JP4071309B2 - 磁気ディスク用ガラス基板及びその製造方法、並びに磁気ディスクメディアの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、磁気ディスク用ガラス基板及びその製造方法、並びに磁気ディスクメディアの製造方法に関するものである。より具体的には、レーザ光照射により特定組成を有するガラス基板表面に突起を形成させ、テクスチャーとした磁気ディスク用ガラス基板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
固定磁気ディスク装置においては、ディスクが静止しているときに磁気ヘッドがディスク表面に接触し、ディスクが起動および停止時には磁気ヘッドがディスク表面を接触しながら摺動するCSS(Contact Start Stop)方式と呼ばれる機構が多く使用されている。
【0003】
このCSS方式においては、ディスクの起動および停止時に生ずるスティクションの防止や摩擦力の軽減のために、「テクスチャー」と呼ばれる適切に微細に粗れた表面凹凸(凸部のみでも良い)が、ディスク上に形成されている。このテクスチャーは、ディスクの主表面の全面あるいは一部分に形成される。テクスチャーが一部分(CSSゾーン)にのみ形成されている場合、磁気ヘッドはCSS動作時の適切な時期に、テクスチャーが形成されたCSSゾーンまで移動する。また、ディスクが回転中に、電源が切れたような場合にも、CSSゾーンに移動するようになっている。
【0004】
特に、一部分にのみテクスチャーが形成されている場合には、残りの部分は鏡面状の平滑さを保つことができるため、磁気ヘッドの低浮上化が可能となる。このため、磁気ディスク装置の高記録密度化に適している。
【0005】
ところで、このディスク基板には、広くアルミニウム(Al)−マグネシウム(Mg)合金基板にニッケル(Ni)−リン(P)めっきを施した、いわゆるアルミニウム基板が用いられてきた。このアルミ基板にテクスチャーを施す方法としては、研磨テープにより基板に同心円状の傷をつけることが広く行われていた。しかしこの方法では、磁気ヘッドのさらなる低浮上化が求められた場合、スティクションの防止や摩擦力の軽減との両立を図ることが困難となってくる。
【0006】
これを解決するために、種々の方法が提案されている。例えば、米国特許第5062021号および第5108781号は、スティクションを減少させるためにアルミ基板の金属表面に、凹部とその周囲に形成されるリング状の突起からなるピットを形成するプロセスを開示している。前記2つの特許は、Nd:YAGレーザを使用して必要な表面粗さを作り出す方法を開示している。
【0007】
ところで、ガラス基板は前記アルミ基板に比較して、研磨により比較的容易に平滑化できること、同一厚さであればより優れた剛性を有していること、耐衝撃性に優れていること等の優れた特性を有している。
【0008】
このガラス基板では、その表面を平滑面にすることができるが故に、上述したテクスチャー形成技術がより重要となる。
ガラス基板に、テクスチャーを形成する方法としては、
A.フォトリソ法を用いてガラスをドライエッチングする方法((1)川合登 他,日本潤滑学会トライボロジー会議予稿集−福岡(1991年10月)p265,(2)H.Tanaka et al,IEEE Transactionson Magnetics vol.29,No.1(January−1993)p270,(3)H.Ishihara et al,Wear,vol.172(1994年)p65)、
B.ガラス基板を化学的にエッチングする方法(特開平3−245322号)、
C.微細な粒子をガラス基板上に分散させる方法(特開平2−128318号)、
D.スパッタリングによる島状構造を利用する方法(特開平3−73419号)等が知られている。
【0009】
ところが、上記Aの方法は精密にテクスチャー形状等を制御できる特徴を有するものの、コスト高となってしまうこと、B,C,Dの方法は、コスト的に有利なものの生産時の安定性にやや問題があること、およびCSS領域のみにテクスチャーを形成することが困難であること等の問題点を有している。
【0010】
このような問題を解決するために、ガラス基板にテクスチャーを形成する方法として、最近レーザ光照射による方法が提案されている。例えば、特開平4−311814号は、バックプレートに所定の間隔を隔てて配置されたガラス基板の裏側からレーザ光パルスを照射し、前記バックプレートの表面から溶融飛散する微細粒子を、前記ガラス基板表面に衝突させることにより、ガラス基板にテクスチャー加工する方法を開示している。
【0011】
特開平7−182655号は、特にガラス等の脆性材料にテクスチャーを形成する方法について述べたものであり、ガラス等の熱衝撃限界を有する脆性材料に対して、放射エネルギのフルエンスを熱衝撃限界以下の適当な値に制御することにより、テクスチャー加工が可能であることを開示している。急激に遷移するエネルギフルエンス限界(熱衝撃限界)以下では、レーザ光パルスのエネルギフルエンスは全く影響しないか、または損傷を与えずに単に隆起を形成するだけである。圧縮表面応力を持つガラスディスクでは、このような隆起のほぼ全体が公称表面より上に突出し、データ記憶ディスクのスティクションを減少する上で有用である。
【0012】
前記特開平7−182655号のレーザ光を用いたテクスチャー加工法によれば、低コストかつ制御性良くガラス基板にテクスチャーを形成することができるとされている。また、CSS領域のみにテクスチャーを形成することも容易とのことである。
【0013】
またさらに、ディスク基板の素材は異なるが、特開平6−290452号には、磁気ディスク用カーボン基板にレーザを照射して、カーボンを酸化気化させ複数の孔を形成する技術が開示されている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記特開平7−182655号では、ガラスに対してレーザ光エネルギパルスの光透過がある値の範囲内になるようなレーザ光を用いると記述されているが、ガラス組成との関係についてはなんら述べられていない。また、レーザ光波長に関しても、10.6μmのみが開示されており、他の波長については述べられていない。
【0015】
また、上述した米国特許第5062021号および第5108781号は、アルミ基板のテクスチャー加工に関するものであり、ガラス製の磁気ディスク基板にそのテクスチャー加工法を適用することについては、なんら開示も提案もしていない。
【0016】
ところで、一般に磁気ディスクのテクスチャー部において、全面積に対するテクスチャー突起部の面積の割合が同一の場合、テクスチャーの1つ1つの突起の径は小さい方が、即ちテクスチャーの突起の間隔の小さい方が潤滑剤は作用しやすく、耐摩耗特性が良好になることが知られている((1)谷弘詞他,日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集−金沢,1994年10月,p153,(2)H.Ishihara et al,Wear,vol172(1994年)p65)。そのため、テクスチャーの径としては、前記特開平7−182655号の開示例(テクスチャーの突起の径30μm)より小さいものが望まれる。
【0017】
この発明の目的とするところは、レーザ光の照射により特定組成を有するガラス基板に所定の突起を形成させ、それをテクスチャーとすることができる磁気ディスク用ガラス基板を提供することにある。この発明のその他の目的は、ガラス基板の表面に所望の突起を、ガラスの組成、ガラスの吸収係数及びレーザ光の強度から精度良く、しかも効率的に形成することができる磁気ディスク用ガラス基板を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板は、主表面にレーザ光の照射により多数形成された突起をテクスチャーとした磁気ディスク用ガラス基板において、前記突起は凸型形状よりなる突起部からなり、光の波長266nmにおけるガラスの吸収係数が0.03〜2μm-1の範囲内にあり、前記ガラスの組成が重量基準で、酸化珪素(SiO 2 ) 70〜74%、酸化アルミニウム(Al 2 O 3 ) 0〜2 . 5%、酸化鉄(Fe 2 O 3 ) 0 . 1〜1 . 2%、酸化チタン(TiO 2 ) 0〜0 . 3%、酸化マグネシウム(MgO) 3 . 0〜4 . 5%、酸化カルシウム(CaO) 6 . 5〜9 . 5%、酸化ナトリウム(Na 2 O)12〜14%、酸化カリウム(K 2 O) 0〜1 . 2%、酸化セリウム(CeO 2 ) 0〜1%、(ただし、Fe 2 O 3 と、TiO 2 と、CeO 2 との合計量が0 . 2%以上である。)の範囲内にあるものである。
