JP4066596B2 - 自動変速機の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スロットルが戻された状態でのアップシフト(オフアップ)時に、摩擦係合要素の係合を遅延させる制御を行ない、シフトショックの発生を防止する自動変速機の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、アップシフト判断が出された時点で、当該アップシフトがオフアップであるか否かを判断し、その判断に応じて、アップシフトに際した制御内容を変更し、円滑なアップシフト動作が行われるようにする制御が行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、エンジン側での制御により、オフアップ時においても、アップシフト判断の直後においてはエンジンが自動変速機を駆動しているパワーオン状態である場合がある。この場合、直ちに摩擦係合要素をアップシフト側に係合させると過剰なエンジントルクによりシフトショックが生じる危険性がある。
【0004】
そのため、オフアップに伴う摩擦係合要素の係合動作をアップシフト判断の直後には行わず、一定の遅延時間の後に行なうことが行われている。
【0005】
この場合、エンジンの出力状態に無関係にアップシフト判断後、常に一定の遅延時間が生じるので、オフアップ変速開始が遅くなり違和感を運転者にもたらす場合がある。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑み、オフアップ時において、常に一定時間待つことなく、エンジンの出力がオフアップに適した状態になったところで、直ちにオフアップ動作を実行することが出来る、自動変速機の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明によれば、エンジンからの回転が入力される入力軸(3)、車軸に接続される出力軸(14a、14b)、前記入力軸と出力軸との間に配置された複数の変速要素(7、9、10、11のリングギヤ、サンギヤ、キャリアなど)、それら複数の変速要素を係止、係止解除自在に設けられた複数の摩擦係合要素(C1〜C3、B1〜B5)を有し、それら摩擦係合要素を操作することにより、アップシフト変速動作を行うことが出来る自動変速機において、
前記エンジン側からの入力トルクを所定時間毎にサンプリング演算し、前回のサンプリング演算の際の入力トルクと今回のサンプリング演算の際の入力トルクとの差が所定の値以下であるか否かを判定し、該所定の値以下である判定が所定回数以上連続した場合に、入力トルクが安定状態となったことを判定するエンジン出力状態判定手段動を設け、
前記エンジン出力状態判定手段により、エンジン出力が安定したものと判定された場合に、前記摩擦係合要素の前記アップシフトに伴う係合動作を実行する摩擦係合要素駆動制御手段(21、図7及び図8のステップS1からS22)を設けて構成される。
【0008】
請求項2の発明によれば、エンジン回転数と入力軸回転数の差を検出するパワーオフ判定手段(21、図6のステップST8)を設け、
前記摩擦係合要素駆動制御手段は、前記パワーオフ検出手段が、エンジンが自動変速機側を駆動していないパワーオフ状態であるものと判定した場合に、前記摩擦係合要素のアップシフトに伴う係合動作を実行することを特徴として構成される。
【0009】
請求項3の発明は、入力軸回転数(Nc1)がアップシフトの同期回転数に到達するまでの予想時間を演算する、同期回転到達時間演算手段(21、図6のステップST9)を設け、
前記摩擦係合要素駆動制御手段は、前記同期回転到達時間演算手段により求められた入力軸の変速終了時間に対応させて、前記摩擦係合要素のアップシフトに伴う係合動作を実行することを特徴として構成される。
【0011】
請求項4の発明は、前記アップシフト変速動作がスロットル開度が所定値以下で行われたものであるか否かを判定するオフアップ判定手段(21)を設け、
前記エンジン出力状態判定手段は、前記オフアップ判定手段により、前記アップシフト変速動作がスロットル開度が所定値以下で行われたものであるものと判定された場合に、エンジンの出力状態を判定することを特徴として構成される。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記自動変速機は、変速要素の一方向の回転のみを許容するワンウエイクラッチ(例えば、図1のF2など)を有し、前記スロットル開度が所定値以下で行われたアップシフト変速動作は、前記摩擦係合要素(例えば、図1のブレーキB2)の係合と前記ワンウエイクラッチの係合解除により達成されることを特徴として構成される。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記スロットル開度が所定値以下で行われたアップシフト変速動作は、1速から2速のアップシフトであることを特徴として構成される。
【0014】
請求項7の発明は、請求項4の発明において、前記スロットル開度が所定値以下で行われたアップシフト変速動作は、前記摩擦係合要素の掴み換え(例えば、図1のブレーキB4とB5)により達成されることを特徴として構成される。
【0016】
請求項8の発明は、請求項1の発明において、前記入力トルクは、エンジントルクであることを特徴として構成される。
【0017】
請求項9の発明は、請求項1の発明において、前記入力トルクは、入力軸トルクであることを特徴として構成される。
【0019】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、エンジン出力状態判定手段が、エンジン側からの入力トルクを所定時間毎にサンプリング演算し、前回のサンプリング演算の際の入力トルクと今回のサンプリング演算の際の入力トルクとの差が所定の値以下であるか否かを判定し、該所定の値以下である判定が所定回数以上連続した場合に、入力トルクが安定状態となったことを判断するので、精度の高い判定が可能となるものでありながら、エンジン出力が安定した時点でアップシフト変速動作を行うことにより、常に一定時間待つことなく、エンジンの出力がアップシフトに適した状態になったところで、直ちにアップシフト動作を実行することが出来、迅速なアップシフト動作が可能となる。
【0020】
請求項2の発明によれば、パワーオフ判定手段により、変速機がエンジン側から駆動されていないパワーオフ状態であることを容易に確認することが出来、適切なオフアップ動作が可能となる。
