JP4102074B2 - 着色組成物、インクジェット用インク、インクジェット記録方法及びオゾンガス褪色耐性の改良方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フタロシアニン化合物を含むインク組成物、特にシアン色インクジェット記録用水溶性インクと、そのインク保存安定性の改良方法、フタロシアニン化合物の析出防止方法および、インクジェット記録方法並びにインクジェット記録の利用による画像記録物のオゾンガス褪色耐性の改良方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、画像記録材料としては、特にカラー画像を形成するための材料が主流であり、具体的には、インクジェット方式の記録材料、感熱転写方式の記録材料、電子写真方式の記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インク、記録ペン等が盛んに利用されている。また、撮影機器ではCCDなどの撮像素子において、ディスプレーではLCDやPDPにおいて、カラー画像を記録・再現するためにカラーフィルターが使用されている。これらのカラー画像記録材料やカラーフィルターでは、フルカラー画像を再現あるいは記録するために、いわゆる加法混色法や減法混色法の3原色の色素(染料や顔料)が使用されているが、好ましい色再現域を実現出来る吸収特性を有し、且つさまざまな使用条件、環境条件に耐えうる堅牢な色素がないのが実状であり、改善が強く望まれている。
【0003】
インクジェット記録方法は、材料費が安価であること、高速記録が可能なこと、記録時の騒音が少ないこと、更にカラー記録が容易であることから、急速に普及し、更に発展しつつある。インクジェット記録方法には、連続的に液滴を飛翔させるコンティニュアス方式と画像情報信号に応じて液滴を飛翔させるオンデマンド方式が有り、その吐出方式にはピエゾ素子により圧力を加えて液滴を吐出させる方式、熱によりインク中に気泡を発生させて液滴を吐出させる方式、超音波を用いた方式、あるいは静電力により液滴を吸引吐出させる方式がある。また、インクジェット用インクとしては、水性インク、油性インク、あるいは固体(溶融型)インクが用いられる。
【0004】
このようなインクジェット用インクに用いられる色素に対しては、溶剤に対する溶解性あるいは分散性が良好なこと、高濃度記録が可能であること、色相が良好であること、光、熱、環境中の活性ガス(NOx、オゾン等の酸化性ガスの他SOxなど)に対して堅牢であること、水や薬品に対する堅牢性に優れていること、受像材料に対して定着性が良く滲みにくいこと、インクとしての保存性に優れていること、毒性がないこと、純度が高いこと、更には、安価に入手できることが要求されている。
【0005】
特に、良好なシアン色相を有し、光、湿度、熱に対して堅牢な色素であること、中でも多孔質の白色無機顔料粒子を含有するインク受容層を有する受像材料上に印字する際には環境中のオゾンなどの酸化性ガスに対して堅牢であることが強く望まれている。
【0006】
これまでシアン色素としては、殆どの場合、色相と光堅牢性に優れたフタロシアニン化合物が使用されているが、酸化性ガス、特にオゾンに対しては充分な堅牢性を有していないので改良が望まれている。
【0007】
最も広範囲に報告され、利用されている代表的なフタロシアニン化合物としては、以下の▲1▼〜▲6▼で分類されるフタロシアニン誘導体が挙げられる。
【0008】
▲1▼Direct Blue 86又はDirect Blue 199のような銅フタロシアニン化合物[例えば、Cu-Pc-(SO3Na)m:m=1〜4の混合物](以下,Pcはフタロシアニン骨格を意味する)。
▲2▼特開昭62−190273号、特開昭63−28690号、特開昭63−306075号、特開昭63−306076号、特開平2−131983号、特開平3−122171号、特開平3−200883号、特開平7−138511号等に記載のフタロシアニン色素[例えば、Cu−Pc−(SO3Na)m(SO2NH2)n:m+n=1〜4の混合物]
【0009】
▲3▼特開昭63−210175号、特開昭63−37176号、特開昭63−304071号、特開平5−171085号、特開平10−36741号等に記載のフタロシアニン色素〔例えば、Cu−Pc−(CO2H)m(CONR1R2)n:m+n=0〜4の混合物〕
▲4▼特開昭59−30874号、特開平1−126381号、特開平1−190770号、特開平6−16982号、特開平7−82499号、特開平8−34942号、特開平8−60053号、特開平8−113745号、特開平8−310116号、特開平10−140063号、特開平10−298463号、特開平11−29729号、特開平11−320921号、EP173476A2号、EP468649A1号、EP559309A2号、EP596383A1号、DE3411476号、US6086955号、WO 99/13009号、GB2341868A号等に記載のフタロシアニン色素[例えば、Cu−Pc−(SO3H)m(SO2NR1R2)n:m+n=0〜4の混合物、且つ、m=0]
【0010】
▲5▼特開昭60−208365号、特開昭61−2772号、特開平6−57653号、特開平8−60052号、特開平8−295819号、特開平10−130517号、特開平11−72614号、特表平11−515047号、特表平11−515048号、EP196901A2号、WO 95/29208号、WO 98/49239号、WO 98/49240号、WO 99/50363号、WO 99/67334号等に記載のフタロシアニン色素〔例えば、Cu−Pc−(SO3H)l(SO2NH2)m(SO2NR1R2)n:l+m+n=0〜4の混合物〕
【0011】
▲6▼特開昭59−22967号、特開昭61−185576号、特開平1−95093号、特開平3−195783号、EP649881A1号、WO 00/08101号、WO 00/08103号等に記載のフタロシアニン色素〔例えば、Cu−Pc−(SO2NR1R2)n:n=1〜5の混合物〕
【0012】
ところで、現在一般に広く用いられているDirect Blue 87またはDirect Blue 199に代表されるフタロシアニン色素については、一般に知られているマゼンタ色素やイエロー色素、トリフェニルメタン系シアン色素に比べ耐光性に優れるという特徴がある。
しかしながら、フタロシアニン色素は酸性条件下ではグリーン味の色相であり、シアンインクには不適当である。そのためこれらの色素をシアンインクとして用いる場合は中性からアルカリ性の条件下で使用するのが最も適している。しかしながら、インクが中性からアルカリ性でも、用いる被記録材料が酸性紙である場合印刷物の色相が大きく変化する可能性がある。
さらに、昨今環境問題として取りあげられることの多い酸化窒素ガスやオゾン等の酸化性ガスによってもグリーン味に変色及び消色し、同時に印字濃度も低下してしまう。
今後、使用分野が拡大して、広告等の展示物に広く使用されると、光や環境中の活性ガスに曝される場合が多くなるため、特に良好な色相を有し、光堅牢性および環境中の活性ガス(NOx、オゾン等の酸化性ガスの他SOxなど)堅牢性に優れた色素及びインク組成物がますます強く望まれるようになる。
【0013】
一方、インクジェット記録方式のインク(以下、後者をインクジェット記録用インクともいう)としては水系のインクが主に用いられている。水系インクは、基本的に色素、水及び有機溶剤から構成されており、臭気、人体及び周辺環境への安全性の配慮から、水を主溶媒とする。また、色素としては、一般的には酸性染料、塩基性染料、反応性染料及び直接染料等の水溶性染料が使用されている。
【0014】
このようなインクジェット記録用インク(及び色素)に関しては、以下に示す様々な要求特性が挙げられる。
すなわち、
(1)インクの粘度、表面張力、比電導度、密度、pH等の物性値が適当であること、
(2)インクの長期保存安定性が良好であること、
(3)溶解成分の溶解安定性が高く、ノズルを目詰まりさせないこと、
(4)被記録材での速乾性が良好であること、
(5)記録画像が鮮明であり、耐光性、耐水性が良好であること、
などであるが、従来のインクはこれら全ての特性を満足するには至っていない。
【0015】
通常使用されている水系インクの場合、水溶性染料を使用している。このため、特に記録画像に水が掛かった場合は染料が溶出し、記録画像が滲んだり、消失してしまうなど耐水性に大きな問題があり、現在、耐水性の向上を主眼とした様々の検討がなされている。
【0016】
例えば、顔料あるいは油溶性染料を色素として用いたインクや、水溶性染料を用いた水性インクに有機溶剤や樹脂等を添加する方法などが検討されている。しかしながら、顔料を用いたインクは分散安定性が悪く保存安定性が劣ったり、ノズルの目詰まりを引き起こす等の問題がある。また、油溶性染料を用いたインクでは有機溶剤が使用されているため、臭気など環境衛生等に問題があったり、インクの滲みが大きく画像品位の低下を招くなどの問題があった。また、添加剤を加えたインクの場合でも、保存安定性が劣っていたり、ノズルの目詰まり、あるいはインクが高粘度化しインクの飛翔が悪い等の問題点もあった。
【0017】
最近では、特開平6−340835号公報、特開平12−239584号公報、WO00/08102号公報等に、染料または顔料によって着色されたポリエステル樹脂を分散質とする水系分散体を用いたインクが記載されている。しかしながら、顔料については前記課題が未だ充分に解決されておらず、他方、染料についても、画像濃度の低下、耐水性の低下、保存安定性、ノズルの目詰まり等に直接関与する樹脂と相溶性や着色樹脂微粒子の平均粒径の制御が課題とあると記されている。
【0018】
従来、使用されているインクジェット用の水性シアン色インクには、銅フタロシアニン化合物をスルホン化したスルホ基やスルホ基の塩を置換基とする銅フタロシアニン化合物等の水溶性染料が用いられている。このような色素を用いたインクは、前記のようにインクの滲みや耐水性が不充分である。また特開2000−303014号、特開2000−313837号等が開示されているフタロシアニン色素は、いずれも色相と光及び酸化性ガス堅牢性を両立させるには至っていない。耐光性を改良したWO 00/08102号に開示のフタロシアニン色素では水溶性インクとしての保存安定性が懸念されるなど、シアンインクとして、まだ市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。
【0019】
また、油溶性染料としては、スルホ基及び/またはスルホ基とアミン化合物とのイオン対を含むスルホン酸のアンモニウム塩を有するフタロシアニン化合物が知られている。このフタロシアニン化合物は、金属フタロシアニン化合物をクロルスルホン酸でクロロスルホン化した後、取り出して得られたフタロシアニン化合物のクロロスルホン化体とアミン化合物とを反応させて製造される(例えば、細田豊著「理論製造染料化学」昭和43年7月15日5版発行、(株)技報堂発行、798〜799頁)。この製造法ではフタロシアニン化合物のクロルスルホン体とアミン化合物との反応において、スルホン酸アミド基が形成される他に、クロロスルホニル基が一部加水分解して、スルホ基として残存したり、スルホ基とアミン化合物との対イオンを形成したスルホン酸のアンモニウム塩を含むフタロシアニン化合物が得られる。
【0020】
このようにして得られたフタロシアニン化合物をインクジェット記録用色素として用いた場合、インクの溶媒に対する溶解性が低くインクの調製ができなかったり、必要な濃度のインクが作製できないなどの問題点がある。また、残存スルホ基の影響で、普通紙に印字した時に滲みが生じたり、記録画像の耐水性が悪くなったり、その他の諸特性に好ましくない影響を与えることがあった。
【0021】
このようにインク、特にインクジェット記録方式に用いられるインクの諸特性は、色素固有の特性に依存するところが大きく、前記の諸条件を満たす色素を選択することが極めて重要である。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、
(1)色再現性に優れた吸収特性を有し、且つ光,熱,湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有する新規な着色組成物を提供すること、
(2)とりわけ、上記(1)に記載の特性を有し,かつ、インクジェット記録などの印刷用のインクなどに用いられる各種着色組成物を提供すること、
(3)特に、該フタロシアニン化合物誘導体の使用により良好な色相を有し、光及び環境中の活性ガス、特にオゾンガスに対して堅牢性が高く、耐水性に優れた画像を形成することができ、且つ、インクの長期保存安定性に優れた、インクジェット記録用インクおよびインクジェット記録方法および形成画像の保存安定性の改良方法を提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、良好な色相と光、ガス(特にオゾンガス)に対し高堅牢でインクの長期保存安定性の高いフタロシアニン化合物を詳細に検討したところ、従来知られていない(1)特定の吸収特性、(2)特定の酸化電位、(3)特定の色素構造、(4)インク中での結晶析出がなく高い水溶性を有する下記一般式(I)、特に一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物を含有する着色組成物により、上記目的が達成されることを見出し、この新規な知見をもとに、本発明を完成するに至った。
【0024】
すなわち、本発明は、下記の着色組成物、インクジェット用インク、インクジェット記録方法、およびオゾンガス褪色耐性の改良方法によって達せられる。
1.下記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物を含有することを特徴とする着色組成物。
【0025】
【化3】
【0026】
一般式(I)中:
Mは、水素原子、金属元素、金属酸化物、金属水酸化物、または金属ハロゲン化物を表す。
R1、R4、R5、R8、R9、R12、R13及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルおよびアリールチオ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、ヘテロ環チオ基、アゾ基、イミド基またはホスホリル基を表す。各々の基はさらに置換基を有していてもよい。
