JP4113148B2 - Fe−Ni合金板のスラブ段階での最大非金属介在物の大きさの特定する方法 - Google Patents

Fe−Ni合金板のスラブ段階での最大非金属介在物の大きさの特定する方法 Download PDF

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Description

本発明は、Fe-Ni合金板の表面品質の低下をもたらすFe-Ni合金スラブでの最大非金属介在物の大きさを圧延後の合金板としたあとで特定する方法に関する。
近年、Fe-Ni合金板は、シャドウマスク用(Fe-36%Ni合金板)およびリードフレーム用(Fe-42%Ni合金板)の合金板として注目されている。そして、Fe-Ni合金板を上記の用途に用いるには、0.01〜0.5mm程度に冷間圧延し、その後打ち抜き加工やエッチング加工を施す等、高い精度での加工が要求されることから、表面品質や内部品質に優れたものが求められる。しかし、Fe-Ni合金板は、一般に、合金を構成する成分以外に非金属介在物を含有するのが普通である。その非金属介在物のうちの大型のものは、該合金板のエッチング加工時にエッチング孔の形状不良を招いたり、製品表面の疵の原因となるという問題がある。このため、従来、Fe-Ni合金スラブの成分組成を調整するなどして、非金属介在物の含有量そのものを少なくしたり、そのうち大型のものの含有量を少なくするなどして、上記問題に対処してきた。
しかし、このような対処法では、Fe-Ni合金板中の大型非金属介在物の生成を抑えることはできるものの、その含有量や大きさを具体的に特定評価することはできない。即ち、この合金板中に大型非金属介在物が含まれていた場合には、該合金板を製品厚にまで圧延し表面品質の劣る製品が得られて初めてそうした大型非金属介在物含有Fe-Ni合金板であったことが後で判明するにとどまり、どうしても製品不良の発生を阻止できないという問題があった。
そこで、従来、上述した圧延板中に存在する非金属介在物を評価する方法として、たとえば、JISによる清浄度の評価方法(JIS G 0555)があった。しかし、この評価方法は、非金属介在物含有の割合を表すものであって、その大きさまで評価するものではなかった。
その他、Fe-Ni合金スラブ等の金属材料から酸溶解により非金属介在物を抽出し、その粒径を顕微鏡で評価する方法や、EB法によりFe-Ni合金スラブ等の金属材料を溶解し、浮上した非金属介在物を顕微鏡により観察する方法も提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、これらの方法は、介在物が酸で溶解したり、介在物自身が溶解、凝集したりするという問題を抱えており、また、酸溶解にも時間がかかるため、製品の量産工程に対応することが困難であるという問題があった。
さらに、非金属介在物の評価方法としては、例えば、特許文献3のEB法や、特許文献4の電気分解による抽出残渣の測定が知られている。特許文献3に記載の方法では、Fe-Ni合金スラブ等の金属材料から試験片を取り出し、その表面に非金属介在物を浮上させるために電子ビームを照射して試料片を溶解する必要があるとともに、大型の装置が必要になるという問題点があった。また、特許文献4に記載の方法では、Fe-Ni合金スラブ等の金属材料から試験片を取り出し、その試験片を電気分解し、残渣を水簸した後、磁気選別して非金属介在物を分離する必要があるため試験手順が複雑であるという問題点があった。
特開平9−125199号公報 特開平9−125200号公報 特開2003−65980号公報 特開2001−159627号公報
そこで、本発明は、Fe-Ni合金スラブ段階での所定の面積中に存在する最大非金属介在物の大きさを、最終製品とする前の圧延後の合金板を観察することにより迅速かつ簡便に特定する方法を提供することを目的とする
従来技術が抱えている上述した問題点に鑑み、それの克服を目的に鋭意研究を行った結果、発明者らは、Fe-Ni合金スラブを熱間圧延または、熱間および冷間圧延することによりFe-Ni合金板を製造する過程において、圧延後の合金板を圧延方向に対して直角ないしほぼ直角に切断した断面の一部を検査基準面積とし、その検査基準面積内にある非金属介在物の幅方向長さを顕微鏡観察し、観察される該非金属介在物の最大幅方向長さから、その圧延板のスラブ段階における最大非金属介在物の大きさを推定することを特徴とするFe-Ni合金板のスラブ段階での最大非金属介在物の大きさを特定する方法を開発するに到った。
