しかしながら、前述の油圧式のタイプは優れた性能を有するものの、圧力の変わるオイルを確実に密封する必要があり、どうしても構造が複雑になり部品点数も多く、コスト面で高価になるという問題点を有している。また閉鎖動作としては制動装置本体側のアーム端部に連結されたピニオンを支点位置で回転させるため非常に力の強いばねが必要になり、上記強度に対応できる高強度のラックやピニオン等をも内蔵させなければならない。したがって制動装置全体としてはかなり大きな形状になり、サイズ面でコンパクト性に欠け、デザイン面でもあまり好ましくないことが挙げられる。また扉や枠体に内蔵させ外部に露出させないコンシールドタイプには適応させにくい点も最近では懸念されている。
また、空気圧を用いたタイプは油圧式のものと比較すると機構自体は若干簡素化できるのであるが、空気の移動の際の音なりが完全には解消させにくい問題として常に残ってしまう。さらには圧縮されやすい空気を用いるため油圧式以上にシリンダーの断面積を必要とし、コンパクト性という点ではさらに条件が悪いことが挙げられる。したがって上枠や扉の厚み方向内に内蔵させる構成はほとんど無理と想定される。またこの空気圧タイプでは前述のアームを1本のみ使用する構成のものが多く、この構成で外付け(面付け)すると、扉の最大開放角度が90度を僅かに超えた程度にまでしか開けられないことになり、現行の室内ドアなどでの枠体自体の開口寸法を小さくしない170度程度までの開放を必要とする要求に満たないため現在では余り用いられていないのが現状である。
ここで閉鎖動作の駆動力にばねを用いる場合は、ばねの特性として扉を大きく開けたときほど引寄せ力は強く、僅かにのみ開けたときは引寄せ力が小さくなる傾向を有している。さらに閉鎖時に何ら負荷がかからない状態では閉鎖途中からは慣性力も加わることになる。したがって前述の油圧や空気圧を用いない構成の制動装置では、扉の開放度合いによって完全に閉じる最終段階での速度が変化してしまうものがほとんどである。その結果理想的な扉の開閉動作である、戸体の閉鎖速度の大小にかかわらず完全に閉じる一歩手前で常に一旦極遅い速度にまで減速され、停止することなくそのまま緩やかに最後まで閉鎖する動作にはならず、機能的に満足なものであるとは考えにくい。ここで解決するべき最も重要な点は、大きく開け放った状態からの閉鎖では速度が付きすぎるため最終段階での減速動作が必要になり、少しだけ開けた状態からの閉鎖では引寄せ力が小さいため減速動作を有すると閉まり切らないことであり、この相反する現象に対応する機構が必要になってくると考えられる。
また、2本のアームを折りたたむ構成の扉用の制動装置は基本的に左右勝手があり、アームを取り外して制動装置本体を反転させる等の複数の作業を実施して左右兼用に対応している。またフロアヒンジのような中心吊で両開きに対応できる制動装置は扉の上部に装着するアーム方式での簡易タイプとしてはまだ無く、車椅子等での通行に優れた室内用両開き扉に用いることができる制動装置の実現が望まれている。
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、複雑な油圧や空気圧の機構を用いず、比較的単純でかつコンパクトに形成できることを前提条件とし、閉鎖時には扉の速度の大小に比例した無段階的な減速量が得られ、閉鎖最終段階で常に所定の低速度にまで一旦減速し、そのまま停止することなく緩やかに完全に閉鎖する動作を可能とし、かつ約180度までの開放と所定の任意の位置での停止機能をも備え、さらには完全に左右兼用が可能であり、かつ両開きタイプの扉にも装着できてどちらの方向に開放しても同様の制動動作が得られる扉の制動装置を提供することを目的とする。
本発明では上記問題点を解決するために次の技術手段を設けた。まず、直線状のレ−ル本体と板状のア−ム部材とアーム取り付け部材を設け、レ−ル本体を上枠若しくは扉上部のどちらか片方に装着し、他方にアーム取り付け部材を装着する。前記レール本体はレール部材とラックとスライド部材とから構成され、レ−ル部材内長手方向に連続したラックを固定し、スライド部材をレ−ル部材内で直線移動可能なように装着しておく。そしてア−ム部材の片端部をアーム取り付け部材に回転自在に装着し、ア−ム部材の他端部をスライド部材に回転自在に装着して扉と上枠を連結する。すると扉の開閉動作によりア−ム部材が角度を変えながら連動し、同時にレ−ル部材内をスライド部材が直線移動する動作が得られる。また扉と枠体の適宜の位置に常に扉を閉じる方向に付勢する閉鎖用ばねを装着しておく。
前記スライド部材はスライドケースと、回転部材と、歯車と連動し該歯車の回転時に一定の負荷がかかる用に構成された減速部材とを有し、回転部材に歯車を含む減速部材を組み込んでスライドケースに回転自在に装着してスライド部材を構成する。さらにスライドケースの上下面どちらかにアーム部材との連結部分を設けておく。この減速部材の、歯車が回転することにより一定の負荷を発生させる機構はどのようなものであっても良いが、耐磨耗性能に優れた材質のワッシャ状の部材にて複数の皿ばね座金を挟み込んで歯車と連動して回転するように組付けた、ばねの押し圧力と摩擦力とを利用して回転時に負荷をかけるトルクヒンジ(スイーベルヒンジ)のような構成や、ハウジング内に粘性の高いシリコンオイルと羽根状の部材とを収容して0リングにて密封されており、歯車が回転するとこの羽根状の部材が連動して回転し、オイルを押しのけながら回転することで負荷をかけるロータリーダンパのような構成が適している。このロータリーダンパを用いるときは、どちらの方向に回転させても同じだけの負荷がかかる最も単純で安価とされているものでよい。
ここで、上記のレール本体とア−ム部材とアーム取り付け部材からなる最初の構成では、歯車をスライドケースに対して一定範囲のみ移動可能な状態で装着したスライド部材を用いる。そして扉が閉じる後半以降に歯車が通過するレール部材内の位置にラックを装着しておく。さらに扉の閉鎖途中の所定角度位置で強制的に歯車がラック側に移動してラックと係合する手段と、扉が減速装置の負荷により減速されながらさらに閉じ、扉の閉鎖速度が一定以下になった段階で歯車がラックから外れて離脱する手段とを有する係脱機構を設けておく。また扉を開ける際には歯車とラックは係合せず、減速部材による負荷は発生しないように構成しておく。
この係合手段と離脱手段を有する係脱機構が非常に重要なのであるが、様々な機構にて係脱動作を得ることが可能であるため主な構成を以下に説明する。まず突出部分を有した回転部材を設け、回転軸にてスライドケースに組み付けてスライド部材を構成しておく。このとき回転部材の回転軸を挟んだ片側に歯車と減速部材を組み込み、逆側に突出部分が位置するように配置する。そしてスライドケースと回転部材に、常に歯車がラックから離れる方向に力がかかるように離脱手段を設けておく。そしてレ−ル部材内に取り付けたラックの少しだけ手前位置に突起状の当接部分を装着する。
このときの歯車とラックの配置は、歯車の軸線が上下向でラックは横向きにするとよく、歯車とラックは同一水平面上にあり、歯車の移動動作は同一水平面上での回転動作が適している。そして扉の閉鎖動作と連動したレ−ル部材内でのスライド部材の移動により当接部材と突出部分とが当接し、回転部材が回転して歯車がラックと係脱する構成が簡単である。また歯車の軸線が横向きでラックは上下向きに配置し、歯車とラックを扉面と平行な同一面の上下位置に配置し、扉と平行な面上での回転部材の回転動作により歯車とラックが係脱する構成であってもよい。さらにはシーソーの両側に歯車と突出部分を配置したような構成で、歯車の軸線は上下向でラックは横向きに配置し、歯車とラックは上下方向にわずかに離れた状態で位置しており、当接部材と突出部材との当接でシーソー動作により上下移動して歯車がラックと係脱する構成であってもよい。また当接部材と突出部分との当接により複数の傾斜面を有する連動部材が互いに押し合って歯車を上下方向に移動させる構成でも可能である。
