つまり、上記の従来技術では、ローリングセンサや角速度センサなどを備えて、それらを使用した応答性が良く精度の高いローリング制御を行えるようにするものでありながら、代掻き作業や芝刈り作業などにおいて、走行機体を180度旋回させながら作業する、あるいは、作業地の形状に合わせて走行機体の向きを左右方向に大きく変更しながら作業する、などの操向輪の切れ角を設定値以上にする作業走行時には、ローリングセンサと角速度センサとを使用したローリング制御を全く行えないことから、コストパフォーマンスの面で改善の余地がある。
本発明の目的は、操向輪の切れ角を設定値以上にする旋回作業時においても、ローリングセンサと角速度センサとを使用した応答性が良く精度の高いローリング制御を行えるとともに、その旋回作業での均平性の向上を図れるコストパフォーマンスに優れたものにすることにある。
上記の課題を解決するための手段として、本発明では、走行機体に対地作業装置をローリング可能に連結し、前記走行機体に対して前記対地作業装置をローリング駆動するアクチュエータと、前記走行機体又は前記対地作業装置の左右傾斜角度を検出するローリングセンサと、前記走行機体又は前記対地作業装置の左右傾斜方向の角速度を検出する角速度センサと、前記ローリングセンサと前記角速度センサの検出値に基づいて、前記対地作業装置の左右傾斜角度が設定角度に維持されるように前記アクチュエータの作動を制御するローリング制御手段とを備えた作業機のローリング制御装置において、前記走行機体を、その旋回走行時には各車輪の旋回中心が固定車軸の延長線の付近に収束されるように構成するとともに、前記走行機体の走行速度を検出する車速センサと、操向輪の切れ角を検出する切角センサとを備え、前記走行機体の軸間距離と車輪間隔、及び、前記切角センサの検出値に基づいて前記旋回走行時の旋回径を算出し、この旋回径と前記車速センサの検出値とに基づいて前記旋回走行時に発生する旋回角速度を算出し、この旋回角速度に、予め備えられた前記旋回走行時における前記角速度センサの他軸感度を乗じて、前記旋回走行時における前記角速度センサの検出値に含有する前記他軸感度に起因した外乱値を算出し、この外乱値を前記旋回走行時における前記角速度センサの検出値から減算する演算処理によって、前記旋回走行時に前記角速度センサが検出した検出値を適正にする角速度適正化手段を備えてある。
この構成では、走行機体を、その旋回走行時には各車輪の旋回中心が固定車軸の延長線の付近に収束されるようにする、という所謂アッカーマン・ジャントー方式に基づいて構成することで、走行機体の軸間距離Wと車輪間隔H、及び、切角センサの検出値θsによって、旋回走行時の旋回径r=W(軸間距離)÷tanθs(切れ角)+H(車輪間隔)÷2という関係式を導き出すことができ、これによって、旋回走行時の旋回径rを簡単に算出できる。
又、旋回角速度ωは、ω(旋回角速度)=v(走行速度)÷r(旋回径)であり、この関係式と、上記のように算出した旋回径r及び車速センサの検出値vとから旋回角速度ωを簡単に算出でき、この旋回角速度ωに、予め備えられた旋回走行時における角速度センサの他軸感度を乗算すれば、その旋回走行時に検出する角速度センサの検出値に含まれる、角速度センサの他軸感度とそのときの旋回角速度に起因した外乱値を算出でき、この外乱値を、その旋回走行時における角速度センサの検出値から減算することで、その旋回走行時に角速度センサが検出した検出値の適正化を図れることになり、その適正化が図られた走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度と、ローリングセンサの検出値である走行機体又は対地作業装置の左右傾斜角度とに基づいて、ローリング制御手段がアクチュエータの作動を制御することになり、結果、旋回走行時でありながらも、その旋回走行時における角速度センサの他軸感度に起因した制御精度の低下を抑制した好適なローリング制御を行える。
つまり、旋回走行時における角速度センサの検出精度を低下させる要因である角速度センサの他軸感度とそのときの旋回角速度を考慮して、旋回走行時に角速度センサが検出する検出値の適正化を図るようにしているのであり、これによって、代掻き作業や芝刈り作業などにおける作業を継続しながら走行機体を旋回させる旋回作業時において、ローリングセンサと角速度センサとを使用したローリング制御を行うようにしても、旋回走行時での角速度センサの他軸感度に起因した制御精度の低下を効果的に防止できる。
従って、対地作業装置を接地させた状態で旋回走行する旋回作業時においても、操向輪の切れ角にかかわらず、ローリングセンサと角速度センサとを使用した応答性が良く精度の高いローリング制御を行えるようになり、これによって、旋回作業時に走行機体が左右傾斜する場合であっても、その左右傾斜にかかわらず、対地作業装置を適切な対地姿勢に維持することができ、旋回作業時における均平性の向上を図れるようになり、結果、旋回作業においても均平性の向上を図れるコストパフォーマンスに優れたものとなる。
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、平坦地での試験旋回走行時に算出した旋回角速度と前記角速度センサの検出値との比を、前記旋回走行時における前記角速度センサの前記他軸感度として備えてある。
この構成によると、平坦地での試験旋回走行時に得られる角速度センサの検出値は、角速度センサの他軸感度によって得られる実際の旋回走行時の旋回角速度であり、この旋回角速度には、車速センサや切角センサからの検出値では想定できない実走行時に発生する車輪のスリップに起因した走行速度の低下や旋回径の変動などが含有されている。
一方、平坦地での試験旋回走行時に車速センサや切角センサからの検出値などに基づいて算出した旋回角速度には、実走行時に発生する車輪のスリップに起因した走行速度の低下や旋回径の変動などが含有されていない。
そのため、この平坦地において、旋回径や走行速度などを異ならせた種々の試験旋回走行を行い、それによって得られた角速度センサの検出値と算出旋回角速度との比を、旋回走行時における標準的な角速度センサの他軸感度とすれば、この他軸感度には、実走行時に発生する車輪のスリップに起因した旋回角速度の誤差を補正する補正値を含有することになり、その結果、作業地での旋回走行時には、この他軸感度と算出した旋回角速度とから、車輪のスリップによる走行速度の低下などを考慮したより正確な外乱値を算出でき、この外乱値を角速度センサの検出値から減算することで、より適正化が図られた旋回走行時における走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度を得られることになる。
そして、このより適正化が図られた走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度と、ローリングセンサの検出値である走行機体又は対地作業装置の左右傾斜角度とに基づいて、ローリング制御手段がアクチュエータの作動を制御することになり、結果、旋回走行時でありながらも、その旋回走行時における角速度センサの他軸感度に起因した制御精度の低下をより効果的に抑制した好適なローリング制御を行える。
従って、旋回作業時には、そのときの旋回角速度や実走行時における車輪のスリップなどを考慮したより精度の高いローリング制御を行えるようになり、これによって、旋回作業時に走行機体が左右傾斜する場合であっても、その左右傾斜にかかわらず対地作業装置をより適切な対地姿勢に維持することができ、旋回作業時における均平性の向上を更に図れるようになり、結果、旋回作業時の均平性の向上が更に図られたコストパフォーマンスのより優れたものになる。
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、前記走行機体の走行状態を、旋回径の異なる複数の走行状態に切り換える走行制御手段を備え、複数の前記走行状態に、旋回径の大きい走行状態に対しては小さい値になり、かつ、旋回径の小さい走行状態に対しては大きい値になるように対応させた前記角速度適正化手段の前記演算処理における補正係数を備え、前記走行制御手段が現出する走行状態の判別を可能にする判別情報に基づいて、前記走行制御手段が現出する走行状態に応じた補正係数を選定するように構成してある。
