JP4113787B2 - 磁気ディスク - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、HDD(ハードディスクドライブ)等の情報を記録するための磁気ディスク装置に搭載する磁気ディスクに関する。
【0002】
【従来の技術】
今日、情報記録技術、特に磁気記録技術はIT産業の発達に伴い飛躍的な技術革新が要請されている。たとえば、HDD等の磁気ディスク装置に搭載する磁気ディスクでは、40Gbit/inch2〜100Gbit/inch2、更にはそれ以上の情報記録密度を達成できる技術が求められている。
従来、磁気ディスク装置においては、停止時には磁気ディスク上の接触摺動用の内周領域面に磁気ヘッドを接触させておき、起動時には磁気ヘッドをこの内周領域面に接触摺動させながら僅かに浮上させ、接触摺動用の内周領域面の外側に位置する記録再生用の領域面で記録再生を開始するCSS(Contact Start and Stop)方式が採用されてきた。このCSS方式では、磁気ディスク上に、記録再生用領域とは別に接触摺動用領域を確保しておく必要がある。
また、CSS方式では、磁気ヘッドの接触摺動から磁気ディスクを保護するために、磁気ディスクの表面を保護層で被覆する等されてきた。例えば、特開平8−36744号公報には、CSS耐久性を向上させるために、磁気記録膜上に、N及びHを含有する炭素保護膜を設けた磁気記録媒体が開示されている。
【特許文献1】
特開平8−36744号公報
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
近年の高記録密度化の要請の中で、40Gbit/inch2以上の情報記録密度を達成するために様々なアプローチが為されている。その一つとして、スペーシングロスを改善してS/N比を向上させるために、磁気ディスクの磁性層と、磁気ヘッドの記録再生素子との間隙(磁気的スペーシング)を20nm以下にまで狭めることが求められている。
この磁気的スペーシングを達成する観点から、磁気ディスクの保護層膜厚は6nm以下の薄膜化が求められている。また、磁気ヘッドの浮上量は12nm以下の低浮上量化することが求められている。さらに、磁気ディスク装置の起動停止機構として、従来のCSS方式に替わって高記録容量化の可能なLUL(Load Unload、ランプロード)方式とすることが求められている。LUL方式では、磁気ディスク装置の停止時には、磁気ヘッドを磁気ディスクの外に位置するランプと称される傾斜台に退避させておき、起動時には、磁気ディスクが回転開始した後に、磁気ヘッドをランプから磁気ディスク面上のLUL領域に浮上状態で滑動させてから記録再生を行う。このLUL方式では、従来のCSS方式のように磁気ディスク面上に磁気ヘッドの接触摺動用領域を設ける必要がないため、CSS方式に比べて記録再生用領域の面積を広く確保でき、磁気ディスクの高記録容量化が可能となる。
【0004】
ところで、磁気ディスクの保護層を上述の程度まで薄膜化してしまうと、磁気ディスク装置の使用中に、磁性層を構成する金属イオン(例えばCoイオン)が、薄膜化した保護層を浸透して磁気ディスク表面にマイグレートし易くなるという問題が発生する。磁気ヘッド浮上量は、前述のように低浮上量化しているので、磁気ディスク表面にマイグレートした金属イオンは、磁気ヘッドへ移着し易く、磁気ヘッド表面のコンタミの原因となり易くなる。また、浮上飛行する磁気ヘッドからの干渉を緩和するために磁気ディスク表面に設けられる潤滑層も、磁気ヘッドの低浮上量化により、磁気ディスク表面から磁気ヘッド側に移着し易くなっており、磁気ヘッド表面のコンタミになり易い。
本発明者らの検討によると、磁気ヘッド表面のコンタミ堆積は、従来のCSS方式に比べてLUL方式でより顕著に促進されてしまうことが判明した。即ち、従来のCSS方式では、磁気ヘッド表面に移着堆積したコンタミは、磁気ヘッドが磁気ディスク面上の接触摺動用領域を接触摺動するときにクリーニングされるが、LUL方式では、磁気ヘッドが磁気ディスク上を接触摺動しないために、このクリーニング作用が得られず、その結果、磁気ヘッド表面のコンタミが堆積され続けてしまうのである。
【0005】
このように磁気ヘッド表面に移着堆積したコンタミは、磁気ヘッドの記録再生素子の腐食障害を引き起こす。ヘッド再生素子部の腐食現象が発生すると、再生信号の出力が低下することにより読み出しエラーが頻発し、場合によっては全く再生が不可能となる。また、コンタミ堆積によって磁気ヘッドの浮上姿勢が乱されるため、磁気ディスク装置の作動中に磁気ヘッドが突然磁気ディスク上に墜落するフライスティクション障害を発生させる場合がある。これらの障害は、勿論LUL方式でより顕著に発生する。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、第一に、磁気ヘッドの腐食障害、フライスティクション障害の発生を防止し、LUL方式に好適な優れたLUL耐久性を備えた磁気ディスクを提供することにある。第二に、磁気ヘッドの腐食障害、フライスティクション障害の発生を防止し、保護層の薄膜化を可能とする磁気ディスクを提供することにある。第三に、磁気ヘッドの腐食障害、フライスティクション障害の発生を防止し、磁気ヘッドの低浮上量化に好適な磁気ディスクを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らが、上記課題に関して鋭意研究したところ、保護層の特性がその成膜法によって大きく異なることが判明した。すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長)法により形成した炭素保護層とスパッタリング法により形成した炭素保護層とでは、その特性が大きく異なることが判明した。
