JP5432741B2 - 拡声通話装置 - Google Patents

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Description

本発明は、住宅や事務所等で用いられる拡声通話装置に関するものである。
従来より、通話時にハンドセットを持つ必要がなく、通話装置から離れた通話者に対して相手側の通話装置から伝送されてくる音声信号をスピーカによって拡声出力し、かつ、上記通話者の発する音声をマイクロホンにより集音して相手側通話装置へ伝送することで拡声通話(ハンズフリー通話)を実現する拡声通話装置が提供されている。このような拡声通話装置では、マイクロホンとスピーカの音響結合により形成される音響帰還経路によって不快なエコー(音響エコー)が聞こえてしまう場合があり、あるいは、上記帰還経路などにより任意の周波数成分における一巡利得が1倍を超えるような閉ループが通話系に形成されると当該周波数にてハウリングが生じてしまう場合があるので、上述のような不快なエコー及びハウリングの発生を防止するためにエコーキャンセラ並びに音声スイッチを備えている。
音声スイッチは、通話状態(送話状態、受話状態)を常時推定し、推定結果に基づき適切な配分で送話側及び受話側の信号経路に対して損失を挿入するものである。また、エコーキャンセラは、帰還経路のインパルス応答を適応的に同定して帰還経路への入力信号から帰還経路の擬似エコー成分を推定する適応フィルタと、適応フィルタで推定された擬似エコー成分を帰還経路からの出力信号より減算する減算器とで構成されるものである。ここで、エコーキャンセラの適応フィルタが帰還経路のインパルス応答を同定するのに通常数秒の学習時間を要するため、通話開始直後からの数秒間にはエコーキャンセラによるエコーの抑圧効果が十分に期待できず、通話系に閉ループが形成された状態にあり、不快なエコーやハウリングが生じる虞がある。
そこで本出願人は、通話開始直後における不快なエコーやハウリングの抑制を可能とした拡声通話装置を既に提案している(特許文献1参照)。
この従来例では、通話開始直後のエコーキャンセラが収束していない状態においては、音声スイッチが信号経路に挿入する損失の総量(総損失量)を十分に大きい初期値に固定する固定モードで動作することで不快なエコーやハウリングを抑制し、エコーキャンセラが十分に収束した状態においては、音声スイッチが総損失量を随時更新する更新モードで動作することで双方向(全二重)の同時通話を実現している。
特開2002−359580号公報
ところで、拡声通話装置同士の通信がIP通信等のデジタル通信の場合、パケット処理やジッタ防止のための通信バッファ処理に起因して音声データ伝送に遅延時間が発生することがある。一般に拡声通話装置間の音声データ伝送が遅延してしまう場合、伝送遅延時間が大きくなるにつれて通話時の話者のエコー許容限界値が劣化し、少ない量のエコーでも不快なエコーと感じてしまうことがわかっている。
固定モードの初期値を従来のアナログ通信の場合よりも大きく設定すれば、この不快なエコーを防ぐことは可能である。しかしながら、エコー許容限界値の劣化が数十デシベルに及ぶ場合もあり、この場合は更新モードで動作してもエコーキャンセラの抑圧量が不足して双方向(全二重)通話が実現できずに片方向(半二重)通話になってしまう。その結果、周囲騒音のレベルが高い場合に音声スイッチが送話側もしくは受話側に倒れ続けてしまい、相手側からの音声が通じないという片倒れ現象が発生するという問題があった。
このような問題に対して本出願人は、相手側の通話装置との間で伝送する音声に伝送遅延が生じる場合においても、当該伝送遅延に起因して送話側信号経路に発生する残留エコーをエコーサプレッサによって減衰させることによって、双方向(全二重)の同時通話を可能とした拡声通話装置を既に提案している。
