JP4082225B2 - 再利用にも適した帯電防止性を有する難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、再利用にも適した帯電防止性を有する難燃性樹脂組成物と、この樹脂組成物を使用した成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ABS/ポリカーボネート樹脂は軽量で、強靭性、加工性に優れることから、電気、電子機器部品、OA機器等の成形材料として幅広く使用されている。ABS/ポリカーボネート樹脂には、このような用途の拡大に伴い、更に高度の難燃性が要求されている。
【0003】
従来、ABS/ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与するために、難燃剤としてのハロゲン系難燃剤と難燃助剤としての三酸化アンチモンなどが配合されている。しかし、近年、ハロゲン系難燃剤を使用した樹脂では、材料加工時や燃焼時に発生するハロゲン系化合物等の変性物質が人体に悪影響を与えることが懸念され、ハロゲン系難燃剤を使用しないことが求められている。このため、ハロゲン系難燃剤以外の難燃剤、例えば有機リン系難燃剤、特に有機リン酸エステル系難燃剤を配合した難燃性樹脂組成物が提案されている。
【0004】
また、OA機器関連の成形材料においては、難燃性に加えて帯電防止性も要求されている。その理由は、ABS/ポリカーボネート樹脂は、電気絶縁性が高いため、摩擦等により発生した静電気により、埃の付着が生じやすく、このことが製品不良や使用中の問題につながるためである。例えば、成形加工後の成形品表面に塵芥が付着すると、その後の塗装時に塗装ムラによる不良品の発生を引き起こす。また、ハウジング等に使用された場合、使用中に埃が付着して汚れやすくなる。更に、電子部品分野では、静電気の発生により電子部品が誤動作を起こすという問題もある。
【0005】
そこで、帯電防止性付与の一手法として帯電防止剤を成形品に塗布したり、樹脂中に練り込んだりする方法が採られている。このうち、帯電防止剤の塗布法は、速効性がある反面、摩擦や洗浄により帯電防止効果が低下する問題がある。一方、練り込みの場合には、塗布に比べ長期間に渡り帯電防止効果を保持するが、十分な帯電防止性を得るためには帯電防止剤の配合量を多くする必要があるため、樹脂の特性を低下させてしまう欠点がある。例えば、特開平11−199767号公報では帯電防止剤としてポリエーテルエステルアミドを、特開平9−310000号公報では帯電防止性能を向上させるためにポリアミドイミドエラストマーと電解質を添加する方法が記載されている。しかし、いずれの場合も帯電防止効果を得るためには、その添加量を多く必要とするため、難燃性を悪化させたり、また、エラストマーの場合、樹脂が柔軟になるため、大型OA機器などのハウジングには適さなくなるなど、難燃性と樹脂の機械的特性のバランスを維持し得なかった。
【0006】
更に、ABS/ポリカーボネート樹脂中のポリカーボネート樹脂は加水分解を起こしやすく、特に帯電防止剤を配合した場合は加水分解を起こしやすいという問題もある。このため、射出成形を採用した場合には、特に樹脂にかかる剪断発熱によりポリカーボネート樹脂の分解が促進され、これが外観不良(シルバー)となって現れやすくなる。たとえ小さなシルバーでも厳しい品質管理下では不良品となるため、多くの不良品を発生させてしまう問題があった。
【0007】
ABS/ポリカーボネート樹脂の成形性の改善については、例えば、特開平9−310000号公報にはABS/ポリカーボネート樹脂の熱劣化による変色を改善する目的で、抗酸化剤を添加する方法が提案されている。しかし、抗酸化剤は成形時の滞留変色の改善効果を発揮するもので、ポリカーボネート樹脂の加水分解によるシルバー性の改善には不十分であった。また、ポリカーボネート樹脂の加水分解は、帯電防止剤のみならず、充填材や金属化合物などの配合によっても促進される。
【0008】
さらに、近年の環境負荷低減に取り組むにあたり、成形材料を再利用する要求も高まっている。しかしながら、従来の帯電防止を配合した難燃ABS/ポリカーボネートでは、ポリカーボネートの分解により再利用には適していなかった。
【0009】
このようなことから、従来において、難燃性、帯電防止性、機械的特性、成形性のバランスを十分に満足し、かつ、再利用可能なABS/ポリカーボネート樹脂組成物は提供されていないのが現状である。
【0010】
【特許文献1】
特開平11−199767号公報
【特許文献2】
特開平9−310000号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、優れた帯電防止性、耐衝撃性等の機械的特性、成形性を有し、かつ、再利用可能な難燃性樹脂組成物と、この樹脂組成物を用いた成形品を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の帯電防止性を有する難燃性樹脂組成物は、(A)粘度平均分子量が15,000〜30,000であるポリカーボネート樹脂50〜95重量%と、(B)ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及び必要に応じて用いられるこれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体5〜50重量%とを含む樹脂成分100重量部に対して、(D)リン系難燃剤10〜40重量部、及び(E)下記一般式(イ)で表される重合鎖を有する化合物と、低分子量有機アニオン化合物(ロ)とを混合してなる帯電防止剤0.05〜5重量部を配合してなるであって、該低分子量有機アニオン化合物(ロ)が平均分子量100〜500の酸性基を有する有機化合物又はそれと塩基性化合物との中和物であり、(E)帯電防止剤が担体に含浸していることを特徴とする。
【0013】
【化2】
(式中、Raはアルキレン基を表し、Rbは水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基を表し、Xは水素原子、炭化水素基、イソシアネート残基、エステル基を有する炭化水素基、又はアニオン性親水基を表す。pは1以上、qは2以上の数を表す。)
【0014】
