JP4082585B2 - 液晶表示素子及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示素子及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、ゲル状の液晶組成物を調光層に含む安定性及び耐圧性(耐ショック性)に優れた液晶表示素子及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ネマティック液晶を使用したTN型液晶表示素子及びSTN型液晶表示素子は、軽量であって、しかも、低消費電力であるので、それらの普及が急速に進んでいる。また、このような液晶表示素子における液晶に光散乱性を持たせて反射型表示素子とすれば、バックライトが不要な高散乱性、高視野角を有する薄型、低消費電力の表示素子を得ることができる。TN型液晶表示素子及び反射型液晶表示素子のいずれの液晶表示素子においても、社会の需要に応えるために、高品質なものを効率良く生産することが不可欠である。
【0003】
液晶表示素子の品質を上げる手段の一例として、液晶物質に液晶物質をゲル化するゲル化剤を加えて、液晶物質の流動性を消失させたゲル状の液晶組成物とする技術(特許文献1を参照。)が提案されている。液晶表示素子の調光層として非液体状の液晶組成物を用いると、安定性及び耐圧性(耐ショック性)に優れた液晶表示素子が得られる。液晶がゲル化剤の網目構造に取り込まれた状態になると、液晶組成物の強度が増すが、液晶分子がゲル化剤の網目構造から規制力を受けることになるので、液晶分子の電界応答性が悪くなる。それ故、従来のゲル状の液晶組成物を調光層に用いた液晶表示素子においては、ゲル化剤を用いない場合に比べて、消費電力が高くなり、また、応答速度が遅くなってしまうという問題があった。
【0004】
また、ゲル状の液晶組成物をTN型の表示素子に応用する場合には、液晶物質をゲル化する化合物の量を調光層が可視光に対して透明である範囲にして、偏光板を使用することにより、コントラストに優れた表示を得ることができる。しかしながら、液晶物質と液晶物質をゲル化するゲル化剤の組み合わせしだいでは、作製された液晶ゲルが散乱性を有してしまうので、コントラストを下げるという問題があった。これを防ぐために、従来においては、セル厚みを薄くして実質的に透明度を上げたり、また、液晶をゲル化する化合物の量を減らして散乱をおさえたりして対応していたが、前者においては、セル厚みが薄くなるに従い厚みの制御が難しくなるので、生産性を落とすという問題があり、また、後者においては、作製される液晶ゲルの性状がより柔らかいものになりやすいので、ゲルの安定性を下げるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−156665号公報
【非特許文献1】
高分子加工、45巻1号(1996年1月号)、P22
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。
即ち、本発明は、液晶の電界応答性を損なうことなく、安定性、耐圧性に優れ、しかも、高コントラスト表示が可能となる液晶表示素子及びその製造方法を低コストで提供するを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、電極を備えた一対の基板間に、液晶物質とこれをゲル化するゲル化剤とを含む液晶組成物からなる調光層を有する液晶表示素子において、該調光層のゲル化剤による網目構造の密度が、「画素部分」よりも「画素部分と画素部分との間」において高くなるようにしたところ、液晶の電界応答性を損なうことなく、安定性、耐圧性に優れ、しかも、高コントラスト表示が可能となる液晶表示素子及びその製造方法を低コストで提供できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、請求項1に記載された発明は、電極を備えた一対の基板間に、液晶物質とこれをゲル化するゲル化剤とを含む液晶組成物からなる調光層を有する液晶表示素子において、該調光層のゲル化剤による網目構造の密度が、「画素部分」よりも「画素部分と画素部分との間」において高いことを特徴とする液晶表示素子である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記調光層が、可視光に対して透明である調光層であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項2に記載された発明において、前記調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低いことを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載された発明は、請求項2に記載された発明において、前記調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高いと共に、前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した液晶組成物を周期電界の印加条件下において冷却したもので構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に記載された発明は、請求項4に記載された発明において、前記周期電界が、交流電界であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に記載された発明は、請求項2〜5のいずれかに記載された発明において、前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した後に毎時20℃未満の降温速度で冷却したもので構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記調光層が、光散乱性の調光層であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項8に記載された発明は、請求項7に記載された発明において、前記調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高いことを特徴とするものである。
【0016】
請求項9に記載された発明は、請求項7に記載された発明において、前記調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低いと共に、前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した液晶組成物を周期電界の印加条件下において冷却したもので構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項10に記載された発明は、請求項7に記載された発明において、前記周期電界が、交流電界であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項11に記載された発明は、請求項7〜10のいずれかに記載された発明において、前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した後に毎時20℃未満の降温速度で冷却したもので構成されていることを特徴とするものである。
