JP4108258B2 - 前後輪駆動車両の駆動力制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、前輪および後輪を第1および第2の原動機で互いに独立してそれぞれ駆動するタイプの前後輪駆動車両の駆動力制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種の駆動力制御装置として、例えば特開2000−79833号公報に開示されたものが知られている。この前後輪駆動車両は、前輪をエンジンで駆動し、後輪をモータで駆動するタイプのものである。このモータの駆動源であるバッテリは、車両の走行エネルギを回収することにより充電できるように構成されている。また、この駆動力制御装置では、バッテリの充電残量がその所定値以下で、かつ車両の加速操作、例えばアクセルペダルの操作が行われたときに、無段変速機の変速比を高ギヤ比側へ所定幅だけ変更し、それにより発生した余裕トルクに対応する回生制動トルクによって、バッテリの充電が行われる。この充電は、充電残量が所定値に達するまで実行される。このようにして減速時以外にもバッテリの充電を行うことで、充電残量が不足するのを防止するようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この従来の駆動力制御装置では、バッテリの充電残量を確保するために、充電残量がその所定値以下の場合には、アクセルペダルの操作に伴って、充電走行が無条件に実行される。この状況では、後輪に減速方向の回生制動トルクが作用するのに対し、前輪にはエンジンによる加速方向の駆動トルクが作用するため、前輪と後輪の駆動方向が互いに反対になるとともに、後輪の回生制動トルク分が前輪に上乗せされる。このため、例えば低摩擦路での走行時に、前後輪の速度差が大きくなり、後輪のスリップが大きくなることで、前後の横力バランスが崩れ、車両の挙動が不安定になるおそれがある。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、第2原動機の駆動源に駆動エネルギを充填する充填モード時における前後の駆動輪間の速度差を、路面状態および車両の走行状態に応じた適正な範囲に収めることができ、それにより車両の走行安定性を確保することができる前後輪駆動車両の駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明の請求項1に係る発明は、前後の駆動輪の一方である第1駆動輪(実施形態における(以下、本項において同じ)前輪WFL、WFR)を第1原動機(エンジン3)で駆動するとともに、他方である第2駆動輪(後輪WRL、WRR)を第2原動機(モータ4)で駆動する駆動モードと、車両2の走行エネルギを回収することにより第2原動機の駆動源(バッテリ7)に駆動エネルギとして充填する充填モードとに切り換えて運転される前後輪駆動車両の駆動力制御装置であって、第1駆動輪の速度(車輪回転数N_FL、N_FR)および第2駆動輪の速度(車輪回転数N_RL、N_RR)をそれぞれ検出する第1駆動輪速度検出手段(車輪回転数センサ12)および第2駆動輪速度検出手段(車輪回転数センサ12)と、検出された第1駆動輪速度と第2駆動輪速度を比較する駆動輪速度比較手段(ECU11、図11のステップ81)と、充填モード中に、駆動輪速度比較手段により第2駆動輪速度が第1駆動輪速度よりも所定値(判別値CHRG_Slip_ratio)以上低下したと判定されたときに、駆動源に充填する駆動エネルギの充填量(後輪駆動力FCMD_MOT)を制限する駆動エネルギ充填量制限手段(ECU11、充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRG、図11のステップ86)と、を備え、充填モードは、車両2の減速走行中に実行される減速走行充填モード(減速回生モード)と、車両2の非減速走行中に実行される非減速走行充填モード(定速走行充電モード)とを含み、非減速走行充填モード用の所定値(判別値CHRG_Slip_ratio)は、減速走行充填モード用の所定値(判別値CHRG_Slip_ratio_DEC)よりも小さな値に設定されていることを特徴とする。
【0006】
この前後輪駆動車両の駆動力制御装置によれば、第1原動機で駆動される第1駆動輪の速度、および第2原動機で駆動される第2駆動輪の速度が検出されるとともに、検出された第1および第2駆動輪速度が、駆動輪速度比較手段によって比較される。そして、車両の走行エネルギを回収することにより第2原動機の駆動源に駆動エネルギとして充填する充填モード中に、第2駆動輪速度が第1駆動輪速度よりも所定値以上低下したと判定されたときに、駆動エネルギ充填量制限手段によって、駆動エネルギ充填量が制限される。
【0007】
このように、充填モード中の第2駆動輪の回生制動によって第2駆動輪速度が第1駆動輪速度よりもある程度遅くなった場合、第2原動機の駆動源への駆動エネルギ充填量、すなわち第2駆動輪の回生制動トルクを制限するので、第1駆動輪と第2駆動輪の速度差、すなわち第2駆動輪のスリップの度合を適正な範囲に収めることができる。その結果、低摩擦路での走行時などにおいても、充填モード時における第2駆動輪のスリップを確実に抑制でき、車両の走行安定性を確保することができる。また、非減速走行充填モードでは、第2駆動輪に減速方向の回生制動トルクが作用するのに対し、第1駆動輪には第1原動機による加速方向の駆動トルクが作用し、第1および第2駆動輪の駆動方向が互いに反対になるため、運転者に違和感を与えやすい。これに対し、減速走行充填モードでは、第1および第2駆動輪の駆動方向がともに減速方向になるため、そのような違和感は生じない。したがって、駆動エネルギ充填量の制限を実行するか否かを判定するための所定値を上記のように設定することによって、減速走行充填モード時よりも非減速走行充填モード時において、駆動エネルギ充填量の制限に入りやすくなるので、車両の運転性をその走行状態に応じて適切に確保することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の駆動力制御装置において、駆動エネルギ充填量制限手段は、第1駆動輪速度に対する第2駆動輪速度の低下の度合に応じて、駆動エネルギ充填量を制限する(図11のステップ84、85、図14のテーブル)ことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第1駆動輪速度に対する第2駆動輪速度の低下の度合に応じて、駆動エネルギ充填量を制限するので、走行路面の実際の摩擦抵抗の大きさに応じて、第2駆動輪の回生制動トルクをより適切に制御できることで、より良好な走行安定性を得ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明する。図1は、本発明による駆動力制御装置1を適用した前後輪駆動車両(以下「車両」という)2の概略構成を示している。同図に示すように、この車両2は、左右の前輪WFL、WFR(以下、総称する場合は「WF」という)をエンジン3で駆動するとともに、左右の後輪WRL、WRR(以下、総称する場合は「WR」という)をモータ4で駆動するものである。
