JP4096373B2 - 硬質被膜とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は耐摩耗性、摺動性及び長寿命化が要求される工具、金型、機械部品などの表面処理に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、工具、金型、機械部品などの耐摩耗性、摺動性が要求される部材の表面処理には、各種のPVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法が適用されている。PVD法には、アーク式イオンプレーティング法、ホロカソード型イオンプレーティング法、スパッタリング法、イオン注入蒸着法などが、またCVD法には、熱CVD法、プラズマCVD法などの手法があり、これらの手法によって被処理部材の基体表面にTiN、TiCN、TiC、TiAlN、CrN、硬質炭素膜、MoS2などのセラミックスコーティング処理を施す方法がとられていた。たとえば、株式会社総合技術センター発行(昭和59年5月)の「セラミックコーティング」p129〜p142に記述されている。
【0003】
一方、半導体産業においては、不純物のドーピングを主目的とするイオン注入技術が開発され、工業的に使用されている。このイオン注入技術は、金属材料表面の機械特性の改善にも試みがなされており、硬さや靭性の改質に関する報告がなされている(株式会社ティー・アイ・シィ発行の「イオン・レーザーによる表面改質・薄膜技術」p7〜p14参照)。
【0004】
また、硬質のセラミックスコーティング膜に対するイオン注入については、特開平7−310170号公報に示されるように、AlをTiNコーティング膜に注入して耐摩耗性を向上させる例がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
PVD法、CVD法による表面処理を行なうと、未処理のものに比べ、数倍〜80倍程度の寿命の向上が得られ、これらの処理は多くの分野で工業的に盛んに用いられている。しかし、耐摩耗性及び摺動性の向上、長寿命化への要求は一層厳しくなっている。
【0006】
特に、新しい被加工材の開発にともなう従来にない厳しい使用環境の出現、プラントや航空宇宙分野など部品交換が困難な用途の拡大により、従来の表面処理技術では対応しきれない要求が増大してきており、より耐磨耗性の高い表面処理方法の開発が強く望まれている。
【0007】
また、摺動特性を向上させる目的で用いられる硬質炭素膜やMoS2に関しては、例えば前者は基板に対する密着強度が低い問題、後者は摩擦係数の低減には効果があるが耐摩耗性に関してはやや劣る点などが問題となっている。
【0008】
一方、イオン注入技術に関しても、金属材料そのものよりは各種機械特性の向上はみられるが、TiNをはじめとするPVD、CVDセラミックスコーティングに置き変わるほどの効果は認められていない。
【0009】
TiNへのイオン注入についても、特開平7−310170号公報記載のTiN表層部にAlを注入する例はあるが、改質されるのが耐摩耗性のみゆえ、摺動性も含めて大幅に特性向上させうるものではない。
【0010】
上記従来の問題点に鑑み、最近の耐摩耗性、摺動特性向上、長寿命化への高度な要求に応えることのできる表面処理方法を呈示することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、4a族、5a族、6a族、3b族、4b族元素群から選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物、窒化物若しくは炭窒化物のイオン未注入層から成る被膜を基材表面に形成する工程1と、該被膜の表面に炭素イオン、炭素クラスターイオン、炭化水素イオン若しくは炭素を含む化合物イオンからなる群から選ばれた少なくとも1種のイオンを、5keV以上80keV以下のエネルギーでイオン注入処理してイオン注入層を形成する工程2とを含む硬質被膜の製造法であって、前記工程1と工程2とを大気から遮断して交互に繰り返すことにより、該硬質被膜の少なくとも一部にイオン未注入層とイオン注入層が交互に積層された積層単位の集合(以下これを積層膜とも称す)が形成されるとともに、前後するイオン注入処理の間に形成するイオン未注入層の厚さが0.01μm以上1μm以下であり、その全イオン注入量の炭素原子数への換算値N(atoms/cm 2 )と該積層単位の集合の厚さd(μm)との比N/dが、1×10 16 atoms/cm 2 ・μm以上1×1019atoms/cm2・μm以下である硬質被膜の製造方法を提供する。
【0012】
