JP2015090141A - 車両 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ドライバーによってトラクション制御を実施しないモードが選択されている場合に、駆動系機構への負担を低減する。【解決手段】 ブレーキECU90は、TRCカットスイッチ93がオンされている場合(S11:Yes)、エンジン2が高駆動力出力状態であり、かつ、車両の走行している走行路が悪路であるという駆動力低減モード移行条件が成立している場合には、トラクション制御モードをTRC駆動力低減モードに設定する(S17)。TRC駆動力低減モードにおいては、ブレーキアクチュエータ60によるブレーキ制御を行わずに、エンジン20の駆動力制御によって駆動輪10a,10bの空転によるスリップを抑制するトラクション制御を実施する。【選択図】 図2
Description
本発明は、駆動輪の空転によるスリップを抑制するトラクション制御を実施する車両に関する。
従来から、車両加速時に車輪の空転によるスリップを抑制するために、ドライバーのアクセルコントロールによらず、駆動輪のスリップ率を所定範囲に制御するトラクション制御(TRC)が知られている。また、特許文献1,2においては、ドライバーの意図によって、トラクション制御を実施させないようにするTRCカットスイッチを備えた車両も知られている。TRCカットスイッチは、例えば、車両がスタックしている状態から脱出を試みる場合や、俊敏な加速性能を要求する場合などにおいて使用される。
しかしながら、TRCカットスイッチがオン、つまり、トラクション制御が実施されないモードに設定されている場合、アクセル全開による悪路走行が繰り返されると、駆動系機構、特に、エンジンの駆動力が駆動輪に伝達される経路に設けられたシャフトへの負担が大きくなる。例えば、路面が走行方向に波状となる悪路(波状路)をアクセル全開で走行すると、路面から駆動輪に大きな逆入力が間欠的に働く。このため、駆動輪が回転方向に高速で振動する。図7は、駆動輪の振動を車輪加速度で表したグラフである。図に示すように、悪路走行時には、車輪加速度Gwの振幅が非常に大きくなる。この駆動輪の振動によって、シャフトには、駆動輪の回転方向に対して正方向となる力と逆方向となる力とが短い周期で交互に働く。駆動輪の振動レベル(振幅)は、エンジンの出力トルクの大きさと相関関係を有し、エンジンの出力トルクが大きいほど大きくなる。この結果、悪路走行時においては、エンジンの出力トルクが大きいほどシャフトに大きな捩れ力を与えてしまう。
本発明の目的は、上記問題に対処するためになされたもので、ドライバーによってトラクション制御を実施しないモードが選択されている場合に、駆動系機構への負担を低減することにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両の駆動輪を駆動する駆動力を発生する車輪駆動源(20)と、前記駆動輪の空転によるスリップを抑制するスリップ抑制制御手段(S12)と、ドライバーの操作によって、前記車両の運転モードを前記スリップ抑制制御手段の作動を許可する通常モードから前記スリップ抑制制御手段の作動を禁止する禁止モードに切り替えるモード切換操作器(93)とを備えた車両において、
前記車輪駆動源が高駆動力出力状態であり、かつ、車両の走行している走行路が悪路であるという特定条件が成立しているか否かを判定する特定条件判定手段(S14)と、前記禁止モードが選択されている状況において、前記特定条件が成立している場合に作動が許可され、前記車輪駆動源の駆動力を低減して前記駆動輪の空転によるスリップを抑制する特定時スリップ抑制制御手段(S17)とを備えたことにある。
前記車輪駆動源が高駆動力出力状態であり、かつ、車両の走行している走行路が悪路であるという特定条件が成立しているか否かを判定する特定条件判定手段(S14)と、前記禁止モードが選択されている状況において、前記特定条件が成立している場合に作動が許可され、前記車輪駆動源の駆動力を低減して前記駆動輪の空転によるスリップを抑制する特定時スリップ抑制制御手段(S17)とを備えたことにある。
本発明では、スリップ抑制制御手段が駆動輪の空転によるスリップを抑制する。つまり、トラクション制御を実施する。ドライバーは、モード切換操作器を使って、車両の運転モードをスリップ抑制制御手段の作動を許可する通常モードからスリップ抑制制御手段の作動を禁止する禁止モードに切り替えることができる。つまり、ドライバーの意志によって、トラクション制御の実施を禁止させることができる。トラクション制御の実施が禁止されている場合には、車輪駆動源が高駆動力出力状態で悪路走行が行われると、駆動輪の回転方向の振動レベルが大きくなり、駆動系機構に大きな負荷が働く。例えば、車輪駆動源の駆動力が伝達されるシャフトに振幅の大きな正逆方向の捩れ力が働く。そこで、本発明は、そうした状況下において駆動系機構に働く負荷を低減するために特定条件判定手段と特定時スリップ抑制制御手段とを備えている。特定条件判定手段は、車輪駆動源が高駆動力出力状態(高い駆動力を出力している状態)であり、かつ、車両の走行している走行路が悪路であるという特定条件が成立しているか否かを判定する。例えば、予め設定された高駆動力出力状態判定条件と予め設定された悪路走行判定条件とを記憶し、両判定条件に基づいて、特定条件が成立しているか否かを判定する。特定時スリップ抑制制御手段は、禁止モードが選択されている状況において、特定条件が成立している場合に作動が許可され、車輪駆動源の駆動力を低減して駆動輪の空転によるスリップを抑制する。これにより、駆動系機構に働く負荷が少なくなる。この結果、駆動系機構における耐久性を向上させることができる。尚、車輪駆動源は、例えば、エンジンであってもよいし、モータであってもよい。また、駆動力とは、駆動トルクを含んだ意味で用いられるものである。
また、本発明の一側面は、前記スリップ抑制制御手段(S12)は、前記車輪駆動源の駆動力を低減するとともにブレーキ装置(60)を作動させて、前記駆動輪の空転によるスリップを抑制するように構成され、前記特定時スリップ抑制制御手段(S17)は、前記ブレーキ装置を作動させることなく、前記車輪駆動源の駆動力を低減して前記駆動輪の空転によるスリップを抑制するように構成されたことにある。