ところで、拡声通話装置とハンドセットを用いた通話装置の間の通信がIP通信等のデジタル通信の場合においても、拡声通話装置の送話側信号経路に発生する残留エコーを当該拡声通話装置に搭載したエコーサプレッサで減衰させてやることにより、双方向(全二重)の同時通話が実現できる。しかしながら、拡声通話装置から相手の通話装置に伝送される送話信号に含まれる背景騒音のレベルがある程度大きい場合、拡声通話装置に搭載されているエコーサプレッサで残留エコーを減衰させることに伴って背景騒音が瞬時的に減衰してしまう。そして、このような背景騒音の瞬時的減衰が遅延を伴ってハンドセットから聞こえてしまうため、ハンドセットを用いた通話装置側の話者が、通話時に不快な音の途切れ(切断感)を感じてしまう虞がある。なお、相手の通話装置がハンドセットを用いる通話装置である場合のエコーサプレッサの減衰量を、相手の通話装置が拡声通話装置である場合のエコーサプレッサの減衰量よりも小さくすれば、上述のような切断感を防ぐことは可能であるが、逆に残留エコーがハンドセットから聞こえてしまうという問題が生じる。
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、相手側の通話装置との間で伝送する音声に伝送遅延が生じる場合でも双方向(全二重)の同時通話が実現できるとともに相手側の通話装置がハンドセットを用いるものである場合にはハンドセットから聞こえる音に切断感を感じさせ難い拡声通話装置を提供することにある。
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、マイクロホン及びスピーカと、相手側の通話装置から送られてくる受話信号をスピーカに伝送する受話側信号経路並びにマイクロホンで集音された送話信号を伝送して相手側の通話装置へ送る送話側信号経路に損失を挿入することで通話状態を受話及び送話に切り換える音声スイッチと、マイクロホンとスピーカの音響結合によって生じる音響エコーを抑制するエコーキャンセラと、ダブルトークを検出するダブルトーク検出手段とを備え、音声スイッチは、送話側の信号経路に損失を挿入する送話側損失挿入手段と、受話側の信号経路に損失を挿入する受話側損失挿入手段と、送話側及び受話側の損失挿入手段から挿入する損失量を制御する挿入損失量制御手段とを具備し、挿入損失量制御手段は、受話側損失挿入手段の出力点から音響エコー経路を介して送話側損失挿入手段の入力点へ帰還する経路の音響帰還利得を推定し、音響帰還利得の推定値に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出する総損失量算出部と、送話信号及び受話信号を監視して通話状態を推定し、この推定結果と総損失量算出部の算出値に応じて送話側損失挿入手段及び受話側損失挿入手段の各挿入損失量の配分を決定する挿入損失量分配処理部とからなり、総損失量算出部は、各帰還利得の推定値に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出して適応更新する更新モード、並びに総損失量を所定の初期値に固定する固定モードの2つの動作モードを有し、相手側通話装置との通話開始からエコーキャンセラが充分に収束するまでの期間には固定モードで動作するとともに、エコーキャンセラが充分収束した後の期間には更新モードで動作してなる拡声通話装置において、音声スイッチ又はダブルトーク検出手段と連動して送話側信号経路に所定の減衰量を挿入して残留エコーを減衰するエコーサプレッサを備え、エコーサプレッサは、ダブルトーク検出手段がダブルトークを検出しておらず且つ挿入損失量分配処理部が受話状態と推定している場合にのみ、送話側信号経路に前記所定の減衰量を挿入し、さらに送話信号に重畳する背景騒音のレベルを推定するとともに当該推定結果に基づいて背景騒音レベルが高くなるにつれて送話側信号経路に挿入する減衰量を減らすことを特徴とする。
請求項1の発明によれば、相手側の通話装置との間で伝送する音声に伝送遅延が生じる場合においても、当該伝送遅延に起因して送話側信号経路に発生する残留エコーをエコーサプレッサによって減衰させることができ、その結果、双方向(全二重)の同時通話が実現できる。しかも、背景騒音レベルが高くなるにつれてエコーサプレッサから送話信号経路に挿入する減衰量を減らすことにより、背景騒音の瞬時的な減衰を抑制して切断感を感じ難くすることができる。なお、エコーサプレッサの減衰量を減らすことで残留エコーの減衰効果が低下してしまうが、背景騒音によって残留エコーがマスクされるために実用上通話に支障を来す虞は無い。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、エコーサプレッサは、受話信号の信号レベルから推定されるエコー量に応じた減衰量と、送話信号に重畳する背景騒音レベルに応じた減衰量とを比較して相対的に絶対値が小さい方の減衰量を送話側信号経路に挿入することを特徴とする。
