JP4504625B2 - 光変調素子の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光変調素子の製造方法に関し、さらに詳しくは、応答速度に優れた光変調素子の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の光変調素子としては、液晶と偏光板で光の透過と非透過(遮断)を切り替えるものやマイクロミラーを用いて光の反射方向を制御する方式のものが実用化され、それらの普及が進んでいる。中でも液晶を用いる方式のものでは、特に、ネマティック液晶を使用したTN型の光変調素子及びSTN型の光変調素子は、軽量・低消費電力であるので、それを有する液晶表示素子は、様々なオフィス機器、家庭用電気製品等に適用されている。また、液晶に光散乱性を持たせると光散乱性の光変調素子が作製可能であるので、かかる光変調素子を反射型の表示素子に応用すると、バックライトが不要であり、高散乱性、高視野角を有し、薄型であり、そして、低消費電力である表示素子を得ることができる。透過型光変調素子及び反射型光変調素子のいずれの光変調素子においても、社会の需要に応えるためには、高品質な光変調素子を効率良く生産することが不可欠である。
【0003】
液晶の品質を上げる手段の一例として、液晶物質中に会合性化合物を添加して液晶の流動性を減少又は消失させて非液体状の液晶組成物とすること(特許文献1を参照。)が提案されている。このような非液体状の液晶組成物を一対の基板間に存在させた光変調素子とすると、安定性、即ち、耐圧性(耐ショック性)に優れる光変調素子が得られる。しかし、このような会合性化合物を用いた非液体状の液晶組成物は、時間の経過とともに会合構造中に液晶物質を保持しきれなくなるので、経時的な安定性に劣るという問題点があった。また、従来の会合性化合物を用いた非液体状の液晶組成物は、光変調素子を製造過程において、会合性化合物と液晶物質とを混和させるので、高温に加熱してから冷却する必要があり、そのために、製造過程が煩雑になると共に、エネルギーを必要とし製造コストがかかるという問題があった。
【0004】
また、従来の会合性化合物を用いた液晶組成物は、液晶物質と比較して電界に対する立ち上がりは速くなるが、電界がOFFになった時の立ち下がりが大幅に遅くなるという問題もあった。また、液晶物質と会合性化合物からなる液晶組成物は、材料によっては光散乱性を示すので、これを用いて偏光板を使わずに光の透過と散乱を切りかえることができる光変調素子を作ることができるが、反射型表示素子とするに十分な光反射率を確保することが極めて困難であるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−156665号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。
即ち、本発明は、経時的な安定性が向上すると共に、応答速度が速くなり、しかも、散乱性が向上し、さらに、製造時の熱エネルギーが低減される光変調素子の製造方法を低コストで提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、電極を設けた一対の基板間に、(a)ネマティック液晶物質、及び、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサン、を含有する液晶組成物を注入し、これを等方相から周期電界の印加条件下において冷却して調光層とすることを特徴とする光変調素子の製造方法である。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記周期電界が交流電界であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された発明において、前記液晶組成物を等方相から毎時20℃未満の降温速度で冷却することを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載された発明は、あらかじめ、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサンを、電極を設けた一対の基板上に配置した後、(a)ネマティック液晶物質を一対の基板の間に注入することを特徴とする光変調素子の製造方法である。
【0011】
請求項5に記載された発明は、請求項4に記載された発明において、前記(b)の会合性オルガノシロキサンと前記(a)のネマティック液晶物質とが混和しない温度条件下において、前記(a)のネマティック液晶物質を、電極を設けた一対の基板間に注入することを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施の形態を示す光変調素子の断面図である。図2は、本発明の一実施の形態を示す光変調素子の製造過程を示す説明図であって、(a)は、上側基板を示し、そして、(b)は、下側基板上に会合性オルガノシロキサン及びスペーサーを存在させた状態を示す。図3は、本発明の一実施の形態を示す光変調素子の製造過程を示す説明図であって、張り合わせた一対の基板の間にネマティック液晶物質を注入した状態の断面を示す説明図である。図4は、本発明の一実施の形態を示す光変調素子の製造過程を示す説明図であって、加熱により会合性オルガノシロキサンゲル化剤がネマティック液晶物質に溶解された液晶組成物を電界の印加条件下において室温まで冷却する状態を示す説明図である。図5は、液晶組成物に印加する周期電界の説明図である。図6は、実施例1で得られた光変調素子の印加電圧と応答時間との関係を示すグラフである。
【0013】
図1において、20は、本発明の光変調素子である。本発明の光変調素子20は、電極3,4を設けた一対の基板1,2の間に、(a)ネマティック液晶物質(図3における7を参照。)、及び、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサン(図3における10を参照。)、を含有する液晶組成物からなる調光層9を備えている。図1において、5,6は、配向膜であり、11は、スペーサーであり、そして、12,13は、シール部である。
【0014】
