JP4093622B2 - 急結性吹付コンクリート、及びそれを用いた吹付工法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、吹付材料、急結性吹付コンクリート、及びそれを用いた吹付工法、特に、トンネル等の天井や壁の部分に吹付けるコンクリートの急結性や強度発現性を高めた、吹付材料、急結性吹付コンクリート、及びそれを用いた吹付工法に関する。
なお、本発明でいう吹付コンクリートとは、吹付用のセメントペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来よりトンネルの掘削時に、掘削面の落盤や湧水による崩壊を防ぐために、コンクリート等を吹付け、ライニングすることが一般に実施されている。
そして、トンネル工事では、掘削面にコンクリートを吹付ける一次吹付を行い、さらに、その吹付面にコンクリート壁を施工する二次覆工を行うことが多かったが、最近は、一次吹付だけで完了するシングルシェル方式が工程の簡略化やコスト低減の面から望まれている。
【0003】
コンクリートの吹付工法は、乾式法と湿式法の二工法に大別される。
乾式法とは、空練りした、セメント、骨材、及び急結材等の混合物を圧搾空気で輸送し、吹付直前に水を添加混合して、ノズルから施工面に吹付ける工法であり、湿式法とは、水と混練したコンクリートを輪送し、その途中で急結材を添加混合し、ノズルから吹付ける工法である。
【0004】
これら吹付工法に使用される急結材としては、カルシウムアルミネートとアルカリ金属の炭酸塩やアルミン酸塩とからなる組成物、仮焼明ばん石、石灰、及びアルカリ金属炭酸塩からなる組成物、並びに、アルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、ケイ酸塩、及びアルミン酸塩からなる組成物等が提案されている(特公昭56− 27457号公報、特開昭60−260452号公報、及び特開平 3− 65546公報)。
これらの急結材は、通常、急激な凝結を得るために、水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、及びアルミン酸塩等の形でナトリウムやカリウムなどの強アルカリ性を示すアルカリ金属成分を含むものである。
しかしながら、これらのアルカリ金属成分は強アルカリ性であるため、コンクリート中に含まれると、使用する骨材によってはアルカリ骨材反応が起こり、コンクリート構造物に異常膨張やそれに伴うひび割れが発生し悪影響を与えるという課題があった。
【0005】
また、これら強アルカリ性の成分は、水に溶解し、作業者の肌に直接触れると強い薬傷を起こす性質があり、掘削現場の作業環境を著しく悪化させ、さらに土壌中に含む水に溶解して周辺の環境汚染をまねくなどの課題があった。
さらに、吹付コンクリートに、これらの急結材を加えた急結性吹付コンクリートは、急結材を加えない吹付コンクリートに比べて、長期材齢での強度の伸びが低く、長期耐久性に劣るという課題があった。
【0006】
これら課題を解消する対策として、アルカリ金属成分の少ないあるいはほとんど含まない吹付用の急結材として、アルミン酸カルシウム、スルホアルミン酸カルシウム、及び塩基性アルミニウム塩等からなる凝結促進剤を使用することが提案されている(特開平 8− 48553号公報)。
しかしながら、これらの急結材を用いた吹付材料は急結性が充分でないという課題があった。
また、アルカリ金属成分を低減した急結材は、水和開始直後からセメントの水和反応を抑えてしまうため、特に材齢1日の強度が非常に低く、吹付施工した直後から数日までの間に急結性吹付コンクリートが剥離する危険性が高いという課題があった。
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の急結材とセメントを使用することにより、作業環境や周辺の環境を悪化することなく、優れた急結特性と強度を発現する急結性吹付コンクリートが得られるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0008】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、アルミノケイ酸カルシウムガラスと硫酸アルミニウムとを有効成分とする急結材と、SO3成分4.6 〜6重量%以上含有のセメントとを含有してなる急結性吹付コンクリートであり、(1) SO 3 成分 4.6 〜6重量%含有のセメントを含有してなるコンクリートと、(2)アルミノケイ酸カルシウムガラスと硫酸アルミニウムとを有効成分とする急結材とを混合してなる急結性吹付コンクリートを吹付けることを特徴とする吹付工法であり、(1’)水、 SO 3 成分 4.6 〜6重量%含有のセメント、骨材を混合したコンクリートを輪送し、輸送する途中で、(2’)アルミノケイ酸カルシウムガラスと硫酸アルミニウムとを有効成分とし、かつ、急結材中のアルカリ金属成分の総量が酸化ナトリウム換算で 0.75 重量%以下である急結材を混合して急結性吹付コンクリートとし、この急結性吹付コンクリートを吹付けることを特徴とする湿式吹付工法である。
