決定に際しては、まず、ダウンシフト指令が出力されてから(ステップS8にてBの時点に出力される)、変速が実際に(実質的に)開始(時点G)されるまでの時間taに基づいて、その変速開始時点Gまでに車両に実際に作用する減速度(以下、車両の実減速度という)404が最大目標減速度Gtに到達するように目標減速度403の初期の勾配最小値が決定される。上記において、ダウンシフト指令が出力された時点Bから実際に変速が開始される時点Gまでの時間taは、変速の種類に基づいて決定される。
図7において、符号405で示す二点鎖線が上記初期の目標減速度の勾配最小値に対応している。また、予め、目標減速度403として設定可能な勾配には、減速に伴うショックが大きくならないように、かつ、車両に不安定現象が発生したときにその対応(不安定現象の回避)が可能なように、勾配上限値と下限値が設定されている。図7の符号406aで示す二点鎖線が上記の勾配上限値に対応している。
なお、車両の不安定現象とは、車両に減速加速度(ブレーキ制御によるもの及び/又は変速によるエンジンブレーキによるもの)が作用している時に、路面の摩擦係数μの変化やステアリング操作を含む何らかの理由により、例えばタイヤのグリップ度が減少したり、滑ったり、挙動が不安定になるなど、車両が不安定な状態になることを意味する。
ステップS4において、目標減速度403の勾配αは、図7に示すように、勾配最小値405以上で、勾配上限値406aよりも小さな勾配となるように設定される。
目標減速度403の初期の勾配αは、車両の初期の減速度の変化を滑らかにしたり、車両の不安定現象の回避のために、最適な減速度の変化態様を設定する意義を有する。勾配αは、アクセル戻し速度や、路面μ検出・推定部115によって検出又は推定される路面の摩擦係数μ等に基づいて決定されることができる。また、勾配αは、マニュアルシフトの場合と変速点制御によるシフトの場合とで変更されることができる。これらについて、図8を参照して、以下に具体的に説明する。
図8は、勾配αの設定方法の一例を示している。図8に示すように、路面μが小さいほど勾配αは小さくなるように設定され、アクセル戻し速度が大きいほど勾配αは大きくなるように設定される。また、変速点制御によるシフトの場合には、マニュアルシフトの場合と比べて、勾配αが小さくなるように設定される。変速点制御によるシフトは、運転者の意思に直接基づく変速ではないため、減速の割合を緩やかに(減速加速度を相対的に小さく)設定するためである。なお、図8では、勾配αと路面μやアクセル戻し速度等との関係は、線形な関係になっているが非線形な関係となるように設定することもできる。
ステップS4により、本実施形態における目標減速度403(図5の太線で示す)が決定される。即ち、図5に示すように、目標減速度403は、ステップS4にて求められた勾配αにて最大目標減速度Gtに達するように設定され、その後は、変速が終了する時点Jまで目標減速度403が、最大目標減速度Gtに維持される。変速により生じる最大減速度402max(≒最大目標減速度Gt)までの減速度を、短時間で減速ショックを抑制しつつ、比較的に応答性の良いブレーキで実現するためである。比較的に応答性の良いブレーキで初期の減速度を実現することで、車両に不安定現象が生じた時に、その対応を速やかに行うことができる。
なお、ステップS4の動作は、上記ステップS3においてダウンシフトする必要性有りと判定されたAの時点で行われる。但し、ステップS4の動作において、目標減速度403の設定が開始される時期は、Eの時点とされている。Aの時点において、ダウンシフトする必要性有りと判定されてから(ステップS3)、直ちにブレーキの作動指令を出力したとしても、ブレーキの応答性の関係で、実際にブレーキが作動を開始するのは概ねE点である。このことから、実際にブレーキの作動開始が可能な時期であるE点が、目標減速度403の設定開始時期とされる。ステップS4の次に、ステップS5が行われる。
[ステップS5]
ステップS5では、ブレーキのフィードバック制御がブレーキ制御回路230により実行される。符号406に示すように、ブレーキのフィードバック制御は、目標減速度403の設定が開始された時点Eにて開始される。