本発明者らの研究結果によると、CVD法により形成した炭素保護層とスパッタリング法により形成した炭素保護層とでは、何れもアモルファス炭素からなる保護層である点においては同じであるが、CVD法により形成した炭素保護層は、スパッタリング法により形成した炭素保護層に比べて、緻密かつ高硬度の膜が得られることが判明した。このようにCVD法で形成した炭素保護層は緻密なので、金属イオンが磁性層から保護層を浸透して磁気ディスク表面にマイグレートするのを好適に防止でき、したがって保護層の薄膜化の要求に対して特に好ましいことが判った。また、CVD法で形成した炭素保護層は高硬度が得られるので、保護層を薄膜化した場合でも、LUL起動時に磁気ヘッドから磁気ディスク表面に加えられる強い撃力から磁性層を好適に防護できることも判った。
【0007】
ところが、このようなCVD法により形成した炭素保護層には課題があることも判明した。本発明者らの研究によると、CVD法により形成した炭素保護層は、スパッタリング法により形成した炭素保護層に比べて、潤滑層との密着性が悪いことが判明した。潤滑層との密着性が悪いと、磁気ヘッドの低浮上量化、特に浮上量が12nm以下では、磁気ディスク表面から潤滑物質が磁気ヘッド側に移着し易くなり、磁気ヘッドの腐食障害やフライスティクション障害を発生させ易くなる。特に、LUL方式では、CSS方式で得られる磁気ヘッド表面の移着堆積コンタミのクリーニング作用が得られないので、これらの障害が加速的に発生してしまうおそれがある。
従って、CVD法により形成した炭素保護層では、磁気ディスクに要求される磁気的スペーシングを達成できないことが判明した。
一方、本発明者らは、スパッタリング法により形成した炭素保護層についても研究したところ、潤滑層との密着性が良く、磁気ヘッドの浮上量が12nm以下になっても、磁気ディスク表面から磁気ヘッド側への潤滑層の移着を好適に防止できることが判明した。従って、潤滑層移着を起因とする磁気ヘッドの腐食障害やフライスティクション障害を防止でき、特にLUL方式にとっては好適であることが判った。
【0008】
しかしながら、スパッタリング法で形成した炭素保護層は、緻密性が得られないので、保護層を薄膜化した場合、磁性層を構成する金属イオンが磁性層から保護層を浸透して磁気ディスク表面にマイグレートし易くなり、この金属イオンコンタミによる磁気ヘッドの腐食傷害やフライスティクション障害が発生し易くなることが判明し、これら腐食障害はLUL方式において特に顕著になる。また、スパッタリング法で形成した炭素保護層は適切な硬度が得られないので、LUL起動時に磁気ヘッドから磁気ディスク表面に加えられる強い撃力に対する磁性層の防護性能に劣るということも判明した。
従って、スパッタリング法により形成した炭素保護層によっても、磁気ディスクに要求される磁気的スペーシングを達成できないことが判明した。
【0009】
ところが、本発明者らの更なる検討の結果、磁性層と接する側の保護層をCVD法で形成された炭素保護層とし、潤滑層と接する側の保護層をスパッタリング法で形成された炭素保護層としたところ、前述したようなCVD法或いはスパッタリング法で形成された炭素保護層の有する課題を克服でき、20nm以下の磁気的スペーシングを達成するに好適な特性が得られることが判明した。即ち、磁性層と接する側のCVD法で形成された炭素保護層は、磁性層の金属イオンが磁気ディスク表面にマイグレートするのを防止するように作用し、同時に、潤滑層と接する側のスパッタリング法で形成された炭素保護層は、保護層と潤滑層との密着性を向上するように作用するので、その結果、磁気ヘッドの腐食障害やフライスティクション障害を防止でき、LUL方式に好適な磁気ディスクを提供できることを見い出した。
但し、CVD法で形成された炭素保護層とスパッタリング法で形成された炭素保護層とを直接積層した場合、両者の保護層の間には強い膜応力が働く為に相互の付着性が低く、LUL動作を繰り返し行うと、磁気ヘッドから加えられる撃力により、保護層間での膜剥がれを起こしやすい傾向が見られた。また、磁気ヘッドを低浮上量(例えば12nm以下)で飛行させると、磁気ヘッド通過時の強い負圧衝撃により、膜にダメージが起こる傾向が見られた。このような膜剥がれや膜のダメージは磁気ディスクのLUL耐久性を低下させたり、クラッシュ故障の原因となる。
【0010】
本発明者らは更なる検討を進めた結果、CVD法で形成された炭素保護層とスパッタリング法で形成された炭素保護層との間に、グラファイト炭素を含む薄膜層を形成することにより、両者の保護層の間の膜応力が緩和され、上述の膜剥がれや膜のダメージが起こらず、LUL耐久性が向上することが判明した。
本発明者らは、上記知見に基づいて、特に保護層の薄膜化、磁気ヘッドの低浮上量化、LUL方式で顕著となり易い腐食障害等を解決するために、以下の構成を有する発明を完成した。
勿論、CSS方式用磁気ディスクに採用することも好適である。
【0011】
(構成1)ディスク基板上に、磁性層と、炭素系保護層と、潤滑層とを備える磁気ディスクにおいて、前記炭素系保護層は、前記磁性層側に位置するCVD法により形成されたダイヤモンドライク炭素を含む第1の保護層と、前記潤滑層側に位置するスパッタリング法により形成されたダイヤモンドライク炭素を含む第2の保護層とを有し、前記第1の保護層と前記第2の保護層との間に、グラファイト炭素を含む薄膜層が形成されていることを特徴とする磁気ディスク。
(構成2)前記第1の保護層は、水素を含むダイヤモンドライク炭素保護層であり、前記第2の保護層は、窒素を含むダイヤモンドライク炭素保護層であることを特徴とする構成1記載の磁気ディスク。
(構成3)前記潤滑層は、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有することを特徴とする構成1又は2記載の磁気ディスク。
(構成4)前記磁性層はコバルト(Co)合金系磁性層であることを特徴とする構成1乃至3の何れかに記載の磁気ディスク。
