JP4108354B2 - スパッタリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はスパッタリング装置に関し、特に、半導体製造工程において基板上に薄膜形成を行うスパッタリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体デバイスの高集積化に伴って集積回路を形成する金属配線の配線幅は配線間隔等の寸法が縮小化されつつある。この配線寸法の縮小は、三次元的な配線の結線を行う接続孔の微細化が伴う。微細な接続孔の内部への金属材料の埋め込み方法としては、例えば、高周波マグネトロンスパッタリング装置によるバリア膜や電解メッキによるCu埋め込み用のシード層が行われている。バリア膜として、金属チタン、窒化チタン、金属タンタル、窒化タンタル等が用いられる。
【0003】
図3を参照して従来の高周波マグネトロンスパッタリング装置の一例を説明する。この従来装置では、外部に設けた排気機構101によって内部が所要レベルまで減圧された容器102が設けられる。この容器102は処理チャンバを構成する。容器102の上壁、すなわち天井部103には開口部103aが形成され、当該開口部103aを塞ぐごとく円板状の上部電極104が気密性を保持して取り付けられている。天井部103は容器蓋として機能し、必要に応じて開閉自在である。上部電極104と天井部103との間にはシール性を有したリング状絶縁体105が取り付けられる。接地されゼロ電位に保持された容器102(天井部103)と、上部電極104との間は、絶縁体105によって電気的に隔離されている。上部電極104には高周波電力供給機構106から高周波電力が供給される。上部電極104の下面には円板状のターゲット107が固定されている。ターゲット107は比較的に広い面積を有し、かつ実質的に図中水平状態にて配置されている。ターゲット107の裏面側、さらには上部電極104の裏面側には、ヨーク板108に固定され所望の配列にて配置された複数の磁石109が設置されている。磁石109やヨーク板108を固定するための構造の図示は省略されている。なおターゲット107の周囲には天井部103の下面に固定されたリング状のターゲットシールド110が配置される。
【0004】
容器102には、天井部103とは別部分としての円筒形の側壁部111が備えられている。側壁部111は、この例では、底部と一体的に形成されている。容器102の内部には基板ホルダ112が配置されている。基板ホルダ112は、その支柱部112aが底部に固定され、上部に基板を載置するための絶縁体板113を有している。絶縁体板113は上記ターゲット107に対向するように配置されている。絶縁体板113の上に基板114が載置されている。基板ホルダ112は接地されている。基板ホルダ112の上部の外周部には段差部が形成されている。基板ホルダ112の上部の周囲には基板ホルダへの膜付着を防止する基板ホルダシールド115が取り付けられている。容器102の側壁部111の内周面を覆うごとく円筒形のチャンバシールド116が配置されている。チャンバシールド116は、複数の支柱117によって支持されている。チャンバシールド116は容器102の側壁部111の内面の膜付着を防止する。上記の各シールドはメンテナンスごとに交換される。
【0005】
上記において、容器102、天井部103、基板ホルダ112、チャンバシールド116、基板ホルダシールド115は接地電位に保持されている。また容器102の側壁部111には、さらにガス導入ポートが形成され、このガス導入ポートは配管118とバルブ119を介してガス供給機構120に接続されている。ターゲット107には、高周波電力供給機構106から上部電極104を経由して13.56MHzから100MHzの範囲に含まれる周波数の高周波が印加される。
【0006】
上記の高周波マグネトロンスパッタリング装置において、成膜時には、図示しない基板搬送機構によって、基板114が基板ホルダ112の上に載置され、容器102が密閉された状態でガス供給機構120によってバルブ119、配管118を通して容器102の内部に一定流量のAr(アルゴン)ガスまたはArガスと窒素ガスの混合ガスが導入され、容器102の内部は一定の圧力に保持される。次にターゲット107を固定する上部電極104に一定電力の高周波電力が与えられ、容器102内にはプラズマが生成され、ターゲット107がスパッタリングされ、基板ホルダ112上に固定された基板114上に所望の膜が形成される。