JP4106252B2 - 二輪・四輪駆動切換機構 - Google Patents

二輪・四輪駆動切換機構 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トラクタ等の走行車両において、二輪駆動と四輪駆動を切り換えるクラッチの構成に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、二輪輪駆動(2WD)と四輪駆動(4WD)を油圧クラッチにより切り換えるトラクタ等の走行車両において、エンジンが停止すると油圧ポンプも停止されて油圧クラッチに圧油が供給されないため、該油圧クラッチがオフ状態となり、前輪の駆動経路が絶たれるため、駐車ブレーキを制動状態としても後輪のみ制動されて前輪は制動されない状態となっている。そこで、油圧クラッチに付勢部材を設けて、圧油が送油されていないときは該付勢部材の付勢力により摩擦板を押圧することで、該クラッチをオン状態として後輪伝動系と前輪とを接続した四輪駆動とし、二輪駆動とするときは油圧クラッチを作動させてクラッチをオフ状態としていた。こうしてエンジン停止時には付勢部材の付勢力により四輪駆動として前輪にも制動力を伝達可能に構成していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述の如く、油圧クラッチに付勢部材を設けて、該付勢部材により摩擦板を押圧することで該クラッチをオン状態とする構成では、付勢部材、例えばバネによりクラッチをオンとし、この付勢力により、前輪へ制動力を伝達し、また、四輪駆動には後輪からの駆動力をクラッチを介して前輪に伝達しなければならないために、クラッチ容量を大きくしなければならず、ミッションケースが大きくなり、重量等も増加していた。また、ミッションケースの大きさを従来のものと略同じにして構成した場合、十分な付勢力を有する付勢部材を用いることができず、クラッチ容量が不足気味となっていた。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0005】
請求項1においては、前輪(1)への駆動出力軸である前輪駆動出力軸(30)への動力伝達状態を、前輪(1)を後輪(2)の周速と略同速に駆動する四輪駆動状態と、前輪(1)を後輪(2)の周速よりも増速して駆動する前輪増速駆動状態と、後輪(2)のみを駆動する二輪駆動状態に切換可能とした走行車両において、前記前輪駆動出力軸(30)上に二輪駆動・四輪駆動切換機構(79)を設け、該二輪駆動・四輪駆動切換機構(79)は、油圧アクチュエータにより断接されるように構成し、該油圧アクチュエータは、前輪駆動出力軸(30)上に遊嵌した標準駆動入力歯車(50)と増速駆動入力歯車(60)の間に位置する前輪駆動出力軸(30)に固設したシリンダ(80)と、該シリンダ(80)に内装された標準駆動入力歯車(50)側に摺動可能な四駆クラッチピストン(81)と、増速駆動入力歯車(60)側に摺動可能な増速クラッチピストン(82)とで構成し、該シリンダ(80)には、標準駆動入力歯車(50)側に四駆クラッチピストン(81)を嵌装する四駆側シリンダ室(Ha)を、増速駆動入力歯車(60)の側に増速クラッチピストン(82)を摺動する増速側シリンダ室(Hb)を形成し、該標準駆動入力歯車(50)と前記四駆クラッチピストン(81)の間には爪式クラッチ(97)を配置し、増速駆動入力歯車(60)と増速クラッチピストン(82)の間には、摩擦式クラッチ(95)を配置し、前記四駆クラッチピストン(81)及び増速クラッチピストン(82)と、シリンダ(80)のバネ受けとの間には、バネ(83・84)を介装し、両ピストン(81・82)を該シリンダ(80)の仕切壁(80e)側へ押圧付勢し、該四駆側シリンダ室(Ha)と増速側シリンダ室(Hb)の両方に圧油が供給されない場合には、前記バネ(83・84)にて該爪式クラッチ(97)が咬合状態で、摩擦式クラッチ(95)が非接合状態の、四輪駆動状態とし、該四駆側シリンダ室(Ha)と増速側シリンダ室(Hb)の両方に圧油が供給される場合には、爪式クラッチ(97)が非咬合状態で、摩擦式クラッチ(95)が接合状態の、前輪増速駆動状態とし、該四駆側シリンダ室(Ha)側にのみ圧油が供給され、増速側シリンダ室(Hb)には圧油が供給されない場合には、爪式クラッチ(97)が非咬合状態で、摩擦式クラッチ(95)も非接合状態の、二輪駆動状態としたものである。
