JP4078824B2 - 自動変速機の油圧サーボピストンストローク制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に搭載される自動変速機の制御装置に関し、特に、その変速機構中の摩擦要素を制御するサーボ油圧供給の学習制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
近時の車両用自動変速機では、各変速段を達成するためのクラッチ及びブレーキ(本明細書において、これらを摩擦要素という)を制御する油圧回路中に、各摩擦要素の油圧サーボごとにそれぞれ専用の供給油圧制御弁(リニアソレノイドバルブ又はデューティソレノイドバルブ)を設けて、それぞれ独立して制御することで、制御性を向上させる構成が採られている。こうした油圧回路における前記各制御弁は、電子制御装置が出力するソレノイド制御信号により制御される。電子制御装置は、変速機の各種制御のためのプログラムやデータを格納したメモリと、マイクロコンピュータを内蔵し、変速機各部の状況を検出するセンサから入力される情報に基づき、必要なデータを参照するプログラムに従う演算処理を行ない、前記各制御弁にそれらの駆動のためのソレノイド制御信号を出力する。
【0003】
前記のような構成からなる自動変速機では、変速のために、油圧サーボのシリンダ内に油圧を供給することで、ピストンにより摩擦材を係合させる際に、それまで解放状態に置かれることで油が抜けた状態にあり、リターンスプリングの荷重で後退位置にあるピストンを、シリンダ内に迅速に油を満たすことで、摩擦材との係合開始位置までストロークさせる必要がある。こうした操作のために、通常、油圧サーボへの当初の油圧の供給は、ピストンを実際に摩擦材の係合を開始させる位置まで押出すストロークを得るための急速充填(ファストフィル)とされる。このファストフィルで供給される油圧は、主としてピストンストロークのために費やされるため、格別の調圧制御は必要がないことから、通常、その後の係合操作のために供給を開始するときの油圧より高い一定圧を、一定時間タイマ制御による時間設定に従って供給する処理とされる。
【0004】
ところで、前記ピストンストロークは、油圧サーボの位置に対する摩擦材の位置の微調整で一定の値に設定されるものの、自動変速機の製品個体ごとの較差を完全に修正することは困難である。これに対して前記のように一定時間のタイマ制御を行なった場合、摩擦材との係合開始までのピストンストロークが短い製品では、ファストフィル中に摩擦材の係合が開始することで、摩擦要素がトルク容量を持ってしまうことになる。この状態は、車両運転者に変速ショックとして体感される。そこで、従来は、このタイマ制御の時間設定を、製品個体ごとの較差に応じて学習させて修正する処理を電子制御装置で行なっている。
【0005】
具体的には、自動変速機のアップシフト中のファストフィル時間、すなわちタイマ制御上のピストンストローク時間の学習制御では、図12に示すクラッチツークラッチ変速タイムチャート(時間tに対する解放側及び係合側の2つの摩擦要素の油圧サーボA,Bへの供給油圧PA ,PB 、変速機入力回転数NI N 及び入力回転加速度dNI N /dtの変化を示す)を参照して、従来の方法では、入力回転加速度(dNI N /dt)のピストンストローク時間中(変速制御開始から時間tS A の間、供給油圧PA としてストローク油圧PS 1 を供給する)の最小値(inSpA)と、その後のストローク待機中(時間tS A の経過後、時間tS E が経過するまで、供給油圧PA として待機油圧PS 2 を供給する)の入力回転加速度の最小値(inSpB2)とを比較し、この差が所定の閾値を超えるときに、タイマ制御上のピストンストローク時間が長すぎると判断し、この時間を短くする処理を行っている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記のようなピストンストローク時間の学習制御により、アクセルペダルが踏み込まれた状態での変速(オンアップ)時のショックが感じられないようになっているにも拘わらず、アクセルペダルが戻され、又は踏み込みが極めて小さい状態での変速(オフアップ)時にショックを感じる状態が生じることがある。この原因としては、オンアップ時とオフアップ時で油圧サーボへの油の入り方が微妙に異なる、あるいは、オンアップ時には感じられない程度のストローク過剰がオフアップ時のみショックとして感じられる等の理由が考えられる。これに対して、現在の学習方法は、前記のようにファストフィル充填中の入力回転数の変化量を指標とする判断でなされるため、オフアップ時のように、トルクがない状態やトルクが落ちてくるようなコースト状態ともドライブ状態とも言えない状態では、入力回転や入力トルクが安定しないため、上記の判断指標でのピストンストローク時間の過剰判断が正確に検出できないことで、学習制御が行なわれない。したがって、こうしたオフアップ時のピストンストローク時間の学習制御には、オンアップ時とは異なる判断指標が必要となる。
