JP3975143B2 - 中空糸膜モジュールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体又は気体の濾過や分離処理等に用いられる中空糸膜モジュールの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
膜モジュールは、近年、工業分野、医療分野、食品分野等での液体や気体の濾過或いは分離等に多用されており、特に工業分野においては、溶剤濾過、液体中の気体分離、パーベーパレーション等の機能を備えた膜モジュールが要求されている。
【0003】
このような分野に用いられる膜モジュールとしては、従来平膜を用いた膜モジュールが一般的であったが、最近では、膜モジュール容積あたりの膜面積が平膜よりも大くなる中空糸膜を用いた膜モジュール、すなわち、モジュールケース内に中空糸膜を配置し、このモジュールケースと中空糸膜相互とを、ポッティング用樹脂によって液密或いは気密に接着固定するポッティング部を形成して構成した中空糸膜モジュールが利用されている。
【0004】
ところで、中空糸膜モジュールを用いる濾過或いは分離は、一次側から二次側への圧力が掛かる条件下で実施されるものであるために、モジュールケースと中空糸膜相互との間に高い封止性及び接着性が要求されており、前記ポッティング用樹脂として、従来、エポキシ樹脂やウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられている。
【0005】
しかるに、この中空糸膜モジュールをパーベーパレーションや溶剤濾過、溶剤処理等に利用すると、溶剤や薬液によって前記ポッティング用樹脂が膨潤、溶出して、クラック等が発生し、これに伴って接着性の低下、リークの発生、処理物の純度低下等の問題を生じる。又、ポリオレフィン系樹脂による中空糸膜を使用すると、該中空糸膜はその表面が疎水性であるために、前記エポキシ樹脂やウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂からなるポッティング用樹脂との間の濡れ性が悪く、中空糸膜相互の間に高い封止性及び接着性を具備するポッティング部を形成することが困難である。
【0006】
これに対して、前記エポキシ樹脂やウレタン樹脂等のポッティング用樹脂による欠点を改善する目的で、熱可塑性樹脂をポッティング用樹脂として使用し、該ポッティング用樹脂の溶融物をポッティング加工部の中空糸膜相互の間に侵入させ、これを冷却固化してポッティング部を形成することによって中空糸膜モジュールを得る方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、この方法ではポッティング用樹脂としての熱可塑性樹脂粉末を中空糸膜相互間に均一に侵入させ難く、特にモジュールケース内の中空糸膜の充填率を高くしたときにその傾向が強く、このために得られる中空糸膜モジュールのポッティング部に「す」が生じてしまい、モジュールケースと中空糸膜相互とを液密或いは気密に接着固定することが困難である。
【0008】
なお、ポッティング用樹脂の冷却固化の際に遠心加速度を与えることによって、ポッティング用樹脂の硬化収縮によるボイドの発生を抑え得ることが知られている(例えば特許文献3参照)が、ポッティング用樹脂の冷却固化段階にて遠心加速度を与えるようにしても、このときにはポッティング用樹脂の流動性が既に低下し始めているために、ポッティング用樹脂間に大きなボイドが発生しているときにはそれを埋めることが困難であり、得られる中空糸膜モジュールのポッティング部に「す」が生じてしまう前記問題を依然として解決することができない。
【0009】
又、ポッティング用樹脂としての熱可塑性樹脂粉末を該樹脂粉末の高濃度懸濁液にしてから、該高濃度懸濁液をポッティング加工部の中空糸膜相互間に侵入させる方法が知られている(例えば特許文献4、特許文献5参照)が、これによってもポッティング用樹脂としての熱可塑性樹脂粉末を中空糸膜相互間に均一に侵入させることが困難であり、得られる中空糸膜モジュールのポッティング部に生じる「す」の問題を解決することはできない。
【0010】
更に、ポッティング用樹脂としての熱可塑性樹脂を該樹脂の水性ディスパージョンにしてから、該水性ディスパージョンをポッティング加工部の中空糸膜相互間とに侵入させる方法も知られている(例えば特許文献6参照)が、この方法によっても、モジュールケース内の中空糸膜を数千本以上の高密度充填にすると中空糸膜間の空隙が小さくなるために、中空糸膜相互間にポッティング用樹脂を均一に侵入させることができなく、「す」が発生しているポッティング部が形成されてしまう。
【0011】
【特許文献1】
特開平1−293105号公報
【特許文献2】
特開平8−266872号公報
【特許文献3】
特開平8−266872号公報
【特許文献4】
特開平4−63117号公報
【特許文献5】
特開平8−318139号公報
【特許文献6】
特開昭64−47409号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明が解決しようとする課題は、使用する中空糸膜の特性を損なうことなく、ポッティング用樹脂によってモジュールケースと中空糸膜相互とを高度の液密或いは気密に接着固定したポッテング部を形成する中空糸膜モジュールの製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記課題は、以下に記載する構成による本発明の中空糸膜モジュールの製造方法によって解決することができる。
【0014】
すなわち本発明は、モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜の片端或いは両端を、該中空糸膜の開口部を保持したまま別の熱可塑性樹脂からなるポッティング用樹脂によって、該ポッティング用樹脂と中空糸膜及びモジュールケースとの相互を接着固定するポッティング加工を行なう中空糸膜モジュールの製造方法において、ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂を、該ポッティング用樹脂の融点以上であって、しかも前記中空糸膜の融点よりも20℃以上低い温度に加熱すると共に、前記ポッティング加工部に重力の10〜100倍の遠心力を付加する中空糸膜モジュールの製造方法からなる。