本発明では、通常モードが設定されている場合には、スリップ抑制制御手段が、駆動輪の空転によるスリップを検出したときに車輪駆動源の駆動力を低減するとともにブレーキ装置を作動させて駆動輪の空転によるスリップを抑制する。一方、ドライバーがモード切換操作器を操作して禁止モードが設定されている場合には、特定時スリップ抑制制御手段が、駆動輪の空転によるスリップを検出したときにブレーキ装置を作動させることなく、車輪駆動源の駆動力を低減して駆動輪の空転によるスリップを抑制する。このブレーキ装置を作動させないことによって、ドライバーに対して発進阻害感等を与えないようにすることができ、ドライバーの意志を反映させることができる。
例えば、禁止モードが選択されている状況において、ブレーキ装置を作動させた場合には、ドライバーにとって駆動輪の空転感が得られなかったりブレーキ装置の作動音が聞こえたりする。このため、ドライバーは、自身の設定した通りの動作が得られないことに違和感を持つことがある。これに対して、本発明では、特定時スリップ抑制制御手段が駆動輪の空転によるスリップを抑制するときには、ブレーキ装置を作動させないため、そうした不具合が生じない。
本発明の一側面は、前記スリップ抑制制御手段は、前記駆動輪の空転によるスリップの程度を表す指標値の大きさが第1閾値を超えたときに前記スリップの抑制を開始するように構成され、前記特定時スリップ抑制制御手段は、前記駆動輪の空転によるスリップの程度を表す指標値の大きさが前記第1閾値よりも大きい第2閾値を超えたときに前記スリップの抑制を開始するように構成されたことにある。
本発明では、駆動輪のスリップの抑制を開始する開始閾値、つまり、トラクション制御を開始するトリガとなる閾値が、特定時スリップ抑制制御手段とスリップ抑制制御手段とで異なっている。スリップ抑制制御手段は、駆動輪の空転によるスリップの程度を表す指標値の大きさが第1閾値を超えたときにスリップの抑制を開始する。一方、特定時スリップ抑制制御手段は、駆動輪の空転によるスリップの程度を表す指標値の大きさが第1閾値よりも大きい第2閾値を超えたときにスリップの抑制を開始する。駆動輪のスリップの程度を表す指標値としては、スリップ率の閾値、あるいは、車速に応じて設定される車輪速と実際の車輪速との差の閾値などを用いることができる。これによれば、特定時スリップ抑制制御手段が駆動輪の空転によるスリップの抑制を開始するタイミングが通常モードに比べて遅れるため、更に良好に、ドライバーに違和感を与えないようにすることができる。つまり、ドライバーにトラクション制御が行われたことを気付かせないようにすることができる。
本発明の一側面は、前記特定時スリップ抑制制御手段の作動が許可されている状況から、前記特定条件の成立が解除されたときに、車速(V)が設定車速以(Vref)上となっている場合には前記車両の運転モードを前記通常モードに設定するモード自動切替手段(S22,S23)を備えたことにある。
一般に、トラクション制御を禁止することが有用となるケースは、車速が低い場合が多い。このため、高速走行時はトラクション制御を禁止する必要性があまり無い。そこで、本発明においては、モード自動切替手段が、特定時スリップ抑制制御手段の作動が許可されている状況から、特定条件の成立が解除されたときに、車速が設定車速以上となっている場合には車両の運転モードを通常モードに設定する。一方、車速Vが設定速度未満となっている場合には、ドライバーがトラクション制御の禁止を継続して望んでいる場合があるため禁止モードが継続される。従って、ドライバーの操作を必要とせずに、通常モードと禁止モードとが適切に切り替えられるため、ドライバーにとって使い勝手がよい。また、ドライバーの意図に反して禁止モードに切り換えられていることも考えられるが(例えば、何かの拍子に物がモード切換操作器に当たったりした場合)、そうした場合であっても、上記車速条件によって通常モードに戻すことができる。
尚、上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
以下、本発明の一実施形態に係る車両について図面を用いて説明する。図1は、実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を表している。
ハイブリッド車両は、エンジン20、2つのモータ30A,30B、2つのインバータ35A,35B、動力分配統合機構40、減速ギヤ50、ブレーキアクチュエータ60を備えている。また、ハイブリッド車両は、ハイブリッド電子制御ユニット100(ハイブリッドECU100と呼ぶ)、エンジン制御用電子制御ユニット70(エンジンECU70と呼ぶ)、モータ制御用電子制御ユニット80(モータECU80と呼ぶ)、ブレーキ制御用電子制御ユニット90(ブレーキECU90と呼ぶ)、充放電制御用電子制御ユニット85(バッテリECU85と呼ぶ)を備えている。エンジンECU70、モータECU80、ブレーキECU90、バッテリECU85は、それぞれハイブリッドECU100に通信ラインを介して接続されて、双方向に情報の授受ができるように構成されている。各ECU70,80,85,90,100は、マイクロコンピュータを主要部として備えている。
エンジン20は、内燃機関であり、エンジンECU70によって運転が制御される。エンジンECU70は、各種センサからの検出信号を入力して、燃料噴射制御、点火制御、吸入空気量制御などを実施する。エンジンECU70は、エンジン20の運転状態(エンジン回転数等)に関する情報をハイブリッドECU100に送信する。エンジン20の出力軸であるクランクシャフト21は、クラッチ22を介して動力分配統合機構40に接続される。動力分配統合機構40は、クラッチ22を介してエンジン20の出力トルクが入力されるインプットシャフト41を備えている。
動力分配統合機構40は、外歯歯車のサンギヤ42と、サンギヤ42と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ43と、サンギヤ42に噛合するとともにリングギヤ43に噛合する複数のピニオンギヤ44と、複数のピニオンギヤ44を自転かつ公転自在に保持するキャリア45とを備え、サンギヤ42とリングギヤ43とキャリア45とを回転要素として差動作用を行う遊星歯車機構として構成されている。キャリア45には、インプットシャフト41が連結され、サンギヤ42にはモータ30Aの回転軸46(モータ回転軸46と呼ぶ)が連結され、リングギヤ43にはリングギヤ軸47を介して減速ギヤ50が連結されている。サンギヤ42に連結されるモータ回転軸46は、中空管状に形成され、内部の中空部にインプットシャフト41が、モータ回転軸46に対して同軸上に所定の隙間をあけて挿通される。モータ30Aが発電機として機能するときには、キャリア45に入力されるエンジン20の動力をサンギヤ42側とリングギヤ43側にそのギヤ比に応じて分配し、モータ30Aが電動機として機能するときには、キャリア45に入力されるエンジン20の動力とサンギヤ42に入力されるモータ30Aの動力を統合してリングギヤ43側に出力する。リングギヤ43に出力された動力は、リングギヤ軸47からギヤ機構54およびデファレンシャルギヤ58を介して、車両の駆動輪10a,10bに出力される。
