JP4085598B2 - 車両の駆動力制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえばハイブリッド車両の発進走行などを容易とするための車両の駆動力制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両において、エンジン(内燃機関)の要求トルクとそのエンジン目標回転速度とに基づいて定まる出力トルクとなるようにそのエンジンを制御するようにした車両の駆動力制御装置が知られている。たとえば、特開平11−262106号公報に記載されたハイブリッド車両の駆動制御装置がそれである。これによれば、トルク増幅モードすなわちアシスト走行モードにおいて、エンジンと電動機の出力トルクとを合成して走行している状態では、要求出力の変化に対して駆動力をなめらかに変化させることができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のような車両の駆動制御装置では、車両の発進などに際してエンジンからの駆動力の伝達を制御する摩擦係合装置を滑らせつつ車両の駆動力を制御するときの制御に関しては何ら考慮されておらず、従来同様にアクセルペダル操作量の変化に応答したエンジン回転速度変化を伴うエンジン出力トルクをエンジン要求トルクの変化に対応したものとして利用する場合には、車両の発進時などにおいて要求出力に応じて的確且つ速やかに駆動力を変化させることができないという不都合があった。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両の発進時などにおいて要求出力に応じて速やか且つ的確に駆動力を変化させることができる車両の駆動制御装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、エンジンからの動力を摩擦係合装置を滑らしつつ車軸に伝達する車両の駆動力制御装置において、ドライバー要求トルクと予め設定された目標エンジン回転速度とに基づいてエンジン要求トルクを決定し、そのエンジン要求トルクが得られ且つエンジン回転速度が上記予め設定された目標エンジン回転速度となるように前記エンジンを定回転制御するとともに、前記目標エンジン回転速度と実際のエンジン回転速度との定回転制御偏差が小さくなるように前記ドライバー要求トルクとエンジン要求トルクとの差に基づいてそのエンジン要求トルクを補正することにある。
【0006】
【発明の効果】
このようにすれば、ドライバー要求トルクが急変すると、そのドライバー要求トルクと予め設定された目標エンジン回転速度とに基づいて決定されるエンジン要求トルクも変化させられ、そのエンジン要求トルクが得られ且つエンジン回転速度が上記予め設定された目標エンジン回転速度となるように前記エンジンが定回転制御されることから、ドライバー要求トルクの変化があったときすなわちアクセルペダルの操作があったときにエンジン回転速度を変化させる場合に比較して、エンジン出力の一部がエンジン回転速度変化に消費されないので、エンジン要求トルクの変化に応じて変化させられるエンジン出力の大半が駆動力に用いられて、的確且つ速やかにドライバ要求トルクを満足させることができる。また、前記目標エンジン回転速度と実際のエンジン回転速度との定回転制御偏差が小さくなるように前記ドライバー要求トルクとエンジン要求トルクとの差に基づいてそのエンジン要求トルクが補正されるので、エンジンの定回転制御における制御偏差が小さくなってその偏差を解消するための操作量が小さくされてエンジンの定回転制御が安定する利点がある。
【0007】
【発明の他の態様】
ここで、好適には、ドライバー要求トルクを発生させ、且つエンジン回転速度を予め設定された目標回転速度に一致させるようにスロットル弁開度を制御するためのエンジン定回転制御手段と、ドライバー要求トルクに対応する駆動力を得るために摩擦係合装置の伝達トルク容量を制御する伝達トルク容量制御手段とが設けられる。上記エンジン定回転制御手段は、ドライバー要求トルクに対応する基本要求駆動トルクを算出する基本要求トルク算出手段と、エンジン回転速度を予め設定された目標回転速度に一致させるための定回転制御トルクすなわちフィードバック制御トルクを算出する定回転制御トルク算出手段とを含み、それら基本要求駆動トルクと定回転制御トルクとの加算値をエンジン要求トルクとして算出するエンジン要求トルク算出手段を有している。
【0008】
また、好適には、前記車両の駆動力制御装置は、前記エンジン要求トルクが得られ且つエンジン回転速度が上記予め設定された目標エンジン回転速度となるように前記エンジンを定回転制御すると同時に、ドライバーの要求トルクが得られるように前記摩擦係合装置の伝達トルク容量を制御するものである。このようにすれば、摩擦係合装置の係合トルク制御に応答して的確且つ速やかにドライバーの要求トルクが得られる。
【0009】
また、好適には、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量は、前記ドライバ要求トルクと前記エンジン要求トルクとの差に基づいて補正されるものである。このようにすれば、ドライバ要求トルクとエンジン要求トルクとの差に基づいてその差が減少するように摩擦係合装置の伝達トルク容量が補正される。たとえば、そのドライバ要求トルクとエンジン要求トルクとの差が所定値を超えたときにはその差が解消される方向のトルク容量補正値を算出するトルク容量補正値算出手段と、そのトルク容量補正値算出手段により算出されたトルク容量補正値を前記摩擦係合装置の伝達トルク容量に加算することにより学習補正する回転過大補正手段とが設けられる。このため、エンジンの定回転制御における制御偏差が小さくなってその偏差を解消するための操作量が小さくされてエンジンの定回転制御が安定する利点がある。