【0015】
前記構成による本発明の中空糸膜モジュールの製造方法においては、ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂が熱可塑性樹脂微粒子からなり、該熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物がポッティング加工部に充填してあることが好ましい。又、熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物としては、熱可塑性樹脂微粒子の割合が30〜95wt.%のペーストが好ましい。更に、熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物としては、ビンガム流動を示すものであって、しかもこのビンガム流動を示す混合物の流動し始める降伏応力が0.1〜10000Paであるものが好ましい。
【0016】
前記構成による本発明の中空糸膜モジュールの製造方法においては、ポッティング加工の際の加熱を、ポッティング加工部のみを加熱する方式で行なうことが好ましい。
【0017】
又、前記構成による本発明の中空糸膜モジュールの製造方法においては、中空糸膜としてポリオレフィン系樹脂製の中空糸膜を使用することが好ましい。
【0018】
更に又、前記構成による本発明の中空糸膜モジュールの製造方法においては、ポッティング用樹脂としてポリオレフィン系樹脂を使用することが好ましい。
【0019】
又、前記構成による本発明の中空糸膜モジュールの製造方法においては、中空糸膜の少なくともポッティング用樹脂と接する部分がポリエチレン樹脂からなる中空糸膜と、ポリエチレン樹脂からなるポッティング用樹脂とを使用することが好ましい。
【0020】
更に、前記構成による本発明の中空糸膜モジュールの製造方法においては、ポッティング用樹脂として、重量平均分子量10000以上の熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0021】
又、前記構成による本発明の中空糸膜モジュールの製造方法においては、モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜の本数が1000〜100000であって、かつモジュールケース内のポッティング加工部の中空糸膜の充填率が20〜60%であることが好ましい。
【0022】
更に、前記構成による本発明の中空糸膜モジュールの製造方法においては、モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜が、1本或いは複数本の中空糸膜が所定の長さで折り返され、その折り返されたループ状をなす隣接する端部の相互を糸条で拘束してなるシート状の中空糸膜編織物からなるものであることが好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明は、熱可塑性樹脂をポッティング用樹脂として使用し、モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜の片端或いは両端を、前記ポッティング用樹脂によって、該ポッティング用樹脂と中空糸膜及びモジュールケースとの相互を接着固定するポッティング加工を行なう中空糸膜モジュールの製造方法であって、ポッティング加工部に充填したポッティング用樹脂を、該ポッティング用樹脂の融点以上であって、しかも前記中空糸膜の融点よりも20℃以上低い温度に加熱すると共に、前記ポッティング加工部に重力の10〜100倍の遠心力を付加して、ポッティング部を形成する中空糸膜モジュールの製造方法からなる。
【0024】
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法において用いられる中空糸膜は、該中空糸膜を得るときの製膜の安定性、耐薬品性、一般的な分離性能や処理性能等の点から、熱可塑性樹脂製の中空糸膜を使用する。中空糸膜モジュールを得るための加工時に要求される中空糸膜の柔軟性、強度、素材の耐薬品性、低コスト性等の点から、特にポリオレフィン系樹脂による中空糸膜が好ましく、中でもポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等による中空糸膜が好適である。
【0025】
なお、中空糸膜は、通常の濾過に用いるような多孔質膜であっても、或いはガス分離等に用いるような非多孔の均質膜であってもよい。又、膜の構造は、均一な内部構造を有する膜であっても、或いは多孔質層と均質層との両方を具備する複合膜であってもよい。
【0026】
モジュールケース内のポッティング加工部における中空糸膜の充填率は特に制限されるものではないが、モジュール1本あたりの処理性能、モジュール内での中空糸膜の分散の均一性、ポッティング用樹脂の加熱、冷却による体積収縮による内部応力の緩和等を考慮すると、好ましくは充填率20%以上であり、より好ましくは充填率30%であり、更に好ましくは充填率40%以上である。又ポッティング用樹脂の中空糸膜間相互への均一な侵入を考慮すると、充填率60%以下が好ましく、充填率55%以下がより好ましく、充填率50%以下が更に好ましい。
【0027】
中空糸膜を収納するモジュールケースとしては、金属製や樹脂製のケースが使用されるが、モジュールケース自体の加工性や価格等の点から樹脂製であることが好ましく、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリアセタール系樹脂等によるケースが好適である。
【0028】
なお、特に溶剤濾過や溶剤からのガス分離、パーベーパレーション等の用途に供される中空糸膜モジュールにするときには、該中空糸膜モジュールに耐溶剤性や低溶出性が要求されるために、ポッティング用樹脂との接着性等をも考慮すると、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂製のモジュールケースが好ましい。
【0029】
