JP4116841B2 - 靱性および疲労強度に優れた高強度液相拡散接合用鋼 - Google Patents

靱性および疲労強度に優れた高強度液相拡散接合用鋼 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は液相拡散接合を用いた部品または装置などの接合構造体を可能ならしむる鋼材に関し、さらに詳しくは液相拡散接合を一部または全部に適用して製造した強度が600MPa以上の高強度構造体を構成する鋼材に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属材料どうしの工業的な新しい接合技術として液相拡散接合が普及しつつある。液相拡散接合は、接合しようとする材料の接合面すなわち開先間に、拡散律速の等温凝固過程を経て継ぎ手を形成する能力を有する元素、例えばBあるいはPとこれらを開先間に介在させるために基材となるNiないしはFeからなる多元合金を介在させ、継ぎ手を挿入した低融点合金の融点以上の温度に加熱保持し、継ぎ手を形成する技術であって、通常の溶接技術と異なり、溶接残留応力が殆どないこと、あるいは溶接のような余盛りを発生しない平滑かつ精密な継ぎ手を形成できるなどの特徴を有する。
【0003】
特に、面接合であるため、接合面の面積によらず接合時間が一定でかつ比較的短時間で接合が完了する点は、従来溶接と全く異なっている。従って、開先さえ挿入した低融点金属以上の温度に所定の時間保持できれば、開先形状を選ばず、面どうしの接合を実現することができるという特徴を有する。しかし,開先間に介在させる低融点の合金(以降インサートメタルと称する)の融点は、その拡散元素がBまたはPである以上、900℃〜1300℃の温度であり、特にフェライト構造を有する鋼の変態点、Ac1あるいはAc3を超える温度を開先で達成しなければならない。この時、工業的には拡散律速の等温凝固を早く終了させるためには実質的に接合温度が1000℃を超えることとなり、当然鋼材は変態点以上に加熱されることから、通常は接合後に熱処理を駆使して調質し、その材料の特性を発揮させる上でのいわゆる「調質熱処理」を施すと全く同様の熱処理のための「再加熱」という工程が一度加えられることとなる。
【0004】
従って、この後の冷却を加速して、接合温度の上限規制とともに、たとえば特許第2541061号公法に優れた継手特性を得る技術が開示されている。しかし、当該技術には本発明が対象とするような600MPa以上の強度を有する高張力鋼に関する技術の開示はなく、また面接号である液相拡散接合の優位性を発現させるべく、大断面の継手を接合後に加速冷却しても、冷媒の種類によっては目的とする冷却速度を継手の至る所、場合によっては小型部品など、全体を加熱する必要のある場合には必要な冷却速度を得難く、いわゆる「不均一冷却」の状態となり、大きな残留応力を生じるなど問題となっていた。被接合材料の形状、寸法を比較的自由度高く許容できる点が液相拡散接合の特徴であると考える場合、このような加速冷却不均一による材質の不均一あるいは一部目的とする材質の未達成が生じ、現在でも液相拡散接合継手の大きな課題として捉えられている。
【0005】
一方で、材料組織の制御の観点から、接合中の旧γ粒径を制御しようとする技術が特開平6−145915号公報、特開2001−131700号公報に開示されている。しかし、上記の観点からは、低温変態組織を有する高張力鋼に限定した技術を考える場合、旧γ粒径は靱性支配因子としてはさほど重要ではなく、むしろ内部のフェライト組織の単位を小さくすべく、合金元素を最適化して焼入れ性を高めることが重要である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような従来技術の課題、すなわち高張力鋼において接合後に制御冷却を不要ならしむる、液相拡散接合継手部位において焼入れ性に優れ、被接合材料の形状、寸法の影響を受けがたい、液相拡散接合用の鋼材を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明では接合後の制御冷却が無くとも十分な低温変態組織、すなわち材料の必要な部位あるいは全体にわたってベイナイトもしくはマルテンサイト変態を誘起させうる、焼き入れ性の高い材料を、予め継手設計の段階から選択して、液相拡散接合で形成される等温凝固継手部位においても十分に均質な組織を得られる合金組成を提案する。その骨子は以下の通りである。