このように、電極3,4を設けた一対の基板1,2の間に、(a)ネマティック液晶物質、及び、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサン、を含有する液晶組成物からなる調光層を備えていると、経時的な安定性が向上する(即ち、室温下で流動性をもたない安定な構造を保持する)と共に、応答速度(即ち、電界に対する立ち上がり及び立ち下がり速度)が速くなり、しかも、散乱性が向上し、さらに、製造時の熱エネルギーを低減することができる光変調素子を提供することができる。
【0015】
本発明における「会合性部位」は、化学結合以外の力により集合体を形成できるものである。即ち、会合構造は、共有結合以外の二次的結合力によるものであり、ここでいう「二次的結合力」とは,分子間力(水素結合、分子配向、ヘリックス形成、ラメラ形成等)、イオン結合によるものである。分子間力結合による非会合状態への変化は一般的に温度を上げることによって引き起こすことができる。イオン結合による非会合状態への変化は一般的にpHやイオン強度を変化させることによって引き起こすことができるが、会合状態は室温(25℃)以上で安定でなければならない。具体的にはアミド結合や水酸基を有する水素結合性の化合物{アミド結合を有する化合物(アミノ酸系化合物、尿素系化合物)、ソルビトール系化合物、ステロイド系化合物など)}、非対称長鎖アルキルアンモニウム塩などのイオン成分を持つもの、或いは、イオン部、水素結合部を持たない材料の構造に起因するもの、例えば、ファンデルワールス力、π−πスタッキングなどによるもの(コレステロール誘導体,ポリフルオロアルキル化合物、長鎖アルコキシアントラセン)等がある。この中でも、特に、水素結合性のものが好ましい。ファンデルワールス力、π−πスタッキング等では会合力が弱く温度安定性に欠ける。イオン結合によるものは会合力は強いが、イオン成分を有するため分極によるダイレクターの乱れを引き起こしやすいため液晶中で使用するには好ましくない。
【0016】
本発明でいう「会合」とは、三次元ネットワーク構造に溶剤が取り込まれた状態をさし、会合状態から非会合(溶液)状態へと可逆的に変化するものである。その場合、会合状態から非会合状態への変化が可能であれば、三次元ネットワーク構造の架橋部分の構造には限定を受けないが、その架橋構造は一般的に共有結合以外の二次的結合力によるものの場合が多い。本発明で用いる「会合性化合物のネットワーク構造」は、分子間水素結合によるものであり、温度を上げることにより会合状態を解いて非会合状態とすることができる。また、本発明において用いられるネマティック液晶物質としては、従来から液晶表示素子に用いられているネマティック相を示すビフェニル系化合物、タ−フェニル系化合物、アゾキシ系化合物、フェニルシクロヘキサン系化合物、ビフェニルシクロヘキサン系化合物、シッフ塩基系化合物、エステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、ピリミジンケイ化合物、ジオキサン系化合物、ビシクロオクタン系化合物、キュバン系化合物等の各種のネマティック液晶物質を用いることができる。
【0017】
従来の会合性化合物を用いた液晶組成物では、会合性化合物の会合構造はある程度の長さを持つ繊維状の構造であることが知られている。そのため、会合した当初はその長い会合構造が組み合わさったネットワーク構造に液晶物質が取り込まれて流動性が消失しているが、時間の経過にともないネットワーク構造に取り込まれた液晶物質が徐々に染みだしてくる。液晶物質の染み出しは、液晶組成物の透過率や屈折率のムラ、応答性のムラの原因となり表示品質を落とす要因となっていた。そこで本発明者らは、会合性化合物として会合性部位を有するオルガノシロキサンを用いることにより、会合構造の微細化に成功した。会合構造を細かくすることによって、会合性化合物と液晶物質の接触面積の合計が大きくなり液晶物質が会合性化合物から充分な相互作用が得られるために、会合性化合物のネットワーク構造から液晶物質が染み出しにくくなり経時的安定性が向上したものと考えられる。
【0018】
また、電界印加状態から非印加状態にスイッチした時の分子の立ち下がり速度に関しても、従来の会合性化合物に比べ会合構造が細かいオルガノシロキサンを用いた液晶組成物の方が、液晶物質全体に均等な規制力がかかり電圧非印加時の元の状態に戻る時間が早まる。したがって、会合性オルガノシロキサンを用いることにより、応答性に優れる液晶組成物を備えた光変調素子を提供することができた。
【0019】
また、液晶組成物の製造過程においては、会合性オルガノシロキサンをネマティック液晶物質と混和させるために加熱が必要であるが、従来の会合性化合物は液晶物質との相溶性にあまり優れず、液晶物質に完全に混和させるためには少なくとも120℃前後までの加熱が必要となり、エネルギー的に不利であった。これに対し、本発明の会合性部位を有する会合性オルガノシロキサンは、ネマティック液晶物質への溶解性が高く、ネマティック液晶物質の種類にもよるがおおむね100℃程度未満でネマティック液晶物質と混和する。したがって、調光層、即ち、ゲル化した液晶組成物、の形成時における加熱温度が低くてすみ、そのために、熱エネルギーを低減して効率良く調光層を備えた光変調素子を製造することができる。
【0020】
前記会合性オルガノシロキサンにおける会合性部位は、好ましくは、次の一般式(1)
−NH−C*H(R)−CO− (1)
(式中、Rは一価の有機基であり、そして、*は光学活性部位を示す。)
で示される部分構造を有するものである。
このように、前記会合性オルガノシロキサンにおける会合性部位が、前記一般式(1)で示される部分構造を有するものであると、前記会合性部位が水素結合性となり、そのために、光変調素子が、光散乱性に優れたものとなり、かつ、外場(電界)から光散乱状態と光透過状態とにスイッチングできるものとなる。
【0021】
本発明の会合性オルガノシロキサンを用いた液晶組成物は、従来の会合性化合物を用いた場合と比較すると光散乱性に優れる。その理由については、会合性オルガノシロキサンによる会合構造が細かいことにより、液晶物質との接触面積が大きくなって界面での散乱性が高くなっていることが影響していると考えられる。これを利用すると、外場(電界)無印加状態では、液晶組成物は散乱性を示し、外場(電界)によって液晶が電界方向に揃った時は、光が透過する光変調素子を提供することができた。この光変調素子を反射型表示素子に応用することで、高視野角を有し薄型、低消費電力の表示素子を得ることができる。
【0022】