(構成5)起動停止機構がLUL方式の磁気ディスク装置に用いることを特徴とする構成1乃至4の何れかに記載の磁気ディスク。
【0012】
本発明の磁気ディスクにおける炭素系保護層は、構成1にあるように、磁性層側に位置する第1の保護層と、潤滑層側に位置する第2の保護層とを含み、第1の保護層と第2の保護層との間に、グラファイト炭素を含む薄膜層が形成されている。第1の保護層はCVD法により形成されたダイヤモンドライク炭素を含む保護層であり、第2の保護層はスパッタリング法により形成されたダイヤモンドライク炭素を含む保護層である。
本発明における炭素系保護層は、アモルファス炭素からなる保護層であり、磁性層側に形成する第1の保護層は、CVD法で形成されたアモルファスのダイヤモンドライク炭素を含む保護層である。ダイヤモンドライク炭素を含むことにより、好適な硬度と耐久性が得られる。本発明における第1の保護層は、このようにCVD法で形成されたダイヤモンドライク炭素を含むが、主成分としてダイヤモンドライク炭素を含むことが好ましい。さらには、CVD法で形成したダイヤモンドライク炭素からなる保護層であることが好ましい。
【0013】
本発明において、CVD法には特に制限はないが、中でも、プラズマを用いて原子を励起させる、プラズマCVD(P-CVD)法により炭素保護層を形成することが好ましい。P-CVD法で形成された炭素保護層は、緻密性と硬度が高く、磁性層の金属イオンが磁気ディスク表面にマイグレートするのを防止できるので、保護層の薄膜化にとって特に好ましい。
P-CVD法で炭素保護層を形成する場合、反応性ガスとして炭化水素ガスを用いてダイヤモンドライク炭素を形成することが好ましい。
上記反応性ガスとしては、低級炭化水素を用いることが好ましい。中でも、低級飽和炭化水素、低級不飽和炭化水素、低級環式炭化水素の何れかを用いることが好ましい。低級飽和炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、オクタン等を用いることができる。また、低級不飽和炭化水素としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、アセチレン等を用いることができる。また、低級環式炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、ナフタレン、シクロヘキサン等を用いることができる。なおここで言う低級とは、1分子当たりの炭素数が1〜10の炭化水素のことである。低級炭化水素を用いることが好ましい理由は、炭素数が増えるにしたがって、ガスとして気化させて成膜装置に供給することが困難となることに加え、プラズマ放電時の分解が困難となるからである。また、炭素数が増えると、形成した保護層に高分子の炭化水素成分が多く含有されやすくなり、保護層の緻密性と硬度を低下させるため好ましくない。
【0014】
これら低級炭化水素の中でも、アセチレンを用いると、緻密且つ高硬度の炭素保護層を形成できるので特に好ましい。
本発明において、CVD法で形成される炭素保護層は、水素を含むダイヤモンドライク炭素(水素化ダイヤモンドライク炭素)の保護層とするのが好ましい。水素を含むことで、保護層の緻密性が更に向上し、硬度も向上させることができるので、本発明にとって特に好ましい。この場合、炭素に対する水素の含有量は、3〜20at%程度の範囲とすることが好ましい。この範囲内で水素を含有することにより、特に緻密性と硬度の優れた炭素保護層を形成することができる。なお、保護層の炭素に対する水素の含有量が多過ぎると、ポリマー状の炭素成分が増大して、磁性層に対する保護層の付着性能が低下する場合があり、LUL起動時に保護層が剥がれる場合があるので好ましくない。
【0015】
このようなCVD法で形成される炭素保護層のラマンスペクトルのB/Aは、1.2〜1.5の範囲内であることが更に好ましい。炭素保護層のラマンスペクトルは、ラマン分光分析により測定することができる。ラマンスペクトルのB/Aとは、測定したラマンスペクトルの最大ピーク強度(B)と、フォトルミネッセンスによるバックグランドを減じる処理を行った後のラマンスペクトルの最大ピーク強度(A)との比のことである。B/Aが1.2未満の場合、炭素保護層の緻密性が損なわれる場合があり、またB/Aが1.5を超えると炭素保護層の硬度が低下する場合があるので好ましくない。従って、B/Aを1.2〜1.5の範囲内とすることにより、CVD法で形成される炭素保護層の緻密性と硬度を更に好適なものとすることができる。
また、CVD法により形成される第1の保護層の膜厚は、1nm以上であることが好ましい。膜厚が1nm未満では、磁性層の金属イオンのマイグレートを防止するのに十分でない場合がある。なお、第1の保護層の膜厚には特に上限を設ける必要はないが、磁気的スペーシングの改善を阻害しないよう、実用上は5nm以下とするのが好ましい。
【0016】
本発明における、潤滑層側に形成する第2の保護層は、スパッタリング法で形成されたアモルファスのダイヤモンドライク炭素を含む保護層である。ダイヤモンドライク炭素を含むことにより、好適な硬度と耐久性が得られる。本発明における第2の保護層は、このようにスパッタリング法で形成されたダイヤモンドライク炭素を含むが、主成分としてダイヤモンドライク炭素を含むことが好ましい。さらには、スパッタリング法で形成したダイヤモンドライク炭素からなる保護層であることが好ましい。
本発明において、スパッタリングの方法には制限はないが、DCマグネトロンスパッタリング法が特に好ましい。
スパッタリング法で炭素保護層を形成する場合、炭素ターゲットを用いて、Ar等の不活性ガスと反応性ガスとの混合ガスでスパッタリングを行い、ダイヤモンドライク炭素を形成することが好ましい。上記反応性ガスとしては、例えば水素ガス、窒素ガス、メタンガス、アンモニアガスなどを用いることができる。