【0006】
請求項2においては、請求項1に記載の二輪・四輪駆動切換機構において、前記爪式クラッチ(97)を、前記標準駆動入力歯車(50)に設けたクラッチ爪(50a)と、前記四駆クラッチピストン(81)の内周部に設けたクラッチ爪(81a)により構成し、該クラッチ爪(50a)とクラッチ爪(81a)の咬合時に、回転方向において両クラッチ爪の間に、所定の隙間が出来るように構成したものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0008】
図1は本発明の実施例に係るトラクタの全体的な構成を示した側面図、図2は動力伝達構成を示したスケルトン図、図3は動力伝達構成を示すミッションケースの断面展開図、図4は油圧回路図、図5は本発明の二輪・四輪駆動切換機構を示すミッションケース下部の側面断面図、図6は四輪駆動時における二輪・四輪駆動切換機構の拡大図、図7は図5におけるA−A矢視断面図、図8は二輪駆動時の二輪・四輪駆動切換機構の拡大図、図9は前輪増速駆動時の二輪・四輪駆動切換機構の拡大図、図10は二輪・四輪駆動切換機構の制御を示すフローチャート図である。
【0009】
図1に示す如く、この走行車両はトラクタを実施例としており、本機の前後に前輪1・1及び後輪2・2が支承され、前部のボンネット6内部にはエンジン5が配置され、該ボンネット6の後方にはステアリングハンドル10が配設されている。前記ステアリングハンドル10の後方には座席11が配設され、該座席11の側部には主変速レバーや副変速レバー等の操作レバーが配設されている。これらステアリングハンドル10や座席11やレバー類等はキャビン12内の運転部に配置されている。
【0010】
また、エンジン5の後部にクラッチハウジングが配置され、該クラッチハウジングの後部にミッションケース9が配設され、エンジン5からの動力を後輪2に伝達して駆動し、後述する本発明の二輪・四輪駆動切換機構79を介して前輪1にも同時に駆動力を伝達することを可能としている。
【0011】
前記エンジン5の駆動力はミッションケース9後端から突出したPTO軸15に伝達されて、該PTO軸15から図示しないユニバーサルジョイント等を介して車両後端に作業機装着装置を介して装着した作業機100を駆動するように構成している。そして、前記座席11前下方のステップ上にはクラッチを断接操作するためのクラッチペダルとブレーキペダル等が配設されている。
【0012】
次に、動力伝動系の構成について図2より説明する。前記クラッチハウジング7内には多板式の主クラッチ21が収納され、前記クラッチペダル16に連係されている。そして、前記エンジン5の出力軸(クランク軸)22の回転が主クラッチ21に入力され、該主クラッチ21の出力軸23は車両後方に延出され、PTOクラッチ軸29と同一軸心に配設されている。
【0013】
前記出力軸23の後端上に伝動歯車64とPTO三速爪64aが配置され、PTOクラッチ軸29上には三枚のPTO変速歯車、すなわち、PTO一速歯車61、PTO二速歯車62、PTO逆転歯車63、が遊嵌される。該PTO変速歯車61・62と伝動歯車64は、主軸25に固設あるいは形設した三枚の前記伝達歯車41・42・44に噛合しており、PTO逆転歯車63はカウンタ歯車37を介して伝達歯車43と噛合し、後述するPTOクラッチスライダ93・94の摺動により、伝達歯車41・42・43・PTO三速爪64aからPTOクラッチ軸29に回転駆動力が伝達される。
【0014】
また、PTOクラッチ軸29には二つのPTOクラッチスライダ93・94が軸方向摺動可能にスプライン嵌合されており、該PTOクラッチスライダ93・94は、図略のPTO変速レバーに連係されている。そして、PTO変速レバーの操作によりPTOクラッチスライダ93・94とPTO一速歯車61、PTO二速歯車62、PTO逆転歯車63に形成した爪とPTO三速爪64aとの咬合を選択しPTOクラッチ軸29に回動力が伝達される。前記PTOクラッチ軸29の回転動力は減速歯車91を介してPTO軸15伝達され、該PTO軸15は後方に延出され、作業車後端に接続された作業機100を駆動する。
【0015】