1) 請求項1の発明は、質量%で、C:0.01〜0.3%,Si:0.01〜0.5%,Mn:0.01〜3.0%,Cr::5.03〜12.0%,Mo:0.2〜2.0%を含有し、更にV:0.01〜1.0%,B:0.0003〜0.01%,Ti:0.01〜0.05 %,N:0.001〜0.01%を含有し、P:0.03%以下,S:0.01%以下,O:0.01%以下に制限し、残部が不可避的不純物及びFeよりなり、下式で表される接合後の液相拡散接合焼き入れ指標HTL値が8以上であり、600MPa 以上の強度を有するとともに継ぎ手の 100 万回の疲労強度限界下限値が 300MPa 以上であることを特徴とする、靱性および疲労強度特性に優れた高強度液相拡散接合用鋼である。
HTL=3.1×(Cr%)+1.2×(Ni%+Co%+Mn%)+2×(Mo%+W%)+0.8×(Nb%+Zr%+V%+Ti%+Ta%+Hf%)+2.7×(C%+N%)+1500×(B%)
【0008】
▲2▼ 請求項2の発明は▲1▼に記載の特徴を有し、更にNi:0.01〜9.0%,Co:0.01〜5.0%,Cu:0.01〜5.0%,W:0.01〜2.0%の1種または2種以上を含有し,残部が不可避的不純物及びFeよりなることを特徴とするものである。
【0009】
▲3▼ 請求項3に記載の発明は、▲1▼または▲2▼に記載の特徴を有し、更にZr:0.001〜0.05%,Nb:0.001〜0.05%,Ta:0.001〜0.2%,Hf:0.001〜0.2%の1種または2種以上を含有し、残部が不可避的不純物及びFeよりなることを特徴とするものである。
【0010】
4)請求項4に記載の発明は1)〜3)の何れかに記載の特徴を有し、なおかつCa:0.0005〜0.005%,Mg:0.0005〜0.005%, Ba:0.0005〜0.005%硫化物形態制御用元素およびY:0.001〜0.05%,Ce:0.001〜0.05%,La:0.001〜0.05%希土類元素の内1種または2種以上を含有し、残部が不可避的不純物及びFeよりなることを特徴とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
最初に、本発明に記載の液相拡散接合用鋼の化学成分を限定した理由について以下に述べる。
Cは鋼の焼き入れ性と強度を制御する最も基本的な元素である。0.01%未満では強度が確保できず、0.3%を超えて添加すると強度は向上するものの、継手に靭性が確保できないことから0.01〜0.3%に限定した。この範囲であれば鋼材の組織制御は接合ままでも可能である。
【0012】
Siは鋼材の脱酸元素であり、通常Mnとともに鋼の酸素濃度を低減する目的で添加される。同時に粒内強化に必要な元素であって、その不足は強度低下を来す。本発明でも同様に、脱酸と粒内強化を主目的として添加し、0.01%以上で効果を発揮し、0.5%を超えて添加した場合には鋼材の脆化を招く場合があることから、その添加範囲を0.01〜0.5%に限定した。
【0013】
MnはSiとともに脱酸にも効用があるが、鋼中にあって材料の焼き入れ性を高め、強度向上に寄与する。その効果は0.01%より発現し、3.0%を超えると粗大なMnO系酸化物を晶出し、かえって靭性を低下させる場合があることからその添加範囲を0.01〜3.0%に限った。
【0014】
