土木、建築工事に使用する鋼管杭、羽根付き鋼管杭、鋼管類等のケーシング(以下単に「ケーシング」という。)の圧入作業や引き抜き作業を行う装置として、ケーシングドライバと称する縦穴掘削機が従来から一般的に知られている。本発明は、こうしたケーシングドライバにつき、ケーシングの圧入、引き抜き作業時にケーシングを把持するケーシング把持装置(チャッキング装置)の部分を改良しようとするものである。
そこで、その改良点を容易に理解できるようするため、従来のケーシングドライバについて説明する。ケーシングドライバには、種々のタイプのものがあるが、ここでは、従来出願人が実施していたケーシングドライバの典型的な例を図7及び図8に基づいて説明する。図7は、従来例のケーシングドライバの正面図、図8は、図7のケーシングドライバの平面図である。
これらの図において、1は土木、建築工事においてケーシング20(図7及び図8には図示せず。後述する図1乃至図6を参照のこと。)の圧入作業や引き抜き作業を行うケーシングドライバ、2は中央にケーシング20の挿通空間を有しケーシングドライバ1の基部をなす略方形枠状のベースフレーム、3はこのベースフレーム2に設けられケーシングドライバ1を地面に設置する際にその姿勢を水平に調整するための水平調整ジャッキ、4は中央にケーシング20の挿通空間を有し上昇下降するようにベースフレーム2上に昇降可能に設置される昇降フレーム、5はベースフレーム2に立設され昇降フレーム4を昇降時に上下方向に案内するガイドポスト、6は昇降フレーム4を下降上昇させるように駆動するスラストシリンダである。
ガイドポスト5は、中空状をなしベースフレーム2の四隅に立設されている。スラストシリンダ6は、各ガイドポスト5の中空部にそれぞれ納められ、シリンダ部が昇降フレーム4に取り付けられロッド部がガイドポスト5に取り付けられている。昇降フレーム4には、作業足場としての作業用ステージ(図示せず。)が脚部材を介して高所に設置されており、この作業用ステージは、ケーシング20の挿通空間を中央部に有し、ケーシング20の建て込み、回収、鉄筋コンクリートの打設等種々の作業を行う。ケーシング20は、先端部に掘削ビットを設けた地山掘削用の先端ケーシングと、これに継ぎ足される適当数の継ぎケーシングとからなり、先端ケーシングに継ぎ足される継ぎケーシングの数を調節することにより、地中に建て込むケーシング20の全長を調節することができる。なお、後述する図1乃至図6には、ケーシング20の例として鋼管杭を図示している。
7は旋回ベアリング9、回転体10、ピニオン10a及び油圧モータ11を設けて構成された、ケーシング把持装置8を回転駆動するための回転駆動装置、8はケーシング20を把持するための後に詳述するケーシング把持装置、9は旋回ベアリング、10はこの旋回ベアリング9を介して昇降フレーム3に回転自在に取り付けられたギア付きの回転体、11はこの回転体10を回転駆動するための遊星歯車減速機構付きの油圧モータ、12は後述するケーシング把持装置7のバンドシリンダ、13はケーシング把持装置8では直接把持できない小径のケーシング20を把持するためのスペーサである。
回転体10は、ケーシング20の挿通空間を有するようにリング状をなして外周に外歯歯車が形成されており、この外歯歯車に、遊星歯車減速機構付きの油圧モータ11で回転駆動されるピニオン10aを噛み合わせている。したがって、油圧モータ11を駆動すると、その回転がピニオン10aを介して回転体10に減速して伝達され、回転体10は、旋回ベアリング9の周りを旋回する。この旋回ベアリング9は、回転体10と同様、ケーシング20の挿通空間を有するようにリング状をなしており、昇降フレーム4の中央部に取り付けられている。油圧モータ11は、ここに示す例では昇降フレーム4上に左右一対設置されている。
