JP4058594B2 - 半導体発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は窒化物系化合物半導体を用いた半導体発光素子及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
GaN(窒化ガリウム)、AlGaN(窒化ガリウム アルミニウム)、InGaN(窒化ガリウム インジウム)、AlInGaN(窒化ガリウム インジウム アルミニウム)等の窒化ガリウム系化合物半導体を用いた例えば青色発光ダイオード等の半導体発光素子は公知である。
従来の典型的な発光素子は、サファイアから成る絶縁性基板、この絶縁性基板の一方の主面(上面)に形成された例えば日本の特開平4‐297023号公報に開示されてGaxAl1-xN(但し、xは0<x≦1の範囲の数値である。)から成るバッファ層、このバッファ層の上にエピタキシャル成長によって形成された窒化ガリウム系化合物半導体(例えばGaN)から成るn形半導体領域、このn形半導体領域の上にエピタキシャル成長法によって形成された窒化ガリウム系化合物半導体(例えばInGaN)から成る活性層、及びこの活性層の上にエピタキシャル成長法によって形成されたp形半導体領域を備えている。カソ−ド電極はn形半導体領域に接続され、アノ−ド電極はp形半導体領域に接続されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、発光素子は、周知のように多数の素子の作り込まれたウエハをダイシング、スクライビング、劈開 (cleavage)等によって切り出して製作される。この時、サファイアから成る絶縁性基板は硬度が高いため、このダイシングを良好に且つ生産性良く行うことが困難であった。また、サファイアは高価であるため、発光素子のコストが高くなった。また、サファイアから成る基板は絶縁体であるため、カソ−ド電極を基板に形成することができなかった。このため、n形半導体領域の一部を露出させ、ここにカソ−ド電極を接続することが必要になり、半導体基体の面積即ちチップ面積が比較的大きくなり、その分発光素子のコストが高くなった。また、サファイア基板を使用した従来の発光素子では、n形半導体領域の垂直方向のみならず、水平方向即ちサファイア基板の主面に沿う方向にも電流が流れる。このn形半導体領域の水平方向の電流が流れる部分の厚みは4〜5μm程度と極めて薄いため、n形半導体領域の水平方向の電流通路の抵抗はかなり大きなものとなり、消費電力及び動作電圧の増大を招いた。更に、このn形半導体領域のカソ−ド電極の接続部分を露出させるために活性層及びp形半導体領域をエッチングによって削り取ることが必要になり、エッチングの精度を考慮してn形半導体領域は予め若干肉厚に形成しておく必要があった。このためn形半導体領域のエピタキシャル成長の時間が長くなり、生産性が低かった。
また、サファイア基板の代りにシリコンカーバイド(SiC)から成る導電性基板を用いた発光素子が知られている。この発光素子においては、カソ−ド電極を導電性基板の下面に形成できる。このため、サファイア基板を使用した発光素子に比べて、SiC基板を使用した発光素子は、チップ面積の縮小が図られること、劈開によりウエハの分離が簡単化する等の利点はある。しかし、SiCはサファイアよりも一段と高価であるため発光素子の低コスト化が困難である。また、SiC基板の上にn形半導体領域を低抵抗接触させることが困難であり、この発光素子の消費電力及び動作電圧がサファイア基板を使用した発光素子と同様に比較的高くなった。
【0004】
そこで、本発明の目的は、生産性及び性能の向上及びコストの低減を図ることができる半導体発光素子及びその製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決し、上記目的を達成するための本発明は、窒化物系化合物半導体を有する半導体発光素子であって、不純物を含むシリコン又はシリコン化合物から成り且つ低い抵抗率を有し且つ一方の主面がミラー指数で示す結晶の面方位いおいて(111)ジャスト面又は(111)面から−4度から+4度の範囲で傾いている面である基板と、前記基板の一方の主面上に配置され、AlxGa1-xN(但し、xは0<x≦1を満足する数値である。)から成り且つ量子力学的トンネル効果が生じる1〜8nmの厚みを有している第1の層とGaN又はAlyGa1-yN(但し、yはy<x及び0<y<1を満足する数値である。)から成り且つ前記第 1 の層よりも厚い10nm〜300nmの厚みを有している第2の層とを交互に複数回繰り返して配置した複合層から成るバッファ層と、前記基板の一方の主面上に配置され、AlxGa1-xN(但し、xは0<x≦1を満足する数値である。)から成る第1の層とGaN又はAlyGa1-yN(但し、yはy<x及び0<y<1を満足する数値である。)から成る第2の層との複合層から成るバッファ層と、発光機能を得るために前記バッファ層の上に配置された複数の窒化物系化合物層を含んでいる半導体領域と、前記半導体領域の表面上に配置された第1の電極と、前記基板の他方の主面に配置された第2の電極とを備えていることを特徴とする半導体発光素子に係るものである。