又、中空糸膜モジュールには、モジュール内への被処理流体の導入、及びモジュール内からの処理流体の排出のために、キャップや入口、出口等が取り付けられる。このときのキャップの素材は特に制限されるものではないが、モジュールケースへの取り付け易さや、中空糸膜モジュールの用途等を考慮して、モジュールケースの素材に応じた素材によるキャップを選択するのがよく、接着、溶着、螺着等任意の方法で取り付ければよい。
【0030】
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法において、ポッティング用樹脂による中空糸膜の端部相互及びモジュールケースとの接着固定は、以下のようにして行なわれる。
【0031】
すなわち、例えば複数本の中空糸膜を綛取りして中空糸膜集束体となし、この中空糸膜集束体の少なくとも一方の端部を揃え、適宜接着剤や熱融着によって該集束体端部、及び中空糸膜開口部があるときにはその開口部の閉塞をも含めて、仮固定する。
【0032】
又は、1本或いは複数本の中空糸膜が所定の長さで折り返され、その折り返されたループ状をなす隣接する端部の相互を糸条で拘束してなるシート状の中空糸膜編織物を、中空糸膜の配列方向と平行に渦巻状に巻き束ねて、つまりシート状の中空糸膜編織物を中空糸膜の配列方向と平行に簾巻き状に巻き束ねて、中空糸膜集束体にする。このようにシート状の中空糸膜編織物からなる中空糸膜を利用することにより、モジュールケース内にて均一に中空糸膜を配置することができるだけでなく、端部を揃えるための工程や開口部閉塞を目的とした仮固定工程等が不要になる。
【0033】
次いで、モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜の片端或いは両端を該中空糸膜の開口部を保持したまま、中空糸膜及びモジュールケースの相互を接着固定するためのポッティング用樹脂として、熱可塑性樹脂を用いる。このポッティング用樹脂としての熱可塑性樹脂には、各種溶剤や薬品への耐久性や機械的な強度等の点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂の中でも、ポッティング加工時の取り扱い性、薬液への溶出の低さ等の点から、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0034】
前記ポッティング用樹脂は、これが加熱及び遠心力の付加によるポッティング加工を受ける前に、ポッティング加工部に予め充填される。
【0035】
熱可塑性樹脂微粒子をポッティング用樹脂として使用し、該熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物をポッティング加工部に充填するようにすれば、ポッティング用樹脂を中空糸膜相互の間隙に均一に侵入させ易くなる。
【0036】
前記熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物は、熱可塑性樹脂微粒子が液体中に単に分散しているスラリー、熱可塑性樹脂微粒子が乳化剤や分散剤等によって均一に乳化しているエマルジョン、或いは熱可塑性樹脂微粒子に少量の液体を添加したペースト状等のいずれであってもよい。
【0037】
熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物にするときの液体は特に限定されるものではないが、水、或いはアルコール類やエステル系溶媒等の有機系溶媒を利用することができる。熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物にするときの液体は、単一の液体であっても或いは混合液体でもよい。
【0038】
なお、熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物として、熱可塑性樹脂微粒子が液体中に単に分散しているスラリーを使用するときには、分散させる熱可塑性樹脂微粒子の密度に合わせた比重を有する液体を調整し、これを使用した混合物にすることができる。例えばポリオレフィン系の熱可塑性樹脂微粒子に対しては、水とメタノール或いはエタノールとの混合液体にすることによって分散させる熱可塑性樹脂微粒子の密度に合わせた比重を有する液体を調整し、該液体と熱可塑性樹脂微粒子との混合物にすることが好ましい。
【0039】
又、熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物において、該混合物中の熱可塑性樹脂微粒子の割合が10wt.%よりも低くなると、ポッティング加工時に蒸発して消失する液体によって生じる体積の減少が大きくなるために、それだけ余分に中空糸膜間に前記混合物を塗布、含浸させなければならない。これはポッティング用樹脂で固定されていない中空糸膜の外表面の物性を損なうことに繋がるので、該混合物中の熱可塑性樹脂微粒子の割合の下限は10wt.%以上であり、30wt.%以上がより好ましく、55wt.%以上が更に好ましい。
【0040】
又、該混合物中の熱可塑性樹脂微粒子の割合が95wt.%よりも高くなると、熱可塑性樹脂微粒子同士の凝集が大きくなるために、前記混合物の均一な塗布が困難になる。このため、該混合物中の熱可塑性樹脂微粒子の割合の上限は95wt.%以下であり、85wt.%以下がより好ましく、75wt.%以下が更に好ましい。
【0041】
更に、熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物は、該混合物中のポッティング用樹脂である熱可塑性樹脂微粒子を塗ることのできる柔らかさを具備していて、かつ中空糸膜に塗布したときに塗布された場所から流れ出し難く、その場所に保持されているものであることが好ましい。
【0042】
このために、熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物は、積極的な外力がないと流動することのないビンガム流動を示すペーストであることが好ましい。
【0043】
ビンガム流動は、塑性流動を起こす流動物質であって、あるせん断応力(降伏応力)までは流動することが無く、降伏応力以上では、与えるせん断応力と降伏応力の差と、せん断応力とが比例するような流動を示すもので、次の式(1)で表わされる関係を有する。
