JP4070921B2 - 転がり軸受 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は転がり軸受に関し、特に電子写真プロセスを用いた情報機器、例えば複写機(デジタルPPC、カラーPPC等)、プリンタ(カラーLBP、カラーLED等)などに装備される感光ドラムの支持に適した転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
図11に静電転写複写機の一般的な構造を示す。この複写機は、感光ドラム21上に光22の強弱に応じた電荷の静電潜像を形成し、ここに逆極性電荷を持つトナーを現像ドラム23から付着させて可視像を形成し、これを給紙部24から繰り出された用紙に転写した上で当該用紙を定着部25に送り、熱や圧力でトナーを用紙に定着させるものである。定着部25は、内部にヒータを備える定着ローラ26と、定着ローラ26に圧接してこれと平行に配設された加圧ローラ27とを主体に構成される。
【0003】
通常、感光ドラム21は、その両端で玉軸受やころ軸受等の転がり軸受によって回転自在に支持される。この軸受はトナーを付着させる際の感光ドラムの帯電によって帯電しやすい。軸受の帯電を放置すると、逆にドラムやトナーの電荷分布に悪影響を及ぼし、画像の乱れ等を誘発するおそれがあるため、何らかのアース機構が必要である。従来では感光ドラムの端面に独立したアース機構を設けて対処している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このように独立したアース機構を設けた場合、感光ドラム周辺の部品数が増加し、設計の自由度が制約される。そこで、軸受そのものに通電機能を持たせ、電荷を外部(外輪側)へ放電させる構造が提案されているが、この構造では絶縁関係にある内輪と外輪間を電気的に接続させる必要があり、そのため通電グリースや通電シール、その他の通電部品を使用したいわゆる通電軸受を使用する必要がある。通電軸受としては、実開平4-8820号、特開平11-82492号、特開平 7-71451号などが提案されているが、何れも通常の軸受では使用しない特殊部品や特殊材料を使用するため、コスト高となる。
【0005】
そこで、本発明は、優れた通電性を備えつつも低コストな転がり軸受の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的の達成のため、本発明では、内輪および外輪と、内・外輪間に、それぞれの軌道面との間に油膜を介在させて配置された複数の転動体とを有する転がり軸受において、内輪軌道面または外輪軌道面を、金属接触により転動体と通電させた。この通電は、例えば何れかの軌道面を通常品よりも粗くする(粗面化)ことによって実現することができる。
【0007】
通常の転がり軸受において内輪と外輪が絶縁状態にあるのは、内輪と転動体との間、あるいは転動体と外輪との間に絶縁性の潤滑油膜が介在することによる。その一方、潤滑油膜は良好な軸受機能を維持するために必要不可欠なものである。そこで、上記のように何れかの軌道面を、従来より粗い表面粗さに形成する等しておけば、内輪と転動体、あるいは転動体と外輪が頻繁に金属接触し、これより両者がほぼ連続して電気的接続状態となるため、軸受の平均抵抗値を大幅に下げ、通電状態を実現することができる。この場合、金属接触は全接触領域中のごく限られた一部領域で生じ(他のほとんどの領域では良好な潤滑油膜が形成される)、かつその接触時間も極めて短時間であるから、金属接触に起因した潤滑不良等の悪影響も回避することができる。転がり接触面の粗面化は、例えば切削加工後の研削工程を省略あるいは簡略化する等の方法で達成でき、この場合、工程減による低コスト化が図られる。熱処理後の研削工程を省略すれば、通常品と色による識別も可能となる(研削省略品では表層の色が黒い)。
【0008】
具体的に本発明では、内輪および外輪と、内・外輪間に、それぞれの軌道面との間に油膜を介在させて配置された複数の転動体とを有する転がり軸受において、内輪軌道面または外輪軌道面の表面粗さR a を0.1μm以上にした。これは、従来品の表面粗さ(R a =0.02μm程度)よりもかなり粗い。
【0009】
