JP4077275B2 - 金属体の表面処理方法および金属物品の製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、金属を鋳造、展伸などによって成形した金属体の表面の清浄化及び封孔処理等の表面処理を低コストで行い、均一な表面が得られる表面処理方法および表面処理されて耐食性の良い表面処理皮膜が形成された金属物品及びその上に防食塗料を塗布して防食皮膜を形成した金属物品に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属には、高温多湿時、特に塩分を含んだ雰囲気中などにおいて塗装していない状態では腐食しやすいものが多い。また、金属を成形した金属体の表面には成形時に用いた離型剤が付着しているため、これを前処理によって清浄化しておかないと、塗装しても塗装膜の密着性を著しく低下、阻害し、早期に腐食が発生する要因となる。
特に、金属体が鋳造物の場合は、その表面に湯じわやクラックなどが存在し、離型剤がそれらの間に入り込んでいて前処理をおこなっても残り易いという問題がある。
【0003】
これらの解決策として、従来は例えば(a)金属体表面をアルカリ脱脂、酸洗い、あるいはブラスト研磨により、表面清浄を行う前処理工程、(b)クロム酸塩(クロメート)等による化成処理を行う下地処理工程の後、(c)防食塗料を塗布する塗布工程を行っていた。
しかし、(a)前処理工程のブラスト研磨は複雑な成形品の場合深い凹部の中などを清浄化することは難しく、アルカリ脱脂、酸洗いなどの処理は残留する水との接触で腐食を生じ易い。(b)また、下地処理工程のクロメート処理は人体への影響などの点から低減化が急がれており、適用に問題が残されている。(c)そして、下地処理工程の後、防食塗料を塗布するまでの間に腐食を生じない耐久性も十分とはいえず、これに代わる他の有効な化成処理方法もないというのが現状である。
【0004】
また、近年マグネシウム合金に代表される軽量化素材合金などの金属材料の成形品が環境適合材料として多方面で使用が開始されているが、その成形品は特に複雑な形状が多い。このため表面処理方法では防食層である防食皮膜の密着性や耐食性に十分な効果が得られていない。したがって、これらの金属体に適した表面処理方法と耐食性にすぐれた防食皮膜を有する表面処理法およびこれらに適合する防食剤の開発は、これらの金属体の用途を著しく拡大させることになり、その出現が望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本願発明者らは先に、鋳造物を液体中で加熱・加圧処理する表面処理方法とその方法で表面処理した鋳造物品について提案した(特願2001−126623)。この方法によれば、前処理の必要がなく、複雑な形状の鋳造物でもその表面処理ができ、しかも表面処理皮膜が均一に形成されるので、耐食性にすぐれた鋳造物品が得られる。
しかし、表面処理液が酸性である場合には、鋳造物に限らず、金属体と表面処理液の種類によっては、酸腐食を生じ、寸法が僅かながら減少したり、孔食が生じたり、表面に不均一性があらわれたりする場合がある。また表面処理液にアルカリ性化合物を添加してそれを防止しようとすると、沈殿を生じ、表面処理液の機能が低下して安定した表面処理皮膜の形成ができなくなるという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる問題点を解消しようとするものであって、
請求項1および請求項2の発明は、金属体の表面浄化などの前処理工程と下地処理工程に代わる、低コストで人体への影響の懸念がなく、しかも金属体の種類に関係なく腐食による寸法変化や、表面の不均一性を生じるおそれがなく、安定してすぐれた表面処理皮膜を形成することができる効果的な金属体の表面処理方法の提供を課題とし、請求項3乃至請求項6に記載の発明は、耐食性に優れた表面処理皮膜または複合防食皮膜を有する金属物品の提供を課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、
金属体を液体中で加熱・加圧することにより、前記金属体の表面処理をする金属体の表面処理方法であって、
前記液体は、水に、キレート剤と、水に溶解した際にマンガンイオンが単独で存在するものであり、前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物と、珪酸塩またはモリブデン化合物のいずれかもしくは両方とを溶解させ、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液であり、
前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物が、燐酸二水素マンガン、硫酸第一マンガンであり、
前記加熱の温度は150℃以上、前記加圧の圧力は4.5kgf/cm2以上、加熱・加圧の時間は5分以上とすることを特徴とする。
【0008】
この発明によると、表面処理液が、水に、キレート剤と、水に溶解した際にマンガンイオンが単独で存在するものであり、前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物(燐酸二水素マンガン、硫酸第一マンガン)と、珪酸塩またはモリブデン化合物のいずれかもしくは両方とを溶解させた水溶液であり、その水溶液中において150℃以上、4.5kgf/cm2以上で、5分以上加熱・加圧されるから、表面が清浄化され、かつ安定してすぐれた表面処理皮膜が得られ、かつキレート剤の添加量によってpH9以上のアルカリ性に調整した水溶液であるから、金属体の種類に関わらず酸腐食による寸法減少や孔食、表面荒れなどを生ずるおそれもない。
【0009】
請求項2記載の発明は、マグネシウム合金の表面処理をするマグネシウム合金の表面処理方法であって、
前記液体は、水を87〜75%、燐酸二水素マンガンを5〜10%、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを8〜15%の割合で合計が100%となるように混合し、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液であり、
前記加熱の温度は150℃以上、前記加圧の圧力は4.5kgf/cm2以上、加熱・加圧の時間は5分以上とすることを特徴とする。
【0010】
この発明によると、マグネシウム合金表面が清浄化され、かつ安定してすぐれた表面処理皮膜が得られ、かつキレート剤の添加量によってpH9以上のアルカリ性に調整した水溶液を用いて処理しているので、100時間以上マグネシウム合金表面に酸腐食による寸法減少や孔食、表面荒れなどを生ずるおそれもない。