【0019】
請求項12に記載された発明は、請求項1〜11のいずれかに記載された発明において、前記一対の基板の少なくても一方が、250μm厚以下のプラスチック基板であることを特徴とするものである。
【0020】
請求項13に記載された発明は、請求項1〜11のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法において、ゲル状の液晶組成物の作製時に、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置にゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質を存在させて、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置からゲル化剤の網目構造を成長させることを特徴とするものである。
【0021】
請求項14に記載された発明は、請求項13に記載された発明において、前記ゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質が、ゲル化剤であることを特徴とするものである。
【0022】
請求項15に記載された発明は、請求項14に記載された発明において、前記ゲル化剤をギャップ材に付着させた状態にして基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に存在させることを特徴とするものである。
【0023】
請求項16に記載された発明は、請求項13に記載された発明において、前記ゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質が、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に存在させたギャップ材であることを特徴とするものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態を示す液晶表示素子の概念図である。図2は、図1の一部拡大図である。図3は、液晶組成物に印加する周期電界の説明図である。図4は、液晶表示素子の光透過率を測定する個所を示す。
【0025】
図1,2に示されているように、本発明の液晶表示素子10は、電極(図示せず)を備えた一対の基板(図1では一対の基板の内の一方の基板1のみを表示)の間に、液晶物質とこれをゲル化するゲル化剤とを含む液晶組成物からなる調光層3を有している。そして、該調光層3のゲル化剤による網目構造の密度は、「画素部分」(表示部)11よりも「画素部分と画素部分との間」(非表示部(ブラックマトリックス))13,13,13において高いもの(12)となっている。図1において、2は、シール部であり、そして、ゲル化剤の網目構造が高密度な部分である。
【0026】
従来のゲル状液晶組成物を用いた液晶表示素子は、調光層の表示部及び非表示部の区別なく均一にゲル化剤の網目構造を存在させて、調光層全体の流動性を消失させることによって安定性や耐圧性といった性能を獲得することを目的とするものであったので、従来の液晶表示素子においては、ゲル化剤の網目構造の密度を部位によって変えるといったことは行われていなかった。また、従来の液晶表示素子においては、ゲル状の液晶物質からなる透明な調光層に関しても、調光層としての使用に必要な透明性や均一性を確保する手段として、▲1▼液晶組成物が散乱しにくい液晶物質とゲル化剤の組み合わせの選択、▲2▼液晶物質をゲル化させる時の精密な温度制御、▲3▼基板への配向処理、等による工夫が考えられてきたが、液晶組成物中におけるゲル化剤の網目構造の密度を制御するということは行われていなかった。
【0027】
しかし、本発明者らは、網目構造の密度が、調光層の「画素部分」(表示部)11よりも「画素部分と画素部分との間」(非表示部)13において高くなるようにすることによって、液晶の電界応答性を損なうことなく、安定性、耐圧性に優れた液晶表示素子を得ることを見出した。図2に示されるように、本発明の液晶表示素子においては、基板の「画素部分と画素部分との間」13、13,13となる位置に存在するゲル化剤の網目構造が高密度の部分12は、完成した液晶表示素子において画像の表示に寄与しない非表示部となるので、ゲル化剤の網目構造の高密度な部分12の液晶分子は電界応答性が悪くなっても、画像の表示にはほとんど影響しない。また、本発明の液晶表示素子10においては、調光層3が光散乱性を持つ原因となりうるゲル網目構造の密度が「画素部分」(表示部)11において低くなるので、調光層3の実質的な透明性を上げる効果がある。したがって、本発明の液晶表示素子10は、調光層3のゲル化剤による網目構造の密度が「画素部分」(表示部)11よりも「画素部分と画素部分との間」(非表示部(ブラックマトリックス))13において高いので、液晶の電界応答性を損なうことなく、安定性、耐圧性に優れた液晶表示素子10を提供することができる。
【0028】
本発明でいう「ゲル」は、三次元ネットワーク構造に溶剤が取り込まれた状態のものをさし、ゲル状態からゾル(溶液)状態へと可逆的に変化するものである。この場合、ゲル状態からゾル状態への変化が可能であれば、三次元ネットワーク構造の架橋部分の構造には限定を受けないが、その架橋構造は一般的に共有結合以外の二次的結合力によるものの場合が多い。本発明で用いるゲルのネットワーク構造は、分子間水素結合によるものであり、温度を上げることによりゲルのゾル化を引き起こすことができる。
【0029】
本発明で用いられる液晶をゲル化するゲル化剤は、分子間水素結合によって物質をゲル化する性質を有する低分子化合物であって、かつ、使用する液晶物質に溶解する低分子化合物である。ここでいう「低分子化合物」とは、分子量分布を持たない化合物をさし、その分子量としては、2000以下、好ましくは、1000〜2000である。分子間水素結合が可能な分子構造上の条件は、一般的には、アミド基(−NHCO−)、アミノ基(−NH−)とカルボニル基(−CO−)の組み合わせを有するものが望ましい。これ以外に、カルバメート基、ウレア基、カルボキシル基、アルコキシ基、リン酸基、水酸基等があっても良く、これらの基の数、位置については限定しない。そのようなゲル化剤の中でも特に、分子間水素結合が可能な基及びアルキレン基を1分子中にそれぞれ2個以上有する化合物が好ましい。アルキレン基としては、炭素数4以上、好ましくは、6〜20の長鎖構造(分岐があっても良い)を有するものが液晶物質への溶解性が高い。また、ゲル化剤は、キラル構造を有するものが好ましい。具体的には、特開平5−216015号公報、特開平8−254688号公報、特開平11−21556号公報、特開平11−52341号公報等に開示されているものが使用できる。本発明において用いられる液晶物質としては、従来から液晶表示素子に用いられている液晶物質、具体的には、ネマティック又はスメクティック相を示すビフェニル系、フェニルシクロヘキサン系等の各種液晶物質を用いることができる。
