JP4056595B2 - 水系塗料組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水系塗料組成物に関するものであり、更に詳しくは、塗料の貯蔵安定性に優れており、しかも加工性及び耐傷付き性に特に優れた塗膜を形成し得る水系塗料組成物であり、特に缶用塗料やPCM(プレコートメタル)用塗料として好適な水系塗料組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
実質的に多塩基酸成分と多価アルコール成分より成る高分子量のポリエステル樹脂(所謂、オイルフリーアルキド樹脂)は、繊維、フィルムや各種成形材料として使用されているばかりでなく、塗料、インキ、接着剤、各種コーティング剤等の分野においても、良好な顔料分散性、形成される塗膜の優れた加工性、耐薬品性、耐候性、各種基材への密着性等により、各種のバインダー成分として大量に使用されている。その中でも、缶用塗料やPCM用塗料としては、ポリエステル樹脂/アミノ樹脂、ポリエステル樹脂/多官能イソシアネート化合物等の焼付け塗料が種々提案されており、実用化されている。しかしながら、これらの塗料は、有機溶剤を含むため、消防法等に規定された危険物であり、作業環境の悪化を招くばかりか、焼付け時に多量の有機溶剤が揮発することから、環境汚染や省資源の点からも好ましくない。この観点から、塗料業界でも従来の溶剤型塗料から、粉体塗料、ハイソリッド塗料、水系塗料、UV・EB塗料への移行が進みつつある。その中でも、水系塗料は、溶剤型塗料と同様に液状であり、現行の塗料製造及び塗装ラインをほぼそのまま使用できるといった長所を有するため、代替技術のうちで最も有望視されている。
【0003】
飲料缶、食缶をはじめとする金属缶に用いられる缶用塗料や建築内外装材、家電製品等に使用されるPCM用塗料に要求される代表的な性能としては、塗料の貯蔵安定性及び塗膜の金属板への密着性、耐薬品性、耐水性、耐候性は勿論のことながら、塗装、焼付け後に施される種々の成形、加工に耐え得る塗膜の加工性(可撓性)及び成形時、或いは輸送時の摩擦等により傷が付かない塗膜硬度(耐傷付き性)を必要とする。しかしながら、塗膜の加工性と硬度は一般に相反する性能であり、両者を両立させることは困難であり、ましてや水系塗料で前述の塗料の安定性や塗膜性能を兼ね備えてこれを達成することは極めて困難であった。
【0004】
例えば、特開平6−346020号公報等には、アルキルエーテル化アミノ樹脂にオキシカルボン酸を共重合させ、次いで塩基性化合物で中和した特定のアミノ樹脂とポリエステル樹脂水分散体とを組み合わせることで、塗膜の加工性、硬度を保持させる記載がなされている。しかし、この場合でも塗膜の鉛筆硬度は最高2Hであり、耐傷付き性に関しても満足できるものではない。
【0005】
また、塗膜の耐傷付き性を向上させる方法として、塗料中にみつろう、鯨ろう、牛脂、カルバナワックス、ラノリンワックス等の動植物性の潤滑剤、又はポリエチレンワックス等の合成ワックス、或いはシリコーンオイル等を滑剤として添加する方法がよく知られている。しかしながら、これらの滑剤は溶剤型塗料を主体として開発されたものであり、水系塗料に添加すると著しく塗料の安定性を損なう恐れがある。更に、上記滑剤は、成形、加工時や経時で塗膜表面から脱離してしまい、耐傷付き性が損なわれるという問題がある。これを改善する方法として、特開平6−293864号公報には、変性シリコーンオイル及びテフロン含有複合水分散体ワックスを添加すること、更に特開平7−11192号公報には、四フッ化エチレン樹脂を添加することが記載されている。しかしながら、これらの滑剤は高価であり、塗料の安定性を損なう恐れをも有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状を鑑みてなされたものであり、その目的は、塗料の貯蔵安定性や塗膜の金属板への密着性、耐薬品性、耐水性、耐候性等に優れており、更には塗膜の加工性(可撓姓)にも優れ、しかも一切の滑剤を添加しなくとも耐傷付き性にも優れた塗膜を形成し得る水系塗料組成物、特に缶用及びPCM用塗料として有用な水系塗料組成物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、
1.下記(A)〜(E)成分より成るポリエステル樹脂水分散体及び平均重合度5以下の親水性アミノ樹脂を少なくとも含有し、その固形分比が95/5〜60/40重量%であることを特徴とする水系塗料組成物。
(A)多塩基酸成分と多価アルコール成分より実質的に構成され、多塩基酸成分の50モル%以上が芳香族多塩基酸であり、多価アルコール成分が主としてエチレングリコール及び/又はネオペンチルグリコールで構成されており、酸価が10〜40mgKOH/gであり、重量平均分子量が9,000以上又は相対粘度が1.20以上であるポリエステル樹脂
(B)アンモニア及び/又は沸点が250℃以下の有機アミン化合物
(C)ポリエステル樹脂に対して可塑化能力を有する両親媒性の有機溶剤が水系塗料組成物に対して3〜12重量%
(D)保護コロイド作用を有する化合物がポリエステル樹脂に対して0.01〜3重量%
(E)水
【0008】
2.上記1記載の水系塗料組成物であって、水媒体中に分散して存在する樹脂微粒子の粒径分布が、下記(a)、(b)及び(c)のうちの1つ以上の条件を満足するものであることが望ましい。
(a)水媒体中に分散している樹脂微粒子の粒径分布における体積基準でのメディアン径が2μm 以下であり、かつ最大粒径が10μm を越えない。
(b)水媒体中に分散している樹脂微粒子の体積基準での粒径分布において、最も細粒子側に位置する分布のモード径が1μm 以下であり、かつ80%粒径が4μm を越えない。
(c)水媒体中に分散している樹脂微粒子の体積基準でのメディアン径が2μm 以下であり、かつ最も細粒子側に位置する分布のモード径が1μm 以下であり、更に下式(1)を満足する。
log(90%粒径/10%粒径)≦1 (1)
3.上記1又は2記載の水系塗料組成物であって、ポリエステル樹脂を構成する多塩基酸成分の65モル%以上がテレフタル酸であることが望ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
(ポリエステル樹脂)
本発明で使用するポリエステル樹脂は、本来それ自身で水に分散又は溶解しない本質的に疎水性のものであり、多塩基酸成分と多価アルコール成分より実質的に構成されるものであって、多塩基酸と多価アルコール類より実質的に合成されるものである。以下に該ポリエステル樹脂の構成成分について説明する。
【0010】
ポリエステル樹脂の多塩基酸成分を形成する多塩基酸としては、芳香族多塩基酸、脂肪族多塩基酸、脂環族多塩基酸があげられ、芳香族多塩基酸のうちの芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等をあげることができ、必要に応じて耐水性を損なわない範囲で少量の5−ナトリウムスルホイソフタル酸や5−ヒドロキシイソフタル酸を用いることができる。脂肪族多塩基酸のうちの脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、(無水)コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、水添ダイマー酸等の飽和ジカルボン酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、(無水)シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和ジカルボン酸等を挙げることができ、脂環族多塩基酸のうちの脂環族ジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2.5-ノルボルネンジカルボン酸(無水物)、テトラヒドロフタル酸(無水物)等を挙げることができる。
