JP4028274B2 - 耐食性材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐食性材料に関し、更に詳しくは、特に半導体製造装置に好適に用いられ、フッ素系腐食性ガス、塩素系腐食性ガス等のハロゲン系腐食性ガス及びこれらのプラズマガスに対して高い耐食性を有し、さらには優れた導電性、耐酸化性をも有する耐食性材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、IC、LSI、VLSI等の半導体装置の製造ラインにおいては、フッ素系腐食性ガス、塩素系腐食性ガス等のハロゲン系腐食性ガス及びこれらのプラズマガスを用いる工程があり、なかでもドライエッチング工程やクリーニング工程においては、上記の腐食性ガスやプラズマガスによる半導体製造装置内の構成部材の腐食が問題となっている。そこで、従来では、耐食性材料として、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、アルマイト等の金属系材料や、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素等のセラミックスが使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来の耐食性材料では、プラズマ中における耐食性が必ずしも十分とはいえず、また、消耗も激しく、特に金属材料においては、ウエハ表面を汚染するパーティクルの原因となっていた。そこで、近年においては、耐食性を改善するために、金属やセラミックス等の基材の表面をダイヤモンド被膜やダイヤモンド含有炭素被膜で被覆することが試みられている。この場合、ダイヤモンド被膜やダイヤモンド含有炭素被膜から基材への炭素の拡散が生じる虞があるので、基材と被膜との間に炭化物やチタン金属等からなる中間膜を導入し、炭素の拡散を抑制する必要がある。
【0004】
しかしながら、この中間膜と基材とは、結晶構造及び結晶系が異なるために、界面においては挌子不整に伴い歪が発生し易くなり、この歪のために、中間膜が脆くなり剥離し易くなるという問題点があった。
また、基材として炭化物系のセラミックスを用いた場合、上記の中間膜は不要となるものの、この上に形成される被膜との密着性が十分でなく、剥離し易く、より一層の密着性の改善が求められていた。
更に、導電性に優れた耐食性材料の出現が、例えば半導体製造装置等の技術分野で強く望まれていた。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、フッ素系腐食性ガス、塩素系腐食性ガス等のハロゲン系腐食性ガスおよびこれらのプラズマガスに対して高い耐食性を有するのは勿論のこと、基材との密着性が良好で剥離する虞がなく、さらには、優れた導電性、耐酸化性も有する耐食性材料を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上述した従来の技術が有する問題点を解決すべく鋭意検討した結果、基材の表面を被膜で被覆した被覆型耐食性材料において、前記基材に特殊な炭化珪素焼結体を用いれば、上記課題を効率的に解決し得ることを知見し、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明者等は、前記被覆型耐食性材料の基材として、焼結助剤を実質的に添加することなく焼成された炭化珪素焼結体を用いれば、フッ素系腐食性ガス、塩素系腐蝕性ガス等のハロゲン系腐食性ガス及びこれらのプラズマガスに対して高い耐食性を有することは勿論のこと、基材と被膜との密着性が良好であり、剥離する虞がないことを究明した。
また、本発明者等は、前記ダイヤモンド含有炭素被膜を、臭素を除くハロゲン系の腐食性ガスや、そのプラズマガスに曝してハロゲン化処理し、前記ダイヤモンド含有炭素被膜にC−X結合(ただし、XはF、Cl、Iから選択された1種または2種以上)を導入すると、耐酸化性が向上することを究明した。
【0008】
本発明の耐食性材料は、焼結助剤を添加せずに焼成して得られる炭化珪素焼結体を基材とし、この基材の少なくとも一部をダイヤモンド含有炭素被膜により被覆してなり、前記ダイヤモンド含有炭素被膜は、主成分とされる炭素のうち一部の炭素がC−X結合(ただし、XはF、Cl、Iから選択された1種または2種以上)を有してなることを特徴とする。
【0009】
ここで、「焼結助剤を添加せず」とは、焼結性を改善する等のために少量添加される、例えば、炭化ホウ素、窒化ホウ素、酸化アルミニウム等の焼結助剤を意図的に添加しないことを意味する。なお、炭化珪素粉末を作製する際に随伴して導入される、例えば、Na、Mg、K、Ca、Ti、Mn、Ni等の金属、またはその酸化物等の不可避不純物の含有率は合計で300ppm程度以下であれば許容され、更に、炭化珪素粉末を作製する際に随伴して導入される炭素の含有率も5重量%程度以下であれば許容される。