【0022】
請求項2に記載の磁気ディスク用ガラス基板は、請求項1に記載の発明において、前記ガラスは化学強化されているものである。
請求項3に記載の磁気ディスク用ガラス基板は、請求項1又は2に記載の発明において、前記凸型形状よりなる突起部の間隔は1〜100μm、直径は1〜20μm及び高さは5〜100nmであるものである。
【0023】
請求項4に記載の磁気ディスク用ガラス基板は、請求項3に記載の発明において、前記凸型形状よりなる突起部の間隔は2〜50μm、直径は1〜10μm及び高さは10〜50nmであるものである。
【0024】
請求項5に記載の磁気ディスク用ガラス基板は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記凸型形状よりなる突起部は、所定の領域のみに形成されているものである。
【0027】
請求項6に記載の磁気ディスク用ガラス基板は、主表面にレーザ光の照射により多数形成された突起をテクスチャーとした磁気ディスク用ガラス基板において、前記突起は凸型形状よりなる突起部よりなり、光の波長266nmにおけるガラスの吸収係数が0.03〜2μm-1の範囲内であり、かつガラスの組成が重量基準で、酸化珪素(SiO2 ) 58〜66%、酸化アルミニウム(Al2 O3 ) 13〜19%、酸化リチウム(Li2 O) 3〜4.5%、酸化ナトリウム(Na2 O) 6〜13%、酸化カリウム(K2 O) 3〜4.5%、R2 O 10〜18%(ただし、R2 O=Li2 O+Na2 O+K2 O)、酸化マグネシウム(MgO) 0〜3.5%、酸化カルシウム(CaO) 1〜7%、酸化ストロンチウム(SrO) 0〜2%、酸化バリウム(BaO) 0〜2%、RO 2〜10%(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、酸化鉄(Fe2 O3 ) 0.05〜2%、の範囲内にあるものである。
【0028】
請求項7に記載の磁気ディスク用ガラス基板は、請求項6に記載の発明において、前記突起部の高さは、ガラス中の鉄の含有量とレーザ光の出力との間で、次の関係式で表される関係を有するものである。
【0029】
突起部の高さ=a×鉄の含有量×ln(レーザ光の出力/b)
ただし、a,bは係数、突起部の高さの単位はnm、鉄の含有量の単位は重量%、lnは自然対数、レーザ光の出力の単位はmWを表す。
【0030】
請求項8に記載の磁気ディスク用ガラス基板は、請求項6に記載の発明において、前記突起部の高さは、ガラスの吸収係数とレーザ光の出力との間で、次の関係式で表される関係を有するものである。
【0031】
突起部の高さ=a×(ガラスの吸収係数−e)×ln(レーザ光の出力/b) ただし、a,eは係数、突起部の高さの単位はnm、ガラスの吸収係数の単位はμm-1、lnは自然対数、レーザ光の出力の単位はmWを表す。
請求項9に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、主表面にレーザ光の照射により多数形成された突起をテクスチャーとした磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、組成が重量基準で、酸化珪素(SiO2 ) 70〜74%、酸化アルミニウム(Al2 O3 ) 0〜2.5%、酸化鉄(Fe2 O3 ) 0.1〜1.2%、酸化チタン(TiO2 ) 0〜0.3%、酸化マグネシウム(MgO) 3.0〜4.5%、酸化カルシウム(CaO) 6.5〜9.5%、酸化ナトリウム(Na2 O) 12〜14%、酸化カリウム(K2 O) 0〜1.2%、酸化セリウム(CeO2 ) 0〜1%、(ただし、Fe2 O3 と、TiO2 と、CeO2 との合計量が0.2%以上である。)の範囲内にあり、かつ光の波長266nmにおけるガラスの吸収係数が0.03〜2μm-1の範囲内にあるガラスの主表面上に対して紫外線領域の波長を有するレーザ光を照射することにより、凸型形状よりなる突起部を形成するものである。
請求項10に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、主表面にレーザ光の照射により多数形成された突起をテクスチャーとした磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、組成が重量基準で、酸化珪素(SiO2 ) 58〜66%、酸化アルミニウム(Al2 O3 ) 13〜19%、酸化リチウム(Li2 O) 3〜4.5%、酸化ナトリウム(Na2 O) 6〜13%、酸化カリウム(K2 O) 3〜4.5%、R2 O 10〜18%(ただし、R2 O=Li2 O+Na2 O+K2 O)、酸化マグネシウム(MgO) 0〜3.5%、酸化カルシウム(CaO) 1〜7%、酸化ストロンチウム(SrO) 0〜2%、酸化バリウム(BaO) 0〜2%、RO 2〜10%(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、酸化鉄(Fe2 O3 ) 0.05〜2%、の範囲内にあり、かつ光の波長266nmにおけるガラスの吸収係数が0.03〜2μm-1の範囲内にあるガラスの主表面上に対して紫外線領域の波長を有するレーザ光を照射することにより、凸型形状よりなる突起部を形成するものである。
請求項11に記載の磁気ディスクメディアの製造方法は、請求項9又は10に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板上に、下地層、磁気媒体層、保護層を形成するものである。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施形態について詳細に説明する。
一般に知られているように、同一のレンズを使用してレーザ光を絞った場合、スポット径はレーザ光の波長と共に小さくなる。レーザ光の波長を変換する手段としては、SHG(第2高調波発生)素子,FHG(第4高調波発生)素子等のデバイスが知られている。これらを用いることにより、元のレーザ光の1/2あるいは1/4波長のレーザ光を得ることができる。なお、SHGとは、ある物質がある周波数の光を吸収し、その2倍の周波数の光を発光する現象(第2高調波発生)をいう。このとき、波長は1/2となる。FHGは第4高調波発生をいい、波長は1/4となる。
【0033】
そこで、特に紫外領域の波長のレーザ光を使用すれば、レーザ光照射によるテクスチャー加工において、容易にレーザ光のスポット径を絞ることができ、かなり小さな径のテクスチャーを、ガラス基板上に容易に形成することができる。
【0034】
そして、本発明者らは、容易に得られる大出力レーザ光であるYAGレーザをFHGにより短波長化し、種々の組成のガラス基板へのテクスチャー加工実験を精力的に行った。その結果、特定の金属酸化物を特定量以上含有したガラスにのみ、安定したテクスチャー加工が可能であることを見い出した。その他のガラスでは、レーザ光を照射しても全く表面形状に変化が認められないか、形状変化が認められる場合においても、テクスチャーとして使用可能な均一形状のものは得られなかった。
【0035】
この理由は、以下のようである。前記特定の遷移金属酸化物を含有したガラスは、紫外波長領域における光の吸収係数が大きく、照射されたレーザ光はガラスの最表面、例えば深さ50μmまでで効率的に吸収される。このため、ガラス基板にレーザ光を照射すると、ガラスの最表面が局部的にかつ急速に加熱され、軟化流動温度域に達する。照射されたレーザ光のエネルギ密度が適当であると、この部分は気化し蒸発することなく、熱膨張を伴いながら軟化して盛り上がり、凸型形状の突起部からなる突起を形成する。その後、レーザ光の照射がなくなると、その部分は急速に冷却され、その冷却により前記突起部は収縮するが、所定の大きさの突起が残る。その結果、突起部は元の基板表面より盛り上がった形状として残ることになる。従って、この突起を磁気ディスクにおけるテクスチャーとすることができる。
【0036】
ここで、一般的に熱処理されたガラスの密度変化について述べる。
ガラスの熱処理による密度変化は、以下のように理解される。
(1)一定温度を保持すると、そのガラス構造は平衡状態に達する。図3に比容と温度の関係を示す。平衡状態のガラスの比容と温度は、図中AB線上に位置する。
(2)急熱または急冷されたとき、その比容は図中AC線に平行に変化する。
(3)ガラスを一定温度に十分長く保持すると、図中AB線上に近づくようになる。
(4)一定温度に保持したとき、比容の変化速度は平衡状態との比容の差に比例する。
【0037】