Cr、Moは何れも鋼の焼き入れ性を高めて強度靭性を確保するのに重要な元素である。Crはその添加量が:5.03%未満では十分な焼き入れ性を発揮することができない。一方、12.0%を超えるとδフェライトを生成して低温変態組織を生成し難くなり、かえって強度靭性を低下させる場合があるため、その範囲を1.0〜12.0%に限定した。また、Moはその添加量が0.2%未満では十分な焼き入れ性を発揮することができず、2.0%を超えて添加すると、液相拡散接合の拡散原子であるBおよびPと硼化物あるいは燐化物を生成し、継手の靭性を劣化させる場合があることから、その範囲を0.2〜2.0%に限定した。
【0015】
Vは微細な炭化物を析出して材料の強度を高めるが、0.01%未満ではその効果は小さい。一方、1.0%を超えると炭化物が粗大化して靭性低下を来すことから、その上限を1.0%とした。
【0016】
Bは微量で鋼の焼き入れ性を高めるのに極めて効果があるが、その添加量が0.0003%未満では焼き入れ性向上効果は小さい。一方、0.01%を超えて添加すると炭硼化物を形成して、かえって焼き入れ性を低下することになるので、Bの範囲は0.0003〜0.01%に限定した。
【0017】
TiはBよりNと結合する力が強く、Bより優先的にNと結合する。したがって、Tiは焼き入れ性に有効な固溶Bを確保するに重要な元素であるが、0.01%未満ではその効果は小さい。一方、0.05%を超えて添加してもその効果は飽和するのみならず、粗大なTi系炭窒化物が多数析出して靭性を低下させることになる。したがって、Tiは、0.01〜0.05 %に限定する必要がある。
【0018】
NはTiNなどの窒化物を析出して結晶粒を微細化し鋼の靭性を高めるのに有効であるが、0.001%未満ではその効果は小さい。また、0.01%を超えるとNを固定するためのTiを多量添加する必要が生じてコスト高になるので、Nは0.001〜0.01%に限定した。
【0019】
なお、本鋼のような高強度鋼で靭性を高めるには、粒界への不純物濃化は極力これを回避する必要があり、PおよびSは、この目的のためにそれぞれ0.03%以下および0.01%以下に制限した。また、鋼を清浄なものとして高い靭性を確保するためにOは0.01%以下に制限されなければならない。
【0020】
以上の基本的な化学成分の制限に加えて、強度が600MPa以上であり、同時に靱性にも優れ、さらに非調質で疲労耐久性を獲得すべく、以下のような液相拡散接合継手専用の継手焼き入れ指標HTL値が8以上となる必要がある。
HTL=3.1×(Cr%)+1.2×(Ni%+Co%+Mn%)+2×(Mo%+W%)+0.8×(Nb%+Zr%+V%+Ti%+Ta%+Hf%)+2.7×(C%+N%)+1500×(B%)
【0021】
本式の係数、結合方式を決定するにあたっては、以下の実験および解析を実施した。
実験室規模真空溶解、あるいは実機鋼板製造設備において、100kg, 300kg, 2ton, 10ton, 100ton, 300tonの真空溶解、あるいは通常の高炉−転炉−炉外精錬−脱ガス/微量元素添加−連続鋳造−熱間圧延によって製造した、請求項1〜4に記載の化学成分範囲鋼材を、圧延方向と平行な方向から10mmΦあるいは20mm角で長さ50mmの簡易小型試験片に加工し、その端面をRmax<100μmに研削加工して脱脂洗浄し、その端面を2つ突き合わせて接合試験片対となし、150kWの出力を有する高周波誘導加熱装置を備えた引っ張り/圧縮試験機を用い、接合面間には液相拡散接合を1000〜1300℃において実現可能なNi基−B系、Fe基−B系、Ni基−P系、Fe基−P系およびNi基あるいはFe基にPとBを含有する、実質的に体積分率で50%以上が非晶質である厚み20〜50μmのアモルファス箔を介在させ、必要な接合温度まで試験片全体を加熱し、1分から60分の間、2〜20MPaの応力下で液相拡散接合し、接合後放冷した。冷却速度は設備と試験片形状によって変化し、0.01℃/sから10℃/sまで変化した。
【0022】
