JP4109457B2 - フラーレン誘導体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラーレン誘導体の製造方法に関する。より詳しくは、フラーレンに対する有機基の付加反応により、フラーレンの2重付加誘導体を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1990年にC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。その結果、数多くのフラーレン誘導体が合成され、その多様な機能が明らかにされてきた。それに伴い、フラーレン誘導体を用いた電子伝導材料、半導体、生理活性物質等の各種用途開発が進められている(例えば、総説として、現代化学1992年4月号12頁、現代化学2000年6月号46頁、Acc. Chem. Res., 1998, 98, 2527 等)。
【0003】
代表的なフラーレン誘導体として、フラーレン骨格にフェニル基やアルキル基等の有機基が付加した化合物(以下、付加誘導体、又は付加体ということがある)がある。特定の種類の有機基を特定の数だけフラーレンに付加することができれば、所望の物性を有するフラーレン誘導体を作製することができるので、極めて有用である。こうした観点から、特定数の有機基を付加したフラーレン化合物を選択的に合成し、高収率で単離・精製するための研究が行なわれている。
【0004】
本発明者らは、10個の有機基が結合したフラーレン化合物(以下、10重付加誘導体、又は10重付加体ということがある)や、5個の有機基が結合したフラーレン化合物(以下、5重付加誘導体、又は5重付加体ということがある)を種々合成し、報告してきた(特開平10−167994号公報、特開平11−255509号公報、特願2001−43180号、J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 12850、Org. Lett. 2000, 2, 1919、Chem. Lett. 2000, 1098)。また、3個の有機基を付加したフラーレン化合物(以下、3重付加誘導体、又は3重付加体ということがある)についても合成し、その金属錯体も含めて別途報告した(特開平11−255508号公報、J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 8285, Org. Lett. 2000, 2, 1919.)。
【0005】
一方、2個の有機基が結合したフラーレン化合物(以下、2重付加誘導体、又は2重付加体ということがある)の合成例としては、2つのアルキル基がC60に付加したC60誘導体の合成法が報告されている(J. Org. Chem. 1994, 59, 1246)。前記文献によれば、C60とグリニヤール(Grignard)試薬の一種であるMe2SiYCH2MgCl(Y=Me,H,Ph,CH=CH2,OiPr)とを反応させ、反応後に水等を加えてクエンチする場合、反応溶媒としてTHFを用いるとC60のヒドロアルキル化体C60(CH2SiMe2Y)(H)が得られるのに対し、トルエンを用いるとC60の2重付加体C60(CH2SiMe2Y)2が得られることが報告されている(なお、前記の各化学式中、Meはメチル基を、Phはフェニル基を表わす。以下の記載においても同様である)。但し、この2重付加体の生成機構は不明であり、文献中にも不明である旨が記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記文献記載の方法では、生成したC60の2重付加体の収率が低く、2重付加体を効率的且つ選択的に得るための方法としては不充分である。上記文献の記載によれば、Y=Me,Ph,CH=CH2 の場合において、何れも2重付加体が主生成物ではあるものの、これをHPLC(high-performance liquid chromatography:高速液体クロマトグラフィー)により単離したときの単離収率は、それぞれ5%、6%、5%であり、満足な収率ではない。
【0007】
以上の背景から、フラーレン骨格に2個の有機基を付加した2重付加体を選択的に合成できるとともに、これを高収率で単離・精製することが可能な、フラーレン誘導体の製造方法が望まれていた。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、フラーレン骨格に2個の有機基を付加した2重付加誘導体を選択的に合成できるとともに、これを高収率で単離・精製することが可能な、フラーレン誘導体の製造方法を提供することに存する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、2重付加体の合成反応における単離収率を向上させるように鋭意検討した結果、一般にGrignard試薬の付加反応は酸化による不純物の生成を抑制する等のために不活性雰囲気下で反応が実施されるが、不活性雰囲気下で反応を行なうのではなく、酸素等の酸化剤の存在下で反応を行なうことにより、高収率で2重付加体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、酸化剤の存在下でフラーレンと有機金属化合物とを反応させることにより、フラーレンの2重付加誘導体を製造することを特徴とする、フラーレン誘導体の製造方法に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明に係るフラーレン誘導体の製造方法は、酸化剤の存在下でフラーレンと有機金属化合物とを反応させることにより、フラーレンの2重付加誘導体を製造する工程を、その特徴としている。