【0030】
本発明においては、前記調光層3は、可視光に対して透明である。
このような可視光に対して透明な調光層3を備えた液晶表示素子(TN型液晶表示素子)10においては、調光層3のゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低いものとすると、より透明性に優れる調光層3を備えた液晶表示素子10を提供することができる。調光層3のゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低い場合には、ゲル化剤が凝集を始める温度において、液晶物質は液晶相の状態にあるので、分子が等方相の状態に比べると規則性をもって並んでいる。したがって、ゲル化剤は、液晶相の液晶物質の中で凝集して網目構造を形成していくので、網目構造中の液晶分子もある程度の規則性を持ち、そのために、光が散乱しにくくなり、より透明な液晶組成物を得ることができる。
【0031】
また、このような可視光に対して透明な調光層を備えた液晶表示素子(TN型液晶表示素子)においては、前記調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高いと共に、前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した液晶組成物を周期電界の印加条件下において冷却したもので構成されていると、透明性に優れてムラの少ない調光層を備えた液晶表示素子を得ることができる。従来のゲル状の液晶組成物を用いた表示素子では、調光層としての使用に必要な透明性や均一性を確保する手段として、▲1▼ゲルが散乱しにくい液晶物質とゲル化剤の選択、▲2▼液晶物質をゲル化させる時の精密な温度制御、▲3▼基板への配向処理、等の工夫が考えられてきたが、液晶分子に対して外力を加えるという操作は行われていなかった。しかし本発明者らは、ゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高くなる組み合わせの液晶物質とゲル化剤を加熱、混和した後に冷却する過程で周期電界を印加することで、透明性、均一性がより優れたゲルを得ることができた。
【0032】
本発明で言う周期電界印加とは、液晶分子を動かすことを目的としているものである。ここで言う「液晶分子が動く」とは、液晶分子が電界に応答して動き続けること、即ち、動的な状態となることを意味する。電界を液晶組成物に印加すると、液晶とゲル化剤との混和物が冷却する過程において、液晶分子が動くので、透明性及び均一性に優れたゲルが得られる。したがって、液晶分子が動くという条件を満たすものであれば、印加する電界の波形は限定されないが、周期電界であればより好ましい。ここでいう「周期電界」とは、一定時間毎に一定の電界がかかる波形を指す。このように、液晶組成物に周期電界を印加すると、液晶物質を規則的に動かすことができるので、より効果的に本発明の目的を達成できる。
【0033】
本発明においては、前記周期電界は、好ましくは、交流電界である。調光層3のゾルゲル転移点が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高い場合には、周期電界のなかでも特に交流電界を印加することにより、より効率良く、透明性に優れ、しかも、明るさムラが少ない均一な液晶組成物とすることができる。
【0034】
本発明の可視光に対して透明な調光層を備えた液晶表示素子(TN型液晶表示素子)においては、前記調光層は、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した後に毎時20℃未満の降温速度で冷却したもので構成されている。このように、前記調光層3が加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した後に毎時20℃未満の降温速度で冷却したもので構成されていると、より透明性に優れた明るさムラの少ない液晶組成物を備えた液晶表示素子を得ることができる。従来、降温速度が毎時20℃よりも速い場合は、ゲル化剤の凝集が急激に起こるので、ゲル化剤の網目構造が一様にならず、明るさムラができると共に全体として散乱性を持つ傾向があった。そこで、本発明者らは、降温速度を様々に変えて作製した液晶組成物の透過率および明るさムラの比較を行ったところ、毎時20℃未満の降温速度で冷却することで透過率の向上と明るさムラの低減の効果があることを発見した。降温速度は、毎時10℃未満であることがより一層好ましいことがわかった。
【0035】
本発明においては、前記調光層3は、光散乱性のものであってもよい。
このような光散乱性の調光層3を備えた反射型液晶表示素子においては、調光層のゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高いものとすると、より散乱性に優れた調光層を備えた液晶表示素子を提供することができる。調光層のゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高い場合には、ゲル化剤が凝集を始める温度において液晶物質は等方相の状態にあるので、液晶分子がランダムな状態で存在している。したがって、ゲル化剤はランダムで方向性を持たない液晶物質の中で凝集して網目構造を形成していくので、光が散乱しやすくなり、そのために、より散乱性に優れた液晶組成物を得ることができる。
【0036】
このような光散乱性の調光層を備えた反射型液晶表示素子においては、調光層のゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低いものであると共に、前記調光層を、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した液晶組成物を周期電界の印加条件下において冷却したもので構成されていると、散乱性に優れて明るさムラの少ない調光層を備えた液晶表示素子を得ることができる。
【0037】
従来のゲル状の液晶組成物を用いた液晶表示素子においては、調光層の散乱性を向上させる手段としてゲルが散乱性を持ちやすいゲル化剤と液晶物質を選択することが検討され、その結果、前述のとおり、ゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高い場合に散乱性に優れる液晶組成物が得られることがわかった。そこで本発明者らは、ゾルゲル転移温度が等方相/液晶相転移温度よりも低い場合においても散乱性の高い液晶組成物が得られるような手段の検討を行った結果、ゲル化剤を液晶物質に溶解した後に周期電界の印加条件下において冷却してゲルを作製することにより、散乱性に優れて明るさムラの少ない液晶組成物が得られることを発見した。本発明でいう周期電界の印加については、前述のとおりである。