なお、前記第2の層を、化学式AlyGa1-yN(但し、yはy<x及び0≦y<1を満足する数値である。)で表すこともできる。この化学式において、yが0の場合に前記第2の層はGaNになる。
【0006】
なお、請求項2に示すように、前記第2の層はn形不純物としてシリコンを含むことことが望ましい。
また、請求項3に示すように、発光機能を得るための前記半導体領域の前記複数の窒化物系化合物半導体層のそれぞれは、GaN(窒化ガリウム)層、AlInN(窒化インジウム アルミニウム)層、AlGaN(窒化ガリウム アルミニウム)層、InGaN(窒化ガリウム インジウム)層、及びAlInGaN(窒化ガリウム インジウム アルミニウム)層から選択されたものであることが望ましい。即ち、例えば、後述の実施形態の半導体層13、活性層14、及び半導体層15等の窒化物系化合物半導体層のそれぞれは、窒化ガリウム系化合物半導体層又は窒化インジウム系化合物半導体層であることが望ましい。
また、請求項4に示すように、前記半導体領域は、前記バッファ層の上に配置された窒化物系化合物半導体から成る第1の導電形の第1の半導体層と、前記第1の半導体層の上に配置された窒化物系化合物半導体から成る活性層と、前記活性層の上に配置された窒化物系化合物半導体から成り且つ前記第1の導電形と反対の導電形を有している第2の半導体層とを備えていることが望ましい。
【0007】
【発明の効果】
各請求項の発明によれば次の効果が得られる。
(1)基板が比較的安価なシリコン又はシリコン化合物であるので、発光素子のコストを低減できる。
(2)AlxGa1-xN(但し、xは、0<x<1を満足する数値である。)から成る第1の層の格子定数は、発光機能を得るための窒化物系化合物半導体の格子定数よりもシリコンの格子定数に近い値を有する。従ってバッファ層に第1の層を含めると、バッファ機能が良くなり、発光機能を有する窒化物系化合物半導体層の結晶性及び平坦性を改善することができる。
(3) バッファ層は第1の層の他に第2の層を有する。第1及び第2の層の複合層からなるバッファ層は、良好なバッファ機能を発揮し、シリコン又はシリコン化合物から成る基板の結晶方位を良好に引き継いだ発光用半導体領域の形成が可能になり、結晶性及び平坦性が良い発光用半導体領域が得られる。要するに、本発明に従う第1の層と第2の層との組み合せによって全体として電気的抵抗が小さく且つ良好なバッファ機能を有するバッファ層が得られ、この結果として、発光用半導体領域の平坦性及び発光特性が改善される。もし、シリコン又はシリコン化合物から成る基板の一方の主面に、GaN半導体層のみから成るバッファ層を形成した場合、基板とGaNとは格子定数の差が大きい為、このバッファ層の上面に平坦性に優れた窒化物系化合物半導体領域を形成することができない。
(4) 基板の主面の結晶面方位が(111)ジャスト面又は(111)ジャスト面からのオフ角度が小さい面であるので、基板の上にバッファ層及び発光機能を有する半導体領域を良好に形成することができ、発光効率を高めることができる。即ち、基板の主面の面方位を(111)ジャスト面又は(111)ジャスト面からのオフ角度が小さい面とすることによって、バッファ層及び発光機能を有する半導体領域の結晶表面の原子ステップ即ち原子レベルでのステップを無くすこと又は小さくすることができる。もし、(111)ジャスト面からのオフ角度の大きい主面上にバッファ層及び発光機能を有する半導体領域を形成すると、これ等に原子レベルで見て比較的大きいステップが生じる。エピタキシャル成長層が比較的厚い場合には多少のステップはさほど問題にならないが、例えば活性層のような数nmオ−ダの厚みの薄い層を有する発光素子の場合には、発光素子を通電状態とした時にステップの近傍に発光に寄与しない電流即ち無効電流が流れ、発光効率が低下する。これに対して、基板の主面を(111)ジャスト面又はオフ角度の小さい面とすれば、ステップが小さくなり、無効電流も少なくなり、発光効率が大きくなる。
(5)バッファ層が導電性を有するので、第1及び第2の電極は互いに対向するように配置されている。この結果、第1及び第2の電極間の電流通路の抵抗値を下げて消費電力及び動作電圧を小さくすることができる。
