JP4070666B2 - ハイブリッド車の制御装置 - Google Patents

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  • Arrangement Of Transmissions (AREA)
  • Hybrid Electric Vehicles (AREA)
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両の走行のための動力源として複数種類の動力源を備えているハイブリッド車に関し、特に主動力源からトルクが伝達される出力部材に、変速機を介してアシスト動力源を連結したハイブリッド駆動装置を対象とした制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両用のハイブリッド駆動装置は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関とモータもしくはモータ・ジェネレータなどの電動装置とを動力源とするものが一般的であるが、これらの内燃機関と電動装置との組合せの形態は多様であり、また電動装置の使用数も一台に限らず、複数台使用する例もある。その一例を挙げると、特許文献1には、エンジンと第1モータ・ジェネレータとを、シングルピニオン型遊星歯車機構からなる分配機構を介して相互に連結するとともに、その分配機構から出力部材にトルクを伝達し、さらにその出力部材に変速機構を介して第2モータ・ジェネレータを連結し、その第2モータ・ジェネレータの出力トルクを、いわゆるアシストトルクとして出力部材に付加するように構成されたハイブリッド駆動装置が記載されている。また、その変速機構が、直結状態と減速状態とに切り換えることのできる遊星歯車機構によって構成されており、直結状態では第2モータ・ジェネレータのトルクをそのまま出力部材に付加し、また減速状態では第2モータ・ジェネレータのトルクを増大させて出力部材に付加するように構成されている。
【0003】
また、特許文献2には、エンジンのトルクがキャリヤに伝達される遊星歯車機構のサンギヤが発電機のロータに連結されるとともに、リングギヤがその発電機のフィールドおよび出力軸に連結され、その出力軸に、ハイクラッチとローブレーキとを備えた二組の遊星歯車機構を介してモータを連結した差動型無段電動変速機が記載されている。この特許文献2に記載されている変速機は、エンジンのトルクを発電機と出力軸とに分割して伝達するとともに、モータのトルクを出力軸に伝達して大きい駆動力を得るように構成されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−225578号公報(図1)
【特許文献2】
特公昭47−31773号公報(第7欄第31行〜第11欄第22行、第14図〜第31図)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の各特許文献に記載された装置では、出力軸にトルクを伝達して駆動力を増大させるいわゆるトルクアシストのための第2モータ・ジェネレータ(モータ)が高低二段に切り換えることのできる変速機構を介して出力軸に連結されているので、低車速状態では変速比を大きくしてアシストトルクを大きくし、また高車速状態では変速比を小さくして第2モータ・ジェネレータ(モータ)の回転数を低下させ、これにより動力損失を抑制できる。このように変速比を高低に変化させる変速の過程においては、第2モータ・ジェネレータ(モータ)と出力軸との間で伝達されるトルクが低下するので、出力軸トルクが変化し、これがショックの要因となり、あるいは加速力や制動力の不足の要因となる可能性があった。
【0006】
このような事態を回避するために、前述した分配機構あるいはこれに相当するに二組の遊星歯車機構から出力軸に伝達されるトルクを増大させることが可能である。すなわち、第1モータ・ジェネレータもしくはこれに相当する発電機による反力トルクを増大させると、エンジンの出力トルクが増幅されて出力軸に現れる。しかしながら、その場合、第1モータ・ジェネレータ(発電機)の反力トルクがエンジンにも作用するから、エンジン回転数が低下し、それに伴って第1モータ・ジェネレータ(発電機)の回転数が低下するので、発電電力が低下する。
【0007】
上述したハイブリッド駆動装置や電動変速機では、第1モータ・ジェネレータ(発電機)で発生させた電力を直接もしくはバッテリを介してトルクアシストのための第2モータ・ジェネレータ(モータ)に供給している。したがってエンジン回転数の低下に伴って発電電力が低下すると、第2モータ・ジェネレータ(モータ)の出力トルクが低下し、結局は、出力軸トルクが低下する。
【0008】
このように第2モータ・ジェネレータ(モータ)側の変速機での変速に伴って第1モータ・ジェネレータ(発電機)のトルクによって出力軸トルクを補正すると、トルクアシストのための第2モータ・ジェネレータ(モータ)のトルクが低下し、これが変速の終了後にまで継続し、その結果、変速の終了時の出力軸トルクが不足してショックや加速性が低下するなどの可能性がある。
【0009】
上記の第1モータ・ジェネレータ(発電機)および分配機構あるいはこれに相当する二組の遊星歯車機構は、エンジンの回転数を制御する無段変速機として機能させることができ、その場合、第1モータ・ジェネレータ(発電機)の回転数のフィードバック制御における応答性は、エンジン回転数の頻繁な変化を抑制するために低く設定するのが一般的である。そのために、上述した変速の終了時点においても、変速中のトルク補正制御に伴う回転数の低下状態が継続し、上述したショックや加速性の低下などが生じる可能性が高くなる。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、いわゆるトルクアシストのための電動機と出力軸との間に設けられた変速機での変速中および変速終了時の駆動トルクの低下やショックを防止することのできるハイブリッド車の制御装置を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段およびその作用】
この発明は、上記の目的を達成するために、内燃機関の出力トルクを発電機と出力軸とに分配して伝達するとともに、電力が供給されて駆動される電動機が変速機を介して前記出力軸に連結されているハイブリッド車の制御装置において、前記変速機での変速中における前記出力軸のトルクの変化を抑制する方向に前記発電機を制御するトルク補償制御手段と、前記変速機での変速中における前記電動機に対する電力供給源の電力供給能力に基づいて、前記トルク補償制御手段による前記発電機の制御を中止するトルク補償制御中止手段とを備え、前記トルク補償制御中止手段は、前記発電機による発電量を増大させる手段を含み、さらに前記トルク補償制御手段による前記発電機の制御を、積分動作を含む所定の目標回転数と実回転数との偏差に基づくフィードバック制御によっておこない、前記トルク補償制御中止手段によって前記発電機の発電量を増大させる際に前記積分動作の積分値を低減させる回転数制御手段を備えていることを特徴とするハイブリッド車の制御装置である。