ところで、走行制御手段が現出する走行状態としては、例えば、左右の後輪のみを駆動する2輪駆動状態、左右の前輪をその周速度が後輪の周速度と等しくなるように駆動する4輪駆動状態、前輪をその周速度が後輪の周速度よりも速くなるように駆動する前輪増速状態、この前輪増速状態において旋回内側の後輪を制動する制動前輪増速状態などがあり、これらの走行状態は、例えば、切角センサで検出される操向輪の切れ角が同じであっても、4輪駆動状態では、前輪の周速度と後輪の周速度とが等しいことから2輪駆動状態に比較して旋回径が大きくなり、前輪増速状態では、前輪の周速度が後輪の周速度よりも速くなることから2輪駆動状態に比較して旋回径が小さくなり、制動前輪増速状態では、その前輪増速状態で旋回内側の後輪を制動することから旋回径が更に小さくなる。
つまり、操向輪の切れ角などが同じであっても、旋回走行時に現出される走行状態によって、旋回径に差が生じるとともに旋回走行時の旋回角速度も変化し、角速度センサの検出値に含まれる角速度センサの他軸感度とそのときの旋回角速度による外乱値も変動することになる。
そこで、上記の手段を講じて、走行制御手段が現出する走行状態を考慮した補正係数の選定を行えるようにしているのであり、これによって、走行制御手段が現出する走行状態を考慮したより正確な外乱値を算出でき、この外乱値を角速度センサの検出値から減算することで、より適正化が図られた旋回走行時における走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度を得られることになる。
そして、このより適正化が図られた走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度と、ローリングセンサの検出値である走行機体又は対地作業装置の左右傾斜角度とに基づいて、ローリング制御手段がアクチュエータの作動を制御することになり、結果、旋回走行時でありながらも、その旋回走行時における角速度センサの他軸感度に起因した制御精度の低下をより効果的に抑制した好適なローリング制御を行える。
従って、旋回作業時には、そのときに現出される走行状態に応じて変化する旋回角速度を考慮したより精度の高いローリング制御を行えるようになり、これによって、旋回作業時に走行機体が左右傾斜する場合であっても、その左右傾斜にかかわらず対地作業装置をより適切な対地姿勢に維持することができ、旋回作業時における均平性の向上を更に図れるようになり、結果、旋回作業時の均平性の向上が更に図られたコストパフォーマンスのより優れたものになる。
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、前記走行機体又は前記対地作業装置の前後傾斜角度を検出するピッチングセンサを備え、前記ピッチングセンサの検出値に基づいて、前記旋回走行時における前記角速度センサの他軸感度を、前記ピッチングセンサの検出値に応じた補正係数で補正するように構成してある。
作業地が変わることなどに起因して走行路面の硬さなどの諸条件が変化すると、その変化に伴って、走行機体における前後輪の沈下量の差なども変化することがあり、その沈下量の差に変化が生じた場合には、作業地での走行機体又は対地作業装置の前後傾斜角度が変化することになり、結果、旋回走行時における角速度センサの他軸感度が変動し、角速度センサの検出値に含有する他軸感度に起因した外乱値も変化する。
つまり、走行路面の硬さなどの作業地の諸条件に変化が生じて走行機体又は対地作業装置の前後傾斜角度が変化すると、その変化に起因して、旋回走行時における角速度センサの検出精度を低下させる要因である角速度センサの他軸感度も変動することから、走行機体又は対地作業装置の前後傾斜角度に応じて旋回走行時における角速度センサの他軸感度を補正することが望ましい。
そこで、上記の手段を講じて、作業地が変わることなどに起因して走行路面の硬さなどの諸条件が変化し、その変化に伴って走行機体又は対地作業装置の前後傾斜角度に変化が生じた場合には、その変化に応じた旋回走行時における角速度センサの他軸感度の補正を行えるようにしているのであり、これによって、作業地の諸条件の変化に起因する旋回走行時における角速度センサの他軸感度の変動を考慮したより正確な外乱値を算出でき、この外乱値を角速度センサの検出値から減算することで、より適正化が図られた旋回走行時における走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度を得られることになる。
そして、このより適正化が図られた走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度と、ローリングセンサの検出値である走行機体又は対地作業装置の左右傾斜角度とに基づいて、ローリング制御手段がアクチュエータの作動を制御することになり、結果、走行路面の硬さなどの諸条件の異なる作業地での旋回走行時においても、その旋回走行時における角速度センサの他軸感度に起因した制御精度の低下をより効果的に抑制した好適なローリング制御を行える。
従って、旋回作業時には、そのときの作業地の諸条件に応じて変化する旋回走行時における角速度センサの他軸感度を考慮したより精度の高いローリング制御を行えるようになり、これによって、走行機体の前後傾斜角度が変化する作業地での旋回作業時に走行機体が左右傾斜する場合であっても、その前後傾斜及び左右傾斜にかかわらず対地作業装置をより適切な対地姿勢に維持することができ、旋回作業時における均平性の向上を更に図れるようになり、結果、旋回作業時の均平性の向上が更に図られたコストパフォーマンスのより優れたものになる。
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、前記切角センサの検出値に基づいて、前記走行機体がその進行方向を180度変更する180度旋回状態であるか否かを判別し、前記走行機体が180度旋回状態であると判別した場合に、この180度旋回時における前記角速度センサの検出値を平滑化処理し、その平滑化処理後の値とその180度旋回時に前記角速度適正化手段が算出した前記外乱値との比を算出し、その比の所定180度旋回回数分を平滑化処理して得た値を、前記角速度適正化手段の前記演算処理における補正係数とする学習処理を行うように構成してある。
前述したように、作業地が変わることなどに起因して走行路面の硬さなどの諸条件が変化すると、その変化に伴って、走行機体における前後輪の沈下量の差なども変化することがあり、その沈下量の差に変化が生じた場合には、作業地での走行機体又は対地作業装置の前後傾斜角度が変化し、旋回走行時における角速度センサの他軸感度が変動することで、角速度センサの検出値に含まれる角速度センサの他軸感度とそのときの旋回角速度による外乱値も変動することになる。
一方、旋回走行時の旋回角速度を算出する際に使用する旋回径は、作業地における走行路面の硬さなどの諸条件の影響を受けるものであり、作業地を変えることで走行路面の硬さなどが大きく変わると、操向輪の切れ角などが同じであっても変化することになる。
つまり、作業地が変わることなどに起因して走行路面の硬さなどの諸条件が変化する場合には、走行機体又は対地作業装置の前後傾斜角度が変化して、旋回走行時における角速度センサの他軸感度が変動するだけでなく、操向輪の切れ角などが同じであっても、旋回径に差が生じて旋回走行時の旋回角速度も変動するようになることから、その変化する諸条件のうち、旋回走行時における角速度センサの他軸感度に影響を及ぼすものと、旋回走行時の旋回径に影響を及ぼすものとを考慮して、角速度センサの検出値に含まれる外乱値を算出することが望ましい。
そこで、圃場での代掻き作業や競技場での芝刈り作業などを行う場合には、その作業地において作業機を折り返し往復走行させることが一般的であり、又、作業機を往路から復路に方向転換させる折り返し時には、作業機を180度旋回させることになり、更に、代掻き作業が行われる圃場や芝刈り作業が行われる競技場などは基本的に水平であることに着目して、上記の手段を講じるようにしているのであり、この手段では、作業地での180度旋回時に角速度センサが検出する角速度を平滑化処理することで、そのときの角速度を、走行機体又は対地作業装置の左右傾斜角度での角速度が相殺された、そのときの180度旋回時に発生する角速度センサの他軸感度による実外乱値である旋回角速度とし、この旋回角速度と、この180度旋回の際に角速度適正化手段が算出した外乱値との比を、作業地ごとに変化する諸条件のうちの、旋回走行時における角速度センサの他軸感度に影響を及ぼすものと、旋回走行時の旋回径に影響を及ぼすものとを考慮した外乱値を算出するための補正係数とし、更に、所定回数の180度旋回で得た各補正係数を平滑化処理して信頼性を高めたものを、その後に行われる角速度適正化手段の演算処理における補正係数とするのである。
