JP4082065B2 - 高ルチン含有醸造酢及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高血圧等に効果があるとされるルチンを豊富に含む高ルチン含有醸造酢及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
食酢は、高血圧等の成人病を防ぐ効果を有しており、一般的にひとの健康に良い調味料である。中でも、リンゴを原料として醸造されたりんご酢や、玄米を原料として醸造された玄米酢は、健康イメージが強く、調味料としてだけではなく、健康飲料のべースとしても用いられている。
【0003】
ところで、そばの実は、高血圧や動脈硬化の予防に効果があるとされるルチンを含んでいるため、健康に良い食品である。中でも、ダッタンそば(苦そば)の実は、通常のそば(ルチン含有量200ppm)の約100倍のルチンを含んでおり、ダッタンそば茶等の健康食品の原料や食酢(苦蕎酢)の原料として使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、原料であるダッタンそばの実にはルチンが大量に含まれているにもかかわらず、食酢の醸造工程でルチンが分解して失われてしまうため、ダッタンそばの実から得られる醸造酢のルチン含量は検出限界以下(数ppm未満)であり、高ルチン含有醸造酢は得られていないのが現状である。
【0005】
本発明の目的は、ダッタンそばの実を原料とする高ルチン含有醸造酢を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ダッタンそばの実を原料として通常の醸造工程で食酢を醸造した場合に、高ルチン濃度の醸造酢が得られない理由が、食酢の醸造工程中に、ダッタンそばの実に含まれるルチン分解酵素の作用によりルチンが分解されて失われてしまうこと、従って、ルチン分解酵素の失活処理を施したダッタンそばの実を原料にすれば高ルチン含有醸造酢が得られること;また、アルコール醗酵工程でルチンが不溶化すること、その不溶化を抑制するためには、アルコール醗酵工程を省略し、酢酸醗酵工程に必要なアルコールについては外添すればよいこと、を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、ダッタンそばの実の糖化物にアルコールを外添して酢酸発酵させて得られた高ルチン含有醸造酢であって、ダッタンそばに由来するルチンを300ppm以上の濃度で含有する高ルチン含有醸造酢を提供する。
【0010】
また、本発明は、ルチン分解酵素の失活処理が施されたダッタンそばの実を糖化させ、得られた糖化物をアルコール醗酵させることなく、該糖化物にアルコールを外添し、得られたアルコール含有糖化物を酢酸醗酵させることを特徴とする高ルチン含有醸造酢の製造方法を提供する。この製造方法は、本発明の高ルチン含有醸造酢の製造に好ましく適用できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
第1の本発明は、ダッタンそばに由来するルチンを50ppm以上のルチン濃度で含有する高ルチン含有醸造酢である。ここで、「ダッタンそばに由来するルチン」とは、ダッタンそばの実に元々含まれていたルチンを意味している。
【0013】
ところで、従来もダッタンそばの実を原料とする醸造酢(苦蕎營養保健醋、中國太原功能食品厰出品上海醫科大學營養食品研究所中心監製)は存在するが、ルチンの含有量は、いずれも検出限界以下である。また、そのような醸造酢にルチンを外添することにより高ルチン含有食酢となるが、あくまで外添の結果であり、ダッタンそばに由来するルチンではない。従って、商品価値が大きく減ずることとなる。
【0014】