【0012】
したがって請求項1の発明では、前記変速機での変速中に、出力軸のトルクの変化を抑制するいわゆるトルク補償をおこなうように発電機が制御される。それに伴って内燃機関の回転数および発電機の回転数が変化することがあり、このような回転数の変化に起因する発電状態やその時点の蓄電装置の蓄電量などの電力供給源の電力供給能力に基づいて、発電機を使用したトルク補償制御が中止される。例えば発電量が低下した場合や蓄電装置から電動機に供給できる電力量が低下した場合には、変速中のトルク補償が中止される。その結果、変速中に発電量が低下した場合、その変速の終了時には発電機を使用したトルク補償が中止され、内燃機関の回転数や発電機の回転数が低下した状態から復帰しており、電動機に対する電力が確保されるので、変速終了時の出力軸に対するいわゆるトルクアシストが過不足なく実行される。これに加えて、変速中における出力軸のトルク低下が抑制され、かつ変速終了時には電動機の電力が確保されて出力軸に対するいわゆるトルクアシストがおこなわれるので、変速時のショックや変速後の駆動トルクの低下などが回避もしくは抑制される。さらに、いわゆるトルク補償制御を中止する場合、フィードバック制御における積分項がクリアされ、その結果、主として回転数偏差に基づく制御が実行されるので、制御の応答性が向上し、変速終了時のトルクの低下がより確実に回避もしくは抑制される。
【0017】
そして、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記電動機に電力を供給する蓄電装置と、その蓄電装置の充電状態に基づいて前記トルク補償制御中止手段による前記発電機の制御の中止を許可および禁止するトルク補償判断手段とを更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0018】
したがって請求項2の発明では、蓄電装置の充電状態に基づいて発電機を使用したいわゆるトルク補償制御の中止の許可および禁止が判断される。例えば充電量が低下している場合には、トルク補償制御の中止が禁止され、すなわちトルク補償制御が実行されるが、その場合は蓄電装置から電動機に電力を過不足なく供給して変速終了時のいわゆるトルクアシストがおこなわれ、これに対して充電量が低下している場合には、トルク補償制御が実行されないので、変速終了時における発電機での発電量およびそれに伴う電動機に対する給電量が確保され、出力軸のトルクの低下が防止もしくは抑制される。
【0019】
さらにまた、請求項3の発明は、請求項1または2の発明における前記電動機に対する電力供給源の電力供給能力には、前記発電機の発電状態が含まれることを特徴とする制御装置である。
【0020】
したがって請求項3の発明では、変速中に発電機の発電量が低下した場合には、トルク補償するための発電機の制御が中止される。
【0023】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とするハイブリッド駆動装置について説明すると、この発明で対象とするハイブリッド駆動装置は、一例として車両に搭載されるものであって、図3に示すように、主動力源1のトルクが出力部材2に伝達され、その出力部材2からデファレンシャル3を介して駆動輪4にトルクが伝達される。一方、走行のための駆動力を出力する力行制御あるいはエネルギを回収する回生制御の可能なアシスト動力源5が設けられており、このアシスト動力源5が変速機6を介して出力部材2に連結されている。したがってアシスト動力源5と出力部材2との間で伝達トルクを変速機6で設定する変速比に応じて増減するようになっている。
【0024】
上記の変速機6は、設定する変速比が“1”以上となるように構成することができ、このように構成することにより、アシスト動力源5でトルクを出力する力行時に、アシスト動力源5で出力したトルクを増大させて出力部材2に伝達できるので、アシスト動力源5を低容量もしくは小型のものとすることができる。しかしながら、アシスト動力源5の運転効率を良好な状態に維持することが好ましいので、例えば車速に応じて出力部材2の回転数が増大した場合には、変速比を低下させてアシスト動力源5の回転数を低下させる。また、出力部材2の回転数が低下した場合には、変速比を増大させることがある。
【0025】
そのような変速の場合、変速機6での伝達トルク容量が低下したり、あるいは回転数の変化に伴う慣性トルクが生じたりし、これが出力部材2のトルクすなわち駆動トルクに影響する。そこでこの発明の制御装置は、変速機6による変速の際に主動力源1のトルクを補正して出力部材2のトルク変動を防止もしくは抑制する。
【0026】
より具体的に説明すると、主動力源1は図4に示すように、内燃機関10と、モータ・ジェネレータ(以下、仮に第1モータ・ジェネレータもしくはMG1と記す)11と、これら内燃機関10と第1モータ・ジェネレータ11との間でトルクを合成もしくは分配する遊星歯車機構12とを主体として構成されている。その内燃機関(以下、エンジンと記す)10は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。その制御は、例えば、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(E−ECU)13によっておこなうように構成されている。
【0027】
また、第1モータ・ジェネレータ11は、一例として同期電動機であって、電動機としての機能と発電機としての機能とを生じるように構成され、ステータがケーシングなどの所定の固定部に固定され、ロータ(それぞれ図示せず)が前記サンギヤ17に連結されている。そして、第1モータ・ジェネレータ11は、インバータ14を介してバッテリーなどの蓄電装置15に接続されている。そのインバータ14を制御することにより、第1モータ・ジェネレータ11の出力トルクあるいは回生トルクを適宜に設定するようになっている。その制御をおこなうために、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(MG1−ECU)16が設けられている。
【0028】
さらに、遊星歯車機構12は、外歯歯車であるサンギヤ17と、そのサンギヤ17に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ18と、これらサンギヤ17とリングギヤ18とに噛合しているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリヤ19とを三つの回転要素として差動作用を生じる公知の歯車機構である。前記内燃機関10の出力軸がダンパー20を介してそのキャリヤ19に連結されている。言い換えれば、キャリヤ19が入力要素となっている。
