JP4035864B2 - 改質された微生物産生セルロース - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、人為的にリボン状ミクロフィブリルを変化せしめ、弾性率が改善されたバクテリアセルロース(BCともいう)及びその製造方法に関するものである。このバクテリアセルロースは各種工業材料、衣料材料、医療材料、機能性素材、食品素材等に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
従来、バクテリアが産生するリボン状ミクロフィブリルの大きさは、20〜50nmとされており(東京テクノ・フォーラム事務局編、人類とバイオ、329頁(1993年)読売・日本テレビセンター)、本発明でいう短径と長径の区別なく測定された数値と考えられる。バクテリアの産生するセルロースとしては、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)ATCC 23769が産生するシート状のものを医療用パッドに利用することが知られている(特開昭59−120159号公報)。
【0003】
本発明者らも既にリボン状ミクロフィブリルよりなるバクテリアセルロースの取得に成功し、これを圧搾してシート状にし、あるいは離解して各種のシート、その他の成形品に添加して高力学強度成形材料を開発している(特開昭62−36467号公報)。
【0004】
このバクテリアセルロースは、静置培養、通気攪拌培養で繊維の絡まり方によりシート状、分散状、粒状などの種々の形状を持つ塊や懸濁物として生産されるが巨視的な形態変化があってもバクテリアセルロースのリボン状ミクロフィブリルや物性に大きな変化はない。
【0005】
また、菌株の違いによりバクテリアセルロースの構造、物性に多少の違いが認められるが、人為的に菌の形態を変化させて、リボン状フィブリルを変化させることにより改質されたバクテリアセルロースが産生された例はない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、リボン状ミクロフィブリルの長径が変化し、各種物性、特に弾性率が改善された、例えば、優れた特性を有する音響振動板等の用途に利用できる、バクテリアセルロースを開発することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、培養液に細胞分裂阻害剤又は有機還元剤を添加することにより、菌の形態が変化し、リボン状ミクロフィブリルが変化した改質されたバクテリアセルロースが産生されることを知り、このバクテリアセルロースの物性、特に、弾性率等が従来のバクテリアセルロースよりもさらに向上していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、長径160〜1000nmのリボン状ミクロフィブリル、又は長径50〜70nmのリボン状ミクロフィブリルを含有するバクテリアセルロースに関するもので、培養液に細胞分裂阻害剤や特定の有機還元剤を含有せしめることにより、無添加の条件で得られるバクテリアセルロースと対比してその弾性率が30%以上向上した高弾性率のバクテリアセルロースが得られるものである。
【0009】
従って、本発明は、セルロースを菌体外に産生しうる細菌を細胞分裂阻害剤又は有機還元剤を含有する培地で培養し、産生したセルロースを採取することを特徴とするバクテリアセルロースの製造方法、に関するものである。
【0010】
なお、本発明で用いる長径及び短径とは、以下のことをさす。すなわち、リボン状ミクロフィブリルの伸張方向と直角に切断した際にできる長方形の断面について、短い方の径を短径、長い方の径を長径と呼ぶ。
【0011】
培養系に細胞分裂阻害剤又は有機還元剤を添加した時に産生されるリボン状ミクロフィブリルが、従来の無添加時のリボン状ミクロフィブリルとどのように異なっているかは、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡を用いて、リボン状ミクロフィブリルの短径と長径を測定することで容易に調べることができる。
【0012】