それに対し、第1の本発明では、ダッタンそばに由来するルチンが50ppm以上の非常に高いルチン濃度で含有されている。この含有量は、ダッタンそばから醸造された従来の醸造酢に比べ格段に高くなっている。このため、第1の本発明の高ルチン含有醸造酢は、従来のダッタンそば醸造酢よりも、高血圧や動脈硬化の予防に効果があるとされるルチンが多量に含まれているため、健康に良い食品となり、高い商品価値を有する。
【0015】
また、第2の本発明の高ルチン含有醸造酢は、ダッタンそばに由来するルチンが300ppm以上のより高いルチン濃度で含有されている。従って、第2の本発明の高ルチン含有醸造酢は、第1の本発明の高ルチン含有醸造酢よりも、より健康に良い食品となり、商品価値もいっそう高くなる。
【0016】
なお、第1の本発明及び第2の本発明の高ルチン含有醸造酢における、ダッタンそばに由来するルチンの上限は、原料のダッタンそばが元来含有しているルチン量に依存しており、通常1000ppm程度までである。
【0017】
第1の本発明の高ルチン含有醸造酢は、第3の本発明の製造方法により製造することができる。即ち、ダッタンそばに由来するルチンを50ppm以上のルチン濃度で含有する高ルチン含有醸造酢は、ルチン分解酵素の失活処理が施されたダッタンそばの実を糖化させ(工程(a))、得られた糖化物をアルコール醗酵させ(工程(b))、更に得られたアルコール醗酵物を酢酸醗酵させる(工程(c))ことにより製造できる。以下に、各工程をより具体的に説明する。
【0018】
工程(a)
まず、ルチン分解酵素の失活処理が施されたダッタンそばの実を糖化させる。このように、醸造原料としてルチン分解酵素の失活処理が施されたダッタンそばの実を使用することにより、醸造工程でルチンがルチン分解酵素の作用により分解することがなくなる。
【0019】
この工程で使用するダッタンそばの実は、ルチン分解酵素を失活させたものであれば、穀を取り除いた穀粒のままのでもよく、また、それを粉砕したダッタンそば粉でもよいが、ダッタンそば粉のほうが、仕込み時の取り扱いが容易なのでより好ましい。
【0020】
ダッタンそばの実に含まれているルチン分解酵素の失活処理法としては、そばの種子又はそば粉を加熱処理する方法(特公平5−63133号公報)や湿熱処理する方法(特許第2766259号明細書)等が挙げられる。
【0021】
ダッタンそばの実の糖化処理法としては、公知の糖化処理法を採用できる。例えば、ダッタンそばの実に水を加え、更に、糖化酵素、あるいは麹や麦芽などの糖化酵素含有材料を添加し、必要に応じて加温し撹拌することにより糖化処理することができる。
【0022】
工程(b)
次に、糖化処理された糖化物を、必要に応じて濾過処理し、その濾液をアルコール醗酵させる。アルコール醗酵処理方法としては、公知のアルコール醗酵処理法を採用できる。例えば、糖化物に酵母を接種することが挙げられる。
【0023】
また、糖化処理とアルコール醗酵処理とを同時に行うこともできる。例えば、ダッタンそばの実に水を加え、更に、糖化酵素あるいは麹や麦芽などの糖化酵素含有材料と酵母とを同時に添加し、必要に応じて加温し撹拌することにより糖化処理とアルコール醗酵処理とを同時に行うことができる。
【0024】
なお、アルコール醗酵処理終了後、得られたアルコール醗酵物に食酢を加え不可飲処置し、圧搾ろ過や遠心分離等の方法により固形物を除去することが好ましい。
【0025】
工程(c)
次に、得られたアルコール醗酵物に、必要に応じてアルコールあるいは水を添加し、更に酢酸菌を接種し酢酸醗酵させる。あるいは、通常の手法でダッタンそば醸造酢を調製し、その一部を種酢(酢酸及び酢酸菌が含有されている)として、純粋な酢酸菌に代えて使用し、酢酸醗酵させてもよい。これにより、ダッタンそばに由来するルチンを、50ppm以上のルチン濃度で含有する高ルチン含有醸造酢が得られる。なお、酢酸醗酵直後の酢酸醗酵液は、香味を落ち着かせるため数日から数ケ月熟成してから食酢の調合に用いるが、熟成が十分でない酢酸醗酵液を食酢の調合に用いることもできる。例えば、酢酸醗酵液に加水し、必要に応じて他の食酢を添加して酸度を調整し、常法に従って濾過、殺菌して醸造酢(ダッタンそば酢)とすることができる。