【0029】
これに対してサンギヤ17に第1モータ・ジェネレータ11が連結されている。したがってサンギヤ17がいわゆる反力要素となっており、またリングギヤ18が出力要素となっている。そして、そのリングギヤ18が出力部材(すなわち出力軸)2に連結されている。
【0030】
一方、変速機6は、図4に示す例では、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわちそれぞれ外歯歯車である第1サンギヤ21と第2サンギヤ22とが設けられており、その第1サンギヤ21にショートピニオン23が噛合するとともに、そのショートピニオン23がこれより軸長の長いロングピニオン24に噛合し、そのロングピニオン24が前記各サンギヤ21,22と同心円上に配置されたリングギヤ25に噛合している。なお、各ピニオン23,24は、キャリヤ26によって自転かつ公転自在に保持されている。また、第2サンギヤ22がロングピニオン24に噛合している。したがって第1サンギヤ21とリングギヤ25とは、各ピニオン23,24と共にダブルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成し、また第2サンギヤ22とリングギヤ25とは、ロングピニオン24と共にシングルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成している。
【0031】
そして、第1サンギヤ21を選択的に固定する第1ブレーキB1と、リングギヤ25を選択的に固定する第2ブレーキB2とが設けられている。これらのブレーキB1,B2は摩擦力によって制動力を生じるいわゆる摩擦係合装置であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキB1,B2は、油圧や電磁力などによる係合力に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。さらに、第2サンギヤ22に前述したアシスト動力源5が連結され、またキャリヤ26が前記出力軸2に連結されている。
【0032】
したがって、上記の変速機6は、第2サンギヤ22がいわゆる入力要素であり、またキャリヤ26が出力要素となっており、第1ブレーキB1を係合させることにより変速比が“1”より大きい高速段が設定され、第1ブレーキB1に替えて第2ブレーキB2を係合させることにより、高速段より変速比の大きい低速段が設定されるように構成されている。この各変速段の間での変速は、車速や要求駆動力(もしくはアクセル開度)などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。その制御をおこなうためのマイクロコンピュータを主体とした電子制御装置(T−ECU)27が設けられている。
【0033】
なお、図4に示す例では、アシスト動力源5として、トルクを出力する力行およびエネルギを回収する回生の可能なモータ・ジェネレータ(以下仮に、第2モータ・ジェネレータもしくはMG2と記す)が採用されている。この第2モータ・ジェネレータ5は、ステータとロータ(それぞれ図示せず)を備え、ステータがケーシングなどの所定の固定部に取り付けられて固定され、これに対してロータが前記第2サンギヤ22に連結されている。そして、この第2モータ・ジェネレータ5は、インバータ28を介してバッテリー29に接続されている。そのインバータ28をマイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(MG2−ECU)30によって制御することにより、力行および回生ならびにそれぞれの場合におけるトルクを制御するように構成されている。なお、そのバッテリー29および電子制御装置30は、前述した第1モータ・ジェネレータ11についてのインバータ14およびバッテリー(蓄電装置)15と統合することもできる。
【0034】
上述したトルク分配機構としてのシングルピニオン型遊星歯車機構12についての共線図を示せば、図5の(A)のとおりであり、キャリヤ19に入力されるエンジン10の出力するトルクに対して、第1モータ・ジェネレータ11による反力トルクをサンギヤ17に入力すると、出力要素となっているリングギヤ18には、エンジン10から入力されたトルクより大きいトルクが現れる。その場合、第1モータ・ジェネレータ11は、発電機として機能する。また、リングギヤ18の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1モータ・ジェネレータ11の回転数を大小に変化させることにより、エンジン10の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン10の回転数を例えば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、第1モータ・ジェネレータ11を制御することによっておこなうことができる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0035】
また、変速機6を構成しているラビニョ型遊星歯車機構についての共線図を示せば、図5の(B)のとおりである。すなわち第2ブレーキB2によってリングギヤ25を固定すれば、低速段Lが設定され、第2モータ・ジェネレータ5の出力したトルクが変速比に応じて増幅されて出力軸2に付加される。これに対して第1ブレーキB1によって第1サンギヤ21を固定すれば、低速段Lより変速比の小さい高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も“1”より大きいので、第2モータ・ジェネレータ5の出力したトルクがその変速比に応じて増大させられて出力軸2に付加される。
【0036】
なお、各変速段L,Hが定常的に設定されている状態では、出力軸2に付加されるトルクは、第2モータ・ジェネレータ5の出力トルクを変速比に応じて増大させたトルクとなるが、変速過渡状態では各ブレーキB1,B2でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルクなどの影響を受けたトルクとなる。また、出力軸2に付加されるトルクは、第2モータ・ジェネレータ5の駆動状態では、正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。
【0037】
上述したハイブリッド駆動装置は、エンジン10を可及的に効率の良い状態で運転して排ガス量を低減すると同時に燃費を向上させ、またエネルギ回生をおこなってこの点でも燃費を改善することを主な目的としている。したがって大きい駆動力が要求されている場合には、主動力源1のトルクを出力軸2に伝達している状態で、第2モータ・ジェネレータ5を駆動してそのトルクを出力軸2に付加する。その場合、低車速の状態では、変速機6を低速段Lに設定して付加するトルクを大きくし、その後、車速が増大した場合には、変速機6を高速段Hに設定して、第2モータ・ジェネレータ5の回転数を低下させる。これは、第2モータ・ジェネレータ5の駆動効率を良好な状態に維持して燃費の悪化を防止するためである。