これによって、作業地ごとに変化する諸条件のうちの、旋回走行時における角速度センサの他軸感度に影響を及ぼすものと、旋回走行時の旋回径に影響を及ぼすものとを考慮したより正確な外乱値を算出でき、その外乱値を角速度センサの検出値から減算することで、より適正化が図られた旋回走行時における走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度を得られることになる。
そして、このより適正化が図られた走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度と、ローリングセンサの検出値である走行機体又は対地作業装置の左右傾斜角度とに基づいて、ローリング制御手段がアクチュエータの作動を制御することになり、結果、走行路面の硬さなどの諸条件が異なる作業地での旋回走行時であっても、その旋回走行時における角速度センサの他軸感度に起因した制御精度の低下をより一層効果的に抑制した好適なローリング制御を行える。
従って、旋回作業時には、そのときに作業する作業地の諸条件に応じて変化する角速度センサの他軸感度や旋回角速度を考慮したより一層精度の高いローリング制御を行えるようになり、これによって、旋回走行時における角速度センサの他軸感度や旋回径に影響を及ぼす諸条件が変化する作業地であっても、旋回作業時に走行機体が左右傾斜する場合には、その左右傾斜や作業地の諸条件にかかわらず対地作業装置をより一層適切な対地姿勢に維持することができ、旋回作業時における均平性の向上を更に図れるようになり、結果、旋回作業時の均平性の向上がより効果的に図られたコストパフォーマンスのより一層優れたものになる。
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、前記走行機体又は前記対地作業装置の前後傾斜角度を検出するピッチングセンサを備え、前記ピッチングセンサの検出値が予め設定した基準値から変化した場合には、前記学習処理が完了するまでの間、前記ローリング制御手段が、前記ローリングセンサの検出値に基づいて前記アクチュエータの作動を制御する、又は、前記走行機体に対して前記対地作業装置が平行になるように前記アクチュエータの作動を制御する、あるいは、前記アクチュエータの作動制御を停止する、のいずれかの制御作動を実行するように構成してある。
この構成によると、作業地が変わることなどに起因して走行路面の硬さなどの諸条件が変化し、走行機体の前後傾斜角度とともに旋回走行時における角速度センサの他軸感度が変動する場合に、前述した学習処理が完了するまでの間において、その他軸感度の変動を考慮せずに算出される不適切な外乱値を角速度センサの検出値から減算して得られる適正化が不十分な旋回走行時における走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度に基づいて、ローリング制御手段がアクチュエータの作動を制御することを回避できる。
従って、学習処理が完了するまでの間において、適正化が不十分な旋回走行時における走行機体又は対地作業装置の左右傾斜方向での角速度に基づいて、ローリング制御手段がアクチュエータの作動を制御することに起因した旋回作業時における均平性の低下を回避でき、一定の性能を確保できる。
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、旋回走行時に算出する前記旋回角速度が予め設定した限界旋回角速度を超えたか否かを判別し、前記旋回角速度が前記限界旋回角速度を超えたと判別した場合には、前記ローリング制御手段が、前記ローリングセンサの検出値に基づいて前記アクチュエータの作動を制御する、又は、前記走行機体に対して前記対地作業装置が平行になるように前記アクチュエータの作動を制御する、あるいは、前記アクチュエータの作動制御を停止する、のいずれかの制御作動を実行するように構成してある。
ところで、いくら予想率の高い角速度センサの他軸感度と旋回角速度とから外乱値を算出できたとしても、旋回角速度が極端に大きい場合には、十分に外乱値を除去することができず、対地作業装置の対地姿勢が不適切になって作業の均平性が低下することになる。
そこで、上記の手段を講じることで、旋回角速度が極端に大きく外乱値を十分に除去することができない場合には、外乱値の含有率の高い角速度適正化手段の出力に基づいてローリング制御手段がアクチュエータの作動を制御すること阻止するのである。
従って、旋回角速度が極端に大きくなる旋回状態であっても、一定の作業性能を確保できる旋回作業時の均平性に優れたものにできる。
図1には作業機の全体側面が、又、図2にはその後部が示されており、この作業機は、走行機体であるトラクタ1の後部に、トップリンク2と左右一対のロアーリンク3からなる3点リンク機構4を介して、対地作業装置の一例であるロータリ耕耘装置5を連結して構成されている。
図1〜3に示すように、トラクタ1は、その前部にエンジン6を搭載するとともに左右一対の前輪7を操向輪として備え、その中央部に、左右の前輪7にステアリング操作系を介して連係されるステアリングホイール8、走行速度などの情報を表示するメータパネル9、及び運転座席10などを備えて搭乗運転部11が形成され、その後部に、左右一対の後輪12や左右一対のリフトアーム13、及び、それら左右のリフトアーム13を上下方向に揺動駆動する油圧式で単動型のリフトシリンダ14などを備えて構成され、又、左側のリフトアーム13が、リフトロッド15を介して左側のロアーリンク3に連結され、右側のリフトアーム13が、アクチュエータの一例である油圧式で複動型のローリングシリンダ16を介して右側のロアーリンク3に連結されている。つまり、リフトシリンダ14の作動でロータリ耕耘装置5を昇降駆動し、ローリングシリンダ16の作動でロータリ耕耘装置5をローリング駆動するようになっている。
図1、図4及び図5に示すように、エンジン6からの動力は、クラッチハウジング17に内蔵した主クラッチ18を介して、ミッションケース19に内蔵した変速装置20に伝達され、その変速装置20から左右の前輪7への伝動は、前輪用変速装置21や前輪用差動装置22などを備える前輪伝動系を介して行われ、変速装置20から左右の後輪12への伝動は、後輪用差動装置23などを備える後輪伝動系を介して行われ、変速装置20からロータリ耕耘装置5への伝動は図外の作業伝動系を介して行われるように構成されている。
前輪用変速装置21は、変速装置20による変速後の動力を、油圧式の多板クラッチからなる標準クラッチ24やギヤ式の標準伝動機構25などを介して左右の前輪7に伝動することで、前輪7の周速度と後輪12の周速度とが等しくなるように駆動する標準4輪駆動状態と、油圧式の多板クラッチからなる増速クラッチ26やギヤ式の増速伝動機構27などを介して左右の前輪7に伝動することで、前輪7の周速度が後輪12の周速度よりも速くなるように例えば約2倍の速度で駆動する前輪増速状態と、左右の前輪7に伝動しない2輪駆動状態とに切り換え可能に構成されている。
ミッションケース19には、油圧式で多板型の左右一対のサイドブレーキ28が装備され、左右のサイドブレーキ28は、左右の対応する後車軸29を介して、油圧に比例した制動力を対応する後輪12に作用させるように構成されている。
図3に示すように、このトラクタ1は、アッカーマン・ジャントー方式に基づいて、その旋回走行時には、旋回内側の前輪7の切れ角θsaが旋回外側の前輪7の切れ角θsbよりも大きくなって、各車輪7,12の旋回中心が固定車軸である後車軸29の延長線上の一点に収束されるように構成してあり、これによって、その軸間距離Wと車輪間隔Hと前輪7の切れ角θsとから、旋回走行時の旋回径r=W(軸間距離)÷tanθs(前輪7の切れ角)+H(車輪間隔)÷2という関係式を導き出すことができる。つまり、前輪7の切れ角θsを検出すれば、旋回走行時の旋回径rを算出することができる。
図4〜7に示すように、このトラクタ1には、マイクロコンピュータからなる第1制御装置30が装備されており、この第1制御装置30には、搭乗運転部11の右下部に配備された左右の対応するブレーキペダル31の踏み込み操作量を検出する一対のブレーキセンサ32、変速装置20から後輪用差動装置23にわたる伝動軸33に備えたギヤ34の回転数を走行速度vとして検出する電磁ピックアップ式の回転センサからなる車速センサ35、ステアリング操作系の操作量を前輪7の切れ角θsとして検出する回転式のポテンショメータからなる切角センサ36、及び、トラクタ1の走行モードを選択する走行選択スイッチ37などからのそれぞれの出力に基づいて、左右の対応するサイドブレーキ28に対する作動油の流動状態を切り換える一対の制動用制御弁38、並びに、標準クラッチ24及び増速クラッチ26に対する作動油の流動状態を切り換えるクラッチ用制御弁39などの作動を制御する走行制御手段40が備えられている。