上述したレーザ光を照射した場合について考えると、レーザ光が照射された部分は、急熱・急冷され、その部分は比容を増すことになる。つまり、体積膨張を起こし、これが固定化されることになる。
【0038】
さらに、前記基板はその表面に化学強化等によって、圧縮応力を有していると、突起部のより大きな盛り上がりを得ることができる。
すなわち、ガラス組成中に遷移金属の酸化物が0.2〜3重量%含まれ、前記光の波長266nm(ナノメートル)におけるガラスの吸収係数が、0.03μm-1以上のガラス基板の主表面上の所定間隔をおいた複数の位置に、紫外線領域の波長を有するレーザ光を選択的に照射する。なお、ガラスの主表面とは、ガラス基板に磁気記録部が形成されるとともに、テクスチャーが形成される表面をいう。そして、間隔をあけた前記位置のそれぞれにある目標域内のガラス基板の主表面に、凸型形状よりなる突起部を形成してテクスチャーとすることができる。
【0039】
前記紫外領域の波長を有するレーザ光としては、容易に大出力を得られること、装置価格が比較的安価であること等から、YAGレーザを1/4の波長に波長変換して得られたものが好ましく使用される。
【0040】
さらに、前記遷移金属の酸化物としては、酸化チタン,酸化バナジウム,酸化クロム,酸化マンガン,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケル,酸化銅,酸化モリブデン,酸化タングステン,酸化セリウム等が好まれて使用される。これらの遷移金属酸化物は比較的安価であり、かつガラスへ容易に含有させることができる。これらの遷移金属酸化物は単独で、あるいは2種類以上を複合して使用することができる。また、これらの遷移金属酸化物の中でも特に、酸化鉄,酸化銅,酸化ニッケル,酸化チタン又は酸化セリウムが低毒性の面で優れているため好ましく使用される。これらの遷移金属酸化物の中でも、酸化鉄,酸化銅,酸化チタン又は酸化セリウムが基板の主表面に所望とする突起をレーザ光により確実に形成するためにより好ましい。さらに、これらの中でも酸化鉄が低コストであるため最も好まれて使用される。
【0041】
上述した酸化物が選択された理由は、ガラスにおける着色のメカニズムと同様に説明できる。つまり、ガラス内にこれらの遷移金属酸化物が存在すると、これらの遷移金属原子内のd電子が許されるエネルギー間を遷移することにより着色が起こり、紫外線を効率良く吸収することになる。
【0042】
詳しくは、遷移金属イオン(特に3d電子が吸収に関係している第1遷移金属イオン)の最外郭にあるd電子のエネルギー準位は隣接の陰イオンの影響を受け、結晶場理論で説明されるエネルギー準位を持つことになる。基底状態から励起状態へのエネルギー差は可視光のエネルギー付近になるため、d電子は光エネルギーを吸収して励起し(d−d遷移)着色が起こる。
【0043】
酸化物ガラス中の遷移金属イオンによる着色例について述べる。遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、W、Ceなどが報告されている。また、その色は遷移金属の種類によって異なり、さらには同じ金属でもその価数によっても色が異なる場合がある。その価数は、溶融状態の雰囲気によって変化するといわれている。
【0044】
またさらに、f軌道に空席を持つ希土類元素イオンを含む場合にも、ガラスに着色が起こる。ガラスの着色に用いられる元素としては、Nd、Pr、Er、Hoなどがある。しかし、コストや取扱い性の点からは、上述した遷移金属の方が有利である。
【0045】
これらの遷移金属酸化物の含有量は、テクスチャー加工性の面から0.2%以上であることが必要であり、ガラス内の組成の均一性、ガラスの溶融温度その他の熱的特性の面から3重量%以下であることが必要である。これらの特性およびコスト面から、好ましくは0.2〜2重量%、より好ましくは0.5〜2重量%の範囲が使用される。
【0046】
さらに、ガラス基板の主表面にテクスチャーとして所望の突起を形成するためには、紫外線領域の波長の光に対する吸収が良好である必要がある。前記ガラスの、例えば光の波長266nmにおけるガラスの吸収係数は、0.03μm-1以上であれば均一な突起形状のテクスチャーの形成が可能である。より低出力のレーザ光の使用を可能にするには、0.05μm-1以上であることが好ましく、0.1μm-1以上であることがさらに好ましい。しかし、光の吸収係数が大きくなりすぎるとガラス成分が蒸発したり、ガラスの割れが発生したりすることから、吸収係数は2μm-1以下であることが必要であり、1μm-1以下であることが好ましく、0.3μm-1以下であることがさらに好ましい。従って、ガラスの吸収係数は、0.03〜2μm-1の範囲であることが必要であり、0.05〜1μm-1の範囲であることが好ましく、0.1〜0.3μm-1の範囲であることがさらに好ましい。
【0047】
一例として、ソーダライムガラス組成において、酸化鉄の含有量を変えた場合の吸収係数の変化を図4に示す。図中、実線は0.4重量%、破線は0.2重量%、一点鎖線は0.08重量%の酸化鉄の含有量の場合をそれぞれ表す。酸化鉄の含有量が0.08重量%の場合には、含有量が少ないので266nmの波長の紫外線に対する吸収係数が約0.02μm-1であった。これに対して、酸化鉄の含有量がそれぞれ0.2、0.4重量%に場合の吸収係数は、0.03μm-1以上であった。
【0048】
また別の例として図5に、同じくソーダライムガラス組成において、酸化鉄と酸化チタンを含む場合(Fe2 O3 :0.36%、TiO2 :0.02%、合計:0.38%、図中破線)と、酸化鉄、酸化チタンと酸化セリウムを含む場合(Fe2 O3 :0.84%、TiO2 :0.23%、CeO2 0.56%、合計:1.63%、図中実線)の吸収係数の変化を示す。このいずれの場合にも、遷移金属酸化物として0.2重量%以上含有しているので、吸収係数はやはり0.03μm-1以上であった。
【0049】
前記ガラス基板の基本組成としては、安価に製造可能なソーダライムシリケートガラス、あるいは耐候性に優れたアルミノシリケートガラス、ボロンシリケートガラスが好まれて使用される。
【0050】
さらに、ソーダライムシリケートガラスは自動車用ガラス等として広く使用されており、安価に入手可能であるので好ましく使用される。すなわち、そのようなソーダライムシリケートガラスは、主成分として酸化珪素を70〜74重量%、酸化アルミニウムを0〜2.5重量%、酸化鉄を0.1〜1.2重量%、酸化チタンを0〜0.3重量%、酸化マグネシウムを3.0〜4.5重量%、酸化カルシウムを6.5〜9.5重量%、酸化ナトリウムを12〜14重量%、酸化カリウムを0〜1.2重量%、酸化セリウムを0〜1重量%含む組成(ただし、酸化鉄、酸化チタン、および酸化セリウムの合計が0.2重量%以上である。)である。
【0051】
このソーダライムシリケートガラスにおいて、酸化珪素が70重量%未満であるとガラスの強度、化学的耐久性が劣化してしまい、74重量%を越えると溶融が困難となる。酸化アルミニウムが2.5重量%を越えると溶融が困難となる。通常酸化鉄は不純物として0.1%程度含まれるため、酸化鉄を0.1重量%未満とするとコストが高くなり、1.2重量%を越えると結晶化しやすくなる。酸化チタンが0.3重量%を越えるとコストが高くなる。酸化マグネシウムが3重量%未満であると溶融が困難になると同時に結晶化しやすくなり、4.5重量%を越えるとやはり結晶化しやすくなる。酸化ナトリウムが12重量%未満であると溶融が困難となり、14重量%を越えると化学的耐久性が劣化する。酸化カリウムが1.2重量%を越えると溶融しにくくなると同時にコストが高くなる。酸化セリウムが1重量%を越えるとコストが高くなる。
【0052】
前記ガラス基板は、磁気ディスク用基板として要求される強度を保証するために、及び突起をより大きく盛り上げるために、化学強化されていることが好ましい。
【0053】
この化学強化処理は、ガラスがその組成中に含まれる一価の金属イオンよりイオン半径が大きな一価の金属イオンを含有する溶融塩中に浸漬され、ガラス中の金属イオンと溶融塩中の金属イオンとが交換されることにより行われる。
【0054】
例えば、ガラス基板を加熱された硝酸カリウム溶融塩中に浸漬することにより、ガラス基板表面近傍のナトリウムイオンがそれより大きなイオン半径を有するカリウムイオンに置き換えられ、その結果ガラス基板表面に圧縮応力が作用して基板表面が強化される。また、ガラス基板を硝酸銀(0. 5〜3%)と硝酸カリウム(97〜99. 5%)の混合溶融塩中に、30分から1時間浸漬してもよい。それにより、銀がガラス基板表面に速やかに浸透され、ガラス基板表面の強化が促進される。
【0055】