【0010】
また、上記の「ダイヤモンド含有炭素被膜」とは、少なくともダイヤモンドを含有する炭素被膜の意であり、ダイヤモンドを含有するグラファイト被膜、ダイヤモンドを含有する無定型炭素被膜等のダイヤモンドとダイヤモンド以外の炭素との複合被膜、ダイヤモンド被膜等を含む。
【0011】
また、本発明者等は、前記炭化珪素焼結体の結晶形がβ型、即ち立方晶系であると、基材とダイヤモンド含有炭素被膜との密着性がより一層向上することを究明した。
すなわち、前記炭化珪素焼結体は、β型結晶粒子を70容量%以上含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明者等は、平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末(β型が好ましい)と、Ar等の非酸化性雰囲気のプラズマ中に、シラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化珪素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1.01×105Pa(1気圧)〜1.33×10Pa(0.1torr)の範囲で制御しつつ気相反応させることにより合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末(β型が好ましい)とを出発原料とする炭化珪素焼結体は、β型、即ち立方晶系の含有量が多く密着性がより一層改善され、しかも、この炭化珪素焼結体は体積固有抵抗値が1Ωcm以下で導電性にも優れたものであるから、耐食性材料に導電性を付与することもでき、耐食性材料の基材として好適であることを究明した。
【0013】
すなわち、前記炭化珪素焼結体は、平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中に、シラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1.01×105Pa(1気圧)〜1.33×10Pa(0.1torr)の範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを混合し、この混合粉末を焼成して得られることが好ましい。
【0014】
また、本発明者等は、Ar等の非酸化性雰囲気のプラズマ中に、シラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化珪素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1.01×105Pa(1気圧)〜1.33×10Pa(0.1torr)の範囲で制御しつつ気相反応させることにより合成された平均粒子径が0.1μm以下の炭化珪素粉末(β型が好ましい)を出発原料とする炭化珪素焼結体も、上記の炭化珪素焼結体と同様、β型、即ち立方晶系の含有量が多く密着性がより一層改善され、しかも、この炭化珪素焼結体は体積固有抵抗値が1Ωcm以下で導電性にも優れたものであるから、耐食性材料に導電性を付与することもでき、耐食性材料の基材として好適であることを究明した。
【0015】
すなわち、前記炭化珪素焼結体は、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1.01×105Pa(1気圧)〜1.33×10Pa(0.1torr)の範囲で制御しつつ気相反応させることにより合成された平均粒子径が0.1μm以下の炭化珪素粉末を焼成して得られることが好ましい。
【0016】
また、本発明者等は、前記ダイヤモンド含有炭素被膜として化学気相法により合成されたものを用いると、このダイヤモンド含有炭素被膜は緻密であり、しかも、ダイヤモンド単結晶やダイヤモンド多結晶を多量に含むダイヤモンド含有炭素被膜となり、耐磨耗性や化学的耐食性に優れることを究明した。
すなわち、前記ダイヤモンド含有炭素被膜は、化学気相法により合成して得られることが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の耐食性材料の一実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
以下、本実施形態の耐食性材料について説明する。
本実施形態に係る耐食性材料は、基材と、この基材の少なくとも一部を被覆する被膜とにより構成され、前記基材は、焼結助剤を添加せずに焼成して得られる炭化珪素焼結体により構成され、前記被膜は、ダイヤモンド含有炭素被膜により構成されている。