【0038】
調光層のゾルゲル転移点が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低い場合には、周期電界のなかでも、特に、交流電界を印加することにより、より生産性良く、散乱性に優れて明るさムラが少なく均一な液晶組成物を有する液晶表示素子とすることができる。
【0039】
液晶組成物に交流電界を印加すると、液晶に一定時間毎に絶対値の等しい正負の電界がかかるので、液晶分子を規則的かつより大きく動かすことができる。交流電界であれは、sin波、矩形波、三角波等いずれの波形であっても効果があるが、特に、図3に示すようなパルス交流電界であることが非常に好ましい。パルス交流電界を印加すると、周期的にパルス電界が印加される時以外は電界が0の状態となり、電界方向を向くように動いた液晶がもとに戻る時間が短縮され、より効果的に液晶を動かすことができるため、本発明の目的を達成するためにはパルス交流電界が非常に好ましい。
【0040】
また、液晶に印加する電界(電圧)は、使用する液晶とゲル化剤が混和した状態において、液晶分子が応答して立ちあがりはじめる電圧よりも高いことが必要である。液晶分子が立ち上がり始める電圧よりも小さい電圧であれば、電界を印加しても液晶分子が動かないので本発明における目的を達成することができない。逆に、液晶分子が立ち上がりきる電圧よりも大きい場合は、液晶分子は大きく動くことができるが、高電圧の印加によってセルが劣化したり、発熱が生じて温度制御の妨げとなる可能性がある。したがって、液晶に印加する電圧は、液晶分子が立ち上がりはじめる電圧から立ち上がりきる電圧の間であることが望ましい。この範囲の中で、電圧は高い方が効果的に液晶分子を動かすことができるので、液晶分子が電界方向に対して立ち上がり切る電圧の2分の1以上であればより一層好ましい。
【0041】
本発明の光散乱性の調光層を備えた反射型液晶表示素子においては、前記調光層は、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した後に毎時20℃未満の降温速度で冷却したもので構成されている。このように、光散乱性の調光層を備えた反射型液晶表示素子において、調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に混和させた後に毎時20℃未満の降温速度にて冷却したもので構成されているので、より散乱性に優れ明るさムラの少ない液晶組成物を備えた液晶表示素子を得ることができる。
【0042】
この理由については明らかでないが、ゾルゲル点が液晶物質の等方相/液晶相転移点よりも高い場合には、降温速度が速い場合は、ゲル化剤の凝集が急激に起こり、ゲル化剤の網目構造がまだら状に生成するのに対し、降温速度が遅い場合にはゲル化剤の凝集がより多くの開始点から徐々に開始され、細かな網目構造が多く発生するために散乱性が高くなると考えられる。一方、ゾルゲル点が液晶物質の等方相/液晶相転移点よりも低く周期電界を印加しながら冷却する場合には、降温速度が遅い方が、液晶分子を周期電界によって動かしていることによる効果が十分に表れた結果と考えられる。降温速度を様々に変えて作製した液晶組成物の反射率および明るさムラの比較を行ったところ、毎時20℃未満の降温速度で冷却することで反射率の向上と明るさムラの低減の効果があることを発見した。降温速度は毎時10℃未満であることがより一層好ましい。
【0043】
本発明においては、前記一対の基板の少なくても一方が、250μm厚以下のプラスチック基板である。このように、一対の基板の少なくても一方が250μm厚以下のプラスチック基板であると、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量、薄型で生産性に優れ、表示品質の高い液晶表示素子を提供することができる。
【0044】
従来、プラスティク基板を用いた液晶表示素子には、気泡が発生しやすいという問題点があった。気泡が発生する原因の一つに基板が押されることがあげられる。気泡の発生は、可とう性の基板を使用した場合には、基本的には避けられない現象であり、特に、250μm以下のフイルム基板を用いた場合には、顕著であった。しかし、本発明においては、両基板間にゲル状の液晶組成物が存在しているので、厚み250μm以下のプラスティク基板を用いていても、気泡の発生する可能性が低い。
【0045】
その理由は明らかでないが、基板内部では、他の部分に比較して、負圧になる時に気泡が発生するが、液体状態の調光層からゲル化した固体様の調光層にすると、基板の変形に対する回復に調光層が追随するので、基板内が負圧になることが抑制され、そのために、気泡発生が抑制されるものと考えられる。また、固体様となった調光層の方が表示素子としても変形しにくいことも効果をあげる要因となっていると考えられる。また、前記プラスティク基板がポリカーボネイト又はポリエーテルスルフォンであると、生産性に優れ、表示品質が高く、軽量性、可とう性に優れた液晶表示素子を提供することができる。このような材質の250μm程度の基板は、リターデーション、可視光の透過性、耐熱性(〜150℃)、基板の軽量性、厚みの点に優れ表示素子を形成した場合、表示品質が高く、軽量性、可とう性、生産性に優れる液晶表示素子を提供できる。
【0046】
本発明の液晶表示素子は、ゲル状の液晶組成物の作製時に、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置にゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質を存在させて、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置からゲル化剤の網目構造を成長させることにより製造される。ゲル状の液晶組成物は、室温下で流動性がなく安定性、耐圧性に優れることがその利点であるが、ゲルの状態で液晶組成物中のゲル化剤の網目構造の存在する位置を操作することはきわめて困難であるが、本発明によれば、ゲル状の液晶組成物の作製時に、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置にゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質を存在させて、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置からゲル化剤の網目構造を成長させるので、ゲル化の過程において操作を煩雑にすることなく簡易な製造工程で本発明の液晶表示素子を得ることができる。
【0047】