とくに、本発明は、圧延後の合金板を顕微鏡観察することによりスラブ段階における非金属介在物の最大粒径を推定するに当たり、圧延方向に対して直角ないしほぼ直角に切断された断面の任意の一検査基準面積S0内にある最大非金属介在物の幅方向長さ(L)を測定し、この幅方向長さ(L)が、該検査基準面積S0に対応するスラブ段階の面積S0 内に存在する最大非金属介在物の直径と等しいものとして、下記(1)式よりスラブ内に存在していた最大非金属介在物面積の√areaを算出し、こうした手順を、上記切断面の複数箇所(n)において繰り返し、算出されたn個の√areaを昇順に並べ替え、下記(2)式よりj番目にあたる上記√areaに対応する第一基準化変数(昇順)yを求め、この第一基準化変数(昇順)yと該√areaとで極値統計による処理を行うことにより、下記(3)式に示す平均基準化変数yを求め、次いで、最大非金属介在物の粒径を推定する面積Sと前記検査基準面に対応するスラブ時の面積S0 とから、下記(4)式より再帰期間Tを算出し、次いで、この再帰期間Tと下記(5)式とから第二基準化変数(面積比)ymaxを算出し、この第二基準化変数(面積比)ymaxと下記(3)式とからFe-Ni合金スラブ中の最大非金属介在物の断面積の平方根√areamaxを算出し、この√areamaxをFe-Ni合金スラブ中にある最大非金属介在物の大きさとすることを特徴とする方法である。

√area=√π(L/2)2 (1)
=-ln[-ln{j/(n+1)}] (j=1〜n) (2)
y=a√area+b (3)
T=(S+S0 )/S0 (4)
max=-ln[-ln{(T-1)/T}] (5)
ただし、
n:検査個数
:第一基準化変数(昇順)
y:平均基準化変数
a:再帰係数
b:定数
S:最大非金属介在物の大きさを推定する面積
0 :検査基準面S0に対応するFe-Ni合金スラブ時の面積
T:再帰期間
max:第二基準化変数(面積比)
本発明によれば、圧延板の断面を観察することにより、かつ極値統計処理を行うことによって、圧延板からその板の上流工程に当たるスラブ段階における最大非金属介在物の大きさを迅速かつ簡便に特定することができるとともに、その特定された最大非金属介在物の大きさに基づき、該合金板を製品用途に応じて適格に仕分けることができるようになる
Fe-Ni合金スラブは、一般に100〜300mmの厚みを有するので、このスラブ中にある非金属介在物の状態を顕微鏡観察しようとすると、その観察面積はかなり大きなものとなる。そして、その観察に要する時間も多大なものとなる。そこで、本発明では、その観察面積を小さくすると同時に、観察時間を短縮するために、そのスラブを熱間圧延するか、または熱間および冷間圧延されたFe-Ni合金板とした後の圧延板の断面を顕微鏡観察することにした。なお、Fe-Ni合金板の圧下率は、90.00〜99.83%程度とすることが好ましい。その理由は、圧下率が90.00%よりも小さいと、板厚が厚くなり、厚み方向の全断面を観察するのに多大な時間を要してしまうからである。一方、圧下率が99.83%よりも大きいと、非金属介在物が圧延方向に対して広範囲に分散されてしまうため、観察する断面によっては非金属介在物が検出されないおそれがあるからである。
一般に、Fe-Ni合金スラブを熱間圧延、または熱間圧延および冷間圧延によって圧延する過程においては、Fe-Ni合金板中の非金属介在物は、該合金スラブとともに延伸される。しかし、非金属介在物は、圧延方向に対しては延伸されるものの、圧延方向に対して直角の方向ないしはほぼ直角方向にはほとんど延伸されることはない。従って、該合金スラブ中の非金属介在物の粒径は、延伸されたFe-Ni合金板中の非金属介在物の圧延方向に対して直角ないしはほぼ直角方向の長さとほぼ一致し、圧延合金板断面に現れる幅方向(圧延方向に直交する面)の非金属介在物の大きさ、とくに最大長さは、そのままスラブ中にある非金属介在物粒子の最大粒径として考えることができる。
なお、観察する断面の圧延方向に対する角度は、直角ないしはほぼ直角とするが、具体的には80〜90°、好ましくは85〜90°の角度である。その理由は、非金属介在物を顕微鏡観察する断面として、圧延方向に対して80°よりも小さな角度で切断された断面を採用すると、非金属介在物を斜め方向に切断することになってしまうため、測定されるその介在物の幅は、本来の値より大きな値となるからである。
本発明に係る特定方法は、Fe-Ni合金板中の最大非金属介在物の幅方向長さの顕微鏡観察(手順1)、極値統計処理による再帰直線y=a√area+bの導出(手順2)およびFe-Ni合金スラブ段階での最大非金属介在物の大きさの推定(手順3)という三段階を経る。