(6)バッファ層の内の少なくとも第1の層はAlを含む。Alを含む第1の層の熱膨張係数は基板の熱膨張係数とGaN系化合物半導体から成る発光用半導体領域の熱膨張係数との中間の値を有する。従って、バッファ層は基板と発光用半導体領域との熱膨張係数の差に起因する歪の発生を比較的良好に抑制する。
(7) 第1の層の厚みが量子力学的トンネル効果を生じる厚さである1nm〜8nmの範囲に設定され、第2の層の厚みが10nm〜300nmの範囲に設定されているので、バッファ層の抵抗値の増大を抑えて発光素子の消費電力及び動作電圧を低くすることができる。即ち、もし、第1の層の厚みが8 nm を超えると量子力学的トンネル効果を良好に得ることができなくなり、バッファ層の電気的抵抗が増大する。また、第2の層の厚みが10nmよりも薄い時には、第2の層の価電子帯と伝導帯とに離散的なエネルギー準位が発生し、第2の層においてキャリアの伝導に関与するエネルギー準位が見かけ上増大する。この結果、基板と第2の層との間のエネルギバンドの不連続性が比較的大きくなり、発光素子の動作時の第1及び第2の電極間の抵抗及び電圧が比較的大きくなる。これに対し、第2の層の厚みが10nm以上になると、第2の層の価電子帯と伝導帯とにおける離散的なエネルギー準位の発生が抑制され、第2の層におけるキャリアの伝導に関与するエネルギー準位の増大が抑制される。この結果、基板と第2の層との間のエネルギバンドの不連続性の悪化が抑制され、発光素子の動作時の第1及び第2の電極間の抵抗及び電圧が小さくなる。即ち、図4に示すような効果を得ることができる。
(8)第1の層と第2の層とを交互に複数回繰り返してバッファ層を構成するので、複数の薄い第1の層が分散配置される。この結果、バッファ層の導電性を確保し且つバッファ層全体として良好なバッファ機能を得ることができ、バッファ層の上に形成される半導体領域の結晶性が良くなる。
請求項2の発明によれば、第2の層をn形半導体領域にすることができるのみでなく、第2の層が不純物を含むために抵抗が小さくなり、第1及び第2の電極間の抵抗及び電圧を小さくすることができ、電力損失の少ない発光素子を提供することができる。
請求項3の発明によれば、バッファ層上に発光機能を有する半導体領域を良好に形成することができる。
請求項4の発明によれば、活性層が互いに反対導電形の2つの半導体層で挟まれた構造を有するため、発光特性の良好な半導体発光素子を提供できる。
【0008】
【第1の実施形態】
次に、図1及び図2を参照して本発明の第1の実施形態に係わる半導体発光素子としての窒化ガリウム系化合物青色発光ダイオードを説明する。
【0009】
図1及び図2に示す本発明の第1の実施形態に従う青色発光ダイオードは、発光機能を得るための複数の窒化ガリウム系化合物半導体層から成る半導体領域10と、シリコン半導体から成るサブストレート即ち基板11と、バッファ層12とを有している。発光機能を有する半導体領域10は、GaN(窒化ガリウム)から成る第1の半導体層としてのn形半導体層13、p形のInGaN(窒化ガリウム インジウム)から成る発光層即ち活性層14、及び第2の半導体層としてのGaN(窒化ガリウム)から成るp形半導体層15とから成る。従って、半導体領域10の各層は窒化ガリウム系化合物半導体から成る。基板11とバッファ層12と発光機能を有する半導体領域10との積層体から成る基体16の一方の主面(上面)即ちp形半導体層15の表面上に第1の電極としてのアノード電極17が配置され、この基体16の他方の主面(下面)即ち基板11の他方の主面に第2の電極としてのカソード電極18が配置されている。バッファ層12、n形半導体層13、活性層14、及びp形半導体層15は、基板11の上に順次にそれぞれの結晶方位を揃えてエピタキシャル成長させたものである。
【0010】
基板11は、導電形決定不純物としてAs(砒素)を含むn+形シリコン単結晶から成る。この基板11のバッファ層12が配置されている側の主面11aは、ミラー指数で示す結晶の面方位において(111)ジャスト面である。この基板11の不純物濃度は、5×1018cm-3〜5×1019cm-3程度であり、この基板11の抵抗率は0.0001Ω・cm〜0.01Ω・cm程度である。抵抗率が比較的低い基板11はアノ−ド電極17とカソード電極18との間の電流通路として機能する。また、基板11は、比較的厚い約350μmの厚みを有し、p形半導体層15、活性層14及びn形半導体層13から成る発光機能を有する半導体領域10及びバッファ層12の支持体として機能する。
【0011】
基板11の一方の主面全体を被覆するように配置されたバッファ層12は、複数の第1の層12aと複数の第2の層12bとが交互に積層された複合層から成る。図1及び図2では、図示の都合上、バッファ層12が2つの第1の層12aと2つの第2の層12bとで示されているが、