即ち、Eの時点から目標減速度403を示す信号がブレーキ制動力信号SG1として制御回路130からブレーキ制動力信号線L1を介してブレーキ制御回路230に出力される。ブレーキ制御回路230は、制御回路130から入力したブレーキ制動力信号SG1に基づいて、ブレーキ制御信号SG2を生成し、そのブレーキ制御信号SG2を油圧制御回路220に出力する。
油圧制御回路220は、ブレーキ制御信号SG2に基づいて、制動装置208、209、210、211に供給する油圧を制御することで、ブレーキ制御信号SG2に含まれる指示通りのブレーキ力(ブレーキ制御量406)を発生させる。
ステップS5のブレーキ装置200のフィードバック制御において、目標値は目標減速度403であり、制御量は車両の実減速度404であり、制御対象はブレーキ(制動装置208、209、210、211)であり、操作量はブレーキ制御量406であり、外乱は主として自動変速機10の変速による減速度401である。車両の実減速度404は、加速度センサ90により検出される。
即ち、ブレーキ装置200では、車両の実減速度404が目標減速度403となるように、ブレーキ制動力(ブレーキ制御量406)が制御される。即ち、ブレーキ制御量406は、車両に目標減速度403を生じさせるに際して、自動変速機10の変速による減速度401では不足する分の減速度を生じさせるように設定される。ここでは、説明の便宜のため、ブレーキの目標減速度403への応答性が高く、実減速度404≒目標減速度403としている。
本実施形態では、目標減速度403の設定(ステップS4)及びブレーキのフィードバック制御(ステップS5)により、G点からの自動変速機10による減速度401の発生に先行して、E点からブレーキ力が立ち上がるので、実減速度404はE点から立ち上がる。ステップS5の次に、ステップS6が実行される。
[ステップS6]
ステップS6では、制御回路130により、電子スロットルバルブ43を開とするスロットル弁制御指令が出力されるとともに、エンジン40の点火時期の遅角量を大きくする遅角制御指令501が出力される。
図5に示すように、このステップS6の動作は、ダウンシフトする必要性有りと判定されたAの時点(ステップS3)から実行される。ステップS6では、スロットル弁制御指令を出力して、電子スロットルバルブ43を開くとともに、その電子スロットルバルブ43を開くことによって生じるエンジントルクの増大分を、遅角制御によりキャンセルする(エンジントルクの増大が無いようにする)。
電子スロットルバルブ43を開くことにより、エンジントルクを増大させることが可能であるが、電子スロットルバルブ43は一般に応答性が悪い。このことから、ステップS6では、時間的に先の所望の時期(E点)でエンジントルク502を瞬時に立ち上げるために(ステップS10)、A点から電子スロットルバルブ43の開指令を出力するとともに、応答性に優れる遅角制御を実行し、所望の時期(E点)までは、その電子スロットルバルブ43を開くことによって生じるエンジントルクの増大分を、遅角制御によりキャンセルしつつ(ステップS6)、所望の時期(E点)でその遅角制御を復帰させることで、その所望の時期(E点)でエンジントルク502が瞬時に立ち上がるようにしている(ステップS10)。ステップS6の次に、ステップS7が行われる。
[ステップS7]
ステップS7では、制御回路130により、所定時間T1が経過したか否かが判定される。その判定の結果、所定時間T1が経過していれば、ステップS8に進み、そうでない場合には、ステップS17に進む。所定時間T1は、ブレーキによる減速度が発生し始める時期(E点)近傍まで、減速トルク抜け(変速時の解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルの状態)が発生しないように、ダウンシフト指令の出力を遅延させるための時間である。
ステップS7は、最初は、A点にて行われる。最初は、所定時間T1が経過していないので(ステップS7−N)、ステップS17にて、フラグFが1にセットされた後にリセットされる。次サイクルの制御フローでは、ステップS1、ステップS2経由で所定時間T1が経過するのを待つ(ステップS7)。
