本発明は、浴室やシャワー室等、床を防水構造とした部屋に隣接する部屋(隣室)の床を、防水構造にするための技術に関する。
浴室の床は防水構造であるのに対し、隣接する脱衣室等の床は必ずしも防水構造が採用されているとは限らない。そこで、浴室の出入口から湯水が隣室に達しないようにするための手段として、特許文献1に記載されるように、浴室と隣室との間に排水溝を設けることが採用されている。
特開2000−136557公報
特許文献1の技術は、浴室から湯水が飛散することまで防止するものではないから、浴室の出入口を通じて飛散した湯水により隣室の床が濡れた場合、この湯水が床材を浸透して下地構造物や基礎にまで達し、これらの腐食を進行させたり、カビ・雑菌の繁殖を助長するなど、さまざまな問題を引き起こすおそれがあった。
本発明が前記従来の問題を解決するために採用した浴室等及び該浴室等に隣接する隣室の床構造の特徴とするところは、浴室等の床は防水下地材とその上に配置した床材とを備え、隣室の床は下地構造物とその上に配置した床材とを備えると共に、上記下地構造物と床材との間に防水材が介装され、当該防水材が、前記浴室等と隣室との境界を越えて、前記浴室等の床における防水下地材の内側まで達するよう延設されていることである。
前記隣室の床の前記防水材において、その周縁部の一部に連続する起立縁を設け、該起立縁を、浴室等における前記防水下地材に達する位置まで延びている構成とするとよい。
また、前記隣室の床の防水材は、前記浴室等に通じる出入口の下側を通過するように配設することが望ましい。
なお、前記隣室の床の床材が、根太等の不連続な部材の上に載設される場合、当該床材は上記不連続部材間に加わる荷重を支持し得る耐荷重強度を有することが望ましい。
さらに前記床材の少なくとも一部については、セメント等の無機質芯材の表面層にガラス繊維等の繊維質シートを埋設して補強して成る耐湿性補強板で構成することができる。
本発明の請求項1に係る防水床構造にあっては、浴室等の隣室側において、下地構造物と床材との間に介装した防水材を浴室等との境界を越えて浴室等側の防水下地材の内側まで達するよう延設したので、何らかの原因で隣室の床が濡れ、湯水が床材を通過又は浸透することがあったとしても、この湯水は上記防水材の表面を流れて浴室等の防水下地材上に排出されるから、隣室の下地構造物や基礎に悪影響が及ぶのを防止する。
請求項2に記載の本発明にあっては、前記隣室の床の前記防水材において、その周縁部の一部に連続する起立縁を設け、該起立縁を、浴室等における前記防水下地材に達する位置まで延びている構成としたので、防水材上に集めた水を外部へ拡散するのを阻止して、確実に浴室等の防水下地材へ導くことができる。
さらに請求項3に記載の如く、隣室の床の防水材を浴室等に通じる出入口の下側を通過するように配設することにより、最も水で濡れやすい領域を防水構造にできる。
なお請求項4に記載したように、隣室の床における床材を不連続部材間に加わる荷重を支持し得る耐荷重強度を有しているものとすれば、防水材に強度を持たせる必要が無くなるから、防水材には防水性能だけを考慮すればよい。それ故、防水材は、取り扱いが容易で安価な肉薄の材料で製作することが可能となる。
床材として、請求項5に記載するような、セメント質芯材の表面層にガラス繊維シートを埋設して補強して成る耐湿性補強板が採用すれば、曲げによる破壊が生じにくく、腐食するおそれのきわめて少ない床構造を提供できる。
本発明は、浴室等の防水構造になされた部屋の床と、これに隣接する脱衣室等の隣室の床の構造に適用される。図1に示すように、脱衣室X側の床構造は、基礎1上に、根太23,下地板24、大引き24、束26,束石27等から成る下地構造物を構築し、その上に床材20を載設して成る。他方、浴室Y側の床構造は、基礎1上に配置した防止パン等の防水下地材10の上に床材20を載置して構成する。図示する例のように、防水下地材10上に設けた支持突起11で床材20の下面を支える構成とすることにより、防水下地材10と床材20との間に、排水用空間Sを形成することが望ましい。また、防水下地材10は、高さ調節具40で、高さレベルの調整を可能にすることが望ましい。