【0011】
請求項3記載の発明は、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、錫又は錫合金のうちのいずれか1種からなる金属体の表面に、表面処理皮膜が形成された金属物品の製造方法であって、
前記表面処理皮膜は、前記金属物品を形成する金属と表面処理液との加熱・加圧下における反応生成物を含み、
前記加熱・加圧が、加熱の温度を150℃以上、加圧の圧力を4.5kgf/cm2以上、時間を5分以上として行われるものであり、
前記表面処理液は、水に、キレート剤と、水に溶解した際にマンガンイオンが単独で存在するものであり、前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物と、珪酸塩またはモリブデン化合物のいずれかもしくは両方とを溶解させ、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液であり、
前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物が、燐酸二水素マンガン、硫酸第一マンガンであることを特徴とする。
【0012】
この発明によると、表面処理皮膜が、金属物品を形成する金属と表面処理液との加熱・加圧(加熱の温度は150℃以上、加圧の圧力は4.5kgf/cm2以上、処理時間は5分以上)下における反応生成物を含んでいるので、表面処理皮膜がそれ自体だけでも耐食性を有するとともに、その上に防食皮膜を設ける場合は、それとの密着性がよく、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液を表面処理液として形成される表面処理皮膜であるから、寸法減少もなく、高い寸法精度が得られる金属物品の製造方法を提供できる。
【0014】
また、珪酸塩を加えたことにより表面処理皮膜の耐食性がさらに向上する。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載の金属物品の製造方法において、
前記表面処理皮膜上に、樹脂を有機溶剤または水で溶解してなる防食塗料を塗布し硬化させて、防食皮膜を形成してなることを特徴とする。
【0016】
この発明によると、表面処理皮膜とその上に設ける防食層との密着性がよいので、きわめて耐食性にすぐれた複合防食皮膜が得られる金属物品の製造方法を提供できる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4に記載の金属物品の製造方法において、
前記金属体は、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなることを特徴とする。
【0018】
この発明によると、金属体は、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなるので、本来酸に弱い金属であるにもかかわらず腐食による寸法減少がなく、耐食性にすぐれた表面処理皮膜や防食複合皮膜が寸法精度よく形成され、しかも軽量であり、加工容易な金属物品が得られる方法を提供できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面を参酌して説明する。
図1は、本発明の金属体の表面処理方法、表面処理された金属体及び金属物品を説明するための模式図であり、金属体としては鋳造物を例にとって説明する。
図1において、20は、表面処理を行い、防食皮膜を施す鋳造物であり、図1(a)は表面処理を行う前の鋳造物20の模式図である。図1(b)において、1は本発明の実施形態の一例である鋳造物品であり、鋳造物品1は、鋳造物20に表面処理を行い表面処理皮膜30を形成してなる。図1(c)において、10は、別の実施形態例である鋳造物品を示すものであり、鋳造物品10は、前記鋳造物品1の表面処理皮膜30上に防食塗料を塗布して防食皮膜40を形成してなる。
【0020】
先ず、この鋳造物の表面処理方法について説明する。
鋳造物20の表面には、目的とする物品の形状がなす凹凸のほかに、バリや湯じわなどの小さな凸部21や、細孔やクラックなど小さな凹部22などの凹凸が存在し、また図示していないが、離型剤の残渣などが鋳造物20の表面や凸部21の影の部分や凹部22の内部に付着している。
【0021】
本発明の金属体の表面処理方法では、この鋳造物20をオートクレーブ等の容器の液体中に浸漬し、加熱または加熱・加圧処理することにより、上記離型剤残渣などの付着物を溶解または軟化し、前記鋳造物20の表面だけでなく凸部21の影の部分や凹部22の内部からもきれいに除去するのである。しかも、液体を適宜選択することにより、鋳造物の金属と液体との間に表面処理皮膜が形成され、鋳造物表面を均一に覆う。従来、前処理工程と下地処理工程(化成処理工程)の2工程で行われていた表面処理が1工程に短縮され、低コスト化がはかれるとともに人体への悪影響の懸念も払拭される。
【0022】
表面処理に使用される液体は、▲1▼ 水にマンガン化合物とキレート剤とを溶解させ、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液、または ▲2▼ 水にマンガン化合物とキレート剤と珪酸塩またはモリブデン化合物のいずれかもしくは両方とを溶解させ、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液である。
【0023】
前述の▲1▼の場合も▲2▼の場合も、マンガン化合物は、キレート剤と反応して、安定水溶液を形成する。その安定水溶液中に浸漬された金属体の金属と錯体化されたマンガン化合物とが反応して耐食性にすぐれた表面処理皮膜を形成する。しかも安定水溶液は、pH9以上に調整されているので、金属体が腐食されて寸法が減少したり表面が不均一になる恐れもない。
▲2▼の場合は、それにさらに珪酸塩および/またはモリブデンが混合されるので、pH9以上に調整するのがさらに容易であり、かつ鋳造物の金属と表面処理液との反応生成物を含む表面処理皮膜の耐腐食性がさらに向上する。
【0024】
マンガン化合物としては、燐酸、硫酸、炭酸、硼酸および酢酸と塩等との化合物、例えば燐酸二水素マンガン、硫酸第一マンガンなどがある。
キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノー2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ホスホノブタン三カルボン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸・マレイン酸コポリマーの、金属塩、アンモニウム塩およびアミン塩等の化合物である。
【0025】
珪酸塩は、メタ珪酸、オルト珪酸、二珪酸、四珪酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩およびアミン塩等の化合物である。
【0026】
水溶液は、マンガン化合物を10%以下の濃度、好ましくは5%以下の濃度とし、キレート剤を15%以下の濃度、好ましくは10%以下の濃度、珪酸塩を15%以下の濃度、好ましくは10%以下の濃度とする(%はいずれも重量%を示し、以下同様とする)。上記好ましい範囲は超えてもよいが、効果が飽和し、経済的メリットがない。また、上限を超えると表面処理した鋳造物の表面に表面処理液の残渣が付着し、塗料との密着性不良の原因となる。
【0027】
加熱または加熱・加圧の条件は、表面処理液の凝固点や沸点と関係するため一義的に特定できないが、一般的には加熱温度35℃〜250℃、好ましくは60℃〜180℃c、加圧は0〜20気圧、好ましくは0〜10気圧、処理時間は1分〜300、好ましくは5分〜120分の範囲で行われるが、鋳造物の種類により異なる場合もある。
処理温度が上記範囲を下回ると反応速度が低下し、目的とする表面が得られない。250℃以上で加熱してもよいが、表面処理液の種類によっては、劣化進行が認められ、経済的にも好ましくない。
【0028】
また、加圧については、20気圧以上としてもよいが、高圧処理の効果は飽和し、処理時間を120分以上とすることについても同様の傾向がみられ、工業的コスト等への影響も大きいので好ましくない。また一部の金属材料には寸法変化を伴う場合がある。
なお、表面処理液は上記のものに限定されるものではなく、鋳造物の金属との結合力や取り扱い性等を考慮して適宜選択可能である。また、加熱または加熱・加圧手段は、上記の範囲に適したものであればよく、オートクレーブに限定されるものではない。
【0029】
上記実施形態では、金属体を鋳造物としたが、成形の方法は鋳造に限らず、展伸などの方法であってもよく、材質もそれぞれにあったものが選択される。
また、本発明の対象となる金属体の金属には、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、および前記各金属をベースとする合金が含まれる。
特に、マグネシウム、マグネシウム合金のように酸に弱い金属の場合は、本来酸腐食により寸法減少のおそれがあるが、本発明の表面処理方法によればそのおそれはなく、耐食性のある表面処理皮膜が形成される。
【0030】
上記のようにして得られた図1(b)に示す金属物品1は、金属体20の表面がきれいに清浄化されており、かつ金属体20の金属と表面処理液との結合力が強いので、表面処理皮膜30は、金属体20の表面だけだなく、凸部21や凹部22の内部にいたるまで形成され、表面が均一になる。しかもその表面処理皮膜30は、人体への悪影響のないものであり、しかもそれ自体だけでも耐食性を有するとともに、後述する防食皮膜との密着性がよい。
【0031】
次に、上記金属物品1の上に図1(c)に示す防食皮膜を形成する塗装方法について説明する。
防食塗料としては、樹脂を有機溶剤または水で溶解した塗料の1種または2種以上が用いられる。
樹脂材料としては、エポキシ、ウレタン、フェノール、ポリオレフィン、シリコーン、アルキド、アクリル、フッ素、メラミン系樹脂等があげられる。
【0032】
また、有機溶剤としては塗装後、常温、加熱処理または硬化剤の使用により鋳造物表面に塗膜が形成されるものであればよいが、硬化剤は樹脂材料に対し効果的な量を添加することが好ましい。
【0033】
塗布方法は、ディップ法、スプレー法、はけ塗り、静電塗装、電着塗装等があげられるが特に限定するものではない。
金属体表面に塗布生成した防食層は風乾または加熱処理、電子線照射、UV照射、硬化剤の添加等で硬化する。
これらの塗装方法における加熱処理時間、塗料の濃度等については適宜選択できる。
【0034】
【実施例】
以下に実施例及び参考例を挙げて、比較例と対比しつつ本発明をさらに詳しく説明する。
(1)先ず、マグネシウム合金について述べる。
<試験片>
先ず、マグネシウム合金について試験した。評価用試験基材は、マグネシウム合金ASTM規格品AZ91D(Al:8.5〜9.5%、Zn:0.45〜0.9%、Mn:0.17%以上、残Mg−サイズ3×25×50mm)、AM60B(Al:6.0%、Mn:0.13%、残Mg−サイズ3×25×50mm)、ZK51A(Zn:3.6〜5.0%、Zr:0.5〜1.0%、残Mg−サイズ3×25×50mm)、AZ31(Al:2.5〜3.5%、Zn:0.5〜1.5%、Mn:0.15%以上、残Mg−サイズ3×25×50mm)であって、酸、アルカリ、有機溶剤等で前処理していないものを使用した。なお、AZ91D,AM60B,ZK51Aは鋳物材、AZ31は展伸材である。
加熱処理または加熱・加圧処理は全てオートクレーブを用い、オートクレーブ中で水にマンガン化合物とキレート剤とを溶解させ、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液、または水にマンガン化合物とキレート剤と珪酸塩および/またはモリブデン化合物とを溶解させ、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液とし、これに試験基材を浸漬し、加熱処理または加熱・加圧処理を行ない、水洗後、温風乾燥して試験片とした。
なお、マンガン化合物としては、燐酸二水素マンガンまたは硫酸第一マンガンを用い、キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムまたはヒドロキシエチリデンジホスホン酸二ナトリウムを用い、珪酸塩としては、メタ珪酸ナトリウム、モリブデン化合物としては、モリブデン酸ナトリウムを用いた。
【0035】
<試験・評価方法>
こうして形成された表面処理皮膜の耐食性は、JIS Z 2371 (塩水噴霧試験方法」により、試験基材表面に白錆が発生するのを目視にて観察し、白錆発生までの時間(以下「耐久時間」という)を測定した。
そして、その評価を表1に示す判断基準により3段階に区分した。「×」に該当する耐久時間が24時間未満のものは少なくとも実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、「△」または「○」に該当する耐久時間24時間以上のものは、少なくとも実用的に問題ないものと考えられ、白錆発生までのの時間が長いものほど耐久性がある。