本発明における会合性オルガノシロキサンは、次の式(2)
【化1】
Figure 0004504625
(式中、R1〜R5及びX,Y,Zは、同一又は異なる一価の有機基であり、X,Y,Zの少なくとも1つは、光学活性を有し水素結合部位を少なくとも1カ所以上有する一価の有機基である。また、n,m及びlは自然数である。)
で示されるものである。
【0023】
このように、会合性オルガノシロキサンが前記一般式(2)で示した構造を有していると、分子間の結合が柔らかく動的でネマティック液晶物質の電界応答性を下げない液晶組成物からなる調光層を備えた光変調素子を提供することができる。分子間水素結合が可能な分子構造上の条件は、一般的にはアミド基(−NHCO−)、アミノ基(−NH−)とカルボニル基(−CO−)の組み合わせを有するものが好ましい。これ以外に、カルバメート基、ウレア基、カルボキシル基、アルコキシ基、リン酸基及び水酸基があってもよく、これらの数、位置については限定しない。そのような会合性部位の中でも、特に、一般式(2)のようなアミノ基、カルボニル基及びアルキル基を有するものが好ましい。
【0024】
より具体的には、高分子論文集、Vol.52,No12,P773(1995)、「オイルゲル化剤の開発とゲル化機構の解明」の項、並びに、高分子加工、45巻1号,P21(1996) 、「オイルゲル化剤」の項に記載される光学活性を有するゲル化剤の構造を有するものが好ましい。
【0025】
また、光学活性を有し、水素結合部位を有するものとしては、以下の構造を有するものが好ましい。
【0026】
―NH−C*H(R)−CO−
(式中、Rは一価の有機基であり、そして、*は光学活性部位を示す。)
【0027】
具体的には、以下の構造のものが好ましい。
【0028】
−(CH2n−CONHCH(s−C49)CONHR5
(式中、nは2〜18の整数であり、R5 は炭素数が4〜24のアルキル基である。)
で示されるもの
【0029】
−(CH2n−CONHCH(i−C37)CONHR5
(式中、nは2〜18の整数であり、R5 は炭素数が4〜24のアルキル基である。)
で示されるもの
【0030】
次の式(3)
【化2】
Figure 0004504625
で示されるもの
【0031】
次の式(4)
【化3】
Figure 0004504625
(式中、n,n1 は、2〜18の整数であり、n2 ,n3 は、1〜9の整数である。)
で示されるもの
【0032】
上記、会合性部位を持つ有機基は、高分子鎖に対してメチレン鎖(−CH2n −で結合されることが好ましく、その単位数は、高分子鎖の運動を妨げない面や会合体構築を妨げない面からn≧4であることが好ましい。
【0033】
前記式(2)で示される会合性オルガノシロキサンのシロキサン鎖に対するZの導入比:n/(m+n)は、好ましくは、0.3以上、さらに好ましくは、0.5以上である。
【0034】
このように、会合性オルガノシロキサンが一般式(2)の構造をもつとともに式中のn/(m+n)が0.3以上であることにより、効果的に会合構造が形成された液晶組成物からなる調光層9を備えた光変調素子20を提供することができる。本発明で用いられる光学活性を有し会合性部位を有する会合性オルガノシロキサンは、一般式(2)で表される構造を持ち、水素結合性の会合性部位は、式中のZで表されるように、共有結合によって側鎖として導入されていることが好ましい。シロキサン結合中のSiに付く有機基のうち、会合性部位であるZの割合が低い場合は、液晶組成物中の会合性オルガノシロキサンの濃度を高くして会合させることになるが、高濃度の会合性化合物は、液晶組成物の透過率及び応答性を下げる要因となりやすい。そのため、好ましくは、会合性部位Zの割合であるn/(m+n)を0.3以上、さらに好ましくは、0.5以上とすることにより、少量の会合性化合物の添加により液晶物質を取り込むのに充分な会合構造を形成することができる。
【0035】
また、前記会合性オルガノシロキサンの分子量は、好ましくは、1000以上である。このように、会合性オルガノシロキサンの分子量が1000以上であると、安定な会合構造が形成された液晶組成物からなる調光層9を備えた光変調素子20を提供することができる。会合性化合物の分子量が小さい場合には、高分子鎖部の非晶質性を失いやすく、また、形成される会合体組織も粗いものになりやすく、会合構造の安定性も損なわれやすい。しかし、分子量が1000以上であることにより、会合体組織が安定になることに加え、製造過程においてエネルギー的に有利になるとともに工業的にも扱いやすい。より好ましくは、会合性オルガノシロキサンの分子量は2000以上である。オルガノシロキサンの分子鎖の繰り返し単位数{式2中の記号で表すと(m+n)×l}は5以上であることが好ましい。10以上であればより一層好ましい。
【0036】
本発明における前記(a)のネマティック液晶物質及び前記(b)の会合性オルガノシロキサンを含有する液晶組成物のゾルゲル転移温度は、ネマティック液晶物質の等方相/液晶相転移温度より高いものとなっている。このように、前記(a)のネマティック液晶物質及び前記(b)の会合性オルガノシロキサンを含有する液晶組成物のゾルゲル転移温度がネマティック液晶物質の等方相/液晶相転移温度より高いと、より散乱性に優れる調光層9を備えた光変調素子20を提供することができる。本発明者らは、光散乱性の光変調素子の作製にあたり、より高反射率となる液晶組成物ができる材料の検討を重ねたところ、液晶物質中で会合性化合物が会合する温度が、液晶物質の等方相/液晶相転移温度よりも高くなるような、ネマティック液晶物質と会合性オルガノシロキサンの組み合わせであることによって、より高反射率の液晶組成物が作製できることを見出した。この理由は明確には把握していないが、等方相を呈するネマティック液晶物質中に会合性化合物が完全に混和している等方性状態(高温状態)から、温度が下がり会合構造にネマティック液晶物質が取り込まれた状態になる過程において、等方相状態の中で会合性化合物の会合構造がランダムに発生し、その後その会合構造の中で液晶相が発現するため、液晶が規則的に配列しようとすることを会合組識に阻害され、できた液晶組成物が散乱しやすくなるものと考えられる。
【0037】