本発明において、スパッタリング法で形成される炭素保護層に窒素を含有させることにより、潤滑層との密着性を更に向上させることができる。これは、炭素保護層に窒素を含有させると、C(炭素)とN(窒素)とが3重結合して、保護層の表面にN+が現れるからであると考えられる。N+は、潤滑層を構成する化合物の末端基(水酸基など)と親和性が高いので、潤滑層と保護層との密着性を更に向上させるものと考えられる。
【0017】
この観点から、スパッタリング法で形成される炭素保護層は、窒素を含むダイヤモンドライク炭素(窒素化ダイヤモンドライク炭素)の保護層とするのが好ましい。この場合、炭素に対する窒素の含有量は、4〜12at%程度の範囲とすることが好ましい。この範囲内で窒素を含有することにより、保護層と潤滑層との密着率を格段に高めることができる。なお、保護層の炭素に対する窒素の含有量が多過ぎると、保護層表面のN+が中性化されることにより、潤滑層の密着率が次第に低下する場合がある。
スパッタリング法により形成される第2の保護層の膜厚は、0.5nm以上であることが好ましい。膜厚が0.5nm未満では、このスパッタリング法で形成される保護層の被覆率が低下し、潤滑層との密着性が低下する場合がある。なお、この第2の保護層の膜厚に特に上限を設ける必要はないが、磁気的スペーシングの改善を阻害しないよう、実用上は5nm以下とするのが好ましい。
【0018】
本発明の磁気ディスクは、CVD法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層とスパッタリング法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層との間に、グラファイト炭素を含む薄膜のアモルファス炭素保護層が形成されている。このようにCVD法で形成された炭素保護層とスパッタリング法で形成された炭素保護層との間に、グラファイト炭素を含む薄膜層を形成することにより、両者の保護層間の膜応力が緩和され、結果として、保護層間の付着力を増大させる作用を得ることができる。ゆえに、LUL動作を繰り返し行っても、保護層間での膜剥がれを起こさず、また、磁気ヘッドを例えば12nm以下の低浮上量で飛行させても、負圧衝撃による膜のダメージは起こらない。このように本発明の磁気ディスクは、保護層の膜剥がれや膜のダメージを防止することができるので、特にLUL方式用の磁気ディスクにとって好適である。
本発明における上記グラファイト炭素を含む薄膜層は、主成分としてグラファイト炭素を含むことが好ましい。さらには、グラファイト炭素からなる薄膜層であることが好ましい。
上記グラファイト炭素を含む薄膜層の形成方法については特に限定されないが、例えば炭素ターゲットを用いて、純Ar等の不活性ガスのみの単体ガスでスパッタリングを行うことにより形成することができる。
【0019】
上記グラファイト炭素を含む薄膜層は、前記第1の保護層、第2の保護層よりも薄い薄膜とする。この薄膜層が、前記第1の保護層、第2の保護層よりも厚いと、保護層全体の膜厚を一定値以下に抑えるためには、必然的に第1の保護層、第2の保護層の膜厚を薄くせざるを得ず、これら保護層の機能が損なわれるので好ましくない。この薄膜層の好ましい膜厚は、0.1nm〜1.0nmである。0.1nm未満では、上述の膜応力の緩和作用が十分得られない場合がある。
なお、上記薄膜層は、第1の保護層と第2の保護層との間に各保護層と接して形成されていてもよいし、また各保護層とは接しないで、薄膜層と第1の保護層との間、薄膜層と第2の保護層との間に、それぞれ他の層を含んでいてもよい。
また、保護層全体の膜厚は、6nm以下とすることが望ましい。6nmを超えると、磁気的スペーシングを20nm以下にまで改善することが困難になる。従って、前記CVD法で形成される第1の保護層と、スパッタリング法で形成される第2の保護層は、保護層全体の膜厚を6nm以下とする範囲内で適宜バランスをとって形成することが好ましい。
本発明においては、6nm以下の極めて薄膜化された保護層であっても、磁気ヘッドの腐食障害やフライスティクション障害を防止することができるため、磁気的スペーシングの改善を図れる。
【0020】
本発明の磁気ディスクは、前記保護層上に潤滑層を備える。潤滑層の素材は特に限定されないが、炭素系保護層との密着性が良好なものが好ましく、構成3にあるとおり、具体的には、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物が好適である。パーフルオロポリエーテル化合物は、直鎖構造を備え、磁気ディスク用に適度な潤滑性能を発揮するとともに、末端基に水酸基(OH)を有することで、炭素保護層に対して高い密着性能を発揮することができる。特に、潤滑層側にある第2の保護層に窒素を含有する場合にあっては、該保護層表面のN+と潤滑層のOH−とが高い親和性を示すので、高い潤滑層密着率を得ることができる。
なお、上記末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物における1分子が備える水酸基の数は2〜4個であることが好ましい。水酸基が2個未満であると潤滑層の密着率が低下する場合があるため好ましくなく、4個を超えると潤滑層の密着性が向上し過ぎる結果、本来の潤滑性能を低下させる場合がある。
潤滑層の膜厚は、本発明では0.5nm〜1.5nmの範囲内で適宜調整するのがよい。潤滑層の膜厚が0.5nm未満では潤滑性能が低下する場合があり、1.5nmを超えると潤滑層密着率が低下する場合がある。
【0021】
本発明においては、磁性層を構成する元素は特に限定されないが、構成4にあるとおり、コバルト(Co)合金系磁性層であることが好ましい。Co合金系磁性層は保持力が高く耐食性があるため高記録密度化にとって好適であるが、Coイオンが保護層内に浸出し、磁気ディスク表面にマイグレートし易いという欠点があった。従って、スペーシングロスを低減させるために保護層膜厚を低減させると腐食障害が発生し易い場合があるが、本発明ではこれら欠点を十分に抑えられるので好適である。
