JP4075835B2 - 拡声通話装置 - Google Patents

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Description

本発明は、インターホンなどに用いられる拡声通話装置に関し、特に浴室などの高反響空間に設置される拡声通話装置に関するものである。
この種の拡声通話装置では、マイクロホンとスピーカの音響結合により形成される音響側の帰還経路や、相手側の通話端末との間で形成される回線側の帰還経路によって不快なエコー(音響エコーあるいは回線エコー)が聞こえてしまう場合があり、あるいは、上記帰還経路などにより任意の周波数成分における一巡利得が1倍を超えるような閉ループが通話系に形成されると当該周波数にてハウリングが生じてしまう場合があるので、上述のような不快なエコー及びハウリングの発生を防止するためにエコーキャンセラ並びに音声スイッチを備えている。
音声スイッチは、通話状態(送話状態、受話状態)を常時推定し、推定結果に基づき適切な配分で送話側及び受話側の信号経路に対して損失を挿入するものである。また、エコーキャンセラは、帰還経路のインパルス応答を適応的に同定して帰還経路への入力信号から帰還経路の擬似エコー成分を推定する適応フィルタと、適応フィルタで推定された擬似エコー成分を帰還経路からの出力信号より減算する減算器とで構成されるものである。ここで、エコーキャンセラの適応フィルタが帰還経路のインパルス応答を同定するのに通常数秒の学習時間を要するため、通話開始直後からの数秒間にはエコーキャンセラによるエコーの抑制効果が十分に期待できず、通話系に閉ループが形成された状態にあり、不快なエコーやハウリングが生じる虞がある。
そこで本出願人は、通話開始直後における不快なエコーやハウリングの抑制を可能とした拡声通話装置を既に提案している(特許文献1参照)。
この従来例では、通話開始直後のエコーキャンセラが収束していない状態においては、音声スイッチが信号経路に挿入する損失の総量(総損失量)を十分に大きい初期値に固定する固定モードで動作することで不快なエコーやハウリングを抑制し、エコーキャンセラが十分に収束した状態においては、音声スイッチが総損失量を随時更新する更新モードで動作することで双方向の同時通話を実現している。
特開2002−359580号公報
ところで、拡声通話装置の使用場所(設置場所)は、例えば一般的なインターホンシステムにおいては住宅の居間などの比較的に広い空間であるが、最近では浴室に設置される場合もある。浴室のように比較的に狭い空間は反響が大きくなるので、比較的に広いリビング空間(低反響空間)に比較してエコーキャンセラが収束するまでに長い時間を要する。ここで、ディジタルのFIRフィルタにより構成される適応フィルタでは、擬似エコー成分の減算で消去されなかった消去誤差を最小とするように動作するアルゴリズムによってフィルタ係数を逐次修正しており、上記従来例のものでは消去誤差の自乗平均値を最小化するアルゴリズム(例えば、LMS(Least-Mean-Square)法)が用いられていた。このLMS法では、フィルタ係数の修正の大きさを調整する修正幅(ステップゲイン)がスカラ量として与えられており、浴室のような高反響空間においては音声信号のような有色信号に対する収束時間が相当長くなってしまうので、通話開始直後から音声スイッチが固定モードで動作する時間が相対的に長くなり、片方向の通話しかできない状態が長く続いてしまうという問題があった。
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、浴室などの高反響空間に設置されたときでもエコーキャンセラの収束時間を短縮して早期に双方向の同時通話が実現できる拡声通話装置を提供することにある。
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、マイクロホン及びスピーカと、相手側の通話端末から送られてくる受話信号をスピーカに伝送する受話側信号経路並びにマイクロホンで集音された送話信号を伝送して相手側の通話端末へ送る送話側信号経路に損失を挿入することで通話状態を受話及び送話に切り換える音声スイッチと、マイクロホンとスピーカの音響結合によって生じる音響エコーを抑制するエコーキャンセラとを備えた拡声通話装置において、音声スイッチは、送話側の信号経路に損失を挿入する送話側損失挿入手段と、受話側の信号経路に損失を挿入する受話側損失挿入手段と、送話側及び受話側の各損失挿入手段から挿入する損失量を制御する挿入損失量制御手段とを具備し、挿入損失量制御手段は、受話側損失挿入手段の出力点から音響エコー経路を介して送話側損失挿入手段の入力点へ帰還する経路の音響側帰還利得を推定するとともに、送話側損失挿入手段の出力点から回線エコー経路を介して受話側損失挿入手段の入力点へ帰還する経路の回線側帰還利得を推定し、音響側及び回線側の各帰還利得の推定値に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出する総損失量算出部と、送話信号及び受話信号を監視して通話状態を推定し、この推定結果と総損失量算出部の算出値に応じて送話側損失挿入手段及び受話側挿入損失手段の各挿入損失量の配分を決定する挿入損失量分配処理部とからなり、総損失量算出部は、各帰還利得の推定値に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出して適応更新する更新モード、並びに総損失量を所定の初期値に固定する固定モードの2つの動作モードを有し、相手側通話端末との通話開始からエコーキャンセラが充分に収束するまでの期間には固定モードで動作するとともに、エコーキャンセラが充分に収束した後の期間には更新モードで動作し、エコーキャンセラは、スピーカとマイクロホンの音響結合により形成される帰還経路のインパルス応答を適応的に同定して帰還経路への入力信号から帰還経路の擬似エコー成分を推定する適応フィルタと、適応フィルタで推定された擬似エコー成分を帰還経路からの出力信号より減算する減算器とを具備し、適応フィルタは、ディジタルのFIRフィルタにより構成され、擬似エコー成分の減算で消去されなかった消去誤差を最小とするように動作するアルゴリズムによってフィルタ係数を逐次修正するとともに、フィルタ係数の修正の大きさを調整するために対角行列で表されるステップゲイン行列を用いてなり、さらに、設置空間の残響時間を計測する残響時間計測手段を備え、音声スイッチの総損失量算出部は、残響時間計測手段で計測される残響時間が所定の閾値を超えるときには固定モードで動作するとともに、前記残響時間が閾値を超えないときにはエコーキャンセラが充分に収束した後の期間に更新モードで動作することを特徴とする。
