JP4042463B2 - 活性エネルギー線硬化型樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子機器部材または光学部材を製造する際に用いることができ、又、印刷等にも使用できる、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に関するものである。本発明は、また活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を硬化してなる、室温において非常に低弾性率でありながら形状変化後の形状復元性に優れた硬化物に関する。さらに、本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は厚膜塗工性と硬化性に優れるため、透明タッチパネル等に使用されるITO蒸着膜またはこの上に形成された配線を被覆する被覆物や光ファイバーをコーティングする被覆物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器部材または光学部材を製造する際に、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を使用する場面が増えている。その理由としては、生産性が高いこと、有機溶剤を使用しないために作業環境が向上すること、等が挙げられる。
このような背景から、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物にも、その使用される部位に応じて、様々な物性が要求されるようになってきた。
例えば、アナログ抵抗膜方式の透明タッチパネルに於いては、一般に、上面と下面の抵抗膜間に樹脂製のドットスペーサーが使用される。タッチパネルの感度を向上させようとする場合、このドットスペーサーは、室温付近に於いて、より低い弾性率と形状変化後の優れた復元性を共に満たすことが必要である。また、ITO等の抵抗膜上に銀等による導電膜の配線を施し、これを樹脂で被覆して絶縁する場合に於いても、感度の向上を考えると、被覆する絶縁層が低弾性率であり、かつ形状変化後の復元性に優れることが必要となる。
また、ドットスペーサーや絶縁層は形状が微細であるため、印刷により塗工されることが多いが、この場合、樹脂は適度な粘度を有することが必要となる。
【0003】
従来の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物でも、その硬化物の弾性率が低いというだけのものであれば、UV硬化型の粘着材等の樹脂が存在する。しかし、これらは形状変化後の復元性に劣るものであり、言い換えれば、動的粘弾性測定におけるtanδが大きいものである。
一方、室温付近における弾性率(貯蔵弾性率)が低く、かつ形状変化後の復元性に優れた(tanδが小さい)硬化物を与える活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は数少なく、そのレベルが、動的粘弾性測定(25℃、1Hz)において、貯蔵弾性率(G’)が105Pa以下かつtanδが0.1以下である場合、シリコーン系以外のものでは見当たらない。
【0004】
また、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を電子機器部材または光学部材の製造に使用する場合、その塗工方法や必要とされる膜厚に応じた適度な粘度が必要とされる。例えば、室温における製造で、50μm程度の比較的厚い膜を形成する場合、組成物の粘度は百〜数千mPa・sであることが好ましい。
なお、生産性の点から、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は硬化性に優れるものが望まれる。
以上の背景から、室温において非常に低弾性率でありながら形状変化後の復元性に優れた硬化物を与える、厚膜塗工性と硬化性に優れた活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、低弾性率でありながら形状変化後の復元性に優れた硬化物を与え、印刷等に使用可能な適度な粘度を有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、下記の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物により前記課題を解決し得ることを見出し、以下に記す本発明を完成するに至った。
ポリオレフィンとポリイソプレンからなるブロック共重合体をエポキシ化したポリマー(以下、単に、エポキシ化ポリイソプレン骨格を有するポリマーともいう)(成分A)、下記式(1)で示されるオキセタン化合物(成分B)及び光カチオン重合開始剤(成分X)を含むことを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【化3】
式(1)中、R1は炭素数6〜30の分岐を有してもよいアルキル基又は炭素数が4〜10の分岐を有してもよいアルキル基で置換されたフェニル基を表し、R2は水素原子または炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルキル基を示す。
【0007】
