JP4081927B2 - 内燃機関の燃料噴射装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば車両用内燃機関の燃料噴射用電磁弁を高速に駆動して開弁させ、燃料噴射を好適に制御するための内燃機関の燃料噴射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、電磁弁の応答を早めるために、昇圧回路により昇圧され蓄積されたエネルギーを放出する電磁弁駆動装置や、電磁弁の通電遮断時の逆起電力エネルギー(フライバックエネルギー)を回収して利用する電磁弁駆動装置が公知である(例えば特公平7−78374号公報、特許第2598595号公報)。
【0003】
この種の電磁弁駆動装置としては、高圧燃料をエンジンに供給するためのインジェクタを駆動する装置が知られており、従来技術におけるインジェクタ駆動回路を図3に示す。図3は、例えば多気筒ディーゼルエンジンのインジェクタ駆動回路として適用されるものであり、排ガス対策として本来の噴射タイミングの他、それとは異なるタイミングでの噴射が実施される。つまり、例えばプレ、パイロット、メイン、アフター等の多段噴射が実施されるようになっている。
【0004】
図3において、インダクタ301、スイッチ302、ダイオード303及びコンデンサ304により昇圧回路が構成されており、スイッチ302のオン/オフに伴いコンデンサ304にはバッテリ電圧+Bよりも高い電圧が充電される。コンデンサ304にはスイッチ305を介して各インジェクタ内のソレノイド306の一端が接続され、ソレノイド306の他端はそれぞれ、スイッチ307及び抵抗308を介して接地されている。各ソレノイド306には、定電流駆動用のスイッチ309が接続されている。スイッチ307のオン時にソレノイド306が通電されると、インジェクタの図示しない弁体が開弁位置に移動する。ソレノイド306のローサイドにはそれぞれ、エネルギー回収用のダイオード310が接続されている。駆動用IC311は、各スイッチ302,305,307,309をオン又はオフに制御する。
【0005】
上記インジェクタ駆動回路の動作を図4のタイムチャートに従い説明する。図4には、インジェクタによるメイン噴射と、それに先立って実施されるパイロット噴射とが実施される様子を示す。
【0006】
パイロット噴射に際し、駆動用IC311からの噴射信号に従い、何れかのソレノイド306に接続されるスイッチ307がオンすると、それと同時にスイッチ305が一定時間だけオンし、コンデンサ304の充電電圧がソレノイド306に対して放出される。これにより、インジェクタの開弁当初に大電流が流れ、インジェクタの開弁応答性が向上する。その後、抵抗308により検出されるインジェクタ電流に応じてスイッチ309がオン/オフされ、ソレノイド306が定電流駆動される。コンデンサ304の放電後は、パイロット噴射終了時のソレノイド306で発生する逆起電力エネルギーがダイオード310を介してコンデンサ304に回収され、更にその後、スイッチ302がオン/オフされてコンデンサ304が充電される。
【0007】
一方、メイン噴射時には同様に、その当初にスイッチ305がオンしてコンデンサ304の充電電圧がソレノイド306に対して放出され、その後、ソレノイド306が定電流駆動される。コンデンサ304の放電後は、メイン噴射終了時のソレノイド306で発生する逆起電力エネルギーがダイオード310を介してコンデンサ304に回収され、更にその後、スイッチ302がオン/オフされてコンデンサ304が充電される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記図3の従来技術では、複数のインジェクタに対して1個のコンデンサ304が設けられるため、昇圧回路又は通電遮断時のエネルギー回収を利用してコンデンサ304を充電する際に時間がかかると、連続する多段噴射の次の放電までにコンデンサ304が十分に充電できなくなる。こうしてコンデンサ304の充電が不十分になると、インジェクタの開弁応答に支障を来すおそれがあった。
【0009】
従って、連続する多段噴射を支障無く実現するには、連続する各噴射毎に専用のコンデンサを設けることが考えられる。つまり、1つのインジェクタに対して複数のコンデンサを設ける必要が生じる。しかしながら、コンデンサにはインジェクタの駆動エネルギーとして充分な容量と耐圧が要求されることから、コンデンサの個数が多くなると、回路基板に対し大きな実装面積を要し、コストが高くなるといった問題を招く。