手順1においては、まず、Fe-Ni合金スラブを熱間圧延、または熱間および冷間圧延して得たFe-Ni合金板の圧延方向に対して直角ないしはほぼ直角の断面に、図1(a)に示すような検査基準面積S0を定める。検査基準面積S0は、図1(a)に示すように、Fe-Ni合金板の幅方向の一部分に設けた長さaおよび板厚に相当する長さbにより囲まれる部分(面積)のことである。顕微鏡観察は、この検査基準面積S0を1つの単位として行う。また、検査基準面積S0の幅方向の長さaは、10〜40mmの範囲内とすることが好ましい。その理由は、40mmよりも大きいと、観察面積が大きくなり迅速な検査が困難となるからである。一方、10mmよりも小さいと、非金属介在物の検出感度が低下してしまうからである。なお、該合金板の板厚bは、上記圧下率より算出される値0.17〜30mmであることが好ましい。より好ましくは、0.5〜10mmである。
そして、この検査基準面積S0内を顕微鏡観察し、非金属介在物のうちで最も大きな幅方向長さ(L)を有するものを探す。そして、得られた最大非金属介在物の幅方向長さ(L)を、該検査基準面積S0に対応するFe-Ni合金スラブ時の面積S0 において球状にて存在する最大非金属介在物の直径とみなし、(1)式より該合金スラブ中の最大非金属介在物の面積の平方根√areaを求める。
√area=√π(L/2)2 (1)
検査基準面S0に対応するFe-Ni合金スラブ時の面積S0 *は、図1(b)に示すように、その幅方向の長さaは検査基準面積S0と等しく保ったまま、その厚み方向の長さがFe-Ni合金スラブの厚さに相当するb’(>b)と等しくなったものである。
以上の作業を、図1(a)に示すように、該合金板の厚み方向の断面中の異なるn部位に、その幅方向の長さaが全て等しくなるように設定された検査基準面S0において繰り返す。
検査個所数nは、10〜20個所が好ましい。その理由は、この範囲であれば、顕微鏡観察による測定作業の負担もそれほど大きなものとはならず迅速に測定を行うことができ、また統計的にも信頼できる推測試料を得ることができるからである。より好ましくは、15個所である。また、この検査個所は、Fe-Ni合金板の圧延方向に対して直角方向の断面の中央付近から選ぶことが好ましい。その理由は、統計的にも信頼できる最大非金属介在物の大きさの推測試料を得るためである。
手順2においては、まず、手順1で得られたn個の√areaを昇順に並べ替える。そして、j番目にあたる√areaに対応する第一基準化変数(昇順)yを、(2)式より求める。
=-ln[-ln{j/(n+1)}] (j=1〜n) (2)
最後に、この第一基準化変数(昇順)yで極値統計による処理を行うことにより下記(3)式を導出する。
y=a√area+b (3)
手順3は、具体的には、√areamaxを求めることである。まず、検査基準面積S0に対応するFe-Ni合金スラブ時の面積S0 *と最大非金属介在物の大きさを推定する面積Sと下記(4)式より再帰期間Tを算出する。
T=(S+S0 )/S0 (4)
なお、最大非金属介在物の大きさを推定する面積Sは、図1(b)において網がけを施したFe-Ni合金スラブの厚み方向の断面全体の面積のことである。なお、最大非金属介在物の大きさを推定する面積Sは、S=325,000mm2程度とすることが望ましい。その理由は、この面積は、おおよそ1mm厚の薄板にて、約100mの表面にあたり、この領域であれば充分な評価となり得るからである。
次に、この再帰期間Tと下記(5)式より第二基準化変数(面積比)ymaxを算出する。
max=-ln[-ln{(T-1)/T}] (5)
最後に、この第二基準化変数(面積比)ymaxと上記(3)式より√areaを算出し、これを√areamaxする。そして、この√areamaxは、Fe-Ni合金板の表面品質を評価する指標となるものであって、Fe-Ni合金スラブ中にある最大非金属介在物の大きさを示す数値である。
本発明において、このFe-Ni合金スラブ中の最大非金属介在物の断面積の平方根√areamaxは、200μm以下とすることが好ましい。その理由は、200μm超のFe-Ni合金板では、熱間圧延、または熱間圧延及び冷間圧延によって圧延することにより、非金属介在物に起因する表面欠陥が多数発生してしまい、良好な表面品質を確保できなくなるからである。なお、好ましくは、150μm以下であり、より好ましくは、100μm以下である。
次に、本発明方法を適用して得られるFe-Ni合金の代表的な製造方法説明する。
まず、電気炉において原料を溶解し、その後、AODおよび/またはVODにおいて、酸素を吹精し、脱炭、脱クロム、脱リンする。その原料としては、鉄屑、FeNi、Ni等を使用する。その後、スラグを取り除いた後に、FeSiおよび/または金属Siにより脱酸、脱硫を行う。この際、石灰石、螢石のいずれかまたは一方を投入することにより、生成したシリカとともにCaO-SiO2系のスラグとする。AODあるいはVODの耐火物には、マグネシア含有れんが(マグクロ、ドロマイト、マグネシアカーボン)を用いるため、スラグは、CaO-SiO2-MgO系のものとなる。耐火物保護の目的でMgO含有耐火物屑を添加してもよい。