【0013】
エンジン3は、車両2の前部に横置きに搭載されており、トルクコンバータ5aを有する自動変速機5、およびフロントディファレンシャル6を介して、前輪WFに接続されている。
【0014】
モータ4は、その駆動源であるバッテリ7に接続されるとともに、電磁クラッチ8およびリヤディファレンシャル9を介して、後輪WRに接続されている。モータ4がバッテリ7で駆動されており(駆動モード)、かつ電磁クラッチ8が接続されているときに、後輪WRがモータ4で駆動され、このとき、車両2は四輪駆動状態になる。なお、モータ4の出力は、最大12kWの範囲内で任意に変更することが可能である。一方、モータ4は、車両2の制動エネルギにより回転駆動されているとき(減速回生モード)などに発電を行い、発電した電力(回生エネルギ)をバッテリ7に充電するジェネレータとしての機能を有している。このバッテリ7の充電残量SOCは、検出されたバッテリ7の電流・電圧値に基づき、後述するECU11によって算出される。
【0015】
モータ4は、モータドライバー10を介して、ECU11に接続されており、モータ4の駆動モードおよび減速回生モードなどの切換え、駆動モード時における最大出力の設定や駆動トルク、ならびに減速回生モード時における回生量(充電量)などは、ECU11で制御されるモータドライバー10によって、制御される。電磁クラッチ8の接続・遮断もまた、そのソレノイド(図示せず)への電流の供給・停止がECU11で制御されることによって、制御される。
【0016】
左右の前輪WFL、WFRおよび後輪WRL、WRRには、磁気ピックアップ式の車輪回転数センサ12がそれぞれ設けられており、これらの車輪回転数センサ12から、各車輪回転数N_FL、N_FR、N_RL、N_RRを表すパルス信号がECU11にそれぞれ出力される。ECU11は、これらのパルス信号から、左右前輪回転数平均値N_Fwheel、左右後輪回転数平均値N_Rwheelや、車速Vcarなどを算出する。
【0017】
また、エンジン3のクランクシャフト(図示せず)には、所定のクランク角ごとにクランクパルス信号CRKを出力するクランク角センサ13が、自動変速機5のメインシャフト5bおよびカウンタシャフト(図示せず)には、それらの回転数Nm、Ncounterを表すパルス信号を出力する磁気ピックアップ式のメイン・カウンタシャフト回転数センサ14a、14bが、それぞれ設けられており、これらの信号もまた、ECU11に出力される。ECU11は、クランクパルス信号CRKに基づいてエンジン回転数NEを算出するとともに、このエンジン回転数NEとメインシャフト回転数Nmから、トルクコンバータ5aの速度比eを算出する(e=Nm/NE)。また、モータ4にはその回転数Nmotを表すパルス信号を出力するレゾルバによるモータ回転数センサ15が設けられており、この信号もECU11に出力される。
【0018】
また、ECU11には、アクセル開度センサ16から、アクセルペダル17のON/OFFを含む開度(アクセル開度)θAPを表す検出信号が入力される。ECU11にはさらに、ブレーキのマスタシリンダ(図示せず)に取り付けたブレーキ圧センサ19からブレーキ圧PBRを表す検出信号が、操舵角センサ20からハンドル(図示せず)の操舵角θSTRを表す検出信号が、シフト位置センサ21から自動変速機5のシフトレバー位置POSIを表す検出信号が、加速度センサ22、23から前後の車輪WF、WRの加速度GF、GRを表す検出信号が、それぞれ入力される。
【0019】
上記ECU11は、RAM、ROM、CPUおよびI/Oインターフェースなどからなるマイクロコンピュータ(いずれも図示せず)で構成されている。ECU11は、上述した各種センサからの検出信号に基づいて、車両2の走行状態を検出し、制御モードを判定するとともに、その結果に基づいて、車両2の目標駆動力FCMD、前輪目標駆動力FCMD_ENGおよび後輪目標駆動力FCMD_MOTを算出する。そして、算出した前輪目標駆動力FCMD_ENGに基づく駆動信号DBW_THを、DBW式のアクチュエータ24に出力することによって、スロットル弁25の開度(スロットル弁開度θTH)を制御し、エンジン3の駆動力を制御する。また、後輪目標駆動力FCMD_MOTに基づくモータ要求トルク信号TRQ_MOTをモータドライバー10に出力することによって、モータ4の駆動力を制御する。
【0020】
図2は、ECU11で実行される制御処理のメインフローを示すフローチャートである。このプログラムは、所定時間(例えば10ms)ごとに実行される。この制御処理ではまず、ステップ21(「S21」と図示。以下同じ)において車両2の状態を検出する。具体的には、前述した各種センサで検出されたパラメータ信号を読み込み、これらに基づき、左右前輪・後輪回転数平均値N_Fwheel、N_Rwheel、車速Vcarや、後輪スリップ率Slip_ratioの算出などの所定の演算を行うとともに、車両2が前進、後退および停止のいずれの走行状態にあるかを判定する。
【0021】
次いで、ステップ21で検出された、自動変速機5のシフトレバー位置POSIおよびアクセルペダル(以下「AP」という)17のON/OFF状態、ならびに車両2の走行状態から、車両2の制御モードを判定する(ステップ22)。具体的には、制御モードを、車両2が前進状態または後退状態でAP17がONのときに前進駆動モードまたは後退駆動モード(以下、まとめて「駆動モード」という)と判定し、車両2が前進状態または後退状態でAP17がOFFのときに前進減速回生モードまたは後退減速回生モード(以下、まとめて「減速回生モード」という)と判定し、車両2が停止状態のときに停止モードと判定する。制御モードが減速回生モードのときには、原則として、回生制動トルクを利用したバッテリ7の充電が行われる。
【0022】
次に、ステップ22で判定された制御モードに応じて、車両2全体の目標駆動力FCMD、前輪目標駆動力FCMD_ENGおよび後輪目標駆動力FCMD_MOTを算出する(ステップ23)。これについては後述する。
【0023】
次いで、電磁クラッチ8のON/OFF制御を実行する(ステップ24)。具体的には、車速Vcar、およびモータ4と後輪WRとの差回転数に基づいて、電磁クラッチ8をONまたはOFFするかを判定するとともに、その判定結果に基づいて電磁クラッチ8をON/OFF制御する。
【0024】
次に、ステップ23で算出した後輪目標駆動力FCMD_MOTと、ステップ24で制御した電磁クラッチ8のON/OFF状態に基づいて、モータ4の要求トルクTRQ_MOTを算出し(ステップ25)、これに基づく駆動信号をモータドライバー10に出力することによって、モータ4の駆動力を制御する。
【0025】