τ−f =ηplD・・・・・・・・・・・・・・式(1)
(式(1)中、τはせん断応力(Pa)、f は降伏応力(Pa)、ηplは塑性粘度(Pa・s)、Dはせん断速度(/s)を表わす。)
【0044】
前記ビンガム流動を示す熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物の降伏応力が0.1Pa未満であるときは、該混合物はほとんど液体としての挙動を示すものであり、これは中空糸膜の集合体に塗布した時に中空糸間に留まり難く、流出し易くなる。又、10000Paを超えるときには、この混合物を流動させるのに大きな応力が必要であり、流動物質としては非常に硬いものであるので、中空糸膜の集合体に塗布することが難しく、又、中空糸膜相互の間隙にこのペーストを侵入させるのが困難になる。従って、ビンガム流動を示す熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物の降伏応力は、0.1〜10000Pa、より好ましくは1〜1000Paである。なお、ここでいう降伏応力は、温度25℃における値をいう。
【0045】
ポッティング用樹脂として使用する熱可塑性樹脂微粒子の形状は、球状、矩形状、針状、楕円状等のいかなるものであってもよい。
【0046】
更に、この熱可塑性樹脂微粒子はそのサイズがあまりに小さいと、利用する中空糸膜によっては該熱可塑性樹脂微粒子が膜に形成されている細孔を通り抜けて中空糸膜の中空内部を閉塞する恐れが出る。又大き過ぎると、中空糸膜間に保持された微粒子同士の間に隙間が生じ易く、この隙間のあるままでポッティング加工されてしまうと、得られるポッティング部に「す」が生じてリークの原因になる。このために、例えば球状の熱可塑性樹脂微粒子としては、平均粒子径0.1〜5000μm程度のものが好適であり、又、その他の形状の熱可塑性樹脂微粒子としては、最も短い辺の平均径が0.01〜5000μmであって、最も長い辺の平均径が0.1〜5000μmの範囲内にあるものが好ましい。
【0047】
ポッティング用樹脂として使用する熱可塑性樹脂の重量平均分子量が10000より小さいと、得られる中空糸膜モジュールのポッティング部の機械的強度や靭性が不十分になり、長期間の使用に耐え得る耐久性や耐衝撃性等が得られなくなる。このために、重量平均分子量が10000以上の熱可塑性樹脂をポッティング用樹脂として使用することが好ましい。
【0048】
ポッティング用樹脂としての熱可塑性樹脂をポッティング加工部に充填する操作は、中空糸膜を集束させて中空糸膜束にするのと同時であっても、或いは中空糸膜束を形成した後であってもよく、ポッティング用樹脂としての熱可塑性樹脂を、ポッティング加工部における中空糸膜の外表面及び中空糸膜間に、均一に充填させればよい。
【0049】
ポッティング加工部に前記ポッティング用樹脂を充填した後には、そのまま加熱及び遠心力の付加を行なってもよいが、この加熱及び遠心力の付加に先立って、ポッティング加工部に熱可塑性樹脂と共に充填されている液体の一部を脱液することにより、効果的なポッティング加工を行なうことができる。つまり、ポッティング加工部に熱可塑性樹脂と共に充填されている液体の一部を予め脱液しておくことにより、加熱及び遠心力の付加工程で蒸発させる液体を最小限に抑えることができるためにエネルギー効率がよくなり、液体が蒸発する時間を短縮させることができ、これによって生産性の向上を図ることが可能になる。
【0050】
ポッティング加工部に前記ポッティング用樹脂を充填した後の脱液は、ポッティング加工部にポッティング用樹脂を充填した中空糸膜束を、ウェスや紙等の上に垂直に立てて、ポッティング加工部の液体をウェスや紙に吸い取らせるようにすればよい。
【0051】
又、ポッティング加工部に前記ポッティング用樹脂を充填した後に、ポッティング加工部を加熱して該加工部の液体を強制的に蒸発させることによって完全に乾燥した状態にしてから、加熱及び遠心力の付加によるポッティング加工を行なうのも好適な方法である。つまり、ポッティング加工部に液体を介在させないで、加熱及び遠心力の付加によるポッティング加工を行なうことにより、加工時間の短縮を図れるだけでなく、液体が蒸発、気化するときの泡立ちに起因してポッティング部に生じる空洞の発生を防ぐことができ、更には、蒸発する液体を系外に排出する手段を遠心装置から省略することもできる。
【0052】
続いて、ポッティング加工部における中空糸膜間にポッティング用樹脂が均一に充填された中空糸膜束をモジュールケースに収納した後、加熱しながら該モジュールケースを回転させてポッティング加工部に遠心力を付加するポッティング加工を行なう。
【0053】
ポッティング加工を行なうときの加熱は、モジュール全体を加熱するような方式であっても、或いはポッティング加工部だけを局部的に加熱する方式であってもよい。使用した中空糸膜の耐熱性が低く、加熱によって収縮、溶融、性能低下等を引き起こすようなときには、ポッティング加工部だけを局部的に過熱すると共に、つまり中空糸膜がポッティング固定された後に該中空糸膜の端面開口部を形成するために切除する部分を含めた領域からなるポッティング加工部だけを局部的に加熱すると共に、遠心力の付加を行なうことが好ましい。
【0054】
ポッティング加工の際の加熱は、ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂が、該ポッティング用樹脂の融点以上であって、しかも前記中空糸膜の融点よりも20℃以上低い温度になるようにして行なう。つまり、ポッティング加工の際の加熱温度を、前記中空糸膜の融点よりも20℃以上低い温度に抑えることによって、ポッティング加工の加熱に起因する中空糸膜の収縮や微細構造の変化等が生じるのを避けることができ、これによって中空糸膜の分離性能や流体の透過性能の低下、或いは中空糸膜の損傷等を防止することができる。
【0055】
ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂が液体との混合物からなるものであるときには、ポッティング加工によって該混合物中の液体を完全に除去することが必要である。すなわち、ポッティング加工によって得られたポッティング部に液体が残存していると、この残存液体に起因するポッティング部の強度低下が生じたり、或いは残存液体が溶出したりして、モジュールの性能が低下することがある。
