JP4032709B2 - フィルター回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟磁性物質の粉末をゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させてなるタイプの磁性損失材料を使用した、フィルター回路に関する。
【0002】
【従来の技術】
さまざまな電子機器を外部から来るノイズ電磁波から守るために、また、電子機器から外部に電磁波を放射することを防ぐために、さらには電子機器の内部で回路相互の干渉を防ぐために、種々の磁性損失材料が使用されている。
【0003】
それらの中で、軟磁性物質の粉末をゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させてなるタイプの磁性損失材料は、軟磁性物質の種類、粉末の粒度およびアスペクト比、マトリクス中への充填度、シートに成形した場合はその厚さ、などの因子を選択して組み合わせることにより、電磁波の吸収ピーク周波数や吸収性能をコントロールすることができるという利点があり、通常はカレンダリングにより製造したシートの形で、広く用いられつつある。
【0004】
発明者は、これまで、上記したタイプの磁性損失材料について研究し、多数の製品を開発して提案してきた。軟磁性物質としては、たとえばFe−Cr−Al合金が好適であり、その粉末は、合金の溶湯を水またはガスで噴霧して得た噴霧粉が有用であることがわかっている。粉末の形態、すなわち球に近いものであるか扁平に引き延ばされたものであるかは、磁性損失材料の周波数特性に大きな影響を与えるので、所望の吸収特性を得るために必要な場合は、噴霧粉をボールミルやアトライタで処理して、扁平な粉末を用意する。
【0005】
その後の研究において、発明者は、上記したタイプの磁性損失材料に使用する軟磁性物質の粉末として、ほぼ球状の粉末と、それとかけ離れた形状の扁平粉末とを組み合わせて使用し、シート状の磁性損失材料製品とすることを試みたところ、特異な周波数特性が得られることを見出した。具体的には、球状粉末と扁平粉末との配合比を変えることにより、磁性損失材料の周波数特性が変化し、同じ粉末充填率で同じ厚さのシートでも、吸収ピーク周波数が異なるというような現象である。
【0006】
上記したタイプの磁性損失材料は、導体に密接して配置することにより、フィルター回路、とくにローパスフィルターを形成する。このフィルター回路においても、磁性損失材料に分散させる球状粉末と扁平粉末との配合比を変えることによって、その周波数特性が変化することを、発明者は確認した。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
したがって本発明の目的は、上述した発明者が得た新しい知見を利用し、周波数特性とくに吸収ピーク周波数をある範囲内でコントロールすることのできる磁性損失材料と、それを使用したフィルター回路を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成する本発明の磁性損失材料は、軟磁性物質の粉末をゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させてなる磁性損失材料において、軟磁性物質の粉末として、下記2種の軟磁性金属の粉末を、電磁波吸収の周波数特性をコントロールするために、下記の範囲内から選択した割合で配合したものを使用したことを特徴とし、
1)粒径0.1〜100μm、扁平度2以下の球状粉末:20〜80容量%
2)粒径0.1〜50μm、扁平度4以上の扁平粉末: 80〜20容量%
本発明のフィルター回路は、この磁性損失材で、回路基板上の導体表面の少なくとも一部を取り囲んでなる構造を有することを特徴とする。このフィルター回路は、ローパスフィルターまたはノッチフィルターとしてはたらく。
【0009】
ここで、「扁平度」は、扁平な粉末を平面から見たときの長径と短径との平均値を、厚さで除して得られる値である。前記した溶湯噴霧法により製造した軟磁性金属の粉末は、通常、扁平度が1.5内外であり、ほぼ球状をしている。この球状粉末を扁平度4以上の扁平粉末にするためには、前述のように、ボールミルまたはアトライタで処理すればよい。扁平度は、マトリクス中の粉末をSEMで観察し、画像処理することによって測定し、約3000個の平均値をとって「平均扁平度」とする。
【0010】
【発明の実施形態】
分散させる軟磁性物質の粉末としては、フェライト、センダスト、Fe、Fe−Si合金、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Fe−Cr合金、Fe−Cr−Al合金およびFe−Cr−Si合金から選んだ軟磁性物質の噴霧粉が好適である。
【0011】
マトリクスとする材料としては、塩素化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、ポリフェニレンサルファイド、エポキシ樹脂および液晶ポリマーから選んだものが好適である。
【0012】
球状粉と扁平粉との配合割合を前記のように、20:80〜80:20容量%の範囲に選ぶのは、それぞれが20重量%に達しないときは、より大量の粉末の影響が全体を支配し、球状粉と扁平粉とを併用する意義が薄いからである。適切な配合割合は、前記したように、磁性損失材料シートに所望する吸収の周波数特性に応じて、適宜選択する。周波数特性は、いうまでもなく、これも前記したように、軟磁性物質の種類、粉末の扁平度、粉末充填率、シートの厚さによっても影響される。当業者は、この分野で既知の技術に基づき、後記する実施例のデータを参考にして、必要であれば若干の実験を補充することにより、配合割合をはじめとする諸条件を、それぞれの場合に最適となるよう決定することができるであろう。
【0013】
上述の磁性損失材料を使用した本発明のフィルター回路は、たとえば図1に見るように、導体(3)表面の少なくとも一部を、上述に記載した磁性損失材料、ここでは磁性損失材料シート(2)で取り囲んで、図示した例ではシートをかぶせて構成したフィルター回路(1)である。「少なくとも一部を取り囲む」とは、磁性損失材料が、この回路の全長でなく一部分を全周にわたって囲む場合、全長または一部の長さにおいて、周の一部分を囲む(図示した例では片側にある)場合、それらの組み合わされた場合、のすべてを包含する。図1は、後述する実施例のために用意した回路であって、符号(4)は基板を表し、(5,6)は端子を表す。
【0014】
【実施例】
