JP4116240B2 - 酸素の選択的吸着のための分子間結合された遷移元素錯体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガス状混合物からガス、例えば酸素又は一酸化炭素を分離するのに使用される吸着剤に関する。更に詳しくは、本発明は、遷移元素錯体(TEC)を酸素の選択的吸着剤として使用することに関する。以下の説明はTECを酸素の吸着に使用することに主として係わるが、本発明の錯体はその他のガスの化学的吸着並びに不均質触媒作用についても使用することができる。
【0002】
【従来の技術】
律速又は平衡選択的吸着剤の使用による空気の分離及び濃縮が長い間実施されてきた。イオン交換ゼオライトに代表されるように窒素選択的吸着剤は、平衡で窒素選択性であり、圧力変動吸着(PSA)法で使用されてきた。同様に、炭素モレキュラーシーブ(CMS)がPSA法による空気分離に使用され、酸素についての律速選択性に頼っている。平衡で酸素選択性である吸着剤は、多くの用途にとって好ましい。何故ならば、PSA法のためのサイクル時間が律速選択的吸着剤に典型的に要求されるほどには拘束されないからである。酸素選択性を示すシアノコバルト酸塩が、例えば、米国特許第5,126,466号、同5,028,335号、同5,141,725号、同5,239,090号及び同5,294,418号に記載された。
【0003】
固体状配位錯体における遷移元素中心が酸素と可逆的な相互作用を受けることがずっと知られてきた。ジョーンズ他、“生物系と関連する合成酸素キャリアー”Chem.Rev.79,139(1979);ニーダーホッファー他、“天然及び合成二酸素錯体における酸素結合の熱力学”Chem.Rev.84,137(1984);バイルズ及びカルビン、“酸素を含有する合成化合物 VIII.製造”J.Amer.Chem.69,1886(1947);アダッチ、“金属キレートに基づく航空機用O2システムの場合”Chemtech.575(1976)。遷移元素錯体(TEC)は、酸素−酸素結合を破壊させることなく周囲温度以下で可逆的に反応することが知られた一群の物質である。TECを使用して酸素をその他のガスとの混合物から選択的に除去することが、TECの溶液、固体状のTEC又はこの固体のスラリー、固体担体に担持され又は結合されたTEC、並びにゼオライトに組み入れられたTEC及び物理的担体に化学結合されたTECについて開示された。離散TEC単位に基づく固体状酸素選択的吸着剤の例は、Co(サレン)、フルオミン、そしていわゆる“ピケットフェンスポルフィリン”の鉄(II)及びコバルト(II)錯体がある。コールマン、“酸素結合性ヘモ蛋白質の合成モデル”Acc.Chem.Res.10,265(1977)。
【0004】
しかし、TECを使用するための斯界で知られた方法のそれぞれが以下の問題点:(1)不十分な酸素容量、(2)遅い反応速度、(3)時間と共に反応性の低下及び(4)2:1の金属イオン:酸素の結合比(μ−ペルオキソ)の一つ以上により悩まされた。これらの問題点のために、これらのTEC系のどれも空気分離又はガス流れからの酸素の除去の用途に商業的に満足できる具体例でまだ使用されていなかった。
【0005】
特に溶液状で四座配位子を有するTECの可逆的酸素化を記載する多数の文献報告が存在する。これらの物質は、ピリジンのような外来塩基(例えば、電子供与により金属中心に配位できる部位を持つ分子又はイオンを別個の成分として添加)を要求する。外来塩基の使用は、スパーオキソ結語のために要求される五座配位デオキシTEC部位を与えるために四座配位子に基づくTECにとって必要である。
【0006】
一群のTECが“保護された”TECと称されている。これらは、μ−ペルオキソ結合を立体的に阻害するため及び酸素相互作用部位として働くTECの一面に永久的な空隙を与えるため“キャップ”、“ピケットフェンス”及び“ブリッジ”と称される配位子超構造を使用する。このような配位子系の例には、ポルフィリン、シクリデン及びシッフ塩基が包含される。不幸にして、これらの超構造体化した配位子に基づくTECを作るのに要求される合成工程の数、複雑さ及び収率は、多くの用途にとって禁止的に高いコストを生じさせる。更に、超構造体化されたTECに固有の高い分子量は、達成可能な酸素負荷量及び貯蔵を制限させる。最後に、既知の担持されていない形態の保護されたTECについては結晶内拡散のために酸素相互作用速度は遅い。
【0007】
最近の報告は、比較的容易に製造でき且つ比較的低い分子量を有する、溶液状でμ−ペルオキソ二量体の形成を禁止できる置換基を含有する四座配位子を有するTECを開示している。これらの系における置換基は、典型的に一点で結合されている。これらの物質は、五配位デオキシTEC部位を与えるために外来ドナーを要求し、商業的な用途にとって固相で十分な酸素の吸収を示さない。フリーセンの米国特許第5,226,283号は、再生可能な酸素吸着剤として作用し、四座構造を有するメタロシッフ塩基錯体を開示している。これらの化合物は、二量体の形成に明確に抵抗する。しかし、それらは、構造的多様性を欠いている。ロマンの米国特許第4,451,270号は、溶媒、“アキシャル塩基”及び酸素キャリアーを使用する酸素及び窒素精製法を開示している。このキャリアーは五座金属化合物であることができる。しかし、固体状態での酸素の吸収は記載も予期もされていない。
【0008】
希薄溶液状で五座配位子を有するTECの可逆的な酸素化も知られている。このような開示は、μ−ペルオキソ二量体の形成を禁止する置換基を有し、配位子構造及びドナーが分子間的である例を含む。固体状のTECは、希薄溶液状でのものよりもいくつかの利点を提供する。溶液状のTECは、商業的な開発を妨げた問題点、例えば溶解度、溶媒の損失、粘度及びTECの可使寿命を有する。今日まで、既知の物質のどれも、固体状態で酸素と可逆的に反応することは見出されなかった。
【0009】
ヤギの米国特許第5,648,508号及び多くのその他の文献は、金属と、シアノ、ピリジル及びカルボキシレート官能基を含有する単純配位子とを使用して結晶質又は微結晶質多孔質物質を製造する方法を開示している。しかし、この従来技術は、基質との相互作用のために少なくとも1個の空いた配位位置を有する金属中心を有する物質を製造する方法を教示していない。更に、この特許に教示された単純な官能基、例えばカルボキシレートは、化学的収着(可逆的な酸素化)及び触媒反応に要求される適切な化学ポテンシャルでもって金属中心(例えば、コバルト中心)を生じさせることができない。
【0010】
また、分子間供与をすることができる部位を組み入れれた離散分子状TECに基づく配位重合体の製造も記載された。しかし、今日まで、これの例のどれも、固体状態で酸素と可逆的に反応することは見出されなかった。
【0011】
いくつかの固体状態のTECにおける遷移元素中心が酸素との可逆的相互作用を受ける能力が知られており、離散分子状TECから誘導される酸素選択性部位を分散又は分配させるために担体を使用して酸素選択的吸着剤を形成させることが記載された。不幸にして、TECが担体上に又はその中に、重合体内に、又は重合体の一体部分として分散されている報告された例は、実用するには不十分な酸素選択性部位を含有する。一例として、バソロ他(“イミダゾール結合鉄テトラフェニルポルフィリンにより変性されたシリカゲルへの酸素の可逆的吸着”、J.Amer.Chem.Soc.1975,97,5125−51)は、鉄ポルフィリンをシリカゲル担体にアキシャルドナーにより結合させるための方法を開発した。これらは溶液系と比べて相当な安定性の向上を証明したが、報告されたTEC含有量は0.1モル/kg以下であった。
【0012】
ヘンドリックスは、“遷移貴金属錯体によるガスの分離”レポートNo.NSF/ISI87101(1987年8月21日)において、周辺の配位子部位を使用する分子間供与によりTECに基づく酸素選択的吸着剤を製造する試みを開示した。しかし、試験された物質は“酸素を迅速且つ有効に吸着せず”、これは明かに不都合な分子の充填のためであったことが結論された。
【0013】
平衡で酸素選択性を有する物質の別の系列は、ペンタシアノコバルト酸リチウム溶媒和物のようなシアノコバルト酸塩物質を包含する。ランプラサド他の米国特許第5,126,466号は、固体状態のシアノコバルト酸塩酸素選択的吸着剤を開示している。しかし、第一配位子がシアン化物であって、これは健康上の問題を提起させるのみならず構造的多様性のない生成物を生じさせる。更に、これらの物質を利用するガス分離法が開示されたが、組成の範囲が限定され、等温線の形状を調節することにより性能を最適化する能力は制限される。
【0014】