【0038】
したがって上記のハイブリッド駆動装置では、第2モータ・ジェネレータ5を動作させている走行中に変速機6による変速を実行する場合がある。その変速は、前述した各ブレーキB1,B2の係合・解放状態を切り換えることにより実行される。例えば低速段Lから高速段Hに切り換える場合には、第2ブレーキB2を係合させていた状態からこれを解放させ、同時に第1ブレーキB1を係合させることにより、低速段Lから高速段Hへの変速が実行される。
【0039】
この変速の過程では、各ブレーキB1,B2でのトルク容量が低下するので、第2モータ・ジェネレータ5から出力軸2に付加させるトルクが、各ブレーキB1,B2でのトルク容量に制限されて低下する。そのため、出力軸2のトルクが変化し、これがショックの要因となる。出力トルクの変動の抑制は、いわゆるトルクアシストをおこなう駆動装置の出力トルクを制御することによりおこなうのが一般的であったが、この発明で対象とするハイブリッド駆動装置では、いわゆるトルクアシスト手段である第2モータ・ジェネレータ5から出力軸2に伝達されるトルクが制限されることにより生じるので、第2モータ・ジェネレータ5の出力トルクを制御しても上記のショックを解消もしくは低減できない。そこでこの発明に係る制御装置は、主動力源1から出力軸2に伝達されるトルクを制御することによりショックを解消もしくは低減する。具体的には、上述した低速段Lから高速段Hへの変速の場合には、主動力源1から出力軸2に伝達されるトルクを増大してトルクの落ち込みを緩和する。
【0040】
その制御の具体例を以下に説明する。先ず、全体的な制御について図6を参照して説明すると、図6に示す例では、シフト位置の検出がおこなわれる(ステップS1)。このシフト位置とは、車両を停止状態に維持するパーキングP、後進走行させるリバースR、ニュートラル状態とするニュートラルN、前進走行するためのドライブD、出力軸2の回転数に対してエンジン回転数を相対的に大きく維持して駆動トルクを大きくし、あるいはコースト時に制動力を増大させるエンジンブレーキSなどのシフト装置(図示せず)で選択されている各状態であり、ステップS1ではリバース、ドライブ、エンジンブレーキの各シフト位置を検出する。
【0041】
ついで、要求駆動力が決定される(ステップS2)。例えば、シフト位置やアクセル開度、さらには車速などの車両の走行状態に関する情報ならびに駆動力マップなどの予め記憶している情報に基づいて要求駆動力が決定される。
【0042】
その決定された要求駆動力に基づいて変速段が決定される(ステップS3)。すなわち前述した変速機6で設定すべき変速段が低速段Lあるいは高速段Hに決定される。
【0043】
その変速機6で設定すべき変速段への変速中か否かが判断される(ステップS4)。この判断は、変速を実行すべきか否かの判断であり、ステップS3で決定された変速段が、その時点に設定されている変速段とは異なっている場合に、ステップS4で肯定的に判断される。
【0044】
ステップS4で肯定的に判断された場合には、ステップS3で決定された変速段を設定するための変速を実行するように油圧が制御される(ステップS5)。この油圧は、前述した各ブレーキB1,B2の油圧であり、例えば係合側のブレーキについては、係合直前の状態にするために油圧を一次的に増大させるファーストフィルの後に所定の低い油圧に維持する低圧待機の制御をおこない、これに対して解放側のブレーキについては、所定油圧までステップダウンさせた後、第2モータ・ジェネレータ5の回転数に応じて次第に解放させるように油圧を低下させる制御をおこなう。
【0045】
各ブレーキB1,B2の係合圧をこのように制御することにより第2モータ・ジェネレータ5と出力軸2との間で伝達されるトルクが制限されるので、パワーオン状態では、出力トルクが低下する。そのトルクの低下量は、変速機6におけるブレーキB1,B2のトルク容量に応じたものとなるので、ブレーキトルクが推定される(ステップS6)。これは、各ブレーキB1,B2の油圧指令値に基づいて推定することができる。
【0046】
推定されたブレーキトルクが出力トルクの低下量に対応しているので、出力トルクの低下を補うための主動力源1によるトルク補償制御量(MG1目標回転数)が求められる(ステップS7)。図4に示すハイブリッド駆動装置では、主動力源1がエンジン10と第1モータ・ジェネレータ11ならびに遊星歯車機構12によって構成されているので、第1モータ・ジェネレータ11のトルク(反力トルク)を制御することにより、変速時のトルク補償をおこなうことができ、したがってステップS7では第1モータ・ジェネレータ11の補償制御量が求められる。その詳細は後述する。
【0047】
前述したように変速機6での変速は、各ブレーキB1,B2の係合・解放状態を変化させることにより実行され、その過程ではトルク容量が低下する。その結果、例えば第2モータ・ジェネレータ5がトルクを出力しているパワーオン状態では、第2モータ・ジェネレータ5に作用する反力が低下するので、第2モータ・ジェネレータ5の制御量を変更しないとすれば、その回転数が増大してしまう。そこで、第1モータ・ジェネレータ11の補正制御量の算出と併せて、第2モータ・ジェネレータ5のトルク補正量が求められる(ステップS8)。
【0048】
ついで、上記のようにして求められた各制御量もしくは補正量が出力される。すなわち上記のステップS5で求められたブレーキ油圧を制御するための指令信号が出力され(ステップS9)、ステップS7で求められたMG1目標回転数を設定する指令信号が出力され(ステップS10)、ステップS8で求められた第2モータ・ジェネレータ5のトルクを設定する指令信号が出力される(ステップS11)。
【0049】
一方、変速中ではないことによりステップS4で否定的に判断された場合には、定常走行時(非変速時)のブレーキ油圧が算出される(ステップS12)。そのブレーキ油圧は、第2モータ・ジェネレータ5と出力軸2との間で伝達するトルクに対応したトルク容量を設定するための油圧であり、したがって第2モータ・ジェネレータ5と出力軸2との間で伝達することが要求されているトルクに基づいて算出することができる。
【0050】
また、定常走行時の第2モータ・ジェネレータ5のトルクが算出される(ステップS13)。定常走行時には、エンジン10は燃費が良好になるように制御され、その状態での要求駆動力に対する主動力源1の出力の過不足分を第2モータ・ジェネレータ5で補うから、第2モータ・ジェネレータ5のトルクは、エンジン10および第1モータ・ジェネレータ11によって出力されるトルクと要求されているトルクとに基づいて算出することができる。
【0051】