軟磁性金属の粉末としてFe−Cr−Al合金の水噴霧粉であって、粒度を10〜100μmの範囲に選んだものを用意し、一部はそのまま球状粉(扁平度1.5)として使用し、一部は湿式アトライターで処理して、扁平粉(扁平度6.0)とした。マトリクス材料として塩素化ポリエチレンを選び、その中へ、上記の粉末を下記の表1に示す割合で配合(容量%)したものを、各試料の粉末充填率がいずれも約50容積%となるようにカレンダリングにより混合し、混合物をロール圧延して厚さ1mmのシート状の磁性損失体(シートA〜E)とした。
【0015】
【0016】
別に、図1に示した形状と寸法の回路(50Ωライン)を用意した。基板はフッ素樹脂(誘電率εが2.60)の厚さ1.6mmの板で、導体は銅箔の上に金メッキを施してある。
【0017】
この回路の上に、前記のように製造した5種の磁性損失材料シートA〜Eの、幅が基板と同じ45mmのものを長さ100mm、50mmまたは25mmに切断し、得られた長方形のシートを、図1に符号(2)で表した位置に、すなわち、図でシートの左端を回路の中央に合わせ、その右に、シートが100mm、50mmまたは25mm展開するように重ねた。この回路は、図2に示す等価回路として作用するはずであり、したがって、特定の周波数より低い周波数の電流を通すローパスフィルター、または特定の周波数帯域をカットするノッチフィルターとなることが予想される。
【0018】
磁性損失材料シートA〜Eを、100mm、50mmまたは25mm重ねた回路について、ネットワークアナライザーを使用して、6GHzまでの周波数領域における減衰度S21を測定した。その結果を、図3〜12のグラフに示す。使用した磁性損失材料シートおよびその長さと各図の図番との関係は、下の表2に示すとおりである。
【0019】
【0020】
球状粉のみを用いた参考例1〜3では、高周波側で減衰度がだらだらと高まる曲線が観測され、すくなくともこの周波数領域においては、有用な磁性損失材料シートが得られたとは言えない。扁平粉のみを用いた参考例4〜6は、ほぼ一定の吸収ピークが観測され、減衰度は使用した磁性損失材料シートの長さに依存している。これは、ローパスフィルターとして使用できないものではないが、あまり有用とはいえない。これらに対し、実施例1〜4は、吸収ピーク周波数が、実施例1では約4GHz、実施例2および3では約2.5GHz、実施例4では約2GHzと、球状粉/扁平粉の割合に応じて変化し、かつ、吸収がシャープであり、磁性損失材料シートの長さが十分であれば、高い吸収性能が実現している。
【0021】
【発明の効果】
本発明の磁性損失材料は、軟磁性物質の粉末をゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させてなる磁性損失材料において、軟磁性物質の粉末を、球状粉/扁平粉を適切な割合で配合して使用することにより、ある範囲で電磁波吸収の周波数特性をコントロールすることができ、しかも、その吸収性能は高い。
【0022】
この磁性損失材料を使用したフィルター回路は、磁性損失材料の諸要件を適宜に選択することにより、ある範囲でコントロールされた、所望の特性をもつフィルター、とくにローパスフィルターまたはノッチフィルターとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例において試験に使用した回路と、それに磁性損失材料シートを重ねて形成したフィルター回路を示す平面図。
【図2】 図1のフィルター回路の等価回路。
【図3】 本発明の参考例のデータであって、シートAを長さ100mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【図4】 本発明の参考例のデータであって、シートAを長さ50mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【図5】 本発明の参考例のデータであって、シートAを長さ25mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【図6】 本発明の実施例のデータであって、シートBを長さ100mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【図7】 本発明の実施例のデータであって、シートCを長さ100mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【図8】 本発明の実施例のデータであって、シートCを長さ50mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【図9】 本発明の実施例のデータであって、シートDを長さ100mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【図10】 本発明の参考例のデータであって、シートEを長さ100mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【図11】 本発明の参考例のデータであって、シートEを長さ50mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【図12】 本発明の参考例のデータであって、シートEを長さ25mmで使用した場合の、S21の周波数特性を示すグラフ。
【符号の説明】
1 フィルター回路
2 磁性損失材料シート
3 導体
4 基板
5,6 端子
Claims (3)
- ローパスフィルターまたはノッチフィルターとしてはたらくフィルター回路であって、下記2種の軟磁性金属の粉末を、電磁波吸収の周波数特性をコントロールするために、下記の範囲内から選択した割合で配合したものを、
1)粒径0.1〜100μm、扁平度2以下の球状粉:20〜80容量%
2)粒径0.1〜50μm、扁平度4以上の扁平粉: 80〜20容量%
ゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させてなる磁性損失材料で、回路基板上の導体表面の少なくとも一部を取り囲んでなる構造を有するフィルター回路。 - 分散させる軟磁性物質の粉末として、フェライト、センダスト、Fe、Fe−Si合金、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Fe−Cr合金、Fe−Cr−Al合金およびFe−Cr−Si合金から選んだ軟磁性物質の噴霧粉を採用し、球状粉はそのまま、扁平粉はアトライター処理を施して使用した磁性損失材料を用いた請求項1のフィルター回路。
- マトリクスとする材料として、塩素化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、ポリフェニレンサルファイド、エポキシ樹脂および液晶ポリマーから選んだものを使用した磁性損失材料を用いた請求項1のフィルター回路。
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