【0036】
【表1】
【0037】
また、防食塗料との密着性を評価するため、塗料として、ウレタン系樹脂塗料、例えば日本ペイント株式会社製のユニポン 200系、シリコーン系樹脂塗料、例えば千代田ケミカル株式会社製のチオライトB−5007,エポキシ系樹脂塗料、例えば日本ペイント株式会社製のニッペパワーバインド、メラミンアルキド樹脂塗料、例えば日本ペイント株式会社製のオルガセレクト120を用い、これらの塗料単独または組み合わせたものを表面処理皮膜上にエアースプレーで塗布し、厚さ20μmの塗膜を形成した。試験は、JIS K 5400「塗料一般試験方法」の8.5.1「碁盤目法」により、試験片表面に碁盤目(1mm×1mm:100マス)を描き、JIS Z 1522に規定するセロハン粘着テープを張り付けて、テープアップ後の格子残存数を計測した。
そして、その評価を表2に示す判断基準により、区分した。「×」に該当する残存数100マス未満のものは、実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、「○」に該当する残存数100マスのものはのものは少なくとも実用的に問題がないものと考えられる。
【0038】
【表2】
【0039】
<実施例1〜22、参考例1〜44>
表面処理液として、水にマンガン化合物として燐酸二水素マンガンまたは硫酸第一マンガン、キレート剤としてヒドロキシエチリデンジホスホン酸二ナトリウムを適量溶解させたものを基本とし、必要に応じてメタ珪酸ナトリウムまたはオルト珪酸ナトリウムなどの珪酸塩および/またはモリブデン酸ナトリウムなどのモリブデン化合物を加え、pH9以上に調整したものを用いた実施例・参考例であって、加熱加圧条件、各処理剤の濃度、処理液のpHとその特性(評価結果)を表3乃至表11に示す。なお、塗装密着性の評価については前述の塗料すべてについておこなったが評価結果については差はなかった。これは後述する比較例の場合も同様である。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
【表8】
【0046】
【表9】
【0047】
【表10】
【0048】
【表11】
【0049】
<比較例1〜91>
表面処理液として、用いる処理剤の種類が実施例1〜22、参考例1〜44と同じであり、加熱加圧条件または各処理剤の濃度またはPHが適正でない表面処理方法を比較例とし、加熱加圧条件、各処理剤の濃度、処理液のpHとその特性(評価結果)を表12乃至表23に示す。
【0050】
【表12】
【0051】
【表13】
【0052】
【表14】
【0053】
【表15】
【0054】
【表16】
【0055】
【表17】
【0056】
【表18】
【0057】
【表19】
【0058】
【表20】
【0059】
【表21】
【0060】
【表22】
【0061】
【表23】
【0062】
表3〜11の実施例1〜22、参考例1〜44と表12〜23の比較例1〜91を対比すれば、実施例1〜22、参考例1〜44は塩水噴霧試験の耐久時間がすべて24時間以上であり、塗料の密着性も合格であるのに対し、比較例1〜77は、塗料の密着性がすべて不合格であり、比較例78〜91は、表面処理液のPHが9未満であるため、腐食による寸法変化(減少)または表面腐食が見られた。
なお、各試験基材について、表面処理を行なわないものについても同様の試験を行なったが、塩水噴霧試験においては1時間以内に、寸法変化と表面腐食が発生し、塗装密着性試験ももちろん不合格であった。
【0063】
比較例の塩水噴霧試験結果から次のことが分かる。
比較例1〜3、5〜11,17〜19,21〜2325〜27,33〜35、37〜39、41〜43,49〜51,53〜55,57〜59,65〜76は加熱温度が30℃(35℃未満)と低く、圧力もゼロまたは0.2kgfであるなど、表面処理条件が十分でないため不合格となり、比較例4,8,12,20,24,28、36,40,44,56,60は,加熱温度が200℃、圧力12kgfと高いものの処理時間が0.5分(1分未満)と極端に短いため不合格となっている。比較例13〜16、比較例29〜32、45〜48,61〜64は塗装密着性は不合格であるが、塩水噴霧試験に合格しているのは、表面処理条件が適正であったためと思われる。
【0064】
比較例13〜16、29〜32、45〜48,61〜64が、表面処理条件が適正であるにもかかわらず、塗装密着性において不合格となった理由は、表面処理液の成分の濃度にある。比較例13〜16は、燐酸二水素マンガンの濃度が10%を超え、エチレンジアミン四酢酸酸四ナトリウムの濃度が15%を超え、また比較例29〜32は、そのうえメタ珪酸ナトリウムの濃度が15%を超えたため、表面処理液の残渣が付着したためと思われる。比較例45〜48は,硫酸第一マンガンの濃度が10%を超え、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸二ナトリウムの濃度が15%を超え、また比較例61〜64は、そのうえオルト珪酸ナトリウムの濃度が15%を超えたため、表面処理液の残渣が付着したためと思われる。
【0065】
実施例・参考例において、珪酸塩またはモリブデン化合物を加えないもの(実施例1〜4、参考例1〜11、21〜35)は塩水噴霧試験において多数が△であったのに対し、加えたもの(参考例12〜20、36〜44、実施例5〜22)には○のものがあり、加えた方が耐久性が良くなっているといえる。
実施例・参考例において、珪酸塩またはモリブデン化合物を加えないもの(実施例1〜4、参考例1〜11、21〜35)の塩水噴霧試験結果は、多数が△(耐久時間24時間以上100時間未満)であったが、珪酸塩またはモリブデン化合物を加えたもの(参考例12〜20、36〜44、実施例5〜22)のなかには○(耐久時間100時間以上)のものが見られ(加熱加圧条件が150℃/4.5kgf/30分または200℃/12kgf/5分の場合)、全体として加えた方が耐久性が良くなっているといえる。
【0066】
(2)次に、アルミニウム合金について述べる。
<試験片>