以上は当接部材と突出部分の当接を起点として係合動作を得る構成であるが、また別の手段としては、磁石と該磁石に吸引される金属片を、歯車近辺と、ラックと歯車とが最初に面対するレール部材内位置とに振り分けて配置し、磁石により吸引される動作を用いる構成が非常に簡単である。このときの歯車の移動動作は互いの吸着方向への直線移動動作でもよいが、前述での各移動動作を用い、起動動作を当接部材と突出部分の当接ではなく、磁石の吸引力にて実施する構成でもよい。この磁石を用いた構成では突出部分と当接部材は必要なく、衝突音や震動等が発生しにくい点で有利である。
また離脱手段は、離脱用ばねを回転部材とスライドケース間に取り付け、歯車が常にラックから離脱する方向に付勢させる構成か、若しくは回転部材の回転軸を挟んだ両側の重量バランスでの自重による落下動作を用いた構成が可能である。磁石を用いた場合は、その後のスライド部材の移動により磁石と金属片が離れ、吸引力が減少した段階で歯車部分の自重により落下する動作が簡単である。
上記の構成で扉を大きく開放した状態から閉鎖させると、まず扉は閉鎖用ばねにより引寄せられて所定角度までは一気に閉鎖し、所定角度位置にて当接部材に回転部材の突出部分が当接して離脱手段に逆らって歯車がラック側に回動してラックと係合する動作になる。その結果ラックと歯車が噛み合って減速部材の負荷により扉の速度は比較的急激に減速する。また減速初期の段階で、さらに微小距離スライド部材が閉方向に移動すると突出部分が当接部材から外れ、その後は離脱手段により歯車にはラックから離脱しようとする力がかかることになる。ところが、この係合状態では歯車とラックとの接点には減速のための摩擦力が作用しており、この摩擦力は扉の速度が速い時ほど大きく、速度が遅くなるにつれて小さくなっていく。したがって減速動作中であってもまだ扉の速度が速いときには歯車とラックの摩擦力により歯車はラックから離脱することは無く、扉の閉鎖速度が落ち、歯車とラックの接点に発生する摩擦力が離脱手段の力より小さくなった段階で歯車とラックが離脱して減速動作が終わることになる。
この歯車とラックが離脱する条件を任意に設定することにより、扉を比較的遅い所定速度にまで一旦減速し、引き続きそのまま緩やかに閉じる動作が得られることになる。つまり非常に扉の速度が速いときには歯車とラックが噛み合っている距離が長くなり、その分全体の減速量も大きくなり、逆に扉の速度が遅いときは歯車とラックが噛み合っている距離が短く、全体の減速量も少なくなるためである。したがって閉鎖速度の大小に比例した減速量が得られることになり、どのような閉鎖条件であっても閉鎖する最終段階での速度を一定にすることができ、非常に優れた扉の閉鎖動作が実現できることになる。ここで速度と慣性力は違うが、この場合はラックと歯車に発生する摩擦力が重要であり、摩擦力を発生させる点では速度も慣性力も同一として判断できるため、この係脱動作は速度だけで無く慣性力に対しても有効であると考えられる。
また扉が閉じているときは確実にラックと歯車は離脱状態にあり、したがって扉を開放する最初の時点では減速部材の負荷はかからない。そして開放途中で突出部分が当接部材に当接して回転部材が一旦は回転するのであるが、このときのスライド部材の位置は既にラックを通過した位置であるため係合動作にはならない。つまり開放動作では減速部材による負荷はかからないことになる。したがって前述のように減速部材は連動した歯車がどちらの方向に回転しても同じだけの負荷を発生させる単純で安価なものでよい。
次に同様にレ−ル本体とア−ム部材とアーム取り付け部材からなる別の構成を説明する。この構成ではレ−ル部材内に長い連続したラックを装着し、歯車と減速装置はスライド部材に直接固定する。減速装置の機構は前述と同様でよい。また扉が開閉するほぼ全域の広い角度において歯車とラックが常に係合するように両者を配置し、歯車が回転するときの減速部材により発生する負荷を閉鎖用ばねの力より常に僅かに小さくなるように設定しておく。このように構成することにより、扉を閉鎖する際に徐々に増加する慣性力を減速部材にて抑制しながら、かつ途中で停止してしまうことなく低速度で最後まで扉を閉鎖する動作が得られる。つまり大きく開いた状態からでもゆっくりと徐々に扉が最後まで閉じる動作になる。
この構成では、上記の両方向の回転で同じ負荷がかかる減速部材を用いると、扉を開けるときにも歯車の回転の片方向にのみ負荷が発生することになり、開放動作が重くなることが懸念される。そこで片方向のみの回転時に負荷が発生し、逆方向への回転時にはフリーになる構成の減速部材を用い、扉を閉じるときのラックとの係合による回転方向で負荷が発生するように歯車とラックを配置し、扉を開ける際のラックとの係合による逆方向の回転では負荷が発生しないように構成するとよい。
次に扉の開閉に伴うアーム部材の動作とスライド部材のレール部材内での移動距離に関して説明する。レール本体を上枠に装着する場合と扉の上部に装着する場合とではアーム部材の軌跡が異なるのであるが、扉が90度まで開く間の角度をたとえば15度単位おきに設定して、その単位角度当たりのスライド部材の移動距離を測定すると、どちらも開き角度が大きいときほどスライド部材の移動距離も大きい傾向になる。つまり90度開いた状態から75度まで閉じる間がスライド部材の移動距離がもっとも長く、15度から完全に閉じるまでの移動距離が最も小さいことになる。また丁番等の軸心が持ち出された吊金具で扉を保持する場合はこの傾向とは若干異なる部分が発生することがあり、顕著な例としては閉鎖最終の角度でのスライド部材の移動距離がより極端に小さくなることが挙げられる。
上記のスライド部材の移動特性は非常に重要であり、使用する閉鎖用ばねとの兼ね合わせも考慮に入れる必要がある。通常閉鎖用ばねはコイルばねやぜんまいばねが一般的であり、取り付ける位置において扉を引寄せる条件がかなり変化する。しかしばねの特性としては大きく伸ばした状態では力が強く、伸ばした距離が小さい状態では力が弱い条件になる。また取り付け位置に関しては閉鎖用ばねをレ−ル本体内に組み込み、スライド部材をコイルばねかぜんまいばねで戸先側に引寄せる構成と、制動装置とは別に配置し吊元側の縦枠に対して扉の吊元面を引っ張る構成とが一般的である。
したがって前者の係脱機構を有する構成では、閉鎖する後半部分でのスライド部材の短い移動距離で急激に減速させるため減速部材の負荷は比較的大きくする必要があり、全体の動作としては完全に閉じる一歩手前で急激に減速してその後ゆっくりと完全に閉鎖するような動作になる。しかし減速終了後の最終閉鎖段階では閉鎖用ばねの力は弱いと想定され、この最終部分の閉鎖力を増加させる構成が別途必要である。また後者の常に係合させる構成では弱い力で減速動作を継続しており、大きく開いた閉鎖用ばねの力が強い時にはスライド部材の移動距離が長く、全体の減速量は大きくなり、閉鎖用ばねの力が弱くなってくる段階ではスライド部材の移動距離も短く、全体の減速量も小さくなる傾向になるため、比較的同速度でのゆっくりとした閉鎖動作が得られる。しかし最終閉鎖段階ではアーム部材の角度と扉の角度が非常に小さくなり、閉鎖方向にかかる力が極端に弱まるため、同様の最終部分の閉鎖力を増加させる構成がやはり必要であると想定される。
また一般的に、室内の間仕切り用の扉では180度まで開放できるのが理想とされ、少なくとも最大開口寸法である左右の戸当たり間の内寸を妨げない165度程度にまで開放できることが条件になる。そこでレール部材の長さを扉が90度開いたときのスライド部材の位置よりもさらに吊元側に延長し、その部分にもスライド部材が移動可能に構成すると扉を90度以上開放することができるようになる。
またレール部材の長さは扉が90度開いたときのスライド部材位置までに設定し、アーム取り付け部材に端部がL型に曲がった形状の長孔を設けておく。さらにアーム部材の片端部を長孔を通して連結ピンでアーム取り付け部材に連結し、アーム引寄せばねにて長孔のL型側にアーム部材の片端部を引き付けておく。すると扉が90度以上開放するときにアーム部材の片端部が連結ピンと共に長孔に沿って吊元側に移動する動作になり、扉を180度まで開放可能とすることが可能になる。