請求項2の発明によれば、切断感を感じ難くしつつ残留エコーも十分に減衰させることができる。
請求項3の発明は、請求項2の発明において、エコーサプレッサは、背景騒音レベルが所定のレベルを超えるときは背景騒音レベルに応じた前記減衰量を一定値とすることを特徴とする。
請求項3の発明によれば、背景騒音レベルが非常に高いときに残留エコーが減衰されなくなるという事態を回避することができる。
本発明によれば、相手側の通話装置との間で伝送する音声に伝送遅延が生じる場合でも双方向(全二重)の同時通話が実現できるとともに相手側の通話装置がハンドセットを用いるものである場合にはハンドセットから聞こえる音に切断感を感じさせ難い拡声通話装置が提供できる。
本発明の実施形態を示すブロック図である。 同上における音声スイッチの動作を説明するためのフローチャートである。 同上におけるエコーサプレッサの動作を説明するためのフローチャートである。 同上におけるエコーサプレッサの動作を説明するためのフローチャートである。 同上におけるエコーサプレッサの動作を説明するための説明図である。
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の拡声通話装置は、図1に示すようにマイクロホン1及びスピーカ2と、相手側の通話装置から送られてくる受話信号をスピーカ2に伝送する受話側信号経路(図1における下側の信号経路)並びにマイクロホン1で集音された送話信号を伝送して相手側の通話装置へ送る送話側信号経路(図1における上側の信号経路)に損失を挿入することで通話状態を受話及び送話に切り換える音声スイッチ10と、マイクロホン1とスピーカ2の音響結合によって生じる音響エコーを抑制するエコーキャンセラ20と、マイクロホン1の出力信号(送話信号)を増幅するマイクロホンアンプG1と、スピーカ2の入力信号(受話信号)を増幅するスピーカアンプG2と、送話側信号経路におけるエコーキャンセラ20と音声スイッチ10との間に挿入された送話音量調整用増幅器G3と、送話側信号経路に所定の減衰量を挿入して残留エコーを減衰するエコーサプレッサ30とを備えている。
エコーキャンセラ20は適応フィルタ21と減算器22からなる従来周知の構成を有し、スピーカ2−マイクロホン1間の音響結合により形成される帰還経路(音響エコー経路)Hacのインパルス応答を適応フィルタ21により適応的に同定し、参照信号(スピーカアンプG2への入力信号)から推定したエコー成分(音響エコー)を減算器22によりマイクロホンアンプG1の出力信号から減算することで音響エコーを抑制するものである。
ここで、適応フィルタ21は音響エコー経路Hacのインパルス応答を適応的に同定し、遠端側の入力信号(スピーカアンプG2へ入力する受話信号)y(n)からエコー成分(音響エコー)g(n)を推定しているのであるが、このエコー成分g(n)を推定するために、次式によってフィルタ係数hp(n)を再帰的に更新している。但し、添え字のpはタップ番号、nはサンプル時間、Kはステップゲイン、F(n)は係数更新関数である。
p(n+1)=hp(n)+K・F(Ey(n))
また、Ey(n)は入力信号(受話信号)y(n)の信号レベル平均値であって、適応フィルタ21が具備する信号レベル平均値算出処理部24において、次式によって求められる。但し、SPANは入力信号y(n)の絶対値abs[y(n)]を加算する周期である。
そして、エコー成分(の推定値)g(n)は次式によって求められる。