【0012】
ここで、フラーレンとは、炭素原子が球状又はラグビーボール状に配置して形成される炭素クラスターを指す。具体例としては、C60(いわゆるバックミンスター・フラーレン),C70,C76,C78,C82,C84,C90,C94,C96及びより高次の炭素クラスターが挙げられるが、本発明の製造方法において反応原料となるフラーレンは、C60又はC70が好ましい。フラーレンの製造方法は特に限定されず、公知の方法によって製造されたフラーレンをフラーレン誘導体の原料として用いることができる。精製された単一品であってもよいし、2種類以上のフラーレンの混合物であってもよい。
【0013】
また、有機金属化合物(以下、有機金属試薬ということがある)とは、フラーレンに付加する有機基(本明細書で「有機基」とは、炭素を含む基の総称と定義する)と金属元素とを含有する化合物であって、前記有機基中の炭素と前記金属元素との結合を有するものを指す。
【0014】
有機金属化合物の有機基(即ち、フラーレンに付加される有機基)としては、その種類に特に制限は無く、任意のものを種々選択して使用できるが、通常は炭素数1〜20の範囲の有機基が用いられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基;2−チエニル基、2−ピリジル基、フルフリル基等の複素環基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基等の直鎖若しくは分岐の鎖状又は環状のアシル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等の直鎖若しくは分岐の鎖状アルコキシ基;プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基等の直鎖若しくは分岐の鎖状アルケニルオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基等の直鎖若しくは分岐の鎖状アルキルチオ基;シアノ基;イソシアノ基;シアナト基;イソシアナト基;チオシアナト基;イソチオシアナト基;メルカプト基;ヒドロキシ基;ヒドロキシアミノ基;ヒドロキシイミノ基;ホルミル基;スルホン酸基;カルボキシル基;アミノ基;アシルアミノ基;カーバメート基;カルボン酸エステル基;カルバモイル基;スルファモイル基;スルホン酸エステル基;スルホンアミド基;シリル基等が挙げられる。なお、上述の各種有機基の一部が、更に上述の各種有機基で置換されていてもよい。
【0015】
これらの有機基の中でも、金属元素との結合部にメチレン基を有する有機基、即ち、下記式(i)により表わされる有機基が、有機金属化合物の反応性が高くなるので好ましい。
−CH2−R1 ・・・式(i)
上記式(i)において、R1は水素原子又は炭素数1〜19の有機基を表わす。
【0016】
特に、上記式(i)の−R1が下記式(ii)により表わされる有機基が好ましい。
−Si(R2)(R3)(R4) ・・・式(ii)
上記式(ii)において、R2,R3,R4はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい、炭素数1〜10の炭化水素基及びアルコキシ基並びにアミノ基を表わす。該置換基は特に制限されないが、アルコキシ基、ハロゲン基、アミノ基等が挙げられる。なお、R2,R3,R4は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
一方、有機金属化合物中の金属元素の具体例として、典型元素では周期律表(18族長周期型元素周期律表)の第1A族,第2A族及び第3B族の何れかに属する元素が、遷移元素ではほぼ全ての元素(周期律表の第3A族〜第8A族,第1B族及び第2B族の何れかに属する元素)が挙げられる。これらの金属元素の中でも、周期律表の第1A族若しくは第2A族に属する元素又は銅が好ましく、リチウム又はマグネシウムが特に好ましい。
【0018】
本発明において好ましい有機金属化合物の具体例としては、有機リチウム試薬,有機マグネシウム試薬,有機銅試薬,有機亜鉛試薬などが挙げられる。
有機リチウム試薬としては、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム及びその異性体、フェニルリチウム、ナフチルリチウム及びその異性体等が挙げられる。
【0019】