本発明に好適なCo系合金として具体的には、CoPt系合金、CoCr系合金、CoCrPt系合金等が挙げられる。中でも、CoCrPt系合金からなる磁性層は、磁性グレインを微細化でき、かつグレインの磁気異方性定数を向上させることができるので、高記録密度化に特に好適である。
【0022】
本発明において、基板としてはガラス基板を使用するのが好ましい。ガラス基板は、平滑性が高く高剛性が得られるので、高記録密度化に伴う磁気ヘッドの低浮上量化の要求を満たすことが可能である。ガラス基板の材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は結晶化ガラス等のガラスセラミックス等が挙げられる。中でも、アルミノシリケートガラスは、耐衝撃性や耐振動性に優れるため特に好ましい。
このようなアルミノシリケートガラスは、化学強化することによって、ガラス基板表面に圧縮応力層を設けることができ、抗折強度や、剛性、耐衝撃性、耐振動性、耐熱性に優れ、高温環境下にあってもNaの析出がないとともに、平坦性を維持し、ヌープ硬度にも優れる。
また、ガラス基板の厚さは、0.1mm〜1.5mm程度が好ましい。
【0023】
基板上に、少なくとも上述の磁性層と保護層と潤滑層を形成することにより、本発明の磁気ディスクが得られる。具体的な実施形態としては、基板上に、シード層、下地層、磁性層、保護層、潤滑層を設けた磁気ディスクとするのが好適である。
シード層としては、例えば、Al系合金、Cr系合金、NiAl系合金、NiAlB系合金、AlRu系合金、AlRuB系合金、AlCo系合金、FeAl系合金等のbccまたはB2結晶構造型合金等を用いることにより、磁性粒子の微細化を図ることができる。特に、AlRu系合金、中でもAl:30〜70at%、残部がRuの配合量の合金であれば、磁性粒子の微細化作用に優れているので好ましい。
下地層としては、Cr系合金、CrMo系合金、CrV系合金、CrW系合金、CrTi系合金、Ti系合金等の磁性層の配向性を調整する層を設けることができる。特に、CrW系合金、中でも、W:5〜40at%、残部がCrの配合量の合金は、磁性粒子の配向を整える作用に優れているので好ましい。
その他の、磁性層、保護層及び潤滑層についての詳細はすでに説明したとおりである。
【0024】
本発明において、保護層の形成方法はすでに説明したとおりであるが、その他の各層を成膜する方法については、公知の技術を用いることができ、たとえばスパッタリング法(DCマグネトロンスパッタ、RFスパッタ等)、プラズマCVD法等を採用できる。また、前記潤滑層の形成は、ディップ法、スプレイ法、スピンコート法等、公知の方法を用いることが出来る。
本発明において、磁気ディスク表面の表面粗さは、Rmaxで6nm以下であることが好ましい。6nmを超えると、磁気的スペーシング低減を阻害する場合があるので好ましくない。なお、ここで言う表面粗さとは、日本工業規格(JIS)B0601に定めるものである。
本発明の磁気ディスクは、LUL耐久性に優れ、LUL方式の磁気ディスク装置に搭載する磁気ディスクに好適である。
【0025】
また、本発明は、MR(磁気抵抗効果型)再生素子を搭載する磁気ヘッド用として特に好適である。MR型再生素子は高出力が得られる利点があるものの、一方で腐食されやすいという課題もあったが、本発明によれば、磁気ディスク上のコンタミや潤滑層が磁気ヘッドへ移着堆積するのを防止できるので、その結果、磁気ヘッドの腐食障害を防止でき、高記録密度化には好適である。MR型再生素子としては、AMR素子、DSMR素子、GMR素子、TMR素子等が挙げられる。
また、本発明は、NPAB(負圧型)スライダーを備える磁気ヘッド用として特に好適である。NPABスライダーは、シーク角度によらず安定した浮上量が得られる利点があるが、一方でスライダー表面に強い負圧が発生するため、磁気ディスク上のコンタミがポケット部に移着堆積しやすいという課題があり、また磁気ディスクの保護層に強い負圧衝撃を加える場合がある。本発明によれば、磁気ディスク上のコンタミや潤滑層が磁気ヘッドへ移着堆積するのを防止し、腐食障害やフライスティクション障害の発生を防止でき、また負圧衝撃による保護層ダメージを防止できるので、高記録密度化に資することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を挙げて、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
本実施例の磁気ディスク10は、図1に示すように、ガラス基板1上に、シード層2aと下地層2bとからなる非磁性金属層2、磁性層3、炭素系保護層4、潤滑層5を順次積層してなる。ここで、上記炭素系保護層4は、磁性層3側に位置するCVD法により形成されたダイヤモンドライク炭素からなる第1の保護層4aと、潤滑層5側に位置するスパッタリング法により形成されたダイヤモンドライク炭素からなる第2の保護層4cと、これら第1の保護層4aと第2の保護層4cとの間に形成されたグラファイト炭素からなる薄膜層4bとから構成される。なお、上記磁性層3以外は全て非磁性体である。
【0027】
次に、本実施例の磁気ディスク10の製造方法を説明する。
本実施例では、まず、溶融ガラスから上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスにより直径66mmφ、厚さ1.5mmの円盤状のアルミノシリケートガラスからなるガラス基板を得、これに研削、精密研磨、端面研磨、精密洗浄、化学強化を施すことにより、磁気ディスク用ガラス基板1を製造した。