【0056】
従って、ポッティング加工部にポッティング用樹脂と共に充填された液体は、ポッティング加工の際の加熱によって全て蒸発させることが必要である。なお、加熱及び遠心力の付加によるポッティング加工を行なう前にポッティング加工部の液体を完全に乾燥させてあれば、残存液体による前記問題の発生は全く考慮する必要がなくなる。
【0057】
更に、ポッティング加工部を、ポッティング用樹脂の融点以上であって、しかも前記中空糸膜の融点よりも20℃以上低い温度に加熱するポッティング加工の際には、該ポッティング加工部に重力の10〜100倍の遠心力を付加することが必要である。
【0058】
[図1]及び[図2]は、ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂を加熱すると共に、該ポッティング加工部に遠心力を付加するポッティング加工を実施するときに使用する装置の1例の概要を示すものである。
【0059】
すなわち[図1]によるポッティング加工装置は、回転軸6と該回転軸6に取り付けてあるシャフト5と、このシャフト5の片方の先端に固定してあるヒーター兼モジュールケース固定治具4とからなるものであって、ヒーター兼モジュールケース固定治具4のモジュールケース固定部に、その内部に熱可塑性樹脂製の中空糸膜1が収納されていて、しかも該中空糸膜1の片端部に相当するポッティング加工部3にポッティング用樹脂が充填されているモジュールケース2を固定した後、前記ヒーター兼モジュールケース固定治具4のヒーター部に、回転軸6からシャフト5を経由して給電することにより、ヒーター部の温度を上昇させる。
【0060】
そして、前記ヒーター部は、シャフト5を回転させながら該ヒーター部の温度を上昇させ得るものであり、これによって、ポッティング加工部において、前記ヒーター兼モジュールケース固定治具4のヒーター部の内周面と、中空糸膜1の外側部或いはモジュールケースの外周面とが接触し、ポッティング加工部3のみの加熱によってポッティング加工を行なうことができる。なお、[図1]に示すポッティング加工装置のように、シャフト5を用いると回転半径を大きくとることができ、これによって、ポッティング加工部に大きな遠心力を与えることができる。
【0061】
又、[図2]によるポッティング加工装置は、回転軸6に取り付けてある回転板8の上面のモジュールケース固定部に、その内部に熱可塑性樹脂製の中空糸膜1が収納されていて、しかも該中空糸膜1の両端部に相当するポッティング加工部3にポッティング用樹脂が充填されているモジュールケース2を固定してなるものであり、このポッティング加工装置によれば、中空糸膜の両端部のポッティング加工部のポッティング加工を、同時工程によって実施することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0062】
なお、前記[図2]においては、予めポッティング加工用樹脂が充填されている中空糸膜1の両端部に相当するポッティング加工部3の末端部が、それぞれ固定治具7によって保持されており、これによって遠心に伴なうポッティング樹脂の漏れが無いようにシールされている。
【0063】
加熱は、モジュールが回転する雰囲気全体を加熱してもよく、或いは[図1]に示すようなポッティング加工部のみを加熱する方式でもよい。なお、モジュールが回転する雰囲気全体を加熱すると中空糸膜に悪影響を与えるような場合には、固定治具7としてヒーターの機能を具備するものを利用し、ヒーター兼固定時具7にすることが好ましい。このときのヒーターへの加熱は、回転軸6から回転板8を経由して給電することにより、ヒーター部の温度を上昇させる方式を採ることができる。
【0064】
前記ポッティング加工を行なうときに付加する遠心力が重力の10倍未満であると、特にモジュールケース内の中空糸膜の本数が多い場合や中空糸膜の充填率が高いときに、ポッティング加工部の中空糸膜間へのポッティング用樹脂の侵入が不十分になり易く、形成されるポッティング部での中空糸膜相互の間に「す」が発生する恐れがある。又この遠心力が重力の100倍を超えると、得られるポッティング部において中空糸膜が押しつぶされる恐れがある。このために、ポッティング加工を行なうときに付加する遠心力は、重力の10〜100倍にすることが必要であり、好ましくは重力の20〜80倍にするのが良い。
【0065】
かくして、ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂を、該ポッティング用樹脂の融点以上であって、しかも前記中空糸膜の融点よりも20℃以上低い温度に加熱すると共に、前記ポッティング加工部に重力の10〜100倍の遠心力を付加して、ポッティング用樹脂を中空糸膜相互間に均一に十分に行き渡らせた後、遠心力の付加を止めて冷却することにより、ポッティング用樹脂としての熱可塑性樹脂を固化させる。遠心力の付加を止めた後の冷却の方法は任意であり、急速冷却であっても、或いは徐冷であってもよい。
【0066】
続いて、ポッティング用樹脂の冷却固化後、ポッティング加工した部分の中空糸膜の端面を常法によってカットして開口端面を形成し、目的とするポッティング部を得る。
【0067】
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法は、前述の通り、ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂を、該ポッティング用樹脂の融点以上であって、しかも前記中空糸膜の融点よりも20℃以上低い温度に加熱すると共に、前記ポッティング加工部に重力の10〜100倍の遠心力を付加するポッティング加工を行なうものであるから、ポッティング加工部の中空糸膜相互の間へのポッティング用樹脂の侵入が極めて円滑である。このために、モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜の本数が多かったり、或いは該中空糸膜の充填率が高いときであっても、良好なポッティング加工を行なうことができる。
【0068】