【0011】
全多塩基酸成分に占める芳香族多塩基酸成分の含有率の合計は、50モル%以上が好ましい。この値が50モル%未満の場合には、脂肪族多塩基酸及び脂環族多塩基酸に由来する構造が樹脂骨格中の過半を占めるため、形成される塗膜の硬度、耐汚染性、耐水性が低下する傾向があり、脂肪族及び脂環族のエステル結合が芳香族エステル結合に比して耐加水分解性が低いために、ポリエステル樹脂水分散体、つまりは水系塗料組成物の貯蔵安定性が低下することがある。したがって、水系塗料組成物の貯蔵安定性及び優れた塗膜性能(特に塗膜硬度)を確保するためには、全多塩基酸成分に占める芳香族多塩基酸成分の含有率は60モル%以上、更には70モル%以上が好ましく、形成される塗膜の他の性能とバランスをとりながらその加工性(可撓性)、耐水性、耐薬品性、耐候性を向上させることができる点において、ポリエステル樹脂を構成する全多塩基酸成分の65モル%以上がテレフタル酸であることは、本発明の目的を達成するうえで特に好ましい態様である。
【0012】
一方、ポリエステル樹脂の多価アルコール成分を形成する多価アルコールについては、グリコールとして、炭素数2〜10の脂肪族グリコール、炭素数が6〜12の脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールを挙げることができる。炭素数2〜10の脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,2 −プロピレングリコール、1,3 −プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2−メチル−1,3 −プロパンジオール、1,5 −ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6 −ヘキサンジオール、3−メチル−1,5 −ペンタンジオール、1,9 −ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール等、炭素数6〜12の脂環族グリコールとしては、1,4 −シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、更にビスフェノール類の2つのフェノール性水酸基にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドをそれぞれ1〜数モル付加して得られるグリコール類、例えば2,2 −ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を挙げることができる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールも必要により使用し得る。ただし、エーテル構造は塗膜の耐水性、耐候性を低下させることから、その使用量は全多価アルコール成分の10重量%以下、更には5重量%以下にとどめるべきである。
【0013】
本発明で使用するポリエステル樹脂を構成する全多価アルコール成分の50モル%以上、更には65モル%以上がエチレングリコール及び/又はネオペンチルグリコールからなるグリコール成分で実質的に構成されていることが好ましい。エチレングリコール及びネオペンチルグリコールは工業的に多量に生産されていることから安価であり、しかも形成される塗膜の諸性能にバランスがとれ、エチレングリコール成分は特に耐薬品性を、ネオペンチルグリコール成分は特に耐候性を向上させるという長所を有する。
【0014】
本発明で使用するポリエステル樹脂は、必要に応じて3官能以上の多塩基酸及び/又は多価アルコールを共重合したものであってもよいが、3官能以上の多塩基酸としては(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、(無水)ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等が使用される。一方、3官能以上の多価アルコールとしてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が使用される。3官能以上の多塩基酸及び/又は多価アルコールは、全多塩基酸成分あるいは全多価アルコール成分に対し0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%の範囲で共重合されるが、10モル%を越えるとポリエステル樹脂の長所である塗膜の高加工性(可撓性)が発現されなくなる。
【0015】
また、必要に応じて、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸やそのエステル形成性誘導体、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等の高沸点のモノカルボン酸、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等の高沸点のモノアルコール、ε−カプロラクトン、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やそのエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0016】
かかるポリエステル樹脂は、前記のモノマー類より公知の各種の方法を用いて合成される。例えば、(a)全モノマー成分及び/又はその低重合体を不活性雰囲気下で180〜250℃、2.5〜10時間程度反応させてエステル化反応を行い、引き続いて触媒の存在下、1Torr以下の減圧下に220〜280℃の温度で所望の分子量に達するまで重縮合反応を進めてポリエステル樹脂を得る方法、(b)前記重縮合反応を、目標とする分子量に達する以前の段階で終了し、反応生成物を次工程で多官能のエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、オキサゾリン系化合物等から選ばれる鎖長延長剤と混合し、短時間反応させることにより高分子量化を図る方法、(c)前記重縮合反応を目標とする分子量以上の段階まで進めておき、モノマー成分を更に添加し、不活性雰囲気、常圧〜加圧系で解重合を行うことで目標とする分子量のポリエステル樹脂を得る方法等を挙げることができる。
【0017】
ポリエステル樹脂より水分散体を得る(以下、水性化)に必要なカルボキシル基は、樹脂骨格中に存在するよりも樹脂分子鎖の末端に偏在していることが、水系塗料組成物の安定性及び形成される塗膜の耐水性の面から好ましい。副反応やゲル化等を伴わずに、高分子量のポリエステル樹脂の分子鎖末端に特定量のカルボキシル基を導入する方法としては、前記の方法(a)において、重縮合反応の開始時以降に3官能以上の多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体を添加するか、或いは、重縮合反応の終了直前に多塩基酸の酸無水物を添加する方法、前記の方法(b)において、大部分の分子鎖末端がカルボキシル基である低分子量ポリエステル樹脂を鎖長延長剤により高分子量化させる方法、前記の方法(c)において、解重合剤として多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体を使用する方法等が好ましい態様である。