本発明の所有者に譲渡された継続中の米国特許出願第08/784,175号(この開示をここに含めるものとする)は、多孔性を発生させるために分子間配位を利用する酸素選択的吸着剤組成物を開示する。この発明は、4個までの分子内ドナー配位子を遷移元素イオンに配位させてなるTECであって、その配位子が第二の離散TECに含有された第二遷移元素イオンに分子間結合するための五番目のドナー部位を与えるものを含む。これらの組成物は、ガスの分離に好適である高い酸素負荷量及び酸素半飽和圧力を示す。ここに記載された例においては、この構造体は、5個のドナー:即ち、第一金属中心に分子内配位させるための4個のドナー及び第二の離散TEC構造体の金属と分子間配位させるための1個のドナーを含有する。この分子間配位から生じる多孔性は、従来技術のシアノコバルト酸塩物質と比べて、改善された酸素吸着特性を提供する。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、酸素を可逆的に結合させ、合成するのがが容易であり且つ優れた多孔性を有する更なるTECをベースとした酸素選択的吸着剤を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
発明の概要
本発明は、ガス混合物のある成分を選択的に吸着するための方法及び組成物である。この方法は、ガス混合物を次式:
【化5】
Figure 0004116240
を有する同一でも異なっていてもよい1個以上の遷移元素錯体(TEC)を含む多孔質骨格構造よりなる固体状選択的吸着剤物質と接触させることからなる:
{上記の式で、
(a)Mは第一遷移金属イオンであり、
(b)D〜D4は第一ドナーであり、mは0又は1であり、D〜D4の少なくとも3個は、M上の第一ドナー配位部位を占有するが、該成分がMと反応するためにM上に少なくとも1個の空いた配位部位を残すようにし、
(c)G〜G4は官能基であり、nは0又は1であり、G〜G4の少なくとも1個は少なくとも3個の隣接第一ドナーと分子内結合して第一遷移金属イオン上に結合された少なくとも1個の5又は6員のキレート環を形成し且つそれに少なくとも3個のドナーを与えるものとし、
(d)M、D〜D4及びG〜G4は一緒になって1個以上の遷移金属錯体を画定し、ここに該錯体は同一でも異なっていてもよく、kは0〜4であり、
(e)Rは
(i)それぞれのTEC上で基G〜G4の1個以上に結合した第二ドナーと配位した第二金属イオン、
(ii)それぞれのTEC上で基G〜G4の1個以上と共有結合を形成する多官能有機基、
(iii)それぞれのTEC上で基G〜G4の1個以上と水素結合を形成する官能基、又は
(iv)それぞれのTECを離間させてそれらを分離する非配位性対イオン
から選択される分子間連結基であり、R基はそれぞれのTECを互いに結合させ及び(又は)離間させてそれらを多孔質骨格構造内に保持するものとし、zは1〜8であり、zが1よりも大きいときはRは同一でも異なっていてもよく、
(f)yは所望の成分を選択的に吸着させるために複数のTECの多孔質骨格構造を与えるのに十分な整数である}。
【0017】
上で示したように、本発明の吸着剤物質に組み入れられたTECは、遷移金属イオン(M)及び1個以上の配位子(ドナーD〜D4及びこれらに結合した基G〜G4からなる)を組み入れ、それによって与えられた活性中心をその上に吸着させようとするゲスト分子、例えば酸素と相互作用させるため遷移金属上に少なくとも1個の空いた配位部位を提供する。遷移金属中心は、本発明に従って利用される吸着剤物質を特徴づける第一の特色である。
図1に特に例示するのは3個のTEC単位を含む錯体である。しかし、ここに示すように、kは0〜4であるので、その錯体内には2〜6個のTEC単位が存在し得る。
【0018】
本発明を特徴づける第二の特色によれば、それぞれのTEC単位における遷移金属イオンは、それぞれの遷移金属中心M上の配位部位を占有する少なくとも3個の第一ドナーD〜D4と配位する。官能基G〜G4はドナーと共に配位子を形成し、G〜G4の少なくとも1個が中心上で5又は6員のキレート環を形成する。ドナーと遷移金属中心との間の第一配位は、金属イオンの性質(その配位の形状及び逐次平衡定数)並びに配位子の構造及び性質によって制御される。これらの物質の選定が化学的性質、例えば酸化還元ポテンシャル及び平衡並びに空いた配位部位の形状を制御し、本発明の物質の改善された吸着特性を与える。
【0019】
本発明の遷移金属錯体を特徴づける第三の特色は、結合又は分離性の部分(R)によりそれぞれのTECを多孔質骨格構造に組み立てることを伴い、このRが、多数のTECを第二金属イオン(M’)との配位結合により結合させる(図3を参照されたい)か、それぞれのTECを周辺の配位子部位に共有結合させるか、TEC種を水素結合により配向させるか、又はTECを非配位性イオンにより分離させるかのいずれかにより安定で多孔質の配位骨格構造を作り出す。それぞれのTECの数及び配向に応じて、3Å以上の細孔寸法を有する二次元骨格構造又は三次元骨格構造が提供できる。本発明に従って安定な多孔質骨格構造を提供することは、吸着剤物質を構成する多数のTEC内の空いた配位部位に酸素又はその他の吸着質を接近させるのを確実にさせる。
【0020】
本発明の物質の多孔質TEC骨格構造の提供は、改善された吸着剤、例えば、高い酸素容量、早い速度及び構造的多様性を有する酸素選択的吸着剤の形成を容易にさせる。このような物質は、高い含有量のガス成分結合性部位を有し、反応平衡や速度のような性能特性を最適化させるために容易に変性できる配位子を使用することができる。更に、本発明の物質の提供は、比較的簡便で安価なTEC構造体、例えばCo(サレン)、CO(マレン)及びそれらの誘導体を有利な化学的収着及び(又は)接触法に使用するのを容易にさせる。
【0021】
本発明の好ましい具体例は、五配位部位、例えばCo(II)、Fe(II)又Mn(II)を画定し且つ酸素又はその他の吸収質分子と相互作用させるための1個の空いた配位位置を残させる遷移金属が提供される、以下で検討する図2及び3に示されるものである。このようなTECは、望ましくは、図3に概略的に例示するように及び以下に検討するように、第二ドナーD’及び第二金属イオンM’による第二の配位によって多孔質骨格構造に組み立てられる。本発明の吸着剤物質においては、このような六配位第一金属中心を組み入れるTEC及びTECの間を結合させる第二の配位を利用することが好ましい。何故ならば、このことは固有の多孔性のために潜在的な吸着質に接近しやすい活性な金属中心が作られるのを確実にさせるからである。
【0022】
本発明のその他の目的、特色及び利点は、以下の好ましい具体例の説明及び添付の図面から当業者には明かとなろう。
【0023】
【発明の実施の形態】
発明の具体的な説明
本発明の遷移元素錯体は、図1において概略的に表わされる。基Rが空間配置において離散TEC単位を分子間結合させてTEC骨格構造を形成させることが意図される。基Rは、第二の配位か、共有結合か、水素結合か又は非配位性対イオンの使用による静電的相互作用によって種々のTECの骨格構造を作り出す。図1に見られるように、分離したTEC単位A、B及びCの分子間接続がそれらの間に細孔を作り出す。これらの細孔は、酸素又は一酸化炭素のようなガス分子を遷移元素イオンMに接近させて、それらを吸着させる。TEC対Rの比は6:1〜1:8の範囲内であってよい。
【0024】
R基は、必ずしも図1に概略的に例示した位置ではなくて、ドナーD〜D4及び官能基G〜G4により形成される配位子内の任意の点で種々のTECと配位し、結合し又はそれらを分離し得ることを理解されたい。更に、分子間接続は、それぞれの直交軸に沿って二次元又は三次元骨格構造を与えるようにTECのうちの任意の2個又は3個全部の間にあることができる。
【0025】
5個の第一ドナーD〜D4(及び所望の吸着質を結合させるための1個の配位部位)を上に有する五配位遷移金属Mを組み入れる好ましいTEC単位の構造を図2に概略的に例示する。ドナーD〜D4は、遷移金属Mに結合して第一配位基礎構造を形成させる。官能基G〜G4が次にこれらのドナーに結合する。キレート環を形成してまた基Rと相互作用して分子間構造を形成させるのがこれらの官能基である。
【0026】
本発明の遷移金属錯体骨格構造の好ましい具体例を図3に概略的に表わす。この図において、離散TEC単位は、第二の配位により互いに分子間結合される。TECのいくつか又は全ては同一であっても異なっていてもよいことを理解されたい。基Rは、上で検討したように、中心の第二配位用金属M’に結合された第二ドナーD’により第二の配位を容易にさせる。これらの第二ドナーはTEC単位のキレート環と相互作用するが、このキレート環は第一ドナーD〜D4と官能基G〜G4の分子内結合により形成される。
【0027】
A.吸着剤物質の組成
上で示したように、本発明の物質は三つの本質的な特色:
(1)酸素のようなゲスト分子に接近できる少なくとも1個の空いた配位部位を有する活性な遷移金属イオン中心、
(2)周辺の官能基(G〜G4)を結合させた第一ドナー(D〜D4)を組み入れる1個以上の配位子であって、この配位子の少なくとも1個が第一遷移金属中心(M)に少なくとも3個の第一ドナーを提供するもの、及び
(3)それぞれの遷移金属イオン及びドナー含有配位子によって互いに画定されるTECを結合し及び(又は)分離させる部分(R)
を有する。これらのそれぞれの要素の組成物を以下に説明する。