特に成膜圧力は数10mTorrから200mTorrの間に設定されるが、この圧力ではターゲットからスパッタされた金属原子が電子との衝突により金属イオンとなる。印加される高周波電力の周波数が高い場合には、電子密度が高くなり、金属スパッタ原子のイオン化率も高くなる。圧力が高いほど、衝突頻度が高くなるので、イオン化率は高くなる。基板114が絶縁体板113上に置かれているため、基板114には自己バイアス電圧が加わる。スパッタ金属イオンは、基板114とプラズマの間に形成されたシースに発生する自己バイアス電圧によって基板表面に垂直に加速される。その結果、金属イオンの基板への入射角度が垂直となり、微細孔の内部においても段差被覆性のよい成膜を行うことができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述した従来の高周波マグネトロンスパッタリング装置は、次のような問題を有する。成膜の際に、プラズマ中で生成されるArイオンや窒素イオンまたは金属イオンは、シース電圧によって加速され、大きなエネルギで基板114に入射するため、基板114のみならず、その周辺に存する各種のシールドも衝撃する。その結果、成膜中にシールドが加熱され、温度が上昇する。シールドは接地され接地電位に保持されているが、表面のシース電圧によってイオンが加速され入射することは、基板の上と同じである。このイオン入射によりシールドの温度は数百℃まで達する。このシールド温度の上昇は、シールドの熱的な歪みなどを生じさせ、成膜中における付着膜の剥がれを生じさせるなど、歩留まり低下を招くといった問題を提起する。特にチャンバシールド116はサイズが比較的に大きいため、熱的変形量も大きく、膜剥がれの頻度も高くなる。さらに、特に、チャンバシールド116の冷却は数本の支柱117から容器102へ熱を移動させることによって行っていたため、冷却時間が長くなるという傾向があった。この結果、生産を中止し、メンテナンスサイクルに入る場合に、冷却時間が必然的に長くなり、このためメンテナンス時間が長時間となり、装置稼動率を低下させるという問題を提起していた。
【0008】
本発明の目的は、上記問題を解決し、チャンバシールド等の熱の移動を容易にかつ効率的に行える機構と冷却作用を生じる温度調整装置とを設けることによりチャンバシールド等を迅速に冷却し、メンテナンス時間を短くし、高い生産性を実現し、膜剥がれを抑制してパーティクルの発生を低減し、歩留まりを向上した高周波マグネトロン等に基づくスパッタリング装置を提供することにある。
さらに本発明の他の目的は、上記温度調整装置において加熱作用を生じさせることにより、成膜前の段階ではチャンバシールドの脱ガスに利用する高周波マグネトロン等に基づくスパッタリング装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段および作用】
本発明に係るスパッタリング装置は、上記の目的を達成するために、次のように構成される。
【0010】
本発明に係るスパッタリング装置(請求項1に対応)は、真空容器と、この容器内に配置されたターゲットと、このターゲットに対向する位置に設けられた基板ホルダと、容器の内部にガスを供給するガス供給機構と、ターゲットに電力を与える電力供給機構を備えるスパッタリング装置であり、容器は、容器壁部を含み、かつ容器壁部を加熱または冷却する温度調整装置を備え、さらに基板ホルダとターゲットとの間の空間を取り囲むように配置された内面シールド部材と、内面シールド部材と容器壁部との間に配置され、内面シールド部材を固定すると共に、容器壁部に固定される中間アダプタと、を備え、中間アダプタの厚さは、容器壁部と内面シールド部材との間の間隔よりも50〜1000μmだけ小さくなるように設定され、中間アダプタは、容器壁部により上下から挟み込まれて固定される上縁部を有すると共に、上下方向の段差部を有し、内面シールド部材は、中間アダプタの段差部により窪んだ部分に掛けた状態で固定されているように構成されている。
【0011】
上記の構成において、上記の内面シールド部材は、導電性材料からなるネジを介して中間アダプタの窪んだ部分に固定されていることを特徴とする(請求項2に対応)。
【0012】
本発明に係るスパッタリング装置(請求項3に対応)は、上記の構成において、好ましくは、上記温度調整装置は、成膜前には加熱作用を生じ中間アダプタの熱伝導を利用して内面シールド部材を加熱し、成膜中には冷却作用を生じ中間アダプタの熱伝導を利用して内面シールド部材を冷却することで特徴づけられている。温度調整装置は、成膜前の段階では加熱装置として機能し、成膜中には冷却装置として機能する。
【0013】