このトラクタ1において走行選択スイッチ37により選択される走行モードとしては、2輪駆動モード、4輪駆動モード、自動前輪増速モード、及び、自動制動前輪増速モードがある。
走行制御手段40は、走行選択スイッチ37によって2輪駆動モードが選択されると、メータパネル9に備えた2WDランプ41を点灯させるとともに、車速センサ35及び切角センサ36の出力にかかわらず、標準クラッチ24及び増速クラッチ26が非伝動状態に維持されるようにクラッチ用制御弁39の作動を制御して、左右の後輪12のみを駆動する2輪駆動状態を現出する。
走行選択スイッチ37によって4輪駆動モードが選択されると、メータパネル9に備えた4WDランプ42を点灯させるとともに、車速センサ35及び切角センサ36の出力にかかわらず、標準クラッチ24が伝動状態に、かつ、増速クラッチ26が非伝動状態に維持されるようにクラッチ用制御弁39の作動を制御して、左右の前輪7と左右の後輪12とをそれらの周速度が等しくなるように駆動する4輪駆動状態を現出する。
走行選択スイッチ37によって自動前輪増速モードが選択されると、先ず、メータパネル9に備えた増速ランプ43を点灯させるとともに、切角センサ36の出力に基づいて前輪7の切れ角θsを判別し、その切れ角θsが設定角度θso(例えば35度)未満である場合には、車速センサ35の出力にかかわらず前述した4輪駆動状態を現出し、その切れ角θsが設定角度θso以上である場合には、車速センサ35の出力に基づいて走行速度vを判別し、その走行速度vが第1設定速度(例えば0.2km/h)未満、又は、第2設定速度(例えば5km/h)以上であると前述した4輪駆動状態を現出し、その走行速度vが第1設定速度以上で、かつ、第2設定速度未満であると、標準クラッチ24が非伝動状態に、かつ、増速クラッチ26が伝動状態に切り換わるようにクラッチ用制御弁39の作動を制御して、左右の前輪7と左右の後輪12とを前輪7の周速度が後輪12の周速度よりも速くなるように駆動する前輪増速状態を現出する。
走行選択スイッチ37によって自動制動前輪増速モードが選択されると、先ず、メータパネル9に備えたADランプ44を点灯させるとともに、切角センサ36の出力に基づいて前輪7の切れ角θsを判別し、その切れ角θsが設定角度θso(例えば35度)未満である場合には、車速センサ35の出力にかかわらず前述した4輪駆動状態を現出し、その切れ角θsが設定角度θso以上である場合には、車速センサ35の出力に基づいて走行速度vを判別し、その走行速度vが第1設定速度(例えば0.2km/h)未満、又は、第2設定速度(例えば5km/h)以上であると前述した4輪駆動状態を現出し、その走行速度vが第3設定速度(例えば3.6km/h)以上で、かつ、第2設定速度未満であると前述した前輪増速状態を現出し、その走行速度vが第1設定速度以上で、かつ、第3設定速度未満であると、前述した前輪増速状態を現出するとともに、旋回内側の後輪12に対するサイドブレーキ28が制動状態となるように対応する制動用制御弁38の作動を制御して、左右の前輪7と左右の後輪12とを前輪7の周速度が後輪12の周速度よりも速くなるように駆動しながら旋回内側の後輪12を制動する制動前輪増速状態を現出する。
つまり、自動前輪増速モードでは、前輪7を増速させて旋回径を小さくする前輪増速状態の自動現出を可能とし、又、自動制動前輪増速モードでは、前輪7を増速させて旋回径を小さくする前輪増速状態と、前輪7を増速させるとともに旋回内側の後輪12を制動して旋回径を更に小さくする制動前輪増速状態との自動現出を可能にして、枕地での旋回操作性及び旋回性能の向上を図れるようにしながら、自動前輪増速モードと自動制動前輪増速モードのいずれにおいても、第1設定速度未満の低速走行状態において操縦者の意志に反した小旋回状態が現出されることや、第2設定速度以上の高速走行状態において操縦者の意志に反した急激な小旋回状態が現出されることを防止している。
尚、走行制御手段40は、左右のブレーキペダル31のいずれか一方、又は、双方が踏み込み操作された場合には、走行選択スイッチ37により選択された走行モードにかかわらず、各ブレーキセンサ32の出力に基づいて対応する制動用制御弁38の作動を制御して、左右のブレーキペダル31の踏み込み操作量に応じた左右のサイドブレーキ28の制動状態を現出する。
図1、図2、図5及び図6に示すように、このトラクタ1には、マイクロコンピュータからなる第2制御装置45が装備されており、第2制御装置45には、昇降制御モードを選択する昇降選択スイッチ46、昇降レバー47の揺動操作量に基づいてロータリ耕耘装置5の目標対地高さを設定する回転式のポテンショメータからなる高さ設定器48、ロータリ耕耘装置5の目標耕深を設定する回転式のポテンショメータからなる耕深設定器49、リフトアーム13の上下揺動角度を検出する回転式のポテンショメータからなるリフトアームセンサ50、及び、ロータリ耕耘装置5による耕耘跡を鎮圧整地する後カバー51の上下揺動角度を検出する回転式のポテンショメータからなる耕深センサ52などからのそれぞれの出力に基づいて、リフトシリンダ14に対する作動油の流動状態を切り換える昇降用制御弁53の作動を制御する昇降制御手段54が備えられている。
昇降制御手段54は、昇降選択スイッチ46の出力が「オフ」であると、高さ設定器48とリフトアームセンサ50の出力に基づいて、リフトアームセンサ50の出力が高さ設定器48の出力と一致する(不感帯幅内に収まる)ように、昇降用制御弁53の作動を制御してリフトシリンダ14を作動させることで、ロータリ耕耘装置5を、高さ設定器48による設定高さまで昇降させるとともに、その高さ位置に維持するポジション制御を実行する。
昇降選択スイッチ46の出力が「オン」であると、耕深設定器49と耕深センサ52の出力に基づいて、耕深センサ52の出力が耕深設定器49の出力と一致する(不感帯幅内に収まる)状態が維持されるように、昇降用制御弁53の作動を制御してリフトシリンダ14を作動させることで、ロータリ耕耘装置5を、その実耕深が目標耕深に維持される状態に自動昇降させる自動耕深制御を実行する。
そして、この自動耕深制御の実行中において、高さ設定器48の出力から昇降レバー47の上限位置への揺動操作を認識すると、ポジション制御を優先してロータリ耕耘装置5を上昇させる。その後、高さ設定器48の出力から昇降レバー47の下限位置への揺動操作を認識すると、自動耕深制御を再開させて、ロータリ耕耘装置5をその実耕深が目標耕深に維持される状態に自動昇降させる。つまり、自動耕深制御の実行中において、畦際で方向転換する枕地旋回走行などを行う際に、自動耕深制御を一時停止してロータリ耕耘装置5を地面から離間させる場合には、昇降レバー47を上限位置まで揺動操作することによって、又、その枕地旋回走行などを行った後に、再びロータリ耕耘装置5を接地させて自動耕深制御を再開させる場合には、昇降レバー47を下限位置まで揺動操作することによって、それらの状態を簡単に切り換え現出することができる。
又、この自動耕深制御の実行中において、搭乗運転部11に装備したオートアップスイッチ55の出力が「オン」であると、切角センサ36の出力に基づいて前輪7の切れ角θsを判別し、その切れ角θsが設定角度θso以上になると、自動耕深制御を一時停止するとともに、ロータリ耕耘装置5が予め設定された所定の上限位置まで上昇するように昇降用制御弁53の作動を制御し、その後、その切れ角θsが設定角度θso未満になると、自動耕深制御を再開させて、ロータリ耕耘装置5をその実耕深が目標耕深に維持される状態に自動昇降させる。つまり、オートアップスイッチ55の出力を「オン」にすることで、前輪7を設定角度θso以上に操向する枕地旋回走行などを行う際には、その開始とともにロータリ耕耘装置5を自動的に地面から離間させ、又、その終了とともにロータリ耕耘装置5を自動的に接地させることができる。
図1、図2、図5及び図6〜10に示すように、第2制御装置45には、ロータリ耕耘装置5の水平面に対する左右方向の目標傾斜角度θroを設定する回転式のポテンショメータからなる傾斜角設定器56、トラクタ1の左右傾斜角度θtを検出する重錘式のローリングセンサ57、トラクタ1の左右傾斜方向での角速度dθt/dtを検出する振動ジャイロ型の角速度センサ58、及び、ローリングシリンダ16の作動長さLを検出する摺動式のポテンショメータからなるストロークセンサ59からの各出力に基づいて、ローリングシリンダ16に対する作動油の流動状態を切り換えるローリング用制御弁60の作動を制御し、ローリングシリンダ16を作動させることで、ロータリ耕耘装置5を、その水平面に対する左右方向の傾斜角度θrが目標傾斜角度θroに維持されるようにローリング駆動するローリング制御手段61が備えられている。