【0007】
そこで、本発明は、ピストンストローク時間過剰判断の指標を適正化することで、特に、オフアップ時にピストンストローク較差に対応するピストンストローク時間の学習制御がなされる自動変速機の制御装置を提供することを概括的な目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、請求項1に記載のように、予め設定されたピストンストローク時間に従う油圧の供給により、油圧サーボのピストンストロークを制御する自動変速機の油圧サーボピストンストローク制御装置において、自動変速機の入力回転数を監視し、該入力回転数の変化開始時期に基づきピストンストローク過剰を判断する第1の判断手段と、入力回転加速度を監視し、前記入力回転数の変化開始時後の加速度の低下度合いに基づきピストンストローク過剰を判断する第2の判断手段と、前記第1及び第2の判断手段によるピストンストローク過剰判断の成立を条件として、ピストンストローク時間の設定を修正する補正手段とを備えることを特徴とする構成により達成される。
そして、前記第1の判断手段によるピストンストローク過剰判断は、変速制御開始からの入力回転数の変化開始時間がピストンストローク待機終了時間より短いことで成立する。
【0010】
また、請求項2に記載のように、前記第2の判断手段によるピストンストローク過剰判断は、入力回転数の変化開始時後の所定時間内に取得される加速度最小値が、所定の加速度閾値より小さいことで成立する構成とされる。
【0011】
あるいは、請求項3に記載のように、前記第2の判断手段によるピストンストローク過剰判断は、入力回転数の変化開始時後の単位時間あたりの加速度低下割合が、所定の低下割合閾値より大きいことで成立する構成とされる。
【0012】
また、上記の構成において、請求項4に記載のように、前記補正手段によるピストンストローク時間の修正は、予め設定されたピストンストローク時間から一定時間を減算する処理によりなされる。
【0013】
また、上記の構成において、請求項5に記載のように、前記補正手段によるピストンストローク時間の修正は、予め設定されたピストンストローク時間から、加速度の低下度合いを表す指標の関数に従って演算される可変時間を減算する処理によりなされるようにすることもできる。
【0014】
【発明の作用及び効果】
上記請求項1記載の構成では、ピストンストローク時間設定の過剰判断が、ピストンのストローク過剰により生じる入力回転数の変化の開始時期と、入力回転数の変化開始時期から生じる急激な回転変化を表す入力回転加速度の低下度合いの両方に基づき判断されるため、従来の指標では捕捉困難であったオフアップ時のピストンストローク過剰状態を確実に検知したピストンストローク時間の修正が可能となる。これにより従来解決できなかったオフアップ時にのみ生じるような変速ショックの学習制御による改善が可能となる。
また、入力回転数の変化の開始時期を、変速制御開始からの計時上で、ピストンストローク待機終了までの時間と比較する簡単な判断で、ピストンストローク時間設定の過剰判断を成立させることができる。
【0016】
更に、請求項2記載の構成では、ピストンストローク時間の過剰判断が、加速度閾値との比較で可能となるため、判断のための複雑な演算処理を避けたピストンストローク時間の修正が可能となる。この結果、従来のオンアップ時のピストンストローク時間の修正処理と同様の制御装置上の処理負荷とすることができる。
【0017】
更に、請求項3記載の構成では、ピストンストローク時間の過剰判断が、入力回転数の変化開始に続く入力回転加速度の変化で短時間になされるため、ピストンストローク時間の修正処理のための学習制御をより短時間に終了させることができる。この結果、制御装置上の処理負荷を軽減することができる。
【0018】