この動力分配統合機構40において、インプットシャフト41は、中空管状のモータ回転軸46の中に同軸上に配設されるためモータ回転軸46よりも小径となり、路面からの逆入力に対して(駆動輪10a,10bの回転方向の振動に対して)、最も負担の大きな部分、つまり、強度的に考慮すべき部分となる。このため、後述するTRC駆動力低減モードでは、このインプットシャフト41を過負荷保護対象としてトラクション制御が実施される。
モータ30A,30Bは、いずれも電動機および発電機としての機能を備えた同期発電電動機であり、モータドライバであるインバータ35A,35Bに接続されている。インバータ35A,35Bは、共通の電力ライン36、グランドライン37を介してバッテリ38に接続されている。このため、モータ30A,30Bの一方で発電される電力を他方のモータで消費できるようになっている。従って、バッテリ38は、モータ30A,30Bのいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電される。モータ30A,30Bは、モータECU80により駆動制御される。モータECU80は、図示しない電流センサ、回転角センサを接続し、モータ30A,30Bの各相に流れる電流、および、モータ30A,30Bの回転子の回転位置を表す検出信号を入力し、これら検出信号に基づいて、ハイブリッドECU100から指令されたトルクをモータ30A,30Bが発生するように、スイッチング信号を生成してインバータ35A,35Bに出力する。また、モータECU80は、モータ30A,30Bの制御状態(モータ回転速度等)に関する情報をハイブリッドECU100に送信する。
バッテリECU85は、バッテリ38の充電状態(SOC)や、バッテリ38の温度を検出して、それらの検出情報をハイブリッドECU100に送信する。
ブレーキアクチュエータ60は、ブレーキペダル61の踏み込み操作によって発生するマスタシリンダのマスタ油圧系統とは別に設けられた制御油圧系、および、制御油圧系に設けられるポンプ、アキュムレータ、制御弁等(以上、図示略)を備え、この制御油圧系から駆動輪10a,10bに設けられたブレーキキャリパのホイールシリンダ11a,11bと従動輪10c,10dに設けられたブレーキキャリパのホイールシリンダ11c,11dに目標ブレーキ油圧を供給する。従って、ブレーキアクチュエータ60は、車輪10a,10b,10c,10dに機械的な摩擦制動力を発生させるブレーキ装置である。
ブレーキECU90は、ブレーキペダル61の操作量を検出するブレーキ操作量センサ91(例えば、ペダルストロークセンサ、ペダル踏込圧センサ、マスタシリンダ圧センサ等)を接続し、ブレーキ操作量から目標制動力を演算する。そして、ブレーキ操作量に応じた目標制動力をハイブリッドECU100に送信することで、ハイブリッドECU100は、目標制動力からモータ30A,39Bで発生させる回生制動力を減算した目標油圧制動力を演算し、目標油圧制動力をブレーキECU90に送信する。ブレーキECU90は、この目標油圧制動力を発生させるようにブレーキアクチュエータ60を制御して、各ホイールシリンダ11a,11b,11c,11dに目標ブレーキ油圧を供給する。
また、ブレーキECU90は、左右前後輪10a,10b,10c,10dに設けられた車輪速センサ92a,92b,92c,92dを接続し、車輪速センサ92a,92b,92c,92dにより検出される車輪速Vwa,Vwb,Vwc,Vwdを表す情報を入力するとともに、車輪速Vwa,Vwb,Vwc,Vwdに基づいて車速V(車体速度)を演算し、算出した車速Vを各種のECUに送信する。ブレーキECU90は、車輪速センサ92a,92b,92c,92dにより検出される車輪速Vwa,Vwb,Vwc,Vwdおよび車速Vに基づいて、駆動輪10a,10bや従動輪10c,10dの何れかのロックによるスリップを抑制するアンチロックブレーキ制御(ABS)、駆動輪10a,10bの空転によるスリップを抑制するトラクション制御(TRC)を実施する。また、ブレーキECU90は、図示しない操舵角センサ、ヨーレートセンサ、水平方向加速度センサ等により車両の旋回姿勢を検出して、車輪10a,10b,10c,10dの横滑りを抑制して車両の旋回姿勢を適正に維持する車両姿勢制御(VSC)を実施する。ブレーキECU90は、トラクション制御、車両姿勢制御を実施する場合には、エンジン制御と協調して行うため、ハイブリッドECU100を介してエンジンECU70に対してTRC制御指令、VSC制御指令を送信する。
また、ブレーキECU90は、TRCカットスイッチ93を接続している。このTRCカットスイッチ93は、運転席近傍に設けられ、ドライバーがトラクション制御(TRC)、あるいは、車両姿勢制御(VSC)の実施を好まない場合に使用されるものである。ドライバーは、TRCカットスイッチ93を操作することによって、車両の運転モードをトラクション制御と車両姿勢制御との両方の実施を許可する通常のモード(モード1)と、トラクション制御の実施を禁止し車両姿勢制御を許可するモード2と、トラクション制御と車両姿勢制御との両方を禁止するモード3とを選択することができる。初期状態においてはモード1が設定されている。従って、TRCカットスイッチ93が操作されない限りモード1が設定される。例えば、モード1からモード2への切替は、TRCカットスイッチ93の短押し操作(短時間のボタン押し操作)によって行われ、モード1からモード3への切替は、TRCカットスイッチ93の長押し操作(長時間ボタンを押し続ける操作)によって行われる。また、モード1への復帰についても、TRCカットスイッチ93の同様な押し操作によって行われる。
本実施形態の車両は、車両姿勢制御については、TRCカットスイッチ93で設定された通りに許可/禁止を切り替えるが、トラクション制御については、モード2あるいはモード3が選択されている場合であっても、特定の状況下においては、エンジン20の駆動力低減制御によるトラクション制御を実施する点に特徴がある。そこで、以下、説明を分かりやすくするために、TRCカットスイッチ93によってトラクション制御の実施が禁止されているモード2とモード3とを共通のTRC禁止モードと呼び、TRCカットスイッチ93によってトラクション制御の実施が許可されてモード1を通常モードと呼ぶ。また、TRC禁止モードが設定されている状態をTRCカットスイッチ93のオン状態と呼び、TRC通常モードが設定されている状態をTRCカットスイッチ93のオフ状態と呼ぶこともある。尚、TRC禁止モードは、あくまでも、TRCカットスイッチ93によって設定されている運転モードを表すのであって、TRC禁止モードが設定されている場合の実際の制御モードは、後述するようにトラクション制御を実施しないTRCオフモードと、エンジン20の駆動力を低減してトラクション制御を実施するTRC駆動力低減モードとに分かれている。