以下に、成分範囲を規定した理由を説明する。
Ni:30〜45wt%
Niは、Fe-Ni合金の熱膨張に大きな影響を及ぼす元素であり、200℃では、36wt%付近で熱膨張率が極小になることが知られている。500℃では、42wt%付近で熱膨張率が極小となることが知られている。30wt%未満、または45wt%超では、熱膨張率が大きすぎるため、要求特性に答えられなくなる。したがって、Niの含有量は、30〜45wt%が好適である。
Si:0.005〜0.2wt%
Siは、溶鋼の脱酸に必要な元素である。さらに、介在物組成を、MnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。このSiの含有量が0.005wt.%未満だと、脱酸が不十分となり、非金属介在物量が多くなる。非金属介在物が増えることで、大型介在物の発生頻度も高くなり、これら大型介在物が表面欠陥をもたらし、Fe-Ni合金板に要求される品質を満足できなくなる。一方、Siの含有量が0.2wt%超だと、熱膨張率が大きくなり、Fe-Ni合金板に要求される特性に答えられなくなるとともに、スラグ中のMgOを還元して、Mgを溶鋼中に供給する。これとAlが反応して非金属介在物がクラスター化が容易なMgO・Al2O3スピネルとなり、表面欠陥を引き起こす。さらには、MgOが生成し、エッチング性を著しく悪化させる。そこで、本発明では、Siの含有量を0.005〜0.2wt%と定めた。この範囲内で好ましくは、0.02〜0.19wt%である。また、Si源としては、金属Siおよび/またはFeSi合金を用いるのが好ましい。
Mn:0.005〜0.7wt%
Mnは、介在物組成をMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物に制御しする働きがある。しかし、Fe-Ni合金の熱膨張率を上げる働きを有する元素でもあり、この観点からは、できるだけ低濃度であることが望ましい。すなわち、Mn含有量が0.005wt%未満だと、非金属介在物の組成をMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物に制御できない。一方、0.7wt%超だと、Fe-Ni合金の熱膨張率が大きくなり、Fe-Ni合金板に要求される品質を満足することができなくなる。そこで、本発明では、Mnの含有量を0.005〜0.7wt%と定めた。この範囲内で好ましくは、0.01〜0.65wt%である。また、Mn源としては、金属Mnおよび/またはSiMnが好ましい。
Al:0.0001〜0.005wt%
Alは、介在物組成をMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。しかし、Alの過剰量の添加は、クラスター化し易いアルミナ介在物を生成し、表面疵の原因となる。そこで、本発明では、Alの含有量を0.0001〜0.005wt%と定めた。その理由は、Alの含有量が0.0001wt%未満だと、介在物組成をMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物に制御できず、一方、Alの含有量が0.005wt%超だと、表面疵の原因となるからである。この範囲でより好ましくは、0.0005〜0.003wt%である。Alを上記含有量の範囲に制御するためには、金属Alを用いてもよいが、より好ましくは、Alを0.1〜2%含むFeSi合金を用いる。
Ca:0.00001〜0.001wt%
Caは、非金属介在物をMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。Caの含有量は、0.00001〜0.001wt%が最適である。その理由は、Ca含有量が0.001wt%超だと、非金属介在物中のCaO濃度を上昇させ、耐食性、エッチング加工性に悪影響を与えるからだる。一方、Ca含有量が0.00001wt%未満だと、介在物組成をMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物に制御することができなくなるからである。より好ましくは、0.00005〜0.0009wt%である。なお、Caを上記含有量の範囲にするためには、Caを0.1〜2%含むFeSi合金を用いることが好ましい。
Mg:0.00001〜0.001wt%