R2、R3、R6、R7、R10、R11、R14及びR15は、それぞれ独立に、水素原子あるいは下記一般式(II)で示される基を表す。但し、R2とR3、R6とR7、R10とR11、及びR14とR15の各々につき、少なくともいずれかが一般式(II)で示される基を表し、且つ4個以上存在する一般式(II)で示される基のうち少なくとも1つは、イオン性親水性基を置換基として有する。
【0027】
【化4】
【0028】
Xは、酸素原子、硫黄原子、置換基を有する窒素原子を表す。Wは、置換可能な基を表し、その基はさらに置換基またはイオン性親水性基をもつ置換基を有していてもよい。
2.フタロシアニン化合物の水溶液の分光吸収曲線における660nmから680nmに至る吸収帯内の最大吸光度bと、600nmから640nmに至る吸収帯内の最大吸光度aとの吸光度比b/aが1未満であることを特徴とする上記1に記載の着色組成物。
3.一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物の酸化電位が、1.0V(vsSCE)よりも貴であるフタロシアニン化合物である上記1または2に記載の着色組成物。
4.一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物が、下記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物である上記1〜3のいずれかに記載の着色組成物。
【0029】
【化5】
【0030】
一般式(III)中:
Mは、一般式(I)の場合と同義である。
X1、X2、X3、およびX4は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子あるいは置換基を有する窒素原子を表す。
Y1、Y2、Y3、及びY4は、それぞれ独立に、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、またはアシル基を表す。これら各々の基は、さらに置換基を有していてもよく、且つY1、Y2、Y3、及びY4の少なくとも1つは、イオン性親水性基を置換基として有する。
l、m、n、pは、それぞれ独立に、0から2までの整数を表す(ただし、l+m+n+pは、1以上8以下の整数である)。
【0031】
5.上記1〜4のいずれかに記載の着色組成物を含有することを特徴とする用インク。
6.支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有する受像材料上に、上記5に記載のインクジェット用インクを用いて画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
7.上記6に記載のインクジェット記録方法を用いて画像を形成することを特徴とする画像記録物のオゾンガス褪色耐性の改良方法。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下に本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明における着色組成物は、染料や顔料などの色材を含有する組成物を意味し特に画像形成に好適に使用できる。
【0033】
[フタロシアニン化合物]
本発明に用いるフタロシアニン化合物は、上記一般式(I)で表される水溶性フタロシアニン化合物である。そして該フタロシアニン化合物は、水溶液の分光吸収曲線における660nmから680nmに至る吸収帯内の最大吸光度bと、600nmから640nmに至る吸収帯内の最大吸光度aとの吸光度比b/aが1未満であることが好ましい。
本明細書においては、吸光度比は下記の条件のもとで得られる吸光度比を指している。すなわち、JIS Z8120−86の定義に準拠する分光光度計によって、測定温度を15〜30℃の範囲から選択し、測定セル長10mmとし、本発明のフタロシアニン化合物を2.5mg〜3.5mgの範囲でメスフラスコに秤量した後に、蒸留水を加え溶解させながら100mlになるまで蒸留水を添加して得られた溶液で分光吸収曲線を求め、求めた分光吸収曲線の660nmから680nmに至る吸収帯内の最大吸光度bと、600nm〜640nmに至る吸収帯内の最大吸光度aとの比b/aをもって吸光度比とする。
【0034】
なお、水溶液の調製や希釈に用いる上記の蒸留水としては、pHが5〜8内にある蒸留水を用いるものとする。
【0035】
この吸光度比b/aの値が1未満の水溶性フタロシアニン化合物であると、着色剤としての形成画像の堅牢性(特に、光堅牢性及びオゾンガス堅牢性)がより良好な特性を有する。吸光度比b/aの値が0.8未満であることがより好ましく、0.6以下であることが特に好ましい。
【0036】
また、本発明で用いられる一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物は、酸化電位が1.0V(vs SCE)よりも貴である水溶性フタロシアニン化合物であることが好ましい。酸化電位は貴であるほど好ましく、酸化電位が1.1V(vs SCE)よりも貴であるものがより好ましく、1.2V(vs SCE)より貴であるものが最も好ましい。
【0037】
発明者らは、オゾンガスによる色素の褪色に関し調査を行ったところ、色素のオゾンによる酸化反応によって褪色が進行し、また着色画像に用いる化合物の酸化電位とオゾンガス堅牢性との間に相関があることが分かった。このことから、色素のオゾンガス堅牢性を改良するには、酸化電位の値を上げることが望ましく、色素同様にフタロシアニン化合物についてもオゾン堅牢性を改良できることが期待でき、酸化電位の値としては飽和カロメル電極(SCE)に対して1.0Vよりも貴であるフタロシアニン化合物を用いることにより、オゾンガス堅牢性が改良されることが予想できる。
【0038】
上記酸化反応の褪色機構は、色素とオゾンガスのHOMO(最高被占軌道)およびLUMO(最低空軌道)の関係によって説明できる。すなわち酸化は色素のHOMOとオゾンガスのLUMOとの反応であり、オゾンガス堅牢性を向上させるには、色素のHOMOを下げてオゾンガスとの反応性を低下させればよい。
【0039】
酸化電位の値は、試料から電極への電子の移りやすさを表し、その値が大きい(酸化電位が貴である)ほど試料から電極への電子の移りにくい、言い換えれば、酸化されにくいことを表す。化合物の構造との関連では、電子求引性基を導入することにより酸化電位はより貴となり、電子供与性基を導入することにより酸化電位はより卑となる。
【0040】
酸化電位の測定方法は以下に詳述するが、酸化電位は、化合物がボルタンメトリーにおける陽極で、系内に存在する化合物の半分から電子が引き抜かれたときの電位を意味し、その化合物の基底状態におけるHOMOのエネルギーレベルと近似的に一致すると考えられている。
【0041】
酸化電位の値(Eox)は当業者が容易に測定することができる。この方法に関しては、例えばP. Delahay著“New Instrumental Methods in Electrochemistry”(1954年 Interscience Publishers)やA. J. Bard他著“Electrochemical Methods”(1980年 John Wiley & Sons)、藤嶋昭他著“電気化学測定法”(1984年 技報堂出版社)に記載されている。
【0042】
酸化電位の測定について具体的に説明する。酸化電位は、過塩素酸ナトリウムや過塩素酸テトラプロピルアンモニウムといった支持電解質を含むジメチルホルムアミドやアセトニトリルのような溶媒中に、被験試料を1×10-4〜1×10-6mol・dm-3の濃度に溶解して、サイクリックボルタンメトリーや直流ポーラログラフィーを用いてSCE(飽和カロメル電極)に対する値として測定する。
また、用いる支持電解質や溶媒は、被験試料の酸化電位や溶解性により適当なものを選ぶことができる。用いることができる支持電解質や溶媒については藤嶋昭他著“電気化学測定法”(1984年 技報堂出版社刊)101〜118ページに記載がある。
【0043】
酸化電位の値は、液間電位差や試料溶液の液抵抗などの影響で、数10ミルボルト程度偏位することがあるが、標準試料(例えばハイドロキノン)を用いて校正することにより、測定された電位の値の再現性を保証することができる。
【0044】
本発明における酸化電位は、0.1mol・dm-3の過塩素酸テトラプロピルアンモニウムを支持電解質として含むN,N−ジメチルホルムアミド中(化合物の濃度は1×10-3mol・dm-3)で、参照電極としてSCE(飽和カロメル電極)、作用極としてグラファイト電極、対極として白金電極を使用し、直流ポーラログラフィーにより測定した値を使用する。
【0045】
また、化合物の構造によっても酸化電位は異なるため、求電子剤であるオゾンとの反応性を下げるためには、元々酸化電位が貴である色素構造を選択したほうが、オゾンガス堅牢性の観点だけでなく、その他の堅牢性、色相、物性などを調節するために電子求引性基または電子供与性基を任意に導入することができるため、分子設計の観点からもより好ましいと言える。
【0046】
例えば、求電子剤であるオゾンとの反応性を下げるために、着色化合物の発色団近傍に電子求引性基を導入し、好ましくは着色化合物の発色団に直接導入して酸化電位をより貴とすることが好ましい。従って、置換基の電子求引性や電子供与性の尺度であるハメットの置換基定数σp値を用いれば、σp値が大きい置換基を導入することにより酸化電位をより貴とすることができる。
【0047】
ハメットの置換基定数σp値について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L. P. Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば、J. A. Dean編“Lange's Handbook of Chemistry”第12版(1979年 McGraw-Hill)や「化学の領域」増刊、122号、96〜103頁(1979年 南光堂)に詳しい。
【0048】
つぎに本発明の着色組成物に用いられる下記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物について詳細に説明する。本発明の着色組成物は、着色剤として下記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物を含有する。
【0049】
【化6】
【0050】
上記一般式(I)において、R1、R4、R5、R8、R9、R12、R13、及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルおよびアリールチオ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、、ヘテロ環チオ基、アゾ基、イミド基またはホスホリル基を表す。各々の基は、さらに置換基を有していてもよい。
【0051】
なかでも、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、ヘテロ環基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基およびアルコキシカルボニル基が好ましく、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0052】
R2、R3、R6、R7、R10、R11、R14及びR15は、それぞれ独立に、水素原子あるいは一般式(II)で示される基を表す。但し、R2とR3、R6とR7、R10とR11、及びR14とR15の各々につき、少なくともいずれか一方が、下記一般式(II)で示される基を表す。そしてこれら4個以上存在する一般式(II)で示される基の少なくとも1つは、イオン性親水性基を置換基として有する。
【0053】
【化7】
【0054】
一般式(II)中、Xは酸素原子、硫黄原子、置換基を有する窒素原子を表し、好ましくは酸素原子、硫黄原子を表し、特に好ましいのは、酸素原子である。
Wは、置換可能な基を示し、その基はさらに置換基またはイオン性親水性基をもつ置換基を有してもよい。好ましくは脂肪族基、芳香族基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、またはアシル基を表す。これらの基はさらに置換基またはイオン性親水性基を持つ置換基を有してもよい。特に好ましくは、置換もしくは無置換の脂肪族基、置換もしくは無置換の芳香族基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールチオ基である。
【0055】
置換基としてのイオン性親水性基には、スルホ基(−SO3 -X+)、カルボキシル基(−CO2 -X+)、および4級アンモニウム基(-N+RR'R''X-)、アシルスルファモイル基(−SO2N-X+COR)、スルホニルカルバモイル基(−CON-X+SO2−R)、スルホニルスルファモイル基(−SO2N-X+SO2−R)等が含まれる。好ましくは、スルホ基、カルボキシル基および4級アンモニウム基であり、特にスルホ基が好ましい。スルホ基、カルボキシル基、アシルスルファモイル基、スルホニルカルバモイル基およびスルホニルスルファモイル基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アルカリ金属イオン(例、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン)、有機カチオン(例、テトラメチルグアニジウムイオン)、有機およびまたは無機アニオン(例、ハロゲンイオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン)が含まれる。なお、上記カッコ内のXは、水素原子または対イオン、R、R'、R''は置換基を表す。
【0056】
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、及びR16が、更に有することが可能な置換基としては、下記の置換基を挙げることができる。
【0057】
ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子);炭素数1〜12の直鎖状または分岐鎖状アルキル基、炭素数7〜18のアラルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキニル基、炭素数3〜12の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数3〜12の側鎖を有していてもよいシクロアルケニル基(例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、t−ブチル、2−メタンスルホニルエチル、3−フェノキシプロピル、トリフルオロメチル、シクロペンチル);アリール基(例えば、フェニル、4−t−ブチルフェニル、2,4−ジ−t−アミルフェニル);ヘテロ環基(例えば、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル);アルキルオキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メタンスルホニルエトキシ);アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、3−t−ブチルオキシカルバモイルフェノキシ);アシルアミノ基(例えば、アセトアミド、ベンズアミド、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド);アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルブチルアミノ);アニリノ基(例えば、フェニルアミノ、2−クロロアニリノ);ウレイド基(例えば、フェニルウレイド、メチルウレイド、N,N−ジブチルウレイド);スルファモイルアミノ基(例えば、N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ);アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、オクチルチオ、2−フェノキシエチルチオ);アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、2−ブトキシ−5−t−オクチルフェニルチオ、2−カルボキシフェニルチオ);アルキルオキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ);スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド);カルバモイル基(例えば、N−エチルカルバモイル、N,N−ジブチルカルバモイル);スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N,N−ジプロピルスルファモイル、N,N−ジエチルスルファモイル);スルホニル基(例えば、メタンスルホニル、オクタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、トルエンスルホニル);アルキルオキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル);ヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ);アゾ基(例えば、フェニルアゾ、4−メトキシフェニルアゾ、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ);アシルオキシ基(例えば、アセトキシ);カルバモイルオキシ基(例えば、N−メチルカルバモイルオキシ、N−フェニルカルバモイルオキシ);シリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、ジブチルメチルシリルオキシ);アリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ);イミド基(例えば、N−スクシンイミド、N−フタルイミド);ヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、2,4−ジ−フェノキシ−1,3,5−トリアゾール−6−チオ、2−ピリジルチオ);スルフィニル基(例えば、3−フェノキシプロピルスルフィニル);ホスホリル基(例えば、フェノキシホスホリル、オクチルオキシホスホリル、フェニルホスホリル);アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル);アシル基(例えば、アセチル、3−フェニルプロパノイル、ベンゾイル);イオン性親水性基(例えば、カルボキシル基、スルホ基、および4級アンモニウム基);その他シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。
【0058】
以下、R1、R4、R5、R8、R9、R12、R13、R16で表される置換基について詳しく説明する。
本明細書において、脂肪族基は、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、アラルキル基および置換アラルキル基を意味する。脂肪族基は、分岐を有していても良く、また環を形成していても良い。脂肪族基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜16であることが更に好ましい。アラルキル基および置換アラルキル基のアリール部分はフェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルが特に好ましい。脂肪族基の例には、メチル、エチル、ブチル、イソプロピル、t−ブチル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、シアノエチル、トリフルオロメチル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル、シクロヘキシル基、ベンジル基、2−フェネチル基、ビニル基、およびアリル基を挙げることができる。
【0059】
本明細書において、芳香族基は、置換基を有する芳香族基および無置換の芳香族基を意味する。芳香族基は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルが特に好ましい。芳香族基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜16が更に好ましい。
芳香族基の例には、フェニル、p−トリル、p−メトキシフェニル、o−クロロフェニルおよびm−(3−スルホプロピルアミノ)フェニル、2,6−ジエチルフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、2,6−ジメチル−4−スルホフェニル基、2,4−ジスルホフェニルが含まれる。R4,R5,R6,R7の導入位の窒素原子の置換基が水素原子である場合、その窒素原子に導入する芳香族基の例には、アニリンのオルト位に置換基を有するものが好ましい。例えば、 o−クロロフェニルおよびm−(3−スルホプロピルアミノ)フェニル、o−シアノフェニル、2,6−ジエチルフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、2,6−ジメチル−4−スルホフェニル基、2,4−ジスルホフェニルが含まれる。
【0060】
複素環基には、置換基を有する複素環基および無置換の複素環基が含まれる。複素環に脂肪族環、芳香族環または他の複素環が縮合していても良い。複素環基としては、5員または6員環の複素環基が好ましい。置換基の例には、脂肪族基、ハロゲン原子、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アシルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、イオン性親水性基などが含まれる。複素環基の例には、2−ピリジル基、2−チエニル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−ベンゾオキサゾリル基および2−フリル基が含まれる。 R4,R5,R6,R7の導入位の窒素原子の置換基が水素原子である場合、その窒素原子に導入する複素環基の例には、2−ピリジル基、2−チエニル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−ベンゾオキサゾリル基、2−イミダゾリル基、2−インドレニル基、2−トリアジニル基、2−オキサゾリル基、2−キノリニル基、2−キノキサニル基、3−インダゾリル基等が含まれる。
【0061】
カルバモイル基には、置換基を有するカルバモイル基および無置換のカルバモイル基が含まれる。置換基の例には、アルキル基が含まれる。カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジメチルカルバモイル基が含まれる。
【0062】
アルコキシカルボニル基には、置換基を有するアルコキシカルボニル基および無置換のアルコキシカルボニル基が含まれる。アルコキシカルボニル基としては、炭素原子数が2〜12のアルコキシカルボニル基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。
【0063】
アリールオキシカルボニル基には、置換基を有するアリールオキシカルボニル基および無置換のアリールオキシカルボニル基が含まれる。アリールオキシカルボニル基としては、炭素原子数が7〜12のアリールオキシカルボニル基が好ましい。置換基には、イオン性親水性基が含まれる。アリールオキシカルボニル基の例には、フェノキシカルボニル基が含まれる。
【0064】
アシル基には、置換基を有するアシル基および無置換のアシル基が含まれる。アシル基としては、炭素原子数が1〜12のアシル基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アシル基の例には、アセチル基およびベンゾイル基が含まれる。
【0065】
アルコキシ基には、置換基を有するアルコキシ基および無置換のアルコキシ基が含まれる。アルコキシ基としては、炭素原子数が1〜12のアルコキシ基が好ましい。置換基の例には、アルコキシ基、ヒドロキシル基、およびイオン性親水性基が含まれる。アルコキシ基の例には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、メトキシエトキシ基、ヒドロキシエトキシ基および3−カルボキシプロポキシ基が含まれる。
【0066】
アリールオキシ基には、置換基を有するアリールオキシ基および無置換のアリールオキシ基が含まれる。アリールオキシ基としては、炭素原子数が6〜12のアリールオキシ基が好ましい。置換基の例には、アルコキシ基、およびイオン性親水性基が含まれる。アリールオキシ基の例には、フェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基およびo−メトキシフェノキシ基が含まれる。
【0067】
アシルオキシ基には、置換基を有するアシルオキシ基および無置換のアシルオキシ基が含まれる。アシルオキシ基としては、炭素原子数1〜12のアシルオキシ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アシルオキシ基の例には、アセトキシ基およびベンゾイルオキシ基が含まれる。
【0068】
カルバモイルオキシ基には、置換基を有するカルバモイルオキシ基および無置換のカルバモイルオキシ基が含まれる。置換基の例には、アルキル基が含まれる。カルバモイルオキシ基の例には、N−メチルカルバモイルオキシ基が含まれる。
【0069】
アミノ基は、アルキル基または芳香族基または複素環基で置換されていてもよく、その置換基は、さらに置換基を有していても良い。アルキルアミノ基としては、炭素原子数1〜6のアルキルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アルキルアミノ基の例には、メチルアミノ基およびジエチルアミノ基が含まれる。アリールアミノ基には、置換基を有するアリールアミノ基および無置換のアリールアミノ基が含まれる。アリールアミノ基としては、炭素原子数が6〜12のアリールアミノ基が好ましい。置換基の例としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、およびイオン性親水性基が含まれる。アリールアミノ基の例としては、アニリノ基および2−クロロアニリノ基が含まれる。
【0070】
アシルアミノ基には、置換基を有するアシルアミノ基が含まれる。アシルアミノ基としては、炭素原子数が2〜12のアシルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アシルアミノ基の例には、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、N−フェニルアセチルアミノおよび3,5−ジスルホベンゾイルアミノ基が含まれる。
【0071】
ウレイド基には、置換基を有するウレイド基および無置換のウレイド基が含まれる。ウレイド基としては、炭素原子数が1〜12のウレイド基が好ましい。置換基の例には、アルキル基および芳香族基が含まれる。ウレイド基の例には、3−メチルウレイド基、3,3−ジメチルウレイド基および3−フェニルウレイド基が含まれる。
【0072】
スルファモイルアミノ基には、置換基を有するスルファモイルアミノ基および無置換のスルファモイルアミノ基が含まれる。置換基の例には、アルキル基が含まれる。スルファモイルアミノ基の例には、N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ基が含まれる。
【0073】
アルコキシカルボニルアミノ基には、置換基を有するアルコキシカルボニルアミノ基および無置換のアルコキシカルボニルアミノ基が含まれる。アルコキシカルボニルアミノ基としては、炭素原子数が2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、エトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0074】