即ち、本発明者らは、上記目的を達成するため、ポリカーボネート樹脂の分子量及び配合比率、グラフト共重合体における組成や分子量、並びにそれらの配合比率、更には帯電防止剤、難燃剤、充填剤、金属化合物について鋭意検討した結果、上記特定の範囲に制御することにより、耐衝撃性等の機械的特性、成形性、更には耐熱性についても優れた特性を保持した帯電防止性を有する難燃性樹脂組成物が得られることを知見し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明においては、樹脂成分が更に(C)芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及び必要に応じて用いられるこれらと共重合可能な他の単量体を共重合してなるビニル系共重合体を30重量%以下含んでいても良く、このようなビニル系共重合体の配合により、流動性を改善することができる。また、(F)フッ素系樹脂を配合することにより、燃焼時の溶融滴下性が改善され、これにより米国UL規格のUL94の燃焼ランクV−0にも対応可能となる。更に、無機充填剤を(G)配合することにより、剛性を改善することができ、金属化合物(H)を配合することにより、OA機器などには、目にやさしい色彩に着色が可能となる上、耐光変色にも優れるという効果が得られる。
【0016】
本発明において、(D)リン系難燃剤としては、成形時における金型汚染性の問題がなく、腐食ガスの発生の問題がないことから、リン酸エステル系難燃剤が好ましい。
【0017】
本発明の成形品は、このような本発明の再利用にも適した帯電防止性を有する難燃性樹脂組成物を成形したものであり、難燃性、帯電防止性、機械的特性、成形性及びそのバランスに優れ、樹脂組成物の再利用にも適する。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)は、1種以上のビスフェノール類とホスゲン又は炭酸ジエステルとの反応によって製造することができる。ビスフェノール類の具体例としては、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシフェニル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−アルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロアルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン、或いはこれらのアルキル置換体、アリール置換体、ハロゲン置換体などが挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0020】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、いわゆるビスフェノールAを原料としたビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が、市場で容易に入手できるという点から好ましい。
【0021】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)の範囲は、15,000〜30,000であり、より好ましくは17,000〜24,000である。この分子量が15,000未満では耐衝撃性が低く、30,000を超えると流動性が低下し、成形性が悪化するため好ましくない。
【0022】
なお、ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)は、ウェベローデ粘度計を用いて塩化メチレンを溶媒とした溶液で測定し、下記schnellの粘度式を用いて求めることができる。
〔η〕=1.23×10−4Mv0.83
(式中、ηは固有粘度を示す。)
【0023】
本発明で使用されるグラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及び必要に応じて共重合可能な他の単量体をグラフト重合してなるものである。
【0024】
グラフト共重合体(B)中のゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエンと共重合可能なビニル単量体との共重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステルとこれと共重可能なビニル単量体との共重合体、エチレン−プロピレン又はブテン−非共役ジエン共重合体、ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。ここで、アクリル酸エステル重合体又はアクリル酸エステル共重合体のアクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−メチルペンチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレートなどが挙げられる。また、エチレン−プロピレン又はブテン−非共役ジエン共重合体に含有されるジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,4−ヘプタジエン、1,5−シクロオクタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、11−エチル−1,11−トリデカジエン、5−メチレン−2−ノルボルネンなどが挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
上記ゴム質重合体は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良く、また、2種以上の複合ゴムとして用いても良い。
【0026】
このようなゴム質重合体のグラフト共重合体(B)中の好ましい含有量は40〜70重量%である。この含有量が40重量%未満では得られる成形品の耐衝撃性が劣るものとなり、70重量%を超えてもグラフト率が低下することから耐衝撃性に劣るものとなる。
【0027】
グラフト共重合体(B)中のゴム質重合体にグラフト重合するビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等が挙げられる。また、更に必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他の単量体(以下、「他の単量体」と称す場合がある。)としては、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド化合物、不飽和カルボン酸化合物等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等が挙げられ、マレイミド化合物としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、不飽和カルボン酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの単量体は、それぞれ1種を単独で、或いは2種以上混合して用いることができる。