上記のスパッタリング装置では、容器の外部に温度調整装置としてのジャケットが設けられ、シールド部材として最も大きな要素である内面シールド部材の容器の内面への取付けを、熱伝導性が良好で、冷却された状態にある容器に密接な状態で設けられた中間アダプタを介して行うようにした。ジャケットには、状況に応じて冷却媒体または加熱媒体が流され、容器を直接に冷却または加熱する。中間アダプタは、容器側壁部に覆うように設け、その良好な熱伝導性に基づいて、かつ容器を冷却または加熱するジャケットに基づき、内面シールド部材に対して冷却または加熱の作用を有効に生じさせる。このため、内面シールド部材の温度上昇を適切に抑制し、あるいは内面シールド部材の脱ガス(表面の水分を追い出す作用)を有効に行うことが可能になる。すなわち温度調整装置は、成膜前には内面シールド部材を加熱して脱ガスを効果的に行い、成膜中には内面シールド部材を冷却することにより温度上昇を抑制する。
【0014】
上記の構成において、好ましくは、内面シールド部材はアルミニウム系材料で作られ、かつ表面がアルミニウム溶射で処理されていることを特徴とする(請求項4に対応)。この構成によって、内面シールド部材の熱伝導性を高め、内面シールド部材がプラズマからの作用で熱を発生したとしても、迅速に熱を逃がし、その温度上昇を抑制する。
【0015】
上記の構成において、好ましくは、容器壁部は、接地電位に維持されていると共に、中間アダプタは、導電性部材であることを特徴とする(請求項5に対応)。
【0017】
上記の構成において、好ましくは、中間アダプタの上縁部の厚みを変えることで、ターゲットと、基板ホルダ上の基板との間の間隔を変えるようにしたことを特徴とする(請求項に対応)。この構成によれば、中間アダプタの上縁部の厚みを変更させるだけで、成膜分布や成膜速度の決定に大きな影響を及ぼすターゲット・基板間距離を自在に変更することができる。この場合において、中間アダプタの内側に設けられる内面シールド部材の高さ方向の寸法も、中間アダプタの 厚み寸法の変更分だけ変更される。
【0018】
上記の各構成において、好ましくは、基板ホルダの少なくとも上部の周囲を囲むように配置される基板ホルダシールド部材を有し、さらに、内面シールド部材はその下端全周部に内方に延びる鍔部を有し、かつ基板ホルダシールド部材はその下端全周部に外方に延びる鍔部を有し、内面シールド部材の鍔部と基板ホルダシールド部材の鍔部は、隙間を介して重なるように配置されていることを特徴とする(請求項に対応)。この構成によれば、基板ホルダの周辺部分にもシールド部材を付設し、基板以外の箇所への膜付着を防止するようにしている。
【0019】
上記の構成において、好ましくは、基板ホルダシールド部材は、基板の周囲に位置する上部シールド部材(外周シールド)と、基板ホルダの下部側に位置する下部シールド部材(下部シールド)とから成り、下部シールド部材は上記の鍔部を有し、かつ上部シールド部材はシールド絶縁体により保持されていることを特徴とする(請求項に対応)。この構成によれば、基板の外周縁部で膜剥がれが生じたとしても、上部シールド部材が電気的に浮遊状態に保持されているため、異常放電の発生を防止することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお図面で示された内容は、当業者であれば、本発明を理解できかつ実施できる程度に概念的に示すものである。従って図示された装置の各部のサイズ、壁部の厚み等は厳密には正確なものでない。
【0021】
図1に従って本発明に係るスパッタリング装置の実施形態を説明する。このスパッタリング装置は、一例として高周波マグネトロンスパッタリング装置である。処理チャンバを構成する容器11は、容器蓋として機能するリング状天井部12と、底部と一体化して形成された円筒形の側壁部13とから成る。天井部12と側壁部13から成る容器11は導電性部材で作られている。天井部12はメンテナンス時等のごとく必要の際には開閉自在となる構造を有している。天井部12の開口部12aには円板状上部電極14が、当該開口部を塞ぐごとくリング状絶縁体15を介して電気的絶縁状態で取り付けられている。上部電極14の下面(内側面)には板状ターゲット16が固定されている。ターゲット16は、スパッタリングされて基板の上に堆積される物質で作られている。ターゲット16の周囲にはリング状のターゲットシールド17が配置される。ターゲットシールド17は天井部12の下面に固定されている。
【0022】