このバクテリアセルロースは、菌の形態が変化したことによって菌のセルロース分泌口の形状や、分泌口の数が変わり、それによってミクロフィブリルの形状が変化するものと思われる。実験結果からも、長い細胞が作り出したバクテリアセルロースの方が透明度が高く、このことから、長い細胞が産生したバクテリアセルロースにおいては、セルロースがより密な状態にあると考えられる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡による観察の結果からも同様なことが言え、長い細胞の生成したバクテリアセルロースの層構造の方がより緻密である。正常な細胞が産生したバクテリアセルロースにおいては、セルロースがヘリコイド状(コレステリック様)に堆積している部分が認められるが、長い細胞が産生したバクテリアセルロースには存在しない。結晶幅については、長い細胞が生成したバクテリアセルロースの方がわずかではあるが全ての格子面について大きいと考えられる。また、全てにおいて0.6nm格子面がフィルム面に対し配向していたが、その程度は細胞が大きくなればなる程、高くなっている。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたバクテリアセルロースの観察からもリボン状ミクロフィブリルの幅は細胞が長いものの方が大きい。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のバクテリアセルロースは、従来のバクテリアセルロースのリボン状ミクロフィブリルの形状(培養時に、細胞分裂阻害剤や有機還元剤を添加しない条件下で得られるバクテリアセルロースのリボン状ミクロフィブリルの形状を本発明者が測定した結果、短径10〜100nm、長径80〜150nmであった。)と異なり、短径10〜100nm程度で長径160〜1000nm、又は、短径10〜100nm程度で長径50〜70nmのリボン状ミクロフィブリルを含んでいる。
【0014】
従来のミクロフィブリルの長径と短径の比は1.6:1.0〜2.7:1.0である。
【0015】
バクテリアセルロースのミクロフィブリルの短径については、培養時に細胞分裂阻害剤や有機還元剤を存在せしめた本願発明の場合も存在しない従来の場合も、主に55nm〜95nmのものが多いが、25nm等の短いものも観察される。
【0016】
一方、バクテリアセルロースのミクロフィブリルの長径については、本願発明で培養に細胞分裂阻害剤を用いた場合は、主に160nm〜700nm、特に170〜600nmのものが多いが1000nmのものも散見され、従来の80nm〜150nmと比較して、かなり長くなっている。これは、培養時に細胞分裂阻害剤含有の場合、菌体が長くなり、みかけ上、1本鎖が接着したような状態になった束状になっているようにも観察される。これを1本鎖とみなすと、バクテリアセルロースのミクロフィブリルの長径は、従来の培養によるものと比較してかなり長くなるのである。長径と短径の比は2.8:1.0〜8.1:1.0程度、通常3.0:1.0〜6.0:1.0程度である。
【0017】
他方、本願発明で培養に有機還元剤を用いた場合は、バクテリアセルロースのミクロフィブリルの長径が、主に50〜70nmのものが多くなり、短径と長径の区別はつかなくなる。これは、菌体が短形化したことに基因していると考えられる。長径と短径の比では0.9:1.0〜1.5:1.0程度、通常1.2:1.0〜1.5:1.0程度である。
【0018】
このバクテリアセルロースの特徴は、細胞分裂阻害剤無添加又は有機還元剤無添加の条件で得られる従来のバクテリアセルロースよりも弾性率が30%以上も向上するというものである。弾性率は、ミクロフィブリルの長径が160〜1000nmのものの場合には13〜20GPa程度、特に16〜20GPa程度、ミクロフィブリルの長径が50〜70nmのものの場合には14〜19GPa程度、特に15〜18.5GPa程度である。ここで細胞分裂阻害剤、特にクロラムフェニコール系抗生物質を添加した場合、菌体が顕著に長くなるため、長径がかなり長くなったミクロフィブリルが産生され、弾性率が大きくなる。また、破断点伸度についてはミクロフィブリルの長径が160〜1000nmのものでは0.9〜2.1%程度、特に1.4〜1.8%程度であり、ミクロフィブリルの長径が50〜70nmのものの場合には0.9〜2.0%程度、特に0.9〜1.5%程度である。
【0019】
バクテリアセルロースの化学成分としては、セルロース並びにセルロースを主鎖としたヘテロ多糖を含むもの及びβ、α等のグルカンを含むものがある。ヘテロ多糖の場合のセルロース以外の構成成分は、マンノース、フラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、ラムノース、ウロン酸等の六炭糖、五炭糖及び有機酸等である。これらの多糖が単一物質である場合もあるし、二種類以上の多糖が混在していてもよい。バクテリアセルロースは上記のようなものであれば何でもよい。
【0020】