床材20は、耐水性と所定の耐荷重強度とを備えることが必要であり、例えば、比較的曲げ強度の大きい補強板21と、比重が比較的小さく断熱性に優れた発泡板22とを接合したものの表面に、タイル30を接着剤31で貼着した構造が採用される。補強板21には、セメントやモルタル等からなる無機質芯材の表面層に、ガラス繊維や合成樹脂メッシュ等から成る繊維質シートを埋設して強化した板状材が挙げられる。発泡板22には、ポリスチレン等から成る発泡プラスチック板の一方又は両方の表面に、ガラス繊維ネットで補強したポリマーセメント層を形成してなるものが挙げられる。なお、補強板21及び発泡板22は、透水性であっても非透水性であってもよい。また、断熱性や軽量性を特に考慮する必要のない場合、非発泡性の材質とすることも可能である。
本発明の特徴は、浴室Yに隣接する脱衣室Xの床において、根太23や下地板24等から成る下地構造物と床材20との間に防水材5を介装し、この防水材5の縁部を浴室Y側へ延ばして、ドア枠Fの下側を通過させ、浴室Y側の防水下地材10の内側にまで達するように形成したところにある。防水材5は、ポリエチレン・PET・塩化ビニル等の合成樹脂や、ステンレス鋼・アルミ・真鍮・銅等の金属など、耐水性に優れ且つ透水性・吸水性を持たない材質で製作される。なお、床に加わる荷重を床材20によって支持できる場合は、防水材5の厚みを薄くして、軽量に製作することができる。
また本例では、図2に示す如く、防水材5における浴室Yに臨む縁部を除く三方の縁部に起立縁5aを形成すると共に、浴室Yに臨む縁部には、防水下地材10の底面へ向かう下り勾配を有する傾斜面部5bを形成した。かかる構成により、脱衣室Xにおける水が最もかかりやすいドア4近辺の領域において、床を濡らした水が、床材20を通過又は浸透することがあっったとしても、床材20の下面に配置した防水材5が、この水を受けて浴室Yの防水下地材10へ確実に導く。また起立縁5aにより、防水板5上の水が周囲へ拡散するのを防止している。防水下地材10上に導かれた水は、やがて防水下地材10に設けられた排水口から排出される。このように本発明は、床材20下方に根太23・下地板24・大引き25・束26・土台28等で構築される下地構造物が水で濡れるのを確実に阻止するから、長期にわたり下地構造物を腐食から保護することができる。
なお防水材5は、脱衣室X等、浴室の隣室における床の全領域にわたり配設してもよいが、浴室等と隣室との間に設けられるドア4等の開口部近傍にのみ部分的に配置することも可能である。
図3は、本発明を、浴室Yとこれに隣接する脱衣室Xの床構造に適用した一実施例を示す側面断面図、図4は、浴室Yの床構造に使用する防水下地材10の一例を示す平面図である。脱衣室Xの床は、基礎1上に、根太23・下地板24・大引き25・束26・束石27等から成る下地構造物を構築し、その上に防水材5を載置したのち、さらにその上に床材20を載設して構成される。防水材5は、三方の縁部に起立縁5aを形成し、残る一方の縁部に傾斜面部5bを形成したものである。他方、浴室Y側の床は、基礎1上に配置され、高さ調節具40で支持されている防止パン等の防水下地材10の上に、床材20を載置して構成されている。防水下地材10の上面には支持突起11が設けられ、該支持突起11により、防水下地材10と床材20との間に排水用空間Sが形成されている。
床材20は、比較的曲げ強度の大きい補強板21と、比重が比較的小さく断熱性に優れた発泡板22とを接合したものの表面に、複数のタイル30を接着剤31で貼着したものである。補強板21は、セメント質芯材の表面層に、ガラス繊維シートを埋設して強化した板状材であり、発泡板22は、ポリスチレン等から成る発泡プラスチック板の一方又は両方の表面に、ガラス繊維ネットで補強したポリマーセメント層を形成してなるである。なお脱衣室Xと浴室Yとで、床材20の材質を共通とすることも異ならせることも可能である。床材20の表面は、タイル30のほか、樹脂シートやセラミック板等を用いてもよい。またタイル30等は、床材20の美観性、摩擦、強度その他の表面特性を向上させる目的で配置されるが、施工状況によっては省略することも可能である。
浴室Y側に設置される防水下地材10は、FRP、プラスチック、金属等で製作される防水パンが通常使用され、主体となる平坦部10aの周囲に立ち上がり部10bを一体形成したものである。図4に示す如く、平坦部10aの適所には、床材20の下面を支える支持突起11、浴槽が据え置かれる浴槽設置部12、及び、排水口13が設けられる。支持突起11の高さ寸法は、浴槽設置部12よりも上方に突出するように設定されている。また設置時には、平坦部10aが排水口13へ向かう排水勾配を有するように設定されている。なお本例の防水下地材10は、全体が中心線Pを挟んでほぼ対称に形成され、二つの対称領域のうち、いずれか任意の一方を浴槽設置用、もう一方を洗い場構築用に使用できるようなされている。このため、支持突起11,浴槽設置部12,排水口13も、上記二つの対称領域の双方に設けられている。