【0028】
(1)第一遷移金属イオン(M)
第一遷移金属部位は、本発明の遷移金属錯体物質の活性中心である。遷移金属が適当な第一ドナーと結合すると、第一金属は化学的収着又は触媒反応を達成するのに要求される性質を有する。吸着及び触媒作用を含めて更に一般的な用途のためには、好適な金属中心は、周期律表の第一、第二及び第三行の遷移金属並びにランタニドを包含し、Sc(III)、Ti(III)、Ti(IV)、Ti(VI)、V(II)、V(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Fe(II)、Fe(III)、Co(I)、Co(II)、Co(III)、Ni(I)、Ni(II)、Cu(I)、Cu(II)、Zn(II)、Y(III)、Zr(IV)、Nb(IV)、Nb(V)、Mo(III)、Tc(V)、Ru(III)、Pd(II)、Ag(I)、Cd(II)、Pt(II)、Hg(I)、Hg(II)が含まれるが、これらに限定されない。ここで有用な遷移金属の例は、1種よりも多い遷移金属イオンが係わる触媒及び吸着の用途、例えば、等温線の形状を変化させる経路として、異なった触媒方法の促進又は多数の基質が存在する触媒作用を意図したものを包含する。例えば、Co(II)活性部位とCu(I)活性部位の双方を含有する組成物を本発明の物質に利用することができる。圧力又は温度の変化に応じた可逆的な酸化のためには、好ましい遷移金属部位は、Fe(II)、Co(II)、Cu(I)、Mn(II)、Ru(II)、RuIII)及びRh(II)を包含する。一酸化炭素の可逆的な結合のためには、典型的な金属中心はCu(I)である。
上記したように、五配位遷移金属イオン、例えば、Co(II)、Fe(II)及びMn(II)は、ガス混合物からの酸素の固体吸着剤として使用するときには、本発明の物質に組み入れられるTECの第一活性中心として利用される。これらの遷移金属は、特に適切な化学的性質、例えば化学的収着及び(又は)化学反応のための酸化還元ポテンシャルを有する。このような目的のために第一遷移金属中心としてコバルト(II)を使用することが特に好ましい。
【0029】
(2)第一ドナー(D〜D 4 )及び配位子形成基(G〜G 4
図2に例示するように、第一ドナーD〜D4は、遷移金属中心Mと配位し、基G〜G4に結合して、それぞれのTECの遷移金属中心と配位した有機配位子を与える。ドナーD〜D4の少なくとも3個を組み入れる配位子の少なくとも1個が同じ遷移金属中心Mに配位して5又は6員のキレート環を形成する。D又はG基の少なくとも3個が連結して三座配位子を形成することができ、又は図3に示すように、2個のG基が連結して二座配位子を形成することができる。多座配位子は、化学的性質並びに第一金属中心に対する酸素の会合のための配位位置を制御し、しかしてその上での接近な活性部位を確実にさせる。
【0030】
第一ドナー原子D〜D4は、N、O、S、C、P、Cl、F及びBrであり、中性(例えば、ピリジン中のN原子)又は荷電していてよい(即ち、RO-におけるO)。ドナーは、官能基G〜G4に組み入れられてTECと会合した配位子を与えることができる。そのように利用できる官能基は、ピリジル又はイミダゾリルのような複素環式基、−R123N−のようなアミノ基、−R1N=CR23又は−N=CR12のようなイミノ基、−R1C(O)R2、−R1CONR23及び−R1CO22のようなカルボニル含有基、−R1−CNのようなアシル基、−R1−NO2のようなニトロ基、ハロゲン及びR1を含めて5個ほどに多い置換基を持つフェノラート、R1CO2−のようなカルボキシレート、R1O−のようなアルコキシ基を包含する。これらの官能基において、R1、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、置換若しくは非置換の非環式若しくは炭素環式基であることができ、又はF、Cl、Br、O、N、P、S、Si若しくはBにより置換される。
【0031】
第一ドナーD〜D4及び周辺の官能基G〜G4から構成される配位子の1個以上がμ−ペルオキソ二量体形成を阻害させ且つTEC上に空いた酸素相互作用性部位を確実にさせる置換基を提供できる。また、配位子のいくつか又は全部は、それぞれのTECを結合又は分離させてそれの多孔質骨格構造を確立させ且つ活性部位として働く第一金属中心への通路及び接近を与えるために分子間連結基Rを組み入れ又はこれと会合させるべきである。
【0032】
(3)分子間連結基(R)
本発明の第三の特色によれば、TECを連結させ且つそれらの周囲に細孔を作り出させるために基Rを介する第二の相互作用が使用される。溶液状で、ゲスト分子は、この分子が移動性であるので、TEC内の金属中心に容易に接近することができる。しかし、固体状態ではそうではなく、金属中心への接近性が性能に対する鍵である。固相での分子は、密に充填して分子の間のファンデルワールス相互作用を増大させる傾向がある。その結果、大抵のTEC固体は密であり、ゲスト分子は固体に入って金属中心と相互作用することができない。
本発明は、多孔質物質を作り出すためにTEC種の間で第二の相互作用を利用する。これらの第二の相互作用は、TEC分子の周囲に空間を作り出してゲスト分子が固相に入ってそれらを金属中心と相互作用させるための通路を与える。それに従って、TECは、第二金属イオンとの配位結合、有機断片との共有結合、水素結合又はこれらの組合せによって架橋することができる。或いは、TECの周囲の空間は非配位性イオン又は有機分子によって作ることができる。
【0033】
(i)第二金属(M’)及び第二ドナー(D’)を介する第二の配位
図3に示すように、本発明の好ましい形の一例では、第二金属イオンM’が、それぞれのTEC上で第一ドナーD〜D4と会合した周辺の官能基G〜G4に第二ドナーD’を配位させるのに使用される。第二金属イオンの役割は、活性中心Mの周囲に細孔を提供することである。従って、第二金属の選定は、その配位数及び配位形状を含めて金属の配位特性に基づいている。第二金属は、周期律表からの任意の金属イオン(例えば、遷移金属イオン)であることができる。特定の例は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期律表の第一、第二及び第三遷移系列並びにランタニドにより提供される。特定の例には、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、B3+、Al3+、Ga3+、In3+、Tl3+、Sn2+、Sn4+、Pb2+、Sb4+、Sc3+、Ti3+、V3+、Cr3+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Y3+、Zrn+、Nbn+、Mon+、Tcn+、Ru3+、Rhn+、Pd2+、Ag+、Cd2+、ランタニド(Lnn+)、Pt2+、Au3+及びHg2+が包含される。特定の第二金属M’の選定は、大きさ、配位状態の好み及びコストに基づいている。第二金属陽イオンの大きさは系の多孔性の制御をすることによって酸素選択的収着剤の性能を調節するための重要なパラメーターである。
【0034】
第二ドナーD’が多孔性を作り出すため第二金属と共に使用される。D’は、単一のドナー又は一群のドナーを表わすことができ、1個よりも多くのR基に結合することができる(例1C及び図5を参照されたい)。更に、D’はキレート環又は配位子形成基G〜G4と結合される。第二金属イオンを使用して骨格構造を構成させるためには、TECと会合した配位子は、第二金属イオンのための追加のドナーを提供すべきである。従って、TEC分子内の配位子は、少なくとも1個であるが、三次元骨格構造を構成するために最も好適であるせいぜい10個、好ましくは3〜6個の第二ドナー原子を含有すべきである。配位原子には、O、N、S、Cl、F、Br、I、C及びPが含まれる。これらのドナーは、−O、−OH、−OR’、−C(O)R’、−CO2、−CO2R’、−OC(O)R’、−CO2NR’2、−NR’、−NR’2、−CN、−NO、−NO2、SO3、−S、−SR’又は−PR’2(R’=H、アルキル又はアリール基)を含めて種々の基から由来できる。
【0035】
第二金属での配位の状況は、活性部位でのものと異なることができる。何故ならば、第二配位の相互作用の役割は多孔性を発生させることであるのに対して、第一配位の役割は活性中心の性質を制御することであるからである。しかして、化学的収着のための活性中心と、ゲスト分子が固相内の活性部位に接近させるための通路の双方を含有する多次元配位骨格構造を製造するための合理的な方法が提供される。
【0036】
第一ドナー上の周辺の部位と第二金属イオンとの間に第二配位を使用して固体内の活性部位及びチャンネルの周囲に空隙を作り出すことが、酸素選択的吸着剤の製造にとって特に魅力的である。酸素吸着剤のためには、活性部位は、可逆的な酸素化のための適切な酸化還元ポテンシャルを有するべきである。酸化還元ポテンシャルが高すぎるならば、金属と酸素分子との間の相互作用が弱すぎ、酸素負荷量は、低コストの方法に要求される条件下では非常に低いであろう。しかし、活性部位の酸化還元ポテンシャルが低すぎると、金属は酸素により容易に不可逆的に酸化されよう。