この発明によれば、フィルタ係数の修正の大きさを調整するステップゲインをスカラ量からベクトル量、すなわち、対角行列で表されるステップゲイン行列に拡張したため、有色信号である音声信号に対するエコーキャンセラの収束時間を短縮することができる。その結果、浴室などの高反響空間に設置されたときでもエコーキャンセラの収束時間を短縮して早期に双方向の同時通話が実現できる。しかも、設置場所における残響時間が所定の閾値を超える状況においては、固定モードで動作する総損失量算出部によって総損失量が充分に大きい初期値に固定されるために不快なエコーやハウリングの発生を抑制して安定した半二重通話が実現でき、残響時間が所定の閾値を超えないときには、エコーキャンセラが充分に収束した後に更新モードで動作する総損失量算出部によって総損失量が随時更新されるために双方向の同時通話が実現できる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、適応フィルタのフィルタ係数を順番に複数のブロックに均等に割り振り、各ブロックに割り振られたフィルタ係数に対してステップゲイン行列の対角要素を設定するステップゲイン行列設定手段を備え、適応フィルタは、ステップゲイン行列設定手段によりブロック毎に設定される共通のステップゲイン行列で調整されたステップゲインにてそれぞれのブロックのフィルタ係数を更新することを特徴とする。
この発明によれば、複数のブロックについて共通のステップゲイン行列を割り当てることができ、フィルタ係数毎にステップゲイン行列の対角要素を割り当てる必要がないから、対角要素を記憶しておくためのメモリ領域を節約してコストダウンが図れる。
請求項3の発明は、請求項1の発明において、適応フィルタの単調に減衰するステップゲイン行列の対角要素を、その最大値、減衰率及び設定間隔の3つのパラメータにより階段状に近似して設定するステップゲイン行列設定手段を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、ステップゲイン行列の対角要素を3つのパラメータで設定できるために対角要素の調整が容易になる。
請求項4の発明は、請求項1の発明において、単調に減衰するステップゲイン行列の対角要素を記憶した記憶手段と、記憶手段に記憶した対角要素を随時読み出してステップゲイン行列を設定するステップゲイン行列設定手段とを備えたことを特徴とする。
この発明によれば、ステップゲイン行列の対角要素としてインパルス応答への近似精度が高い値を用いることができてエコーキャンセラの収束時間を確実に短縮することができる。
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記ステップゲイン行列設定手段は、前記記憶手段から対角要素を随時読み出してステップゲイン行列を設定する処理と、単調に減衰するステップゲイン行列の対角要素を、その最大値、減衰率及び設定間隔の3つのパラメータにより階段状に近似して設定する処理とを択一的に切り換えて実行することを特徴とする。
この発明によれば、設置場所における反響の大きさなどの条件に応じてステップゲイン行列の対角要素の設定方法を変えることができる。
請求項6の発明は、請求項1の発明において、エコーキャンセラは、遠端側の信号の瞬時パワーを推定する遠端信号パワー推定部と、帰還経路からの出力信号と帰還経路への入力信号と減算器の出力信号のうちの複数の信号の相互相関を利用してダブルトークを検出するダブルトーク検出部と、近端側の信号の瞬時パワーを推定する近端信号パワー推定部と、遠端信号パワー推定部の推定値に対する近端信号パワー推定部の推定値の比が所定のしきい値よりも大きい場合に適応フィルタにおけるステップゲイン行列の対角要素を、当該対角要素に1未満の所定の係数を乗算した値に設定するステップゲイン設定部とを備えたことを特徴とする。
この発明によれば、ダブルトークか否かにかかわらず、遠端信号パワー推定部の推定値に対する近端信号パワー推定部の推定値の比がしきい値よりも大きければ適応フィルタにおけるフィルタ係数の収束の速さを相対的に遅くすることでエコーキャンセラの発散を未然に防止して抑制することができる。しかも、所定の係数を対角要素に乗算することでステップゲイン行列を変更することができるから、2通りのステップゲイン行列をメモリに保存しておく場合に比べてメモリ領域の節約によるコストダウンが図れる。
請求項7の発明は、請求項1の発明において、適応フィルタのタップ長を調整するタップ長調整手段を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、設置場所の反響の大きさに応じた適当なタップ長に調整することができるため、所望のエコーキャンセル量を確保することができる。
請求項8の発明は、請求項1の発明において、送話側信号経路に低域通過フィルタを挿入したことを特徴とする。
この発明によれば、浴室などの高反響空間では高域が強調されてしまうため、低域通過フィルタで高域をカットすることにより通話者に不快感を与えることがなく、快適な通話が実現できる。
請求項9の発明は、請求項1の発明において、受話側信号経路並びに送話側信号経路にアッテネータを挿入したことを特徴とする。
この発明によれば、マイクロホンから入力する入力信号(送話信号)やスピーカへ出力する出力信号(受話信号)の音量レベルを適当な値に調整することができる。
請求項10の発明は、請求項7の発明において、設置空間の残響時間を計測する残響時間計測手段と、残響時間計測手段で計測される残響時間に応じて適応フィルタのタップ長を調整する前記タップ長調整手段とを備えたことを特徴とする。
この発明によれば、設置場所における残響時間の実測値に基づいてタップ長を調整するので、より適切なタップ長に設定することができる。
請求項11の発明は、請求項1の発明において、製の浴室に設置されるものであって、寸法が異なる複数種類の浴室毎に適応フィルタにおけるステップゲイン行列の対角要素の最適値を記憶した対角要素記憶手段と、複数種類の浴室のうちから1種類を選択する選択手段と、選択手段で選択された浴室に対応する対角要素の最適値を対角要素記憶手段から読み出してステップゲイン行列を設定するステップゲイン行列設定手段とを備えたことを特徴とする。
