JP4073747B2 - 中空糸膜モジュールの製造方法 - Google Patents

中空糸膜モジュールの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体又は気体の濾過や分離処理等に用いられる中空糸膜モジュールに関する。
【0002】
【従来の技術】
膜モジュールは、近年、工業分野、医療分野、食品分野等における液体や気体の濾過或いは分離等に多用されている。
このような分野に用いられる膜モジュールとしては、従来、平膜を用いた膜モジュールが一般的であったが、最近では、膜モジュール容積あたりの膜面積が平膜よりも大きくなる中空糸膜を用いた膜モジュール、すなわち、モジュールケース内に中空糸膜を配置し、このモジュールケースと中空糸膜相互とを、ポッティング用樹脂によって液密或いは気密に接合固定するポッティング部を形成して構成される中空糸膜モジュールが利用されている。
【0003】
中空糸膜モジュールを用いる濾過或いは分離は、一次側から二次側への圧力がかかる条件下で実施されるものであるために、モジュールケースと中空糸膜相互との間に高い封止性及び接着性が要求されており、前記ポッティング用樹脂として、従来、エポキシ樹脂やウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられている。
【0004】
ポッティング樹脂に熱硬化性樹脂を用いた中空糸膜モジュールをパーベーパレーションや溶剤濾過、溶剤処理等に利用すると、溶剤や薬液によっては前記ポッティング用樹脂が膨潤、溶出してクラック等が発生し、これに伴って接着性の低下、リークの発生、処理物の純度低下等の問題が生じる場合がある。
【0005】
前記エポキシ樹脂やウレタン樹脂等による欠点を改善する目的で、ポリエチレン樹脂等の熱可塑性樹脂をポッティング用樹脂として使用し、該ポッティング用樹脂の溶融物をポッティング加工部の中空糸膜相互の間に侵入させ、これを冷却固化してポッティング部を形成することによって中空糸膜モジュールを得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、オレフィン系微粉末樹脂からなるポッティング樹脂と、これを流動させるための液体とを混合して高濃度懸濁液となし、オレフィン系樹脂からなる中空糸膜束をこの高濃度懸濁液に浸漬させ、ポッティング樹脂の融点以上、中空糸膜の融点以下で加熱し、ポッティング微粉末樹脂が溶融流動状態になった後、冷却する中空糸膜モジュールの製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
具体的には300〜600本程度の中空糸膜束を懸濁液に浸漬した後、110〜120℃に加熱したオーブンに放置し、溶融ポッティングし、冷却して中空糸膜モジュールを得る方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、高濃度懸濁液を中空糸膜束間へ良好に含浸させるためには、中空糸膜束を構成する中空糸膜の本数を少量とするか、あるいはモジュールケース内での中空糸膜の集積率を著しく低くする必要がある。
即ち、中空糸膜束を構成する本数が多いか、あるいは中空糸膜を高集積状態として中空糸膜モジュールを製造した場合は、ポッティング加工部分における該ポッティング樹脂部分に、未含浸が原因である「す」によるリークが多く発生し、製造歩留りが極めて低くなるという問題があった。
また、ポッティング樹脂を流動させるためには、液体とポッティング樹脂の比重を調整する必要があり、工程が煩雑になるという問題があった。
【0008】
【特許文献1】
【特開平1−281104号公報】
【特許文献2】
【特開平8−318139号公報】
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、モジュールケースと中空糸膜相互とが高度に液密或いは気密に接着固定された中空糸膜モジュールを提供すること目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明の要旨は、複数の中空糸膜のポッティング加工部に、熱可塑性樹脂の粉末と液体の混合物を付着させる工程(A)と、
該熱可塑性樹脂の粉末を加熱し、溶融させて、該中空糸膜の少なくとも一方の端部とモジュールケースの端部とを接着する工程(B)と、
を含むと共に、
該工程(B)の加熱温度における該中空糸膜の熱収縮率をR1とし、
該工程(A)において、該混合物の体積に占める該液体の体積率をR2としたとき、
以下の関係式(1)を満足する中空糸膜モジュールの製造方法。
関係式(1) 0.85≦R2/R1≦1.15
である。
【0011】
また、前記中空糸膜の熱収縮率R1が、以下の関係式(2)を満足すると、ポッティング部を確実に封止できると共に、中空糸膜の損傷が起こることが無いため好ましい。