【0037】
活性部位を提供する金属イオンMの性質は、ドナーの設定、配位子の電子構造及び金属イオンの首位の配位形状に依存する。まとめれば、これらの因子は、酸素化の可逆性を決定するのに重要な役割を果たす。シッフ塩基、ポルフィリン及び会合したジ陰イオン並びにシクリデン類のような配位子と、Co(II)、Fe(II)及びMn(II)のような少数の金属イオンとが、明白な可逆的な酸素化能力を有する化合物を生じさせる。Co(サレン)、Co(マレン)(図4を参照されたい)及び関連構造が、構造的単純性と低分子量を兼備した最も普通の単純な酸素キャリアーである。これらの系は、溶液状で可逆的な酸素化を示すが、固体としてはそれらは非常に遅い酸素化、非常に低い酸素吸着を示すか、又は固体内の有効な分子の充填のために負荷を全く示さないかのいずれかである。
【0038】
本発明の方法及び組成物は、固体での接近可能な活性部位の形成を容易にさせる。Co(マレン)及びCo(サレン)の多くの誘導体は、第二配位による相互作用のために使用でき且つ低コストで製造できる第二ドナーを有する。所望の化学的性質、構造及び性能の修正の融通性並びに低コストの組合せがここに記載する方法を酸素選択的吸着剤の製造のために非常に魅力的なものにする。
【0039】
Co(Me2Ac22マレン)がこの方法を例示する。錯体中のコバルトは四配位であり、4個のドナーは金属中心の周囲に平行で平面の配置にある。コバルト(II)イオンは、アキシャル位置で別の配位子に配位して、スーパーオキソ結合モード(Co:O=1:1)で酸素分子を可逆的に結合させることができる五配位種を形成させる傾向がある。4−ヒドロキシピリジンのリチウム塩がアキシャル配位子として使用されるときは、リチウムイオンが第二金属イオンとして働く。リチウムイオンは、アキシャル配位子上の脱プロトンされたヒドロキシル基からの酸素原子及び2個の隣接TEC分子からの2個のカルボニル基である第二ドナーに配位する。リチウムイオンとCo(Me2Ac22マレン)(4−Py−O-)分子の配位が多孔質骨格構造を作り出す。
(ii)共有結合
別法として、TECは固体物質内に多孔性を作り出させるために共有結合することができる。Rは次式:
【化6】
Figure 0004116240
のビカルボニル基、次式:
【化7】
Figure 0004116240
のトリカルボニル基、又は次式:
【化8】
Figure 0004116240
のテトラカルボニル基であることができ、またF、Cl、Br、O、N、P、S、Si又はBにより置換されていてよい。有機断片を使用して配位子の周辺で化学反応によりTECを架橋させて共有結合Rを形成させて多孔質TEC系を提供することができる。配位子の周辺が活性である部位を含有し且つ生成物が化学的修正後に吸着又は触媒作用のための活性部位として依然として働くTECについては、多官能性反応剤を使用すれば、多孔質構造をもたらすことができる。反応性で二官能性の有機系を2個の反応性部位を含有するTECと組合わせると、線状の重合体系がもたらされる。しかし、有機反応剤か又はTECのいずれかが2個よりも多い反応性部位を有するときは、架橋が起る。同様に、それぞれ2個及び3個の反応性部位を含有する有機反応物の混合物は、線状部分と架橋部分を持つ生成物を与える。これらの場合には、多孔性を制御するのに化学量論的な制御を使用することができる。全ての場合に、活性金属中心を与えるために追加のドナーを提供することができる。例えば、四座配位子を持つコバルト(II)に基づく架橋したTECは、活性な5個の配位部位を与えるために1個の部位当たり1個の単座配位子の提供を要求する。
【0040】
例えば、TECと有機化合物の双方がそれぞれ2個のみの反応性部位を含有する具体例を考えてみよう。これは必ず線状の重合体種を生じさせる。2個よりも多い部位を持つTEC又は有機種の導入は、新しい種が少量成分であっても、架橋した系の形成を可能にさせる。従って、TEC又は有機化合物上の反応性部位の平均数が2よりも大きい例は架橋する。種の混合物及び単一成分の混合物の双方がこの基準を満たす。事実、異なった数の部位を含有する種の組合せは固体の線状の領域及び架橋した領域の制御を可能にさせる。
【0041】
重合体生成物は非晶質になる傾向があるので、硬質のTEC及び比較的硬質の有機反応剤の双方が永久的な多孔性を作り出すのに好ましい。更に、有機変性剤の分子量は、単位質量及び単位容積当たりの高い反応性中心含有量、好ましくは1.5ミリモル/gを与えるように最小限にするべきである。
【0042】
多孔質TEC単位骨格構造を与えるための共有結合による変性方法は、単官能性反応剤によるか、又はラキュナーシクリデン、架橋ポルフィリン若しくはシッフ塩基錯体の場合におけるようなブリッジを与えるように分子間反応を最大限にさせるための方法で使用される二官能性反応剤によるTECの周辺の配位部位での変性については溶液状で既知である。本発明の場合に、目標とするところは、架橋した系を含めて固体状態で吸着剤又は触媒として機能する重合体種の熟考した上での形成である。架橋したTEC系の例は、トリエチルアミンの存在下での1,3,5−ベンゼントリカルボニルトリクロリドとCo(Me222マレン)との反応からの生成物である。
(iii)水素結合
TEC種を組織し及び多孔性を作り出すのに水素結合も使用することができる。水素結合を形成できる官能基は、TEC上の配位子に結合することができる。これらの官能基の相互作用がTEC種の周囲にチャンネルを及び活性金属中心の周囲にキャビテイを作り出す。水素結合を形成できる基には、アミド基R1CONR2−、アミノ基R12N−、カルビノール基−R1OH及びカルボン酸基R1CO2H(ここで、R1及びR2は同一でも異なっていてもよく、非置換の非環式若しくは炭素環式基又はF、Cl、Br、O、N、P、S、Si若しくはBにより置換された置換非環式若しくは炭素環式基である)が包含される。
【0043】
(iv)非配位性イオン
非配位性イオンRを使用して固体内でTEC種を分離させて多孔性を作り出すことができる。活性部位を与えるのに使用されるTECがイオン性であるならば、電荷をバランスさせるために対イオンが必要である。これらの対イオンは、結晶全体にわたってTEC分子の間に分布される。対イオンが比較的大きい寸法を有するときは、それらはTEC分子を分離させ且つこれらの分子が有効に充填して密な物質を形成するのを妨げることができる。従って、対イオンRを使用して多孔性を発生させてゲスト分子のための空いた且つ接近可能な部位を与えることができる。陰イオン性TECと共に使用できるイオンには、式−(R1234)N+(ここで、R1、R2、R3及びR4は同一でも異なっていてもよく、水素であり且つそのうちの少なくとも1個は非置換の非環式若しくは炭素環式基又はF、Cl、Br、O、N、P、S、Si若しくはBにより置換された非環式若しくは炭素環式基である)を有するアルキルアンモニウム又はアリールアンモニウム陽イオンが包含される。陽イオン性TECと共に使用できるイオンは、無機及び有機の両イオン、例えば、BX4 -(X=F、OR”)、PF6 -、NO3 -、SO4 2-、CO3 2-、MoO4 2-、ポリオクソメタレート、R”CO2 -、R”O-、R”SO3 -(R”=1〜20個の炭素原子を有するアルキル、4〜20個の炭素原子又は複素原子を有するアリール又は複素環式基)を包含する。
【0044】
B.吸着剤物質の製造
本発明の吸着剤物質は、段階形式で具合良く製造することができる。第一の工程は、当業者に周知の方法を使用して個々のTEC(第一配位球体)を製造することである。次の工程は、これらの物質を使用して分子間連結基R(第二配位球体、図3の具体例におけるように第二金属イオンM’が使用される)を製造することである。典型的には、第一配位球体を与える系の溶液又はスラリーが、第二配位球体を作り出すための反応剤により必要ならば加熱しながら処理される。固体の形成が、即時に或いは冷却、濃縮又は溶媒組成の変化(例えば沈殿)に応じて起る。単離された固体は、要すれば、活性部位を与えるために追加の潜在的ドナーを含有する溶液又は蒸気により処理することができる。
【0045】
吸着剤物質は2工程で製造することができるが、製造は、(1)一つの金属が第一(M)及び第二(M’)配位球体の双方のために使用されるならば又は(2)配位子上の金属とドナーがそれぞれの金属がそれ自身の配位環境を形成して所望の構造を妨害なしで作り出すような識別可能な配位特性を有するならば、ワンポット反応を使用して実施することもできる。例えば、後記の例2Bにおける錯体Co(Me2Ac22マルトメン)(4−PyOLi)(EtOH)は、エタノール中でコバルト塩、H2(Me2Ac22マルトメン)、水素化リチウム及び4−ヒドロキシピリジンを使用してワンポット反応により製造することができる。何故ならば、コバルトとリチウムは非常に異なった配位特性を有し且つ配位部位のために互いに競争しないからである。