【0010】
また、好適には、前記エンジン要求トルクは、前記ドライバ要求トルクと前記エンジン要求トルクとの差に基づいて補正されるものである。このようにすれば、ドライバ要求トルクとエンジン要求トルクとの差に基づいてその差が減少するようにエンジン要求トルクが補正される。たとえば、そのドライバ要求トルクとエンジン要求トルクとの差が所定値を超えたときにはその差が解消される方向のエンジン要求トルクを学習補正するエンジン要求トルク補正手段が設けられる。このため、エンジンの定回転制御における制御偏差が小さくなってその偏差を解消するための操作量が小さくされてエンジンの定回転制御が安定する利点がある。
【0011】
また、好適には、前記エンジン回転速度またはその変化率が所定値よりも低い状態となると、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量が所定値だけ減少補正される。たとえば、エンジン回転速度の低下量或いは低下率が所定値を超えたか否かを判定し、超えた場合にはその回転速度低下を抑制するために前記摩擦係合装置の伝達トルク容量を減少補正する回転低下補正手段が設けられる。このようにすれば、エンジンの定回転制御における制御偏差が小さくなってその偏差を解消するための操作量が小さくされてエンジンの定回転制御が安定する利点がある。
【0012】
また、好適には、前記摩擦係合装置は係合油圧の作用に応じて伝達トルク容量を変化させる油圧式摩擦係合装置であり、その油圧式摩擦係合装置のスリップ回転速度に基づいてその摩擦係数を決定する摩擦係数算出手段と、その摩擦係数算出手段により算出された摩擦係数に基づいて係合油圧を算出する係合圧算出手段とが設けられる。このようにすれば、実際のスリップ回転速度に基づいて算出された摩擦係数から係合油圧が算出されるので、油圧式摩擦係合装置伝達トルク容量の制御精度が高められる。
【0013】
【発明の好適な実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両のハイブリッド制御装置10を説明する概略構成図であり、図2は図1のハイブリッド車両の動力伝達系すなわち変速機12を含む動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【0014】
図1および図2において、ハイブリッド車両の動力伝達系は、供給された燃料の燃焼でその供給量に応じた大きさの動力すなわち出力トルクを発生する内燃機関であるエンジン14、電動機および発電機として機能するフロントモータジェネレータ(以下、FMGという)16、およびダブルピニオン型の遊星歯車装置18を備えて構成されており、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などに横置きに搭載されて使用される。遊星歯車装置18のサンギヤ18sにはエンジン14が連結され、キャリア18cにはモータジェネレータ16が連結され、リングギヤ18rは第1ブレーキB1を介してケース20に連結されるようになっている。また、キャリア18cは第1クラッチC1を介して変速機12の入力軸22に連結され、リングギヤ18rは第2クラッチC2を介して入力軸22に連結されるようになっている。上記エンジン14およびFMG16はハイブリッド車両の原動機として機能し、遊星歯車装置18は歯車式差動装置であって動力の合成分配機構として機能している。
【0015】
上記クラッチC1、C2および第1ブレーキB1は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられるバンド式或いは湿式多板式の油圧式摩擦係合装置であり、たとえば図3に示す油圧制御回路24から供給される作動油によって摩擦係合させられるようになっている。図3は、油圧制御回路24の要部を示す図であり、図示しない電動ポンプを含む電動式油圧発生装置26で発生させられた元圧PCが、マニュアルバルブ28を介してシフトレバー30(図1参照)のシフトポジションに応じて各クラッチC1、C2、ブレーキB1へ供給されるようになっている。シフトレバー30は、運転者によって操作されるシフト操作部材で、本実施例では「B」、「D」、「N」、「R」、「P」の5つのシフトポジションに選択操作されるようになっており、マニュアルバルブ28はケーブルやリンク等を介してシフトレバー30に連結され、そのシフトレバー30の操作に従って機械的に切り換えられるようになっている。
【0016】
「B」ポジションは、前進走行時に変速機12のダウンシフトなどにより比較的大きな動力源ブレーキが発生させられるシフトポジションで、「D」ポジションは前進走行するシフトポジションであり、これ等のシフトポジションでは出力ポート28aからクラッチC1およびC2へ元圧PCが供給される。第1クラッチC1へは、シャトル弁31を介して元圧PCが供給されるようになっている。「N」ポジションは動力源からの動力伝達を遮断するシフトポジションで、「R」ポジションは後進走行するシフトポジションで、「P」ポジションは動力源からの動力伝達を遮断するとともに図示しないパーキングロック装置により機械的に駆動輪の回転を阻止するシフトポジションであり、これ等のシフトポジションでは出力ポート28bから第1ブレーキB1へ元圧PCが供給される。出力ポート28bから出力された元圧PCは戻しポート28cへも入力され、上記「R」ポジションでは、その戻しポート28cから出力ポート28dを経てシャトル弁31から第1クラッチC1へ元圧PCが供給されるようになっている。
