JP4106079B2 - 光学活性エポキシアルコールの製造法 - Google Patents

光学活性エポキシアルコールの製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、蛾類のフェロモンである光学活性エポキシ化合物を製造するうえで、有用な中間体となる光学活性エポキシアルコールの製造法に関し、詳細には、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール及び(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの合成方法についてはこれまでBrevetと森の方法(J.-L. Brevet, K. Mori, Synthesis (1992)1007-1012)が報告されている。
【0003】
この方法では、cis−2−ブテン−1,4−ジオールから二段階で合成した1,4−ジアセトキシエポキシブタンを酵素の存在下加水分解して(2S,3R)−4−アセトキシエポキシブタン−1−オールを得た後、これを4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2−ブチルクロロシランと処理し、ついで加水分解することにより(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを得ている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高い光学純度のものを得るには、(2S,3R)−4−アセトキシエポキシブタン−1−オールを3,5−ジニトロベンゾエート誘導体へ導き再結晶操作を行わなければならず、しかもこの操作では容易に所望する光学純度が得られないという問題点がある。また、この方法では加水分解や再結晶を行うため製造工程数が多くなるうえに、(2S,3R)−4−アセトキシブタン−1−オールの加水分解後の溶液が乳化するため精製操作が煩雑になるなど実用的な製造方法とはいえない。さらに、1,4−ジアセトキシエポキシブタンの酵素による加水分解は一定の低温下で行なわないと光学純度が上がらないという欠点がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は高い光学純度の(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール及び(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを少ない製造工程で簡便に製造する方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
【0007】
第一に、以下の式(式中、TBDPSはtert−ブチルジフェニルシリル基を表す。)で表される(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを、
【0008】
【化学式1】
Figure 0004106079
【0009】
リパーゼの存在下ビニルエステルと処理することにより、
以下の式で表される(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール
【0010】
【化学式2】
Figure 0004106079
【0011】
及び以下の式で表される(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを得ることを特徴とする、光学活性エポキシアルコールの製造方法。
【0012】
【化学式3】
Figure 0004106079
【0013】
第二に、(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを、リパーゼの存在下ビニルエステルと処理することにより、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール及び(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタンを得、次いで、(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタンから(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを得ることを特徴とする、光学活性エポキシアルコールの製造方法。
【0014】
第三に、ビニルエステルが、酢酸ビニルであることを特徴とする、上記第一又は第二に記載の光学活性エポキシアルコールの製造方法。
【0015】
本発明者らは、(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの光学分割に着目した。そして、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、リパーゼの存在下(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールをビニルエステルと処理することにより、高い光学純度の(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール及び(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールが容易に得られることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
これを詳細に説明すると、まず本発明で用いる(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールは、以下の方法で調製することができる。
【0017】
市販のcis−2−ブテン−1,4−ジオールに、テトラヒドロフラン中水素化ナトリウム、次いでtert−ブチルクロロジフェニルシランを加え反応させ、4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2−ブテン−1−オールを得る。これを、塩化メチレン中メタクロロ過安息香酸で酸化すると(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを得ることができる。
【0018】
本発明は、上記方法で得た(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを、リパーゼの存在下酢酸ビニルあるいは酢酸イソプロペニル等のビニルエステルと有機溶媒中攪拌することにより行い、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール及び(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタンをそれぞれ得る。(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタンは、メタノール溶媒中炭酸カリウムで処理し(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを得る。
【0019】
本発明で用いるリパーゼは、リパーゼAK(天野製薬(株)製)、リパーゼPS(天野製薬(株)製)、リパーゼPS−C(天野製薬(株)製)、リパーゼPS−D(天野製薬(株)製)等があげられ、(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール1モルに対し、5gから50gを使用すれば良い。また、一度使用したリパーゼは回収し再び使用することができる。
【0020】
本発明で使用する有機溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ペンタン、ヘキサン、トルエン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0021】
攪拌の時間は、2から7時間で十分であり、温度は20℃から35℃が好ましい。
【0022】
【実施例】
以下、実施例において本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
まず、(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの製造方法について説明する。
【0024】
(1)4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2−ブテン−1−オールの合成
【0025】
シス−2−ブテン−1,4−ジオール(2.00g、22.7ミリモル)のテトラヒドロフラン(20ml)溶液に0℃で水素化ナトリウム(912mg、23.0ミリモル)をゆっくり加え、室温で30分攪拌した。反応混合物にtert−ブチルクロロジフェニルシラン(6.25g、22.7ミリモル)のTHF(8ml)溶液を0℃で滴下した。1時間かけて室温まで温度を上げながら攪拌し、水(50ml)を加えて反応を終了させ、ジエチルエーテル(100ml)で抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2−ブテン−1−オール(6.81g、収率92%)を無色油状物質として単離した。
【0026】
(2)(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの合成
【0027】