【0018】
かかる方法にて合成されるポリエステル樹脂の酸価は10〜40mgKOH/g、特に10〜35mgKOH/gが好ましい。この酸価が40mgKOH/gを越えると、形成される塗膜の耐水性が劣る場合がある。一方、酸価が10mgKOH/g未満の場合は、水性化に寄与するカルボキシル基量が十分でなく、良好なポリエステル樹脂水分散体、ひいては良好な水系塗料組成物を得ることができない。また、かかるポリエステル樹脂は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー,ポリスチレン換算)で測定される重量平均分子量が9,000以上又は相対粘度は1.20以上でなければならない。このいずれの条件も満たさない場合には、水系塗料組成物から形成される塗膜に十分な加工性(可撓性)が付与されない。ポリエステル樹脂の重量平均分子量は10,000以上、更には12,000以上が特に好ましい。上限については、45,000以下が好ましい。45,000を越えるとポリエステル樹脂の製造時の作業性を悪化させるおそれがあるばかりでなく、このようなポリエステル樹脂を使用した水分散体では粘度が異常に高くなる場合がある。また、相対粘度は1.22以上が好ましく、1.24以上がより好ましい。一方、相対粘度の上限については、1.95以下が好ましく、この値を越えるとポリエステル樹脂の製造時の作業性を悪化させるおそれがあるばかりでなく、このようなポリエステル樹脂を使用した水分散体では粘度が異常に高くなる場合がある。
本発明において、ポリエステル樹脂水分散体中のポリエステル樹脂の含有率は、アミノ樹脂との固形分配合比、用途、乾燥膜厚、成形方法等によって適宜選択されるべきであるが、一般的には10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で使用される。後述するような製造方法によって得られたポリエステル樹脂水分散体は、ポリエステル樹脂の含有率が20重量%以上といった高固形分濃度であっても貯蔵安定性に優れ、他の成分を添加してゆく際にも極めて安定であるという長所を有する。しかし、ポリエステル樹脂の含有率が50重量%を越えると、該水分散体の粘度が著しく高くなり、実質的に他成分の配合や得られた水系塗料組成物の成形が困難となってしまう場合がある。
【0019】
(塩基性化合物)
本発明の水系塗料組成物には、ポリエステル樹脂微粒子間の凝集を防ぐために、塩基性化合物を使用することが必要である。この塩基性化合物は、ポリエステル樹脂の水性化に際して使用してこれを中和することが好ましく、中和反応で生成したカルボキシアニオン間の電気反発力によって、或いは、後述のごく少量の特定の保護コロイド作用を有する化合物との併用により、ポリエステル樹脂微粒子間の凝集を防ぎ、優れた他成分との混合安定性及び水系塗料組成物として優れた貯蔵安定性を発現することができる。
塩基性化合物としては塗膜形成時、或いは焼付け硬化時に揮散する化合物が好ましく、アンモニア及び/叉は沸点が250℃以下の有機アミン化合物等を使用する。望ましい有機アミン化合物の例としては、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。塩基性化合物は、ポリエステル樹脂中に含まれるカルボキシル基に応じて、少なくとも部分中和し得る量、すなわち、カルボキシル基に対して0.5〜1.5倍当量を添加することが望ましい。0.5倍当量未満では塩基性化合物添加の効果が認められないおそれがあり、1.5倍当量を越えると、ポリエステル樹脂水分散体が著しく増粘する場合があり、他成分との混合時にも著しく増粘する場合がある。
【0020】
(有機溶剤)
本発明では、ポリエステル樹脂水分散体、ひいては水系塗料組成物の安定性を確保するために、ポリエステル樹脂に対して可塑化能力を有する両親媒性の有機化合物を使用することが必要である。この有機溶剤は、特に、ポリエステル樹脂より水分散体を得る(水性化)に際して使用することが望ましく、この段階で使用することにより後述の水性化処理速度を加速させたり、或いは生成したポリエステル樹脂水分散体の安定性を確保することができる。但し、沸点が250℃を越えるものは、あまりに蒸発速度がおそく、塗膜の焼付け時にもこれを十分に取り除くことができないため、沸点が250℃以下であり、しかも毒性、爆発性や引火性の低い、所謂、有機溶剤と呼ばれる汎用の化合物が対象となる。
【0021】
本発明でいう有機溶剤に要求される特性は、両親媒性であること、前記のポリエステル樹脂に対して可塑化能力を有することである。ここで両親媒性の有機溶剤とは、20℃における水に対する溶解性が少なくとも5g/L以上、望ましくは10g/L以上であるものをいう。この溶解性が5g/L未満のものは、ポリエステル樹脂の水性化処理速度を加速させる効果に乏しく、安定性が十分ではないポリエステル樹脂水分散体および水系塗料組成物しか提供できない。また、有機溶剤の可塑化能力は、次のような簡便な試験によって判断することができる。すなわち、対象とするポリエステル樹脂から3cm×3cm×0.5cm(厚さ)の角板を試作し、これを50mlの有機溶剤に浸漬して25〜30℃の雰囲気で静置する。3時間後に角板の形状が明らかに変形しているか、或いは、厚さ方向に対して1kg/cm2 の力を静的に加えながら0.2cm径のステンレス製の丸棒を接触させた際に、丸棒の0.3cm以上が角板に侵入する場合、その有機溶剤の可塑化能力はあると判断される。可塑化能力が無いと判断される有機溶剤は、水性化処理速度を加速させる効果及びポリエステル樹脂微粒子を安定化させる効果に乏しい。
【0022】
かかる有機溶剤としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、更には、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等を例示することができる。これらの溶剤は単一でも、また2種以上を混合しても使用できる。
【0023】
これら例示した有機溶剤のうち、以下の2条件を満足する化合物を単一で使用するか、また2種以上を混合して使用する場合、ポリエステル樹脂の水性化処理速度を加速させる効果が特に優れるばかりでなく、これらの化合物がポリエステル樹脂水分散体に対して2〜10重量%、特に好ましくは3〜8重量%含有する水分散体は貯蔵安定性が特に優れることから、水系塗料組成物の安定性に優れ、しかも塗膜形成性に優れる等の長所を有し、特に好ましい態様である。
(条件1)分子中に、炭素原子が直接4個以上結合した疎水性構造を有すること(条件2)分子末端に、ポーリング(Pauling)の電気陰性度が3.0以上の原子を1個以上含有する置換基を有し、該置換基中の電気陰性度が3.0以上の原子と直接結合している炭素原子の13C−NMR(核磁気共鳴)スペクトルのケミカルシフトが、室温、CDCl3 中で測定した場合に50ppm 以上であるような極性の置換基を有すること
【0024】
