JP4050885B2 - 航空機用車輪支持機構 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、航空機において車輪を支持する支持機構に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年において、航空機における車輪の支持機構は、図9に示すように、着陸時の降下速度に基づく機体1の運動エネルギーを、例えばオレオ式緩衝装置のような上下動を緩衝する緩衝機構11によって吸収するようになっている。これによれば、滑走路12で発生した衝撃力FgがFbに弱められて機体1に伝えられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、航空機においては、着陸時の滑走路への進入速度が時速300km程度となる場合があり、車輪13のタイヤには、着陸時に水平方向の大きな衝撃が加わる。この衝撃は、力学的には、加速衝撃と呼ばれる。このため、図9に示すように、着陸の瞬間に、車輪13のタイヤから煙14が上がってタイヤ表面が溶ける場合がある。溶けたタイヤ材料15は滑走路12上に付着する。
【0004】
滑走路12上に付着したタイヤ材料15は、航空機運航の安全性を低下させる。即ち、
(1)タイヤ材料15は、雨などによって濡れると、その上を通過する航空機の車輪をスリップさせる原因となる。
(2)時々、滑走路12を閉鎖して、タイヤ材料15の除去作業を行う必要があり、滑走路12を閉鎖するため、運航スケジュールが過密となる。
【0005】
また、タイヤ表面が溶けるため、パンクが発生し易くなる。パンクは、航空機運航の安全性を直接的に損なわせる。パンクが発生すると、滑走路が一時閉鎖されることがあり、この点からも、運航スケジュールが過密となり、航空機運航の安全性が低下する。
【0006】
更に、超音速機が離陸の際に炎上して墜落するという悲惨な大事故が最近発生した。この事故の原因は、滑走路上に落ちていた金属片に、超音速機の車輪が高速で衝突し、タイヤが破裂し、破片が燃料タンク又はエンジンに衝突したことであると考えられている。従って、滑走路上の障害物に車輪が衝突した場合でもタイヤが破裂するのを防止できる機構の開発が強く望まれている。
【0007】
本発明は、着陸時のタイヤに加わる衝撃を緩和でき、また、滑走路上の障害物に車輪が衝突した場合の、タイヤに加わる衝撃を緩和できる、航空機用車輪支持機構を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、航空機において車輪を支持する支持機構において、機体に連結された支持部材の下端部にて車輪を回転自在に支持する懸架機構を備えており、懸架機構が、クランク軸構造体を備えており、クランク軸構造体が、支持部材の下端部にて回転自在に支持された水平支持軸と、車輪を回転自在に支持し且つ水平支持軸と平行な車軸と、水平支持軸及び車軸に対して直角に位置して水平支持軸の一端と車軸の一端とを連結し、且つ、車輪の半径より短い、アームと、からなっており、車軸が、水平支持軸回りに角変位可能であり、水平支持軸に対して垂直に下向きになったアームを介して鉛直下方に位置し、且つ、水平支持軸に対して垂直に上向きになったアームを介して鉛直上方に位置し得るようになっていることを特徴としている。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、懸架機構が、水平支持軸の回転作動を制御する制御手段を備えているものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、制御手段が、着陸前に、水平支持軸を回転させて車軸を水平支持軸の鉛直下方に移動させ、その姿勢で水平支持軸を拘束してクランク軸構造体を静止させ、着陸直前にその拘束を解除するようになっているものである。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、車輪を制動する制動機構を備えており、制動機構は、車輪の制動面を制動部材で押圧して制動するようになっており、制動部材は、リンク機構を介して、支持部材に連結されており、リンク機構は、クランク軸構造体と平行な位置関係を維持するよう構成されているものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1及び図2は本発明の航空機用車輪支持機構を示す斜視図であり、図1は着陸前の状態を示し、図2は着陸後の状態を示す。図3は図1の状態の支持機構の縦断面図である。図4は支持機構の分解斜視図である。
