JP4093648B2 - 芳香族ヒドロキシカルボン酸の製法 - Google Patents

芳香族ヒドロキシカルボン酸の製法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族ヒドロキシカルボン酸の改善された製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ヒドロキシカルボン酸は食品、化粧品等の防腐・保存料として、また顔料・染料・液晶・液晶高分子あるいは医薬・農薬の原料あるいは中間体として重要であり、一般にはフェノール性水酸基を持つ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素とを高温、加圧下で反応させることによって製造される。
【0003】
上記反応としては、古くは固体状の芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と気体状の二酸化炭素を反応させる固気相反応が用いられてきたが、反応温度が高く(通常約200℃)、しかも反応時間が長く、固気相反応であるため熱的に不均一であり、局部的に著しく高温になるため、タール化などの副反応が生じ易く、原料損失が多いこと、反応制御が困難で安定した収率が得られない等の問題があった。
【0004】
一方、上記反応において、フェノールアルカリと二酸化炭素を、常圧、低温条件下で接触させるとフェノールアルカリ・二酸化炭素複合体(ソジウムフェニルカーボネート)が形成されることが知られている( J. Chem. Soc., 3145-3151 (1954))が、芳香族ヒドロキシカルボン酸の形成は報告されていない。
同報文にはフェノールアルカリをカルボン酸塩にするには(i)ソジウムフェニルカーボネートを密封条件下で145℃に加熱するか、(ii)125℃〜135℃で直接加圧してカルボキシル化するか、(iii)フェノールアルカリのフェノール溶液に140℃で乾燥二酸化炭素を通過させる方法があると記載されている。
【0005】
フェノールカリウムを軽油の存在下に二酸化炭素と反応させると、70℃以下の温度で複合体が収率76〜80%程度で形成されることも知られている(Bulletin of the Chemical Society of Japan, vol.46, 3470-3474 (1973))。この場合もヒドロキシ安息香酸は形成されないことが示されている。
さらに、DMF(ジメチルホルムアミド)にフェノールカリウムを溶かし、これに二酸化炭素を一定時間通じてフェノールカリウム・二酸化炭素複合体を形成させた後、アセトニトリルやアセトンを加え、70℃で45乃至72時間反応させても、p−ヒドロキシ安息香酸の収率は0.3乃至1%程度であったことが報告されている(化学工業1972年12月号p74-80)。
以上のように芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素の反応は低温では複合体までしか進行せず、低温での固気相反応により反応が進行することに付いては知られていない。低温での固気相反応により上記反応が進行するならば、溶剤の回収が不要となり、しかもタール化などの副反応がなく、熱資源の節約になる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、100℃以下の温度においても、極めて短時間に高収率で芳香族ヒドロキシカルボン酸を得る製法を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造するに際して、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素を無溶媒下、圧力1MPa以上及び温度100℃以下で、かつ二酸化炭素の超臨界条件以外の条件下で反応を複数回繰返し、その繰返し反応の間に、反応系内の二酸化炭素を不活性ガスで置換し、100〜200℃で加熱する加熱工程を介在させる芳香族ヒドロキシカルボン酸の製法に関する。
【0008】
本発明において用いられる芳香族ヒドロキシ化合物としては、フェノール、β−ナフトール、α−ナフトール等が挙げられる。典型的にはβ−ナフトールである。これらの芳香族環上には1つ以上の置換基を有していてもよい。置換基としては例えば、フッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、メチル、エチル、プロピルなどのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、ニトロ基、スルホ基、アミノ基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。具体的には、o−、m−及びp−クレゾール、アミノフェノール、クロロフェノール等が挙げられる。