さらにエコーキャンセラ20は適応フィルタ21及び減算器22に加えてダブルトーク検出処理部23を備えている。ダブルトーク検出処理部23は、適応フィルタ21の収束を劣化させるレベルの信号がマイクロホンアンプG1の出力信号に含まれているか否かにより、近端側話者と遠端側話者(相手側の通話装置で通話する話者)がほぼ同時に話す状態、すなわちダブルトークを検出するものである。適応フィルタ21では、ダブルトーク検出処理部23によりダブルトークが検出された場合、フィルタ係数の発散を防止するためにフィルタ係数を更新せずにそれ以前の値に固定する。
音声スイッチ10は、送話側信号経路に損失を挿入する送話側減衰器11と、受話側信号経路に損失を挿入する受話側減衰器12と、送話側及び受話側の各減衰器11,12から挿入する損失量を制御する挿入損失量制御部13とを具備する。挿入損失量制御部13は、受話側減衰器12の出力点Routから音響エコー経路Hacを介して送話側減衰器11の入力点Tinへ帰還する経路(以下、「音響帰還経路」という)の音響帰還利得αを推定し、音響帰還利得αの推定値α’に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和(送話側減衰器11の挿入損失量と受話側減衰器12の挿入損失量の和)を算出する総損失量算出部14と、送話信号及び受話信号を監視して通話状態を推定し、この推定結果と総損失量算出部14の算出値に応じて送話側減衰器11及び受話側減衰器12の各挿入損失量の配分を決定する挿入損失量分配処理部15とからなる。なお、エコーキャンセラ20並びに音声スイッチ10は、DSP(Digital Signal Processor)のハードウェアをエコーキャンセラ用並びに音声スイッチ用のソフトウェア(プログラム)で制御することによって実現されている。従って、以下の説明における音声スイッチ10並びにエコーキャンセラ20の入出力信号(送話信号並びに受話信号)は、図示しないA/D変換器によって所定のサンプリング周期でサンプリングされ且つ量子化されている。
総損失量算出部14では、整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて送話側減衰器11の入力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、同じく整流平滑器や低域通過フィルタ等を用いて受話側減衰器12の出力信号の短時間における時間平均パワーを推定し、音響帰還経路Hacにて想定される最大遅延時間において受話側減衰器12の出力信号の時間平均パワーの推定値を求め、この推定値で送話側減衰器11の入力信号の時間平均パワーの推定値を除算した値を音響帰還利得αの推定値α’とする。そして、総損失量算出部14は音響帰還利得αの推定値α’から所望の利得余裕MGを得るために必要な総損失量Ltを算出し、その値Ltを挿入損失量分配処理部15に出力する。
挿入損失量分配処理部15では、送話側減衰器11の入出力信号及び受話側減衰器12の入出力信号を監視し、これら信号のパワーレベルの大小関係並びに音声信号の有無などの情報から通話状態(受話状態、送話状態等)を判定するとともに、判定された通話状態に応じた割合で総損失量Ltを送話側減衰器11と受話側減衰器12に分配するように各減衰器11、12の挿入損失量を調整する。
ところで本実施形態における総損失量算出部14は、上述のように音響帰還利得αの推定値α’に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出して適応更新する更新モード、並びに総損失量を所定の初期値に固定する固定モードの2つの動作モードを有し、相手側の通話装置との通話開始からエコーキャンセラ20が充分に収束するまでの期間には固定モードで動作するとともにエコーキャンセラ20が充分に収束した後の期間には更新モードで動作する。すなわち、総損失量算出部14では音響帰還利得αの推定値α’が通話開始から所定時間(数百ミリ秒)以上継続して所定の閾値ε(例えば、通話開始時における推定値α’に対して10dB〜15dB小さい値)を下回った時点でエコーキャンセラ20が充分に収束したものとみなし、上記時点以前には総損失量を初期値に固定する固定モードで動作し、上記時点以降には推定値α’に基づいて総損失量を適応更新する更新モードに動作モードを切り換える。なお、固定モードにおける総損失量の初期値は更新モードにおいて随時更新される総損失量よりも充分に大きな値に設定される。