ここでいう表面粗さR a は、中心線平均粗さを意味する(JIS B0601)。これは、あらさ曲線からその中心線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をx軸、縦倍率の方向をy軸とし、あらさ曲線をy=f(x)で表わしたとき、図10の式で与えられる値をミクロン単位で表わしたものである。あらさ曲線とは、断面曲線から低周波成分を除去するような特性を持つ測定法で定められた曲線、中心線とは平均線に平行な直線で、この直線とあらさ曲線とで囲まれる面積がこの直線の両側で等しくなる直線のことである。平均線は、被測定面の称呼形状をもつ直線又は曲線で、かつその線から断面曲線までの偏差の二乗和が最小になるように設定した線である。
【0010】
本発明の転がり軸受は、玉軸受やころ軸受に適用することができる。玉軸受に適用した場合、内輪軌道面および外輪軌道面の表面粗さR a (μm)と、Archard-Cowking の式で算出される油膜厚さ(μm)との比[表面粗さ/油膜厚さ]が0.3以上となるよう上記表面粗さR a を設定する。一方、ころ軸受に適用した場合、内輪軌道面および外輪軌道面の表面粗さR a (μm)と、Grubinの式で算出される油膜厚さ(μm)との比[表面粗さ/油膜厚さ]が0.3以上となるよう上記表面粗さR a を設定する。
【0011】
以上説明した転がり軸受を、電子写真プロセスを用いた情報機器の感光ドラムの支持用に用いられる。この種の用途では、荷重条件がそれほど厳しくなく、また比較的低速回転であるため、金属接触による悪影響を回避することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図8に基づいて説明する。
【0013】
図1は、転がり軸受の一例として、感光ドラム21(図11参照)支持用の深溝玉軸受を例示している。この深溝玉軸受は、軸側部材に固定される内輪1と、ハウジングに固定される外輪2と、内輪1の軌道面1aと外輪2の軌道面2aとの間に介装された転動体としてのボール3と、ボール3を円周等間隔で保持する保持器4とを主要構成要素としている。感光ドラム支持用の転がり軸受では、上記深溝玉軸受として、半径方向の設計スペースに余裕を持たせるべく主に直径系列が8(JIS1512)のものが使用される。
【0014】
上記軸受部品のうち、少なくとも内輪1、外輪2、および転動体3は、鋼(例えば高炭素クロム軸受鋼)などの導電性金属材料で形成される。軸受内部に封入するグリースの種類は特に問われず、通常の軸受に封入されるグリース(普通は絶縁性である)で足りるが、本実施形態では高温特性に優れたフッ素系グリースを使用した場合を例示する。グリース潤滑以外にも油潤滑を採用することもでき、さらにはグリースとして通電グリースを使用し、さらなる通電性向上を図ることもできる。
【0015】
図4は、上記薄肉深溝玉軸受(直径系列8)の内・外輪軌道面1a、2aの表面粗さR a (中心線平均粗さ)を変えた軸受を試作してその絶縁抵抗値を測定した結果を示すものである。測定装置および測定回路の概略を図2および図3に示す。図3に示すように、測定回路は、電源10、制御抵抗11、および供試軸受13で構成される。測定条件は、回転数200rpm、ラジアル荷重Fr=4.9N、制御抵抗300kΩ、電源電圧30Vである。なお、図4中の横軸(軌道面粗さ)は、内輪軌道面1aと外輪軌道面2aの各表面粗さR a の平均を示す。
【0016】
図4より、軸受の絶縁抵抗値は表面粗さR a が概ね0.1μmを超えるあたりで大きく低下すると判断される。これは、これはR a の増大に伴って転がり接触面(軌道面1a、2a)とボール3表面との金属接触率が高まるためと考えられる。従って、軌道面1a、2aの表面粗としては、0.1μm以上、さらに望ましくは0.2μm以上とするのがよい。この場合に表面粗さR a が従来品(R a =0.02μm程度)よりも粗面化するので、軌道面1a、2aの研削加工を省略して切削面をそのまま利用することができ、あるいは研削加工を簡略化することができる。研削加工を省略する場合、切削後に熱処理すると、製品に熱処理による変色面(例えば黒色面)がそのまま残るので、通常の研削品と視覚的に容易に識別可能となる。
【0017】
なお、図4からは、R a が0.1μm未満でも抵抗値が低下し始めると予想されるが、これは表面粗さを中心線平均粗さR a で評価している関係上、R a =0.1μm未満であっても、頻度はかなり少ないが既に金属接触が始まっているためと考えられる。
【0018】