【0021】
請求項3の発明によれば、同期回転到達時間演算手段により、入力軸回転数(Nc1)がアップシフトに適した同期回転に到達するタイミングで係合側の摩擦係合要素を係合させることが出来るので、シフトショックのない係合動作が可能となる。
【0023】
請求項4の発明によれば、オフアップ判定手段によって、アップシフト変速動作がスロットル開度が所定値以下で行われたものであるものと判定された場合にエンジンの出力状態が判定されるので、無駄のないオフアップ制御が可能となる。
【0024】
請求項5の発明によれば、ワンウエイクラッチを介在したオフアップ動作にも的確に対応することが出来る。
【0025】
請求項6の発明によれば、ワンウエイクラッチが使用されることの多い、1速から2速のアップシフトに対応することが出来る。
【0026】
請求項7の発明によれば、摩擦係合要素の掴み換えによるアップシフト動作に対応することが出来る。
【0028】
請求項8の発明によれば、入力トルクの安定をエンジントルクから直接判定することが出来、信頼性が高い。
【0029】
請求項9の発明によれば、入力トルクの安定を、入力軸トルクから判定することが出来、自動変速機内の制御系で制御が可能となり、エンジンの制御系との信号のやりとりを少なくすることが出来、簡易な制御が可能となる。
【0031】
なお、括弧内の番号等は、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。
【0033】
図1は、本発明が適用される自動変速機の一例を示すスケルトン図、図2は図1の自動変速機における摩擦係合要素の作動を示す図、図3は摩擦係合要素の油圧回路の概略を示す図、図4及び図5はアップシフト解放側の制御態様の一例を示すフローチャート、図6乃至図8はアップシフト係合側の制御態様の一例を示すフローチャート、図9はパワーオフアップ時における摩擦係合要素の基本的な駆動状態を示す基本タイムチャートの一例、図10は本発明を適用した場合の、スロットル開度、エンジントルク、エンジン回転数、入力軸回転数、入力軸加速度、摩擦係合要素の駆動状態、出力軸トルクの状態を示すタイムチャート、図11は本発明に係わる電子制御部を示すブロック図である。
【0034】
5速自動変速機1は、図1に示すように、トルクコンバータ4、3速主変速機構2、3速副変速機構5及びディファレンシャル8を備えており、かつこれら各部は互に接合して一体に構成されるケースに収納されている。そして、トルクコンバータ4は、ロックアップクラッチ4aを備えており、エンジンクランクシャフト13から、トルクコンバータ内の油流を介して又はロックアップクラッチによる機械的接続を介して主変速機構2の入力軸3に入力する。そして、一体ケースにはクランクシャフトと整列して配置されている第1軸3(具体的には入力軸)及び該第1軸3と平行に第2軸6(カウンタ紬)及び第3軸(左右車軸)14a,14bが回転自在に支持されており、また該ケースの外側にバルブボディが配設されている。
【0035】
主変速機構2は、シンプルプラネタリギヤ7とダブルピニオンプラネタリギヤ9からなるプラネタリギヤユニット15を有しており、シンプルプラネタリギヤ7はサンギヤSl、リングギヤRl、及びこれらギヤに噛合するピニオンPlを支持したキャリヤCRからなり、またダブルピニオンプラネタリギヤ9は上記サンギヤSlと異なる歯数からなるサンギヤS2、リングギヤR2、並びにサンギヤS2に噛合するピニオンP2及びリングギヤR2に噛合するピニオンP3を前記シンプルプラネタリギヤ7のピニオンPlと共に支持する共通キャリヤCRからなる。
【0036】
そして、エンジンクランクシャフト13からトルクコンバータ4を介して連動している入力軸3は、第1の(フォワード)クラッチClを介してシンプルプラネタリギヤ7のリングギヤRlに連結し得ると共に、第2の(ダイレクト)クラッチC2を介してシンプルプラネタリギヤ7のサンギヤSlに連結し得る。また、ダブルピニオンプラネタリギヤ9のサンギヤS2は、第1のブレーキBlにて直接係止し得ると共に、第1のワンウェイクラッチFlを介して第2のブレーキB2にて係止し得る。更に、ダブルピニオンプラネタリギヤ9のリングギヤR2は、第3のブレーキB3及び第2のワンウェイクラッチF2にて係止し得る。そして、共通キャリヤCRが、主変速機構2の出力部材となるカウンタドライブギヤ18に連結している。
【0037】
一方、副変速機構5は、第2軸を構成するカウンタ軸6の軸線方向リヤ側に向って、出力ギヤ16、第1のシンプルプラネタリギヤ10及び第2のシンプルプラネタリギヤ11が軸線方向に並んで配置されており、またカウンタ軸6はベアリングを介して一体ケースに回転自在に支持されている。前記第1及び第2のシンプルプラネタリギヤ10,11は、シンプソンタイプからなる。
【0038】
また、第1のシンプルプラネタリギヤ10は、そのリングギヤR3が前記カウンタドライブギヤ18に噛合するカウンタドリブンギヤ17に連結しており、そのサンギヤS3がカウンタ軸6に回転自在に支持されているスリーブ軸12に固定されている。そして、ピニオンP3はカウンタ軸6に一体に連結されたフランジからなるキャリヤCR3に支持されており、また該ピニオンP3の他端を支持するキャリヤCR3はUDダイレクトクラッチC3のインナハブに連結している。また、第2のシンプルプラネタリギヤ11は、そのサンギヤS4が前記スリーブ軸12に形成されて前記第1のシンプルプラネタリギヤのサンギヤS3に連結されており、そのリングギヤR4は、カウンタ軸6に連結されている。
【0039】
そして、UDダイレクトクラッチC3は、前記第1のシンプルプラネタリギヤのキャリヤCR3と前記連結されたサンギヤS3,S4との間に介在しており、かつ該連結されたサンギヤS3,S4は、バンドブレーキからなる第4のプレーキB4にて係止し得る。更に、第2のシンプルプラネタリギヤのピニオンP4を支持するキャリヤCR4は、第5のブレーキB5にて係止し得る。
【0040】
ついで、図1及び図2に沿って、本5速自動変速機の機構部分の作用について説明する。
【0041】