【0046】
有機反応剤を使用してTEC分子を架橋させて多孔質固体を形成するときは、TEC上の配位子が少なくとも2個の反応性部位を有することが必要である。架橋性反応剤が反応性部位と反応して三次元骨格構造を形成させる。
【0047】
化学反応が起るときに活性部位を与えるのに必要である金属の形でTECを使用することが望ましいかもしれない。更に、多くの場合に、TECにおいて反応性である部位は未反応状態では望ましくない。このために、単官能性有機反応剤を使用することによりキャッピング反応を達成して残留未反応部位を消費させることが望ましいかもしれない。更に、クエンチング工程を用意して残留反応性有機種を消費させて酸を含めて望ましくない生成物の形成を防止することが望ましいかもしれない。末端キャッピングは塩化アセチルにより具合良く達成され、クエンチングは過剰のメタノールの添加により起る。キャッピング操作及びクエンチングの要件は、非重合体系については当業者には周知である。
【0048】
共有結合を利用して種々のTECを連結させることを望むときに、TECと反応性有機反応剤との間の反応を起こり、固体が形成し始めるので、共有結合を生じさせる反応は禁止又は防止することができる。この理由のために、TECの周辺での反応性部位の多割合が消費されるように、特に未反応TEC部位が望ましくない場合には、過剰の有機反応剤の使用が好ましい。更に、大抵の場合に、残留未反応有機基をクエンチングしてそれらを不活性形に転換することが望ましい。更に、TECの周辺の反応性部位がTEC部位の性質に対して有害である、例えば、性能を低下させるならば、架橋後に少量の単官能性反応剤を使用することが望ましい。
【0049】
架橋反応は、存在する活性金属中心により、活性中心によって置換できる金属中心により、又は反応性中心を形成するのに好適なキレート配位子を使用するかのいずれかにより達成することができる。吸着又は触媒への用途のために反応性中心を含有するTECを直接使用することが好ましい。
【0050】
酸素選択的吸着剤として架橋したTECを使用する多くの場合に、配位子が中心金属イオンに4個のドナーを与える元のTECを使用して実施するのが望ましい。これらの場合に、架橋した固体を活性な五配位状態に転化するために追加の単座ドナーを導入することが必要である。これは、蒸気浸透を使用して又は架橋した固体を潜在的なドナーを含有する溶液により処理することによって達成することができる。多孔質構造を妨げることなく且つ輸送を禁止することなく五配位部位の最適な濃度を作り出すためには追加の単座ドナーの量を制御することが望ましい。感知できる揮発性を示さない潜在的アキシャルドナーが、ピリジン、イミダゾール及びそれらの誘導体を含めて、好ましい。
【0051】
C.吸着剤物質の適用
上で示したように、本発明に従って製造される吸着剤物質は、主として酸素選択的吸着剤としての使用が意図される。このような使用は、酸素含有ガス、例えば空気をこのような吸着剤の床に通じ、酸素か又は吸着されなかった成分(例えば、窒素)を生成物として回収することを包含する。
しかし、多孔質系に配位的に不飽和の金属中心を形成させるためにここで説明した方法は、その他の用途、例えば、一酸化炭素のための吸着剤として、有機転化反応、例えば酸化のための触媒として使用するのに好適な物質を提供することもできる。
【0052】
【実施例】
後記の実施例は、本発明の多孔質酸素選択的吸着剤の6種の好ましい具体例の製造方法及び性質を開示する。実施例の全てはコバルトを活性金属中心Mとして利用し、全ての多座配位子はマレンの誘導体である(図4)。6種の物質は二つのタイプに分類できる。タイプ1の多孔性は第二の配位により作り出されるが、タイプ2の多孔性は共有結合によって生成される。
タイプ1:
Co{Me2Ac22マレン}(4−PyOLi)、
Co{Me2Ac22マルトメン}(4−PyOLi)、及び
Co{Me2Ac22マルドメン}(4−PyOLi)。
タイプ2:
Co(Me222マロフェン)/トリカルボニル/py、
Co(Me222マロフェン)/トリカルボニル/テレフタロイル/py、
及び
Co(Me222マロフェン)/トリカルボニル/オキサリル/py。
【0053】
上記の式において、各記号は以下の意味を有する。
Py=ピリジン、
4−PyOLi=4−ヒドロキシピリジンのリチウム塩、
マレン=2当量のマロンアルデヒド誘導体と1当量のエチレンジアミンとの縮合生成物のジ陰イオン、
マルドメン=エチレンジアミン上の炭素原子の一つに更に2個のメチル基がある点を除けば、“マレン”と同じ、
マルトメン=エチレンジアミンの炭素原子に更に4個のメチル基がある点を除けば、“マレン”と同じ、
マロフェン=2当量のマロンアルデヒド誘導体と1当量の1,2−フェニレンジアミンとの縮合生成物のジ陰イオン。
マロンアルデヒド上の置換基は、“マレン”、“マルテン”又は“マルドメン”の前面に配置される。置換基の順序は、カルボニル炭素でのもの、CH2基でのもの、及びアミンと反応してイミンを形成するカルボニル炭素でのものである。使用した4種の配位子の構造については図4を参照されたい。
【0054】
タイプ1:
(1)Co{Me2Ac22マレン}(4−PyOLi)
例1A及び1Bは、溶媒分子を含有する物質の製造における逐次工程を説明する。例1Cは、この物質の結晶構造を開示する。例1Dは、溶媒分子を除去して活性な吸着剤を得ることを開示する。例1Eは、吸着剤の酸素及び窒素の等温線を開示する。例1Fは、それの表面積及び多孔性の測定の結果を開示する。
(2)Co{Me2Ac22マルトメン}(4−PyOLi)
この物質は、例1の物質についての方法と同じ方法を使用して得られる。しかし、この物質は、マレン誘導体とは非常に異なった性質を有する。ここでは、それは本発明の性能の利点の一つである構造的調整からの有意の修正を示すための例として使用する。例2A〜2Cは、この物質の製造の逐次工程を説明する。その窒素及び酸素の等温線を例2Dに示し、それのTGAサイクル実験における応答を例2Eに開示する。例2Fは、Co{Me2Ac22マルトメン}(4−PyOLi)についての酸素の等温線の微調整を記載する。
(3)Co{Me2Ac22マルドメン}(4−PyOLi)
この物質も、例1に記載した物質と類似する強い酸素親和性を有する。しかし、それは、例1の物質よりもはるかに早い脱着速度を有する。この物質は、例1に記載した類似の操作を使用して製造される。例3A、3B及び3Cは製造操作を記載するが、例3Dは酸素及び窒素についての吸着等温線を開示する。
【0055】
タイプ2:
下記の物質の全てはタイプ2であって、その多孔性が共有結合により作り出されたものである。それらの間の相違はTEC種を連結するのに使用した反応剤に起因する。
(4)Co(Me222マロフェン)/トリカルボニル/py
この物質では、TEC種はトリカルボニル基により連結される。例4A及び4Bは逐次製造工程を示すが、例4Cは窒素及び酸素の負荷を表わす。
(5)Co(Me222マロフェン)/トリカルボニル/テレフタロイル/py
この物質では、TEC種はトリカルボニル及びテレフタロイル基により連結される。例5Aは製造を説明するが、例5Bは窒素及び酸素の負荷を表わす。
(6)Co(Me222マロフェン)/トリカルボニル/オキサリル/py
この物質では、TEC種はトリカルボニル及びオキサリル基により連結される。例6A及び6Bはそれぞれ製造とO2及びN2の負荷を開示する。
【0056】
コバルト(II) 錯体を伴う実施例において記載した反応は、不活性雰囲気下のグローブボックスにおいて達成した。反応剤及び溶媒は、不活性雰囲気を保持するための方法を使用して取り扱った。被検試料はグローブボックスから取り出し、周囲空気に触れるのを最小限にして取り扱った。
【0057】
例1Co{Me 2 Ac 2 2 マレン}(4−PyOLi)
A.Co(Me 2 Ac 2 2 マレン)の製造
グローブボックスにおいて窒素雰囲気下にNaOH(16.0g)を200mLのメタノールに加熱し攪拌しながら溶解した。Co(CH3CO22・4H2O(49.8g)及び2当量の3−エトキシメチレン−2,4−ペンタンジオンと1当量の1,2−ジアミノエタンとの縮合により製造されたキレート配位子を1000mLの丸底フラスコに入れ、300mLのメタノールを添加し、次いで混合物を加熱した。コバルト塩が溶解するや否や(配位子は懸濁したままである)、NaOH溶液を連続的に加熱し激しく攪拌しながら滴下した。NaOHの添加中に褐色沈殿が形成され、スラリーが生成するに至った。NaOHを完全に添加した後、オレンジ色の微結晶質生成物が得られた。生じた混合物を更に1時間加熱攪拌してから、室温に冷却した。混合物を攪拌し、若干の不溶性不純物を含有する上澄み液をデカンテーションした後に結晶がフラスコの底部に沈降した。メタノールを2回(200mL)添加して生成物を攪拌しデカンテーションしながら洗浄した。最後に、生成物をろ過により集めた。収率:60g、即ち89%。
【0058】
B.Co(Me 2 Ac 2 2 マレン)(4−PyOLi)(MeOH)の製造