アリールオキシカルボニルアミノ基には、置換基を有するアリールオキシカルボニルアミノ基および無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基が含まれる。アリールオキシカルボニルアミノ基としては、炭素原子数が7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。前記アリールオキシカルボニルアミノ基の例には、フェノキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0075】
アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基には、置換基を有するアルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、および無置換のアルキルおよびアリールスルホニルアミノ基が含まれる。スルホニルアミノ基としては炭素原子数が1〜12のスルホニルアミノ基が好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。スルホニルアミノ基の例には、メタンスルホニルアミノ基、N−フェニルメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基、および3−カルボキシベンゼンスルホニルアミノ基が含まれる。
【0076】
アルキル、アリールおよび複素環チオ基には、置換基を有するアルキル、アリールおよび複素環チオ基と無置換のアルキル、アリールおよび複素環チオ基が含まれる。アルキル、アリールおよび複素環チオ基としては、炭素原子数が1〜12のものが好ましい。置換基の例には、イオン性親水性基が含まれる。アルキル、アリールおよび複素環チオ基の例には、メチルチオ基、2−ピリジルチオ基が含まれる。
【0077】
アルキルおよびアリールスルフィニル基の例としては、それぞれメタンスルホニル基およびフェニルスルフィニル基を挙げることができる。
アルキルおよびアリールスルフィニル基の例としては、それぞれメタンスルフィニル基およびフェニルスルフィニル基を挙げることができる。
【0078】
スルファモイル基には、置換基を有するスルファモイル基および無置換のスルファモイル基が含まれる。置換基の例には、アルキル基が含まれる。スルファモイル基の例には、ジメチルスルファモイル基およびジー(2−ヒドロキシエチル)スルファモイル基が含まれる。
【0079】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が挙げられる。
【0080】
アゾ基には、置換基を有するアゾ基および無置換のアゾ基が含まれる。アゾ基の例には、p−ニトロフェニルアゾ基が含まれる。
【0081】
シリルオキシ基には、置換基を有するシリルオキシ基および無置換のシリルオキシ基が含まれる。置換基の例には、アルキル基が含まれる。シリルオキシ基の例には、トリメチルシリルオキシ基が含まれる。
【0082】
イミド基には、置換基を有するイミド基および無置換のイミド基が含まれる。イミド基の例には、N−フタルイミド基およびN−スクシンイミド基が含まれる。
【0083】
ホスホリル基には、置換基を有するホスホリル基および無置換のホスホリル基が含まれる。ホスホリル基の例には、フェノキシホスホリル基およびフェニルホスホリル基が含まれる。
【0084】
スルホニル基には、置換基を有するスルホニル基および無置換のスルホニル基が含まれる。置換基の例には、アルキル基、アリ−ル基が含まれる。スルホニル基の例には、メタンスルホニル基およびフェニルスルホニル基が含まれる。
【0085】
スルフィニル基には、置換基を有するスルフィニル基および無置換のスルフィニル基が含まれる。置換基の例には、アルキル基、アリ−ル基が含まれる。スルフィニル基の例には、フェニルスルフィニル基が含まれる。
【0086】
Mは、水素原子、金属元素、金属酸化物、金属水酸化物、または金属ハロゲン化物を表す。
Mとして好ましいものは、水素原子の他に、金属元素として、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi等が挙げられる。酸化物としては、VO、GeO等が好ましく挙げられる。 また、水酸化物としては、Si(OH)2、Cr(OH)2、Sn(OH)2等が好ましく挙げられる。さらに、ハロゲン化物としては、AlCl、SiCl2、VCl、VCl2、VOCl、FeCl、GaCl、ZrCl等が挙げられる。なかでも特に、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0087】
また、一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物は、L(2価の連結基)を介してPc(フタロシアニン環)が2量体(例えば、Pc−M−L-M−Pc)または3量体を形成してもよく、そのとき複数個存在するMは、それぞれ同一であっても異なるものであってもよい。
【0088】
Lで表される2価の連結基は、オキシ基−O−、チオ基−S−、カルボニル基−CO−、スルホニル基−SO2−、イミノ基−NH−、メチレン基−CH2−、及びこれらを組み合わせて形成される基が好ましい。
【0089】
一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物の分子量は、680〜3500の範囲であるものが好ましい。中でも900〜3000の範囲の分子量のものがより好ましく、その中でも900〜2500の範囲の分子量のものが特に好ましい。
【0090】
前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物として特に好ましい組み合わせは、以下の通りである。
【0091】
(イ)R1、R4、R5、R8、R9、R12、R13、及びR16に関しては、これらが、それぞれ独立に、水素原子またはハロゲン原子、シアノ基であり、特に水素原子またはハロゲン原子であり、その中でも水素原子であるのが最も好ましい。
(ロ)R2、R3、R6、R7、R10、R11、R14及びR15に関しては、これらが、それぞれ独立に、水素原子または一般式(II)で示される基であることが好ましく、特に、R2及びR3、R6及びはR7、R10及びR11、R14及びR15の各組み合わせにおいて、少なくともいずれか一方が一般式(II)で示される基であることが好ましく、その中でも、一般式(II)で示される基の置換基にイオン性親水性基含むものが最も好ましい。
(ハ)一般式(II)中のWとしてより好ましいのは、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、またはアシル基である。これらの基はさらに置換基またはイオン性親水性基を持つ置換基を有してもよい。特に好ましくは、置換もしくは無置換の脂肪族基、置換もしくは無置換の芳香族基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールチオ基である。
(ニ)Mは、Cu、Ni、ZnまたはAlであることが好ましく、なかでもCuであることが最も好ましい。
(ホ)一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物一分子中、イオン性親水性基を少なくとも1個以上有することが好ましく、特に、イオン性親水性基がスルホ基および4級アンモニウムであるのが好ましい、その中でもスルホ基を少なくとも1個以上有することが最も好ましい。
(へ)一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物の分子量は、680〜3500の範囲であるものが好ましい。中でも900〜3000の範囲の分子量のものが好ましく、その中でも、900〜2500の範囲の分子量のものが特に好ましい。
【0092】
一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物の中でも、上記一般式(III)で表される構造のフタロシアニン化合物がさらに好ましい。以下に、本発明の一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物について詳しく述べる。
【0093】
【化8】
【0094】
一般式(III)中、X1、X2、X3、およびX4は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子あるいは置換基を有するアミノ基を表し、好ましくは、それぞれ独立に、酸素原子あるいは硫黄原子を表す。X1、X2、X3、およびX4の全てが酸素原子である場合がさらに好ましい。
【0095】
Y1、Y2、Y3、及びY4は、それぞれ独立に、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、またはアシル基を表し、各々はさらに置換基を有していてもよく、且つ、Y1、Y2、Y3、及びY4の少なくとも1つは、イオン性親水性基を置換基として有する。
中でも、置換もしくは無置換の脂肪族基、置換もしくは無置換の芳香族基、置換もしくは無置換のヘテロ環基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基が好ましく、その中でも、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基が特に好ましい。
【0096】
Y1、Y2、Y3、及びY4が表す基は上記で示したR1、R4、R5、R8、R9、R12、R13、R16の場合と同じで、好ましい具体例も同じである。
【0097】
l、m、n、pは、それぞれ独立に好ましくは0<l+m+n+p≦8を満たす0〜2の整数で、より好ましくは4≦l+m+n+p≦6を満たす1または2の整数であり最も好ましくは各々が1(l=m=n=p=1)である。
【0098】
一般式(III)においてMは、上記一般式(I)中のMと各々同義であり、好ましい例も同様である。
一般式(III)で説明した各基は更に置換基を有していても良い。これらの各基が更に置換基を有する場合、該置換基としては、一般式(I)で説明した置換基、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16で例示した基やイオン性親水性基が挙げられる。
【0099】
一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物として特に好ましい化合物は、下記(イ)〜(ホ)の組み合わせを有する化合物である。
(イ)X1、X2、X3、X4は、それぞれ独立に酸素原子、硫黄原子あるいは置換基を有するアミノ基であり、特に好ましいのは酸素原子あるいは硫黄原子であり、その中でも特に好ましいのが酸素原子である。
(ロ)Y1、Y2、Y3、Y4は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の脂肪族基、置換もしくは無置換の芳香族基、置換もしくは無置換のヘテロ環基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基が好ましく、その中でも、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基が特に好ましい。しかもY1、Y2、Y3、及びY4の少なくとも1つは、イオン性親水性基を置換基として有する。
該イオン性親水性基には、スルホ基(−SO3 -X+)、カルボキシル基(−CO2 -X+)、および4級アンモニウム基(-N+RR’R’’X-)、アシルスルファモイル基(−SO2N-X+COR)、スルホニルカルバモイル基(−CON-X+SO2−R)、スルホニルスルファモイル基(−SO2N-X+SO2−R)等が含まれる。好ましくは、スルホ基、カルボキシル基および4級アンモニウム基であり、特にスルホ基が好ましい。
スルホ基、カルボキシル基、アシルスルファモイル基、スルホニルカルバモイル基およびスルホニルスルファモイル基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)、有機カチオン(例、テトラメチルグアニジウムイオン)、有機およびまたは無機アニオン(例、ハロゲンイオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン)が含まれる。なお、上記カッコ内のXは、水素原子または対イオン、R、R’、R’’は置換基を表す。
(ハ) l、m、n、pは、それぞれ独立に、好ましくは0<l+m+n+p≦8を、より好ましくは4≦l+m+n+p≦6を満たす1または2の整数であり、各々が1(l=m=n=p=1)であることが最も好ましい。
(ニ)Mは、Cu、Ni、ZnまたはAlであることが好ましく、中でもCuであることが最も好ましい。
【0100】
尚、前記一般式(III)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0101】
上記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物の分子量は680〜3500の範囲が好ましく、更に900〜3000の範囲の分子量が好ましく、その中でも900〜2500の範囲の分子量が好ましく、特に900〜2000の範囲の分子量が最も好ましい。
【0102】
上記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物一分子中、イオン性親水性基を少なくとも1個以上有するものが好ましく、特に、イオン性親水性基がスルホ基であるのが好ましい、その中でもスルホ基を少なくとも2個以上有するものが最も好ましい。
【0103】
一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物は、分子内に少なくとも2つのイオン性親水性基を有していると、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好となる。
【0104】
なお、一般式(III)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記の好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記の好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0105】
