JP4035203B2 - 微細加工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細な領域に電子を閉じ込める構造を形成する微細加工方法に関し、特に、それを走査型プローブ顕微鏡を用いて行うようにした微細加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、物質の表面を原子オーダーの分解能で観察できる走査型トンネル顕微鏡(以下STMという)[G.Binnig et al.,Physical Review Letters 第49巻57頁(1982)]が開発され、原子、分子レベルの実空間観察が可能になってきた。
走査型トンネル顕微鏡は、トンネル電流を一定に保つように探針電極、導電性試料の距離を制御しながら走査し、その時の制御信号から試料表面の電子雲の情報、試料の形状をサブナノメートルのオーダーで観測することができる。
また、物質の表面をやはり高分解能で観察できる手段として原子間力顕微鏡(以下AFMという)が開発されている。
AFMによれば絶縁物の表面でもその形状をサブナノメートルのオーダーで観測することができる。STMあるいはAFM等、試料表面を探針を用いて2次元走査を行い、そのプローブ(探針)と試料表面の相互作用から試料表面の物理情報を観測する手段は一般に走査型プローブ顕微鏡(SPM)といわれ、高分解能の表面観察手段として注目されている。
さらに、これらSPMの原理を応用すれば、十分に原子オーダーでの微細加工を行うことが可能である。
例えば特開昭63−161552号公報、特開昭63−161553号公報にはSTM技術を用いて絶縁膜に電圧を印加して絶縁膜の導電率の変化を発生させる技術が開示されている。
この技術によればナノメートルスケールで導電率の上昇した部分を形成することができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一般的に、サブミクロン以下の微小な領域に電子を閉じ込めることにより量子効果を発現するデバイスの構成要素となすことが可能となる。
例えば数nmから数百nmの大きさの球状あるいは立方体状の導電性の領域を形成しこれを非導電性の領域で囲むことにより電子の閉じ込め効果が発生する量子ドットと呼ばれる構造が得られる。
また、数nmから数百nmの径を持つ棒状の導電性領域を形成し、これを非導電性の領域で囲むことにより電子の閉じ込め効果が発生する量子細線と呼ばれる構造が得られる。
このように、微細な領域に電子を閉じ込める構造を形成することが量子効果を発現するデバイスを作成するために重要な役割をはたす。
ところが、特開昭63−161552号公報、特開昭63−161553号公報に開示されている技術では導電性が上昇した部分が基板電極と電気的に接続されているために、微小領域に電子を閉じ込めることは難しい。
【0004】
そこで、本発明は上記課題を解決し、微細な領域に電子を閉じ込める構造を形成する微細加工方法を提供することを目的としている。
にある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するため、微細な領域に電子を閉じ込める構造を形成する微細加工方法を、つぎのように構成したことを特徴としている。
すなわち、本発明の微細加工方法は、Si基板上に、GeSb2Te4薄膜、又はラングミュアーブロジェット法により形成されたポリイミド膜からなる非導電性薄膜が設けられている加工試料の微細な領域に電子を閉じ込める構造を形成する微細加工方法であって、
前記非導電性薄膜に対向して配置された探針を、前記非導電性薄膜の加工すべき表面、又は該表面近傍に位置させ、前記Si基板と前記探針との間に電圧を印加して、前記非導電性薄膜の導電率が上昇した導電性上昇部を形成し、
該導電性上昇部を含む前記非導電性薄膜と前記Si基板との界面を酸化させ、該導電性上昇部と前記Si基板とを電気的に絶縁して微細な領域に電子を閉じ込める構造を形成することを特徴としている。
また、本発明の微細加工方法は、前記電圧印加が、無酸素雰囲気中で行われることを特徴としている。
また、本発明の微細加工方法は、前記電圧印加が、印加する電圧の探針側の極性を正としたことを特徴としている。
また、本発明の微細加工方法は、前記非導電性薄膜と前記非導電性基板との界面を酸化するに際して、加熱を行うことを特徴としており、また、その酸化が、陽極酸化であることを特徴としている。
また、本発明の微細加工方法は、前記非導電性薄膜が、ラングミュアーブロジェット法により形成されたことを特徴としている。