前記主軸25に固設あるいは形設した四枚の前記伝達歯車41・42・43・44は、主変速軸24にそれぞれ遊嵌された主変速歯車、すなわち、主変速一速歯車31、主変速二速歯車32、主変速三速歯車33、主変速四速歯車34と噛合している。主変速軸24には二つの主変速クラッチスライダ51・52が軸方向摺動可能にスプライン嵌合されており、該主変速クラッチスライダ51・52は、主変速レバー77に連係されている。そして、主変速レバー77の操作により主変速クラッチスライダ51・52と主変速一速歯車31、主変速二速歯車32、主変速三速歯車33、主変速四速歯車34に形成した爪との咬合を選択し、選択されたいずれか一つの主変速歯車31・32・33・34を介して主軸25から主変速軸24へ動力が伝達される。このようにして、四段階の変速を可能とした主変速装置を構成し、主軸25からの変速後の回転が主変速軸24に伝達される。
【0016】
そして、主変速軸24は前方に延長されて、該延長部分には正逆転機構が構成されて正転側歯車26及び逆転側歯車27がそれぞれ同一軸心上に遊嵌されている。そして、リバーサレバー71(図2)の操作によりリバーサクラッチ57が前進側又は後進側いずれかが選択されて接続され、主変速軸24の回転は正転側歯車26又は逆転側歯車27のいずれかに伝達される。但し、リバーサレバー71がニュートラル位置の場合は、回転は両歯車26・27のいずれにも伝達されない。
【0017】
正転側歯車26は伝達軸48に嵌合又は固設された歯車45に噛合しており、また、逆転側歯車27は、カウンタ軸38に嵌合又は固設されたカウンタ歯車39に噛合しており、該カウンタ歯車39は伝達軸48に嵌合又は固設された歯車47と噛合している。したがって、リバーサクラッチ57が前進側に接続されたときには、主変速軸24の回転動力が正転側歯車26を介して伝達軸48に伝達され、リバーサクラッチ57が後進側に接続されたときには、主変速軸24の回転動力が、逆転側歯車27から、カウンタ軸38を介して伝達軸48を逆転方向に回転するよう伝達される。
【0018】
伝達軸48に嵌合又は固設された歯車45は、前記正転側歯車26と噛合するとともに、副変速軸35に遊嵌した歯車59に噛合している。副変速軸35には副変速シフタ92がスプライン嵌合しており、該副変速シフタ92は副変速レバー73によって操作され、副変速シフタ92の前部に形成された副変速二速歯92aと、前記歯車59の後部に形成された歯59aが噛合する状態と、副変速シフタ92に設けられた副変速一速歯92bと、伝達軸48に形成された歯車46が噛合する状態と、副変速シフタ92に回転動力が伝達されない状態に、切換可能とした副変速装置が構成されている。そして、副変速シフタ92の摺動に基づく選択により、伝達軸48の回転が二段の変速を経て出力され、副変速軸35に入力される。
【0019】
上述の如く副変速装置によって変速されて伝達軸48より副変速軸35に伝達された回転動力は、該副変速軸35上の三つの歯車49・19・20によって、後輪駆動系と前輪駆動系の二方向に出力される。前記ミッションケース9後部には後輪デフ装置66bが配置され、前記副変速軸35の回転が、その後端に形設した傘歯車20を介して該後輪デフ装置66bに入力され、リアアクスルケース内の車軸、伝達歯車等を経由して後輪2が駆動される。96はブレーキ装置である。また、本発明の二輪・四輪駆動切換機構79によって、副変速軸35上に固設した歯車19より前輪駆動出力軸30上に遊嵌した標準駆動入力歯車50を介して、又は、副変速軸35上に固設した歯車49より前輪駆動出力軸30上に遊嵌した増速駆動入力歯車60を介して、前輪駆動出力軸30に入力された動力が、前輪駆動出力軸30の前端に連結する前輪伝達軸14に伝えられて、ユニバーサルジョイント等を介して前輪側のデフ装置66aに入力され、フロントアクスルケース内の車軸、伝達歯車等を介して前輪1が駆動される。
【0020】
次に、油圧回路について図4より説明する。エンジン5の駆動により油圧ポンプ86・90が駆動され、油圧ポンプ86からパワーステアリング装置74に圧油が送油されて、ステアリングハンドル10の回動に連動した方向切換バルブ75の切り換えにより、パワーステアリング装置74のパワーステアリングシリンダ76が伸縮されて前輪1を回動する。そして、パワーステアリング装置74を経た作動油は後述する切換バルブ85を経て、二輪・四輪駆動切換機構79に送油され、該二輪・四輪駆動切換機構79を作動させて、前輪増速又は二輪・四輪駆動の切換が行われる。
【0021】