【0010】
また近年は、2つの気筒のインジェクタを重複して駆動させて、当該2つの気筒に対して燃料噴射を重複して実施する、いわゆる多重噴射を行う噴射システムも提案されているが、かかる多重噴射に際しても1個のコンデンサを使うだけでは燃料噴射が適正に実現できない。すなわち、先に駆動開始したインジェクタでコンデンサのエネルギーが消費されて後に駆動開始するインジェクタにコンデンサエネルギーが与えられないため、所望の開弁動作が行われない。或いは、2個のインジェクタが全く同時に駆動開始されると、コンデンサエネルギーが半分ずつ与えられ、この場合には双方のインジェクタにて所望の開弁動作が行われない。従って、多重噴射を適正に実施するには、気筒数×2個以上のコンデンサの数が必要となってしまう。
【0011】
本発明は、上記問題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、燃料噴射用電磁弁を適切に駆動させ、且つエネルギー蓄積素子の個数削減を図ることができる内燃機関の燃料噴射装置を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の内燃機関の燃料噴射装置において、多気筒内燃機関の各気筒には燃料噴射用電磁弁が設けられ、ソレノイドの通電に伴い該電磁弁が開弁又は閉弁される。また、1個の気筒の1燃焼行程で複数回、ソレノイドを通電して燃料噴射動作を行わせることにより多段噴射が実施され、互いに異なる気筒のソレノイドを同時に通電することにより多重噴射が実施される。
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、複数の第1エネルギー蓄積素子は、同時に駆動することがあり得るソレノイドに対して別々に設けられるのに対し、第2エネルギー蓄積素子は、同時に駆動することがあり得るソレノイドに対して共通に設けられる。制御手段は、1個の気筒の1燃焼工程で複数回の燃料噴射動作を行う際に、すなわち多段噴射を実施する際に、第1エネルギー蓄積素子の蓄積エネルギーと第2エネルギー蓄積素子の蓄積エネルギーとを交互にソレノイドに供給するよう、エネルギー供給用の第1,第2スイッチング手段をオン/オフ制御する。
【0014】
第1及び第2エネルギー蓄積素子が交互に選択されてエネルギー供給が行われるため、同じエネルギー蓄積素子を使って連続する多段噴射が実施されることはない。この場合、前段の燃料噴射に伴うエネルギー供給後、当該エネルギー供給したエネルギー蓄積素子では、次段の燃料噴射の間にエネルギーが蓄積され、その後のエネルギー供給の準備が整う。従って、多段噴射に際し燃料噴射用電磁弁が適切に駆動される。また、第2エネルギー蓄積素子は、多重噴射を実施する気筒のソレノイド同士で共用されるため、当該蓄積素子の必要個数が削減でき、ひいてはコスト低減を図ることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明では、同時に駆動することのないソレノイドを共通の噴射グループとし、この噴射グループ毎に前記第1エネルギー蓄積素子を設けたので、ソレノイド毎にエネルギー蓄積素子を設ける場合に比べ、当該蓄積素子の必要個数が削減できる。
【0016】
請求項3に記載の発明では、前記制御手段により、一つの噴射グループ内で第1及び第2エネルギー蓄積素子から交互にエネルギー供給される時、他の噴射グループでは当該他のグループ専用の第1エネルギー蓄積素子からエネルギー供給される。
【0017】
要するに、多段噴射に際しては、一つの噴射グループ内で第1及び第2エネルギー蓄積素子から交互にソレノイドにエネルギーが供給されるのに対し、他の噴射グループによる多重噴射(同時噴射)に際しては、その多重噴射を行う噴射グループ専用の第1エネルギー蓄積素子からソレノイドにエネルギーが供給される。上記の通り各エネルギー蓄積素子が使い分けられることで、多段噴射と多重噴射とを複合的に実施する燃料噴射装置において、好適なる燃料噴射を実現することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明では、前記第1及び第2エネルギー蓄積素子は、電源エネルギーよりも高いレベルでエネルギーを蓄積するので、燃料噴射時にはこの高いレベルのエネルギーがソレノイドに供給され、燃料噴射用電磁弁の応答性が向上する。
【0019】