また、本発明の微細加工方法は、前記非導電性薄膜が、ポリイミドであることを特徴としている。
また、本発明の微細加工方法は、前記探針は、弾性体により支持された構成を備え、前記電圧印加は該弾性体により支持された探針の先端が前記非導電性薄膜表面に接触した位置で行われることを特徴としている。
また、本発明の微細加工方法は、前記弾性体のたわみ量を検出するステップを含むことを特徴としている。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記構成により、電気的に基板と離された導電率の高い部分を微細な領域で形成することが可能となる。
ここで、本発明における非導電性薄膜は、電圧印加により伝導度が上昇するものからなる膜であればなんでもよい。導電性の上昇のためのメカニズムは電圧印加によるものであれば何でもよく、例えば電圧印加による電子状態の変化や、電圧印加により発生する熱による状態変化等がある。
導電性基板は前記非導電性薄膜の下地となる基板でありなるべく平坦なものが望ましい。前記導電性基板は前記非導電性薄膜に電圧を印加するときに片側の電極として作用する。
本発明による微細加工を始める前の初期の状態では基板表面には酸化膜が存在しないかまたは探針による電圧印加の効果が有効になるように十分に薄いものがよい。
【0007】
また、ここでいう非導電性薄膜および導電性基板とは非導電性薄膜の導電性が導電性薄膜の導電性に比べて低いものであればよく、探針と導電性基板との間に電圧を印加すると非導電性基板に電圧がかかるものであればよい。
従って、非導電性薄膜として半導体、導電性基板として金属を用いる構造のようなものでもよい。
ただし、非導電性薄膜は電圧の印加により導電性が上昇するものでなければならない。
上記条件を満たす非導電性薄膜の材料としては、例えばポリイミドや鉛フタロシアニン等が挙げられる。
探針はSPMで用いる探針である。
本発明による探針は導電性材料により形成されており前記非導電性薄膜表面に接触または表面近傍に位置し、前記非導電性薄膜に電圧を印加することにより導電率を変化させる。探針先端の形状は加工しようとするサイズに適した形状を用いる。
【0008】
本発明による微細加工を図1を用いて説明する。
まず、探針101先端を非導電性薄膜102の加工を行いたい位置の表面または表面近傍に位置させる(図1(1))。
表面近傍とは探針から非導電性薄膜に電圧を印加したときにその効果が非導電性薄膜に働く位置をいう。
これは印加した電圧が非導電性薄膜の導電性が変化するに足りる電圧が非導電性薄膜に印加されたり、また印加された電圧により非導電性薄膜の導電性が変化するに足りる電流が非導電性薄膜に流れることである。
つぎに、探針101と導電性基板102との間に外部に接続された電源から電圧を印加する。この電圧印加により非導電性薄膜に基板と垂直方向に電圧が印加され、非導電性薄膜の導電性が上昇する(図1(2))。この部分を導電性上昇部105と呼ぶ。この状態では導電性上昇部は導電性基板103と電気的に接続されている。
電源105による電圧印加前には前述のように導電性基板103表面には十分に薄い酸化膜が存在する場合もあるが、この酸化膜は電源104による電圧印加が非導電性薄膜102に有効に働くものであるほど薄いものであり、この初期に存在する酸化膜では形成された導電性上昇部とは完全に電気的に接続されていない。
【0009】
つぎに、この状態で導電性基板103の表面を酸化する(図1(3))。
この部分を酸化膜106とする。一般にこの酸化膜106は絶縁性であるため導電性上昇部105と導電性基板103は電気的に絶縁される。
酸化の方法としては熱酸化、自然酸化、陽極酸化などが挙げられる。熱酸化においては酸素を含む雰囲気で導電性基板103の温度を上げる。
この場合、探針101、電源104は不要であり、導電性上昇部105を含む非導電性薄膜102と導電性基板103のみを取り出して加熱を行ってよい。また、酸化のための時間が常温での酸化に比べて少なくてすむ。
また、自然酸化では導電性基板103を酸素を含む雰囲気で常温で酸化させる。この場合、探針101、電源104は不要であり、導電性上昇部105を含む非導電性薄膜102と導電性基板103のみを取り出して加熱を行ってよい。
この酸化方法の場合時間はかかるが熱による損傷が少なくてすむという利点がある。
【0010】
陽極酸化は、探針101を用いて酸化する方法で、酸素を含む雰囲気中で、探針101が負、導電性基板103が正になるように電源104を用いて電圧を印加することにより導電性基板103側で陽極酸化が進行する。