次に、請求項4記載の構成では、ピストンストローク時間の修正が一定値を用いてなされるため、補正のための複雑な演算処理を避けたピストンストローク時間の修正が可能となる。この結果、従来のオンアップ時のピストンストローク時間の修正処理と同様の制御装置上の処理負荷とすることができる。
【0019】
また、請求項5記載の構成では、変速機個体間の較差に応じたピストンストローク時間の修正処理が可能となるため、ピストンストロークの過剰を製品ごとの較差に応じてより短期間に解消することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿い、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一適用対象としての前進6速・後進1速の自動変速機のギヤトレインをスケルトンで示す。図に示すように、この自動変速機は、フロントエンジン・リヤドライブ用の縦置式とされ、ロックアップクラッチ付のトルクコンバータ2と遊星歯車変速装置1とで構成されている。
【0021】
遊星歯車変速装置1は、ラビニヨタイプのプラネタリギヤユニットGと、プラネタリギヤユニットGに減速回転を入力する減速用のプラネタリギヤG1とで構成されている。プラネタリギヤユニットGは、大径のサンギヤS2と、小径のサンギヤS3と、互いに噛合して且つ小径のサンギヤS3に噛合するショートピニオンP3と、大径のサンギヤS2に噛合するロングピニオンP2と、それら一対のピニオンを支持するキャリアC2と、ロングピニオンP2に噛合するリングギヤR2から構成されている。また、減速用のプラネタリギヤG1は、サンギヤS1と、それに噛合するピニオンP1を支持するキャリアC1と、ピニオンP1に噛合するリングギヤR1の3要素かなるシンプルプラネタリギヤから構成されている。
【0022】
プラネタリギヤユニットGの小径のサンギヤS3は、第1のクラッチC−1(以下、C1クラッチと略記する)により減速プラネタリギヤG1のキャリアC1に連結され、大径のサンギヤS2が第3のクラッチC−3(以下、C3クラッチと略記する)により減速プラネタリギヤG1の同じくキャリアC1に連結されるとともに第1のブレーキB−1(以下、B1ブレーキと略記する)によりケース10に係止可能とされ、キャリアC2が第2のクラッチC−2(以下、C2クラッチと略記する)により入力軸11に連結されるとともに第2のブレーキB−2(以下、B2ブレーキと略記する)によりケース10に係止可能とされ、リングギヤR2が出力軸19に連結されている。また、B2ブレーキに並列させてワンウェイクラッチF−1が配置されている。減速プラネタリギヤG1は、そのサンギヤS1を変速機ケース10に固定され、リングギヤR1を入力軸11に連結され、キャリアC1をC1クラッチを介してプラネタリギヤユニットGの小径のサンギヤS3に連結され、かつC3クラッチを介してプラネタリギヤユニットGの大径のサンギヤS2に連結されている。
【0023】
このように構成された遊星歯車変速装置1の上記各クラッチ及びブレーキは、周知のように、それぞれ摩擦材とそれらを係合・解放操作するピストン・シリンダ機構からなる油圧サーボを備えており、後に説明する電子制御装置と油圧制御装置とによる制御で、運転者により選択されたレンジに応じた変速段の範囲で車両負荷に基づき、変速機ケース10に付設した油圧制御装置による各油圧サーボに対する油圧の給排で摩擦材が係合・解放されて変速が行われる。図2は遊星歯車変速装置1中の各クラッチ及びブレーキ並びにワンウェイクラッチの作動とそれにより達成される変速段との関係を図表化して示す。図において○印は係合、△印はエンジンブレーキ達成のための係合を表す。
【0024】
このギヤトレインの各変速段での各変速要素の作動を図3に速度線図で示す。速度線図において、縦軸は、図の左側から順に、それぞれ減速プラネタリギヤG1のサンギヤS1、キャリアC1、リングギヤR1、プラネタリギヤユニットGの大径サンギヤS2、キャリアC2、リングギヤR2、小径サンギヤS3を示し、縦軸間の幅は、関連する要素間のギヤ比に従って配分されており、縦軸方向の位置は、歯車変速装置1への入力回転を1としたときの回転速度比、それらの値の正負は回転方向を示す。また、●印はそれらの直近に付記する摩擦要素による係合を示す。更に、出力要素を構成するリングギヤR2の速度比を示す○印の直近に変速段を付記する。
【0025】