この発明によれば、設置場所である浴室の種類に応じた最適なステップゲイン行列を適応フィルタに設定することができるから、エコーキャンセラの収束時間をさらに短縮することができる。
請求項12の発明は、請求項3の発明において、既製の浴室に設置されるものであって、寸法が異なる複数種類の浴室毎にステップゲイン行列の対角要素を設定する最大値、減衰率及び設定間隔の3つのパラメータの最適値を記憶したパラメータ記憶手段と、複数種類の浴室のうちから1種類を選択する選択手段と、選択手段で選択された浴室に対応するパラメータの最適値をパラメータ記憶手段から読み出し、読み出したパラメータにより求めた対角要素をステップゲイン行列に設定するステップゲイン行列設定手段とを備えたことを特徴とする。
この発明によれば、設置場所である浴室の種類に応じた最適なステップゲイン行列に設定することができるから、エコーキャンセラの収束時間をさらに短縮することができる。
本発明によれば、フィルタ係数の修正の大きさを調整するステップゲインをスカラ量からベクトル量、すなわち、対角行列で表されるステップゲイン行列に拡張したため、有色信号である音声信号に対するエコーキャンセラの収束時間を短縮することができ、その結果、浴室などの高反響空間に設置されたときでもエコーキャンセラの収束時間を短縮して早期に双方向の同時通話が実現でき、しかも、設置場所における残響時間が所定の閾値を超える状況においては、固定モードで動作する総損失量算出部によって総損失量が充分に大きい初期値に固定されるために不快なエコーやハウリングの発生を抑制して安定した半二重通話が実現でき、残響時間が所定の閾値を超えないときには、エコーキャンセラが充分に収束した後に更新モードで動作する総損失量算出部によって総損失量が随時更新されるために双方向の同時通話が実現できるという効果がある。
以下、本発明を住宅の浴室に設置される拡声通話装置(インターホン端末)に適用した実施形態について図面を参照して詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、浴室以外の高反響空間全般に設置される拡声通話装置であれば良い。また、本発明の実施形態を説明する前に、本発明の実施形態と基本構成が共通である参考例について説明する。
参考例1)
参考例は、図1に示すようにマイクロホン1、スピーカ2、2線−4線変換回路3、マイクロホンアンプG1、回線(2線の伝送路)への送話信号を増幅する回線出力アンプG2、回線からの受話信号を増幅する回線入力アンプG3、スピーカアンプG4、送話音量調整用増幅器G5、受話音量調整用増幅器G6、音声スイッチ10並びに第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30Bで構成される。
第1のエコーキャンセラ30Aは適応フィルタ31Aと減算器32Aからなる従来周知の構成を有し、スピーカ2−マイクロホン1間の音響結合により形成される帰還経路(音響エコー経路)HACのインパルス応答を適応フィルタ31Aにより適応的に同定し、参照信号(スピーカアンプG4への入力信号)から推定した擬似エコー成分(音響エコー)を減算器32AによりマイクロホンアンプG1の出力信号から減算することで音響エコーを抑制するものである。また、第2のエコーキャンセラ30Bも適応フィルタ31Bと減算器32Bからなる従来周知の構成を有し、2線−4線変換回路3と伝送路との間のインピーダンスの不整合による反射および相手の通話端末(例えば、インターホンシステムのドアホン子機など)におけるスピーカ−マイクロホン間の音響結合とにより形成される帰還経路(回線エコー経路)HLINのインパルス応答を適応フィルタ31Bにより適応的に同定し、参照信号(回線出力アンプG2への入力信号、すなわち送話信号)から推定した擬似エコー成分(回線エコー)を減算器32Bにより受話信号から減算することで回線エコーを抑制するものである。
音声スイッチ10は、送話側の信号経路に損失を挿入する送話側減衰器11と、受話側の信号経路に損失を挿入する受話側減衰器12と、送話側及び受話側の各減衰器11,12から挿入する損失量を制御する挿入損失量制御部13とを具備する。挿入損失量制御部13は、受話側減衰器12の出力点Routから音響エコー経路HACを介して送話側減衰器11の入力点Tinへ帰還する経路(以下、「音響側帰還経路」という)の音響側帰還利得αを推定するとともに、送話側減衰器11の出力点Toutから回線エコー経路HLINを介して受話側減衰器12の入力点Rinへ帰還する経路(以下、「回線側帰還経路」という)の回線側帰還利得βを推定し、音響側及び回線側の各帰還利得α,βの推定値α’,β’に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和(送話側減衰器11の挿入損失量と受話側減衰器12の挿入損失量の和)を算出する総損失量算出部14と、送話信号及び受話信号を監視して通話状態を推定し、この推定結果と総損失量算出部14の算出値に応じて送話側減衰器11及び受話側減衰器12の各挿入損失量の配分を決定する挿入損失量分配処理部15とからなる。なお、本参考例における第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30B並びに音声スイッチ10は、DSP(Digital Signal Processor)のハードウェアをエコーキャンセラ用並びに音声スイッチ用のソフトウェア(プログラム)で制御することによって実現されている。従って、以下の説明における音声スイッチ10並びに第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30Bの入出力信号(受話信号及び送話信号)は所定のサンプリング周期でサンプリングされ、且つA/D変換器により量子化されている。
