JP4059808B2 - レーザプラズマx線顕微鏡 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、短パルス高出力のレーザプラズマX線を照射して形成するX線像を光電変換面により電子像に変換し電子光学的に拡大し結像して撮像素子を介して観察するレーザプラズマX線顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
X線自体を光学的に拡大するX線顕微鏡は、X線光学素子の拡大倍率が限られるので、大きな分解能を持たせると装置として極めて大型になる。また、X線光学系では倍率変更が困難なためズーミング機能を持たせることが難しく、試料中の特定の位置を探し出すための操作が煩雑で時間を必要としていた。さらに、強度強いX線を照射する必要があるので、生体を生きたまま観察することは難しかった。
【0003】
そこで、X線自体の拡大によらずX線透過像を電子像に変換して電子レンズ系で拡大して観察できるようにしたX線顕微鏡が開発されている。
本願出願人によって開示された特許文献1や特願2002−152136には、図6や図7に示すように、光電変換を利用してX線像を電子像に変換し、電子像を拡大して撮像素子上に結像し可視化して観察するようにしたX線顕微鏡が記載されている。この開示発明は、X線を試料に照射して生成されたX線透過像を光電変換面上に投影し、光電変換面でX線透過像を電子像に変換して電磁レンズ系で拡大し、マイクロチャンネルプレートMCPなどで構成される電子線可視化面に結像させて、CCDカメラなどを介して試料のX線像を観察する。
【0004】
開示されたX線顕微鏡は拡大倍率が大幅に増大したので、物体のX線透過像を細部にわたって正確に観察することができるようになった。
このX線顕微鏡は、ズーミング機能を備えるため生体試料の各部を観察する場合にも便利である。また、レーザプラズマX線源で発生するパルス状の軟X線を用いると、軟X線は電子線に比べて生体試料に与えるダメージが小さく、また無染色で観察できるので、生体試料の観察に好都合である。
【0005】
しかし、放射光X線やX線管発生X線を利用して通常の対象を観察する場合には問題がなかったのであるが、レーザプラズマX線を使用するときには、注意しなければならない点がある。
レーザプラズマX線は、通常、パルス幅が数ナノ秒、波長1064nm、繰り返し数10Hz程度のNd:YAGレーザを光学レンズで金属ターゲットに集光して発生するプラズマから得られる。ターゲット材に金AuやモリブデンMoを用いると2〜5nmの軟X線が多く発生し、数ナノ秒のパルスX線となる。
【0006】
光電変換膜における変換時間はピコ秒以下と非常に早く、また、光電変換膜から2次電子が放出される時間も同程度であるので、発生するパルスX線と同型の光電子像を得ることができる。
しかし、開示された光電変換式X線顕微鏡は、光電変換膜の背面に投影されるX線像を表面の電子像に変換するときに形状を忠実に再現させるため光電変換膜を薄膜で製作しているので、一旦光電子を放出しきったときには、適当な時間が経過するか外部から電子を補充しない限り電子欠乏状態になるため直ちに次の光電子像を形成することができない。
【0007】
レーザプラズマX線は強度が強くごく短いパルスX線であるので、たとえば、1個の像を形成するのに必要とされる約1×1011個/mm2のX線をパルス幅5ナノ秒のパルスX線の1パルスで供給するものとし、1mm2のヨウ化セシウムで形成した光電変換膜の変換効率をX線1個に対して電子0.3個とすると、瞬間の光電子電流は約1Aと非常に大きくなる。
また、光電変換膜とアノード間の放電時に流れる過大電流が電源装置、光電変換膜、アノードなどの損傷やノイズ発生の問題を生じないように、電源装置と光電変換膜の間に2MΩ程度の保護抵抗を介装して最大電流値を抑制するようにしてある。
【0008】
しかし、この保護抵抗は電源装置からの電流供給を遅延させる効果を持ち、ナノ秒という短時間では光電変換膜に電子を供給できないので強度な短パルスX線を照射するときに対応できなくするという問題を生起させる。
また、保護抵抗に流れる光電子流に伴う電圧降下が生じるため、光電子エネルギーに分布が生じ不鮮明な像が形成されるという問題があった。