図1に示すように、本発明の光変調素子20においては、基板1,2の双方に配向膜5,6が設けられている。このように、上下の基板1,2の双方に配向膜5,6が設けられていると、明るさのムラが少なく均一な調光層9を備えた光変調素子20を得ることができる。これらの基板1,2に配向処理が施されない場合は、会合性オルガノシロキサン(ゲル化剤)の会合構造に取り込まれたネマティック液晶物質が基板に対してランダムな向きに配置するため表面が均一にならずムラができる。この現象は大面積の表示素子の作製において顕著であり、そのために、工業的に再現性よく均一な表示素子を製造することが困難であった。これに対し、両基板に配向処理が施された場合は液晶分子がある程度規則的に配置しようとする力が発生して、明るさのムラが少なく均一な調光層9ができる。
【0038】
配向膜5,6は、一軸方向に配向処理され、そして、それらの配向方向が一致しないように配置されている。このように、配向膜5,6が一軸方向に配向処理され、そして、それらの配向方向が一致しないように配置されていると、より一層散乱性に優れた調光層9を備えた光変調素子20を得ることができる。配向膜5,6の配向処理方向を一致させない(即ち、平行又は反平行とならない)ようにすることによって光の透過する割合が低くなり、結果として散乱性を高めることができる。この傾向は、会合性化合物が液晶物質の液晶相において会合する場合において特に顕著である。上下の配向処理方向を互いに垂直にすることにより、より効果的に散乱性向上の効果がある。
【0039】
図4に示されるように、本発明の光変調素子20は、電極3,4を設けた一対の基板1,2の間に、(a)ネマティック液晶物質、及び、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサン、を含有する液晶組成物8を注入し、これを等方相から周期電界の印加条件下において冷却して、調光層(図1における9を参照。)とすることにより製造される。前記周期電界は、好ましくは、交流電界である。そして、前記液晶組成物8は、等方相から毎時20℃未満の降温速度で冷却される。
【0040】
このように、(a)ネマティック液晶物質、及び、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサン、を含有する液晶組成物8を等方相から周期電界の印加条件下において冷却すると、図1に示されるような、散乱性に優れた調光層9を備えた光変調素子20とすることができる。会合性化オルガノシロキサン10が液晶相において会合する、即ち、ネマティック液晶物質7の中で会合性オルガノシロキサン10が会合する温度がネマティック液晶物質7の等方相/液晶相転移温度よりも低くなる場合には、等方相を呈するネマティック液晶物質7の中に会合性オルガノシロキサン10が完全に混和している等方性状態(高温状態)から、温度の下降とともに、先ず、液晶相が発現することにより系にある程度規則的な構造が付与される。この後、この規則的構造体の中で会合性オルガノシロキサン10の会合構造が発生し、液晶の配向性(規則性)をなるべく維持したまま会合構造ができあがるために散乱が起きにくいと考えられる。
【0041】
そこで、本発明者らは、ネマティック液晶物質の液晶相の中で会合構造ができる過程において、周期電界を印加して液晶分子を動かすことを実施した。本発明で言う電界印加は、液晶分子を動かすことを目的としているものである。ここで言う「液晶分子が動く」とは、液晶分子が電界に応答して動き続ける、即ち、動的な状態となることを意味する。電界を印加することにより、ネマティック液晶物質と会合性オルガノシロキサンの混和物の冷却過程で液晶分子が動き続けるので、液晶分子が規則的かつ静的な状態で会合した場合よりも散乱性に優れた調光層を得ることができる。したがって、液晶分子が動くという条件を満たすものであれば、印加する電界の波形は限定されないが、周期電界であることが好ましい。ここでいう周期電界とは、一定時間毎に一定の電界がかかる波形を指し、周期電界を印加することによって液晶を規則的に動かすことができるので、より効果的に本発明の目的を達成できる。
【0042】
周期電界のなかでも特に交流電界を印加すると、液晶物質を規則的にかつより大きく動かすことができ、そのために、透明性がいっそう高く、しかも、明るさのムラが少ない、液晶ゲルで構成される光変調素子をより効率良く低コストで製造することができる。交流電界を印加することにより、液晶には一定時間毎に絶対値の等しい正負の電界がかかり、液晶分子を規則的にかつより大きく動かすことができる。交流電界であれは、sin波、矩形波、三角波等いずれの波形であっても効果があるが、特に、図6に示すようなパルス交流電界であることが好ましい。パルス交流電界を印加すると、周期的にパルス電界が印加される時以外は電界が0の状態となり、電界方向を向くように動いた液晶がもとに戻る時間が短縮され、より効果的に液晶を動かすことができるため、本発明の目的を達成するためにはパルス交流電界が非常に好ましい。
【0043】
また、ネマティック液晶物質に印加する電界(電圧)は、使用するネマティック液晶物質と会合性オルガノシロキサンが混和した状態において、液晶分子が応答して立ちあがりはじめる電圧よりも高いことが必要である。液晶分子が立ち上がり始める電圧よりも小さい電圧であれば、電界を印加しても液晶分子が動かないので本発明における目的を達成することができない。逆に、液晶分子が立ち上がりきる電圧よりも大きい場合は、液晶分子は大きく動くことができるが、高電圧の印加によってセルが劣化したり、発熱が生じて温度制御の妨げとなる可能性がある。したがって、ネマティック液晶物質に印加する電圧は、液晶分子が立ち上がりはじめる電圧から立ち上がりきる電圧の間であることが望ましい。この範囲の中で、電圧は高い方が効果的に液晶分子を動かすことができるので、液晶分子が電界方向に対して立ち上がり切る電圧の2分の1以上であればより一層好ましい。
【0044】
本発明においては、加熱により会合性オルガノシロキサンをネマティック液晶物質と混和させた液晶組成物8を毎時20℃未満の降温速度にて冷却することにより、図1に示す、より散乱性に優れ明るさのムラの少ない調光層9を備えた光変調素子20を得ることができる。降温速度が毎時20℃よりも速い場合は、会合性化合物の会合が急激に起こるため会合構造が一様にならず、明るさのムラができるとともに全体として散乱性も低くなっていた。そこで降温速度を様々に変えて作製した液晶組成物の反射率および明るさムラの比較をおこなったところ、毎時20℃未満の降温速度で冷却することで反射率の向上と明るさムラの低減の効果があることを発見した。降温速度は毎時10℃未満であることがより一層好ましい。