【0017】
クラッチC1、C2、およびブレーキB1には、それぞれコントロール弁32、34、36が設けられ、それ等の油圧PC1、PC2、PB1が制御されるようになっている。クラッチC1の油圧PC1についてはON−OFF弁38によって調圧され、クラッチC2およびブレーキB1についてはリニアソレノイド弁40によってそれぞれの係合圧PC2およびPB1が調圧されるようになっている。
【0018】
そして、上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1の作動状態に応じて、図4に示す各走行モードが成立させられる。すなわち、「B」ポジションまたは「D」ポジションでは、「ETCモード」、「直結モード」、「モータ走行モード(前進)」の何れかが成立させられ、「ETCモード」では、第2クラッチC2を係合するとともに第1クラッチC1および第1ブレーキB1を開放した状態、言い換えればサンギヤ18s、キャリア18c、およびリングギヤ18rが相対回転可能な状態で、エンジン14およびFMG16を共に作動させてサンギヤ18sおよびキャリア18cにトルクを加え、リングギヤ18rを回転させて車両を前進走行させる。「直結モード」では、クラッチC1、C2を係合するとともに第1ブレーキB1を開放した状態で、エンジン14を作動させて車両を前進走行させる。「直結モード」ではまた、バッテリ42(図1参照)の蓄電量(残容量)SOCに応じて、FMG16を力行制御するとともにその分だけエンジントルクを削減したり、FMG16を発電制御するとともにその分だけエンジントルクを増加させたりすることにより、蓄電量SOCを例えば充放電効率が優れた適正な範囲内に保持するようになっている。また、「モータ走行モード(前進)」では、第1クラッチC1を係合するとともに第2クラッチC2および第1ブレーキB1を開放させることにより、エンジン14を切り離した状態でFMG16だけで車両を駆動して前進走行させる。上記第2クラッチC2は、「直結モード」から「モータ走行モード」への切換時に解放させられて、エンジン14を動力伝達系から切り離すものであるので、エンジン14と駆動輪52或いは変速機12との間で動力を伝達し或いは遮断する動力伝達開閉装置として機能している。
【0019】
図5は、上記前進モードにおける遊星歯車装置18の作動状態を示す共線図であり、縦軸「S」はサンギヤ18sの回転速度、縦軸「R」はリングギヤ18rの回転速度、縦軸「C」はキャリア18cの回転速度を表しているとともに、それ等の間隔はギヤ比ρ(=サンギヤ18sの歯数/リングギヤ18rの歯数)によって定まる。具体的には、「S」と「C」の間隔を1とすると、「R」と「C」の間隔がρになり、本実施例ではρが0.6程度である。また、(a) のETCモードにおけるトルク比は、エンジントルクTe:CVT入力軸トルクTin:モータトルクTm=ρ:1:1−ρであり、モータトルクTmはエンジントルクTeより小さくて済むとともに、定常状態ではそれ等のモータトルクTmおよびエンジントルクTeを加算したトルクがCVT入力軸トルクTinになる。CVTは無段変速機の意味であり、本実施例では変速機12としてベルト式無段変速機が設けられている。
【0020】
図4に戻って、「N」ポジションまたは「P」ポジションでは、「ニュートラル」または「充電・Eng始動モード」の何れかが成立させられ、「ニュートラル」ではクラッチC1、C2および第1ブレーキB1の何れも開放する。「充電・Eng始動モード」では、クラッチC1、C2を開放するとともに第1ブレーキB1を係合し、FMG16を逆回転させてエンジン14を始動したり、エンジン14により遊星歯車装置18を介してFMG16を回転駆動するとともに発電制御することにより、電気エネルギーを発生させてバッテリ42を充電したりする。
【0021】
「R」ポジションでは、「モータ走行モード(後進)」または「フリクション走行モード」が成立させられ、「モータ走行モード(後進)」では、第1クラッチC1を係合するとともに第2クラッチC2および第1ブレーキB1を開放した状態で、FMG16を逆方向へ回転駆動してキャリア18c、更には入力軸22を逆回転させることにより車両を後進走行させる。「フリクション走行モード」は、上記「モータ走行モード(後進)」での後進走行時にアシスト要求が出た場合に実行されるもので、エンジン14を始動してサンギヤ18sを正方向へ回転させるとともに、そのサンギヤ18sの回転に伴ってリングギヤ18rが正方向へ回転させられている状態で、第1ブレーキB1をスリップ係合させてそのリングギヤ18rの回転を制限することにより、キャリア18cに逆方向の回転力を作用させて後進走行をアシストするものである。
【0022】
前記変速機12はベルト式無段変速機であり、その出力軸44からカウンタ歯車46を経て差動歯車装置48のリングギヤ50に動力が伝達され、その差動歯車装置48により左右の駆動輪(本実施例では前輪)52に動力が分配される。変速機12は、一対の可変プーリ12a、12bを備えており、油圧シリンダによってV溝幅が変更されることにより変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout )が連続的に変化させられるとともに、ベルト張力が調整されるようになっている。前記油圧制御回路24は、変速機12の変速比γやベルト張力を制御するための回路を備えており、共通の電動式油圧発生装置26から作動油が供給される。油圧制御回路24の作動油はまた、オイルパンに蓄積されて遊星歯車装置18や差動装置48を潤滑するとともに、一部がFMG16に供給されて、FMG16のハウジング内を流通したりハウジングに形成された冷却通路を流通したりハウジングに接して流通したりすることにより、そのFMG16を冷却するようになっている。