図8は、従来回路においてX線を照射したときのシミュレーション結果で、光電変換膜とアノードの間に20kV引加したときに1Aの電流が発生すれば、光電変換膜の電圧降下が13kV程度にもなることが示されている。なお、シミュレーションは、高電圧電源と光電変換膜の間を表せる高圧ケーブルで接続したものとして行った。
【0009】
X線顕微鏡の分解能δは、各種の収差によって左右され、光電変換膜とアノードの間の電圧降下ΔVも、
δ=C(ΔV/V)α
の式に従って、色収差の要因となる。ここで、Cはレンズ構造に従って決まる色収差係数、Vは引加電圧、αは電子流の放射角である。
したがって、C=5.43mm、α=0.02radとすると、20kVの電圧引加中に13kVの電圧降下が起これば、色収差は約65μmとなり、目標とする50nm以下の分解能には1000倍も不足する。
【0010】
【特許文献1】
特開2003−43200号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ナノ秒オーダーのごく強い短パルスX線を照射する場合にも光電変換面に十分な電流を供給しかつ電圧降下を抑制することにより、生きた状態で生体観察が可能なレーザプラズマX線顕微鏡を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明のレーザプラズマX線顕微鏡は、光電変換膜で放出する光電子を補充する電荷を供給するコンデンサ素子を光電変換膜と電子光学系のアノード、もしくは光電変換膜と接地端子との間に介装したことを特徴とする。
電荷を供給する容量素子を光電変換膜に接続したため、強いX線を受けて2次電子を発生し電子欠乏状態になった光電変換膜に直ちに電荷が供給されるので、電源装置から抵抗器を経由して電子を供給するのと比較して、次のX線照射に直ちに対応して電子線を発生することができ、対象物の運動を正確に観察することができる。
【0013】
らに、コンデンサ素子は、光電変換膜を備える光電変換板を一方の電極板とし、光電変換板に誘電材料を密着して設け、さらにこの誘電材料を挟んで光電変換板の反対側に他方の電極板を備えることにより構成されるものであってもよい。
他方の電極板はアノードの極板を兼ねることができる。
【0014】
このような容量素子を光電変換膜に設けることによって、放出した電子を直ちに補充して電子欠乏状態にならないようにすることができ、短パルスが短期間に繰り返し入力される場合にも、直ちにX線像に対応する光電子を放出し続けることができる。
なお、容量素子として同軸ケーブルを光電変換面に接続して利用することもできる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明のレーザプラズマX線顕微鏡を実施の形態に基づいて説明する。
図1は、本発明の1実施例を示す部分構成図である。本実施例は、図7に示したような、光電変換板を用いてX線透過像を電子像に変換して電子レンズ系で拡大して観察できるようにした光電変換式X線顕微鏡において、光電変換板に容量素子を付設したところに特徴がある。
【0016】
図1に示すように、光電変換板1とアノード2が対向して配設されている。光電変換板1は、X線が入射する面に試料3を密着セットする試料ホルダーが設けられ、X線入射面の裏側にはX線が入射すると2次電子を放出する光電変換膜4形成されている。
試料3がセットされた光電変換板1にX線を照射すると光電変換板1の表面に試料3のX線透過像が形成され、これに対応して光電変換膜4に2次電子が生起しX線透過像と同形の電子像が形成される。
【0017】
ここで、加速電源4によって光電変換板1とアノード2の間に0〜−20kVの加速電圧を引加すると、電子像をなぞって放出された2次電子が電圧に応じて加速され、対物レンズと投射レンズを形成する電磁コイル系に入射し像拡大して、電子線可視化面に結像する。
加速電源5と光電変換板1の間には保護抵抗器6が介装されて、電源装置や光電変換膜などの保護とノイズの抑制を行う。
【0018】
本実施例では、さらに光電変換板1と接地端子の間にコンデンサ7を接続することにより、光電変換膜4の近くに電荷を蓄積し、レーザプラズマX線などの高強度の短パルスX線が入射したときにも、素早く電子を補充できるようにして、光電変換膜4に電子欠乏状態が起きないようにする。
【0019】
図2は、コンデンサの効果を示す線図である。
図2のグラフ▲1▼はX線発生器に入射するYAGレーザの波形、グラフ▲2▼はX線発生器で発生したX線の波形、グラフ▲3▼はコンデンサを付ける前の光電変換膜においてグラフ▲2▼のX線が入射したときに発生する光電子流の波形である。光電変換膜の電子が欠乏するため強いX線に対して飽和現象が起こり正確に追従できないことが分かる。