この場合、探針101の位置により酸化する領域を制御することができ、一般には導電性上昇部105下部、及びその周辺でのみ陽極酸化を行えばよい。この方法によれば、電圧印加による非導電性薄膜の電圧上昇と導電性基板表面の導電率上昇が同じ装置を用いて行うことができる。
電圧印加により導電性薄膜102の導電率を上昇させるとき、無酸素雰囲気中で行うことにより、電圧印加中に導電性基板103の不必要な酸化を抑制することができる。
なお、ここで無酸素雰囲気とは酸素を含まない雰囲気のことをいい、例えば窒素中やアルゴン雰囲気、また真空中などが挙げられる。非導電性薄膜は電圧印加により伝導度が上昇するものからなる膜であればなんでもよいが、ポリイミドを用いると機械的強度が上昇し、探針が非導電性薄膜に万が一衝突しても機械的損傷を抑制することができる。
また、非導電性薄膜としてラングミュアーブロジェット法(LB法)により作成した薄膜を用いると、薄膜表面が特に平坦になるため探針の衝突も抑制でき、また印加する電圧の条件の場所依存性も減少させることができる。
【0011】
本発明による探針はSPMに用いる探針と同じであるが、本発明による探針は前述のとおり導電性を有していることが必要である。
本発明においてこの探針は従来のSPMとしての動作を行うことも可能である。例えば前記探針と前記導電性基板との間に非導電性薄膜が導電率上昇を行わない程度に電圧を印加して、そのときに流れる電流が一定になるように探針の図1に示すZ方向に移動制御しながら図示XY方向に走査し、そのときのZ方向の制御信号から非導電性薄膜102表面の情報をえることができる。これは従来のSTMによる表面観察である。
また、本発明において弾性体に支持された探針を用いることにより非導電性薄膜表面に探針先端がちょうど接触した状態にすることができ、この接触した位置で電圧印加を行うことにより、前記非導電性薄膜の中に前記探針がもぐりこみ前記非導電性薄膜を破壊することが防止できる。
この弾性体の例としては通常AFMにおいてカンチレバーとして用いられる板バネ状のものが挙げられる。
これは探針先端が非導電性薄膜表面に接触した状態から探針先端が非導電性薄膜表面に押し付けるように弾性体支持部を移動させても弾性体のたわみによりその力が吸収されるようにできるからである。
また、このときのたわみ量を検出するたわみ量を検出することにより通常のAFMの動作をすることが可能となる。この状態で通常のAFM動作の機能を付与することにより導電率上昇のための電圧印加をする前に電圧を印加することなく表面を観察しながら位置決めを行うことができ、非導電性薄膜に不必要な電圧を印加することを避けることが可能となる。
【0012】
【実施例】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
本発明の実施例1を、図2に示す微細加工装置を用いた微細加工法について述べる。本微細加工装置は、
201:探針
204:ピエゾ素子
205:電源
206:電流検出装置
207:Z方向位置制御回路
208:XY方向位置制御回路
209:マイクロコンピュータで構成されている。
また、加工の対象となる試料は、
202:GeSb2Te4薄膜
203:Si基板
であり、ここではGeSb2Te4薄膜202とSi基板203を合わせて加工試料210という。
探針201はPt製で通常のSTMに用いるものであり、その先端の曲率半径は10nmのオーダである。
【0013】
GeSb2Te4薄膜202はスパッタ法により形成され、膜厚は約30nmである。
このGeSb2Te4は電圧印加により導電性が上昇する。Si基板202は導電性の平滑なSi(100)でありGeSb2Te4薄膜202を堆積する直前にフッ酸により表面の酸化膜を除去している。
ピエゾ素子204は通常、STMに用いるピエゾを用いており、上部に加工試料210を支持している。
このピエゾ素子に外部から電圧を印加することにより加工試料210を図示X、Y、Z各々の方向に移動させる。
これにより探針201と加工試料210の相対的位置を制御することが可能となる。
電源205は探針201とSi基板203との間に電圧を印加する。
電流検出装置206は探針201とSi基板203との間に流れる電流をを検出し、その値をZ方向位置制御回路207、マイクロコンピュータ209に送る。
Z方向位置制御回路207は、マイクロコンピュータからの指示によりピエゾ素子204に電圧を印加して、ピエゾ素子204のZ方向の位置を制御する。