【0023】
本実施例のハイブリッド制御装置10において、ハイブリッド用電子制御装置(以下、HVECUという)60は、CPU、RAM、ROM等を備えていて、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を実行することにより、電子スロットルECU62、エンジンECU64、M/GECU66、T/MECU68、前記油圧制御回路24のON−OFF弁38、リニアソレノイド弁40、エンジン14のスタータなどとして機能するスタータモータジェネレータ(以下、SMGという)70などを制御する。電子スロットルECU62はエンジン14の電子スロットル弁72の開度を図示しないアクチュエータを用いて制御するものである。エンジンECU64はエンジン14の燃料噴射量や可変バルブタイミング機構、点火時期などによりエンジン出力を制御するものである。M/GECU66はインバータ74を介してFMG16の力行トルクや回生制動トルク等を制御するものである。T/MECU68は変速機12の変速比γやベルト張力などを制御するものである。上記SMG70は電動機および発電機として機能するものであってエンジン14に作動的に連結されており、ベルト或いはチェーンなどの動力伝達装置を介してエンジン14のクランクシャフトに連結されている。
【0024】
上記HVECU60には、アクセル操作量センサ76からアクセル操作部材としてのアクセルペダル78の操作量θacを表す信号が供給されるとともに、シフトポジションセンサ80からシフトレバー30により選択操作されたPポジション、Rポジション、Nポジション、Dポジション、Bポジション、SD(スポーツドライブ)ポジションなどのシフトポジションを表す信号が供給される。また、エンジン回転速度センサ82、モータ回転速度センサ84、入力軸回転速度センサ86、出力軸回転速度センサ88、CVT油温センサ90から、それぞれエンジン回転速度(回転数)Ne、モータ回転速度(回転数)Nm、入力軸回転速度(入力軸22の回転速度)Nin、出力軸回転速度(出力軸44の回転速度)Nout 、油圧制御回路24の作動油の温度THCVT を表す信号がそれぞれ供給される。出力軸回転速度Nout は車速Vに対応する。この他、バッテリ42の蓄電量SOCなど、運転状態を表す種々の信号が供給されるようになっている。蓄電量SOCは単にバッテリ電圧であっても良いが、充放電量を逐次積算して求めるようにしても良い。上記アクセル操作量θacは運転者の出力要求量に相当するものであり、前記電子スロットル弁72の開度は基本的にはそのアクセル操作量θacに応じて制御される。
【0025】
図6は、上記ハイブリット用電子制御装置であるHVECU60の制御機能の要部すなわち車両の前進或いは後進などの発進時において要求出力に応じて速やか且つ的確に駆動力を変化させることができる車両の駆動制御機能を説明する機能ブロック線図である。図6に示す車両の駆動力制御装置は、エンジン要求トルクTe が得られ且つエンジン回転速度Ne が予め設定された目標エンジン回転速度Netとなるようにエンジン14を定回転制御すると同時に、ドライバーの要求トルクTFFが得られるようにブレーキB1の伝達トルクTB1を制御するものである。
【0026】
図6において、走行モード判定手段100は、車両の走行モードが、ブレーキB1をすべらせつつ駆動力を滑らかに高めて後進方向へ発進するためのフリクション走行モードであるか否かを、シフトレバー30の操作位置がRポジションであること、駆動力を必要とする坂路であること或いはFMG16を使用できないSOCが所定値以下であることなどに基づいて判定する。
【0027】
上記走行モード判定手段100によりフリクション走行モードであると判定されると、エンジン定回転制御手段102は、予め記憶された制御式(1) を用いて、ドライバー要求トルクを発生させ且つエンジン回転速度を予め設定された目標回転速度に一致させるように電子スロットル弁72の開度を制御し、同時に、伝達トルク容量制御手段104は、アクセルペダル78の操作量θacに対応するドライバー要求トルク(車両全体への要求駆動トルク)TD に見合った駆動力(駆動トルク)、すなわちそのドライバー要求トルクTD からFMG16の出力トルクTm を差し引いた基本要求駆動トルクTFFを発生するようにブレーキB1(油圧式摩擦係合装置)をスリップさせ、その伝達トルク容量すなわち係合トルクTB1を制御する。制御式(1) において、eは定回転制御偏差(=Net−Ne )であり、Ne (r.p.m)は実際のエンジン回転速度、Netはたとえば1200(r.p.m)程度の回転速度に予め設定された目標回転速度である。この目標回転速度Netは車両の発進時に必要とされるエンジン出力トルクTe が十分に得られる値に設定されている。
【0028】
制御式(1)
Te =TFF+[KP ・e+KI ・∫edt+KD ・de/dt]
【0029】
上記エンジン定回転制御手段102は、上記制御式(1) の右辺第1項の基本要求トルクTFFをアクセルペダル78の操作量θacに基づいて算出する、すなわちアクセルペダル78の操作量θacに対応するドライバー要求トルク(車両全体への要求駆動トルク)TD からそのときのFMG16の出力トルクTm を差し引いたエンジン14への基本要求トルクTFFを求める基本要求トルク算出手段103と、上記制御式(1) の右辺第2項の定回転制御トルクすなわちフィードバック制御操作量(操作トルク)を算出する定回転制御トルク算出手段106とを含み、それら基本要求駆動トルクTFFと定回転制御トルクとの加算値をエンジン要求トルクTe として算出するエンジン要求トルク算出手段108を、備えている。