本発明においては、「開始点」は、ゲル状の液晶組成物が形成される過程において、ゲル化剤の網目構造が最初に発生し、その場所を起点に網目構造の成長が開始される点のことを意味する。基板上の「画素部分と画素部分との間」となる位置にゲル化剤の網目構造の開始点となる物質をあらかじめ存在させることにより、開始点から網目構造が発生して成長が始まり、複数の開始点から発生、成長したゲル化剤の網目構造が合体することによりさらに大きな網目構造ネットワークが出来あがっていく。したがって、本発明の液晶表示素子の製造方法によれば、ゲル化の過程においては特別な操作をほどこす必要がなく、簡易な製造工程で本発明の液晶表示素子を得ることができる。
【0048】
前記ゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質は、好ましくは、ゲル化剤である。液晶組成物中のゲル化剤の網目構造は、加熱によってゲル化剤が液晶物質中に混和、溶解した後に冷却されることによって、ゲル化剤が分子間の相互作用によって凝集し、形成されるものである。したがって、その網目構造は、ゲル化剤分子そのものを開始点として成長することができる。ここでは、ゲル状の液晶組成物を作製する前に、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置にあらかじめゲル化剤を配置することにより、ゲル化の過程においては特別な操作をほどこす必要がなく、簡易な製造工程で本発明の液晶表示素子を得ることができる。
【0049】
しかし、ゲル状の液晶組成物の製造過程においては、ゲル化剤を液晶に混和するために加熱処理をすることが必要である。その加熱処理の過程で、ゲル化剤の網目構造の開始点とするために存在させたゲル化剤も液晶物質に完全に混和、溶解してしまっては、ゲルの生成の開始点を制御することが不可能となってしまう。これを回避するため、ゲル化剤の網目構造の開始点とするゲル化剤は、粒子を直径が基板間距離を越えない範囲で大きめにしておき、必要以上の加熱を控える等の工夫をすることにより、液晶物質と完全に混和してしまうのを防ぐことが可能である。
【0050】
また、前記ゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質は、前記ゲル化剤をギャップ材に付着させた状態にして基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に存在させものであってもかまわない。ゲル化剤のみを、ゲル化剤の網目構造の開始点としてあらかじめ存在させる場合には、調光層の製造工程においてゲル化剤を配置する操作を一つ追加する必要があり、生産性をおとす要因となる可能性がある。しかし、ゲル化剤がギャップ材に付着した状態であれば、ギャップ材の配置と同時にゲル化剤も配置できることになり、効率の良い液晶表示素子の製造が可能となる。ただし、上に述べたように、ゲル化剤が液晶物質に混和する過程において、ゲル化剤の網目構造の開始点とするゲル化剤までもが液晶物質と混和してしまわないよう、ゲル化剤の形態および液晶物質とゲル化剤を加熱して混和する操作条件を工夫する必要がある。
【0051】
また、前記ゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質は、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に存在させたギャップ材であってもかまわない。ギャップ材は、ゲル化剤とは異なる物質であるので、ギャップ材そのものからゲル化剤の網目構造が成長することはないが、液晶物質のゲル化の過程でギャップ材表面からゲル化剤が凝集し始めれば、その場所からゲル化剤の網目構造が成長していく。したがって、ギャップ材の表面の材質によっては、ギャップ材の存在する位置が網目構造の成長の開始点となる。ここで用いられるギャップ材の材質としては、ゲル化剤分子との界面の表面自由エネルギーが小さいもの、又は、ギャップ材の熱伝導率が液晶物質に比べて優れているものであれば、ギャップ材近傍よりゲル化が開始しやすくなるので好ましい。
【0052】
本発明の液晶表示素子の製造において、ゲル化剤の網目構造の成長の開始点となる物質を基板上に存在させる方法としては、塗布、スピンコート、スクリーン印刷など様々な手法があるが、特に、スクリーン印刷法を用いると、従来からある手法を用いて簡易に本発明の目的を達成することができる。ゲル化剤、ギャップ材あるいはゲル化剤を付着させたギャップ材などのゲル化剤の網目構造の開始点となりうる物質を基板にスクリーン印刷することにより、その物質を配置したい場所に正確に配置することができる。本発明の場合は、印刷版の形を画素の並びに合わせた方向の直線状とすることが好ましいが、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に配置することができるものであれば、その形については限定されない。
【0053】
【実施例】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0054】
(実施例1)
(1)液晶物質として、室温下でネマティック相を示すものを用意し、そして、ゲル化剤として、次の式
【化1】
Figure 0004082585
で示されるものを用意した。このゲル化剤による液晶物質のゾルゲル転移温度は、おおむね70℃であった。
(2)寸法30mm×30mmのガラス板を2枚用意し、そして、それらのガラス板の一方の表面にITO電極層を形成して一対の基板とした。
(3)前記一対の基板の電極を形成した側の表面にポリイミド膜をフレキソ印刷法により形成した後、ナイロンを巻きつけた円筒状ロールを用いてラビング処理を施すことにより配向膜を形成した。
(4)アルコール中にシリカスペーサーを分散させたスペーサー散布液を用意し、これを前記一対の基板の一方の基板、即ち、上基板の一方の表面にスピンコート機によりスペーサーを散布した後、これを乾燥させた。そして、前記ゲル化剤をアルコールに分散させたものを用意し、これを幅10μm、500μmピッチの線状のスクリーン版を用いて前記一対の基板の他方の基板、即ち、下基板の一方の表面に「画素部分と画素部分との間」となる位置に合わせてスクリーン印刷して乾燥させた。
(5)前記上下の基板を接着させるためのシール部材を下基板の一方の表面に設け、前記上下の基板を貼り合わせて固定し、硬化してセルを作製した。
(6)前記セルを液晶注入用真空装置に移し、0.002Torrまで減圧した後に液晶皿にセルの液晶注入口を付けてセル外部を常圧に戻して、液晶をセル中に導入し、続いて、前記液晶注入口を封止材で塞ぎ硬化した。そして、この液晶を導入したセルを約110℃まで加熱して、基板上の「画素部分と画素部分との間」に存在させたゲル化剤が完全に溶解しないうちに、毎分0.1度の冷却速度で室温まで冷却することにより、画像表示部分がゲル状の液晶組成物からなる液晶表示素子を得た。
【0055】