また、第1及び第2エネルギー蓄積素子には、昇圧手段により電源電圧を昇圧したエネルギーが蓄積されるか(請求項5)、或いはソレノイドへの通電遮断時に発生する逆起電力エネルギーが蓄積されるといった構成にすると良い。この場合、請求項6に記載したように、第1,第2エネルギー蓄積素子によるソレノイドへのエネルギー供給後、次の通電遮断時におけるエネルギー回収までの期間で、前記昇圧手段による昇圧動作を禁止することが望ましい。この場合、ソレノイドの通電遮断時におけるエネルギー回収時に、その回収先となるエネルギー蓄積素子のエネルギー量が常に一定となり、エネルギー回収時間が均一化される。従って、通電遮断後、インジェクタが非動作状態になるまでの時間のばらつきが解消される。その結果、インジェクタの噴射切れのタイミングがずれることがなく、同インジェクタを安定して駆動させることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。本実施の形態は、車載用4気筒ディーゼルエンジンのコモンレール式燃料噴射システムとして具体化されるものであり、同燃料噴射システムにおいてコモンレール内で蓄圧された高圧燃料は、インジェクタの駆動に伴いディーゼルエンジンの各気筒に対して噴射供給される。また本実施の形態では、1回の燃焼行程に際して複数回の燃料噴射動作を行わせる多段噴射と、同時に2つのインジェクタを駆動させて各々燃料噴射を行わせる多重噴射とを実施する。
【0021】
図1は、本実施の形態におけるインジェクタ駆動装置を示す電気回路図である。図1の装置は、エンジンの各気筒に対して燃料噴射を行う燃料噴射用電磁弁としてのインジェクタ101,102,103,104と、これらインジェクタ101〜104を駆動する駆動回路(EDU:Electric Driver Unit)100と、この駆動回路100に接続されるECU(電子制御装置)200とを備える。ECU200は、CPU、各種メモリ等からなる周知のマイクロコンピュータを備え、エンジン回転数Ne、アクセル開度ACC、エンジン水温THWなど、各種センサにて検出されるエンジン運転情報に基づき気筒毎に噴射信号を生成して駆動回路100に出力する。
【0022】
インジェクタ101〜104は常閉式の電磁弁にて構成され、電磁負荷としてのソレノイド101a,102a,103a,104aを個々に備える。この場合、各ソレノイド101a〜104aが通電されると、図示しない弁体がリターンスプリングの付勢力に抗して開弁位置に移動し、燃料噴射が行われる。また、各ソレノイド101a〜104aの通電が遮断されると、弁体が元の閉弁位置に戻り、燃料噴射が停止される。
【0023】
本実施の形態では、全4気筒のインジェクタ101〜104を2気筒ずつに分け、インジェクタ101と103を同じ噴射グループとして駆動回路100の共通端子COM1に接続し、インジェクタ102と104を同じ噴射グループとして駆動回路100の共通端子COM2に接続している。なお、同時に駆動されることがないインジェクタで各々の噴射グループを構成することとし、そのグループ分けはどの気筒間で多重噴射を実施させるか等のエンジンの設計仕様によって決定されればよい。また、4気筒以外の、例えば6気筒エンジンの場合には、各気筒のインジェクタを3気筒ずつの噴射グループに分ければよい。
【0024】
インダクタL11は一端がバッテリ電源ライン(+B)に接続され、他端がトランジスタT00に接続されている。トランジスタT00のゲート端子には自励式の発振回路110が接続され、この発振回路110の出力に応じてトランジスタT00がオン/オフする。トランジスタT00とGNDとの間には電流検出抵抗R00が接続されている。
【0025】
インダクタL11とトランジスタT00との間には、トランジスタT13、逆流防止用のダイオードD14及びコンデンサC10からなる直列回路と、トランジスタT23、逆流防止用のダイオードD24及びコンデンサC20からなる直列回路と、トランジスタT33、逆流防止用のダイオードD34及びコンデンサC30からなる直列回路とが各々接続されている。各コンデンサC10,C20,C30のローサイドはそれぞれ、トランジスタT00と電流検出抵抗R00との接続点に接続されている。
【0026】
コンデンサC10は、COM1側の噴射グループであるインジェクタ101,103専用のエネルギー蓄積コンデンサであり、コンデンサC20は、COM2側の噴射グループであるインジェクタ102,104専用のエネルギー蓄積コンデンサである。また、コンデンサC30は、COM1,COM2共用のエネルギー蓄積コンデンサである。
【0027】