【0009】
芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素の反応は、1MPa以上の圧力及び100℃以下の温度で、無溶媒で行う。前述の如く芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩を固気相反応で反応させるには高温高圧条件で行われるため、タール化が避けられず、従って、これを溶媒に分散または溶解して気体状の二酸化炭素と反応させていたが、溶媒の存在下でも比較的高温でなければ反応が進行しなかった。本発明者は100℃以下の温度であっても、無溶媒で、1MPa以上の圧力でかつ二酸化炭素の超臨界条件以外の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素が反応し、芳香族ヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩が得られることを見出した。反応温度は100℃以下であれば良いが、反応速度との関係で10℃〜70℃が好ましい。二酸化炭素の超臨界条件は30℃以上では7.38MPa以上であり、したがって、反応は30℃から100℃以下で約7MPa以下の圧力、好ましくは3〜7MPaで反応させる。30℃以下では二酸化炭素の超臨界域は存在しないので、30℃以下ではさらに高圧、約20MPaの圧力でも反応させることができる。好ましくは3〜10MPaの圧力で反応させる。
【0010】
上記条件下での1回反応あるいは単なる繰返反応のみでは、芳香族ヒドロキシカルボン酸の収率はあまり向上しないが、複数回の繰返反応の間に、反応系内の二酸化炭素を不活性ガスで置換し、100〜200℃で加熱する加熱工程を設けて反応を繰り返すことによって著しく収率が向上する。この場合、100〜200℃の加熱処理を、実質的に二酸化炭素を含まない条件下で行うことが肝要である。
不活性ガスとしては窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどがあげられるが、経済性等を考慮すれば窒素ガスが好ましい。
加熱工程における圧力は0.1〜2MPa程度、好ましくは0.1〜1MPa程度である。
加熱処理時間は10〜120分程度、好ましくは10〜60分程度である。
繰返回数は2回以上(加熱工程1回)、好ましくは繰返回数2〜4回(加熱回数1〜3)が適当である。その際、複数の反応工程および複数の加熱工程それぞれの条件は同一であっても異なってもよい。
【0011】
また、本発明の繰返反応において芳香族ヒドロキシ化合物としてβ−ナフトールを用いたときは生成物は主として2−ヒドロキシナフタレン−1−カルボン酸が得られる。これを二酸化炭素雰囲気下で200℃以上、好ましくは230〜280℃の温度に加熱すると熱転移して2−ヒドロキシナフタレン−3−カルボン酸および2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸が得られる。その際、反応系の圧力は二酸化炭素雰囲気下で、好ましくは0.1〜20MPa、より好ましくは0.5〜10MPaが適当である。また転移反応は10〜300分、より好ましくは30〜200分である。この転移反応では特に2−ヒドロキシナフタレン−1−カルボン酸(転移を目的とする位置以外に置換基を有していても良い)は、顔料の中間体やポリマーのモノマー成分として有用な、相当する2−ヒドロキシナフタレン−3−カルボン酸や2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸に転移される。
【0012】
本発明の方法によれば、1MPa以上及び100℃以下、特に室温下での繰返反応によって収率良くカルボキシル化が進行するため、副反応を抑制することができ、タールなどの分解物はほとんど生成しない。
以下に、実施例をあげて説明する。
【0013】
実施例1
100mlのコルベンにフェノール9.4gと水酸化カリウム6.6gを水に溶かして混合しフェノールカリウム水溶液を作成した。これをエバポレーターで脱水し、180℃で真空乾燥して無水粉末のフェノールカリウムを得た。これを200mlのオートクレーブに入れて、7.1MPaの二酸化炭素を急速に導入し、30℃10分間反応させた。