(条件2)で規定される置換基としては、アルコール性ヒドロキシル基、メチルエーテル基、ケトン基、アセチル基、メチルエステル基等を例示でき、前記2条件を満足する化合物のうち、特に好適な有機溶剤としては、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル等のエステル類、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、更には、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール等を例示することができる。
【0025】
かかる有機溶剤は、沸点が100℃以下であったり、水と共沸可能であれば、水性化工程中、あるいはその後の工程でその一部又はその全てを系外に除去(ストリッピング)することができるが、最終的には水系塗料組成物に対して3〜12重量%含有させることが必要であり、好ましくは3〜10重量%、更に好ましくは3〜8重量%である。有機溶剤が水系塗料組成物に対して3重量%未満の場合には、塗膜形成性に劣り、具体的にはハジキ、ワキ等の塗膜欠陥が発生し易くなる。一方、水系塗料組成物に対して該有機溶剤の含有率が12重量%を越えると、水系塗料本来の目的が損なわれるだけでなく、後述する水系塗料組成物中の水媒体に分散している樹脂微粒子の二次粒子の存在割合が高くなるため、該水系塗料組成物の粘度が異常に高くなったり、貯蔵安定性に劣ったりするという不具合を生じる。また、水系塗料組成物に含有される有機溶剤の30重量%以上、更には40重量%以上がポリエステル樹脂水分散体が製造される以前の段階でこれに添加されていることが好ましい。70重量%を越える有機溶剤がポリエステル樹脂水分散体の製造工程以降に添加される場合、後述する粒径分布を満足しない水系塗料組成物が生成する場合がある。
【0026】
(保護コロイド作用を有する化合物)
本発明の水系塗料組成物には、水系塗料組成物の貯蔵安定性を確保するために保護コロイド作用を有する化合物を使用することが必要である。この保護コロイド作用を有する化合物は、特に、ポリエステル樹脂水分散体を製造するに際して使用することが望ましく、この段階で使用することにより、前述の有機溶剤を系外に除去(ストリッピング)する工程、或いは貯蔵時のポリエステル樹脂水分散体の安定性及びアミノ樹脂等を添加した際の混合安定性、更には水系塗料組成物としての優れた貯蔵安定性をも得ることができる。本発明でいう保護コロイド作用を有する化合物(以下単に、保護コロイド)とは、水媒体中の樹脂微粒子の表面に吸着し、所謂、「混合効果」、「浸透圧効果」、或いは「容積制限効果」と呼ばれる安定化効果を示して樹脂微粒子間の凝集を防ぐ作用を有するものであり、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を一成分とするビニル単量体の重合物、ポリイタコン酸、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、膨潤性雲母等を例示することができる。かかる化合物は水溶性、或いは、塩基性化合物で部分的に中和することによって水溶化するが、形成される塗膜の耐水性を損なわないためには、該塩基性化合物はアンモニア及び/又は前記の有機アミン化合物でなければならない。また、少量添加で保護コロイドとしての作用を発現し、形成される塗膜の耐水性、耐薬品性等を損なわないためには、該保護コロイドの数平均分子量は2,000以上でなければならず、2,500以上、更には3,000以上が好ましい。
かかる保護コロイドは、ポリエステル樹脂に対して3重量%以下、更に好ましくは2重量%以下で使用すれば、形成される塗膜の諸性能を低下させること無く、上述の各種安定性を著しく向上させることができる。また、かかる保護コロイドを使用することにより、ポリエステル樹脂の酸価及び前記有機溶剤の含有量を低減できることから、これをポリエステル樹脂に対して0.01〜3重量%、更には0.03〜2重量%の範囲で使用することは好ましい態様である。
【0027】
(ポリエステル樹脂水分散体の製造方法)
本発明の水系塗料組成物の製造に際しては、まずポリエステル樹脂水分散体を製造することが望ましいが、このポリエステル樹脂水分散体を得る方法としては、各種の公知の方法が採用され、特に以下の方法が次の理由から推奨される。すなわち、1)芳香族多塩基酸成分、特にテレフタル酸成分の含有率が高く、比較的高分子量のポリエステル樹脂であっても、特殊なモノマー成分や、塗膜の乾燥、焼付け後にもイオン性基が残存するような構造をポリエステル樹脂中に一切、導入せず、しかも、界面活性剤のような低分子量の親水性化合物を外部添加しないでも水性化でき、2)有機溶剤の含有量を十分に低減でき、しかも、ストリッピングしなくてもこれを達成することができ、更に、3)高固形分濃度であっても貯蔵安定性及びアミノ樹脂等の他成分を添加する際の混合安定性に極めて優れたポリエステル樹脂水分散体を、4)特殊な設備を使用せず、しかも比較的単純な工程で安定した品質で生産できる製造方法である。
【0028】
本発明で特に推奨されるポリエステル樹脂水分散体の製造方法は、具体的には、粉末ないし粒状のポリエステル樹脂を室温付近で水媒体に混合・粗分散させる分散工程と、これを撹拌しながら決められた温度まで加熱する加熱工程と、ポリエステル樹脂のガラス転移温度もしくは60℃のうちの高い方の温度〜90℃で所定の条件で撹拌して該ポリエステルを微粒子化する水性化工程と、これを40℃以下まで冷却する冷却工程という4工程から実質的に構成されており、これらの工程が連続で実施される。処理装置は、槽内に投入された水媒体と樹脂粉末ないしは粒状物の混合物を適度に撹拌でき、槽内を60〜90℃に加熱できればよく、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を使用することができる。かかる装置として、プロペラミキサー、タービンミキサーのような一軸の撹拌機、タービン・ステータ型高速回転式撹拌機(特殊機化工業(株)製、「T.K.Homo−Mixer」「T.K.Homo−Jettor」、IKA−MASCHINENBAU社製、「Ultra−Turrax」)、高速剪断型ミキサと槽壁面を掻き取るスクレーパ付き低速摺動型の混練パドルやアンカーミキサを併用した複合型撹拌機(特殊機化工業(株)製、「T.K.Agi−Homo−Mixer」、「T.K.Combimix」)を例示することができる。処理装置は、バッチ式であってもよく、原料投入と処理物の取り出しを連続で行うような連続生産式のものであってもよい。また処理槽は密閉できるものが好ましいが、使用する有機溶剤の沸点が100℃以上であれば開放型のものであっても作業に支障を生じることはない。
【0029】
ポリエステル樹脂水分散体を構成する成分のうち、ポリエステル樹脂及び保護コロイドは分散工程が終了するまでに系に添加されていなければならないが、上述の塩基性化合物及び有機溶剤は、分散工程〜水性化工程の任意の工程でこれを添加することができる。ポリエステル樹脂の塊状化を防ぐ目的で実施される分散工程は、通常、室温下での撹拌によって行われるが、次工程の加熱工程に時間を要する場合には、槽内を加熱しながら分散工程を実施してもよい。その際、槽内温度が40℃に達するまでにポリエステル樹脂粉末ないし粒状物を水媒体に均一分散しておく必要がある。分散工程の終点、すなわち、ポリエステル樹脂粉末ないし粒状物が水媒体に均一分散している状態とは、T.N.Zwietering(Chemical Engineering Science,8巻,244頁,1958年)が定義した「完全浮遊状態」、すなわち、粒子が一個も槽底に1〜2秒以上留まってない状態のことであり、槽内はこの「完全浮遊状態」を達成する完全浮遊撹拌速度NJS以上で撹拌されていることが好ましい。