D(ドライブ)レンジにおける1速(1ST)状態では、フォワードクラッチClが接続し、かつ第5のブレーキB5及び第2のワンウェイクラッチF2が係止して、ダブルピニオンプラネタリギヤのリングギヤR2及び第2のシンプルプラネタリギヤ11のキャリヤCR4が停止状態に保持される。この状態では、入力軸3の回転は、フォワードクラッチClを介してシンプルプラネタリギヤのリングギヤRlに伝達され、かつダブルピニオンプラネタリギヤのリングギヤR2は停止状態にあるので、両サンギヤSl、S2を逆方向に空転させながら共通キャリヤCRが正方向に大幅減速回転される。即ち、主変速機構2は、1速状態にあり、該減速回転がカウンタギヤ18,17を介して副変速機構5における第1のシンプルプラネタリギヤのリングギヤR3に伝達される。該副変速機構5は、第5のブレーキB5により第2のシンプルプラネタリギヤのキャリヤCR4が停止され、1速状態にあり、前記主変速機構2の減速回転は、該副変速機構5により更に減速されて、出力ギヤ16から出力する。
【0042】
2速(2ND)状態では、フォワードクラッチClに加えて、第2のブレーキB2(及び第1のブレーキBl)が作動し、更に、第2のワンウェイクラッチF2から第1のワンウェイクラッチFlに作動が切換わり、かつ第5のブレーキB5が係止状態に維持されている。この状態では、サンギヤS2が第2のブレーキB2及び第1のワンウェイクラッチFlにより停止され、従って入力軸3からフォワードクラッチClを介して伝達されたシンプルプラネタリギヤのリングギヤRlの回転は、ダブルピニオンプラネタリギヤのリングギヤR2を正方向に空転させながらキャリヤCRを正方向に減速回転する。更に、該減速回転は、カウンタギヤ18,17を介して副変速機構5に伝達される。即ち、主変速機構2は2速状態となり、副変速機構5は、第5のブレーキB5の係合により1速状態にあり、この2速状態と1速状態が組合されて、自動変速機1全体で2速が得られる。なおこの際、第1のブレーキBlも作動状態となるが、コーストダウンにより2速になる場合、該第1のブレーキBlは解放される。
【0043】
3速(3RD)状態では、フォワードクラッチCl、第2のブレーキB2及び第1のワンウェイクラッチFl並びに第1のブレーキBlはそのまま係合状態に保持され、第5のブレーキB5の係止が解放されると共に第4のブレーキB4が係合する。即ち、主変速機構2はそのままの状態が保持されて、上述した2速時の回転がカウンタギヤ18,17を介して副変速機構5に伝えられ、そして副変速機構5では、第1のシンプルプラネタリギヤのリングギヤR3からの回転がそのサンギヤS3及びサンギヤS4の固定により2速回転としてキャリヤCR3から出力し、従って主変速機構2の2速と副変速機構5の2速で、自動変速機1全体で3速が得られる。
【0044】
4速(4TH)状態では、主変速機構2は、フォワードクラッチCl、第2のブレーキB2及び第1のワンウェイクラッチFl並びに第1のブレーキBlが係合した上述2速及び3速状態と同じであり、副変速機構5は、第4のブレーキB4を解放すると共にUDダイレクトクラッチC3が係合する。この状態では、第1のシンプルプラネタリギヤのキャリヤCR3とサンギヤS3,S4が連結して、プラネクリギヤ10,11が一体回転する直結回転となる。従って、主変速機構2の2速と副変速機構5の直結(3速)が組合されて、自動変速機全体で、4速回転が出力ギヤ16から出力する。
【0045】
5速(5TH)状態では、フォワードクラッチCl及びダイレクトクラッチC2が係合して、入力軸3の回転がシンプルプラネタリギヤのリングギヤRl及びサンギヤSlに共に伝達されて、主変速機構2は、ギヤユニットが一体回転する直結回転となる。この際、第1のブレーキBlが解放されかつ第2のブレーキB2は係合状態に保持されるが第1のワンウェイクラッチFlが空転することにより、サンギヤS2は空転する。また、副変速機構5は、UDダイレクトクラッチC3が係合した直結回転となっており、従って主変速機構2の3速(直結)と副変速機構5の3速(直結)が組合されて、自動変速機全体で、5速回転が出力ギヤ16から出力する。
【0046】
更に、本自動変速機は、加速等のダウンシフト時に作動する中間変速段、即ち3速ロー及び4速ローがある。
【0047】
3速ロー状態は、フォワードクラッチCl及びダイレクトクラッチC2が接続し(第2ブレーキB2が係合状態にあるがワンウェイクラッチFlによりオーバランする)、主変速機構2はプラネタリギヤユニット15を直結した3速状態にある。一方、第5のブレーキB5が係止して副変速機構5は1速状態にあり、従って主変速機構2の3速状態と副変速機構5の1速状態が組合されて、自動変速機1全体で、前述した2速と3速との問のギヤ比となる変速段が得られる。
【0048】
4速ロー状態は、フォワードクラッチCl及びダイレクトクラッチC2が接続して、主変速機構2は、上記3速ロー状態と同様に3速(直結)状態にある。一方、副変速機構5は、第4のブレーキB4が係合して、第1のシンプルプラネタリギヤ10のサンギヤS3及び第2のシンプルプラネタリギヤ11のサンギヤS4が固定され、2速状態にある。従って、主変速機構2の3速状態と副変速機構5の2速状態が組合されて、自動変速機1全体で、前述した3速と4速との間のギヤ比となる変速段が得られる。
【0049】
なお、図2において点線の丸印は、コースト時エンジンブレーキの作動状態を示す。即ち、1速時、第3のブレーキB3が作動して第2のワンウェイクラッチF2のオーバランによるリングギヤR2の回転を阻止する。また、2速時、3速時及び4速時、第1のブレーキB1が作動して第1のワンウェイクラッチFlのオーバランによるサンギヤSlの回転を阻止する。
【0050】
また、R(リバース)レンジにあっては、ダイレクトクラッチC2及び第3のブレーキB3が係合すると共に、第5のブレーキB5が係合する。この状態では、入力軸3の回転はダイレクトクラッチC2を介してサンギヤSlに伝達され、かつ第3のブレーキB3によりダブルピニオンプラネタリギヤのリングギヤR2が停止状態にあるので、シンプルプラネタリギヤのリングギヤRlを逆転方向に空転させながらキャリヤCRも逆転し、該逆転が、カウンタギヤ18,17を介して副変速機構5に伝達される。副変速機構5は、第5のブレーキB5に基づき第2のシンプルプラネクリギヤのキャリヤCR4が逆回転方向にも停止され、1速状態に保持される。従って、主変速機構2の逆転と副変速機構5の1速回転が組合されて、出力軸16から逆転減速回転が出力する。
【0051】
図11は、電気制御系を示すブロック図であり、21は、マイクロコンピュータ(マイコン)からなる制御部(ECU)で、エンジン回転センサ22、ドライバのアクセルペダル踏み量を検出するスロットル開度センサ23、トランスミッション(自動変速機構)の入力軸回転数(=タービン回転数)を検出するセンサ25、車速(=自動変速機出力軸回転数)センサ26及びシフトセンサ27からの各信号が入力しており、また油圧回路のリニアソレノイドバルブSLS及びSLUに出力している。前記制御部21は、変速制御部21eを構成する解放側油圧を制御する解放側制御手段21aと、係合側油圧を制御する係合側制御手段21bとを有し、更に、変速状態判断手段21cとを備えている。