前記凸型突起によるテクスチャーは、ガラス基板の主表面全体に形成されていても良いが、主表面のある特定の半径位置の範囲内のみに、部分的に形成されていても良い。部分的に突起を形成することにより、テクスチャー加工領域以外の半径位置において鏡面状のディスク表面を保つことが可能なため、磁気ディスクメディアとした場合、ヘッドの低浮上化が可能になるため、このような部分テクスチャーは好まれて使用される。
【0056】
前記テクスチャー形状は、ほぼ平面円形の凸型形状よりなる突起部がほぼ規則的に配置されたものであるが、凸型形状よりなる突起部同士の間隔としては、1〜100μmの範囲が好まれて使用される。前記間隔が1μmよりも小さいと、テクスチャー加工に要する時間が長くなり、生産性が劣化する。一方、前記間隔が100μmよりも大きいと、CSS特性が劣化する。より好ましくは2〜50μmの範囲である。
【0057】
前記突起の高さは、5〜100nmの範囲であることが好ましい。前記高さが5nm未満であると、磁気メディアとした場合に磁気ヘッドとの間の粘着力が大きくなってしまう。一方、100nmを越えると磁気メディアとした場合に、磁気ヘッドを十分低く浮上させることができない。より好ましくは10〜50nmの範囲がである。
【0058】
前記テクスチャーを形成する凸型形状よりなる突起部の径は、1〜20μmの範囲が好ましい。前記凸型形状よりなる突起部の径が1μm未満であると、安定に均一のテクスチャーを形成することが困難になる。一方、前記突起部の径が20μmを越えると、CSS特性が劣化する。以上の特性の面および生産性の面からより好ましくは、1〜10μmの範囲がより好ましい。
【0059】
以上のようなテクスチャーが形成されたガラス基板上に、下地層,磁気媒体層,保護層を順次形成し、磁気ディスクメディアを得ることができる。
また、前記ガラス基板に、少なくともその主表面に磁気特性を向上させるための下地層、磁気媒体層、保護層が順次形成され、さらに潤滑層が形成されて、磁気ディスクメディアとなる。磁気特性をさらに向上させる、あるいは付着力を向上させる等の目的で、前記下地層とガラス基板の間に、さらに複数の中間膜を形成しても良い。
【0060】
次に、磁気ディスク用のガラス基板を構成するためのアルミノシリケートガラスの組成について説明する。
このアルミノシリケートガラスの組成は重量基準で、酸化珪素(SiO2 )を58〜66%、酸化アルミニウム(Al2 O3 )を13〜19%、酸化リチウム(Li2 O)を3〜4.5%、酸化ナトリウム(Na2 O)を6〜13%、酸化カリウム(K2 O)を0〜5%、R2 Oを10〜18%、(ただし、R2 O=Li2 O+Na2 O+K2 O)、
さらに、酸化マグネシウム(MgO)を0〜3.5%、酸化カルシウム(CaO)を1〜7%、酸化ストロンチウム(SrO)を0〜2%、酸化バリウム(BaO)を0〜2%、ROを2〜10%、(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、
加えて、酸化チタン(TiO2 )を0〜2%、酸化セリウム(CeO2 )を0〜2%、酸化鉄(Fe2 O3 )を0〜2%、酸化マンガン(MnO)0〜1%、ただし、TiO2 +CeO2 +Fe2 O3 +MnO=0.01〜3%である。
【0061】
このような組成を有するアルミノシリケートガラスは、フロート法により製造可能で、溶融温度が低く、化学強化処理後の耐水性や耐候性が良好で、しかも金属製品と組み合わせて使用可能な膨張係数を有する。フロート法は、溶融スズを収容し、上部空間を還元性雰囲気とした高温のバス中へ、一端から溶融ガラスを流入し、他端からガラスを引き延ばして板状のガラスを製造する方法である。このフロート法によれば、得られるガラス板は両面が平行でゆがみがなく、表面光沢があるとともに、多量生産が可能である。しかも、得られたガラス板内部の残留応力が少なく、これをもとにしてガラスディスク基板を製造する際、基板の研磨時における割れが少ないなど、その取扱いを容易にすることができる。
【0062】
このアルミノシリケートガラスの組成は、次のような組成範囲がさらに好ましい。
すなわち、重量基準で、SiO2 を60〜66%、Al2 O3 を15〜18%、Li2 Oを3〜4.5%、Na2 Oを7. 5〜12. 5%、K2 Oを0〜2%、R2 Oを11〜17%、(ただし、R2 O=Li2 O+Na2 O+K2 O)、さらに、MgOを0.5〜3%、CaOを2.5〜6%、SrOを0〜2%、BaOを0〜2%、ROを3〜9%、(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、
加えて、TiO2 を0〜2%、CeO2 を0〜2%、Fe2 O3 を0〜2%、MnOを0〜1%、(ただし、Fe2 O3 +TiO2 +CeO2 ≧0.2%)である。
【0063】
上記のようなアルミノシリケートガラス組成において、SiO2 はガラスの主要成分であり、必須の構成成分である。その含有量が58重量%未満の場合、イオン交換後の耐水性が悪化し、66重量%を越える場合、ガラス融液の粘性が高くなりすぎ、溶融や成形が困難になるとともに、膨張係数が小さくなりすぎる。
【0064】
Al2 O3 はイオン交換速度を速くし、イオン交換後の耐水性を向上させるために必要な成分である。その含有量が13重量%未満の場合、そのような効果が不十分であり、19重量%を越える場合、ガラス融液の粘性が高くなりすぎ、溶融や成形が困難になるとともに、膨張係数が小さくなりすぎる。
【0065】
Li2 Oはイオン交換を行うための必須の構成成分であるとともに、溶解性を高める成分である。その含有量が3重量%未満の場合、イオン交換後の表面圧縮応力が十分得られず、また溶解性も悪く、4. 5重量%を越える場合、イオン交換後の耐水性が悪化するとともに、液相温度が上がり、成形が困難となる。
【0066】
Na2 Oは溶解性を高める成分である。その含有量が6重量%未満の場合、その効果が不十分であり、13重量%を越える場合、イオン交換後の耐水性が悪化する。
【0067】
K2 Oは溶解性を高める成分であるが、イオン交換後の表面圧縮応力が低下するため必須成分ではない。このため、その含有量は5重量%以下が好ましい。
さらに、Li2 O+Na2 O+K2 Oの合計R2 Oが9重量%未満の場合、ガラス融液の粘性が高くなりすぎ、溶融や成形が困難となるとともに、膨張係数が小さくなりすぎ、18重量%を越える場合イオン交換後の耐水性が悪化する。
【0068】
MgOは溶解性を高める成分であり、3. 5重量%を越える場合、液相温度が上がり、成形が困難になる。
CaOは溶解性を高める成分であるとともに、イオン交換速度を調整するための必須成分である。その含有量が1重量%未満の場合、その効果が十分ではなく、7重量%を越える場合、液相温度が上がり、成形が困難になる。
【0069】
SrOやBaOは、溶解性を高める成分であるとともに、液相温度を下げるのに有効な成分である。それらの含有量は2重量%を越える場合、ガラスの密度が大きくなるとともに、製造コストが上昇する。
【0070】
さらに、MgO+CaO+SrO+BaOの合計ROが、2重量%未満の場合、ガラス融液の粘性が高くなりすぎ、溶融や成形が困難となり、10重量%を越える場合、液相温度が上がり、成形が困難となる。
【0071】
Fe2 O3 は、ガラス融液中でFe2+とFe3+が平衡状態にあり、これらのイオンが融液中の光の透過率、特に赤外領域の透過率を大きく左右する。このFe2 O3 の含有量が2重量%を越える場合、赤外領域の吸収が大きくなりすぎ、溶融や成形時にガラスの温度分布を調節できなくなり、品質の悪化を招く。
【0072】
TiO2 、CeO2 、MnOはFe2+とFe3+の平衡状態を変化させ、相互作用によって光の透過率を変化させるのに有効な成分である。TiO2 が3重量%を越える場合、またはCeO2 、MnOがそれぞれ1重量%を越える場合、ガラス素地の品質が悪化するとともに、製造コストが上昇する。
【0073】
以上のような組成を有するガラスにおいては、50〜350℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が80×10-7/K以上であり、さらに84×10-7/K以上であることが好ましい。
【0074】
上記のようなアルミノシリケートガラスは、酸化ジルコニウム(ZrO2 )を含有していても、あるいは含有していなくてもよいが、含有していない場合には、ガラス組成物の溶融温度(102 ポイズの粘性を有する温度)を1550℃以下に、作業温度(104 ポイズの粘性を有する温度)を1100℃以下に設定することができ、しかも液相温度を作業温度以下にすることができる。さらに、ガラス組成物の溶融温度(102 ポイズの粘性を有する温度)が1540℃以下で、作業温度(104 ポイズの粘性を有する温度)が1055℃以下であり、しかも液相温度が作業温度以下であることが好ましい。このような条件下では、ガラス基板をフロート法により容易に製造でき、高平坦性を有する高品質のガラス基板を得ることができる。