【0013】
本発明の支持機構は、支持部材2の下端部に、懸架機構3及び制動機構4を備えている。懸架機構3は、クランク軸構造体5を備え、更に、制御手段6を備えている。
【0014】
支持部材2は、機体(図示せず)の下部から下方に延びている。支持部材2は、上下動を緩衝する緩衝機構、例えば、オレオ式緩衝装置21、を内蔵している。オレオ式緩衝装置21は、公知のものである。オレオ式緩衝装置21では、図2に示すように、伸縮する際にコイルばね211によって弾性力が作用し、また、封入されたオイル212がオリフィス213を通過する際に減衰力が発生する。
【0015】
懸架機構3のクランク軸構造体5は、支持部材2の下端部に転がり軸受31を介して回転自在に支持された水平支持軸51と、車輪13を転がり軸受32を介して回転自在に支持する車軸52と、水平支持軸51の一端と車軸52の一端とを連結するアーム53と、からなっている。アーム53は、水平支持軸51及び車軸52に対して直角となっている。水平支持軸51と車軸52とは、アーム53の反対側に位置している。図3では、転がり軸受31としてローラーベアリングを用いており、転がり軸受32として玉軸受を用いている。
【0016】
制御手段6は、トルク発生器61と制御部62(図4)とからなっている。トルク発生器61としては、例えば、モーター、発電機等を使用できる。トルク発生器61は、水平支持軸51の回転トルク及び回転角を制御するようになっている。制御部62は、トルク発生器61の作動を制御する。更に、トルク発生器61と水平支持軸51との間には、変速機(図示せず)が設けられている。
【0017】
制動機構4は、ブレーキローター(制動面)をパッド(制動部材)で挟みつけることにより、車輪13を制動する、ディスクブレーキ41を備えている。パッドは、ブラケット411に内蔵されたキャリパに保持されている。ブラケット411は、車軸52に転がり軸受33を介して回転自在に支持されており、リンク機構42を介して、支持部材2の突出部22に連結されている。リンク機構42は、リンク421の一端が突出部22にピン423を介して回転自在に連結され、リンク421の他端がブラケット411の延長部412の先端にピン422を介して回転自在に連結され、クランク軸構造体5と平行な位置関係を維持するよう構成されている。なお、ここでは、リンク機構42は、図4に示すように、2組の、リンク421及びピン422、423からなっている。
【0018】
図1ないし図4に示すように、支持部材2は、アッパーチューブ23とボトムチューブ24を連結して構成されている。25はストラット回転止アームである。
【0019】
次に、上記構成の支持機構の作動について説明する。
着陸前になると、制御部62からトルク発生器61に信号が送られ、トルク発生器61により水平支持軸51の回転が制御されて、クランク軸構造体5が、車軸52が水平支持軸51の鉛直下方に位置した姿勢、即ち、図1の状態となり、クランク軸構造体5は、その状態で水平支持軸51にブレーキがかけられることにより、拘束される。
【0020】
次に、制御部62は、高度センサーからの信号に基づいて、着陸直前の状態を判断する。着陸直前になると、制御部62からトルク発生器61に信号が送られ、トルク発生器61によるブレーキが解除され、クランク軸構造体5の拘束が解かれる。
【0021】
そして、図5に示すように、機体1が着陸を始める。着陸の際には、上記構成の支持機構は、次のように作動する。
図5の(a)は着陸直前状態の支持機構を示す。なお、飛行中には、車輪13は、図2の状態で機体1内に格納されている。(b)に示すように、点Aにて車輪13が滑走路12に接すると、後方向に衝撃力faが発生する。(b)〜(f)に示すように、この衝撃力によって、車輪13は、車軸52回りに回転を始めるとともに水平支持軸51回りに回動して後上方へ角変位を始め、180度まで角変位する。この間、機体1の重量は、車輪13に直接加わらない。ところで、車輪13が滑走路12にスリップ接触している際の摩擦仕事量Wは、スリップ接触する量Sと車輪13に加わる荷重Mとの積となる。即ち、W=S×M。しかるに、上記角変位の間、機体1の重量は車輪13に直接加わらないので、荷重Mは極端に小さい。従って、摩擦仕事量Wは非常に小さいので、車輪13のタイヤ131が発煙することは殆ど無い。