一般に、インクジェット記録用インク組成物として種々のフタロシアニン誘導体を使用することが知られている。下記一般式(IV)で表されるフタロシアニン誘導体は、その合成時において不可避的に置換基Rn(n=1〜16)の置換位置(R1:1位〜R16:16位とここで定義する)異性体を含む場合があるが、これら置換位置異性体は互いに区別することなく同一誘導体として見なしている場合が多い。また、Rの置換基に異性体が含まれる場合も、これらを区別することなく、同一のフタロシアニン誘導体として見なしている場合が多い。
【0106】
【化9】
【0107】
本明細書中で定義するフタロシアニン化合物において構造が異なる場合とは、一般式(8)で説明すると、置換基Rn(n=1〜16)の構成原子種が異なる場合、置換基Rnの数が異なる場合または置換基Rnの位置が異なる場合の何れかである。
【0108】
本発明において、上記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物の構造が異なる(特に、置換位置)誘導体を以下の三種類に分類して定義する。
【0109】
(1)β−位置換型:(2及びまたは3位、6及びまたは7位、10及びまたは11位、14及びまたは15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)(2)α−位置換型:(1及びまたは4位、5及びまたは8位、9及びまたは12位、13及びまたは16位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)
(3)α,β−位混合置換型:(1〜16位に規則性なく、特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)
【0110】
本明細書中において、構造が異なる(特に、置換位置)フタロシアニン化合物の誘導体を説明する場合、上記(1)β−位置換型、(2)α−位置換型、(3)α,β−位混合置換型を使用する。
【0111】
本発明に用いられるフタロシアニン誘導体は、例えば白井−小林共著、(株)アイピーシー発行「フタロシアニン−化学と機能−」(P.1〜62)、C.C.Leznoff−A.B.P.Lever共著、VCH発行‘Phthalocyanines−Properties and Applications’(P.1〜54)等に記載、引用もしくはこれらに類似の方法を組み合わせて合成することができる。
【0112】
本発明の一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物は、例えば下記一般式(V)で表されるフタロニトリル誘導体及び/または下記一般式(VI)で表される無水フタル酸誘導体と下記一般式(VII)で表される金属誘導体を反応させることにより合成される。なお、一般式(V)式及び/または一般式(VI)中、tは一般式(III)中のl、m、n、pと同義である。
【0113】
【化10】
【0114】
一般式(VII):M−(Y)d
一般式(VII)中、Mは上記一般式(I)、(III)のMと同一であり、Yはハロゲン原子、酢酸陰イオン、アセチルアセトネート、酸素などの1価又は2価の配位子を示し、dは1〜4の整数である。
一般式(VII)で示される金属誘導体としては、Al、Si、Ti、V、Mn,Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Pt、Pbのハロゲン化物、カルボン酸誘導体、硫酸塩、硝酸塩、カルボニル化合物、酸化物、錯体等が挙げられる。具体例としては、塩化銅、臭化銅、沃化銅、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、塩化コバルト、臭化コバルト、酢酸コバルト、塩化鉄、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アルミニウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、アセチルアセトンマンガン、塩化マンガン、塩化鉛、酢酸鉛、塩化インジウム、塩化チタン、塩化スズ等が挙げられる。
【0115】
金属誘導体と一般式(V)で示されるフタロニトリル化合物の使用量は、モル比で1:3〜1:6が好ましい。
また、金属誘導体と一般式(VI)で示される無水フタル酸誘導体の使用量は、モル比で1:3〜1:6が好ましい。
【0116】
反応は、通常、溶媒の存在下に行われる。溶媒としては、沸点80℃以上、好ましくは130℃以上の有機溶媒が用いられる。例えばn−アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン、スルフォラン、ニトロベンゼン、キノリン、尿素等がある。溶媒の使用量はフタロニトリル化合物の1〜100質量倍、好ましくは5〜20質量倍である。
【0117】
反応において、触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)或いはモリブデン酸アンモニウムを添加しても良い。添加量はフタロニトリル化合物及び/又はジイミノイソインドリン誘導体1モルに対して、0.01〜10倍モル、好ましくは0.01〜2倍モルである。
【0118】
反応温度は、80〜300℃、好ましくは100〜250℃の反応温度の範囲にて行なうのが好ましく、130〜230℃の反応温度の範囲にて行なうのが特に好ましい。80℃未満では反応速度が極端に遅い。300℃を越えるとフタロシアニン化合物の分解が起こる可能性がある。
【0119】
反応時間は2〜20時間、好ましくは5〜15時間の反応時間の範囲にて行なうのが好ましく、5〜10時間の反応時間の範囲にて行なうのが特に好ましい。2時間未満では未反応原料が多く存在し、20時間を越えるとフタロシアニン化合物の分解が起こる可能性がある。
【0120】
これらの反応によって得られる生成物は通常の有機合成反応の後処理方法に従って処理した後、精製してあるいは精製せずに製品として用いられる。
即ち、例えば、反応系から遊離したものを精製せずに、あるいは再結晶やカラムクロマトグラフィー(例えば、ゲルパーメーションクロマトグラフィ(SEPHADEXTMLH−20:Pharmacia製)等にて精製する操作を単独、あるいは組み合わせて行ない、製品として提供することができる。
また、反応終了後、反応溶媒を留去して、あるいは留去せずに水、または氷に投入し、中和してあるいは中和せずに遊離したものを精製せずに、あるいは再結晶、カラムクロマトグラフィー等にて精製する操作を単独に、あるいは組み合わせて行なった後、製品として提供することができる。
また、反応終了後、反応溶媒を留去して、あるいは留去せずに水、または氷に投入し、中和してあるいは中和せずに、有機溶媒/水溶液にて抽出したものを精製せずに、あるいは晶析、カラムクロマトグラフィーにて精製する操作を単独あるいは組み合わせて行なった後、製品として提供することができる。
【0121】
かくして得られる、前記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物(例えば:l=m=n=p=1の場合)は、通常、R1(C(=X1)−Y1)、R2(C(=X2)−Y2)、R3(C(=X3)−Y3)、R4(C(=X4)−Y4)、の各置換基の導入位置(導入位置はβ位であることは共通)における異性体である下記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物の混合物となっている。
【0122】
【化11】
【0123】
すなわち、上記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物は、β-位置換型(2及びまたは3位、6及びまたは7位、10及びまたは11位、14及びまたは15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)であり、α位置換型及びα,β−位混合置換型とは全く構造の異なる(特定の置換基の導入位置が異なる)化合物であり、本発明の目的を達成する手段として極めて重要な構造上の特徴である。
【0124】
以下に、本発明のフタロシアニン化合物の構造と性能の相関について、
(1)画像形成用着色組成物に用いられる色素に対する要求特性、と
(2)画像形成用着色組成物(インク)に対する要求特性、
とに分けて説明する。
【0125】
(1)画像形成用着色組成物に用いられる色素(本発明のフタロシアニン化合物)に対する要求特性:
【0126】
<1>本発明では、例えば一般式(I)中のR2、R3、R6、R7、R10、R11、R14及びR15で表される、特定の置換基が堅牢性の向上に非常に非常に重要である。
【0127】
酸化電位(Eox)の値は試料から電極への電子の移りやすさを表し、その値が大きい(酸化電位が貴である)ほど試料から電極への電子の移りにくい、言い換えれば、酸化されにくいことを表す。
【0128】
フタロシアニン化合物の構造との関連では、電子求引性基を導入することにより酸化電位はより貴となり、電子供与性基を導入することにより酸化電位はより卑となる。
【0129】
本発明では、例えば求電子剤であるオゾンとの反応性を下げるために、フタロシアニン骨格に電子求引性基を導入して酸化電位をより貴とすることが望ましい。
【0130】
従って、電子求引性としての上記特定の置換基R2、R3、R6、R7、R10、R11、R14及びR15を、特定の位置(β−位置換型)に特定の数{例えば、一般式(V)で表されるフタロシアニン母核で説明すると、(2位及びまたは3位)、(6位及びまたは7位)、(10位及びまたは11位)、(14位及びまたは15位)の各組に少なくとも上記の特定の置換基を1個以上含有する}、フタロシアニン母核に選択的に導入した化合物が、対応するフタロシアニン化合物の酸化電位をより貴とすることができると言える。
【0131】
すなわち、本発明の目的の一つである形成画像の保存性改良(耐光性・耐オゾンガス性等)を達成する手段として極めて重要な構造上の特徴(フタロシアニン化合物の酸化電位を支配する)である。
【0132】
<2>本発明の一般式(I)および一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物は、上記β−位置換型(2及びまたは3位、6及びまたは7位、10及びまたは11位、14及びまたは15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)にあたる。
本発明は、上記β-位置換型(2及びまたは3位、6及びまたは7位、10及びまたは11位、14及びまたは15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)に由来する、水溶性フタロシアニン化合物の会合体を有効利用している。
フタロシアニン化合物の会合体とは、2分子以上のフタロシアニン分子が会合体を形成したものをいう。
【0133】
本発明者は、上記フタロシアニン化合物の会合体を利用することにより、単分子分分散状態におけるよりも光や熱及び酸化性ガス(特にオゾンガス)に対する安定性が著しく向上することを見いだした。
【0134】
<3>更に、会合体を形成することで形成画像のスペクトル特性(シアン色相:画像形成材料用シアン染料として優れた吸収特性)が著しく良化し、且つ、各種被記録材差(例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等)に起因する紙依存性が極めて小さい{色相(色再現性)良好・耐水性向上;例えば、強固な会合体により、存在状態または媒染状態の差が小さいことに起因する}ことも見いだした。
【0135】
尚、染料が会合しているか否かは、例えば Wright,J.D.著(江口太郎訳)「分子結晶」(化学同人) で説明されているように、吸収スペクトルにおける吸収極大(λmax)のシフトから容易に判断することができ、一般的には、長波側にシフトするJ会合体、短波側にシフトするH会合体の2つに分類される。本発明においては、水溶性フタロシアニン会合体は吸収極大が短波側にシフトすることで会合体を形成し、この会合体を利用している。
【0136】
故に、本発明の水溶性フタロシアニン化合物の構造上の特徴、すなわち、特定の置換基を特定の位置(β-位置換型)に特定の数、フタロシアニン母核に導入した化合物が、会合状態を促進して形成画像の堅牢性と色相において最も好ましい構造であることを見出すに至った。
【0137】
すなわち、上述のフタロシアニン化合物の構造上の特徴は、フタロシアニン化合物の会合性促進を支配し、本発明の目的の一つである(1)形成画像の保存性改良を達成する手段、および、もう一つの目的である(2)形成画像の極めて良好なスペクトル特性(シアン色相:画像形成材料用シアン染料として優れた吸収特性)を有し、且つ、(3)各種被記録材(例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等)差に起因する紙依存性が小さいことを達成するための極めて重要な構造上の特徴である。
【0138】
本明細書において、オゾンガス耐性と称しているのは、オゾンガスに対する耐性を代表させて称しているのであって、オゾンガス以外の酸化性雰囲気に対する耐性をも含んでいる。すなわち、上記の本発明に係る一般式(I)で示されるフタロシアニン化合物は、自動車の排気ガスに多い窒素酸化物、火力発電所や工場の排気に多い硫黄酸化物、これらが太陽光によって光化学的にラジカル連鎖反応して生じたオゾンガスや酸素−窒素や酸素−水素ラジカルに富む光化学スモッグ、美容院などの特殊な薬液を使用する場所から発生する過酸化水素ラジカルなど、一般環境中に存在する酸化性ガスに対する耐性が強いことが特長である。したがって、屋外広告や、鉄道施設内の案内など画像の酸化劣化が画像寿命を制約している場合には、本発明に係るフタロシアニン化合物を画像形成材料として用いることによって、酸化性雰囲気耐性、すなわち、いわゆるオゾンガス耐性を向上させることができる。
【0139】