【0026】
酢酸醗酵処理法としては、公知の酢酸醗酵処理法を採用できる。例えば、静層醗酵法、通気醗酵法(深部醗酵法ともよばれる)等を採用することができる。
【0027】
なお、本発明者が得た知見によれば、第3の本発明の製造方法の場合、得られた高ルチン含有醸造酢のルチン含有量(50ppm以上)は、工程(a)においてルチン分解酵素処理したダッタンそばの実を原料として使用したにもかかわらず、原料のダッタンそばのルチン含有量とその使用量から見込まれる値(約2000ppm)に比べて低いことが分かった。
【0028】
そこで、本発明者らは、糖化、アルコール醗酵、酢酸醗酵の各段階でのルチン濃度の変化を調べた結果、アルコール醗酵時にルチンが不溶化してその濃度が低下することを知見した。このことから、ルチン分解酵素を失活させたダッタンそばの実の糖化物をアルコール醗酵処理せずに、直接酢酸醗酵することにより300ppm以上の高濃度のルチンを含む食酢を製造できることを見い出し、第4の本発明を完成させた。
【0029】
即ち、第2の本発明の高ルチン含有醸造酢(ダッタンそばに由来するルチンを300ppm以上のルチン濃度で含有する高ルチン含有醸造酢)は、以下の工程(a)、工程(b’)及び工程(c’)からなる第4の本発明の製造方法により製造できる。即ち、ルチン分解酵素の失活処理が施されたダッタンそばの実を糖化させ(工程(a))、得られた糖化物をアルコール醗酵させることなく、該糖化物にアルコールを外添し(工程(b’))、更に得られたアルコール含有糖化物を酢酸醗酵させる(工程(c’))ことにより製造できる。各工程を、より具体的に説明する。
【0030】
工程(a)
まず、第3の本発明の製造方法の工程(a)と同様に、ルチン分解酵素の失活処理が施されたダッタンそばの実を糖化させる。このように、醸造原料としてルチン分解酵素の失活処理が施されたダッタンそばの実を使用することにより、醸造工程でルチンがルチン分解酵素の作用により分解することがなくなる。
【0031】
工程(b’)
次に、得られた糖化物を、アルコール醗酵させることなく、該糖化物にアルコールを外添し、アルコール含有糖化物を調製する。このように、酢酸醗酵に不可欠なアルコールを、糖化物のアルコール醗酵ではなく、外添により確保するので、アルコール醗酵処理に伴うルチンの不溶化を防止することができる。
【0032】
外添するアルコールとしては、他の穀物等のアルコール醗酵液あるいは工業用アルコール等を使用することができる。中でも、ダッタンそばのアルコール醗酵液を用いることが好ましい。
【0033】
工程(c’)
次に、第3の本発明の製造方法の工程(c)と同様に、得られたアルコール含有糖化物を酢酸醗酵させる。これにより、ダッタンそばに由来するルチンを、300ppm以上の高ルチン濃度で含有する高ルチン含有醸造酢が得られる。
【0034】
なお、工程(b’)において、外添アルコールとしてダッタンそばのアルコール醗酵液を用い、本工程の酢酸醗酵の際に使用する酢酸菌が含有されている種酢として、ダッタンそばの実から調製されたダッタンそば醸造酢を使用すれば、「純粋」なダッタンそば醸造酢を製造することが可能である。
【0035】
【実施例】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0036】
ダッタンそばの実の糖化工程において、ダッタンそばに含まれるルチンがどのように変化するかを調べるため、実験例1〜3を行った。また、アルコール醗酵工程において、ダッタンそばに含まれるルチンがどのように変化するかを調べるため、実験例4〜5を行った。そしてこれらの実験例の結果を踏まえて、実験例6で本発明の製造方法の一例を実施した。
【0037】
実験例1