【0052】
図3は、油圧回路の概略を示す図であり、前記2個のリニアソレノイドバルブSLS及びSLUを有すると共に、自動変速機構のプラネタリギヤユニットの伝達経路を切換えて、例えば前進5速、後進1速の変速段を達成する複数の摩擦係合要素(クラッチ及びブレーキ)を断接作動する複数の油圧サーボ29、30を有している。また、前記リニアソレノイドバルブSLS及びSLUの入力ポートal,a2にはソレノイドモジュレータ圧が供給されており、これらリニアソレノイドバルブの出力ポートbl・b2からの制御油圧がそれぞれプレッシャコントロールバルブ31,32の制御油室31a,32aに供給されている。プレッシャコントロールバルブ31,32は、ライン圧がそれぞれ入力ポート31b,32bに供給されており、前記制御油圧にて調圧された出力ポート31c,32cからの調圧油圧が、それぞれシフトバルブ33,35を介して適宜各油圧サーボ29,30に供給される。
【0053】
なお、本油圧回路は、一方の摩擦係合要素を解放すると共に他方の摩擦係合要素を係合する、いわゆるクラッチツークラッチによる変速に係る基本概念を示すものであり、各油圧サーボ29,30及びシフトバルブ33,35は、象徴的に示すものであって、実際には、自動変速機構に対応して油圧サーボは多数備えられているが、具体的には、3→2変速に際して第4のブレーキB4用油圧サーボ及び第5のブレーキB5用油圧サーボ、4→3変速に際しての第3のクラッチC3用油圧サーボ及び第4のブレーキB4用油圧サーボであり、また、これら油圧サーボヘの油圧を切換えるシフトバルブも多数備えている。また、油圧サーボ30に示すように油圧サーボは、シリンダ36にオイルシール37により油密状に嵌合するピストン39を有しており、該ピストン39は、油圧室40に作用するプレッシャコントロールバルブ32からの調圧油圧に基づき、戻しスプリング41に抗して移動し、外側摩擦プレート42及び内側摩擦材43を接触する。該摩擦プレート及び摩擦材は、クラッチで示してあるが、ブレーキにも同様に対応することは勿論である。
【0054】
ドライバのアクセルペダル操作に基づくスロットル開度センサ23及び車速センサ26からの信号により、制御部21内の変速マップに基づき変速判断、例えば、2→3変速のアップシフト判断がなされる。そして、所定シフトバルブの操作等の前処理のための所定時間経過後、係合油圧PA及び解放油圧PBの変速制御が開始される。
【0055】
この際の、係合側の摩擦係合要素の制御を図6乃至図10に基づいて説明する。制御部21は、スロットル開度センサ23の信号から、スロットル開度が低下して上記アップシフト判断がオフアップであることが判断されると(図10の時点T2)、図6乃至図8に示すフローチャートに従って、係合側の摩擦係合要素を制御する。なお、オフアップとは、スロットル開度が所定値以下でのアップシフト変速、つまり解放側となる摩擦係合要素制御を解放して行くことで、変速(回転変化)が生じる変速のことをいう。
【0056】
即ち、図6に示す、ステップST1で、制御手段21は変速状態判断手段21cを介して、一定の時間間隔、例えば10mms毎に、図10に示すように、エンジントルクをサンプリング演算して、前回のサンプリング演算の際のエンジントルクTe[i−1]と今回のサンプリング演算の際のエンジントルクTe[i]を比較し、両者の差が所定の値、例えば5Nm以下となっているか否かを判定する。エンジントルクは、スロットル開度センサ23及びエンジン回転数センサ22から得られるスロットル開度とエンジン回転数に基づきマップにより線形補間して求める。
【0057】
ステップST1で、前回のサンプリング演算の際のエンジントルクTe[i−1]と今回のサンプリング演算の際のエンジントルクTe[i]の差が所定の値以下となっていた場合には、ステップST2に入り、安定化フラグをカウントアップし、なっていない場合には、ステップST3に入り、安定化フラグを0にセットする。
【0058】
ステップST3で安定化フラグが0とセットされた場合には、現在状態では、エンジントルクの変動が大きいものと判断して、ステップST4でエンジントルクが不安低出力状態にあるものと判断する。
【0059】
ステップST4でエンジントルクが不安定出力状態にあるものと判断された場合には、ステップST5に入り、スロットル開度センサ23により検出されるスロットル開度が25%以上となっているか否かを判定し、スロットル開度が25%以上となっている場合には、エンジンはそれまでのスロットルが戻されたパワーオフ状態から、パワーオン状態に変化したものと判断し、直ちに、後述するステップS1からのサーボ起動制御に入り、摩擦係合要素による係合動作を開始して、サーボ起動制御に入る。
【0060】
ステップS5で、スロットル開度センサ23により検出されるスロットル開度が25%以上となっていない場合には、ステップST1に戻り、再度、エンジントルクをサンプリング演算し、今回のサンプリング演算値と前回のサンプリング演算値との差を求めて、ステップST2を経由して安定化フラグをカウントアップし、ステップST6で、安定化フラグが6以上となっているか否かを判定する。
【0061】
ステップST6で、安定化フラグが6以上となっていない場合には、ステップST4に戻り、安定化フラグが6以上となっている場合には、エンジントルクが6回以上連続してサンプリング演算値の変動が5Nm以下の安定した状態となっているものと判断して、ステップST7及び図10の時点T1で、エンジントルクが安定出力状態となったものと判断する。以上、ステップST1から7が、オフアップに際した、エンジントルクの不安定時の係合側摩擦係合要素のディレイ制御である。即ち、アップシフト判断が出された時点T2からエンジントルクが安定する時点T1まで、係合側摩擦係合要素の係合動作を行わず、シフトショックの発生を防止するものである。
【0062】
次に、ステップST8で、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nc1との差が50rpm以上で有るか否かを判定し、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nc1との差が50rpm以上有る場合には、エンジン回転数Neが入力軸回転数Nc1を上回るパワーオン状態に変化したものと判定して、直ちに、後述するステップS1からのサーボ起動制御に入り、摩擦係合要素による係合動作を開始して、サーボ起動制御に入る。