上記工程を経て得られたガラス基板1の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Rmax=4.48nm、Ra=0.40nmと平滑な表面を持つ磁気ディスク用ガラス基板であることを確認した。なお、得られたガラス基板1は、外径は65mm、内径は20mm、板厚は0.635mmの2.5インチ型磁気ディスク用基板であった。
【0028】
次に、静止対向型成膜装置を用いて、上記ガラス基板1上に、DCマグネトロンスパッタリングにより、シード層2a、下地層2b、及び磁性層3を順次形成した。
即ち、まずスパッタリングターゲットとしてAlRu(Al:50at%、Ru:50at%)合金を用い、膜厚30nmのAlRu合金からなるシード層2aを成膜した。次に、スパッタリングターゲットとしてCrMo(Cr:80at%、Mo:20at%)合金を用い、シード層2a上に、膜厚20nmのCrMo合金からなる下地層2bを成膜した。次いで、スパッタリングターゲットとしてCoCrPtB(Cr:20at%、Pt:12at%、B:5at%、残部Co)合金を用い、下地層2b上に、膜厚15nmのCoCrPtB合金からなる磁性層3を成膜した。
【0029】
次に、上記磁性層3上に、P-CVD法を用いて第1の炭素保護層4aを形成した。具体的には、反応性ガスとしてアセチレンを用い、膜厚3.0nmのアモルファス状の水素化ダイヤモンドライク炭素からなる保護層が形成されるように成膜を行った。
なお、このとき、プラズマに電圧を印加するなどして、IBD(Ion Beam Deposition)としてP-CVD成膜を行ってもよい。
こうして第1の炭素保護層4aまで成膜されたディスクを水素前方散乱法(HFS)で分析したところ、水素の含有量は15at%であった。また、ラマン分光分析を行ったところ、B/Aは1.41であった。このラマン分光分析の測定は次のとおりに行った。
まず、上記炭素保護層4aの表面に、波長514.5nmのArイオンレーザーを照射し、900cm-1〜1800cm-1の波数帯に現れるラマン散乱によるラマンスペクトルを観察した。ここで、900cm-1〜1800cm-1の波数帯に現れる最大ピークのピーク強度をBとした。次に、このラマンスペクトルに現れているフォトルミネッセンスと考えられるバックグランドを除去した。具体的には、900cm-1付近の検出強度及び1800cm-1付近の検出強度を基に、フォトルミネッセンスの強度を算出し、ラマンスペクトルから差し引いた。このバックグランド除去を行った後の前記最大ピークのピーク強度をAとし、強度Aに対する強度Bの比をB/Aとして求めた。
【0030】
次に、上記第1の炭素保護層4a上に、DCマグネトロンスパッタリング法を用いてグラファイト炭素からなる薄膜層4bを形成した。具体的には、純Ar(アルゴン)のみの単体ガスを用いて炭素ターゲットをスパッタリングした。このようにして、膜厚0.5nmのアモルファス状のグラファイト炭素からなる炭素薄膜層が形成されるように成膜を行った。
次に、上記炭素薄膜層4b上に、DCマグネトロンスパッタリング法を用いて第2の炭素保護層4cを形成した。具体的には、炭素ターゲットを用い、Arガスに水素ガスを加え、水素ガス含有量を30%とした混合ガス雰囲気下でスパッタリングした。このようにして、膜厚1.0nmのアモルファス状の水素化ダイヤモンドライク炭素からなる保護層が形成されるように成膜を行った。
なお、第2の炭素保護層4cの水素含有量及びB/Aを分析したところ、前記第1の炭素保護層4aと同等であった。
本実施例における炭素系保護層4の全膜厚は、上記第1の炭素保護層4a、炭素薄膜層4b及び第2の炭素保護層4cの各膜厚を合算した4.5nmである。
【0031】
次に、上記炭素系保護層4の上に、ディップ法を用いて、PFPE(パーフルオロポリエーテル)化合物からなる潤滑層5を形成した。具体的には、アウジモント社製のアルコール変性フォンプリンゼット誘導体を用いた。この化合物は、PFPEの主鎖の両末端にそれぞれ1〜2個、即ち一分子当たり2〜4個の水酸基を有している。潤滑層5の膜厚は1nmとした。
以上のようにして本実施例の磁気ディスク10を製造した。
得られた磁気ディスク10の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Rmax=4.61nm、Ra=0.41nmの平滑な表面であることを確認した。
また、得られた磁気ディスク10のグライドハイトを測定したところ、4.7nmであった。磁気ヘッドの浮上量を安定的に12nm以下とする場合、磁気ディスクのグライドハイトは6nm以下とすることが望ましい。
【0032】
さらに、得られた磁気ディスク10について、以下の各種性能試験を行った。
〔潤滑層密着性試験〕
まず、得られた磁気ディスクの潤滑層膜厚をFTIR(フーリエ変換型赤外分光光度計)で評価した。次に、上記磁気ディスクをフッ素系溶媒に浸漬させた。フッ素系溶媒に浸漬させることで、付着力の弱い潤滑層部分は溶媒に溶解してしまうが、付着力の強い部分は保護層上に残留することができる。次に、磁気ディスクを溶媒中から引き上げ、再び、FTIRで潤滑層膜厚を測定した。溶媒浸漬前の潤滑層膜厚に対する溶媒浸漬後の潤滑層膜厚の比率を潤滑層密着率(ボンデット率)と呼び、ボンデット率が高ければ、保護層に対する潤滑層の密着性が高いことを示す。具体的には、ボンデット率は80%以上であることが好ましい。本実施例の磁気ディスクでは、ボンデット率は83%であった。
【0033】
〔LUL耐久性試験〕
LUL耐久性試験は、磁気記録装置に、上記磁気ディスクと、巨大磁気抵抗効果型再生素子(GMR素子)を備えた磁気ヘッドとを装着して行った。磁気ディスクの回転数は5400rpmとし、磁気ヘッドのスライダーはNPAB(負圧型)スライダーを用い、磁気ヘッド浮上時の浮上量を12nmとし、磁気記録装置内の環境を70℃、80%RHの高温高湿環境下で、磁気ヘッドのロード・アンロード動作を連続繰り返し行った。磁気記録装置が故障することなく耐久したLUL回数を測定することにより、LUL耐久性を評価した。