また、油圧ポンプ90の吐出油路には分流弁123を介して、一方は作業機100の傾斜角度調節用の制御弁104から角度変更油圧シリンダ105に送油可能とし、他方の油路からは作業機制御用装置106を介して昇降シリンダ127に送油可能としている。
【0022】
次に、本発明の二輪・四輪駆動切換機構79について説明する。二輪・四輪駆動切換機構79により、四輪駆動状態での走行時に、自動切換モードとしたときには、前輪1の切れ角より車体の旋回操作が検出され、設定角度以上前輪1がきられると、後輪2の周速度よりも前輪1の周速度を増速する前輪増速駆動状態に自動的に切り換えられて、車体が速やかに旋回できるように制御される。
【0023】
前記前輪駆動出力軸30は前記ミッションケース9の前下部に、出力軸23や主変速軸24やPTO軸15等と平行に前後方向にベアリングを介して回転自在に支持され、前輪駆動出力軸30の前端はミッションケース9より前方に突出されている。
【0024】
図5及び図6に示す如く、前輪駆動出力軸30上には標準駆動入力歯車50及び増速駆動入力歯車60がそれぞれベアリングを介して遊嵌され、該標準駆動入力歯車50及び増速駆動入力歯車60と、前輪駆動出力軸30との間にはそれぞれ爪式クラッチ97と摩擦式クラッチ95が配置され、該爪式クラッチ97と摩擦式クラッチ95はそれぞれ油圧アクチュエータにより断接されるように構成されている。つまり、これらの歯車50・60の間にクラッチケースとなるシリンダ80が前輪駆動出力軸30に固設され、該シリンダ80には、標準駆動入力歯車50側及び増速駆動入力歯車60側に四駆クラッチピストン81及び増速クラッチピストン82の二個のシリンダピストンが摺動可能に内挿されて油圧アクチュエータが形成されている。
【0025】
前記四駆クラッチピストン81及び増速クラッチピストン82と、シリンダ80に設けられたバネ受けの間には、弾性係数の異なる弾性体して、バネ荷重特性の異なるバネ83・84がそれぞれ介装されてピストンを縮小する方向に付勢している。本実施例では径の異なるバネ83・84を採用して、四駆クラッチピストン81及び増速クラッチピストン82はいずれも、シリンダ80の前後略中央に形成された仕切壁80e側へ押圧されるよう付勢されるが、四駆クラッチピストン81より、増速クラッチピストン82がより強く仕切壁80eへ押圧されるようにしている。なお、増速クラッチピストン82にはシリンダ室内と摩擦板側を連通する油路とその先端にオリフィス82aが設けられて押圧時のショックを和らげるようにしている。
【0026】
また、前記標準駆動入力歯車50に咬合体となるクラッチ爪50aが設けられ、四駆クラッチピストン81の内周部に咬合体となるクラッチ爪81aが形成され、該クラッチ爪50a・81aが対向するように配設されて爪式クラッチ97が設けられ、前記バネ83の付勢力によりクラッチ爪50a・81aが咬合するように構成している。即ち、図7に示す如く、標準駆動入力歯車50の外周部に複数(本実施例では3個)のクラッチ爪50a・50a・50aが、等間隔に外側に向かって放射状に突出して固設されている。また、四駆クラッチピストン81のシリンダ室外側において内側に向かって前記クラッチ爪50a・50a・50aに対応してクラッチ爪81a・81a・81aが、等間隔に内側に向かって放射状に突出して固設されている。そして、前記四駆クラッチピストン81がバネ83の付勢力により仕切壁80e側へ付勢された非作動時において、該クラッチ爪81aとクラッチ爪81aとの間にクラッチ爪50aが回転方向で重なり合うように配置され、クラッチ爪81aとクラッチ爪50aが咬合するように構成されているのである。そして、該クラッチ爪81aとクラッチ爪81aとの間の爪部以外の内周部の長さL1は、クラッチ爪50aの外周部の長さ(回転方向の爪幅)L2より長くして、或いは、クラッチ爪50aとクラッチ爪50aとの間の爪部以外の内周部の長さL3は、クラッチ爪81aの外周部の長さ(回転方向の爪幅)L4より長くして、両爪の咬合時に回転方向においてクラッチ爪81aの爪部とクラッチ爪50aの爪部との間に所定の隙間L5を設けて遊びを形成し、この隙間L5はクラッチ爪50aまたは81aの回転方向の爪幅L2またはL4より大きくしている。こうして、二輪駆動状態で後輪2がスリップした場合等のようにクラッチ爪50aとクラッチ爪81aとの周速差が大きいときにも切換動作しやすいようにしている。さらに、四駆クラッチピストン81の外周部に形成されたクラッチ爪81bと、シリンダ80に形成されたクラッチ爪80aが咬合している。したがって、四駆駆動状態では、副変速軸35上の歯車19から標準駆動入力歯車50に入力された動力は、標準駆動入力歯車50→四駆クラッチピストン81→シリンダ80→前輪駆動出力軸30という経路によって前輪駆動系へ伝達され、前輪1は後輪2の周速と略同速となるよう回転駆動される。