前述したようにエンジン10の回転数は、第1モータ・ジェネレータ11によって制御することができ、定常走行状態では、最適燃費となるようにエンジン10を運転するので、第1モータ・ジェネレータ11の回転数として、エンジン10の燃費が最適となる回転数が目標として算出される(ステップS14)。
【0052】
その後、前述したステップS9ないしステップS11に進み、ステップS12で求められたブレーキ油圧を設定するための指令信号、ステップS13で求められた第2モータ・ジェネレータ5のトルクを設定するための指令信号、ステップS14で算出された第1モータ・ジェネレータ11の回転数を設定するための指令信号が、それぞれ出力される。
【0053】
そのMG1回転数制御は、設定された目標回転数と実際の回転数との偏差に基づくフィードバック制御によって実行され、特に積分動作を含むフィードバック制御によっておこなわれる。その制御応答性は、定常時よりも変速中に高くなるように設定され、これは例えばフィードバック制御ゲイン(フィードバック定数)を変更することにより実行される。
【0054】
つぎに上述した変速機6での変速中における主動力源1による出力トルクの補正制御について更に具体的に説明する。図1において、先ず変速中か否かが判断される(ステップS21)。このステップS21の判断は、実際に変速が実行されているか否かの判断ではなく、変速をおこなうべき走行状態となっているか否かの判断である。このステップS21で否定的に判断された場合には、出力トルクの補償をおこなう必要がないので、第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化量dnesft およびエンジントルク補正量Teadjがそれぞれゼロリセットされる(ステップS22)。
【0055】
ここで、トルク補償のために第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化量dnesft を採用しているのは、エンジン10の制御のために第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数を常時フィードバック制御しているためである。そして、設定値がゼロとされた上記の目標回転数変化量dnesft およびエンジントルク補正量Teadjが出力される(ステップS23)。なお、この場合、これらの信号が出力されなくてもよく、要は、第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化制御およびエンジントルク補正制御が実施されない。
【0056】
上記のステップS21で肯定的に判断された場合には、その変速を実行するための指令信号の出力があったか否かが判断される(ステップS24)。変速出力があったことによりステップS24で肯定的に判断された場合には、変速開始時の推定出力軸トルクTotg が記憶される(ステップS25)。すなわち変速中に維持すべき出力トルクを保持する。
【0057】
ついで、ガードタイマがゼロリセットされる(ステップS26)。このガードタイマは、変速出力からブレーキB1,B2の係合・解放状態を実際に切り換えるための制御開始時点までの時間であって、誤制御を防止するために設定されている。すなわちこのガードタイマの経過を待ってブレーキB1,B2の実際の係合・解放制御やトルク補償制御が開始される。
【0058】
上記のステップS26でガードタイマをゼロリセットした後、あるいは変速出力がないことによりステップS24で否定的に判断された場合、ガードタイマが成立したか否か、すなわちガードタイマとして設定した時間が経過したか否かが判断される(ステップS27)。なお、その場合、油温が所定温度以上であること、制御機器にフェールが生じていないことなどの他の前提条件の成立を併せて判断することとしてもよい。
【0059】
その時間が経過していない場合および変速出力がない場合には、このステップS27で否定的に判断され、その場合は、出力トルクの補償をおこなう必要がないので、上記のステップS22に進んで、第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化量dnesft およびエンジントルク補正量Teadjがそれぞれゼロリセットされる。したがってこの場合もステップS23に進んで、設定値がゼロとされた各信号dnesft ,Teadjが出力される。言い換えれば、第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化制御およびエンジントルク補正制御が実施されない。
【0060】
これに対してステップS27で肯定的に判断された場合には、変速機6におけるブレーキB1,B2の係合・解放状態を実際に切り換える変速制御およびそれに伴うトルク補償制御が実行される。すなわち、先ず、ガードタイマが成立することに伴って解放側のブレーキ(アップシフトの場合は第2ブレーキ)B2が次第に解放させられ、それに先行して係合側のブレーキ(アップシフトの場合は第1ブレーキ)B1がパッククリアランスを詰めた係合直前の低圧待機状態になっている。したがってこれらのブレーキB1,B2のトルク容量(係合圧)に基づいて推定出力軸トルクTo が算出される(ステップS28)。すなわち変速中のトルク相においては、第2モータ・ジェネレータ5から出力軸2に付加されるトルクが、各ブレーキB1,B2のトルク容量に応じて制限され、その分、出力トルクが低下する。したがってその低下した出力トルクを前記記憶している出力軸トルクTotg から減算すれば、その時点の推定出力軸トルクTo を求めることができる。
【0061】
こうして求められた推定出力軸トルクTo と既に記憶している変速開始時の推定出力軸トルクTotg との差が、予め定めた所定値を超えたか否かが判断される(ステップS29)。前記各ブレーキB1,B2のトルク容量が変化すると、出力軸2のトルクが低下して、事実上の変速が開始することになるので、ステップS29ではこの事実上の変速の開始を判断している。したがってステップS29で否定的に判断された場合には、前述したステップS22に進み、出力軸トルクのいわゆるトルク補償は実行しない。
【0062】
これとは反対にステップS29で肯定的に判断されれば、事実上の変速が開始して出力軸トルクが低下し始めているので、第1モータ・ジェネレータ11によるトルク補償をおこなうために第1モータ・ジェネレータ11の目標変化量dnesft が算出される(ステップS30)。前述した図5の(A)に破線で示すように、第1モータ・ジェネレータ11での反力を増大させて回転数を低下させると、エンジン10によるトルクがキャリヤ19に図5の(A)における上向きに作用しているので、リングギヤ18およびこれに連結されている出力軸2の回転数を維持するようにトルクを増大させることができる。
【0063】