関係式(2) 0.3≦R1≦0.7
また、前記工程(A)と、前記工程(B)との間に、前記混合物を加熱し、前記液体を蒸発させる工程(C)を有すると共に、工程(C)の加熱温度における前記中空糸膜の熱収縮率をR3としたとき、以下の関係式(3)を満足すると、ポッティング加工時に悪影響を受けることが無いため好ましい。
関係式(3) 0.05R3
【0012】
前記工程(B)において、前記モジュールケースを回転させて、前記モジュールケース端部に遠心力を付与すると、中空糸膜を確実に封止固定できるため好ましい。付与する遠心力は、重力の1〜100倍であることが好ましい。
また、前記液体がアルコール系液体であると、蒸発し易く、かつ安全性が高いため好ましい。
【0013】
また、固定部における前記中空糸膜の充填率が40%以上75%以下であると、本発明の製造方法がより効果的である。
また、前記中空糸膜、前記熱可塑性樹脂のいずれか又は両方がポリオレフィン系樹脂であると、接着性が高くかつ溶出が少ないため好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン樹脂がより好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を基に本発明について詳しく説明する。
図1は、本発明によって得られる中空糸膜モジュールを模式的に示した断面図であり、図2は、本発明の製造方法に使用する中空糸膜の一例を模式的に示したものである。
【0015】
本発明の中空糸膜モジュール1の製造方法は、まず複数の中空糸膜5に、熱可塑性樹脂の粉末と液体の混合物4を付着させる工程(A)と、
熱可塑性樹脂の粉末を加熱し、溶融させて、中空糸膜5の少なくとも一方の端部とモジュールケース2の端部とを接着する工程(B)とを含んでなる。
【0016】
このとき、工程(B)の加熱温度における中空糸膜5の熱収縮率をR1とし、工程(A)において、混合物4の体積に占める液体の体積率をR2としたとき、本発明は、以下の関係式(1)を満足する。
関係式(1) 0.85≦R2/R1≦1.15
【0017】
ここで、工程(B)の加熱温度における中空糸膜5の熱収縮率R1は、加熱前の中空糸膜5の長さをLとし、工程(B)の加熱温度及び加熱時間にて加熱した後の中空糸膜5の長さをLとしたとき、(L−L)/Lで表される。また、混合物4の体積に占める液体の体積率R2は、液体の体積をVとし、液体に熱可塑性樹脂の粉末を混合した後の混合物4の体積をVとしたとき、V/Vで表される。
【0018】
混合物4を中空糸膜5に付着させた後に加熱を行い、液体を蒸発させると、一旦は熱可塑性樹脂の粉末が中空糸膜5の外周部に付着した状態となるが、熱可塑性樹脂の粉末の間には空隙が存在しているため、中空糸膜束間に空隙を有する状態となる。
【0019】
従ってこの状態でポッティング加工部を加熱し、熱可塑性樹脂の粉末を溶融状態となした場合、高粘度である溶融状熱可塑性樹脂は流動性が悪いため、このままでは中空糸膜5間の空隙部分に樹脂が行き亘らず、「す」の発生原因となりやすい。
【0020】
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法は、R2/R1を前記関係式(1)の範囲としているため、混合物4から液体が蒸発したあとの空隙が、中空糸膜5の収縮に伴い適度に埋まることから、「す」の発生を抑え、良好な品質の中空糸膜モジュールを得ることができる。
【0021】
R2/R1が0.85よりも小さい場合は、熱可塑性樹脂の粉末が多くなりすぎて中空糸膜5間への含浸が著しく困難になり、得られる中空糸膜モジュール13の「す」の発生を低減させることが困難になる。一方、R2/R1が1.15よりも大きい場合は、液体の蒸発によって生じる空隙が大きくなり、得られる中空糸膜モジュールのポッティング加工部における「す」の発生が発現する傾向になる。
【0022】
中空糸膜5の熱収縮率R1は、以下の関係式(2)の範囲であることがより好ましい。
関係式(2) 0.3≦R1≦0.7
これは、中空糸膜5の熱収縮率R1が小さすぎると、収縮によって熱可塑性樹脂の粉末の空隙を埋める効果が得られなくなる一方、熱収縮率R1が大きすぎると、収縮の際に、熱可塑性樹脂がモジュールケース2の内壁にこすり付けられ、内壁に付着することがあるため、熱可塑性樹脂の粉末が存在する部分の幅が広くなり、中空糸膜5の膜面が塞がれたり、「す」ができ易くなったりする可能性が出てくるためである。
【0023】
なお、混合物4は、熱可塑性樹脂粉体が液体中に単に分散しているスラリー、熱可塑性樹脂粉体が、乳化剤や分散剤等によって均一に乳化しているエマルジョン、或いは熱可塑性樹脂粉体に少量の液体を添加したペースト状、等のいずれであっても使用することはできるが、流動性が高いと、所定の位置に保持させることが困難になる。従って、混合物4は形態保持性を有することが好ましい。