次いで、ステップ23で算出した前輪目標駆動力FCMD_ENGに基づいて、アクチュエータ出力値DBW_THを算出し(ステップ26)、これに基づく駆動信号をアクチュエータ24に出力し、スロットル弁開度θTHを制御することで、エンジン3の駆動力を制御し、本プログラムを終了する。
【0026】
図3は、図2のステップ23で実行される駆動力算出サブルーチンを示す。この制御処理ではまず、判定された制御モードに従い、車両2全体の目標駆動力FCMDを演算する(ステップ31)。この目標駆動力FCMDは、例えば、検出された車速VcarおよびAP開度θAPに応じ、図4に一例を示すテーブルを検索することによって、算出される。図4には、AP開度θAPが0deg、5degおよび80degのときのテーブル値が代表的に示されており、目標駆動力FCMDは、アクセル開度θTHが大きいほど大きく、また車速Vcarが大きいほど小さくなるように設定されている。なお、AP開度θAP=0degのときのテーブル値は、シフトレバー位置がD4相当のラインを表しており、この場合、目標駆動力FCMDは、負値として算出される。
【0027】
次に、定速走行時の充電モード要求判定を実行する(ステップ32)。具体的には、車速Vcarおよびバッテリ7の充電残量SOCに応じて、基準駆動力FCMD_CHRGを求めるとともに、この基準駆動力FCMD_CHRGと、ステップ31で算出した目標駆動力FCMDとの関係から、車両2がバッテリ7の充電を行うべき定速走行状態にあるか否かを判定し、その判定結果が肯定のときに、制御モードが定速走行充電モードとされ、バッテリ7への充電が行われる。その詳細については後述する。
【0028】
次いで、後輪目標駆動力FCMD_MOTを演算する(ステップ33)。この演算は、図2のステップ22および上記ステップ32で判定された制御モード(駆動、減速回生、定速走行充電および停止のいずれか)に従い、制御モード別に行われる。
【0029】
次に、上記ステップ33で算出した後輪目標駆動力FCMD_MOTに所定のフィルタ処理を施した(ステップ34)後、前輪目標駆動力FCMD_ENGを次式(1)によって演算し(ステップ35)、本プログラムを終了する。
FCMD_ENG
=FCMD−FCMD_MOT−FENG_OFF・・・(1)
ここで、FENG_OFFは、エンジン引きずり分(負値)である。このように、前輪目標駆動力FCMD_ENGは、基本的には、目標駆動力FCMDから後輪目標駆動力FCMD_MOTを差し引いた値として設定される。
【0030】
図5〜図7は、図3のステップ32で実行される定速走行(クルーズ)時の充電モード要求判定のサブルーチンを示している。この制御処理ではまず、車速Vcarが、その第1下限値VSPCHGLH(例えば25km/h)よりも大きく、かつ第1上限値VSPCHGHL(例えば65km/h)よりも小さいか否かを判別する(ステップ41)。
【0031】
この答がNO、すなわちVSPCHGLH<Vcar<VSPCHGHLのときには、車速Vcarが充電走行を行うべき所定の範囲内にあるとして、充電走行マップ検索フラグF_CHRMAPを「1」にセットする(ステップ42)。一方、ステップ41の答がNO、すなわちVcar≦VSPCHGLHまたはVcar≧VSPCHGHLのときには、車速Vcarが充電走行を行うべき所定の範囲内にないとして、ステップ42をスキップし、次のステップ43に進む。これは、車速Vcarが小さい渋滞などの極低速運転時には、充電走行に入るのが煩雑であるので、これを回避するためであり、一方、車速Vcarが大きい高速運転時には、モータ4が高速で回転する後輪WRに追随して回転することが困難になることから、電磁クラッチ8が遮断されるためである。なお、電磁クラッチ8を設けずに、大型モータを用いて後輪WRを駆動することも可能であり、その場合には、上述した第1上限値VSPCHGHLおよび次に述べる第2上限値VSPCHGHHによる車速Vcarの制限は、省略してもよい。
【0032】
前記ステップ41または42に続くステップ43では、車速Vcarが、その第2下限値VSPCHGLL(例えば20km/h)よりも小さく、あるいは第2上限値VSPCHGHH(例えば70km/h)よりも大きいか否かを判別する。これらの第2下限値および第2上限値VSPCHGLL、VSPCHGHHは、上記第1下限値および第1上限値VSPCHGLH、VSPCHGHLに対して、ヒステリシスを付与したものである。したがって、このステップ43の答がYES、すなわちVcar<VSPCHGLLまたはVcar>VSPCHGHHのときには、車速Vcarが充電走行を行うべき所定の範囲にないとして、充電走行マップ検索フラグF_CHRMAPを「0」にセットする(ステップ44)一方、NOのときには、ステップ44をスキップし、次のステップ45に進む。
【0033】
このステップ45では、後輪スリップ率零点調整フラグF_Slip_ratio_zeroが「0」であるか否かを判別する。このフラグF_Slip_ratio_zeroは、前輪WFと後輪WRのタイヤ径が異なる場合などにこれを補正するために発進時に実行される後輪スリップ率Slip_ratioの零点調整が終了したときに、「1」にセットされるものである。したがって、ステップ45の答がYES、すなわちF_Slip_ratio_zero=0のときには、充電走行マップ検索フラグF_CHRMAPを「0」にセットする(ステップ46)一方、NOのときには、ステップ46をスキップして、次のステップ47に進む。
【0034】
このステップ47では、充電走行マップ検索フラグF_CHRMAPが「1」であり、かつ車両2が2輪駆動状態にあるか否かを判別する。この答がNO、すなわち車速Vcarが所定の範囲にないか、または後輪スリップ率Slip_ratioの零点調整が終了していないとき、あるいは車両2が2輪駆動状態になく、すなわち後輪目標駆動力FCMD_MOTが値0でないときには、充電モードの基本的な実行条件が成立していないとして、ステップ48に進み、充電モードフラグF_CHRG_CMDを「0」にセットして、充電走行を実行しないようにするとともに、後述するクルーズOUTディレイタイマTM_CRUISEOUTのタイマ値を、その所定時間TM_CRUISEOUT_MIN(例えば0.1秒)に設定し、また、クルーズINディレイタイマTM_CRUISEINのタイマ値を、値0にリセットした後、後述するステップ57に進む。
【0035】
一方、前記ステップ47の答がYES、すなわち車速Vcarが所定の範囲内にあり、かつ後輪スリップ率Slip_ratioの零点調整が実行済みで、さらに車両2が2輪駆動状態のときには、定速走行充電モードの基本的な実行条件が成立しているとして、充電走行マップを検索することにより、車速Vcarおよびバッテリ7の充電残量SOCに応じて、基準駆動力FCMD_CHRGを求める(ステップ49)。
【0036】