例えば、第2速(2nd)は、C1クラッチとB1ブレーキの係合により達成される。この場合、入力軸11からサンギヤS1固定の減速プラネタリギヤG1のリングギヤR1に入力された速度比1の回転が、減速プラネタリギヤG1で減速されて、キャリアC1からC1クラッチ経由で小径サンギヤS3に入力され、B1ブレーキの係合により係止された大径サンギヤS2に反力を取って、リングギヤR2の減速回転が出力軸19に出力される。このときの減速比は、速度線図上で、小径サンギヤS3のC1クラッチ係合による減速プラネタリギヤG1の減速比に従う速度比と、大径サンギヤS2のB1ブレーキ係合による固定に従う速度比0の点を結ぶ直線がリングギヤR2を示す縦軸と交わる交点の速度比、すなわち第2速(2nd)ギヤ比の回転となる。
【0026】
同様に、第3速(3rd)は、C1クラッチとC3クラッチの同時係合により達成される。この場合、入力軸11から同様に減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がC1クラッチとC3クラッチ経由で同時に大径サンギヤS2と小径サンギヤS3に入力され、プラネタリギヤユニットGが直結状態となるため、両サンギヤへの入力回転と同速のリングギヤR3の回転が、入力軸11の回転に対しては減速された回転として、出力軸19に出力される。この状態が、速度線図上では、小径サンギヤS3のC1クラッチ係合による減速プラネタリギヤG1の減速比に従う速度比と、大径サンギヤS2のC3クラッチ係合による減速プラネタリギヤG1の減速比に従う速度比の点を結ぶ直線がリングギヤR2を示す縦軸と交わる交点の速度比、すなわち第3速(3rd)ギヤ比の回転となる。
【0027】
他の変速段についても、摩擦要素の係合と、それによるプラネタリギヤユニットG及びプラネタリギヤG1の各要素の相互連結又は係止による入力回転に対する出力回転の関係で、同様に達成されるが、この詳細については、速度線図の参照をもって説明に代える。
【0028】
このギヤトレインでは、図2の作動図表に端的に示すように、第2速から第3速へのアップシフト(以下、2−3変速という。他の変速について同様の略記を用いる。)において、B1ブレーキの解放とC3クラッチの係合(以下、摩擦要素のこうした解放と係合の入替わりを掴み替えという)、3−4変速において、C3クラッチとC2クラッチの掴み替え、4−5変速において、C1クラッチとC3クラッチの掴み替え、更に、5−6変速において、C3クラッチとB1ブレーキの掴み替えが行なわれる。
【0029】
図4はこうした掴み替えに関わる2つの摩擦要素の油圧サーボを一般化して符号A,Bで表し、それらの油圧サーボの油圧給排回路のみを略示して油圧制御装置の構成を示す。図示のように、それぞれの油圧サーボA,Bの油圧給排回路は、ソレノイドモジュレータ圧(ソレノイド弁による精密な調圧のためにライン圧をソレノイドモジュレータ弁で減圧した油圧PS M )を調圧の基圧とし、ソレノイド圧(PS L 1 ,PS L 2 )を出力する専用のリニアソレノイド弁31,32と、各リニアソレノイド弁31,32が出力するソレノイド圧(PS L 1 ,PS L 2 )をスプリング負荷に抗して印可され、ライン圧(PL )を基圧として調圧作動し、油圧サーボA,Bへのアプライ圧(PA ,PB )の供給と、油圧サーボA,Bからのサーボ圧の排出を制御する専用のコントロール弁41,42を備える構成とされている。これらリニアソレノイド弁31,32が電子制御装置から出力されるソレノイド制御信号で制御され、それによりコントロール弁41,42の出力油圧が定まることは、冒頭に述べたとおりである。
【0030】
電子制御装置を主体とする制御系は、図5にブロックで示すように構成されている。電子制御装置(ECU)5は、一般的構成として、冒頭に述べたように、変速機の各種制御のためのプログラムやデータを格納したメモリと、マイクロコンピュータを内蔵しており、変速機各部の状況を検出するセンサから入力される情報に基づき、必要なデータを参照するプログラムに従う演算処理を行ない、前記各制御弁にそれらの駆動のためのソレノイド制御信号を出力する。図は前記一般的構成のうち、本発明の主題に係る部分のみを示す。電子制御装置5は、その演算処理機能として構成される変速制御手段と、学習制御手段とを内包する。学習制御手段は、後に詳記する第1の判断(回転変化判断)手段51と、第2の判断(加速度変化判断)手段52と、補正手段53を備えている。そして、この演算処理のための情報取得手段としてのセンサは、エンジン回転数センサ61と、スロットル開度センサ62と、変速機入力軸回転数センサ63と、車速センサ64とされている。また、電子制御装置(ECU)5が出力するソレノイド制御信号は、前記のように一般化した掴み替え変速に関わるリニアソレノイド弁31,32のソレノイド1及びソレノイド2に印可されるものとして示されている。