【0027】
なお、図8に示す如く、前記爪クラッチ80aがバネ83の付勢力に抗して標準駆動入力歯車50側へ移動して、爪クラッチ80aと爪クラッチ50aの咬合が解除されると、副変速軸35から前輪駆動出力軸30への動力伝達が断絶され、二輪駆動状態となる。
【0028】
また、増速駆動入力歯車60のボス部と、シリンダ80の内周部との間にはそれぞれ摩擦板60a・80bが交互に設けられ、増速クラッチピストン82の増速駆動入力歯車60と対向する面には皿バネ98が設けられて、摩擦式クラッチ95が形成されている。そして、前記バネ84の付勢力によって増速クラッチピストン82を縮小側に付勢して摩擦板60a・80bを押圧しないようにしている。
【0029】
そして、前輪増速駆動状態では、図9に示す如く、四駆クラッチピストン81が押されてクラッチ爪81aと爪クラッチ50aの咬合が解除されると同時に、増速クラッチピストン82が増速駆動入力歯車60側へ移動して、摩擦板60a・80bを押圧し、増速駆動入力歯車60とシリンダ80が連結されて、一体となって回転する。従って、副変速軸35上の歯車49から増速駆動入力歯車60に入力された動力は、増速駆動入力歯車60→シリンダ80→前輪駆動出力軸30という経路によって前輪駆動系へ伝達され、前輪1は後輪2よりも増速して回転駆動される。
【0030】
次に、上述の如く構成した二輪・四輪駆動切換機構79の四駆クラッチピストン81と増速クラッチピストン82の制御について説明する。図5、図8、図9に示す如く、前記前輪駆動出力軸30内には、油圧ポンプ86からの圧油が送られる油路30a・30b・30c・30dが形成され、さらに、前記シリンダ80に形成された仕切壁80eには油路80c・80dが形成されている。これらの油路30a・30c・80cを介して、油圧ポンプ86からの作動油を四駆クラッチピストン81の配設された四駆側シリンダ室Haに圧送できるようにする一方、油路30b・30d・80dを介して油圧ポンプ86からの作動油を増速クラッチピストン82の配設された増速側シリンダ室Hbに圧送できるようにしている。
【0031】
また、前輪駆動出力軸30の軸心部に穿設した油路30a・30bはミッションケース9上またはその前部に連設したクラッチハウジングに付設した前記切換バルブ85と接続され、該切換バルブ85は油圧ポンプ86と接続されている。該切換バルブ85は電磁バルブより構成され、該切換バルブ85を構成するソレノイド85d・85eは制御装置101と接続されている。制御装置101よりソレノイド85d・85eに信号が送信されないと、つまり、摩擦式クラッチ95と爪式クラッチ97の油圧アクチュエータは非作動状態となり、中立位置を保持して四輪駆動位置85aとなる。制御装置101よりソレノイド85dに駆動信号が送信されると、切換バルブ85は二輪駆動位置85cにスプールが移動し、爪式クラッチ97の油圧アクチュエータが作動される。また、ソレノイド85eに駆動信号が送信されると、切換バルブ85は増速駆動位置85bスプールが移動して切り換えられ、摩擦式クラッチ95と爪式クラッチ97の油圧アクチュエータは作動状態となる。
【0032】
また、前記制御装置101には、前輪1のステアリング切れ角を検出するための切れ角センサ89が電気的に接続されている。該切れ角センサ89は、前輪1に設けられたキングピン88に設けられている。なお、切れ角センサ89はステアリングハンドル10や、ステアリング軸等に設けることもできる。
【0033】
そして、制御装置101には、自動切換モードのON/OFFを切り換える切換スイッチ102が接続されている。自動切換スイッチ102と二輪駆動モードに切換える切換スイッチ103は前記ステアリングハンドル10または座席11近傍に配置されて、走行時や作業時等において操縦者が容易に操作できるようにしている。前記自動切換モードがONのときには、前輪1の切れ角に基づいて、四輪駆動状態から自動的に前輪増速駆動状態に、すなわち、切換バルブ85がステアリングハンドル10の切れ角によって四輪駆動位置85aから増速駆動位置85bに切換制御される。つまり、前輪1の切れ角に基づいて、前輪増速駆動状態から自動的に四輪駆動状態に、すなわち、切換バルブ85が増速駆動位置85bから四輪駆動位置85aに自動的に切換制御される。そして、自動切換モードがOFFのときには、四輪駆動状態が保持され、切換バルブ85は四輪駆動位置85aに固定される。