【0075】
前記アルミノシリケートガラスも、磁気ディスク用基板として要求される強度を維持するために、ソーダライムシリケートガラスについて述べた化学強化処理が施されていることが好ましい。
【0076】
このような組成を有するアルミノシリケートガラス基板を用い、その表面の所定領域にレーザ光を照射することにより、凸型形状、例えば山型又はクレータ型の突起部を形成することができる。この突起部を形成する場合、レーザ光の出力が小さいときには、後述するように、突起部の高さに対するレーザ光の出力の影響が小さいことから、レーザ出力のばらつきが突起部の高さのばらつきに与える影響は少ない。このため、レーザ出力が小さい条件で突起部を形成することが望ましい。
【0077】
前記アルミノシリケートガラスの組成において、突起部の高さはガラス中の遷移金属の酸化物、例えば酸化鉄(Fe2 O3 )の含有量とレーザ光の出力に対して次のような関係を有する。
【0078】
突起部の高さ=a×酸化鉄の含有量×ln(レーザ光の出力/b)
但し、a、bは係数、突起の高さの単位はnm、酸化鉄の含有量の単位は重量%、lnは自然対数、レーザ光の出力の単位はmWを表す。
【0079】
さらに、前記ガラスの組成で酸化鉄の含有量が0.4〜0.6重量%の範囲においては、係数aは3950、係数bは45. 4〜45.9である。
前記関係式に基づいて、ガラスの組成、すなわちガラス中の酸化鉄の含有量と、レーザ光の出力から突起部の高さを直接的に求めることができる。
【0080】
上記の関係式は、酸化鉄以外に、酸化銅,酸化チタン,酸化セリウムなどについても同様に適用される。
上記関係式より、レーザ光の出力の範囲は次のように表される。
【0081】
b× exp〔突起部の高さ/(a×遷移金属の酸化物の含有量)〕>レーザ光の出力>b
前記関係式は、次のようにして導かれた。すなわち、酸化鉄の含有量が0. 17、0. 5及び0. 9重量%のガラス基板を用い、突起の高さと鉄の含有量との関係を、レーザ光の出力が60、80及び105mWの場合について、最良条件と最悪条件とに分けて求めた。その結果を図8〜10に示した。これら図8〜10において、上側に示す最良条件を表す直線と下側に示す最悪条件を表す直線が得られ、両直線の間でばらつきが発生すると考えられる。そして、各図から平均的に合計3つの直線の傾きを得ることができる。
【0082】
次に、上記図8〜10から得られた直線の傾きと、レーザ光の出力との関係を求め、図11に示した。この図11からわかるように、レーザ光の出力と直線の傾きとの間には対数関係がある。
【0083】
以上の関係に基づいて、突起部の高さと、酸化鉄の含有率と、レーザ光の出力との間には下記の関係式が成立する。
但し、ln(b)=d/aであり、c及びdは係数である。
【0084】
この関係式の妥当性を確認するために、前記とは異なる酸化鉄の含有率、すなわち0. 4及び0. 6重量%と、前記とは異なるレーザ光の出力、すなわち46. 2及び51. 0mWの場合について試験を行った。その実測値を図12に示した。また、レーザ光の出力が46. 2mWにおける突起部の高さが実測値に相当するように、前記係数a及びbを求めたところ、aは3950、bは45. 4〜45.9であった。そして、それらの値を用い、レーザ光の出力が51. 0mWの場合について突起部の高さを計算した。その結果、図12に示したように、計算値と実測値とが良く一致していることがわかる。
【0085】
また、ガラス中の遷移金属の酸化物とガラスの吸収係数との間には直線的な関係があることから、前記関係式より次のような関係式が導かれる。
突起部の高さ=a×(吸収係数−e)×ln(レーザ光の出力/b)
但し、突起の高さの単位はnm、a、b及びeは係数、吸収係数の単位はμm-1、lnは自然対数、レーザ光の出力の単位はmWを表す。
【0086】
例えば、遷移金属の酸化物が酸化鉄の場合にはaが23200、bが45.9、eが0.0014である。
従って、所定の吸収係数とレーザ光の出力の条件下で突起部の高さを測定し、各係数a、b及びeを求めることにより、その他の吸収係数やレーザ光の出力の条件下における突起部の高さを容易に算出することができ、テクスチャーの設計を容易化することができる。
【0087】
以上のような実施形態により発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 紫外線領域の波長を有するレーザ光をガラス基板の所定領域に選択的に照射することにより、磁気ディスク用のテクスチャーとして好適な突起を容易に形成することができる。
(2) ソーダライムガラスやアルミノシリケートガラスなどのガラス基板に対して所定のレーザ光を照射することによって、ガラス基板の主表面に所定の突起部を多数形成して突起とし、磁気ディスク用のテクスチャーとすることができる。
(3) アルミノシリケートガラスの所定の組成において、突起部の高さはガラス中の遷移金属の酸化物、例えば酸化鉄の含有量とレーザ光の出力に対し一定の関係を有することから、酸化鉄の含有量とレーザ光の出力から突起部の高さを容易に算出することができる。このため、磁気ディスク用のガラス基板表面に突起を精度良く、しかも効率的に形成することができる。従って、テクスチャーの設計を効率良く行うことができる。
(4) アルミノシリケートガラスの所定の組成において、ガラスの吸収係数はガラス中の遷移金属の酸化物、例えば酸化鉄の含有量と直線関係を有することから、ガラスの吸収係数とレーザ光の出力から突起部の高さを容易に算出することができる。従って、磁気ディスク用ガラス基板表面に突起を精度良く、かつ効率的に形成することができ、テクスチャーの設計を効率良く行うことができる。
(5) ガラス基板表面が化学強化されていることにより、ガラス基板は磁気ディスク用ガラス基板として要求される十分な強度を有することができるとともに、テクスチャーとしての突起をより大きく盛り上げることができる。
(6) ガラス基板を形成するガラスとして、ソーダライムシリケートガラスを用いることによって製造コストの低減を図ることができ、アルミノシリケートガラスを用いることによって耐候性を向上させることができる。
【0088】
【実施例】
以下、実施例によりこの発明をさらに具体的に説明する。なお、この発明は各実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示すような組成(重量%)のソーダライムシリケートガラスへ、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウムを、表2に示した含有量(重量%)となるように含有させたガラス組成を有するガラススラブを作製した。これらのスラブを円柱状に加工した後、中心をくり抜き、スライスすることにより、ディスク状のガラス基板とした。このディスク状のガラス基板の主表面をラッピング後研磨することにより、所定の板厚を有する平滑なガラス基板を得た。このガラス基板は化学強化処理が施され、その後洗浄された。ディスクの外径は65mm、ディスクの内径は20mm、ディスクの板厚は0.635mmとした。
【0089】
また比較例として、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウムのいずれも含まないか、含んだとしても0.2重量%に満たない場合についても、表2に示した。この比較例の吸収係数は、いずれも0.02μm-1以下であった。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
*波長266nmにおける吸収係数(μm-1)
洗浄後のガラス基板は、図2に概念的に示す装置によりテクスチャー加工を行った。レーザ加工用光源11には、YAGパルスレーザ装置を用いた。すなわち、レーザ光源11から射出されたレーザ光は、SHG素子12により元の1/2の波長に変換された後、固定ミラー13でFHG素子14に入射する。このFHG素子14によりさらに1/2の波長に変換され、266nmの波長となったレーザ光は、ガルバノミラー15および集光レンズ16により、ガラス基板17表面の所定の位置に焦点を結ぶ。
【0093】
波長266nmにおけるレーザ光のパワーは50mWから10mWに変化させ、パルス間隔は0.2msec 、レーザ光のスポット径は10μm、隣り合うレーザ光スポット照射位置の間隔は25μmとした。テクスチャー加工領域は、ディスク半径13.0mmから16.0mmの範囲となるように、また突起の配列が格子状になるようにレーザ光を照射した。