以上纏めると、本発明ではいずれの置換型においても、例えば一般式(I)中のR2、R3、R6、R7、R10、R11、R14及びR15で表される、特定の置換基が堅牢性の向上(高酸化電位)に非常に重要であることが見出され、更に、特定の置換基を特定の位置(例えば、α-位置換型および/またはα,β-位混合置換型よりは圧倒的にβ-位置換型の方がより好ましい)に特定の数{例えば、フタロシアニン化合物1分子あたり4個以上8個以下でかつ一般式(III)で表されるフタロシアニン母核で説明すると、(2位及びまたは3位)、(6位及びまたは7位)、(10位及びまたは11位)、(14位及びまたは15位)の各組に少なくとも特定の置換基を1個以上含有する}、フタロシアニン母核に選択的に導入した誘導体(会合性促進)が、本発明の目的を達成する手段として極めて重要な構造上の特徴を有するフタロシアニン化合物であることを確認した。
【0140】
すなわち、本発明の目的を達成した原因は詳細には不明ではあるが、▲1▼良好な分光吸収特性(フタロシアニン化合物の会合状態の促進);▲2▼高い画像堅牢性(高酸化電位と強固な会合状態の促進により、例えば、フタロシアニン化合物と親電子試薬であるオゾンガスとの酸化反応による褪色を抑制する)を有する本発明のフタロシアニン化合物の、特定の置換基を特定の置換位置に特定の数だけ選択的に導入による、高酸化電位で且つ完全β-位置換型フタロシアニン化合物会合体によるものと考えられる。
【0141】
(2)画像形成用着色組成物(本発明のフタロシアニン化合物を含有するインクジェット用インク)に対する要求特性
上述したように、画像形成用着色組成物(例えば、インクジェット用インク)に対する要求特性は、(1)インクの粘度、表面張力、比電導度、密度、pH等の物性値が適当であること;(2)インクの長期保存安定性が良好であること;(3)溶解成分の溶解安定性が高く、ノズルを目詰まりさせないこと;(4)被記録材での速乾性が良好であること;(5)記録画像が鮮明であり、耐光性、耐水性が良好であることなどである。
【0142】
更に、水系インクの場合、水溶性染料を使用しているため、特に記録画像に水が掛かった場合は染料が溶出し、記録画像が滲んだり、消失してしまうなど耐水性に大きな問題がある。
【0143】
現在まで、上述(1)〜(5)および(6)耐水性の向上;を主眼とした様々の検討がなされているが、従来のインクはこれら全ての特性を満足するには至っていなかった。
【0144】
<1>本発明のフタロシアニン化合物を用いた着色組成物(以下、インクジェット記録用インクともいう)は、上記要求特性(1)〜(6)を満足させる狙いで、本発明のフタロシアニン化合物の好ましい分子量の範囲を規定した。
【0145】
すなわち、フタロシアニン化合物の母核に画像形成用着色組成物としての最適な機能性基を導入するため、フタロシアニン化合物の分子量は必然的に増加する。
【0146】
一方、シアン色素(シアン画像形成用着色組成物に用いる色素)としてのフタロシアニン化合物の発色団(特定のフタロシアニン色素母核)に起因するモル吸光係数(ε)は、分子量増加と共に減少する。
【0147】
例えば、インクジェット記録用インクとして上記フタロシアニン化合物を用いる場合、シアン画像は鮮明で発色濃度が高く且つマゼンタ、イエローおよびブラック染料とともに用いた場合の広い可視領域の色調を色出しすることができる(色再現域が広い)ことが必要である。
【0148】
故に、ある領域以上の分子量を有する上記フタロシアニン化合物を用いる場合、例えば水性インクジェット記録用インクを調整時、水を媒体として調整するが、上記フタロシアニン化合物を該水性インクジェット記録用インク中に含有する最適な質量%の範囲を超えて使用しなければならない。
【0149】
そこで、本発明のフタロシアニン化合物(フタロシアニン化合物の母核に画像形成用着色組成物としての最適な機能性基を導入した誘導体)の最適な分子量の範囲は、シアン画像形成用着色組成物に用いる色素の使用量から算出して、インクの要求特性を満足させるべく検討した結果、本発明のフタロシアニン化合物を前記記載の分子量の範囲に規定することにより上記要求特性(1)〜(6)を満足させるに至った。
【0150】
<2>本発明のフタロシアニン化合物を用いた着色組成物(以下、インクジェット記録用インクともいう)は、上記要求特性(1)〜(6)を満足させる狙いで、本発明のフタロシアニン化合物の好ましいフタロシアニン母核に導入する特定の置換基(位置選択的に導入する機能性基)の種類を規定した。
【0151】
ここで、上述の画像形成用着色組成物に用いられる色素に対する要求特性との両立の関係から、例えば、上記一般式(I)中の特定の置換基R2、R3、R6、R7、R10、R11、R14及びR15に注目した。
【0152】
更に詳しくは、上記一般式(III)中の特定の置換基{-C(=X)-Y}の-Y部に着目して、鋭意検討した結果、前述の好ましい置換基例で挙げた特定の置換基種を用いることにより、上記要求特性(1)〜(6)を満足させるに至った。
【0153】
以上、本発明のフタロシアニン化合物の構造と性能の相関について、(1)画像形成用着色組成物に用いられる色素に対する要求特性と、(2)画像形成用着色組成物(インク)に対する要求特性とを、分けて説明したが、これらの特定の置換基による構造上の特徴によってもたらされる色相・光堅牢性・オゾンガス耐性等の向上効果並びに画像形成用着色組成物(インク)に対する要求特性の付与は、前記先行技術から全く予想することができないものである。
【0154】
本発明のフタロシアニン化合物の具体例を、下記表1〜表9中に示す(例示化合物101〜191のうち、α位の置換基が水素原子またはハロゲン原子であり、β位の置換基がスルホ基を置換基として有するもの)が、本発明に用いられるフタロシアニン化合物は、下記の例に限定されるものではない。
【0155】
下記表1〜表7中、一般式(VIII)は(m+n)価のフタロシアニン基(置換基Rの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を表す。
Rは、各々独立にR1および/またはR2を表し、tは、各々独立に1〜2の数を表す。
mは0〜8の数を表し、nは0〜8の数を表す。
但し、mおよびnはそれぞれ独立に、0<m+n≦8を満たす数を表す。
【0156】
【化12】
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
【表4】
【0161】
【表5】
【0162】
【表6】
【0163】
【表7】
【0164】
【表8】
【0165】
【表9】
【0166】
上記フタロシアニン化合物は、着色組成物、好ましくは画像形成用着色組成物として用いることができる。
【0167】
上記フタロシアニン化合物の用途としては、画像、特にカラー画像を形成するための画像記録材料が挙げられ、具体的には、以下に詳述するインクジェット方式記録材料を始めとして、感熱転写型画像記録材料、感圧記録材料、電子写真方式を用いる記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インク、記録ペン等であり、好ましくはインクジェット方式記録材料、感熱転写型画像記録材料、電子写真方式を用いる記録材料であり、更に好ましくはインクジェット方式記録材料である。また、米国特許4808501号明細書、特開平6−35182号公報などに記載されているLCDやCCDなどの固体撮像素子で用いられているカラーフィルター、各種繊維の染色のための染色液にも適用できる。
上記フタロシアニン化合物は、その用途に適した溶解性、熱移動性などの物性を、置換基により調整して使用する。また、用いられる系に応じて均一な溶解状態、乳化分散のような分散された溶解状態、固体分散状態で使用する事が出来る。
【0168】
[インクジェット記録用インク]
次に本発明のインクジェット記録用インクについて説明する。
インクジェット記録用インクは、親油性媒体や水性媒体中に前記フタロシアニン化合物を溶解及び/又は分散させることによって作製することができる。好ましくは、水性媒体を用いたインクである。
必要に応じてその他の添加剤が、本発明の効果を害しない範囲内において含有される。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水溶性インクの場合にはインク液に直接添加する。油溶性染料を分散物の形で用いる場合には、染料分散物の調製後分散物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相または水相に添加してもよい。
【0169】
乾燥防止剤はインクジェット記録方式に用いるノズルのインク噴射口において該インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する目的で好適に使用される。
【0170】
該乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。具体的な例としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチルー2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体が挙げられる。
これらのうちグリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールがより好ましい。
また、上記の乾燥防止剤は単独で用いても良いし2種以上併用しても良い。これらの乾燥防止剤はインク中に10〜50質量%含有することが好ましい。
【0171】
浸透促進剤は、インクジェット用インクを紙により良く浸透させる目的で好適に使用される。浸透促進剤としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を用いることができる。これらはインク中に5〜30質量%含有すれば通常充分な効果があり、印字の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲で使用するのが好ましい。
【0172】
紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。紫外線吸収剤としては特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号明細書等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0173】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。より具体的にはリサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を使用することができる。
【0174】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンおよびその塩等が挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0175】
pH調整剤としては前記中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。前記pH調整剤はインクジェット記録用インクの保存安定性を向上させる目的で、該インクジェット記録用インクがpH6〜10と夏用に添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0176】
表面張力調整剤としてはノニオン、カチオンあるいはアニオン界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の例としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。更に、特開昭59−157,636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも使うことができる。
【0177】
消泡剤としては、フッ素系、シリコーン系化合物やEDTAに代表されるキレート剤等も必要に応じて使用することができる。
【0178】
本発明のフタロシアニン化合物を水性媒体に分散させる場合は、特開平11-286637号、特願平2000-78491号、同2000-80259号、同2000-62370号等の各公報に記載されるように、色素と油溶性ポリマーとを含有する着色微粒子を水性媒体に分散したり、特願平2000-78454号、同2000-78491号、同2000-203856号,同2000-203857号の各明細書のように高沸点有機溶媒に溶解した本発明の化合物を水性媒体中に分散することが好ましい。本発明の化合物を水性媒体に分散させる場合の具体的な方法,使用する油溶性ポリマー、高沸点有機溶剤、添加剤及びそれらの使用量は、上記特許公報等に記載されたものを好ましく使用することができる。あるいは、前記フタロシアニン化合物を固体のまま微粒子状態に分散してもよい。分散時には、分散剤や界面活性剤を使用することができる。分散装置としては、簡単なスターラーやインペラー攪拌方式、インライン攪拌方式、ミル方式(例えば、コロイドミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテーターミル等)、超音波方式、高圧乳化分散方式(高圧ホモジナイザー;具体的な市販装置としてはゴーリンホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、DeBEE2000等)を使用することができる。上記のインクジェット記録用インクの調製方法については、先述の特許以外にも特開平5−148436号、同5−295312号、同7−97541号、同7−82515号、同7−118584号、特開平11−286637号、特願2000−87539号の各公報に詳細が記載されていて、本発明のインクジェット記録用インクの調製にも利用できる。
【0179】
水性媒体は、水を主成分とし、所望により、水混和性有機溶剤を添加した混合物を用いることができる。前記水混和性有機溶剤の例には、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。尚、前記水混和性有機溶剤は、二種類以上を併用してもよい。
【0180】