防水下地材10の下面には補強材14と、高さ調節具40とが設けられる。高さ調節具40は、例えば図5に示すように、防水下地材10に埋設したナット42に螺合させたボルト41で、防水下地材10の荷重を支持するものである。ボルト41の螺合度合を変更することで、防水下地材10の基礎1からの距離を増減させ、高さ調節を行える。また本例では、ボルト41の頭部を突出させる部分にボス部43を設け、このボス部43に支持突起11となる筒状部材を昇降可能に螺合させる構成を採用した。従って、本例の支持突起11は、床材20の下面を支持する機能と同時に、高さ調節具40のボルト41頭部を隠すキャップ部材としての機能も併せ持っている。なお支持突起11は、高さ調節の必要性があまりないならば、防水下地材10の表面に一体形成することも可能である。
本発明に係る床構造は次のようにして施工される。浴室Y側にあっては、まず基礎1に防水下地材10を設置し、高さ調節具40を操作して、防水下地材10を所定の高さレベルに調整すると同時に、浴槽設置部12にあってはその表面が実質的に水平となるよう調節する。次いで、床材20を、支持突起11を介して防水下地材10の上に載置し固定する。このとき、支持突起11は浴槽設置部12より上方に位置するよう設定されているから、床材20と浴槽設置部12とが干渉するおそれはない。防水下地材10には排水勾配が付与されており、それ故、床材20をその上に載置するだけで、当該床材20にも排水勾配が付与される。また支持突起11は昇降可能であるから、床材20が所定の姿勢に安定するよう微調整することができる。支持突起11により、防水下地材10の上面と床材20の下面との間に排水用空間Sが形成される。最後に、上記床材20の表面に接着剤31等を用いてタイル30を張り付ける。
他方、脱衣室Xにあっては、基礎1上に根太23・下地板24・大引き25・束26・束石27等から成る下地構造物を構築したのち、その上に防水材5を設置する。このとき防水材5の傾斜縁部5bが、浴室Yの防水下地材10の内側に達するように調節する。次いで、防水材5の上に床材20を載置し、ドア枠F及びドア4の建て込み行った後、最後に、接着剤31等でタイル30等表面材を張り付ける。
こうして構築された防水床構造は、脱衣室Xの床材20を通過し又は浸透した水を、防水材5によって浴室Y側の防水下地材10へ確実に導くことができるから、脱衣室Xの下地構造物が濡れるのを防止できる。そして防水下地材10に達した水は、防水下地材10自体が排水口13へ向かう排水勾配を持つため、表面を流れて排水口13から容易に排出され、死水として停留させることがない。しかも本例では、防水下地材10と床材20との間に排水用空間をSを設けたので、防水下地材10上の水の排出効率がよい。
ところで本例では、防水下地材10を基礎1上に据え置いた後、その立ち上がり部10bと躯体壁2との隙間をシート状あるいはフィルム状の防水材50で覆うと共に、この防水材50が、躯体壁2の表面に取着される壁材3の裏面側となるように設定した(図5参照)。これにより、壁材3の裏側に浸入したり結露によって生成した水を防水材50を伝って、防水下地材10上へ確実に導くことができるから、浴室Y側においても、基礎1や躯体壁2が濡れたり湿気たりするのを防止できる。
本発明は、浴室のほか、シャワー室とその隣室の床構造にも適用することができる。
本発明に係る防水床構造を浴室とその隣室の床構造に適用した一実施形態を示す要部の側面断面図である。
本発明に係る防水床構造に使用する防水材の一例を示す斜視図である。
本発明に係る防水床構造の一実施例であって、浴室とその隣室の床構造を示す側面断面図である。
本発明に係る防水床構造の一実施例に関するものであって、浴室側の防水下地材の一例を示す平面図である。
本発明に係る防水床構造の一実施例に関するものであって、防水下地材に設けられる支持突起及び高さ調節具の一例を示す側面断面図である。
符号の説明
X…脱衣室 Y…浴室 1…基礎 2…躯体壁 5…防水材 5a…起立縁 5b…傾斜面部 10…防水下地材 11…支持突起 12…浴槽設置部 13…排水口 20…床材 21…補強板 22…発泡板 23…根太 24…下地板 30…タイル 40…高さ調節具 F…ドア枠 S…排水用空間