【0045】
また、図2に示されるように、本発明の光変調素子は、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサン10を、電極3,4を設けた一対の基板1,2の少なくとも一方の上に配置し、(a)ネマティック液晶物質(図3の7を参照。)を一対の基板1,2の間に注入することにより製造される。
【0046】
このように、あらかじめ、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサン10を、電極3,4を設けた一対の基板1,2の少なくとも一方の上に配置し、(a)ネマティック液晶物質(図3の7を参照。)を一対の基板1,2の間に注入すると、製造工程を繁雑にすることなく会合性オルガノシロキサン10とネマティック液晶物質7からなる液晶組成物からなる調光層9を備えた光変調素子20を製造することができる。一般的に、基板面への液晶物質の導入は、両基板間への減圧注入が顕著に使用されている方式である。本発明においては、会合性オルガノシロキサン10が液晶組成物8の中に存在していることが前提であるため、光変調素子20の使用温度範囲においては液晶組成物が会合状態であることが望ましい。したがって、本発明における液晶組成物8を常温で基板1,2の間に減圧注入することはできない。会合状態である液晶組成物8を会合構造が解離する温度以上まで熱して液体状態とすることによって減圧注入が可能となるが、この場合には注入が終了するまでは液体状態を保つ必要があるため、注入皿、基板などを加熱しておく必要がある。このような操作はエネルギー的に不利であり、加熱装置等が必要となる上に、その制御も複雑となり、生産性を下げる要因となる。したがって、ネマティック液晶物質を注入するより先にあらかじめ基板上に会合性オルガノシロキサンを配置するという手順にすれば、減圧注入時の加熱を必要とせず、従来の装置がそのまま使用でき、煩雑な温度制御も不要となる。
【0047】
本発明においては、前記(b)の会合性オルガノシロキサン10と前記(a)のネマティック液晶物質7とが混和しない温度条件下において、前記(a)のネマティック液晶物質7を、電極3,4を設けた一対の基板1,2の間に注入する。このように、前記(b)の会合性オルガノシロキサン10と前記(a)のネマティック液晶物質7とが混和しない温度条件下において、前記(a)のネマティック液晶物質7を、電極3,4を設けた一対の基板1,2の間に注入すると、表示不良の少ない調光層9を備えた光変調素子20を提供することができる。会合性オルガノシロキサン10が、ネマティック液晶物質7を基板1,2の間に注入する温度で液晶と混和するものであると、基板1,2の間に配置した会合性オルガノシロキサン10によって液晶の注入と同時に会合が開始してしまい、注入の妨げとなったり、会合性化合物がネマティック液晶物質7の注入とともに移動して、会合構造の分布が基板1,2上で不均一になる可能性がある。そのような場合に作製された光変調素子20では、均一な光変調ができなくなる。この現象を防ぐために、会合性オルガノシロキサン10とネマティック液晶物質7とが混和しない温度条件で液晶を注入する。言い換えれば、ネマティック液晶物質7を注入する温度において混和が起こらないネマティック液晶物質7と会合性オルガノシロキサン10の組み合わせを選ぶことが必要である。
【0048】
具体的には、図2に示されているように、基板1に電極3を形成した基板及び基板2に電極4を形成した基板をそれぞれ準備し、これらの基板の電極3,4を形成した側の表面に配向膜5,6を形成する。そして、図2(b)に示すように、前記電極3を形成した基板を下側の基板1とし、その基板1の表面、即ち、配向膜5の表面にゲル化剤10を溶剤に溶かし、これを前記下側の基板の表面、即ち、配向膜5の表面に塗布し、続いて、スペーサー分散液をスピンコート機により散布し乾燥させて、スペーサー11を配置する。この際、図3に示されているように、後で形成するシール部12、13にゲル化剤が接しないようにする。
【0049】
そして、図3に示すように、上側の基板2及び下側の基板1を接着させるためのシール剤を下側の基板1の表面に塗布してシール部12,13を形成し、この下側基板1の上に図2(a)に示される上側の基板2を互いの配向膜5,6の配向処理方向が一致しないように(例えば、垂直となるように)貼り合わせて固定・硬化してセルを形成した後、このセルを液晶注入用真空装置に移し、例えば、0.002Torrまで減圧し、液晶皿にセルの液晶物質の注入口を付けてセル外部を常圧に戻して、ネマティック液晶物質7の会合性オルガノシロキサン(ゲル化剤)10によるゾルゲル転移温度(例えば、下記の実施例1では、83℃)が、前記ネマテック液晶物質7の会合開始温度(等方相/液晶相転移温度)(例えば、下記の実施例1では、47℃)よりも低いものとするネマティック液晶物質7をセル中に導入し、注入部分を封止材で塞ぐ。
【0050】
次に、図4に示すように、前記液晶物質を、例えば、120℃まで加熱して、前記会合性オルガノシロキサン(ゲル化剤)を液晶物質に溶かして液晶組成物8とした後、セルの上側の基板2及び下側の基板1の間に、例えば、周波数が1Hzの周期電界を印加しながら120℃から毎分0.1℃の冷却速度で室温まで冷却することにより、図1に示す、調光層9を備えた光変調素子20を得る。図4において、14は電圧計である。
【0051】
本発明においては、ネマティック液晶物質7の注入が完了してから加熱処理をして会合性オルガノシロキサン(ゲル化剤)10をネマティック液晶物質7に混和させた後に冷却して調光層9とすることにより、表示不良の少ない光変調素子を製造することができる。ネマティック液晶物質7に会合性オルガノシロキサン10を溶解したものを加熱すると、均一な等方性溶液となる。これを冷却することにより、光学的に異方性のゲル状の液晶組成物、即ち、調光層9を得ることができる。調光層9は、ネットワーク構造を持つことになるので、長期安定性にいっそう優れたものとなる。したがって、ネマティック液晶物質7の注入が完了した後は、会合性オルガノシロキサン10がネマティック液晶物質7に溶解するように、温度を一旦ゾルゲル転移点以上になるまで加熱してからゲル化点以下まで冷却することにより、短時間で、表示不良の少ない光変調素子を提供することができる。このようにして形成されたゲル状の液晶は、水素結合性のネットワーク構造を持つので、熱などの刺激に応じて結合が切れたりネットワークを形成したりするという構造変化を可逆的に起こさせることが可能である。即ち、ゲル状の液晶組成物を再度加熱することにより等方性溶液に戻り、再度冷却することで液晶ゲル(調光層)が得られるので、表示欠陥を修復することが可能である。また、本発明で作製されるゲル状の液晶組成物は、電界の強度の変化に応じて配向が変化し、明確な電界応答性を示す。