図8は、この充電走行マップの一例を示している。この充電走行マップは、充電走行を行うべき目標駆動力FCMDの領域を定めるものであり、後述するように、充電走行マップに定められた基準駆動力FCMD_CHRGよりも基準駆動力FCMDが小さいときに、充電走行が許可される。図8の充電走行マップでは、前記所定範囲内の車速Vcarに対し、基準駆動力FCMD_CHRGとして、低SOC(例えば0〜60%)用のFCMD_CHRG1および高SOC(例えば60〜100%)用のFCMD_CHRG2が設定されており、これらの一方がSOC値に応じて選択される。
【0037】
一方、同図の破線は、各路面勾配において定速走行する際の走行抵抗曲線を表しており、これらの走行抵抗曲線は、「空気抵抗係数×車速Vcar2 +転がり抵抗係数×車重+路面勾配(%)×車重+モータ引きずり量」によって、理論的に求められる。同図から明らかなように、低SOC用の基準駆動力FCMD_CHRG1は、路面勾配=5%のときの走行抵抗曲線にほぼ相当するとともに、高SOC用の基準駆動力FCMD_CHRG2は、路面勾配=3%のときの走行抵抗曲線にほぼ相当している。その結果、低SOC用および高SOC用の基準駆動力FCMD_CHRG1、2は、いずれも車速Vcarの増加に応じて漸増するとともに、前者が後者よりも大きな値に設定される。なお、充電走行マップ中の下側のラインFCMD_MINは、AP17がOFFのときの目標駆動力FCMDを表し、すなわち目標駆動力FCMDの最低ラインに相当する。以上から明らかなように、図8の充電走行マップの基準駆動力FCMD_CHRG1またはFCMD_CHRG2と目標駆動力最低ラインFCMD_MINとの間の領域が、低SOC時および高SOC時における定速走行充電モードの実行領域をそれぞれ表す。
【0038】
次いで、図6のステップ50において、図3のステップ31で算出した目標駆動力FCMDが、上記ステップ49で検索した基準駆動力FCMD_CHRGよりも小さいか否かを判別する。この答がYES、すなわち目標駆動力FCMD<基準駆動力FCMD_CHRGが成立していて、目標駆動力FCMDが図8の充電走行マップの実行領域内にあるときには、充電走行条件が成立しているとして、ステップ51に進み、クルーズINディレイタイマTM_CRUISEINのタイマ値が、その所定時間TM_CRUISEIN_MIN(例えば2秒)以上であるか否かを判別する。前述したように、このクルーズINディレイタイマTM_CRUISEINは、定速走行充電モードの基本的な実行条件が成立していないときに、前記ステップ48で値0にリセットされていることから、ステップ51の実行当初はこの答がNOになる。その場合には、ステップ52に進み、充電モードフラグF_CHRG_CMDを「0」に保持して、充電走行を実行しないようにするとともに、クルーズOUTディレイタイマTM_CRUISEOUTのタイマ値を所定時間TM_CRUISEOUT_MINに保持し、クルーズINディレイタイマTM_CRUISEINのタイマ値をインクリメントした後、後述するステップ57に進む。
【0039】
一方、前記ステップ51の答がYES、すなわち充電走行条件の成立後、所定時間TM_CRUISEIN_MINが経過したときには、充電モードフラグF_CHRG_CMDを「1」にセットして、充電走行を開始するとともに、クルーズOUTディレイタイマTM_CRUISEOUTを値0にリセットした(ステップ53)後、後述するステップ57に進む。以上のように、充電走行は、目標駆動力FCMDが基準駆動力FCMD_CHRGよりも小さく、かつその状態が所定時間TM_CRUISEIN_MINの間、維持されたときに、実行される。
【0040】
一方、前記ステップ50の答がNO、すなわち目標駆動力FCMD≧基準駆動力FCMD_CHRGが成立していて、目標駆動力FCMDが図8の充電走行マップの実行領域内にないときには、クルーズOUTディレイタイマTM_CRUISEOUTのタイマ値が、所定時間TM_CRUISEOUT_MIN以上であるか否かを判別する(ステップ54)。今回のループが、充電モードから移行した直後のループである場合には、このクルーズOUTディレイタイマTM_CRUISEOUTが、前記ステップ53で値0にリセットされていることから、ステップ54の答がNOになる。その場合には、ステップ55に進み、充電モードフラグF_CHRG_CMDを「1」に保持して、充電走行を続行するとともに、クルーズINディレイタイマTM_CRUISEINのタイマ値を所定時間TM_CRUISEIN_MINに保持し、クルーズOUTディレイタイマTM_CRUISEOUTのタイマ値をインクリメントした後、後述するステップ57に進む。
【0041】
一方、前記ステップ54の答がYES、すなわち目標駆動力FCMD≧基準駆動力となった後、所定時間TM_CRUISEOUT_MINが経過したときには、充電モードフラグF_CHRG_CMDを「0」にセットして、充電走行を終了するとともに、クルーズINディレイタイマTM_CRUISEINを値0にリセットした(ステップ56)後、後述するステップ57に進む。このように、充電走行は、目標駆動力FCMDが基準駆動力FCMD_CHRGよりも大きくなった後、その状態が所定時間TM_CRUISEOUT_MINの間、継続したときに、終了する。以上により、定速走行充電モードへの移行と離脱の間での制御ハンチングが防止される。
【0042】
次いで、前記ステップ48、52、53、55または56に続くステップ57では、充電モードフラグF_CHRG_CMDの今回値と前回値F_CHRG_CMD_OLDとの差を、充電走行開始フラグF_START_CHRG_CMDとして算出するとともに、次いで、その値が「1」であるか否かを判別する(ステップ58)。この答がYES、すなわちF_START_CHRG_CMD=1であって、今回のループが充電走行を開始した最初のループであるときには、充電スロープ制御タイマTM_CHRG_SLOPEをインクリメントして、スタートさせる(ステップ59)。一方、ステップ58の答がNO、すなわち今回のループが充電走行の開始時以外のときには、ステップ59をスキップし、次いで、今回の充電モードフラグF_CHRG_CMD値を、その前回値F_CHRG_CMD_OLDとして設定し(ステップ60)、本プログラムを終了する。
【0043】
以上のように、この制御処理によれば、車両2の実際の目標駆動力FCMDが、図8の充電走行マップに定められた基準駆動力FCMD_CHRGよりも小さいと判定されたときに、定速走行充電モードが許可され、充電走行が実行される。また、前述したように、この基準駆動力FCMD_CHRG1、2は、3%または5%の路面勾配での定速走行に必要な車両2の駆動力に相当する。したがって、この勾配よりも緩やかな路面勾配で定速走行を行っている状態では、車両2の目標駆動力FCMDが基準駆動力FCMD_CHRGよりも小さくなることで、充電走行が行われる。この場合、車両2が定速走行されていて、車両2全体としての目標駆動力FCMDが小さいことから、充電走行に伴うエンジン3の負荷の増加量は小さい。一方、例えばAP17が踏み込まれた加速状態では、目標駆動力FCMDが増大し、基準駆動力FCMD_CHRGを上回るようになることで、充電走行が禁止される。このように、充電走行を、運転者による加速要求が無い場合にのみ、エンジン3に余分な負荷をかけずに無理なく行えるので、燃費と運転性を向上させることができる。