上記インダクタL11、トランジスタT00、電流検出抵抗R00、発振回路110、トランジスタT13,T23,T33、ダイオードD14,D24,D34及びコンデンサC10,C20,C30によりDC−DCコンバータ回路が構成され、このうち、インダクタL11、トランジスタT00、電流検出抵抗R00及び発振回路110からなる回路部分が本発明の昇圧手段に相当する。
【0028】
トランジスタT13,T23,T33は駆動用IC120により駆動が制御され、これらトランジスタT13,T23,T33がオンした状態でトランジスタT00がオン/オフされると、ダイオードD14,D24,D34を通じてコンデンサC10〜C30が充電される。これにより、各コンデンサC10〜C30がバッテリ電圧+Bよりも高い電圧に充電される。かかる場合、電流検出抵抗R00により充電電流がモニタされつつ、発振回路110によりトランジスタT00がオン/オフされることで、コンデンサC10〜C30が効率の良い周期で充電される。コンデンサC10〜C30の充電電圧は、例えば100Vである。
【0029】
駆動用IC120には、#1〜#4の入力端子が接続され、駆動用IC120はこの各端子を通じてECU200から第1気筒(#1)〜第4気筒(#4)の各噴射信号を取り込む。
【0030】
コンデンサC10は、トランジスタT12及びダイオードD13を介してCOM1端子に接続され、コンデンサC20は、トランジスタT22及びダイオードD23を介してCOM2端子に接続されている。また、コンデンサC30は、トランジスタT32及びダイオードD31を介してCOM1端子に接続されると共に、トランジスタT32及びダイオードD32を介してCOM2端子に接続されている。従って、#1〜#4の噴射信号がオフ(論理ローレベル)からオン(論理ハイレベル)に反転するタイミングでは、駆動用IC120によりトランジスタT12,T22,T32の何れかが一時的にオンされ、それに応じてコンデンサC10〜C30の蓄積エネルギーがインジェクタ101〜104に供給される。より具体的には、トランジスタT12がオンされると、コンデンサC10の蓄積エネルギーがCOM1側のインジェクタ101,103に供給され、トランジスタT22がオンされると、コンデンサC20の蓄積エネルギーがCOM2側のインジェクタ102,104に供給される。また、トランジスタT32がオンされると、コンデンサC30の蓄積エネルギーがインジェクタ101〜104の何れかに供給される。こうしたコンデンサC10〜C30によるエネルギー供給により、インジェクタの駆動電流として大電流が流れ、それに伴いインジェクタの開弁応答性が向上する。
【0031】
各インジェクタ101〜104のローサイドには、駆動回路100の端子INJ1,INJ2,INJ3,INJ4を介してトランジスタT10,T20,T30,T40が接続されており、駆動用IC120から#1〜#4の噴射信号が各々供給されると、その論理ハイレベルの噴射信号により当該トランジスタT10〜T40がオンとなる。トランジスタT10,T30とトランジスタT20,T40とは、各々同一の噴射グループを構成するものであり、それら各トランジスタはグループ毎に電流検出抵抗R10,R20を介して接地されている。電流検出抵抗R10,R20によりインジェクタ101〜104に流れる駆動電流が検出され、その検出結果が駆動用IC120に取り込まれる。
【0032】
COM1,COM2端子はそれぞれ、ダイオードD11,D21とトランジスタT11,T21とを介してバッテリ電源ライン(+B)に接続されている。かかる場合、駆動用IC120は、インジェクタ101〜104に流れる駆動電流に応じてトランジスタT11,T21をオン/オフ制御する。これにより、+Bからインジェクタ101〜104に定電流が供給される。ダイオードD12,D22は定電流制御のための帰還ダイオードであり、トランジスタT11,T21のオフ時にインジェクタ101〜104に流れる電流はダイオードD12,D22を介して還流される。
【0033】
実際の動作に際しては、駆動指令である噴射信号の立ち上がりと同時に先ずトランジスタT12、T22又はT32がオンされ、インジェクタ101〜104の駆動電流としてコンデンサC10、C20又はC30のエネルギー供給により大電流が流れた後、引き続き、トランジスタT11又はT21を通じて定電流が流れ、噴射信号の立ち下がりに伴い同駆動電流が遮断される。なお、ダイオードD11,D21は、コンデンサC10〜C30のエネルギー供給に際し、高電位となるCOM1,COM2端子から+B側への回り込みを防止するためのダイオードである。
【0034】