このダイヤモンド含有炭素被膜は、その最表面の炭素原子にC−X結合(ただし、XはF、Cl、Iから選択された1種または2種以上)を導入すれば、耐酸化性に優れたC−X結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜となる。
【0020】
以下、本実施形態の耐食性材料を、基材、ダイヤモンド含有炭素被膜、C−X結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜に項分けして、さらに説明する。
【0021】
「基材」
この基材を構成する焼結助剤を添加せずに焼成して得られる炭化珪素焼結体としては、焼結助剤を実質的に添加することなく焼成された高純度のものであればよく、特に限定されることなく使用できるが、以下のいずれかの炭化珪素焼結体は、β型、即ち立方晶の結晶粒子の含有量が多く、高純度で、しかも、体積固有抵抗値が1Ωcm以下、例えば、1×10-2〜1×10-1Ωcm程度と導電性にも優れているので、基材とダイヤモンド含有炭素被膜との密着性が向上し、耐食性材料に導電性を付与することができるので、特に好ましい。
【0022】
「第1の炭化珪素焼結体」
平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、Ar等の非酸化性雰囲気のプラズマ中に、シラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化珪素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1.01×105Pa(1気圧)〜1.33×10Pa(0.1torr)の範囲で制御しつつ気相反応させることにより合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを、所定の配合比となるように秤量・混合し、この混合物を所定の形状に成形し、この成形体を所定の温度で焼成して得られる炭化珪素焼結体。
【0023】
「第2の炭化珪素焼結体」
Ar等の非酸化性雰囲気のプラズマ中に、シラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化珪素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1.01×105Pa(1気圧)〜1.33×10Pa(0.1torr)の範囲で制御しつつ気相反応させることにより合成された平均粒子径が0.1μm以下の炭化珪素粉末を所定の形状に成形し、この成形体を所定の温度で焼成して得られる炭化珪素焼結体。
なお、上記の第1及び第2の炭化珪素焼結体の製造方法については、特許第2726694号、特許第2732408号に開示されており、容易に製造することが可能である。
【0024】
次に、これら第1及び第2の炭化珪素焼結体の製造方法について説明する。
「第1の炭化珪素焼結体」
まず、平均粒子径が0.1〜10μmの(第1の)炭化珪素粉末と、平均粒子径が0.1μm以下の炭化珪素微粉末(第2の炭化珪素粉末)とを用意する。
ここで、炭化珪素粉末としては、一般に使用されるものでよく、例えば、シリカ還元法、金属珪素(Si)直接炭化法等の方法により作製されたものが好適に用いられる。
ただし、半導体製造工程において使用されるドライエッチング装置用の電極材を作製する場合には、高純度の炭化珪素粉末を使用するのが望ましい。この炭化珪素粉末の結晶相としては、非晶質、α型、β型、あるいはこれらの混合相のいずれでもよい。また、この炭化珪素粉末の平均粒子径としては、焼結性を向上させ得る点から0.1〜2μmが好ましい。
【0025】
また、炭化珪素微粉末としては、Ar等の非酸化性雰囲気のプラズマ中に、シラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化珪素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1.01×105Pa(1気圧)〜1.33×10Pa(0.1torr)の範囲で制御しつつ気相反応させることにより合成されたものを使用する。
例えば、モノシランとメタンとからなる原料ガスを、高周波により励起されたアルゴンプラズマ中に導入して合成を行うと、平均粒子径が0.02μmで、アスペクト比の小さいβ型の炭化珪素微粉末が得られる。このようにして得られたβ型の炭化珪素微粉末は、焼結性が非常に優れているので、上記の炭化珪素粉末と単に混合するのみで、焼結助剤を添加することなく高純度、緻密質かつ導電性の炭化珪素焼結体が得られる。
【0026】