総損失量算出部14では、整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて送話側減衰器11の入力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、同じく整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて受話側減衰器12の出力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、音響側帰還経路HACにて想定される最大遅延時間において受話側減衰器12の出力信号の時間平均パワーの推定値の最小値を求め、この最小値で送話側減衰器11の入力信号の時間平均パワーの推定値を除算した値を音響側帰還利得αの推定値α’とするとともに、整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて受話側減衰器12の入力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、同じく整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて送話側減衰器11の出力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、回線側帰還経路HLINにて想定される最大遅延時間において送話側減衰器11の出力信号の時間平均パワーの推定値の最小値を求め、この最小値で受話側減衰器12の入力信号の時間平均パワーの推定値を除算した値を回線側帰還利得βの推定値β’とする。そして、総損失量算出部14は音響側帰還利得α及び回線側帰還利得βの各推定値α’,β’から所望の利得余裕MGを得るために必要な総損失量Ltを算出し、その値Ltを挿入損失量分配処理部15に出力する。
挿入損失量分配処理部15では、送話側減衰器11の入出力信号及び受話側減衰器12の入出力信号を監視し、これらの信号のパワーレベルの大小関係並びに音声信号の有無などの情報から通話状態(受話状態、送話状態等)を判定するとともに、判定された通話状態に応じた割合で総損失量Ltを送話側減衰器11と受話側減衰器12に分配するように各減衰器11,12の挿入損失量を調整する。
ところで本参考例における総損失量算出部14は、上述のように各帰還利得α,βの推定値α’,β’に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出して適応更新する更新モード、並びに総損失量を所定の初期値に固定する固定モードの2つの動作モードを有し、相手側の通話端末との通話開始から第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30Bが充分に収束するまでの期間には固定モードで動作するとともに第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30Bが充分に収束した後の期間には更新モードで動作する。すなわち、総損失量算出部14では音響側帰還利得α及び回線側帰還利得βの推定値α’,β’がともに通話開始から所定時間(数百ミリ秒)以上継続して所定の閾値ε(例えば、通話開始時における各推定値α’,β’に対して10dB〜15dB小さい値)を下回った時点で第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30Bが充分に収束したものとみなし、上記時点以前には総損失量を初期値に固定する固定モードで動作し、上記時点以降には各推定値α’,β’に基づいて総損失量を適応更新する更新モードに動作モードを切り換える。なお、固定モードにおける総損失量の初期値は更新モードにおいて随時更新される総損失量よりも充分に大きな値に設定される。
而して、通話開始直後の第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30Bが充分に収束していない状態においては、固定モードで動作する総損失量算出部14によって充分に大きな値に設定される初期値の総損失量が閉ループに挿入されるため、不快なエコー(音響エコー並びに回線エコー)やハウリングの発生を抑制して安定した半二重通話を実現することができる。また、通話開始から時間が経過して第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30Bが充分に収束した状態においては、総損失量算出部14の動作モードが固定モードから更新モードに切り換わって閉ループに挿入する総損失量が初期値よりも充分に低い値に減少するため、双方向の同時通話が実現できるものである。
ここで、更新モードにおける総損失量算出部14の具体的な動作を図2のフローチャートを参照して説明する。
総損失量算出部14は、固定モードから更新モードに移行した時点(t=t1)から所定のサンプリング周期で音響側帰還利得α並びに回線側帰還利得βの推定処理を実行してその推定値α'(n),β'(n)を算出し(ステップ1)、これら2つの推定値α'(n),β'(n)の積と利得余裕MGとから、閉ループの利得余裕をMG[dB]に保つために必要とされる総損失量所望値Lr(n)を下式により算出する(ステップ2)。
Lr(n)=20log|α'(n)・β'(n)|+MG[dB]
なお、α'(n),β'(n),Lr(n)はそれぞれ更新モード移行時点からn回目のサンプリングによって算出された帰還利得の推定値並びに総損失量所望値を示す。さらに、総損失量算出部14は上式から算出したn回目の総損失量所望値Lr(n)と、前回(n−1回目)の総損失量Lt(n-1)、すなわち前回の処理で決定されて実際に挿入された総損失量に対して今回算出した総損失量所望値Lr(n)が大きい場合、前回の総損失量Lt(n-1)に微少な増加量Δi[dB]を加算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n-1)+Δiとし(ステップ3、ステップ4)、前回の総損失量Lt(n-1)に対して今回算出した総損失量所望値Lr(n)が小さい場合、前回の総損失量Lt(n-1)から微少な減少量Δd[dB]を減算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n-1)−Δdとする(ステップ5、ステップ6)。
このように総損失量算出部14による総損失量の増減をΔi又はΔdの微少な値に抑えることにより、相手側の通話端末との通話開始直後のように第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30Bが収束に向かって活発に係数を更新しているために音響側帰還利得α及び回線側帰還利得βの変化が激しい状態においても、聴感上の違和感をなくすことができる。
次に、1のエコーキャンセラ30Aについて説明する。