なお、第1モータ・ジェネレータ11によるトルク補償は、出力軸トルクの落ち込み量すなわち変速開始時の推定出力軸トルクTotg と変速中の各時点での推定出力軸トルクTo との差(Totg −To )が小さくなるように実行され、したがって第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化量dnesft は、前記トルク差(Totg −To )や変速出力からイナーシャ相の開始までの時点Tinr および変速出力から変速終了までの時間Tend などに基づいて決定される。すなわち変速の進行度合に応じて第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化量dnesft が算出され、これは、一例として各ブレーキB1,B2のトルク容量の各時点の値や第1モータ・ジェネレータ11の回転数変化に伴う慣性トルクに基づく演算であり、あるいは各運転状態に合わせて予め定めたマップ値を変速の進行度合に応じて読み出し、その値に基づく演算である。
【0064】
また、図5の(A)に破線で示すように、第1モータ・ジェネレータ11による反力トルクを増大させると、エンジン回転数を低下させるように荷重が作用する。そこで、そのエンジン回転数の低下を可及的に抑制し、ひいては出力軸トルクを維持するために、エンジントルクの補正量Teadjが算出される(ステップS31)。これは、前記遊星歯車機構12のギヤ比(サンギヤ17とリングギヤ18との歯数の比)および第1モータ・ジェネレータ11の出力するトルクに基づいて算出することができる。
【0065】
上記の第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化量dnesft から定まる第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数Ng についてのなまし処理およびその回転数制御のためのフィードバック制御における定数(フィードバックゲイン)が変更される(ステップS32)。すなわち、求められた目標回転数と現在時点の実回転数との偏差が大きいと、第1モータ・ジェネレータ11およびエンジン10の回転数を急激に変化させることになり、ショックが生じたりあるいは慣性トルクが大きくなりすぎたりするので、その回転数変化を滑らかにするためになまし処理が実行される。言い換えれば、第1モータ・ジェネレータ11の回転数が一次遅れで制御される。
【0066】
一方、変速中における第1モータ・ジェネレータ11の回転数制御は、出力軸トルクのいわゆるトルク補償のためにおこなわれるのであるから、前記変速機6での変速による出力軸トルクの変化に迅速に追従する制御(すなわちトルク変化を抑制する制御)をおこなう必要がある。これに対して通常時の第1モータ・ジェネレータ11についての回転数制御は、エンジン回転数を最適燃費状態に設定することを主な目的として実行されるので、エンジン回転数の頻繁な変化を避けることが好ましい。したがってステップS32では、第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数Ng に向けたフィードバック制御の定数が、通常時よりも応答性が高くなるように変更される。
【0067】
ついで、イナーシャ相の判定がおこなわれる(ステップS33)。イナーシャ相は、所定の回転部材の回転数が変速後の変速比に応じた回転数に向けて変化する状態であり、したがって上記の図4に示すハイブリッド駆動装置におけるアップシフトの場合には、第2モータ・ジェネレータ5の回転数の低下によってイナーシャ相の開始を判定することができる。
【0068】
このステップS33で否定的に判断された場合には、前述したバッテリ15,29の充電電流が、判断の基準となる所定値より大きいか否かが判断される(ステップS34)。これは、一例として第1モータ・ジェネレータ11で発電した電力の電流といわゆるトルクアシストのために第2モータ・ジェネレータ5に供給する電流との差が所定値より大きいか否かを判断することによっておこなうことができる。あるいは第1モータ・ジェネレータ11で発生させている電流を判断することとしてもよい。要は、第1モータ・ジェネレータ11による発電の状態を判断しており、その発電量が充分に大きい場合にはステップS34で肯定的に判断される。
【0069】
このステップS34で肯定的に判断された場合には、ステップS23に進む。すなわち、上記のステップS30で設定された第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化量dnesft およびステップS31で設定されたエンジントルク補正量Teadjが出力され、第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化制御およびエンジントルク補正制御が実行される。
【0070】
上述したように第1モータ・ジェネレータ11による反力トルクを増大させて出力軸トルクの低下を抑制するいわゆるトルク補償制御をおこなった場合、エンジン10に掛かる反力トルクが増大してその回転数が低下し、それに伴って第1モータ・ジェネレータ11の回転数が低下するが、ステップS34で肯定的に判断された場合には、その第1モータ・ジェネレータ11の回転数の低下が特には大きくなく、変速後に第2モータ・ジェネレータ5に要求される電力を確保できる状態であるから、第1モータ・ジェネレータ11によるいわゆるトルク補償制御が実行もしくは続行される。したがって変速終了時に第1モータ・ジェネレータ11の回転数が低下していてもその発電量が充分に大きいから、第2モータ・ジェネレータ5に充分な電力を供給して出力軸トルクのアシストを所期どおりに実行し、駆動トルクの落ち込みやショックなどが防止もしくは抑制される。
【0071】
これに対してステップS34で否定的に判断された場合、すなわち第1モータ・ジェネレータ11の回転数が低下していて発電量が不足している場合には、目標回転数変化量dnesft およびエンジントルク補正量Teadjのそれぞれがゼロリセットされる(ステップS35)。前述したようにこれら目標回転数変化量dnesft およびエンジントルク補正量Teadjは、変速機6での変速に起因する出力軸トルクの変化を抑制するためのいわゆるトルク補償制御のために求められたものである。したがってこれらをゼロリセットすることは、要はそのトルク補償制御が実行しないことに相当する。言い換えれば、変速中における第1モータ・ジェネレータ11による発電量が低下もしくは不足した場合には、トルク補償制御が禁止もしくは中止される。
【0072】
その場合、第1モータ・ジェネレータ11の回転数を制御するフィードバック制御における積分項がクリアされる(ステップS36)。積分項は、過去の偏差の累積値に基づく制御量を求めるものであるが、上記のトルク補償制御を中止する場合には、直ちに第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数やエンジン回転数を元に戻す必要があるので、応答性を高くする必要があり、そのために一時的に過去の偏差の積算値をクリアすることとしたのである。なお、クリアすることに替えて積算値を減少させてもよい。