方法(i):グローブボックスにおいて不活性雰囲気下にリチウムt−ブトキシド(8.0g)及び4−ヒドロキシピリジン(9.5g)を80mLのメタノールに溶解した。この溶液を、例1Aに記載した方法に従って製造したCo(Me2Ac22マレン)(16.8g)を350mLのメタノールに添加してなる懸濁液にゆっくりと添加した。加熱攪拌しながら固体を溶解させて暗褐色溶液を形成させた。この溶液をグローブボックスにおいて周囲温度に冷却し、溶媒をゆっくりと蒸発させた。暗褐色固体が生成し、これをろ過により集め、少量のメタノールで洗浄し、真空乾燥した。生成物の重量は18.8gであった。
方法(ii):グローブボックスにおいて不活性雰囲気下に水酸化リチウム(2.4g)及び4−ヒドロキシピリジン(9.5g)を200mLのメタノールに攪拌加熱しながら溶解した。沸騰しているこの溶液に、例1Aに記載した方法に従って製造した16.8gのCo(Me2Ac22マレン)を加熱攪拌しながら添加した。暗褐色溶液が得られ、数分以内に固体が生成し始めた。混合物を周囲温度に終夜冷却した。生成物をろ過し、メタノールで洗浄し、真空乾燥した。
【0059】
C.Co(Me 2 Ac 2 2 マレン)(4−PyOLi)(MeOH)の結晶構造
グローブボックスにおいて窒素雰囲気下にリチウムt−ブトキシド(2ミリモル)及び4−ヒドロキシピリジン(2.0ミリモル)を5mLのMeOHに溶解し、この溶液を、4ドラムの瓶において5mLのMeOHにCo(Me2Ac22マレン)(1ミリモル)加えてなる懸濁液に添加した。この混合物を攪拌しながら加熱して暗褐色溶液を得た。瓶を小さい孔を有する栓により封じて溶媒を非常にゆっくりと蒸発させた。1週間後に、暗褐色の単結晶が得られた。X線等級の単結晶を薄い壁のガラス毛細管に移した。グローブボックスから取り出す前に、若干の鉱油を使用して管の開口をシールした。グローブボックスから取り出した直後に結晶を薄いフレームにより毛細管内にシールした。
結晶の一つを単結晶X線回折計に装填し、回折データを集めた。Co(Me2Ac22マレン)(4−PyOLi)(MeOH)の結晶構造を図5に示す。この構造は、配位子上で第二金属イオンLi+と酸素原子との配位が分子を連結させて重合体連鎖を形成し、これは更にアセチル基を使用して充填して層を形成することを示している。層は、配位子上のメタノール分子とカルボニル基との間の水素結合により互いに相互作用する。隣接する層における重合体連鎖の軸は互いに垂直に伸びる。この構造的な特色が構造を補強している。
【0060】
D.Co(Me 2 Ac 2 2 マレン)(4−PyOLi)の製造
例1Cに記載した方法に従って製造したCo(Me2Ac22マレン)(4−PyOLi)(MeOH)は、コバルト原子1個当たり1個のメタノール分子を含有する。グローブボックスにおいて試料を丸底フラスコに入れ、真空ポンプに接続した。フラスコを油浴で75℃に3時間加熱してCo(Me2Ac22マレン)(4−PyOLi)を得た。
【0061】
E.Co(Me 2 Ac 2 2 マレン)(4−PyOLi)の等温線
酸素選択的吸着剤の実用性についての重要な側面は、一定の温度及び圧力条件下で吸着され得る酸素の量である。この値は固体1g当たりのマイクロモル(mmol/g、負荷量)で表わされる。
例1Dに記載したように製造した錯体の酸素及び窒素の等温線を圧力微量天秤で決定した。最適の試料の性能は空気への暴露が最小であることを要求する。27℃で試料は10トールの酸素圧下に2.0mmol/gを超える酸素負荷量を示す。10トールでの窒素負荷量は正確に測定するには小さすぎるが、1000トールで0.012mmol/gに過ぎない。浮力効果について補正した種々の圧力での負荷量を表1にリストし、酸素及び窒素についての等温線を図6に示す。酸素及び窒素の等温線は、分圧に関して所定の吸着剤についてのガス負荷能力を描写する。それらは次の特色を示す。
1)1トールでの半飽和圧について酸素親和性は非常に高い。
2)酸素負荷量は低圧で非常に高い(10トールで2.038mmol/g)。
3)酸素/窒素の選択性は高い(10トールで17,000)。
1気圧のO2に暴露すると、この試料は非常に早い酸素吸着速度(>8mL/g/s)を示す。この結果は、吸着された酸素が真空又は純窒素によるパージによって完全に除去できることも示している。しかし、高い酸素親和性のために、脱着速度は遅い。27℃及び47℃でそれぞれ90%の脱着を達成するのに120分間及び27分間を要する。高い酸素親和性、高い選択性及び可逆性はこの化合物をガス流れ中の微量の酸素を除去する(これに限定されない)のに好適なものとする。
【0062】
【表1】
Figure 0004116240
【0063】
F.表面積及び多孔性
例1Dに記載したように製造した錯体の試料(0.383g)をグローブボックスにおいて不活性雰囲気下に管に装填した。この管をシールし、促進型表面積−ポロシメーター装置(マイクロメトリックス社製のモデルASPA2010)に移した。プローベ分子として二酸化炭素を使用し、器具上で容積法により195°Kでプローベ分子の吸着及び脱着を決定した。BET表面積は156(2)m2/gであると計算された。ホーバス−川添法を使用して中間細孔直径及び最大細孔容積がそれぞれ5.4Å及び0.080cm3/gであると計算された。
【0064】
例2Co{Me 2 Ac 2 2 マルトメン}(4−PyOLi)
A:Co(Me 2 Ac 2 2 マルトメン)の製造
グローブボックスにおいて窒素雰囲気下にH2(Me2Ac22マルトメン)(0.396g、1.18ミリモル)(当業者に周知の方法を使用して製造)及びCo(CH3CO22・4H2O(0.295g、1.18ミリモル)を15mLのメタノールに加熱攪拌しながら溶解した。10mlのMeOHに溶解したNaOH(0.092g、2.3ミリモル)を攪拌しながら添加してオレンジ色溶液を得た。この溶液を更に1時間加熱攪拌し、次いで冷却させた。生じた沈殿をろ過し、MeOHで洗浄し、真空乾燥した。ろ液中に追加の固体生成物が形成されたが、加熱により溶解させ、次いで溶媒を蒸発によりゆっくりと除去して板状結晶を生成させた。これらの結晶をろ過により集め、MeOHで洗浄し、真空乾燥した。総収量は、最初に単離された固体とろ液から単離された物質の双方を含めて、0.27g(0.94ミリモル)即ち80%。
【0065】
B.Co(Me 2 Ac 2 2 マルトメン)(4−PyOLi)(EtOH)の製造Co(Me2Ac22マルトメン)(0.18g、0.46ミリモル)及び4−ヒドロキシピリジンのリチウム塩(0.096g、0.95ミリモル/g)を4ドラムの瓶に入れた。この瓶にエタノール(10ミリモル)を添加し、この混合物を加熱攪拌した。生じた褐色溶液を周囲温度にゆっくりと冷却し、次いでグローブボックスにおいて溶媒をゆっくりと蒸発させた。5日後に、生じた固体をろ過により集めた。
【0066】
C.Co(Me 2 Ac 2 2 マルトメン)(4−PyOLi)の製造
EtOH溶媒を使用して例2Bに記載した方法に従って製造した化合物は、コバルト1個当たり1個のエタノール分子を含有した。Co(Me2Ac22マルトメン)(4−PyOLi)(EtOH)の試料をTGA器具に装填した。試料を0.1℃/分の加熱速度で90℃まで加熱した。重量損失を基にして、溶媒の全てが失われてから、温度は70℃になった。重量損失は8.7%であり、Co(Me2Ac22マルトメン)(4−PyOLi)を生成させる8.5%の理論的損失に近似していた。
【0067】
D.Co(Me 2 Ac 2 2 マルトメン)(4−PyOLi)の等温線
例2Bに記載したように製造したCo(Me2Ac22マルトメン)(4−PyOLi)(EtOH)の試料を、空気への暴露を制限して、圧力微量天秤に装填した。酸素及び窒素の等温線を27℃で決定した。試料は10,000トールで1.70mmol/gの酸素負荷量を示した。これとは逆に、窒素負荷量は非常に低かった。5,000トールの窒素圧では、試料の窒素負荷量は0.045mmol/gであった。種々の圧力での負荷量を表2にリストし、酸素及び窒素の等温線を図7に示す。酸素及び窒素の等温線は、この試料が酸素を選択的に吸着し、酸素負荷量が高いことを示している。更に、吸着された酸素は真空下に十分に脱着させることができる。
【0068】
【表2】
Figure 0004116240
【0069】
高圧酸素への暴露は試料の性質を変化させた。高圧酸素に暴露させた後に、0〜750トールの圧力範囲について第二の酸素の等温線を得た。データを表3にリストし、等温線を図8にプロットする。挙動の変化は相の変化と一致し、最初の(製造時の)相に戻る転化の証拠は観察されなかった。酸素及び窒素の等温線は、次の特色を有する。
1)酸素の吸着は十分に可逆性である。
2)酸素の負荷は適度に高い(1気圧のO2で>15mL/g)。
3)窒素の負荷は無視できる。
4)酸素/窒素の選択性は非常に高く、200トールで260よりも大である。
5)等温線の曲率は大型空気分離の用途に好適である。
また、負荷試験は、吸着及び脱着が迅速であることを示した。平衡の90%に達するのに1分以内である。