第1のエコーキャンセラ30Aが具備する適応フィルタ31Aは、ディジタルのFIRフィルタにより構成され、擬似エコー成分の減算で消去されなかった消去誤差を最小とするように動作するアルゴリズムによってフィルタ係数を逐次修正するとともに、フィルタ係数の修正の大きさを調整するために対角行列で表されるステップゲイン行列を用いている。ここで、従来例では上記アルゴリズムとしてLMS法を用いていたが、本参考例では従来周知の射影法を用いている。射影法は、アルゴリズム内部において入力信号の自己相関を取り除くことにより、音声信号のような有色信号に対する収束速度を改善したものである。2次の射影法により適応フィルタ31Aのフィルタ係数(タップ係数ともいう)h(n)が下記の式(1)に従って逐次修正される。
h(n+1)=h(n)+μ[δ(n)x(n)+ε(n)x(n-1)] (1)
但し、
h(n)=(h1(n),h2(n),…,hL(n))T
T:ベクトルの転置
n:サンプリング時間
L:タップ長(タップ数)
μ:ステップゲイン(スカラ量)
x(n)=(x(n),x(n-1),…,x(n-L+1))T:入力信号(受話信号)ベクトル
δ(n),ε(n)は下記の連立方程式(2),(3)から求められる定数である。
δ(n)x(n)Tx(n)+ε(n)x(n-1)Tx(n)=e(n) (2)
δ(n)x(n-1)Tx(n)+ε(n)x(n-1)Tx(n-1)=(1-μ)e(n-1) (3)
但し、e(n)は真のエコー成分と擬似エコー成分との差(消去誤差)である。
そして本参考例では、スカラ量として与えられているステップゲインμをステップゲイン行列Mという対角行列に拡張する、いわゆるES法を上記射影法に組み合わせることにより、適応フィルタ31Aのフィルタ係数h(n)を下記の式(4)に従って逐次修正する。
h(n+1)=h(n)+M[δ(n)x(n)+ε(n)x(n-1)] (4)
但し、
M=diag[μ1,μ2,…,μL
μi=μ0λi-1(i=1,2,…,L)
λ:インパルス応答変動量の減衰率(0<λ≦1)
ここで、FIRフィルタにインパルスを入力したときの出力(インパルス応答)がフィルタ係数そのものとなるから、フィルタ係数の修正の大きさは、設置空間(例えば、浴室)におけるインパルス応答の変動量と一致することになる。一般に、反響の程度に関わらず室内におけるインパルス応答は指数関数的に減衰し、インパルス応答の変動量もインパルス応答と同じ減衰率で減衰することが知られている。従って、ES法においては、変動が大きいインパルス応答初期のフィルタ係数は大きなステップゲインで修正し、変動が小さくなったインパルス応答の後期のフィルタ係数は小さなステップゲインで修正するように重み付けする。具体的には、ステップゲイン行列Mの対角要素μi(i=1,2,…,L)を図3に示すようにiの増加に伴って最大値μ0からインパルス応答の減衰特性と同じ傾きで減衰させることにより、結果的に収束時間を短縮することができる。
而して、適応フィルタ31Aでは、サンプリング周期毎に取り込んだ入力信号(受話信号)を受話信号ベクトルx(n)とし、x(n)Tx(n),x(n-1)Tx(n),x(n-1)Tx(n),x(n-1)Tx(n-1)を演算するとともに、メモリに記憶した消去誤差e(n)並びにステップゲイン行列Mの対角要素μiを読み出し、式(2)、(3)の連立方程式を解くことで定数δ(n),ε(n)を求め、さらに求めた定数δ(n),ε(n)とメモリから読み出したステップゲイン行列Mを用いて式(4)の右辺第2項を演算し、これをメモリから読み出したフィルタ係数h(n)に加算して次のフィルタ係数h(n+1)を演算することによりフィルタ係数h(n+1)を逐次修正し、フィルタ係数h(n+1)を真のインパルス応答に近付けていく処理を行っている。
上述のように本参考例によれば、第1のエコーキャンセラ30Aの適応フィルタ31Aにおいて射影法とES法を組み合わせたES射影法のアルゴリズムによりフィルタ係数を適応的に同定させているので、従来のLMS法や学習同定法に比較して、浴室のような高反響空間におけるフィルタ係数の収束時間を短縮することができる。しかも、本参考例では、第1のエコーキャンセラ30Aが収束するまでは音声スイッチ10を固定モードで動作させることで不快なエコーやハウリングの発生を抑制した半二重通話を実現し、第1のエコーキャンセラ30Aが収束したら音声スイッチ10を更新モードで動作させることで双方向の同時通話を実現しており、第1のエコーキャンセラ30Aの収束時間を短縮することで音声スイッチ10が固定モードで動作する期間、すなわち、半二重通話となる期間を短縮して早期に双方向の同時通話に移行させることができる。その結果、浴室のような高反響空間においても快適な拡声通話が行えるものである。
ところで、予めメモリに記憶しておいたステップゲイン行列Mの対角要素μi(i=1,2,…,L)を随時読み出して適応フィルタ31Aに対して設定するステップゲイン行列設定手段を備える構成であれば、対角要素としてインパルス応答への近似精度が高い値を用いることができて第1のエコーキャンセラ30Aの収束時間を確実に短縮することができるという利点がある。なお、ステップゲイン行列設定手段はエコーキャンセラ30Aと同様にDSPのハードウェアをソフトウェアで制御することにより実現される。しかしながら、タップ長Lの増加に伴って対角要素μiの個数も増加するから、メモリの記憶領域も増えてコストアップを招く虞がある。
そこで、図4に示すようにステップゲイン行列Mの対角要素μiを、その最大値μ0、減衰率λ及び設定間隔Dの3つのパラメータにより階段状に近似して設定するステップゲイン行列設定手段を備えれば、メモリの記憶領域を大幅に削減できるとともに対角要素μiの調整も容易に行える。但し、このように3つのパラメータによって対角要素μiを設定する構成では、各対角要素μiをメモリに記憶する上記構成に比べてインパルス応答への近似精度が低くなるというデメリットがあるので、ステップゲイン行列設定手段がメモリから各対角要素μiを読み出してステップゲイン行列Mを作成する前者の処理と、最大値μ0、減衰率λ及び設定間隔Dの3つのパラメータで対角要素μiを階段状に近似してステップゲイン行列Mを作成する処理とを択一的に切り換えて実行するようにしても良い。そうすれば、設置場所における反響の大きさなどの条件に応じてステップゲイン行列Mの対角要素μiの設定方法を適切な方法に変えることができる。
また、適応フィルタ31Aが、設置場所の反響の大きさに応じてタップ長Lを適当な値に調整するタップ長調整手段を備える構成とすれば、設置場所の反響の大きさに応じた所望のエコーキャンセル量を確保することができる。なお、タップ長調整手段はエコーキャンセラ30Aと同様にDSPのハードウェアをソフトウェアで制御することにより実現される。