なお、従来技術によるポッティング加工では、数百本程度の中空糸膜を充填した中空糸膜モジュールの加工例が示されているが、モジュールケース内にそれ以上の本数の中空糸膜を充填すると、中空糸膜間相互間にポッティング用樹脂が均一に浸入しにくくなるために、得られる中空糸膜モジュールのポッティング部に「す」が形成される可能性が高くなる。
【0069】
これに対して、本発明の中空糸膜モジュールの製造方法では、ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂の加熱と共に、ポッティング加工部に遠心力を付加する手段を採っているので、中空糸膜相互間に強制的にポッティング用樹脂を侵入させることができ、これによって、モジュールケース内に多数本の中空糸膜が充填されていても、或いは中空糸膜の充填率が高くても、良好なポッティング部を形成することができる。
【0070】
しかして、本発明の中空糸膜モジュールの製造方法においては、モジュールケース内の中空糸膜の本数が1000〜100000本程度であることが好ましく、又ポッティング加工部の中空糸膜の充填率が20〜60%程度であることが好ましい。なお、中空糸膜の太さについては特にこだわるものではないが、中空糸膜の外径が細いと中空糸膜間の隙間が小さくなってポッティング用樹脂が浸入しにくくなる。又中空糸膜の外径が太すぎると、多数本の中空糸膜によるモジュールにしたときのモジュール全体のサイズが大きくなりポッティング加工部の容積も大きくなるために、ポッティング加工時の収縮による寸法精度の低下が生じる。このために、中空糸膜の外径は、100〜2000μm程度であることが好ましい。
【0071】
【実施例】
以下、本発明の中空糸膜モジュールの製造方法の具体的な構成を、実施例に基づいて説明する。
【0072】
[実施例1]
外径320μm、内径200μm、孔径0.03μmのポリ(4−メチル−1−ペンテン)製(融点:230℃)多孔質中空糸膜の16本を1束として、連続的に所定の長さで規則正しく折り返し、その折り返された隣り合う端部の相互を糸で拘束して、合計400束、6400本の中空糸膜を具備するシート状の中空糸膜編織物を形成した後、中空糸膜の片端部のポッティング加工部に、ポリエチレン微粉末からなるポッティング用樹脂を分散させたエマルジョンを、均一に塗布した。
【0073】
前記ポッティング用樹脂として使用したポリエチレン微粉末は、重量平均分子量84000のポリエチレン樹脂の球状微粉末(平均粒子径:6μm)であり、該ポリエチレン微粉末の割合が30wt.%の水分散液からなるエマルジョンをポッティング加工部に塗布した。なお、このポリエチレン微粉末の割合が30wt.%の水分散液からなるエマルジョンは、ビンガム流動を示すものでは無かった。
【0074】
次いで、前記中空糸膜編織物を中空糸膜の配列方向に簾巻き状に巻き、これをポリプロピレン製モジュールケース内に挿入した。このときのモジュールケース内の中空糸膜の充填率は38%であった。
【0075】
然る後に、前記中空糸膜が収納されているモジュールケースを、[図2]に示すポッティング加工装置のモジュールケース固定治具7に固定し、その全体を加熱しながら回転軸6を回転させて、ポッティング加工部に遠心力を付加して、ポッティング加工を行なった。
【0076】
なお、モジュールケースの概略中央部を軸として回転させる際に、左右の質量バランスが取れるように、ポッティング加工を行なわない一方の端部には、ポッティング加工を行なう側のポッティング用樹脂に相当する質量の錘を、固定治具7に取り付けて、回転させた。
【0077】
又、回転する雰囲気全体を加熱する方式により、ポッティング加工の際の加熱温度を140℃、ポッティング加工部に加わる遠心力を重力の30倍にして、4時間の加熱及び遠心力の付加を行なった。
【0078】
続いて、室温まで徐冷した後、ポッティング加工した部分の中空糸膜の端部を常法によって切断して開口部を形成することにより、中空糸膜モジュールを得た。
【0079】
得られた中空糸膜モジュールは、液体やガスの濾過に用いることができ、ポッティング部では、一次側と二次側とに密にシールされており、リークはなかった。なお、中空糸膜モジュールのリーク検査は、0.5MPaの水圧を中空糸膜の外側から加えたときの端面での水漏れのチェックによって行なった。
【0080】
又、中空糸膜の開口部の目止めを行なった後に、中空糸膜の外側から0.5MPaの水圧を10秒間加えた後10秒間開放するというサイクルの繰り返し加圧試験を行なったところ、100,000回の繰り返しによっても、ポッティング部でのポッティング用樹脂の割れやモジュールケースとの間の剥離等によるリークの発生は無かった。
【0081】
[比較例1]
ポッティング加工の際にポッティング加工部に加わる遠心力を重力の5倍にする以外は、全て前記実施例1と同じ条件によるポッティング加工を施すことにより、比較のための中空糸膜モジュールを得た。
【0082】
得られた中空糸膜モジュールについて、実施例1と同様のリーク検査を行なったところ、中空糸膜モジュールの端面部からの水漏れがあり、ポッティング部に一次側と二次側とが連通する「す」の存在が確認された。
【0083】
[実施例2]
均質な中間層の両側を多孔質支持層によって挟み込んである三層の複合中空糸膜であって、均質な中間層がスチレン系熱可塑性エラストマーとポリプロピレンのブレンドポリマーによって形成されており、多孔質支持層が高密度ポリエチレン樹脂(融点:137℃)によって形成されている外径300μm、内径200μmの複合中空糸膜32本を1束として、連続的に所定の長さで規則正しく折り返し、その折り返された隣り合う端部の相互を糸で拘束して、合計280束、8960本の中空糸膜を有するシート状の中空糸膜編織物を形成した後、中空糸膜の両端部のポッティング加工部に、ポリエチレン微粉末からなるポッティング用樹脂と水/エタノール(重量比:7/3)とのペーストを、均一に塗布した。
【0084】
前記ポッティング用樹脂として使用したポリエチレン微粉末は、重量平均分子量120000のポリエチレン樹脂の球状微粉末(平均粒子径:20μm)であり、該ポリエチレン微粉末の割合が45wt.%のペーストをポッティング加工部に塗布した。なお、このポリエチレン微粉末の割合が45wt.%のペーストは、25℃において流動し始める降伏応力が40Paのビンガム流動を示すものであった。