而して、通話開始直後のエコーキャンセラ20が充分に収束していない状態においては、固定モードで動作する総損失量算出部14によって充分に大きな値に設定される初期値の総損失量が閉ループに挿入されるため、不快なエコー(音響エコー)やハウリングの発生を抑制して安定した半二重通話を実現することができる。また、通話開始から時間が経過してエコーキャンセラ20が充分に収束した状態においては、総損失量算出部14の動作モードが固定モードから更新モードに切り換わって閉ループに挿入する総損失量が初期値よりも充分に低い値に減少するため、双方向の同時通話が実現できるものである。
ここで、更新モードにおける総損失量算出部14の具体的な動作を図2のフローチャートを参照して説明する。
総損失量算出部14は、固定モードから更新モードに移行した時点(t=t1)から所定のサンプリング周期で音響帰還利得αの推定処理を実行してその推定値α’(n)を算出し(ステップ1)、この推定値α’(n)と利得余裕MGとから、閉ループの利得余裕をMG[dB]に保つために必要とされる総損失量所望値Lt(n)を下式により算出する(ステップ2)。
Lr(n)=20log | α’(n)|+MG[dB]
なお、α’(n),Lr(n)はそれぞれ更新モード移行時点からn回目のサンプリングによって算出された音響帰還利得αの推定値α’並びに総損失量所望値を示す。さらに、総損失量算出部14は上式から算出したn回目の総損失量所望値Lr(n)と、前回(n−1回目)の総損失量Lt(n−1)、すなわち前回の処理で決定されて実際に挿入された総損失量に対して今回算出した総損失量所望値Lr(n)が大きい場合、前回の総損失量Lt(n−1)に微少な増加量Δi[dB]を加算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n−1)+Δiとし(ステップ3、ステップ4)、前回の総損失量Lt(n−1)に対して今回算出した総損失量所望値Lr(n)が小さい場合、前回の総損失量Lt(n−1)から微少な減少量Δd[dB]を減算した値を今回の総損失量Lt(n)=Lt(n−1)−Δdとする(ステップ5、ステップ6)。
このように総損失量算出部14による総損失量の増減をΔiまたはΔdの微少な値に抑えることにより、相手側の通話装置との通話開始直後のようにエコーキャンセラ20が収束に向かって活発に係数(フィルタ係数)を更新しているために音響帰還利得αの変化が激しい状態においても、聴感上の違和感をなくすことができる。
ここで、従来技術で説明したように拡声通話装置同士の通信がIP通信等のデジタル通信の場合、パケット処理やジッタ防止のための通信バッファ処理に起因して音声データ伝送に遅延時間が発生することがある。一般に拡声通話装置間の音声データ伝送が遅延してしまう場合、伝送遅延時間が大きくなるにつれて通話時の話者のエコー許容限界値が劣化し、少ない量のエコーでも不快なエコーと感じてしまうことがわかっている。そして、固定モードの初期値を従来のアナログ通信の場合よりも大きく設定すれば、この不快なエコーを防ぐことは可能である。しかしながら、エコー許容限界値の劣化が数十デシベルに及ぶ場合もあり、この場合は更新モードで動作してもエコーキャンセラの抑圧量が不足して双方向(全二重)通話が実現できずに片方向(半二重)通話になってしまう。その結果、周囲騒音のレベルが高い場合に音声スイッチ10が送話側もしくは受話側に倒れ続けてしまい、相手側からの音声が通じないという片倒れ現象が発生するという問題があった。
そこで本実施形態においては、送話側信号経路のエコーキャンセラ20及び音声スイッチ10の後段に、残留エコー(エコーキャンセラ20で抑圧できなかった音響エコー。以下同じ。)を減衰させるエコーサプレッサ30を追加している。エコーサプレッサ30は残留エコーを効果的に減衰する一方で、送出すべき音声信号(送話信号)は減衰させない必要がある。
エコーサプレッサ30は、音声スイッチ10と、エコーキャンセラ20のダブルトーク検出処理部23と、エコーキャンセラ20の適応フィルタ21が具備する信号レベル平均値算出処理部24と連動して送話側信号経路へ減衰量を挿入するようにしている。