【0034】
次に、自動切換モード時の制御を図10に示すフローチャートを用いて説明する。制御装置101は、自動切換スイッチ102がONとされる(151)と自動モードとなり、切れ角センサ89からの情報による前輪1の切れ角θと、予め設定した切換角度βとを比較する(152)。この切れ角θが切換角度β以上であれば、制御装置101から、切換バルブ85のソレノイド85eに駆動信号を送信して(153)増速駆動位置85bに切り換えて前輪増速駆動状態とする(154)。
【0035】
切換バルブ85が、増速駆動位置85bに切り換われば、油圧ポンプ86から、油圧ポンプ86→油路30a→油路30c→油路80d→四駆側シリンダ室Ha、という経路により作動油が四駆側シリンダ室Haに圧送されると同時に、油圧ポンプ→油路30b→油路30d→増速側シリンダ室Hb、という経路により作動油が増速側シリンダ室Hbに圧送される。これにより、図8に示す如く、四駆クラッチピストン81は、標準駆動入力歯車50側へ摺動して、クラッチ爪50a・81aの咬合が解除され、四駆クラッチピストン81と標準駆動入力歯車50を介する副変速軸35から前輪駆動出力軸30への動力の伝達が断絶される。そして、図9に示す如く、増速側シリンダ室Hbに送油された作動油の圧力により増速クラッチピストン82が皿バネ98を介して摩擦板80b・60aを押圧して、摩擦板80b・60a間での摩擦力が発生し、増速駆動入力歯車60とシリンダ80が一体的に回動するようになる。従って、歯車49→増速駆動入力歯車60→摩擦板60a・80b→シリンダ80→前輪駆動出力軸30→前輪伝達軸14等を介して前輪1に動力が伝達されて、前輪増速駆動状態となる(154)。
【0036】
また、切れ角センサ89からの情報による、前輪1の切れ角θと、予め設定した切換角度βとを比較して(152)、切れ角θが切換角度βより小さい値となれば、制御装置101から、切換バルブ85への信号は送信されず、切換バルブ85は中立位置を保持して四輪駆動状態を維持する(155)。
【0037】
前記切換バルブ85が、前輪増速駆動状態の増速駆動位置85bから四輪駆動位置85aに切り換われば、ドレンタンク87に繋がる油路が開かれて油路全体の圧が低くなることによって、四駆側シリンダ室Ha及び増速側シリンダ室Hbの圧が低くなり、増速クラッチピストン82による摩擦板80b・60aの押圧が解除され摩擦式クラッチ95は非作動状態となるとともに、バネ83による付勢により四駆クラッチピストン81が摺動して、四輪クラッチピストン81と標準駆動入力歯車50のクラッチ爪81a・50aが咬合し(爪式クラッチ97が作動状態となり)、四輪駆動状態となる(155)。
【0038】
また、前記自動切換モードがOFFのとき(151)には、四輪駆動状態から二輪駆動状態に切り換えることが可能であり、四輪駆動状態と二輪駆動状態を切り換えるための二輪・四輪駆動切換スイッチ103が制御装置101に接続されている。自動切換モードがOFFのときに(151)、二輪・四輪駆動切換スイッチ103をONとすると(156)、制御装置101からの信号により切換バルブ85のソレノイド85dが作動され(157)、四輪駆動位置85aから二輪駆動位置85cに切り換得られて、四輪駆動状態から二輪駆動状態になる(158)。切換バルブ85が、二輪駆動位置85cに切り換われば、油圧ポンプ86から、油圧ポンプ86→油路30a→油路30c→油路80d→四駆側シリンダ室Ha、という経路により作動油が四駆側シリンダ室Haに圧送される。これにより、図8に示す如く、四駆クラッチピストン81は、標準駆動入力歯車50側へ摺動して、爪式クラッチ97のクラッチ爪50a・81aの咬合が解除され、四駆クラッチピストン81と標準駆動入力歯車50を介する副変速軸35から前輪駆動出力軸30への動力の伝達が断絶され、二輪駆動状態となる。また、二輪・四輪駆動切換スイッチ103がOFFの場合(156)四輪駆動状態を維持する(155)。
【0039】