【0094】
上述のテクスチャー加工後、偏光顕微鏡およびZYGO(キヤノン販売(株)製)を用いてガラス基板表面を観察し、突起部形成の有無およびその形状を評価した。
【0095】
まず、遷移金属酸化物を含有していないガラス基板、および酸化鉄を0.1重量%だけ含有したガラス基板には、突起部は形成されていなかった。一方、遷移金属酸化物を合計0.2重量%以上含有したガラス基板には突起部10が、図6のように25μm間隔で安定的に形成されていた。
【0096】
さらに、その突起形状についての結果を表3に示す。
◎はリング状突起部(図7参照)が形成されていることを、
○は凸型形状よりなる突起部が形成されていることを、
×は突起部が形成されていないことを示す。
【0097】
【表3】
【0098】
この結果より、遷移金属酸化物の含有量が増大すると共に、より低いレーザパワーでもテクスチャーが形成できることがわかった。これは、遷移金属酸化物の量が増大すると共にレーザ光の波長におけるガラスの吸光係数が増大し、ガラス表面でより効率的にレーザ光が吸収されるようになるためと考えられる。
【0099】
ここで注目すべきは、レーザパワーを小さくしていった場合、テクスチャー形状が図7に示すようなリング状の突起部10の形状から、図1に示すような所定の高さ、径を有する凸型形状の突起部10へ変化することである。
【0100】
前記ガラス基板のうち、凸型形状の突起部が形成されたガラス基板を洗浄した後、磁気ディスクメディア形成に供することができる。
さらに、比較例2の酸化鉄を0.1重量%だけ含有したガラス基板に、レーザ光パワーを75mWまで増加させてテクスチャー加工を行った。その結果、部分的に突起部は形成されたが、大半の部分ではなにも形成されなかった。さらに、レーザ光パワーを100mWまで増加させてテクスチャー加工を行った。その結果、突起部はやはり部分的にしか形成されず、しかも大きさ・形状が不揃いであり、ディスク基板のテクスチャーとして不適当なものであった。
【0101】
この理由については、上述した遷移金属酸化物を含有しないか、不十分にしか含有しないガラスにおいては、たとえレーザ光の照射パワーを増加させたとしても、紫外波長領域における光の吸収係数が小さいため、照射されたレーザ光がガラスの最表面において効率的に吸収されず、むしろ内部で吸収されるために、安定した突起部の形成ができないものと考えられる。
【0102】
また、この実施例はガラススラブをもとにガラスディスク基板を加工しているが、フロート法により作製したガラス板をもとに加工したガラスディスク基板についても、同一の実験結果を得た。
(実施例2)
表4に示すような組成(重量%)のアルミノシリケートガラス、およびこのガラス組成に酸化銅を2重量%の含有量となるように含有されたガラス組成を有するガラススラブを作製した。このあと、実施例1と同様の加工を行い、ガラスディスク基板を得た。
【0103】
【表4】
【0104】
このガラスディスク基板に対して実施例1と同様の条件でテクスチャー加工を行った。その結果、遷移金属酸化物である酸化銅を2重量%含有したアルミノシリケートガラスにおいても、ソーダライムシリケートガラスを用いた場合と同様に、レーザパワーを制御することにより安定した凸型形状のテクスチャー加工が可能であった。
【0105】
上述したように、安定した形状の凸型突起部が形成され、これをテクスチャーとしたガラスディスク基板を洗浄し、テクスチャー付き磁気ディスク用ガラス基板として供することができた。
(実施例3)
下記の表5に示すような組成(重量%)のソーダライムシリケートガラス板を、フロート法により製造した。これらのガラス板をダイヤモンドホイールカッターを用いて内外径加工を行い、ディスク状のガラス基板とした。このガラス基板の主表面をラッピング後研磨することにより、所定の板厚を有する平滑なガラスディスク基板を得た。このガラスディスク基板に対して化学強化を行った後、洗浄した。ディスクの外径は65mm、ディスクの内径は20mm、ディスクの板厚は0.635mmとした。
【0106】
【表5】
【0107】
これらのガラスディスク基板に対して、実施例1と同様の条件でテクスチャー加工を行った。その結果、いずれのガラスディスク基板についても、遷移金属酸化物を合計で0.2重量%以上含んでいるので、レーザパワーを制御することにより安定なテクスチャー加工が可能であった。これらのガラス組成は自動車用ガラスとして広く用いられているものであり、大規模なフロート窯での生産が可能である。そのため、特殊な組成のガラスに比較してコスト的に優位性を有する。
【0108】
上述したように、安定した形状の凸型突起部が形成され、これをテクスチャーとしたガラスディスク基板を洗浄し、テクスチャー付き磁気ディスク用ガラス基板として供することができる。
【0109】
以上の実施例では、レーザ光としてYAGパルスレーザ装置を用いて、さらにそれをSHG素子及びFHG素子により元の波長の1/4である266nmの波長のものを用いたが、紫外域にその波長を有するレーザ光を照射したものでも良いことはいうまでもない。
(実施例4)
下記表6に示すような組成(重量%)のアルミノシリケートガラス及びこのガラス組成に酸化鉄(Fe2 O3 )を0.17重量%、0.5重量%、0.9重量%含むように調合したガラス組成(酸化鉄を含めて100重量%)を有するガラススラブを作製した。これらのスラブを板状に板状に加工した後、スライス及び研磨することにより、大きさ30×30mm、厚さ2mmの正方形をしたガラス片を作製した。このガラス基板を硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合塩(混合比60:40)の溶融塩に浸すことにより化学強化処理を行った。この化学強化処理後、純水でスクラブ洗浄を行い、温風乾燥した。
【0110】
【表6】
【0111】
なお、テクスチャーを形成する突起部の高さのばらつきに対して、2〜3水準の条件を設定して得られたデータから品質工学の考え方に基づき最適条件と最悪条件を表7のように決定した。すなわち、Na2 O組成については、中心組成に対し、±1重量%程変化させた。また、加工ピッチ、半径ピッチは、それぞれ突起部を同心円状に形成する際の円周方向の間隔と半径方向の間隔をいい、それらのピッチを変化させた。ピント位置は、焦点が合ったと思われる位置を0とした場合の相対位置で変化させた。強化温度については、上記混合塩の溶融温度を変化させた。これらの変化に対して、突起部の高さのばらつきの最も小さい組合せを最適条件、最も大きい組合せを最悪条件とした。なお、強化時間は、400℃のとき、90分、360℃のとき30分とした。
【0112】
【表7】
【0113】
次に、表6のガラス組成に酸化鉄を含有させた場合の、各含有量に対する基板の波長266nmにおける吸収係数を下記表8に示す。
【0114】
【表8】
【0115】
この表8から、実施例4における所定の酸化鉄を含有する場合のガラスの吸収係数は、テクスチャーの形成限界である0.03μm-1以上の吸収係数を有するとともに、その上限である2μm-1以下の吸収係数を有することがわかる。ちなみに、表8のデータより、ガラスの吸収係数と酸化鉄の含有率との関係の近似式を求めると次式のようになる。
【0116】
吸収係数(μm-1)=0.17×酸化鉄の含有量(重量%)+0.0014
この式より、テクスチャーの作製限界となる酸化鉄の含有量を算出すると、0.17重量%となることがわかる。
【0117】
次に、上記基板を実施例1で使用したものと同じレーザ装置を用いてテクスチャー加工を行った。レーザ光の繰り返し周波数を3kHz、スポット径を10μmとした。レーザ照射後の突起部の高さを微分干渉顕微鏡及び干渉型表面形状測定器(ZYGO)を用いて観察、測定した。各レーザ光の出力、各酸化鉄の含有量における突起部の高さの関係を表9に示す。なお、レーザ光の出力の測定には、Newport 社の 1825-C(883UV)を用いた。以下の実施例におけるレーザ光の出力の測定も同じ装置を用いた。
【0118】
【表9】
【0119】
この表9の結果をグラフで表したものが図8〜図10である。なお、図8〜図10における各点は一群のデータの代表値を表すものである。これらのグラフの中で、最適条件と最悪条件の2本のグラフを描くことができるが、これらのグラフからわかるように、レーザ光の出力が大きい方が両グラフの差が小さくなり、レーザ光の乱れによる突起部の高さのばらつきへの影響が小さくなることがわかる。また、図9のグラフから、適当なレーザ光の出力の下では、酸化鉄の含有量が多い方が突起部の高さのばらつきへの影響が小さいことがわかる。