室内の間仕切り用の扉では、90度開いた位置やさらに大きく開放した位置にて停止保持させる機能も必要とされている。そこで前記アーム部材の片端部に複数の角度保持平面を有した角度保持部材を固定し、押し込み部材を角度保持用ばねにて角度保持部材に押し付けるように付勢する構成を付加しておくとよい。角度保持部材は円柱状で側面を平面状にカットしたような形状で、コの字状の押し込み部材の先端面を角度保持用ばねにて押し付けることにより、扉を所定の角度で保持するとともに、その近辺の微小範囲角度位置から所定の角度位置に扉を付勢させることもできるようになる。したがって閉鎖位置で保持するように角度保持平面を設けると、閉鎖最終段階での扉を引寄せて完全に閉じる動作を別途得ることが可能になる。
また、レ−ル本体内でのスライド部材の移動動作は直線移動であるため、レ−ル本体とアーム部材には左右勝手は存在せず、上記での90度以上開放する際の角度保持平面とアーム取り付け部材の長孔のL型長孔の方向のみで左右勝手が発生することになる。そこで90度以上さらに大きく開放した段階で扉を保持する角度を若干小さく設定し、最大開放位置保持平面を含む角度保持部材を左右対称の形状にすると制動装置全体を完全な左右兼用にすることが可能になる。
また、レ−ル本体とアーム取り付け部材を上枠と扉上部に掘り込んで内蔵させ、両者の隙間部分にアーム部材を配置した構成では、扉を枠体に対して中心の位置にて吊り込んだ、室内室外両方向に90度ずつ開放可能な両開き用の扉にも適応させることが可能になり、角度保持部材を閉鎖位置での角度保持平面と両方向に90度ずつ開放した位置での角度保持面を有した形状にしておくだけでどちら側に扉を開放しても同じ閉鎖動作が得られ、かつ両方向に90度開放した状態で扉を保持することもできることになる。
歯車とラックを係合および離脱させる係脱機構を設けた構成の本発明の制動装置では、この係合を開始する位置と離脱する速度を任意に設定することにより閉鎖速度の大小に比例した減速量が得られ、その結果どのような閉鎖条件であっても扉を比較的遅い所定速度にまで一旦減速し、引き続きそのまま緩やかに閉じる理想的な閉鎖動作を実現することが可能になる。
また扉が閉じた状態ではラックと歯車は確実に離脱状態であり、開放動作では歯車とラックが係合しないため減速部材の負荷はかからず、したがって軽い力で扉を開放することができる。また、減速部材は歯車がどちらの方向に回転しても同じだけの負荷を発生させる単純で安価なものを使用することが可能になる。
請求項10および11の発明では、扉が開閉するほぼ全域の広い角度において歯車とラックが常に係合するように構成し、歯車が回転するときの減速部材により発生する負荷を閉鎖用ばね部材の力より常に僅かに小さくなるように設定したため、扉が閉鎖する際に徐々に増加しようとする慣性力を減速部材にて抑制しながら、かつ途中で停止してしまうことなく最初から最後まで比較的低速度で扉を閉鎖する動作が得られる。
またレール部材の長さを扉が90度開いたときのスライド部材の位置よりもさらに吊元側に延長し、その部分にもスライド部材が移動できるように構成すると、扉を90度以上さらに大きく開放することができ、アーム取り付け部材にL型長孔を設け、アーム部材の片端部を長孔を通して連結ピンでアーム取り付け部材に連結し、アーム引寄せばねにて長孔のL型側にアーム部材の片端部を引き付けた構成を設けておくと、扉を180度まで完全に開放することが可能になる。
複数の角度保持平面を有した角度保持部材を設け、押し込み部材を角度保持用ばねにて角度保持平面に押し付けるように付勢した、角度保持機構を備えたアーム取り付け部材により、扉を所定の角度で保持することが可能になるとともに、その近辺の微小範囲角度位置から所定の角度位置に扉を付勢させることもでき、さらには閉鎖位置で保持するための角度保持平面を大きく設定しておくことにより、最終閉鎖段階での扉を引き込む力を増加させることも可能になる。
レール部材内でのスライド部材の移動動作は直線移動であるため、レ−ル本体には左右勝手は存在しない。そこで閉鎖位置での角度保持平面の両側に2箇所の90度位置保持平面を形成し、最大に開放した位置で扉を保持するための角度保持平面の位置をその間に設け、角度保持部材を左右対称の形状にすると制動装置全体を完全な左右兼用にすることが可能になる。
また上枠と扉上部に掘り込んで装着する内蔵タイプにおいては、アーム部材が扉の上面と上枠の間に配置されることになり、アーム部材はどちらの方向にも回転可能になる。したがって扉を枠体の中心位置にて吊り込んだ室内室外両方向に90度ずつ開放可能な構成の両開きドアにも装着でき、どちら側に扉を開放しても同じ閉鎖動作が得られることになる。また角度保持部材を閉鎖位置での角度保持平面と両方向に90度ずつ開放した位置での角度保持平面を有した左右対称な形状にしておくと、両方向に90度ずつ開いた位置で扉を停止させることも可能である。
レール部材内での歯車がラックと係合して減速部材により負荷が発生する位置が、扉の吊元位置からは戸先側にかなり離れた配置になっており、かつ歯車がラックと係合した状態である程度の距離を移動しながら徐々に減速するため、減速時の荷重を一定の移動距離にて分散させて受けることになり、減速部材の必要とする単位回転角度あたりの負荷はそれほど強いものでなくても可能である。
歯車を有する減速部材と、回転部材と、スライドケースと、レール部材と、アーム部材と、アーム取付け部材のみの簡単な構成であり、部品点数も少なく安価に提供可能である。また減速部材のサイズを一定の負荷を確保した状態でさらにコンパクトにできると、レール部材を非常に細い形状にすることも可能であり、厚みの薄い扉でも内蔵タイプが装着可能になり、扉に面付けした場合においてもデザイン性を向上させることができる。また内蔵タイプにおいては制動装置自体はまったく外部からは見えず、扉を開放した状態でもアーム部材のみが露出するだけでさらにデザイン性を向上させることができる。
以下図面に基づいて本発明に関する扉用制動装置の実施の形態を説明する。図1〜図19は本発明の第一実施形態を示しており、図1は上枠27にレール本体aを、扉26の上部にアーム取付け部材bをともに掘り込んだ状態で装着し、両者をアーム部材13で連結して扉26をある程度開放した状態を示す内蔵タイプの納まり斜視図である。したがって扉26上部の厚み方向面と上枠27の下面との隙間部分にアーム部材13が配置され、その位置にて水平方向に回転移動する動作になる。また、レール本体aやアーム取付け部材bを上枠27と扉26上部の正面に取り付ける面付けタイプも可能であり、納まり等は後述にて説明するが、基本動作はまったく同じである。
レール本体aは図2に示すように細長い箱状で下面に直線溝11を有したレール部材1とラック9と閉鎖用ばね12とスライド部材cとから構成され、レール部材1内側面にラック9を横向きに装着し、ラック9の吊元側端部から一定距離隔てた位置にさらに当接部材10を装着しておく。図3はスライド部材cの上面図であり、箱型のスライドケース2と歯車5の回転動作に連動して負荷を発生させる減速部材6と、回転部材3と、離脱用ばね7とから構成される。図4は回転部材3に歯車5と減速部材6を組み込む状態を示した斜視図であり、回転部材3の回転軸4を挟んだ片側に歯車5を連動させた減速部材6を歯車5が回転軸の上面から突出するように嵌め込んで固定し、逆側に突出部分8を形成しておく。そしてスライドケース2に対して水平方向に回転部材3が回転可能な状態で回転軸4にて装着し、さらに離脱用ばね7を突出部分8が常にスライドケース2から突出し、歯車5がスライドケース2内に収納される方向に付勢しておく。
このとき図4のように減速部材5と歯車4は組付けた状態で既に完成されたものを使用するとよく、そのまま回転部材3に嵌め込んで固定すると簡単である。この減速部材6の歯車5が回転することにより負荷を発生させる機構はどのようなものであっても良いが、耐磨耗性能に優れた材質のワッシャ状の部材にて複数の皿ばね座金を挟み付け、歯車5と連動して回転するように構成した、ばねの押し圧力と摩擦力を利用して回転時に負荷をかけるトルクヒンジやスイーベルヒンジのような機構か、もしくはハウジング内に粘性の高いシリコンオイルと羽根状の部材を挿入し、0リングを介して密封された構成で、歯車5が回転するとこの羽根状の部材がオイルを押しのけながら回転することで負荷をかけるロータリーダンパ等が適している。このオイル式のロータリーダンパではオリフィスを介してオイルが流れる高級タイプもあるが、今回の制動装置ではどちらの方向に回転させても同じだけの負荷がかかる最も単純で安価とされているものでよい。