次に、常圧に戻してオートクレーブ内部を0.5MPaの窒素により2回置換した。0.1MPaの窒素を充填し150℃に昇温して30分間保った。その後室温に戻して7.1MPaの二酸化炭素を急速に導入して10分間反応させた。常圧に戻し、反応生成物を水に溶かし、希塩酸を加えてpH7に調整した後クロロホルムで抽出し未反応フェノール3.21gを回収し、さらに水層に塩酸を加えてpH1以下にしてクロロホルムで抽出し、サリチル酸5.49gとp−ヒドロキシ安息香酸3.09gを得た。収率はサリチル酸39.8%、p−ヒドロキシ安息香酸22.4%であり、ヒドロキシカルボン酸への転化率は94.4%であった。
なお、実施例の収率と転化率との関係は次の通りである。
収率=生成したカルボン酸(モル数)/使用した原料(モル数)×100
転化率=生成したカルボン酸(モル数)/消費された原料(モル数)×100
消費された原料(モル数)=使用した原料(モル数)−回収された原料(モル数)
【0014】
実施例2
100mlのコルベンにフェノール9.4gと水酸化ナトリウム4.1gを水に溶かして混合しフェノールナトリウム水溶液を作製した。これをエバポレーターで脱水し、180℃で真空乾燥して無水粉末のフェノールナトリウムを得た。これを200mlのオートクレーブに入れて、6.5MPaの二酸化炭素を急速に導入し、30℃10分間反応させた。
【0015】
次に、常圧に戻してオートクレーブ内部を0.5MPaの窒素により2回置換した。0.1MPaの窒素を充填し150℃に昇温して30分間保った。その後室温に戻して6.5MPaの二酸化炭素を急速に導入して10分間反応させた。常圧に戻し、反応生成物を水に溶かし、希塩酸を加えてpH7に調整した後クロロホルムで抽出し未反応フェノール5.77gを回収し、さらに水層に塩酸を加えてpH1以下にしてクロロホルムで抽出し、サリチル酸4.34gとp−ヒドロキシ安息香酸0.72gを得た。収率はサリチル酸31.4%、p−ヒドロキシ安息香酸5.2%であり、ヒドロキシカルボン酸への転化率は94.9%であった。
【0016】
実施例3
100mlのコルベンにβ−ナフトール14.4gと水酸化カリウム6.6gを水に溶かして混合しβ−ナフトールカリウム水溶液を作成した。これをエバポレーターで脱水し、180℃で真空乾燥して無水粉末のβ−ナフトールカリウムを得た。これを200mlのオートクレーブに入れて、6.5MPaの二酸化炭素を急速に導入して30℃10分間反応させた。
次に、常圧に戻してオートクレーブ内部を0.5MPaの窒素により2回置換した。0.1MPaの窒素を充填し150℃に昇温して30分間保った。その後室温に戻して6.5MPaの二酸化炭素を急速に導入して10分間反応させた。常圧に戻し、反応生成物を水に溶かし、希塩酸を加えてpH7に調製した後クロロホルムで抽出して未反応β−ナフトール1.57gを回収し、さらに水層に塩酸を加えてpH1以下にしてクロロホルムで抽出し、2−ヒドロキシナフタレン−1−カルボン酸15.7gを得た。収率は83.5%であり、ヒドロキシカルボン酸への転化率は93.7%であった。なお、2−ヒドロキシナフタレン−3−カルボン酸及び2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸については生成していなかった。
【0017】
実施例4
(1)無水粉末のβ−ナフトールカリウム1.0gを200mlのオートクレーブに入れて、7.0MPaの二酸化炭素を急速に導入して60℃10分間反応させた。
(2)常圧に戻してオートクレーブ内部を0.5MPaの窒素により2回置換し、0.1MPaの窒素を充填し180℃に昇温して1時間保った。
(1)の操作を3回、(2)の操作を2回それぞれ交互に行った。
3回目の(1)の操作終了後、オートクレーブ内の二酸化炭素圧を3.0MPaにして、250℃90分加熱した。高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を表1に示す。
【0018】
実施例5
(1)無水粉末のβ−ナフトールカリウム1.0gを200mlのオートクレーブに入れて、6.5MPaの二酸化炭素を急速に導入して60℃10分間反応させた。
(2)常圧に戻してオートクレーブ内部を0.5MPaの窒素により2回置換し、0.1MPaの窒素を充填し180℃に昇温して1時間保った。
(1)の操作を2回、(2)の操作を1回それぞれ交互に行った。
2回目の(1)の操作終了後、オートクレーブ内の二酸化炭素圧を3.0MPaにして、250℃180分加熱した。高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を表1に示す。
【0019】
実施例6
実施例5の250℃180分加熱する工程を280℃90分に代えることの他は実施例5と同様の方法に従った。高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を表1に示す。