ケーシング把持装置8は、回転体10に取り付けられており、そのため、一対の油圧モータ11で回転体10を回転駆動することにより、ケーシング把持装置8を、回転体10を介して回転駆動することができる。また、このケーシング把持装置8は、回転体10を介して昇降フレーム4に取り付けられており、そのため、スラストシリンダ6を伸縮して昇降フレーム4を上昇下降させることにより、ケーシング把持装置8を、昇降フレーム4及び回転体10を介して上昇下降させることができる。ケーシング把持装置8には、種々のタイプのものがあり、従来周知のものであるので詳細な説明は省略するが、ここでは、ケーシング20をバンドで締め付けて把持するタイプのものを例示している。
このバンドによるケーシング把持装置8は、底部8a’を回転体10に固定して設置された固定バンド8aと、回転体10に固定しないで設置され固定バンド8aの両端部にそれぞれ配置された一対の可動バンド8bと、バンドシリンダ12とで、これらの隣接する端部同士をピン8cで枢着して、全体としてリング状に形成され、バンドシリンダ12の伸縮によりケーシング20を締め付けて把持する。ここでは、可動バンド8bを固定バンド8aの両端部に一対枢着したケーシング把持装置8の例しか示していないが、これらの可動バンド8bの各端部に更に可動バンドを枢着して、これらの可動バンドの非枢着側の各端部にバンドシリンダ6cを枢着するようにすることもできる。
ケーシングドライバ1には、スペーサ13をアタッチメントとして付設している。このスペーサ13は、固定バンド8aの内側に装着される(着脱可能に取り付けられる)固定バンド用スペーサ片13aと、各可動バンド8bの内側にそれぞれ装着される複数の可動バンド用スペーサ片13bとからなり、ケーシング把持装置8と同様、全体としてリング状に形成される。スペーサ13は、必要に応じてケーシング把持装置8に装着することにより、ケーシング把持装置8で把持する標準のケーシング20よりも小径のケーシング20を確実に把持できるようにする働きをする。
こうした構造を備えたケーシングドライバ1によりケーシング20の建て込み工程を実施する場合には、ケーシング20をケーシング把持装置8で把持し回転体10を回転駆動しながらスラストシリンダ6で下降させて地中に押し込むことにより縦穴を掘削する。また、スラストシリンダ6が限界近くまで縮んだら、ケーシング把持装置8によるケーシング20の把持を解除して、ケーシング把持装置8を、スラストシリンダ6を伸ばすことにより上昇させ、しかる後、再び、ケーシング20をケーシング把持装置8で把持し回転駆動しながら下降させて地中に押し込むことにより縦穴を掘削する。
こうした操作は、ケーシングの長さに応じて適当数行ってケーシング20を漸次押し込み、ケーシング20を地中に建て込む。この縦穴の掘削過程でケーシング20内に溜った土砂は、ハンマーグラブ等で地上に搬出する。こうしてケーシング20を地中に建て込んだら、これにケーシング20を溶接等により適宜継ぎ足して、同様の作業を順次繰り返してケーシング20を設定地点まで建て込む。ケーシング20の建て込みが終了したら、例えば鉄筋コンクリートの地中構造物を構築する場合には、ケーシング内に鉄筋かごを挿入して生コンクリートを打設する。
地中に建て込まれたケーシング20は、再利用できるように引き抜いて回収することもある。その回収作業について説明すると、ケーシング把持装置8でケーシング20の上端部を把持した後、ケーシング把持装置8をスラストシリンダ6でそのストローク分程度上昇させて、互いに連結された一連のケーシング20を引き上げる。次いで、ケーシング20を相伴クレーン(図示せず)で把持して落下しないようにした上で、ケーシング把持装置8によるケーシング20の把持を解除してケーシング把持装置8をスラストシリンダ6のストローク分程度下降させる。
しかる後、ケーシング20をケーシング把持装置8で把持した後、相伴クレーンによるケーシング20の把持を解除して、再び、ケーシング把持装置8を上昇させてケーシング20を引き上げ、こうした操作を適当回数行ってケーシング20の長さ分程度ケーシング20を引き上げる。次いで、引き上げられた一連のケーシング20を相伴クレーンで把持した後、その把持したケーシング20の上方のケーシング20を分離して相伴クレーンで回収する。ケーシング20の引き抜き工程では、こうした作業を、ケーシング20の数に応じて反復実施して各ケーシング20を回収する。この種のケーシングドライバは、例えば特許文献1に開示されている。以上述べたケーシング20の建て込み工程や引き抜き工程において、ケーシング把持装置8では直接把持できない小径のケーシング20を把持する必要が生じたときには、ケーシング把持装置3の内周部にスペーサ13を装着して、以上の工程と同様の工程を実施する。