【0073】
ついで、その時点の変速出力からの経過時間Tend が保持(記憶)される(ステップS37)。その後、ステップS23に進み、ゼロリセットされた各信号dnesft ,Teadjが出力される。すなわち第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化制御とエンジントルク補正制御とが中止される。
【0074】
これに対してステップS33で最初に肯定的に判断された場合には、その判断の成立した時点にイナーシャ相が開始したことになるので、その時点のタイマ値(変速出力時点にカウントを開始したタイマの値)を記憶(保持)する(ステップS38)。すなわちイナーシャ相の開始時間を学習する。これは、変速中の第1モータ・ジェネレータ11の制御初期値を適正化するためであり、イナーシャ相の開始の遅速に応じて第1モータ・ジェネレータ11の制御初期値が増減される。
【0075】
さらに、変速の終了が判断される(ステップS39)。これは、第2モータ・ジェネレータ5の回転数と、変速後の回転数すなわち出力軸2の回転数に変速後の変速比を掛けた回転数との差が所定の基準値以下となったか否かを判断することによっておこなうことができる。このステップS35で否定的に判断された場合には、前述したステップS34に進み、ステップS35ないしステップS37およびステップS23の制御を実行する。すなわち、第1モータ・ジェネレータ11による発電量が充分であれば、トルク補償制御を実行もしくは継続し、反対にその発電量が不十分であれば、トルク補償制御を直ちに中止する。
【0076】
これに対して変速終了判定が成立してステップS39で肯定的に判断された場合には、変速が終了していて主動力源1による出力軸トルクのトルク補償制御をおこなう必要がないので、上述したステップS35ないしステップS37およびステップS23に進み、第1モータ・ジェネレータ11を使用したトルク補償制御を終了する。
【0077】
上記の図1に示す制御を実行した場合の第2モータ・ジェネレータ5の回転数NT ,推定出力軸トルクtpsft ,第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化量(エンジン回転数変化量目標値)dnesft 、トルク補償制御の実行フラグxngadjex、エンジン回転数Ne 、バッテリ電流、出力軸トルクの変化を図2にタイムチャートとして示してある。すなわち、変速機6での変速を実行するべき走行状態が成立してこれが検出されると、所定時間T1 の経過した時点に変速信号が出力される。一例として、係合側の摩擦係合装置(上記の具体例ではブレーキ)に対する供給圧を一時的に高くして、パッククリアランスを詰め、その後に係合圧を低下させして低圧待機させるファーストフィルが実行される。
【0078】
変速出力後に所定のガードタイマTGDNGCTST が成立すると、実質的な変速制御が開始される。一例として解放側の摩擦係合装置(上記の具体例ではブレーキ)の係合圧が所定圧力までステップ的に低下させられる。その結果、第2モータ・ジェネレータ5と出力軸2との間の伝達トルク容量が低下するので、推定出力軸トルクtpsft が次第に低下する。その推定出力軸トルクtpsft と変速開始時の推定出力軸トルクTotg との差すなわちトルク落ち込み量が所定の基準値TQNGCTST より大きくなると、主動力源1によるトルク補償制御が開始される。すなわち第1モータ・ジェネレータ11の目標回転数変化制御とエンジントルク補正制御とが開始される。なお、これらの制御がおこなわれていることを示す実行フラグxngadjex がオンとされる。
【0079】
この制御は、例えば前述したように第1モータ・ジェネレータ11による反力を増大させ、それに伴って第1モータ・ジェネレータ11やエンジン10の回転数を低下させる制御であり、したがってその回転数の変化に起因する慣性トルクが出力軸2に付加されるので、変速中の出力軸トルクの低下が抑制される(図2の実線)。なお、第1モータ・ジェネレータ11によるトルク補償制御を実行しない場合には、図2に一点鎖線で示すように、出力軸トルクが大きく低下する。
【0080】
またその場合、前記のステップS31によるようにエンジントルクが補正されるので、第1モータ・ジェネレータ11による反力の増大に対抗する正トルクが増大してエンジン回転数の過度な低下が抑制もしくは防止される。なお、図2には、エンジン回転数変化量目標値dnesft に上限値t_dnesftmx を設定してある例を示している。
【0081】
解放側ブレーキの係合圧の低下と係合側ブレーキの係合圧の増大に伴って変速機6の内部でトルクの変化が生じ、その状態がある程度進行すると、第2モータ・ジェネレータ5などの回転部材の回転変化が生じる。すなわちイナーシャ相が開始する。その回転変化に伴う慣性トルクが出力軸2に付加されるので、図2に示すように推定出力軸トルクが次第に増大する。
【0082】
また併せて第2モータ・ジェネレータ5の回転数が変速後の変速比に応じた回転数に向けて次第に低下し、その過程でエンジン回転数が次第に低下するので、第1モータ・ジェネレータ11が発電をおこなっていたものと、その量が次第に低下する。その結果、前述したステップS34で肯定的に判断されると、第1モータ・ジェネレータ11によるトルク補償制御が中止される。これを図2には破線で示してある。
【0083】
すなわちエンジン回転数変化量目標値dnesft および実行フラグxngadjexがゼロリセットされる。そのため、第1モータ・ジェネレータ11からエンジン10に作用していた反力トルクが低下するので、エンジン回転数が次第に上昇する。それに伴って第1モータ・ジェネレータ11の回転数が増大するためにその発電量が増大し、バッテリからの電力の持ち出し量が少なくなる。なおその場合、第1モータ・ジェネレータ11によるトルク補償制御が中止されるので、出力軸トルクが低下するが、その結果として設定される出力軸トルクは、上述したトルク補償制御を実行しなかった場合のトルクであり、これは、変速の進行によってある程度復帰しているので、出力軸トルクが過度に低下することはない。
【0084】
そして、第2モータ・ジェネレータ5の出力回転数が変速後の同期回転数に達して変速が終了した時点では、第1モータ・ジェネレータ11による発電量が確保されているので、第2モータ・ジェネレータ5の出力トルクがトルクアシストに充分なトルクとなり、その結果、変速終了時もしくはその直後の出力軸トルクが低下することはない。
【0085】