なお、二輪駆動状態から四輪駆動状態に、すなわち、二輪・四輪駆動切換スイッチ103がONからOFFに切り換わったときには、切換バルブ85が二輪駆動位置85cから四輪駆動位置85aに切換制御される。切換バルブ85が、四輪駆動位置85aに切り換われば、ドレンタンク87に繋がる油路が開かれて油路全体の圧が低くなることによって、四駆側シリンダ室Haの圧が低くなり、バネ83による付勢により四駆クラッチピストン81が摺動して、四輪クラッチピストン81と標準駆動入力歯車50のクラッチ爪81a・50aが咬合し、四輪駆動状態となる。
【0040】
上述の如く構成された、二輪・四輪駆動切換機構79では、エンジン5が停止して、油圧ポンプ86から作動油が送られない状態となっても、四駆クラッチピストン81のクラッチ爪81aと、標準駆動入力歯車50のクラッチ爪50aが咬合を保持するため、駐車ブレーキを作動させたときに、後輪デフ装置66bの制動は前輪駆動出力軸30にも制動力が働き、前輪1が自由に回転するような状態が発生しないため、制動力を保持できる。したがって、ミッションケース9の大きさを変更することなく、クラッチの容量不足を解消できる。
【0041】
【発明の効果】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示すような効果を奏する。
【0042】
請求項1に示す如く、前輪(1)への駆動出力軸である前輪駆動出力軸(30)への動力伝達状態を、前輪(1)を後輪(2)の周速と略同速に駆動する四輪駆動状態と、前輪(1)を後輪(2)の周速よりも増速して駆動する前輪増速駆動状態と、後輪(2)のみを駆動する二輪駆動状態に切換可能とした走行車両において、前記前輪駆動出力軸(30)上に二輪駆動・四輪駆動切換機構(79)を設け、該二輪駆動・四輪駆動切換機構(79)は、油圧アクチュエータにより断接されるように構成し、該油圧アクチュエータは、前輪駆動出力軸(30)上に遊嵌した標準駆動入力歯車(50)と増速駆動入力歯車(60)の間に位置する前輪駆動出力軸(30)に固設したシリンダ(80)と、該シリンダ(80)に内装された標準駆動入力歯車(50)側に摺動可能な四駆クラッチピストン(81)と、増速駆動入力歯車(60)側に摺動可能な増速クラッチピストン(82)とで構成し、該シリンダ(80)には、標準駆動入力歯車(50)側に四駆クラッチピストン(81)を嵌装する四駆側シリンダ室(Ha)を、増速駆動入力歯車(60)の側に増速クラッチピストン(82)を摺動する増速側シリンダ室(Hb)を形成し、該標準駆動入力歯車(50)と前記四駆クラッチピストン(81)の間には爪式クラッチ(97)を配置し、増速駆動入力歯車(60)と増速クラッチピストン(82)の間には、摩擦式クラッチ(95)を配置し、前記四駆クラッチピストン(81)及び増速クラッチピストン(82)と、シリンダ(80)のバネ受けとの間には、バネ(83・84)を介装し、両ピストン(81・82)を該シリンダ(80)の仕切壁(80e)側へ押圧付勢し、該四駆側シリンダ室(Ha)と増速側シリンダ室(Hb)の両方に圧油が供給されない場合には、前記バネ(83・84)にて該爪式クラッチ(97)が咬合状態で、摩擦式クラッチ(95)が非接合状態の、四輪駆動状態とし、該四駆側シリンダ室(Ha)と増速側シリンダ室(Hb)の両方に圧油が供給される場合には、爪式クラッチ(97)が非咬合状態で、摩擦式クラッチ(95)が接合状態の、前輪増速駆動状態とし、該四駆側シリンダ室(Ha)側にのみ圧油が供給され、増速側シリンダ室(Hb)には圧油が供給されない場合には、爪式クラッチ(97)が非咬合状態で、摩擦式クラッチ(95)も非接合状態の、二輪駆動状態としたので、エンジンが停止しても、前輪駆動出力軸への伝動系が途切れることなく前輪への制動力を保持することができる。
したがって、ミッションケースの大きさを変更することなく、クラッチの容量不足を解消できる。
【0043】
また、前記爪式クラッチはバネ(83・84)にて咬合するよう常時付勢されているので、エンジンが停止しても、前輪駆動出力軸への伝動系が途切れることなく前輪への制動力を保持することができる。
【0044】