特開平5ー331853号公報(第3頁、図1−3)
ところで、ケーシング20の建て込み工程でこれを継ぎ足すときには、昇降フレーム4の上方の前述の作業用ステージ上においてケーシング20の端部同士を溶接等により接続する。そのため、ケーシング20の接続個所20aには、後述する図1乃至図6に図示のように凸状の接続部20bが環状に形成される。こうしたケーシング20の凸状の接続部20bをケーシング20の建て込み工程や引き抜き工程でケーシング把持装置8により把持すると、ケーシング把持装置8の把持面を接続部20bの凸部により損傷させたり、ケーシング20を鉛直方向に把持できなくなったりし、最悪の場合には、ケーシング20がケーシング把持装置8から滑り落ちる事態も生じる。
こうしたことから、ケーシングドライバ1でケーシング20の建て込み作業や引き抜き作業を実施する場合に、現状では、ケーシング把持装置8によるケーシング20の把持位置を作業員が逐一確かめながら、凸状の接続部20bを避けてケーシング把持装置8で把持するようにして作業を行うことを余儀なくされている。そして、このように凸状の接続部20bを避けてケーシング20を把持する方法を採ると、凸状の接続部20bを把持する場合に比べてスラストシリンダ6のストローク量を増加させることが必要となり、その結果、ケーシングドライバ1が大型化してその製作費が割高となる。一方、ケーシング20の凸状の接続部20bをケーシング把持装置3で把持した場合に、接続部20bの凸部により把持面を損傷させたり、ケーシング20を鉛直方向に把持できなくなったりする等の前述の問題は、ケーシング把持装置3の内周部にスペーサ13を装着することにより、小径のケーシング20を、スペーサ13を介して把持した場合にも同様に生じる。
この出願の発明は、従来の技術にみられるこうした問題を解決しようとするものであって、その技術課題は、ケーシングドライバでケーシングの建て込み作業又は引き抜き作業を実施する場合において、ケーシングの凸状の接続部をケーシング把持装置で直接把持し、又はスペーサを介して把持しても、これらの把持面が損傷する等の前記の問題が生じないケーシングドライバを提供することにある。
この出願の発明のこうした技術課題は、次に示す1)及び2)の手段によって解決することができる。
1)ケーシングの圧入作業又は引き抜き作業を行いその作業時にケーシングを把持するケーシング把持装置を備えたケーシングドライバにおいて、
このケーシング把持装置の把持面に、ケーシングの凸状の接続部を入れることが可能な凹部を設ける。
2)ケーシングの圧入作業又は引き抜き作業を行いその作業時にケーシングを把持するケーシング把持装置を備えたケーシングドライバにおいて、
このケーシング把持装置の内周部に装着することにより、ケーシング把持装置で把持するケーシングよりも小径のケーシングを把持することができるようにするためのスペーサを付設し、このスペーサの把持面に、ケーシングの凸状の接続部を入れることが可能な凹部を設ける。
前記1)の手段を採用したこの出願の第1番目の発明のケーシングドライバでは、ケーシング把持装置の把持面に、特に、ケーシングの凸状の接続部を入れることが可能な凹部を設けているので、ケーシングの圧入作業時又は引き抜き作業時にケーシングをケーシング把持装置で把持するときに、ケーシング把持装置の把持面に設けた凹部にケーシングの凸状の接続部を納めるようにして把持することができる。そのため、この凸状の接続部をケーシング把持装置で把持しても、従来の技術のように、ケーシング把持装置の把持面を接続部の凸部により損傷させたり、ケーシングを鉛直方向に把持できなくなったりする等の「発明が解決しようとする課題」の項で述べたような問題が生じることはない。