上記において、所定時間T1の時間の経過を待つ間に、アクセルが全閉で無くなれば(ステップS1−N)、ステップS14→ステップS15→ステップS2→ステップS7という動作が行われる。この場合、ステップS14にて、所定時間T1用のタイマーのカウンタ値に所定時間T1が加算されるので、ステップS7では、必ず、所定時間T1が経過したとの判定結果が得られ(ステップS7−Y)、ステップS8にてダウンシフト指令が出力される。このように、アクセルが全閉でなくなった時点で直ぐに(所定時間T1の経過を待つことなく)ダウンシフト指令を出力させるのは、アクセルがオンにされると、前述したようなダウンシフト指令のディレイの意味がなくなるためである。
[ステップS8]
ステップS8では、制御回路130により、ダウンシフト指令が出力される。即ち、制御回路130のCPU131から電磁弁駆動部138a〜138cにダウンシフト指令(変速指令)が出力される。ダウンシフト指令に応答して、電磁弁駆動部138a〜138cは、電磁弁121a〜121cを通電又は非通電にする。これにより、自動変速機10では、ダウンシフト指令に指示される変速が実行される。ダウンシフト指令は、ダウンシフトする必要性有りとAの時点で制御回路130により判断されてから(ステップS3−Y)、所定時間T1が経過したBの時点に出力される。
図5に示すように、Bの時点にダウンシフト指令が出力されると、自動変速機10の解放側要素のクラッチトルク407が低下するが、ブレーキ制御量406による減速Gが発生する辺りのEの時点付近までは解放側のクラッチが滑ることがない。これにより、ブレーキ制御量406による減速Gが発生する辺りのEの時点付近までは、高速側のエンジンブレーキ力410が確保され、減速Gを体感する(フィーリング)上でニュートラル区間を感じることが無くなる。
この場合、Eの時点付近以降から、解放側のクラッチが滑り始め、車輪側から自動変速機10側へのトルクの伝達がされ難くなり、入力回転数を引き上げる力が低下するが、後述するように、Eの時点近傍でエンジントルク502を上昇させる制御が行われるので(ステップS9、ステップS10)、入力回転速度400は低下することなく、E点近傍から上昇する。これにより、エンジン回転速度が低下することなく上昇するので、ダウンシフトに合致した良好なフィーリングが得られる。
ステップS8において、ダウンシフト指令がB点で出力されると、そのB点から変速の種類に基づいて決定される上記時間taが経過した後のGの時点で、係合クラッチトルク408が上昇し始めるとともに、自動変速機10の変速による減速度401が増大し始める。ステップS8の次に、ステップS9が行われる。
[ステップS9]
ステップS9では、制御回路130により、所定時間T2が経過したか否かが判定される。その判定の結果、所定時間T2が経過していれば、ステップS10に進み、そうでない場合には、ステップS18に進む。
所定時間T2は、ダウンシフト指令の出力時点B(所定時間T2の計測開始時点)から、解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラル区間が開始する時期(E点近傍)≒ブレーキによる減速度発生開始時期(E点近傍)までの時間に対応している。
ステップS9は、最初は、ダウンシフト指令が出力された時点Bに行われる。最初は、所定時間T2が経過していないので(ステップS9−N)、ステップS18にて、フラグFが2にセットされた後にリセットされる。そのリセット後の次サイクルの制御フローでは、ステップS1、ステップS2経由で所定時間T2が経過するのを待つ(ステップS9)。その所定時間T2の経過を待つ間に、アクセルがオンにされれば(ステップS1−N)、ステップS14→ステップS15→ステップS16で、フラグFが0とされてリセットされる。即ち、ダウンシフト指令が出力された後(後述の変速終了を待つ間を含む。いずれともフラグは2以上である(ステップS18、S19))にアクセルがオンにされたときには、ブレーキ制御、電子スロットルバルブ43、及び遅角制御の処理のみである(所定時間T1用タイマーへの加算は不要である)ので、ステップS15からステップS2に進むことなく、ステップS16に進む。