次に、図3のフローチャートを参照してエコーサプレッサ30の動作を詳細に説明する。
エコーサプレッサ30は、音声スイッチ10の状態を常に監視し(ステップ1)、音声スイッチ10が受話状態であれば、エコーキャンセラ20のダブルトーク検出処理部23がダブルトークを検出しているか否かを判断する(ステップ2)。音声スイッチ10が受話状態であり且つダブルトーク検出処理部23がダブルトークを検出していない場合、エコーサプレッサ30が入力信号に掛ける減衰係数は、信号レベル平均値算出処理部24の算出値RS_AVE(n)(=Ey(n))に依存しており、所定の閾値THに対して、RS_AVE(n)>THならば、
減衰係数=SUP_MAX×RS_AVE(n)/RS_AVEmax・・・(1)
とし、RS_AVE(n)≦THならば、
減衰係数=SUP_MAX×RS_AVE(n)/RS_AVEmax〜SUP_MIN・・・(2)
という判定条件により決定される。なお、SUP_MAX、SUP_MINはそれぞれ大声相当(例えば、音圧○○dB以上)及び標準音量(例えば、音圧○○〜○○dB)相当の信号レベルを抑圧するために必要な減衰係数であり、RS_AVEmaxは大声相当の信号レベル平均値RS_AVE(n)である。上記(2)の判定条件については、サンプリング周期毎に(2)の判定条件を満たし続ける限りは、所定の遷移係数を乗ずることにより、減衰係数はSUP_MAX×RS_AVE(n)/RS_AVEmax→SUP_MINと徐々に小さくなるように変化し、SUP_MINが減衰係数の下限値として設定される。
具体的には、まずエコーサプレッサ30は減衰係数としてSUP_MINが設定されているかどうかを判定する(ステップ3)。もし減衰係数としてSUP_MINが設定されていなければ、エコーサプレッサ30は減衰係数に遷移係数を乗じて新たな減衰係数を設定し(ステップ4)、すでにSUP_MINが設定されていれば、これは下限値であるので減衰係数としてSUP_MINを用いる。次に、信号レベル平均値RS_AVE(n)が上記(1)の条件を満たす場合(ステップ5)、エコーサプレッサ30は減衰係数としてSUP_MAX×RS_AVE(n)/RS_AVEmaxを設定し(ステップ6)、上記(1)の条件を満たさない場合は減衰係数を変更せず、以前のステップで設定したものを用いる。
続いて、エコーサプレッサ30は背景騒音レベル連動減衰量制御を実行し(ステップ7)、最後に、設定した減衰係数を入力信号に掛けることで入力信号を減衰させて出力する(ステップ8)。
また、音声スイッチ10が受話状態でない場合、若しくは音声スイッチ10が受話状態であってもダブルトーク検出処理部23がダブルトークを検出している場合、エコーサプレッサ30は、さらに音声スイッチ10の状態が送話状態であるか否かを判断する(ステップ9)。そして、音声スイッチ10が送話状態であれば、エコーサプレッサ30は残留エコーがないかまたは送出すべき音声信号があると判断して入力信号を減衰せずにそのままのレベルで出力する(ステップ12)。
ここで、本実施形態の拡声通話装置とハンドセットを用いる通話装置(以下、ハンドセット型通話装置と呼ぶ。)との間で通話する場合、拡声通話装置からハンドセット型通話装置に伝送される送話信号に含まれる背景騒音のレベルがある程度大きいと、拡声通話装置のエコーサプレッサ30で残留エコーを減衰させることに伴って背景騒音が瞬時的に減衰してしまう。そして、このような背景騒音の瞬時的減衰が遅延を伴ってハンドセットから聞こえてしまうため、ハンドセット型通話装置側の話者が、通話時に不快な音の途切れ(切断感)を感じてしまう虞がある。
そこで本実施形態では、図4のフローチャートに示す背景騒音レベル連動減衰量制御をエコーサプレッサ30で行っている。つまり、拡声通話装置側の背景騒音レベルが高くなるにつれてエコーサプレッサ30から送話信号経路に挿入する減衰量を減らすことにより、背景騒音の瞬時的な減衰を抑制して切断感を感じ難くすることができるものである。なお、エコーサプレッサ30の減衰量を減らすことで残留エコーの減衰効果が低下してしまうが、ハンドセット型通話装置へ伝送される背景騒音によって残留エコーがマスクされるため、実用上通話に支障を来す虞は無い。