この時得られた丸棒接合試験からは平行部直径6mmΦの丸棒引張り試験片を採取し、角棒接合試験片からは10mm角のJIS4号衝撃試験片を採取した。接合部は丸棒試験片では平行部中央に、引張り方向と垂直に位置しており、シャルピー試験片では接合部中央に2mmVノッチの切り欠きが位置するように試験片を採取してある。材料の引張り強さと、上述のHTL値の関係を図1に示した。HTL値が8以上でないと引張り強さは600MPaを超えない。なお、この場合の破断位置はHTL値が8以上では全て母材、8未満では全て接合部であった。また、シャルピー試験の結果得られた継手の吸収エネルギーとHTL値の関係を図2に示した。靱性を良好(0℃において47以上)に保つためには全く同様にHTL値を8以上とする必要があることは明らかである。
【0023】
以上の実験結果によって、HTL値は液相拡散接合継手の強度と靱性を同時に評価することが可能なパラメータであり、かつ材料設計に必要な化学成分パラメータを含んでいて、本発明の中核をなし、この式によって本発明の鋼材の範囲を定義できることが研究の結果明らかとなった。そこでHTL式を用いて、請求項1〜4に記載の化学成分を含有し、かつ十分な継手特性を有する液相拡散接合による構造体および部品などの設計がはじめて可能となった。
【0024】
なお、本発明では請求項1に記載の鋼であれば、請求項2〜4に記載の通り、Ni:0.01〜9.0%,Co:0.01〜5.0%,Cu:0.01〜5.0%,W:0.01〜2.0%の1種または2種以上、またはZr:0.001〜0.05%,Nb:0.001〜0.05%,Ta:0.001〜0.2%,Hf:0.001〜0.2%の1種または2種以上、あるいはさらにCa:0.0005〜0.005%,Mg:0.0005〜0.005%, Ba:0.0005〜0.005%硫化物形態制御用元素およびY:0.001〜0.05%,Ce:0.001〜0.05%,La:0.001〜0.05%希土類元素の内1種または2種以上を含有することが可能である。
【0025】
これらの合金成分は以下の理由から添加範囲を制限してある。
Ni、Co、Cuはいずれもγ安定化元素であって、鋼材の変態点を下げて低温変態を促すことで焼き入れ性を向上させる元素である。HTL値を向上するためには有用な元素であり、それぞれ0.01%以上の添加で効果が得られ、Niでは9.0%を、CoとCuでは5.0%を超えて添加すると残留γが増加して鋼材の靱性に影響を及ぼすことから、その添加範囲をNiでは0.01〜9.0%、CoとCuについては0.01〜5.0%に限定した。
【0026】
Cr、Mo、Wは何れもα安定化元素であるが、Crは同時に耐食性の向上に有用である。何れも0.01%添加で効果が認められ、Crは12%を超えるとδフェライトを生成して低温変態組織を生成し難くなり、かえって強度靱性を低下させる場合があるため、その上限を12.0%に制限した。MoとWは著しい固溶強化を発揮するが、何れも2%を超えて添加すると、液相拡散接合の拡散原子であるBおよびPと硼化物あるいは燐化物を生成し、継手の靱性を劣化させる場合があることから、その添加上限を2.0%に制限した。
【0027】
Zr、Nb、Ta、Hfは炭化物として微細に析出し、材料の強度を高める。何れも0.001%の添加で効果があり、Zr、Nbは0.05%で、またTaとHfは0.2%の添加で炭化物が粗大化して靱性低下を来すことから、その上限を決定した。
【0028】
加えて、Ca、Mg、Ba等の硫化物形態制御元素およびY、Ce、La、等の希土類元素は全て鋼中の不純物であるSとの親和力が高く、鋼材の靱性に影響するMnSの生成を抑制する効果がある。従って、これらが有効となる濃度、すなわちCa、Mg、Ba は0.0005%、Y、Ce、Laは原子量が大きいことから0.001%の添加が必要であって、Ca、Mg、Ba は0.005%以上の添加で粗大酸化物となって靱性を低下させる事、Y、Ce、Laでは0.05%の添加で同様に粗大酸化物が生成することから、その上限を決定した。