【0085】
次いで、前記中空糸膜編織物を中空糸膜の配列方向に簾巻き状に巻き、これを高密度ポリエチレン製モジュールケース内に挿入した。このときのモジュールケース内の中空糸膜の充填率は45%であった。
【0086】
然る後に、前記中空糸膜が収納されているモジュールケースを、[図2]に示すポッティング加工装置のヒーター兼モジュールケース固定治具7のモジュールケース固定部に固定し、ポッティング加工部のみをそのポッティングケースの外側から加熱しながら回転軸6を回転させて、ポッティング加工部に遠心力を付加させるポッティング加工を行なった。なお、このポッティング加工は、加熱温度を110℃、ポッティング加工部に加わる遠心力を重力の32倍にして、4時間の加熱及び遠心力の付加によって行なった。
【0087】
続いて、室温まで徐冷した後、ポッティング加工した部分の中空糸膜の端部を常法によって切断して開口部を形成することにより、中空糸膜モジュールを得た。
【0088】
得られた中空糸膜モジュールは、液体中から気体を分離したり、液体に気体を溶解させたりする用途に用いることができ、ポッティング部では、一次側と二次側とに密にシールされており、リークはなかった。
【0089】
又、中空糸膜の両端の開口部から、0.5MPaの水圧を10秒間加えた後10秒間開放するというサイクルの繰り返し加圧試験を行なったところ、100,000回の繰り返しによっても、ポッティング部でのポッティング用樹脂の割れやモジュールケースとの間の剥離等によるリークの発生は無かった。
【0090】
[実施例3]
外径380μm、内径270μm、孔径0.1μmのポリエチレン樹脂(融点:133℃)製多孔質中空糸膜16本を1束として、連続的に所定の長さで規則正しく折り返し、その折り返された隣り合う端部の相互を糸で拘束して、合計280束、4480本の中空糸膜を有するシート状の中空糸膜編織物を形成した後、中空糸膜の両端部のポッティング加工部に、ポリエチレン微粉末からなるポッティング用樹脂とエタノールとのペーストを、均一に塗布した。
【0091】
前記ポッティング用樹脂として使用したポリエチレン微粉末は、重量平均分子量120000のポリエチレン樹脂の球状微粉末(平均粒子径:20μm)であり、該ポリエチレン微粉末の割合が85wt.%のペーストをポッティング加工部に塗布した。なお、このペーストは、25℃において流動し始める降伏応力が5000Paのビンガム流動を示すものであり、外力を加えない限り流動性を示さない比較的固い常温でのバター状のものであったために、へら状のスパチュラでこのペーストを採取し、中空糸膜の端部を押し広げるようにしてポッティング加工部に塗り付けた。
【0092】
次いで、前記中空糸膜編織物を中空糸膜の配列方向に簾巻き状に巻き、これを高密度ポリエチレン製モジュールケース内に挿入した。このときのモジュールケース内の中空糸膜の充填率は34%であった。
【0093】
然る後に、前記中空糸膜が収納されているモジュールケースを、[図1]に示すポッティング加工装置のヒーター兼モジュールケース固定治具4のモジュールケース固定部に固定し、まず一方の端部のポッティング加工部のみをそのポッティングケースの外側から加熱しながら回転軸6を回転させて、該ポッティング加工部に遠心力を付加し、ポッティング加工を行なった。なお、このポッティング加工の際の加熱温度を110℃、ポッティング加工部に加わる遠心力を重力の45倍にして、4時間の加熱及び遠心力の付加を行なった。
【0094】
続いて、もう一方の端部のポッティング加工部の加熱及び遠心力の付加を同様にして行ない、室温まで徐冷した後に、ポッティング加工した部分の中空糸膜の両端部を常法によって切断して開口部を形成することにより、中空糸膜モジュールを得た。
【0095】
得られた中空糸膜モジュールは、液体特に有機溶剤等の濾過に用いることができ、ポッティング部では、一次側と二次側とに密にシールされており、リークはなかった。
【0096】
又、中空糸膜モジュールの中空糸膜の開口部を樹脂で封止した後、中空糸膜の外側から0.5MPaの水圧を10秒間加えた後10秒間開放するというサイクルの繰り返し加圧試験を行なったところ、100,000回の繰り返しによっても、ポッティング部でのポッティング用樹脂の割れやモジュールケースとの間の剥離等によるリークの発生は無かった。
【0097】
[実施例4]
均質な中間層の両側を多孔質支持層によって挟み込んである三層の複合中空糸膜であって、均質な中間層が直鎖状低密度ポリエチレンによって形成されており、多孔質支持層が高密度ポリエチレン樹脂(融点:133℃)によって形成されている外径280μm、内径200μmの複合中空糸膜32本を1束として、連続的に所定の長さで規則正しく折り返し、その折り返された隣り合う端部の相互を糸で拘束して、合計260束、8320本の中空糸膜を有するシート状の中空糸膜編織物を形成した後、中空糸膜の両端部のポッティング加工部に、ポリエチレン微粉末からなるポッティング用樹脂とエタノールとのペーストを、均一に塗布した。
【0098】
前記ポッティング用樹脂として使用したポリエチレン微粉末は、重量平均分子量120000のポリエチレン樹脂の球状微粉末(平均粒子径:20μm)であり、該ポリエチレン微粉末の割合が35wt.%のペーストをポッティング加工部に塗布した。なお、なお、このポリエチレン微粉末の割合が35wt.%のペーストは、25℃において流動し始める降伏応力が6.5Paのビンガム流動を示すものであった。
【0099】
次いで、前記中空糸膜編織物を中空糸膜の配列方向に簾巻き状に巻き、これを高密度ポリエチレン製モジュールケース内に挿入した。このときのモジュールケース内の中空糸膜の充填率は42%であった。
【0100】
然る後に、前記中空糸膜が収納されているモジュールケースを、[図1]に示すポッティング加工装置のヒーター兼モジュールケース固定治具4のモジュールケース固定部に固定し、まず一方の端部のポッティング加工部のみをそのポッティングケースの外側から加熱しながら回転軸6を回転させて、該ポッティング加工部に遠心力を付加し、ポッティング加工を行った。なお、このポッティング加工の際の加熱温度を112℃、ポッティング加工部に加わる遠心力を重力の45倍にして、4時間の加熱及び遠心力の付加を行なった。