本実施例の磁気ディスクでは、LUL回数は故障なく60万回を超えることができた。通常、LUL耐久性試験では、LUL回数が故障なく連続して40万回を超えることが必要とされる。通常のHDDの使用環境では、LUL回数が40万回を超えるには10年程度の使用が必要であると言われている。
【0034】
また、上記のLUL耐久性試験後、磁気記録装置から磁気ヘッドを取り出し、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)で磁気ヘッドのスライダー部、GMR素子部、シールド部を観察することにより、コンタミ移着の有無、腐食状況及びCo元素の存在の有無を検査した。その結果、上記LUL試験後の磁気ヘッドには、コンタミの移着は観察されず、また腐食障害も観察されず、さらにCo元素も検出されなかった。
【0035】
〔フライスティクション試験〕
本実施例の磁気ディスクを100枚製造し、浮上量6nmのグライドヘッドを用いてグライド試験を行うことで、フライスティクション障害の発生状況を検査した。本実施例の磁気ディスクのグライドハイトは前記のように4.7nmであるので、このように試験を行うことでフライスティクション障害の検査を行うことができる。具体的には、フライスティクション障害が発生すると、グライドヘッドの浮上姿勢が突然不安定となるので、グライドヘッドに接着された圧電素子の信号をモニタすることで、フライスティクション障害の発生を感知することができる。
本実施例の磁気ディスクは全て試験に合格し、フライスティクション障害は発生しなかった。
なお、本実施例の磁気ディスクについての以上各種性能試験結果は纏めて後記表1にも示した。
【0036】
(実施例2)
本実施例の磁気ディスクは、実施例1の磁気ディスクにおいて、スパッタリング法で形成した第2の炭素保護層4cを、スパッタリング法で形成した窒素化ダイヤモンドライク炭素からなる保護層とした点以外は、実施例1の磁気ディスクと同様に製造した。
具体的には、実施例1の磁気ディスクにおけるグラファイト炭素を含む炭素薄膜層4b上に、DCマグネトロンスパッタリング法で、炭素ターゲットを用い、Arガスに窒素ガスを加え、窒素ガス含有量を22%とした混合ガス雰囲気下でスパッタリングした。このようにして、膜厚1.0nmのアモルファス状の窒素化ダイヤモンドライク炭素からなる第2の炭素保護層4cが形成されるように成膜を行った。
得られた窒素化ダイヤモンドライク炭素からなる第2の炭素保護層4cにおける窒素含有量をX線光電子分光分析法(ESCA)により分析したところ、8at%であった。また、得られた本実施例の磁気ディスクの表面粗さ及びグライドハイトは実施例1の磁気ディスクと同様であった。
本実施例の磁気ディスクについて実施例1と同様に各種性能評価試験を行ない、その結果を後記表1に示した。
【0037】
(比較例1)
本比較例では、実施例1の磁気ディスクにおける三層からなる炭素系保護層4を一層とし、この保護層をCVD法により形成した点以外は、実施例1と同様に磁気ディスクを製造した。但し、保護層としての膜厚を実施例1(4.5nm)と一致させるために、本比較例の炭素保護層の膜厚は4.5nmとした。本比較例のCVD法による炭素保護層の形成方法は、膜厚を除いて実施例1における第1の炭素保護層4aの形成方法と同様である。
得られた炭素保護層の水素含有量及びB/Aを実施例1と同じ方法で分析したところ、実施例1のCVD法で形成した第1の炭素保護層4aと同様であった。
得られた本比較例の磁気ディスクの表面粗さ及びグライドハイトは実施例1の磁気ディスクと同様であった。
また、本比較例の磁気ディスクについて実施例1と同様に各種性能評価試験を行ない、その結果を後記表1に示した。
【0038】
(比較例2)
本比較例では、実施例1の磁気ディスクにおける三層からなる炭素系保護層4を一層とし、この保護層をスパッタリング法により形成した点以外は、実施例1と同様に磁気ディスクを製造した。但し、保護層としての膜厚を実施例1(4.5nm)と一致させるために、本比較例の炭素保護層の膜厚は4.5nmとした。本比較例のスパッタリング法による炭素保護層の形成方法は、膜厚を除いて実施例1における第2の炭素保護層4cの形成方法と同様である。
得られた炭素保護層の水素含有量及びB/Aを実施例1と同じ方法で分析したところ、実施例1のスパッタリング法で形成した第2の炭素保護層4cと同様であった。
得られた本比較例の磁気ディスクの表面粗さ及びグライドハイトは実施例1の磁気ディスクと同様であった。
また、本比較例の磁気ディスクについて実施例1と同様に各種性能評価試験を行ない、その結果を後記表1に示した。
【0039】
(比較例3)
本比較例では、実施例1の磁気ディスクにおける炭素系保護層4を構成するグラファイト炭素薄膜層4bは形成せず、CVD法による第1の炭素保護層4aとスパッタリング法による第2の炭素保護層4cの二層構成とした点以外は、実施例1と同様に磁気ディスクを製造した。但し、保護層としての膜厚を実施例1(4.5nm)と一致させるために、本比較例の第1の炭素保護層4aの膜厚は3.5nmとし、第2の炭素保護層4cの膜厚は実施例1と同じ1.0nmとした。本比較例のCVD法による炭素保護層の形成方法は、膜厚を除いて実施例1における第1の炭素保護層4aの形成方法と同様であり、スパッタリング法による炭素保護層の形成方法は、実施例1における第2の炭素保護層4cの形成方法と同様である。
本比較例の炭素保護層の水素含有量及びB/Aを実施例1と同じ方法で分析したところ、実施例1と同様であった。
また、本比較例の磁気ディスクの表面粗さ及びグライドハイトは実施例1の磁気ディスクと同様であった。
さらに、本比較例の磁気ディスクについて実施例1と同様に各種性能評価試験を行ない、その結果を下記表1に示した。なお、LUL耐久性試験で故障した本比較例3の磁気ディスクを検査したところ、保護層表面に傷が入っていた。