実際には、バッファ層12は、10個の第1の層12aと10個の第2の層12bとを有する。
【0012】
第1の層12aは、
化学式 AlxGa1-xN
ここで、xは0<x≦1を満足する任意の数値、
で示すことができる材料で形成される。即ち、第1の層12aは、AlN(窒化アルミニウム)又はAlGaN(窒化ガリウム アルミニウム)で形成される。図1及び図2の実施形態では、前記式のxが1とされた材料に相当するAlN(窒化アルミニウム)が第1の層12aに使用されている。第1の層12aは、絶縁性を有する極薄い膜である。第1の層12aの格子定数及び熱膨張係数は第2の層12bよりもシリコン基板11に近い。従って、第1の層11aは第2の層12bよりもバッファ作用が大きい。
【0013】
第2の層12bは、GaN(窒化ガリウム)又は
化学式AlyGa1-yN
ここで、yは、y<x及び0<y<1を満足する任意の数値、で示すことができる材料から成るn形半導体の極く薄い膜である。第2の層12bとしてAlyGa1-yNから成るn形半導体を使用する場合には、第2の層12bの電気抵抗の増大を抑えるために、yを0<y<0.8を満足する値即ち0よりも大きく且つ0.8よりも小さくすることが望ましい。第2の層12bは第1の層12aの電気的接続導電体又は半導体として機能する。
【0014】
バッファ層12の第1の層12aの厚みは、好ましくは0.5nm〜10nm即ち5〜100オングストロ−ム、より好ましくは1nm〜8nmである。第1の層12aの厚みが0.5nm未満の場合にはバッファ層12の上面に形成されるn形半導体領域13の平坦性が良好に保てなくなる。第1の層12aの厚みが10nmを超えると、量子力学的トンネル効果を良好に得ることができなくなり、バッファ層12の電気的抵抗が増大する。
【0015】
第2の層12bの厚みは、好ましくは10nm〜300nm即ち100〜3000オングストロ−ムであり、より好ましくは10nm〜300nmである。第2の層12bの厚みが10nm未満の場合には、基板11と第2の層12bとの間のエネルギバンドの不連続性が比較的大きくなり、発光素子の動作時のアノード電極17とカソード電極18との間の抵抗及び電圧Vfが比較的大きくなる。また、第2の層12bの厚みが10nm未満の場合には、第2の層12bの上に形成される一方の第1の層11aと第2の層12bの下に形成される他方の第1の層11aとの間の電気的接続が良好に達成されず、バッファ層12の電気的抵抗が増大する。第2の層12bの厚みが300nmを超えた場合には、バッファ層12全体に対する第1の層11aの割合が低下し、バッファ機能が相対的に小さくなり、半導体領域10の平坦性が良好に保てなくなる。
【0016】
図4は第2の層12bの厚みT2と発光素子の発光動作時におけるアノード電極17とカソード電極18との間の電圧Vfとの関係を示す。この図4から明らかなように、上記厚みT2が10nmよりも小さい時には電圧Vfが約4Vよりも高くなる。これに対して、厚みT2が10nm又はこれよりも大きい時には、電圧Vfが4Vよりも小さくなる。
第2の層12bの厚みT2が10nm未満の時には、第2の層12bによる第1の層12aの相互間の電気的接続機能が低下すると共に、シリコン基板11と第2の層12bとのエネルギバンドの不連続性が大きくなる。即ち、第2の層12bの厚みが10nmよりも薄い時には、第2の層12bの価電子帯と伝導帯とに離散的なエネルギー準位が発生し、第2の層12bにおいてキャリアの伝導に関与するエネルギー準位が見かけ上増大する。即ち、第1の層12aと第2の層12bが超格子の状態になる。この結果、基板11と第2の層12bとの間のエネルギバンドの不連続性が比較的大きくなり、発光素子の動作時のアノード電極17とカソード電極18との間の抵抗及び電圧Vfが比較的大きくなる。これに対し、第2の層12bの厚みが10nm以上になると、第2の層12bの価電子帯と伝導帯とにおける離散的なエネルギー準位の発生が抑制され、第2の層12bにおけるキャリアの伝導に関与するエネルギー準位の増大が抑制される。即ち、第1の層12aと第2の層12bが超格子の状態になることが阻止される。この結果、基板11と第2の層12bとの間のエネルギバンドの不連続性の悪化が抑制され、アノード電極17とカソード電極18との間の抵抗及び電圧Vfが低くなる。従って、この実施例では、第1の層12aの厚みT1が5nm、第2の層12bの厚みT2が30nmに設定されている。従って、バッファ層12全体の厚みは350nmである。
【0017】
次に、第1の層12aがAIN、第2の層がGaNとされた半導体発光素子の製造方法を説明する。
【0018】