また、Z方向位置制御回路207はマイクロコンピュータ209から指定される電流値と電流検出装置206からの値が等しくなるようにピエゾ素子204のZ方向を制御することも可能である。
XY方向位置制御回路208は、マイクロコンピュータからの指示によりピエゾ素子204に電圧を印加して、ピエゾ素子204のXY方向の位置を制御する。マイクロコンピュータ209は加工試料210の微細加工を行うための制御全般をつかさどる。
【0014】
本実施例における微細加工は以下のとおりに行う。
まず、マイクロコンピュータ209の指示によりXY方向位置制御回路208が信号を出し、探針201の先端が加工試料210表面の加工を施したい位置に来るようにピエゾ素子204をX−Y方向に移動させる。
つぎに、マイクロコンピュータ209が探針201の先端と加工試料210の距離を両者に流れる電流として規定する。次に電源205により電圧が探針201とSi基板203の間に印加され、探針201とSi基板203の間に流れる電流を電流検出装置206が検出し、その値が先に規定した電流値となるようにZ方向位置制御回路207がピエゾ素子204を制御する。
なお、このとき印加する電圧を距離制御用電圧と呼ぶ。規定の電流値になったところで、Z方向位置制御回路207の動作をやめ、Z方向の動きを止める。この状態でGeSb2Te4の導電率を上昇させるための電圧を電源205から印加する。この電圧を導電率上昇用電圧という。
一般に距離制御用電圧はその電圧印加によりGeSb2Te4膜202の導電率が上昇しない程度に設定してあり、導電率上昇電圧はGeSb2Te4膜202の導電率が上昇するに十分な値が設定されている。
【0015】
本実施例では距離制御用電圧として0.4V、導電率上昇用電圧として4.0Vとした。
本実施例ではこの導電率上昇用電圧を印加することにより、GeSb2Te4薄膜202に直径約20nmの領域に導電率上昇の領域を形成できた。なお、これら一連の動作はGeSb2Te4薄膜202をスパッタ法により形成した真空チャンバから取り出した直後に行った。なお、本実施例において探針201側を負として電圧を印加した時に電圧印加中に流れる電流が若干減少したが、これはSi基板203が正となったため陽極酸化が進行したためと考えれらる。
探針を正にしたときにはこの電流減少は観測されなかった。つまり、安定に導電率上昇を発生させるためには探針201が正となるように電圧印加を行った方がよい。
つぎに、加工試料210のみを取り出して、酸素40%、窒素60%の雰囲気室温において10日間放置する。
これによりSi基板203のGeSb2Te4との界面近傍が酸化され、GeSb2Te4の導電性が上昇した部分と、Si基板203が電気的に絶縁される。
【0016】
[実施例2]
つぎに、本発明による実施例2について説明する。
本実施例は、実施例1に用いた微細加工装置を用いるが、探針201、GeSb2Te4、Si基板203、ピエゾ素子204を真空中にいれた点で実施例1と異なる。
真空を形成するためにはターボ分子ポンプを用いている。その他の構成は実施例1に用いた微細加工装置と同じである。
本実施例ではまず、マイクロコンピュータ209が探針201の先端と加工試料210の距離を両者に流れる電流として規定する。つぎに、電源205により電圧が探針201とSi基板203の間に印加され、探針201とSi基板203の間に流れる電流を電流検出装置206が検出し、その値が先に規定した電流値となるようにZ方向位置制御回路207がピエゾ素子204を制御する。この帰還制御を保ったままマイクロコンピュータ209の指示によりXY方向位置制御回路208が信号を出し、探針201の先端が加工試料210表面を走査するようにピエゾ素子204をX−Y方向に走査させる。この時のXY方向の制御信号とZ方向の制御信号から、加工試料205表面を観察できるが、これは通常のSTMの動作である。
【0017】
本実施例では、実施例1と異なり真空中で動作させるためこのようにSTM動作を行うための電圧を印加してもSi基板203の酸化は全く進行しない。
つぎに、加工を行いたい位置に来たところで、XY方向の移動をやめる。マイクロコンピュータ209が導電率上昇のための電圧を印加させるときの探針201の先端と加工試料210の距離を両者に流れる電流として規定し、Z方向位置制御回路207が動作し、両者の距離を電流が規定値になるように制御する。
規定の電流値になったところで、Z方向位置制御回路207の動作をやめ、Z方向の動きを止める。
