JP4092860B2 - ヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物の製造方法に関する。詳しくは、ヨウ化芳香族炭化水素のヨウ素を過酢酸によりアセチル化する方法の改良に関する。
ヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物、例えばヨードソベンゼンジアセテートは、オレフィンからグリコールジアセテートを、芳香族アミンの対応するアゾ化合物への酸化、N−アリールアセトアミドの環アセチル化、等のための試薬として用いられる。
【0002】
【従来の技術】
ヨウ化芳香族炭化水素のヨウ素を過酢酸によりアセチル化する方法については、従来から知られている。例えば、Org.Synthesis,Collect.Vol.V,660には、ヨードベンゼンを40%過酢酸を用いてアセチル化して、ヨードソベンゼンジアセテートを得る方法が記載されている。
【0003】
アセチル化に用いる過酢酸は、通常、硫酸等の触媒の存在下に酢酸を過酸化水素で酸化して調製される。この反応は次式のような平衡反応である。
【0004】
【化1】
Figure 0004092860
アセチル化試薬としての過酢酸は濃度が高い方が反応に有利である。高濃度の過酢酸を得るためには、例えば前記の平衡混合物から水を共沸又は減圧で除けば、平衡が右へずれて高濃度の過酢酸が得られるが、この濃縮操作は危険であるので、通常は、過酸化水素の濃度の高いものを試薬として用いて高濃度の過酢酸を調製し、過酢酸の外、過酸化水素、酢酸、水等を含むこの反応混合物を過酢酸として用いる。
【0005】
しかしながら、50%以上の濃度の過酸化水素については、消防法の適用を受け、特殊容器による保管、運搬が必要であり、また市町村長への届出等も必要となり、取扱上の制約が厳しいという問題がある。
一方、過酢酸によるヨードベンゼン(IB)のアセチル化について検討したところ、反応生成物であるヨードソベンゼンジアセテート(IDA)は反応系内に残存する過酸化水素と反応して、元のヨードベンゼンに戻ると共に、酸素が発生するという逆反応も起こることが判明した。
【0006】
【化2】
IDA+H2 2 → IB+2AcOH+O2
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、50%以上の濃度の過酸化水素については、法的な規制が厳しく、取扱い上の制約が大きいという問題点がある。一方、反応系内に過酸化水素が残存していると逆反応が起こり、反応生成物が元に戻り、しかも酸素が発生するという危険もある。
【0008】
本発明は、過酢酸によりヨウ化芳香族炭水水素のアセチル化物を安全にしかも収率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意検討した結果、安全性に問題のない低濃度35%の過酸化水素を用いて、過酸化水素濃度の低い過酢酸溶液を調製し、これを試薬として用いたところ、意外にも、ヨードベンゼンのアセチル化物が高収率で得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、過酢酸、過酸化水素、酢酸、硫酸及び水を含有する過酢酸水溶液をヨウ化芳香族炭化水素に作用させてヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物を製造する方法において、過酢酸水溶液中の過酸化水素の濃度が5重量%未満であることを特徴とするヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物の製造方法、にある。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、過酢酸を用いてヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物を製造する際に、試薬として過酸化水素の濃度が5重量%未満である過酢酸水溶液を用いることを特徴とする。
本発明に用いられるヨウ化芳香族炭化水素とは、ヨウ素が芳香環に結合している芳香族炭化水素であれば、特に限定されるものではない。
【0012】
その具体例としては、例えばヨードベンゼン、o−、m−、φ−ヨードトルエン、2,4−ヨード−m−キシレン、2−ヨード−p−キシレン、o−ヨードフェネトール、4−ヨードビフェニル、等が挙げられる。
本発明に用いられる過酢酸とは、過酢酸、過酸化水素、酢酸、硫酸、水を含むいわゆる過酢酸水溶液であって、過酸化水素の濃度が5重量%未満、好ましくは3重量%未満のものを指す。なお、ヨウ化芳香族炭化水素1モルに対する過酢酸の使用量(モル比)は、通常、3モル未満、好ましくは2.5モル未満である。
【0013】
かかる過酢酸水溶液の調製方法については、特に限定はされないが、その具体例としては、例えば少量の硫酸を含む(氷)酢酸水溶液に過酸化水素を、好ましくは冷却下に、好ましくは緩やかな撹拌下に、少しずつ加え、混合して調製するか、或いは市販の高濃度の過酸化水素溶液に、好ましくは冷却下に、好ましくは緩やかな撹拌下に、少量の硫酸と、酢酸又は水を加えて希釈することにより調製することができる。
【0014】