ところで、浴室のような高反響空間では音の高域が強調されて通話者に不快感を与えてしまうので、図5に示すように送話側信号経路の回線出力アンプG2と2線−4線変換回路3の間に低域通過フィルタ(LPF)40を挿入して上記高域をカットし、通話者に不快感を与えないようにして快適な通話を実現することが望ましい。さらに、受話側信号経路におけるマイクロホンアンプG1の後段並びに送話側信号経路におけるスピーカアンプG4の前段にアッテネータ41,42を挿入し、マイクロホン1から入力する送話信号やスピーカ2へ出力する受話信号の音量レベルを適当な値に調整するようにしても良い(図5参照)。
参考例2)
参考例の構成は参考例1と共通であるから図示は省略する。本参考例参考例1と異なる点は、第1のエコーキャンセラ30Aの適応フィルタ31Aにおいて、フィルタ係数hi(n)(i=1,2,…,L)を順番に複数のブロックに均等に割り振り、各ブロックに割り振られたフィルタ係数hi(n)に対してステップゲイン行列の対角要素を設定することを特徴とする。
例えば、L個のフィルタ係数hi(n)を順番に1〜N(2≦N≦L/2)のブロック番号のブロックに均等に割り振ることで下記の表のようにN個のブロックに分割する。ここで、一つのブロックに含まれるフィルタ係数hi(n)の個数はL/N(=D)個となる。
Figure 0004075835
そして、適応フィルタ31Aにおいては、1番からN番の各ブロックに含まれるフィルタ係数hi(n)に対して共通のステップゲイン行列M(対角要素μ1〜μD)を割り当て、受話信号x(n)が所定のサンプリング周期で取り込まれる毎に各ブロックのフィルタ係数hi(n)をブロック番号の順に一つずつ更新する処理を行う。すなわち、適応フィルタ31Aがステップゲイン行列設定手段となる。
このような構成によれば、L個のフィルタ係数hi(n)の全てに対してステップゲイン行列Mの対角要素μi(i=1,2,…,L)を割り当てる必要がないから、対角要素μi(i=1,2,…,D)を記憶しておくためのメモリ領域を節約してコストダウンが図れるものである。
参考例3)
参考例は第1のエコーキャンセラ30Aの構成に特徴があり、他の構成及び動作は参考例1と共通であるから、本参考例の特徴となる構成についてのみ図示及び説明し、参考例1と共通の構成については図示並びに説明を省略する。
参考例における第1のエコーキャンセラ30Aは、図6に示すように遠端側の信号(受話信号)x(n)の瞬時パワーを推定する遠端信号パワー推定部33と、適応フィルタ31Aの収束を劣化させるレベルの信号が近端側の信号(送話信号)y(n)に含まれているか否かにより、本拡声通話装置と相手側の通話端末とで話者がほぼ同時に話す状態(ダブルトーク)を検出するダブルトーク検出部34と、送話信号y(n)の瞬時パワーを推定する近端信号パワー推定部35と、遠端信号パワー推定部33の推定値Px(n)並びに近端信号パワー推定部35の推定値Py(n)に基づいて適応フィルタ31Aにおけるステップゲイン行列Mを設定するステップゲイン設定部36とを備えている。
ステップゲイン設定部36は、受話信号x(n)の瞬時パワー推定値Px(n)に対する送話信号y(n)の瞬時パワー推定値Py(n)の比(=Py(n)/Px(n))を求め、この推定値の比が所定のしきい値よりも大きいか否かを判定する。そして、上記比がしきい値よりも大きいと判定した場合、ステップゲイン設定部36は適応フィルタ31Aにおけるステップゲイン行列Mの対角要素μi(i=1,2,…,L)に所定の係数η(0<η<1)を乗算した値に設定して適応フィルタ31Aにおけるフィルタ係数hi(n)の収束を相対的に遅くする。反対に上記比がしきい値よりも大きくないと判定した場合は係数ηを乗算せずに元の値に設定して適応フィルタ31Aにおけるフィルタ係数hi(n)の収束を相対的に速くする。なお、上記しきい値は通常の使用状況におけるエコー経路(音響エコー経路HAC)の利得に応じた値、例えば、拡声通話装置の設置環境において実測した上記エコー経路の利得に所定のマージンを加えた値とすればよい。
而して、ダブルトーク検出部34では相互相関を利用してダブルトークを検出することでエコーに埋もれたダブルトーク成分でも精度良く検出することができるものの、相互相関を求めるために要する周期に比例してダブルトーク検出における遅延や検出ミスが生じる虞があるが、上述のように瞬時パワー推定値の比(Py(n)/Px(n))がしきい値よりも大きい場合に適応フィルタ31Aにおけるフィルタ係数hi(n)の収束の速さを相対的に遅くすれば、ダブルトーク検出部34でダブルトークが検出される前にフィルタ係数hi(n)が発散(消去誤差e(n)を小さくする方向へフィルタ係数hi(n)が修正されない状態)する可能性が低くなり、発散を未然に防止して抑制することができる。また、瞬時パワー推定値の比(Py(n)/Px(n))がしきい値よりも大きくない場合には、適応フィルタ31Aにおけるフィルタ係数hi(n)の収束の速さを相対的に速くすることで第1のエコーキャンセラ30Aの応答の遅れを防止することができる。しかも本参考例では、所定の係数ηを対角要素μiに乗算することでステップゲイン行列Mを変更することができるから、大小2通りのステップゲイン行列Mをメモリに保存しておく場合に比べてメモリ領域の節約によるコストダウンが図れるという利点がある。
(実施形態
本実施形態の構成は参考例1と共通であるから図示は省略する。本実施形態が参考例1と異なる点は、設置空間の残響時間を計測する残響時間計測手段と、残響時間計測手段で計測される残響時間に応じて適応フィルタ31Aのタップ長Lを調整するタップ長調整手段とを備えた点にある。
図7は本実施形態における要部のブロック図であり、TSP信号発生部50、インパルス応答演算部51並びに残響時間算出部52によって残響時間計測手段を構成し、タップ長調整部53にてタップ長調整手段を構成している。なお、これらの各部はエコーキャンセラ30A,30Bや音声スイッチ10と同様にDSPのハードウェアを専用のソフトウェアで制御することによって実現される。