【0063】
ステップST8で、エンジン回転数Neと入力軸回転数Nc1との差が50rpm以下の場合には、パワーオフ状態が継続しているものと判断し、ステップST9に入る。ステップST9では、現時点の入力軸回転数Nc1の低下状態から判断される、入力軸回転数Nc1がアップシフト段への同期回転数に達するまでに要する予想変速終了時間を演算し、係合側の摩擦係合要素のサーボ起動制御に要するサーボ起動時間tSEと前述の予想変速終了時間を比較し、サーボ起動時間tseが予想変速終了時間よりも短い場合には、摩擦係合要素のサーボ起動を行ったとしても、サーボ起動制御が完了した時点で入力軸回転数Nc1が未だ同期回転状態になっておらず、このまま摩擦係合要素を係合した場合には、出力トルクの上昇を招き、シフトショックを生じる危険性があるので、ステップST5を経由して、ステップST1に戻り、前述の制御を繰り返す。
【0064】
また、ステップST9で、サーボ起動時間tseが予想変速終了時間よりも長い場合には、摩擦係合要素のサーボ起動制御が完了した時点で、入力軸回転数Nc1がシフトショックの生じないアップシフト段の同期状態になっているものと判断して、直ちにステップS1以下のサーボ起動制御に入り、摩擦係合要素による係合動作を開始して、図7以下のサーボ起動制御に入る。以上、ステップST8からステップST9が、係合側摩擦係合要素の係合開始判断制御である。
【0065】
以上のステップST1からステップST9が、オフアップ時の不安定時ディレイ制御と係合開始判断制御の概要である。以後、係合側摩擦係合要素の制御は係合側制御手段21bを介して、図7及び図8のステップS1からステップS22まで実行されるが、これらの制御は、オフアップ時に限らず通常のアップシフト時でも同様な制御が行われる。従って、ステップST1からステップS22までの説明は、通常のアップシフトも含めた形で行なう。なお、オフアップに関して特有の事情については、必要がある度に説明する。
【0066】
係合側制御手段21bは、図7のステップS1で計時が開始され、そして係合側の油圧サーボへの油圧(係合油圧)PAが所定圧になるように所定信号圧PS1をリニアソレノイドバルブSLS(又はSLU)に出力する(S2)。該所定圧(限界圧)PS1は、油圧サーボの油圧室20を満たすために必要な油圧に設定されており、図9に示すように、所定時間tSA保持される。該所定時間tSAが経過すると(S3)、係合油圧PAは、所定勾配[(PS1−PS2)/tSB]でスイープダウンし(S4)、係合油圧PAが所定低圧PS2になると(S5)、該スイープダウンが停止され、該所定低圧PS2に保持・待機される(S6)。該所定低圧PS2は、ピストンストローク圧以上でかつ入力軸の回転変化を生じさせない圧に設定されており、該所定低圧PS2は、計時tが所定時間tSE経過するまで保持される(S7)。上記ステップS2〜S7が、サーボ起動制御となり、係合側油圧ピストンをガダ詰めストロークして、引続く係合側摩擦係合要素の分担トルク及び回転速度が変化する実際のアップシフト変速に備える。
【0067】
ついで、入力トルクTtから係合側の分担トルクTA が算出される(S8)。なお、入力トルクTt (=タービントルク)は、車輌走行状況に基づき、マップによりスロットル開度とエンジン回転数に基づき線形補間してエンジントルクを求め、ついでトルクコンバータの入出力回転数から速度比を計算し、該速度比によるマップによりトルク比を求め、そして前記エンジントルクに上記トルク比を乗じて求められる。そして、該入力トルクTtからトルク分担率aにより係合側分担トルクTA が算出される。更に、該係合側分担トルクTA に応じて変化する所定関数[PTA=fTA(TA)]に基づき、入力回転数Nc1 の回転変化が開始する直前(イナーシャ相の開始直前、ただし、入力軸回転数Nc1が既に同期回転にまで下がった状態でのオフアップでは、入力軸回転数Nc1の変化はほとんど無い)の係合目標油圧PTAを算定する(S9)。該イナーシャ相開始時直前の係合側油圧PTAは、BAをピストンストローク圧(=スプリング荷重)、AA を摩擦板有効半径×ピストン面積×摩擦板枚数×摩擦係数、dPTAを油圧の遅れ分の油圧量とすると、PTA=(TA /AA )+BA +dPTAにて該目標油圧PTAが算出される。なお、上記目標油圧PTAは、パワーオン状態にあっては上述したように入力トルクTtに基づき算出されるが、パワーオフ状態等にあって、該目標係合油圧PTAが予め設定された所定油圧(POFFSET)より低い場合、該所定油圧に設定され、変速を確実に進行する。
【0068】
更に、該目標係合油圧PTAは、マップ値及び学習値により算出されるタイアップ(余裕)率S11,S21により補正される(S10)。即ち、タイアップ率S11は、油温の相違により多数のスロットル開度・車速マップにて設定され、更に不要なエンジンの吹き量を監視することにより、予め該タイアップ率が修正される。
【0069】
そして、該入力トルクTt に応じて算定されたイナーシャ相開始時直前の係合油圧PTA(POFFSET)に基づき、予め設定された所定時間tTAにより所定勾配が算定され[(PTA−PS2)/tTA]、該勾配に基づき係合側油圧がスイープアップする(S11)。該比較的急な勾配からなる第1のスイープアップにより、係合トルクが増加し、入力回転数変化が開始する直前の状態、即ち前記算出された所定目標係合油圧PTA(POFFSET)まで油圧が上昇する(S12)。なお、パワーオフ状態では、上記所定油圧POFFSETを目標係合油圧として、所定勾配[POFFSET−PS2/tTA]によりスイープアップする。
【0070】
そして、上記目標係合油圧PTA(又はPOFFSET)に達すると、即ち入力軸回転数の回転変化が開始されるイナーシャ相に入ったと予測される時点で、前記油圧の変化δPTAが、入力軸回転数Nc1 の回転変化開始時における目標とする目標回転変化率(角加速度dωs/dt;ωaと表記)に応じた関数[δPTA=fδPTA (ωa)]により算出される(S13)。油圧変化δPTA=[I・ωa]/[k・taim ]にて算定される。そして、該第2のスイープアップは、回転変化開始時の入力軸回転数NTSからの回転変化分ΔNが所定変速開始判定回転数NS に達するまで続けられる(S15)。上記ステップS8〜S14が、トルク相制御となり、この状態は、係合側クラッチが担持するトルクが増大すると共に、解放側クラッチの担持トルクが減少し、ギヤ比はアップシフト前(2速)の状態にあってトルク分担だけが変化する。