【0024】
混合物中4の液体の割合は、具体的には50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。なお、液体の割合が低すぎると熱可塑性樹脂紛体同士の凝集が大きくなるため、液体の割合の下限は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
【0025】
混合物4に使用する液体としては、水、或いはアルコール類やエステル系溶媒等の有機系溶媒を使用することができる。また、単一の液体であっても混合液体でもよいが、加熱によって液体が完全に除去されることが好ましい。これは、ポッティング部9に液体が残存していると、この残存液体に起因するポッティング加工部の強度低下が生じたり、或いは残存液体が溶出したりして、中空糸膜モジュールの性能が低下することがあるためである。
従って液体は、沸点が低く、また、安全性が高いことが好ましく、アルコール系液体であることが好ましい。
【0026】
混合物4に使用する熱可塑性樹脂としては、その形状が、球状、矩形状、針状、楕円状等のいかなるものであっても使用可能である。その大きさは、あまりに小さいと、利用する中空糸膜によっては、微粒子が膜に形成されている細孔を通り抜けて中空糸膜の中空内部に侵入する恐れが出る。
【0027】
このため、微粒子の大きさの下限としては、膜の孔径以上とする必要がある。使用する膜の孔径にもよるが、具体的には形状が球形の場合、平均粒径として0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましい。
なお、形状が球形以外の場合、最も長い部位の長さが前述の範囲となるものを使用することが好ましい。
【0028】
一方粒子が大き過ぎると、中空糸膜5の間に保持された微粒子同士の間に隙間が生じ易く、ポッティング部9に「す」が生じることがあり、リークの原因になる恐れがある。
このため、例えば球状の微粒子を用いた場合、平均粒径は5000μm以下が好ましく、2500μm以下がより好ましく、1000μm以下が更に好ましい。なお、形状が球形以外の場合、最も長い部位の長さが前述の範囲となるものを使用することが好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂粉体の材質は、各種溶剤や薬品への耐久性や機械的な強度等の点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂の中でも、ポッティング加工時の取り扱い性、薬液への溶出の低さ等の点から、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0030】
熱可塑性樹脂粉体は、ポリオレフィン樹脂の場合、重量平均分子量が10000より小さいと、得られる中空糸膜モジュールのポッティング部9の機械的強度や靭性が不十分になり、長期間の使用に耐え得る耐久性や耐衝撃性等が得られなくなる。このために、重量平均分子量が10000以上の熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法において用いられる中空糸膜5は、種々のものが使用でき、例えばセルロース系、ポリオレフィン系、ポリビニルアルコール系、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)系、ポリスルフォン系,PVDFやPTFE等のフッ素系など、各種材科からなる中空糸膜5が使用できる。
中空糸膜5は、多孔質膜であっても、非多孔の均質膜であってもよい。また、膜の構造は、均一な内部構造を有する膜であっても、或いは多孔質層と均質層との両方を具備する複合膜であってもよい。
【0032】
特に溶剤濾過や溶剤からのガス分離、パーベーパレーション等の用途に供するときには、耐溶剤性や低溶出性が要求されること、及び固定樹脂との接着性等を考慮すると、中空糸膜5の材質はポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0033】
本発明に使用するモジュールケース2は、金属製や樹脂製のケースを使用できるが、加工性や価格等の点から樹脂製であることが好ましく、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が好適である。
モジュールケース2の材質は、溶剤濾過や溶剤からのガス分離、パーベーパレーション等の用途に供するときには、中空糸膜5の素材と同様に、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0034】
中空糸膜5は、図2に示すようなシート状に並べたものを使用すると、簡便かつ均一に混合物4を付着させることができるため好ましい。