まず、図3の(A)に示すn形不純物が導入されたn+形シリコン半導体から成る基板11を用意する。バッファ層12を形成するためのシリコン基板11の一方の主面11aは、ミラー指数で示す結晶の面方位において(111)ジャスト面、即ち正確な(111)面である。しかし、図3において0で示す(111)ジャスト面に対して−θ〜+θで示す範囲で基板11の主面11aを傾斜させることができる。−θ〜+θの範囲は−4°〜+4°であり、好ましくは−3°〜+3°であり、より好ましくは−2°〜+2°である。
【0019】
図5は基板11の主面11aの(111)ジャスト面に対するオフ角度θと発光強度比との関係を示す。ここでの発光強度比は、基板11の主面11aが(111)ジャスト面された発光素子を所定電流で駆動した時の発光強度即ち発生光量Q1と基板11の主面11aが(111)面を基準にして(112)面方向に角度θだけ傾いた面にされた発光素子を所定電流で駆動した時の発光強度即ち発生光量Q2との比Q2/Q1を示す。この図5から明らかなように(111)面からのオフ角度θが−4°〜+4°の範囲で発光強度比Q2/Q1が約0.05以上となり、−3°〜+3°の範囲で発光強度比Q2/Q1が約0.5以上となり、−2°〜+2°の範囲で発光強度比Q2/Q1が0.8以上になる。ここで、発光強度比が大きいことは、発光素子の発光効率が大きいことを意味する。シリコン基板11の主面11aの結晶方位を、(111)ジャスト面又は(111)ジャスト面からのオフ角度が小さい面とすることによって、バッファ層12及び発光機能を有する半導体領域10をエピタキシャル成長させる際の原子レベルでのステップを無くすこと又は小さくすることができる。もし、主面11aの結晶方位が(111)ジャスト面からのオフ角度が大きくなるように設定されている場合には、シリコン基板11の主面11a上にバッファ層12及び発光機能を有する半導体領域10をエピタキシャル成長で形成する時に、原子レベルで見て比較的大きいステップが生じる。エピタキシャル成長層が比較的厚い場合には多少のステップはさほど問題にならないが、活性層14のように例えば2nmのように薄い場合には、発光素子を通電状態とした時にステップの近傍に発光に寄与しない電流即ち無効電流が流れ、発光効率が低下する。これに対して、シリコン基板11の主面11aを(111)ジャスト面又はオフ角度の小さい面とすれば、ステップが無くなるか又は小さくなり、無効電流も少なくなり、発光効率が大きくなる。
【0020】
次に、図3(B)に示すように基板11の主面11a上にバッファ層12を形成する。このバッファ層12は、周知のMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)即ち有機金属化学気相成長法によってAlNから成る第1の層12aとGaNから成る第2の層12bとを繰返して積層することによって形成する。即ち、シリコン単結晶の基板11をMOCVD装置の反応室内に配置し、まず、サーマルアニーリングを施して表面の酸化膜を除去する。次に、反応室内にTMA(トリメチルアルミニウム)ガスとNH3 (アンモニア)ガスを約24秒間供給して、基板11の一方の主面に厚さ約5nmのAlN層から成る第1の層12aを形成する。本実施例では基板11の加熱温度を1120℃とした後に、TMAガスの流量即ちAlの供給量を約63μmol/min、NH3 ガスの流量即ちNH3 の供給量を約0.14mol/minとした。続いて、基板11の加熱温度を1120℃とし、TMAガスの供給を止めてから反応室内にTMG(トリメチルガリウム)ガスとNH3 (アンモニア)ガスとSiH4 (シラン)ガスを約83秒間供給して、基板11の一方の主面に形成された上記AlNから成る第1の層12aの上面に、厚さ約30nmのn形のGaNから成る第2の層12bを形成する。ここで、SiH4ガスは形成膜中にn形不純物としてのSiを導入するためのものである。本実施例では、TMGガスの流量即ちGaの供給量を約63μmol/min、NH3 ガスの流量即ちNH3 の供給量を約0.14mol/min、SiH4 ガスの流量即ちSiの供給量を約21nmol/minとした。本実施例では、上述のAlNから成る第1の層12aとGaNから成る第2の層12bの形成を10回繰り返してAlNから成る第1の層12aとGaNから成る第2の層12bとが交互に20層積層されたバッファ層12を形成する。勿論AlNから成る第1の層12a、GaNから成る第2の層12bをそれぞれ50層等の任意の数に変えることもできる。
【0021】
次に、バッファ層12の上面に周知のMOCVD法によってn形半導体層13、活性層14及びp形半導体層15を順次連続して形成する。