有機マグネシウム試薬としては、ジアルキルマグネシウムとグリニヤール試薬とが挙げられる。何れも使用可能であるが、入手の容易さ等の観点からグリニヤール試薬がより好ましい。ジアルキルマグネシウムとしては、ジメチルマグネシウム、ジフェニルマグネシウム、メチルエチルマグネシウム等が挙げられる。一方、グリニヤール試薬としては、CH3MgCl,CH3MgBr,CH3MgI,C2H5MgCl,C2H5MgBr,C2H5MgI,C3H7MgCl,C3H7MgBr,CH2=CHCH2MgCl,CH2=CHCH2MgBr,C5H11MgCl,C5H11MgBr,C6H13MgBr,C6H13MgBr,C6H13MgBr,及び以下に示す化合物等が挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
有機銅試薬や有機亜鉛試薬としては、通常、周期律表の第1A族,第2A族及び第3B族の何れかに属する金属元素を含む有機金属化合物と、銅化合物又は亜鉛化合物とから調製されるものが用いられる。
【0022】
これらの有機金属化合物の中でも、グリニヤール試薬が最も好ましく、特に、有機基の金属元素との結合部にメチレン基を有するグリニヤール試薬、即ち、下記式(I)により表わされるグリニヤール試薬が、反応性が高いので好ましい。
XMg−CH2−R1 ・・・式(I)
上記式(I)において、R1は水素原子又は炭素数1〜19の有機基を表わし、Xはハロゲン原子を表わす。
【0023】
特に、上記式(I)の−R1が下記式(II)により表わされるグリニヤール試薬が好ましい。
−Si(R2)(R3)(R4) ・・・式(II)
上記式(II)において、R2,R3,R4はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい、炭素数1〜10の炭化水素基及びアルコキシ基並びにアミノ基を表わす。該置換基は特に制限されないが、アルコキシ基、ハロゲン基、アミノ基等が挙げられる。なお、R2,R3,R4は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
上述のグリニヤール試薬の好ましい具体例としては、C2H5MgBr,C3H7MgCl,CH2=CHCH2MgCl,C6H13MgBr,及び以下に示す化合物等が挙げられる。
【化2】
【0025】
中でも、以下に示す化合物等が特に好ましい。
【化3】
【0026】
フラーレンと有機金属化合物との使用比率は、フラーレンと有機金属化合物との反応を効率よく生じさせる観点から、フラーレンに対して有機金属化合物が、通常2〜20当量、好ましくは2〜15当量、特に好ましくは2〜10当量である。
【0027】
フラーレンと有機金属化合物とを反応させる際には、フラーレンと有機金属化合物とを何らかの溶媒に溶解又は分散させて、反応を行なうことが好ましい。溶媒としては、フラーレン及び有機金属化合物を均一に溶解又は分散できるものであれば、その種類は特に問わないが、通常は各種の有機溶媒を使用する。但し、THFなどの極性の比較的高い溶媒を用いると、2重付加体ではなくヒドロアルキル化体が優先して生成する傾向にあるので、極性の比較的低い炭化水素溶媒又はハロゲン化炭化水素溶媒を用いることが好ましい。中でも、脂肪族炭化水素はフラーレンを溶解する能力が劣るため、反応速度が極めて遅くなる傾向にあるので、フラーレンの溶解性が高い芳香族炭化水素溶媒又はハロゲン化芳香族炭化水素溶媒を用いることが特に好ましい。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン類、エチルベンゼン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン及びその誘導体等が挙げられるが、中でもフラーレンの溶解性が高いクロロベンゼンやオルトジクロロベンゼンが好ましい。
【0028】
溶媒とフラーレン及び有機金属化合物との使用比率は、フラーレン及び有機金属化合物が溶媒中に充分に溶解又は分散できる範囲であれば、特に限定されない。但し、反応を効率よく生じさせる観点から、溶媒に対するフラーレンの重量比は、通常0.0001〜10重量%、好ましくは0.001〜5重量%、特に好ましくは0.1〜1重量%の範囲とし、溶媒に対する有機金属化合物の重量比は、通常0.0001〜10重量%、好ましくは0.001〜3重量%、特に好ましくは0.01〜2重量%の範囲とする。
【0029】
本発明の製造方法は、フラーレンと有機金属化合物とを反応させる際に、酸化剤の存在下で反応を行なうことを特徴としている。酸化剤としては、特に制限は無く、公知の種々の酸化剤を任意に選択して使用できる。具体的には、分子状酸素(O2)、オゾン(O3)、酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、過酸化水素、過マンガン酸、クロム酸、塩素酸、ピリジン−N−オキシド、N−メチルモルホリン−N−オキシド等が挙げられる。但し、酸化力が強すぎると、フラーレン骨格が酸化された生成物の生成比率が高くなるため、好ましくない。この理由から、上述の各種酸化剤の中でも分子状酸素(O2)が好ましい。
【0030】