【0120】
次に、各グラフの傾きを求め、最適条件と最悪条件における傾きの平均値に対するレーザ光の出力との関係を図11に示す。
この図11より、前記グラフの傾きとレーザ光の出力との関係は、自然対数の関係にあることがわかる。すなわち、その関係は次式で表される。
【0121】
最適条件では、
傾きc=1526×ln〔レーザ光の出力(mW)−5845〕
最悪条件では、
傾きc=1482×ln〔レーザ光の出力(mW)−5626〕
これらの結果より、突起部の高さ(nm)、酸化鉄の含有量(重量%)及びレーザ光の出力(mW)との間に次式で表される関係式が導かれる。
【0122】
但し、b= exp(d/a)
なお、この関係式は、酸化鉄以外の遷移金属の酸化物に対しても適用が可能である。
【0123】
さらに、上記関係式は、前記ガラスの吸収係数と酸化鉄の含有量との関係式から以下のようになる。
突起部の高さ=a×(ガラスの吸収係数−e)×ln(レーザ光の出力/b)
例えば、遷移金属が酸化鉄の場合、aは23200、bは45.9及びeは0.0014である。
【0124】
この関係式によれば、ガラスの吸収係数と、2水準のレーザ光の出力の条件下に突起部の高さを測定することにより、その他のレーザ光出力における突起部の高さを容易に求めることが可能である。
【0125】
上記の関係式より、レーザ光の出力の範囲は次のように表される。
b× exp〔突起部の高さ/(a×酸化鉄の含有量)〕>レーザ光の出力>b
ここで、a=3950、b=45.4〜45.9、突起部の高さ=100nm、酸化鉄の含有量=0.2重量%とすると、レーザ光の出力範囲は次のようになる。
【0126】
51.5〜52.0>レーザ光の出力>45.4〜45.9(mW)
なお、このレーザ光の出力範囲は、ガラスの組成及びガラスの強化条件により異なる。
【0127】
次に、上記関係式の適用を確認するために、上記ガラスとは異なる酸化鉄を含有するガラスを用い、レーザ光照射によってテクスチャーを形成した。表10に条件と結果を示す。
【0128】
【表10】
【0129】
表10に示したレーザ光の出力が46.2mWにおける突起部の高さが実測値に相当するように、前記係数a及びbを求め、それらの係数を用いてレーザ光の出力が51.0mWにおける突起部の高さを前記関係式により算出した。その結果を図12に示した。図12に示したように、レーザ光の出力が51.0mWにおける突起部の高さは、計算値と実測値とは良く一致した。従って、突起部の高さを前記計算式により算出できることが実証された。
(実施例5)
前記表6に示すような組成(重量%)のアルミノシリケートガラス、及びこのガラス組成に酸化第二銅を1.0重量%と2.0重量%含むように調合したガラス組成(酸化第二銅を含めて100重量%)を有するガラススラブを作製した。これらのスラブを板状に加工した後、スライス及び研磨することにより、大きさ30×30mm、厚さ2mmの正方形をしたガラス片を作製した。このガラス基板を硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合塩(混合比60:40)の溶融塩(温度380℃、1時間)に浸すことにより化学強化処理を行った。この化学強化処理後、純水でスクラブ洗浄を行い、温風乾燥した。ガラス中の酸化第二銅の含有量とガラスの吸収係数との関係を表11に示す。
【0130】
【表11】
【0131】
表11の結果から最小二乗法に基づき、ガラスの吸収係数と酸化第二銅の含有量との間には次の関係式が成立する。
ガラスの吸収係数=0.0323×酸化第二銅の含有量+0.872×10-3
但し、ガラスの吸収係数の単位はμm-1、酸化第二銅の含有量は重量%である。
【0132】
次に、上記基板を実施例1で使用したものと同じレーザ装置を用いてテクスチャー加工を行った。レーザ光の繰り返し周波数を7.93〜10.1kHzとし、繰り返し周波数を変えることにより、第4次高調波の出力を調整した。繰り返し周波数と出力との関係を表12に示す。スポット径は約10μmとした。加工ピッチ及び半径ピッチはともに30μmとし、格子状に加工した。レーザ照射後の突起部の高さを微分干渉顕微鏡及び干渉型表面形状測定器(ZYGO)を用いて観察、測定した。ガラス中の酸化第二銅の含有量が2.0重量%のときの各レーザ光の出力と突起部の高さとの関係を表13に示す。
【0133】
なお、酸化第二銅の含有量が1.0重量%のときには、膨らみのある突起部を形成させることはできなかった。
【0134】
【表12】
【0135】
【表13】
【0136】
このように、遷移金属の酸化物として、酸化第二銅を用いた場合にも、突起部によるテクスチャーを形成することができた。
次に、前記実施例4で得られた関係式を実施例5の結果に適用すると、表14のようになる。但し、ガラスの吸収係数は、64.59、係数aは2931、係数bは47.7である。
【0137】
【表14】
【0138】
表14に示したように、酸化第二銅の場合についても、実施例4の関係式が成立することがわかる。
また、レーザ光の出力の範囲は、実施例4と同様に次式で表される。
b× exp〔突起部の高さ/(a×酸化第二銅の含有量)〕>レーザ光の出力>b
ここで、a=2931、b=47.7、突起部の高さ=100nm、酸化第二銅の含有量=0.2重量%とすると、レーザ光の出力範囲は次のようになる。
【0139】
56.5>レーザ光の出力>47.7(mW)
(実施例6)
前記実施例4の表6に示すアルミノシリケートガラスに酸化チタン(TiO2 )を1.0重量%含むように調合したガラス組成(酸化チタンを含めて100重量%)を有するガラススラブを作製し、以下実施例4と同様にしてテクスチャーの形成を行った。
【0140】
この実施例6においても、突起部の高さ、ガラスの吸収係数及びレーザ光の出力の関係式が適用できることを確認した。
すなわち、前記実施例4及び5の結果から、係数bの値を45.4〜47.7とし、吸収係数を17.5×10-3(μm-1)、レーザ光の出力を75(mW)、突起部の高さを90.2(nm)としたとき、次式から係数aを算出すると次のようになる。
【0141】
係数a=突起部の高さ/〔吸収係数×ln(レーザ光の出力/係数b)〕
この式より、係数aは9.7〜11.4となる。この場合、化学強化の条件が実施例4と同様の場合、係数bは45.68であり、そのときのaは10.94となる。
【0142】
なお、前記実施形態より把握される技術的思想について、以下に記載する。
(1) 前記レーザ光は、YAGレーザ光を第2高調波発生素子及び第4高調波発生素子により1/4波長としたものである請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板。
【0143】
このように構成した場合、レーザ光のスポット径を容易に絞ることができ、より小さな径の突起からなるテクスチャーをガラス基板上に効率良く形成することができる。
(2) 前記アルミノシリケートガラスは、フロート法により製造されたものである請求項6〜8のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板。
【0144】
このように構成すれば、ガラス基板表面の平坦性を発揮することができるとともに、基板内部の残留応力を低減させることができ、しかも多量生産が可能である。
(3) 前記アルミノシリケートガラスは、化学強化処理が施されているものである請求項6〜8のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板。
【0145】
このように構成した場合、ガラス基板の強度を向上できるとともに、突起部をより大きく盛り上げることができる。
【0146】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明によれば、次のような優れた効果を奏する。
請求項1及び6に記載の発明の磁気ディスク用ガラス基板によれば、ガラス基板表面に径の小さな凸型形状の突起を容易に形成することができ、テクスチャーとすることができる。しかも、その突起の分布、密度及び形成範囲を容易に、かつ正確に制御することができる。
【0148】
また、請求項1に記載の発明によれば、紫外領域の波長の光を十分に吸収できるとともに、ガラス基板の製造コストの低減を図ることができる。
【0149】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、ガラス基板の強度を向上させることができるとともに、突起をより大きく盛り上げることができる。
【0150】