【0020】
実施例7
(1)無水粉末のβ−ナフトールナトリウム1.0gを200mlのオートクレーブに入れて、7.0MPaの二酸化炭素を急速に導入して60℃10分間反応させた。
(2)常圧に戻してオートクレーブ内部を0.5MPaの窒素により2回置換し、0.1MPaの窒素を充填し180℃に昇温して1時間保った。
(1)の操作を3回、(2)の操作を2回それぞれ交互に行った。
高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を表1に示す。
【0021】
実施例8
実施例7と同様の操作を行った後に、オートクレーブ内の二酸化炭素圧を3.0MPaにして、250℃90分加熱した。高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を表1に示す。
【0022】
実施例9
(1)無水粉末のβ−ナフトールナトリウム1.0gを200mlのオートクレーブに入れて、6.5MPaの二酸化炭素を急速に導入して60℃10分間反応させた。
(2)常圧に戻してオートクレーブ内部を0.5MPaの窒素により2回置換し、0.1MPaの窒素を充填し180℃に昇温して1時間保った。
(1)の操作を3回、(2)の操作を2回それぞれ交互に行った。
3回目の(1)の操作終了後、オートクレーブ内の二酸化炭素圧を3.0MPaにして、250℃90分加熱した。高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
Figure 0004093648
【0024】
実施例10
100mlのコルベンにp−クレゾール10.8gと水酸化カリウム6.6gを水に溶かして混合しp−クレゾールカリウム水溶液を作成し、これをエバポレーターで脱水し無水粉末のp−クレゾールカリウムを得た。これを200mlのオートクレーブに入れて、6.5MPaの二酸化炭素を急速に導入し、30℃10分間反応させた。
次に、常圧に戻してオートクレーブ内部を0.5MPaの窒素により2回置換した。0.1MPaの窒素を充填し150℃に昇温して30分間保った。その後室温に戻して6.5MPaの二酸化炭素を急速導入して10分間反応させた。
常圧に戻し、反応生成物を水に溶かし、希塩酸を加えてpH7に調製した後クロロホルムで抽出して未反応p−クレゾール0.11gを回収し、さらに水層に塩酸を加えてpH1以下にしてクロロホルムで抽出し、2−ヒドロキシ−5−メチル安息香酸15.0gを得た。収率は98.6%であり、転化率は99.7%であった。
【0025】
比較例1
無水粉末のβ−ナフトールカリウムを200mlのオートクレーブに入れて、250℃到達後、7.0MPaの二酸化炭素を導入して90分間反応させたが、得られたヒドロキシカルボン酸の収率は、2−ヒドロキシナフタレン−1−カルボン酸2.4%、2−ヒドロキシナフタレン−3−カルボン酸4.5%、2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸1.7%であった。
【0026】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、室温下での繰り返し反応によって収率良く反応が進行するため、副反応を抑制することができ、タールなどの分解物はほとんど生成しない。

Claims (7)

  1. 芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造するに際して、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素を無溶媒下、圧力1MPa以上及び温度100℃以下で、かつ二酸化炭素の超臨界条件以外の条件下で反応を複数回繰返し、その繰返し反応の間に、反応系内の二酸化炭素を不活性ガスで置換し、100〜200℃で加熱する加熱工程を介在させる芳香族ヒドロキシカルボン酸の製法。
  2. 繰返し反応を少なくとも2回行う請求項1記載の製法。
  3. 芳香族ヒドロキシカルボン酸がヒドロキシナフタレンカルボン酸である請求項1記載の方法。
  4. 芳香族ヒドロキシカルボン酸を二酸化炭素雰囲気下で200℃以上の温度で加熱する芳香族ヒドロキシカルボン酸の熱転移方法。
  5. 芳香族ヒドロキシカルボン酸が請求項1〜3記載の方法で得られるものである請求項4記載の方法。
  6. 芳香族ヒドロキシカルボン酸が2−ヒドロキシナフタレン−1−カルボン酸である請求項4記載の方法。
  7. 加熱を炭酸ガス加圧条件下で行う請求項4記載の方法。
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