アルミニウム合金の評価用試験基材は、アルミニウム合金JIS規格品ADC12(Cu:1.50 〜3.5 %、Si:9.6〜12.0%、Mg:0.3%以下、Zn:1.0%以下、Ni:0.5%以下、Fe:1.3%以下、Mn:0.3%以下、Sn:0.3%以下、残Al−サイズ3×25×50mm)、ASTM規格品A356.0(Cu:0.20%以下、Si:6.5〜7.5 %、Mg:0.25 〜0.45%、Zn:0.10 %以下、Fe:0.20 %以下、Mn:0.10 %以下、Ti:0.20 %以下、残Al−サイズ3×25×50mm)、ASTM規格品1050(Si:0.25 %以下、Fe:0.40 %以下、Cu:0.05 %以下、Mn:0.05 %以下、Mg:0.05 %以下、Zn:0.05 %以下、Ti:0.03 %以下、残Al−サイズ2 ×25×50mm), ASTM規格品2024(Si:0.50 %以下、Fe:0.50%以下、Cu:3.8〜4.9 %、Mn:0.30 〜0.9 %、Mg:1.2〜1.8 %、Cr:0.10 %以下、Zn:0.25 %以下、Ti:0.15 %以下、残Al−サイズ2 ×25×50mm), ASTM規格品3003(Si:0.6%以下、Fe:0.7%以下、Cu:0.05 〜0.20%、Mn:1.0〜1.5 %、Zn:0.10 %以下、残Al−サイズ2 ×25×50mm), ASTM規格品4032(Si:11.0 〜13.5%、Fe:1.0%以下、Cu:0.50 〜1.3 %、Mg:0.8〜1.3 %、Cr:0.10 %以下、Zn:0.25 %以下、Ni:0.50 〜1.30%、残Al−サイズ2 ×25×50mm), ASTM規格品5032(Si:0.40 %以下、Fe:0.40 %以下、Cu:0.10 %以下、Mn:0.40 〜1.0 %、Mg:4.0〜4.9 %、Cr:0.05 〜0.25%、Zn:0.25 %以下、Ti:0.15 %以下、残Al−サイズ2 ×25×50mm)であって、酸、アルカリ、有機溶剤等で前処理していないものを使用した。なお、ADC12,A356は鋳物材、1050,2024,3003,4032は展伸材である。、
表面処理は、マグネシウム合金の場合と同様におこなった。
【0067】
<試験・評価方法>
こうして形成された表面処理皮膜の耐食性は、マグネシウム合金の場合と同様、JIS Z 2371 (塩水噴霧試験方法」により、試験基材表面に白錆が発生するのを目視にて観察し、白錆発生までの時間(以下「耐久時間」という)を測定した。そして、その評価を表24(表1に同じ)に示す判断基準により3段階に区分した。「×」に該当する耐久時間が24時間未満のものは少なくとも実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、「△」または「○」に該当する耐久時間24時間以上のものは、少なくとも実用的に問題ないものと考えられ、白錆発生までのの時間が長いものほど耐久性がある。
【0068】
【表24】
【0069】
また、防食塗料との密着性を評価するため、マグネシウム合金の場合と同様の塗料を用い、同様の方法で塗布し、表面処理皮膜上に、厚さ20μmの塗膜を形成した。試験も同様に、JIS K 5400「塗料一般試験方法」の8.5.1「碁盤目法」により、試験片表面に碁盤目(1mm×1mm:100マス)を描き、JIS Z 1522に規定するセロハン粘着テープを張り付けて、テープアップ後の格子残存数を計測した。
また、評価も同様に表25(表2に同じ)に示す判断基準によりおこなった。
「×」に該当する残存数100マス未満のものは、実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、「○」に該当する残存数100マスのものはのものは少なくとも実用的に問題がないものと考えられる。
【0070】
【表25】
【0071】
<実施例23〜40、参考例45〜92>
表面処理液として、マグネシウム合金の場合と同様のものを用いて前記アルミニウム合金試料の表面処理をおこなった。加熱加圧条件、各処理剤の濃度、処理液のpHとその特性(評価結果)を表26乃至表34に示す。なお、塗装密着性の評価については前述の塗料すべてについておこなったが評価結果については差はなかった。これは後述する比較例の場合も同様である。
【0072】
【表26】
【0073】
【表27】
【0074】
【表28】
【0075】
【表29】
【0076】
【表30】
【0077】
【表31】
【0078】
【表32】
【0079】
【表33】
【0080】
【表34】
【0081】
<比較例92〜182>
表面処理液として用いる処理剤の種類が実施例23〜40、参考例45〜92と同じであり、加熱加圧条件または各処理剤の濃度またはPHが適正でない表面処理方法を比較例とした。加熱加圧条件、各処理剤の濃度、処理液のpHとその特性(評価結果)を表35乃至表46に示す。
【0082】
【表35】
【0083】
【表36】
【0084】
【表37】
【0085】
【表38】
【0086】
【表39】
【0087】
【表40】
【0088】
【表41】
【0089】
【表42】
【0090】
【表43】
【0091】
【表44】
【0092】
【表45】
【0093】
【表46】
【0094】
表26〜34の実施例23〜40、参考例45〜92と表35〜46の比較例92〜182を対比すれば、実施例23〜40、参考例45〜92は塩水噴霧試験の耐久時間がすべて24時間以上であり、塗料の密着性も合格であるのに対し、比較例92〜168は、塗料の密着性がすべて不合格であり、比較例169〜182は、表面処理液のPHが9未満であるため、腐食による寸法変化(減少)または表面腐食が見られた。
【0095】
比較例の塩水噴霧試験結果から次のことが分かる。
比較例92〜94、96〜98,100〜102,108〜110、112〜114,116〜118、124〜126、128〜130,132〜134,140〜142,144〜146,148〜150,156〜167は加熱温度が30℃(35℃未満)と低く、圧力もゼロまたは0.2kgfであるなど、表面処理条件が十分でないため不合格となり、比較例95,99,103,111,115,119、127,131,135,143,147、151は,加熱温度が200℃、圧力12kgfと高いものの処理時間が0.5分(1分未満)と極端に短いため不合格となっている。比較例105〜107、比較例120〜123、136〜139,152〜155,168は塗装密着性は不合格であるが、塩水噴霧試験に合格しているのは、表面処理条件が適正であったためと思われる。
【0096】