一方、図5は、図4の測定で使用した軸受と同じ軸受の油膜厚さを、図9の上段に示す Archard-Cowkingの式で計算したものである。計算はラジアル隙間と運転温度を変え、内輪側と外輪側のそれぞれで行っている。運転温度が低いとグリースの基油粘度が高くなるため、理論油膜厚さも厚くなる。なお、式中の複号は、上段が内輪、下段が外輪を示す。
【0019】
図4と図5の比較から、軌道面1a、2aの表面粗さR a (μm)と理論油膜厚さ(μm)との比[表面粗さR a /油膜厚さ]は、0.3以上、さらに望ましくは0.6以上とするのがよいことが判明した。
【0020】
図6〜図8は本発明の他の実施形態を示すもので、何れも感光ドラムの支持用への適用を想定したものである。
【0021】
図6は深溝玉軸受の内・外輪軌道面1a、2aを平坦面(曲率半径∞)としたものである。例えば感光ドラムの支持用では、純ラジアルの軽荷重のみを受けるだけで足りる場合があり、その場合、図示のように軌道面1a、2aが平坦面であっても十分に実用に耐え得る。従って、軌道面1a、2aの溝加工を省略してさらなる低コスト化を図ることができる。なお、内輪1や外輪2の抜け止めは、軸受両端に装着したシール(図示せず)で行うことができる。
【0022】
図7は、外輪2の肉厚を標準品よりも厚くしたものである。複写機、プリンタなどのロール用軸受は、外輪2外周を支持するような円筒状のハウジングに組込まれない場合があり、例えば薄い鋼板に嵌め込まれるものや、軸受の上下を押さえるだけのものもある。後者の場合、軸受の上下のみ過重を負荷して支持するため、薄肉軸受では外輪2が楕円状に変形するおそれがあり、その対策として外輪2の肉厚を厚くして外輪強度を薄肉品よりも高めたものである。
【0023】
図8は、転動体としてころ3を使用したころ軸受(図示例は円筒ころ軸受)を示すものである。この場合、ころ3と軌道面1a、2aは線接触するので、油膜厚さの計算は、図9下段に示すGrubinの式で行うのがよい。
【0024】
本発明は、図6〜図8に例示した全てのタイプの軸受に適用することができ、優れた通電性と低コストを実現することができる。
【0026】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、優れた通電性を有する転がり軸受を極めて低コストに提供できる。また、相手側部材と転がり接触する面の研削工程を省略あるいは簡略化することもでき、工数減によるさらなる低コスト化を図ることができる。また、切削後に熱処理する場合は、熱処理による変色面がそのまま残るので、通常の研削品と視覚的に容易に識別可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる転がり軸受の断面図である。
【図2】絶縁抵抗の測定装置を示す正面図である。
【図3】絶縁抵抗測定用の回路図である。
【図4】測定結果を示す図である。
【図5】油膜厚さの計算結果を示す表である。
【図6】本発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図9】油膜厚さの算出式を示す図である。
【図10】 R a の定義式を示す図である。
【図11】一般的な静電転写複写機の断面図である。
【符号の説明】
1 内輪
1a 内輪軌道面
2 外輪
2a 外輪軌道面
3 転動体
4 保持器

Claims (2)

  1. 内輪および外輪と、内・外輪間に、それぞれの軌道面との間に絶縁性の油膜を介在させて配置された複数の転動体とを有する玉軸受において、
    電子写真プロセスを用いた情報機器の感光ドラムの支持に用いられ、内輪軌道面および外輪軌道面の表面粗さRaを0.1μm以上にし、この表面粗さR a (μm)と、Archard-Cowking の式で算出される油膜厚さ(μm)との比[表面粗さ/油膜厚さ]を0.3以上に設定し、内輪軌道面および外輪軌道面を金属接触により転動体と通電させたことを特徴とする玉軸受。
  2. 内輪および外輪と、内・外輪間に、それぞれの軌道面との間に絶縁性の油膜を介在させて配置された複数の転動体とを有するころ軸受において、電子写真プロセスを用いた情報機器の感光ドラムの支持に用いられ、内輪軌道面および外輪軌道面の表面粗さR a を0.1μm以上にし、この表面粗さR a (μm)と、Grubinの式で算出される油膜厚さ(μm)との比[表面粗さ/油膜厚さ]を0.3以上に設定し、内輪軌道面および外輪軌道面を金属接触により転動体と通電させたことを特徴とするころ軸受。
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