【0020】
図中グラフ▲4▼はコンデンサを装着した光電変換板1にグラフ▲2▼のX線が入射したときの光電子流の波形である。光電変換に伴い消費される電子が直ちに補填されるので、X線のピークまで正確に波形を再現した電子流が得られることが分かる。
【0021】
また、図3は、光電変換膜4における電圧降下がコンデンサ7の容量に従って変化することを説明する線図である。図3は、図4の等価回路でビームパルス電流を1Aとしてシミュレーションした結果に基づいて作成した。図4の回路は、20kVの電源5から同軸ケーブル8と2MΩの保護抵抗6を介して加速電圧を供給する回路であって、光電変換板1に0.3pFの並列キャパシタンス9があるとして、さらに光電変換板1に並列にコンデンサを接続したものである。
【0022】
コンデンサが100pFのときに電圧降下が40V、400pFのときに10V、800pFのときに5Vになる。
X線顕微鏡の分解能δの式に当て嵌めると、分解能を50nm以下にするためにはΔV/Vが0.05%であればよく、コンデンサの容量を400pF以上にすればよいことが分かる。
【0023】
また、光電変換板にコンデンサを接続する代わりに、光電変換板をコンデンサの1極板として一体に形成してもよい。
図5は光電変換板1とアノード2の間に誘電体11を挿入することによってコンデンサを形成したものを示す図面である。誘電体11には、光電変換板1の電子像が形成される部分とアノード2の開口をつなぐ孔12が設けられていて、光電変換膜で発生する2次電子流が妨げられないようにしている。
【0024】
また、ある種の同軸ケーブルは十分大きなキャパシタンスを有し、高電圧に対する耐性が強いので、特別な工夫をしなくても本実施例に用いる容量素子として利用することができる。
なお、上記実施例では、試料が光電変換板に密着してセットされるが、試料を離して配置し、X線透過像を光電変換板上に投影するようにしたX線顕微鏡についても、本発明を適用することができる。
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のレーザプラズマX線顕微鏡によって、高強度のパルスX線を照射しても正確な電子像を得て、生体試料を生きた状態でX線透過像として観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のレーザプラズマX線顕微鏡の1実施例を示す部分構成図である。
【図2】本実施例におけるコンデンサの効果を示す線図である。
【図3】本実施例における光電変換面の電圧降下とコンデンサ容量の関係を説明する線図である。
【図4】図3の線図を求めるために用いた光電変換面の等価回路図である。
【図5】本実施例のレーザプラズマX線顕微鏡の別の態様を示す部分構成図である。
【図6】従来のレーザプラズマX線顕微鏡の例を示す構成図である。
【図7】従来のレーザプラズマX線顕微鏡における光電変換部分を表す構成図である。
【図8】従来のレーザプラズマX線顕微鏡における光電変換面の電圧降下を説明する線図である。
【符号の説明】
1 光電変換板
2 アノード
3 試料
4 光電変換膜
5 加速電源
6 保護抵抗
7 コンデンサ
8 同軸ケーブル
9 並列キャパシタンス
11 誘電体
12 孔

Claims (3)

  1. 光電変換膜によりX線像を電子像に変換し、該電子像を、アノードを備えた電子光学系に入射させ、拡大して観察するレーザプラズマX線顕微鏡であって、前記光電変換膜と対向して配設され接地された前記アノードもしくは接地端子と前記光電変換膜との間に、前記光電変換膜で放出する光電子を補充する電荷を供給するコンデンサ素子を介装したことを特徴とするレーザプラズマX線顕微鏡。
  2. 前記コンデンサ素子は、前記光電変換膜を備える光電変換板を一方の電極板とし、該光電変換板に誘電材料を密着して設け、さらに該誘電材料を挟んで前記光電変換板の反対側に他方の電極板を備えることにより構成されることを特徴とする請求項記載のレーザプラズマX線顕微鏡。
  3. 前記他方の電極板は前記電子光学系のアノードであることを特徴とする請求項記載のレーザプラズマX線顕微鏡。
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