そして本発明は、以上の結果得られた基材表面に形成された硬質被膜を提供する。その硬質被膜は、4a族、5a族、6a族、3b族、4b族の元素群から選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物、窒化物若しくは炭窒化物で構成され、イオン未注入層と、該被膜の少なくとも一部に炭素イオンあるいは少なくとも炭素を含むイオンの1種が注入されたイオン注入層とが交互に配置された積層単位の集合を含み、該イオン未注入層の個々の厚さが0.01μm以上1μm以下であり、その全イオン注入量の炭素原子数への換算値N(atoms/cm 2 )と該積層単位の集合の厚さd(μm)との比N/dが1×10 16 atoms/cm 2 ・μm以上1×10 19 atoms/cm 2 ・μm以下である特徴をもつ。このような硬質被膜が被覆されている硬質被膜被覆部材は、良好な耐摺動性、耐摩耗性を備えている。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の硬質被膜の製造方法と関連する参考例の説明図である。この方法では、図のように例えば材料として超硬合金や高速度鋼のような基材1の表面に、4a族、5a族、6a族、3b族、4b族元素群から選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物、窒化物若しくは炭窒化物のイオン未注入層から成る被膜2が形成され、該炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の被膜2の表面に、炭素イオン、炭素クラスターイオン若しくは炭化水素イオンが注入された状況が示されている。その一例を挙げると、4a族元素であるTiの炭窒化物から成る被膜2に炭素イオンを注入する場合や6a族元素であるCrの窒化物から成る被膜2に炭素イオン、炭素クラスターイオンであるC2クラスターイオン、炭化水素イオンであるCH4イオン若しくはC6H6イオンを注入する場合がある。本発明の硬質被膜5は、上記イオンの注入層4と未注入層から成る被膜3とから成り、前者が硬質被膜5の表面付近に存在することとなる。
【0014】
ここで、イオンの注入エネルギーは、5keV以上400keV以下であり、この範囲内であれば、注入処理は、一つの注入エネルギーレベルで行ってもよいし、複数の注入エネルギーレベルに分けて行ってもよい。なお全注入量は炭素原子の数に換算してl×l0 15 atoms/cm2 以上1×1019atoms/cm2以下とする。
【0015】
本発明の参考例となる製造方法によれば、図1のイオン未注入層から成る被膜2の表面に、前記した炭素イオンや炭化水素イオンなどの成分を注入することで、表層にsp3結合を含む硬質炭素を主体とした硬化相からなる硬質被膜5が形成される。
【0016】
ここで、イオン未注入層から成る被膜2は、PVD法、CVD法、溶射、窒化処理、炭化処理、湿式処理など公知の方法で形成される。
【0017】
イオン注入には、イオン源からイオンを質量分離して導入する方法、イオン源からイオンを質量分離せずに導入する方法、プラズマ中に配置した基材に直接負の電位を印加して注入する方法などがある。
【0018】
注入イオン種は、炭素イオン、炭素クラスターイオン、炭化水素イオンのいずれを使用してもよい。炭素クラスターイオンを使用すれば、注入時間が短縮できる。炭化水素イオンの場合も2次以上の高次の炭化水素ガスを原料に使用することで同様に注入時間が短縮できる。
【0019】
一方、単原子炭素イオンやメタンなどの低次の炭化水素イオンを適用すれば注入深さを深くすることが可能となる。またこれらのイオンが混合した状態であってもよい。例えば、炭化水素イオンをイオン源から質量分離せずに照射する場合や、プラズマ中で基板に高電圧を印加して注入を行なう場合には、水素イオンが混入していてもよい。
【0020】
注入に適用するイオンのエネルギーは、5keV以上400keV以下が好ましい。下限の5keVは注入するのに必要な最低のエネルギーであり、上限の400keVは工業的に現在広く用いられているイオン注入設備の能力である。
【0021】
比較的低荷重で使用される機械部品などにおいては、低エネルギーの注入で表層のみ改質すればよく、安価な処理となる。厚い改質層を必要とするときは、複数のエネルギーで多段注入を行なうとよい。
【0022】
参考例の製造方法によれば、そのイオン注入量は、1×l0 15 atoms/cm2 以上1×1019atoms/cm2以下である。1×10 15 atoms/cm 2 以下では注入の効果が低下し、1×1019atoms/cm2を越えると処理時間が長く経済的に不利である。しかし、経済的な不利が問われないならば、1×1019atoms/cm2を越えて注入してもよい。以上の範囲内において注入の効果、すなわち、硬質被膜への耐摩耗性、摺動性の効果が顕著になる。