【0031】
次に、掴み替え変速時の前記油圧回路の制御及びそれによるギヤトレインの作動について、図6及び図7の電子制御装置の処理内容のフローチャートと、図8のタイムチャートを併せ参照して説明する。まず、係合側の摩擦要素の油圧サーボAの制御については、図6を参照して、最初のステップS−1で、アップシフト指令に基づきタイマ制御のための計時を開始する処理を行なう。次に、ステップS−2で、ファストフィルのための油圧供給処理(PA =PS 1 )を行なう。この処理により、電子制御装置5からソレノイド駆動信号が出力され、その印可を受けるソレノイド弁31からソレノイド圧(PS L 1 )が出力される。したがって、このソレノイド圧(PS L 1 )を印可されるコントロール弁41が、ライン圧(PL )を調圧してアプライ圧(PA =PS 1 )として油圧サーボAに供給する。この供給状態は、次のステップS−3の経時判断(t≧tS A )により監視される。ここに、tS A は、図8に示す既定の初期値に従うピストンストローク時間である。この経時判断が成立(Y)したところで、ピストンストローク完了として、次のピストンストローク待機処理に移行する。
【0032】
次のステップS−4では、油圧サーボAへのアプライ圧(PA )を、時間(tS B )で待機圧(PS 2 )まで降下させるべく、(PS 1 −PS 2 )/tS B の勾配でスイープダウンする処理を行なう。この処理により油圧サーボAへのアプライ圧(PA )を降下させながら、この降圧の状況は、次のステップS−5による降圧達成判断(PA ≦PS 2 )で監視される。この判断指標は、ソレノイド駆動信号の変化とすることができるが、供給回路に油圧センサを備える場合は、その出力信号とすることもできる。この判断が成立(Y)したところで、次のステップS−6の定圧維持処理(PA =PS 2 )を実行する。この処理の実行時間は、次のステップS−7により決定される。ステップS−7の判断は、タイマ計時(t≧tS E )により成立させることができるが、他の指標として、変速機入力軸回転数センサ63で検出される入力回転数(NI N )の微小変化(dNS )の蓄積による回転数変化量(ΔN)を用い、この値が所定値に達したか否かの判断(ΔN≧dNS )とすることもできる。
【0033】
次のステップS−8からは、油圧サーボAへアプライ圧(PA )を調圧供給する第1段階の制御処理である。ステップS−8では、タイマ計時上で昇圧時間(tT A )後にアプライ圧(PA )を目標圧(PT A )とするための昇圧勾配を、各時点のトルク伝達量(Tt)の関数として決定する(PT A =fPT A (Tt))。こうして決定された目標圧(PT A )に所定時間で到達するように、次のステップS−9で(PT A −PS 2 )/tT A の勾配でスイープアップ処理を行なう。そして、次のステップS−10で、アプライ圧の監視判断(PA ≧PT A )を行なう。この判断が成立(Y)すると、次の段階の調圧制御に移行する。
【0034】
第2段階の調圧制御では、ステップS−11によりアプライ圧の漸増(δPT A )をωa’の関数として制御する昇圧勾配を鈍らせる処理が行なわれる(δPT A =δPT A f(ωa’))。この処理の達成の監視は、次のステップS−12により、変速機入力軸回転数センサで検出される入力回転数(NI N )の微小変化(dNS )の和(ΔN)を指標として行なわれる(ΔN≧dNS )。こうしてステップS−12の判断が成立(Y)すると、更に昇圧勾配を鈍らせるべく、第3段階の調圧制御に入る。なお、入力トルクが小さいオフアップ時は、前記第1段階や第2段階の調圧制御を行なうまでもなく変速が始まることで、入力軸回転数変化が生じる場合があるので、こうした場合は、ステップS−7の後、直ちに次の第3段階の調圧制御に入る。
【0035】