本発明で用いるバクテリアセルロース産生微生物は、特に限定されないが、一例を挙げると、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)ATCC 23769、FERM BP−4176あるいは同アセチ(A.aceti)、同キシリナム(A.xylinum)、同ランセンス(A.ransens)、サルシナ・ベントリクリ(Sarcina ventriculi)、バクテリウム・キシロイデス(Bacterium xyloides)、シュードモナス属細菌、アグロバクテリウム属細菌、リゾビウム属細菌等を利用することができる。
【0021】
培地には、細胞分裂阻害剤又は有機還元剤を含有せしめることが重要である。細胞分裂阻害剤としては、クロラムフェニコールなどのクロラムフェニコール系抗生物質、テトラサイクリン、ピューロマイシン、エリスロマイシン等の蛋白質合成阻害剤、チエナマイシンなどのβ−ラクタマーゼ阻害作用を有する有機化合物、その他、ピリドンカルボン酸系薬剤、例えば、ナルジクス酸、Promidic acid、Pipemidic acid、Oxolinaic acid、Ofloxacin、Enoxacin等を使用できる。また、有機還元剤としては、ジチオスレイトール,2−メルカプトエタノール等を使用できる。細胞分裂阻害剤の濃度は、例えばクロラムフェニコールは0.01mM〜5.0mM、好ましくは0.05mM〜1.0mM、さらに好ましくは、0.1mM〜0.5mM、また、ナルジクス酸では0.01mM〜1.0mM、好ましくは0.05mM〜0.3mM、さらに好ましくは0.1mM〜0.2mMである。その理由は、0.01mM以下では、改質されたバクテリアセルロースが得られないため、また、1.0mM以上では、菌の生育が大きく阻害される為である。有機還元剤では、例えばジチオスレイトールは0.01mM〜5.0mM、好ましくは0.2mM〜3.0mM、さらに好ましくは0.5mM〜2.0mMである。
【0022】
培地のその他の成分は、前記微生物の培養に用いられる公知の培地と同様でよい。すなわち、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の栄養培地を用いればよく、炭素源としては、グルコース、シュクロース、マルトース、澱粉加水分解物、糖密等が利用されるが、エタノール、酢酸、クエン酸等も単独あるいは上記の糖と併用して利用することができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、ペプトン等の有機あるいは無機の窒素源が利用される。無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が利用される。有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、さらには、これらの栄養素を含むペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆蛋白加水分解物等が利用され、生育にアミノ酸を要求する栄養要求性変異株を用いる場合には、要求される栄養素をさらに補添する必要がある。
【0023】
培養形態も特に制限されず、静置培養、攪拌培養(通気攪拌培養、振盪培養、振動培養、エアリフト型の培養)を利用できる。
【0024】
培養条件も通常でよく、pHを3〜9好ましくは3〜7、そして温度を10〜40℃、特に好ましくは25〜30℃に制御しつつ、1日〜100日間培養すれば良い。静置培養の場合は、培養初期は、液中にバクテリアセルロースが生成し、培養後期には、液表面にバクテリアセルロースがゲル状に蓄積される。
【0025】
このゲルを取り出して、必要により水洗する。この水洗水には、目的に応じて殺菌剤、前処理剤などの薬剤を添加することができる。
【0026】
水洗後は乾燥し、あるいは他の混練物等と混練後乾燥して使用に供する。乾燥の方法は、どのような方法でもよいが、通常セルロースが分解しない温度範囲で行なうことが必要なのは言うまでもない。又、該セルロース性物質は表面に多数の水酸基を有する微細な繊維より成っているので、乾燥中に繊維が相互膠着することにより、繊維状の形態が失なわれることがある。したがって、これを防止して微細な繊維状の形態を生かして使用したい時は、凍結乾燥や臨界点乾燥等の方法を用いた方が望ましい。
【0027】
バクテリアセルロースは、弾性率等の力学的強度を高めるために、ミクロフィブリルがからみ合った構造にするのがよく、そのために、例えば、培養物から取り出したゲルを直角方向から加圧して圧搾することにより、自由水の大部分を除去してから乾燥する方法は有効である。圧搾圧力は1〜10kg/cm2 程度が適当である。この圧搾によって、乾燥後のセルロースは圧搾方向に応じて配向したものになる。また、圧力を加えながら一方向に延ばす操作、すなわち、圧延操作を行なうことによって、乾燥後のセルロースは圧搾方向に加えて圧延方向に対しても配向性を有するに至る。圧搾装置は市販の機種のなかから適宜選択して利用することができる。