【0022】
車輪13が水平支持軸51回りに180度角変位すると、オレオ式緩衝装置21の作動が始まり、(f)〜(i)に示すように、機体1の降下エネルギーが緩衝装置21により吸収され、衝撃力fgがfbに弱められて機体1に伝わる。このとき、車輪13には機体1の荷重が直接加わることになるが、車輪13は既に滑走路12に接触して回転しているので、車輪13に対して後方向への衝撃は殆ど加わらない。従って、この間に、車輪13のタイヤ131が発煙することは殆ど無い。なお、緩衝装置21のストロークはオイルロックで止められる。
【0023】
そして、着陸後は、車輪13は、(i)の状態、即ち、図2の状態で、滑走路12上を滑走する。滑走中において、滑走路12上に障害物がある場合には、上記構成の支持機構は、次のように作動する。
図6に示すように、車輪13が図2の状態で滑走中に、滑走路12上に凸部121がある場合において、車輪13は、図7に示すように、凸部121に乗り上げる際に、水平支持軸51回りに角変位して、矢印Aのように後方向へ逃げる。これにより、車輪13に加わる前方向からの衝撃が、後方向へ逃がされることにより、緩和される。また、車輪13が後方向へ逃げることにより、車輪13に対する衝撃の持続時間が長くなるので、瞬間的な衝撃力が弱くなる。従って、滑走中に、車輪13が障害物に衝突しても、車輪13に加わる衝撃は小さいものとなるので、タイヤ131の破裂が防止される。
【0024】
また、車輪13が水平支持軸51回りに角変位する際、制動機構4のリンク機構42は、次のように作動する。
図2において、リンク機構42は、クランク軸構造体5と平行な位置関係を維持するよう構成されているので、車輪13が水平支持軸51回りに角変位すると、その際のクランク軸構造体5の作動状態と平行な位置関係を維持した作動を行う。そして、クランク軸構造体5が、図2に示すように、車軸52が水平支持軸51の鉛直上方に位置した状態となると、リンク機構42は、ピン423がピン422の鉛直上方に位置した状態となる。従って、車輪13が水平支持軸51回りに角変位しても、制動機構4のディスクブレーキ41は常に正常に作動する状態に維持される。
【0025】
以上のように、上記構成の支持機構においては、次のような効果が発揮される。
(1)車輪13が、支持部材2の下端部に、クランク軸構造体5を備えた懸架機構3により支持されており、着陸の際に、クランク軸構造体5が図5に示すように作動するので、車輪13のタイヤ131が発煙するのを著しく抑制できる。
【0026】
(2)滑走中、車輪13が滑走路12上の障害物(凸部121)に衝突しても、クランク軸構造体5が図7に示すように作動するので、車輪13に対する衝撃を緩和でき、タイヤ131が破裂するのを防止できる。
【0027】
(3)制御手段6によって、水平支持軸51の回転作動を制御できるので、車輪13の角変位中や滑走中において、水平支持軸51の回転に負荷をかけることにより、水平支持軸51を中心としたクランク軸構造体5の振動を抑制できる。
【0028】
(4)着陸前において、クランク軸構造体5が制御手段6によって図1の状態に拘束されるので、クランク軸構造体5が強風によって振動するのを防止できる。
【0029】
(5)リンク機構42がクランク軸構造体5と平行な位置関係を維持するよう構成されているので、車輪13が水平支持軸51回りに角変位しても、制動機構4のディスクブレーキ41を常に正常に作動する状態に維持できる。
【0030】
(6)トルク発生器61と水平支持軸51との間に変速機を設けているので、変速機によって水平支持軸51に加えるトルクを増大することができる。従って、トルク発生器61を小型軽量化できる。
【0031】
(7)クランク軸構造体5をカーボンファイバーで作製すれば、クランク軸構造体5を軽量化でき、しかも、クランク軸構造体5に基づく衝撃緩和作用を増大できる。
【0032】
なお、上記構成のクランク軸構造体5は、模式的に示すと、図8の(a)に示す構造であるが、図8の(b)又は(c)に示す構造としてもよい。図8の(b)では、水平支持軸51の両側にアーム53を介して車軸52が位置している。図8の(c)では、車軸52の両側にアーム53を介して水平支持軸51が位置している。