【0028】
グラフト共重合体(B)において、これらの単量体成分の割合は、重量比で、芳香族ビニル単量体:シアン化ビニル単量体:他の単量体=95〜60:5〜40:0〜50:とするのが好ましい。
【0029】
本発明で使用されるビニル系共重合体(C)は、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体と、更に必要に応じて用いられるこれらと共重合可能な他の単量体を共重合してなるものである。ここで、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、他の単量体としては、グラフト共重合体(B)にグラフトさせる単量体として上述したものと同様なものを用いることができ、ビニル系共重合体(C)において、これらの単量体成分の割合は、重量比で芳香族ビニル単量体:シアン化ビニル単量体:他の単量体=80〜60:20〜40:0〜60:とするのが好ましい。
【0030】
また、ビニル系共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)は80,000〜200,000が好ましく、この分子量が80,000未満では耐衝撃性に劣り、分子量が200,000を超えると成形加工性が悪化する。
【0031】
なお、本発明において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)にてテトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定したものをポリスチレン(PS)換算で示したものである。
【0032】
本発明において、樹脂成分を構成する上記ポリカーボネート樹脂(A)、グラフト共重合体(B)及びビニル系共重合体(C)の混合比率は、ポリカーボネート樹脂(A)50〜95重量%、グラフト共重合体(B)5〜50重量%、ビニル系共重合体(C)0〜30重量%((A)+(B)+(C)=100重量%)である。
【0033】
ポリカーボネート樹脂(A)が50重量%未満であると、難燃性、耐熱性、耐衝撃性が劣り、95重量%を超えると流動性が劣る。グラフト共重合体(B)が5重量%未満であると耐衝撃性が劣り、50重量%を超えると流動性が劣る。ビニル系共重合体(C)は必ずしも必要とされないが、ビニル系共重合体(C)を配合することにより流動性を改善することができる。しかし、ビニル系共重合体(C)の比率が30重量%を超えると難燃性、耐衝撃性、耐熱性が劣るものとなる。より好ましい混合比率は、ポリカーボネート樹脂(A)60〜90重量%、グラフト共重合体(B)10〜30重量%、ビニル系共重合体(C)10〜30重量%である。
【0034】
本発明で使用されるリン系難燃剤(D)としては、赤燐、リン化合物が挙げられ、リン化合物としては、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ビスホスフィン、ホスホニウム塩、ホスフィン酸塩、リン酸エステル、亜リン酸エステル等を挙げることができる。これらの中で、成形時における金型汚染や腐食ガス発生の問題がない点で、リン酸エステル系難燃剤が好ましい。リン酸エステル系難燃剤としては、下記一般式(I)で表されるリン酸エステル化合物や、下記一般式(II)で表される縮合リン酸エステル化合物が挙げられる。
【0035】
【化3】
((I)式中、R1、R2及びR3は、それぞれ相互に独立して選ばれる炭素数1〜8のアルキル基、又はアルキル置換されていても良い炭素数6〜20のアリール基を表し、nは0又は1である。)
【0036】
【化4】
((II)式中、R4、R5、R6及びR7は、それぞれ相互に独立して選ばれるアリール基又はアルカリール基を表し、Xはアリーレン基を表し、j、k、l、及びmは、それぞれ相互に独立して0又は1である。Nは1〜5の整数であるが、リン酸エステル化合物の混合物の場合は、Nは平均値(1≦N≦5)を表す。)
【0037】
前記一般式(I)で表されるリン酸エステル化合物の具体例としては、ビス−(フェニル)−メチルホスフェート、ビス−(エチル)−フェニルホスフェート、ビス−(エチル)−2,6−ジメチルフェニルホスフェート、ビス−(フェニル)−エチルホスフェート、ビス−(フェニル)−ブチルホスフェート、ビス−(ネオペンチル)−フェニルホスフェート、ビス−(4−メチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスフェート、ビス−(2−エチルヘキシル)−フェニルホスフェート、ビス−(フェニル)−2−エチルヘキシルホスフェート、ビス−(フェニル)−オクチルホスフェート、ビス−(オクチル)フェニルホスフェート、ビス−(3,5,5−トリメチルヘキシル)フェニルホスフェート、ビス−(2,5,5−トリメチルヘキシル)−4−メチルフェニルホスフェート、ビス−(フェニル)−イソデシルホスフェート、ビス−(ドデシル)−4−メチルフェニルホスフェート、ビス−(ドデシル)フェニルホスフェート、トリス−(フェニル)ホスフェート、トリス−(2−メチルフェニル)ホスフェート、トリス−(4−メチルフェニル)ホスフェート、ビス−(2−メチルフェニル)フェニルホスフェート、ビス−(4−メチルフェニルフェニル)フェニルホスフェート、ビス−(フェニル)−2−メチルフェニルホスフェート、ビス−(フェニル)−4−メチルフェニルホスフェート、トリス−(イソプロピルフェニル)ホスフェート、ビス−(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、ビス−(フェニル)−イソプロピルフェニルホスフェート、トリス−(ノニルフェニル)ホスフェート、トリス−(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、ビス−(2,6−ジメチルフェニル)フェニルホスフェート、ビス−(2,6−ジメチルフェニル)−2,6−ジメチルフェニルホスフェート、ビス−(2,6−ジメチルフェニル)−4−t−ブチルフェニルホスフェート、ビス−(2,6−ジメチルフェニル)−4−メチルフェニルホスフェート、ビス−(2,6−ジメチルフェニル)−3−メチルフェニルホスフェート、ビス−(2,6−ジメチルフェニル)−4−イソプロピルフェニルホスフェート、ビス−(2,6−ジメチルフェニル)−2−イソプロピルフェニルホスフェートが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0038】