【0070】
【表3】
Figure 0004116240
【0071】
E.Co(Me 2 Ac 2 2 マルトメン)(4−PyOLi)の酸素及び窒素のサイクル
例2Cに記載した生成物の試料を相変化を誘発させるように高圧酸素に暴露してから、TGA装置に装填した。試料を27℃で20分間のサイクル時間(酸素のついて10分間及び窒素について10分間)で酸素と窒素の間をサイクルさせた。周囲空気との長時間の接触のために、酸素負荷量は微量天秤で得られたものよりも低かった。試料を酸素と窒素の間を6,000サイクルにわたりサイクルさせ、性能は5%だけ減少した。ガス流れ中の微量の水分は、主として(全部でないにしても)性能の衰弱が原因であった。TGAサイクル実験の部分を図9に示す。この酸素/窒素サイクル実験は、次の有意義な特色:
1)酸素の可逆的な吸着、
2)迅速な吸着及び脱着速度(700トールの酸素に暴露したときに>2mL/g/s)、
3)適度に高い負荷(1気圧のO2で>10mL/g)、
4)81,000サイクルの企図された半減期
を示す。
【0072】
F.Co(Me 2 Ac 2 2 マルトメン)(4−PyOLi)についての酸素の等温線の微調整
研究は、1バールでの酸素負荷量が周囲温度での高圧酸素による処理のみならず、低温での1バールの酸素による処理によっても増大させ得ることを示している。また、研究は、1バールでの酸素負荷量の増大量が処理の継続時間及び回数に依存することを示す。1バールでの酸素負荷量の増大は酸素親和性の変化から生じるが、これが酸素の等温線を低圧領域に向けて移動させる。二つの試料についての酸素の等温線を図10に示す。下の曲線は酸素処理のない合成時の試料から得たが、上の曲線は低温(0〜−50℃)で1バールの酸素により30回処理した試料から得た。2本の極端な曲線の間の等温線の所望の形状は処理条件を制御することによって得ることができる。試料の変態は、少なくとも何ヶ月という時間間隔で不可逆的であった。寿命試験を中間試料の一つについて達成した。1バールでの酸素負荷量は、窒素(10分間)と酸素(10分間)の間で70日間サイクルさせた後に1.03mmol/gから0.87mmol/gまで減少した。減少が活性物質の含有量において一次であると仮定して、半減寿命はほぼ300日であると企図された。
【0073】
例3Co{Me 2 Ac 2 2 マルドメン}(4−PyOLi)
A.Co{Me 2 Ac 2 2 マルドメン}の製造
グローブボックスにおいて窒素雰囲気下にCo(CH3CO22・4H2O(249g、1.00モル)及び2当量の3−エトキシメチレン−2,4−ペンタンジオンと1当量の2−メチル−1,2−ジアミノプロパンとの縮合により製造された配位子(310g、1.006モル)をメタノールに添加して懸濁液(1.3L)を得た。この混合物を沸点近くに1時間加熱し、若干のオレンジ色沈殿が生成した。NaOH(80.0g、2.0モル)を550mLのMeOHに溶解してなる溶液を上記の溶液に攪拌しながら10分間でゆっくりと添加した。NaOHの添加後に、混合物を50℃に1.5時間加熱し、次いで40℃以下に冷却した。上積み液をデカンテーションし、オレンジ色微結晶生成物をろ過し、MeOHにより洗浄し(3×100mL)、グローブボックスにおいて乾燥した。重量:349.98g(0.96モル)。収率:96%。
【0074】
B.Co{Me 2 Ac 2 2 マルドメン}(4−PyOLi)(EtOH)の製造LiOH(0.5g、0.0209モル)及び4−ヒドロキシピリジン(2.00g、0.021モル)を40mLのEtOHに1時間加熱攪拌しながら溶解した。この溶液にCo{Me2Ac22マルドメン}(7.00g、0.0192モル)を添加した。ビーカーをカバーし、混合物を75℃で30分間、50℃で2.5時間攪拌した。混合物を30℃に冷却した。生成物をろ過により集め、EtOHにより洗浄し(2×5mL)、グローブボックスにおいて乾燥した。重量:8.75g(0.0171モル)。収率:89%。
【0075】
C.Co{Me 2 Ac 2 2 マルドメン}(4−PyOLi)の製造
例3Cで製造する試料はコバルト原子1個当たり1モルの溶媒EtOHを含有する。溶媒分子は、試料を窒素又は真空下に90℃で加熱することによって除去することができる。試料(15.244mg)をTGAの試料皿に装填した。炉の温度を2℃/分の加熱速度で90℃まで立ち上げ、90℃で2時間保持してから27℃に冷却した。重量損失は8.7%であった。1個のEtOH分子が失われるとして理論値は9.0%である。低い実験値は、試料の捕集及び貯蔵中の溶媒分子の部分的な損失から生じるかもしれない。
【0076】
D.Co{Me 2 Ac 2 2 マルドメン}(4−PyOLi)についての等温線
例3Cに記載したように製造したCo{Me2Ac22マルドメン}(4−PyOLi)の試料を空気への暴露を制限して圧力微量天秤に装填した。酸素及び窒素の等温線を27℃で決定した。試料は、2.11、5.52、10.11、20及び100トールでそれぞれ1.021、1.454、1.668、1.810及び1.939mmol/gの酸素負荷量を示した。これとは対照をなして、窒素の負荷は非常に低かった。1,000トールでは、試料の窒素負荷量は0.035mmol/gであった。酸素及び窒素の等温線を図11に示す。等温線は、この試料が高い酸素負荷及び非常に高いO2/N2選択性を有することを示している。
酸素及び窒素の吸着曲線は、次の特色を示す。
1)酸素親和性は2トールの半飽和圧で非常に高い。
2)酸素の負荷は低圧で非常に高い(20トールで1.81mmol/g)。
3)酸素/窒素選択性は高い(10トールで4,700)。
1気圧のO2に暴露したときに、この試料は非常に早い酸素吸着速度(0.52mmol/g/s又は12.6mL/g/s)を示す。また、結果は、吸着された酸素が真空又は純窒素により完全に除去できることを示している。脱着速度は、Co(Me2Ac22マルトメン)(4−PyOLi)についてのものよりも遅いが、Co(Me2Ac22マレン)(4−PyOLi)についてのものよりもはるかに早い。27℃で90%の脱着を達成するのに22分間を要する。高い酸素親和性、高い選択性及び可逆性はこの化合物をガス流れ中の微量の酸素を除去する(これに限定されない)のに好適なものにする。
【0077】
例4Co(Me 2 2 2 マロフェン)/トリカルボニル/py
A.Co(Me 2 2 2 マロフェン)の製造
氷浴中で0で2当量の4−メトキシ−3−ブテン−2−オン(15.3g、153ミリモル)をジエチルエーテル(50mL)中に含有する溶液に、o−フェニレンジアミン(8.15g、75ミリモル)をクロロホルム(300mL)に溶解してなる溶液を滴下した。添加が完了したときに、装置系を周囲温度に加温させ、次いで冷蔵庫に2日間放置した。溶媒を減圧下に除去して粘稠な油状物を得たが、これは精製することなく使用した。この油状物をグローブボックスに移し、次いでメタノール(400mL)に溶解した。酢酸コバルト(II)四水塩(18.7g、75ミリモル)を添加して固形物と褐色溶液を与え、次いで水酸化ナトリウム(6.06g、152ミリモル)をメタノールに溶解してなる溶液を3分間にわたり添加した。室温で2日間放置した後、褐色固体をろ過により集め、真空乾燥してCo(Me222マロフェン)(19.09g)を褐色固体として得た。この物質は精製することなく使用した。
【0078】
B.Co(Me 2 2 2 マロフェン)/トリカルボニル/pyの製造
Co(Me222マロフェン)(1.0004g、3.333ミリモル)及びトリエチルアミン(0.926mL、6.64ミリモル)をトルエン(70mL)中に含有する溶液に、塩化1,3,5−ベンゼントリカルボニル(0.3279g、1.235ミリモル)をトルエン(20mL)に溶解してなる溶液を滴下した。次いで、この混合物を室温で2時間攪拌した。メタノール(1.0mL)を添加して残留酸塩化物基を消費させ、この混合物を終夜攪拌した。この溶液を真空下に濃縮乾固させ、次いでメタノール(50mL)を添加してトリエチルアミン塩酸塩を抽出し、装置系を1時間攪拌した。生成物をろ過により褐色粉末として単離し、次いで真空乾燥して0.4119gの収量を得た。真空下に50℃で活性化した後のこの生成物のBET表面積は46m2/gであった。この固体を活性形に変換するためにこれをピリジンで処理した。単離した固体(0.15g)をシールした容器内で蒸気拡散を使用して(直接の液体との接触よりもむしろ)ピリジン(4滴)により数日間処理してCo(Me222マロフェン)/トリカルボニル/pyを生じさせた。
C.Co(Me 2 2 2 マロフェン)/トリカルボニル/pyの吸着
圧力微粒天秤を27℃で使用してCo(Me222マロフェン)/トリカルボニル/pyについて収着研究を達成した。データを表4に示す。窒素のためのデータは、平衡負荷を本質的に反映した15分後に記録する。酸素のデータは、60分後に記録したが、平衡ではない。例えば、20000トールの酸素圧では、酸素の負荷量は、900分後に1.853mmol/gに上昇した。酸素は、真空下に数日間加熱しても十分に脱着しなかった。残留酸素負荷量は0.804mmol/gである。