4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2−ブテン−1−オール(15.6g、47.6ミリモル)の塩化メチレン(200ml)溶液に、0℃でメタクロロ過安息香酸(17.0g、69.0ミリモル)の塩化メチレン溶液(50ml)を加えた。この反応混合物を室温で6時間攪拌した後に、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(200ml)を加えて反応を終了した。ジエチルエーテル(1000ml)で抽出し、有機層を水(200ml)、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液(200ml)、飽和塩化ナトリウム水溶液(200ml)の順に洗浄した後に、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(15.3g、収率94%)を無色油状物質として単離した。
【0028】
次に、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール及び(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの製造方法について説明する。
【0029】
実施例1〜4においては、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの合成について説明する。
【0030】
【実施例1】
(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(2.00g、5.84ミリモル)と酢酸ビニル(1.0ml)のジエチルエーテル(20ml)溶液にリパーゼPS−C(50mg)を室温で加え、5時間攪拌した。反応溶液を濾過し、得られた濾液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(971mg、収率49%)と(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン(1.07g、収率48%)を無色油状物質として単離した。
【0031】
得られた(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの光学純度は、以下の通りである。
【0032】
高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCという。)(Chiralcel OD(登録商標),25cm×4.6mm; 溶媒:ヘキサン/2−プロパノール=9:1; 流速:1.0mL/min): 保持時間=14.1min(99.76%),21.8min(0.24%) 光学純度99.5%ee
【0033】
【実施例2】
(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(2.00g、5.84ミリモル)と酢酸ビニル(1.0ml)のジエチルエーテル(20ml)溶液にリパーゼPS(50mg)を室温で加え、5時間攪拌した。以下実施例1と同様に処理し、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(969mg、収率48%)と(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン(1.06g、収率47%)を無色油状物質として単離した。
【0034】
得られた(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの光学純度は、以下の通りである。
【0035】
HPLC(Chiralcel OD(登録商標),25cm×4.6mm;溶媒:ヘキサン/2−プロパノール=9:1; 流速:1.0mL/min): 保持時間=12.5min(99.43%),20.0min(0.57%) 光学純度98.9%ee
【0036】
【実施例3】
(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(2.00g、5.84ミリモル)と酢酸ビニル(1.0ml)のジエチルエーテル(20ml)溶液にリパーゼPS−D(50mg)を室温で加え、5時間攪拌した。以下実施例1と同様に処理し、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(972mg、収率49%)と(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン(1.11g、収率49%)を無色油状物質として単離した。
【0037】
得られた(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの光学純度は、以下の通りである。
【0038】
HPLC(Chiralcel OD(登録商標),25cm×4.6mm;溶媒:ヘキサン/2−プロパノール=9:1; 流速:1.0mL/min): 保持時間=12.4min(99.44%),19.8min(0.19%) 光学純度99.6%ee
【0039】
【実施例4】
(±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(2.00g、5.84ミリモル)と酢酸ビニル(1.0ml)のジエチルエーテル(20ml)溶液にリパーゼAK(50mg)を室温で加え、5時間攪拌した。以下実施例1と同様に処理し、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(964mg、収率48%)と(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン(1.09g、収率49%)を無色油状物質として単離した。
【0040】
得られた(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの光学純度は、以下の通りである。
【0041】
HPLC(Chiralcel OD(登録商標),25cm×4.6mm;溶媒:ヘキサン/2−プロパノール=9:1; 流速:1.0mL/min): 保持時間=12.6min(98.73%),19.9min(1.27%) 光学純度97.5%ee
【0042】
実施例5においては、(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの合成について説明する。
【0043】
【実施例5】
(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン(9.45g、24.6ミリモル)のメタノール(90ml)溶液に0℃で炭酸カリウム(4.80g、34.7ミリモル)を加え、1時間攪拌した。反応溶液に水を加えて反応を終了させ、ジエチルエーテルで抽出した。抽出した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール(4.42g、収率99%)を無色油状物質として単離した。
【0044】
得られた(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールの光学純度は、以下の通りである。
【0045】
HPLC(Chiralcel OD(登録商標),25cm×4.6mm;溶媒:ヘキサン/2−プロパノール=20:1; 流速:1.0mL/min): 保持時間=14.0min(0.94%),22.2min(99.06%) 光学純度98.1%ee
【0046】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、光学活性エポキシアルコールである、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール及び(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを、再結晶等の煩雑な操作を必要とせず高い光学純度で製造することができる。また、本発明によると製造工程数を少なくすることができるので光学活性エポキシアルコールを工業的に有利に製造できる。

Claims (2)

  1. (±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを、シュードモナス(pseudomonas)属由来のリパーゼの存在下酢酸ビニル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ペンタン、ヘキサン、トルエン、酢酸エチルから選択される有機溶媒中で処理することにより、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール及び(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを得ることを特徴とする、光学活性エポキシアルコールの製造方法。
  2. (±)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを、シュードモナス(pseudomonas)属由来のリパーゼの存在下酢酸ビニル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ペンタン、ヘキサン、トルエン、酢酸エチルから選択される有機溶媒中で処理することにより、(2R,3S)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オール及び(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタンを得、次いで、(2S,3R)−1−アセトキシ−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタンから(2S,3R)−4−tert−ブチルジフェニルシリルオキシ−2,3−エポキシブタン−1−オールを得ることを特徴とする、光学活性エポキシアルコールの製造方法。
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