本発明の他の1つは、上記の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を、活性エネルギー線を照射することにより硬化してなる硬化物であって、25℃、1Hzにおける動的粘弾性測定の物性値が、貯蔵弾性率(G’)が105Pa以下、かつtanδが0.1以下であることを特徴とする硬化物に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の硬化型樹脂組成物をまず詳細に説明する。
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、エポキシ化ポリイソプレン骨格を有するポリマー(成分A)、前記式(1)で示されるオキセタン化合物(成分B)及び活性エネルギー線により活性化されカチオン重合を開始しうる光カチオン重合開始剤(成分X)を必須成分として含み、その他、水酸基を有する室温で液状の化合物(成分C)、熱カチオン重合開始剤等を任意成分として含有する。
【0009】
本発明に使用するポリマー(成分A)は、ポリイソプレンの二重結合の一部を過酸化物等でエポキシ化した骨格を有する、種々のポリマーである。このポリマー(成分A)は、エポキシ化されたポリイソプレンのブロック以外に、共重合されたポリオレフィンのブロックを有する。
このポリマー(成分A)は、架橋剤として働いて硬化型樹脂組成物を硬化させる役割を担う。したがって、ポリマー(成分A)は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有することが必要である。また、ポリイソプレン骨格を有することにより、硬化物のガラス転移温度を低下させることができ、結果として、低弾性率と形状変化後の優れた復元性を発現することができる。ここで、低弾性率を実現する意味から、エポキシ当量は200g/eq以上であることが好ましく、400〜4000g/eqであることがより好ましい。
【0010】
本発明におけるポリマー(成分A)のもう一つの役割は、組成物が仮にオキセタン化合物(成分B)のみとした場合に見られる、重合開始時の誘導期間を短縮することである。これは、結果として、組成物の硬化性を向上させることに繋がる。
上記のポリマー(成分A)の具体例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレンとブテンとのランダム共重合体など)とポリイソプレンからなるブロック共重合体をエポキシ化したポリマー等が挙げられる。
ここで、エポキシ化前のポリイソプレン等の骨格は、ラジカル重合で得たものであっても、アニオン重合で得たものであっても良い。成分Aの分子量は、好ましくは1,000〜200,000、さらに好ましくは5,000〜100,000である。
ポリマー(成分A)は具体的には、エチレン−ブチレン共重合体とポリイソプレンからなるブロック共重合体をエポキシ化したポリマーであるKRATON LIQUID Polymer EKP−207(KRATON Polymers社製)であることが好ましい。
【0011】
本発明におけるオキセタン化合物(成分B)は、硬化型樹脂組成物の硬化性を良好にし、硬化物のガラス転移温度を下げるものである。硬化物のガラス転移温度を下げることは、硬化物の弾性率を低下させ、形状変化後の復元性を良好にする上で重要である。
また、オキセタン化合物(成分B)は粘度が低いため、もう一つの必須成分であるポリマー(成分A)の高い粘度を低下または溶解させて、組成物の粘度を厚膜塗工性に適したものとすることにも有用である。
ここで、オキセタン化合物(成分B)のR1は炭素数6〜30の分岐を有してもよいアルキル基又は炭素数が4〜10のアルキル基で置換されたフェニル基を示し、例えば、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、オクタデシル基、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−アミルフェニル基などが挙げられ、特に好ましいのは2−エチル−ヘキシル基である。その理由は、この置換基を有するオキセタン化合物は結晶性が低いこと、硬化物のガラス転移温度を低くすること、及び原料を容易に入手できることである。また、R2は水素原子または炭素数1〜6個の分岐を有してもよいアルキル基で、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基などが挙げられる。
【0012】
R1又はR2で示されるアルキル基は置換基を有していても良い。この置換基としては、カチオン重合を阻害しない限り任意の置換基が許容され、カチオン重合に悪影響を及ぼさない任意の置換基によりアルキル基を置換することができる。このアルキル基に許容される置換基群としては、C1〜12のアルコキシ基、C2〜12のアシルオキシ基、C2〜12のアルコキシカルボニル基、およびハロゲン原子が例示できる。
【0013】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、樹脂成分全体を100部として、ポリマー(成分A)を5〜40部、化合物(成分B)を20〜90部、ポリマー(成分A)以外の多官能エポキシ化合物および多官能オキセタン化合物を10部未満配合することが好ましい。成分Xの配合比率は後述する。なお、本発明において配合比率は、重量に基づく。