【0028】
一方、バクテリアセルロースを一旦離解することも力学的強度を高めるうえで有効である。離解は機械的な剪断力を利用して行なえばよく、例えば、回転式の離解機、あるいはミキサー等で容易に離解できる。離解後に前記の圧搾を行なうことも有効である。
【0029】
本発明のバクテリアセルロースは、シート状、糸状、布状、立体状など各種形状に成形することができる。
【0030】
シート状にする場合には、バクテリアセルロースを必要により離解してから層状にし、これを必要により圧搾して乾燥すればよい。圧搾によって面配向したものが得られるほか、圧延を加えることによって面配向するとともに、さらに一軸配向したシートを得ることができる。
【0031】
離解及び/又は圧搾を終了したシートの乾燥は、適当な支持体に固定して行なうことが望ましい。この支持体へ固定することによって面配向度がさらに高まり、力学的強度の大きなシートを得ることができる。支持体には、例えば、網状構造をもった板、ガラス板、金属板などを利用できる。乾燥温度は、セルロースが分解されない範囲であればよく、加熱乾燥法のほか凍結乾燥法も利用できる。
【0032】
シートの厚さは用途に応じて定められるが、通常1〜500μm程度である。
【0033】
シートには各種の添加剤を加えることができる。例えば、各種の高分子材料の溶液(水性又は非水性)、エマルジョン、ディスパージョン、粉体、溶融物等を加えることにより、その添加物の特性に応じて、強度、耐候性、耐薬品性、耐水性、撥水性、静電防止性等の幾つかを付与することができる。アルミニウム、銅、鉄、亜鉛などの金属又はカーボンを粉末状あるいは糸状で加えれば、導電性及び熱伝導性を高めることができる。また、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、カオリン、ベントナイト、ゼオライト、雲母、アルミナ等の無機質材料を加えれば、その種類に応じて、耐熱性、絶縁性などを改善し、あるいは表面に平滑性を付与することができる。低分子有機質あるいは接着剤を加えることによって、強度をさらに増すことができる。フタロシアニン、アゾ化合物、アイ、ベニハナなどの色素で着色してもよい。着色には、そのほか各種の塗料、染料、顔料を利用することができる。医薬品、殺菌剤を加えることによってメディカルシートとして利用することもできる。
【0034】
これらの混練物、添加剤は97%以下で目的の物性が得られる適当な量が加えられる。これらの添加時期は問うところではなく、バクテリアセルロースゲルあるいはその離解物に加えてもよく、圧搾後に加えてもよく、また乾燥後に加えてもよい。さらに、培地中あるいは培養物に加えてもよい場合もある。添加方法も混合のほか含浸によってもよい。
【0035】
このようなシートには他の物質の層を積層することもできる。積層物はシートの使用目的に応じて適宜選択される。前述の混練物あるいは添加物のなかから選択することもでき、例えば、耐水性の付与のために各種高分子材料をコーティングすることができる。
【0036】
紙として利用する場合には、バクテリアセルロースゲルを離解後抄紙して乾燥すればよく、それによって引張強度、耐伸縮性等に優れるともに化学的に安定で吸水性、通気性に優れた高弾性及び高強度の紙を得ることができる。この場合、製紙に使用される通常の添加剤、処理剤等を利用することができ、また、前述の混練物、添加剤のなかから選択して加えることもできる。
【0037】
その他、音響振動板などに利用されるが、更にその他の利用例は特開昭62−36467号公報等に詳述されている。
【0038】
【実施例】
実施例1
バクテリアセルロース生産培地としてシュークロース50.0g/l、総合アミノ酸(味の素(株)製品)5.0g/l、フィチン酸0.2g/l、リン酸一カリウム3.0g/l、硫酸マグネシウム2.4g/l、硫安1.0g/l(pH5.0)の組成のものを用いた。
【0039】
種母培養としては、100ml容のバッフル付きフラスコに20ml上記培地を張り込み、アセトバクター・バスツアリヌス FERM BP−4176を接種した後200rpmで3日間25℃で培養を行ったものを用いた。これを一旦ブレンダーで破砕後、主培地に接種した。接種濃度は2%とした。主培養の培養温度は25℃、静置培養とした。培養中に培養液及びバクテリアセルロースをサンプリングして、菌の形態を光学顕微鏡、電子顕微鏡及び原子間顕微鏡で観察した。
【0040】
実験は主培養にナルジクス酸(以下、NAと略す)を0.01mM、0.05mM、0.1mM、0.2mM、1.0mM添加したものと無添加のものを比較しておこなった。
【0041】