次に、図2に示すようにレール部材1内にスライド部材cを直線移動可能な状態で挿入し、アーム部材13の片端部とスライドケース2下部を連結ピン23にて直線溝11を通して回転可能に連結する。さらに閉鎖用ばね12をレール部材1の戸先側位置に配置し、スライドケース2を常に戸先側方向に引寄せる方向に付勢するように連結する。したがって閉鎖用ばね12は、スライド部材cを戸先側に引寄せる動作によりアーム部材13を介して扉26を閉じる役割を有していることになる。
この閉鎖用ばね12はどのような種類のばねでもよいが、図2のようにレール部材1内に閉鎖用ばね12を組み込む場合は、コイル状の長い引きばねを用いるとレール部材1をその分長くする必要が生じ、スペース面からも不利である。そこでぜんまいばねかコップリングばね(等荷重ばね)が適しており、図2ではコップリングばねを用いた状態にて表記している。また図35はこの構成に適したぜんまいばねを用いた巻き取り器の一例を示しており、ぜんまいばねをハウジング内に挿入し、ワイアー線と連結して巻き戻す構成である。また図35のように巻き取り器に巻き取り強さを調整する機構を有しているものがあり、図2のような配置ではこの巻き取り強さを調整する位置を下側に向くように配置し、扉26を開けた状態で調整可能にしておくとよい。
また図2に示すように、ラック9はレール部材1内の戸先側の一定範囲のみに配置し、スライド部材cがレール部材1内を移動したときの歯車5が面対する高さ部分のみに設定しておくとよい。そしてラック9の吊元側端部より一定距離隔てた位置に当接部材10を装着する。上記のように組み付けてレール本体aを構成しておく。
次に、図1に示すようにアーム部材13のもう一方の端部を扉26に取り付けられたアーム取付け部材bに連結すると、扉26の開閉にしたがってアーム部材13の角度が変化しながらスライド部材cがレール部材1内を移動する動作が得られる。つまり閉鎖用ばね12によりレール部材1内にてスライド部材cを戸先方向に引寄せることで扉26を閉鎖することができることになる。この扉26の開閉によるスライド部材cの移動特性が重要であり、アーム部材13とスライド部材cの位置のみを表示した模式図としてこの軌跡を図5に示す。図5では扉26が閉じた状態から90度開いた状態までの15度ごとの位置を示しており、ここで15度を1単位とした扉26の閉鎖角度によるスライド部材cの移動距離を角度の大きいほうからA〜Fとして表示すると、Bが最も大きくFに向かって徐々に小さくなる傾向にある。特にFは極端に小さく、これは図5の扉26の回転の中心が丁番により軸心を持ち出した位置にて設定したためであり、AがBより僅かに小さいのもこのことが影響している。
図6は扉26の閉鎖時にスライド部材cがレール部材1内を図5の軌跡で戸先側に移動する動作を順に示した平面図であり、判り易くするためにアーム部材13や上枠27および扉26は除外して表示している。次にこのスライド部材cの移動による制動動作を説明する。図6(a)は扉26を90度開放したときの状態を示しており、スライド部材cはレール部材1内の最も吊元側に位置している。このとき回転部材3は離脱用ばね7に付勢されて歯車5はスライドケース2内に没しており、突出部分8がスライドケース2から出っ張った状態になっている。この状態から扉26を自由にすると、スライド部材cは閉鎖用ばね12に引寄せられて最初は負荷がかかることなく図6(b)のように移動し、図6(c)の位置で突出部分8が当接部材10に当接することになる。すると突出部分8が押されて回転部材3が離脱用ばね7に逆らって回転し、図6(d)のように歯車5がラック9に係合し、歯車5の回転により減速動作が開始する。ここで当接部材10と突出部分8との衝突音を軽減させるためにどちらかの当接面にゴムやエラストマー等の軟質材を貼り付けて衝撃を緩和させておくとよい。
また図6(d)に示す当接部材10の当接面と突出部分8が接している最終の位置で既に歯車5とラック9が係合を開始するように設定しておくと、歯車5とラック9は扉26の速度にかかわらず一旦は必ず係合することになる。そして図6(d)の段階で歯車5とラック9の接点に減速部材6の負荷により摩擦力が発生し、この摩擦力は回転部材3をさらに同方向に回転させようとする方向にかかる。その後さらに扉26が微小角度閉じるとスライド部材cも微小距離移動し、突出部分8が当接部材10の当接面から離れる。すると、この段階からは回転部材3には離脱用ばね7により歯車5がラック9から離脱する方向に力がかかることになる。ところが歯車5とラック9の接点には摩擦力が働いており、この摩擦力は扉26の閉鎖速度が速い時ほど大きく、速度が遅くなるにつれて小さくなっていく。したがってある程度減速されてもまだ扉26の閉鎖速度つまりスライド部材cの移動速度が速いときには摩擦力により歯車5はラック9から離脱することは無い。そして図6(e)に示すように減速されながらさらに閉鎖し、所定の低速度になり歯車5とラック9に発生する摩擦力が離脱用ばね7の付勢力よりも小さくなった段階で図6(f)のように歯車5はラック9から離脱して減速動作が終了する。この段階でも扉26はまだ緩やかに閉鎖しており、閉鎖用ばね12による引寄せの力もまだかかっているため扉26は引き続き図6(g)のようにその後完全に閉鎖することになる。
つまり扉26を大きく開け放ってから閉じた場合は閉鎖速度も大きく慣性力も付くため歯車5とラック9が係合している距離が長くなり、全体の減速量も大きくなる。また扉26を僅かに開けてから閉じた場合は閉鎖速度も小さく、歯車5とラック9との摩擦も弱いため係合後すぐに両者は離脱し、全体の減速量は小さくなる。したがって扉26の速度の大小に対応した減速量が得られ、開放角度の大小にかかわらず一旦所定の低速度にまで減速させ、その後ゆっくりと完全に閉じる動作が実現できることになる。また当接部材10の位置とラック9の長さを適宜設定することにより、扉26の減速開始角度を変更することができ、さらには離脱用ばね7の強さを適宜変更することにより、歯車5とラック9が離脱する時の速度、つまり扉26の最終段階での閉鎖速度を任意に設定することも可能である。
次に閉じた状態からの扉26の開放動作を説明する。図6(g)に示す閉鎖状態ではラック9と歯車5は確実に離脱状態になっており、したがって扉26を開放する際には減速部材6の負荷はかからない。ところが開放初期の図6(d)付近で突出部分8の反対面が当接部材10に当接して回転部材3が回転してしまう。しかし、このときのスライド部材cの位置は既にラック9を通過した位置であり、図6(d)での極瞬間のみ係合動作になるだけでそのまま減速動作になることは無い。また、この瞬間のみの係合さえも排除したいのであれば、図示はしないが、当接部材10を基準位置に対して吊元側にのみ極軽い力でスライド移動するように構成しておき、開放時に突出部分8の反対面が当接した段階で当接部材10を吊元側に移動させ、歯車5が完全にラック9を通り過ぎた位置で回転部材3が回転し、その後当接部材10は基準位置に自然復帰するような構成や、当接部材10が吊元側方向にのみ倒れるようにしておき、閉鎖時における当接動作では倒れることは無く、開放時にのみ吊元側に倒れて歯車5とラック9との係合動作を回避させるような構成を追加しておくとよい。このように構成することにより、開放時の操作は比較的軽い操作で実施することが可能になる。またこの開放時には減速部材6による負荷がかからない機構を有しているため、減速部材6は歯車5がどちらの方向に回転しても同じだけの負荷を発生させる単純で安価なものが使用できることになる。
