JP4034831B2 - 耐トラッキング特性が改善された難燃性ポリエステル樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ポリエステル樹脂が本来有する引張伸びを維持しつつ、優れた耐トラッキング特性を有する難燃性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から周期律表II族a亜族元素であるマグネシウム、カルシウム、バリウムの硫酸塩を含むポリエステル樹脂は、高い耐トラッキング特性を有することが知られている。例えば、特公昭60−10053号公報には、ポリブチレンテレフタレートの剛性および引張り強度を高めるための充填剤として硫酸バリウムを用いると、耐トラッキング特性が著しく改良されることが開示されている。また、特公平4−32111号公報には、ポリエステル樹脂に、硫酸マグネシウムを含有したポリエステル樹脂組成物が開示されている。しかし、充分な耐トラッキング特性を得るために、このような硫酸塩を含有させたポリエステル樹脂組成物は、耐衝撃性、引張伸び等の機械的物性が低下するという欠点を有していた。さらに、耐トラッキング特性の向上のために好適な硫酸塩は、0.1〜数十ミクロン程度の粒状であるために、それ自身は燃焼しないにもかかわらず、難燃性試験におけるグローイング特性が極端に悪化してしまい、一方、グローイングを抑制するために難燃剤を含有させると機械的物性、主として引張伸びが著しく低下するという欠点もある。従って、上記硫酸塩を含有したポリエステル樹脂組成物は、その機械的物性を維持しつつ難燃化することが困難である。
【0003】
また、従来からポリエチレンなどのポリオレフィンは、耐トラッキング特性が非常に優れていることが知られており、耐トラッキング特性に優れたポリエステル樹脂として、ポリオレフィン含有ポリエステル樹脂が用いられている。
【0004】
しかし、充分な耐トラッキング特性を得るために、ポリエステルにポリオレフィンを大量に含有させると、相溶性がないために、ポリエステル樹脂の機械的物性の低下や成形品の相剥離が生じてしまうという問題がある。さらに、ポリオレフィンは、比較的燃焼しやすいことから、燃焼試験における燃焼時間が長くなってしまい、一方、燃焼時間を短くするために難燃剤を含有させると機械的物性が低下してしまう。従って、ポリオレフィン含有ポリエステル樹脂は、その機械的物性を維持しつつ難燃化することが困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、機械的特性および耐トラッキング特性が改良された難燃性ポリエステル樹脂組成物の開発が望まれている。特公平4−32111号公報には、剛性および耐トラッキング特性が改良された難燃性ポリエステル樹脂組成物として、ポリエステル樹脂、硫酸マグネシウムおよび難燃剤を含有して成るポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【0006】
しかしながら、機械的物性、特に引張伸びが充分でないと、ピンインサーションなどにより成形品に割れ、クラックなどが生じやすくなるため、引張伸びが改良され、かつ優れた耐トラッキング特性を有する難燃性ポリエステル樹脂の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、ポリエステル樹脂本来の機械的物性、特に引張伸びを維持しつつ、優れた耐トラッキング特性を有する難燃性ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明は、ポリエチレンテレフタレート15〜80重量部、周期律表II族a亜族元素の硫酸塩5〜30重量部、グリシジル基含有エチレン共重合体2〜10重量部、および臭素化難燃剤5〜30重量部から本質的に成り、相対トラッキング指数が350ボルト以上、引張伸びが1.5%以上、より好ましくは2%以上である難燃性ポリエステル樹脂組成物にある。
ポリエチレンテレフタレートは、体積比3:1の塩化メチレンおよびトリフルオロ酢酸中30℃で少なくとも約0.4の固有粘度を有するものを用いるのが好ましく、約1.2までの固有粘度を有するものを用いるのが好ましい。
【0009】
本発明に用いる周期律表II族a亜族元素の硫酸塩は、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどである。硫酸塩の含有量は得られる成形品の耐トラッキング特性、難燃性および機械的物性、主として引張伸びを考慮して定められるが、本組成物全体に対して5〜30重量部が好ましく、さらに10〜25重量部がより好ましい。含有量が5重量部より少ないと、相対トラッキング特性がUL規格による試験(UL746 A)において350ボルト未満となり、30重量部より多いと、引張伸びが減少し、燃焼試験におけるグローイング特性に問題が生じ、UL規格による燃焼試験(UL94)においてV−0を維持できなくなる。
【0010】
本発明に用いるグリシジル基含有エチレン共重合体は、例えば、エチレン−ブチルアクリレート−グリシジルメタクリレート、エチレン−メチルアクリレート−グリシジルメタクリレート、エチレン−グルシジルメタクリレート、エチレン−グリシジルアクリレート等の共重合体である。グリシジル基含有エチレン共重合体をポリエステル樹脂に用いると耐トラッキング特性が向上し、さらに従来技術で問題となっていたポリオレフィンとポリエステルとの相溶性の問題がないために、ポリエステル樹脂の機械的特性、特に引張伸び,耐衝撃性が低下したり成形品の相剥離を生じてしまうという欠点を解決できる。グリシジル基含有共重合体の含有量は得られる成形品の耐トラッキング特性、難燃性および機械的物性、主として引張伸びを考慮して定められるが、本組成物全体に対して1〜20重量部が好ましく、さらに2〜10重量部がより好ましい。配合量が1重量部より少ないと、相対トラッキング特性が350ボルト未満となりまた、引張伸びが減少し、20重量部より多いと、難燃試験における燃焼時間が長くなり、V−0を維持できなくなる。
【0011】