次いで、上記の炭化珪素粉末と炭化珪素微粉末とを混合する。混合するにあたっては、炭化珪素微粉末の配合量を全体の0.5〜50重量%とするのが好適である。その理由は、炭化珪素微粉末の配合量を0.5重量%未満とすると、炭化珪素微粉末による緻密化が十分に発揮されず、焼結密度の高い(緻密な)焼結体が得られないからであり、また、配合量が50重量%を越えると、焼結密度がほぼ横ばいになり、配合量をそれ以上増加したとしても、それ以上の効果が得られないからである。
【0027】
次いで、上記の混合物を所望する形状に成形し、得られた成形体を1800℃〜2400℃の温度範囲で焼成することにより、焼結助剤を何ら添加することなく、高純度、緻密質かつ導電性の炭化珪素焼結体が得られる。
成形にあたっては、プレス成形法、押し出し成形法、射出成形法等の従来から公知の方法を採用することができる。この場合、成形バインダーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、アクリル樹脂系バインダー等を使用することができ、必要に応じてステアリン酸塩等の分散剤を添加してもよい。
【0028】
また、焼成にあたっては、常圧焼結法(普通焼結法)、雰囲気加圧焼結法、ホットプレス法、あるいは熱間静水圧法(HIP)等の従来の焼成方法が採用可能であるが、より高密度で導電性に優れた炭化珪素焼結体を得るためには、ホットプレス法等の加圧焼結法を採用することが望ましい。
【0029】
焼成温度についても特に限定されるものではないが、1800℃〜2400℃の温度範囲で焼成することが好ましい理由は、1800℃より低い温度では焼成が不十分となり、所望の焼結密度の焼結体が得られず、また、2400℃より高い温度では炭化珪素の蒸発が起こり易くなり、粒子の成長により焼結体の機械的強度や靭性が低下し、緻密質の焼結体が得られないからである。
また、焼成時の雰囲気としては、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気のいずれも採用可能である。
【0030】
このようにして得られた炭化珪素焼結体は、β型結晶粒子、すなわち立方晶の結晶粒子を70〜100容量%程度含有し、焼結体密度が2.8g/cm3以上と理論密度に極めて近くなり、さらに、機械的強度も十分となることから、加工時や装置への取り付け時における破損の発生を防止することができる。
また、ハンドリングに過剰な注意を要することもなくなり、本実施形態に係る耐食性材料における基材として好適なものとなる。
【0031】
「第2の炭化珪素焼結体」
この第2の炭化珪素焼結体は、上述した第1の炭化珪素焼結体における炭化珪素微粉末を焼結助剤を添加することなく焼成して得られたもので、β型、即ち立方晶の結晶粒子の含有量が多く、高純度で、しかも、導電性に優れているという特徴を有する。
【0032】
また、この炭化珪素微粉末は、高純度ガスを原料として合成されているので、含まれる不純物量が数ppm以下で極めて純度が高く、この炭化珪素微粉末を出発原料とした第2の炭化珪素焼結体は極めて高純度なものとなっている。
したがって、何らかの理由でダイヤモンド含有炭素被膜が損傷したような場合においても汚染源とはならないので、上述したドライエッチング装置用の電極材等のように高純度が要求される耐食性材料の基材として好適に用いられる。
なお、成形条件、焼成条件等は、上述した第1の炭化珪素焼結体のそれに準ずればよい。
【0033】
上記の第1または第2の炭化珪素焼結体からなる基材は、所望の形状に加工した後、大気中で熱処理を施して当該基材の表面の余分な遊離炭素を燃焼させた後、フッ酸への浸漬処理等により当該基材の表面に形成されたSiO2成分を溶解、除去したものが好ましい。
上記の熱処理の温度は400〜1500℃、特に600〜1000℃が好ましい。その理由は、熱処理温度が400℃以下では、基材の表面の遊離炭素が完全に燃焼されないために炭素を充分に除去することができず、また、1500℃以上では、基材の表面が酸化されて表面の一部または全部が酸化物と化するので好ましくないからである。
また、上記の熱処理に要する時間は、特に限定されるものではなく、通常、1〜40時間である。その理由は、熱処理時間が1時間未満であると、基材の表面の遊離炭素が完全に燃焼されないために炭素の除去効率が低く、また、40時間を超えても基材の表面の遊離炭素の除去効率が向上することはないので、無意味である。
【0034】
「ダイヤモンド含有炭素被膜」
このダイヤモンド含有炭素被膜は、上記の第1または第2の炭化珪素焼結体からなる基材の表面に形成されるものであるから、基材の熱膨張係数に近似する熱膨張係数を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ダイヤモンド単結晶粒子、ダイヤモンド多結晶粒子、ダイヤモンド様カーボン粒子等の炭素粒子から構成され、その組成は概ね次のとおりである。