即ち、上面にバッファ層12が形成された基板11をMOCVD装置の反応室内に配置して、反応室内にまずトリメチルガリウムガス即ちTMGガス、NH3 (アンモニア)ガス、SiH4 (シラン)ガスを供給してバッファ層12の上面にn形半導体領域13を形成する。ここで、シランガスはn形半導体層13中にn形不純物としてのSiを導入するためのものである。本実施例ではバッファ層12が形成された基板11の加熱温度を1040℃とした後、TMGガスの流量即ちGaの供給量を約4.3μmol /min、NH3 ガスの流量即ちNH3 の供給量を約53.6mmol /min、シランガスの流量即ちSiの供給量を約1.5nmol /minとした。また、本実施例では、n形半導体層13の厚みを約0.2μmとした。従来の一般的発光ダイオードの場合には、n形半導体層の厚みが約4.0〜5.0μmであるから、これに比べて図1の本実施例のn形半導体層13はかなり肉薄に形成されている。また、n形半導体層13の不純物濃度は約3×1018cm-3であり、基板11の不純物濃度よりは十分に低い。尚、本実施例によればバッファ層12が介在しているので、1040℃のような比較的高い温度でn形半導体層13を形成することが可能になる。
【0022】
続いて、基板11の加熱温度を800℃とし、反応室内にTMGガス、アンモニアガスに加えてトリメチルインジウムガス(以下、TMIガスという)とビスシクロペンタジェニルマグネシウムガス(以下、Cp2 Mgガスという。)を供給してn形半導体層13の上面にp形InGaN(窒化インジウム ガリウム)から成る活性層14を形成する。ここで、Cp2 Mgガスは活性層14中にp形導電形の不純物としてのMg(マグネシウム)を導入するためのものである。本実施例では、TMGガスの流量を約1.1μmol /min、NH3ガスの流量を約67mmol /min、TMIガスの流量即ちInの供給量を約4.5μmol /min、Gp2 Mgガスの流量即ちMgの供給量を約12nmol /minとした。また、活性層14の厚みは約2nm即ち20オングストロ−ムとした。なお、活性層14の不純物濃度は約3×1017cm-3である。
【0023】
続いて、基板11の加熱温度を1040℃とし、反応室内にTMGガス、アンモニアガス及びCp2 Mgガスを供給して活性層14の上面にp形GaN(窒化ガリウム)から成るp形半導体層15を形成する。本実施例では、この時のTMGガスの流量を約4.3μmol /min、アンモニアガスの流量を約53.6μmol /min、Cp2 Mgガスの流量を約0.12μmol /minとした。また、p形半導体層15の厚みは約0.2μmとした。なお、p形半導体層15の不純物濃度は約3×1018cm-3である。
【0024】
上記のMOCVD成長方法によれば、シリコン単結晶から成る基板11の結晶方位を良好に引き継いでいるバッファ層12を形成することができる。また、バッファ層12の結晶方位に対してn形半導体層13、活性層14及びp形半導体層15の結晶方位を揃えることができる。
【0025】
第1の電極としてのアノード電極17は、例えばニッケルと金を周知の真空蒸着法等によって半導体基体16の上面即ちp形半導体層15の上面に付着させることによって形成し、p形半導体層15の表面に低抵抗接触させる。このアノード電極17は図2に示すように円形の平面形状を有しており、半導体基体16の上面のほぼ中央に配置されている。半導体基体16の上面のうち、アノード電極17の形成されていない領域19は、光取り出し領域として機能する。
【0026】
第2の電極としてのカソード電極18は、n形半導体層13に形成せずに、例えばチタンとアルミニウムを周知の真空蒸着法等によって基板11の下面全体に形成する。
【0027】
図1の青色発光ダイオードを外部装置に取付ける時には、例えばカソード電極18を回路基板等の外部電極に対して半田又は導電性接着剤で固着し、アノード電極17を周知のワイヤボンディング方法によって外部電極に対してワイヤで電気的に接続する。
【0028】
本実施形態の青色発光ダイオードによれば、次の効果が得られる。
(1) サファイアに比べて著しく低コストであり且つ加工性も良いシリコンから成る基板11を使用することができるので、材料コスト及び生産コストの削減が可能である。このため、GaN系発光ダイオードのコスト低減が可能である。
(2) 基板11の一方の主面に形成された格子定数がシリコンとGaNとの間の値を有するAlNから成る第1の層12aは、シリコンから成る基板11の結晶方位を良好に引き継ぐことができる。この結果、バッファ層12の一方の主面に、n形半導体層13、活性層14及びp形半導体層15からなるGaN系半導体領域10を結晶方位を揃えて良好に形成することができる。このため、GaN系半導体領域10の特性が良くなり、発光特性も良くなる。