前記2)の手段を採用したこの出願の第2番目の発明のケーシングドライバでは、スペーサの把持面に、特に、ケーシングの凸状の接続部を入れることが可能な凹部を設けているので、ケーシング把持装置の内周部にスペーサを装着することにより、ケーシング把持装置で通常把持するケーシングよりも小径のケーシングを、スペーサを介してケーシング把持装置で把持するときに、スペーサの把持面に設けた凹部に凸状の接続部を納めるようにして把持することができる。したがって、スペーサの把持面を接続部の凸部により損傷させる等の「発明が解決しようとする課題」の項で述べたような問題は、ケーシングの凸状の接続部を、スペーサを介して把持した場合にも生じない。
以下の説明から明らかなように、この出願の第1番目の発明のケーシングドライバは、「課題を解決するための手段」の項に示した1)の手段を採用しているので、ケーシングの凸状の接続部をケーシング把持装置で直接把持しても、ケーシング把持装置の把持面が損傷する等の前記の問題が生じない。また、この出願の第2番目の発明のケーシングドライバは、「課題を解決するための手段」の項に示した2)の手段を採用しているので、ケーシングの凸状の接続部をケーシング把持装置によりスペーサを介して把持しても、スペーサの把持面が損傷する等の前記の問題が生じない。そのため、これら何れの発明のケーシングドライバも、スラストシリンダのようなケーシング把持装置の昇降用駆動装置のストローク量を従来例のケーシングドライバよりも減少させることが可能となり、ひいては、ケーシングドライバを小型化することができてその製作費を低減することができる。
この出願の第1番目の発明及び第2番目の発明のケーシングドライバを具体化する場合に、特に、特許請求の範囲の請求項4に記載のように具体化すれば、ケーシングをケーシング把持装置で把持するときにケーシングの凸状の接続部を一対の凹部のうちの所望の側に納めることができるので、ケーシング把持装置によりケーシングを把持する位置の自由度を増やすことができて、ケーシング2の圧入作業時又は引き抜き作業時における使い勝手を良好にすることができる。
この出願の第1番目の発明のケーシングドライバを具体化する場合に、特に、特許請求の範囲の請求項5に記載のように具体化すれば、凹部を形成するための加工工程を簡素化することができる。また、ケーシングをケーシング把持装置で把持するときに、ケーシングの凸状の接続部を固定バンドの凹部にだけ納めるようにすればよいので、長期の使用により固定バンドに対する可動バンドの位置関係が若干変化しても、支障が生じることなくケーシングの圧入作業又は引き抜き作業を円滑に行うことができる。この出願の第2番目の発明のケーシングドライバを具体化する場合に、特に、特許請求の範囲の請求項6に記載のように具体化した場合にも、同様の効果を奏する。
この出願の第1番目の発明及び第2番目の発明のケーシングドライバを具体化する場合に、特に、特許請求の範囲の請求項7に記載のように具体化すれば、ケーシング把持装置が楔部材の楔作用によりケーシングを把持するタイプのケーシングドライバであっても、ケーシングの建て込み作業又は引き抜き作業を実施する場合において、ケーシングの凸状の接続部をケーシング把持装置で直接把持し、又はスペーサを介して把持しても、把持面が損傷する等の問題が生じない。そのため、スラストシリンダのようなケーシング把持装置の昇降用駆動装置のストローク量を従来例のケーシングドライバよりも減少させることが可能となり、ひいては、ケーシングドライバを小型化することができてその製作費を低減することができる。
以下、この出願の第1番目の発明及び第2番目の発明が実際上どのように具体化されるのかを図1乃至図6を用いて説明することにより、この出願の各発明の実施の形態を明らかにする。
まず、この出願の第1番目の発明の具体化した第1の例乃至第3の例のケーシングドライバを、図1乃至図3を用いて説明する。図1は、この出願の第1番目の発明を具体化した第1の例のケーシングドライバに関する要部の垂直断面図(図8のA−A線断面と同様の断面の垂直断面図)、図2は、この出願の第1番目の発明を具体化した第2の例のケーシングドライバに関する図1と同様の垂直断面図、図3は、この出願の第1番目の発明を具体化した第3の例のケーシングドライバに関する図1と同様の垂直断面図である。