また、ブレーキECU90には、スリップインジケータ94が接続されている。スリップインジケータ94は、運転席から視認可能な位置に設けられ、トラクション制御、アンチロックブレーキ制御、車両姿勢制御などのスリップ抑制制御の実施中に作動(点滅あるいは点灯)して、上記制御が行われたことをドライバーに報知する。
ハイブリッドECU100は、イグニッションスイッチ101、アクセル操作量AC(本実施形態ではアクセル開度)を検出するアクセル操作量センサ102、シフトレバーのシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ103などのセンサ類を接続し、イグニッション信号、および、アクセル操作量、シフトポジションを表す情報等を取得する。
ハイブリッドECU100は、アクセル開度ACと車速Vとに基づいて、駆動軸としてのリングギヤ軸47に出力すべき要求トルクT*を計算し、この要求トルクT*に対応する要求駆動力がリングギヤ軸47に出力されるようにエンジン20の目標回転数Ne*と目標トルクTe*、および、2つのモータ30A,30Bのトルク指令値Tm1*,Tm2*を演算する。ハイブリッドECU100は、演算したエンジン20の目標回転数Ne*と目標トルクTe*をエンジンECU70に送信し、2つのモータ30A,30Bのトルク指令値Tm1*,Tm2*をモータECU80に送信する。エンジンECU70は、エンジン20が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによって設定される運転ポイントで運転されるようにエンジン20における吸入空気量制御、燃料噴射制御、点火制御などの制御を行う。また、モータECU80は、トルク指令値Tm1*にてモータ30Aが駆動されるように、トルク指令値Tm2*にてモータ30Bが駆動されるようにインバータ35A,35Bのスイッチング素子のスイッチング制御を行う。尚、エンジン20およびモータ30A,30Bの制御量の設定については、種々の手法が周知であり、また、本発明の特徴ではなく、本発明を理解する上で必要となるものではないため、これ以上の説明をしないが、必要であれば、例えば、本願出願人により出願された特開2008−207715号公報等を参照されたい。
次に、トラクション制御について説明する。図2は、ブレーキECU90の実施するトラクション制御ルーチンを表す。トラクション制御ルーチンは、イグニッションスイッチ101がオンされている期間において、所定の短い演算周期にて繰り返し実施される。
本ルーチンが起動すると、ブレーキECU90は、ステップS11において、TRCカットスイッチ93がオンされているか否かを判断する。ブレーキECU90は、TRCカットスイッチ93がオフ状態である場合には(S11:No)、ステップS12において、トラクション制御モードをTRC通常モードに設定して本ルーチンを一旦終了する。そして、所定の短い演算周期で本ルーチンを繰り返す。
このTRC通常モードにおいては、エンジン20とブレーキアクチュエータ60との併用制御によって駆動輪10a,10bの空転によるスリップを抑制するトラクション制御が行われる。このトラクション制御は、公知の種々の手法を採用することができる。例えば、ブレーキECU90は、車速V(車体速度)と、最適なスリップ率を得るための目標車輪速Vw1(上限車輪速)との関係を設定した車輪速マップを参照し、車輪速センサ92a,92bによって検出した駆動輪10a,10bの車輪速Vwa,Vwbが、車速Vに応じて設定される目標車輪速Vw1を超えたときに、駆動輪10a,10bの空転によるスリップが発生したと判定する。この場合、例えば、少なくとも一方の駆動輪の車輪速が目標車輪速Vw1を超えたときにスリップが発生したと判定すればよい。以下、スリップ発生の判定に使用される車輪速を車輪速Vwと呼ぶ。従って、目標車輪速Vw1に対する車輪速Vwの値がスリップの程度を表す値(車輪速Vwが小さいほどスリップの程度が小さい)であり、車速Vに応じて設定される目標車輪速Vw1がトラクション制御を開始するための本発明の第1閾値に相当する。尚、スリップの程度を表す指標値として、スリップ率を用いるようにしてもよい。スリップ率は、((駆動輪速度−車体速度)/駆動輪速度))×100%として算出することができる。
ブレーキECU90は、このスリップが発生したとの判定に基づいて、ブレーキアクチュエータ60を作動させて駆動輪10a,10bのブレーキ油圧を制御して駆動輪10a,10bに制動力を発生させると同時に、ハイブリッドECU100を介してエンジンECU70にトラクション制御指令を出力する。エンジンECU70は、トラクション制御指令を受信すると、エンジン20の駆動力(駆動トルク)を低減するようにエンジン20の運転状態を制御する。このエンジン20の制御については、スロットルバルブの開閉、燃料噴射量の低減またはカット、点火時期の遅角などを採用することができる。ブレーキECU90は、車輪速Vwが目標車輪速Vw1以下に収束すると、ブレーキアクチュエータ60の作動を停止させるとともに、ハイブリッドECU100を介してエンジンECU70にトラクション終了指令を出力する。また、ブレーキECU90は、TRC通常モードにおいては、トラクション制御の実施中にスリップインジケータ94を点滅あるいは点灯させる。
尚、ハイブリッドECU100は、ブレーキECU90からトラクション制御指令を入力しているか否かにかかわらず、上述のようにアクセル開度ACと車速Vとに基づいて演算した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とをエンジンECU70に送信し、トルク指令値Tm1*,Tm2*をモータECU80に送信する。従って、モータECU80は、エンジンECU70においてトラクション制御が行われている場合には、エンジン20の駆動トルクの減少分をモータ30A,30Bで補償させることはしない。また、エンジンECU70は、トラクション制御指令を入力している間は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを無効として、予め設定された態様でエンジン20の駆動トルクを目標トルクTe*よりも低減するようにエンジン20の運転状態を制御する。