なお、酸化剤として分子状酸素等の気体を使用する場合には、その酸化力を調整するために、これを他の気体と混合した状態で用いても良い。分子状酸素と混合する気体としては、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体が挙げられるが、安価で入手容易なため、窒素を使用することが好ましい。酸素/窒素の混合気体の比率は、使用するフラーレン及び有機金属化合物の種類や酸素の酸化力を勘案して適宜選択すれば良いが、通常、乾燥空気(酸素/窒素≒1/4)又は乾燥空気と窒素との混合ガス(酸素/窒素<1/4)が用いられる。即ち、酸素/窒素の混合気体中の酸素濃度は、通常1〜20%程度である。酸素濃度が低すぎると2重付加反応の速度が遅いためにヒドロアルキル化体の選択率が高くなる傾向がある一方で、逆に酸素濃度が高すぎるとフラーレン骨格の酸化が顕著になる傾向があり、何れの場合も2重付加体の選択生成率が低下するので好ましくない。
【0031】
酸化剤の使用量は、フラーレンに対して、通常0.5〜106当量、好ましくは1〜105当量、特に好ましくは1〜104当量である。酸化剤の使用量が少なすぎると2重付加体の選択的な生成反応が充分に促進されず、逆に多すぎるとフラーレン骨格の酸化等の副反応が優先して起こる傾向にある。
【0032】
この他、反応を促進するための各種触媒や、種々の目的に応じた各種の添加剤を使用しても良い。触媒や添加剤の種類は特に限定されず、製造するフラーレン誘導体の種類(付加基の種類)に応じて適宜選択すれば良い。
【0033】
フラーレンと有機金属化合物との反応系は任意であり、密閉系,開放系,ガス流通系の何れでも良い。また、反応方式も特に限定されず、使用するフラーレン及び有機金属化合物の種類及び量等を勘案して、適切に選択することが可能である。但し、反応の性質上、通常は単段の反応槽を用いて、回分反応として行なうことが好ましい。
【0034】
フラーレン及び有機金属化合物の反応槽への添加順序及び添加方法は任意であるが、通常は、フラーレン及び有機金属化合物の一方(好ましくはフラーレン)を溶媒に溶解又は分散させた溶液又は分散液を反応槽に用意し、これを攪拌しながら、フラーレン及び有機金属化合物の他方(好ましくは有機金属化合物)を溶液またはスラリーとして加えることが好ましい。
【0035】
酸化剤の供給方法としては、酸化剤の種類や状態に応じて各種の方法を選択して使用することができる。酸化剤が液体の場合には、反応液に直接添加すればよい。酸化剤が分子状酸素等の気体の場合には、反応液上面に充満させてもよく、反応液中に発泡させても良い。また、反応系がガス流通系であれば、ガスとして酸化剤を反応液上面に流通させながら反応を行なうことが好ましい。
【0036】
反応温度は、通常−78〜100℃、好ましくは0〜50℃の範囲である。反応温度が低すぎると反応速度が十分でなく、高すぎると副反応が優先して起こる傾向にある。反応圧力は特に制限されず、常圧付近でも高圧でも良いが、常圧付近が好ましい。反応時間は、使用するフラーレン及び有機金属化合物の種類や、溶媒の種類、酸化剤の種類、反応方式等に応じて適切な範囲を適宜選択すればよい。
【0037】
本発明では、上述の条件にてフラーレンと有機金属化合物とを反応させることにより、フラーレンの2重付加体を選択的に生成させる。反応により生成した2重付加体は、その選択生成率が高い場合には精製する必要はない。しかし、通常は、原料フラーレンや微量のヒドロアルキル化体や酸化物等の副生成物と混在する粗生成物として得られるので、純度の高い2重付加体が必要な場合には、粗生成物から2重付加体を単離・精製する必要がある。2重付加体を単離・精製する手法としては、HPLC等のクロマトグラフィーによる手法、有機溶媒等を用いて溶媒抽出する手法などが挙げられる。
【0038】
特に、本発明では、反応の主な副生成物であるフラーレンのヒドロアルキル体及び酸化物並びに原料のフラーレンが、目的物であるフラーレンの2重付加体に比べて、有機溶媒(比較的極性が低い一般的な有機溶媒)に対する溶解度が低いので、溶媒抽出による単離・精製が可能となる。溶媒抽出による単離・精製は、クロマトグラフィーによる精製に比べて簡便且つ低コストなので、本発明では有機溶媒等を用いて溶媒抽出することにより、フラーレンの2重付加体を単離・精製することが好ましい。
【0039】
溶媒抽出は室温で行っても、ソックスレー抽出の様な方法で加温溶媒で行っても良い。溶媒抽出に使用する有機溶媒の種類には特に制限は無く、フラーレン及び有機金属化合物の種類や付加基の種類により適宜選択して使用すれば良い。通常は、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類などが用いられる。これらの中でも、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素およびベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素が好ましい。これらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上の混合溶媒として用いてもよい。
【0040】
以上説明した、本発明のフラーレン誘導体の製造方法によれば、酸化剤の存在下でフラーレンと有機金属化合物とを反応させることにより、フラーレンの2重付加誘導体を選択的に合成できるとともに、これを高収率で単離・精製することが可能となる。従って、電子伝導材料、半導体、生理活性物質等の各種用途に合わせた、所望の物性を有するフラーレン誘導体の製造が容易となる。また、製造された純度の高いフラーレンの2重付加誘導体は、フラーレンの3重付加誘導体等の各種物質を合成する際の材料としても有用である。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではなく、適宜変更を加えて自由に実施することが可能である。