【0023】
参考例による硬質被膜は、イオン注入されていない膜にくらべ、耐摩耗性が格段に向上する。これは、注入により表層に形成されるsp3結合を含む硬質炭素硬化相の耐摩耗性が極めて高く、摩擦係数を低減する効果があるためと考えられる。このように改質されたイオン注入層は、PVD、CVDなどの手段で形成された被膜のように積層界面を持たないため剥離の心配がなく、高い信頼性が得られる。
【0024】
図2は、本発明の硬質被膜の製造方法の一形態例を説明する図である。この方法では、図のように基材1の表面に、前述のイオン未注入層から成る被膜2を形成する工程1と、該被膜2の表面にイオンを注入し、前述のイオン注入層を形成する工程2とが含まれるとともに、工程1と工程2とが、大気にさらされることなく独立に交互に繰り返される段階が、硬質被膜の形成過程に含まれている。したがって、工程1と工程2とが交互に繰り返された部分には、イオン未注入層とイオン注入層とが交互に積層された積層単位の集合の6が、形成される。なお図2では硬質被膜全体にこの積層単位の集合の6が形成されているが、後述の図3の別の形態例で説明するように、この積層単位の集合は、硬質被膜の必ずしも厚み方向の全体に渡って形成されていなくても良く、同被膜の厚み方向の少なくとも一部に形成されておれば良い。したがって、本発明の製造方法によれば、硬質被膜の少なくとも一部にこのような積層単位の集合が形成される。その結果、本発明の製造方法の硬質被膜は、上記イオン注入層4と未注入層から成る膜3(図示せず)とが交互に繰り返された積層単位の集合を含む被膜となる。注入されるイオン種は、参考例の製造方法と同様である。
【0025】
なお、本発明の製造方法で注入されるイオンのエネルギーは、5keV以上80keV以下の範囲とし、前後する注入処理の間に形成される個々のイオン未注入層2の厚さは、0.01μm以上1μm以下とする。また積層単位の集合の中の全注入量の炭素原子数への換算値N(atoms/cm2)と積層単位の集合の全厚d(μm)との比N/dは、1×1016atoms/cm2・μm以上1019atoms/cm2・μm以下とする。
【0026】
本発明の製造方法は、以上のように硬質被膜を形成する過程で、イオン未注入層の形成(工程1)とイオン注入層の形成(工程2)とを繰り返して積層単位の集合を形成するという点で本発明に関連する参考例の製造法とは異なる。なお本発明の製造方法は、積層単位の集合の形成部分を多くすることができるため、参考例の製造方法に比べ、得られる硬質被膜の耐久性が格段に向上する。
【0027】
本発明の製造方法では、被膜2を形成する工程1とイオンを注入する工程2は、同一の真空槽内で実施されてもよいし、大気にさらされずに連続して搬送される別々の真空槽間で実施されてもよい。大気にさらさないで連続処理を行なうのは、酸素や水分など不純物の取り込みを押さえ、耐摩耗性や摺動特性の低下を抑えるとともに、真空引きの時間を無くして処理能力を上げ、処理コストを下げることを目的とする。
【0028】
注入エネルギーに関しては、5keV以上80keV以下とする。5keV以上とするのは注入するのに必要な最低のエネルギーが5keVであるためである。上限を80keV以下とするのは、処理コストを下げるためであり、同時にイオン源が小型となるため、成膜設備と複合化しやすいメリットもある。さらに安価で小型なイオン源を必要とする場合には40keV以下でも良い。逆に処理コストやイオン源の大きさが問題にならなければ、80keVを越えた注入エネルギーを使用してもよい。
【0029】
前後する注入処理の間に形成されるイオン未注入層の厚さは、0.01μm以上1μm以下とする。0.01μm未満では前後の注入処理による注入イオンの分布範囲が必要以上に重なり、重なった分だけその処理コストは不必要なものとなる。また、1μmを越すと前後の注入処理層が完全に分離して未注入の領域が大きくなりすぎるためである。
【0030】
積層単位の集合の中の全注入量の炭素原子数への換算値N(atoms/cm2)と積層単位の集合の全厚をd(μm)との比N/dが1×1016atoms/cm2・μm以上1×1019atoms/cm2・μm以下とする。1×1016atoms/cm2・μm以上未満では耐摩耗性に対する効果が小さく、1×1019atoms/cm2・μm以上では経済的なメリットがなくなるためである。
【0031】
なお、PVD法の一種に、イオン注入蒸着法あるいはダイナミックミキシング法と呼ばれる手法がある。これらは蒸着と注入を同時に行なうもので、本発明は成膜と注入を個別に行なう点で異なる手法である。