【0044】
また、基準駆動力FCMD_CHRGが上述したように設定されので、定速走行時に、充電走行領域を確保でき、バッテリ7の充電を確実に行えるとともに、基準駆動力FCMD_CHRGを理論式によって容易に求めることができる。さらに、基準駆動力FCMD_CHRGは、車両2の走行状態が充電に適した定速走行状態にあるか否かを判定する基準になるとともに、充電走行を実行する基準にもなるので、この基準駆動力FCMD_CHRGをあらかじめ設定し、充電走行マップに記憶させておくだけで、定速走行状態の判定と充電走行の実行を、容易かつ適切に行うことができる。
【0045】
また、基準駆動力FCMD_CHRGとして、低SOC時に大きな基準駆動力FCMD_CHRG1が用いられ、高SOC時に小さな基準駆動力FCMD_CHRG2が用いられるので、充電要求が高い低SOC時に、路面勾配がより大きい状態での定速走行時にも充電モードに入りやすくなることで、バッテリ7の充電を、その要求度合に応じて効率良く適切に行うことができる。
【0046】
なお、上記の充電走行マップでは、基準駆動力FCMD_CHRGとして、低SOC用および高SOC用の2つの基準駆動力FCMD_CHRG1、2をあらかじめ設定し、実際の充電残量SOCに応じて選択するようにしているが、充電残量SOCによる基準駆動力FCMD_CHRGの補正を他の手法によって行ってもよい。図9は、そのためのテーブルの一例を示しており、このテーブルでは、基準勾配SLOPE_REFが、充電残量SOCが小さいほど、より大きくなるように設定されている。そして、このテーブルを検索することにより、実際の充電残量SOCに応じて基準勾配SLOPE_REFを求めるとともに、求めた基準勾配SLOPE_REFにおける車両2の走行抵抗曲線を、そのときの基準駆動力FCMD_CHRGとして決定する。これにより、基準駆動力FCMD_CHRGを、充電残量SOCに応じてよりきめ細かく設定できるので、バッテリ7の充電を、その要求度合に応じてより適切に行うことができる。
【0047】
図10〜図12は、上述した図5〜図7のサブルーチンの判定結果に従って実行される定速走行充電モード時の後輪目標駆動力FCMD_MOTの算出サブルーチンを示す。この制御処理ではまず、図5のステップ49と同様、図8の充電走行マップにより、車速Vcarおよび充電残量SOCに応じて、基準駆動力FCMD_CHRGを検索する(ステップ71)。次に、検索した基準駆動力FCMD_CHRGと目標駆動力FCMDから、充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRGを、次式(2)によって算出する(ステップ72)。
FCMD_MOT_CHRG=FCMD−FCMD_CHRG・・・(2)
【0048】
このように、充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRGは、目標駆動力FCMDと基準駆動力FCMD_CHRGとの偏差として決定される。また、前述したように、定速走行充電モードが、FCMD<FCMD_CHRGのときに実行されることから、式(2)で求められる充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRGは、負値となり、すなわち後輪WRの引きずりトルクとして設定される。また、前記ステップ35の説明で述べたように、前輪目標駆動力FCMD_ENGは、基本的に目標駆動力FCMDから後輪目標駆動力FCMD_MOTを差し引いた値(=FCMD−FCMD_MOT)として設定されるので、この定速走行充電モードでは、前輪目標駆動力FCMD_ENGにFCMD_MOT_CHRG値が上乗せされることになる。
【0049】
以上のように、定速走行充電モードにおける後輪目標駆動力FCMD_MOTは、基本的に、目標駆動力FCMDと基準駆動力FCMD_CHRGとの偏差に応じて設定される。したがって、後輪目標駆動力FCMD_MOTが非常に小さい状態で、充電走行を開始および終了でき、その結果、後輪目標駆動力FCMD_MOTが急激に発生したり消失したりすることがなくなるので、充電走行を、運転者に違和感を与えることなく行うことができる。
【0050】
次に、上記算出した充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRGのリミット処理を行う。まず、充電残量SOCに応じて、後輪WRの最大引きずり量FCMD_CHRG_MAXを検索する(ステップ73)。図13は、最大引きずり量テーブルの一例を示しており、このテーブルでは、最大引きずり量FCMD_CHRG_MAXは、基本的に、充電残量SOCが少ないほど、充電量を大きくするためにより大きな値に設定されている。具体的には、SOC値が第1所定値SOC1(例えば30%)以下のときに第1設定値FCMD_CHRG_MAX1(例えば−60kgf)に、第1所定値SOC1よりも大きな第2所定値SOC2(例えば60%)以上のときに、より小さな第2設定値FCMD_CHRG_MAX2(例えば−35kgf)にそれぞれ設定され、両所定値SOC1、2の間では漸減するように設定されている。
【0051】
次いで、充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRG(負値)が、最大引きずり量FCMD_CHRG_MAX以下であるか(絶対値として大きいか)否かを判別する(ステップ74)。この答がYESのときには、充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRGを最大引きずり量FCMD_CHRG_MAXに設定する(ステップ75)一方、NOのときには、ステップ75をスキップして、FCMD_MOT_CHRG値を保持する。
【0052】
ステップ74または75に続くステップ76では、充電スロープ制御タイマTM_CHRG_SLOPEのタイマ値が、値0より大きく、かつその所定時間TM_CHRG_SLOPE_END(例えば1.5秒)以下であるか否かを判別する。この答がYES、すなわち充電走行の開始後、所定時間TM_CHRG_SLOPE_ENDが経過していないときには、後輪目標駆動力FCMD_MOTを、それ以前の状態から充電時の引きずり状態にスロープ状に徐々に移行させるために、これを次式(3)によって算出する(ステップ77)とともに、充電スロープ制御タイマTM_CHRG_SLOPEをインクリメントする(ステップ78)。
FCMD_MOT
=FCMD_MOT_OLD+(FCMD_MOT_CHRG−FCMD_MOT_OLD)/(TM_CHRG_SLOPE_END−TM_CHRG_SLOPE+1) ・・・(3)
【0053】