【0029】
各群の1種または2種以上は適宜組み合わせて複合添加しても、また各元素を単独で添加しても良く、本発明の効果を妨げることなく、鋼材に各種特性を付与する。ただし、請求項2および3に記載の各成分はHTL値に組み込まれており、その必要量の範囲で同時に鋼材の継手特性向上にも貢献する。
【0030】
なお、本発明鋼の製造工程は通常の高炉−転炉による銑鋼一貫プロセスを適用するだけでなく、冷鉄源を使用した電炉製法、転炉製法も適用でき、さらに連続鋳造工程を経ない場合でも通常の鋳造、鍛造工程を経て製造する事も可能であり、請求項に記載の化学成分範囲と式の制限を満足していれば良く、本発明技術に対する製造方法の拡大適用が可能である。また、製造した鋼材の形状は全く自由であって、適用する部材の形状に必要な成型技術を適用できる。すなわち、鋼板、鋼管、棒鋼、線材、形鋼など本発明技術の効果を広範囲に適用することが可能である。また、本鋼は溶接性にも優れており、液相拡散接合に適していることから液相拡散接合継手を含む構造体であれば、一部に溶接を適用して、あるいは併用した構造体の製造は可能であり、本発明の効果を何ら妨げるものではない。
【0031】
【実施例】
実験室規模真空溶解、あるいは実機鋼板製造設備において、100kg〜300tonの真空溶解、あるいは通常の高炉−転炉−炉外精錬−脱ガス/微量元素添加−連続鋳造−熱間圧延によって製造した、請求項1〜4に記載の化学成分範囲鋼材を、圧延方向と平行な方向から10mmΦあるいは12mm角で長さ50mmの簡易小型試験片に加工し、その端面をRmax<100μmに研削加工して脱脂洗浄し、その端面を2つ突き合わせて接合試験片対となし、150kWの出力を有する高周波誘導加熱装置を備えた引っ張り/圧縮試験機を用い、接合面間には液相拡散接合を1000〜1300℃において実現可能なNi基−B系、Fe基−B系、Ni基−P系、Fe基−P系およびNi基あるいはFe基にPとBを含有する、実質的に体積分率で50%以上が非晶質である厚み20〜50μmのアモルファス箔を介在させ、必要な接合温度まで試験片全体を加熱し、1分から60分の間、2〜20MPaの応力下で液相拡散接合し、接合後放冷した。
【0032】
この時得られた丸棒接合試験からは平行部直径6mmΦの丸棒引張り試験片を採取し、角棒接合試験片からは10mm角のJIS4号衝撃試験片を採取した。接合部は丸棒試験片では平行部中央に、引張り方向と垂直に位置しており、シャルピー試験片では接合部中央に2mmVノッチの切り欠きが位置するように試験片を採取した。
【0033】
表1〜4には上記の方法で製造した本発明鋼の化学成分とHTL値、および室温における引張り強さ(MPa)、さらには0℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーの値(J)、加えて接合面と垂直な方向への引張り疲労(0〜800MPa)試験を実施し、100万回の疲労限度を応力の値(MPa)で示した。なお、表2の左端は表1の右端に接続されるものであり、以下同等である。HTLで示した液相拡散接合用鋼の継手焼入れ性指標が8以上で高い場合には常に強度が600MPa以上であり、かつ0℃における衝撃値も47Jを超えて十分に高い。加えて疲労限度も常に300MPaを超えており、工業的な用途に信頼性高く適用することが可能であることを示している。
【0034】
【表1】
Figure 0004116841
【0035】
【表2】
Figure 0004116841
【0036】
【表3】
Figure 0004116841
【0037】
【表4】
Figure 0004116841
【0038】