第3段階の調圧制御では、ステップS−13によりアプライ圧を所定の勾配(δPI )でスイープアップする処理を行なう。この処理の監視は、次のステップS−14により、変速後のギヤ段に同期したときの出力回転数(Nout(gi −gi + 1 )に対する入力回転数の変化割合(ΔN×100)が変速の進行度合(α2 [%])を指標として行なわれる(ΔN×100/{Nout(gi −gi + 1 )})。この判断が成立(Y)したところで、次のステップS−15により第4段階の調圧制御に移行する。このステップでの処理は、所定勾配(δPL )でスイープアップする処理である。この処理の監視は次のステップS−16により、係合側摩擦要素へのトルク移管開始からの入力軸回転数変化量の総和(ΔN)を変速前後のギヤ比分の回転数変化(β[rpm])と比較する判断で行なう。この判断は、次変速段の達成確認の判断である。したがって、この判断が成立したところで、次のステップS−17により変速終了のタイマ設定を行なう(tF =t)。そして次のステップS−18により変速終了時の昇圧処理として、所定勾配(δPF )で一気にライン圧まで昇圧させる最終処理を行なう。その後、ステップS−19で、先に設定した変速終了からの時間からの経過(t−tF )を変速制御終了タイマ時間(tF E )と比較し、このタイマ判断(t−tF ≧tF E )が成立したところで、係合側の変速制御を終了させる。
【0036】
一方、解放側の摩擦要素の油圧サーボBの制御については、図7を参照して、最初のステップS−21で、係合側と同様にアップシフト指令に基づきタイマ制御のための計時を開始(タイマリセットt=0)する処理を行なう。次に、ステップS−22で、係合側の油圧サーボAの万一の圧低によるエンジン吹きを防止すべく、解放圧(PB )を一旦待機状態の棚圧(PW )に保持する処理を行なう(PB =PW )。この状態で、次のステップS−23により、タイマ計時(t≧tS E )による成立判断又は変速機入力軸回転数センサで検出される入力回転数(NI N )の微小変化(dNS )の和(ΔN)を用いる成立判断(ΔN≧dNS )で、係合側油圧サーボAのピストンストローク待機状態の確立の確認を行なう。
【0037】
ステップS−23により係合側油圧サーボAのピストンストローク待機状態の確立が確認されると、以下、係合側の摩擦要素へのトルク移管に合わせて解放側の摩擦要素のトルク分担を減じて行くためのトルク計算と、それに応じた油圧の算出のための油圧計算のための各ステップS−24〜S−27を実行し、ステップS−28により上記計算結果に基づき油圧勾配(δPI N )を算出する。こうして得られた油圧勾配(δPI N )を用いて、次のステップS−30で、実際に解放圧をδPI N の勾配でスイ−プダウンする処理を実行する。この状態で、次のステップS−31により入力回転数(NI N )の変化を監視し、ΔN≧dNS の回転変化判断が成立したところで、最終的に油圧サーボBの油圧を抜くためのステップS−32によるδPE の勾配でスイ−プダウンする処理を行ない、最後にステップS−33で完全な圧力解放を確認(PB ≦0)して解放制御を終了する。
【0038】
前記のようにして行なわれる係合及び解放制御に対して、係合側油圧サーボAのピストンストロークが過剰な場合、図9のタイムチャートに示すように、アプライ圧(PA )の変化に対して、実際のサーボ圧は点線で示すような上昇経過を辿る。この場合、ファストフィル期間の終了前から待機状態のサーボ圧を超える昇圧が始まり、アプライ圧(PA )の待機圧への降圧と同時にサーボ圧のピークが生じる。そして、このサーボ圧の昇圧により摩擦要素がトルク容量を持つことで、入力軸回転数(Nin)の下降が始まる。また、この回転変化により入力回転加速度(dNI N /dt)が急速に降下する。この降下は、ファストフィル期間終了時にアプライ圧が低減(PA =PS 2 )され、それによりトルク容量が小さくなることで行き止まり、待機圧の供給時間中はほぼ一定の値に保たれる。こうしたことから、冒頭に述べた従来の学習制御では、ピストンストロークを修正する学習はなされない。
【0039】