ここで、FCMD_MOT_OLDは後輪目標駆動力の前回値、右辺の分母(TM_CHRG_SLOPE_END−TM_CHRG_SLOPE+1)は、充電スロープ制御タイマTM_CHRG_SLOPEの作動残り時間(スロープ演算残り回数)を表す。すなわち、式(3)による演算により、このタイマの作動時間中の各ループにおいて、そのときの充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRGと後輪目標駆動力の前回値FCMD_MOT_OLDとの差をタイマの作動残り時間で除した値を、FCMD_MOT_OLD値に随時、加算することによって、後輪目標駆動力FCMD_MOTは、スロープ状に徐々に変化し、所定時間TM_CHRG_SLOPE_ENDの経過時に、最終的に充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRGに達する。これにより、後輪目標駆動力FCMD_MOTを、それ以前の状態から充電時の引きずり状態にスロープ状に徐々に移行させることができる。
【0054】
一方、前記ステップ76の答がNO、すなわち充電走行の開始後、所定時間TM_CHRG_SLOPE_ENDが経過したときには、充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRGをそのまま後輪目標駆動力FCMD_MOTとして設定するとともに、充電スロープ制御タイマTM_CHRG_SLOPEを値0にリセットした(ステップ79)後、ステップ80以降に進む。
【0055】
このステップ80以降では、充電走行に伴う後輪スリップを抑制して車両2の走行安定性を確保するために、充電量の制限制御を実行する。まず、充電量制限フラグF_CHRG_LMTが「1」であるか否かを判別する(ステップ80)。この答がNO、すなわち充電量の制限中でないときには、左右前輪回転数平均値N_Fwheelがその切換回転数Vn_change(例えば車速5km/h相当)以上で、かつ後輪スリップ率Slip_ratioがその判別値CHRG_Slip_ratio(例えば1%)以上であるか否かを判別する(ステップ81)。なお、この場合の後輪スリップ率Slip_ratioは、車両2が加減速のほとんどない定速走行状態であることから、左右前輪回転数平均値N_Fwheelと左右後輪回転数平均値N_Rwheelを用い、Slip_ratio=(N_Fwheel−N_Rwheel)/N_Fwheelにより、簡易後輪スリップ率として定義される。この定義により後輪スリップ率Slip_ratioは、前輪WFと後輪WRとの速度差に比例した値になる。
【0056】
ステップ81の答がYES、すなわちN_Fwheel≧Vn_changeかつSlip_ratio≧CHRG_Slip_ratioのときには、後輪スリップが大きく、充電量の制限を開始すべきとして、充電量制限フラグF_CHRG_LMTを「1」にセットするとともに、そのときの後輪目標駆動力FCMD_MOTを、充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRGの初期値として設定した(ステップ82)後、後述するステップ88に進む。ステップ81の答がNOのときには、そのままステップ88に進む。
【0057】
一方、前記ステップ80の答がYES、すなわち充電量制限フラグF_CHRG_LMT=1であって、充電量の制限中のときには、ステップ77または79で算出された今回の後輪目標駆動力FCMD_MOT(負値)が、充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRG以上であるか(絶対値として小さいか)否かを判別する(ステップ83)。この答がNO、すなわちFCMD_MOT<LMT_FCMD_MOT_CHRGが成立し、後輪引きずり量が大きいときには、充電量の制限を継続すべきとして、ステップ84に進み、後輪スリップ率Slip_ratioに応じて、充電量制限補正値KCHRG_LMTを検索する。
【0058】
図14および図15は、充電量制限補正値テーブルの一例を示しており、このテーブルでは、充電量制限補正値KCHRG_LMTは、後輪スリップ率Slip_ratioが上述した充電量制限開始用の判別値CHRG_Slip_ratio付近では値0に設定され、Slip_ratio値がそれよりも大きい範囲では階段状に大きくなる一方、判別値CHRG_Slip_ratioよりも小さな所定値Slip_ratio1(例えば0.4%)以下では一定の負値KCHRG_LMT1に設定されている。充電量制限補正値KCHRG_LMTがこのように階段状に設定されるのは、後輪スリップ率Slip_ratioの変化に過敏に反応して変化しないようにするためである。
【0059】
次いで、充電量制限補正値KCHRG_LMTを充電量制限値の前回値LMT_FCMD_MOT_CHRG_OLDに加算した値を、今回の充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRGとして設定する(ステップ85)。次に、この充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRGを、後輪目標駆動力FCMD_MOTとして設定した(ステップ86)後、後述するステップ88に進む。
【0060】
一方、前記ステップ83の答がYES、すなわち後輪目標駆動力FCMD_MOT≧充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRGになったときには、充電量の制限を解除すべきとして、ステップ87に進み、充電量制限フラグF_CHRG_LMTを「0」にセットするとともに、充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRGを、前記ステップ73で検索した最大引きずり量FCMD_CHRG_MAXに設定した後、ステップ88に進む。
【0061】
このステップ88では、今回の充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRGを、その前回値LMT_FCMD_MOT_CHRG_OLDとして設定する。
【0062】
以上のように、定速走行充電モード中においては、後輪スリップ率Slip_ratioがその判定値CHRG_Slip_ratio以上になったとき(ステップ81:YES)に、充電量制限が開始されるとともに、後輪目標駆動力FCMD_MOTが充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRGを下回っている限り(ステップ83:NO)、すなわち後輪引きずり量がLMT_FCMD_MOT_CHRG値よりも大きい限り、後輪目標駆動力FCMD_MOTが、充電量制限補正値KCHRG_LMTで補正された充電量制限値LMT_FCMD_MOT_CHRGに制限される(ステップ85、86)。この場合、充電量制限補正値KCHRG_LMTは、負値である充電量制限値の前回値LMT_FCMD_MOT_CHRG_OLDに加算される(ステップ85)とともに、図14および図15のテーブルに従い、後輪スリップ率Slip_ratioに応じて上述したように設定される。