【0035】
また、このダイヤモンド含有炭素被膜の厚みも特に限定されるものではないが、通常、1〜100μmの範囲の厚みが好ましい。なぜならば、この厚みが1μmを下回ると、基材の表面が完全には被覆されず、耐酸化性が不十分となるからであり、一方、100μmを超えると、成膜に多大な時間を要するために経済的でない他、例えば基材の表面に形成された凹凸や溝までが被膜により埋没してしまう等の不具合が生じ、基材の表面形状が変化する虞があるからである。
【0036】
このダイヤモンド含有炭素被膜を基材の表面に形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、プラズマ気相法等の化学気相法は、緻密な膜を形成することが可能であり、また、ダイヤモンド単結晶粒子やダイヤモンド多結晶粒子を多量に含むダイヤモンド含有炭素被膜を成膜し得るので好適に用いられる。
【0037】
このダイヤモンド含有炭素被膜を成膜する際に用いられる原料としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、一酸化炭素、二酸化炭素、アルコール類等、その構造中に炭素原子を含み、容易に気相種となり得る炭素化合物が好適である。また、これらの炭素化合物をプラズマ化し得るプラズマ励起源としては、マイクロ波、直流グロー放電、直流アーク放電、高周波加熱、熱フィラメントの通電による加熱等、いずれをも利用することができる。
【0038】
このダイヤモンド含有炭素被膜を成膜する際には、上記の化学気相法のなかでも、特に、マイクロ波プラズマCVD法が好適に用いられる。このマイクロ波プラズマCVD法は、従来から知られている公知の方法でよく、マイクロ波がプラズマ反応チャンバー内で定在波を形成した状態で、上記の炭素化合物からなる原料ガスをあらかじめ加熱してある基材表面上で分解、プラズマ化させることにより、基材上に被膜を成長させる方法である。
【0039】
既に述べた様に、原料ガスとしては、炭素原子を含み、かつ容易に気相種とすることができる炭素化合物を適宜選択使用することができるが、好ましくは、メタン、水素の混合ガスを用い、より好ましくは、メタンと水素との混合比率が
CH4:H2=0.1〜10.0容量%:99.9〜90.0容量%
である混合ガスが、ダイヤモンド単結晶粒子やダイヤモンド多結晶粒子を多量に含むダイヤモンド含有炭素被膜を成膜し得る他、余分な炭素成分が反応チャンバー内壁に付着するのが抑制されるので好適である。
【0040】
原料ガスのプラズマ反応チャンバー内への流量は、通常、1〜500sccm、好ましくは10〜200sccmが好適である。その理由は、原料ガスの流量が1sccmを下回ると、反応効率が低下するために好ましくないからであり、一方、500sccmを超えると、プラズマ反応チャンバー内にてガスの強制対流が生じ、プラズマを安定に保つことが困難になるからである。
プラズマ反応チャンバー内における反応圧力は、通常7.5×10-4Pa〜4Pa、好ましくは7.5×10-3Pa〜1.5Paである。なぜならば、反応圧力が7.5×10-4Pa未満では、ダイヤモンド含有炭素被膜の成長速度が遅く、所望の厚みの被膜を成膜するのに多大な時間を要するからであり、一方、4Paを超えると、プラズマが消失してしまい成膜が不可能になるからである。
【0041】
「C−X結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜」
このC−X結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜は、上述したダイヤモンド含有炭素被膜の最表面の炭素原子に、臭素(Br)元素を除くハロゲン系の腐食性ガスや、そのプラズマガスに曝してハロゲン化処理し、このダイヤモンド含有炭素被膜にC−X結合(ただし、XはF、Cl、Iから選択された1種または2種以上)を導入したものであり、耐酸化性に優れている。
【0042】
ダイヤモンド含有炭素被膜にC−X結合を導入する方法としては、上記のダイヤモンド含有炭素被膜により被覆された上記の第1または第2の炭化珪素焼結体からなる基材を、フッ化窒素、フッ化炭素、フッ素ガス、四塩化炭素、塩化水素、ヨウ化水素等、臭素以外のハロゲン元素を含む気体物質の存在の下、定圧で励起した、臭素以外のハロゲン元素(F、Cl、I)を含有するプラズマに曝す方法を例示することができる。
ダイヤモンド含有炭素被膜に導入されるC−X結合としては、C−F結合、C−Cl結合、C−I結合のうちの少なくとも1種であればよいが、ダイヤモンド含有炭素被膜の耐久性の観点からはC−F結合が好適である。
【0043】