中空糸膜5をシート状に並べるにあたっては、所定の長さを有する中空糸膜を一本づつ並べていってもよいが、編織物に加工した中空糸膜を用いると、ハンドリング性が抜群に向上するため好ましい。
【0035】
シート状中空糸膜6は、中空糸膜5を一定の長さで折り返しながら編んだものを用いても良いし、所定の長さに切断した中空糸膜5を簾状に編んだものを用いても良い。このとき、中空糸膜5を一本づつ編んでも構わないが、複数本の中空糸膜5を糸条等により結束させて一つの小集束体3とすると、シート状中空糸膜が大きくなりすぎず、加工作業が容易となるため好ましい。
【0036】
この際、小集束体3は、中空糸膜総本数の1/50以下の本数を構成単位とすると、固定に使用する熱可塑性樹脂の含浸が良好となるため好ましい。また、シート状中空糸膜を巻いた時に、滑らかな円筒形状であるとモジュールケース2内に挿入し易くなるため、小集束体3は、中空糸膜総本数の1/100以下の本数を構成単位とすることがより好ましい。
【0037】
小集束体3を結束するにあたっては、接着剤やスリットテープ等の結束機能を有するものを用いることが可能であるが、連続糸条を用いると、熱可塑性樹脂の含浸の妨げにならないため好ましい。
また、連続糸条による結束は、連続糸条の結束張力を変更可能であり、小集束体3の結束力を調整可能とする面でも好ましい。連続糸条は、構成する糸条がモノフィラメントであっても、マルチフィラメントであっても、それらの混合物で会っても差し支えないが、マルチフィラメントを用いることは、中空糸膜5表面の損傷を防止できるため好ましい。
【0038】
混合物4をシート状中空糸膜6の所定の位置に塗布するにあたっては、塗布量が多すぎると中空糸膜5の濾過性能を有する部分が減少する一方、少なすぎるとシール性や耐圧性能が劣るため、適度な塗工面積を定めることが好ましい。
混合物4の塗布方法には、へらによる塗布方法やディスペンサーによる供給方法、あるいはドクターブレードやダイスを用いた一般的なコーティング方法を用いることが可能である。
【0039】
ここで、混合物4をシート状中空糸膜6に塗布している最中か、又は塗布した後に、混合物4が担持されている部位に外力を加え、シート状中空糸膜6への混合物4の付着の均一性を向上させても構わない。加える外力の大きさとしては、1KPa〜1MPaの範囲であり、10KPa〜500KPaの範囲がより好ましい。
【0040】
中空糸膜5に混合物4を付着させたあとは、中空糸膜5をモジュールケース2に収納する。
ここで、シート状中空糸膜6を巻きつけ、概円筒形状とさせてモジュールケース2に挿入すると、モジュールケース2内で、中空糸膜5が概ね均一に配置されることが可能となる。均一に配置されているため、確実に樹脂固定され、圧力条件下で使用する際の耐圧性能を発揮することが可能となり、リークの発生を抑制することが可能となる。
【0041】
また、混合物4が付着している部分に、さらに外力を加えても良い。ここで加える外力は、1KPa〜5MPa程度であり、これによって混合物4の含浸性をさらに良好とすることができる。なお、外力を加える方法は特に限定されない。また、シート状中空糸膜6をモジュールケース2に挿入した後に行っても、挿入する前に行っても構わない。モジュールケース2に挿入した後に行う場合は、例えば、加震機やタッピング機構などの装置を用いることができる。モジュールケース2に挿入する前に行う場合は、例えば円筒形状の中空糸膜5の上にフィルム等を巻いた後に、人手で一度あるいは繰り返し把持することにより外力を与えることができる。
【0042】
モジュールケース2内のポッティング加工部における中空糸膜5の充填率(ポッティング部断面積に対する、外径ベースの中空糸膜の合計断面積が占める割合)は、本発明では、40%〜75%という高い充填率であっても、「す」によるリークを発生させることなく、中空糸膜モジュールを作成することが可能である。
充填率は、下限は42.5%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。上限は、65%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
【0043】
混合物4から液体を蒸発除去させるにあたっては、中空糸膜5とモジュールケース2の接着を行う前記工程(B)における加熱によって行うこともできるが、液体が完全に蒸発する前に中空糸膜5が収縮してしまい、空隙を埋める効果が不十分となる可能性がある。
従って、前記工程(A)と、前記工程(B)との間に、混合物4を加熱し、液体を蒸発させる工程(C)を行うことがより好ましい。
【0044】
また、この工程(C)の加熱温度における中空糸膜5の熱収縮率R3は、以下の関係式(3)を満足することが好ましい。
関係式(3) 0.05R3
これは、工程(C)において中空糸膜5が収縮するのをできる限り防ぎ、後の工程(B)において、中空糸膜5の収縮によって空隙を埋める効果を十分に発揮させるためである。