【0052】
本発明の光変調素子20を有する表示素子は、耐衝撃性に優れると共に、外部刺激による気泡の発生を抑制することができ、しかも、配向欠陥が生じにくい。また、ネマティック液晶物質7を用いることにより、経時的安定性及び高速応答に優れた表示素子を提供することできる。
【0053】
本発明の表示素子においては、一対の基板1,2の少なくとも一方が250μm厚以下のプラスチック基板である。このように、一対の基板1,2の少なくとも一方が250μm厚以下のプラスチック基板であると、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量、薄型の表示素子を提供することができる。従来、プラスチック基板を用いた表示素子には、気泡が発生しやすいという問題点があった。気泡が発生する原因の一つに基板が押されることが挙げられる。これは可とう性の基板を使用した場合には、基本的には避けられない現象であり、特に250μm以下のフイルム基板を使用した場合は顕著である。しかし、本発明においては、両基板1,2の間に会合性オルガノシロキサンの会合構造の中に取り込まれたネマティック液晶物質7が存在するので、厚み250μm以下のプラスチック基板を用いていても気泡の発生する可能性が低いという効果がある。この効果の理由は明確には判明していないが、基板1,2の内部が他の部分に比較して負圧になる時に気泡が発生することから、液体状態のネマティック液晶物質が会合性オルガノシロキサンの添加により固体様となることにより、基板1,2の変形に対する回復に液晶組成物8が追随するので、負圧になることが抑制され、気泡発生が抑制される。また、同じ押圧であれば、固体様となった液晶組成物8の方が変形しにくいことも効果をあげる要因となっていると考えられる。
【0054】
本発明に使用されるプラスチック基板は、表示用素子の性格上、可視光に対して透明なものが好ましく、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアクリレート系、ポリエーテル系等汎用の高分子材料を用いる事ができるが、リターデーションが小さく、ガス透過性(水分、酸素、窒素)が少なく、可視光の透過性が高く、線膨張係数が小さく、耐熱性の高い材料が好ましい。特に、厚み250μm以下のものを使用することが軽量性、厚み、破砕しない点で好ましいが、基板の厚みが薄くなるに従い、外部圧力に対する変形もし易くなるので、気泡の発生の危険性も上昇することとなる。本発明の態様はこのような薄いプラスチックフィルムを用いたときに大きな効果を発揮する。
【0055】
プラスチック基板には、ポリカーボネイト又はポリエーテルスルフォンを用いることが好ましい。このような材質の250μm程度の基板は、リターデーション、可視光の透過性、耐熱性(〜150℃)、基板の軽量性、厚みの点に優れているので、これを用いて表示素子を形成すると、表示品質が高く、軽量性、可とう性、生産性に優れた光変調素子を提供することができる。
【0056】
【実施例】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0057】
(実施例1)
(1)ネマティック液晶物質(MJ011211、メルク社製)を用意し、そして、会合性オルガノシロキサンとして次の式(5)
【化4】
Figure 0004504625
に示されるものを用意した後、前記ネマティック液晶物質に前記会合性オルガノシロキサン1重量%を加えて、これらを100℃に加熱することにより、液晶組成物とした。
前記ネマティック液晶物質液晶の等方相/液晶相転移点は83℃であった。また、前記会合性オルガノシロキサンのn/(m+n)は、約0.5であり、その分子量は約5100であり、そして、これによる前記ネマティック液晶物質の会合開始温度は、おおむね、47℃であった。
(2)30mm×30mmのガラス板にITOよりなる電極を形成した基板を2枚準備し、これらの基板の電極を形成した側の表面にポリイミド膜をフレキソ印刷法により形成した後、ナイロンを巻きつけた円筒状ロールを用いてラビング処理を施すことにより配向膜を形成した。
(3)アルコール中にシリカスペーサーを分散させたスペーサー散布液を用意し、これを前記2枚の基板の一方の基板(上基板)の上にスピンコート機によりスペーサーを散布して乾燥させた。次に、両方の基板を接着させるためのシール剤を前記2枚の基板の他方の基板(下基板)の上に印刷形成した。
(4)前記二枚の基板を貼り合わせて固定・硬化してセルを作製した。
(5)このセルを100℃に熱したホットプレートに載せた状態とし、その液晶注入口より、予め、前記(1)で用意した液晶組成物をセル中に導入した後、その液晶注入口を封止材で塞ぎ、これを硬化することによりTN型の光変調素子とした。
【0058】
このようにして得られた光変調素子は、その可視光透過率が73%であった。そして、この光変調素子に1kHzの交流電界を印加したところ、液晶が正常に作動することが確認できた。また、この光変調素子の50Vの交流電界に対する応答時間を測定したところ、その立ち上がり及び立ち下がりの応答時間は、それぞれ、0.39ミリ秒、及び、12.2ミリ秒であった。また、ネマティック液晶物質のみからなる光変調素子の立ち上がり及び立ち下がり応答速度は、それぞれ、0.44ミリ秒、31.4ミリ秒であった。これらの測定結果より、会合性オルガノシロキサンを有することにより応答性の向上が確認され、特に、立ち下がり速度の向上に効果を発揮することが確認された。また、10V〜80Vの印加電圧による立ち上がり及び立ち下がり合計の応答時間の測定結果は、図7に示される。また、このようにして得られた光変調素子における液晶物質を取り込んだ会合構造は、安定性に優れており、作製から3か月をおいてもネマティック液晶物質の染み出しは確認できなかった。
【0059】
(実施例2)