(3) 第1の層12aと第2の層12bが複数積層されて成るバッファ層12を介して半導体領域10を形成すると、半導体領域10の平坦性が良くなる。即ち、シリコンから成る基板11の一方の主面に、もしGaN半導体層のみによって構成されたバッファ層を形成した場合、シリコンとGaNとは格子定数の差が大きいため、このバッファ層の上面に平坦性に優れたGaN系半導体領域を形成することはできない。また、比較的厚いAlNのみでバッファ層を形成すると、バッファ層の抵抗が大きくなる。また、比較的薄いAlNのみでバッファ層を形成すると、十分なバッファ機能が得られない。これに対し、本実施例では、基板11とGaN系半導体領域10との間にシリコンとの格子定数差が比較的小さいAlNから成る複数の第1の層12aが介在し、且つ第1の層12aの相互間に第2の層12bが介在した複合構造のバッファ層12が設けられている。このため、バッファ層12の上に平坦性及び結晶性の良いGaN系半導体領域10を形成することができる。この結果、GaN系半導体領域10の発光特性が良くなる。
(4) バッファ層12に含まれている複数の第1の層12aのそれぞれが量子力学的なトンネル効果の生じる厚さに設定されているので、バッファ層12の抵抗の増大を抑えることができる。
(5) 基板11とGaN系半導体領域10との熱膨張係数の差に起因する歪みの発生を抑制できる。即ち、シリコンの熱膨張係数とGaNの熱膨張係数とは大きく相違するため、両者を直接に積層すると熱膨張係数差に起因する歪みが発生し易い。しかし、本実施例のAlNからなる第1の層12aの熱膨張係数は基板11の熱膨張係数とGaN系半導体領域10の熱膨張係数との中間値を有する。また。第1の層12aと第2の層12bとの複合層から成るバッファ層12の平均的な熱膨張係数は基板11の熱膨張係数とGaN系半導体領域10の熱膨張係数との中間値を有する。このため、このバッファ層12によって基板11とGaN半導体領域10との熱膨張係数の差に起因する歪みの発生を抑制することができる。
(6) シリコン基板11の主面11aの結晶面方位を(111)ジャスト面としたので、半導体領域10のステップが抑制され、発光効率を高めることができる。
(7) 第2の層12bの厚みが10nm以上の30nmに設定されているので、第2の層12bの価電子帯と伝導帯とにおける離散的なエネルギー準位の発生が抑制され、第2の層12bにおけるキャリアの伝導に関与するエネルギー準位の増大が抑制される。即ち、第1の層12aと第2の層12bが超格子状態になることが阻止される。この結果、基板11と第2の層12bとの間のエネルギバンドの不連続性の悪化が抑制され、アノード電極17とカソード電極18との間の抵抗及び電圧Vfが低くなる。
(8) バッファ層12が導電性を有するので、対向配置されているアノード電極17とカソード電極18との間に、順方向電圧を印加すると、半導体基体16の厚み方向(縦方向)に順方向電流が流れる。このため、アノード電極17とカソ−ド電極18と間の抵抗値及び電圧Vfを下げることができ、発光ダイオ−ドの消費電力を小さくすることが可能になる。
(9) 従来のサファイア基板を使用した発光素子に比べてカソ−ド電極18の形成が容易になる。即ち、従来のサファイア基板を使用した発光素子の場合は、図1及び図2のp形半導体層15及び活性層14に相当するものの一部を除去してn形半導体層13の一部を露出させ、この露出したn形半導体層13にカソ−ド電極を接続することが必要になった。このため、従来の発光素子は、カソ−ド電極が形成しにくいという欠点、及びカソ−ド電極を形成するためにn形半導体層の面積が大きくなるという欠点があった。図1及び図2の発光素子は上記欠点を有さない。
【0029】
【第2の実施形態】
次に、図6を参照して第2の実施形態の半導体装置を説明する。但し、図6において図1と実質的に同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図6の半導体装置は、図1に示した発光ダイオ−ドのシリコン基板11に別の半導体素子としてのトランジスタ20を設けたものである。トランジスタ20は素子分離用のP形半導体領域21の中に形成されたコレクタ領域Cとベ−ス領域Bとエミッタ領域Eとから成る。このように、発光ダイオ−ドとトランジスタとを複合化すると、これ等を含む回路装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0031】
【変形例】
本発明は上述の実施形態に限定されるものでなく、例えば次の変形が可能なものである。
(1) 半導体基体16の各層の導電形を実施例と逆にすることができる。