設置空間のインパルス応答を測定するには、スピーカ2から大振幅のインパルス信号を出力すればよいが、一般的にスピーカユニットのボイスコイルはインパルス信号のような瞬時的で大きな振幅を有する音を出力するのには適していないため、測定に必要な音量を得ることが困難となる。そこで、インパルス信号の代わりに、正弦波の周波数を短時間に高い値から低い値まで連続的にスイープしたTSP(Time Stretched Pulse)信号を用いることが一般に行われており、本実施形態ではTSP信号発生部50で発生したTSP信号をスピーカアンプG4で増幅した後にスピーカ2から出力させている。そして、マイクロホン1で集音された応答信号y(k)に、TSP信号の逆特性を持つ信号(TSP信号を時間的に反転させた信号)を畳み込み演算すればインパルス応答が求められる。しかしながら、単純な畳み込み演算でインパルス応答を求めようとすると、演算量が膨大になり処理時間も相当に長くなってしまう。
そこで、インパルス応答演算部51では、TSP信号発生部50から取り込んだTSP信号と応答信号y(k)をフーリエ変換(離散的フーリエ変換)した後にこれらの内積を計算し、これを逆フーリエ変換(離散的逆フーリエ変換)することでインパルス応答を演算している。このようにフーリエ変換したTSP信号と応答信号y(k)の内積を逆フーリエ変換した結果は畳み込み演算と同じ結果となり、単純な畳み込み演算に比較して演算量が大幅に減少できる。
残響時間算出部52では、インパルス応答演算部51で求めたインパルス応答h(τ)から下記の式(5)により残響エネルギ曲線r(t)を求め、さらに最小自乗法などを用いて任意の区間における残響エネルギ曲線r(t)の回帰式を算出し、この回帰式の傾きより、定常状態から60dB減衰する時間(残響時間)を算出する。
Figure 0004075835
タップ長調整部53は、残響時間算出部52で算出された残響時間に応じて、すなわち、残響時間が長くなるに従ってタップ長Lを大きくするように調整し、第1のエコーキャンセラ30Aの適応フィルタ31Aに対して調整したタップ長Lを設定する。なお、このような残響時間の測定並びにその測定結果に応じたタップ長Lの調整処理は、本実施形態の拡声通話装置を浴室などの設置空間に設置する施工の際に行えば良く、実際に使用を開始した後は特に行う必要はない。
而して、本実施形態によれば、設置場所における残響時間の実測値に基づいてタップ長Lを調整するので、より適切なタップ長Lに設定することができ、第1のエコーキャンセラ30Aの収束時間をさらに短縮することができる。
ここで、音声スイッチ10の総損失量算出部14が、算出された残響時間が所定の閾値を超えるときには固定モードで動作するとともに、残響時間が閾値を超えないときには第1及び第2のエコーキャンセラ30A,30Bが充分に収束した後の期間に更新モードで動作する構成とすれば、設置場所における残響時間が所定の閾値を超える状況においては、固定モードで動作する総損失量算出部14によって総損失量が充分に大きい初期値に固定されるために不快なエコーやハウリングの発生を抑制して安定した半二重通話が実現でき、残響時間が所定の閾値を超えず且つエコーキャンセラ30A,30Bが充分に収束した状態においては、更新モードで動作する総損失量算出部14によって総損失量が随時更新されるために双方向の同時通話が実現できる。
(実施形態
本実施形態は、既製の浴室に設置されるものであって、図8に示すように寸法が異なる複数種類の浴室毎に適応フィルタにおけるステップゲイン行列の対角要素の最適値を記憶した対角要素記憶手段たるメモリ部50と、複数種類の浴室のうちから1種類を選択する選択手段たる操作入力部51と、操作入力部51で選択された浴室に対応する対角要素の最適値をメモリ部50から読み出して第1のエコーキャンセラ30Aの適応フィルタ31Aに対してステップゲイン行列Mを設定するステップゲイン行列設定手段たる制御部52とを備えた点に特徴がある。
すなわち、戸建て及び集合住宅の何れの場合でも一般的に既製の浴室が使用されるから、予め浴室の種類(品番)毎にインパルス応答を実測するなどしてステップゲイン行列Mの対角要素μi(i=1,2,…,L)の最適値を求めておくことが可能である。このようにして求めた対角要素μiの最適値を浴室の品番に対応付けたデータテーブルを作成し、このデータテーブルを不揮発性のメモリ素子からなるメモリ部50に記憶させておく。
操作入力部51はテンキースイッチなどを具備し、施工者がテンキースイッチなどを操作して浴室の品番を入力することができるように構成されている。そして、操作入力部51で入力された浴室の品番(品番データ)が、CPUを主構成要素とする制御部52に出力される。制御部52は、操作入力部51から品番データを取り込むとメモリ部50のデータテーブルを参照して品番データに対応する対角要素μiの最適値データを読み出し、第1のエコーキャンセラ30Aの適応フィルタ31Aに対して、読み出した最適値データを対角要素μiに設定する。これにより、第1のエコーキャンセラ30Aの適応フィルタ31Aでは、設置場所である浴室に最適化されたステップゲイン行列でフィルタ係数を適応的に同定することができるから、収束時間をさらに短縮することができるものである。
但し、ステップゲイン行列Mの対角要素μiを、その最大値μ0、減衰率λ及び設定間隔Dの3つのパラメータにより階段状に近似し、浴室の種類に対応付けてこれら3つのパラメータの最適値をメモリ部50のデータテーブルに記憶しておき、操作入力部51で入力された品番に対応するパラメータを制御部52がメモリ部50から読み出して対角要素μiを算出するようにしても構わない。このような構成とすれば、メモリ部50に記憶するデータテーブル用の記憶領域を減らすことができるという利点がある。
本発明の参考例1を示すブロック図である。 同上における音声スイッチの動作説明用のフローチャートである。 同上における第1のエコーキャンセラの動作説明図である。 同上における第1のエコーキャンセラの動作説明図である。 同上の他の構成を示すブロック図である。 本発明の参考例3を示すブロック図である。 本発明の実施形態の要部を示すブロック図である。 本発明の実施形態の要部を示すブロック図である。
符号の説明
1 マイクロホン
2 スピーカ
10 音声スイッチ
30A 第1のエコーキャンセラ
31A 適応フィルタ
32A 減算器

Claims (12)