天井部12は接地され、接地電位(ゼロ電位)に保持される。上部電極14には高周波電力供給機構18から高周波電力が供給される。高周波電力の周波数は例えば13.56〜300MHzの範囲に含まれる周波数であり、好ましくは13.56〜100MHzの範囲に含まれる周波数である。この高周波の電力はターゲット16に供給される。上部電極14の裏面側、すなわちターゲット16の裏面側には、望ましい配列にある複数の磁石(マグネット)19と、これらを固定し支持するヨーク板20が配置される。ヨーク板20を支持する構造の図示は省略されている。磁石19とヨーク板20は、容器11の内部であってターゲット16の前面空間に望ましい磁束分布を作るための磁気回路部を形成する。
【0023】
容器11の側壁部13には排気ポート21が形成される。この排気ポート21を介して外部の排気機構22が接続されている。容器11の内部は、排気機構22による排気作用で、所要の減圧レベルに保持される。また側壁部13には、ガス導入ポートが形成され、これには配管23とバルブ24を介してガス供給機構25が接続されている。ガス供給機構25によれば、Ar(アルゴン)やN2(窒素)のガスが供給される。また側壁部13も接地され、接地電位に保持されている。
【0024】
容器11において、天井部12と側壁部13の間には中間アダプタ31が配置される。中間アダプタ31は、本体部分を形成する円筒部31aと、リング状天井部12と側壁部13の上端部との間に挟み込まれる水平上縁部31bとから成る。中間アダプタ31は熱伝導性が良好な材質で作られている。円筒部31aは容器11内でその軸方向(図中垂直方向)に延びており、かつ容器11の側壁部13の内面を、少なくとも所定高さ以上の部分を全面的に覆うごとく、円筒部31aと側壁部13の間を狭い間隔であけてまたは円筒部31aと側壁部13を接触させて、配置されている。上縁部31bは円筒部31aの上端部の全周に沿って径方向(図中水平方向)の外方に向かうごとく形成されている。組付け構造において、中間アダプタ31の上縁部31bの上面と天井部12の間にはリング状シール部材32が設けられ、かつ上縁部31bの下面と側壁部13の上端部との間にもリング状シール部材33が設けられている。なお中間アダプタ31の円筒部の内面の上端部には段差部31cが全周に沿って形成されている。
【0025】
中間アダプタ31の上記段差31cには、下端に鍔34aを備えた円筒形のチャンバシールド34が、ネジ35で固定されている。チャンバシールド34は、容器11の内部に膜が付着するのを防止する。チャンバシールド34は中間アダプタ31の内面を覆うごとく、中間アダプタ31の内面との間を狭い間隔であけてまたは当該内面に接触する状態で配置されている。
【0026】
容器11の内部の下側には基板ホルダ41が設けられている。基板ホルダ41の上面に基板42が搭載される。基板ホルダ41は、熱伝導度の高いAl(アルミニウム)系材料で作られている。基板ホルダ41は、拡散溶接によって接合された上プレート43aと下プレート43bから成る円板状の上部部材43と、円板状の下部部材44を備える。重ね合せて配置された上部部材43と下部部材44はネジ45で結合されている。下部部材44の支柱部44aが、容器11の底部に取り付けられることにより、基板ホルダ41は容器11の内部に固定される。基板ホルダ41の上面は、前述のターゲット16に対して略平行な状態で対向している。
【0027】
上部部材43の内部には一本につながっている流路46が形成されている。この流路46の両端部は、それぞれ、下部部材44の支柱部44aを通って垂直な方向に設けられた溶媒配管47,48に接続されている。溶媒配管47,48の外端部分はさらに外部に延設され、溶媒供給機構49に接続されている。溶媒供給機構49は、溶媒を供給すると共に当該溶媒(液体)の温度制御を行う機能を有する。溶媒供給機構49から供給される溶媒の温度は−50℃から150℃の間の一定温度に制御されている。どの温度に制御するかは、目的に応じて決められる。溶媒供給機構49から基板ホルダ41に供給される溶媒は、溶媒配管47,48、流路46を循環して流れる。これによって基板ホルダ41の温度を所望の温度に保持する。上記流路46は、溶媒の流れについて淀みが生じないように作られていることが望ましい。
【0028】
基板ホルダ41の内部には熱電対50が設けられ、熱電対50によって基板ホルダ41の温度が検出される。上記のごとく溶媒の温度は溶媒供給機構49によって制御されるが、より正確に制御するために、熱電対50で基板ホルダ41の温度をモニタし、温度制御部51と帰還回路52を通して、溶媒供給機構機構49に基づく温度制御にフィードバックさせる。
【0029】