ダッタンそば粉(日穀製粉株式会社製ダッタンそば粉(月))1gを水20mlに懸濁し、得られた懸濁液を3℃、25℃又は50℃で30分間放置した後、その1mlを採取し、メタノール2mlと混合後、HPLCでルチン量を測定した。対照として、ダッタンそば粉(月)1gにメタノール20mlを加えて30分間抽出した液についても、同様にルチン量を測定した。得られた結果を表1に示す。また、HPLC測定の結果、懸濁液にはルチンとは異なるピーク(図1(a))が出現した。このピークは、溶出時間及びピークの吸光スペクトル(図1(b))からケルセチンと判定された。
【0038】
なお、HPLCによるルチンの測定条件は、以下の通りである。
【0039】
力ラム: Inertsil ODS−2(ジーエルサイエンス株式会社製、直径4.6mm×長さ150mm)。但し、長さだけが異なる(50mm)プレカラムを装着。
【0040】
移動相: メタノール50容量%酢酸3容量%水溶液又はメタノール50容量%と0.1%りん酸水溶液50容量%の混合液。
【0041】
検出器: フォトダイオードアレイ検出器。検出波長250〜400nm、定量計算は350nm。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から、ダッタンそば粉に水を加えるとルチンが減少し、ケルセチンが生成していることがわかる。これは、ダッタンそばに含まれるルチン分解酵素が、そば粉に水を加えることにより活性化してルチンを分解してケルセチンを生じさせているためである。従って、ダッタンそば粉の糖化工程でルチンが分解されてしまうことがわかる。
【0044】
なお、3℃、30分という条件では、ルチンの一部が残存しているが、このような低温では糖化を行うことはできないことを付記する。
【0045】
実験例2
加熱処理によりルチン分解酵素を失活させたダッタンそば粉(日穀製粉株式会社製ダッタンそば粉(富黄))を用いて、実験例1と同様に実験した。即ち、ダッタンそば粉に水20mlを加えて懸濁し、得られた懸濁液を3℃、25℃又は55℃で30分放置後、その0.5gを採取して凍結乾燥し、得られた乾燥物をメタノール1mlに溶解し、HPLCでルチン量を測定した。対照として、ダッタンそば粉(富黄)1gにメタノール20mlを加えて1夜抽出した液についても、ルチン量を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2から、ルチン分解酵素を失活させたダッタンそば粉を用いれば、糖化工程でのルチンの分解が防止できることが示唆されている。
【0048】
実験例3
加熱処理によりルチン分解酵素を失活させたダッタンそば粉(日穀製粉株式会社製ダッタンそば粉(富黄))を原料として液化仕込みによりアルコール醗酵液(ダッタンそばもろみ)を調製した。仕込み配合を表3に、アルコール醗酵工程図(液化仕込み方法)を図2に示す。
【0049】
なお、アルコール醗酵は、室温(20〜25℃)で10日間行い、醗酵終了時に得られたアルコール醗酵液のアルコール濃度は14.5%だった。
【0050】
次に、得られたアルコール醗酵液を酢酸醗酵してダッタンそば醸造酢を調製した。酢酸醗酵の種酢としてはアルコール酢を用いた。得られるダッタンそば醸造酢中のアルコール酢含有量を低く抑えるため、まず、表4に示す仕込み配合(酸度1.1%、アルコール4.9%)で酢酸醗酵を行い、得られた酢酸醗酵液(酸度5.5%)を種酢として表5に示す仕込み配合(酸度2.7%、アルコール3.7%)で酢酸醗酵を行い、酢酸醗酵液を得た(酸度5.9%)。ここで、アルコール酢の含有量を低く抑えるのは、単一の原料(水を除く)のみを用いて製造した食酢はいわゆる純粋酢と称することができ、アルコールやアルコール酢を原料の一部に使用した食酢よりも高級なものとして消費者に認知されているためである。
【0051】