一方、TRCカットスイッチ93がオン状態である場合(S11:Yes)、つまり、ドライバーがトラクション制御の実施を望まなく、運転モードを禁止モードに設定している場合、ブレーキECU90は、ステップS13において、駆動力低減モードフラグFが「0」であるか否かについて判定する。この駆動力低減モードフラグFは、後述するTRC駆動力低減モードが設定されている状況か否かを表す情報であって、TRC駆動力低減モードが設定されている場合には「1」に設定され、TRC駆動力低減モードが設定されていない場合には「0」に設定されるものである。駆動力低減モードフラグFの初期値は、「0」である。
ブレーキECU90は、駆動力低減モードフラグFが「0」である場合には(S13:Yes)、ステップS14において、駆動力低減モード移行条件が成立するか否かについての判定処理を行う。この駆動力低減モード移行条件は、車両の駆動系機構への負荷が高いと推定できる状況、特にインプットシャフト41への負荷が高いと推定できる状況となるときに成立するもので、図3に示す駆動力低減モード移行条件成立判定サブルーチンにしたがって成立の有無が判定される。従って、ブレーキECU90は、図3に示す処理に基づいて、ステップS14における判定を行う。
本実施形態においては、車両の走行している走行路が悪路(波状路)であり、かつ、エンジン20が高駆動力出力状態であるという条件を、駆動力低減モード移行条件に設定している。ブレーキECU90は、ステップS141,142の判断処理により車両が悪路を走行しているか否かを判定し、ステップS143の判断処理によりエンジン20が高駆動力出力状態であるか否かを判定する。ブレーキECU90は、まずステップS141において、各車輪速センサ92a,92b,92c,92dにより検出される車輪速Vwa,Vwb,Vwc,Vwdを時間で微分した車輪加速度Gwa,Gwb,Gwc,Gwdの振幅Aを演算し、振幅Aが予め設定した悪路判定閾値Aref1以上であるか否かを判断する。この振幅Aは、例えば、4輪の車輪加速度Gwa,Gwb,Gwc,Gwdの平均値、最大値、最小値など任意の値を採用することができる。以下、悪路判定に使用される車輪加速度を車輪加速度Gwと呼び、その車輪加速度Gwの振幅を振幅Aと呼ぶ。この場合、ブレーキECU90は、車輪加速度Gwを所定期間ずつサンプリングし、所定期間内のサンプリング値の最大値、最小値に基づいて振幅Aを演算する。
振幅Aが悪路判定閾値Aref1未満である場合には、駆動力低減モード移行条件が成立せず、ブレーキECU90は、本サブルーチンからメインルーチン(図2)のステップS15に処理を進める。また、振幅Aが悪路判定閾値Aref1以上である場合には、ステップS142において、振幅Aが悪路判定閾値Aref1以上となっている時間である悪路検出継続時間tが設定時間tref以上継続したか否かについて判断する。悪路検出継続時間tが設定時間tref以上継続していない状況では、駆動力低減モード移行条件が成立せず、ブレーキECU90は、本サブルーチンからメインルーチンのステップS15に処理を進める。また、悪路検出継続時間tが設定時間tref以上継続した場合には、走行路が悪路であると判定される。
走行路が悪路であると判定された場合、ブレーキECU90は、ステップS143において、エンジン20の駆動トルクT[Nm]が予め設定された高駆動力判定閾値Tref1以上であるか否かを判断する。この場合、ブレーキECU90は、ハイブリッドECU100がエンジンECU70に対して指令する目標トルクTe*を読み込み、この目標トルクTe*をエンジン20の駆動トルクTとみなして判断する。駆動トルクTが高駆動力判定閾値Tref1未満である場合には、駆動力低減モード移行条件が成立せず、ブレーキECU90は、本サブルーチンからメインルーチンのステップS15に処理を進める。駆動トルクTが高駆動力判定閾値Tref1以上である場合には、車両の駆動系機構への負荷が高い状況にあると推定することができ、ブレーキECU90は、ステップS144において、駆動力低減モード移行条件が成立したと判定し、その処理をメインルーチンのステップS15に進める。
図5は、駆動力低減モード移行条件が成立するタイミングを表すグラフである。時刻t1において、駆動トルクTが高駆動力判定閾値Tref1以上となり、時刻t2において車輪加速度Gwの振幅Aが悪路判定閾値Aref1以上となると、タイマによる計時が開始され、振幅Aが悪路判定閾値Aref1以上となっている状況が設定時間tref継続した時刻t3において、駆動力低減モード移行条件が成立する。つまり、車両の駆動系機構への負荷が高い状況にあると判定される。
ブレーキECU90は、メインルーチン(図2)のステップS15において、ステップS14の判定結果に基づいて、駆動力低減モード移行条件が成立したか否かを判定し、駆動力低減モード移行条件が成立していない場合には、ステップS16において、トラクション制御モードをTRCオフモードに設定し、本ルーチンを一旦終了する。このTRCオフモードにおいては、トラクション制御を実施しない。従って、ドライバーの希望したとおり、トラクション制御が禁止される。本ルーチンは、所定の短い演算周期で繰り返される。
走行路が悪路となり、かつ、エンジン20が高駆動力出力状態となると、ステップS14において、駆動力低減モード移行条件が成立する。この場合、ブレーキECU90は、ステップS17において、トラクション制御モードをTRC駆動力低減モードに設定する。このTRC駆動力低減モードにおいては、ブレーキアクチュエータ60によるブレーキ制御(ブレーキ油圧制御)を行わずに、エンジン20の駆動力制御によって駆動輪10a,10bの空転によるスリップを抑制するトラクション制御を実施する。TRC駆動力低減モードが設定されている場合には、ブレーキECU90は、スリップが発生したとの判定に基づいて、エンジンECU70に対してトラクション制御指令を送信する。この場合、TRC駆動力低減モードにおけるトラクション制御を開始するトリガとなる制御開始閾値、つまり、スリップ判定閾値は、TRC通常モードにおける値よりも大きな値に設定されている。本実施形態においては、車輪速センサ92によって検出された車輪速Vwが目標車輪速Vw2とを超えたときにトラクション制御を開始するように設定されているため、スリップ判定閾値は、目標車輪速Vw2となる。このTRC駆動力低減モードにおける目標車輪速Vw2は、本発明の第2閾値に相当し、TRC通常モードにおける目標車輪速Vw1よりも大きな値、つまり、トラクション制御が開始されにくい側に設定されている。これにより、TRC駆動力低減モードにおいては、TRC通常モードよりもトラクション制御が開始されるタイミングが遅くなる。また、ブレーキECU90は、TRC駆動力低減モードが設定されているときには、トラクション制御の実施中(エンジン20の駆動力低減制御の実施中)であってもスリップインジケータ94を作動(点滅あるいは点灯)させない。