基板ホルダ41の上部部材43の上には基板42を固定するための静電吸着機構が設けられる。この静電吸着機構は、図1および部分的に拡大して示された図2に示すごとく、上部部材43の上に固定される一定の厚みを有する静電吸着板61と、その内部に埋設された静電吸着電極62とから構成されている。静電吸着板61は、例えば窒化アルミニウムや酸化アルミニウム等の誘電体で作られている。静電吸着電極62には、絶縁管63により保護された電極棒64が電気的に接続されている。絶縁管63は、電極棒64を、周囲の部分と電気的に絶縁させる。電極棒64の外側端部は静電チャック電圧制御機構65に接続されている。かかる電極棒64によって、静電吸着電極62に静電吸着(静電チャック)のための電圧が印加される。
【0030】
静電吸着板61は、基板ホルダ41の上部部材43の上面に、低融点の金属、例えばインジウム系の合金材料を用いて溶着にて接合されている。この接合によって基板ホルダ41と静電吸着板61との間の熱伝導は極めて良好になり、容器11の内部の減圧雰囲気においても基板ホルダ41と静電吸着板61の温度は同一となる。静電吸着板61によって固定される基板42も同様に基板ホルダ41と同様な温度となる。特に静電吸着板61との間に形成される基板42の裏面空間にAr(またはHe等)のガスを流すことにより熱伝導性を高めることが望ましい。図示例では、静電吸着板61の表面に溝66やエンボス加工が施され、基板41と静電吸着板61の間に上記裏面空間が形成される。溝66にはバルブ67を備えたガス供給配管68が接続されている。このガス供給配管68を通してガス供給機構69から溝66に上記のArガスが導入される。
【0031】
上記の構成に基づけば、成膜中に基板42がイオン衝撃を受けて加熱されたとしても、基板42から静電吸着板61や基板ホルダ41に熱が良好に伝導し、基板42に与えられる熱が速やかに基板ホルダ41に逃げるので、基板の温度は上昇しないか、または或る一定以上の温度上昇が生じない。さらに基板ホルダ41における冷却効率が良好であるので、基板ホルダ41と電着吸着板61の温度が成膜後非常に急速に溶媒による設定温度に回復する。また基板ホルダ41の下部部材44は接地されているので、下部部材44と上部部材43は接地電位に保持されており、基板ホルダ41は電気的に安定な状態に保持されている。
【0032】
基板ホルダ41において、基板42および静電吸着板61の周囲に配置されるリング形状の外周シールド71と、この外周シールド71の下側に位置し径方向の外方に延びる鍔72aを有する下部シールド72とが設けられる。外周シールド71と下部シールド72は、段付きリング形状を有し、基板ホルダ41への膜の付着を防止している。外周シールド71と下部シールド72との間にはシールド絶縁体73が設けられており、外周シールド71は電気的にフローティング(浮遊)状態に維持されている。外周シールド71をフローティング状態に維持することにより、基板42の端部で膜剥がれが生じたとしても、異常放電が起こるのを防止することができる。
【0033】
容器11の天井部12、側壁部13、底部等の外面には、容器11の温度を調整するための熱媒体(液体または気体)を流すジャケット74が付設されている。ジャケット74に流される熱媒体に基づいて容器11の温度は状況に応じて調整される。成膜が行われる前の段階では加熱するための熱媒体(温度の高い加熱媒体)がジャケット74に流され、ジャケット74は加熱作用を生じる加熱装置として機能する。このとき容器11は直接に加熱され、さらに中間アダプタ31を介してチャンバシールド34も加熱されることになる。成膜の際には冷却するための熱媒体(温度の低い冷却媒体)がジャケット74に流され、ジャケット74は冷却作用を生じる冷却装置として機能する。このとき容器11は直接に冷却され、さらに中間アダプタ31を介してチャンバシールド34も冷却されることになる。なお図1において、ジャケット74に対して冷却用または加熱用の熱媒体を供給するための供給機構の図示、熱媒体の温度状態を制御する制御手段の図示は省略されている。
【0034】
基板ホルダ41の下部部材44の支柱部44aの下端にはボックス75が取り付けられている。ボックス75の内部には、下部部材44の支柱部44Aの下端から引き出される前述の溶媒配管47,48、熱電対50に接続される電気配線、電極棒64に接続される配線、ガス供給配管68等が収容されている。ボックス75には、溶媒配管47,48を取り付けるための接続管76が取り付けられる。接続管76には結露防止材77が付設されている。なおボックス75には乾燥窒素(N2)供給機構78が付設され、これによりボックス75の内部には乾燥窒素が充填された状態に保持されている。