第一実施形態では歯車5とラック9の係脱機構を用いたことが最も重要であり、上記では係脱機構に回転部材3の水平方向の回転動作を用い、離脱のための付勢力に離脱用ばね7を使用したが、この係脱機構自体の構成は他のどのようなものでもよく、次に図7〜図10にて他の係脱機構を説明する。図7はスライドケース2内での回転部材3の回転方向を縦方向(扉26面に対して平行な面上)に設定したものであり、この構成では前述と同様に離脱手段に離脱用ばね7を用いても良いが、図7に示すように回転軸4を挟んだ突出部分8側に重量の大きいウエイト部材14を装着し、回転軸4を挟んだ回転部材3両側の重量バランスを突出部分8側が遥かに重くなるように設定し、離脱手段を回転部材の自重による落下回転動作にて実施することも可能である。この回転部材3の回転方向の違いにおいては減速動作にはまったく影響するものではないが、回転方向にある程度の幅が必要になるためにサイズ面での影響があり、扉26の正面にレール本体aやアーム取付け部材bを面付けする場合などでは横方向に幅を有する形状よりも、回転部材3の回転方向を縦にして上下方向に幅を有する構成にしたほうがデザイン的には有利であると考えられる。
また別の係脱機構としては、歯車5を軸線が上下方向になるように水平に配置し、ラック9は横向きに装着しておき、離脱状態ではラック9と歯車5が上下にずれた位置になるように両者を配置する。そして突出部分8と当接部材10の当接により歯車5が上下移動してラック9と係合するような構成が可能である。この歯車5を上下に移動させる構成の一例を図8に示しており、図8(a)のように複数の傾斜面を有した移動片15を面対させて配置し、そのうちの1個の移動片15に突出部分8を設けておく。そして図8(b)に示すように突出部分8と当接部材10の当接により互いの移動片15の傾斜面が押し合って連動し、歯車5を装着した移動片15を上下方向に昇降させる構成が簡単である。さらには図示はしないが、シーソーの両端に歯車5と突出部分8を設け、同様に歯車5の軸線は上下向でラック9は横向きに配置し、歯車5とラック9は上下方向にわずかに離れた状態で位置しておき、当接部材10と突出部材8との当接でシーソー動作により歯車5が上下移動してラック9と係脱する構成であってもよい。
また図9と図10はさらに別の係脱機構を示しており、この係脱機構では磁石16と磁石16に吸引される金属片17を用いることが特徴とされ、歯車5とラック9近辺の位置に磁石16と金属片17を振り分けて装着しておき、両者が接近した際に互いが磁力により引き付けられて係合する構成である。したがって当接部材10や突出部分8は必要ではなく、当接時の衝突音や衝撃を排除できる点で優れている。図9はこの構成でのスライド部材cの斜視図であり、歯車5の上面に金属片17を取り付けておき、減速部材6とともにスライドケース2内で上下に移動できるように挿入するだけでよい。
図10は磁石16と金属片17での係脱機構を示す模式図であり、図10(a)はスライド部材cの移動とともに歯車5上面の金属片17が磁石16に接近した状態であり、ある程度両者が接近すると図10(b)に示すように直接上方向に歯車5を吸引させ、歯車5とラック9を噛み合わせることができる。この係脱機構での離脱手段は歯車5と減速部材6との自重による単純な落下動作で実施でき、図10(b)よりもう少し移動した位置で磁力が弱まった段階から重力による離脱力がかかる。この離脱力と、歯車5とラック9との摩擦力の関係は前述と同様であり、減速動作終了時の扉26の速度を調整するために歯車5や減速部材6の自重を重くすると、当然離脱力は大きくなるのであるが、その分磁力を強くして係合動作のための吸引力を増しておく必要が生じ、そうすることにより確実な係合動作が得られることになる。また、前述の回転部材3の回転動作やシーソー動作等の各々の係脱機構の構成でこの磁力による係合手段を用いてもよく、さらには離脱用ばね7による付勢力と併せて用いる等どのように組み合わせてもよい。
次に本発明の制動装置を扉26と上枠27に掘り込んだ状態で装着した時の動作を、まず扉26の90度までの開閉において説明する。図11〜図13は第一実施形態での納まり上面図であり、図11は閉鎖用ばね12としてぜんまいばねやコップリングばね(等荷重ばね)をレール部材1内に組み込み、スライド部材cを引寄せる動作で扉26を閉じる構成を示している。また図12は同じ納まり上面図であるが、レール部材1内に閉鎖用ばね12を組み込まずに、制動装置とは別の縦枠28の吊元側と扉26の吊元側にコイルばねを用いた閉鎖用ばね12を装着して扉26を引寄せる構成を示している。図12に示す構成では閉鎖用ばね12の伸縮距離が比較的小さく、制動装置とは関係なく扉26を引寄せることができ、完全に閉鎖する直前の小さい開き角度からでも十分に引寄せる力を得ることができることが特徴である。したがって歯車5とラック9の離脱後の僅かに残った扉26の開放分を完全に閉じることが容易に実施できると考えられる。しかし制動装置とは別の場所に別途閉鎖用ばね12を掘り込んだ状態で取り付けるのは手間であり、施工面での簡素化を考えるならレール本体a内に閉鎖用ばね12を組み込んだ図11のような構成が望ましい。
ところが図11に示す構成での閉鎖用ばね12による引寄せ動作では、図5の軌跡図にて示したように扉26がかなり閉じた状態になるとアーム部材13と扉26との開き角度が非常に小さくなり、この状態からさらにスライド部材cと共にアーム部材13を戸先側に引っ張っても扉26を閉じる方向には力はほとんどかからず、離脱の際の扉26の速度を非常に遅く設定した場合などではその後完全に閉じきるのは難しいことが懸念される。このように扉26の閉鎖条件は閉鎖用ばね12の配置によりかなり引寄せ具合が異なることになり、図11の構成では最終段階の一定角度の閉鎖を別の力により補助してやることが必要になる。
図13は図11の構成に追加して、閉鎖最終段階での補助の引寄せ機構をアーム取付け部材bに組み込んだ状態を示す上面納まり図であり、図14は図13に示すアーム取付け部材bの斜視図である。まず図14に示すように円柱状で側面部分を一部平面状にカットした形状の角度保持平面20を有した角度保持部材19を設け、箱型のア−ム取り付けケース18内に挿入し、ア−ム部材13が回動する回転軸位置に固定支持する。このときア−ム取り付けケース18に対してはアーム部材13と角度保持部材19は回動自在に連結しておく。すると扉26の開閉動作でアーム部材13の角度が変わり、同時に角度保持部材19も回転することになる。またア−ム取り付けケース18内部に非常に強い付勢力を有した角度保持用ばね22と前部か平面になっている押し込み部材21を組み込んでおき、角度保持部材19の側面を押し込み部材21が常に押し付けている状態にしておく。
その結果、扉26の開閉動作とともにア−ム部材13に固定支持された角度保持部材19が押し込み部材21と接しながら回転し、押し込み部材21前面が角度保持平面20と面対した状態でアーム取付け部材bに対するア−ム部材13の位置を保持しようとする動作が得られる。また角度保持平面20の左右両端コーナー部が扉26の中心線位置をある程度超えた段階からは、上記の保持状態に移行しようとする付勢力が働くことになる。この付勢力は当然角度保持用ばね22の力に比例するとともに角度保持平面20の大きさにも影響される。したがって角度保持部材19の中心に近い位置にまで大きくカットした角度保持平面20ほどア−ム部材13の角度保持力やその近辺角度から保持状態に移行させる力が強いことになる。
そこで、ア−ム部材13を扉26と平行になる閉鎖状態で保持することができるように、ア−ム部材13の長さ方向に対して直角の向きで角度保持平面20を形成すると、図13に示すように扉26を閉じた状態で保持することができ、さらに少し扉26が開いている状態からは角度保持用ばね22により完全に閉鎖させる方向に付勢させることも可能になる。この角度保持用ばね22により閉鎖位置に引寄せる強さの設定は角度保持平面20のカットされた大きさにても調整でき、閉鎖用ばね12だけでは最終閉鎖段階の閉鎖力が極端に弱まる点を補助することが可能になる。また、この保持する位置に向かうための付勢力が発生する角度もこの角度保持平面20の大きさ(角度保持部材19の中心からの角度保持平面20の開き角度)により設定できることになる。つまり図13では閉鎖力が発生する角度を30度弱付近に設定し、ちょうど角度保持平面20の片端コーナー部が扉26の中心線を越えようとしている直前状態であり、さらに扉26が閉じた段階からは閉鎖位置に引寄せる付勢力がかかることになる。