【0063】
したがって、充電量制限中の後輪目標駆動力FCMD_MOTすなわち後輪引きずり量(充電量)は、後輪スリップ率Slip_ratioがその判別値CHRG_Slip_ratio付近にあるときには、充電量制限補正値KCHRG_LMTが値0に設定されることで、補正はなされず、それまでの値に保持される。また、後輪引きずり量は、後輪スリップ率Slip_ratioが判別値CHRG_Slip_ratioよりも大きな範囲では、Slip_ratio値が大きいほど、充電量制限補正値KCHRG_LMTがより大きな正値に設定されることで、より大きく減少補正され、制限が強化される一方、所定値Slip_ratio1以下では、充電量制限補正値KCHRG_LMTが負値であるKCHRG_LMT1値に設定されることで、増大補正され、制限が緩和される。以上のように、充電量制限中において、後輪目標駆動力FCMD_MOTを、後輪スリップ率Slip_ratioに応じて制限するので、走行路面の実際の摩擦抵抗の大きさに応じて、後輪引きずり量をより適切に制御でき、したがって、より良好な走行安定性を得ることができる。
【0064】
次いで、ステップ89以降において、前記ステップ77、79または86で設定した後輪目標駆動力FCMD_MOTの最終的なリミット処理を行う。まず、後輪目標駆動力FCMD_MOTが、モータ4の回転抵抗であるモータ引きずり分FMOT_OFF以上であるか否かを判別する(ステップ89)。この答がYES、すなわちFCMD_MOT≧FMOT_OFFのときには、後輪WRでモータ4を回転駆動できる状態を確保すべく、後輪目標駆動力FCMD_MOTをモータ引きずり分FMOT_OFFに設定する(ステップ90)一方、NOのときには、ステップ90をスキップして、後輪目標駆動力FCMD_MOTを保持する。
【0065】
次に、後輪目標駆動力FCMD_MOTが、最大引きずり量FCMD_CHRG_MAX以下であるか否かを判別する(ステップ91)。この答がYES、すなわちFCMD_MOT≦FCMD_CHRG_MAXのときには、後輪目標駆動力FCMD_MOTを最大引きずり量FCMD_CHRG_MAXに設定する(ステップ92)一方、NOのときには、ステップ92をスキップして、後輪目標駆動力FCMD_MOTを保持し、本プログラムを終了する。
【0066】
図16は、これまでに説明した制御処理によって得られる、定速走行充電モードの実行時およびその前後における動作例を示すタイムチャートである。まず、目標駆動力FCMDが基準駆動力FCMD_CHRG以上になっているとすると(時刻t1以前)、図6のステップ50の答がNOになることで、車両2は定速走行状態にないと判定され、充電走行は禁止される。同図の例では、後輪目標駆動力FCMD_MOTが値0、すなわち前輪駆動状態になっている。この状態から、目標駆動力FCMDが基準駆動力FCMD_CHRGを下回るようになると(時刻t1)、ステップ50の答がYESになることで、車両2が定速走行状態にあると判定される。
【0067】
その後、この状態が継続し、所定時間TM_CRUISEIN_MINが経過すると(時刻t2)、ステップ51の答がYESになることで、充電走行が開始される。すなわち、後輪目標駆動力FCMD_MOTが負値として、すなわち後輪引きずり量として算出され、バッテリ7がこの後輪引きずり量に相当する充電量で充電されるとともに、この分の駆動力が前輪目標駆動力FCMD_ENGに上乗せされる。また、充電走行の開始後、後輪引きずり量は、図10のステップ77の演算により、スロープ状に徐々に増大し、所定時間TM_CHRG_SLOPE_ENDの経過時(時刻t3)に、充電時後輪目標駆動力計算値FCMD_MOT_CHRG(=FCMD−FCMD_CHRG)に達する。
【0068】
その後、後輪WRにスリップが発生し、後輪スリップ率Slip_ratioがその判定値CHRG_Slip_ratio以上になると(時刻t4)、図11のステップ81の答がYESになることで、後輪引きずり量すなわち充電量の制限が開始される。この場合、後輪引きずり量は、後輪スリップ率Slip_ratioが大きいときには、その値に応じて減少補正されることで、制限が強化され(時刻t4〜t5の間)、後輪スリップ率Slip_ratioが判定値CHRG_Slip_ratio付近の値のときには、補正されることなく保持されるとともに(時刻t5〜t6の間)、後輪スリップ率Slip_ratioが所定値Slip_ratio1以下のときには、増大補正され、制限が緩和される(時刻t6〜t7の間)。
【0069】
そして、その後、AP17が踏み込まれると(時刻t8)、目標駆動力FCMDが増大するのに伴って後輪引きずり量が次第に減少し、目標駆動力FCMDが基準駆動力FCMD_CHRG以上になった時点(時刻t9)で、ステップ50の答がNOになることで、定速走行充電モードが終了する。
【0070】
以上のように、本実施形態によれば、定速走行充電モード中に、後輪スリップ率Slip_ratioが判定値CHRG_Slip_ratio以上になったときに、後輪引きずり量(バッテリ7の充電量)を減少補正し、制限するので、前輪WFと後輪WRの速度差が過大になるのを確実に防止できる。その結果、低摩擦路での走行時などにおいても、定速走行充電モード中における後輪WRのスリップを確実に抑制でき、車両2の走行安定性を確保することができる。また、後輪スリップ率Slip_ratioの値に応じて後輪引きずり量を制限するので、走行路面の実際の摩擦抵抗の大きさに応じて、後輪引きずり量をより適切に制御でき、したがって、より良好な走行安定性を得ることができる。
【0071】
次に、図17を参照しながら、減速回生モード時の充電量(回生量)の制限について説明する。この減速回生モードにおいては、後輪スリップ率Slip_ratioが、減速回生モード用の判別値CHRG_Slip_ratio_DEC以上になったときに、充電量制限が実行される。この判別値CHRG_Slip_ratio_DECは、前述した定速走行充電モード用の判別値CHRG_Slip_ratio(例えば1%)よりも大きな値(例えば3%)に設定されている。
【0072】
これは、前述したように、定速走行充電モードでは、前輪WFが加速方向に、後輪WRが減速方向にそれぞれ駆動され、駆動方向が互いに反対になるとともに、前輪WFに駆動力が上乗せされるため、運転者に違和感を与えやすいのに対し、減速回生モードでは、前輪WFと後輪WRの駆動方向がともに減速方向になることから、そのような違和感が生じないためである。したがって、両判別値CHRG_Slip_ratio、CHRG_Slip_ratio_DECを上記のように設定することによって、減速回生モード時よりも定速走行充電モード時において、充電量の制限に入りやすくなるので、車両の運転性をその走行状態に応じて適切に確保することができる。
【0073】