本発明のインクジェット記録用インク100質量部中は、前記フタロシアニン化合物を0.2質量部以上10質量部以下含有するのが好ましい。また、本発明のインクジェット用インクには、前記フタロシアニン化合物とともに、他の色素を併用してもよい。2種類以上の色素を併用する場合は、色素の含有量の合計が前記範囲となっているのが好ましい。
【0181】
本発明のインクジェット記録用インクは、粘度が40cp以下であるのが好ましい。また、その表面張力は20mN/m以上70mN/m以下であるのが好ましい。粘度及び表面張力は、種々の添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、防黴剤、防錆剤、分散剤及び界面活性剤を添加することによって、調整できる。
【0182】
本発明のインクジェット記録用インクは、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。
【0183】
適用できるイエロー染料としては、任意のものを使用することが出来る。例えばカップリング成分(以降カプラー成分と呼ぶ)としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロンやピリドン等のようなヘテロ環類、開鎖型活性メチレン化合物類、などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分として開鎖型活性メチレン化合物類などを有するアゾメチン染料;例えばベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料;例えばナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料などがあり、これ以外の染料種としてはキノフタロン染料、ニトロ・ニトロソ染料、アクリジン染料、アクリジノン染料等を挙げることができる。
【0184】
適用できるマゼンタ染料としては、任意のものを使用することが出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類などを有するアゾメチン染料;例えばアリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、シアニン染料、オキソノール染料などのようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料、例えばナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン染料、例えばジオキサジン染料等のような縮合多環染料等を挙げることができる。
【0185】
適用できるシアン染料としては、任意のものを使用する事が出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、ピロロトリアゾールのようなヘテロ環類などを有するアゾメチン染料;シアニン染料、オキソノール染料、メロシアニン染料などのようなポリメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料;フタロシアニン染料;アントラキノン染料;インジゴ・チオインジゴ染料などを挙げることができる。
【0186】
前記の各染料は、クロモフォアの一部が解離して初めてイエロー、マゼンタ、シアンの各色を呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであってもよいし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、さらにはそれらを部分構造に有するポリマーカチオンであってもよい。
適用できる黒色材としては、ジスアゾ、トリスアゾ、テトラアゾ染料のほか、カーボンブラックの分散体を挙げることができる。
【0187】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、前記インクジェット記録用インクにエネルギーを供与して、公知の受像材料、即ち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載されているインクジェット専用紙、フイルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に画像を形成する。
【0188】
画像を形成する際に、光沢性や耐水性を与えたり耐候性を改善する目的からポリマー微粒子分散物(ポリマーラテックスともいう)を併用してもよい。ポリマーラテックスを受像材料に付与する時期については、着色剤を付与する前であっても,後であっても、また同時であってもよく、したがって添加する場所も受像紙中であっても、インク中であってもよく、あるいはポリマーラテックス単独の液状物として使用しても良い。具体的には、特願2000−363090号、同2000−315231号、同2000−354380号、同2000−343944号、同2000−268952号、同2000−299465号、同2000−297365号等の各明細書に記載された方法を好ましく用いることが出きる。
【0189】
以下に、本発明のインクを用いてインクジェットプリントをするのに用いられる記録紙及び記録フィルムについて説明する。
記録紙及び記録フィルムにおける支持体は、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等からなり、必要に応じて従来公知の顔料、バインダー、サイズ剤、定着剤、カチオン剤、紙力増強剤等の添加剤を混合し、長網抄紙機、円網抄紙機等の各種装置で製造されたもの等が使用可能である。これらの支持体の他に合成紙、プラスチックフィルムシートのいずれであってもよく、支持体の厚みは10〜250μm、坪量は10〜250g/m2が望ましい。
支持体には、そのままインク受容層及びバックコート層を設けてもよいし、デンプン、ポリビニルアルコール等でサイズプレスやアンカーコート層を設けた後、インク受容層及びバックコー卜層を設けてもよい。更に支持体には、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置により平坦化処理を行ってもよい。本発明では支持体として、両面をポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブテン及びそれらのコポリマー)でラミネートした紙及びプラスチックフィルムがより好ましく用いられる。
ポリオレフィン中に、白色顔料(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛)又は色味付け染料(例えば、コバルトブルー、群青、酸化ネオジウム)を添加することが好ましい。
【0190】
支持体上に設けられるインク受容層には、顔料や水性バインダーが含有される。顔料としては、白色顔料が好ましく、白色顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、炭酸亜鉛等の白色無機顔料、スチレン系ピグメント、アクリル系ピグメント、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。インク受容層に含有される白色顔料としては、多孔性無機顔料が好ましく、特に細孔面積が大きい合成非晶質シリカ等が好適である。合成非晶質シリカは、乾式製造法によって得られる無水珪酸及び湿式製造法によって得られる含水珪酸のいずれも使用可能であるが、特に含水珪酸を使用することが望ましい。
【0191】
インク受容層に含有される水性バインダーとしては、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド誘導体等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。これらの水性バインダーは単独又は2種以上併用して用いることができる。本発明においては、これらの中でも特にポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールが顔料に対する付着性、インク受容層の耐剥離性の点で好適である。
インク受容層は、顔料及び水性結着剤の他に媒染剤、耐水化剤、耐光性向上剤、界面活性剤、その他の添加剤を含有することができる。
【0192】
インク受容層中に添加する媒染剤は、不動化されていることが好ましい。そのためには、ポリマー媒染剤が好ましく用いられる。
ポリマー媒染剤については、特開昭48−28325号、同54−74430号、同54−124726号、同55−22766号、同55−142339号、同60−23850号、同60−23851号、同60−23852号、同60−23853号、同60−57836号、同60−60643号、同60−118834号、同60−122940号、同60−122941号、同60−122942号、同60−235134号、特開平1−161236号の各公報、米国特許2484430号、同2548564号、同3148061号、同3309690号、同4115124号、同4124386号、同4193800号、同4273853号、同4282305号、同4450224号の各明細書に記載がある。特開平1−161236号公報の212〜215頁に記載のポリマー媒染剤を含有する受像材料が特に好ましい。同公報記載のポリマー媒染剤を用いると、優れた画質の画像が得られ、かつ画像の耐光性が改善される。
【0193】
耐水化剤は、画像の耐水化に有効であり、これらの耐水化剤としては、特にカチオン樹脂が望ましい。このようなカチオン樹脂としては、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、カチオンポリアクリルアミド、コロイダルシリカ等が挙げられ、これらのカチオン樹脂の中で特にポリアミドポリアミンエピクロルヒドリンが好適である。これらのカチオン樹脂の含有量は、インク受容層の全固形分に対して1〜15質量%が好ましく、特に3〜10質量%であることが好ましい。
【0194】
耐光性向上剤としては、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、ヒンダードアミン系酸化防止剤、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの中で特に硫酸亜鉛が好適である。
【0195】
界面活性剤は、塗布助剤、剥離性改良剤、スベリ性改良剤あるいは帯電防止剤として機能する。界面活性剤については、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載がある。界面活性剤の代わりに有機フルオロ化合物を用いてもよい。有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。有機フルオロ化合物の例には、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例えば、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例えば、四フッ化エチレン樹脂)が含まれる。有機フルオロ化合物については、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭61−20994号、同62−135826号の各公報に記載がある。その他のインク受容層に添加される添加剤としては、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、pH調整剤、マット剤、硬膜剤等が挙げられる。なお、インク受容層は1層でも2層でもよい。
【0196】
記録紙及び記録フィルムには、バックコート層を設けることもでき、この層に添加可能な成分としては、白色顔料、水性バインダー、その他の成分が挙げられる。バックコート層に含有される白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬べーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント,ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。
【0197】
バックコート層に含有される水性バインダーとしては、スチレン/マレイン酸塩共重合体、スチレン/アクリル酸塩共重合体、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。バックコート層に含有されるその他の成分としては、消泡剤、抑泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、耐水化剤等が挙げられる。
【0198】
インクジェット記録紙及び記録フィルムの構成層(バックコート層を含む)には、ポリマーラテックスを添加してもよい。ポリマーラテックスは、寸度安定化、カール防止、接着防止、膜のひび割れ防止のような膜物性改良の目的で使用される。ポリマーラテックスについては、特開昭62−245258号、同62−1316648号、同62−110066号の各公報に記載がある。ガラス転移温度が低い(40℃以下の)ポリマーラテックスを媒染剤を含む層に添加すると、層のひび割れやカールを防止することができる。また、ガラス転移温度が高いポリマーラテックスをバックコート層に添加しても、カールを防止することができる。
【0199】
本発明のインクは、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して、放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等に用いられる。インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0200】
【実施例】
以下、本発明を実施例にもとづいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0201】
(合成例)
以下、実施例に本発明のフタロシアニン色素誘導体の合成法を詳しく説明するが、出発物質、色素中間体及び合成ル−トについて限定されるものでない。
【0202】
本発明で用いられる代表的なフタロシアニン化合物は、例えば下記合成ル−トから誘導することができる。以下の実施例において、λmaxは吸収極大波長であり、εmaxは吸収極大波長におけるモル吸光係数を意味する。
【0203】
【化13】
【0204】