また、一般式(II)で表される縮合リン酸エステル化合物も1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。従って、前記一般式(II)において、Nの値は、必ずしも整数である必要はなく、混合物の場合は、縮合リン酸エステル化合物の混合物中の平均値を表す。前記一般式(II)において、R4、R5、R6及びR7は好ましくはクレジル基、フェニル基、キシレニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基であり、Xのアリーレン基は、例えばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA及びこれらの塩素化物及び臭素化物などのジヒドロキシ化合物から誘導される基であっても良いし、フェニレン基等であっても良い。
【0039】
リン系難燃剤(D)としては、上記リン酸エステル化合物と縮合リン酸エステルとを併用しても良い。
【0040】
リン系難燃剤(D)の配合量は、前記樹脂成分100重量部に対して10〜40重量部、好ましくは15〜30重量部の範囲で必要な難燃性のレベルに応じて決められる。この配合量が10重量部未満では必要な難燃効果が発揮されず、40重量部を超えると成形品の機械的強度、特に耐衝撃性を低下させる。
【0041】
本発明で使用される帯電防止剤(E)は、前記一般式(イ)で表される重合鎖を有する化合物(以下「重合体(イ)」と称す場合がある。)と、低分子量有機アニオン化合物(ロ)とを混合してなるものである。
【0042】
重合体(イ)としては、具体的にはフェノール又は置換基を有するフェノールとホルムアルデヒドとの脱水縮合物のアルキレンオキサイド付加物;この化合物のアルキレンオキサイド鎖の末端を炭化水素基でエーテル化した、又はイソシアネート基若しくはエステル基を有する炭化水素基で置換した化合物;又は前記化合物のアルキレンオキサイド鎖の末端にアニオン性親水基例えばスルホン酸基、サルフェート基、ホスフェート基若しくはカルボキシレート基を導入した化合物を単量体ユニットとして含む重合体が挙げられる。
【0043】
この重合体(イ)について、更に詳しく説明する。
【0044】
前記一般式(イ)において、(Ra−O)pの部分は、フェノール又は置換基を有するフェノールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(1,4−ブチレンオキサイド)、長鎖α−オレフィンオキサイド、スチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド等を付加重合することにより得ることができる。このアルキレンオキサイド等を付加重合することによって(Ra−O)pの部分を形成する場合は、付加させるアルキレンオキサイド等の種類により(Ra−O)の種類が決定される。付加されるアルキレンオキシド等の重合形態は限定されず、1種類のアルキレンオキサイド等の単独重合、2種類以上のアルキレンオキサイド等のランダム共重合、ブロック共重合又はランダム/ブロック共重合等のいずれであってもよい。(Ra−O)pの部分がポリアルキレンオキサイドである場合は、Raは1種類のアルキレン基であるが、この場合、Raは炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、エチレン基が最も好ましい。また、(Ra−O)pの部分が2種類以上のアルキレンオキサイド等の共重合により形成される場合、そのうちの1種はエチレンオキサイドであることが好ましい。重合度Pは1以上の数であり、好ましくは1〜300であり、より好ましくは1〜200であり、最も好ましくは5〜100である。
【0045】
Rbは水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基を表わす。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0046】
Rbのアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2級ブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、2級トリデシル、テトラデシル、2級テトラデシル、ヘキサデシル、2級ヘキサデシル、ステアリル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、トリアコンシル、2−ブチルオクチル、2−ブチルデシル、2−ヘキシルオクチル、2−ヘキシルデシル、2−オクチルデシル、2−ヘキシルドデシル、2−オクチルドデシル、2−デシルテトラデシル、2−ドデシルヘキサデシル、2−ヘキサデシルオクタデシル、2−テトラデシルオクタデシル、モノメチル分枝−イソステアリル等が挙げられる。
【0047】
Rbのアルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、オレイル等が挙げられる。
【0048】
Rbのアリール基としては、例えば、フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、フェニルフェニル、ベンジルフェニル、スチレン化フェニル、p−クミルフェニル、ジノニルフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル基等が挙げられる。
【0049】
Rbのシクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、メチルシクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、メチルシクロペンテニル、メチルシクロヘキセニル、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、樹脂との混和性や相溶性の面から、Rbとしては、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜36の炭化水素基が好ましく、水素原子、塩素原子、臭素原子又は炭素数1〜24のアルキル基又はアリール基が更に好ましい。
【0051】
Xは水素原子、炭化水素基、イソシアネート残基、若しくはエステル基を有する炭化水素基、又はアニオン性親水基を表わす。
【0052】
Xの炭化水素基としては、上記のRbの場合に記載したアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等と同一のものが挙げられ、この中でも炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0053】