【0030】
要求トルク制限手段110は、上記のようにして求められたエンジン要求トルクTe がそのときのエンジン回転速度Ne における最大スロットル開度におけるエンジン出力トルクTWOT よりも大きいか否かを判定し、大きいと判定される場合はエンジン要求トルクTe をTWOT に制限する。
【0031】
エンジン回転過大判定手段112は、エンジン回転速度Ne が過大であるか否かを、たとえば基本要求トルクTFFとエンジン要求トルクTe との差(TFF−Te )に基づいてすなわち制御式(1) の右辺第2項である定回転制御トルクが所定値以下の負の値となったか否かに基づいて判定する。この所定値は、定回転制御偏差(=Net−Ne )が制御式(1) により定回転制御が迅速に応答できる範囲を超えたことを判定できるように予め設定された値である。トルク容量補正値算出手段114は、上記エンジン回転過大判定手段112によりエンジン回転速度Ne が過大であると判定された場合は、定回転制御偏差(=Net−Ne )を小さくする学習補正のために、伝達トルク容量制御手段104において用いられるように予め定められた一定のトルク容量補正値ΔTB1を算出する。エンジン要求トルク学習補正手段116は、上記エンジン回転過大判定手段112によりエンジン回転速度Ne が過大であると判定された場合は、定回転制御偏差(=Net−Ne )を小さくする学習補正のために、予め定められた一定のエンジン要求トルク補正値ΔTe を算出し、制御式(1) により算出されたエンジン要求トルクTe にそのエンジン要求トルク補正値ΔTe を加算することにより学習補正する。
【0032】
伝達トルク容量制御手段104において、基本要求トルク制限手段120は、前記基本要求トルク算出手段103により算出された基本要求トルクTFFが最大スロットル開度におけるエンジン出力トルクTWOT よりも大きいか否かを判定し、大きいと判定される場合は基本要求トルクTFFをTWOT に制限する。係合トルク算出手段122は、予め記憶された関係(TFF=C×TB1 (但しCは遊星歯車装置18のギヤ比))から実際の基本要求トルクTFFに基づいてブレーキB1の係合トルクTB1を算出する。回転過大学習補正手段124は、前記定回転制御偏差(=Net−Ne )を小さくするために、トルク容量補正値算出手段114により求められたトルク容量補正値ΔTB1を上記ブレーキB1の係合トルクTB1に加算することにより学習補正を行う。
【0033】
回転急低下補正手段126は、エンジン回転速度Ne の単位時間あたりの低下量ΔNe 或いは低下率ΔNe /dtが所定値Bよりも低い状態となるとすなわちエンジン回転速度Ne の急低下が発生すると、その急低下を阻止するように、ブレーキB1の係合トルク(伝達トルク容量)TB1が、上記単位時間あたりの低下量ΔNe 或いは低下率ΔNe /dtに応じた大きさの所定値ΔTB1だけリアルタイムで減少補正する。すなわち、回転急低下補正手段126は、エンジン回転速度Ne の単位時間当たりのΔNe 或いは低下率ΔNe /dtが所定値Bを超えたか否かを判定し、超えた場合にはその回転速度低下を抑制するためにブレーキB1の係合トルクTB1を単位時間あたりの低下量ΔNe 或いは低下率ΔNe /dtに応じて減少補正する。上記所定値Bは、エンジン回転速度Neの急低下を判定するために予め求められたものであり、低下率ΔNe/dtを判定する場合には負の値となる。
【0034】
摩擦係数算出手段128は、予め記憶された関係すなわち摩擦係数μとスリップ回転速度Vとの関係から実際のブレーキB1のスリップ回転速度に基づいてブレーキB1の摩擦板の摩擦係数μを算出する。この関係は、たとえばスリップ回転速度が増加するほど摩擦係数μが低下するものである。係合圧算出手段130は、予め記憶された関係[TB1=f(μ,PB1,S) 但しSjは摩擦板の有効摩擦面積]から、上記摩擦係数算出手段128により求められた摩擦係数μと、係合トルク算出手段122により算出され、回転過大学習補正手段124および回転急低下補正手段126により補正されたブレーキB1の係合トルクTB1とに基づいて、その係合トルクTB1を得るためのブレーキB1の係合油圧PB1を算出し、そのブレーキB1の係合油圧がその値PB1となるように油圧制御回路24を制御する。
【0035】
図7および図8は、上記ハイブリット用電子制御装置であるHVECU60の制御作動の要部すなわち車両の前進或いは後進などの発進時において要求出力に応じて速やか且つ的確に駆動力を変化させることができる車両の駆動制御作動を説明するフローチャートであり、図7はエンジン回転速度制御ルーチンを、図8は伝達トルク容量制御ルーチンをそれぞれ示している。この図7および図8の制御ルーチンは、数ミリ秒乃至十数ミリ秒の周期で繰り返し実行される。なお、上記図7および図8は、車両の走行モードが、ブレーキB1をすべらせつつ駆動力を滑らかに高めて後進方向へ発進するためのフリクション走行モードであると判定されたときに実行される。また、図6の走行モード判定手段100に対応するステップはよく知られたものであるのでそのステップが省略されている。
【0036】