また、各インジェクタ101〜104のうち、一方の噴射グループを構成するインジェクタ101,103は、ダイオードD10,D30を介してコンデンサC10に接続されており、通電遮断に伴い当該インジェクタ101,103に発生する逆起電力エネルギーはダイオードD10,D30を介してコンデンサC10に回収される。また、他方の噴射グループを構成するインジェクタ102,104は、ダイオードD20,D40を介してコンデンサC20に接続されており、通電遮断に伴い当該インジェクタ102,104に発生する逆起電力エネルギーはダイオードD20,D40を介してコンデンサC20に回収される。更に、全インジェクタ101〜104は、ダイオードD15,D25,D35,D45を介してコンデンサC30に接続されており、通電遮断に伴い各インジェクタ101〜104に発生する逆起電力エネルギーはダイオードD15,D25,D35,D45を介してコンデンサC30に回収される。上記逆起電力エネルギーの回収に際し、電位の低いコンデンサにこの逆起電力エネルギーが回収される。
【0035】
なお本実施の形態では、コンデンサC10,C20が本発明の第1エネルギー蓄積素子に相当し、コンデンサC30が第2エネルギー蓄積素子に相当する。また、トランジスタT12,T22がエネルギー供給用の第1スイッチング手段に、トランジスタT32がエネルギー供給用の第2スイッチング手段に相当する。更に、駆動用IC120が制御手段に相当する。
【0036】
次に、本実施の形態における作用を図2のタイムチャートを用いて説明する。図2では多段噴射と多重噴射との動作例を示しており、多段噴射としては、メイン噴射に先立つプレ噴射とパイロット噴射、並びにメイン噴射後のアフター噴射が実施される。ここで、プレ噴射は主に筒内活性化のために実施され、パイロット噴射は主にNOxや燃焼音の低減のために実施される。アフター噴射は主に煤の再燃焼のために実施される。また、多重噴射を実現するためのポスト噴射は、主に触媒活性化のために実施される。つまり、これら各噴射は、排気エミッションの向上を目的として、エンジン運転状態等に応じて適宜実施される。
【0037】
図2中、「#1」は第1気筒の噴射信号を、「#2」は第2気筒の噴射信号を示し、第1気筒(#1)の多段噴射について、期間t1ではプレ噴射が、期間t2ではパイロット噴射が、期間t3ではメイン噴射が、期間t4ではアフター噴射が、それぞれ実施される。また、期間t5では、第1気筒のメイン噴射に重複して第2気筒(#2)に対しポスト噴射が実施される。4気筒エンジンの場合、例えば#1の噴射信号として、180°CA内にプレ、パイロット、メイン及びアフターの各噴射(多段噴射)の信号が出力され、その噴射信号に重複して#2の噴射信号として、ポスト噴射(多重噴射)の信号が出力される。
【0038】
さて、図2のプレ噴射前において、コンデンサC10〜C30は何れも満充電の状態にあり、期間t1で#1の噴射信号がオンに立ち上げられると、トランジスタT10がオンすると共に、それと同時にトランジスタT12がオンし、インジェクタ101によるプレ噴射が開始される。トランジスタT12は、プレ噴射の開始当初の一定時間t11だけオンし、コンデンサC10の蓄積エネルギーがソレノイド101aに供給される。これにより、ソレノイド101aに大電流が流れ、インジェクタ101の開弁応答が早まる。
【0039】
コンデンサC10によるエネルギー供給後は、それに引き続いてトランジスタT11がオン/オフ制御され、ダイオードD11を介してソレノイド101aに定電流が供給される。すなわち、電流検出抵抗R10により検出した駆動電流(INJ1電流)に応じて駆動用IC120がトランジスタT11をオン/オフし、その駆動電流を所定値に保持する。これにより、インジェクタ101は開弁状態で保持される。
【0040】
その後、#1の噴射信号がオフされると、トランジスタT10がオフし、ソレノイド101aの通電遮断時に発生する逆起電力エネルギーがダイオードD10を通じてコンデンサC10に回収される。このとき、噴射開始時にエネルギー供給を行ったのと同じコンデンサC10でエネルギーが回収される。通電遮断後、インジェクタの駆動電流(INJ1電流)がリターンスプリングの付勢力に打ち負ける所定レベルまで減衰すると、インジェクタ101が閉弁し、同インジェクタ101によるプレ噴射が終了される。
【0041】
また、プレ噴射の開始から終了後、更にソレノイド101aの逆起電力エネルギー回収に必要な時間t12が経過するまでの期間では、トランジスタT13がオフされ、DC−DCコンバータ回路によるコンデンサC10の充電が禁止される。そして、逆起電力エネルギーの回収が完了すると、トランジスタT13がオン、トランジスタT00がオン/オフしてDC−DCコンバータ回路によるコンデンサC10の充電が開始される。