これらの図おいて既述の図7及び図8と同一の符号を付けた部分は、これら図7及び図8と同等の部分を表すので、詳述しない。
図1に乃至図3にそれぞれ示す第1の例乃至第3の例の各ケーシングドライバは、図7及び図8の従来例のケーシングドライバ1と同様、ケーシング20をバンドシリンダ12の駆動によりバンド8a,8bで締め付けて把持するタイプのケーシング把持装置8と、このケーシング把持装置8を回転駆動するための、旋回ベアリング9、回転体10、ピニオン10a及び油圧モータ11を設けて構成された回転駆動装置7と、これら回転駆動装置7及びケーシング把持装置8が設けられ上下方向に昇降可能に設置される昇降フレーム4と、この昇降フレーム4を上昇下降させるように駆動するスラストシリンダ6とを備え、ケーシング20をケーシング把持装置8で把持し回転駆動装置7で回転駆動しながらでスラストシリンダ6で下降させて地中に押し込む。また、昇降フレーム4は、ベースフレーム1の四隅に立設された中空筒状のガイドポスト5で案内されて上下方向に昇降するようになっており、この昇降フレーム4を昇降させるスラストシリンダ6は、ガイドポスト5の中空部に納められていて、この点でも従来例のケーシングドライバ1と変わらない。
以下に第1の例乃至第3の例のケーシングドライバの特徴的な構造を中心に説明する。これら各例のケーシングドライバは、何れも、ケーシング把持装置8の把持面8eに、ケーシング20に形成した溶接による凸状の接続部20bを入れることが可能な断面方形状の凹部8dを設けるようにしている点で共通している。
図1に示す第1の例のケーシングドライバでは、ケーシング把持装置8の把持面8eにこうした凹部8dを設ける場合に、この凹部8dを把持面8eの周囲全体すなわち固定バンド8a及び各可動バンド8bの内面全体にわたって略環状に設けるようにしている。この凹部8dは、図1に図示のように、凸状の接続部20bの幅よりも若干広く、接続部20bの高さよりも若干深く形成している。そのため、ケーシング20の圧入作業時又は引き抜き作業時にケーシング20をケーシング把持装置8で把持するときに、ケーシング把持装置8の把持面8eに設けた凹部8dにケーシング20の凸状の接続部20bを納めるようにして把持することができる。このとき、この凸状の接続部20bは、ケーシング20を正しく把持する限りケーシング把持装置8と接触しない。なお、ケーシング20をケーシング把持装置8で把持するときに、把持面8eの凹部8dをケーシング20の凸状の接続部20bの個所に位置させるように位置合わせをする必要があるが、この位置合わせは、スラストシリンダ6のストロークを検出するためのストロークセンサ(図示せず。)を監視することにより行うことができる。
前述したように、従来例のケーシングドライバ1では、ケーシング20の凸状の接続部20bをケーシング20の建て込み工程や引き抜き工程でケーシング把持装置8により把持すると、ケーシング把持装置8の把持面を接続部20bの凸部により損傷させたり、ケーシング20を鉛直方向に把持できなくなったりする事態が発生し、場合によっては、ケーシング20がケーシング把持装置8から滑り落ちる事態も生じる。これに対し、第1の例のケーシングドライバでは、ケーシング20の凸状の接続部20bを、前記したように把持面8eの凹部8dに納めるようにして把持するため、その凸状の接続部20bをケーシング把持装置8で把持しても、こうした事態が生じることはない。そのため、スラストシリンダ6のストローク量を従来例のケーシングドライバ1よりも減少させることが可能となり、ひいては、ケーシングドライバ1を小型化することができてその製作費を低減することができる。