また角度保持部材19に閉鎖位置へ付勢する角度保持平面20だけでなく、90度位置保持平面20aをも設定しておくと、扉26を90度開放した位置で停止させることが可能になる。この扉26が90度程度開放している状態では、閉鎖用ばね12の力は扉26を引寄せる方向に強くかかっているため、この力に勝る保持力が得られるように90度位置保持平面20aの大きさを設定しておく必要がある。したがって、90度の位置で保持するための条件としては、閉鎖用ばね12に単なるぜんまいばねを用いるより、コップリングばね(等荷重ばね)を使用する方が条件的に優れていると考えられる。
このようにアーム取付け部材b内に扉26の任意の角度での保持機構を設けると、単に扉26を開放させた状態から閉方向に引寄せ、所定角度から閉鎖速度を制動するだけでなく、最終閉鎖段階で強く引寄せて完全に閉じる動作や90度開放位置で停止させる動作等も可能になり、室内用の間仕切り扉26等に必要な機能をも同時に併せ持つことになる。また、扉26を大きく開放した状態から閉鎖するための力はそれほど強くなくても可能であり、従来の同様の構成での閉鎖装置では最終段階での引寄せ力が必要なため、どうしても強い閉鎖用ばね12を使用する必要が生じていたのであるが、本発明の構成では作用を分割して実施できるため、閉鎖用ばね12は比較的弱いものにて設定しておき、角度保持用ばね22を非常に強く設定すると、減速部材6の負荷も小さくてよく非常に条件のよい構成にすることができる。
上記の構成での扉26を開放するときの押し開く操作感触としては、閉鎖位置の角度保持平面20を乗り越える初期段階での負荷があり、その後は閉鎖用ばね12による付勢力がかかり、90度まで開ける最終段階では90度に接近した位置から90度位置に引寄せられるような感触にて扉26が開放状態で停止する。また閉じる操作では90度位置保持平面20aを乗り越えるまでは手の力で扉26を閉鎖し、その後は閉鎖用ばね12により自然に扉26が閉じ、ラック9と歯車5の係合動作により所定速度にまで一旦減速し、この段階では既に閉鎖用ばね12による閉鎖力は弱まっているのであるが、引き続き閉鎖位置に付勢する角度保持平面20による引寄せ動作に移行するため、確実に扉26を閉鎖することが可能になる。
また図11〜図13では扉26の90度までの開放動作にて説明してきたが、室内用の間仕切り扉26等の開閉動作としては180度までの開放も必要とされることが多い。そこで図15のようにレ−ル部材1を扉26が90度開いたときのスライド部材cの位置よりさらに吊元側に延長し、その延長部分にもスライド部材cが移動できるように構成しておくとよい。すると扉26を90度以上開放した時にスライド部材cが延長部分に移動し、そのままさらに大きく開放することができることになる。また前述と同様に最大開放位置にて保持できるように、角度保持部材19に最大開放位置保持平面20bを設けておくとよい。最大開放状態ではアーム部材13と扉26との角度が非常に小さく、したがって閉鎖用ばね12により閉じる方向にかかる力は極弱くなるため、90度位置で保持するよりは遥かに小さい保持力で停止させることができ、つまり最大開放位置保持平面20bは小さくてもよいことになる。
ところが縦枠28の形状にもよるのであるが、上記の図15に示す構成では扉26を150度程度にまで開放するとア−ム部材13と扉26が平行になり、165度開放付近では扉26よりア−ム部材13の方が先に縦枠28に接触する軌跡になってしまう。ここで図15に示す165度程度の開放位置では、扉26の吊元側端部は既に戸当たりの開口方向面程度にまでは移動しており、通常90度以上の扉26の開放が必要であることの根拠とされる、最大開口寸法を減少させないという点においては確保できていることになる。しかし、実際の角度として扉26を完全に180度まで解放することは上記構成では難しいと想定される。
そこで、縦枠28の形状にかかわらず確実に180度にまで扉26を開放できる構成を図16に示す。まずレール部材1の長さは扉26が90度開いたときのスライド部材c位置までに設定しておき、アーム取り付けケース18を長い箱状にて形成し、端部が僅かにのみ直角に曲がった形状のL型長孔24を設ける。このときL型長孔24のL型の向きは図16のように扉26を開放する側に配置しておく。さらにアーム部材13の片端部をL型長孔24を通して連結ピン23でアーム取り付けケース18に回動自在に連結し、アーム引寄せばね25にてL型長孔24のL型側に連結ピン23とともにアーム部材13を引き付けておく。
すると扉26が90度以上開放する段階でアーム部材13が連結ピン23と共にL型長孔24に沿ってアーム引寄せばね25を伸ばしながら吊元側に移動する動作になり、扉26を180度まで開放することが可能になる。また90度以上開放した段階から扉26を閉鎖する際にも、アーム引寄せばね25によりアーム部材13を引き付けているため、先にL型長孔24内を戻り、スライド部材cの戸先側への移動を阻止することができる。そして90度の位置にまで閉鎖した段階で連結ピン23が長孔のL型部分に挿入するように構成しておくと、90度位置からのさらなる閉鎖動作では連結ピン23の位置は移動せず、その結果スライド部材cを戸先側に移動させる動作になり、完全に閉じる前の段階で歯車5とラック9の係合による負荷がかかっても連結ピン23がL型長孔24を移動することは無く、適正な制動動作を得ることができる。
この図16の構成で図15のようにレール部材1内に閉鎖用ばね12を組み込むと、90度以上開いた状態からの閉じる動作中に閉鎖用ばね12によりスライド部材cが戸先方向に移動してしまい、誤作動になる危険性が生じる。閉鎖用ばね12よりアーム引寄せばね25の力を遥かに強くしておくとこの誤作動は解消できるのであるが、大きなアーム引寄せばね25が必要になり好ましくはない。したがってこの構成では、図16のように扉26と縦枠28の吊元側面を引き付ける閉鎖用ばね12を用いるほうが優れている。また図16には角度保持機構は表記しておらず、図16の構成に同様に角度保持機構を追加することも可能であるが、その場合はアーム取り付けケース18を二重に重ね、図14に示したアーム取付け部材b全体が図16でのL型長孔24付きのアーム取付けケース18内を移動するような構成が必要になり、かなり複雑になると考えられる。
第一実施形態においては、レール部材1内をスライド部材cが直線移動する動作になり、扉26が閉じた状態からどちらの方向にアーム部材13が回転しても問題はないため、扉26の開く方向は制限されないことになる。したがってレール本体a自体には左右勝手は存在せず、またアーム部材13も左右対称形状であり、制動装置全体として左右勝手が発生するのは前述での90度以上開放するためのアーム取付け部材b側の構成のみになる。ここでL型長孔24を有する構成においてはL型部分の向きが逆になってしまうため左右兼用は無理である。しかしレール部材1を吊元側に延長し、角度保持部材19を設けた構成においては角度保持平面20の、特に最大開放位置保持平面20bのみが左右勝手に影響を及ぼすだけである。
そこで、図17に示すように角度保持部材19の閉鎖位置の角度保持平面20の両側に90度位置保持平面20aを2箇所設け、その両者の奥側中間位置に最大開放位置保持平面20bを1箇所設定しておくとよい。すると角度保持部材19は左右対称形状になり、アーム部材13がどちらの方向に回転しても同じ保持動作が得られることになる。したがってこの構成では90度以上大きく開放した状態で保持する位置が図17に示すように約140度付近になってしまう。しかし大きく開いた状態で停止保持する位置が140度付近位置になるだけであり、さらに大きく押し開くと165度程度まで開放できることには変わりない。つまり図17のように構成することにより制動装置全体の完全な左右兼用が可能になり、扉26と上枠27にレール本体aとアーム取付け部材bを装着後にアーム部材13で連結するだけですべての納まりに対応することができることになる。