Xのイソシアネート残基としては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、オクチルイソシアネート、ラウリルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トリレンイソシアネート、オレイルイソシアネート等のモノイソシアネート残基が挙げられる。
【0054】
Xのエステル基としては、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバリル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、ベヘニル、アクロイル、プロピオロイル、メタクロイル、クロトノイル、オレイロイル、ベンゾイル、フタロイル、スクシニル等が挙げられる。
【0055】
Xがアニオン性親水基である場合には、例えば一般式(イ)において、Xは、−(RaO)pXの部分が−(RaO)p−CAH2ASO3M(式中Aは2〜4の数)で表わされるアルキルスルホン酸基、−(RaO)pSO3Mで表わされるサルフェート基、−(RaO)pPO3M2で表わされるホスフェート基、又は−(RaO)pCH2COOMで表わされるメチルカルボキシレート基等が挙げられる。
【0056】
上記のアニオン性親水基を表わす一般式において、M は水素原子、金属原子又はアンモニウムを表わす。金属原子としては例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属原子(但し、アルカリ土類金属原子は通常2価であるから、1/2)等が挙げられ、アンモニウムとしては、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、(イソ)プロピルアミン、ジ(イソ)プロピルアミン、モノエタノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、N
−エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、アミノエチルエタノールアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン等のアンモニウムが挙げられる。Mとしては、ナトリウム又はカリウムが好ましい。
【0057】
これらのアニオン性親水基は、フェノール又は置換基を有するフェノールにアルキレンオキサイド等を付加して得られた化合物の末端の水酸基の一部又は全部について、必要に応じて既知の方法によりアニオン性親水基を導入することにより得ることができる。アニオン性親水基を導入することにより、更に帯電防止効果が向上する。
【0058】
重合体(イ)は、既知の方法でフェノール類をホルムアルデヒドで縮合させた後、アルキレンオキサイド等を付加し、又は更にその末端を炭化水素でエーテル化、或いはイソシアネート基又はエステル基を有する炭化水素基で置換し、更に必要に応じてXをアニオン性親水基に置換することにより得ることができる。
【0059】
このようにして得られる重合体(イ)は、一般式(イ)においてqが2以上、好ましくは3〜30、即ち、一般式(イ)に示される単量体ユニットを少なくとも2個以上、好ましくは3〜30個含有した重合体である。
【0060】
なお、フェノール類とホルムアルデヒドとを縮合させる場合には、縮合可能なその他の化合物と共に縮合させることができる。フェノール類と共縮合可能なその他の化合物としては、例えばキシレン、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、アニソール等が挙げられる。
【0061】
この場合、重合体(イ)中の、一般式(イ)で表わされる単量体ユニットの割合は特に限定されない。しかし、この割合が少ない場合には、得られる帯電防止剤(E)が十分な帯電防止効果を発揮しにくく、十分な帯電防止効果を出すためには樹脂基材に多量に添加する必要があり、樹脂基材の強度等の物性低下をまねく場合がある。このため、重合体(イ)中の一般式(イ)で表わされる単量体ユニットの割合は、重合体全量に対して10重量%以上とすることが好ましく、30重量%以上とすることがより好ましい。
【0062】
一方、低分子量有機アニオン化合物(ロ)としては、酸性基を有する有機化合物又はそれと塩基性化合物との中和物が挙げられる。この酸性基を有する有機化合物としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸、(アルキル置換されていても良い)安息香酸、(アルキル置換されていても良い)サリチル酸、ポリアクリル酸、N−アシルメチルアミノ酢酸塩、アシル化アミノ酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸等の有機カルボン酸;アルキルスルホン酸、(アルキル置換されていても良い)ベンゼンスルホン酸、(アルキル置換されていても良い)フェニルエーテルジスルホン酸、ナフタリンスルホン酸、ナフタリンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、イセチオン酸、イセチオン酸脂肪酸エステル、イセチオン酸アルキルエーテル、α−オレフィンスルホン酸、α−スルホ脂肪酸メチルエステル、スルホコハク酸ジエステル等の有機スルホン酸;アルキル硫酸エステル、アルケニル硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸アルカノールアマイド硫酸エステル、スルホ脂肪酸エステル等の有機硫酸エステル;酸性アルキルリン酸エステル、酸性アルキル亜リン酸エステル、酸性ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル、アルキルホスホン酸等の有機リン酸等が挙げられる。これらの中でも特に有機スルホン酸が好ましい。
【0063】
これらの酸性基を有する有機化合物は、その分子量が大きい場合には、得られる帯電防止剤(E)の速効性が発揮されない場合がある。従って、酸性基を有する有機化合物の平均分子量は100〜500である。
【0064】
また、酸性基を有する有機化合物は遊離酸の形でも帯電防止の効果を発現するが、好ましくは、塩基性化合物との中和物として使用することが好ましい。こうした塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等の金属水酸化物又は金属酸化物;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、(イソ)プロピルアミン、ジ(イソ)プロピルアミン、モノエタノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、アミノエチルエタノールアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン等のアンモニウム;テトラフェニルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム等の有機ホスホニウム等が挙げられる。中でも、アルカリ金属類又はアルカリ土類金属類の金属水酸化物又は金属酸化物が好ましく、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属類の水酸化物又は酸化物が好ましい。