合成例1:
化合物A の合成
トリメリティックアンヒドリド クロリド(東京化成) 20.0 g、2−ヒドロキシプロピルアミン 7.13 gを100 mlの塩化メチレンに溶解させ、氷浴で4℃に保った。続いて、ピリジン7.51 mlをゆっくり滴下した。4℃で30分攪拌後、室温でさらに30分攪拌した。続いて、減圧下において溶媒を留去しシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/1)で精製した。収量 11.8 g (50 %)、質量分析法で同定したFAB-MS(NEGA 248)。
化合物B の合成
トリメリティックアンヒドリド クロリド(東京化成) 20.0 g、アミノプロパンスルホン酸ナトリウム塩 15.31 gを100 mlのアセトニトリルに懸濁させ、超音波で分散し、氷浴で4℃に保った。続いて、ピリジン7.51 mlをゆっくり滴下した。4℃で30分攪拌後、室温でさらに30分攪拌した。続いて、減圧下において溶媒を留去した。残渣にエタノールを加え、析出した固体を濾取した。収量 10.19 g (32 %)、質量分析法で同定したFAB-MS(NEGA 334)。
【0205】
合成例2:具体的化合物例184 の合成
窒素気流下、化合物A 2.50 g 、化合物B 10.06g、尿素 23.60 g 、塩化銅 3.23 g、モリブデン酸アンモニウム四水和物 0.98 gをニトロベンゼンに懸濁させた。攪拌しながら、内温180℃まで加温し、そのまま5時間、温度を保ち攪拌した。室温まで冷却後、不溶物を濾別し、濾液にメタノールを添加し、目的物を沈殿させた。固体を濾取し、メタノールでたき洗いした。続いて、その固体を50mlの2.5N水酸化リチウムに溶解し80℃に加熱後、エタノールを加え目的物を沈殿させた。固体を濾取し過熱したエタノールでかけ洗いした。収量 5.95 g 収率 50 %。同定は以下の方法で行った。質量分析法:FAB−MS(NEGA 1187)、元素分析(実測値C, 46.18; H, 3.86; N, 13.33;計算値C48H41CuLi3N12O14S3・3H2OとしてC, 46.32; H, 3.81; N, 13.51)。
【0206】
[比較化合物の合成例]
a)比較化合物1の合成
窒素気流下、トリメリト酸無水物 5.00 g、尿素 15.63 g、塩化銅 2.10 g、モリブデン酸アンモニウム四水和物 0.64 g、をニトロベンゼン 75 mLに懸濁させた。攪拌しながら、内温180℃まで加温し、そのまま5時間、温度を保ち攪拌した。室温まで冷却後、不溶物を濾別後、濾液に酢酸ナトリウム 10 gのメタノール溶液を添加し、目的物を沈殿させた。固体を濾取し、メタノールでたき洗いすることで精製した。収量 8.5g 収率 15 %。同定は以下の方法で行った。質量分析法:FAB−MS(NEGA 835)、元素分析(実測値C, 49.55; H, 1.93; N, 12.95;計算値C36H12CuN8Na4O8・2H2OとしてC, 49.36; H, 1.84; N, 12.79)。
b)比較化合物2の合成
窒素気流下、比較化合物 20 gをトルエン250 mlに懸濁させた。塩化チオニル60 mlとピリジン 0.05 ml加え、6時間還流した。室温まで冷却後、析出物を濾別し、トルエンで洗浄した。固体を乾燥後、ピリジン15 mlに懸濁させ、そこにポリエチレングリコールメチルエーテル35 g、THF 100mlを加え、24時間還流させた。室温まで冷却後、THF200 ml添加し、続いて不溶物を濾別した。残渣にヘキサンを加え、析出した固体を濾取し、ヘキサンで洗浄した。収量 8.5 g 収率 15 %。同定は以下の方法で行った。元素分析(実測値C, 54.42; H, 6.60; N, 5.72;計算値C88H120CuN8O32・4H2OとしてC, 54.55; H, 6.66; N, 5.78)。
【0207】
【化14】
【0208】
[実施例1]
下記の成分に脱イオン水を加え1リッターとした後、30〜40℃で加熱しながら1時時間撹拌した。その後KOH 10mol/LにてpH=9に調製し、平均孔径0.25μmのミクロフィルターで減圧濾過しシアン用インク液Aを調製した。
【0209】
インク液Aの組成:
着色剤:フタロシアニン化合物(例示化合物102) 20.0g
ジエチレングリコール 20g
グリセリン 120g
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 230g
2−ピロリドン 80g
トリエタノールアミン 17.9g
ベンゾトリアゾール 0.06g
サーフィノールTG 8.5g
PROXEL XL2 1.8g
【0210】
着色剤を、下記表10に示すように変更した以外は、インク液Aの調製と同様にしてインク液B〜E、比較インク液101および102を調製した。
【0211】
着色剤を変更する場合は、添加量がインク液Aに用いた着色剤に対して等モルとなるように使用した。着色剤を2種以上併用する場合は等モルずつ使用した。
【0212】
(画像記録及び評価)
以上の本発明のインク液A〜E及び比較用のインク液101、102(いずれもインクジェット用インク)について、下記評価を行った。その結果を表10に示した。
なお、表10において、「色調」、「紙依存性」、「耐水性」及び「耐光性」は、各インクジェット用インクを、インクジェットプリンター(EPSON(株)社製;PM−700C)でフォト光沢紙(EPSON社製PM写真紙<光沢>(KA420PSK、EPSON)に画像を記録した後で評価したものである。
【0213】
<水に対する溶解性>
水5mlに対して、着色剤を混合させ、マグネティックスターラーで30分間攪拌した。攪拌後、着色剤が水に完溶したかどうかを確認した。評価は、以下に示されるように定義し、3段階で行った
○:着色剤1gが水5mlに完溶する
△:着色剤1gは完溶しないが、着色剤0.2gは水5mlに完溶する
×:着色剤0.2gが水5mlに完溶しない
【0214】
<色調>
フォト光沢紙に形成した画像の390〜730nm領域のインターバル10nmによる反射スペクトルを測定し、これをCIE L*a*b*色空間系に基づいて、a*、b*を算出した。JNCのJAPAN Color の標準シアンのカラーサンプルと比較してシアンとして好ましい色調を下記のように定義し、3段階評価を行った。
好ましいa*:−35.9以上0以下、
好ましいb*:−50.4以上0以下
○:a*、b*ともに好ましい領域
△:a*、b*の一方のみ好ましい領域
×:a*、b*のいずれも好ましい領域外
【0215】
<紙依存性>
フォト光沢紙に形成した画像と、別途にプロフェショナルフォトペーパーPR101(CANON社製;QBJPRA4)に形成した画像との色調を比較し、両画像間の差が小さい場合をA(良好)、両画像間の差が大きい場合をB(不良)として、二段階で評価した。
【0216】
<耐水性>
画像を形成したフォト光沢紙を、1時間室温乾燥した後、10秒間脱イオン水に浸漬し、室温にて自然乾燥させ、滲みを観察した。滲みが無いものをA、滲みが僅かに生じたものをB、滲みが多いものをCとして、三段階で評価した。
【0217】
<耐光性>
前記画像を形成したフォト光沢紙に、ウェザーメーター(アトラスC.I65)を用いて、キセノン光(85000lx)を14日間照射し、キセノン照射前後の画像濃度を反射濃度計(X-Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。なお、前記反射濃度は、1、1.5及び2.0の3点で測定した。
何れの濃度でも色素残存率が70%以上の場合をA、1又は2点が70%未満をB、全ての濃度で70%未満の場合をCとして、三段階で評価した。
【0218】
<暗熱保存性>
前記画像を形成したフォト光沢紙を、80℃−15%RHの条件下で7日間試料を保存し、保存前後の画像濃度を反射濃度計(X-Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。色素残存率について反射濃度が1,1.5,2の3点にて評価し、いずれの濃度でも色素残存率が90%以上の場合をA、2点が90%未満の場合をB、全ての濃度で90%未満の場合をCとした。
【0219】
<耐オゾンガス性>
シーメンス型オゾナイザーの二重ガラス管内に乾燥空気を通しながら、5kV交流電圧を印加し、これを用いてオゾンガス濃度が0.5±0.1ppm、室温、暗所に設定されたボックス内に、前記画像を形成したフォト光沢紙を14日間放置し、オゾンガス下放置前後の画像濃度を反射濃度計(X-Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。なお、前記反射濃度は、1、1.5及び2.0の3点で測定した。ボックス内のオゾンガス濃度は、APPLICS製オゾンガスモニター(モデル:OZG−EM−01)を用いて設定した。
何れの濃度でも色素残存率が70%以上の場合をA、1又は2点が70%未満をB、全ての濃度で70%未満の場合をCとして、三段階で評価した。
【0220】
<インクの保存安定性>
インクを40℃で30日間保存後、上記プリンターで長時間連続記録して、目詰まりの有り無しを評価した。
評価基準は、A(異常なし)、B(異常あり)として、二段階で評価した。
【0221】
<分光吸収性>
用いた着色剤を2.5mg〜3.5mgの範囲でメスフラスコに秤量した後に、蒸留水を加え溶解させながら100mlになるまで蒸留水を添加した後下記の測定条件で分光光度計により分析を実施した。
(測定条件)
使用装置:島津自記分光光度計UV−260
セル:石英セル、光路長10mm;
測定温度:20℃;
希釈液 :蒸留水(pH=7.0)
【0222】
用いた着色剤の分光吸収曲線から求めた吸光度比b/aを評価するため、以下のように定義した。
A:b/a<1
B:b/a≧1
【0223】
<酸化電位>
酸化電位の値は、用いた着色剤を25mg〜35mgの範囲で秤量して、0.1moldm-3の過塩素酸テトラプロピルアンモニウムを支持電解質として含むN,N−ジメチルホルムアミド中で直流ポーラログラフィーにより測定した。ポーラログラフィ装置には、作用極として炭素(GC)電極を、対極として回転白金電極を用いて、酸化側(貴側)に掃引して得た酸化波を直線近似してそのピーク値との交点と残余電流値との交点の中点を酸化電位の値(vs SCE)とした。
【0224】
【表10】
【0225】
表10から明らかなように、本発明のインクジェット用インクは色調に優れ、紙依存性が小さく、耐水性および耐光性並びに耐オゾン性、インク保存安定性等、特に耐光性、耐オゾン性等の画像保存性に優れる。
【0226】
[実施例2]
実施例1で作製した同じインクを用いて、実施例1の同機にて画像を富士写真フイルム製インクジェットペーパーフォト光沢紙EXにプリントし、実施例1と同様な評価を行ったところ、実施例1と同様な結果が得られた。
【0227】
[実施例3]
実施例1で作製した同じインクを、インクジェットプリンターBJ−F850(CANON社製)のカートリッジに詰め、同機にて同社のフォト光沢紙GP−301に画像をプリントし、実施例1と同様な評価を行ったところ、実施例1と同様な結果が得られた。
【0228】
[実施例4]
実施例1の耐オゾン性の試験方法を、下記の環境試験方法に変更して試験を行なった。すなわち、自動車の排気ガスなどの酸化性ガスと太陽光の照射を受ける屋外環境をシミュレートした酸化性ガス耐性試験方法として、H.Iwano, et al; Journal of Imaging Science and Technology ,38巻、140-142(1944)に記載の相対湿度80%、過酸化水素濃度120ppm、蛍光灯照射チャンバーを用いた酸化耐性試験方法を用いて試験した。試験の結果は、実施例1の耐オゾン性試験の結果と同様の結果であった。
【0229】
【発明の効果】
本発明によれば、
(1)色剤として特定構造のフタロシアニン化合物を使用することにより、色再現性に優れた吸収特性を有し、かつ光、熱、湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有し、インクジェット記録などの印刷用のインクなどに用いられる着色組成物が提供され、
(2)上記の着色組成物は、インクの長期保存安定性が良好で、溶解成分の溶解安定性が高く、ノズルを目詰まりさせることなく、被記録材での速乾性に優れ、また
(3)上記着色組成物の使用により良好な色相を有し、光および環境中の活性ガス、特にオゾンガスに対して堅牢性の高い画像を形成することができるインクジェット用インクおよびインクジェット記録方法が提供され、さらに
(4)上記のインクジェット記録方法を利用することによって、画像記録物のオゾンガス褪色耐性を改良する方法が提供される。
Claims (6)
- 下記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物を含有することを特徴とする着色組成物。
- 一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物が、下記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の着色組成物。
- 上記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物が、さらに下記を特徴とする請求項2に記載の着色組成物。
Y1、Y2、Y3、及びY4は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基を示す。Y1、Y2、Y3、及びY4の少なくとも1つは、イオン性親水性基としてのスルホ基を置換基として有する。 - 請求項1〜3に記載の着色組成物を含有することを特徴とするインク。
- 支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有する受像材料上に、請求項4に記載のインクを用いて画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
- 請求項5に記載のインクジェット記録方法を用いて画像を形成することを特徴とする画像記録物のオゾンガス褪色耐性の改良方法。
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