その結果、NA添加量が増加するにつれて、バクテリアセルロースの生産が抑制された。一例としてNA0.1mM添加時の菌の形態とNA無添加の菌の形態(それぞれ培養2日目)を光学顕微鏡写真で比較した。その結果、NA0.1mM添加ではNA無添加に比較し菌の形態が変化し、通常の2〜4倍に伸長していることが確認された。
【0042】
又、NA添加により産生したリボン状ミクロフィブリルの長径(巾)は、電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡の観察により、170nm、340nm、430nm、590nm等の長いものが見られたが、短径は25nm、35nm、60nm、90nmを含む10〜100nmの範囲にあった。一方、NA無添加で産生したリボン状ミクロフィブリルの長径(巾)は82nm、107nm等であったが、短径(厚さ)は10〜100nmでNA添加時の場合と比較して有意な変化は観察されなかった。
【0043】
培養2日目のセルロースゲルの一部をカバーグラス上に採取し、室温で10〜20分放置して表面を自然乾燥させた後、(株)島津製作所製の原子間力顕微鏡SPM−9500型で観察したものである。
【0044】
次に、原子間力顕微鏡のチャートの読み方は、細胞分裂阻害剤や有機還元剤が無添加の場合のセルロース(図1)のチャートを例にして説明する。すなわち、原子間力顕微鏡に接続したコンピュータのディスプレイ上に写し出されたセルロース繊維の短径と長径を測定するために、まず、セルロース繊維と直角に画像解析用の線を引き(図1)、その繊維の直角方向からの形をディスプレイ上に表示させる(図2、図3)。観察者は、ディスプレイ上での短径(図1のA−B線)と長径(図1のC−D線)を特定し、その数値(短径は86nm、長径は123nm)を表示させる。
【0045】
さらに、40日間培養した後に通常の流水洗浄、アルカリ洗浄、流水洗浄によりバクテリアセルロースゲルを洗浄し、常法によりプレスしてシートを作製し、その物性をNA0.1mM添加,NA0.2mM添加とNA無添加のものについて比較した。
【0046】
すなわち、調製したバクテリアセルロースシートから巾1.0cm、長さ2.0cmのJIS規格3号ダンベル型に打ち抜き、供試シートを作製し、厚さを測定した後、ORINTEC CORP.社製 TENSILON RTM−500型を用いて、20mm/min.でこの供試シートを引っ張り、その強度を比較した。その結果は第1表に示すように、NA0.1mM添加培養,NA0.2mM添加培養で得たシートは明らかにその物性が変化し、弾性率が改善した(表1)。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例2
実施例1と同様の方法でアセトバクター・パスツリアヌス FERM BP−4176を静置培養し、培養中に培養液およびバクテリアセルロースをサンプリングして、菌の形態を光学顕微鏡、電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で観察した。
【0049】
実験は主培養にクロラムフェニコール(以下CPと略す)を0.1mM,0.2mM,0.3mM,0.5mM,1.0mM添加したものと無添加のものを比較して行った。
【0050】
その結果、CPの添加量が増加するにつれて、生産菌の長さが増大し、従来の8〜12倍に伸張した。
【0051】
一例を培養2日目のCP0.3mM添加時の菌の形態とCP無添加の菌の形態を比較した光学顕微鏡写真を示す(図4,図5)。
【0052】
又、CP添加により産生したリボン状ミクロフィブリルの長径(太さ)は、電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡の観察により、従来と異なり、160nm、330nm、450nm、570nm、690nm等の長いものが見られたが、短径は10〜100nmであった。一方、CP無添加で産生したリボン状ミクロフィブリルの長径(太さ)は82nm、107nm等で、短径は10〜100nmでCP添加時と比較して有意な変化は観察されなかった。
【0053】
さらに、40日間培養した後に常法によりシートを作製し、その物性をCP0.2mM及び0.3mMとCP無添加のものについて比較した。物性の測定は実施例1と同様の方法で行った。
【0054】
その結果、CP0.2mM及び0.3mM添加培養で得たシートは明らかにその物性が変化し、弾性率が改善した(表2)。
【0055】
【表2】
【0056】
実施例3
実施例1と同様の方法でアセトバクター・パスツリアヌス FERM BP−4176を静置培養し、培養中に培養液およびバクテリアセルロースをサンプリングして菌の形態を光学顕微鏡、電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で観察した。