比較例105〜107、比較例120〜123、136〜139,152〜155,168が、表面処理条件が適正であるにもかかわらず、塗装密着性において不合格となった理由は、表面処理液の成分の濃度にある。比較例105〜107は、燐酸二水素マンガンの濃度が10%を超え、エチレンジアミン四酢酸酸四ナトリウムの濃度が15%を超え、また比較例120〜123はそのうえメタ珪酸ナトリウムの濃度が15%を超えたため、表面処理液の残渣が付着したためと思われる。また比較例136〜139は、硫酸第一マンガンの濃度が10%を超え、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸二ナトリウムの濃度が15%を超え、また比較例152〜155は、そのうえオルト珪酸ナトリウムが15%を超え、比較例168の場合はモリブデン酸ナトリウムが15%加えられたため、表面処理液の残渣が付着したためと思われる。
【0097】
実施例・参考例においては、珪酸塩またはモリブデン化合物を加えないもの(参考例45〜59、69〜83)と加えたもの(参考例60〜68、84〜92、実施例23〜40)との塩水噴霧試験結果の差は、あまり見られなかった。
【0098】
(3)次に、亜鉛合金について述べる。
<試験片>
亜鉛合金の評価用試験基材は、亜鉛合金ASTM規格品AC41A(Al:3.5 〜4.3 %、Cu:0.75 〜1.25%、Mg:0.02 〜0.06%、残Znーサイズ3×25×50mm), AG40A(Al:3.5〜4.3 %、Cu:0.25 以下、Mg:0.02 〜0.06%、残Znーサイズ3×25×50mm)であって、酸、アルカリ、有機溶剤等で前処理していないものを使用した。なお、上記基材は両方とも鋳物材である。
表面処理は、マグネシウム合金の場合と同様におこなった。
<試験・評価方法>
こうして形成された表面処理皮膜の耐食性は、マグネシウム合金の場合と同様、JIS Z 2371 (塩水噴霧試験方法」により、試験基材表面に白錆が発生するのを目視にて観察し、白錆発生までの時間(以下「耐久時間」という)を測定した。
そして、その評価を表47に示す判断基準(表1、表24に同じ)により3段階に区分した。「×」に該当する耐久時間が24時間未満のものは少なくとも実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、「△」または「○」に該当する耐久時間24時間以上のものは、少なくとも実用的に問題ないものと考えられ、白錆発生までの時間が長いものほど耐久性がある。
【0099】
【表47】
【0100】
また、耐食性評価の別の方法として、「高温高湿試験」試験条件:85℃×85%RHにより、試験基材表面(平面部、エッジ部)に白錆が発生するのを目視にて観察し、白錆発生までの時間(以下「耐久時間」という)を測定した。そして、その評価を表48に示す判断基準により3段階に区分した。「×」に該当する耐久時間が24時間未満のものは少なくとも実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、「△」または「○」に該当する耐久時間24時間以上のものは、少なくとも実用的に問題ないものと考えられ、白錆発生までの時間が長いものほど耐久性がある。
【0101】
【表48】
【0102】
<実施例41〜58、参考例93〜134>
表面処理液として、マグネシウム合金の場合と同様のものを用いて前記亜鉛合金試料の表面処理をおこなった。加熱加圧条件、各処理剤の濃度、処理液のpHとその特性(評価結果)を表49乃至表56に示す。
【0103】
【表49】
【0104】
【表50】
【0105】
【表51】
【0106】
【表52】
【0107】
【表53】
【0108】
【表54】
【0109】
【表55】
【0110】
【表56】
【0111】
<比較例183〜250>
表面処理液として用いる処理剤の種類が実施例41〜58、参考例93〜134と同じであり、加熱加圧条件または各処理剤の濃度またはPHが適正でない表面処理方法を比較例とした。加熱加圧条件、各処理剤の濃度、処理液のpHとその特性(評価結果)を表57乃至表65に示す。
【0112】
【表57】
【0113】
【表58】
【0114】
【表59】
【0115】
【表60】
【0116】
【表61】
【0117】
【表62】
【0118】
【表63】
【0119】
【表64】
【0120】
【表65】
【0121】
表49〜56の実施例41〜58、参考例93〜134と表57〜65の比較例183〜250を対比すれば、実施例41〜58、参考例93〜134は塩水噴霧試験の耐久時間が24時間以上または100時間以上であり、高温高湿試験の耐久時間がすべて200時間以上であるのに対し、比較例183〜241は、高温高湿試験がすべて不合格であり、比較例243〜250は、表面処理液のPHが9未満であるため、腐食による表面不均一性が見られた。
【0122】
比較例の塩水噴霧試験結果から次のことが分かる。
比較例183〜185、187〜189,191〜193,200〜201、203〜205,207〜209、215〜217、219〜221,223〜225,231〜233,235〜237,239〜241は加熱温度が30℃(35℃未満)と低く、圧力もゼロまたは0.2kgfであるなど、表面処理条件が十分でないため不合格となり、比較例186,190,194,202,206,210、218,222,226,234,238、242は,加熱温度が200℃、圧力12kgfと高いものの処理時間が0.5分(1分未満)と極端に短いため不合格となっている。比較例195〜198、比較例211〜214、227〜230は高温高湿試験には不合格であるが、塩水噴霧試験に合格しているのは、表面処理条件が適正であったためと思われる。
【0123】
一方比較例211〜214、227〜230が、表面処理条件は適正でありながら高温高湿試験に不合格となるのは、表面処理液の成分の濃度にある。比較例195〜198は、燐酸二水素マンガンの濃度が10%を超え、エチレンジアミン四酢酸酸四ナトリウムの濃度が15%を超え、また比較例211〜214は、そのうえメタ珪酸ナトリウムの濃度が15%を超えたため、表面処理液の残渣が付着したためと思われる。また比較例227〜230は、燐酸二水素マンガンの濃度が10%を超え、エチレンジアミン四酢酸酸四ナトリウムの濃度が15%を超え、モリブデン酸ナトリウムが15%加えられたため、表面処理液の残渣が付着したためと思われる。
【0124】
実施例・参考例において、珪酸塩またはモリブデン化合物を加えないもの(参考例93〜107)の塩水噴霧試験結果は、すべて△(耐久時間24時間以上100時間未満)であったが、珪酸塩またはモリブデン化合物を加えたもの(参考例108〜134、実施例41〜58)のなかには○(耐久時間100時間以上)のものが見られ(加熱加圧条件が150℃/4.5kgf/30分または200℃/12kgf/5分の場合)、全体として加えた方が耐久性が良くなっているといえる。