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0010】
本発明で使用する吹付材料は、セメントと急結材とを含有してなるものであり、急結材がアルミノケイ酸カルシウムガラスと硫酸アルミニウムとを有効成分とするもので、セメントが SO3成分を3重量%以上含有するものである。
【0011】
本発明で使用するアルミノケイ酸カルシウムガラスは急結性付与のために必要であり、通常、カルシア原料、アルミナ原料、及びシリカ原料等を混合し、電気炉等により、1,200 〜1,700 ℃程度の高温で生成した、例えば、CaO ・Al2O3 ・SiO2等で示されるアルミノケイ酸カルシウム鉱物の溶融物を急冷してガラス化したものである。
アルミノケイ酸カルシウム鉱物の溶融物を急冷する方法としては、高圧空気で溶融物を吹き飛ばして冷却させる高圧空気法等が挙げられる。
カルシア原料としては、生石灰、消石灰、石灰石、及び炭酸カルシウム等が、また、アルミナ原料としては、アルミナ、ボーキサイト、ダイアスボア、長石、及び粘土等が、さらには、シリカ原料としては、ケイ砂、白土、ケイ藻土、及び酸化ケイ素等がそれぞれ使用可能であるが、アルカリ金属成分が少ない面から炭酸カルシウム、アルミナ、及び酸化ケイ素の使用が好ましい。
アルミノケイ酸カルシウムガラス(以下CASガラスという)中のCaO 、Al2O3 、及びSiO2含有量は、CaO が40〜50重量%、Al2O3 が40〜50重量%、及びSiO2が10〜20重量%であることが好ましい。CaO やAl2O3 がこの範囲外では良好な急結性が得られない場合がある。また、SiO2が10重量%未満では長期強度の伸びがない場合があり、20重量%を越えると初期強度が低い場合がある。
CASガラスの粒度は特に限定されるものでないが、ブレーン値で3,000 〜9,000cm2/gが好ましい。3,000cm2/g未満では良好な急結性が得られない場合があり、9,000cm2/gを越えてもさらなる効果が期待できない。
本発明でいうガラスとは、通常ガラス分野で言われる「ガラス転移点を示すもの」である。
CASガラスは全てガラスである必要はなく、その程度を示すガラス化率が60%以上であれば良い。60%未満だと良好な急結性が得られない場合がある。
ガラス化率は、試料を1,000 ℃で2時間加熱後、5℃/分の冷却速度で徐冷し、粉末X線回析法により結晶鉱物のメインピークの面積Soを求め、このSoと試料中の結晶のメインピーク面積Sからガラス化率(%)=(1-S/So)×100 の式を用いて求めることが可能である。
【0012】
本発明で使用する硫酸アルミニウムは急結性向上のために必要なもので、一般に市販されている硫酸アルミニウムが使用可能であり、通常含まれる不純物には影響されるものではない。
また、硫酸アルミニウムには無水塩や結晶水を含むものがあるが、いずれもそのまま使用可能であり、結晶水の多少により限定を受けるものではない。
硫酸アルミニウムの粒度は特に限定されるものではないが、ブレーン値で3,000 〜9,000cm2/gが好ましい。3,000cm2/g未満だと良好な急結性が得られない場合があり、9,000cm2/gを越えてもさらなる効果が期待できない。
硫酸アルミニウムの使用量は、CASガラス 100重量部に対して、無水物換算で10〜30重量部が好ましく、15〜25重量部がより好ましい。この範囲外では良好な急結性や強度発現性が得られない場合がある。
【0013】
急結材のアルカリ金属成分の総量は、酸化ナトリウム(Na2O)換算でNa2O eq.0.75重量%以下が好ましい。0.75重量%を越えるとアルカリ骨材反応が起こり、コンクリート構造物に悪影響を与える場合がある。
なお、アルカリ金属量は原子吸光分析により測定し、ナトリウム以外のアルカリ金属をNa2Oに換算して積算し、Na2O eq.とした。
急結材の粒度は、使用する目的や使用方法に依存し特に限定されるものではないが、通常、ブレーン値で3,000 〜9,000cm2/gが好ましい。3,000cm2/g未満では急結性が低下する場合があり、9,000cm2/gを越えてもさらなる効果が期待できない。