【0033】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、着陸の際に、クランク軸構造体が作動して、車輪が、車軸回りに回転を始めるとともに水平支持軸回りに後上方へ角変位するので、角変位している間は、機体の重量が車輪に直接加わらない。従って、角変位している間、即ち、クランク軸構造体が作動している間は、車輪のタイヤが発煙するのを著しく抑制できる。また、車軸が水平支持軸の鉛直上方に位置して角変位が終わると、車輪には機体の重量が直接加わることとなるが、その際、車輪は既に滑走路に接触して回転しているので、その時の車輪のスリップ量は小さい。従って、その際に車輪のタイヤが溶けるのを防止できる。即ち、請求項1記載の発明によれば、着陸の際に車輪のタイヤが溶けるのを防止できるので、溶けたタイヤ材料が滑走路上に付着するのを防止でき、また、タイヤが擦り減ることによるパンクの発生を防止できる。従って、航空機運航の安全性を向上できる。
【0034】
また、滑走中に滑走路上の障害物に車輪が衝突した場合でも、クランク軸構造体が作動して、車輪が水平支持軸回りに後方へ角変位して逃げるので、車輪に対する衝撃を緩和できる。従って、滑走中に障害物に車輪が衝突した場合におけるタイヤの破裂を防止でき、この点からも、航空機運航の安全性を向上できる。
【0035】
請求項2記載の発明によれば、制御手段により、クランク軸構造体の作動中に、水平支持軸の回転に負荷をかけることができるので、滑走の際に水平支持軸を中心としてクランク軸構造体が過度に振動するのを防止できる。従って、滑走を安定して行うことができる。
【0036】
請求項3記載の発明によれば、制御手段により、着陸前においてクランク軸構造体を拘束できるので、クランク軸構造体が強風によって振動するのを防止できる。従って、着陸前の安定した飛行を確保できる。
【0037】
請求項4記載の発明によれば、クランク軸構造体が作動して、車輪が水平支持軸回りに角変位しても、制動機構を常に正常に制動作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の航空機用車輪支持機構を示す斜視図であり、着陸前の状態を示す。
【図2】 本発明の航空機用車輪支持機構を示す斜視図であり、着陸後の状態を示す。
【図3】 図1の状態の支持機構の縦断面図である。
【図4】 本発明の航空機用車輪支持機構の分解斜視図である。
【図5】 本発明の航空機用車輪支持機構の着陸時の作動を連続して示す側面図である。
【図6】 本発明の航空機用車輪支持機構の滑走中の通常状態を示す斜視図である。
【図7】 本発明の航空機用車輪支持機構の滑走中の障害物衝突状態を示す斜視図である。
【図8】 クランク軸構造体の変形例を示す模式図である。
【図9】 従来の航空機用車輪支持機構の着陸時の作動を連続して示す側面図である。
【符号の説明】
1 機体
2 支持部材
3 懸架機構
4 制動機構
42 リンク機構
5 クランク軸構造体
51 水平支持軸
52 車軸
53 アーム
6 制御手段
Claims (4)
- 航空機において車輪を支持する支持機構において、
機体に連結された支持部材の下端部にて車輪を回転自在に支持する懸架機構を備えており、
懸架機構が、クランク軸構造体を備えており、
クランク軸構造体が、支持部材の下端部にて回転自在に支持された水平支持軸と、車輪を回転自在に支持し且つ水平支持軸と平行な車軸と、水平支持軸及び車軸に対して直角に位置して水平支持軸の一端と車軸の一端とを連結し、且つ、車輪の半径より短い、アームと、からなっており、
車軸が、水平支持軸回りに角変位可能であり、水平支持軸に対して垂直に下向きになったアームを介して鉛直下方に位置し、且つ、水平支持軸に対して垂直に上向きになったアームを介して鉛直上方に位置し得るようになっていることを特徴とする航空機用車輪支持機構。 - 懸架機構が、水平支持軸の回転作動を制御する制御手段を備えている、請求項1記載の航空機用車輪支持機構。
- 制御手段が、着陸前に、水平支持軸を回転させて車軸を水平支持軸の鉛直下方に移動させ、その姿勢で水平支持軸を拘束してクランク軸構造体を静止させ、着陸直前にその拘束を解除するようになっている、請求項2記載の航空機用車輪支持機構。
- 車輪を制動する制動機構を備えており、
制動機構は、車輪の制動面を制動部材で押圧して制動するようになっており、制動部材は、リンク機構を介して、支持部材に連結されており、リンク機構は、クランク軸構造体と平行な位置関係を維持するよう構成されている、請求項1記載の航空機用車輪支持機構。
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