なお、工程(C)の加熱温度における中空糸膜5の熱収縮率R3は、加熱前の中空糸膜5の長さをLとし、工程(C)の加熱温度及び加熱時間にて加熱した後の中空糸膜5の長さをLとしたとき、(L−L)/Lで表される。
【0045】
熱可塑性樹脂粉体の加熱による溶融接着は、加熱体をモジュールケース2にほぼ接触させた状態で加熱する直接加熱方法や、加熱体をモジュールケース2に接触させない間接加熱方法があるが、直接加熱方法が熱伝達効率はより良好である。
【0046】
加熱体の配置については、中空糸膜5の端面方向や、モジュールケース2の周囲方向や、又はこれらを組み合わせた加熱方法が挙げられ、これらのいずれの方法を用いても差し支えないが、溶融含浸されるときの熱可塑性樹脂粉体の温度を極力均一にし、粘度を均一にすることが、中空糸膜間への均一な含浸を可能にし、得られた中空糸膜モジュールのポッティングリークの防止を可能にする。
【0047】
従って、熱可塑性樹脂粉体の温度は、中空糸膜束の繊維軸方向、あるいはこれに垂直な断面方向、に関わらず一定であることが好ましく、熱可塑性樹脂粉体を加熱溶融させるために必要な加熱熱量は、熱可塑性樹脂粉体以外の物質に極力伝熱浪費されないことが好ましい。
【0048】
加熱にあたっては、モジュールケースを回転させ、端部に遠心力を与えることによって、溶融した熱可塑性樹脂の含浸を向上させることが好ましい。
加熱溶融後は、冷却して熱可塑性樹脂を固化させる。冷却は強制的に冷却することもできるが、加熱を停止した後、室温状態で放置すればよい。
【0049】
このように中空糸膜5の端部を熱可塑性樹脂によってモジュールケース2に固定したあと、端部を適当な手段により切断して開口部を形成することによって、中空糸膜モジュールを得る事ができる。
【0050】
【実施例】
以下、実施例を基に本発明について更に詳細に説明する。
【0051】
<実施例1>
外径320μm、内径200μm、孔径0.03μmのポリエチレン製(融点:132℃)多孔質中空糸膜32本を構成単位とする小集束体を、連続的に所定の長さで規則正しく折り返し、隣り合う端部の相互を糸で拘束し、小集束体が135束連結したシート状中空糸膜を作成した。
【0052】
このシート状中空糸膜の片端部のポッティング加工部に、重量平均分子量84000のポリエチレン樹脂の球状微粉末(平均粒子径:6μm)をエチルアルコールに分散させた混合物を、へらを用いて、ポッティング加工部に巾30mmにわたり、押し付けて塗布する工程(A)を行った。このとき、混合物の体積に占める液体の体積率R2は0.4であった。
【0053】
次に、シート状中空糸膜を中空糸膜の配列方向に巻いて円筒状とし、これを直径40mm、厚さ3.7mmのポリプロピレン製モジュールケース内に挿入した。このときのモジュールケース内の中空糸膜の充填率は48%であった。
【0054】
そして、モジュールケースを熱風乾燥炉中で40℃、8時間加熱し、液体を完全に乾燥させる工程(C)を行った。乾燥状態については、乾燥前の質量と乾燥後の質量を測定し、その差が用いた液体の質量と同じであることを確認した。
この工程(C)における中空糸膜の熱収縮率R3は0であった。
【0055】
このモジュールケースの端部から30mmの範囲、及び端部断面方向を加熱部材で覆い、加熱してポッティング加工する工程(B)を行った。なお、このポッティング加工の加熱温度は127±3℃とし、重力の30倍の力を付加した状態で4時間の遠心加熱を行った。
このとき、中空糸膜の熱収縮率R1は0.4であった。
すなわち、R2/R1=1.0であった。
【0056】
このモジュールケースの外周部分にシール部材を介し、外周にねじ加工が施された外筒を配置すると共に、中空糸膜モジュール中間体の断面方向にOリングを介し、導通管を配置し、更に袋ナットを外筒のねじ部にねじ込みながら、該導水管を締結し、中空糸膜モジュールを10体得た。
得られた中空糸膜モジュールは、液体やガスの濾過に用いることができ、ポッティング部では、一次側と二次側とに密にシールされていた。また、0.5MPaの水圧を中空糸膜の外側から加えて、端面での水漏れの有無を確認することによるリーク検査を行ったところ、10体すべてにおいてリークはなかった。
【0057】
<比較例1>
工程(B)における熱収縮率R1が0.1となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、中空糸膜モジュールを10体作成した。
実施例1と同様にリーク検査を実施したところ、3体にリークを確認した。これらリークが発生した中空糸膜モジュールのポッティング加工部を観察したところ、何れも「す」が確認された。
【0058】
工程(B)における熱収縮率R1が0.1となり、混合物の体積に占める液体の体積率R2を0.2(すなわち、R2/R1=2.0)とした以外は、実施例1と同様にして、中空糸膜モジュールを10体作成した。