急結材の使用量は、セメントと急結材とからなる吹付材料 100重量部中、3〜15重量部が好ましく、5〜10重量部がより好ましい。この範囲外では良好な急結性が得られない場合がある。
【0014】
本発明で使用するセメントは、その中の SO3成分が3重量%以上であるポルトランドセメントである。
ポルトランドセメントは、石灰石等のカルシア原料とケイ石等のシリカ原料などを配合してキルンで焼成するなどして得られたセメントクリンカーを粉砕して製造されるもので、鉱物組成としてエーライト(3CaO・SiO2)やビーライト(2CaO・SiO2)などのカルシウムシリケートを主要水硬性鉱物として含有するものである。
セメント中の SO3成分量(以下SO3 量という)は、3重量%以上であり、3重量%を越える量が好ましく、3.5 〜6重量%がより好ましい。SO3 量が3重量%未満では良好な急結特性が得られるものの、強度発現性が不良となり、6重量%を越えて使用すると急結特性が低下する場合がある。
セメント中の SO3成分は、通常、エーライトなどの水和を制御する目的で、粉砕時にセッコウとしてセメントクリンカーに加えられるものである。
【0015】
本発明では必要に応じ骨材を使用することが可能である。
ここで、骨材としては、セメントコンクリートの分野で使用されるものであれば特に制限されるものではない。通常、ケイ砂、天然砂、及び砂利等が使用可能である。
骨材の使用量は、セメント 100重量部に対して、100 〜300 重量部が好ましく、200 〜250 重量部がより好ましい。100 重量部未満ではひび割れが発生しやすく、300 重量部を越えると強度発現性が悪くなる場合がある。
【0016】
本発明では必要に応じて、例えば、凝結調整剤、AE剤、減水剤、AE減水剤、流動化剤、増粘剤、保水剤、防水剤、発泡剤、起泡剤、メチルセルロース等の水中不分離性混和剤、防凍剤、防錆剤、着色剤(顔料)、水酸化カルシウム等のカルシウム含有化合物、高分子ポリマーエマルジョン(ラテックス)、ガラス繊維、カーボン繊維、及び銅織維等の繊維物質、並びに、高炉スラグ、フライアッシュ、及びシリカフューム等の混和材等の一種又は二種以上の添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0017】
本発明の吹付材料を製造する際は、例えば、傾胴ミキサー、オムニミキサー、V型ミキサー、ヘンシェルミキサー、及びナウターミキサー等の既存の混合・撹拌装置の使用が可能である。
また、混合はそれぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部又全部を混合しておいても差し支えない。
さらに、養生方法も特に限定されるものではなく、一般に行われている養生方法が適用可能である。
【0018】
本発明の吹付材料は、乾式法や湿式法いずれの吹付工法にも使用可能である。例えば、最大骨材寸法10mm程度の粗骨材を用い、水セメント比(W/C)45%、細骨材率(S/a)60%のコンクリート配合を用いることができる。
また、特に湿式法としては、例えば、水、セメント、細骨材、及び粗骨材をミキサーで混合したコンクリートを、10〜20m3/hrで空気圧送できる吹付機を使用して圧送したり、急結材は別にコンプレッサーを使用して圧送したりして、吹付機のノズル付近でコンクリートと混合して吹付ける工法が挙げられる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
【0020】
実施例1
カルシア原料、アルミナ原料、及びシリカ原料を混合し、1,600 ℃の電気炉で溶融した溶融物を高圧空気法で急冷し、さらに粉砕して、ブレーン値5,000 ±200cm2/gのCASガラスを調製した。CASガラス中のCaO は40重量%、Al2O3 は50重量%、SiO2は10重量%、及びNa2O eq.は0.01重量%以下であった。
調製したCASガラス 100重量部と無水物換算の硫酸アルミニウムα20重量部とを混合して急結材を調製した。急結材中のNa2O eq.は0.04重量%であった。
セメント 100重量部と急結材7重量部を混合した吹付材料 700重量部と、細骨材 2,100重量部とを小型卓上モルタルミキサーに投入し、低速で10秒間空練りし、その後、直ちに水 350重量部を添加して高速で10秒間混練してセメントモルタルとし、吹付材料として評価するために、その凝結の始発と終結をプロクター貫入抵抗で測定した。また、混練して得たモルタルの圧縮強度も測定した。結果を表1に併記する。
【0021】
カルシア原料:炭酸カルシウム、市販品
アルミナ原料:酸化アルミニウム、市販品