図7において、前記基本要求トルク算出手段103に対応するSA1では、たとえば図9に示す予め記憶された関係から実際のアクセルペダル78の操作量θacに基づいて基本要求トルクTFFが算出される。この基本要求トルクTFFはエンジン14に対するドライバーの要求トルクに対応するものであり、たとえば、アクセルペダル78の操作量θacに対応する車両に対する要求駆動トルクからその時のFMG16の出力トルクTm を差し引くことにより求められる。次いで、前記定回転制御トルク算出手段106に対応するSA2では、前記制御式(1) の右辺第2項の定回転制御トルク(定回転フィードバック値)すなわちフィードバック制御操作量(フィードバック制御操作トルク)が算出される。そして、前記エンジン要求トルク算出手段108に対応するSA3では、前記制御式(1) から上記基本要求駆動トルクTFFおよび定回転制御トルクに基づいて、エンジン14に対するエンジン要求トルクTe が算出される。
【0037】
次いで、前記要求トルク制限手段110に対応するSA4およびSA5が実行される。先ずSA4では、上記エンジン要求トルクTe がそのときのエンジン回転速度Ne における最大スロットル開度におけるエンジン出力トルクTWOT よりも大きいか否かが判定される。このSA4の判断が否定される場合はSA6以下が実行されるが、肯定される場合はSA5においてエンジン要求トルクTe が上記TWOT に制限されてからSA6以下が実行される。
【0038】
前記エンジン回転過大判定手段112に対応するSA6では、基本要求トルクTFFとエンジン要求トルクTe との差(TFF−Te )に基づいてすなわち制御式(1) の右辺第2項である定回転制御トルクが所定値以下の負の値となったか否かに基づいて、エンジン回転速度Ne が過大であるか否かが判断される。このSA6の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられて図示しないステップにより、上記エンジン要求トルクTe が得られるように電子スロットル弁72が制御される。しかし、上記SA6の判断が肯定される場合は、前記トルク容量補正値算出手段114およびエンジン要求トルク学習補正手段116に対応するSA7において、定回転制御偏差(=Net−Ne )を小さくする学習補正のために、伝達トルク容量制御手段104(SB4)において用いられるように予め定められた一定のトルク容量補正値ΔTB1が算出されるとともに、定回転制御偏差(=Net−Ne )を小さくする学習補正のために、予め定められた一定のエンジン要求トルク補正値ΔTe が算出され、制御式(1) により算出されたエンジン要求トルクTe にそのエンジン要求トルク補正値ΔTe が加算されることにより学習補正される。
【0039】
図8において、前記基本要求トルク制限手段120に対応するSB1およびSB2が実行される。先ずSB1では、上記基本要求トルクTFFがそのときのエンジン回転速度Ne における最大スロットル開度時のエンジン出力トルクTWOT 以上であるか否かが判断される。このSB1の判断が否定される場合はSB3以下が実行されるが、肯定される場合は、SB2において基本要求トルクTFFがそのエンジン出力トルクTWOT に制限されてからSB3以下が実行される。次いで、前記係合トルク算出手段122に対応するSB3において、前記SA1において算出された基本要求トルクTFFに対応するブレーキB1の伝達トルク容量すなわち係合トルクTB1(=C×TFF)が、算出される。この係合トルクTB1は、上記基本要求トルクTFFを変速機12へ伝達するために必要とされる値である。
【0040】
回転過大学習補正手段124に対応するSB4では、SB1において求められたブレーキB1の係合トルクTB1に前記トルク容量補正値算出手段114に対応するSA7において求められた補正値ΔTB1が加算されることにより学習補正が行われる。次いで、前記回転急低下補正手段126に対応するSB5およびSB6が実行される。先ずSB5では、エンジン回転速度Ne の急低下すなわちエンジン回転速度Ne の単位時間当たりの低下量ΔNe 或いは低下率ΔNe /dtが大きいか否かがたとえば所定値Bを超えたか否かに基づいて判断される。このSB5の判断が否定される場合はSB7以下が実行されるが、肯定される場合は、SB6において、上記単位時間当たりの低下量ΔNe 或いは低下率ΔNe /dtに応じた大きさでブレーキB1の係合トルクTB1がリアルタイムで減少補正される。すなわち、単位時間当たりの低下量ΔNe 或いは低下率ΔNe /dtが大きくなるほど大きな減少幅でブレーキB1の係合トルクTB1が直ちに減少させられる。
【0041】
そして、前記摩擦係数算出手段128および係合圧算出手段130に対応するSB7では、予め記憶された関係から実際のブレーキB1のスリップ回転速度Vに基づいてブレーキB1の摩擦板の摩擦係数μが算出され、さらに予め記憶された関係[TB1=f(μ,PB1,S) 但しSjは摩擦板の有効摩擦面積]から、上記摩擦係数μと、SB1により算出され、SB4およびSB5、6により補正されたブレーキB1の係合トルクTB1とに基づいて、その係合トルクTB1を得るためのブレーキB1の係合油圧PB1が算出され、ブレーキB1の係合油圧がその値PB1となるように油圧制御回路24が制御される。
【0042】