このようにして得られたカラーフィルター無しの液晶表示素子は、可視光に対して透明であり、その表面には肉眼で確認できる明るさムラは少なくほぼ均一であった。この液晶表示素子に1kHzの交流電圧を印加したところ、液晶が正常に作動することが確認できた。また、この液晶表示素子を、これに電圧を印加した状態のまま、光学顕微鏡を用いて、直交した二枚の偏光板を通して観察したところ、ゲル化剤の網目構造の大部分が、セル作製時にゲル化剤を印刷塗布した500μmピッチの直線上に存在していた。
【0056】
(実施例2)
寸法30mm×30mmのガラス板を2枚用意し、そして、それらのガラス板の内の1枚の上に500μm×500μmの画素サイズに対応したブラックマトリクスを1μmの厚みで形成した後、赤色・緑色・青色のカラーフィルター作製用インキを塗布してカラーフィルターを形成し、次に、そのカラーフィルターの上にITO電極層を形成して基板とし、また、他の1枚のガラス板の一方の表面にもITO電極層を形成して基板として、一対の基板とした以外は、実施例1と同様にして液晶表示素子を得た。
このようにして得られたカラーフィルター付きの液晶表示素子は、ゲル化剤の網目構造のほとんどはブラックマトリクスに隠れており、ゲル化剤の網目構造が非直線的に成長した部分や、長い組織の一部が見える程度であった。この液晶表示素子に1kHzの交流電圧を印加したところ、液晶が正常に作動することが確認できた。また、この液晶表示素子を、これに電圧を印加した状態のまま、光学顕微鏡を用いて、直交した二枚の偏光板を通して観察したところ、ゲル化剤の網目構造の大部分が、セル作製時にゲル化剤を印刷塗布した500μmピッチの直線上に存在していた。
【0057】
(実施例3)
(1)実施例1で用意した液晶物質及びゲル化剤と同じものを用意した。
(2)ITO電極層を形成した150μm厚のポリエーテルスルフォンシート(PES、住友ベークライト社製)を3.5cm×3.5cmに切りだし、中心部に3.0cm×3.0cmのITOを残して端をエッチングして取り除いたものを2枚用意し、1対の基板とした。
(3)1対の基板の内の上基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置にシリカスペーサーをスクリーン印刷した以外は、実施例1と同様にセルを作製した。
(4)用意した液晶物質に対して最小ゲル化濃度となる量より少ないゲル化剤を加えた混合物を調合した。なお、前記「最小ゲル化濃度」は、ある温度において溶剤(本発明の場合は液晶物質)をゲル化(見かけ上の固体化)させるのに必要なゲル化剤の最小濃度である(非特許文献1を参照。)。
(5)セルを液晶注入用真空装置に移し、0.002Torrまで減圧した後に、前記液晶物質とゲル化剤との混合物を入れた皿にセルの液晶注入口を付けてセル外部を常圧に戻すことにより、前記液晶物質とゲル化剤との混合物をセル中に導入し、続いて、前記注入口を封止剤で塞ぎ硬化した。そして、この液晶物質を導入したセルを約110℃まで加熱して、画素の間に存在させたゲル化剤が完全に溶解しないうちに、毎分0.1度の冷却速度で室温まで冷却することにより、画像表示部分がゲル状の液晶組成物からなる液晶表示素子を得た。
【0058】
この液晶表示素子は、可視光に対して透明であり、また、その表面には、肉眼で確認できる明るさムラは少なく、ほぼ均一であった。電界に対する応答性は実施例1で作製した素子と同等であった。顕微鏡によって観察されるゲルの形状は、実施例1で作製したものと類似していたが、調光層の「画素部分」にできたゲル化剤の網目構造の量が実施例1の素子よりもやや多かった。カラーフィルター付きの素子についても同様に観察すると、ゲルのほとんどはブラックマトリクスに隠れており、ゲル化剤の網目構造が特に長く成長した部分が少々見える程度であった。
【0059】
(実施例4)
(1)液晶物質として、等方相/液晶相転移点を45℃に持つものを用意し、そして、ゲル化剤として、次の式
【化2】
Figure 0004082585
で示されるものを用意した。このゲル化剤による前記の液晶のゾルゲル転移温度は、おおむね61℃であった。
(2)実施例3と同じ基板を一対用意した。
(3)前記一対の基板の電極を形成した側の表面にポリイミド膜をフレキソ印刷法により形成した後、ナイロンを巻きつけた円筒状ロールを用いてラビング処理を施すことにより配向膜を形成した。
(4)ゲル化剤を付着させたシリカスペーサーをアルコール中に分散させたスペーサー散布液を用意し、これを幅10μm、500μピッチの線状のスクリーン版を用いて上基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に合わせてスクリーン印刷して乾燥させた。
(5)前記上下の基板を接着させるためのシール部材を下基板の一方の表面に形成し、前記上下の基板を貼り合わせて固定し、硬化してセルを作製した。
(6)前記セルを液晶注入用真空装置に移し、0.002Torrまで減圧した後に液晶皿にセルの液晶注入口を付けてセル外部を常圧に戻して、液晶をセル中に導入し、続いて、前記液晶注入口を封止材で塞ぎ硬化した。そして、この液晶を導入したセルを約110℃まで加熱して、基板上の「画素部分と画素部分との間」に存在させたゲル化剤が完全に溶解しないうちに、セルの両基板間に図3に示すような周波数が1Hzの周期電界を印加しながら毎分0.1度の冷却速度で室温まで冷却することにより、画像表示部分がゲル状の液晶組成物からなる液晶表示素子を得た。
【0060】
このようにして得られた液晶表示素子における液晶組成物は、可視光に対して透明性を示し、その表面に肉眼で確認できる明るさムラは無く均一であった。この液晶表示素子の表面のうち、図4に示す9点の透過率を測定したところ(数値は、液晶を注入していないセルの透過率を基準とした値である。)、前記9点の透過率は平均73.6%であり、標準偏差σ=1.48であった。そして、このようにして得られた液晶表示素子に、1kHzの交流電界を印加したところ、電界に対する応答性は実施例1で得た液晶表示素子と同等であり、そのコントラスト比は58:1であった。この液晶表示素子電圧を、これに印加した状態のまま、光学顕微鏡を用いて、直交した二枚の偏光板を通して観察したところ、ゲル化剤の網目構造の大部分が、セル作製時にゲル化剤を印刷塗布した500μmピッチの直線上に存在することが確認できた。
【0061】
(実施例5)
液晶物質として、等方相/液晶相転移点を83℃に持つものを用意し、そして、ゲル化剤として、次の式
【化3】
Figure 0004082585
で示されるものを用意し、このゲル化剤による前記の液晶のゾルゲル転移温度は、おおむね47℃であった以外は、実施例3と同じポリエーテルスルフォン基板を用いて、実施例4と同様の方法で液晶表示素子を得た。
このようにして得られた液晶表示素子における液晶組成物は、可視光に対して散乱性を示し、その表面に肉眼で確認できる明るさムラは無く均一であった。この液晶表示素子の表面のうち、図4に示す9点の透過率を測定したところ(数値は、液晶を注入していないセルの透過率を基準とした値である。)、前記9点の透過率は平均37.6%であり、標準偏差σ=1.13であった。そして、このようにして得られた液晶表示素子に、1kHzの交流電界を印加したところ、液晶が正常に作動することが確認できた。この液晶表示素子電圧を、これに印加した状態のまま、光学顕微鏡を用いて、直交した二枚の偏光板を通して観察したところ、ゲル化剤の網目構造の大部分が、セル作製時にゲル化剤を印刷塗布した500μmピッチの直線上に存在することが確認できた。