本発明の硬化型樹脂組成物におけるポリマー(成分A)の好ましい配合部数は5〜40部であり、より好ましくは10〜20部である。5部より少ない場合、組成物の粘度が低くなる、硬化性が悪くなる、といった問題を生じ、好ましくない。また、40部より多い場合、硬化物の弾性率が高くなるので好ましくない。なお、硬化物の弾性率を低くする目的から、ポリマー(成分A)以外の多官能エポキシ化合物および多官能オキセタン化合物の配合部数は10部未満とすることが好ましい。
【0014】
本発明の硬化型樹脂組成物における樹脂成分全体を100部としたとき、オキセタン化合物(成分B)の好ましい配合部数は20〜90部である。配合部数が20部より少ない場合には、硬化型樹脂組成物の粘度が高くなったり、硬化性が低下したり、硬化物の弾性率が上昇する、といった問題を生じ、好ましくない。また、配合部数が90部より多い場合には、組成物の粘度が低くなりすぎるので好ましくない。
なお、本発明において「樹脂成分」とは樹脂組成物から重合開始剤を除いたものを言う。さらに、充填剤、増量剤その他の添加剤が用いられている場合は、これらは樹脂成分には含まれない。
【0015】
本発明の組成物には、オキセタン化合物(成分A)およびポリマー(成分B)の他に、水酸基を有する室温で液状の化合物(「水酸基含有化合物」ともいう。)(成分C)を、樹脂成分を100部として、0〜40部配合することができる。成分Cの配合により、硬化物の貯蔵弾性率を低下させることができる。また、組成物の粘度を適宜に調整することができる。
ここで、化合物(成分C)が水酸基を含有することは、化合物(成分C)を樹脂骨格中に取り込み、硬化物からの染み出しを抑える意味で好ましい。その他の点では、化合物(成分C)の種類および分子量は特に限定されるものではなく、分子量が数百の化合物であっても、末端が水酸基のポリブタジエンのようなポリマーであっても良い。
水酸基含有化合物(成分C)の好ましい配合部数は0〜40部である。40部より多い場合は、硬化時に樹脂骨格中に取り込まれない化合物(成分C)が増えるため、これら成分の染み出しが特に加熱時に顕著に起こるため好ましくない。
【0016】
本発明の組成物には、上記成分の他に、オキセタン化合物(成分B)のR1を種々の置換基に置き換えたもの、例えば、無置換の、又は、炭素数6〜10のアルキル基以外の置換基を有するベンゼン環等に置き換えた化合物を配合することもできる。ただし、その配合部数は、硬化物の貯蔵弾性率(G’)やtanδを高くしない程度に適宜調整するべきであり、具体的には0〜30部の範囲にとどめることが好ましい。
また、本発明の組成物には、上記成分の他に、炭素数6〜30の単官能エポキシ化合物を配合することも可能である。ただし、その配合部数は、組成物の硬化性を悪くしない程度に適宜に調整するべきであり、具体的には0〜30部の範囲にとどめることが好ましい。
さらに、本発明の樹脂組成物には、チクソトロピー性の付与等を目的として、シリカ微粒子等のフィラーを配合することもできる。フィラーの添加量は適宜に調整可能であるが、低弾性率の維持等の面から0〜10部とするのが好ましい。
【0017】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は、成分A以外の多官能エポキシ化合物および多官能オキセタン化合物を、樹脂成分を合計100部として、10部以上含まないことが好ましい。換言すると、成分A以外の多官能エポキシ化合物および多官能オキセタン化合物を含有する場合には、これらの含有量の合計は、合計100部として10部未満であることが好ましく、5部未満が更に好ましい。多官能オキセタン化合物および多官能エポキシ化合物は、組成物の硬化速度を向上させ、さらに硬化後の強度を制御する目的で使用することもできるが、その含有率が樹脂成分100部に対し10部以上となると、硬化物の弾性率が大きくなり好ましくない。
【0018】
成分A以外の多官能エポキシ化合物として、例えば、ジシクロペンタジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、o−、m−、p−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が例示される。
【0019】
多官能オキセタン化合物としては、下記式(2)で表される化合物が例示される。
【化4】
式中mは2以上の自然数を示し、R3は炭素数1〜6の分岐を有しても良いアルキル基であり、メチル基またはエチル基が好ましく、R4はm価の連結基を示す。
【0020】
本発明の組成物には、活性エネルギー線の照射によりカチオン重合を開始させるカチオン重合開始剤(成分X)を配合することが必要である。カチオン重合開始剤は、樹脂組成物に溶解することが必要であり、硬化性に優れるものが好ましい。
このカチオン重合開始剤としては、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルフォニウム塩、セレニウム塩、ピリジニウム塩、フェロセニウム塩、フォスフォニウム塩が挙げられるが、熱的に比較的安定である芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルフォニウム塩等のオニウム塩光開始剤が好ましく使用される。なお、オニウム塩光開始剤を活性化させるためには、活性エネルギー線として紫外線や可視光を照射することが好ましい。
【0021】