ステップS9の判定は、上記のように、所定時間T2の経過の有無を判断することに代えて、自動変速機10のメンバー回転速度の値が所定値以下になったときを判定してもよい。
[ステップS10]
ステップS10では、制御回路130により、エンジン40の点火時期の遅角量をゼロにする遅角制御指令(遅角復帰指令)501が出力される。ステップS10の遅角復帰は、所定時間T2が経過した時点Eにて行われる。E点での遅角復帰によって、上記ステップS6に開指令が出力された、電子スロットルバルブ43の開度に対応する分のエンジントルク502が増大し、被駆動ニュートラル状態であっても、エンジン回転速度(入力回転速度400)が増大する。これにより、エンジン回転速度が、E点近傍まで低下することなく、E点近傍から上昇するので、ダウンシフトに合致した良好なフィーリングが得られる。
[ステップS11]
ステップS11では、制御回路130により、自動変速機10の変速が終了する前(又はその付近)か否かが判定される。その判定は、自動変速機10の回転メンバーの回転速度に基づいて行われ(図5の入力回転速度400参照)、ここでは、以下の関係式が成立するか否かにより判定される。
No*If−Nin≦ΔNin
ここで、Noは、自動変速機10の出力軸120cの回転速度、Ninは入力軸回転速度(タービン回転速度等)、Ifは高速段(変速前)のギヤ比、ΔNinは定数値である。制御回路130は、自動変速機10の入力軸回転速度(タービン翼車24の回転速度等)Ninを検出する検出部(図示せず)から、その検出結果を入力している。
ステップS11の上記関係式が成立しない場合には、自動変速機10の変速が終了する段階ではないと判断され(ステップ11−N)、ステップS19にてフラグFが3に設定された後に、本制御フローがリセットされる。その後、ステップS1→ステップS2→ステップS11にて、上記関係式の成立を待つ。この間、アクセル開度が全閉以外となったときには、ステップS14に進み、本実施形態のブレーキ制御、電子スロットルバルブ43、遅角制御は終了し、フラグFが0にセットされる(ステップS16)。
一方、ステップS11の上記関係式が成立した場合には、ステップS12に進む。図5では、Iの時点で変速が終了し、上記関係式が成立する。
[ステップS12]
ステップS12では、制御回路130により、電子スロットルバルブ43を閉とするスロットル弁制御指令が出力される。また、ステップS12では、エンジン40の点火時期の遅角量を大きくした後に、遅角量を漸次減少させる遅角制御指令501が出力される。
図5に示すように、このステップS12の動作は、変速が終了したIの時点で行われる。I点では、変速が終了し、エンジントルク502を上昇させる必要がなくなることから、電子スロットルバルブ43を閉とするスロットル弁制御指令が出力される。但し、上記のように、一般に電子スロットルバルブ43は応答性が悪いため、電子スロットルバルブ43の閉指令と同時にエンジントルク502がゼロになることはなく、その応答性の悪さに起因したエンジントルク502(時間の経過とともに漸減)が存在する。そこで、その存在するエンジントルク502がゼロになるまで、点火時期の遅角制御(遅角量漸減制御)によりゼロに抑える。ステップS12の次に、ステップS13が行われる。
[ステップS13]
ステップS13では、制御回路130により、フラグFが0にセットされ、上記所定時間T1、所定時間T2を計測するタイマーがクリアされる。ステップS13の後に、本制御フローがリセットされる。
以上説明したように、本実施形態は、以下の内容を備えている。
(1)マニュアルダウンシフトや変速点制御が行われるときに、車両に制動力を生じさせる制動手段を作動させて減速度を発生させる車両の減速制御装置において、上記制動手段の作動による減速度が発生し始める時期(E点)近傍まで、減速トルク抜け(変速時の解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルの状態)が発生しないように、マニュアルダウンシフト又は変速点制御の、ダウンシフト指令の出力を遅延させる。これにより、上記制動手段の作動による減速度が発生し始める時期(E点)近傍までは、ダウンシフト前の変速段による減速度が確保されつつ、その後は、上記制動手段の作動による減速度が発生する。このことから、運転者は、解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラル区間を、減速トルク抜け状態として感じることが無く、良好なフィーリングが得られる。