本発明に用いる臭素化難燃剤は、例えば、ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、ポリペンタブロモスチレン、デカブロモジフェニル、テトラブロモジフェニル、ヘキサブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモジフェニルスルファイド、ヘキサブロモジフェニルスルホン等、公知の難燃剤である。中でも、本発明に好適な臭素化難燃剤は臭素化ポリスチレンである。臭素化難燃剤の含有量は、上記の通り難燃試験におけるグローイング特性が硫酸塩の含有量によって影響され、一方、燃焼時間がグリシジル基含有共重合体の含有量によって影響されることから、難燃性がV−0となるような範囲で、かつ難燃剤は機械的物性を低下させることから、目的に応じた機械的物性を維持できる範囲で定められなければならない。具体的には、本組成物全体に対して5〜30重量部が好ましく、さらに10〜25重量部がより好ましい。
【0012】
本発明の組成物に含有されるガラス繊維、マイカ、ウィスカーなどの無機充填剤は、ポリエステル樹脂、周期律表II族a亜族元素の硫酸塩、グリシジル基含有エチレン共重合体および臭素化難燃剤の混合物100重量部に対して1〜60重量部配合することができる。
【0013】
さらに、本発明のポリエステル樹脂組成物、特にポリエチレンテレフタレート組成物は、低温金型成形性を向上させるため、核剤を含有することが好ましい。核剤としては、ナトリウム化合物および/またはカリウム化合物を用いることができる。これらナトリウム化合物および/またはカリウム化合物の一部または全部をタルクで置き換えても良い。この他各種の核剤も使用することができる。また、本発明の主成分であるポリエステルの一部または全部を、末端がナトリウムまたはナトリウム化したポリエチレンテレフタレートで置き換えてもよい。この末端処理したポリエチレンテレフタレートは、米国特許第4,425,470号明細書に記載されたものであり、同明細書に記載の方法で製造することができる。この末端ナトリウムまたはカリウム化したポリエチレンテレフタレートを使用すれば、核剤を別に添付しなくてもよい場合もある。
【0014】
本発明の組成物は可塑剤を特に添加しなくても良好な溶融粘度を示すが、可塑剤を添加して溶融粘度を調節してもよい。この他、本発明の組成物には、酸化防止剤および安定剤等種々の添加剤を添加することができる。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂組成物を製造するには、溶融混練する方法が用いられ、一般に使用されているバンバリーミキサー、押出し機、各種のニーダー等の混練装置を用いることができる。また、本発明のポリエステル樹脂組成物を製造する際の混練順序については、各成分を一度に混練してもよく、また、無機充填剤をサイドフィーダーから供給してもよい。
【0016】
【作用】
本発明では、ポリエステル樹脂に、所定の範囲から選ばれた周期律表II族a亜族元素の硫酸塩、グリシジル基含有エチレン共重合体および臭素化難燃剤を添加して、相対トラッキング特性および引張り強度を所定の範囲に調節しているので、相対トラッキング特性および引張り強度が共に優れた難燃性ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0017】
【実施例】
本発明を以下の実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0018】
次の表1に示す通りの成分を含有する実施例1〜4および比較例1〜3の組成物を調整し、同表に示す通りの物性値の測定結果を得た。
【0019】
これらの実施例および比較例においては下記の成分を使用した。ポリエチレンテレフタレート(PET)は、デュポン社製のもので、固有粘度は約0.67〜0.58である。硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムは、それぞれ、堺化学工業(株)製、昭和鉱業(株)製、富田製薬(株)製のものを使用した。グリシジル基含有エチレン共重合体は、デュポン社製のものを使用した。ポリトリブロモスチレンは、フェロ社製パイロチェック68PBを使用した。
【0020】
その他核剤としてデュポン社サーリン8920を用いた。各組成物試料には、さらに可塑剤および酸化防止剤も添加した。
【0021】
前記表に示す重量部の樹脂および核剤およびその他の添加剤を、タンブラーで20分間予備混合した後、東芝機械社製二軸押出し機TEM35Bを用い290℃の温度で溶融混練して樹脂組成物を得た。
【0022】
物性試験に関しては、この樹脂組成物を135℃で3時間乾燥した後、成形機を用いてポリエチレンテレフタレート組成物に対して260℃、金型温度80℃で標準物性試験片を作製し、この樹脂組成物の乾燥時の物性を測定した。試験方法は、引張り試験はASTM−638に準拠し、曲げ試験はASTM−790に準拠して行った。ノッチ付アイゾット衝撃試験はD−256に準拠した。また、相対トラッキング特性はUL 746Aにより測定した。さらに、燃焼性は厚さ1/32インチ(約0.8mm)の試験片を使用して、UL 94V垂直燃焼試験に準拠して、燃焼時間およびグローイング時間を測定することによって得られた。
【0023】
【表1】
【0024】
上記の表1に示された測定結果から明かなように、本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂の優れた機械的物性を維持し、耐トラッキング特性に優れかつ引張り強度の優れた難燃性樹脂組成物である。
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のポリエステル樹脂組成物は、周期律表II族a亜族元素の硫酸塩、グリシジル基含有エチレン共重合体および臭素化難燃剤を所定量添加したものであるので、ポリエステル樹脂の優れた機械的物性を維持し、耐トラッキング特性に優れかつ引張り強度の優れた難燃性樹脂組成物である。
Claims (2)
- ポリエチレンテレフタレート15〜80重量部、周期律表II族a亜族元素の硫酸塩5〜30重量部、グリシジル基含有エチレン共重合体2〜10重量部、および臭素化難燃剤5〜30重量部から本質的になり、相対トラッキング指数が350ボルト以上、引張伸びが1.5%以上である難燃性ポリエステル樹脂組成物。
- 前記周期律表II族a亜族元素の硫酸塩が硫酸バリウムまたは硫酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
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