シリカ原料:酸化ケイ素、市販品
硫酸アルミニウムα:14〜18水塩、1 級試薬、Na2O eq.0.04重量%
セメントA:ポルトランドセメント、 SO3量 5.8重量%、Na2O eq.0.72重量%
セメントB:ポルトランドセメント、 SO3量 4.6重量%、Na2O eq.0.50重量%
セメントC:ポルトランドセメント、 SO3量 3.6重量%、Na2O eq.0.43重量%
セメントD:ポルトランドセメント、 SO3量 3.1重量%、Na2O eq.0.55重量%
セメントE:ポルトランドセメント、 SO3量 2.1重量%、Na2O eq.0.60重量%
細骨材 :新潟県姫川産川砂、比重2.62
水 :水道水
【0022】
<測定方法>
アルカリ金属:原子吸光分析により測定。ナトリウム以外のアルカリ金属はNa2Oに換算して積算し、Na2O eq.とした。
プロクター貫入抵抗:20℃の恒温室内で、混練したモルタルを振動バイブレーター上にセットした型枠内に突き棒で突きながら素早く詰め、注水後から所定の時間後に、針頭面積1/40in2 の針を挿入し、ASTM C 403−65 Tに準じて挿入時の圧力を測定した。
圧縮強度:混練して得たモルタルを4×4×16cmの型枠に詰め、所定時間後に型枠から外し、その後20℃で水中養生し、所定の材齢で強度を測定した。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例2
硫酸アルミニウムαの代わりに硫酸アルミニウムβを使用したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0025】
<使用材料>
硫酸アルミニウムβ:無水塩、1級試薬、Na2O eq.0.04重量%
【0026】
【表2】
【0027】
実施例3
セメントBと表3に示す硫酸アルミニウムαとを使用したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0028】
【表3】
【0029】
実施例4
セメントBと表4に示す急結材とを使用したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0030】
【表4】
【0031】
実施例5
実施例1で調整したCASガラス 100重量部と、無水物換算の表5に示す硫酸アルミニウム20重量部とを混合して急結材を調製し、セメント 100重量部に対して、7重量部混合した。
各材料の単位量を、セメント360kg/m3、細骨材1,130kg/m3、粗骨材756kg/m3、及び水162kg/m3とし、最大骨材寸法10mm、細骨材率60%のコンクリート配合で製造したコンクリートを、乾式吹付機又は湿式吹付機を用いて、高さ 3.5m、幅3mの模擬トンネルで吹付試験を実施し、リバウンド率を測定した。結果を表5に併記する。
なお、乾式では、空練りした、セメント、骨材、及び急結材の混合物を圧搾空気で輸送し、吹付直前に水を添加混合して、ノズルから施工面に吹付け、湿式法では、水と混練したコンクリートを輪送し、その途中で急結材を添加混合し、ノズルから吹付けた。
【0032】
<使用材料>
粗骨材 :新潟県姫川産砂利、比重2.66
【0033】
<測定方法>
リバウンド率:吹付に使用した吹付材料の量と、吹付けたときに付着しないで落下したコンクリートの跳ね返り量との比。
【0034】
【表5】
【0035】
【発明の効果】
本発明の吹付材料は、アルカリ金属成分量が少ないため作業境境や周囲の環境への悪影響がなく、しかも優れた急結特性や強度発現性を有する。
Claims (3)
- アルミノケイ酸カルシウムガラスと硫酸アルミニウムとを有効成分とする急結材と、SO3成分4.6 〜6重量%以上含有のセメントとを含有してなる急結性吹付コンクリート。
- (1) SO 3 成分 4.6 〜6重量%含有のセメントを含有してなるコンクリートと、(2)アルミノケイ酸カルシウムガラスと硫酸アルミニウムとを有効成分とする急結材とを混合してなる急結性吹付コンクリートを吹付けることを特徴とする吹付工法。
- (1’)水、 SO 3 成分 4.6 〜6重量%含有のセメント、骨材を混合したコンクリートを輪送し、輸送する途中で、(2’)アルミノケイ酸カルシウムガラスと硫酸アルミニウムとを有効成分とし、かつ、急結材中のアルカリ金属成分の総量が酸化ナトリウム換算で 0.75 重量%以下である急結材を混合して急結性吹付コンクリートとし、この急結性吹付コンクリートを吹付けることを特徴とする湿式吹付工法。
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