表5〜6には本発明技術を適用しない従来技術のみから製造した鋼材の評価結果を示した。第60番鋼はCおよびCrが不足し、HTL値が8未満となった結果、強度と靱性が低下した例、第61番鋼はMnが過多となり、強度は十分に高かったが、靱性が低下した例、第62番鋼はMoが不足し、HTLが8未満となり、強度、靱性ともに低下した例、第63番鋼はVが過多であり、V系炭化物が多数粗大に析出して靱性が低下した例、第64、65番鋼はTiが不足してBが有効活用できず、強度が不足した例、およびTiが過多となり粗大Ti系単窒化物が多数析出して靱性が低下した例、第66、67番鋼はBが不足あるいは過多となり、前者では強度が低下し、後者では粗大硼化物の生成により靱性が不足した例、第68番鋼はNが過多となり、多数の粗大窒化物が生成して靱性が低下した例、第69、70番鋼はそれぞれ、成分範囲こそ本発明の範囲にあるが、HTL値が8未満となって強度、靱性ともに低下した例である。
【0039】
なお、疲労限界応力については、強度との相関が強く、いずれも目標強度が600MPa未満の場合は200MPa以下の低い値しか得られず、疲労耐久性は低いことが判明した。
【0040】
【表5】
Figure 0004116841
【0041】
【表6】
Figure 0004116841
【0042】
【発明の効果】
本発明は液相拡散接合を用いて継手を形成し、構造体を製造する際に、構造体に高い強度、靱性、さらには疲労強度を求められる場合に好適な液相拡散接合用鋼を提供するものであり、液相拡散接合の技術適用および難接合材の組立、さらには省工程による安価な部品の製造など、液相拡散接合の適用によって達成されうる構造体の機能向上に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 HTL値と液相拡散接合継手の室温における引張り強さの関係を示す図である。
【図2】 HTL値と液相拡散接合継手部の靱性の関係を示す図である。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.3%,Si:0.01〜0.5%,Mn:0.01〜3.0%,Cr:5.03〜12.0%,Mo:0.2〜2.0%を含有し、更にV:0.01〜1.0%,B:0.0003〜0.01%,Ti:0.01〜0.05 %,N:0.001〜0.01%を含有し、P:0.03%以下,S:0.01%以下,O:0.01%以下に制限し、残部が不可避的不純物及びFeよりなり、下式で表される接合後の液相拡散接合焼き入れ指標HTL値が8以上であり、 600MPa 以上の強度を有するとともに継ぎ手の 100 万回の疲労強度限界下限値が 300MPa 以上であることを特徴とする、靱性および疲労強度特性に優れた高強度液相拡散接合用鋼。
    HTL=3.1×(Cr%)+1.2×(Ni%+Co%+Mn%)+2×(Mo%+W%)+0.8×(Nb%+Zr%+V%+Ti%+Ta%+Hf%)+2.7×(C%+N%)+1500×(B%)
  2. 請求項1に記載の鋼であって、更にNi:0.01〜9.0%,Co:0.01〜5.0%,Cu:0.01〜5.0%,W:0.01〜2.0%の1種または2種以上を含有し,残部が不可避的不純物及びFeよりなることを特徴とする液相拡散接合用鋼。
  3. 請求項1または2に記載の鋼であって、更にZr:0.001〜0.05%,Nb:0.001〜0.05%,Ta:0.001〜0.2%,Hf:0.001〜0.2%の1種または2種以上を含有し、残部が不可避的不純物及びFeよりなることを特徴とする液相拡散接合用鋼。
  4. 請求項1〜3の何れかに記載の鋼であって、なおかつCa:0.0005〜0.005%,Mg:0.0005〜0.005%, Ba:0.0005〜0.005%硫化物形態制御用元素およびY:0.001〜0.05%,Ce:0.001〜0.05%,La:0.001〜0.05%希土類元素の内1種または2種以上を含有し、残部が不可避的不純物及びFeよりなることを特徴とする液相拡散接合用鋼。
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