実施例1と同様にリーク検査を実施したところ、9体にリークを確認した。これらリークが発生した中空糸膜モジュールのポッティング加工部を観察したところ、混合物の中空糸膜への塗布斑が原因であると推察される大きな「す」が確認された。
【0059】
混合物の体積に占める液体の体積率R2を0.7(すなわち、R2/R1=1.75)とした以外は、実施例1と同様にして、中空糸膜モジュールを10体作成した。
実施例1と同様にリーク検査を実施したところ、2体にリークを確認した。これらリークが発生した中空糸膜モジュールのポッティング加工部を観察したところ、混合物の希釈が原因と推察される「す」が確認された。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法は、液体と熱可塑性樹脂の粉末の混合物を中空糸膜に付着させた後、加熱溶融させてポッティングを行うにあたり、溶融加熱温度における中空糸膜の熱収縮率をR1とし、混合物の体積に占める液体の体積率をR2としたとき、0.85≦R2/R1≦1.15の範囲で加熱を行うため、液体の蒸発によって生じる空隙を、中空糸膜の収縮が適度に埋める為、中空糸膜同士の間に確実にポッティング樹脂を含浸させることができ、リークの発生を抑えることができる。
また、このとき、中空糸膜の熱収縮率R1を、0.3≦R1≦0.7とすることにより、より確実に空隙を埋めることが可能となる。
また、熱可塑性樹脂の粉末の溶融加熱を行う前に、混合物から液体を蒸発させる加熱を行い、この時の温度における中空糸膜の熱収縮率R3を0.05以下とすることにより、より確実にポッティング樹脂を含浸させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の製造方法による中空糸膜モジュールの一例を示す断面図である。
【図2】 本発明の中空糸膜モジュールの製造方法に使用するシート状中空糸膜の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1 中空糸膜モジュール
2 モジュールケース
3 小集束体
4 混合物
5 中空糸膜
6 シート状中空糸膜
9 ポッティング部

Claims (8)

  1. 複数の中空糸膜のポッティング加工部に、熱可塑性樹脂の粉末と液体の混合物を付着させる工程(A)と、
    該熱可塑性樹脂の粉末を加熱し、溶融させて、該中空糸膜の少なくとも一方の端部とモジュールケースの端部とを接着する工程(B)と、
    を含むと共に、
    該工程(B)の加熱温度における該中空糸膜の熱収縮率をR1とし、
    該工程(A)において、該混合物の体積に占める該液体の体積率をR2としたとき、
    以下の関係式(1)を満足する中空糸膜モジュールの製造方法。
    関係式(1) 0.85≦R2/R1≦1.15
  2. 前記中空糸膜の熱収縮率R1が、以下の関係式(2)を満足する請求項1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
    関係式(2) 0.3≦R1≦0.7
  3. 前記工程(A)と、前記工程(B)との間に、前記混合物を加熱し、前記液体を蒸発させる工程(C)を有すると共に、該工程(C)の加熱温度における前記中空糸膜の熱収縮率をR3としたとき、以下の関係式(3)を満足する請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
    関係式(3) 0.05R3
  4. 前記工程(B)において、前記モジュールケースを回転させて、前記モジュールケース端部に遠心力を付与する請求項1〜3いずれか一項に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
  5. 前記工程(B)において付与する遠心力が、重力の1〜100倍である請求項4に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
  6. 前記液体がアルコール系液体である請求項1〜5いずれか一項に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
  7. 前記中空糸膜が、中空糸膜総本数の1/50以下の本数を構成単位とする小集束体の集合体からなる請求項1〜6いずれか一項に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
  8. 固定部における前記中空糸膜の充填率が40%以上75%以下である請求項1〜7いずれか一項に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
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