【0062】
(比較例1)
ゲル化剤のアルコール分散液をスピンコートで基板全体に塗布してセルを作製し、これに液晶物質を注入後、ゲル化剤が液晶中に完全に溶解するまで加熱した以外は、実施例1と同様にして、液晶表示素子を得た。
このようにして得られた液晶表示素子は、肉眼による観察では実施例1のものと差は無かった。この液晶表示素子を偏光板を用いて顕微鏡で観察したところ、ゲル化剤の網目構造がランダムに形成されていた。そして、この液晶表示素子に1kHzの交流電圧を印加して実施例1で得られた液晶表示素子と比較しながら応答を観察したところ、液晶物質の作動が実施例1で得られた液晶表示素子と比べて遅いことが肉眼で確認された。
【0063】
(比較例2)
ゲル化剤のアルコール分散液をスピンコートで基板全体に塗布してセルを作製し、これに液晶物質を注入後、ゲル化剤が液晶中に完全に溶解するまで加熱した以外は、実施例2と同様の方法で、ゲル状の液晶組成物を含むセルを作製した。このようにして得られた液晶表示素子は、肉眼による観察では実施例2のものと差は無かった。この液晶表示素子を偏光板を用いて顕微鏡で観察したところ、ゲル化剤の網目構造がランダムに形成されており、また、調光層の表示部にもゲル化剤の網目構造が存在し、ゲル化剤の網目構造が光の透過を妨げていることが確認できた。そして、この液晶表示素子に1kHzの交流電圧を印加して実施例1で得られた液晶表示素子と比較しながら応答を観察したところ、液晶物質の作動が実施例1で得られた液晶表示素子と比べて遅いことが肉眼で確認された。
【0064】
(比較例3)
セルを冷却するときに電界を印加しない、ということ以外は実施例4と同様の方法でセルを作製した。得られた液晶表示素子は、実施例4のセルと比較すると、透明性や均一性が劣ることが肉眼で確認できた。
実施例4と同様の条件で透過率を測定すると、9点の平均透過率は61.0%であり、標準偏差σ=1.56であった。電界に対する応答性は、実施例3で作製したセルと大差なかったが、コントラスト比は33:1であった。
【0065】
(比較例4)
セルの冷却時に周期電界を印加しないことを除いては、全て実施例5と同条件で液晶表示素子を得た。このようにして得られた液晶表示素子の調光層の可視光に対する散乱性及び明るさの均一性は、実施例5で作製した素子に劣ることが肉眼でも確認された。そして、このようにして得られた液晶表示素子の図4に示す9点の透過率は、平均72.7%であり、その標準偏差σ=6.5であった。このようにして得られた液晶表示素子の電界に対する応答性については実施例5の液晶表示素子と同等であった。
【0066】
【発明の効果】
(1)請求項1に記載された発明によれば、調光層のゲル化剤による網目構造の密度が「画素部分」(表示部)よりも「画素部分と画素部分との間」(非表示部(ブラックマトリックス))において高いので、液晶の電界応答性を損なうことなく、安定性、耐圧性に優れた液晶表示素子10を提供することができる。
(2)請求項2,3に記載された発明によれば、可視光に対して透明な調光層を備えた液晶表示素子(TN型液晶表示素子)において、調光層のゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低いので、より透明性に優れた調光層を備えた液晶表示素子を提供することができる。
【0067】
(3)請求項4に記載された発明によれば、可視光に対して透明な調光層を備えた液晶表示素子(TN型液晶表示素子)において、前記調光層のゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高いと共に、前記調光層が加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した液晶組成物を周期電界の印加条件下において冷却したもので構成されているので、透明性に優れてムラの少ない調光層を備えた液晶表示素子を得ることができる。
(4)請求項5に記載された発明によれば、調光層のゾルゲル転移点が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高い場合に、周期電界のなかでも特に交流電界を印加するので、より効率良く、透明性に優れ、しかも、明るさムラが少ない均一な液晶組成物を有する液晶表示素子とすることができる。
【0068】
(5)請求項6に記載された発明によれば、可視光に対して透明な調光層を備えた液晶表示素子(TN型液晶表示素子)において、調光層が加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した後に毎時20℃未満の降温速度で冷却したもので構成されているので、より透明性に優れた明るさムラの少ない液晶組成物を備えた液晶表示素子を得ることができる。
(6)請求項7,8に記載された発明によれば、光散乱性の調光層を備えた反射型液晶表示素子において、調光層のゾルゲル転移温度が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高いので、より散乱性に優れた調光層を備えた液晶表示素子を提供することができる。
【0069】
(7)請求項9に記載された発明によれば、調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低いと共に、前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した液晶組成物を周期電界の印加条件下において冷却したもので構成されているので、散乱性に優れて明るさムラの少ない調光層を備えた液晶表示素子を得ることができる。
(8)請求項10に記載された発明によれば、調光層のゾルゲル転移点が液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低い場合には、前記周期電界が交流電界であると、より生産性良く、散乱性に優れて明るさムラが少なく均一な液晶組成物を有する液晶表示素子とすることができる。
【0070】
(9)請求項11に記載された発明によれば、光散乱性の調光層を備えた反射型液晶表示素子において、調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に混和させた後に毎時20℃未満の降温速度にて冷却されたもので構成されているので、より散乱性に優れ明るさムラの少ない液晶組成物を備えた液晶表示素子を得ることができる。
(10)請求項12に記載された発明によれば、一対の基板の少なくても一方が250μm厚以下のプラスチック基板であるので、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量、薄型で生産性に優れ、表示品質の高い液晶表示素子を提供することができる。