これらの過酢酸溶液中のH2 2 やAcOOHは、微量の金属の影響で分解することがあるため、これら微量金属と塩ないしは錯体を作るマスキング剤を添加することもできる。マスキング剤としては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等の一般的なマスキング剤を金属に応じて適宜選択して用いることができる。なお、溶媒としては、水が好ましい。水の使用量は、ヨウ化芳香族炭化水素1重量部に対して、通常、0.1〜20重量部である。
【0015】
ヨウ化芳香族炭化水素、例えばヨードベンゼンのアセチル化反応については、例えば反応器にヨードベンゼン及び水を仕込み、好ましくは冷却下に、好ましくは緩やかな撹拌下に、過酢酸水溶液を滴下して行われる。反応温度は、通常、0〜90℃、好ましくは0〜40℃であり、反応時間は、通常0.5〜20時間である。
【0016】
滴下終了後、0〜90℃で、更に0.5〜20時間撹拌を続けて熟成を行い反応は終了する。反応の進行に伴い、目的生成物のアセチル化物の結晶が析出する。この結晶を濾過し、乾燥して、ヨードソベンゼンジアセテートが得られる。
【0017】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り実施例に限定されるものではない。なお、%は重量%である。
(実施例1)
硫酸1重量部を含む氷酢酸79重量部に35%過酸化水素水溶液20重量部を加えて、過酢酸12.1%、過酸化水素1.5%及び酢酸、硫酸、水を含む過酢酸水溶液を調製した。
【0018】
撹拌機及びジャケット付きの800ccのセパラブルフラスコにヨードベンゼン(IB)35g及び水35gを仕込み、水冷下、緩やかに撹拌しながら30℃で、前記の過酢酸水溶液194g(AcOOH/IB=1.8(モル比))を2時間かけて滴下した。滴下終了後、4時間熟成し、得られた結晶を濾過し、乾燥したところ、収率86%でヨードソベンゼンジアセテート(IDA)が得られた。
【0019】
(実施例2)
過酢酸12.3%、過酸化水素1.5%、酢酸、硫酸、水を含む過酢酸水溶液236g(AcOOH/IB=2.2(モル比))を用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。IDAの収率は84%であった。
(実施例3)
過酢酸12.5%、過酸化水素1.6%、酢酸、硫酸、水を含む過酢酸水溶液(AcOOH/IB=1.5(モル比))156gを用いた外は、実施例1と同様にして反応を行った。IDAの収率は83%であった。
【0020】
(実施例4)
硫酸1重量部含む氷酢酸69重量部に60%過酸化水素水溶液30重量部加えて、過酢酸27%、過酸化水素4.8%、酢酸、硫酸、水を含む過酢酸水溶液(AcOOH/IB=2.2(モル比))152g、IB50g及び水50gを用いた外は実施例1と同様にして反応を行った。IDAの収率は84%であった。
【0021】
(比較例1)
硫酸1重量部含む氷酢酸69重量部に60%過酸化水素水溶液30重量部加えて、過酢酸27.5%、過酸化水素5.5%、酢酸、硫酸、水を含む過酢酸水溶液(AcOOH/IB=1.5(モル比))98gを用いた外は実施例4と同様にして反応を行った。IDAの収率は41%であった。
【0022】
(比較例2)
過酢酸27.3%、過酸化水素5.2%、酢酸、硫酸、水を含む過酢酸水溶液(AcOOH/IB=1.8(モル比))124gを用いた外は比較例1と同様にして反応を行った。IDAの収率は68%であった。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、過酢酸によりヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物を安全に且つ収率よく製造することができる。

Claims (4)

  1. 過酢酸、過酸化水素、酢酸、硫酸及び水を含有する過酢酸水溶液をヨウ化芳香族炭化水素に作用させてヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物を製造する方法において、過酢酸水溶液中の過酸化水素の濃度が5重量%未満であることを特徴とするヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物の製造方法。
  2. ヨウ化芳香族炭化水素1モルに対する過酢酸の添加量が3モル未満である請求項1に記載のヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物の製造方法。
  3. ヨウ化芳香族炭化水素が置換基を有していてもよいヨードベンゼンである請求項1又は2に記載のヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物の製造方法。
  4. ヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物が置換基を有していてもよいヨードソベンゼンジアセテートである請求項3に記載のヨウ化芳香族炭化水素のアセチル化物の製造方法。
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