酸素及び窒素の負荷試験は、この試料が酸素を選択的に吸着すること及び酸素の負荷が高いことを示す。しかし、収着は遅く、酸素は加熱及び真空によって十分に脱着することができない。
【0079】
【表4】
Figure 0004116240
【0080】
例5Co(Me 2 2 2 マロフェン)/トリカルボニル/テレフタロイル/py
A.Co(Me 2 2 2 マロフェン)/トリカルボニル/テレフタロイル/pyの製造
Co(Me222マロフェン)(1.0018g、3.32ミリモル)をトルエン(75mL)に溶解してなる溶液を穏やかに加熱しながら調製し、次いでトリエチルアミン(0.926mL、6.64ミリモル)を添加した。塩化テレフタロイル(0.3369g、1.66ミリモル)及び塩化1,3,5−ベンゼントリカルボニル(0.2947g、1.11ミリモル)をトルエン(25mL)に溶解してなる溶液を滴下した。次いでこの混合物を室温で1時間攪拌した。メタノール(1.0mL)を添加して残留酸塩化物基を消費させ、次いで混合物を終夜攪拌した。この溶液を真空下に濃縮し、次いでメタノール(40mL)を添加してトリエチルアミン塩酸塩を抽出し、装置系を1時間攪拌した。生成物をろ過により褐色粉末として単離し、次いで真空乾燥した。真空下に200℃で活性化した後にBET表面積は51m2/gである。この固体を活性形に変換するために、これをピリジンで処理した。単離した固体(0.1750g)をシールした容器内で蒸気拡散を使用して(直接の液体との接触よりもむしろ)ピリジン(7滴)により数日間処理してCo(Me222マロフェン)/トリカルボニル/テレフタロイル/pyを生じさせた。
【0081】
B.Co(Me 2 2 2 マロフェン)/トリカルボニル/テレフタロイル/pyの吸着
圧力微粒天秤を0℃で使用してCo(Me222マロフェン)/トリカルボニル/テレフタロイル/pyについて収着研究を達成した。データを表5に示す。窒素のためのデータは、平衡負荷を本質的に反映した15分後に記録する。酸素のデータは60分後に記録するが、平衡値に近い。酸素は、真空下に50℃に短時間加熱して殆ど完全に脱着した。酸素及び窒素の負荷試験は、この試料が酸素を選択的に吸着すること並びに収着/脱着速度が遅くて脱着が加熱を要求するけれども酸素は完全に脱着できることを示している。
【0082】
【表5】
Figure 0004116240
【0083】
例6Co(Me 2 2 2 マロフェン)/トリカルボニル/オキサリル/py
A.Co(Me 2 2 2 マロフェン)/トリカルボニル/オキサリル/pyの製造
Co(Me222マロフェン)(1.006g、3.32ミリモル)をトルエン(75mL)に溶解してなる溶液を穏やかに加熱しながら調製し、次いでトリエチルアミン(1.11mL、7.96ミリモル)を添加した。2.0M塩化オキサリルジクロルメタン溶液(1.60mL、3.2ミリモル)を、塩化1,3,5−ベンゼントリカルボニル(0.1429g、5.38ミリモル)をトルエン(25mL)に溶解してなる溶液と一緒にし、次いでこの混合物をCo(Me222マロフェン)とトリエチルアミンを含有する溶液に滴下した。次いでこの混合物を室温で1時間攪拌した。メタノール(1.0mL)を添加して残留酸塩化物基を消費させ、次いで混合物を終夜攪拌した。この溶液を真空下に濃縮し、次いでメタノール(40mL)を添加してトリエチルアミン塩酸塩を抽出し、装置系を1時間攪拌した。生成物をろ過により褐色粉末として単離し、次いで真空乾燥した。真空下に50℃で活性化した後にBET表面積は49m2/gである。この固体を活性形に変換するために、これをピリジンで処理した。単離した固体(0.18g)をシールした容器内で蒸気拡散を使用して(直接の液体との接触よりもむしろ)ピリジン(7滴)により数日間処理してCo(Me222マロフェン)/トリカルボニル/オキサリル/pyを生じさせた。
【0084】
B.Co(Me 2 2 2 マロフェン)/トリカルボニル/オキサリル/pyの吸着
圧力微粒天秤を0℃で使用してCo(Me222マロフェン)/トリカルボニル/オキサリル/pyについて吸着研究を達成した。データを表6に示す。窒素のためのデータは、平衡負荷を本質的に反映した15分後に記録する。酸素のデータは60分後に記録するが、平衡ではない。例えば、20000トールの酸素圧では、酸素の負荷量は、900分後に0.852mmol/gに上昇した。酸素の脱着は真空下に50℃に加熱することを要求し、残留酸素負荷量は0.051mmol/gであった。酸素及び窒素の負荷試験は、この試料が酸素を適度の負荷量で選択的に吸着することを示す。しかし、収着速度は遅く、十分な脱着は加熱を要求する。
【0085】
【表6】
Figure 0004116240
【0086】
本発明の吸着剤は、酸素を含有する流体混合物の分離又は濃縮に使用することができる。例えば、酸素選択的吸着剤に基づく方法は、窒素か又は酸素のいずれかを又はその両者を生成するように空気の分離を可能ならしめる。更に、本発明の物質は、空気を窒素又は酸素のいずれかに関して濃厚にすることができる。他の具体例では、酸素選択的吸着剤は、窒素及びアルゴンとの混合物を含めてその他の流体(ガス及び(又は)液体)であって酸素が少量又は微量の化合物であるものを該吸着剤と接触させることによって該流体から酸素を除去するのに使用できよう。
また、本発明の酸素選択的吸着剤は、触媒としての用途、特に有機物質の部分的酸化又は選択的酸化のための酸素による活性化に利用することができる。また、本発明の吸着剤は、COを含有するその他の流体の混合物からCOを分離するのに使用することができる。
【0087】
これらの変更及びその他の変更は本発明から離れることなく上で説明した方法及び組成物においてなし得るものであるから、本発明の範囲は特許請求の範囲から決定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のTEC錯体の概略的な構造を表わす。
【図2】TEC錯体に組み入れられたTECの好ましい具体例の概略的な構造を示す。
【図3】空いた配位位置を有する六配位遷移金属イオンを組み入れ且つ第二の配位により多孔質骨格構造に組み立てられた図2のTECを使用する本発明のTEC錯体の好ましい具体例の概略的な構造を示す。
【図4】4種とも本発明の実施に有用であるCo{Me2Ac22マレン}(4−PyOLi)、Co{Me2Ac22マルトメン}(4−PyOLi)、Co{Me2Ac22マルドメン}(4−PyOLi)及びCo(Me222マロフェン)の構造の概略図を示す。
【図5】Co{Me2Ac22マレン}(4−PyOLi)(MeOH)の三次元結晶構造の概略図を示す。
【図6】Co{Me2Ac22マレン}(4−PyOLi)についての酸素及び窒素の等温線のグラフである。
【図7】27℃でのCo{Me2Ac22マレン}(4−PyOLi)についての酸素及び窒素の吸着及び脱着等温線のグラフを示す。
【図8】27℃でのCo{Me2Ac22マルトメン}(4−PyOLi)についての酸素の吸着等温線のグラフを示す。
【図9】Co{Me2Ac22マルトメン}(4−PyOLi)についてのTGAサイクル実験を例示するグラフの一部を示す。
【図10】合成時の及び処理したCo{Me2Ac22マルトメン}(4−PyOLi)のそれぞれについての酸素の等温線を示す。
【図11】Co{Me2Ac22マルドメン}(4−PyOLi)についての酸素及び窒素の等温線のグラフを示す。

Claims (6)

  1. ガス混合物から酸素を選択的に吸着させるための方法であって、該混合物を複数の遷移元素錯体(TEC)の多孔質骨格構造よりなる固体状選択的吸着剤物質と接触させることからなり、該TECがCo(Me Ac マルトメン)(4−PyOLi)である、ガス混合物から酸素を選択的に吸着させるための方法。
  2. ガス混合物から酸素を選択的に吸着させるための方法であって、該混合物を複数の遷移元素錯体(TEC)の多孔質骨格構造よりなる固体状選択的吸着剤物質と接触させることからなり、該TECがCo(Me Ac マルドメン)(4−PyOLi)である、ガス混合物から酸素を選択的に吸着させるための方法。
  3. 複数の遷移元素錯体(TEC)の多孔質骨格構造よりなる固体状選択的吸着剤物質からなり、該TECがCo(Me Ac マルトメン)(4−PyOLi)である、ガス混合物から酸素を選択的に吸着させるための組成物。
  4. 複数の遷移元素錯体(TEC)の多孔質骨格構造よりなる固体状選択的吸着剤物質からなり、該TECがCo(Me Ac マルドメン)(4−PyOLi)である、ガス混合物から酸素を選択的に吸着させるための組成物。
  5. Co(Me Ac マルトメン)(4−PyOLi)。
  6. Co(Me Ac マルドメン)(4−PyOLi)。
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