この状態を保って系は加熱され、ポリエステル樹脂のガラス転移温度もしくは60℃のうちの高い方の温度〜90℃で、通常、15〜120分間撹拌を続けることで目標とする水分散体を得ることができる。生成した水分散体は撹拌しながら40℃以下まで冷却される。後述のアミノ樹脂等の他成分とポリエステル樹脂水分散体を混合する際は、冷却工程が終了した時点、すなわち40℃以下で実施するのが好ましい。40℃を越える条件で他成分を加えると、添加方法にも依るが、相分離を起こしたり、系が著しく増粘する場合があり、また後述するような粒径分布を満足しない水系塗料組成物が生成する場合がある。
【0030】
(ポリエステル樹脂水分散体の粒径分布)
かかる方法にて調製されたポリエステル樹脂水分散体においては、水媒体中に均一に分散しているポリエステル樹脂微粒子の粒径分布について、次の(イ)、(ロ)及び(ハ)の1つ以上の条件を満足することが好ましい。
(イ)水媒体中に分散しているポリエステル樹脂微粒子の粒径分布における体積基準でのメディアン径が2μm 以下であり、かつ最大粒径が10μm を越えない。
(ロ)水媒体中に分散しているポリエステル樹脂微粒子の、体積基準での粒径分布において、最も細粒子側に位置する分布(山)のモード径が1μm 以下であり、かつポリエステル樹脂微粒子の80%粒径が4μm を越えない。ここで、モード径とは、分布(山)のピークに位置するフラクションの中央値である。また、80%粒径とは、体積基準での粒径分布において、細粒子側より各フラクションの粒子量を積算していった場合に、総積算した粒子量に対して80%に位置する粒径のことである。
(ハ)水媒体中に分散しているポリエステル樹脂微粒子の粒径分布における体積基準でのメディアン径が2μm 以下であり、かつ最も細粒子側に位置する分布のモード径が1μm 以下であり、更に下記式(1)を満足する。
log(90%粒径/10%粒径)≦1 (1)
ここで、式(1)において90%(あるいは10%)粒径とは、体積基準での粒径分布において、細粒子側より各フラクションの粒子量を積算していった場合に、総積算した粒子量に対して90%(あるいは10%)に位置する粒径のことである。式(1)で表される分布の広がりについては、0.98以下、更には0.96以下が特に好ましい。
分散粒子の粒径に関わる(イ)、(ロ)及び(ハ)の1つ以上の条件を満足することによって、該水分散体の優れた貯蔵安定性及び他成分との混合安定性、そしてこれを一成分とする水系塗料組成物の貯蔵安定性が発現する。
【0031】
かかる粒径分布は、調製されたポリエステル樹脂水分散体をなんら希釈することなく測定されるものであり、該水分散体の水媒体中に分散して存在するポリエステル樹脂微粒子の凝集状態をも含めた情報であり、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製,SALD−2000「高濃度測定システム」)により測定可能である。
【0032】
(アミノ樹脂)
本発明の水系塗料組成物には、水系塗料組成物の硬化剤として親水性のアミノ樹脂を使用することが必要である。
アミノ樹脂は、尿素及び/叉はメラミンにホルムアルデヒドとアルコール(ROH)が付加縮合したものの総称である。本発明では、全骨格構造の70モル%以上が尿素及び/又はメラミンより構成されることが望ましい。このように、アミノ樹脂の基本骨格として尿素及びメラミンが使用されることが望ましいが、親水性を阻害しない程度、すなわち、全骨格構造に対して30モル%未満の範囲でアセトグアナミン、ベンゾグアナミン、グリコールウリル等の疎水性の骨格構造を導入してもよい。これらの疎水性の骨格構造を30モル%以上含有すると、前記のポリエステル樹脂水分散体との混合の際に著しく増粘したり、該水分散体が破壊されて沈澱が生成する場合がある。また、基本骨格を形成するこれら含アミノ化合物に対して、全アミノ基の2倍当量のホルムアルデヒド及びアルコールを付加縮合させる必要はなく、また、これらの反応の際にはある程度の自己縮合を伴うことから、本発明でいうアミノ樹脂とは、上記の含アミノ化合物のアミノ基が、▲1▼そのまま残存しているか(−NH2 )、▲2▼イミノメチロール基(−NHCH2 OH)、▲3▼イミノアルキルエーテル基(−NHCH2 OR)、▲4▼ジメチロールアミノ基{−N(CH2 OH)2 }、▲5▼部分アルキルエーテル化ジメチロールアミノ基{−N(CH2 OH)CH2 OR}、▲6▼完全アルキルエーテル化ジメチロールアミノ基{−N(CH2 OR)2 }のいずれかの構造に変換され、しかもこれら▲1▼〜▲6▼が縮合して数量体〜数十量体に高分子量化した複雑で様々な構造を含有する化合物の総称である。但し、本発明ではその平均重合度は5以下でなければならない。平均重合度が5を越えると、もはや親水性とはいえなくなり、前記ポリエステル樹脂水分散体との混合の際、或いはその後すぐに著しく増粘する場合がある。平均重合度としては1.2〜3.5更には1.2〜3が好ましい。また、アルコール(ROH)としては、該アミノ樹脂中のアルキルエーテル基の70モル%以上、更には80モル%以上がメチルエーテル基であることが好ましい。その他のアルキルエーテル基としては、エチルエーテル基、n−プロピルエーテル基、イソプロピルエーテル基、n−ブチルエーテル基、イソブチルエーテル基等を例示できるが、メチルエーテル基の含有率が70モル%未満の場合には親水性が十分とはいえず、ポリエステル樹脂水分散体との混合の際、或いはその後すぐに著しく増粘するか、水分散体が破壊されて沈澱が生成する場合がある。
【0033】
本発明の水系塗料組成物は、上記ポリエステル樹脂水分散体及びアミノ樹脂を少なくとも含有し、その固形分比が95/5〜60/40重量%であり、90/10〜65/35重量%、更には85/15〜70/30重量%であることが好ましい。アミノ樹脂の固形分比が5重量%未満の場合には、どのような乾燥、焼付け条件を採用しても、塗膜の耐傷つき性、耐溶剤性、耐水性は十分ではない。アミノ樹脂の固形分比が40重量%を越える場合には、塗膜の加工性が低下する。本発明の水系塗料組成物の樹脂固形分は特に限定されるものではないが、通常、15〜50重量%の範囲が好ましい。
【0034】
(水系塗料組成物の製造方法)
前記ポリエステル樹脂水分散体に所定量のアミノ樹脂を添加し、振とう、或いは、撹拌して塗料化することができる。なかでも、ポリエステル樹脂水分散体を撹拌しておき、そこへアミノ樹脂を少量ずつ添加していくことが好ましい。尚、アミノ樹脂の粘度が高く作業性に劣る場合は、予めこれに水や前記有機溶剤を加えて低粘度化しておくことができるが、有機溶剤で希釈する場合はアミノ樹脂の含有率が少なくとも30重量%以上、好ましくは50重量%以上に留めるべきである。30重量%に達しない場合、後述の粒径分布を満足できない場合が発生し、水系塗料組成物の安定性に劣る。また、振とう、撹拌の方法は特に限定されるものではない。
【0035】