芳香族ヨードニウム塩および芳香族スルフォニウム塩等のオニウム塩光開始剤を使用する場合、アニオンとしてはBF4 −、AsF6 −、SbF6 −、PF6 −、B(C6F5)4 −などが挙げられ、これらの中でも、B(C6F5)4 −をアニオンとしたヨードニウム塩はオキセタン化合物との相溶性も良く好適である。
【0022】
本発明においては、活性エネルギー線として、X線、電子線等を使用することもできるが、紫外線を用いることが好ましい。本発明において活性エネルギー線として紫外線を使用する場合には、その波長範囲は特に限定されないが、150〜400nmであることが好ましく、200〜380nmであることがより好ましい。紫外線を用いる場合、上述した種々の光カチオン重合開始剤を活性化して本発明の硬化型樹脂組成物のカチオン重合を効率よく開始できる。本発明の樹脂組成物に対して好適な光カチオン重合開始剤は、カチオン成分がビス(アルキルフェニル)ヨードニウム、アニオン成分がPF6 −、SbF6 −または(C6F5)4B−であるものであり、特に好適なものを具体的に挙げると、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート(GE東芝シリコーン社製、UV−9380Cの主成分)、トリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(ローディア社製、PHOTOINITIATOR2074)等が挙げられる。
【0023】
また、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて増感剤を併用することもできる。上記光カチオン重合開始剤と併用する増感剤は特に限定されるものではなく、一般的に使用される光ラジカル重合開始剤が好適に使用できる。
本発明において用いることができる典型的な増感剤は、クリベロがアドバンスド イン ポリマーサイエンス(Adv. in Plymer. Sci., 62, 1 (1984)) で開示している化合物を用いることが可能である。具体的には、ピレン、ペリレン、アクリジンオレンジ、チオキサントン、2−クロロチオキサントン及びペンゾフラビン等がある。本発明においては、チオキサントン類が最も光カチオン重合開始剤としてのオニウム塩の活性を高め好適である。
【0024】
さらに、一般的に使用可能な光ラジカル重合開始剤として、ベンゾフェノン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインエーテル類、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン等のベンジルジメチルケタール類、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα−ヒドロキシアルキルフェノン類、カンファーキノン等のα−ジカルボニル化合物等が挙げられる。
【0025】
光カチオン重合開始剤および増感剤の配合量は、紫外線の照射量や樹脂の硬化性に応じて適宜に調整できるが、概ね、樹脂成分の合計100部に対し、0.1〜10部とすることが好ましく、0.5〜5部とすることが特に好ましい。0.1部未満の場合は硬化性に劣り、逆に10部より多い場合は硬化物に真に必要な成分を減少させて硬化物の物性が低下する場合や、硬化物の着色が激しくなる場合がある。
【0026】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、活性エネルギー線の照射により硬化させた後、更に加熱して重合率を高めることもできる。このとき、硬化物の基材への密着性の向上が期待できる。この場合は、熱カチオン重合開始剤を配合することが好ましい。
この熱カチオン重合開始剤とは、加熱により活性化されエポキシ化合物およびオキセタン化合物などが有している開環重合性基の開環重合を誘発するものであり、第四級アンモニウム塩、ホスホニウム塩およびスルホニウム塩などの各種オニウム塩類などが例示できる。
上記の熱カチオン重合開始剤としてのオニウム塩類としては、例えば、アデカオプトンCP−66およびアデカオプトンCP−77(いずれも商品名、旭電化工業(株)製)、サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80LおよびサンエイドSI−100L(いずれも商品名、三新化学工業(株)製)、およびCIシリーズ(日本曹達(株)製)などの市販の化合物を用いることができる。
熱カチオン重合開始剤の配合割合は、樹脂組成物100部に対し、0.01〜5部の範囲とすることが好ましい。この配合割合が0.01部未満の場合には、熱の作用によりこれが活性化しても、開環重合性基の開環反応を十分に進行させることができないことがある。また、これを5部を越えて配合したとしても、重合を進行させる作用はそれ以上高まらず、逆に硬化性能が低下することがある。
【0027】
なお、本発明の樹脂組成物には、粘度調整、チクソトロピー性の付与等を目的として、シリカ微粒子等のフィラーを配合することもできる。フィラーの添加量は適宜に調整可能であるが、低弾性率の維持等の面から、0〜10部とするのが好ましい。
さらに、本発明の樹脂組成物には、密着性の向上を目的として、シランカップリング剤等のカップリング剤を配合することも可能である。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、室温において非常に低弾性率でありながら形状変化後の復元性に優れる硬化物を与えることから、このような物性を必要とする電子機器部材および光学部材の材料として、好適に使用できる。