Mgは、非金属介在物をMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物に制御する働きがある。Mgの含有量は、0.00001〜0.001wt%とすることが好ましい。その理由は、Mgの含有量が0.001wt%超だと、非金属介在物が硬質のMgO・Al2O3スピネルあるいはMgO主体となるために、Fe-Ni合金板のエッチング時に孔形状不良を起こし、Fe-Ni合金板に要求される品質を満足できなくなるからである。一方、Mg含有量が0.00001wt%未満だと、非金属介在物組成をMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物に制御できなくなるからである。なお、Mg含有量を上記の範囲に制御するためには、金属Mgを添加することは好ましくなく、下記の反応を用いることが最も好ましい。
Si+2(MgO) = (SiO2)+2Mg …Siがスラグ中MgOを還元する反応
( )… スラグ中の成分、 … 溶鋼中の成分
すなわち、本発明において規定したSi濃度に制御することで、スラグ中のMgOを適量還元する。これにより、適量のMgを溶鋼中に供給することができる。
Cr:0.1wt%以下
Crは、熱膨張率を上げる作用のある元素であるから、できるだけ低濃度であることが望まれる。このような観点から、Crの含有量は、0.1wt%以下が好適である。より好ましくは、0.09wt%以下である。
O:0.001〜0.007wt%
Fe-Ni合金板中のOには、溶存酸素(固溶酸素)と、酸化物からなる酸素とがある。この両者の和を全酸素濃度とし、全酸素濃度をOの含有量として規定する。Oの含有量は、0.001〜0.007wt%とすることが好適である。その理由は、Oの含有量が0.001wt%以下だと、溶鋼中のMg濃度が0.001%を超え、Fe-Ni合金板中の非金属介在物は、硬質のMgO・Al2O3スピネルあるいはMgO主体となるために、Fe-Ni合金板エッチングする際に孔形状不良を起こし、Fe-Ni合金板に要求される品質を満足できなくなるからである。一方、Oの含有量が0.007wt%超だと、脱酸が不足し、非金属介在物量が多くなるとともに、大型介在物の発生頻度も高くなるからである。より好ましくは、0.001〜0.005wt%である。なお、Oの含有量を上記の範囲に制御するためには、脱酸に寄与するSiならびにMn濃度を、上記に示した本発明で規定する範囲に制御することが必要である。さらに、スラグの塩基度(CaO/SiO2:スラグ中のCaOとSiO2の重量%比)を1〜5に制御することが好ましい。
次に、非金属介在物の成分組成について説明する。
本発明において、Fe-Ni合金板に含有される非金属介在物は、熱間圧延、または熱間圧延及び冷間圧延時の延伸、分断により、微細化が促進されるようにするため、また、溶鋼中で大型化しないようにするために、基本的にその非金属介在物の成分は、MnO:1〜45wt%、CaO:1〜45wt%、SiO2:10〜60wt%、Al2O3:5〜50wt%、MgO:0.5〜30wt%、FeO:0.2〜10wt%であるMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物である。
以下、非金属介在物の成分を上述のように限定した根拠を説明する。
MnO:1〜45wt%
MnOは、非金属介在物中のその含有量が、1〜45wt%であることが好ましい。その理由は、1wt%未満あるいは45wt%超だと、非金属介在物の融点を上昇させてしまうために、その延伸性が低下してしまい、その結果としてFe-Ni合金板中に大型の介在物が残留するようになるからである。なお、Fe-Ni合金板中に残留する大型の介在物は、Fe-Ni合金板のエッチング性の低下を引き起こし、そのため、Fe-Ni合金板に対して要求される品質を満足できなくなってしまう。この範囲に制御するには、Mn濃度を本発明で規定した範囲に制御すればよい。
CaO:1〜45wt%
CaOは、非金属介在物中のその含有量が、1〜45wt%であることが好ましい。その理由は、1wt%未満あるいは45wt%超だと、非金属介在物の融点を上昇させてしまうために、その延伸性が低下してしまい、その結果として、Fe-Ni合金板中に大型の介在物が残留するようになるからである。なお、Fe-Ni合金板に残留する大型の介在物は、Fe-Ni合金板のエッチング性の低下を引き起こし、そのため、Fe-Ni合金板に対して要求される品質を満足できなくなってしまう。さらに、45wt%超だと、非金属介在物が水溶性となってくるため、Fe-Ni合金板の耐食性、エッチング加工性にも悪影響を与える。この範囲に制御するには、Ca濃度を本発明で規定した範囲に制御すればよい。