請求項2に示す如く、請求項1に記載の二輪・四輪駆動切換機構において、前記爪式クラッチ(97)を、前記標準駆動入力歯車(50)に設けたクラッチ爪(50a)と、前記四駆クラッチピストン(81)の内周部に設けたクラッチ爪(81a)により構成し、該クラッチ爪(50a)とクラッチ爪(81a)の咬合時に、回転方向において両クラッチ爪の間に、所定の隙間が出来るように構成したので、クラッチ爪とクラッチ爪との周速差が大きいときにも切換動作しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例に係るトラクタの全体的な構成を示した側面図。
【図2】 動力伝達構成を示したスケルトン図。
【図3】 動力伝達構成を示すミッションケースの断面展開図。
【図4】 油圧回路図。
【図5】 本発明の二輪・四輪駆動切換機構を示すミッションケース下部の側面断面図。
【図6】 四輪駆動時における二輪・四輪駆動切換機構の拡大図。
【図7】 図5におけるA−A矢視断面図。
【図8】 二輪駆動時の二輪・四輪駆動切換機構の拡大図。
【図9】 前輪増速駆動時の二輪・四輪駆動切換機構の拡大図。
【図10】 二輪・四輪駆動切換機構の制御を示すフローチャート図。
【符号の説明】
1 前輪
2 後輪
5 エンジン
30 前輪駆動出力軸
50 標準駆動入力歯車
50a クラッチ爪
60 増速駆動入力歯車
60a 摩擦板
79 二輪駆動・四輪駆動切換機構
80 シリンダ
80a クラッチ爪
80b 摩擦板
81 四駆クラッチピストン
81a クラッチ爪
81b クラッチ爪
82 増速クラッチピストン
83 バネ
84 バネ
95 摩擦式クラッチ
97 爪式クラッチ
98 押圧体

Claims (2)

  1. 前輪(1)への駆動出力軸である前輪駆動出力軸(30)への動力伝達状態を、前輪(1)を後輪(2)の周速と略同速に駆動する四輪駆動状態と、前輪(1)を後輪(2)の周速よりも増速して駆動する前輪増速駆動状態と、後輪(2)のみを駆動する二輪駆動状態に切換可能とした走行車両において、前記前輪駆動出力軸(30)上に二輪駆動・四輪駆動切換機構(79)を設け、該二輪駆動・四輪駆動切換機構(79)は、油圧アクチュエータにより断接されるように構成し、該油圧アクチュエータは、前輪駆動出力軸(30)上に遊嵌した標準駆動入力歯車(50)と増速駆動入力歯車(60)の間に位置し、前輪駆動出力軸(30)に固設したシリンダ(80)と、該シリンダ(80)に内装された標準駆動入力歯車(50)側に摺動可能な四駆クラッチピストン(81)と、増速駆動入力歯車(60)側に摺動可能な増速クラッチピストン(82)とで構成し、該シリンダ(80)には、標準駆動入力歯車(50)側に四駆クラッチピストン(81)を嵌装する四駆側シリンダ室(Ha)を、増速駆動入力歯車(60)の側に増速クラッチピストン(82)を摺動する増速側シリンダ室(Hb)を形成し、該標準駆動入力歯車(50)と前記四駆クラッチピストン(81)の間には爪式クラッチ(97)を配置し、増速駆動入力歯車(60)と増速クラッチピストン(82)の間には、摩擦式クラッチ(95)を配置し、前記四駆クラッチピストン(81)及び増速クラッチピストン(82)と、シリンダ(80)のバネ受けとの間には、バネ(83・84)を介装し、両ピストン(81・82)を該シリンダ(80)の仕切壁(80e)側へ押圧付勢し、該四駆側シリンダ室(Ha)と増速側シリンダ室(Hb)の両方に圧油が供給されない場合には、前記バネ(83・84)にて該爪式クラッチ(97)が咬合状態で、摩擦式クラッチ(95)が非接合状態の、四輪駆動状態とし、該四駆側シリンダ室(Ha)と増速側シリンダ室(Hb)の両方に圧油が供給される場合には、爪式クラッチ(97)が非咬合状態で、摩擦式クラッチ(95)が接合状態の、前輪増速駆動状態とし、該四駆側シリンダ室(Ha)側にのみ圧油が供給され、増速側シリンダ室(Hb)には圧油が供給されない場合には、爪式クラッチ(97)が非咬合状態で、摩擦式クラッチ(95)も非接合状態の、二輪駆動状態としたことを特徴とする二輪・四輪駆動切換機構。
  2. 請求項1に記載の二輪・四輪駆動切換機構において、前記爪式クラッチ(97)を、前記標準駆動入力歯車(50)に設けたクラッチ爪(50a)と、前記四駆クラッチピストン(81)の内周部に設けたクラッチ爪(81a)により構成し、該クラッチ爪(50a)とクラッチ爪(81a)の咬合時に、回転方向において両クラッチ爪の間に、所定の隙間が出来るように構成したことを特徴とする二輪・四輪駆動切換機構。
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