(2) n形半導体層13、活性層14及びp形半導層15のそれぞれを、複数の半導体層の組み合せで構成することができる。
(3)n形半導体層13、活性層14及びp形半導層15のそれぞれの材料を、GaN(窒化ガリウム)、AlInN(窒化インジウム アルミニウム)、AlGaN(窒化ガリウム アルミニウム)、InGaN(窒化ガリウム インジウム)、及びAlInGaN(窒化ガリウム インジウム アルミニウム)から選択された窒化ガリウム系化合物半導体又は窒化インジウム系化合物半導体とすることができる。
(4)n形半導体層13を省いてバッファ層12の上にGaInNから成る活性層14を直接に接触させることができる。これにより、肉厚のAlGaNクラッド層を介在させて活性層14を形成する場合に比較して活性層14に加わる引っ張り応力が緩和される。このため、活性層14の結晶性が良好となり、発光素子の発光特性が更に良好に得られる。
(5) アノ−ド電極17の下にオ−ミックコンタクトのためのP+形半導体領域を設けることができる。
(6) アノ−ド電極17を透明電極とすることができる。
(7) バッファ層12の第1の層12aの数を第2の層12bよりも1層多くしてバッファ層12の最上層を第1の層12aとすることができる。また、逆に第2の層12bの数を第1の層12aの数よりも1層多くすることもできる。
(8) 第1の層12a及び第2の層12bは、これらの機能を阻害しない範囲で不純物を含むものであってもよい。
(9) 基板11を、単結晶シリコン以外の多結晶シリコン又はSiC等のシリコン化合物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に従うの発光ダイオードを示す中央縦断面図である。
【図2】図1の発光ダイオードの斜視図である。
【図3】図1の発光ダイオ−ドの構造を製造工程順に拡大して示す断面図である。
【図4】第2の層の厚みと順方向電圧との関係を示す図である。
【図5】シリコン基板の主面の(111)ジャスト面に対するオフ角度と発光強化比との関係を示す図である。
【図6】第2の実施形態の半導体装置を示す断面図である。
【符号の説明】
10 GaN系半導体領域
11 シリコン単結晶から成る基板
12 バッファ層
12a AlNから成る第1の層
12b GaNから成る第2の層
13 n形半導体層
14 活性層
15 p形半導体層
16 基体
18 アノード電極
19 カソード電極
Claims (4)
- 窒化物系化合物半導体を有する半導体発光素子であって、
不純物を含むシリコン又はシリコン化合物から成り且つ低い抵抗率を有し且つ一方の主面がミラー指数で示す結晶の面方位において(111)ジャスト面又は(111)面から−4度から+4度の範囲で傾いている面である基板と、
前記基板の一方の主面上に配置され、AlxGa1-xN(但し、xは0<x≦1を満足する数値である。)から成り且つ量子力学的トンネル効果が生じる1〜8nmの厚みを有している第1の層とGaN又はAlyGa1-yN(但し、yはy<x及び0<y<1を満足する数値である。)から成り且つ前記第 1 の層よりも厚い10nm〜300nmの厚みを有している第2の層とを交互に複数回繰り返して配置した複合層から成るバッファ層と、
発光機能を得るために前記バッファ層の上に配置された複数の窒化物系化合物層を含んでいる半導体領域と、
前記半導体領域の表面上に配置された第1の電極と、
前記基板の他方の主面に配置された第2の電極と
を備えていることを特徴とする半導体発光素子。 - 前記第2の層はn形不純物としてシリコンを含むことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
- 前記半導体領域の前記複数の窒化物系化合物半導体層のそれぞれは、GaN(窒化ガリウム)層、AlInN(窒化インジウム アルミニウム)層、AlGaN(窒化ガリウム アルミニウム)層、InGaN(窒化ガリウム インジウム)層、及びAlInGaN(窒化ガリウム インジウム アルミニウム)層から選択されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体発光素子。
- 前記半導体領域は、
前記バッファ層の上に配置された窒化物系化合物半導体から成る第1の導電形の第1の半導体層と、
前記第1の半導体層の上に配置された窒化物系化合物半導体から成る活性層と、
前記活性層の上に配置された窒化物系化合物半導体から成り且つ前記第1の導電形と反対の第2の導電形を有している第2の半導体層と
を備えていることを特徴とする請求項1又は2又は3記載の半導体発光素子。
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