会合性オルガノシロキサンとして、そのn/(m+n)が約0.3であって、その分子量が約3800であるものを用いた以外は、実施例1と同様にして、光変調素子を得た。この光変調素子の可視光透過率は、71%であり、また、電界に対する応答性は、実施例1と同様であった。
【0060】
(実施例3)
(1)ネマティック液晶物質(RC1040、チッソ石油化学社)を用意し、そして、実施例1と同様の会合性オルガノシロキサンを用意した後、前記ネマティック液晶物質に前記会合性オルガノシロキサン1重量%を加えて、これらを100℃に加熱することにより、液晶組成物とした。
前記ネマティック液晶物質の等方相/液晶相転移点は37.3℃であった。また、前記会合性オルガノシロキサンのn/(m+n)は、約0.5であり、その分子量は約5100であり、そして、これによる前記ネマティック液晶物質の会合開始温度は、おおむね、48℃であった。
(2)30mm×30mmのガラス板にITOよりなる電極を形成した基板を2枚準備し、これらの基板の電極を形成した側の表面にポリイミド膜をフレキソ印刷法により形成した後、ナイロンを巻きつけた円筒状ロールを用いてラビング処理を施すことにより配向膜を形成した。
(3)アルコール中にシリカスペーサーを分散させたスペーサー散布液を用意し、これを前記2枚の基板の一方の基板の上にスピンコート機によりスペーサーを散布して乾燥させた。次に、両基板を接着させるためのシール剤を前記2枚の基板の他方の基板上に印刷形成した。
(4)前記二枚の基板を貼り合わせて固定・硬化してセルを作製した。
(5)このセルを100℃に熱したホットプレートに載せた状態とし、その液晶注入口より、予め、前記(1)で用意した液晶組成物をセル中に導入した後、その液晶注入口を封止材で塞ぎこれを硬化し、続いて、100℃から毎分0.3℃の冷却速度で室温まで冷却することにより、光散乱性の液晶光変調素子を得た。
【0061】
このようにして得られた光変調素子に1kHzの交流電界を印加したところ、液晶が正常に作動することが確認できた。また、この光変調素子は、可視光に対して散乱性を示し、肉眼で確認できる明るさムラは、無く均一であった。この光変調素子の透過率は、1.1%であった。
【0062】
(実施例4)
(1)実施例3と同様のネマティック液晶物質及び会合性オルガノシロキサンを用意した。
(2)30mm×30mmのガラス板にITOよりなる電極を形成した基板を2枚準備し、これらの基板の電極を形成した側の表面にポリイミド膜をフレキソ印刷法により形成した後、ナイロンを巻きつけた円筒状ロールを用いてラビング処理を施すことにより配向膜を形成した。
(3)アルコール中にシリカスペーサーを分散させたスペーサー散布液を用意し、これを前記2枚の基板の一方の基板(上基板)の上にスピンコート機によりスペーサーを散布して乾燥させた。次に、前記(1)で用意した会合性オルガノシロキサンを溶剤に分散させたものを用意し、これを前記二枚の基板の他方の基板(下基板)の上に塗布した。この時、後のシール部分には会合性オルガノシロキサンが接しないようにした。また、両基板を接着させるためのシール剤を下基板上に塗布した。
(4)前記二枚の基板を貼り合わせて固定・硬化してセルを作製した。
(5)セルを液晶注入用真空装置に移し、ここで、0.02Torrまで減圧した後に液晶皿にセルの液晶注入口を付けてセル外部を常圧に戻し、前記(1)で用意したネマティック液晶物質をセルに導入した。そして、注入部分を封止剤で塞ぎ硬化することにより光変調素子を得た。
(6)この光変調素子を100℃まで加熱して会合性オルガノシロキサンをネマティック液晶物質に溶かした後、毎分0.3℃の冷却速度で室温まで冷却することにより、光散乱性の光変調素子を得た。
【0063】
得られた光変調素子の電界応答性及び可視光透過率は、実施例3のものと同等であった。
【0064】
(実施例5)
等方相/液晶相転移点が45.3℃であるネマティック液晶物質(RC1039、チッソ石油化学社製)を用いた以外は、実施例3と同様に光変調素子を得た。
このようにして得た光変調素子の電界応答性は、実施例3と同程度であり、また、その光変調素子の可視光透過率は、18%であった。
【0065】
(実施例6)
次の式(6)
【化5】
Figure 0004504625
で示される会合性オルガノシロキサンを用いた以外は、実施例3と同様に光変調素子を得た。
【0066】
このように得た光変調素子の電界応答性は、実施例3と同程度であり、また、その光変調素子の可視光透過率は、2.3%であった。
【0067】
(実施例7)
実施例1と同様のネマティック液晶物質及び会合性オルガノシロキサンを用意した。基板としては、ITOを表面に持つ150μm厚のポリエーテルサルフォンシート(PES、住友ベークライト社製)を3.5cm×3.5cmに切り出し、中心部に3.0cm×3.0cmのITOを残して端の部分をエッチングすることにより取除いたものを2枚用意した。そして、これらを用いて、実施例4と同様の手順に配向処理を行い、基板上にあらかじめ会合性オルガノシロキサンを配置させたセルを作製し、ネマティック液晶物質を減圧注入して光変調素子を得た。次に、この光変調素子を100℃まで加熱して会合性オルガノシロキサンをネマティック液晶物質に溶かし、両基板間に周波数が1Hzの交流電界を印加しながら毎分0.3℃の冷却速度で室温まで冷却することにより、光散乱性の光変調素子を得た。
【0068】
この光散乱性の光変調素子の表面には、肉眼で確認できるムラは無かった。実施例1と同様に透過率を測定したところ、透過率は25%であった。これよりネマティック液晶物質の等方相からの冷却時に交流電界を印加することで、液晶組成物の散乱性を向上させる効果があることが確認された。
【0069】
このようにして得た光変調示素子に1kHzの交流電界を印加したところ、液晶が正常に作動することが確認でき、応答時間は実施例1の素子と同等であった。また、基板にプラスチックを用いたことにより光変調素子の軽量化を達成することができた。
【0070】
(比較例1)
会合性化合物として次の式(7)
【化6】
Figure 0004504625
で示される低分子化合物を用い、そして、ネマティック液晶物質との混合時及びセルへ液晶組成物を導入する時に120℃まで加熱する、という以外は、実施例1と同様にして光変調素子セルを得た。
【0071】