請求項3及び4に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、磁気ディスクのテクスチャーとして、磁気ヘッドの低浮上化が可能で、高記録密度化ができ、しかもCSS特性を向上させることができる。
【0151】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1〜4のいずれかに記載の発明の効果に加え、テクスチャーが形成されている部分以外の部分を鏡面状の平滑面とすることができ、磁気ヘッドの低浮上化と高記録密度化ができる。
【0153】
請求項6に記載の発明によれば、アルミノシリケートガラスにより所望のテクスチャーを形成できるとともに、ガラス基板の耐候性を向上させることができる。
【0154】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6に記載の発明の効果に加え、ガラス中の遷移金属の酸化物の含有量とレーザ光の出力から、突起の高さを容易に算出することができ、ガラス基板表面のテクスチャーの設計を効率的に行うことができる。
【0155】
請求項8に記載の発明によれば、請求項6に記載の発明の効果に加え、ガラスの吸収係数とレーザ光の出力から、突起の高さを容易に算出することができ、ガラス基板表面のテクスチャーの設計を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 レーザ光の照射による突起部の断面形状の一例を示す説明図。
【図2】 レーザ光照射装置の構成を示す概念図。
【図3】 一般的なガラスの比容と温度との関係を示すグラフ。
【図4】 ガラスの吸収係数と光の波長との関係を示すグラフ。
【図5】 同じくガラスの吸収係数と光の波長との関係を示すグラフ。
【図6】 ガラス基板表面の突起の配置を示す部分平面図。
【図7】 リング状突起部の断面形状の一例を示す説明図。
【図8】 突起部の高さと鉄の含有量との関係を示すグラフ。
【図9】 同じく突起部の高さと鉄の含有量との関係を示すグラフ。
【図10】 同じく突起部の高さと鉄の含有量との関係を示すグラフ。
【図11】 直線の傾きとレーザ光の出力との関係を示すグラフ。
【図12】 突起の高さの計算値と実測値の関係を表形式で示した図。
【符号の説明】
10…テクスチャーを形成するための突起部、17…ガラス基板。
Claims (11)
- 主表面にレーザ光の照射により多数形成された突起をテクスチャーとした磁気ディスク用ガラス基板において、
前記突起は凸型形状よりなる突起部からなり、光の波長266nmにおけるガラスの吸収係数が0.03〜2μm-1の範囲内にあり、前記ガラスの組成が重量基準で、
酸化珪素(SiO2 ) 70〜74%、
酸化アルミニウム(Al2 O3 ) 0〜2.5%、
酸化鉄(Fe2 O3 ) 0.1〜1.2%、
酸化チタン(TiO2 ) 0〜0.3%、
酸化マグネシウム(MgO) 3.0〜4.5%、
酸化カルシウム(CaO) 6.5〜9.5%、
酸化ナトリウム(Na2 O) 12〜14%、
酸化カリウム(K2 O) 0〜1.2%、
酸化セリウム(CeO2 ) 0〜1%、
(ただし、Fe2 O3 と、TiO2 と、CeO2 との合計量が0.2%以上である。)
の範囲内にある磁気ディスク用ガラス基板。 - 前記ガラスは化学強化されている請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板。
- 前記凸型形状よりなる突起部の間隔は1〜100μm、直径は1〜20μm及び高さは5〜100nmである請求項1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板。
- 前記凸型形状よりなる突起部の間隔は2〜50μm、直径は1〜10μm及び高さは10〜50nmである請求項3に記載の磁気ディスク用ガラス基板。
- 前記凸型形状よりなる突起部は、所定の領域のみに形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板。
- 主表面にレーザ光の照射により多数形成された突起をテクスチャーとした磁気ディスク用ガラス基板において、
前記突起は凸型形状よりなる突起部からなり、光の波長266nmにおけるガラスの吸収係数が0.03〜2μm-1の範囲内にあり、前記ガラスの組成が重量基準で、
酸化珪素(SiO2 ) 58〜66%、
酸化アルミニウム(Al2 O3 ) 13〜19%、
酸化リチウム(Li2 O) 3〜4.5%、
酸化ナトリウム(Na2 O) 6〜13%、
酸化カリウム(K2 O) 3〜4.5%、
R2 O 10〜18%(ただし、R2 O=Li2 O+Na2 O+K2 O)、
酸化マグネシウム(MgO) 0〜3.5%、
酸化カルシウム(CaO) 1〜7%、
酸化ストロンチウム(SrO) 0〜2%、
酸化バリウム(BaO) 0〜2%、
RO 2〜10%(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、
酸化鉄(Fe2 O3 ) 0.05〜2%、
の範囲内にある磁気ディスク用ガラス基板。 - 前記突起部の高さは、ガラス中の遷移金属の酸化物の含有量とレーザ光の出力との間で、次の関係式で表される関係を有する請求項6に記載の磁気ディスク用ガラス基板。
突起部の高さ=a×遷移金属の酸化物の含有量×ln(レーザ光の出力/b) ただし、a,bは係数、突起部の高さの単位はnm、遷移金属の酸化物の含有量の単位は重量%、lnは自然対数、レーザ光の出力の単位はmWを表す。 - 前記突起部の高さは、ガラスの吸収係数とレーザ光の出力との間で、次の関係式で表される関係を有する請求項6に記載の磁気ディスク用ガラス基板。
突起部の高さ=a×(ガラスの吸収係数−e)×ln(レーザ光の出力/b)
ただし、a,eは係数、突起部の高さの単位はnm、ガラスの吸収係数の単位はμm-1、lnは自然対数、レーザ光の出力の単位はmWを表す。 - 主表面にレーザ光の照射により多数形成された突起をテクスチャーとした磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、
組成が重量基準で、
酸化珪素(SiO2 ) 70〜74%、
酸化アルミニウム(Al2 O3 ) 0〜2.5%、
酸化鉄(Fe2 O3 ) 0.1〜1.2%、
酸化チタン(TiO2 ) 0〜0.3%、
酸化マグネシウム(MgO) 3.0〜4.5%、
酸化カルシウム(CaO) 6.5〜9.5%、
酸化ナトリウム(Na2 O) 12〜14%、
酸化カリウム(K2 O) 0〜1.2%、
酸化セリウム(CeO2 ) 0〜1%、
(ただし、Fe2 O3 と、TiO2 と、CeO2 との合計量が0.2%以上である。)
の範囲内にあり、かつ光の波長266nmにおける吸収係数が0.03〜2μm-1の範囲内にあるガラスの主表面上に対して紫外線領域の波長を有するレーザ光を照射することにより、凸型形状よりなる突起部を形成する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。 - 主表面にレーザ光の照射により多数形成された突起をテクスチャーとした磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、
組成が重量基準で、
酸化珪素(SiO2 ) 58〜66%、
酸化アルミニウム(Al2 O3 ) 13〜19%、
酸化リチウム(Li2 O) 3〜4.5%、
酸化ナトリウム(Na2 O) 6〜13%、
酸化カリウム(K2 O) 3〜4.5%、
R2 O 10〜18%(ただし、R2 O=Li2 O+Na2 O+K2 O)、
酸化マグネシウム(MgO) 0〜3.5%、
酸化カルシウム(CaO) 1〜7%、
酸化ストロンチウム(SrO) 0〜2%、
酸化バリウム(BaO) 0〜2%、
RO 2〜10%(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、
酸化鉄(Fe2 O3 ) 0.05〜2%、
の範囲内にあり、かつ光の波長266nmにおける吸収係数が0.03〜2μm-1の範囲内にあるガラスの主表面上に対して紫外線領域の波長を有するレーザ光を照射することにより、凸型形状よりなる突起部を形成する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。 - 請求項9又は10に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板上に、下地層、磁気媒体層、保護層を形成する磁気ディスクメディアの製造方法。
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