【0065】
酸性基を有する化合物と塩基性化合物との中和物としては、特に有機スルホン酸の中和物が好ましく、例えば、デシルスルホン酸Na、C9〜C13アルキルスルホン酸Na(なお、「C9〜C18」とは「炭素数9〜18」を意味する。以下同様。)、オクタデシルスルホン酸Na、p−トルエンスルホン酸Na、ドデシルベンゼンスルホン酸Li、ドデシルベンゼンスルホン酸Na、ドデシルベンゼンスルホン酸K、ナフタリンスルホン酸Na、ノニルナフタリンスルホン酸Na、イセチオン酸Na、イセチオン酸ラウリルエステルNa、イセチオン酸ラウリルエーテルNa、硫化C12〜C14オレフィンNa、硫化C16〜C18オレフィンNa、α−スルホステアリン酸メチルエステルNa、スルホコハク酸ジブチルエステルNa、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルエステルNa等が挙げられる。
【0066】
これらの有機スルホン酸の中和物の中でも、デシルスルホン酸Na、C9〜C13アルキルスルホン酸Na、オクタデシルスルホン酸Na、ドデシルベンゼンスルホン酸Naが特に好ましい。
【0067】
帯電防止剤(E)における重合体(イ)と低分子量有機アニオン化合物(ロ)の割合は、重量比で10/90〜99.5/0.5であることが好ましく、より好ましくは15/85〜99/1である。
【0068】
なお、帯電防止剤(E)を構成する重合体(イ)及び低分子量有機アニオン化合物(ロ)は、各々1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0069】
本発明で使用される帯電防止剤(E)は、粘稠体であるため分散性やハンドリング性に応じて、担体に含浸させてから樹脂成分に添加する。担体に含浸させる場合は、そのまま担体と加熱混合しても良いし、必要に応じて、有機溶媒で希釈してから担体に含浸させ、その後溶媒を除去する方法でも良い。こうした担体としては、樹脂のフィラーや充填剤として知られているものが使用できる。例えば、ケイ酸カルシウム粉、シリカ粉、タルク粉、アルミナ粉、酸化チタン粉等が挙げられるが、特に、シリカ粉が好ましい。
【0070】
帯電防止剤(E)をこのような担体に含浸させる場合、その含浸量には特に制限はないが、少な過ぎると帯電防止剤(E)の必要量を配合するために、樹脂成分に添加する担体量が多くなり、樹脂の機械的特性や成形性等を損なうおそれがある。従って、担体重量に対する帯電防止剤(E)の含浸重量が50重量%以上、特に65重量%以上となるように含浸させることが好ましい。なお、含浸量の上限は、用いる担体の担持性能により異なるが、通常80重量%以下である。
【0071】
帯電防止剤(E)の配合量は、前記樹脂成分100重量部に対して0.05〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部の範囲で必要な帯電防止性のレベルに応じて決められる。この配合量が0.05重量部未満では必要な帯電防止効果が発揮されず、5重量部を超えると難燃性及び成形性が低下する。
【0072】
本発明で使用されるフッ素系樹脂(F)は、樹脂中にフッ素原子を有する樹脂であり、具体的にはポリモノフルオロエチレン、ポリジフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体などを挙げることができ、これらは1種を単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができるが、これらの中で特にポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0073】
このようなフッ素系樹脂(F)の製造方法には特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合などの通常公知の方法を採用することができるが、燃焼時の耐ドリッピング性の観点から乳化重合で製造されたフッ素系樹脂が好ましい。
【0074】
フッ素系樹脂(F)は、燃焼時の溶融滴下性を改善するための成分であり、本発明ではフッ素系樹脂(F)を配合しない場合であっても十分な難燃性を得ることができるが、フッ素系樹脂(F)を配合することにより、UL94燃焼ランクにおいてV−0をも達成することが可能となる。ただし、フッ素系樹脂(F)の配合量が多過ぎると樹脂の機械的強度及び加工流動性が低下することから、フッ素系樹脂を配合する場合、その配合量は前記樹脂成分100重量部に対して5重量部以下とするのが好ましい。フッ素系樹脂(F)の配合量は、前記樹脂成分100重量部に対して0.01〜5重量部、特に0.02〜2重量部、とりわけ0.1〜1重量部とするのが好ましい。この配合量が0.01重量部未満の場合は滴下防止の効果が十分でなく、UL94燃焼ランクにおいてV−2となる場合がある。
【0075】
本発明において、無機充填剤(G)としてタルク、マイカ、ガラスフレーク及びワラストナイトから選択される1種以上を配合することにより、剛性面の改質ができる。この場合、無機充填剤(G)の配合量は前記樹脂成分100重量部に対して1〜25重量部の範囲であることが好ましい。この配合量が1重量部未満であると剛性の改良効果が得られない。また、25重量部を超えると衝撃強度が大幅に低下すると共に、ポリカーボネート樹脂の加水分解を生じさせやすくなる。無機充填剤(G)としては、中でも成形品表面の外観に優れる点から特にタルクが好ましい。無機充填剤(G)の分散性、得られる成形品の機械的強度の点から、無機充填剤(G)の平均粒子径は、0.5〜10ミクロン、特に0.7〜5ミクロンのものが好ましい。
【0076】
また、本発明においては、金属化合物(H)を配合することにより、最終製品として使用する際、特にOA機器などでは、目にやさしい色彩に着色が可能となり、また、耐光変色にも優れるという効果が奏される。
【0077】
この場合、用いる金属化合物(H)は、チタン化合物である。金属化合物(H)の配合量は前記樹脂成分100重量部に対して5重量部以下の範囲であることが好ましい。これを超えると衝撃強度が低下すると共にポリカーボネート樹脂の加水分解を生じさせやすくなる。金属化合物(H)としては、特に酸化チタンが好ましく、その平均粒子径は分散性の面から0.1〜5ミクロンの範囲のものが好ましい。