SiO2:10〜60wt%
SiO2は、非金属介在物中のその含有量が、10〜60wt%であることが好ましい。その理由は、10wt%未満あるいは60wt%超だと、非金属介在物の融点を上昇させてしまうために、その延伸性が低下してしまい、その結果として、Fe-Ni合金板中に大型の介在物が残留するようになるからである。なお、Fe-Ni合金に残留する大型介在物は、Fe-Ni合金板のエッチング性を低下させてしまうため、Fe-Ni合金板に要求される品質を満足できなくなってしまう。この範囲に制御するには、Si濃度を本発明で規定した範囲に制御すればよい。
Al2O3:5〜50wt%
Al2O3は、非金属介在物中のその含有量が、5〜50wt%であることが好ましい。その理由は、5wt%未満だと、非金属介在物の融点を上昇させてしまうために、その延伸性が低下してしまい、その結果として、Fe-Ni合金板中に大型の介在物が残留するようになるからである。なお、Fe-Ni合金に残留する大型介在物は、Fe-Ni合金板のエッチング性を低下させてしまうため、Fe-Ni合金板に要求される品質を満足できなくなってしまう。一方、50wt%超だと、非金属介在物がクラスター化しやすくなり、クラスター状の大型介在物が発生することで、Fe-Ni合金板の表面欠陥が発生しやすくなりFe-Ni合金板に要求される品質を満足できなくなってしまうからである。この範囲に制御するには、Al濃度を本発明で規定した範囲に制御すればよい。
MgO:0.5〜30wt%
MgOは、非金属介在物中のその含有量が、0.5〜30wt%であることが好ましい。その理由は、0.5wt%未満あるいは30wt%超の場合には、非金属介在物を融点を上昇させてしまうために、その延伸性が低下してしまい、その結果として、Fe-Ni合金板中に大型の介在物が残留するようになるからである。なお、Fe-Ni合金板中に残留する大型の介在物は、Fe-Ni合金板のエッチング性を低下を引き起こし、そのため、Fe-Ni合金板に要求される品質を満足できなくなってしまう。さらに、MgOの含有量が30wt%超だと、非金属介在物が水溶性なってくるために、Fe-Ni合金板の耐食性、エッチング加工性にも悪影響を与える。MgOの含有量を上記範囲にするためには、Mg濃度を本発明で規定した範囲に制御すればよい。
FeO:0.2〜10wt%
FeOは、非金属介在物中のその含有量が、0.2〜10wt%であることが好ましい。その理由は、0.2wt.%未満だと、非金属介在物の融点を上昇させてしまうために、その延伸性が低下してしまい、その結果として、Fe-Ni合金板中に大型の介在物が残留するようになるからである。なお、Fe-Ni合金板中に残留する大型の介在物は、Fe-Ni合金板のエッチング性の低下を引き起こし、そのため、Fe-Ni合金板に要求される品質を満足できなくなってしまうからである。一方、10wt%超だと、非金属介在物の絶対量が増えてしまうために、大型介在物の発生頻度が高くなり、Fe-Ni合金板の表面欠陥を引き起こすからである。この範囲に制御するには、O濃度を本発明で規定した範囲に制御すればよい。
以下に、実施例を示し、本発明の効果をより明確なものとする。
(Fe-Ni合金板の製造)
表1に示す金属組成を有するFe-Ni合金板を以下のようにして製造した。
まず、鉄屑、FeNi、Niなどからなる原料60tonを、電気炉で溶解しながら、Fe-36wt%Ni、もしくはFe-42wt%Niの組成に調整した。次いで、AOD処理、VOD処理、及びAOD→VOD処理の3通りのいずれかの処理より、酸化精錬(脱炭、脱燐、脱クロム等)を行った。続いて、AODあるいはVODにおいて、酸化期のスラグを除去し、石灰石,螢石、および珪砂のうち1種、または2種以上をフラックスとして添加し、所定の塩基度(CaO/SiO2:スラグ中のCaOとSiO2の重量%比)に調整した。次に、FeSi合金等のSi合金鉄を添加して溶鋼を脱酸し、取鍋精錬装置で微量成分調整及び温度調整を行った後、普通造塊法より鋳造するか、または連続鋳造法により鋳造した。この後、普通造塊法を用いた場合は、鍛造工程を経てから熱間圧延を施し、3.0〜10.0mm厚のFe-Ni合金の熱延板を得た。これらの熱延板のうち、いくつかは、さらに冷間圧延を施すことにより0.1〜1.0mm厚まで圧延される。
(調査及び評価)
発明例1〜7、及び比較例1〜6のFe-Ni合金板につき、以下の調査を行った。
A.極値統計処理の実施
ここでは、発明例1を例にとって説明する。