図2に示す第2の例のケーシングドライバでは、凹部8dを第1の例のようにケーシング把持装置8の把持面8eの周囲全体にわたって設ける場合に、図2に示すように、第1の例における凹部8dと同様の環状の凹部8dを把持面8eの幅方向の中央部に対して上下に対称に一対設けるようにしている。ここでは、環状の凹部8dを把持面8eに一対設けているが、更に多く設けるようにしてもよい。この第2の例のケーシングドライバによれば、ケーシング20の圧入作業時又は引き抜き作業時にケーシング20をケーシング把持装置8で把持するときに、ケーシング20の凸状の接続部20bをこれら一対の凹部8dのうちの何れかに納めるようにして把持することができる。
この第2の例のケーシングドライバは、こうした構造を備えているので、すでに述べた第1の例のケーシングドライバと同様の効果を奏することができる。加えて、ケーシング20をケーシング把持装置8で把持するときに凸状の接続部20bを一対の凹部8dのうちの所望の側に納めることができるので、ケーシング把持装置8によりケーシング20を把持する位置の自由度を増やすことができて、ケーシング20の圧入作業時又は引き抜き作業時における使い勝手を第1の例よりも良好にすることができる。
図3に示す第3の例のケーシングドライバは、各可動バンド8bの上下方向の幅が固定バンド8aの上下方向の幅よりも狭いケーシング把持装置8を備えたケーシングドライバに適用することができる例である。この第3の例におけるケーシング把持装置8は、図3に図示のように、上下方向にある程度の厚みがある底部8a’を固定バンド8aに付設して、底部8a’を回転体10に固定して設置するとともに、各可動バンド8bを、固定バンド8aの底部8a’の上面に固定しないで設置している。したがって、各可動バンド8bは、上下方向の幅が固定バンド8aの上下方向の幅よりも底部8a’分だけ狭く形成されている。
この第3の例のケーシングドライバでは、こうしたケーシング把持装置8を備えたケーシングドライバにおいて、可動バンド8bが存在しない上下方向の位置における固定バンド8aの把持面8eに、第1の例の凹部8dと同様の働きをする略円弧状の凹部8dを設けるようにしている。すなわち、図3に図示のように、固定バンド8aの底部8a’の上面よりも若干下方の位置における固定バンド8aの把持面8eに凹部8dを設けることにより、凹部8dを可動バンド8bの底面よりも下方位置に設けるようにしている。そのため、ケーシング20の圧入作業時又は引き抜き作業時にケーシング20をケーシング把持装置8で把持するときに、ケーシング20の凸状の接続部20bをこの固定バンド8aの凹部8dに納めるようにして把持することができる。
この第3の例のケーシングドライバは、こうした構造を備えているので、すでに述べた第1の例のケーシングドライバと同様の効果を奏することができる。加えて、ケーシング20の凸状の接続部20bを入れることが可能な凹部8dを固定バンド8aの把持面8eにだけ設ければよいので、凹部8dを形成するための加工工程を第1の例及び第2の例よりも簡素化することができる。また、ケーシング20をケーシング把持装置8で把持するときに、ケーシング20の凸状の接続部20bを固定バンド8aの凹部8dにだけ納めるようにすればよいので、長期の使用により固定バンド8aに対する可動バンド8bの位置関係が若干変化しても、支障が生じることなくケーシング20の圧入作業又は引き抜き作業を円滑に行うことができる。
次に、この出願の第1番目の発明の具体化した第4の例のケーシングドライバを、図4及び図5を用いて説明する。図4は、この出願の第1番目の発明の具体化した第4の例のケーシングドライバに関する図1と同様の垂直断面図、図5は、図4のケーシングドライバの動作を説明するための図である。
ケーシング把持装置には、ケーシング20の周囲に設置した楔部材31を上下方向に移動させることによりケーシング20の外周に押し付けて楔作用によりケーシング20の把持を行ったりその把持を解除したりするタイプのものがある。図4及び図5に示す第4の例のケーシングドライバは、こうしたタイプのケーシング把持装置を備えたケーシングドライバに適用できるようにした例である。この第4の例のケーシングドライバは、既述の第1の例乃至第3の例とケーシング把持装置のタイプが異なるが、ケーシング把持装置の把持面に、ケーシング20における凸状の接続部20bを入れることが可能な断面方形状の凹部を設けるようにしている点では、既述の例と共通している。