つまり、傾斜角設定器56を操作することで、ロータリ耕耘装置5の左右方向の設定角度を任意に変更することができる。
図8及び図9に示すように、ローリング制御手段61は、ローリングセンサ57と角速度センサ58の出力に基づいてトラクタ1の左右傾斜角度θtを算出する左右傾斜角演算手段62、トラクタ1がこの左右傾斜角度θtにあるときにロータリ耕耘装置5を傾斜角設定器56により設定された目標設定角度θroにするために必要なローリングシリンダ16の目標シリンダ長さLoを算出するシリンダ長さ演算手段63、及び、この目標シリンダ長さLoとストロークセンサ59が出力するローリングシリンダ16の長さLとを比較し、目標シリンダ長さLoにローリングシリンダ16の長さLが近づくようにローリング制御弁60の作動を制御するフィードバック制御を行うシリンダ作動制御手段64を備える。
左右傾斜角演算手段62によるトラクタ1の左右傾斜角度θtの算出は、基本的に、その演算処理手段65において、角速度センサ58の出力dθtj/dtを積分し、その誤差をローリングセンサ57の出力θtrで補正することで行われる。
つまり、慣性の影響を受けず応答性に優れる角速度センサ58と、検出時点での絶対傾斜角度を検出できない角速度センサ58の欠点を補うローリングセンサ57とを使用することで、応答性が良く精度の高いローリング制御を行えるようにしている。
ところで、ローリングセンサ57は、トラクタ1の左右傾斜に伴う錘のトラクタ1に対する振れ角度をトラクタ1の左右傾斜角度θtrとして電気的に検出する重錘式のものであることから、遠心力Fが働く旋回走行時には、その遠心力Fの影響による外乱値θgを含んだ値をトラクタ1の左右傾斜角度θtrとして出力することになる。
一方、角速度センサ58は、それ自体の取り付け誤差、あるいは、走行機体1における前輪7と後輪12の沈下量の差やへこみ具合の差、などに起因したローリング軸心に対する検出作動軸心の傾斜によって、走行機体1のローリングだけでなくヨーイングやピッチングにも感応して出力するいわゆる他軸感度を有するものであり、特にこの他軸感度を旋回走行時に顕著にする要因は、その旋回走行時に発生する旋回角速度ωであることから、旋回走行時には、走行機体1の旋回角速度ωの影響による外乱値dθg/dtを含んだ値をトラクタ1の左右傾斜方向での角速度dθtj/dtとして出力することになる。
そこで、図9〜11に示すように、左右傾斜角演算手段62には、ローリングセンサ57における外乱値θgを算出してローリングセンサ57の出力θtrから減算する演算処理を行うことで、旋回走行時にローリングセンサ57が検出したトラクタ1の左右傾斜角度θtrを適正なものにする傾斜角度適正化手段66と、角速度センサ58における外乱値dθg/dtを算出して角速度センサ58の出力dθtj/dtから減算する演算処理を行うことで、旋回走行時に角速度センサ58が検出したトラクタ1の左右傾斜方向での角速度dθtj/dtを適正なものにする角速度適正化手段67とを備えてある。
図10に示すように、傾斜角度適正化手段66には、このトラクタ1の設計指標であるアッカーマン・ジャントー方式と、第1制御装置30から送信される切角センサ36の出力値θsとに基づいて、その旋回走行時の旋回径rを、r(旋回径)=W(軸間距離)÷tanθs(前輪7の切れ角)+H(車輪間隔)÷2から算出する旋回径算出手段68、及び、その旋回径算出手段68で算出された旋回径rと、第1制御装置30から送信される車速センサ35の出力値vとに基づいて、その旋回走行時における遠心力Fを、F(遠心力)=v(走行速度)×v(走行速度)÷r(旋回径)から算出する遠心力算出手段69を備えてある。
この遠心力算出手段69により算出される遠心力Fには、実走行時に発生する車輪7,12のスリップなどに起因した誤差が含まれる。そこで、傾斜角度適正化手段66には、圃場での試験走行で実測した実遠心力Fsと、このときに算出した遠心力Fとの比を、その誤差を消去するための補正係数K1として予め備えるとともに、その補正係数K1を、実走行時に算出した遠心力Fに乗算する補正を行って、傾斜角度適正化手段66において算出されるトラクタ1の左右傾斜角度θtrの適正化を図る第1補正手段70を備えてある。
又、このトラクタ1においては、前述したように、旋回走行時に現出する走行状態として、2輪駆動状態、4輪駆動状態、前輪増速状態、及び、制動前輪増速状態があり、これらの走行状態は、車速センサ35で検出される走行速度v及び切角センサ36で検出される前輪7の切れ角θsが同じであっても旋回径rが異なることになる。例えば、左右の後輪12のみを駆動する2輪駆動状態を基準とした場合、左右の前輪7をその周速度が後輪12の周速度と等しくなるように駆動する4輪駆動状態では旋回径rが大きくなり、前輪7をその周速度が後輪12の周速度よりも速くなるように駆動する前輪増速状態では旋回径rが小さくなり、この前輪増速状態で旋回内側の後輪12を制動する制動前輪増速状態では旋回径rが更に小さくなる。つまり、上記の算出で得られる遠心力Fには、現出する走行状態の違いに基づく誤差が含まれる。
そこで、傾斜角度適正化手段66には、走行状態に応じて理論的に推定した値、又は、圃場での試験走行で実測した各走行状態での実遠心力Fsと、このときに各走行状態に対応して算出した遠心力Fとの比を、その誤差を消去するための補正係数K2a〜K2dとして予め備えるとともに、第1制御装置30から送信される走行選択スイッチ37で選択された走行モード、車速センサ35の出力値v、及び、切角センサ36の出力値θsに基づいて現出中の走行状態を判別し、その走行状態に応じた補正係数K2a〜K2dを、圃場での実旋回走行時に算出した遠心力Fに乗算する補正を行って、傾斜角度適正化手段66において算出されるトラクタ1の左右傾斜角度θtrの適正化を更に図る第2補正手段71を備えてある。
尚、各走行状態における旋回径rの関係が前述した通りであることから、各走行状態の補正係数K2a〜K2dの関係は、K2b(4輪駆動状態の補正係数)<K2a(2輪駆動状態の補正係数)<K2c(前輪増速状態の補正係数)<K2d(制動前輪増速状態の補正係数)となり、例えば、2輪駆動状態の補正係数K2aを「1」とした場合、4輪駆動状態の補正係数K2bを「0.7」、前輪増速状態の補正係数K2cを「1.5」、制動前輪増速状態の補正係数K2d=「1.8」とすることが考えられる。
そして、以上の補正によって得られた予想率の高い遠心力Foと、ローリングセンサ57の対遠心力特性とから外乱値θgを算出する外乱値演算手段72を備えてあり、この外乱値演算手段72から出力された外乱値θgをローリングセンサ57の出力θtrから減算したものを、適正なトラクタ1の左右傾斜角度θtrsとして傾斜角度適正化手段66が出力することになる。
しかし、いくら予想率の高い遠心力Foを算出できたとしても、その遠心力Foが極端に大きい場合には、十分に外乱値θgを消去することはできない。
そこで、図8、図10及び図12に示すように、ローリング制御手段61には、外乱値演算手段72により算出された外乱値θg(遠心力Foに対応)と、予め設定した限界外乱値θgm(遠心力の限界値Fmに対応)とを比較し、外乱値θgが限界外乱値θgmを超える場合には、ロータリ耕耘装置5をトラクタ1に対する平行姿勢にするための目標シリンダ長さLoをシリンダ作動制御手段64に出力する一方で、その目標シリンダ長さLoに基づくローリング用制御弁60の作動制御を優先して行い、かつ、ストロークセンサ59からの出力でロータリ耕耘装置5がトラクタ1に対する平行姿勢に至ったことを確認するのに伴って、ローリング用制御弁60の作動制御を一時的に停止するように、シリンダ作動制御手段64の制御作動を規制する比較制御規制手段73を備えてあり、これによって、遠心力Foが極端に大きく外乱値θgを十分に消去することができない場合には、ロータリ耕耘装置5をトラクタ1に対する平行姿勢に維持することで、外乱値θgの含有率の高い傾斜角度適正化手段66からの出力θtrsと、角速度センサ58の出力dθtj/dtとに基づいて、シリンダ作動制御手段64が、ローリング用制御弁60の作動を制御してローリングシリンダ16を作動させることに起因して、ロータリ耕耘装置5の左右傾斜姿勢が不適切になるのを防止するのであり、結果、遠心力Foが極端に大きく働く旋回状態であっても一定の性能を確保することができる。