また、室温における粘度を百〜数千mPa・sに調整することができるため、フィラーを配合するなどした後、スクリーン印刷等の印刷によって微細な形状に塗工することができる。
具体的には、透明タッチパネルの製造や、光ファイバーの製造等に用いられる。前者に於いては、例えば、ITO蒸着膜等の抵抗膜および/またはこの上に形成される導電膜を被覆する絶縁層として、或いは、ドットスペーサーとして使用することができる。また、後者に於いては、コーティング材として使用することができる。
【0029】
以下、タッチパネル用被覆物の製造について説明する。
タッチパネル用被覆物として本発明の樹脂組成物を用いるには、活性エネルギー線の照射によりカチオン重合を開始させるカチオン重合開始剤を配合しておくことが必要である。また、この重合を促進させるために増感剤を併用することもできる。本組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させた後に、重合度を高めるため、再度活性エネルギー線を照射したり、または加熱したりすることにより、後重合させることもできる。熱重合させるときは熱カチオン重合開始剤を配合しておくことが好ましい。また、チクソトロピー性を付与するために、シリカ微粒子等のフィラーを配合しておいても良い。
【0030】
ドットスペーサーとして使用する場合、透明絶縁基板上にスパッタ法等によって形成されたITO蒸着膜に、本発明の樹脂組成物をスクリーン印刷等の方法で印刷し、縦横高さ数十μmスケールのドットを形成させる。これに紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより、印刷された樹脂組成物を硬化させる。本発明の樹脂組成物は非常に低弾性率であり、かつ形状変化後の復元性に優れているため、感度の高いタッチパネルを作成する場合に好適に使用される。
【0031】
ITO蒸着膜上に形成される銀等の導電膜に被覆して絶縁層とする場合でも、上述のドットスペーサーの時と同様、スクリーン印刷等の印刷技術が好適に使用できる。例えば、抵抗膜方式タッチパネルの構造を簡単に述べると、ITO蒸着膜からなる透明な抵抗膜がパネル全体に形成され、その両端に銀等の導電膜が帯状に形成されているが、その両端の導電膜を被覆するように樹脂を塗工する場合、スクリーン印刷等の印刷による方法が好適である。その後、活性エネルギー線の照射によって樹脂を硬化させ、低弾性率、かつ形状変化後の復元性に優れた絶縁層を得ることができる。これにより、両端部においても、感度の高いタッチパネルとすることができる。なお、導電膜の位置は、パネルの両端にある場合に限ったものではない。
【0032】
光ファイバー用被覆物の製造について以下に説明する。
本発明の樹脂組成物は、光ファイバーの被覆物としても好適に使用できる。光ファイバーの第一次被覆層に用いる樹脂組成物としては、塗布性に優れた低い粘度、優れた硬化性、柔軟性、広い温度範囲における物性変化が少ないこと、吸水性が低いこと等の物性が必要である。
本発明の樹脂組成物は、粘度を百〜数千mPa・sの範囲に調節することができるため、塗布性に優れている。また、アクリレート系等のラジカル重合系樹脂に見られる酸素による重合阻害を受けないため、本発明の樹脂組成物は、特に薄膜とした場合に優れた硬化性を示す。また、本硬化物は、室温付近における弾性率(G’)およびtanδを低くするために、ガラス転移温度がマイナス数十度となるように設計されている。このことは、かなり低い温度に於いても、物性の変化が少ないことを意味する。また、本硬化物は耐熱性に優れており、幅広い温度範囲に於いても物性変化が少ない利点を有する。また、アクリレート系樹脂では吸収率が比較的高いが、本組成物はブタジエン骨格とポリエーテル構造からなるため、本硬化物の吸水率は低いことも利点である。
以上のような物性を有することから、本発明の樹脂組成物は、光ファイバーの第一次被覆材としても好適に使用できる。
【0033】
光ファイバーの被覆方法としては、種々の方法が使用でき、特に限定するものではないが、一例を挙げると、ガラスファイバーを熱溶解紡糸した直後に樹脂層を通過させ、紫外線を照射して硬化させる方法が挙げられる。しかし、上記方法に限定するものではなく、スプレーによる塗工等、適宜方法を変えることは可能である。また、ガラスファイバーのみならず、プラスチックファイバーに使用することもできる。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、上記と別の観点から考えると、低弾性率かつ形状変化後の復元性に優れた硬化物を与えるため、感圧導電体の樹脂として使用することも可能である。例えば、本発明の樹脂組成物に、導電性の微粒子、および加熱して膨張するマイクロカプセルを配合し、活性エネルギー線で硬化させた後、加熱してマイクロカプセルを膨張させると、圧力印加時のみ導電性を示す感圧導電体とすることが可能である。
このような感圧導電体を使用して、種々のスイッチや透明タッチパネルを作成することも可能である。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものとする。
【0036】
表1に示す成分を常法に従って混合し、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を調製した後、物性を評価した。