以上では、上枠27にスライド部材cを組み込んだレール本体aを、扉26上部にアーム取付け部材bをいずれも掘り込んだ状態で装着し、アーム部材13にてスライド部材cとアーム取付け部材bを連結した構成にて説明してきたが、上記の配置を逆にした構成も当然可能である。図18は上枠27にアーム取付け部材bを、扉26上部にレール本体aを同様に掘り込んで装着し、アーム部材13にて両者を連結した構成を示す上面図である。この構成では扉26に比較的大きなレール本体aを掘り込んで装着することになり、扉26の厚みがある程度以上必要になることが懸念される。しかし、このサイズ面以外では特に問題は無く、図18に示すように扉26の閉鎖にしたがってレール部材1内をスライド部材cが移動し、所定位置からの係脱機構による減速動作は全く同様であり、ラック9と歯車5が係合するまでの閉鎖段階では負荷はかからず比較的一気に閉鎖し、その後減速動作にて一定速度にまで減速して、そのまま完全に閉鎖する動作が可能である。
この図18に示す構成でも、減速動作としての全体の傾向は前述と同じである。しかし、ア−ム部材13の回転の軌跡やレール部材1内での扉26の単位閉鎖角度あたりのスライド部材cの移動距離には若干の違いがある。そこで次に図18の構成でのア−ム部材13の軌跡を模式図として図19に示す。一番重要な扉26が閉鎖する単位角度当たりのスライド部材cの移動距離は、扉26が90度から75度にまで閉鎖する場合では図19でのHとIとの差として算出でき、この距離が図5でのAに相当する。さらには図19でのIとJとの差が図5でのBになり、図19でのMと図5でのFが最終の15度開放した状態から完全に閉じるまでの移動距離になる。
このスライド部材cの移動距離としては、図18の構成の方が単位閉鎖角度あたりのスライド部材cの移動距離が減少する度合いは若干緩やかな傾向になる。つまり扉26が30度開放している状態から減速動作を開始させるとすると、完全に閉じるまでのスライド部材cの移動距離は図15の構成より図18の構成の方が長くなり、したがって歯車5をラック9と比較的長い距離係合させて徐々に減速できることになる。ここで、短いスライド部材cの移動距離で比較的急激に減速させるか、長い距離にてある程度緩やかに減速させるか等の選別においては任意であり、また減速動作を開始させる時の扉26の角度はラック9の長さによっても自在に設定できるため、これらの特徴を適宜使い分けるとよい。
さらには図18の構成でのもっとも顕著な点は、扉26を90度以上さらに大きく開放したときに、上枠27に装着されたアーム取付け部材bに回転支持されているア−ム部材13の支点位置は移動せず、扉26に装着されたレール部材1内をスライド部材cが吊元側に移動してくる動作になるため、縦枠28とア−ム部材13の干渉が回避され、そのまま完全に180度まで開放することができることである。また、160度程度開放した位置でほぼ扉26とア−ム部材13が一直線になり、この状態では閉鎖用ばね12は真っ直ぐにア−ム部材13を引っ張る状態になる。したがって扉26を閉じる方向には閉鎖用ばね12の力はかからず、この付近位置においては扉26はそのまま停止する動作が得られ、最大開放位置保持平面20bは必要ないことになる。また角度保持部材19に閉鎖位置の角度保持平面20とその左右2箇所の90度位置保持平面20aを設けておくと図18の構成においても前述と同様に制動装置自体を完全な左右兼用にすることが可能である。
次に本発明の第二実施形態を図20〜図25に基づいて説明する。図20は第二実施形態の納まり斜視図であり、第二実施形態でもレール本体aとアーム取付け部材bを扉26の上部と上枠27に振り分けて装着し、レール本体a内にスライド部材cを直線移動可能に挿入して、アーム部材13にてアーム取付け部材bとスライド部材cを連結する構成は第一実施形態と同様である。しかし第二実施形態ではレール本体a内の構成が異なり、レール部材1内の大部分に長い連続したラック9を装着し、歯車5と減速装置6はスライドケース2に対しては移動しないように直接固定してスライド部材cを構成する点が最大の特徴である。またこのとき用いる減速装置は第一実施形態と同様の構成でよい。図20では上枠27にスライド部材cを組み込んだレール本体aを、扉26上部に角度保持機構を有するアーム取付け部材bを、共に掘り込んで装着し、両者をアーム部材13で連結した状態を示している。
図21は第二実施形態でのレール本体aの斜視図であり、下部面に直線溝11を有したレール部材1の内部側面のほぼ全域に長いラック9を装着し、歯車5と連動した減速部材6をスライドケース2に完全に固定させた状態でスライド部材cを構成し、レール部材1内を直線移動できるように組み込む。また閉鎖用ばね12にてスライド部材cを戸先側に引き寄せるように構成しておく。図22はレール部材1内をスライド部材cが移動するときの軌跡を順に示す平面図であり、図22(a)は90度開放状態でのスライド部材cの位置を示しており、この段階ですでにラック9と歯車5は係合している。また、閉鎖途中の図22(b)を経て図22(c)の閉じた状態の直前にまで係合した状態を維持し、つまり第二実施形態ではレール部材1内の非常に広い範囲にわたって常に歯車5とラック9が係合して減速動作になるように構成しておくことが特徴である。図23は第二実施形態での扉26を90度まで開放可能とした構成で、第一実施形態と同様の角度保持機構を有したアーム取付け部材bを用いた納まり上面図であり、扉26が約90度程度開いた位置で既に歯車5とラック9は係合しており、扉26が閉鎖するとすぐに減速動作が開始するようになっている。
したがって第二実施形態の構成で、扉26を解放後に閉鎖ばね12による力だけで停止すること無く完全に最後まで閉じる動作を得るには、扉26の開き角度にかかわらず減速部材により発生する負荷を、閉鎖用ばね12の扉26を閉じようとする力より常に僅かに小さくなるように設定しておく必要がある。ここで単位閉鎖角度あたりの減速量は歯車5の単位回転あたりの負荷と回転移動距離の積として想定される。また、図5に示した扉26の単位閉鎖角度あたりのスライド部材cの移動距離は、比較的閉鎖用ばね12の力が強い大きく扉26を開放した角度範囲ではスライド部材cの移動距離も大きく、開放角度が小さくなった範囲では閉鎖用ばね12の力は若干弱まるだけであるが、このときスライド部材cの移動距離は極端に少なくなる傾向にある。
また閉鎖用ばね12の付勢力のうちで、扉26を閉鎖する方向にかかる力は、扉26とアーム部材13との角度によりその割合が変化し、この割合は90度開放状態から30度開放位置程度までは比較的小さい変化になり、それ以降の最後まで閉鎖する段階では扉26とアーム部材13との角度が非常に小さくなってしまうため極端に閉鎖力が弱まる。したがって、30度程度までの閉鎖段階では引寄せ力と減速量はある程度適合し、途中で停止することなく比較的ゆっくりと閉鎖させることができ、その後の最終段階においても閉鎖力は非常に弱まるのであるが、このときのスライド部材cの移動距離も極端に小さくなっているため条件面では同様に適合しそのまま引き続いて閉鎖させることができる。また第一実施形態と同様の、閉鎖位置に付勢する角度保持機構を併せて設けることにより、さらに確実に閉鎖することができ、大きく開放した状態から常に低速度で閉鎖を継続し、途中で停止することなく最後まで閉じる動作が得られることになる。
図24は第二実施形態で、さらに165度付近まで開放可能とした構成の上面図であり、第一実施形態と同様にレール部材1を吊元側に長く延長しておき、同時にラック9も延長部分にまで伸ばしておくとよいことになる。このとき150度前後にまで開放した位置では扉26とアーム部材13がほとんど一直線になり、したがって閉鎖方向にはほとんど力がかからないため、この位置ではラック9と歯車5を係合させる必要はない。したがって図24のようにある程度以上の閉鎖力が発生する110度程度からラック9に歯車5を係合させるとよいことになる。