【0042】
上記期間t1のプレ噴射では、噴射開始当初にコンデンサC10の蓄積エネルギーをソレノイド101aに供給したが、このプレ噴射に続く期間t2のパイロット噴射では、コンデンサC30の蓄積エネルギーをソレノイド101aに供給する。そして、そのパイロット噴射中に、コンデンサC10を満充電状態にまで充電する。
【0043】
詳しくは、#1の噴射信号がオンに立ち上げられると、トランジスタT10が再びオンすると共に、それと同時にトランジスタT32が一定時間t11だけオンし、コンデンサC30の蓄積エネルギーがソレノイド101aに供給される。これにより、パイロット噴射の開始当初において、ソレノイド101aに大電流が流れ、インジェクタ101の開弁応答が早まる。
【0044】
コンデンサC30によるエネルギー供給後は、それに引き続き、電流検出抵抗R10により検出した駆動電流(INJ1電流)に応じてトランジスタT11がオン/オフ制御され、ダイオードD11を介してソレノイド101aに定電流が供給される。これにより、インジェクタ101は開弁状態で保持される。その後、#1の噴射信号がオフされてINJ電流が減衰すると、インジェクタ101が閉弁し、同インジェクタ101によるパイロット噴射が終了される。ソレノイド101aの通電遮断時に発生する逆起電力エネルギーはダイオードD15を通じてコンデンサC30に回収される。このとき、噴射開始時にエネルギー供給を行ったのと同じコンデンサC30でエネルギーが回収される。
【0045】
一方、コンデンサC10では、パイロット噴射に関係なくDC−DCコンバータ回路による充電が継続され、当該コンデンサC10が満充電状態に充電される。
【0046】
パイロット噴射の開始から終了後、更にソレノイド101aの逆起電力エネルギー回収に必要な時間t12が経過するまでの期間では、トランジスタT33がオフされ、DC−DCコンバータ回路によるコンデンサC30の充電が禁止される。そして、逆起電力エネルギーの回収が完了すると、トランジスタT33がオン、トランジスタT00がオン/オフしてDC−DCコンバータ回路によるコンデンサC30の充電が開始される。
【0047】
それ以降、期間t3のメイン噴射では、コンデンサC10の蓄積エネルギーがソレノイド101aに供給され、そのメイン噴射中にコンデンサC30が満充電状態に充電される。メイン噴射に続く期間t4のアフター噴射では、コンデンサC30の蓄積エネルギーがソレノイド101aに供給され、そのアフター噴射中にコンデンサC10が満充電状態に充電される。また、メイン噴射の終了時に発生する逆起電力エネルギーはコンデンサ10で回収され、アフター噴射の終了時に発生する逆起電力エネルギーはコンデンサ30で回収される。逆起電力エネルギーの回収完了後、DC−DCコンバータ回路によりコンデンサC10,C30が充電される。
【0048】
以上のように、コンデンサC10,C20を交互に使って、連続する多段噴射を実施することで、各噴射では満充電状態のコンデンサC10,C20からエネルギー供給を行わせることができる。
【0049】
次に、多重噴射について説明する。図2では、#1の噴射信号(t3のメイン噴射)に#2の噴射信号(t5のポスト噴射)が重複しており、インジェクタ101,102が同時に駆動される。このとき、インジェクタ101,102は別々の噴射グループに属するため、それらは互いに無関係で制御され、仮に噴射時期が重複しても互いの影響を受けることなく燃料噴射が実施される。
【0050】
詳しくは、期間t5で#2の噴射信号がオンに立ち上げられると、トランジスタT20がオンすると共に、それと同時にトランジスタT22が一定時間t11だけオンし、コンデンサC20の蓄積エネルギーがソレノイド102aに供給される。これにより、ポスト噴射の開始当初において、ソレノイド102aに大電流が流れ、インジェクタ102の開弁応答が早まる。コンデンサC20によるエネルギー供給後は、それに引き続き、電流検出抵抗R20により検出した駆動電流(INJ2電流)に応じてトランジスタT21がオン/オフ制御され、ダイオードD21を介してソレノイド102aに定電流が供給される。これにより、インジェクタ102は開弁状態で保持される。
【0051】