このようなC−X結合(ただし、XはF、Cl、Iから選択された1種または2種以上)導入によるダイヤモンド含有炭素被膜の表面改質は、プラズマ反応チャンバー内にて基材上にダイヤモンド含有炭素被膜を形成した直後に、このチャンバー内のガスを入れ替え、再度プラズマを発生させて行ってもよく、また、ダイヤモンド含有炭素被膜が被覆された炭化珪素焼結体からなる基材を一旦系外へ取り出し、検査、確認後、別途に行っても良い。
【0044】
この表面改質に用いられるプラズマ励起源発生方法としては、放電によってプラズマを発生し、ダイヤモンド含有炭素被膜の表面を改質することができる方法であれば何れの方法でも良く、例えば、マイクロ波、直流グロー放電、直流アーク放電、高周波加熱、熱フィラメントの通電による加熱等のいずれも利用することができる。
【0045】
プラズマ反応チャンバー内における反応圧力は、通常7.5×10-4Pa〜4Pa、好ましくは7.5×10-3Pa〜1.5Paである。その理由は、反応圧力が7.5×10-4Pa未満では、ダイヤモンド含有炭素被膜の改質効率が低く、所望の表面改質を行うのに多大な時間を要するからであり、一方、4Paを超えると、プラズマが不安定となり均質な表面改質を行うことができなくなるからである。
また、反応温度は300〜500℃が好ましい。反応温度がこの範囲を外れると、表面改質の効率が低下するからである。
【0046】
このようにして形成されたC−X結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜は、102〜103Ωcm程度の体積固有抵抗値を有し、導電性に優れている。したがって、炭化珪素焼結体からなる基材の表面を上記のC−X結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜で被覆しても、基材の導電性を大きく損なうことはない。
以上により、焼結助剤を添加せずに焼成して得られる炭化珪素焼結体からなる基材の表面をC−X結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜で覆った被覆型耐食性材料は、導電性を兼ね備えた材料となり、例えば、耐食性雰囲気下で用いられるヒータ材料として好適なものとなる。
【0047】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0048】
「参考例1」
炭化珪素粉末として、平均粒子径が1.1μmのβ型炭化珪素粉末(第1の炭化珪素粉末:イビデン(株)製、ベータランダム)を使用した。この炭化珪素粉末95重量部に、モノシランとメタンとを原料ガスとしてプラズマCVD法により気相合成して得た平均粒子径0.02μmのβ型炭化珪素微粉末(第2の炭化珪素粉末)を5重量部添加し、これをメタノール等の溶媒中にて分散せしめ、さらにボールミルで12時間混合した。その後、脱溶媒、乾燥して、β型炭化珪素微粉末がβ型炭化珪素粉末中に均一に分散した混合物を得た。
【0049】
次いで、この混合物を内径210mmの黒鉛製モールドに充填し、ホットプレス装置により、アルゴン雰囲気下、プレス圧400Kg/cm2、焼結温度2200℃の条件で90分間加圧焼成し、円板状の炭化珪素焼結体を得た。
得られた炭化珪素焼結体の密度は3.22g/cm3であり、X線回析法による構造解析の結果、β型、すなわち立方晶の結晶粒子の含有量は100容量%であった。
また、この炭化珪素焼結体の体積固有抵抗値を、ガード電極を備えた抵抗測定装置を用いて測定したところ、8×10-2Ωcmであった。
【0050】
次いで、得られた炭化珪素焼結体を、大気中800℃で15時間加熱処理して表面に残存する遊離炭素を除去した後、45℃のフッ酸水溶液で5時間処理して表層のSiO2を溶解し除去した。
この炭化珪素焼結体からなる基材(以下、単に基材と称することもある)をマイクロ波プラズマCVD装置のプラズマ反応チャンバー内に配置し、この基材を900℃に加熱した状態で、2容量%のCH4を含むH2ガスを、その反応圧力が0.6Paとなるように前記プラズマ反応チャンバー内に導入しながら、5時間、マイクロ波出力600Wでプラズマを形成しつつ上記の基材の表面にダイヤモンド含有炭素被膜を形成し、参考例1の耐食性材料を得た。
【0051】
この耐食性材料のダイヤモンド含有炭素被膜の厚みを走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、その膜厚は中心部、外周部ともに2μmであり、均一な膜であった。