上述のように、本実施例のハイブリッド車両の駆動力制御装置において後進発進のためにフリクション走行モードが選択された場合は、アクセルペダル78の操作量θacに応答してドライバーの基本要求トルクTFFが急変すると、そのTFFと予め設定された目標エンジン回転速度Netとに基づいて決定されるエンジン要求トルクTe も変化させられ、そのエンジン要求トルクTe が得られ且つエンジン回転速度Ne が上記予め設定された目標エンジン回転速度Netとなるようにエンジン14が定回転制御されることから、ドライバー要求トルクTFFの変化があったときすなわちアクセルペダル78の操作量θacが変化させられたときにエンジン回転速度Ne を変化させる従来の場合に比較して、エンジン出力の一部がエンジン回転速度変化に消費されないので、エンジン要求トルクTe の変化に応じて変化させられるエンジン出力の大半が駆動力に用いられて、的確且つ速やかにドライバ要求トルクを満足させることができる。
【0043】
また、本実施例によれば、ドライバーの基本要求トルクTFFを発生させ、且つエンジン回転速度Ne を予め設定された目標回転速度Netに一致させるように電子スロットル弁72の開度を制御するためのエンジン定回転制御手段102(SA1乃至SA7)と、ドライバー要求トルクTFFに対応する駆動力を得るためにブレーキ(摩擦係合装置)B1の係合トルク(伝達トルク容量)TB1を制御する伝達トルク容量制御手段104(SB1乃至SB7)とが設けられ、上記エンジン定回転制御手段102は、ドライバー要求トルクに対応する基本要求駆動トルクTFFを算出する基本要求トルク算出手段103(SA1)と、エンジン回転速度を予め設定された目標回転速度に一致させるための定回転制御トルクすなわちフィードバック制御トルクを算出する定回転制御トルク算出手段106(SA2)とを有してそれら基本要求駆動トルクTFFと定回転制御トルクとの加算値をエンジン要求トルクTe として算出するエンジン要求トルク算出手段108(SA3)を有している。これにより、アクセルペダル78の操作量θacに応答してドライバーの基本要求トルクTFFが急変すると、エンジン要求トルク算出手段108により、そのTFFと予め設定された目標エンジン回転速度Netとに基づいて決定されるエンジン要求トルクTe も変化させられ、そのエンジン要求トルクTe が得られ且つエンジン回転速度Ne が上記予め設定された目標エンジン回転速度Netとなるようにエンジン14が定回転制御されることから、ドライバー要求トルクTFFの変化があったときすなわちアクセルペダル78の操作量θacが変化させられたときにエンジン回転速度Ne を変化させる従来の場合に比較して、エンジン出力の一部がエンジン回転速度変化に消費されないので、エンジン要求トルクTe の変化に応じて変化させられるエンジン出力の大半が駆動力に用いられて、的確且つ速やかにドライバ要求トルクを満足させることができる。
【0044】
また、本実施例の車両の駆動力制御装置は、制御式(1) から、エンジン要求トルクTFFが得られ且つエンジン回転速度Ne が上記予め設定された目標エンジン回転速度Netとなるようにエンジン14が定回転制御されると同時に、ドライバーの要求トルクTFFが得られるようにブレーキB1の係合トルク(伝達トルク容量)TB1を制御するものであるので、ブレーキB1の係合トルク制御に応答して的確且つ速やかにドライバーの要求トルクTFFが得られる。
【0045】
また、本実施例のブレーキB1の係合トルク(伝達トルク容量)TB1は、ドライバ要求トルクTFFとエンジン要求トルクTe との差に基づいて補正される。すなわちドライバ要求トルクTFFとエンジン要求トルクTe との差に基づいてその差が減少するようにブレーキB1の係合トルクTB1が補正される。このように、ドライバ要求トルクTFFとエンジン要求トルクTe との差が所定値を超えたときにはその差が解消される方向のトルク容量補正値ΔTB1を算出するトルク容量補正値算出手段114(SA7)と、そのトルク容量補正値算出手段114により算出されたトルク容量補正値ΔTB1をブレーキB1の係合トルクTB1に加算することにより学習補正する回転過大補正手段116(SA7)とが設けられるので、エンジン14の定回転制御における制御偏差が小さくなってその偏差を解消するための操作量が小さくされてエンジンの定回転制御が安定する利点がある。
【0046】
また、本実施例において、エンジン要求トルクTe は、ドライバ要求トルクTFFとエンジン要求トルクTe との差に基づいて補正されるものであるので、ドライバ要求トルクTFFとエンジン要求トルクTe との差に基づいてその差が減少するようにエンジン要求トルクTe が補正される。すなわち、ドライバ要求トルクTFFとエンジン要求トルクTe との差が所定値を超えたときにはその差が解消される方向にエンジン要求トルクTe を学習補正するエンジン要求トルク補正手段116(SA7)が設けられているので、エンジン14の定回転制御における制御偏差が小さくなってその偏差を解消するための操作量が小さくされてエンジン14の定回転制御が安定する利点がある。
【0047】
また、本実施例において、エンジン回転速度Ne が所定値よりも低い状態となると、ブレーキB1の係合トルク(伝達トルク容量)TB1が所定値だけ減少補正される。すなわち、エンジン回転速度Ne の単位時間当たりの低下量ΔNe 或いは低下率ΔNe /dtが所定値を超えたか否かを判定し、超えた場合にはその回転速度低下を抑制するためにブレーキB1の係合トルクTB1を減少補正する回転低下補正手段126(SB5、SB6)が設けられるので、エンジン14の定回転制御における制御偏差が小さくなってその偏差を解消するための操作量が小さくされてエンジンの定回転制御が安定する利点がある。
【0048】