【0071】
(11)請求項13に記載された発明によれば、ゲル状の液晶組成物の作製時に、基板の非表示部となる位置にゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質を存在させて、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置からゲル化剤の網目構造を成長させるので、操作を煩雑にすることなく簡易な製造工程で液晶表示素子を得ることができる。
(12)請求項14に記載された発明によれば、ゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質がゲル化剤であるので、ゲル化の過程においては特別な操作をほどこす必要がなく、簡易な製造工程で本発明の液晶表示素子を得ることができる。
【0072】
(13)請求項15に記載された発明によれば、ゲル化剤をギャップ材に付着させた状態にして基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に存在させるので、ギャップ材の配置と同時にゲル化剤も配置できることになり、そのために、効率の良い液晶表示素子の製造が可能となる。
(14)請求項16に記載された発明によれば、ゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質が基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に存在させたギャップ材であるので、液晶物質のゲル化の過程でギャップ材表面からゲル化剤が凝集し始めれば、その場所からゲル化剤の網目構造が成長することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態を示す液晶表示素子の概念図である。
【図2】 図1の一部拡大図である。
【図3】 液晶組成物に印加する周期電界の説明図である。
【図4】 液晶表示素子の光透過率を測定する個所を示す。
【符号の説明】
1 表示側基板
2 シール部
3 調光層
10 液晶表示素子
11 「画素部分」(表示部)
12 ゲル化剤の網目構造が高密度な部分
13 「画素部分と画素部分との間」(非表示部(ブラックマトリックス))

Claims (16)

  1. 電極を備えた一対の基板間に、液晶物質とこれをゲル化するゲル化剤とを含む液晶組成物からなる調光層を有する液晶表示素子において、該調光層のゲル化剤による網目構造の密度が、「画素部分」よりも「画素部分と画素部分との間」において高いことを特徴とする液晶表示素子。
  2. 前記調光層が、可視光に対して透明である調光層であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
  3. 前記調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低いことを特徴とする請求項2に記載の液晶表示素子。
  4. 前記調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高いと共に、前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した液晶組成物を周期電界の印加条件下において冷却したもので構成されていることを特徴とする請求項2に記載の液晶表示素子。
  5. 前記周期電界が、交流電界であることを特徴とする請求項4に記載の液晶表示素子。
  6. 前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した後に毎時20℃未満の降温速度で冷却したもので構成されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載された液晶表示素子。
  7. 前記調光層が、光散乱性の調光層であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
  8. 前記調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高いことを特徴とする請求項7に記載の液晶表示素子。
  9. 前記調光層のゾルゲル転移温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも低いと共に、前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した液晶組成物を周期電界の印加条件下において冷却したもので構成されていることを特徴とする請求項7に記載の液晶表示素子。
  10. 前記周期電界が、交流電界であることを特徴とする請求項7に記載の液晶表示素子。
  11. 前記調光層が、加熱によりゲル化剤を液晶物質に溶解した後に毎時20℃未満の降温速度で冷却したもので構成されていることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載された液晶表示素子。
  12. 前記一対の基板の少なくても一方が、250μm厚以下のプラスチック基板であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の液晶表示素子。
  13. 請求項1〜11のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法において、ゲル状の液晶組成物の作製時に、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置にゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質を存在させて、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置からゲル化剤の網目構造を成長させることを特徴とする液晶表示素子の製造方法。
  14. 前記ゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質が、ゲル化剤であることを特徴とする請求項13に記載の液晶表示素子の製造方法。
  15. 前記ゲル化剤をギャップ材に付着させた状態にして基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に存在させることを特徴とする請求項14に記載の液晶表示素子の製造方法。
  16. 前記ゲル化剤の網目構造が成長する開始点となる物質が、基板の「画素部分と画素部分との間」となる位置に存在させたギャップ材であることを特徴とする請求項13に記載の液晶表示素子の製造方法。
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