【0057】
実験は主培養にジチオスレイトール(以下、DTTと略す)を0.5mM,1.0mM,2.0mM,添加したものと無添加のものを比較して行った。
【0058】
その結果、DTTの添加量が増加するにつれて菌の形態が短くなった。
【0059】
一例として、DTT0.5mM及び1.0mM添加時の培養2日目の菌とセルロース繊維の形態(図7)の原子間力顕微鏡写真を示す。
【0060】
写真から明らかなようにDTT1.0mM添加ではDTT無添加に比較して、菌の形態は1/3〜1/2に短形化していることが確認された。
【0061】
しかも、DTT添加により産生したリボン状ミクロフィブリルの長径(太さ)は、電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡の観察により、従来と異なり、56nm、57nm、70nm等の短いものが見られたが、短径は10〜100nmであった。一方、DTT無添加で産生したリボン状ミクロフィブリルの長径(太さ)は82nm、107nm等で、短径は10〜100nmでDTT無添加時と比較して有意な変化は観察されなかった。
【0062】
さらに40日間培養した後に、常法によりシートを作製し、その物性をDTT1.0mMとDTT無添加のものについて比較した。物性の測定は実施例1と同様の方法で行った。
【0063】
その結果、DTT0.5mM、1.0mM添加培養で得たシートは明らかにその物性が変化し、弾性率が改善した(表3)。
【0064】
【表3】
【0065】
実施例4
実施例1と同様の方法でアセトバクター・パスツリアヌス FERM BP−4176の種培養を行い、主培養に2%接種して、25℃,180rpmで攪拌培養した。その他の条件は実施例1と同様である。そして、培養液及びバクテリアセルロースをサンプリングして、菌の形態を光学顕微鏡、電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で観察した。実験は、主培養にNA0.10mM,0.20mM添加したものと無添加のものを比較した。
【0066】
その結果、静置培養の時と同様にナルジクス酸(以下、NAと略す)を添加して培養した場合には、菌が伸張し、産生したリボン状ミクロフィブリルの長径が170nm、250nm等のものが電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡により観察され、従来のものと変化しているのがはっきり観察された。なお、短径の変化は観察されなかった。
【0067】
さらに14日間培養したものから、常法によりシートを作製し、その弾性率を測定したところ、NA0.10mM,0.20mM添加して培養して得たシートは明らかにその物性が変化し、弾性率が高まっていた。
【0068】
【発明の効果】
本発明により、リボン状ミクロフィブリルが変化したバクテリアセルロースが産生し、各種物理強度、特に弾性率が改善されたバクテリアセルロースを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 細胞分裂阻害剤又は有機還元剤を無添加で培養した場合のセルロース繊維及び菌の形態を示す原子間力顕微鏡写真である。
【図2】 図1において、セルロース繊維と直角に線を引いたA−B線を、その繊維の直角方向から表示した断面図。短径と判断したもの。
【図3】 図1において、セルロース繊維と直角に線を引いたC−D線を、その繊維の直角方向から表示した断面図。長径と判断したもの。
【図4】 クロラムフェニコール0.3mM添加培地で培養した菌の形態を示す光学顕微鏡写真(×1000)である。
【図5】 クロラムフェニコール無添加で培養した菌の形態を示す光学顕微鏡写真(×1000)である。
【図6】 クロラムフェニコール0.3mM添加培地で培養した菌及びセルロース繊維の形態を示す原子間力顕微鏡写真である。
【図7】 ジチオスレイトール1.0mM添加培地で培養した菌の形態及びセルロース繊維の形態を示す原子間力顕微鏡写真である。
Claims (2)
- セルロースを菌体外に産生しうる細菌を細胞分裂阻害剤を含有する培地で培養し、産生したセルロースを採取することを特徴とする、長径160〜1000nmのリボン状ミクロフィブリルを含むバクテリアセルロースの製造方法
- セルロースを菌体外に産生しうる細菌を有機還元剤のジチオスレイトール又は2−メルカプトエタノールを含有する培地で培養し、産生したセルロースを採取することを特徴とする、長径50〜70nmのリボン状ミクロフィブリルを含むバクテリアセルロースの製造方法
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