アルコール酢の含有量を更に低減させ、より「純粋」なダッタンそば醸造酢を調製するためには、第二段階の酢酸醗酵液を種酢として第三段階の仕込みを、さらに第三段階の酢酸醗酵液を種酢として第4段階の仕込みを、というふうに仕込みを繰り返せばよいが、成分的には第二段階以降の醗酵液はそれほど変わらないため、調製は第二段階までとした。
【0052】
なお、酢酸醗酵は、30℃で静層醗酵法により行った。
【0053】
また、第二段階の酢酸醗酵液に水を加えて酸度4.3%に調整し、常法に従ってケイソウ土濾過を行い、更に、殺菌処理を施すことによりダッタンそば醸造酢を調製した。このようにして調製したダッタンそば醸造酢は、そのルチン濃度が50mg/Lであった。この数値は、元々ダッタンそばに含まれているルチン量(約2000ppm)に比べると、低いものであったが、ルチン分解酵素を失活させていないダッタンそば粉を原料にした場合(検出限界以下(数ppm未満)))に比べて非常に大きな数値である。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
実験例4
アルコール醗酵工程におけるルチン量の増減を調べるために、まず、表6に示す仕込み配合で、図2に示すアルコール醗酵工程図(液化仕込み方法)に従ってルチン分解酵素を失活させたダッタンそば粉のアルコール醗酵液(ダッタンそばもろみ)を調製した。醗酵温度は室温(20〜25℃)で行い、醗酵終了時のアルコール濃度は9%だった。
【0058】
アルコール醗酵の途中で醗酵液の一部を採取し、ルチン濃度を測定した。即ち、採取したアルコール醗酵液を遠心分離し、得られた上清のルチン濃度を測定し、可溶性ルチン濃度とした。また、固形分を含んだままのアルコール醗酵液1mlにメタノール9mlを加えて抽出した液についてルチン濃度を測定し、総ルチン濃度とした。結果を表7に示す。
【0059】
表7より、アルコール醗酵工程でルチンの分解はおこらないものの、上清のルチン濃度は仕込み直後に急激に低下することが判明した。ルチンはそれほど水に溶けやすい物質ではないため、ダッタンそば粉の液化により、一度は可溶化したルチンがアルコール醗酵中に再び不溶化したものと考えられる。
【0060】
なお、不溶性のルチンはアルコール醗酵液の濾過時に、酵母やダッタンそば由来の不溶性成分とともに除去されるため、次の酢酸醗酵工程に移行するのは可溶性のルチンのみである。したがって、アルコール醗酵を経て食酢を製造すると、その後の工程でルチンが全く分解または不溶化しないとしても、原料のダッタンそば粉中に含まれるルチンのうち、かなりの部分が無駄になっていることが分かる。
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
実験例5
アルコール醗酵工程中のルチンの不溶化を抑えるため、ダッタンそば粉の液化液を濾過して不溶成分を除去した後、酵母を加えてアルコール醗酵を行った。
【0064】
仕込み配合、仕込み工程は実験例3に準じて行ったが、液化終了後に濾紙で濾過を行い、濾液にpH調整用の食酢、糖化酵素、プロテアーゼおよび濾過液量の5%の酵母培養液を接種し、室温で6日間アルコール醗酵した。醗酵終了液のアルコール濃度は8.8%だった。
【0065】
液化液の濾液のルチン濃度は2.01g/L、アルコール醗酵終了液を濾紙で濾過して得られた濾液のルチン濃度は、0.30g/L(300ppm)であった。
【0066】
なお、アルコール醗酵終了時には、醗酵液に黄色い沈殿物が認められた。濾紙で濾過して沈殿物を集め、沈殿物をメタノールで抽出してルチンを測定した。醗酵液約35ml分の沈殿物をメタノール10mlで抽出した抽出液のルチン濃度は、元々の醗酵液あたりに換算して約0.8g/Lだった。このことから、事前に液化液を濾過しても、アルコール醗酵中のルチンの不溶化は抑えられないことがわかった。
【0067】
以上の実験例1〜5の結果より、ダッタンそばの実を原料として醸造酢を製造するにあり、ルチン分解酵素を失活させたダッタンそば粉を用いれば糖化工程でのルチンの分解は防止できるものの、液化により一度は可溶化したルチンがアルコール醗酵工程中に再び不溶化することが明らかとなった。従って、アルコール醗酵工程を経ずに、ダッタンそば醸造酢を調製できれば、より高濃度のルチンを含有する醸造酢が得られることが分かる。