【0035】
上記の構成において、基板成膜前に、図示されない基板搬送機構によって基板42が容器11内に搬入され、基板ホルダ41の静電吸着板61の上に搭載される。静電吸着電極62に所要の電圧が印加されると、静電吸着力が作用し、基板42は基板ホルダ41の上に固定される。次にガス供給機構25によって、配管23とバルブ24を通して一定流量のArガス、またはArガスと窒素ガスの混合ガスが導入され、容器11内は一定の圧力に保持される。次にターゲット16に結合された上部電極14に一定電力の高周波電力が印加され、容器11内のターゲット16と基板ホルダ41の間にプラズマが生成され、プラズマによってターゲット16がスパッタリングされ、基板42の上に所望の薄膜が形成される。特に成膜圧力は数10mTorrから200mTorrの間に設定されるが、この圧力ではターゲット16からスパッタされた金属原子が電子や励起されたAr原子との衝突により、金属イオンとなる。印加される高周波電力の周波数が高い場合には、電子密度が高くなり、金属スパッタ原子のイオン化率は高くなる。成膜圧力が高いほど衝突頻度が高くなるので、イオン化率も高くなる。スパッタ金属イオンは、基板42とプラズマの間に形成されるシースにおいて、シースに掛かる電圧によって基板42の表面に垂直になるように加速される。その結果、金属イオンの基板42への入射角度が垂直になり、基板表面上の微細孔の内部にも段差被覆性が良好な状態で成膜を行うことが可能となる。
【0036】
プラズマによるターゲット16のスパッタリングに基づく基板42への成膜において、スパッタ金属イオンは、基板42以外の各種のシールドに対しても入射し、当該シールドの部分にも膜が付着する。シールドにはさらにArイオンや窒素イオンなども入射する。これらのイオンは、チャンバシールド34の表面に生じるシース電圧によって加速され、チャンバシールド34に入射される。その結果、ターゲットシールド17やチャンバシールド34の温度は成膜中に上昇する。特に高周波マグネトロンスパッタリングの場合には、容器11内に生成されるプラズマがシールド34,17の内面全体に接するごとく広がるために、直流スパッタリングに比較して各シールドの温度は高くなる。
【0037】
そこで本実施形態による高周波マグネトロンスパッタリング装置では、前述の構成に基づき以下のごとくプラズマからのイオン入射によるシールドの温度上昇を防止するようにしている。
【0038】
中間アダプタ31が容器11の側壁部13と天井部12の間にその上縁部31bが挟まれて固定され、チャンバシールド34はこの中間アダプタ31の内側に配置され、取り付けられている。上記の成膜中には、容器11において天井部12、側壁部13、底部はジャケット74に流れる冷却用熱媒体によって冷却された状態で保持されている。全体として円筒形を有する中間アダプタ31は、容器11の側壁部13の内周面に沿って狭い間隔でまたは接触された状態で配置され、その上縁部31bが冷却された天井部12と側壁部13に挟まれている。中間アダプタ31は熱伝導性の良好な材質で形成されている。
【0039】
中間アダプタ31の上縁部31bの厚みは自由に変更することが可能である。中間アダプタ31の上縁部31bの厚みを変更すると、基板ホルダ41上に固定された基板42とターゲット16との間の距離を変更することができる。この場合にはチャンバシールド34の軸方向の長さも中間アダプタ31の軸方向長さと一致するように変更する。ターゲット・基板間距離は成膜分布や成膜速度を決定するパラメータの1つである。
【0040】
中間アダプタ31の円筒部31aの寸法は、その高さ(軸方向長さ)がチャンバシールド34の高さと本質的に同じであり、その厚さが、容器11の側壁部13の内周面とチャンバシールド34の外周面との間の距離よりも50〜1000μmだけ小さくなるように、設計されている。中間アダプタ31は、両側に位置する容器11の側壁部13とチャンバシールド34のそれぞれに対して、狭い間隔をあけて、または接触させて、または密着させた状態で取り付けられている。さらにチャンバシールド34とターゲットシールド16は、熱伝導の良好なAl系材料で作られ、その表面にはAl溶射が施されている。容器11内で生成されたプラズマよりチャンバシールド34やターゲットシールド16に供給される熱は、中間アダプタ31との接触面からの固体熱伝導、およびシールドの外周から中間アダプタ31の円筒部31aの内周面へのガスによる熱伝導により移動する。特に、チャンバシールド34は中間アダプタ31と外周部分が全体にわたってネジ35で固定され、接触されていること、および好ましくはチャンバシールド34の垂直な円筒形部分の外周面の面全体が冷却された中間アダプタ31と極めて接近した距離に置かれて、狭い間隔(隙間)におけるガスによる熱伝導で冷却されているため、成膜中におけるチャンバシールド34等の温度上昇は抑制され、所望の或る一定温度に保たれる。以上のように、成膜中には、チャンバシールド34はその温度上昇を防止するために冷却される。