【0071】
また、パワーオフ状態にあっては、入力トルクが負状態にあって、解放側油圧の解放制御により入力回転数が既に変化しており、ステップS13,S14は、ステップS15が既に達成されているため、単に通過するだけで実際上機能しない。更に、後述するステップS16も、既に入力回転数Nc1の変化が高速段(例えば3速)に向けて進行しており、ステップS17にて単に通過するだけで実際上機能しない。
【0072】
なお、上記入力軸回転数Nc1の回転変化開始とは、イナーシャ相に入ったこと、即ちギヤ比に基づく変速(2→3変速)が開始され、出力軸の回転数に対する該ギヤ比に係る入力軸回転数の変化が開始された状態であって、前記入力回転数センサ5及び車速センサ6から算出される。なお、入力軸回転変化開始の検出は、上述したギヤ比に基づく回転変化(イナーシャ相開始)に限らず、トルク相にあっても、上述したトルク分担の変化に伴う入力軸の回転変化が僅かであるが開始されるので、該トルク相における回転変化を検出してもよい。
【0073】
ついで、係合側油圧変化δPI が、入力軸回転数センサ25の検出に基づく回転数の変化量(回転加速度)ΔNにてフィードバック制御されて設定され、該δPI の勾配によりスイープアップされる(S16)。該δPI によるスイープアップは、変速完了までの回転変化量ΔNのa1[%]、例えば70[%]まで続けられる(S17)。即ち、NTSを変速開始時の入力軸回転数、ΔNを回転変化量、gi を変速前ギヤ比、gi+1 を変速後ギヤ比とすると、[(ΔN×100)/NTS(gi+1−gi)]がa1[%]になるまで続けられる。上記ステップ16〜17のフィードバック制御がイナーシャ相制御となり、係合側摩擦係合要素のトルク容量がエンジントルクを上回り、該係合側トルク容量で決まる入力トルクと実際のエンジントルクの差が、エンジン回転系に対する余分の負荷となって、エンジン回転速度が下り始める。既に述べたように、オフアップ時には、スロットルが戻されることにより、既にエンジン回転数が図10に示すように高速段側への同期回転数へ向けて下がってきているので、ステップS16からステップS17のイナシャー制御は実質的には行われない。
【0074】
更に、上記回転変化量のa1[%]を越えると、滑らかな入力軸回転数変化量ΔNに基づくフィードバック制御により異なる油圧変化δPL が設定され、該δPL の勾配によりスイープアップされる(S18)。該δPL は、一般にδPI より僅かにゆるい勾配となり、該スイープアップは、変速完了近傍までの回転数変化量のa2[%]、例えば90[%]まで続けられる(S19)。上記δPI 及びδPL によるスイープアップ目標変速時間は、油温による異なる複数のスロットル開度・車速マップが選択され、該マップに基づき設定される。
【0075】
そして、該目標変速時間が経過すると、該計時時間tF が設定され(S20)、この状態はイナーシャ相が終了した状態と略々対応している。更に、比較的急な油圧変化δPF が設定されて、該油圧変化により油圧が急激にスイープアップし(S21)、そして前記計時時間tF から、係合圧まで上昇するに充分な時間に設定されている所定時間tFEが経過した状態で(S22)、係合側の油圧制御が完了する。
【0076】
ついで、図4及び図5に沿って、上述したアップシフト変速における、解放側制御手段21aによる、解放側油圧PBの制御について説明する。
【0077】
まず、制御部21からの変速指令(アップシフト判断)により、図4のステップST10で、変速状態判断手段21c中のエンジン吹きを示す「吹きフラグ」がOFFに初期化され、ステップST11からステップST14で、係合側のステップST1からステップST7と同様の不安定時ディレイ制御が行われる。
【0078】
しかし、解放側の場合には、ステップS16で安定化フラグが6回以上で、エンジントルクが安定出力状態にあるものと判断された場合の他に、ステップST15で安定フラグが5回以下の場合や、ステップST11でエンジントルクの変動が所定値以下になっておらず、ステップST14でエンジントルクが不安定出力状態にあるものと判断された場合でも、ステップST17に入り、待機制御が開始される。
【0079】
ステップST17では、変速状態判断手段21cは入力軸回転数inRpmから出力軸回転数にギヤ比を掛けたものを引いた絶対値から、現在エンジン吹きが生じているか否かを判断する。|InRpm_flare|が50rpm以上の場合には、入力軸回転数が出力軸回転数の差がかなりあり、エンジン吹きが発生しているものと判断して、ステップST18で吹きフラグを「ON」状態にする。
【0080】
次に、ステップST19で、InRpm_flareが50rpm以上あるか否かを再度判定し、上記絶対値を50rpm以上上回らない場合には、ステップST20に入る。変速指令(アップシフト判断)時、解放油圧PBは、係合圧からなる高い油圧が供給されているが、入力トルクTtに基づき解放側入力トルクTB が算出される。この状態では、アップシフト変速前の低速段(例えば2速)にあって、自動変速機の入力トルクは、略々全て解放側摩擦係合要素に作用しており、該低速段のギヤ比に基づき該解放側摩擦係合要素に作用する解放側入力トルクTB が算出される。
【0081】
そして、該解放側入力トルクTB に基づき、解放側の待機油圧Pwに解放側油圧PBが設定される(ST21)。更に、前記待機油圧Pwは、ステップST22及びステップS23に示すように、エンジン吹き量にて補正される。該エンジン吹きは、ステップST22の吹きフラグがON状態の場合であり、この場合、ステップST23に入り、図5の補正マップMPが示すように補正油圧量Pgainが設定され、待機油圧Pwは、該補正油圧量Pgainだけ少ない油圧に設定される。これにより、エンジン吹き状態で、エンジントルクが正の場合に、解放の待機油圧が高すぎてトルクの引き込みによるショックが発生することを防止している。
【0082】
なお、ステップST22でエンジン吹きフラグが「OFF」の場合には(通常は「OFF」)、エンジン吹きが生じていないので、ステップST24に入り、解放側油圧PBをガード圧PGに設定する。
【0083】
また、ステップST19で、InRpm_flareが50rpm以上、即ち、入力軸回転数が出力軸回転数を50rpm以上上回ったエンジン吹き状態と判定された場合には、ステップST25に入り、待機圧Pwとして、現在の油圧PBにエンジン吹き状態に応じた所定の補正圧ΔP1を足した圧と所定のガード圧PGの内、大きい方の圧を採用して、解放側油圧とする。これにより、エンジン吹きにより解放側油圧が不足してスリップなどが生じることが防止される。