また、このダイヤモンド含有炭素被膜の組成及び構造をラマン分光分析法にて分析したところ、1333cm-1に現れるダイヤモンドのラマンシフトの半価幅(半値幅)は6cm-1であり、1550cm-1を中心とするダイヤモンド様カーボンのラマンシフトと1333cm-1を中心とするダイヤモンドのラマンシフトの強度比Isp2/sp3は0.1であった。以上により、上記のダイヤモンド含有炭素被膜は、良質なダイヤモンド多結晶粒子を含有する炭素被膜であることが確認された。
また、このダイヤモンド含有炭素被膜の体積固有抵抗値を同様に測定したところ、4×102Ωcmであった。
【0052】
「実施例1」
参考例1に準じて、ダイヤモンド含有炭素被膜で表面が被覆された炭化珪素焼結体からなる基材を得た。次いで、この基材をマイクロ波プラズマCVD装置のプラズマ反応チャンバー内に配置し、この基材を400℃に加熱した状態で、100%のNF3ガスを、その反応圧力が7.6×10−4Paとなるように20sccmの流速で前記プラズマ反応チャンバー内に導入しながら、10分間、マイクロ波出力500Wでプラズマを形成しつつ上記のダイヤモンド含有炭素被膜の表層にC−F結合を導入した。
【0053】
得られたC−F結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜の構造をESCA(electron spectroscopy for chemical analysis)により評価したところ、フッ素と炭素の原子数比F/Cが0.9であり、被膜の表層にC−F結合が形成されていることが確認された。
また、このC−F結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜の体積固有抵抗値を参考例1と同様に測定したところ、4×102Ωcmであった。
【0054】
「参考例2」
参考例1にて用いたβ型炭化珪素微粉末(第2の炭化珪素粉末)を、参考例1と同一の条件で焼成して炭化珪素焼結体を得た。この炭化珪素焼結体の密度は3.22g/cm3であり、X線回析法による構造解析の結果、β型、すなわち立方晶の結晶粒子の含有量は100容量%であった。
また、この炭化珪素焼結体の体積固有抵抗値を参考例1と同様に測定したところ、2×10−2Ωcmであった。
次いで、この炭化珪素焼結体の表面に、参考例1に準じてダイヤモンド含有炭素被膜を形成し、参考例2の耐食性材料を得た。
【0055】
「実施例2」
参考例2に準じてダイヤモンド含有炭素被膜で被覆された炭化珪素焼結体を得た。次いで、このダイヤモンド含有炭素被膜に実施例1に準じてC−F結合を導入し、実施例2の耐食性材料を得た。
【0056】
「比較例1」
参考例1に用いた炭化珪素粉末(第1の炭化珪素粉末)99.5重量部に、焼結助剤としての炭化ホウ素を0.5重量部添加して、これらを混合し、この混合粉末を参考例1と同一の条件で焼成して炭化珪素焼結体を得た。この炭化珪素焼結体の密度は3.21g/cm3であり、X線回析法による構造解析の結果、β型、すなわち立方晶の結晶粒子の含有量は60容量%であった。
次いで、この炭化珪素焼結体の表面に、参考例1に準じてダイヤモンド含有炭素被膜を形成し、比較例1の耐食性材料を得た。
【0057】
「比較例2」
比較例1に準じてダイヤモンド含有炭素被膜が表面に形成された炭化珪素焼結体を得た。次いで、このダイヤモンド含有炭素被膜に実施例1に準じてC−F結合を導入し、比較例2の耐食性材料を得た。
【0058】
「比較例3」
市販のアルミナ粉末を温度1600℃にて焼成し、参考例1と同形状のアルミナ焼結体を得た。このアルミナ焼結体の表面に、スパッタリング法にてチタン(Ti)からなる厚み0.1μmの中間膜を形成し、続いて、この中間膜上に参考例1に準じてダイヤモンド含有炭素被膜を形成し、比較例3の耐食性材料を得た。
【0059】
「評価」
実施例1、2、参考例1、2及び比較例1〜3の各耐食性材料について、基材とダイヤモンド含有炭素被膜との密着性、ダイヤモンド含有炭素被膜の耐酸化性及び耐食性の各項目について評価を行った。
これらの評価方法は次のとおりである。
【0060】
「密着性」
ダイヤモンド含有炭素被膜にロックウェル圧子を60kgf/cm2の荷重で押圧し、押圧箇所における被膜の剥離の有無を目視にて観察することにより、耐食性材料の基材とダイヤモンド含有炭素被膜との密着性を評価した。評価基準は次のとおりである。
○:異常なし △:一部剥離あり ×:完全に剥離
【0061】
「耐酸化性」
耐食性材料を赤外線集光炉内に配置し、この炉内を一旦真空度:7.6×10-4Paの真空状態とし、この炉内に100%酸素を導入して酸素圧を1.33×10Paとし、この雰囲気下で上記の耐食性材料を加熱処理した。ここでは、昇温速度5℃/secで600℃まで昇温させ、この温度にて30分間保持し、その後、放冷し、室温(25℃)まで冷却した。
この加熱処理の前後で、表面粗さ計を用いてダイヤモンド含有炭素被膜の膜厚を測定し、酸化による消耗速度(μm/hr)を算出した。