つまり第二実施形態での構成は、閉鎖用ばね12による閉鎖動作での徐々に大きくなっていこうとする扉26の慣性力を、開き角度のほぼ全域にわたってラック9と歯車5を弱い力で常に係合させることにより抑制しながら閉鎖する点が最大の特徴である。また第二実施形態においても、図25に示すように扉26の上部にレール本体aを、上枠27にアーム取付け部材bを装着し、両者をアーム部材13にて連結する上記とは逆の構成も可能であり、この構成では第一実施形態と同様にそのままで扉26を180度にまで開放することができる。さらには図19にて説明したように、図25の構成の方が単位閉鎖角度当たりのスライド部材cの移動距離の差が閉鎖最終段階においても小さいため、最終閉鎖段階でのスライド部材cの移動距離が比較的長く、したがって減速量も大きくなり、レール部材1内に組み込んだ構成での閉鎖用ばね12では閉じる力が小さすぎることもありえる。その場合は、図25に示すように最終段階での閉鎖力が強い、吊元側にて引寄せる構成の閉鎖用ばね12を用いるとよい。また、上記のようなばねの閉鎖力と減速量の兼ね合わせにおいては、扉26自体の重量や丁番等の吊り込み部材の抵抗力によっても異なり、様々な状況が想定されるため、上記にて説明した各々の条件を適宜組み合わせて最良の動作になるように設定してやるとよい。さらには前述の角度保持部材19による閉鎖位置や90度開放位置での保持機構は第一実施形態とまったく同様に付加することができ、左右兼用においても角度保持部材19を左右対称形状にすることで実施可能である。
また第二実施形態ではラック9と歯車5の係脱機構は無く、広範囲の角度域で常に減速動作になるため、前述の両方向の回転で同じだけの負荷がかかる減速部材6を用いると、扉26を開けるときにも歯車5が逆方向に回転して負荷が発生することになり、その分開放動作が重くなることが懸念される。そこで同様の構成の減速部材6で、片方向のみの回転時に負荷が発生し、逆方向への回転時にはフリーになるワンウエイロックタイプを用い、扉26を閉じるときの歯車5とラック9との係合による回転方向のみで負荷が発生するように設定し、扉26を開けるときのラック9との係合による逆方向の回転では負荷が発生しないように構成するとよい。また、どうしても両方向の回転で同じ負荷がかかるタイプの減速装置6を用いるのであれば、例えばレール部材1内でのスライド部材cの直線移動ルートが幅方向に行きと帰りとでずれるような手段を設けておき、スライド部材cがレール部材1内を戸先側に移動するときにのみ係合し、レール部材1内のもっとも戸先側から吊元側に移動するときには係合しないようにしておくとよい。
次に本発明の第三実施形態を図26に基づいて説明する。第一実施形態および第二実施形態はともに扉26が片方向にのみ開閉する構成にて説明してきたが、前述のように完全な左右兼用の構成が可能であり、図1や図20に示すようにレール本体aとアーム取付け部材bを上枠27と扉26上部に掘り込んだ状態で装着すると、アーム部材13が上枠27と扉26上面との隙間部分に配置されるため、扉26を枠体に対して中心の位置にて吊り込んだ、室内室外両方向に開放可能な構成の扉26にもそのままで使用することができることになる。図26は中心吊の扉26に第一実施形態での構成の制動装置を掘り込んだ状態で装着した両開きの構成での上面図であり、閉鎖状態からの左右両方向へのアーム部材13の回転動作が可能であり、扉26をどちらに開閉してもレール部材1内でのスライド部材cの移動動作と制動操作は同じになる。また第三実施形態においてもレール本体aとアーム取付け部材bを扉26上部と上枠27のどちらに振り分けて配置してもよい。
通常このタイプの両開き扉26は両方向に90度ずつ開放するだけでよく、片方向での180度までの開放は必要とはしない。したがって前述の閉鎖位置の角度保持平面20とその左右に2箇所の90度位置保持平面20aを有する左右対称形状の角度保持部材19を備えたアーム取付け部材bを用いると、閉鎖位置で保持できるとともに両方向での90度開放位置にても停止保持させることが可能になる。この点においては、従来の自由丁番による両開き扉26では戸当たりが無いために制動動作以外にも閉鎖位置で停止させることが比較的困難であったのに対して、本発明の第三実施形態での制動装置は、閉鎖時の制動動作を有するのみでは無く、角度保持機構をも備えているために閉鎖位置で保持できることが特徴として挙げられる。またレール本体aに内蔵された制動機構は第一実施形態と第二実施形態とのどちらの構成をこの両開きタイプに適応させてもよい。
次に本発明の制動装置を扉26面と上枠27の正面外側に取り付けた、面付けタイプの構成を第四実施形態と第五実施形態として図27〜図34に基づいて説明する。第四実施形態と第五実施形態での減速動作は係脱機構を有する第一実施形態の構成にて表示しているが、第二実施形態での構成を用いても何ら問題はない。ここで面付けタイプの場合は、扉26に対して戸当たり側に装着する場合と、その逆側に装着する場合があり、本発明の制動装置ではこの両方が可能である。したがって、戸当たりとは逆側に制動装置を装着する構成を第四実施形態とし、戸当たり側に装着する構成を第五実施形態として以下に説明する。
第四実施形態では、図27に示すレール本体aを扉26の上部正面に装着し、アーム取付け部材bを上枠27正面に装着する構成と、その逆の図28に示すレール本体aを上枠27正面に、アーム取付け部材bを扉26の上部正面に装着する構成が可能であり、どちらにおいてもアーム部材13は両者の隙間部分に配置され、扉26の開放時には図27(b)に示すように扉26の上部に被さった状態でアーム部材13が移動する軌跡になる。したがって第一実施形態〜第三実施形態と同様にアーム部材13が移動できる程度の扉26上部面と上枠27下面との隙間を設定しておく必要がある。図29は図27の配置でのレール本体aを含む扉26とアーム部材13の軌跡を示しており、最大開放角度はレール本体aが縦枠28と当接する165度付近になる。図30は図28の配置での軌跡を示しており、ほぼ180度まで扉26を開放することが可能である。またどちらの構成においても減速開始角度やその後の係脱機構による減速動作は第一実施形態とほぼ同等であり、したがって図30の構成の方が最大開放角度の面では若干有利であるが、両方とも十分に使用可能な構成であると考えられる。
第五実施形態は扉26の戸当たり側に制動装置を装着した場合であり、図31は上枠27下面にアーム取付け部材bを、扉26面にレール本体aを装着した配置であり、図32は逆の配置を示している。図31と図32では、アーム取付け部材b若しくはレール本体aを上枠27下面に取り付ける際に、その位置の戸当たり部分を切除した状態で表記しているが、戸当たりの切除が面倒なら戸当たりのさらに下面に配置してもよい。図33は図31の配置での軌跡を、図34は図32の配置での軌跡を示している。ここで第五実施形態では、図31(b)に示すようにア−ム部材13が扉26の上面よりも低い位置にて回転移動することになる。したがって図33に示すように扉26を90度以上大きく開放した段階でア−ム部材13の側面と扉26の正面が干渉することになり、図31の配置では図33に示すように約150度程度が最大開放寸法になる。ところが図32に示す構成では、図34に示すようにこのア−ム部材13と扉26面との干渉がさらに顕著になり、約110付近までしか開放できないことになる。
したがって面付けタイプでは、第五実施形態での図32の配置は開放角度での機能面に不備があると判断されるため、他の3タイプの配置にて設定するのがよいと考えられる。ここで開放角度の面からだけでは図28の配置での図30の軌跡になる構成が最も条件的に優れており、次いで図27での配置になり、図31での配置が3タイプの中では開放角度は最も小さくなる。しかし第一実施形態での減速動作を用いる場合と第二実施形態での減速動作を用いる場合とでは条件的にも違い、制動動作においてはレール本体aを上枠27と扉26のどちらに装着するかでも図5や図19で示したスライド部材cの移動特性が異なり、さらには閉鎖用ばね12をレール部材1に内蔵するときと、縦枠28の吊元側と扉26の吊元側面を引寄せる場合とではまた条件も違ってくると考えられるため、適宜最も条件がよいタイプを組み合わせて採用するとよいと考えられる。