この状態でGeSb2Te4の導電率を上昇させるための電圧を電源205から印加する。
本実施例では、このとき加工試料210周辺には酸素が存在しないため導電率上昇のための電圧を印加している間でも電流値の減少は観測されず、Si基板203の不必要な酸化は発生しなかった。
距離制御用電圧の設定値に対しては実施例1ほど厳密ではないという利点もある。また酸化が抑制されるため、本実施例ではGeSb2Te4薄膜の導電性上昇のための電圧を印加する前に通常のSTM動作を行うことが可能であり、XY方向の位置決めが正確にできるという利点もある。
導電率上昇のための電圧印加終了後、加工試料210を真空チャンバから取り出し、実施例1で示した方法と同様な方法でSi基板203のGeSb2Te4薄膜との界面部分を酸化した。
本実施例においても、Si基板203と電気的に絶縁されかつ導電性が上昇した部分をGeSb2Te4薄膜202に形成することができた。
【0018】
[実施例3]
つぎに、本発明による実施例3を示す。実施例3では図3に示す微細加工装置を用いた。本実施例で用いた加工装置は
301:探針
302:カンチレバー
303:レーザ
304:2分割センサ
307:ピエゾ素子
308:電源
309:Z方向位置制御回路
310:XY方向位置制御回路
311:たわみ量検出装置
312:マイクロコンピュータ
から構成されている。本実施例では加工の対象として
305:ポリイミドLB膜
306:Si基板
を用いており、ここではポリイミドLB膜305とSi基板306を合わせて加工試料313という。
【0019】
探針301はPt製であり、実施例1で用いた微細加工装置と同様に先端が鋭利なものである。カンチレバー302に支持されている。この探針301は板バネ状のカンチレバー302により支持されている。このカンチレバー302は通常のAFMにおいて用いられるものと同様のものであり、本実施例においてはバネ定数0.05N/mのものを使用した。
レーザ303はカンチレバー302の加工試料と反対側の面を照射するものであり、本実施例においては半導体レーザを用いた。レーザ303から照射されたレーザ光はカンチレバー302により反射され、2分割センサ304に導入される。2分割センサ304は2のフォトダイオードから構成され、この2つのダイオードにレーザ光がほぼ均等になるように導入される。
カンチレバー302がたわむとレーザ光の反射が変化し、2分割センサ304の2つのフォトダイオードに導入される光の割合が変化する。この光の変化量はたわみ量検出装置311に送られ、たわみ量検出装置はその入力信号からたわみ量を算出する。
このたわみ量は探針301が加工試料313から受ける力を示している。この検出方法は通常のAFMにおける光てこ方式と呼ばれるものである。
【0020】
ポリイミドLB膜は、ラングミュアブロジェット法により形成されたポリイミド膜であり電圧の印加に導電率が変化する。本実施例で用いたポリイミドLB膜の膜厚は約5nmであった。
Si基板306は導電性の平滑なSi(100)でありポリイミドLB膜305を堆積する前にフッ酸により表面の酸化膜を除去している。
ピエゾ素子307は実施例1におけるピエゾ素子204と同じものである。
電源308は探針301とSi基板306との間に電圧を印加する。
Z方向位置制御回路309はマイクロコンピュータからの指示によりピエゾ素子307に電圧を印加して、ピエゾ素子307のZ方向の位置を制御する。また、Z方向位置制御回路307はマイクロコンピュータ311から指定される値とたわみ量検出装置311の出力値が等しくなるようにピエゾ素子307のZ方向を制御することも可能である。
XY方向位置制御回路310は、マイクロコンピュータからの指示によりピエゾ素子307に電圧を印加して、ピエゾ素子307のXY方向の位置を制御する。マイクロコンピュータ312は加工試料313の微細加工を行うための制御全般をつかさどる。
【0021】
本実施例における微細加工は以下のとおりに行う。
【0022】
マイクロコンピュータ312が探針301の先端と加工試料313との間に働く力をカンチレバー302のたわみ量として規定する。
つぎに、マイクロコンピュータ312の指令によりZ方向位置制御回路309が動作して探針301と加工試料313を接触させてたわみ量検出装置311の出力が規定値になるように制御する。
この帰還制御を保ったままマイクロコンピュータ312の指示によりXY方向位置制御回路310が信号を出し、探針301の先端が加工試料313表面を走査するようにピエゾ素子307をX−Y方向に走査させる。