【0084】
次に、オフアップの場合には、既に述べたように、エンジントルクが安定した状態となるまで係合側摩擦係合要素が係合されないので、待機圧Pwに保持された解放側の摩擦係合要素の油圧をその間、適正に制御する必要がある。
【0085】
即ち、オフアップにより、スロットルが戻されることにより、エンジントルクが所定時間後には負となり、ステップST20及びステップST21で演算される待機圧Pwも徐々に低下して行くこととなるが、待機圧Pwには、当該待機圧Pwが低下しすぎて、再度スロットルが踏み込まされた際に、現在解放側となっている摩擦係合要素の再係合動作に時間が掛からないように、所定のガード圧PGを解放側油圧Pbとして設定する。このガード圧PGでは、解放側摩擦係合要素は僅かに係合しており、エンジントルクが負の場合には入力軸は出力軸側から駆動されるので、過度に入力軸回転数が低下してしまうような事態は防止される。なお、ガード圧PGは、摩擦係合要素の組立誤差や油圧の調圧誤差などにより生じる作動誤差分を補償し、更にトルク容量を生じさせる油圧にその値が設定されているので、ガード圧PGで摩擦係合要素を保持することにより、出力軸と入力軸の間の連繋は維持される。
【0086】
ステップST24で、解放側摩擦係合要素がトルク容量を生じて入力軸回転数の過度の低下が防止されたところで、図5のステップST26に入り、現在の入力軸の回転加速度ΔNと、エンジントルクTeとエンジンイナーシャIeで割った値である、推定される入力軸の回転加速度(理論値)を比較し、実際の回転加速度ΔN(負値)が理論値(負値)よりも大きい場合(0に近い)には、入力軸回転数減速度がエンジントルクから求められる減速度よりも低く、ゆっくりと減速している(減速の程度が遅い)ものと判定されるので、ステップST27に入る。ステップST27では、図10の入力軸回転数Nc1とエンジン回転数Neを比較して、入力軸回転数Nc1がエンジン回転数Neよりも高い場合には、エンジンが出力軸側から駆動されるパワーオフ状態を維持しているので、ステップST28で、解放側油圧Pbをガード圧PGから所定の補正圧ΔP2だけ引いた値に設定し、当該補正された解放側油圧Pbで摩擦係合要素を駆動し、出力軸側からそれ以上入力軸が駆動され、入力軸回転数Nc1が上昇することを防止し、入力軸回転数の回転加速度ΔNが推定される回転加速度(理論値)に一致する方向に変化するように制御する。
【0087】
即ち、ステップST28で設定される解放側油圧Pbである解放保証圧(ガード圧PG−ΔP2)は、摩擦係合要素の組立誤差や油圧の調圧誤差などにより生じる作動誤差分を補償し、更にトルク容量を生じさせない油圧にその値が設定されているので、解放保証圧(ガード圧PG−ΔP2)で摩擦係合要素を保持することにより、入力軸は出力軸側から駆動されることはない。
【0088】
こうして、解放側油圧PBが所定時間、解放保証圧Pbで保持されたところで、ステップST29に入り、解放側油圧PBは、前述の待機圧PWまたはステップST24又はステップST28の油圧Pbのどちらか大きな値で維持される。
【0089】
なお、ステップST26で、実際の回転加速度ΔN(負値)が理論値(負値)よりも小さい場合には、入力軸回転数減速度がエンジントルクから求められる減速度よりも大きく、急激に減速しているものと判定されるので、ステップS29を実行して、解放側摩擦係合要素を係合させて入力軸を出力軸側から駆動して入力軸回転数の過度の低下を防止する。この制御は、ステップST27で、入力軸回転数Nc1がエンジン回転数Neよりも低い場合、エンジンが入力軸を駆動している状態となった場合にも、同様に行い、エンジンがパワーON状態となってエンジン吹きが生じないように維持する。
【0090】
このステップST11からステップST29までの工程を、係合側のサーボ起動制御が完了する時間TSEまで繰り返すことにより、図10に示すように、解放側摩擦係合要素が、解放保証圧(ガード圧PG−ΔP2)とガード圧PGとの間で間欠的に駆動される形となり、そしてガード圧PGが解放側摩擦係合要素に供給される度に入力軸は出力軸側から駆動される形となり、入力軸の回転が過度に低下してしまうことは未然に防止され、オフアップ中に、再度スロットルが踏み込まれても直ちに、それまで解放側であった摩擦係合要素を迅速に再係合させてダウンシフト動作を行うことが出来る。
【0091】
上記ステップST17〜ST30が待機制御となる。ついで、係合油圧PA及び入力トルクTtの関数[TB =fTB(PA,Tt)]により解放側トルクTB が算定され(S36)、更に余裕率S1D,S2Dが考慮されて(TB =S1D×TB +S2D)、解放側トルクTB が算出される(S37)。そして、該解放側トルクTB から解放側油圧PBが算出される[PB=fPB(TB )](S38)。即ち、まず、係合側摩擦係合要素が分担するトルクTA が[TA =AA ×(PA −BA )]にて算出され(AA ;有効半径×ピストン面積×枚数×摩擦係数、BA ;ピストンストローク圧)、更にこれにより、解放側摩擦係合要素が分担するトルクTB が、[TB =(1/b)TT −(a/b)TA ]にて算出される。なお、ここで、bは解放側のトルク分担、aは係合側のトルク分担、TT は入力軸トルクである。そして、余裕率(タイアップ度合)S1D,S2Dにより、係合側摩擦係合要素とのタイアップ度合を、ドライブフィーリングを考慮して設定し、解放側トルクTB が[TB =S1D×TB +S2D]にて算出される。上記余裕率S1D,S2Dは、油温の相違により選択される多数のスロットル開度・車速マップにて、ドライバーのフィーリングに合うように任意に設定されるものである。更に、該余裕率を考慮した解放側トルクTB から、解放側油圧PBが、[PB =(TB /AB )+BB ]にて算定される(AB ;解放側摩擦係合要素の有効半径×ピストン面積×枚数×摩擦係数,BB ;解放側ピストンストローク圧)。なお、上記解放側トルクTB の算出に際して、入力トルクは絶対値|Tt|が用いられ、解放側油圧は常に正となる。
【0092】
上記ステップS36〜S38が、初期制御となる。ついで、解放油圧の変化δPE が設定され、該油圧変化による勾配でスイープダウンし(S40)、該スイープダウンは、解放側油圧PBが0になるまで続き(S41)、これにより、解放側の油圧制御が完了する。上記ステップS40が、解放制御となる。