【0041】
なお成膜を行う前の段階では、ジャケット74に対して加熱用の熱媒体を流す。この熱媒体は例えば150℃の温度に保持され、この熱媒体に基づきかつ中間アダプタ31の熱伝導作用によってチャンバシールド34等は所要の高温状態に保持される。チャンバシールド34では、このような高温に保持されることにより、表面の水分を追い出すという脱ガス作用が生じる。こうしてジャケット74に基づくチャンバシールド34の加熱によって、主に成膜前の基板の予備加熱(プレヒート)に併せて、チャンバシールド34の表面から余分の水分(その他のガス)を放出させる。なお加熱手段としては、ジャケット74と異なるヒータを別途に設けることも可能である。
【0042】
本実施形態の構成によれば、プラズマからのイオン入射による基板42の加熱で基板が温度上昇を防止するため、基板ホルダ41には溶媒が流れる流路46を形成して基板を冷却するための構造を付与しているので、基板42から間接的にチャンバシールド34に熱が伝わり、その温度を上昇させるということは生じない。さらに、ターゲットシールド17も、ジャケット74によって冷却された天井部12に取り付けられ、接触しているので、成膜中冷却状態に保持されている。
【0043】
また中間アダプタ31は、容器11の側壁部13と天井部12に挟まれ、かつチャンバシールド34はネジ35で中間アダプタ31に固定されているので、中間アダプタ31とチャンバシールド34は接地電位に保持されており、電気的にも安定している。
【0044】
また本実施形態では、溶媒供給機構49から流路46に供給される溶媒が露点以下の温度で供給される場合にはその近傍に配置される電気配線等が露結するおそれがあるので、前述のごとく乾燥窒素が充満されたボックス75を取り付けている。これにより、例えば−50℃まで安定した装置の稼動を補償することができる。
【0045】
本実施形態で説明された上記の高周波マグネトロンスパッタリング装置において典型的な成膜条件は、次の通りである。
【0046】
ターゲット16はタンタル(Ta)であり、基板42の上にTaN膜を形成する場合において、基板ホルダ41の温度は20℃、ArガスとN2ガスの混合ガスを導入し、N2ガスの流量比が1〜50%であり、成膜圧力が10〜300mToor、60MHzの高周波電力は1〜10kW、基板42とターゲット16の間の距離は50〜150mmである。なお高周波電力の周波数は、13.56〜300MHzの範囲に含まれる周波数に変更することができる。
【0047】
上記の成膜条件の下で高周波マグネトロンスパッタリングによる成膜を行ったところ、チャンバシールド34等のシールド部材の温度上昇は100℃程度に抑制され、シールド部材の熱的変形は僅かしか生ぜず、そのため、シールド表面からの膜剥がれもなく、パーティクルの発生が非常に少なく、歩留まりが高くなるという結果を得た。さらにシールド部材の冷却時間が従来装置の1/5程度と短くなり、メンテンナンス時間が短くなり、装置稼動率が向上するという利点が得られた。
【0048】
前述の実施形態の説明は本発明の好ましい具体例を明らかにしたものであり、本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲から逸脱しない限りにおいて任意に変更することができるものである。冷却装置または加熱装置として機能するジャケットすなわち温度調整装置を、基板ホルダの温度を調整する装置と共に共通の装置として構成することもできる。
【0049】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように本発明によれば、ターゲットをスパッタリングして基板上に膜を堆積させる高周波マグネトロン等のスパッタリング装置において、成膜時に、冷却作用を生じる温度調整装置で冷却された容器へ熱を逃がす作用を発揮する中間アダプタを利用してチャンバシールドを設けるようにしたため、成膜中においてもシールド部材の温度上昇を適切に抑制することができ、膜剥がれを少なくすることができる。さらに同様な構成に基づいて、成膜後のシールドの冷却時間を短縮でき、高周波マグネトロン等のスパッタリング装置の歩留まりを向上し、生産性を高めることができる。