本発明の水系塗料組成物は、必要に応じて硬化助剤として有機アミン化合物でブロックした酸触媒、例えば、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等を樹脂固形分に対して0. 01〜3重量%添加してもよい。また、同様にレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤等の各種添加剤を添加してもよい。また酸化チタンや亜鉛華、カーボンブラック等の顔料や染料を添加し、塗料化することもできる。更に、本発明ではより一層の塗膜の耐傷付き性を確保する目的で、塗料の貯蔵安定性を損なわない範囲で前述の滑剤を添加してもよい。
【0036】
(水系塗料組成物の樹脂微粒子の粒径分布)
かかる方法にて調製された水系塗料組成物においては、水媒体中に均一に分散している樹脂微粒子の粒径分布について、次の(a)、(b)及び(c)の1つ以上の条件を満足することが好ましい。
(a)水媒体中に分散している樹脂微粒子の粒径分布における体積基準でのメディアン径が2μm 以下であり、かつ最大粒径が10μm を越えない。
(b)水媒体中に分散している樹脂微粒子の体積基準での粒径分布において、最も細粒子側に位置する分布のモード径が1μm 以下であり、かつ樹脂微粒子の80%粒径が4μm を越えない。
(c)水媒体中に分散している樹脂微粒子の粒径分布における体積基準でのメディアン径が2μm 以下であり、かつ最も細粒子側に位置する分布のモード径が1μm 以下であり、更に下記式(1)を満足する。
log(90%粒径/10%粒径)≦1 (1)
分散粒子の粒径分布に関わる(a)、(b)及び(c)の1つ以上の条件を満足することによって、該水系塗料組成物の優れた貯蔵安定性が発現する。
【0037】
メディアン径は0.3〜2μm 、更には0.3〜1.8μm が好ましい。最大粒径は8μm 以下、更には7μm 以下が好ましい。
【0038】
最も細粒子側に位置する分布のモード径は0.05〜1μm 、更には0.08〜1μm が好ましい。80%粒径は3.8μm 以下、更には3.5μm 以下が好ましい。
【0039】
メディアン径は0.3〜2μm 、更には0.3〜1.8μm が好ましい。最も細粒子側に位置する分布のモード径は0.05〜1μm 、更には0.08〜1μm が好ましい。
また式(1)で表される分布の広がりは0.98以下、更には0.96以下が特に好ましい。
【0040】
かかる粒径分布は、上述のポリエステル樹脂水分散体と同様に、調製された水系塗料組成物をなんら希釈することなく測定されるものであり、該水系塗料組成物中に分散して存在する樹脂微粒子の凝集状態をも含めた情報であり、該水系塗料組成物が酸化チタンや亜鉛華のような無機粒子を含有する場合は、遠心分離等の適当な方法によりこれを除去して測定することができる。
【0041】
本発明は、酸成分として芳香族多塩基酸、特にテレフタル酸の含有率が高く、しかも重量平均分子量が9,000以上、又は相対粘度が1.20以上の高分子量のポリエステル樹脂を高固形分濃度で水媒体中に分散した水分散体と特定のアミノ樹脂とが容易に配合でき、しかも優れた貯蔵安定性を有する水系塗料組成物を提供できるが、更には、該水系塗料組成物から形成される焼付け塗膜が、優れた金属板への密着性、加工性、耐水性、耐薬品性、耐候性等を兼ね備えているだけでなく、滑剤を添加しなくても塗膜の耐傷付き性にも優れている。
【0042】
本発明における水系塗料組成物においては、水媒体中に分散している樹脂微粒子の一次粒子としての粒径分布だけでなく、一次粒子の凝集状態及びその量も、水系塗料組成物の貯蔵安定性に大きく影響を及ぼすので、この凝集状態を高度に制御することにより、塗料組成物の貯蔵安定性を著しく改善することができる。
【0043】
ポリエステル樹脂を構成する多塩基酸として芳香族多塩基酸、特にテレフタル酸の含有率が高く、しかも重量平均分子量が9,000以上、又は相対粘度が1.20以上であるポリエステル樹脂と前記のアミノ樹脂とを適量配合して成る塗料組成物より形成される焼付け塗膜は、塗膜性能に顕著に優れており、特別な添加剤等を使用することなく、優れた塗膜の加工性や硬度を発現する塗膜を形成できることは非常に画期的なことであり、更に、耐傷付き性に優れることは予測の域を遥かに越えものである。本発明の水系塗料組成物から形成される塗膜の耐傷付き性が著しく優れる理由は十分には理解されていないが、塗膜が十分に硬く、しかも耐水性や耐薬品性が優れることからも伺えるように、ポリエステル樹脂とアミノ樹脂とがミクロに相溶して適度な架橋構造を形成しているためと考えられる。
【0044】
【実施例】
以下に実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中に単に「部」とあるのは「重量部」を意味する。各分析項目は以下の方法に従って行った。
【0045】
(1)ポリエステル樹脂の組成
1H−NMR分析(バリアン社製,300MHz )より求めた。また、 1H−NMRスペクトル上に帰属・定量可能なピークが認められない構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解を行った後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析を行った。
【0046】
(2)ポリエステル樹脂の重量平均分子量、相対粘度
前述したように、GPC分析(島津製作所製,溶媒:テトラヒドロフラン,紫外−可視分光光度計、検出波長254nmにより検出,ポリスチレン換算)より求めた。また、相対粘度はポリエステル樹脂をフェノール/1,1,2,2 −テトラクロロエタンの等重量混合溶媒に1重量%の濃度で溶解し、ウベローデ粘度管を用いて、20℃で測定した。
【0047】
(3)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂1gを30mlのクロロホルム又はジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、フェノールフタレインを指示薬としてKOHで滴定を行い、中和に消費されたKOHのmg数を酸価として求めた。
【0048】
(4)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキン エルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/min の条件で測定を行い、求めた。
【0049】
(5)ポリエステル樹脂水分散体の固形分濃度
調整された水分散体を適量秤量し、これを該水分散体中に含まれる有機溶剤の沸点以上の温度で残存物(固形分)の重量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0050】
(6)ポリエステル樹脂水分散体及び水系塗料組成物の粒径分布
ポリエステル樹脂水分散体、或は水系塗料組成物をなんら希釈すること無く、2枚のガラス製のプレパラートに挟んで均一な薄層として供し、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製,SALD−2000「高濃度測定システム」)により、20℃で粒径分布を分析した。得られた光強度曲線から粒径分布を求める演算処理においては、屈折率1.6−0.1iを採用し、得られた結果は、分布関数への近似やスムージング処理等のいかなる処理も行わなかった。また、最大粒径は、最大粒径フラクションの上限値を代表値とした。尚、顔料として酸化チタンを含む水系塗料組成物については、遠心分離機を用い、5,000〜12,000rpm で1〜20分の遠心分離を行い、固形分に対する酸化チタンの含有率が1重量%未満でかつ、酸化チタン以外の固形分濃度が計算値の98%以上を満たす上澄液を調整し、これを分析に供した。ここで、酸化チタンの含有率は、上澄液から上記(5)に従って固形分を得た後に、電気炉(最高500℃)中で注意深く灰化させ、灰分の重量を測定して算出した。