(2)マニュアルダウンシフトや変速点制御による変速が行われるに際して、解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルになる時期に合わせて、変速機に入力されるトルクを増大させる。変速機に入力されるトルクには、エンジントルク、MG制御手段によるトルクが含まれる。
上記ステップS10では、ダウンシフト時の解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルの状態になる時期(E点近傍)に合わせて、変速機10に入力されるトルクを増大させて、入力回転速度400の低下を抑える。これにより、ダウンシフト時にエンジン回転数の一時低下が抑制され、良好なフィーリングが得られる。
本実施形態では、この入力回転速度400の一時低下の抑制に関する制御内容を、ブレーキを協調制御する車両の減速制御装置に適用しているが、ブレーキを制御しない車両の減速制御装置に対しても適用可能である。
またさらに、本実施形態では、上記入力回転速度400aの一時低下の抑制に関する制御を、ダウンシフト指令の出力を遅延させる制御(上記(1))とともに使用しているが、ダウンシフト指令の出力を遅延させない通常一般のものに対しても適用可能である(図示せず)。この場合には、図5のフローにおいて、ステップS4、ステップS5、ステップS7及びステップS8が無く(ダウンシフト指令はシフト判断時に同時(A点)に行われることができ、その場合の解放、係合クラッチトルクは符号407a、408aに示すものとなる)、シフト判断時に行われるステップ6とを備え、ダウンシフト指令の出力(A点)から予め設定されたニュートラルになる時期(C点)までの時間を経過したか否かを検出し、そのニュートラルになる時期(C点)になったら、エンジントルク502を瞬時に立ち上げる。これにより、入力回転速度400aの一時低下が抑制される(図示せず)。この内容が上記(2)である。
(3)マニュアルダウンシフトや変速点制御が行われるときに、車両に制動力を生じさせる制動手段を作動させて減速度を発生させる車両の減速制御装置において、マニュアルダウンシフトや変速点制御による変速が行われるに際して、解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルになる時期に合わせて、変速機に入力されるトルクを増大させる。この(3)は、上記(2)に対してブレーキの協調制御を加えたものである。
(4)マニュアルダウンシフトや変速点制御が行われるときに、車両に制動力を生じさせる制動手段を作動させて減速度を発生させる車両の減速制御装置において、上記制動手段の作動による減速度が発生し始める時期(E点)近傍まで、減速トルク抜け(変速時の解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルの状態)が発生しないように、マニュアルダウンシフト又は変速点制御の、ダウンシフト指令の出力を遅延させ、かつ、そのダウンシフト指令が行われるに際して、解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルになる時期に合わせて、変速機に入力されるトルクを増大させる。これにより、解放・係合クラッチのアンダーラップによるニュートラルになる時期に、エンジン回転数の低下がなく、あたかも上記制動手段による減速度発生と同期するようにエンジン回転数が上昇するため、見かけ上、変速開始が早まったと同じ現象となり、自然かつ高応答な好フィーリングが得られる。この(4)は、本実施形態の内容である。