そこで、本発明に従う学習制御では、図10に示すフローに従う制御がなされる。この制御においては、当初のステップS−51で、自動変速機の入力回転数(NI N )を監視し、その変化開始時期をピストンストローク待機終了時期との前後関係から比較してピストンストローク過剰を判断する。この判断ステップは、本発明の第1の判断手段を構成するするもので、通常のピストンストローク待機時間以下に設定される第1判定閾値との比較によりなされる。具体的には、この第1段階のピストンストローク過剰判断は、変速制御開始からの入力回転数の変化開始時間(tS T )がピストンストローク待機終了時間より短い時間(tS A +tS B +tS D )であることで成立する。ここに、tS A はファストフィル圧(PS 1 )供給状態の既設定のピストンストローク時間、tS B はファストフィル圧(PS 1 )から待機圧(PS 2 )へのスイ−プダウン時間、tS D は待機圧(PS 2 )供給状態維持のストローク待機時間あるいはそれにより短い時間として設定された第1判定閾値である。このステップS−51の判断が不成立の場合は、この学習制御が不要又はなじまない状態であるので、以後のステップを飛ばして、この制御を終了する。
【0040】
ステップS−51の判断が成立(Yes)する場合は、次のステップS−52に進み、第2段階のピストンストローク過剰判断を実行する。この判断ステップは、本発明の第2の判断手段を構成する。具体的には、この第2段階のピストンストローク過剰判断は、入力回転加速度(dNI N /dt)の変化を監視し、先の図9のタイムチャートに示す入力回転数(NI N )の変化開始後の所定時間(tS P max)内の加速度最小値すなわち図9に●印で示す負の加速度の最大値(inSpS T )を取得保存し、所定時間経過時に判定基準値として予め設定された閾値(inSpEnmax)と比較してピストンストローク過剰を判断する。この場合の判断は、加速度最小値(inSpS T )が加速度閾値(inSpEnmax)より小さいことで成立する。換言すれば、所定時間(tS P max)内に取得保存された負の加速度最大値(inSpS T )が、比較のための負の加速度最大値として予め設定された加速度閾値(inSpEnmax)を超える(inSpEnmax<inSpS T )ことで成立する。このステップS−52の判断が不成立の場合も、この学習制御が不要又はなじまない状態であるので、以後のステップを飛ばして、この制御を終了する。
【0041】
なお、この第2段階のピストンストローク過剰判断については、入力回転加速度(dNI N /dt)の急激な負方向への変化を指標とする趣旨のものであるので、他の判断手法を採ることもできる。その手法としては、例えば、入力回転数(NI N )の変化開始後の、前記所定時間(tS P max)より短い単位時間あたりの加速度低下割合すなわち低下勾配を取得し、その値を判断基準としての所定の低下割合閾値すなわち勾配閾値と比較して判断する方法がある。
【0042】
こうして第1及び第2の判断手段によるピストンストローク過剰判断の成立を条件として、次のステップS−53で、ピストンストローク時間の設定を修正する補正を行なう。この補正ステップは、本発明の補正手段を構成する。具体的には、この補正は、既定のピストンストローク時間(tS A )から所定の補正値(dtS A )を減算し、新たなピストンストローク時間として設定する処理(tS A =tS A −dtS A )によりなされる。こうしてこのオフアップ変速時のピストンストロークの学習制御を終了する。この学習制御は、この油圧サーボAに油圧が供給される変速が行なわれる度に実行され、この繰返しで、上記ステップS−51とステップS−52が共に不成立の状態となり、ピストンストローク時間の適正化が達成される。
【0043】
こうした学習制御によりピストンストローク時間(tS A )すなわちファストフィル時間が修正されることで、アップシフト時の変速特性は、図11のタイムチャートに示すように変化する。この場合、係合側油圧サーボAのサーボ圧は、図に点線で示すような上昇特性に変わる。すなわち、ピストンストローク時間中のサーボ圧は、アプライ圧(PA )に対して、その後のストローク待機時間中の油圧より低く抑えられる。この結果、入力軸回転加速度(dNI N /dt)は、実際の変速が開始するまで、すなわち、自然に回転変化が開始するまで変化しない特性となる。そして、これにより、ピストンストロークの過剰による変速ショックの発生は回避される。
【0044】
ところで、上記学習制御におけるピストンストローク時間の補正量(dtS A )は、演算を簡略化する意味では、補正が過剰とならないような、経験的に割出される一定値とするのが有効であるが、ピストンストロークの過剰を製品ごとの較差に応じてより短期間に解消する意味では、可変値とすることもできる。この場合の補正量としては、種々のものが考えられるが、例えば、前記学習制御過程で得られる数値を用いる場合、入力回転加速度(dNI N /dt)の最小値(inSpS T )の関数,すなわち、dtS A =G・f(inSpS T )とすることができる。ここにGは所定のゲインを表し、このゲインGを経験的に最適化できれば、事実上1回の補正でピストンストローク時間の過剰を修正することも可能となる。