また、図17は、減速回生モード用の充電量制限補正値KCHRG_LMT_DECテーブルの一例を示す。このテーブルでは、充電量制限補正値KCHRG_LMT_DECは、後輪スリップ率Slip_ratioが判別値CHRG_Slip_ratio_DEC以上の範囲では、Slip_ratio値が大きいほど、より大きな正値に設定されている。また、充電量制限補正値KCHRG_LMT_DECは、後輪スリップ率Slip_ratioが判別値CHRG_Slip_ratio_DECよりも小さな範囲では、値0に設定されており、この点において、負値に設定される定速走行充電モードの場合と異なっている(図14および図15参照)。
【0074】
すなわち、減速回生モードにおいては、後輪スリップ率Slip_ratioが判別値CHRG_Slip_ratio_DEC以上になったときに、充電量制限が開始されるとともに、前述した定速走行充電モードの場合と異なり、充電量制限中に後輪スリップ率Slip_ratioが低下したとしても、充電量は、増大補正されることなく維持される。これは、減速走行時は、前輪WF側も速度が低下方向に移行している状態であることから、充電量の制限を緩和すると、場合によっては、車両2の挙動が不自然になり、運転者に違和感を与えかねないためである。したがって、充電量制限補正値KCHRG_LMT_DECを上記のように設定することによって、このような不具合を確実に回避でき、運転性を高めることができる。
【0075】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、前輪WFと後輪WRの速度差を表すパラメータとして、後輪スリップ率Slip_ratioを用いているが、これに代えて、他の適当なパラメータを採用してもよい。また、実施形態の簡易後輪スリップ率に代えて、車速と後輪速度を用いた一般的な定義によって後輪スリップ率を求めてもよい。さらに、実施形態では、各充電モードにおける充電量制限用の判別値として、固定値を用いているが、これを車速などに応じた可変値としてもよい。
【0076】
また、実施形態は、前輪をエンジンで駆動し、後輪をモータで駆動するタイプの前後輪駆動車両に、本発明を適用した例であるが、本発明は、これに限らず、エンジンおよびモータによる駆動を前後輪逆に行う車両にも、同様に適用することが可能である。さらに、実施形態では、モータ4と後輪WRの間を接続・遮断するクラッチとして、電磁クラッチ8を用いているが、伝達容量を制御可能なクラッチであればよく、例えば油圧式多板クラッチを採用してもよい。また、大型モータを用いて後輪WRと直結し、電磁クラッチ8を省略することも可能である。
【0077】
【発明の効果】
以上のように、本発明の前後輪駆動車両の駆動力制御装置によれば、充填モード時における第1駆動輪と第2駆動輪の速度差、すなわち第2駆動輪のスリップの度合を適正な範囲に収めることができる。その結果、低摩擦路での走行時などにおいても、充填モード時における第2駆動輪のスリップを確実に抑制でき、車両の走行安定性を確保することができる。また、第1駆動輪速度に対する第2駆動輪速度の低下の度合に応じて、駆動エネルギ充填量を制限するので、走行路面の実際の摩擦抵抗の大きさに応じて、第2駆動輪の回生制動トルクをより適切に制御できることで、より良好な走行安定性を得ることができる。さらに、減速走行充填モード時よりも非減速走行充填モード時において、駆動エネルギ充填量の制限に入りやすくなるので、車両の運転性をその走行状態に応じて適切に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による駆動力制御装置を適用した前後輪駆動車両の概略構成図である。
【図2】駆動力制御のメインフローを示すフローチャートである。
【図3】駆動力算出サブルーチンのフローチャートである。
【図4】目標駆動力テーブルの一例を示す図である。
【図5】定速走行時の充電モード要求判定のサブルーチンのフローチャートである。
【図6】図5のサブルーチンの続きの部分を示すフローチャートである。
【図7】図5および図6のサブルーチンの残りの部分を示すフローチャートである。
【図8】充電走行マップの一例を示す図である。
【図9】充電残量−基準勾配テーブルの一例を示す図である。
【図10】定速走行充電モード時の後輪目標駆動力の算出サブルーチンのフローチャートである。
【図11】図10のサブルーチンの続きの部分を示すフローチャートである。
【図12】図10および図11のサブルーチンの残りの部分を示すフローチャートである。
【図13】最大引きずり量テーブルの一例を示す図である。
【図14】定速走行充電モード用の充電量制御補正値テーブルの一例を示す図である。
【図15】図14のテーブルの矢印XV部分の拡大図である。
【図16】定速走行充電モード中およびその前後における動作例を示すタイムチャートである。
【図17】減速回生モード用の充電量制御補正値テーブルの一例を示す図である。
【符号の説明】
1 駆動力制御装置
2 車両(前後輪駆動車両)
3 エンジン(第1原動機)
4 電気モータ(第2原動機)
7 バッテリ(駆動源)
11 ECU(駆動輪速度比較手段、駆動エネルギ充填量制限手段)
12 車輪回転数センサ(第1および第2駆動輪速度検出手段)
WFL、WFR 前輪
WRL、WRR 後輪
N_FL、N_FR 前輪回転数(第1駆動輪速度)
N_RL、N_RR 後輪回転数(第2駆動輪速度)
CHRG_Slip_ratio
判別値(非減速走行充填モード用の所定値)
CHRG_Slip_ratio_DEC
判別値(減速走行充填モード用の所定値)
Claims (2)
- 前後の駆動輪の一方である第1駆動輪を第1原動機で駆動するとともに、他方である第2駆動輪を第2原動機で駆動する駆動モードと、車両の走行エネルギを回収することにより前記第2原動機の駆動源に駆動エネルギとして充填する充填モードとに切り換えて運転される前後輪駆動車両の駆動力制御装置であって、
前記第1駆動輪および第2駆動輪の速度をそれぞれ検出する第1駆動輪速度検出手段および第2駆動輪速度検出手段と、
当該検出された第1駆動輪速度と第2駆動輪速度を比較する駆動輪速度比較手段と、
前記充填モード中に、当該駆動輪速度比較手段により前記第2駆動輪速度が前記第1駆動輪速度よりも所定値以上低下したと判定されたときに、前記駆動源に充填する駆動エネルギの充填量を制限する駆動エネルギ充填量制限手段と、を備え、
前記充填モードは、前記車両の減速走行中に実行される減速走行充填モードと、前記車両の非減速走行中に実行される非減速走行充填モードとを含み、前記非減速走行充填モード用の前記所定値は、前記減速走行充填モード用の前記所定値よりも小さな値に設定されていることを特徴とする前後輪駆動車両の駆動力制御装置。 - 前記駆動エネルギ充填量制限手段は、前記第1駆動輪速度に対する前記第2駆動輪速度の低下の度合に応じて、前記駆動エネルギ充填量を制限することを特徴とする、請求項1に記載の前後輪駆動車両の駆動力制御装置。
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