続いて、ブレーキECU90は、ステップS18において、駆動力低減モードフラグFを「1」に設定し、本ルーチンを一旦終了し、所定の演算周期にて本ルーチンを繰り返す。
TRCカットスイッチ93がオン状態となっているときに、駆動力低減モードフラグFが「1」に設定された場合には、それ以降、ステップS13の判断が「No」となるため、ブレーキECU90は、その処理をステップS19に進める。ブレーキECU90は、ステップS19において、駆動力低減モード終了条件が成立するか否かについての判定処理を行う。この駆動力低減モード終了条件は、車両の駆動系機構への負荷が高いと推定されていた状況が終了したと判定する条件である。このステップS19の処理は、図4に示す駆動力低減モード終了条件成立判定サブルーチンによって実施される。
本実施形態においては、車両の走行している走行路が悪路ではない、あるいは、エンジン20が高駆動力出力状態ではないというOR条件を駆動力低減モード終了条件としている。ブレーキECU90は、ステップS191において、エンジン20の駆動トルクTが高駆動力判定閾値Tref2未満であるか否かを判断し、駆動トルクTが高駆動力判定閾値Tref2未満である場合には(S191:Yes)、ステップS192において、駆動力低減モード終了条件が成立したと判定する。高駆動力判定閾値Tref2は、不感帯を設けるために、高駆動力判定閾値Tref1よりも小さな値に設定されている(Tref2<Tref1)。また、駆動トルクTが高駆動力判定閾値Tref2以上である場合には、ステップS193,S194において、車輪加速度Gwの振幅Aが悪路判定閾値Aref2未満であって、かつ、その状態の継続している時間t(悪路非検出継続時間)が設定時間tref以上であるか否かを判断する。悪路判定閾値Aref2は、不感帯を設けるために、悪路判定閾値Aref1よりも小さな値に設定されている(Aref2<Aref1)。ステップS193,S194の判定が何れか1つでも「No」の場合には、駆動力低減モード終了行条件が成立せず、ステップS193,S194の両方の判定が「Yes」の場合に、駆動力低減モード終了条件が成立する(S192)。
ブレーキECU90は、駆動力低減モード終了条件成立判定処理が完了すると、続いて、ステップS20(図2)において、駆動力低減モード終了条件が成立したか否かを判断し、駆動力低減モード終了条件が成立していない場合は、その処理をステップS17に進める。従って、TRC駆動力低減モードが継続される。こうした処理が繰り返され、ステップS20において、駆動力低減モード終了条件が成立したと判定されると、ブレーキECU90は、ステップS21において、駆動力低減モードフラグFを「0」に設定し、続くステップS22において、車速Vが設定速度Vref(例えば、50km/h)以上であるか否かを判断する。ブレーキECU90は、車速Vが設定速度Vref以上である場合には、ステップS23において、TRCカットスイッチ93をオフ状態に切り替える。つまり、ドライバーによってオン状態に設定されていたTRCカットスイッチ93の設定状態を強制的にオフ状態に切り替える。一方、車速Vが設定速度Vref未満である場合には、ブレーキECU90は、ステップS23の処理をスキップする。この場合には、TRCカットスイッチ93の設定状態はオン状態に維持される。ブレーキECU90は、ステップS23の処理を実施すると、本ルーチンを一旦終了し、所定の演算周期にて本ルーチンを繰り返す。
従って、車速Vが設定速度Vref以上となる状態で駆動力低減モード終了条件が成立した場合には、その後、ステップS11の判断が「No」となってTRC通常モードが設定され(S12)、車速Vが設定速度Vref未満となる状態で駆動力低減モード終了条件が成立した場合には、その後、ステップS11の判断が「Yes」となってTRCオフモードが設定される(S16)。
図6は、上述したトラクション制御ルーチンによってトラクション制御モードが切り替わる状態を簡単に表した状態遷移図である。トラクション制御モードは、TRCカットスイッチ93がオン操作されることにより、TRC通常モードからTRCオフモードに切り替わる(矢印a)。これによってトラクション制御の実施が禁止される。また、TRCオフモードに設定されている状態において、TRCカットスイッチ93がオフ操作されることにより、TRCオフモードからTRC通常モードに戻る(矢印b)。
TRCオフモードに設定されている状態において駆動系機構が高負荷状態であると判定されると、TRCオフモードからTRC駆動力低減モードに自動的に切り替わる(矢印c)。これによって、駆動輪10a,10bの空転によるスリップが発生した場合には、TRCカットスイッチ93のオン設定に関わらず、エンジン20の駆動力低減によるトラクション制御が実施される。その後、駆動系機構が高負荷状態でないと判定されると、その時点における車速Vが設定速度Vref未満であれば、TRC駆動力低減モードからTRCオフモードに自動的に切り替わり(矢印d)、トラクション制御の実施が禁止される。一方、車速Vが設定速度Vref以上であれば、TRC駆動力低減モードからTRC通常モードに自動的に切り替わり(矢印e)、トラクション制御の実施が許可される。