【0125】
(4)次に、鉄合金について述べる。
<試験片>
鉄合金の評価用試験基材は、鉄合金JIS規格品FC200(C:3.37%、Si:1.53 %、Mn:0.55 %、残Fe−サイズ3×25×50mm)、S45C(C:0.42〜0.48%、Si:0.15 〜0.35%、Mn:0.6〜0.9 %、残Fe−サイズ3×25×50mm)、SPCC(C:0.12%以下、Mn:0.5%以下、P:0.04%以下、S:0.045 %以下、残Fe−サイズ3×25×50mm)であって、酸、アルカリ、有機溶剤等で前処理していないものを使用した。なお、FC200は鋳物材、S45C,SPCCは展伸材である。
表面処理は、マグネシウム合金の場合と同様におこなった。
【0126】
<試験・評価方法>
こうして形成された表面処理皮膜の耐食性は、マグネシウム合金の場合と同様、JIS Z 2371 (塩水噴霧試験方法」により、試験基材表面に赤錆が発生するのを目視にて観察し、赤錆発生までの時間(以下「耐久時間」という)を測定した。そして、その評価を表66に示す判断基準により3段階に区分した。「×」に該当する耐久時間が5時間未満のものは少なくとも実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、「△」または「○」に該当する耐久時間5時間以上のものは、少なくとも実用的に問題ないものと考えられ、赤錆発生までの時間が長いものほど耐久性がある。
【0127】
【表66】
【0128】
また、防食塗料との密着性を評価するため、マグネシウム合金の場合と同様の塗料を用い、同様の方法で塗布し、表面処理皮膜上に、厚さ20〜40μmの塗膜を形成した。試験も同様に、JIS K 5400「塗料一般試験方法」の8.5.1「碁盤目法」により、試験片表面に碁盤目(1mm×1mm:100マス)を描き、JIS Z 1522に規定するセロハン粘着テープを張り付けて、テープアップ後の格子残存数を計測した。
また、評価も同様に表67(表2に同じ)に示す判断基準によりおこなった。
「×」に該当する残存数100マス未満のものは、実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、「○」に該当する残存数100マスのものはのものは少なくとも実用的に問題がないものと考えられる。
【0129】
【表67】
【0130】
<実施例59〜76、参考例135〜176>
表面処理液として、マグネシウム合金の場合と同様のものを用いて前記鉄合金の表面処理をおこなった。加熱加圧条件、各処理剤の濃度、処理液のpHとその特性(評価結果)を表68乃至表71に示す。なお、塗装密着性の評価については前述の塗料すべてについておこなったが評価結果については差はなかった。これは後述する比較例の場合も同様である。
【0131】
【表68】
【0132】
【表69】
【0133】
【表70】
【0134】
【表71】
【0135】
【表72】
【0136】
【表73】
【0137】
【表74】
【0138】
【表75】
<比較例251〜318>
表面処理液として用いる処理剤の種類が実施例59〜76、参考例135〜176と同じであり、加熱加圧条件または各処理剤の濃度またはPHが適正でない表面処理方法を比較例とした。加熱加圧条件、各処理剤の濃度、処理液のpHとその特性(評価結果)を表76乃至表84に示す。
【0139】
【表76】
【0140】
【表77】
【0141】
【表78】
【0142】
【表79】
【0143】
【表80】
【0144】
【表81】
【0145】
【表82】
【0146】
【表83】
【0147】
【表84】
【0148】
表68〜75の実施例59〜76、参考例135〜176と表76〜84の比較例251〜318を対比すれば、実施例59〜76、参考例135〜176は塩水噴霧試験の耐久時間がすべて5時間以上であり、塗料の密着性も合格であるのに対し、比較例251〜310は、塗料の密着性がすべて不合格であり、比較例311〜318は、表面処理液のPHが9未満であるため、腐食による寸法変化(減少)または表面腐食が見られた。
【0149】
比較例の塩水噴霧試験結果から次のことが分かる。
比較例251〜253、255〜257,259〜261,267〜269、271〜273,275〜277、283〜285、287〜289,291〜293,299〜301,303〜305,307〜309は加熱温度が30℃(35℃未満)と低く、圧力もゼロまたは0.2kgfであるなど、表面処理条件が十分でないため不合格となり、比較例254,258,262,270,274,278、286,290,294,302,306、310は,加熱温度が200℃、圧力12kgfと高いものの処理時間が0.5分(1分未満)と極端に短いため不合格となっている。比較例263〜266、279〜282、295〜298は塗装密着性は不合格であるが、塩水噴霧試験に合格しているのは、表面処理条件が適正であったためと思われる。
【0150】
一方、比較例263〜266、279〜282、295〜298は表面処理条件が適正であるにもかかわらず、塗装密着性において不合格となった理由は、表面処理液の成分の濃度にある。比較例263〜266は、燐酸二水素マンガンの濃度が10%を超え、エチレンジアミン四酢酸酸四ナトリウムの濃度が15%を超え、また比較例279〜282はそのうえメタ珪酸ナトリウムの濃度が15%を超えたため、表面処理液の残渣が付着したためと思われる。また比較例295〜298は、燐酸二水素マンガンの濃度が10%を超え、エチレンジアミン四酢酸酸四ナトリウムの濃度が15%を超え、そのうえモリブデン酸ナトリウムが15%加えられたため、表面処理液の残渣が付着したためと思われる。
【0151】
実施例・参考例において、珪酸塩またはモリブデン化合物を加えないもの(参考例135〜149)の塩水噴霧試験結果は、すべて△(耐久時間5時間以上24時間未満)であったが、珪酸塩またはモリブデン化合物を加えたもの(参考例150〜176、実施例59〜76)のなかには○(耐久時間24時間以上)のものが見られ(加熱加圧条件が150℃/4.5kgf/30分または200℃/12kgf/5分の場合)、全体として加えた方が耐久性が良くなっているといえる。
【0152】
【発明の効果】
以上に述べたことから明らかなように、
請求項1に記載の発明によれば、