【0032】
図3は、本発明の製造方法の別の形態例を説明する図である。基材1の表面の硬質被膜7の表面寄りにイオンの注入層と未注入層とが交互に繰り返し積層された積層単位の集合6があり、その下にイオン未注入層から成る被膜が形成されている。
【0033】
図3は、積層単位の集合が硬質被膜の一部に形成されている形態例である。これは、イオン注入層4が外表面部分のみに必要な場合に特に有効であるが、基材1と硬質被膜7の界面付近や硬質被膜7の中央部にイオン注入層4を設けることも、硬質被膜7の密着性の向上や内部応力の緩和などが目的とされる場合に有効となる。
【0034】
本発明の製造方法でイオン注入されるイオン種は前述の通りであるが、特に炭素を含む化合物イオンとすることによって、さらに付加価値を高めるものとなる.このような化合物イオンは、例えば、有機金属イオンのように金属を含有する炭素化合物でもよく、四フッ化炭素(CF4)イオンを含む軽元素の化合物でもよい。このような化合物を使ってCF4イオンを注入すれば、硬質被膜中にフッ化炭素系の化合物層が形成されるため、高硬度で摺動特性に優れ、加えて撥水性が高くなるという効果がある。
【0035】
【実施例】
(参考例1) 図1に対応する本発明と関連する参考例を示す。すなわち、超硬合金の基材1上に、熱CVD法で膜厚1μmのTiCN被膜を形成し、この上に、質量分離機構を備えたイオン注入装置にて、表1に記載のように注入エネルギー200keVでCイオンをその注入量を変えて注入した。これらの処理品を用い、ピン・オン・ディスク試験でその摩擦係数と摩耗深さを調べた。
【0036】
ただしその試験条件は、摺動させる相手材(ピン)は窒化硅素焼結体、摺動荷重は1N、回転数500rpm、回転半径1mm、回転回数2000回とした。ここで、摩擦係数は、回転回数100回から200回までの間の摩擦係数の平均値とし、摩耗深さは、2000回回転後に確認した値とした。結果を表1(摩擦係数または摩耗量と注入量との関係)に示す。表1の膜材質欄の表示材質は、イオン未注入層の材質である。
【0037】
【表1】
【0038】
摩擦係数は、イオン注入量とともに低下する傾向にあり、1×1017atoms/cm2以上で0.2を下回る値となる。摩耗深さに関しても、イオン注入量の増加とともに減少傾向が見られることが判る。
【0039】
(参考例2)図1に対応する本発明と関連する別の参考例を示す。すなわち、高速度綱に、ホロカソード型イオンプレーティング法で膜厚1μmのCrN被膜を形成し、その表面に注入イオン種を変えて注入処理を行なった。用いたイオン種は、Cイオン、C2クラスターイオン、CH4イオン、C6H6イオンである。C、C2イオンは質量分離機構を備えたイオン注入設備にて、CH4イオン、C6H6イオンは高周波加熱式のイオン源から質量分離無しで注入を施した。表2にその結果を示す。
【0040】
参考例1と同様の摩擦摩耗試験を行なったが、いずれも摩擦係数は0.2以下で、摩耗量も未注入のCrN被膜(表中の注入イオン無しと表示の試料)に比べ、注入後の試料では低く良好なる特性を示した。表2の膜材質欄の表示材質は、イオン未注入層の材質である。
【0041】
【表2】
【0042】
(実施例1)図2に対応する実施例を示す。すなわち、基材1である超硬合金上に、カソードアークイオンプレーティング法で膜厚0.1μmのTiN被膜を形成し、これにアーク放電型イオン源により80keVでCイオンを注入するというサイクルを繰り返し、C注入TiNの厚い積層された積層単位の集合6の合成を行なった。そして、得られた積層単位の集合6のヌープ硬度を測定した。それらの結果を表3(成膜と注入の繰り返しによるTiNの硬度)に示す。得られた積層単位の集合6は良好なヌープ硬度の値を示す。表3のエネルギーは、イオン注入エネルギー(keV)である。
【0043】
【表3】
【0044】
(実施例2)図2に対応する別の実施例を示す。基材1である超硬チップ上にカソードアークイオンプレーティング法によりHfN被膜を0.1μm成膜し、これに加速エネルギー80keVでCイオンを2×1016ions/cm2注入した。この工程を20サイクル繰り返し、約2μmの厚さのHfNの積層された積層単位の集合6を形成した。
【0045】
比較のため、同じく超硬チップ積層上にイオンプレーティング法によりHfN被膜を2μm成膜したものを準備した。これら2種類のチップで切削テストを行なったところ、Cイオン注入HfN積層単位の集合6は未注入HfN被膜に比べて約4倍の寿命であった。
【0046】