以上説明した本実施形態の車両によれば、ドライバーによってTRCカットスイッチ93をオンに設定している場合であっても、駆動系機構に働く負荷が大きい状況であると推定される場合には、トラクション制御を完全に禁止するのではなく、TRC駆動力低減モードに設定して、ブレーキアクチュエータ60によるブレーキ制御を行わずに、エンジン20の駆動力制御のみによって駆動輪10a,10bの空転によるスリップを抑制するトラクション制御を実施する。また、車両の走行している走行路が悪路であり、かつ、エンジン20が高駆動力出力状態であるという条件をTRC駆動力低減モードへの移行条件に設定している。このため、TRC駆動力低減モードが設定されている場合には、悪路走行によって駆動輪10a,10bの空転によるスリップが発生するため、エンジン20の駆動力を低減させることができる。この結果、駆動系機構、特に、インプットシャフト41に働く負荷を低減することができ、インプットシャフト41の耐久性を向上させることができる。また、TRC駆動力低減モードにおいては、ブレーキアクチュエータ60を使った油圧制動力を用いないため、ドライバーに対して発進阻害感を与えなく、ドライバーがTRCカットスイッチ93をオンしている意志を良好に反映させることができる。例えば、ブレーキアクチュエータ60を作動させてブレーキ制動力を発生させた場合には、作動音がドライバーに聞こえたり、駆動輪10a,10bの空転感が得られなかったりして、TRCカットスイッチ93のオン設定に対して車両が適切な制御を行っていないという違和感をドライバーに与えてしまうことがある。これに対して、本実施形態では、ブレーキアクチュエータ60によるブレーキ油圧制御を行わずに、エンジン20の駆動力制御のみによって駆動輪10a,10bの空転によるスリップを抑制するトラクション制御を実施するため、そうした不具合は生じない。また、TRC駆動力低減モードが設定されている場合には、トラクション制御の実施中であってもスリップインジケータ94を作動させない。このため、ドライバーを混乱させてしまうこともない。
また、TRC駆動力低減モードにおけるトラクション制御のスリップ指標にかかる制御開始閾値は、TRC通常モードにおけるトラクション制御のスリップ指標にかかる制御開始閾値よりも大きな値に設定されているため、TRC駆動力低減モードにおいては、TRC通常モードよりもトラクション制御が開始されるタイミングが遅くなる。このことも、ドライバーに違和感を与えない要因となっている。
また、本実施形態においては、TRC駆動力低減モードの終了条件が成立したとき(S20:Yes)、車速Vが設定速度Vref以上である場合には、TRCカットスイッチ93をオフ状態に切り替える(S23)。つまり、ドライバーによってオン状態に設定されていたTRCカットスイッチ93の設定状態をオフ状態に自動的に切り替える(初期状態に戻す)。一方、車速Vが設定速度Vref未満である場合には、TRCカットスイッチ93をオン状態に維持する。一般に、トラクション制御を禁止することが有用となるケースは、車速が低速である場合が多い。このため、高速走行時はトラクション制御を禁止する必要性があまりない。また、例えば、何かの拍子に物がTRCカットスイッチ93に当たったりして、ドライバーの意図に反してTRCカットスイッチ93がオンされてしまうことも考えられる。そこで、本実施形態においては、TRC駆動力低減モードの終了条件が成立したとき、車速Vが設定速度Vref以上である場合には、トラクション制御モードを初期設定状態に戻す。一方、車速Vが設定速度Vref未満である場合には、ドライバーの意志を重んじてTRCカットスイッチ93のオフ状態を維持させる。これにより、ドライバーにとって使い勝手のよいものとなる。
<悪路判定の変形例>
本実施形態においては、車輪加速度Gwの振幅Aを用いて悪路判定を行っているが、他の手法を採用することもできる。例えば、車体の上下方向の加速度を検出する上下加速度センサを設け、上下加速度センサにより検出された上下加速度の振幅が悪路判定閾値以上となる継続時間が設定時間以上継続したときに、車両の走行している走行路が悪路であると判定する構成であってもよい。上下加速度センサは、水平方向の加速度を検出する加速度センサの設置方向を縦にして使用することもできる。また、図示しないサスペンション制御装置がバネ上上下加速度センサ、バネ下上下加速度センサ等を備えている場合には、そうした加速度センサを利用することもできる。また、ショックアブソーバのストロークを検出するストロークセンサの検出値の微分値(ストローク加速度)を用いることもできる。
本実施形態においては、車輪加速度Gwの振幅Aを用いて悪路判定を行っているが、他の手法を採用することもできる。例えば、車体の上下方向の加速度を検出する上下加速度センサを設け、上下加速度センサにより検出された上下加速度の振幅が悪路判定閾値以上となる継続時間が設定時間以上継続したときに、車両の走行している走行路が悪路であると判定する構成であってもよい。上下加速度センサは、水平方向の加速度を検出する加速度センサの設置方向を縦にして使用することもできる。また、図示しないサスペンション制御装置がバネ上上下加速度センサ、バネ下上下加速度センサ等を備えている場合には、そうした加速度センサを利用することもできる。また、ショックアブソーバのストロークを検出するストロークセンサの検出値の微分値(ストローク加速度)を用いることもできる。
また、例えば、車両の走行路面を撮影するカメラを設け、その撮影画像から悪路判定を行うようにすることもできる。また、カーナビゲーション装置から取得される地図データに、悪路を表す路面情報が含まれている場合には、GPSにより検出される自車両の位置情報と、自車両位置における路面情報とを使って、走行路面が悪路であるか否かを判定することもできる。
<エンジンの高駆動力出力状態判定の変形例>
本実施形態においては、エンジンの駆動トルク(ハイブリッドECU100の演算した目標トルクTe*)を用いてエンジンが高駆動力出力状態であるか否かを判定しているが、他の手法を採用することもできる。例えば、アクセル操作量センサ102により検出されるアクセル開度率[%]が設定開度率以上となることを判定条件としてもよい。また、アクセルペダルのストローク量を検出するストロークセンサを備えている場合には、そのストローク量[mm]が設定ストローク量以上となることを判定条件としてもよい。また、車速と変速ギヤ段数から駆動力[N]を推定し、推定駆動力が設定駆動力以上となることを判定条件としてもよい。
本実施形態においては、エンジンの駆動トルク(ハイブリッドECU100の演算した目標トルクTe*)を用いてエンジンが高駆動力出力状態であるか否かを判定しているが、他の手法を採用することもできる。例えば、アクセル操作量センサ102により検出されるアクセル開度率[%]が設定開度率以上となることを判定条件としてもよい。また、アクセルペダルのストローク量を検出するストロークセンサを備えている場合には、そのストローク量[mm]が設定ストローク量以上となることを判定条件としてもよい。また、車速と変速ギヤ段数から駆動力[N]を推定し、推定駆動力が設定駆動力以上となることを判定条件としてもよい。
従って、駆動力低減モード移行条件は、悪路判定の任意のものと、エンジンの高駆動力出力状態判定の任意のものとを組み合わせて実施することができる。
<駆動力低減モード終了条件の変形例>
本実施形態では、車両の走行している走行路が悪路ではない、あるいは、エンジン20が高駆動力出力状態ではないというOR条件を駆動力低減モード終了条件としているが、他の条件を終了条件とすることもできる。例えば、以下の条件の何れかが成立したときに駆動力低減モード終了条件が成立するようにすればよい。