【0068】
実験例6
アルコール醗酵工程を省略して、ダッタンそばの糖化液を直接酢酸醗酵の仕込みに用いる方法により醸造酢を製造した。即ち、表8に示す仕込み配合でダッタンそば粉の糖化液を調製した。
【0069】
糖化工程は、まず、所定量の水にダッタンそば粉を懸濁し、液化酵素を添加して、湯浴上で撹拌しながら、90℃以上の温度で30分加熱して液化した。液化液を55℃まで冷却後、pH調整用の食酢、糖化酵素、プロテアーゼを添加し、55℃で一晩糖化した。得られた糖化液(460ml)のBrixは18.4°であり、還元糖14.5%であった。この糖化液に対し、防腐のために20%量のアルコール酢(酸度15%)92mlを加え、その後で濾紙で濾過した。得られた濾液(552ml)のルチン濃度は1.72g/Lであった。
【0070】
実験例4又は5に示すように、ほぼ同様の仕込み配合(表6)で仕込んだアルコール醗酵液の濾過後のルチン濃度が0.3g/L程度であるのに対して、本実験例の糖化液の濾液のルチン濃度は、食酢の添加により1.2倍に希釈されているにもかかわらず1.72g/Lと、アルコール醗酵液の6倍以上であった。
【0071】
アルコール酢添加後の糖化液量552mLに対してダッタンそば粉の仕込み量は100gであるから、ダッタンそば粉濃度は181g/Lである。これにダッタンそば粉中のルチン濃度1.6%を乗じて計算した理論値2.896g/Lに対して、本実験例の糖化液の濾液中のルチン濃度は1.72g/Lであり、収率は約60%であった。
【0072】
この糖化液の濾液を用いて表9に示す配合により、酢酸醗酵仕込み液(酸度2.7%、アルコール3.0%)を調製した。この仕込み液を三角フラスコに入れ、酢酸菌を接種して30℃で静置醗酵を行った。醗酵8日で酸度が5.4%に達したので醗酵を終了し、常法に従ってケイソウ土濾過し、加熱殺菌することによりダッタンそば醸造酢(酸度5.5%)を得た。
【0073】
このようにして製造したダッタンそば醸造酢のルチン濃度は、0.78g/L(780ppm)であった。この原酢を水で希釈、あるいは必要に応じて他の食酢とブレンドして、高濃度のルチンを含む食酢をつくることができる。
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、ダッタンそばの実に豊富に含まれるルチンを有効に利用して、高濃度のルチンを含む食酢を製造することができる。
【0077】
ルチンには高血圧や動脈硬化などの成人病を予防する効果があり、食酢にも同様の効果があることから、ルチンを豊富に含む食酢は、これら成人病に対してよりー層の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実験例1で調製されたダッタンそば粉の水懸濁液のHPLCチャート(同図(a))と、ルチンとケルセチンとの吸光スペクトル(同図(b))である。
【図2】アルコール醗酵仕込み工程図である。
Claims (3)
- ダッタンそばの実の糖化物にアルコールを外添して酢酸醗酵させて得られた高ルチン含有醸造酢であって、ダッタンそばに由来するルチンを300ppm以上の濃度で含有する高ルチン含有醸造酢。
- ルチン分解酵素の失活処理が施されたダッタンそばの実を糖化させ、得られた糖化物をアルコール醗酵させることなく、該糖化物にアルコールを外添し、得られたアルコール含有糖化物を酢酸醗酵させることを特徴とする高ルチン含有醸造酢の製造方法。
- 該糖化物に外添するアルコールとして、ダッタンそばに由来するアルコール醗酵液を使用する請求項2記載の高ルチン含有醸造酢の製造方法。
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