【0042】
・実施例
乾燥空気の雰囲気下、150mLのオルトジクロロベンゼンに500mgのC60を溶解させ、室温(25℃)・常圧にて、8当量のトリメチルシリルメチルグリニャール試薬(CH3)3SiCH2MgClのジエチルエーテル溶液(濃度約1.0M)を加えて反応させた。2時間後、0.5mLの飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて、過剰のグリニャール試薬をクエンチした。減圧下70℃で溶媒を留去し、トルエン100mLに溶解させた。展開溶媒をトルエンとしたシリカゲルショートパスを通し、副生するマグネシウム塩等を除去する。トルエンを留去し、611mgの黒色固体(粗生成物)を得た。
【0043】
反応により得られた粗生成物について、HPLC(カラム:ナカライテスク社製BuckyPrep,移動層:トルエン/2−プロパノール=7/3,流速:1mL/min,検出:350nmUV)による分析を行なったところ、トリメチルシリルメチル基2重付加体C60{CH2Si(CH3)3}2のピークが観測された。ピーク面積比に基づく前記2重付加体の純度は約70%であった。反応原料であるC60のピークは観測されなかった。反応による副生成物のピークとしては、C60{CH2Si(CH3)3}3H(ピーク面積比3%)、C60{CH2Si(CH3)3}H(ピーク面積比6%)の各ピークが観測され、その他に複数の不明ピークが観測された。これらの不明ピークは、質量分析の結果から、C60{CH2Si(CH3)3}H(O)又はC60{CH2Si(CH3)3}(OH)等の酸化体のピークであると推測された。
【0044】
上述の粗生成物を熱ヘキサンで抽出することによって、ほぼ純粋なC60{CH2Si(CH3)3}2が得られた。単離収量は335mg(収率54%)であった。また、HPLC(カラム:ナカライテスク社製BuckyPrep,移動層:トルエン/2−プロパノール=7/3)で対応ピークを分取精製することによっても、ほぼ純粋なC60{CH2Si(CH3)3}2が得られた。なお、生成物の構造は、J. Org. Chem. 1994, 59, 1246 (Supplementary Material) 記載のNMR,IR,UVのデータと比較することにより同定した。
【0045】
・比較例
純粋な窒素の雰囲気下である点を除き、実施例と同様の条件にて実験を行ない、反応による粗生成物を得た。
得られた組成生物について、実施例と同様の条件にてHPLCによる分析を行なったところ、C60{CH2Si(CH3)3}Hのピークが面積比10%、原料のC60のピークが面積比90%でそれぞれ観測され、C60{CH2Si(CH3)3}2のピークは観測されなかった。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、酸化剤の存在下でフラーレンと有機金属化合物とを反応させることにより、フラーレンの2重付加誘導体を選択的に合成できるとともに、これを高収率で単離・精製することが可能となる。
Claims (8)
- 酸化剤の存在下でフラーレンと有機金属化合物とを反応させることにより、フラーレンに2個の有機基を付加した2重付加誘導体を製造することを特徴とする、フラーレン誘導体の製造方法。
- 前記酸化剤が、分子状酸素である
ことを特徴とする、請求項1記載のフラーレン誘導体の製造方法。 - 前記分子状酸素が、乾燥空気として供給される
ことを特徴とする、請求項2記載のフラーレン誘導体の製造方法。 - 前記有機金属化合物が、炭素数1〜20の有機基を有する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。 - 前記有機金属化合物が、グリニヤール試薬である
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。 - 前記グリニヤール試薬が、下記式(I)
XMg−CH2−R1 ・・・式(I)
(但し、上記式(I)において、R1は水素原子又は炭素数1〜19の有機基を表わし、Xはハロゲン原子を表わす)
で表されることを特徴とする、請求項5記載のフラーレン誘導体の製造方法。 - 上記式(I)において、−R1が、下記式(II)
−Si(R2)(R3)(R4) ・・・式(II)
(但し、上記式(II)において、R2,R3,R4はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を表わし、互いに同一であっても異なっていてもよい)
で表されることを特徴とする、請求項6記載のフラーレン誘導体の製造方法。 - 前記フラーレンと前記有機金属化合物との反応により生成した粗生成物から、有機溶媒で抽出を行なうことにより、フラーレンの2重付加誘導体を回収する
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
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