以上に述べた、実施形態は各種の変形が可能である。例えば、上記においては、ブレーキの制御を用いた例について説明したが、ブレーキに代えて、パワートレーン系に設けたMG装置(ハイブリッドシステムの場合等)による回生制御を用いることができる。また、上記においては、変速機として、有段の自動変速機10を用いた例について説明したが、CVTにも適用することが可能である。また、ブレーキの制御では、目標変速段を設定し、その設定された目標減速度に対してブレーキをフィードバック制御する方法について説明したが、これに代えて、単にブレーキ力をシーケンス制御して所定の勾配で増加させていく方法を用いることもできる。また、上記においては、車両が減速される量を示す減速度として、減速加速度(G)を用いたが、減速トルクをベースに制御を行うことも可能である。
(第2実施形態)
次に、図9−1及び図9−2を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、上記実施形態と共通する部分についての説明を省略し、相違点のみについて説明する。
第2実施形態では、上記第1実施形態における上記所定時間T1及び所定時間T2が学習制御される。以下に動作について説明する。図9−1は、図1と実質的に同じ内容であるため、図9-2を参照して、第2実施形態の特徴部分についてのみ説明する。
[ステップS20]
図9−2のステップS20は、図9−1のステップS13の次に実行される。ステップS20では、制御回路130により、トルク抜けがあったか否かが判定される。自動変速機10の出力軸120cの回転速度の微分値が出力軸トルクに対応した値となるので(図5の出力軸トルク401参照)、この値に基づいて、トルク抜けの有無が判断される。この値が、所定値以上0側に低下していれば、トルク抜け有りと判定される。
ステップS20の判定の結果、トルク抜け有りと判定された場合(ステップS20−N)には、ステップS22に進み、そうでない場合(ステップS20−Y)には、ステップS21に進む。
[ステップS21]
ステップS21では、制御回路130により、入力軸回転速度Nt(図5の符号400)の低下があったか否かが判定される。ステップS21の判定の結果、入力軸回転速度Ntの低下が有りと判定された場合(ステップS21−N)には、ステップS23に進み、そうでない場合(ステップS21−Y)には、本制御フローはリセットされる。
[ステップS22]
ステップS22では、制御回路130により、所定時間T1が増大するように補正される。トルク抜けが有りと判定された場合には、変速ディレイ時間が小さいということであるから、所定時間T1を増大するように補正する。ステップS22の次には、本制御フローはリセットされる。上記ステップS20でトルク抜け有りと判定された場合には、そのサイクルの制御フローでは、所定時間T1の補正のみが行われる(まず、所定時間T1の適正化が行われる)。
[ステップS23]
ステップS23では、制御回路130により、所定時間T2が減少するように補正される。入力軸回転速度Ntの低下が有りと判定された場合には、エンジントルク502の上昇時期が遅いということなので、所定時間T2を減少させる。ステップS22の次には、本制御フローはリセットされる。
第2実施形態によれば、上記第1実施形態の効果が確実に得られる。第2実施形態によれば、所定時間T1及び所定時間T2がリアルタイムで制御可能である。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第2実施形態では、上記実施形態と共通する部分についての説明を省略し、相違点のみについて説明する。
第3実施形態では、上記第2実施形態における上記所定時間T2の学習制御法に代えて、別の方法により、エンジントルク502の上昇時期を適切な時期にするものである。
第3実施形態では、図1のステップS9の内容を”入力軸回転速度Nt(図5の符号400)が低下開始したか、又は、所定時間T2を経過したか”に変更する。この場合の所定時間T2は、上記第1実施形態又は第2実施形態の所定時間T2よりも大きな値に設定し、ガードタイマーとして機能させる。
第3実施形態では、入力軸回転速度Ntの低下の開始を検出して、エンジントルク502を上昇させるので、エンジントルク502の上昇時期が適切なものになる。この第3実施形態を採用した場合には、学習制御するのは所定時間T1のみとなり、上記第2実施形態のステップS20及びステップS22は不要となる。