その後、#2の噴射信号がオフされると、トランジスタT20がオフし、ソレノイド102aの通電遮断時に発生する逆起電力エネルギーがダイオードD20を通じてコンデンサC20に回収される。このとき、噴射開始時にエネルギー供給を行ったのと同じコンデンサC20でエネルギーが回収される。なお、逆起電力エネルギーは、ダイオードD20を経てコンデンサC20に向かうものと、ダイオードD25を経てコンデンサC30に向かうものとに分散されるが、コンデンサC30は既に満充電に充電されているためにこのコンデンサC30に対しての僅かな回収量となり、噴射制御に問題はない。通電遮断後、インジェクタの駆動電流(INJ2電流)が減衰すると、インジェクタ102が閉弁し、同インジェクタ102によるポスト噴射が終了される。
【0052】
この場合にも既述の通り、ポスト噴射の開始から終了後、更にソレノイド102aの逆起電力エネルギーの回収が完了するまでの期間では、トランジスタT23がオフされ、DC−DCコンバータ回路によるコンデンサC20の充電が禁止される。そして、逆起電力エネルギーの回収が完了すると、トランジスタT23がオン、トランジスタT00がオン/オフしてDC−DCコンバータ回路によるコンデンサC20の充電が開始される。
【0053】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(イ)コンデンサC10,C20は噴射グループ毎に別々に設けられるのに対し、コンデンサC30は各噴射グループに共通に設けられ、多段噴射時には、コンデンサC10,C20とコンデンサC30とから交互に各ソレノイド101a〜104aにエネルギーが供給されるので、同じコンデンサを使って連続する多段噴射が実施されることはない。つまり、充電途中のコンデンサを使って噴射開始時のエネルギー供給が行われることはない。そして、一方のコンデンサのエネルギー供給時に他方のコンデンサでエネルギーが蓄積(充電)される。従って、各噴射でインジェクタ101〜104が適切に駆動され、所望とする多段噴射が精度良く実現できる。また、コンデンサC10,C20を噴射グループ毎に設けると共に、コンデンサC30を全気筒共用で設けたので、当該コンデンサの必要個数が削減でき、ひいてはコスト低減を図ることができる。
【0054】
(ロ)多段噴射が実施される側とは逆の噴射グループで多重噴射(ポスト噴射)を実施する場合、多重噴射側のグループ専用のコンデンサC10又はC20からエネルギー供給されるので、多段噴射と多重噴射とを複合的に実施する燃料噴射装置において、好適なる燃料噴射を実現することができる。
【0055】
(ハ)コンデンサC10〜C30は、電源エネルギーよりも高いレベルでエネルギーを蓄積するので、燃料噴射時にはこの高いレベルのエネルギーがソレノイド101a〜104aに供給され、インジェクタ101〜104の応答性が向上する。
【0056】
(ニ)通電開始時のエネルギー供給と、通電遮断時の逆起電力エネルギー回収とが同じコンデンサで行われるので、エネルギー供給及び回収が効率良く実施できる。
【0057】
(ホ)コンデンサC10〜C30のエネルギー供給後、次の通電遮断時におけるエネルギー回収が終わるまでの期間で当該コンデンサC10〜C30への充電が禁止されるので、電遮断時におけるエネルギー回収先のコンデンサ電圧が常に一定となり、エネルギー回収時間が均一化される。従って、通電遮断後、インジェクタ101〜104が閉弁状態になるまでの時間のばらつきが解消される。その結果、インジェクタ101〜104の噴射切れのタイミングがずれることがなく、同インジェクタ101〜104を安定して駆動させることができる。
【0058】
(ヘ)インジェクタ101〜104のソレノイド101a〜104aを好適に駆動させることができる本インジェクタ駆動装置によれば、エンジンに対して安定し且つ高精度な燃料供給が実現できる。
【0059】
なお本発明は、上記以外に次の形態にて具体化できる。
上記実施の形態では、コンデンサC10,C20からのエネルギー供給後、トランジスタT11,T21をオン/オフ制御してソレノイド101a〜104aを定電流駆動したが、この構成を変更する。つまり、コンデンサC10,C20からのエネルギー供給後は、バッテリ電圧によりソレノイド101a〜104aを直接駆動するようにしてもよい。
【0060】
上記図1の構成において、DC−DCコンバータ回路の昇圧動作によりコンデンサC10〜C30にエネルギーを蓄積させるための構成、又は、通電遮断時の逆起電力エネルギーをダイオードを介して回収させてコンデンサC10〜C30に蓄積させるための構成の何れかを省略しても良い。
【0061】