このようにして得た光変調素子の可視光透過率は、87%であった。また、実施例1と同様にして、この光変調素子の応答速度を測定したところ、この光変調素子の立ち上がり及び立ち下がり応答速度は、それぞれ、0.38ミリ秒及び110.5ミリ秒であった。また、光変調素子においては、会合後数日で会合構造から液晶の染みだしがあり、また、会合構造の外にネマティック液晶物質のみの部分が確認された。
【0072】
(参考例1)
会合性オルガノシロキサンとして、次の式(8)
【化7】
Figure 0004504625
で示されるものを用意した。そして、この会合性オルガノシロキサン1重量%を実施例1で用意したネマティック液晶物質に加え、これらを加熱により混和させた後に、冷却することにより、オルガノポリシロキサンの会合構造中に液晶が取り込まれた液晶組成物を得た。
【0073】
このようにして得た液晶組成物は、一年を経過した後においても、会合構造を保っており、これにより、経時的安定性に優れることが確認された。
【0074】
(参考例2)
会合性化合物として次の式(9)
【化8】
Figure 0004504625
で示される低分子化合物を用意した。そして、この低分子化合物1重量%を実施例1で用意したネマティック液晶物質に加え、これらを加熱により混和させた後に、冷却することにより、低分子化合物の会合構造中に液晶が取り込まれた液晶組成物を得た。
【0075】
このようにして得た液晶組成物は、数時間後には結晶化がみられ、会合構造からの液晶物質の染み出しが確認された。
【0076】
【発明の効果】
請求項1に記載された発明によれば、電極を設けた一対の基板間に、(a)ネマティック液晶物質、及び、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサン、を含有する液晶組成物を注入し、これを等方相から周期電界の印加条件下において冷却して調光層とするので、経時的な安定性が向上する(即ち、室温下で流動性をもたない安定な構造を保持する)と共に、応答速度(即ち、電界に対する立ち上がり及び立ち下がり速度)が速くなり、しかも、調光層における散乱性が向上し、さらに、製造時の熱エネルギーが低減される、光変調素子とすることができる。
【0077】
請求項2に記載された発明によれば、前記周期電界が交流電界であるので、液晶物質を規則的にかつより大きく動かすことができ、そのために、透明性がいっそう高くなり、しかも、明るさのムラが少なくなる、光変調素子をより効率良く低コストで製造することができる。
【0078】
請求項3に記載された発明によれば、前記液晶組成物を等方相から毎時20℃未満の降温速度で冷却するので、より散乱性に優れた明るさムラの少ない調光層を備えた光変調素子を製造することができる。
【0079】
請求項4に記載された発明によれば、あらかじめ、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサンを、電極を設けた一対の基板上に配置した後、(a)ネマティック液晶物質を一対の基板の間に注入するので、製造工程を繁雑にすることなく会合性オルガノシロキサンとネマティック液晶物質とを含有する液晶組成物からなる調光層を備えた光変調素子を製造することができる。また、減圧注入時の加熱を必要とせず、従来の装置がそのまま使用でき、煩雑な温度制御も不要となる。
【0080】
請求項5に記載された発明によれば、前記(b)の会合性オルガノシロキサンと前記(a)のネマティック液晶物質とが混和しない温度条件下において、前記(a)のネマティック液晶物質を、電極を設けた一対の基板間に注入するので、従来のように、前記(b)の会合性オルガノシロキサンと前記(a)のネマティック液晶物質との混合によって生じる会合構造の分布が基板上で不均一になることがなく、そのために、表示不良の少ない調光層を備えた光変調素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態を示す光変調素子の断面図である。
【図2】 本発明の一実施の形態を示す光変調素子の製造過程を示す説明図であって、(a)は、上側基板を示し、そして、(b)は、下側基板上に会合性オルガノシロキサン及びスペーサーを存在させた状態を示す。
【図3】 本発明の一実施の形態を示す光変調素子の製造過程を示す説明図であって、張り合わせた一対の基板の間にネマティック液晶物質を注入した状態の断面を示す説明図である。
【図4】 本発明の一実施の形態を示す光変調素子の製造過程を示す説明図であって、加熱により会合性オルガノシロキサンゲル化剤がネマティック液晶物質に溶解された液晶組成物を電界の印加条件下において室温まで冷却する状態を示す説明図である。
【図5】 液晶組成物に印加する周期電界の説明図である。
【図6】 実施例1で得られた光変調素子の印加電圧と応答時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基板(下側)
2 基板(上側)
3,4 電極
5,6 配向膜
7 ネマティック液晶物質
8 液晶組成物
9 調光層
10 会合性オルガノシロキサン(ゲル化剤)
11 スペーサー
12,13 シール部
14 電圧計
20 光変調素子

Claims (5)

  1. 電極を設けた一対の基板間に、(a)ネマティック液晶物質、及び、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサン、を含有する液晶組成物を注入し、これを等方相から周期電界の印加条件下において冷却して調光層とすることを特徴とする光変調素子の製造方法。
  2. 前記周期電界が交流電界であることを特徴とする請求項1に記載の光変調素子の製造方法。
  3. 前記液晶組成物を等方相から毎時20℃未満の降温速度で冷却することを特徴とする請求項1又は2に記載の光変調素子の製造方法。
  4. あらかじめ、(b)光学活性部位を有する会合性部位を少なくとも1か所有する会合性オルガノシロキサンを、電極を設けた一対の基板上に配置した後、(a)ネマティック液晶物質を一対の基板の間に注入することを特徴とする光変調素子の製造方法。
  5. 前記(b)の会合性オルガノシロキサンと前記(a)のネマティック液晶物質とが混和しない温度条件下において、前記(a)のネマティック液晶物質を、電極を設けた一対の基板間に注入することを特徴とする請求項4に記載の光変調素子の製造方法。
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