【0078】
なお、本発明の樹脂組成物には、本発明の趣旨を妨げない範囲で、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、離型剤、前記帯電防止剤(E)以外の帯電防止剤、着色剤(顔料、染料など)、フィラー、アンチモン化合物などの難燃助剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコーンオイル、カップリング剤などの各種の添加剤を配合しても良い。また、リン系難燃剤以外の難燃剤やカーボン繊維やステンレス繊維の導電性物質を配合しても良い。
【0079】
これらの配合成分を混合して本発明の樹脂組成物を製造する方法としては特に制限はないが、例えば、押出機、バンバリーミキサー等を用いた溶融混練法が好ましい。
【0080】
このようにして得られる本発明の樹脂組成物は、射出成形、シート押出、真空成形、圧空成形、異形押出成形、発泡成形、ブロー成形などによって、各種成形品に成形することができる。
【0081】
本発明の再利用にも適した帯電防止性を有する難燃性樹脂組成物を成形して得られる成形品は、高度な難燃性及び帯電防止性により例えばOA機器への用途が可能であり、電気電子機器及び電子機器部品のハウジング等、特に、コンピュータ、プリンタ、コピー機等のOA機器のハウジング等に好適に使用することができる。
【0082】
また、成形品を破砕回収して得られた樹脂組成物を再度、前記の用途にマテリアルリサイクルとして再利用することができる。
【0083】
【実施例】
以下に合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0084】
なお、以下において、「部」は「重量部」を意味するものとし、またビニル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製:GPC(ゲル・パーミェーション・クロマトグラフィー、溶媒;THF)を用いた標準PS換算法にて算出した。
【0085】
また、以下の合成例1〜3で各々製造したグラフト共重合体(b)、ビニル系共重合体(c)及び帯電防止剤(e−1)以外の配合成分としては、以下のものを用いた。
【0086】
ポリカーボネート樹脂(A)として以下のものを用いた。
ポリカーボネート樹脂(a):三菱エンジニアリングプラスチック(株)製
「S−1000F」(粘度平均分子量(Mv):24,000)
【0087】
難燃剤(D)としては、以下のものを用いた。
難燃剤(d):旭電化工業社製「FP−500」(リン酸エステル系難燃剤)
【0088】
帯電防止剤(e−1)以外の帯電防止剤(E)としては、以下のものを用いた。
帯電防止剤(e−2):松本油脂製薬社製「TB−160」
(特殊陰イオン活性剤)
帯電防止剤(e−3):日本ゼオン製薬社製「ZSP8100L」(エチレ
ンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体)
【0089】
フッ素系樹脂(F)としては、以下のものを用いた。
フッ素系樹脂(f):デュポン社製「テフロン(登録商標)6−J」(ポリ
テトラフルオロエチレン)
【0090】
無機充填剤(G)として、以下のものを用いた。
無機充填剤(g):日本タルク(株)製「MICRO ACE ミクロエー
スP−3」(タルク:平均粒子径(測定方法;遠心沈降
法)1.8μm)
【0091】
金属化合物(H)として、以下のものを用いた。
金属化合物(h):チタン工業社製「チタンKR−480」
(酸化チタン:平均粒子径0.4μm)
【0092】
合成例1:グラフト共重合体(B)の製造
以下の配合にて、乳化重合法によりABS共重合体(b)を合成した。
〔配合〕
スチレン(ST) 30部
クリロニトリル(AN) 10部
ポリブタジエン・ラテックス 60部(固形分として)
不均化ロジン酸カリウム 1部
水酸化カリウム 0.03部
ターシャリードデシルメルカプタン(t−DM) 0.1部
クメンハイドロパーオキサイド 0.3部
硫酸第一鉄 0.007部
ピロリン酸ナトリウム 0.1部
結晶ブドウ糖 0.3部
蒸留水 190部
【0093】
オートクレーブに蒸留水、不均化ロジン酸カリウム、水酸化カリウム及びポリブタジエン・ラテックスを仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、結晶ブドウ糖を添加し、60℃に保持したままST、AN、t−DM及びクメンハイドロパーオキサイドを2時間かけて連続添加し、その後70℃に昇温して1時間保って反応を完結した。かかる反応によって得たABSラテックスに酸化防止剤を添加し、その後硫酸により凝固させ、十分水洗後、乾燥してABSグラフト共重合体(b)を得た。
【0094】
合成例2:ビニル系共重合体(C)の製造
窒素置換した反応器に水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部、t−DM0.5部と、AN30部、ST70部からなるモノマー混合物を使用し、STの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させた。更に、120℃で4時間反応した後、重合物を取り出し、ビニル系共重合体(c)を得た。また、このときの転化率は96%で、得られたビニル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は126,000であった。
【0095】
合成例3:帯電防止剤(e−1)の調製
前記一般式(イ)で表される重合鎖を有する重合体として、1−メチル−1−フェニルエチル基を有するフェノールをホルムアルデヒドで縮合させた後、エチレンオキサイド(EO)を付加させることにより、下記構造式(イ−1)で表される重合鎖を有する重合体(イ−1)を調製した。
【0096】
【化5】
【0097】
重合体(イ−1)は、前記一般式(イ)において、Rbは1−メチル−1−フェニルエチル基であり、(Ra―O)はエチレンオキサイド、Xは水素原子、pは30、qは20である。
【0098】
次に、低分子量有機アニオン化合物(ロ)として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ロ−1)を使用して、重合体(イ−1)と低分子量有機アニオン化合物(ロ−1)を80:20の重量比で、シリカ粉に70重量%含浸させ帯電防止剤(e−1)を得た。
【0099】
実施例1〜4、比較例1〜8