そして、その規制後に外乱値θgが再び限界外乱値θm以下になると、比較制御規制手段73は、シリンダ作動制御手段64に対する制御作動の規制を解除し、ローリングセンサ57と角速度センサ58のそれぞれの出力に基づく応答性が良く精度の高いローリング制御を再開することになる。
ところで、このように旋回走行時に発生する遠心力Foに対応する外乱値θgに基づいて、ローリングセンサ57と角速度センサ58のそれぞれの出力に基づくローリング制御を行うか否かを判別すると、この判別によって得られるローリングセンサ57の使用可能領域A1には、例えば、単に前輪7の切れ角θsに基づいて判別する場合に得られるローリングセンサ57の使用可能領域A2と比較すると、図12に示すように、前輪7の切れ角θsが大きい場合であっても低速走行であればローリングセンサ57の使用が可能になる領域A1aや、前輪7の切れ角θsが小さい場合であっても高速走行であればローリングセンサ57の使用を避けることが望ましい領域A2aが存在することを認識できる。
つまり、旋回走行時に発生する遠心力Foに対応する外乱値θgに基づいて、ローリングセンサ57と角速度センサ58のそれぞれの出力に基づくローリング制御を行うか否かを判別することで、代掻き作業などにおいて、作業状態を継続しながら前輪7の切れ角θsを大きくしてトラクタ1を180度旋回させる場合であっても、低速走行であれば、ローリングセンサ57と角速度センサ58とを使用した応答性が良く精度の高いローリング制御を行うことができ、又、前輪7の切れ角θsが小さいながらも高速走行させる旋回作業状態において、外乱値θgの含有率の高いローリングセンサ57の出力に基づく精度の低いローリング制御が行われることを回避できる。
尚、限界外乱値θmの設定は、搭乗運転部11に装備した回転式のポテンショメータからなる図外の設定器によって調節可能である。
ちなみに、外乱値θgが限界外乱値θgmを超える場合には、比較制御規制手段73が、その段階からシリンダ作動制御手段64のローリング用制御弁60に対する制御作動を一時的に停止させて、ロータリ耕耘装置5を、その時点でのトラクタ1に対する傾斜姿勢に維持することで、ロータリ耕耘装置5の左右傾斜姿勢が不適切になるのを防止し、遠心力Foが極端に大きく働く旋回状態であっても一定の性能を確保するようにしてもよい。
ところで、各走行状態における旋回径rは、圃場での走行路面となる地盤の硬さなどの諸条件の影響を受けるものであり、そのため、例えば、作業対象の圃場を変えることで地盤の硬さなどが大きく変わる場合には、旋回走行時の旋回径rが変化するとともにそのときに発生する遠心力Fも変化する。
つまり、作業対象の圃場が変わることで圃場での諸条件が変化する場合には、その変化する諸条件のうち、旋回走行時に発生する遠心力Fを算出する上において影響のあるものを考慮して、遠心力Fを算出することが望ましい。
そこで、旋回走行時にもロータリ耕耘装置5を接地させて作業を継続する代掻き作業などを行う場合には、その圃場においてトラクタ1を折り返し往復走行させることが一般的であり、又、トラクタ1を往路から復路に方向転換させる折り返し時には、トラクタ1を180度旋回させることになり、更に、代掻き作業が行われる圃場などは基本的に水平であることに着目して、以下の学習手段74を備えてある。
図10に示すように、学習手段74には、作業の開始に伴って、第1制御装置30から送信される切角センサ36の検出値θsに基づいてトラクタ1が180度旋回状態であるか否かを判別する判別処理を行う判別手段75、この判別手段75によりトラクタ1が180度旋回状態であると判別された場合に、その180度旋回時にローリングセンサ57が検出した値θtrを、所定周期ごとにサンプリングして検出値θtr=(新検出値θtrn×α+旧検出値θtro×β)÷(α+β)とする適応ローパスフィルタ処理(平滑化処理の一例)を行う第1LPF処理手段76、この第1LPF処理手段76での処理により180度旋回後に得た値θtraと、その180度旋回時に傾斜角度適正化手段66が算出した外乱値θgとの比K3を算出する算出手段77、以後の180度旋回によって算出手段77から新たな比K3nを得るごとに、その比K3=(新たな比K3n×α+古い比K3o×β)÷(α+β)とする適応ローパスフィルタ処理(平滑化処理の一例)を行い、所定回数(例えば5回)の180度旋回によって得た値を補正係数K3として出力する第2LPF処理手段78、及び、その第2LPF処理手段78からの補正係数K3を、旋回走行の際に行われる傾斜角度適正化手段66の演算処理における補正係数K3として備えて、圃場ごとの補正係数の適合化を図る第3補正手段79とを備えてある。
つまり、学習手段74では、圃場での180度旋回時にローリングセンサ57が検出するトラクタ1の左右傾斜角度を、所定周期ごとにサンプリングして適応ローパスフィルタ処理することで、トラクタ1の左右傾斜角度を相殺した、そのときの180度旋回時に発生した実遠心力Fによる外乱値θgsとし、この外乱値θgsと、この180度旋回の際に傾斜角度適正化手段66が算出した外乱値θgとの比K3を、圃場の諸条件を考慮するための補正係数K3とし、更に、その補正係数K3を180度旋回ごとに新たに得るたびに適応ローパスフィルタ処理して信頼性を高めたものを、その後に行われる傾斜角度適正化手段66の演算処理における補正係数K3とすることで、圃場ごとの補正係数の適合化を図るのである。
これによって、作業を開始してから所定回数の180度旋回が行われた所定時間後には、傾斜角度適正化手段66おいて、圃場の諸条件を考慮したより正確な遠心力Foを算出でき、この遠心力Foとローリングセンサ57の対遠心力特性とから、より正確な外乱値θgを算定でき、この外乱値θgをローリングセンサ57の検出値θtrから減算することで、ローリングセンサ57の検出値θtrに基づく、より適正なトラクタ1の左右傾斜角度θtrsを得られることになる。
尚、学習手段74としては、その学習処理によって、作業を開始してから所定回数の180度旋回が行われた所定時間後に補正係数K3を得た後も、その学習処理を継続して補正係数K3を更新するように構成してもよく、又、補正係数K3を得た後はその学習処理を停止して、その補正係数K3を定数として記憶するように構成してもよい。更に、補正係数K3を揮発性メモリに記憶して、電源オフとともに消去して初期設定に戻るように構成してもよく、又、補正係数K3を不揮発性メモリに記憶して、次の作業時には、その開始段階から、補正係数K3を備えた傾斜角度適正化手段66の演算処理を行えるように構成してもよい。
一方、図11に示すように、角速度適正化手段67には、このトラクタ1の設計指標であるアッカーマン・ジャントー方式と、第1制御装置30から送信される切角センサ36の出力値θsとに基づいて、その旋回走行時の旋回径rを、r(旋回径)=W(軸間距離)÷tanθs(前輪7の切れ角)+H(車輪間隔)÷2から算出する旋回径算出手段80、この旋回径算出手段80で算出された旋回径rと、第1制御装置30から送信される車速センサ35の出力値vとに基づいて、その旋回走行時における旋回角速度ωを、ω(旋回角速度)=v(走行速度)÷r(旋回径)から算出する旋回角速度算出手段81、この旋回角速度算出手段81で算出された旋回角速度ωと、予め備えられた角速度センサ58の他軸感度とから、この他軸感度に起因した外乱値dθg/dtを算出する外乱値算出手段82、及び、この外乱値算出手段82で算出された外乱値dθg/dtを角速度センサ58の検出値dθtj/dtから減算する外乱値除去手段83を備えてある。
この算出で得られる旋回角速度ωには、実走行時に発生する車輪7,12のスリップなどに起因した誤差が含まれる。そこで、外乱値算出手段82には、トラクタ1の左右傾斜方向での角速度dθtj/dtが発生しない又は殆ど発生しない平坦地において、旋回径rや走行速度vなどを異ならせた種々の試験旋回走行を行って得られた、その試験旋回走行時に算出した旋回角速度ωと、このときの角速度センサ58による検出値dθtj/dtとの比を、旋回走行時における標準的な角速度センサ58の他軸感度として備えてある。
これは、その平坦地での試験旋回走行時に得られる角速度センサ58の検出値dθtj/dtが、角速度センサ58の他軸感度によって得られる実際の旋回走行時の旋回角速度ωsであって、この旋回角速度ωsには、車速センサ35や切角センサ36からの検出値v,θsでは想定できない実走行時に発生する車輪7,12のスリップに起因した走行速度の低下や旋回径の変動などが含有されているのに対し、平坦地での試験旋回走行時に車速センサ35や切角センサ36からの検出値v,θsなどに基づいて算出した旋回角速度ωには、実走行時に発生する車輪7,12のスリップに起因した走行速度の低下や旋回径の変動などが含有されていないからであり、そのため、その平坦地での試験旋回走行によって得られた角速度センサ58の検出値dθtj/dt(=ωs)と算出による旋回角速度ωとの比を、旋回走行時における標準的な角速度センサ58の他軸感度とすれば、この他軸感度には、実走行時に発生する車輪7,12のスリップに起因した旋回角速度の誤差を補正する補正値が含有されるからである。