【0040】
【表1】
Figure 0004113787
上記表1の結果を参照して次のことがわかる。
すなわち、本発明の実施例1,2の結果から、炭素系保護層として、CVD法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層を磁性層側に、スパッタリング法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層を潤滑層側に配置することにより、磁性層からのCoイオンのマイグレーションを防止でき、かつ、ボンデット率を向上させることができる。これは、磁性層側に配置するCVD法で形成された炭素保護層が緻密であるため、磁性層からCoイオンがマイグレートするのを防止できるからであると考えられる。また、潤滑層側に配置するスパッタリング法で形成された炭素保護層は潤滑層に対する密着性を向上できるからであると考えられる。そして、潤滑層側に配置する炭素保護層に窒素を含有させることにより、潤滑層との密着性を更に向上させ、ボンデット率を高められることが判る。
【0041】
しかも、本発明の実施例では、CVD法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層とスパッタリング法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層との間に、グラファイト炭素からなる薄膜層を形成することにより、LUL耐久性を大幅に向上できることが判る。これは、グラファイト炭素薄膜層によって、CVD法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層とスパッタリング法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層との間に働く膜応力が緩和されたために、両者の付着力が増強され、保護層全体としてのLUL耐久性が向上したものと考えられる。
これに対し、比較例3のように、CVD法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層とスパッタリング法で形成されたダイヤモンドライク炭素保護層とを積層形成しただけでは、両者の付着力が低いために膜剥れ等が起り易く、LUL耐久性が劣り実用レベルに達していない。また、比較例1では、保護層と潤滑層との密着性が劣り、ボンデット率も低く、磁気ヘッドのコンタミ移着や腐食障害が認められる。また、比較例2では、炭素保護層の緻密性が劣り、磁性層からのCoイオンのマイグレーションを防止することができない。
【0042】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明の磁気ディスクによれば、磁気ヘッドの腐食障害、フライスティクション障害の発生を防止し、保護層の薄膜化を可能として高記録密度化に好適である。また、磁気ヘッドの低浮上量化に好適で、高記録密度化を実現できる。さらに、本発明の磁気ディスクは、LUL耐久性が非常に優れるので、LUL方式の磁気ディスク装置に好適であり、磁気ディスク装置の高容量化を可能とする。
また、本発明の磁気ディスクは、磁性層側に配置する第1の炭素保護層に水素を含有し、潤滑層側に配置する第2の炭素保護層に窒素を含有することにより、第1の炭素保護層の緻密性を更に向上させて磁性層の金属イオンのマイグレーションを防止出来るとともに、第2の炭素保護層と潤滑層との密着性を更に向上させて潤滑層の移着を防止できる。
また、本発明の磁気ディスクは、潤滑層として末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有することにより、本発明における炭素保護層との高い密着性が得られる。
また、本発明の磁気ディスクは、高記録密度化に適したCo系合金磁性層を用いても、Coイオンのマイグレーションを防止できるので、コンタミ移着による磁気ヘッドの腐食障害等を防止して、高記録密度化に資する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の磁気ディスクの層構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 非磁性金属層
2a シード層
2b 下地層
3 磁性層
4 炭素系保護層
4a 第1の炭素保護層
4b グラファイト炭素薄膜層
4c 第2の炭素保護層
5 潤滑層
10 磁気ディスク

Claims (4)

  1. ディスク基板上に、磁性層と、炭素系保護層と、潤滑層とを備える LUL 方式の磁気ディスク装置に用いる磁気ディスクにおいて、
    前記炭素系保護層は、前記磁性層側に位置するCVD法により形成されたダイヤモンドライク炭素を含む第1の保護層と、前記潤滑層側に位置するスパッタリング法により形成されたダイヤモンドライク炭素を含む第2の保護層とを有し、前記第1の保護層と前記第2の保護層との間に、グラファイト炭素を含む薄膜層が形成されていることを特徴とする磁気ディスク。
  2. 前記第1の保護層は、水素を含むダイヤモンドライク炭素保護層であり、前記第2の保護層は、窒素を含むダイヤモンドライク炭素保護層であることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク。
  3. 前記潤滑層は、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の磁気ディスク。
  4. 前記磁性層はコバルト(Co)合金系磁性層であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の磁気ディスク。
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