本実施形態では、車両の走行している走行路が悪路ではない、あるいは、エンジン20が高駆動力出力状態ではないというOR条件を駆動力低減モード終了条件としているが、他の条件を終了条件とすることもできる。例えば、以下の条件の何れかが成立したときに駆動力低減モード終了条件が成立するようにすればよい。
1.エンジン20の駆動力が高駆動力判定閾値未満となること。
2.車体の上下加速度の振幅が悪路判定閾値未満となる時間が設定時間以上継続すること。
3.カメラで撮影した走行路が良路であると判定される時間が設定時間継続すること。
4.ナビゲーション装置によって得られる自車両の走行路が良路になること。
5.アクセル開度率[%]が設定開度率未満になること。
6.アクセルペダルストロークが設定ストローク量未満となること。
7.推定駆動力が設定駆動力未満となること。
尚、駆動力低減モード終了条件に用いる判定閾値については、駆動力低減モード移行条件に用いる閾値よりも小さめにして不感帯を設けるとよい。
2.車体の上下加速度の振幅が悪路判定閾値未満となる時間が設定時間以上継続すること。
3.カメラで撮影した走行路が良路であると判定される時間が設定時間継続すること。
4.ナビゲーション装置によって得られる自車両の走行路が良路になること。
5.アクセル開度率[%]が設定開度率未満になること。
6.アクセルペダルストロークが設定ストローク量未満となること。
7.推定駆動力が設定駆動力未満となること。
尚、駆動力低減モード終了条件に用いる判定閾値については、駆動力低減モード移行条件に用いる閾値よりも小さめにして不感帯を設けるとよい。
以上、本実施形態の車両について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態では、ハイブリッド車両について説明しているが、本発明の対象となる車両は、ハイブリッド車両に限るものではなく、車輪駆動源としてエンジンのみを備えた車両であってもよい。また、エンジンを備えない電気自動車に適用することもできる。この場合、特定時スリップ抑制制御手段は、車輪駆動源であるモータの駆動力を低減するようにすればよい。例えば、TRC通常モードにおいては、モータの駆動力を低減するとともに油圧ブレーキ装置を作動させて駆動輪の空転によるスリップを抑制し、TRC駆動力低減モードにおいては、油圧ブレーキ装置を作動させることなく、モータの駆動力を低減して駆動輪の空転によるスリップを抑制する構成であってもよい。
また、本実施形態においては、エンジン2によるトラクション制御は、TRC通常モードとTRC駆動力低減モードとで同様であるが、例えば、TRC駆動力低減モードにおけるエンジン2の駆動力の低減の程度を、TRC通常モードにおけるエンジン2の駆動力の低減の程度よりも少なくして、更に、ドライバーにトラクション制御を気付かせないようにしてもよい。この場合、ブレーキECU90は、トラクション制御指令をハイブリッドECU100を介してエンジンECU70に送信するときに、TRC通常モードかTRC駆動力低減モードかについて区別できるモード識別データを併せて送信するようにすればよい。
また、本実施形態においては、駆動力低減モード終了条件が成立したとき(S20:Yes)、車速Vが予め設定された設定車速Vref以上である場合にTRC通常モードへ、車速Vが設定車速Vref未満である場合にTRCオフモードへ移行させる構成を備えているが、更に、TRCオフモード中に、車速Vが設定車速Vref以上となった時点でTRC通常モードへ移行させる処理を追加するようにしてもよい。この場合、ステップS16の処理の直後に、ステップS22,S23の処理を追加すればよい。これによれば、ドライバーの意図に反してTRCカットスイッチ93がオンされてしまっても、自動的に初期状態に戻すことができる。
10a,10b…駆動輪、10c,10d…従動輪、20…エンジン、30A,30B…モータ、40…動力分配統合機構、41…インプットシャフト、42…サンギヤ、43…リングギヤ、44…ピニオンギヤ、45…キャリア、46…モータ回転軸、47…リングギヤ軸、50…減速ギヤ、60…ブレーキアクチュエータ、70…エンジンECU、80…モータECU、85…バッテリECU、90…ブレーキECU、92a,92b,92c,92d…車輪速センサ、93…TRCカットスイッチ、94…スリップインジケータ、100…ハイブリッドECU。
Claims (4)
- 車両の駆動輪を駆動する駆動力を発生する車輪駆動源と、
前記駆動輪の空転によるスリップを抑制するスリップ抑制制御手段と、
ドライバーの操作によって、前記車両の運転モードを前記スリップ抑制制御手段の作動を許可する通常モードから前記スリップ抑制制御手段の作動を禁止する禁止モードに切り替えるモード切換操作器と
を備えた車両において、
前記車輪駆動源が高駆動力出力状態であり、かつ、車両の走行している走行路が悪路であるという特定条件が成立しているか否かを判定する特定条件判定手段と、
前記禁止モードが選択されている状況において、前記特定条件が成立している場合に作動が許可され、前記車輪駆動源の駆動力を低減して前記駆動輪の空転によるスリップを抑制する特定時スリップ抑制制御手段と
を備えた車両。 - 請求項1記載の車両において、
前記スリップ抑制制御手段は、前記車輪駆動源の駆動力を低減するとともにブレーキ装置を作動させて、前記駆動輪の空転によるスリップを抑制するように構成され、
前記特定時スリップ抑制制御手段は、前記ブレーキ装置を作動させることなく、前記車輪駆動源の駆動力を低減して前記駆動輪の空転によるスリップを抑制するように構成された車両。 - 請求項1または2記載の車両において、
前記スリップ抑制制御手段は、前記駆動輪の空転によるスリップの程度を表す指標値の大きさが第1閾値を超えたときに前記スリップの抑制を開始するように構成され、
前記特定時スリップ抑制制御手段は、前記駆動輪の空転によるスリップの程度を表す指標値の大きさが前記第1閾値よりも大きい第2閾値を超えたときに前記スリップの抑制を開始するように構成された車両。 - 請求項1ないし請求項3の何れか一項記載の車両において、
前記特定時スリップ抑制制御手段の作動が許可されている状況から、前記特定条件の成立が解除されたときに、車速が設定車速以上となっている場合には前記車両の運転モードを前記通常モードに設定するモード自動切替手段を備えた車両。
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