(実施例3)図3に対応する実施例を示す。自動車エンジンのピストンリングにカソードアークイオンプレーティング法によりCrN被膜を7μm成膜した。その後、この被膜2の表面に同じくカソードアークイオンプレーティング法によるCrN被膜を0.2μm成膜する工程及びこれに60keVでCイオンを3×1017atoms/cm2注入する工程を10サイクル交互に繰り返して積層された積層単位の集合6を形成し、その結果として硬質被膜7を2μm形成した。
【0047】
比較例としてイオン未注入のCrN膜を9μm形成した部材を作成した。耐久試験では、イオン注入を行ったものは、未注入のものに対して12倍の寿命があった。
【0048】
(実施例4)注入するイオン種を、炭素を含む化合物イオンとするもので、CF4イオンの実施例を示す。ダイス鋼製の樹脂金型の成形材との摺接面にスパッタリング法でWC被膜を0.1μm成膜し、続いて80keVでCF4イオンを2×1016atoms/cm2注入した。この工程を30回繰り返して積層単位の集合6を3μm形成した。本金型は、樹脂の溶着が起きにくく、また溶着が起きても容易に除去でき、金型のメンテナンスに要する時間が約1/40に縮小した。
【0049】
【発明の効果】
本発明による硬質被膜は、耐摩耗性、耐摺動性が格段に向上する。これは、イオン注入により形成されるsp3結合を含むイオン注入層の耐摩耗性が極めて高く、摩擦係数を低減する効果があるためと考えられる。又、硬質被膜内の剥離の心配も少なく、通常のPVD、CVDのみで得られる硬質被膜にない高い信頼性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 炭化物、窒化物若しくは炭窒化物のイオン未注入層から成る膜に、炭素イオン、炭素クラスターイオン若しくは炭化水素イオンを注入する方法と硬質被膜を示す模式図である。
【図2】 炭化物、窒化物若しくは炭窒化物のイオン未注入層から成る膜を形成する工程と、炭素イオン、炭素クラスターイオン若しくは炭化水素イオンを注入する工程を交互に繰り返し積層された積層膜を形成する方法と該積層膜を示す模式図である。
【図3】 硬質被膜の厚さ方向の一部に、炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の膜の形成するイオン未注入層からなる膜にイオン、炭素クラスターイオン若しくは炭化水素イオンを注入する工程を交互に繰り返す表面処理方法と該硬質被膜を示す模式図である。
【符号の説明】
1:基材
2、3:イオン未注入層から成る膜
4:イオン注入層
5、7:硬質被膜
6:イオン未注入層とイオン注入層の積層された積層単位の集合
Claims (2)
- 4a族、5a族、6a族、3b族、4b族の元素群から選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物、窒化物若しくは炭窒化物のイオン未注入層から成る被膜を、基材表面に形成する工程1と、該被膜の表面に炭素イオン、炭素クラスターイオン、炭化水素イオン若しくは炭素を含む化合物イオンからなるイオン群から選ばれた少なくとも1種のイオンを、5keV以上80keV以下のエネルギーでイオン注入処理してイオン注入層を形成する工程2とを含む硬質被膜の製造方法であって、大気から遮断して当該工程1と工程2とを交互に繰り返すことにより該硬質被膜の少なくとも一部にイオン未注入層とイオン注入層が交互に積層された積層単位の集合が形成されるとともに、前後するイオン注入処理の間に形成するイオン未注入層の厚さが0.01μm以上1μm以下であり、その全イオン注入量の炭素原子数への換算値N(atoms/cm2)と該積層単位の集合の厚さd(μm)との比N/dが1×1016atoms/cm2・μm以上1×1019atoms/cm2・μm以下であることを特徴とする硬質被膜の製造方法。
- 基材表面に形成した4a族、5a族、6a族、3b族、4b族の元素群から選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の硬質被膜からなるイオン未注入層と、該被膜の少なくとも一部に炭素イオンあるいは少なくとも炭素を含むイオンの1種が注入されたイオン注入層とが厚み方向に交互に配置された積層単位の集合を含み、該イオン未注入層の個々の厚さが0.01μm以上1μm以下であり、その全イオン注入量の炭素原子数への換算値N(atoms/cm 2 )と該積層単位の集合の厚さd(μm)との比N/dが1×10 16 atoms/cm 2 ・μm以上1×10 19 atoms/cm 2 ・μm以下であることを特徴とする硬質被膜。
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