Fe-Ni合金板の圧延方向に対して80〜90°における断面において、板厚×30mm幅を一つの検査基準面積S0として15個所(n=15)選び、その断面内に存在する最大非金属介在物の幅方向長さ(L)を光学顕微鏡を用いて観察および測定し、Fe-Ni合金スラブ中の最大非金属介在物の断面積の平方根√areaを求めた。ここで、√area=√π(L/2)2である。なお、非金属介在物の幅方向長さの測定には、光学顕微鏡を用いて200倍の視野で測定した。そして、この15個の観察個所から得られた√areaを最小値から順に並べ、小さい順に(√area)1、(√area)2、・・・・・・(√area)15と定義した。そして、j番目にあたる非金属介在物の√area((√area))に対応する第一基準化変数(昇順)yを、(2)式より求めた。j、(√area)、yをまとめたものが表1である。
Figure 0004113148
さらに、表1の結果を、横軸にFe-Ni合金スラブ段階での最大非金属介在物の断面積の平方根√areaの値を、および縦軸に第一基準化変数(昇順)をとり、該合金スラブ段階での最大非金属介在物の断面積の平方根の値が小さいものから順にプロットしたものが図2である。そして、プロットした点を一次再帰して、図2に示すような右上がりの直線を得た。この直線が(3)式である。
次に、最大非金属介在物の粒径を推定する面積S(325,000mm2)の値と、検査基準面積S0に対応する該合金スラブ時の面積S0 *と(4)式とから再帰期間Tを求め、さらに、このTと(5)式とから第二基準化変数(面積比)ymaxを求めた。そして、このymaxと(3)式とから、該合金スラブ段階での推定最大非金属介在物の断面積の平方根√areamaxを求めた。
B.Fe-Ni合金の成分組成の分析
蛍光X線分析により定量分析した。
C.非金属介在物の組成の分析
EDS(エネルギー分散型分析装置)により、Fe-Ni合金板の介在物を10箇所ずつ定量分析して、その平均値をそのFe-Ni合金板の非金属介在物の組成とした。
D.表面欠陥の分析
外観検査ラインにおいて、100m(幅は0.7〜1.5mの範囲)の長さを目視により観察し、欠陥有無を判定した。
E.エッチング性の分析
薄板サンプルから200mm×400mmの試験片を切り出し、塩化第二鉄水溶液(45ボーメ、温度60℃)でエッチング穿孔した。その後、エッチング孔を電子顕微鏡で観察し、形状不良がなければ適合(○)とし、形状不良が1つでも確認されれば不適合(×)とした。
F.打ち抜き性の分析
500kg精密金型プレス機を用いて、板厚の3%のクリアランスを設定し、5mm角の穴を圧延方向直角に10mm間隔で5個開けることにより実施した。打ち抜き後の破面を光学顕微鏡で観察し、破面が均一でかつバリがなければ適合(○)とし、破面が乱れかつバリが確認されれば不適合(×)とした。
(結果)
上記B〜Dの分析を行ったFe-Ni合金スラブの成分組成(wt%)およびその合金の不可避不純物である非金属介在物の平均組成(wt%)を、表2にまとめた。そして、表2のFe-Ni合金スラブについて行った上記分析結果を、表3にまとめた。
Figure 0004113148
Figure 0004113148
表3より、発明例1〜7は、Ni:30〜45wt%以下、Si:0.005〜0.2wt%、Mn:0.005〜0.7wt%、Al:0.0001〜0.005wt%、Ca:0.00001〜0.001wt%、Mg:0.00001〜0.001wt%、Cr:0.1wt%以下、O:0.001〜0.007wt%、残部はFe及び不可避的不純物からなり、非金属介在物組成が、MnO:1〜45wt%、CaO:1〜45wt%、SiO2:10〜60wt%、Al2O3:5〜50wt%、MgO:0.5〜30wt%、FeO:0.2〜10wt%の組成を有するMnO-SiO2-Al2O3-CaO-MgO-FeO系非金属介在物であるFe-Ni合金板のうち、最大非金属介在物粒径を推定する面積S=325,000mm2に相当する第二基準化変数(面積比)ymax(1)式に代入することにより求めた√areamaxが200μm以下のものを、製品厚(0.01〜0.5mm)にまで冷間圧延したものである。いずれの発明例においても、表面欠陥の発生は認められず、表面品質に優れたFe-Ni合金板を製造することができた。さらに、発明例1〜5および7は、エッチング性試験の結果も優れたものであり、発明例6は、打抜き性試験の結果も優れたものであった。
一方、比較例1〜4および6が示すように、√areamaxが200μmを超えているものは、製品厚(0.01〜0.5mm)まで圧延すると、表面欠陥が多数発生し、その表面品質が著しく損なわれていた。さらに、比較例1では、打抜き性試験において破面が乱れかつバリが確認され、比較例2〜4および6では、エッチング性試験において形状不良が確認された。なお、比較例5は、Caが高濃度の例であり、表面欠損は見られなかったが、エッチング性試験において形状不良が確認された。