その結果、圃場での旋回走行時には、その旋回走行時に算出される車輪7,12のスリップに起因した誤差を含有する旋回角速度ωと、その誤差に対する補正値を含有する他軸感度とから、車輪7,12のスリップによる走行速度の低下などを考慮したより正確な外乱値dθg/dtを算出でき、この外乱値dθg/dtを角速度センサ58の検出値dθtj/dtから減算することで、より適正化が図られた旋回走行時におけるトラクタ1の左右傾斜方向での角速度dθtj/dtを得ることができる。
又、このトラクタ1においては、前述したように、旋回走行時に現出する走行状態によって、車速センサ35で検出される走行速度v及び切角センサ36で検出される前輪7の切れ角θsが同じであっても、旋回径rに差が生じて旋回走行時の旋回角速度ωが異なるものになることから、上記の角速度センサ58の他軸感度とそのときの旋回角速度ωとから算出される外乱値dθg/dtには、現出する走行状態の違いに基づく誤差が含まれる。
そこで、角速度適正化手段67には、走行状態に応じて理論的に推定した値、又は、圃場での試験走行で得られた各走行状態での実旋回角速度ωsと、このときに各走行状態に対応して算出した旋回角速度ωとの比を、その誤差を消去するための補正係数K4a〜K4dとして予め備えるとともに、第1制御装置30から送信される走行選択スイッチ37で選択された走行モード、車速センサ35の出力値v、及び、切角センサ36の出力値θsに基づいて現出中の走行状態を判別し、その走行状態に応じた補正係数K4a〜K4dを、圃場での実旋回走行時に算出した旋回角速度ωに乗算する補正を行って、角速度適正化手段67において算出される旋回走行時におけるトラクタ1の左右傾斜方向での角速度dθtj/dtの適正化を更に図る第4補正手段84を備えてある。
尚、各走行状態における旋回径rの関係は前述した通りであることから、各走行状態の補正係数K4a〜K4dの関係は、K4b(4輪駆動状態の補正係数)<K4a(2輪駆動状態の補正係数)<K4c(前輪増速状態の補正係数)<K4d(制動前輪増速状態の補正係数)となり、例えば、2輪駆動状態の補正係数K4aを「1」とした場合、4輪駆動状態の補正係数K4bを「0.7」、前輪増速状態の補正係数K4cを「1.5」、制動前輪増速状態の補正係数K4d=「1.8」とすることが考えられる。
つまり、角速度適正化手段67は、以上の補正によって得られた予想率の高い旋回角速度ωoと角速度センサ58の他軸感度とから外乱値dθg/dtを算出し、この外乱値dθg/dtを角速度センサ58の出力dθtj/dtから減算したものを、適正なトラクタ1の左右傾斜方向での角速度dθtjs/dtとして出力することになる。
しかし、いくら予想率の高い旋回角速度ωoと角速度センサ58の他軸感度とから外乱値dθg/dtを算出しても、旋回角速度ωが極端に大きい場合には、十分に外乱値dθg/dtを消去することはできない。
そこで、図8、図9、図11及び図13に示すように、左右傾斜角演算手段62には、角速度適正化手段67により算出された旋回角速度ωoと、予め設定した限界旋回角速度ωmとを比較し、その旋回角速度ωが限界旋回角速度ωmを超える場合には、演算処理手段65が、傾斜角度適正化手段66からの出力θtrsのみに基づいて得た値を、トラクタ1の左右傾斜角度θtとしてシリンダ長さ演算手段63に出力するように、演算処理手段65の処理状態を切り換える比較切換手段85を備えてあり、これによって、旋回角速度ωが極端に大きく外乱値dθg/dtを十分に消去することができない場合において、その外乱値dθg/dtの含有率の高い角速度適正化手段67からの出力dθtjs/dtと、傾斜角度適正化手段66からの出力θtrsとから、演算処理手段65が算出した値に基づいて、シリンダ作動制御手段64が、ローリング用制御弁60の作動を制御してローリングシリンダ16を作動させることに起因して、ロータリ耕耘装置5の左右傾斜姿勢が不適切になるのを防止するのであり、結果、旋回角速度ωが極端に大きく働く旋回状態であっても一定の性能を確保することができる。
そして、その後に旋回角速度ωが再び限界旋回角速度ωm以下になると、比較切換手段85は、演算処理手段65の処理状態を、傾斜角度適正化手段66と角速度適正化手段67の出力に基づいて算出した値を、トラクタ1の左右傾斜角度θtとしてシリンダ長さ演算手段63に出力する状態に切り換えるようになり、もって、ローリングセンサ57と角速度センサ58のそれぞれの出力に基づく応答性が良く精度の高いローリング制御が再開されることになる。
ところで、これによって得られた角速度センサ58の使用可能領域B1と、単に前輪7の切れ角θsの設定で得た角速度センサ58の使用可能領域B2とを比較すると、図13に示すように、前輪7の切れ角θsが大きい場合であっても低速走行であれば角速度センサ58の使用が可能になる領域B1aや、前輪7の切れ角θsが小さい場合であっても高速走行であれば角速度センサ58の使用を避けることが望ましい領域B2aが存在することを認識できる。
つまり、旋回走行時に発生する旋回角速度ωに基づいて角速度センサ58の使用を判別することで、代掻き作業などにおいて、作業状態を継続しながら前輪7の切れ角θsを大きくしてトラクタ1を180度旋回させる場合であっても、低速走行であれば、傾斜センサ57と角速度センサ58とを使用した応答性が良く精度の高いローリング制御を行うことができ、又、前輪7の切れ角θsが小さいながらも高速走行させる旋回作業状態において、他軸感度の影響の大きい角速度センサ58の出力に基づく精度の低いローリング制御が行われることを回避できる。
尚、限界旋回角速度ωmの設定は、搭乗運転部11に装備した回転式のポテンショメータからなる図外の設定器によって調節可能である。
ところで、前述したように各走行状態における旋回径rは、圃場での走行路面となる地盤の硬さなどの諸条件の影響を受けるものであり、そのため、例えば、作業対象の圃場を変えることで地盤の硬さなどが大きく変わる場合には、車速センサ35で検出される走行速度v及び切角センサ36で検出される前輪7の切れ角θsが同じであっても、旋回径rに差が生じて旋回走行時に発生する旋回角速度ωが異なるものになり、角速度センサ58の他軸感度とそのときの旋回角速度ωとから算出される外乱値dθg/dtも変動することになる。
又、作業対象の圃場を変えることで地盤の硬さなどの諸条件が変わる場合には、それに伴って、走行機体1における前輪7と後輪12との沈下量の差なども変化することがあり、その沈下量の差に変化が生じた場合には、圃場での走行機体1の前後傾斜角度θpが変化し、旋回走行時における角速度センサ58の他軸感度が変動することで、角速度センサ58の検出値dθtj/dtに含まれる、角速度センサ58の他軸感度とそのときの旋回角速度ωによる外乱値dθg/dtも変動することになる。
つまり、作業対象の圃場が変わることで圃場での諸条件が変化する場合には、その変化する諸条件のうち、旋回走行時における角速度センサ58の他軸感度に影響を及ぼすものと、旋回走行時の旋回径rに影響を及ぼすものとを考慮して、旋回走行時に発生する角速度センサ58の他軸感度に起因した外乱値dθg/dtを算出することが望ましい。
そこで、前述したように、旋回走行時にもロータリ耕耘装置5を接地させて作業を継続する代掻き作業などを行う場合には、その圃場においてトラクタ1を折り返し往復走行させることが一般的であり、又、トラクタ1を往路から復路に方向転換させる折り返し時には、トラクタ1を180度旋回させることになり、更に、代掻き作業が行われる圃場などは基本的に水平であることに着目して、以下の学習手段86を備えてある。