最初に、この第4の例のケーシングドライバの一般的な構造について概説すると、30は、昇降フレーム3(図示せず。)に回転自在に設置され楔部材31を案内するためのテーパー付きガイド面30aを内周側に有する案内部材としての回転体、31はケーシング20の周囲に上下方向に移動可能に設置され楔作用によりケーシング20を把持するケーシング把持装置をなす楔部材、32はこの楔部材31と旋回ベアリング33の内周部33a側とに枢着して両者を連結するリンク、33はリング状の内周部33aとリング状の外周部33bとの間に両者の相対回転を可能にするようにベアリング33cを設けて構成された旋回ベアリング、34は旋回ベアリング33の外周部33b側に取り付けられ楔部材31を上昇下降させる働きをする楔昇降用フレームである。
回転体30は、中央部にケーシング20の挿通空間や楔部材31の設置空間を有するように環状をなし、昇降フレーム3に設置した図示しない油圧モータにより回転体10と同様に回転駆動される。楔部材31は、回転体30のガイド面30aに対して摺動可能な角度θのテーパー付き円弧状の摺動面31bを外周側に有し、ケーシング20を把持するための円弧状の把持面31cを内周側に有する。こうした楔部材31は、ケーシング20の外周を囲繞するように複数個設けられている。そして、これら複数個の楔部材31を後述する手段により下方に移動させると、これらの楔部材31がそれぞれ回転体30のガイド面30aに案内されてケーシング20の外周面に押し付けられ、楔作用により協働してケーシング20の把持する。また、これらの楔部材31を上方に移動させると、楔部材31によるケーシング20の把持を解除する。リンク32は、複数個の楔部材31のそれぞれに対応して設け、これらを楔昇降用フレーム34と連結している。
楔昇降用フレーム34の周囲には、スラストシリンダ6と類似する図示しない複数のシリンダが昇降フレーム4上に立設されている。楔昇降用フレーム34は、これらのシリンダと図示しない連結部材で連結することにより昇降フレーム4上に設置されており、これらのシリンダを伸縮することにより昇降させることができるようになっている。この楔昇降用フレーム34の昇降動作は、旋回ベアリング33及びリンク32を介して各楔部材31に伝達され、各楔部材31を上下方向に移動させることができる。この昇降動作は、旋回ベアリング33を介して楔部材31に伝達されるので、楔部材31は、楔昇降用フレーム34に対して自由に回転することができる。
図5には、楔昇降用フレーム34を下降させて楔部材31を下方に移動させたときの状態を点線で図示している。いま、楔部材31を距離yだけ下方に移動させたとすると、楔部材31は、回転体30のテーパー付きガイド面30aに案内されるため、ケーシング20の外周面に向けて径方向にxだけ移動する。こうした動作により、各楔部材31をケーシング20の外周面に押し付けて楔作用によりケーシング20を把持することができる。このとき、回転体30を回転駆動すると、各楔部材31は、回転体30に随伴して回転してケーシング20を回転させることができる。
第4の例のケーシングドライバでは、以上のような楔部材31と案内部材としての回転体30を設けて構成されたケーシング把持装置を備えたケーシングドライバにおいて、楔部材31を上下方向に移動させる距離よりも大きい幅を上下方向に有する凹部31aを各楔部材31の把持面31cに設けるようにしている。すなわち、楔部材31の把持面31cに凹部31aを形成する場合、図5に示すように、この凹部31aの上下方向の幅zが楔部材31の上下方向の移動距離y+凸状の接続部20bの上下方向の幅α以上になるように形成している。