この時のXY方向の制御信号とZ方向の制御信号から、加工試料313の表面形状を観察する。
これは通常のAFMの動作である。このAFMによる表面観察を行うことにより試料加工を行いたい位置を容易に特定することが可能である。
【0023】
次に加工を行いたい位置に来たところでZ方向位置制御回路309とXY方向位置制御回路310によるピエゾ素子307への出力電圧を固定してXY方向の移動をやめる。
つぎに、マイクロコンピュータ312の指令により電源308が動作して、ポリイミドLB膜の導電率を上昇させるための電圧を印加する。本実施例では7Vの電圧を印加することにより直径約5nmの領域に導電率上昇の領域を形成できた。なお、本実施例において探針301側を負として電圧を印加した時に電圧印加中に流れる電流が若干減少したが、これはSi基板306が正となったため陽極酸化がわずかながら発生したためと考えれらる。探針を正にしたときにはこの電流減少は観測されなかった。
つまり、安定に導電率上昇を発生させるためには探針301が正となるように電圧印加を行った方がよい。
つぎに、加工試料313を微細加工装置から取り出して酸素40%、窒素60%の雰囲気で350℃において24時間処理した。
これによりSi基板306のポリイミドLB膜305との界面近傍が酸化され、ポリイミドLB膜305の導電性が上昇した部分と、Si基板306が電気的に絶縁される。
本実施例では探針301の位置を固定して導電率を上昇させるための電圧印加を行い導電率上昇を発生させた後にSi基板306とポリイミドLB膜305との界面近傍を酸化することにより、点状の領域に電子を閉じ込める構造を作成することができた。
上記方法に加え、導電率を上昇させるための電圧を印加した状態で探針301を試料表面XY方向に移動することにより線状あるいは面状で導電性上昇の領域を作成し、その後に酸化処理を行うことにより線状、あるいは面状の領域に電子を閉じ込める構造を形成することも可能である。
【0024】
本実施例では、探針301をカンチレバー302により支持される機構を採用し、そのたわみ量を検出したことから電圧を印加すること無く試料表面の形状を測定することが可能となり不必要な酸化を抑制した状態で位置決めが可能である。また、本実施例では加工する材料としてポリイミドを用いており、探針による加工試料表面の損傷を抑制することができた。
また、本実施例においてはLB法により作成した膜を使用しているため、加工試料表面が平坦であり探針による加工試料への衝突を抑制することができ、やはり加工試料表面の損傷を抑制することができる。
【0025】
[実施例4]
つぎに、図3に示した微細加工装置を用いた実施例4を示す。本実施例においてもポリイミドLB膜を加工する。
本実施例ではポリイミドLB膜305の導電率を上昇させる方法は実施例3に示した方法と同様にして行う。
つぎに、探針301が負、Si基板306が正になるように電源308から10Vの電圧を印加した。
これによりSi基板306のポリイミドLB膜305との界面近傍が酸化され、ポリイミドLB膜305の導電性が上昇した部分と、Si基板306が電気的に絶縁される。
本実施例においては、基板の酸化過程をポリイミドLB膜305の導電率上昇のために用いた探針301や電源308を用いて陽極酸化を行っているので、酸化のために別の手段を用意しなくてもよい。
また、探針301を用いて酸化を行うので、導電率の上昇が発生したポリイミドLB膜部分の直下のSi基板が酸化され、不必要な酸化が発生しないという利点もある。
【0026】
[実施例5]
つぎに、図4に示した微細加工装置を用いた実施例5を示す。本実施例で用いた微細加工装置は実施例3で用いた微細加工装置から
303:レーザ
304:2分割センサ
311:たわみ量検出装置
を除いたものである。
Z方向位置制御回路309はマイクロコンピュータからの指示によりピエゾ素子307に電圧を印加して、ピエゾ素子307のZ方向の位置を制御する。
本実施例に用いる微細加工装置ではたわみ量検出装置を具備しておらず、カンチレバー302のたわみ量は検出されない。
また、本実施例で用いたカンチレバーのバネ定数0.01N/mである。
他の構成は実施例3で用いた微細加工装置と同じである。
【0027】
本実施例における微細加工は次の通り行う。
まず、マイクロコンピュータ312がXY方向位置制御回路310に指令を出して、ピエゾ素子307を駆動させ、探針301先端をXY方向に移動させ導電率上昇を発生させたい位置に移動させる。