以下、図4のフローチャートを参照して背景騒音レベル連動減衰量制御の内容を具体的に説明する。
エコーサプレッサ30は、送話側減衰器11の入力点Tinから取り込んだ送話信号の長時間時系列平均値を用いて当該送話信号中に定常的に存在(重畳)する背景騒音のレベル(背景騒音レベル)LEVEL_NOISEを検出(推定)し、推定した背景騒音レベルLEVEL_NOISEを所定の閾値Nthと比較する(ステップ21)。背景騒音レベルLEVEL_NOISEが閾値Nth以下であれば、エコーサプレッサ30は下式によって減衰係数の基準値ATTを算出する(ステップ22)。
ATT=α*LEVEL_NOISE+β(ただし、α<0)
一方、背景騒音レベルLEVEL_NOISEが閾値Nthより大きければ、エコーサプレッサ30は背景騒音レベルLEVEL_NOISEに依存せずに減衰係数基準値ATTを一定値ATTminとする(ステップ23)。
次に、エコーサプレッサ30はステップ3〜ステップ6の処理で算出した減衰係数(受話信号の信号レベルから推定されるエコー量に応じた減衰量)と、ステップ21〜ステップ23の処理で算出した減衰係数基準値ATTとを比較する(ステップ24)。そして、減衰係数が減衰係数基準値ATT以下であれば、エコーサプレッサ30は減衰係数を減衰係数基準値ATTに更新し(ステップ25)、ステップ8の処理に進む。また、減衰係数が減衰係数基準値ATTより大きければ、エコーサプレッサ30は減衰係数を更新せずにステップ8の処理に進む。すなわち、ステップ24〜ステップ25の処理では、受話側信号経路の音声信号レベルから推定されるエコー量に応じた減衰量(図5における曲線イ参照)と、背景騒音レベルに応じて一意に定められる減衰量(図5における折れ線ロ参照)とが比較され、少ない方の減衰量がエコーサプレッサ30によって送話信号経路に挿入されることになる。なお、エコーサプレッサ30では、背景騒音レベルLEVEL_NOISEが所定のレベル(閾値Nth)を超えるときは背景騒音レベルLEVEL_NOISEに応じた減衰量(減衰係数)を一定値ATTminとしている。これは、背景騒音レベルが非常に高いときに残留エコーが減衰されなくなるという事態を回避するためである。
ところで、上述の処理は拡声通話装置の音声スイッチ10が受話状態であり且つダブルトーク検出処理部23がダブルトークを検出していないという条件が満たされている場合に行われるものである。これに対して、音声スイッチ10が受話状態又は送話状態の何れでもない場合(図3のフローチャートにおけるステップ9の判断がNの場合)、例えば、挿入損失量分配処理部15が送話側減衰器11と受話側減衰器12に同じ損失量を挿入させている場合(以下、中立状態という)においては、エコーサプレッサ30は送話側信号経路に挿入する減衰量を単調減少させている。具体的には、エコーサプレッサ30では、ステップ9で音声スイッチ10の状態が送話でないと判断すれば、その時点の減衰係数がゼロか否かを判断し(ステップ10)、ゼロであれば減衰係数を変更せずにステップ1に戻る。また、減衰係数がゼロでなければ、エコーサプレッサ30は、減衰係数に遷移係数を乗じて新たな減衰係数を設定する(ステップ11)。つまり、エコーサプレッサ30がステップ1→ステップ9(又はステップ2→ステップ9)→ステップ10→ステップ11→ステップ1と処理を繰り返すことで減衰係数(減衰量)が徐々に減少(単調減少)することになる。
而して、拡声通話装置からハンドセット型通話装置へ送話信号が送信されていない状態でエコーサプレッサ30が送話側信号経路に所定の減衰量を挿入してしまうと、上述のようにハンドセット型通話装置側の話者に切断感を感じさせてしまう虞がある。このような場合において、エコーサプレッサ30が送話側信号経路に挿入する減衰量を単調減少させれば、背景騒音が瞬時的に減衰しないためにハンドセット型通話装置側の話者に不快な切断感を感じさせ難くできるものである。
ところで、ステップ1→ステップ9(又はステップ2→ステップ9)→ステップ10→ステップ11→ステップ1の処理を繰り返して減衰係数(減衰量)を単調減少させている途中で音声スイッチ10の通話状態が送話状態に変化したら、エコーサプレッサ30はステップ9→ステップ12の処理を実行して直ちに減衰係数(減衰量)をゼロに減少させる。したがって、拡声通話装置側の話者が発した音声(送話音声)がエコーサプレッサ30で誤って減衰されることにより、相手側の通話装置から聞こえる音声に抑揚が生じるのを防ぐことができる。