第4の例のケーシングドライバは、こうした構造を備えているので、楔部材31を上下方向に移動させて、ケーシング20を把持したり、ケーシング20の把持を解除したりする過程で、ケーシング20の凸状の接続部20bが楔部材31の凹部31a内に常に納められて楔部材31に強く接触するようなことはない。したがって、ケーシング把持装置が楔部材31の楔作用によりケーシング20を把持するタイプのケーシングドライバであっても、ケーシング20の建て込み作業又は引き抜き作業を実施する場合において、ケーシング20の凸状の接続部20bをケーシング把持装置で直接把持しても、把持面31cが損傷する等の問題が生じず、前述した第1の例のケーシングドライバの効果と同様の効果を奏することができる。
最後に、この出願の第2番目の発明の具体化した例のケーシングドライバを、図6を用いて説明する。図6は、この出願の第2番目の発明の具体化した例のケーシングドライバに関する図1と同様の垂直断面図である。これらの図おいて既述の図と同一の符号を付けた部分は、これら既述の図と同等の部分を表すので、詳述しない。
図6に示す例のケーシングドライバは、図7及び図8に図示のようなケーシング把持装置8を備えたケーシングドライバにおいて、このケーシング把持装置8の内周部に装着することにより、ケーシング把持装置8で把持する標準のケーシング20よりも小径のケーシング20を把持することができるようにするための、固定バンド8aの内側に装着される固定バンド用スペーサ片13aと各可動バンド8bの内側にそれぞれ装着される複数の可動バンド用スペーサ片13bとを備えたスペーサ13を付設して、このスペーサ13の把持面13dに、ケーシング20の凸状の接続部20bを入れることが可能な凹部13cを設けるようにしたものである。
こうした凹部13cをスペーサ13の把持面13dに設ける場合に、凹部13cを、スペーサ13の把持面13dの周囲全体すなわち固定バンド用スペーサ片13aと各可動バンド用スペーサ片13bの内面全体にわたって略環状に設けるようにしている。この凹部13cの形状は、図1に示す第1の例においてケーシング把持装置8の把持面8eに形成される凹部8dと実質上変わらない。そのため、ケーシング20の圧入作業時又は引き抜き作業時にケーシング20をスペーサ13で把持するときに、スペーサ13の把持面13dに設けた凹部13cにケーシング20の凸状の接続部20bを納めるようにして把持することができる。
図6に示す例のケーシングドライバでは、このようにケーシング20の凸状の接続部20bを凹部13cに納めるようにして把持するので、スペーサ13の把持面13dを接続部20bの凸部により損傷させる等の「発明が解決しようとする課題」の項で述べたような問題は、ケーシング20の凸状の接続部20bを、スペーサ13を介して把持した場合にも生じない。そのため、スラストシリンダ6のストローク量を従来例のケーシングドライバ1よりも減少させることが可能となり、ひいては、ケーシングドライバ1を小型化することができてその製作費を低減することができ、第1の例で述べた効果と同様の効果を奏することができる。
図6には、スペーサ13の把持面13dに凹部13cを設ける場合、凹部13dを把持面13dの周囲全体にわたって一つ設ける例を示したが、図2の例に準じて複数個設けることもできる。また、各可動バンド8bの上下方向の幅が固定バンド8aの上下方向の幅よりも狭いケーシング把持装置8を備えたケーシングドライバについては、図3の例に準じて可動バンド8bが存在しない上下方向の位置における固定バンド8a側の固定バンド用スペーサ片13aの把持面13dに凹部を設けるようにすることもできる。さらに、ケーシング把持装置が楔部材31の楔作用によりケーシング20を把持するタイプのケーシングドライバである場合でも、そのケーシング把持装置に装着されるスペーサ13の把持面13dに凹部を設けるようにすることもできる。
以上の例では、ケーシング把持装置8の把持面8aにおける凹部8dやスペーサ13の把持面13dの凹部13cを、何れも、凸状の接続部20bの幅よりも若干広く、その高さよりも若干深く形成しているが、凹部8dや凹部13cは、要は凸状の接続部20bが接触して損傷させないように形成すればよい。以上述べたこの出願の発明に係る技術内容は、ケーシング把持装置でのケーシング20の把持を解除する際にケーシング20を把持すことがるできるサブバンド等のケーシングの副把持装置やそのスペーサにも適用することができる。