各材料を表1〜3に示す配合割合にて、更に、滑剤、酸化防止剤と共に混合した後、240〜260℃で2軸押出機(日本製鋼社製「TEX−44」)にて溶融混合し、ペレット化した。この樹脂ペレットを2オンス射出成形機(東芝(株)製)にて220〜260℃にて成形し、必要なテストピースを作成し、下記の方法で評価を行い、結果を表1〜3に示した。成形性の評価としての成形試験−1,2では、上記の2オンス射出成形機(東芝(株)製)を用いて行った。
【0100】
〔メルトフローレート(g/10min)〕 JIS K7210
〔アイゾット衝撃強度(J/m)〕 ASTM D256(常温)
〔表面固有抵抗値(Ω/□)〕 JIS K6911に従い、射出成形して得られた平板(100×100×3mm)について、成形直後と、23℃、50%の恒温室に一週間放置後の表面固有抵抗値を測定した。なお、測定値は、値が小さいほど帯電防止性に優れる。耐埃付着性から1014以下の表面固有抵抗値を有するものを合格とした。
【0101】
〔燃焼性〕 1.5mm厚みの試験片に対してUL94に準じた燃焼試験を行い、燃焼性を調べた。
【0102】
〔熱変形温度(℃)〕 ASTM D648
〔曲げ弾性率(MPa)〕 6.4mm厚み(ASTM D790)
〔成形試験−1〕 260℃に設定した射出成形機のシリンダー中に作成した樹脂を30分間滞留させた後、成形したサンプルの表面を目視観察した。シルバーの無い良好な外観を○、シルバーの発生により外観が不良となるものを×とした。
【0103】
〔成形試験−2〕 高温成形試験として、シリンダー温度を280℃、300℃、320℃と設定温度を変更して成形し、シルバーが発生する設定温度領域によって判定した。280℃及び300℃の設定でシルバーが発生するものは×、320℃の設定で発生するものは○、320℃以上でもシルバーが発生しないものを◎とした。この試験は、樹脂の剪断発熱によるシルバー試験を想定したもので、シリンダー温度が高くてもシルバーが発生しないものほど成形性に優れていることを示している。なお、○又は◎を合格とした。
【0104】
〔リサイクル性〕 成形加工した試験片の約10kgを再度破砕して、前記の押出し機にて再度ペレット化し、このリサイクルペレットを前記の成形機にて試験片を作成した。この工程を繰り返して行い、リサイクル5回目の試験片の衝撃強度を測定した。リサイクル前の初期に対して衝撃強度の保持率が80%以上のものを合格として○で示し、衝撃強度の保持率が80%以下のものを不合格として×で示した。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
表1〜3より、次のことが明らかである。
【0109】
実施例1〜4では、表面固有抵抗値、衝撃強度や曲げ弾性率、難燃特性、及び成形性のバランスに優れ、成形時の加工性から成形品においての特性を十分に保持している。さらにリサイクル後の衝撃強度の保持率も優れている。
【0110】
これに対して、本発明の範囲外である比較例1〜8では、比較例1は耐衝撃性、比較例2は難燃性、比較例3は難燃特性及び成形性、比較例4は耐衝撃性、耐熱性及び成形性、比較例5は帯電防止性、比較例6は難燃特性及び成形性についてそれぞれ劣るものである。また、比較例7及び8は帯電防止剤の種類が本発明とは異なるため難燃特性及び成形性を満足できない。
【0111】
以上のように、本発明範囲内の実施例に比べて、その範囲以外の配合比率や添加剤では、まず目的とする帯電防止性や機械的特性、耐衝撃強度、耐熱性、燃焼性が得られない。さらに、リサイクル性についても上記の特性とのバランスを保持したものは得られない。
【0112】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の再利用にも適した帯電防止性を有する難燃性樹脂組成物は、成形性及び熱安定性に優れており、成形時の不良品の発生を減少させることができる帯電防止性を有する難燃樹脂組成物である。さらに、マテリアルリサイクルによる樹脂組成物の再利用にも適している。
【0113】
本発明の再利用にも適した帯電防止性を有する難燃性樹脂組成物によれば、帯電防止性能による塵芥などの付着防止効果、及び機械的特性、難燃性にも優れた成形品を得ることができ、製品として使用された後でも物性低下の極めて少ないマテリアルリサイクルによる再利用にも適した熱可塑性樹脂として提供することができる。従って、資源の有効利用等の面においても本発明の工業的有用性は極めて高い。
Claims (8)
- (A)粘度平均分子量が15,000〜30,000であるポリカーボネート樹脂50〜95重量%と、(B)ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及び必要に応じて用いられるこれらと共重合可能な他の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体5〜50重量%とを含む樹脂成分100重量部に対して、
(D)リン系難燃剤10〜40重量部、
及び
(E)下記一般式(イ)で表される重合鎖を有する化合物と、低分子量有機アニオン化合物(ロ)とを混合してなる帯電防止剤0.05〜5重量部
を配合してなる樹脂組成物であって、
該低分子量有機アニオン化合物(ロ)が平均分子量100〜500の酸性基を有する有機化合物又はそれと塩基性化合物との中和物であり、(E)帯電防止剤が担体に含浸していることを特徴とする樹脂組成物。
- 請求項1において、樹脂成分が更に、(C)芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及び必要に応じて用いられるこれらと共重合可能な他の単量体を共重合してなるビニル系共重合体30重量%以下を含有する樹脂組成物。
- 請求項1又は2において、樹脂成分100重量部に対して更に、(F)フッ素系樹脂を5重量部以下を含有する樹脂組成物。
- 請求項1ないし3のいずれか1項において、(D)リン系難燃剤がリン酸エステル系難燃剤である樹脂組成物。
- 請求項1ないし4のいずれか1項において、樹脂成分100重量部に対して更に、(G)無機充填剤を1〜25重量部含有する樹脂組成物。
- 請求項5において、(G)無機充填剤がタルク、マイカ、ガラスフレーク及びワラストナイトよりなる群から選択される1種以上である樹脂組成物。
- 請求項1ないし6のいずれか1項において、樹脂成分100重量部に対して更に、(H)金属化合物としてチタン化合物を5重量部以下含有する樹脂組成物。
- 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
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