  1. マイクロホン及びスピーカと、相手側の通話端末から送られてくる受話信号をスピーカに伝送する受話側信号経路並びにマイクロホンで集音された送話信号を伝送して相手側の通話端末へ送る送話側信号経路に損失を挿入することで通話状態を受話及び送話に切り換える音声スイッチと、マイクロホンとスピーカの音響結合によって生じる音響エコーを抑制するエコーキャンセラとを備えた拡声通話装置において、音声スイッチは、送話側の信号経路に損失を挿入する送話側損失挿入手段と、受話側の信号経路に損失を挿入する受話側損失挿入手段と、送話側及び受話側の各損失挿入手段から挿入する損失量を制御する挿入損失量制御手段とを具備し、挿入損失量制御手段は、受話側損失挿入手段の出力点から音響エコー経路を介して送話側損失挿入手段の入力点へ帰還する経路の音響側帰還利得を推定するとともに、送話側損失挿入手段の出力点から回線エコー経路を介して受話側損失挿入手段の入力点へ帰還する経路の回線側帰還利得を推定し、音響側及び回線側の各帰還利得の推定値に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出する総損失量算出部と、送話信号及び受話信号を監視して通話状態を推定し、この推定結果と総損失量算出部の算出値に応じて送話側損失挿入手段及び受話側挿入損失手段の各挿入損失量の配分を決定する挿入損失量分配処理部とからなり、総損失量算出部は、各帰還利得の推定値に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出して適応更新する更新モード、並びに総損失量を所定の初期値に固定する固定モードの2つの動作モードを有し、相手側通話端末との通話開始からエコーキャンセラが充分に収束するまでの期間には固定モードで動作するとともに、エコーキャンセラが充分に収束した後の期間には更新モードで動作し、エコーキャンセラは、スピーカとマイクロホンの音響結合により形成される帰還経路のインパルス応答を適応的に同定して帰還経路への入力信号から帰還経路の擬似エコー成分を推定する適応フィルタと、適応フィルタで推定された擬似エコー成分を帰還経路からの出力信号より減算する減算器とを具備し、適応フィルタは、ディジタルのFIRフィルタにより構成され、擬似エコー成分の減算で消去されなかった消去誤差を最小とするように動作するアルゴリズムによってフィルタ係数を逐次修正するとともに、フィルタ係数の修正の大きさを調整するために対角行列で表されるステップゲイン行列を用いてなり、さらに、設置空間の残響時間を計測する残響時間計測手段を備え、音声スイッチの総損失量算出部は、残響時間計測手段で計測される残響時間が所定の閾値を超えるときには固定モードで動作するとともに、前記残響時間が閾値を超えないときにはエコーキャンセラが充分に収束した後の期間に更新モードで動作することを特徴とする拡声通話装置。
  2. 適応フィルタのフィルタ係数を順番に複数のブロックに均等に割り振り、各ブロックに割り振られたフィルタ係数に対してステップゲイン行列の対角要素を設定するステップゲイン行列設定手段を備え、適応フィルタは、ステップゲイン行列設定手段によりブロック毎に設定される共通のステップゲイン行列で調整されたステップゲインにてそれぞれのブロックのフィルタ係数を更新することを特徴とする請求項1記載の拡声通話装置。
  3. 適応フィルタの単調に減衰するステップゲイン行列の対角要素を、その最大値、減衰率及び設定間隔の3つのパラメータにより階段状に近似して設定するステップゲイン行列設定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の拡声通話装置。
  4. 単調に減衰するステップゲイン行列の対角要素を記憶した記憶手段と、記憶手段に記憶した対角要素を随時読み出してステップゲイン行列を設定するステップゲイン行列設定手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の拡声通話装置。
  5. 前記ステップゲイン行列設定手段は、前記記憶手段から対角要素を随時読み出してステップゲイン行列を設定する処理と、単調に減衰するステップゲイン行列の対角要素を、その最大値、減衰率及び設定間隔の3つのパラメータにより階段状に近似して設定する処理とを択一的に切り換えて実行することを特徴とする請求項4記載の拡声通話装置。
  6. エコーキャンセラは、遠端側の信号の瞬時パワーを推定する遠端信号パワー推定部と、帰還経路からの出力信号と帰還経路への入力信号と減算器の出力信号のうちの複数の信号の相互相関を利用してダブルトークを検出するダブルトーク検出部と、近端側の信号の瞬時パワーを推定する近端信号パワー推定部と、遠端信号パワー推定部の推定値に対する近端信号パワー推定部の推定値の比が所定のしきい値よりも大きい場合に適応フィルタにおけるステップゲイン行列の対角要素を、当該対角要素に1未満の所定の係数を乗算した値に設定するステップゲイン設定部とを備えたことを特徴とする請求項1記載の拡声通話装置。
  7. 適応フィルタのタップ長を調整するタップ長調整手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の拡声通話装置。
  8. 送話側信号経路に低域通過フィルタを挿入したことを特徴とする請求項1記載の拡声通話装置。
  9. 受話側信号経路並びに送話側信号経路にアッテネータを挿入したことを特徴とする請求項1記載の拡声通話装置。
  10. 設置空間の残響時間を計測する残響時間計測手段と、残響時間計測手段で計測される残響時間に応じて適応フィルタのタップ長を調整する前記タップ長調整手段とを備えたことを特徴とする請求項7記載の拡声通話装置。
  11. 既製の浴室に設置されるものであって、寸法が異なる複数種類の浴室毎に適応フィルタにおけるステップゲイン行列の対角要素の最適値を記憶した対角要素記憶手段と、複数種類の浴室のうちから1種類を選択する選択手段と、選択手段で選択された浴室に対応する対角要素の最適値を対角要素記憶手段から読み出してステップゲイン行列を設定するステップゲイン行列設定手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の拡声通話装置。
  12. 既製の浴室に設置されるものであって、寸法が異なる複数種類の浴室毎にステップゲイン行列の対角要素を設定する最大値、減衰率及び設定間隔の3つのパラメータの最適値を記憶したパラメータ記憶手段と、複数種類の浴室のうちから1種類を選択する選択手段と、選択手段で選択された浴室に対応するパラメータの最適値をパラメータ記憶手段から読み出し、読み出したパラメータにより求めた対角要素をステップゲイン行列に設定するステップゲイン行列設定手段とを備えたことを特徴とする請求項記載の拡声通話装置
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