【0062】
「耐食性」
耐食性材料を、圧力1.3×103Paのフッ化炭素(CF4)プラズマに、800℃で10分間暴露した。暴露の前後で、表面粗さ計を用いてダイヤモンド含有炭素被膜の膜厚を測定し、フッ化炭素(CF4)プラズマによる消耗速度(μm/hr)を算出した。
これらの評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1によれば、実施例1、2及び参考例1、2では、被膜の剥離が全く認められず、密着性が良好であることが分かった。また、フッ化炭素(CF4)プラズマによる消耗速度(μm/hr)も極めて小さく、耐食性が良好であることが分かった。
一方、比較例1〜3では、被膜の一部に剥離が認められ、実施例1、2及び参考例1、2と比べて密着性が低下していることが分かった。また、フッ化炭素(CF4)プラズマによる消耗速度(μm/hr)は極めて小さく、耐食性は実施例1、2及び参考例1、2と遜色が無かった。
【0065】
また、参考例1、2では、比較例1と比べて酸化による消耗速度(μm/hr)が小さく、耐酸化性に優れていることが分かった。これにより、焼結助剤無添加の炭化珪素焼結体上に形成されたダイヤモンド含有炭素被膜は、焼結助剤を添加した炭化珪素焼結体上の被膜と比べて膜質が良質であることが分かった。
また、実施例1、2では、参考例1、2と比べて酸化による消耗速度(μm/hr)が小さく、C−F結合導入ダイヤモンド含有炭素被膜の耐酸化性が極めて優れていることが分かった。
【0066】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の耐食性材料によれば、焼結助剤を添加せずに焼成して得られる炭化珪素焼結体を基材とし、この基材の少なくとも一部をダイヤモンド含有炭素被膜により被覆したので、フッ素系腐食性ガス、塩素系腐食性ガス等のハロゲン系腐食性ガスおよびこれらのプラズマガスに対する耐食性を向上させることができ、基材との密着性を向上させることができ、剥離する虞がない。また、この炭化珪素焼結体そのものが導電性を有するので、優れた導電性をも付与することができる。
また、前記ダイヤモンド含有炭素被膜の主成分とされる炭素のうちの一部の炭素にC−X結合(ただし、XはF、Cl、Iから選択された1種または2種以上)を導入することにより、耐食性、密着性に加えて、耐酸化性を向上させることができる。
【0067】
また、前記炭化珪素焼結体がβ型結晶粒子を70容量%以上含有することにより、基材とダイヤモンド含有炭素被膜との密着性をより一層向上させることができる。
また、前記ダイヤモンド含有炭素被膜を化学気相法により合成して得ることにより、ダイヤモンド単結晶やダイヤモンド多結晶を多量に含むダイヤモンド含有炭素被膜となり、ダイヤモンド含有炭素被膜の緻密性、耐磨耗性及び化学的耐食性を高めることができる。
Claims (5)
- 焼結助剤を添加せずに焼成して得られる炭化珪素焼結体を基材とし、この基材の少なくとも一部をダイヤモンド含有炭素被膜により被覆してなり、
前記ダイヤモンド含有炭素被膜は、主成分とされる炭素のうち一部の炭素がC−X結合(ただし、XはF、Cl、Iから選択された1種または2種以上)を有してなることを特徴とする耐食性材料。 - 前記炭化珪素焼結体は、β型結晶粒子を70容量%以上含有してなることを特徴とする請求項1記載の耐食性材料。
- 前記炭化珪素焼結体は、平均粒子径が0.1〜10μmの第1の炭化珪素粉末と、非酸化性雰囲気のプラズマ中に、シラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1.01×105Pa(1気圧)〜1.33×10Pa(0.1torr)の範囲で制御しつつ気相反応させることによって合成された平均粒子径が0.1μm以下の第2の炭化珪素粉末とを混合し、この混合粉末を焼成して得られることを特徴とする請求項1または2記載の耐食性材料。
- 前記炭化珪素焼結体は、非酸化性雰囲気のプラズマ中にシラン化合物またはハロゲン化珪素と炭化水素とからなる原料ガスを導入し、反応系の圧力を1.01×105Pa(1気圧)〜1.33×10Pa(0.1torr)の範囲で制御しつつ気相反応させることにより合成された平均粒子径が0.1μm以下の炭化珪素粉末を焼成して得られることを特徴とする請求項1または2記載の耐食性材料。
- 前記ダイヤモンド含有炭素被膜は、化学気相法により合成して得られることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の耐食性材料。
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