図11に示すように、学習手段86には、作業の開始に伴って、第1制御装置30から送信される切角センサ36の検出値θsに基づいてトラクタ1が180度旋回状態であるか否かを判別する判別処理を行う判別手段87、この判別手段87によりトラクタ1が180度旋回状態であると判別された場合に、その180度旋回時に角速度センサ58が検出した値dθtj/dtを、所定周期ごとにサンプリングして検出値dθtj/dt=(新検出値dθtjn/dt×α+旧検出値dθtjo/dt×β)÷(α+β)とする適応ローパスフィルタ処理(平滑化処理の一例)を行う第3LPF処理手段88、この第3LPF処理手段88での処理により180度旋回後に得た値dθtja/dtと、その180度旋回時に角速度適正化手段67が算出した外乱値dθg/dtとの比K5を算出する算出手段89、以後の180度旋回によって算出手段89から新たな比K5nを得るごとに、その比K5=(新たな比K5n×α+古い比K5o×β)÷(α+β)とする適応ローパスフィルタ処理(平滑化処理の一例)を行い、所定回数(例えば5回)の180度旋回によって得た値を補正係数K5として出力する第4LPF処理手段90、及び、その第4LPF処理手段90からの補正係数K5を、旋回走行の際に行われる角速度適正化手段67の演算処理における補正係数K5として備えて、圃場ごとの補正係数の適合化を図る第5補正手段91とを備えてある。
つまり、学習手段86では、圃場での180度旋回時に角速度センサ57が検出する角速度を、所定周期ごとにサンプリングして適応ローパスフィルタ処理することで、そのときのトラクタ1の左右傾斜方向での角速度を相殺した、そのときの角速度センサ57の他軸感度で検出される180度旋回時に発生する旋回角速度からなる外乱値dθgs/dtとし、この外乱値dθgs/dtと、この180度旋回の際に角速度適正化手段67が算出した外乱値dθg/dtとの比K5を、圃場の諸条件を考慮するための補正係数K5とし、更に、その補正係数K5を180度旋回ごとに新たに得るたびに適応ローパスフィルタ処理して信頼性を高めたものを、その後に行われる角速度適正化手段67の演算処理における補正係数K5とすることで、圃場ごとの補正係数の適合化を図るのである。
これによって、作業を開始してから所定回数の180度旋回が行われた所定時間後には、角速度適正化手段67において、圃場ごとに変化する諸条件のうちの、旋回走行時における角速度センサ58の他軸感度に影響を及ぼすものと、旋回走行時の旋回径rに影響を及ぼすものとを考慮したより正確な外乱値dθg/dtを算出でき、この外乱値dθg/dtを角速度センサ58の検出値dθtj/dtから減算することで、角速度センサ58の検出値dθtj/dtに基づく、より適正なトラクタ1の左右傾斜方向での角速度dθtjs/dtを得られることになる。
尚、学習手段86としては、その学習処理によって、作業を開始してから所定回数の180度旋回が行われた所定時間後に補正係数K5を得た後も、その学習処理を継続して補正係数K5を更新するように構成してもよく、又、補正係数K5を得た後はその学習処理を停止して、その補正係数K5を定数として記憶するように構成してもよい。更に、補正係数K5を揮発性メモリに記憶して、電源オフとともに消去して初期設定に戻るように構成してもよく、又、補正係数K5を不揮発性メモリに記憶して、次の作業時には、その開始段階から、補正係数K5を備えた角速度適正化手段67の演算処理を行えるように構成してもよい。
ところで、以上の構成では、圃場における走行機体1の前輪7と後輪12との沈下量の差などに起因して、走行機体1の前後傾斜角度θpが、角速度センサ58の他軸感度を設定する試験旋回走行時での基準前後傾斜角度θpoと異なる場合には、上記の学習手段86による学習処理が完了するまでの間、角速度適正化手段67が、圃場での実際の角速度センサ58の他軸感度とは異なる試験旋回走行の際に設定した角速度センサ58の他軸感度と、圃場での旋回走行時に旋回角速度算出手段81で算出される旋回角速度ωとから、その圃場での旋回走行時に発生する角速度センサ58の他軸感度に起因した外乱値dθg/dtを算出することになる。
つまり、走行機体1の前後傾斜角度θpが試験旋回走行時での基準前後傾斜角度θpoと異なると、学習手段86による学習処理が完了するまでの間は、旋回走行時に角速度センサ58が検出したトラクタ1の左右傾斜方向での角速度dθtj/dtを角速度適正化手段67によって適正なものにすることができない。
そこで、走行機体1の前後傾斜角度θpを検出するピッチングセンサ92と、このピッチングセンサ92からの検出値θpを圃場での作業開始とともに所定周期ごとにサンプリングして検出値θp=(新検出値θpn×α+旧検出値θpo×β)÷(α+β)とする適応ローパスフィルタ処理(平滑化処理の一例)を行う第5LPF処理手段93とを備えるとともに、比較切換手段85が、第5LPF処理手段93からの出力値θpと試験旋回走行時に予め設定した基準値である基準前後傾斜角度θpoとを比較し、第5LPF処理手段93からの出力値θpが、基準前後傾斜角度θpoの不感帯幅から外れた場合には、演算処理手段65が、傾斜角度適正化手段66からの出力θtrsのみに基づいて得た値を、トラクタ1の左右傾斜角度θtとしてシリンダ長さ演算手段63に出力するように、演算処理手段65の処理状態を切り換えるように構成してある。
これによって、上記の学習手段86による学習処理が完了するまでの間において、走行機体1の前後傾斜角度θpが試験旋回走行時での基準前後傾斜角度θpoと異なる場合には、角速度適正化手段67による適正化が不十分な角速度dθtj/dtと、傾斜角度適正化手段66から出力される左右傾斜角度θtrsとから、演算処理手段65が算出した値に基づいて、シリンダ作動制御手段64が、ローリング用制御弁60の作動を制御してローリングシリンダ16を作動させることに起因して、ロータリ耕耘装置5の左右傾斜姿勢が不適切になることを防止できるのであり、結果、走行機体1の前後傾斜角度θpが試験旋回走行時での基準前後傾斜角度θpoと異なる圃場であっても、学習手段86による学習処理が完了するまでの間において一定の性能を確保することができる。
要するに、以上の構成によって、旋回作業時には、そのときに作業する圃場の諸条件に応じた適正化が効果的に図られた角速度センサ58の検出値である走行機体1の左右傾斜方向での角速度dθtjs/dtと、ローリングセンサ57の検出値である走行機体1の左右傾斜角度θtrsとに基づいて、ローリング制御手段64がローリングシリンダ16の作動を制御することになり、これによって、傾斜センサ57と角速度センサ58とを使用することで応答性が良く精度の高い上に、圃場の諸条件に応じて変化する角速度センサ58の他軸感度、旋回角速度ω、及び遠心力Fを考慮したより精度の高いローリング制御を行えるようになり、結果、旋回走行中においても、圃場条件や走行機体1の左右傾斜にかかわらず、ロータリ耕耘装置5をより精度良く適切な対地姿勢に維持することができて、均平性に優れた作業を行えることになる。
〔別実施例〕
以下、本発明の別実施例を列記する。
〔1〕作業機としては、トラクタ1の後部に対地作業装置5の一例であるモーアを連結して構成された芝刈機などであってもよい。
〔2〕ローリング制御手段64としては、傾斜角度適正化手段66を備えずに角速度適正化手段67のみを備えるものであってもよい。
〔3〕ローリング制御手段64における平滑化処理として、適応ローパスフィルタ処理に代えて移動平均処理や単純平均処理などを採用してもよい。
〔4〕角速度適正化手段67としては、学習手段86を備えていないものであってもよく、又、図14に示すように、学習手段86に代えて、ピッチングセンサ92の検出値θpに基づいて、外乱値算出手段82に備えた角速度センサ58の他軸感度を、ピッチングセンサ92の検出値θpに応じた補正係数K6で補正する第6補正手段94を備えるものであってもよい。尚、図14では、第5LPF処理手段93で平滑化処理したピッチングセンサ92の検出値θpを第6補正手段94に入力する構成を例示してある。
〔5〕図15に示すように、比較制御規制手段73が、第5LPF処理手段93で平滑化処理したピッチングセンサ92の検出値θpと試験旋回走行時に予め設定した基準前後傾斜角度θpoとを比較し、ピッチングセンサ92の検出値θpが基準前後傾斜角度θpoの不感帯幅から外れた場合に、ロータリ耕耘装置5をトラクタ1に対する平行姿勢にするための制御作動をシリンダ作動制御手段64に指令するように構成してもよく、又、ピッチングセンサ92の検出値θpが基準前後傾斜角度θpoの不感帯幅から外れた段階から、シリンダ作動制御手段64のローリング用制御弁60に対する制御作動を一時的に停止させて、ロータリ耕耘装置5を、その時点でのトラクタ1に対する傾斜姿勢に維持するように構成してもよい。
〔6〕図16に示すように、一つの制御装置30に、走行制御手段40、昇降制御手段54、及びローリング制御手段61を備えるようにしてもよい。
〔7〕走行制御手段40が制動用制御弁38の作動を制御する際の作動情報と、クラッチ用制御弁39の作動を制御する際の作動情報とに基づいて、ローリング制御手段61が現出中の走行状態を判別するように構成してもよい。