図2に発明例1、2と、比較例1、2の極値統計処理の実施の結果を示す。
また、表4には、検査精度および検査時間に及ぼす圧下率の影響を示している。ここでは、いずれの例も、最終的に外観検査の段階で表面欠陥が認められた同一の試験片(表2の比較例4のFe-Ni合金スラブ)を用いている。表4に示すとおり、被検査材の圧下率が90.00〜99.83%の場合(実施例8、9)には、Fe-Ni合金板中の推定最大非金属介在物の断面積の平方根√areamaxの値が200μmを超えていて、表面欠陥が発生すること正当に評価できる。また、検査に要する時間も3時間以下であり、十分実用的であることがわかる。
圧下率が99.83%を超えて大きい場合(比較例7)には、最終的に表面欠陥が確認されたにも関わらず、測定結果は200μm以下であった。これは、介在物の分散度合いが高くなったためであり、精度良い測定が不可能であったためである。
一方、圧下率が90.00%未満の場合(比較例8、9)には、精度良く測定されていて、表面欠陥を推定することは可能であるが、検査に要する時間が3日あるいは7日と長く、実用的な検査として行うには不都合である。
Figure 0004113148
0.01〜0.5mm程度に冷間圧延し、その後打ち抜き加工やエッチング加工等の高い精密性が要求される加工工程が必要となる分野、例えば、シャドウマスク用、リードフレーム用およびインクジェットプリンタのノズル用の合金板としてFe-Ni合金板を使用する分野において、本発明は利用される。
Fe-Ni合金板およびFe-Ni合金スラブの厚み方向の断面図。 極値統計による再帰直線。 極値統計による再帰直線。
符号の説明
1 検査基準面積(S0
2 最大非金属介在物の大きさを推定する面積(S)
3 検査基準面S0に対応するFe-Ni合金スラブ時の面積(S0

Claims (2)

  1. Fe-Ni合金スラブを熱間圧延または、熱間および冷間圧延することによりFe-Ni合金板を製造する過程において、圧延後の合金板を圧延方向に対して直角ないしほぼ直角に切断した断面の一部を検査基準面積とし、その検査基準面積内にある非金属介在物の幅方向長さを顕微鏡観察し、観察される該非金属介在物の最大幅方向長さから、その圧延板のスラブ段階における最大非金属介在物の大きさを推定することを特徴とするFe-Ni合金板のスラブ段階での最大非金属介在物の大きさを特定する方法。
  2. 圧延後の合金板を顕微鏡観察することによりスラブ段階における非金属介在物の最大粒径を推定するに当たり、圧延方向に対して直角ないしほぼ直角に切断された断面の任意の一検査基準面積S0内にある最大非金属介在物の幅方向長さ(L)を測定し、この幅方向長さ(L)が、該検査基準面積S0に対応するスラブ段階の面積S0 内に存在する最大非金属介在物の直径と等しいものとして、下記(1)式よりスラブ内に存在していた最大非金属介在物面積の√areaを算出し、こうした手順を、上記切断面の複数箇所(n)において繰り返し、算出されたn個の√areaを昇順に並べ替え、下記(2)式よりj番目にあたる上記√areaに対応する第一基準化変数(昇順)yを求め、この第一基準化変数(昇順)yと該√areaとで極値統計による処理を行うことにより、下記(3)式に示す平均基準化変数yを求め、次いで、最大非金属介在物の粒径を推定する面積Sと前記検査基準面に対応するスラブ時の面積S0 とから、下記(4)式より再帰期間Tを算出し、次いで、この再帰期間Tと下記(5)式とから第二基準化変数(面積比)ymaxを算出し、この第二基準化変数(面積比)ymaxと下記(3)式とからFe-Ni合金スラブ中の最大非金属介在物の断面積の平方根√areamaxを算出し、この√areamaxをFe-Ni合金スラブ中にある最大非金属介在物の大きさとすることを特徴とする請求項1に記載の特定方法。

    √area=√π(L/2)2
    (1)
    =-ln[-ln{j/(n+1)}] (j=1〜n) (2)
    y=a√area+b (3)
    T=(S+S0 )/S0 (4)
    max=-ln[-ln{(T-1)/T}] (5)
    ただし、
    n:検査個数
    :第一基準化変数(昇順)
    y:平均基準化変数
    a:再帰係数
    b:定数
    S:最大非金属介在物の大きさを推定する面積
    0 :検査基準面S0に対応するFe-Ni合金スラブ時の面積
    T:再帰期間
    max:第二基準化変数(面積比)
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