【0101】
続いて、もう一方の端部のポッティング加工部の加熱及び遠心力の付加を同様にして行ない、室温まで徐冷した後に、ポッティング加工した部分の中空糸膜の両端部を常法によって切断して開口部を形成することにより、中空糸膜モジュールを得た。
【0102】
得られた中空糸膜モジュールは、液体中から気体を分離したり、液体に気体を溶解させたりする用途に用いることができ、ポッティング部では、一次側と二次側とに密にシールされており、リークはなかった。
【0103】
又、中空糸膜の両端の開口部から、0.35MPaの水圧を10秒間加えた後
10秒間開放するというサイクルの繰り返し加圧試験を行ったところ、100,000回の繰り返しによっても、ポッティング部でのポッティング用樹脂の割れやモジュールケースとの間に剥離等によるリークの発生は無かった。
【0104】
【発明の効果】
本発明は、モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜の片端或いは両端を、該中空糸膜の開口部を保持したまま別の熱可塑性樹脂からなるポッティング用樹脂によって、該ポッティング用樹脂と中空糸膜及びモジュールケースとの相互を接着固定するポッティング加工を行なう中空糸膜モジュールの製造方法において、ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂を、該ポッティング用樹脂の融点以上であって、しかも前記中空糸膜の融点よりも20℃以上低い温度に加熱すると共に、前記ポッティング加工部に重力の10〜100倍の遠心力を付加する中空糸膜モジュールの製造方法からなるものである。
【0105】
従って、本発明の中空糸膜モジュールの製造方法によれば、ポッティング加工部の中空糸膜相互の間へのポッティング用樹脂の侵入が極めて円滑であり、これによって、モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜の本数が多かったり、或いは該中空糸膜の充填率が高いときであっても、中空糸膜の特性を損なうことなく、しかもポッティング用樹脂によってモジュールケースと中空糸膜相互とが高度に液密或いは気密に接着固定されているポッティング部を具備する中空糸膜モジュールを、的確に得ることができる。
【0106】
特に、熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物であって、降伏応力が0.1〜10000Paのビンガム流動を示すペーストをポッティング加工部に適用するようにすれば、中空糸膜相互の間隙にこのペーストを侵入させるのが容易であり、しかも中空糸間にこのペーストを的確に留めることができるために、目的とする高品質の中空糸膜モジュールを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の中空糸膜モジュールの製造方法において、加熱及び遠心力の付加を行なうポッティング加工を実施するときに使用する装置例の概要を示すものである。
【図2】本発明の中空糸膜モジュールの製造方法において、加熱及び遠心力の付加を行なうポッティング加工を実施するときに使用する別の装置例の概要を示すものである。
【符号の説明】
1・・・・中空糸膜
2・・・・モジュールケース
3・・・・ポッティング加工部(ポッティング用樹脂塗布部)
4・・・・ヒーター兼固定治具
5・・・・シャフト
6・・・・回転軸
7・・・・固定治具
8・・・・回転板
Claims (6)
- モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜の片端或いは両端を、該中空糸膜の開口部を保持したまま別の熱可塑性樹脂からなるポッティング用樹脂によって、該ポッティング用樹脂と中空糸膜及びモジュールケースとの相互を接着固定するポッティング加工を行なう中空糸膜モジュールの製造方法において、ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂を、該ポッティング用樹脂の融点以上であって、しかも前記中空糸膜の融点よりも20℃以上低い温度に加熱すると共に、前記ポッティング加工部に重力の10〜100倍の遠心力を付加してポッティング部を形成することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
- ポッティング加工部に充填してあるポッティング用樹脂が熱可塑性樹脂微粒子からなっており、該熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物がポッティング加工部に充填してあることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
- 熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物が、熱可塑性樹脂微粒子の割合が30〜95wt.%のペーストであることを特徴とする請求項2に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
- 熱可塑性樹脂微粒子と液体との混合物が、ビンガム流動を示すものであって、しかもこのビンガム流動を示す混合物の流動し始める降伏応力が0.1〜10000Paであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
- ポッティング加工部のみを加熱することを特徴とする請求項1〜請求項4のうちのいずれかの1項に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
- モジュールケース内に収納してある熱可塑性樹脂製の中空糸膜の本数が1000〜100000であり、かつモジュールケース内のポッティング加工部の中空糸膜の充填率が20〜60%であることを特徴とする請求項1〜請求項5のうちのいずれかの1項に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
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