【0093】
なお、上述の実施例は、係合側の摩擦係合要素の係合を、図6のステップST9で判断するように、係合側の摩擦係合要素のサーボ起動制御に要するサーボ起動時間tSEと入力軸回転数Nc1の低下による予想変速終了時間を比較し、サーボ起動時間tseが予想変速終了時間よりも短い(早い)場合には、サーボ起動を行わずに入力軸回転数Nc1が同期回転数まで低下するのを待つ場合について述べたが、本発明は、オフアップ時のエンジントルクの変動を監視して、当該変動が所定値以内に収まった状態で、係合側摩擦係合要素を係合させる限り、必ずしも、入力軸回転数Nc1がアップシフトの同期回転数に達するまで待つ必要はなく、図10のトルク安定判断がなされた時点T1(図6のステップST7が判断された時点)で、直ちに係合側摩擦係合要素を係合させてもよい。
【0094】
更に、上述の実施例は、オフアップが、例えば図2の2−3変速時などの摩擦係合要素の掴み換えにより行われる場合について述べたが、本発明は、ワンウエイクラッチが介在した、例えば図2の1−2変速時のオフアップ時においても適用することが出来る。この場合、解放側摩擦係合要素はワンウエイクラッチにて代用されるので、図4から図5に示した解放側摩擦係合要素における解放側の制御は行われない。
【0095】
また、本発明は、オフアップが、図10に示すように、スロットル開度が一度に0に戻された場合(A)に限らず、図中破線(B)で示すように、多少ゆっくりと戻されてアップシフト判断の時点でスロットル開度が0でない場合でも、エンジントルク等の入力トルクの安定度を判断することにより、同様の制御が可能である。
【0096】
更に、本発明は、エンジン出力の安定状態の判定をエンジントルクの安定度を判断することにより行っているが、エンジン出力の安定状態の判定は、エンジントルクに限らず、自動変速機の入力軸にトルクコンバータ4を介して伝達される入力軸トルクの安定度を判断することにより行ってもよい。更に、安定状態の判定は、上記した入力トルクに限らず、入力軸加速度の理論値(エンジントルクTe/エンジンイナーシャIe)などからも判定可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明が適用される自動変速機の一例を示すスケルトン図。
【図2】図2は図1の自動変速機における摩擦係合要素の作動を示す図。
【図3】図3は摩擦係合要素の油圧回路の概略を示す図。
【図4】アップシフト解放側の制御態様の一例を示すフローチャート(部分)。
【図5】アップシフト解放側の制御態様の一例を示すフローチャート(部分)。
【図6】アップシフト係合側の制御態様の一例を示すフローチャート(部分)。
【図7】アップシフト係合側の制御態様の一例を示すフローチャート(部分)。
【図8】アップシフト係合側の制御態様の一例を示すフローチャート(部分)。
【図9】パワーオフアップ時における摩擦係合要素の基本的な駆動状態を示す基本タイムチャートの一例。
【図10】本発明を適用した場合の、スロットル開度、エンジントルク、エンジン回転数、入力軸回転数、入力軸加速度、摩擦係合要素の駆動状態、出力軸トルクの状態を示すタイムチャート。
【図11】本発明に係わる電子制御部を示すブロック図である。
【符号の説明】
1……自動変速機
3……入力軸
14a、14b……出力軸
21……制御部
Claims (9)
- エンジンからの回転が入力される入力軸、車軸に接続される出力軸、前記入力軸と出力軸との間に配置された複数の変速要素、それら複数の変速要素を係止、係止解除自在に設けられた複数の摩擦係合要素を有し、それら摩擦係合要素を操作することにより、アップシフト変速動作を行うことが出来る自動変速機において、
前記エンジン側からの入力トルクを所定時間毎にサンプリング演算し、前回のサンプリング演算の際の入力トルクと今回のサンプリング演算の際の入力トルクとの差が所定の値以下であるか否かを判定し、該所定の値以下である判定が所定回数以上連続した場合に、入力トルクが安定状態となったことを判定するエンジン出力状態判定手段を設け、
前記エンジン出力状態判定手段により、エンジン出力が安定したものと判定された場合に、前記摩擦係合要素の前記アップシフトに伴う係合動作を実行する摩擦係合要素駆動制御手段を設けて構成した、自動変速機の制御装置。 - エンジン回転数と入力軸回転数の差を検出するパワーオフ判定手段を設け、
前記摩擦係合要素駆動制御手段は、前記パワーオフ検出手段が、エンジンが自動変速機側を駆動していないパワーオフ状態であるものと判定した場合に、前記摩擦係合要素のアップシフトに伴う係合動作を実行することを特徴とする、請求項1記載の、自動変速機の制御装置。 - 入力軸回転数がアップシフトの同期回転数に到達するまでの予想時間を演算する、同期回転到達時間演算手段を設け、
前記摩擦係合要素駆動制御手段は、前記同期回転到達時間演算手段により求められた入力軸の変速終了時間に対応させて、前記摩擦係合要素のアップシフトに伴う係合動作を実行することを特徴とする、請求項1記載の、自動変速機の制御装置。 - 前記アップシフト変速動作がスロットル開度が所定値以下で行われたものであるか否かを判定するオフアップ判定手段を設け、
前記エンジン出力状態判定手段は、前記オフアップ判定手段により、前記アップシフト変速動作がスロットル開度が所定値以下で行われたものであるものと判定された場合に、エンジンの出力状態を判定することを特徴とする、請求項1記載の、自動変速機の制御装置。 - 前記自動変速機は、変速要素の一方向の回転のみを許容するワンウエイクラッチを有し、前記スロットル開度が所定値以下で行われたアップシフト変速動作は、前記摩擦係合要素の係合と前記ワンウエイクラッチの係合解除により達成されることを特徴とする、請求項4記載の、自動変速機の制御装置。
- 前記スロットル開度が所定値以下で行われたアップシフト変速動作は、1速から2速のアップシフトであることを特徴とする、請求項5記載の、自動変速機の制御装置。
- 前記スロットル開度が所定値以下で行われたアップシフト変速動作は、前記摩擦係合要素の掴み換えにより達成されることを特徴とする、請求項4記載の、自動変速機の制御装置。
- 前記入力トルクは、エンジントルクであることを特徴とする、請求項1記載の、自動変速機の制御装置。
- 前記入力トルクは、入力軸トルクであることを特徴とする、請求項1記載の、自動変速機の制御装置。
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