【0051】
(7)ポリエステル樹脂水分散体の粘度
コーン・プレート型の回転粘度計((株)レオロジ製,MR−3ソリキッドメータ)を用い、剪断速度10 sec-1、30℃での粘度を測定した。但し、水分散体のチキソ性を考慮して、回転を始めて定常状態になった時点での粘度を求めた。
【0052】
(8)水系塗料組成物の貯蔵安定性
調整した塗料組成物について、その塗料粘度(秒で表現)をフォードカップ#4を用いて、調整時及び室温で1カ月貯蔵後に25℃の条件下で測定し、以下の基準に従って評価した。
○:外観の変化が認められず、調整時及び貯蔵後の塗料粘度の差が10秒以内におさまっている。
△:外観の変化は認められないが、調整時及び貯蔵後の塗料粘度の差が10秒を越えてしまう。
×:相分離、沈殿、固化等の明らかな外観変化が認められる。
尚、酸化チタンを配合した塗料組成物について○と評価されたものについては、更にJIS K−5400に従い、粒ゲージ(線条法)を用いて10μm 以上の粗大粒子の有無を調べ、以下の基準に従い評価を行った。
◎:10μm 以上の粗大粒子が認められない。
○:10μm 以上の粗大粒子が認められる。
【0053】
(9)塗膜の光沢
目視により判断した。なお、酸化チタンを添加した塗膜の光沢は、グロスメーター(堀場製作所、グロスチェッカIG−310)で60゜反射率を測定した。
【0054】
(10)塗膜の加工性(可撓性)
塗装鋼板を塗装面が外面になるように、しかも折り曲げ部に同じ板厚のものを挟んだ状態で折り曲げ、屈曲部に発生する割れを40倍の蛍光顕微鏡で観察し判定した。表3〜5中の「nT」とは、折り曲げ部に同じ板厚のものをn枚挟んだ場合でも屈曲部に割れを発生しない最少枚数を意味する。
【0055】
(11)塗膜の硬度(鉛筆硬度)
鋼板の塗面をJIS S−6006に規定された高級鉛筆を用い、JIS K−5400に従って測定した。
【0056】
(12)塗膜の耐傷付き性
塗装鋼板の塗装面に、市販のティン・フリー・スチール板(TFS0.2mm厚、テンパーT4)を載せ、50g/cm2 の荷重を加えながらティン・フリー・スチール板の圧延方向に対して直角方向に室温でそれぞれ往復50回擦り合せた。そして、以下の基準に従って評価を行った。
○:塗膜に全く損傷が認められない。
△:塗膜表面に傷が認められるが金属が露出するには至っていない。
×:金属が露出している。
【0057】
(13)塗膜の耐溶剤性
キシレンを含浸させたガーゼを用いて塗膜をこすり、下地が現れるまでの往復回数を記録した。
【0058】
(14)塗膜の耐熱水性
塗装鋼板を60℃の熱水浴中で1時間処理し、塗膜の表面状態を目視にて判断した。なお、酸化チタンを配合した塗膜は次式で表される光沢保持率(%)を求めた。
光沢保持率(%)=(処理後の光沢/処理前の光沢)×100
【0059】
(ポリエステル樹脂の製造例)
ポリエステル樹脂A−1
テレフタル酸1,578g、イソフタル酸83g、エチレングリコール374g、ネオペンチルグリコール730gからなる混合物をオートクレープ中で、260℃で2.5時間加熱してエステル化反応を行った。次いで二酸化ゲルマニウムを触媒として0.262g添加し、系の温度を30分で280℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1時間後に0.1Torrとした。この条件下で更に重縮合反応を続け、1.5時間後に系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、260℃になったところでイソフタル酸50g、無水トリメリット酸38gを添加し、255℃で30分撹拌し、シート状に払い出した。そしてこれを室温まで十分に冷却した後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1〜6mmの分画をポリエステル樹脂A−1として得た。ポリエステル樹脂A−1の分析結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
Figure 0004056595
【0061】
ポリエステル樹脂A−2〜A−6
ポエステル樹脂A−1と同様な方法で種々のポリエステル樹脂A−2〜A−6を製造した。各樹脂の分析結果を表1に示す。
【0062】
ポリエステル樹脂A−7
テレフタル酸1,973g,イソフタル酸104g、エチレングリコール430g、ネオペンチルグリコール980gからなる混合物をオートクレープ中で、260℃で2.5時間加熱してエステル化反応を行った。次いで二酸化ゲルマニウム0.329gを添加し、系の温度を30分で280℃に昇温し、その後、系の圧力を徐々に減じて1時間後に0.1Torrとした。この条件下で更に重縮合反応を続け、1.5時間後に系を窒素ガスで常圧に戻し、系の温度を下げ、250℃になったところでネオペンチルグリコール52gを添加し、245℃で30分撹拌を続け、更に系を200℃まで降温し、無水フタル酸56gを添加して10分反応をさせた後に、ポリエステル樹脂A−1と同様な方法で粒状のポリエステル樹脂A−7を得た。樹脂の分析結果を表1に示す。
【0063】
ポリエステル樹脂A−8
テレフタル酸1,417g、イソフタル酸244g、エチレングリコール344g、ネオペンチルグリコール784gからなる混合物をオートクレープ中で、260℃で2.5時間加熱してエステル化反応を行った。次いで二酸化ゲルマニウム0.273gを添加し、系の温度を30分で280℃に昇温し、その後、系の圧力を徐々に減じて1時間後に0.1Torrとした。この条件下で更に重縮合反応を続け、1.5時間後に系を窒素ガスで常圧に戻し、系の温度を下げ、250℃になったところで無水トリメリット酸57.5gを添加し、245℃で10分間攪拌を続け(第1段階の解重合)、更に系を210℃まで降温し、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン31.5gを添加して60分間反応させた(第2段階の解重合)。そして、ポリエステル樹脂A−1と同様な方法で粒状のポリエステル樹脂A−8を得た。樹脂の分析結果を表1に示す。
【0064】
ポリエステル樹脂A−9
ポリエステル樹脂A−8と同様に、酸無水物を添加して第1段階の解重合を行った後、多価アルコール成分を添加して第2段階の解重合を行い、ポリエステル樹脂A−9を製造した。解重合剤の種類、添加量及び得られた樹脂の分析結果を表1に示す。
【0065】
(ポリエステル樹脂水分散体の製造例)
以下の方法によってポリエステル樹脂水分散体を得た。水性化条件及び得られたポリエステル樹脂水分散体の分析結果を表2に示す。
水性化条件X:
ジャケット付きの2Lガラス容器を備え、しかも装着時にはこれが密閉状態となる卓上型ホモディスパー(特殊機化工業(株)製,TKロボミックス)を用いて、ガラス容器に、ポリエステル樹脂 300g、エチレングリコール−n−ブチルエーテル80g、ポリビニルアルコール(ユニチカ(株)「ユニチカポバール」050G)0.05重量%水溶液600g及び該ポリエステル樹脂中に含まれる全カルボキシル基量の1.2倍当量に相当するN,N−ジメチルエタノールアミン(以下、DMEA)を投入し、6,000rpm で撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、完全浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保った10分後にジャケットに熱水を通し、加熱した。そして容器内温度が68℃に達したところで撹拌を7,000rpm とし、容器内温度を70〜72℃に保って更に20分撹拌し、乳白色の均一な水分散体を得た。そしてジャケット内に冷水を流して3500rpm で撹拌しながら室温まで冷却し、ステンレス製フィルター(635メッシュ、平織)を用いて濾過した。
【0066】
水性化条件Y:
有機溶剤としてn−ブタノール 50g、保護コロイド水溶液としてポリイタコン酸(磐田化学工業(株)製、PIA−728)の0.05重量%水溶液600gを用いる以外は水性化条件Xと同様の操作で水性化を行った。
【0067】
水性化条件Z:
DMAEの添加量をポリエステル樹脂中の全カルボキシル基量に対して1.5倍当量とし、PVA水溶液の濃度を0.3重量%とする以外は水性化条件Xと全く同様の操作で水性化を行った。
【0068】
【表2】
Figure 0004056595
【0069】
(水系塗料組成物の製造及び塗膜の形成,評価)
実施例1
ポリエステル樹脂水分散体B−1(固形分濃度30.3%)を撹拌しながら、前記B−1の固形分80部に対してメラミン樹脂イソブタノール溶液(三井サイテック(株)製、サイメル325,固形分濃度80%)を固形分で20部を徐々に添加し、室温で30分間撹拌して水系塗料組成物を得た。次いで、これを市販のTFS(0.2mm厚、テンパーT4)上に塗布し、70℃で30秒間予備乾燥を行った後、170℃で10分間焼付けを行い、膜厚約10μm の硬化塗膜を得た。得られた水系塗料組成物の分析結果及び硬化塗膜の評価結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
Figure 0004056595
【0071】
実施例2〜11及び比較例1〜5
各種ポリエステル樹脂水分散体およびアミノ樹脂溶液を用いて、実施例1と同様の方法にて塗料化し、実施例1と同様の操作で硬化塗膜を得た。得られた水系塗料組成物の分析結果及び硬化塗膜の評価結果を表3及び4に示す。尚、実施例11においては、アミノ樹脂溶液としてメラミン樹脂イソプロパノール/イソブタノール溶液である三井サイテック(株)製、サイメル370(固形分濃度88%)を用いた。
【0072】
【表4】
Figure 0004056595
【0073】
比較例6
ポリエステル樹脂水分散体B−9を用いる以外は実施例1と同様の方法にて塗料化を試みたところ、アミノ樹脂を添加後、攪拌中に凝集物が発生し、攪拌を止めると沈殿となり、経時でその量が増えていくのが観察された。
【0074】
実施例12及び比較例7
アミノ樹脂溶液として、前述のサイメル325とベンゾグアナミン樹脂エチレングリコールブチルエーテル溶液(三井サイテック(株)製マイコート106(固形分濃度77%)を固形分重量比で、75/25(実施例12)、或いは、30/70(比較例7)混合したものを、攪拌しているポリエステル樹脂水分散体B−12に徐々に滴下し、その後、室温で1時間攪拌を続けて塗料化を行った。得られた水系塗料組成物を用い、実施例1と同様にして硬化塗膜を得た。得られた水系塗料組成物の分析結果及び硬化塗膜の評価結果を表3及び4に示す。
【0075】
実施例13
ポリエステル樹脂水分散体B−1 85部(固形分)に対して、前記サイメル325,15部(固形分)、酸化チタン(石原産業(株)製,タイペークCR−50)90部、ガラスビーズ200部を配合したものをペイントシェーカーで1時間、振とう分散した。次いでガラスビーズを除去し、前記TFS上にこれを塗布、170℃で10分間の焼付けを行い、乾燥膜厚10μm の白色塗膜を得た。得られた白色塗料組成物の分析結果及び硬化塗膜の評価結果を表5に示す。
【0076】
【表5】
Figure 0004056595
【0077】
実施例14〜15
各種ポリエステル樹脂水分散体を用いる以外は、実施例13と同様に塗料化、塗装を行った。得られた白色塗料組成物の分析結果及び硬化塗膜の評価結果を表5に示す。
【0078】
【発明の効果】
本発明によれば、酸成分として芳香族多塩基酸の含有率が高く、しかも重量平均分子量が9,000以上、又は相対粘度が1.20以上の高分子量のポリエステル樹脂とアミノ樹脂とを主成分とする優れた貯蔵安定性を有する水系塗料組成物を提供することができ、しかも、該水系塗料組成物から形成される焼付け塗膜が、優れた金属板への密着性、加工性、耐水性、耐薬品性、耐候性等を兼ね備えているだけでなく、滑剤を添加しなくても塗膜の耐傷付き性にも優れることから、特に缶用塗料やPCM用塗料として好適である。
更に、本発明によれば、無機粒子を含有しない水系塗料組成物から形成される塗膜であっても、優れた加工性を保持しながら優れた鉛筆硬度を得ることができる。

Claims (3)

  1. 下記(A)〜(E)成分より成るポリエステル樹脂水分散体及び、アルコール成分としてアミノ樹脂中のアルキルエーテル基の70モル%以上がメチルエーテル基である平均重合度5以下の親水性アミノ樹脂を少なくとも含有し、その固形分比が95/5〜60/40重量%であることを特徴とする水系塗料組成物。
    (A)多塩基酸成分と多価アルコール成分より実質的に構成され、多塩基酸成分の50モル%以上が芳香族多塩基酸であり、多価アルコール成分の50モル%以上がエチレングリコール及び/又はネオペンチルグリコールで構成されており、酸価が10〜40mgKOH/gであり、重量平均分子量が9,000以上又は相対粘度が1.20以上であるポリエステル樹脂(B)アンモニア及び/又は沸点が250℃以下の有機アミン化合物(C)ポリエステル樹脂に対して可塑化能力を有する両親媒性の有機溶剤が水系塗料組成物に対して3〜12重量%(D)保護コロイド作用を有する化合物がポリエステル樹脂に対して0.01〜3重量%(E)水
  2. 水媒体中に分散して存在する凝集状態のものも含めた樹脂微粒子の粒径分布が、下記(a)、(b)及び(c)のうちの1つ以上の条件を満足するものであることを特徴とする請求項1記載の水系塗料組成物。
    (a)水媒体中に分散している樹脂微粒子の粒径分布における体積基準でのメディアン径が2μm 以下であり、かつ最大粒径が10μm を越えない。
    (b)水媒体中に分散している樹脂微粒子の体積基準での粒径分布において、最も細粒子側に位置する分布のモード径が1μm 以下であり、かつ80%粒径が4μm を越えない。
    (c)水媒体中に分散している樹脂微粒子の体積基準でのメディアン径が2μm以下であり、かつ最も細粒子側に位置する分布のモード径が1μm 以下であり、更に下式(1)を満足する。
    log(90%粒径/10%粒径)≦1 (1)
  3. ポリエステル樹脂を構成する多塩基酸成分の65モル%以上がテレフタル酸である請求項1又は2記載の水系塗料組成物。
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