つぎに、マイクロコンピュータ312がZ方向位置制御回路309に指令を出して、ピエゾ素子307を駆動させ、探針301先端をZ方向に移動させポリイミドLB膜表面に接触させる。
このZ方向の位置はあらかじめ定められた位置であるが、本実施例ではカンチレバー302のたわみ量は検出されていないので、探針301の接触を検知することはしていない。
しかし、探針301をポリイミド表面に押し付けるようにするとカンチレバー302がたわんで探針301がポリイミドLB膜305表面に位置することになる。この状態で実施例3に示した方法と同様な方法によりポリイミドLB膜305に電圧を印加して導電率を上昇させる。
その後Si基板306のポリイミドLB膜305界面付近を酸化させるが、その方法は実施例3に示した方法と同じである。
【0028】
【発明の効果】
本発明は、以上のように、電圧印加により非導電性薄膜に導電率の高い部分を微細な領域で形成し、該導電性上昇部を含む前記非導電性薄膜と前記非導電性基板との界面を酸化させることによって、該導電性上昇部と前記非導電性基板とを電気的に絶縁して微細な領域に電子を閉じ込める構造を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による微細加工方法を示す図である。
【図2】実施例1に用いた微細加工装置を示す図である。
【図3】実施例3に用いた微細加工装置を示す図である。
【図4】実施例5に用いた微細加工装置を示す図である。
【符号の説明】
101:探針
102:非導電性薄膜
103:導電性基板
104:電源
105:導電性上昇部
106:酸化膜
201:探針
202:GeSb2Te4薄膜
203:Si基板
204:ピエゾ素子
205:電源
206:電流検出装置
207:Z方向位置制御回路
208:XY方向位置制御回路
209:マイクロコンピュータ
301:探針
302:カンチレバー
303:レーザ
304:2分割センサ
305:ポリイミドLB膜
306:Si基板
307:ピエゾ素子
308:電源
309:Z方向位置制御回路
310:XY方向位置制御回路
311:たわみ量検出装置
312:マイクロコンピュータ
Claims (9)
- Si基板上に、GeSb2Te4薄膜、又はラングミュアーブロジェット法により形成されたポリイミド膜からなる非導電性薄膜が設けられている加工試料の微細な領域に電子を閉じ込める構造を形成する微細加工方法であって、
前記非導電性薄膜に対向して配置された探針を、前記非導電性薄膜の加工すべき表面、又は該表面近傍に位置させ、前記Si基板と前記探針との間に電圧を印加して、前記非導電性薄膜の導電率が上昇した導電性上昇部を形成し、
該導電性上昇部を含む前記非導電性薄膜と前記Si基板との界面を酸化させ、該導電性上昇部と前記Si基板とを電気的に絶縁して微細な領域に電子を閉じ込める構造を形成することを特徴とする微細加工方法。 - 前記電圧印加が、無酸素雰囲気中で行われることを特徴とする請求項1に記載の微細加工方法。
- 前記電圧印加は、印加する電圧の探針側の極性を正としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細加工方法。
- 前記非導電性薄膜と前記非導電性基板との界面を酸化するに際して、加熱を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細加工方法。
- 前記酸化が、陽極酸化であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の微細加工方法。
- 前記非導電性薄膜が、ラングミュアーブロジェット法により形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の微細加工方法。
- 前記非導電性薄膜が、ポリイミドであることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の微細加工方法。
- 前記探針は、弾性体により支持された構成を備え、前記電圧印加は該弾性体により支持された探針の先端が前記非導電性薄膜表面に接触した位置で行われることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の微細加工方法。
- 前記微細加工方法は、前記弾性体のたわみ量を検出するステップを含むことを特徴とする請求項8に記載の微細加工方法。
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