これに対して第1モータ・ジェネレータ11による発電量あるいはバッテリ充電量に拘わらず、変速の終了までトルク補償制御を実行するとすれば、図2に実線で示してあるように、エンジン回転数の低下に伴う第1モータ・ジェネレータ11の回転数の低下によって発電量が低下し、その結果、バッテリから電力を第2モータ・ジェネレータ5に対して出力するものの、その上限値によって制約を受け、そのために、第2モータ・ジェネレータ5の出力トルクが低下する。すなわち、変速の終了時点で第2モータ・ジェネレータ5が必要充分なトルクを出力できないので、出力軸2に対するいわゆるトルクアシストを充分におこなうことができず、出力軸トルク(すなわち駆動トルク)が低下する。
【0086】
ここで上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、前述したステップS30,S31の機能的手段が、この発明のトルク補償制御手段に相当し、ステップS34,S35の機能的手段が、この発明のトルク補償制御中止手段に相当する。また、ステップS36の機能的手段が、請求項1の発明の回転数制御手段に相当し、さらにステップS34の機能的手段が、請求項2の発明のトルク補償判断手段に相当する。
【0087】
なお、この発明は上述した具体例に限定されない。例えばこの発明の変速機は、上述したラビニョ型遊星歯車機構からなるものに限られないのであって、要は、出力部材とこれに付加するトルクを出力する動力源との間の変速比を変更できる装置であればよい。また、上記の具体例では、いわゆるクラッチ・ツウ・クラッチ変速によって変速を実行する変速機を例に挙げたが、この発明では、クラッチ・ツウ・クラッチ変速以外の態様で変速を実行する変速機を採用することができる。
【0088】
さらに、この発明における主動力源を構成する分配機構は、上述したシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されたものに限定されないのであり、必要に応じて適宜の機構を作用することができる。そして、この発明では、主動力源を構成している発電機での発電量に応じてトルク補償制御の中止を判断する構成に替えて、第2モータ・ジェネレータすなわちアシスト動力源である電動機に給電する蓄電装置の充電状態など、要は、電動機に対する電力供給源の電力供給能力に応じてトルク補償制御の中止を判断するように構成してもよい。
【0089】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、変速機での変速中のいわゆるトルク補償をおこなうように発電機を制御するにあたり、その発電状態などの電動機に対する電力供給能力に基づいて、発電機を使用したトルク補償が中止され、その変速の終了時には内燃機関の回転数や発電機の回転数が低下した状態から復帰し、電動機に対する電力が確保されるので、変速終了時の出力軸に対するいわゆるトルクアシストを過不足なく実行して、変速終了時の駆動トルクの低下やショックなどを防止することができる。これに加えて、変速中における出力軸のトルク低下が抑制され、かつ変速終了時には電動機の電力が確保されて出力軸に対するいわゆるトルクアシストがおこなわれるので、変速時のショックや変速後の駆動トルクの低下などを回避もしくは抑制することができる。しかも、いわゆるトルク補償制御を中止する場合、フィードバック制御における積分項がクリアされ、その結果、主として回転数偏差に基づく制御が実行されるので、制御の応答性が向上し、変速終了時のトルクの低下をより確実に回避もしくは抑制することができる。
【0092】
そして、請求項2の発明によれば、蓄電装置の充電状態に基づいて発電機を使用したいわゆるトルク補償制御の中止の許可および禁止が判断されるので、変速終了時における発電機での発電電力量およびそれに伴う電動機に対する給電量が確保され、出力軸のトルクの低下を防止もしくは抑制することができる。
【0093】
またさらに、請求項3の発明によれば、変速機での変速中のいわゆるトルク補償をおこなうように発電機を制御するにあたり、その発電状態に基づいて、発電機を使用したトルク補償が中止され、その変速の終了時には内燃機関の回転数や発電機の回転数が低下した状態から復帰し、電動機に対する電力が確保されるので、変速終了時の出力軸に対するいわゆるトルクアシストを過不足なく実行して、変速終了時の駆動トルクの低下やショックなどを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の制御装置による制御例を説明するための更に具体的なフローチャートである。
【図2】 図1に示す制御をおこなった場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【図3】 この発明で対象とするハイブリッド駆動装置の一例を模式的に示すブロック図である。
【図4】 そのハイブリッド駆動装置を更に具体的に示すスケルトン図である。
【図5】 図4に示す各遊星歯車機構についての共線図である。
【図6】 この発明の制御装置による制御例を説明するための全体的なフローチャートである。
【符号の説明】
1…主動力源、 2…出力部材(出力軸)、 5…アシスト動力源(第2モータ・ジェネレータ)、 6…変速機、 10…エンジン、 11…第1モータ・ジェネレータ、 12…遊星歯車機構。

Claims (3)

  1. 内燃機関の出力トルクを発電機と出力軸とに分配して伝達するとともに、電力が供給されて駆動される電動機が変速機を介して前記出力軸に連結されているハイブリッド車の制御装置において、
    前記変速機での変速中における前記出力軸のトルクの変化を抑制する方向に前記発電機を制御するトルク補償制御手段と、
    前記変速機での変速中における前記電動機に対する電力供給源の電力供給能力に基づいて、前記トルク補償制御手段による前記発電機の制御を中止するトルク補償制御中止手段と
    を備え、
    前記トルク補償制御中止手段は、前記発電機による発電量を増大させる手段を含み、
    さらに前記トルク補償制御手段による前記発電機の制御を、積分動作を含む所定の目標回転数と実回転数との偏差に基づくフィードバック制御によっておこない、前記トルク補償制御中止手段によって前記発電機の発電量を増大させる際に前記積分動作の積分値を低減させる回転数制御手段を備えている
    とを特徴とするハイブリッド車の制御装置。
  2. 前記電動機に電力を供給する蓄電装置と、
    その蓄電装置の充電状態に基づいて前記トルク補償制御中止手段による前記発電機の制御の中止を許可および禁止するトルク補償判断手段と
    を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車の制御装置。
  3. 前記電動機に対する電力供給源の電力供給能力には、前記発電機の発電状態が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車の制御装置。
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