【0050】
上記スパッタリング装置において、成膜前の段階では、加熱作用を生じる温度調整装置によって加熱された容器からの熱を中間アダプタでチャンバシールドへ伝えるようにしたため、成膜前にシールド部材の温度を高め、脱ガスを簡単な構成でかつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るスパッタリング装置の代表的な実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1中の要部拡大縦断面図である。
【図3】従来の高周波マグネトロンスパッタリング装置の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
11 容器
12 天井部
13 側壁部
14 上部電極
16 ターゲット
17 ターゲットシールド
31 中間アダプタ
31a 円筒部
31b 上縁部
34 チャンバシールド
41 基板ホルダ
42 基板
61 静電吸着板
62 静電吸着電極
66 溝
71 外周シールド
72 下部シールド
74 ジャケット(温度調整装置)

Claims (8)

  1. 真空容器と、この容器内に配置されたターゲットと、このターゲットに対向する位置に設けられた基板ホルダと、前記容器の内部にガスを供給するガス供給機構と、前記ターゲットに電力を与える電力供給機構を備えるスパッタリング装置において、
    前記容器は、容器壁部を含み、かつ前記容器壁部を加熱または冷却する温度調整装置を備え、
    前記基板ホルダと前記ターゲットとの間の空間を取り囲むように配置された内面シールド部材と、
    前記内面シールド部材と前記容器壁部との間に配置され、前記内面シールド部材を固定すると共に、前記容器壁部に固定される中間アダプタと、を備え
    前記中間アダプタの厚さは、前記容器壁部と前記内面シールド部材との間の間隔よりも50〜1000μmだけ小さくなるように設定され、
    前記中間アダプタは、前記容器壁部により上下から挟み込まれて固定される上縁部を有すると共に、上下方向の段差部を有し、
    前記内面シールド部材は、前記中間アダプタの前記段差部により窪んだ部分に掛けた状態で固定されていることを特徴とするスパッタリング装置。
  2. 前記内面シールド部材は、導電性材料からなるネジを介して前記中間アダプタの窪んだ部分に固定されていることを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
  3. 前記温度調整装置は、成膜前には加熱作用を生じ前記中間アダプタの熱伝導を利用して前記内面シールド部材を加熱し、成膜中には冷却作用を生じ前記中間アダプタの熱伝導を利用して前記内面シールド部材を冷却することを特徴とする請求項1または2記載のスパッタリング装置。
  4. 前記内面シールド部材はアルミニウム系材料で作られ、かつ表面がアルミニウム溶射で処理されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
  5. 前記容器壁部は、接地電位に維持されていると共に、前記中間アダプタは、導電性部材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
  6. 前記中間アダプタの前記上縁部の厚みを変えることで、前記ターゲットと、前記基板ホルダ上の基板との間の間隔を変えるようにしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
  7. 前記基板ホルダの少なくとも上部の周囲を囲むように配置される基板ホルダシールド部材を有し、
    前記内面シールド部材はその下端全周部に内方に延びる鍔部を有し、かつ前記基板ホルダシールド部材はその下端全周部に外方に延びる鍔部を有し、前記内面シールド部材の前記鍔部と前記基板ホルダシールド部材の前記鍔部は、隙間を介して重なるように配置されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
  8. 前記基板ホルダシールド部材は、前記基板の周囲に位置する上部シールド部材と、前記基板ホルダの下部側に位置する下部シールド部材とから成り、前記下部シールド部材は前記鍔部を有し、かつ前記上部シールド部材はシールド絶縁体により保持されていることを特徴とする請求項記載のスパッタリング装置。
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