上記実施の形態では、本発明をディーゼルエンジンのコモンレール式燃料噴射システムに具体化したが、他の装置への適用も可能である。例えば、高圧燃料がエンジンの各気筒に直接噴射される直噴式ガソリンエンジンの燃料噴射システムに具体化する。この場合にも、エネルギー供給用に設けられたコンデンサの蓄積エネルギーが、燃料噴射用電磁弁としてのインジェクタのソレノイドに供給され、該インジェクタがその通電開始当初に高速に駆動される。また、前記コンデンサとしては、同時に燃料噴射されることがあり得るインジェクタに対して別々のものと、同時に燃料噴射されることがあり得るソレノイドに対して共通のものとが設けられ、連続する多段噴射を行う際に、前記した各コンデンサから交互にエネルギー供給が行われる。従って、インジェクタを適切に駆動させ、且つコンデンサの個数削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施の形態におけるインジェクタ駆動装置の概要を示す電気回路図。
【図2】インジェクタ駆動装置の動作説明のためのタイムチャート。
【図3】従来技術におけるインジェクタ駆動回路の電気回路図。
【図4】動作説明のためのタイムチャート。
【符号の説明】
100…駆動回路、101〜104…燃料噴射用電磁弁としてのインジェクタ、101a〜104a…ソレノイド、110…発振回路、120…制御手段としての駆動用IC、C10,C20…第1エネルギー蓄積素子としてのコンデンサ、C30…第2エネルギー蓄積素子としてのコンデンサ、T12,T22…エネルギー供給用の第1スイッチング手段としてのトランジスタ、T32…エネルギー供給用の第2スイッチング手段としてのトランジスタ、L11…インダクタ、T00…トランジスタ、R00…電流検出抵抗。
Claims (6)
- 多気筒内燃機関の気筒毎に設けられ、各気筒に対して燃料を供給するための燃料噴射用電磁弁と、
燃料噴射用電磁弁に設けられ、該電磁弁を開弁又は閉弁させるためのソレノイドと、
同時に駆動することがあり得るソレノイドに対して別々に設けられ、ソレノイドに供給されるエネルギーを蓄積する複数の第1エネルギー蓄積素子と、
同時に駆動することがあり得るソレノイドに対して共通に設けられ、ソレノイドに供給されるエネルギーを蓄積する第2エネルギー蓄積素子と、
ソレノイドと第1エネルギー蓄積素子との間に設けられるエネルギー供給用の第1スイッチング手段と、
ソレノイドと第2エネルギー蓄積素子との間に設けられるエネルギー供給用の第2スイッチング手段と、
1個の気筒の1燃焼工程で複数回の燃料噴射動作を行う際に、前記第1エネルギー蓄積素子の蓄積エネルギーと前記第2エネルギー蓄積素子の蓄積エネルギーとを交互にソレノイドに供給するよう、前記エネルギー供給用の第1,第2スイッチング手段をオン/オフ制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。 - 同時に駆動することのないソレノイドを共通の噴射グループとし、この噴射グループ毎に前記第1エネルギー蓄積素子を設けた請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
- 請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、
前記制御手段により、一つの噴射グループ内で第1及び第2エネルギー蓄積素子から交互にエネルギー供給される時、他の噴射グループでは当該他のグループ専用の第1エネルギー蓄積素子からエネルギー供給される内燃機関の燃料噴射装置。 - 前記第1及び第2エネルギー蓄積素子は、電源エネルギーよりも高いレベルでエネルギーを蓄積するものである請求項1〜3の何れかに記載の内燃機関の燃料噴射装置。
- 電源に接続され、電源電圧を昇圧するための昇圧手段を備え、
前記第1及び第2エネルギー蓄積素子には、前記昇圧手段により電源電圧を昇圧したエネルギーが蓄積される請求項1〜4の何れかに記載の内燃機関の燃料噴射装置。 - 前記第1及び第2エネルギー蓄積素子にはソレノイドへの通電遮断時に発生する逆起電力エネルギーが蓄積される内燃機関の燃料噴射装置であって、
前記第1,第2エネルギー蓄積素子によるソレノイドへのエネルギー供給後、次の通電遮断時におけるエネルギー回収までの期間で、前記昇圧手段による昇圧動作を禁止する請求項5に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
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