表面処理液が、水に、キレート剤と、水に溶解した際にマンガンイオンが単独で存在するものであり、前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物(燐酸二水素マンガン、硫酸第一マンガン)と、珪酸塩またはモリブデン化合物のいずれかもしくは両方とを溶解させた水溶液であり、その水溶液中において150℃以上、4.5kgf/cm2以上で、5分以上加熱・加圧されるから、表面が清浄化され、かつ安定してすぐれた表面処理皮膜が得られ、かつキレート剤の添加量によってpH9以上のアルカリ性に調整した水溶液であるから、金属体の種類に関わらず酸腐食による寸法減少や孔食、表面荒れなどを生ずるおそれもない。
【0153】
請求項2記載の発明によれば、マグネシウム合金表面が清浄化され、かつ安定してすぐれた表面処理皮膜が得られ、かつキレート剤の添加量によってpH9以上のアルカリ性に調整した水溶液を用いて処理しているので、100時間以上マグネシウム合金表面に酸腐食による寸法減少や孔食、表面荒れなどを生ずるおそれもない。
【0154】
請求項3記載の発明によれば、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、錫又は錫合金のうちのいずれか1種からなる金属体の表面に、表面処理皮膜が形成された金属物品の製造方法であって、
前記表面処理皮膜は、前記金属物品を形成する金属と表面処理液との加熱・加圧下における反応生成物を含み、
前記加熱・加圧が、加熱の温度を150℃以上、加圧の圧力を4.5kgf/cm2以上、時間を5分以上として行われるものであるので、表面処理皮膜がそれ自体だけでも耐食性を有するとともに、その上に防食皮膜を設ける場合は、それとの密着性がよく、水に、キレート剤と、水に溶解した際にマンガンイオンが単独で存在するものであり、前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物(燐酸二水素マンガン、硫酸第一マンガン)と、珪酸塩またはモリブデン化合物のいずれかもしくは両方とを溶解させ、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液を表面処理液として形成される表面処理皮膜であるから、寸法減少もなく、高い寸法精度が得られる金属物品の製造方法を提供できる。
【0155】
また、表面処理皮膜の耐食性がさらに向上する。
【0156】
請求項4記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加えて、
表面処理皮膜と、その上に樹脂を有機溶剤または水で溶解してなる防食塗料を塗布し硬化させて形成する防食皮膜との密着性がよいので、きわめて耐食性にすぐれた複合防食皮膜が得られる金属物品の製造方法を提供できる。
【0157】
請求項5記載の発明によれば、請求項3又は4に記載の発明の効果に加えて、
金属体が、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなるので、本来酸に弱い金属であるにもかかわらず腐食による寸法減少がなく、耐食性にすぐれた表面処理皮膜や防食複合皮膜が寸法精度よく形成され、しかも軽量であり、加工も容易である金属物品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の金属体の表面処理方法、表面処理された金属体及び金属物品を説明するための模式図である。
【符号の説明】
1 金属物品(鋳造物品)
10 金属物品(鋳造物品)
20 金属体(鋳造物)
21 凸部
22 凹部
30 表面処理皮膜
40 防食皮膜
50 防食複合皮膜
Claims (5)
- 金属体を液体中で加熱・加圧することにより、金属体の表面処理をする金属体の表面処理方法であって、
前記液体は、水に、キレート剤と、水に溶解した際にマンガンイオンが単独で存在するものであり、前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物と、珪酸塩またはモリブデン化合物のいずれかもしくは両方とを溶解させ、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液であり、
前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物が、燐酸二水素マンガン、硫酸第一マンガンであり、
前記加熱の温度は150℃以上、前記加圧の圧力は4.5kgf/cm2以上、加熱・加圧の時間は5分以上とすることを特徴とする金属体の表面処理方法。 - マグネシウム合金を液体中で加熱・加圧することにより、マグネシウム合金の表面処理をするマグネシウム合金の表面処理方法であって、
前記液体は、水を87〜75%、燐酸二水素マンガンを5〜10%、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを8〜15%の割合で合計が100%となるように混合し、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液であり、
前記加熱の温度は150℃以上、前記加圧の圧力は4.5kgf/cm2以上、加熱・加圧の時間は5分以上とすることを特徴とするマグネシウム合金の表面処理方法。 - マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、錫又は錫合金のうちのいずれか1種からなる金属体の表面に、表面処理皮膜が形成された金属物品の製造方法であって、
前記表面処理皮膜は、前記金属物品を形成する金属と表面処理液との加熱・加圧下における反応生成物を含み、
前記加熱・加圧が、加熱の温度を150℃以上、加圧の圧力を4.5kgf/cm2以上、時間を5分以上として行われるものであり、
前記表面処理液は、水に、キレート剤と、水に溶解した際にマンガンイオンが単独で存在するものであり、前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物と、珪酸塩またはモリブデン化合物のいずれかもしくは両方とを溶解させ、pH9以上のアルカリ性に調整した水溶液であり、
前記キレート剤と錯体を形成するマンガン化合物が、燐酸二水素マンガン、硫酸第一マンガンであることを特徴とする金属物品の製造方法。 - 請求項3に記載の金属物品の製造方法において、
前記表面処理皮膜上に、樹脂を有機溶剤または水で溶解してなる防食塗料を塗布し硬化させて、防食皮膜を形成してなることを特徴とする金属物品の製造方法。 - 請求項3又は4に記載の金属物品の製造方法において、
前記金属体は、マグネシウム合金からなることを特徴とする金属物品の製造方法。
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