表1における略号は、以下の化合物を示す。
EHOX:3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(東亞合成(株)製アロンオキセタンOXT-212)
POX:3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン(東亞合成(株)製アロンオキセタンOXT-211)
A1020:ポリスチレンとポリブタジエンからなるブロック共重合体をエポキシ化したポリマー、エポキシ当量約500g/eq(ダイセル化学工業(株)製エポフレンドA1020)
EKP207:エチレン−ブチレン共重合体とポリイソプレンからなるブロック共重合体をエポキシ化したポリマー、エポキシ当量約670g/eq(KRATON Polymers社製KRATON LIQUID Polymer EKP-207)
D−OH:1分子中に水酸基を2個有する、炭素数36の化合物(UNIQEMA社製DIMERDIOL)
GI3000:両末端水酸基の水素添ポリブタジエン(日本曹達(株)製NISSO-PB GI-3000)
UV9380C:ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネートを主成分とする光カチオン開始剤(GE東芝シリコーン(株)製UV-9380C)
UVR6110:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、(ダウ・ケミカル日本(株)製UVR-6110)
UVR6216:2−テトラデシルオキシラン、(ダウ・ケミカル日本(株)製UVR-6216)
【0037】
参考例1、実施例2および3(表1)並びに比較例1〜2(表2)に示す、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物について、下記物性を評価し、その評価結果を表3にまとめた。
○粘度
E型粘度計にて25℃における粘度を測定した。
○厚膜塗工性
PET上に蒸着したITOに組成物を50μm厚さになるように調節したバーコーターにて塗工し、組成物が塗工時の膜厚を保ち、かつ塗布面がレベリングしてバーコーターの筋目が消えるものを○、粘度が低すぎて組成物が流れ出すもの、または粘度が高すぎてレベリングしないものを×と評価した。
○硬化性
厚膜塗工性の評価を行った被塗物に、紫外線を照射して組成物を硬化させた。紫外線の照射条件は、160W/cm集光型高圧水銀灯(一灯)、水銀灯高さ10cm、コンベアスピード10m/分である。1パスで硬化するものを硬化性○、2〜4パスで硬化するものを硬化性△、5回以上のパス回数を要するものを硬化性×と評価した。
○動的粘弾性測定(G’およびtanδ)
ポリテトラフルオロエチレン製の板に厚さ1mmの枠を作成し、組成物を流し込んだ後、水銀ランプにより紫外線を照射した。365nmにおける強度25mW/cm2で2分間照射し、硬化状態を確認した。この後、硬化物を一旦枠から取り出し、表裏を反対にして裏面から同一条件で照射し、この操作を合計4回繰り返し行った。
得られた硬化物の動的粘弾性測定を、測定温度25℃、振動数1Hzで行い、貯蔵弾性率(G’)およびtanδを評価した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
(注)比較例2については、硬化性が不良であったため、その他の評価を行わなかった。
【0041】
以上の評価結果から、本発明の硬化型樹脂組成物が、室温で適度の粘度を有し、厚膜塗工性に優れ、硬化しやすいことが解った。また本発明の硬化型樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、弾性率が低く、形状復元性に優れることが解った。
【0042】
【発明の効果】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、室温において非常に低弾性率でありながら形状変化後の復元性に優れた硬化物を与えることができ、厚膜塗工性と硬化性に優れた組成物であるため、このような物性を必要とする電子機器部材または光学部材を製造する際に好適に使用できる。
Claims (4)
- 樹脂成分全体を100重量部として、ポリマー(成分A)が5〜40重量部、化合物(成分B)が20〜90重量部、ポリマー(成分A)以外の多官能エポキシ化合物および多官能オキセタン化合物が10重量部未満配合された請求項1記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
- 水酸基を有する室温で液状の化合物(成分C)を0〜40重量部含む請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
- 請求項1〜3いずれか1つに記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に、活性エネルギー線を照射することにより硬化してなる硬化物であって、25℃、1Hzにおける動的粘弾性測定の物性値である貯蔵弾性率(G')が105Pa以下であり、かつtanδが0.1以下であることを特徴とする硬化物。
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