また、ステップ1→ステップ9(又はステップ2→ステップ9)→ステップ10→ステップ11→ステップ1の処理を繰り返して減衰係数(減衰量)を単調減少させている途中で音声スイッチ10の通話状態が受話状態に変化し且つダブルトーク検出処理部23がダブルトークを検出していなければ、エコーサプレッサ30はステップ3〜ステップ8の処理を実行して送話側信号経路に背景騒音レベルに応じた減衰量を挿入する。したがって、エコーサプレッサ30が誤って減衰量を挿入せずに不快な残留エコーを発生させてしまうことが無く、精度よく通話時の不快なエコーのみを減衰させることができる。
1 マイクロホン
2 スピーカ
10 音声スイッチ
11 送信側減衰器
12 受信側減衰器
13 挿入損失量制御部
14 総損失量算出部
15 挿入損失量分配処理部
20 エコーキャンセラ
21 適応フィルタ
22 減算器
23 ダブルトーク検出処理部
24 信号レベル平均値算出処理部
30 エコーサプレッサ

Claims (3)

  1. マイクロホン及びスピーカと、相手側の通話装置から送られてくる受話信号をスピーカに伝送する受話側信号経路並びにマイクロホンで集音された送話信号を伝送して相手側の通話装置へ送る送話側信号経路に損失を挿入することで通話状態を受話及び送話に切り換える音声スイッチと、マイクロホンとスピーカの音響結合によって生じる音響エコーを抑制するエコーキャンセラと、ダブルトークを検出するダブルトーク検出手段とを備え、
    音声スイッチは、送話側の信号経路に損失を挿入する送話側損失挿入手段と、受話側の信号経路に損失を挿入する受話側損失挿入手段と、送話側及び受話側の損失挿入手段から挿入する損失量を制御する挿入損失量制御手段とを具備し、
    挿入損失量制御手段は、受話側損失挿入手段の出力点から音響エコー経路を介して送話側損失挿入手段の入力点へ帰還する経路の音響帰還利得を推定し、音響帰還利得の推定値に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出する総損失量算出部と、送話信号及び受話信号を監視して通話状態を推定し、この推定結果と総損失量算出部の算出値に応じて送話側損失挿入手段及び受話側損失挿入手段の各挿入損失量の配分を決定する挿入損失量分配処理部とからなり、
    総損失量算出部は、各帰還利得の推定値に基づいて閉ループに挿入すべき損失量の総和を算出して適応更新する更新モード、並びに総損失量を所定の初期値に固定する固定モードの2つの動作モードを有し、相手側通話装置との通話開始からエコーキャンセラが充分に収束するまでの期間には固定モードで動作するとともに、エコーキャンセラが充分収束した後の期間には更新モードで動作してなる拡声通話装置において、
    音声スイッチ又はダブルトーク検出手段と連動して送話側信号経路に所定の減衰量を挿入して残留エコーを減衰するエコーサプレッサを備え、
    エコーサプレッサは、ダブルトーク検出手段がダブルトークを検出しておらず且つ挿入損失量分配処理部が受話状態と推定している場合にのみ、送話側信号経路に前記所定の減衰量を挿入し、さらに送話信号に重畳する背景騒音のレベルを推定するとともに当該推定結果に基づいて背景騒音レベルが高くなるにつれて送話側信号経路に挿入する減衰量を減らすことを特徴とする拡声通話装置。
  2. エコーサプレッサは、受話信号の信号レベルから推定されるエコー量に応じた減衰量と、送話信号に重畳する背景騒音レベルに応じた減衰量とを比較して相対的に絶対値が小さい方の減衰量を送話側信号経路に挿入することを特徴とする請求項1記載の拡声通話装置。
  3. エコーサプレッサは、背景騒音レベルが所定のレベルを超えるときは背景騒音レベルに応じた前記減衰量を一定値とすることを特徴とする請求項2記載の拡声通話装置。
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