【0045】
以上、本発明を一実施形態を挙げて詳説したが、本発明の思想は例示の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の事項に基づく種々の具体的構成の変更を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の適用に係る実施形態の自動変速機のギヤトレインを示すスケルトン図である。
【図2】ギヤトレインの作動を示す係合図表である。
【図3】ギヤトレインの作動を示す速度線図である。
【図4】ギヤトレインを制御する油圧制御装置の部分回路図である。
【図5】自動変速機の制御系のシステム構成を示すブロック図である。
【図6】油圧制御装置を制御する電子制御装置による摩擦要素係合制御のフローチャートである。
【図7】油圧制御装置を制御する電子制御装置による摩擦要素解放制御のフローチャートである。
【図8】オフアップ変速時の自動変速機の作動を示すタイムチャートである。
【図9】ピストンストローク過剰状態におけるオフアップ変速時の自動変速機の作動を示すタイムチャートである。
【図10】電子制御装置による学習制御のフローチャートである。
【図11】学習制御による修正後のオフアップ変速時の自動変速機の作動を示すタイムチャートである。
【図12】従来の制御によるアップシフト掴み替え変速時の自動変速機の作動を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
A 油圧サーボ
51 第1の判断手段
52 第2の判断手段
53 補正手段
tS A ピストンストローク時間
tS B 〜tS E ピストンストローク待機時間
tS P max 所定時間
dNI N /dt 入力回転加速度
inSpS T 加速度最小値
inSpEnmax 加速度閾値
dtS A 一定時間
G・f(inSpS T ) 可変時間
Claims (5)
- 予め設定されたピストンストローク時間に従う油圧の供給により、油圧サーボのピストンストロークを制御する自動変速機の油圧サーボピストンストローク制御装置において、自動変速機の入力回転数を監視し、該入力回転数の変化開始時期に基づきピストンストローク過剰を判断する第1の判断手段と、入力回転加速度を監視し、前記入力回転数の変化開始時後の加速度の低下度合いに基づきピストンストローク過剰を判断する第2の判断手段と、前記第1及び第2の判断手段によるピストンストローク過剰判断の成立を条件として、ピストンストローク時間の設定を修正する補正手段とを備えるとともに、前記第1の判断手段によるピストンストローク過剰判断は、変速制御開始からの入力回転数の変化開始時間がピストンストローク待機終了時間以下の第1判定閾値より短いことで成立することを特徴とする自動変速機の油圧サーボピストンストローク制御装置。
- 前記第2の判断手段によるピストンストローク過剰判断は、入力回転数の変化開始時後の所定時間内に取得される加速度最小値が、所定の加速度閾値より小さいことで成立する請求項1に記載の自動変速機の油圧サーボピストンストローク制御装置。
- 前記第2の判断手段によるピストンストローク過剰判断は、入力回転数の変化開始時後の単位時間あたりの加速度低下割合が、所定の低下割合閾値より大きいことで成立する請求項1に記載の自動変速機の油圧サーボピストンストローク制御装置。
- 前記補正手段によるピストンストローク時間の修正は、予め設定されたピストンストローク時間から一定時間を減算する処理によりなされる請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動変速機の油圧サーボピストンストローク制御装置。
- 前記補正手段によるピストンストローク時間の修正は、予め設定されたピストンストローク時間から、加速度の低下度合いを表す指標の関数に従って演算される可変時間を減算する処理によりなされる請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動変速機の油圧サーボピストンストローク制御装置。
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