また、本実施例のブレーキB1はその係合油圧PB1の作用に応じて伝達トルク容量(係合トルク)TB1を変化させる油圧式摩擦係合装置であり、そのブレーキB1のスリップ回転速度Vに基づいてその摩擦係数μを決定する摩擦係数算出手段128(SB7)と、その摩擦係数算出手段128により算出された摩擦係数μに基づいて係合油圧PB1を算出する係合圧算出手段130(SB7)とが設けられることから、実際のスリップ回転速度Vに基づいて算出された摩擦係数μから係合油圧PB1が算出されるので、ブレーキB1の伝達トルク容量の制御精度が高められる。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【0050】
たとえば、前述の実施例では、摩擦係合装置として油圧式のブレーキB1が用いられていたが、空圧或いは電磁力によって係合トルクが変化させられる摩擦係合装置であってもよい。また、前述の実施例のブレーキB1は、遊星歯車装置のリンギギヤ18rを非回転部材であるケース20に連結するものであったが、エンジン14と駆動輪52との間の動力伝達経路に直列に介在させられたクラッチであってもよい。
【0051】
また、前述の実施例において、ブレーキB1がスリップ係合させられるフリクション走行モードは車両を後進させるものであったが、前進させるためのモードであってもよい。
【0052】
また、前述の実施例においては、1個のエンジン14および1個のFMG16が選択的に原動機として用いるハイブリッド車両であったが、そのFMG16は複数個設けられたり、後輪に設けられたりしてもよいし、原動機としてエンジン14のみが搭載された通常の車両であってもよい。
【0053】
また、前述の実施例においては、クラッチC2によってエンジン14から駆動輪52への動力伝達が遮断されるように構成された動力伝達機構が用いられていたが、その動力伝達機構は種々変更され得るものであり、変速機12は複数組の遊星歯車から構成された多段式自動変速機や、一対のコーンとそれらコーンの回転軸心を通る平面内の回転軸心まわりに回転可能に支持されたローラがそれら一対のコーンに挟持された所謂トラクション型無段変速機などであってもよい。
【0054】
また、前述の図6において、要求トルク制限手段110、エンジン回転過大判定手段112、トルク容量補正値算出手段114、エンジン要求トルク学習補正手段116、基本要求トルク制限手段120、回転過大学習補正手段124、回転急低下補正手段126、摩擦係数算出手段128は必ずしも設けられていなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されたハイブリッド車両に備えられた制御装置を概略説明する図である。
【図2】図1のハイブリッド車両の動力伝達系の構成を説明する骨子図である。
【図3】図1の油圧制御回路の一部を示す回路図である。
【図4】図1のハイブリッド駆動制御装置において成立させられる幾つかの走行モードと、クラッチおよびブレーキの作動状態との関係を説明する図である。
【図5】図4のETCモード、直結モード、およびモータ走行モード(前進)における遊星歯車装置の各回転要素の回転速度の関係を示す共線図である。
【図6】図1のHVECTの制御機能の要部すなわち車両の後進発進時において要求出力に応じて速やか且つ的確に駆動力を変化させることができる車両の駆動制御機能を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1のHVECTの制御作動の要部すなわち上記車両の後進発進時において要求出力に応じて速やか且つ的確に駆動力を変化させることができる車両の駆動制御作動を説明するフローチャートであって、エンジン回転速度制御ルーチンを示している。
【図8】図1のHVECTの制御作動の要部すなわち上記車両の後進発進時において要求出力に応じて速やか且つ的確に駆動力を変化させることができる車両の駆動制御作動を説明するフローチャートであって、ブレーキB1の伝達トルク容量制御ルーチンを示している。
【図9】図1のSA1においてアクセルペダル操作量θacから基本要求トルクを算出するための関係を示す図である。
【符号の説明】
10:ハイブリッド制御装置(駆動力制御装置)
14:エンジン
60:HVECU(ハイブリッド用電子制御装置)
102:エンジン定回転速度制御手段
104:伝達トルク容量制御手段
108:エンジン要求トルク算出手段
112:エンジン回転過大判定手段
114:トルク容量補正値算出手段
126:回転急低下補正手段
B1:ブレーキ(油圧式摩擦係合装置)
Claims (4)
- エンジンからの動力を摩擦係合装置を滑らしつつ車軸に伝達する車両の駆動力制御装置において、
ドライバー要求トルクと予め設定された目標エンジン回転速度とに基づいてエンジン要求トルクを決定し、該エンジン要求トルクが得られ且つエンジン回転速度が前記予め設定された目標エンジン回転速度となるように前記エンジンを定回転制御するとともに、
前記目標エンジン回転速度と実際のエンジン回転速度との定回転制御偏差が小さくなるように前記ドライバー要求トルクとエンジン要求トルクとの差に基づいて該エンジン要求トルクを補正することを特徴とする車両の駆動力制御装置。 - 前記ドライバー要求トルクが得られるように前記摩擦係合装置の伝達トルク容量を制御するものである請求項1の車両の駆動力制御装置。
- 前記摩擦係合装置の伝達トルク容量は、前記ドライバー要求トルクと前記エンジン要求トルクとの差に基づいて補正されるものである請求項2の車両の駆動力制御装置。
- 前記エンジン回転速度またはその変化率が所定値よりも低い状態では、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量が減少させられるものである請求項1乃至3の車両の駆動力制御装置。
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