JP4027865B2 - 潤滑処理金属材とその製造方法 - Google Patents

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本発明は、基材金属の表面に耐型かじり性に優れた非脱膜型の潤滑処理皮膜を有する潤滑処理金属材であって、昨今有害とされている6価クロムおよび3価クロムを含有するクロメート処理を塗装下地処理として使用しない、環境負荷に考慮した潤滑処理金属材に関する。
金属材を塑性加工する際に、潤滑剤を使用して金型と金属材との潤滑性を高め、加工時に加えられる加重を低減したり、焼き付きを防止したりする技術が従来から用いられている。しかし、近年、使用後の潤滑剤の除去処理など、環境問題への対応や、コスト低減のために、需要家が加工時にプレス油等の潤滑剤を塗布するのではなく、金属材の製造段階で、または需要家へ引き渡されるまでの適当な段階で、金属表面に潤滑剤を含有する固体有機皮膜 (以下、潤滑処理皮膜という) を予め塗布した潤滑処理金属材が多用されるようになってきた。
潤滑処理金属材は、脱膜型と非脱膜型の2種類に大別される。脱膜型の潤滑処理金属材とは、塑性加工後にアルカリ脱脂液を用いた脱脂などの手法により潤滑処理皮膜を除去し、その後、無処理で使用されるか、あるいは更に化成処理および塗装などを施して使用されるものである。一方、非脱膜型の潤滑処理金属材とは、塑性加工後に潤滑処理皮膜を除去することなく、その皮膜表面のままで、または更に塗装などを施して使用されるものである。
一般に、ステンレス鋼板やアルミニウム板など、その金属光沢を生かして最終製品化される素材の場合は、脱膜型の潤滑処理金属材として使用されることが多い。特に、ステンレス鋼板など、表面に研磨ないしは光輝焼鈍などを施した美麗な外観を有する金属材の場合、絞り加工などの成形が可能なだけでは不十分で、金型による型かじりを防ぎ、加工部も美麗な表面を保持することが重要である。
このため、現在は、加工前の金属材に厚み50μm程度のビニールフィルムを貼合し、プレス成形を行った後にそのフィルムを剥離する方法が多用されている。しかし、この方法では、加工後のフイルムの剥離を、通常は人力で行わなければならないため、製造ラインの自動化・省力化の妨げとなる。また、特に加工部ではフイルムの剥離が困難になる場合が多い。さらに、剥離したフイルムは嵩高く、多くは焼却処分が困難で、その減容・埋め立て処理などに多大な経費を必要とする。
そのため、脱膜型の潤滑処理金属材の型かじり性の改善に対する要望が強く、特開平8−290520号公報には、耐型かじり性をはじめ、潤滑性、耐ブロッキング性など、塑性加工時に必要とされる全ての性能を満足し、アルカリ脱脂液による脱膜性にも優れた、脱膜型の潤滑処理金属材が提案されている。
特開平8−290520号公報 特開平6−264255号公報 特開2000−319584号公報
最近では、このような潤滑処理皮膜に対して、塑性加工時の潤滑性や耐型かじり性だけでなく、加工後の外観確保のための保護膜としての役割も求められるようになってきた。もともと、冷延鋼板やめっき鋼板などでは、耐食性の問題から、塑性加工後も非脱膜のまま製品に適用される場合が多かったが、耐食性に優れるステンレス鋼板においても、成形加工や組み立て時の汚れや指紋の付着、傷付き防止、また製品段階での汚れや指紋付着防止の目的のため、非脱膜型の潤滑処理皮膜の要求がある。
このような状況に鑑み、本発明は、耐型かじり性をはじめ、潤滑性、耐ブロッキング性、さらには塑性加工後の製品外観の確保まで可能な、非脱膜型の環境に配慮した潤滑処理金属材を提供することを目的とする。
型かじりを防止するための従来の考え方は以下のようなものであった。
(a) 潤滑処理皮膜の膜厚を厚くして、金型と金属との直接接触を避ける。
(b) 潤滑処理皮膜の潤滑性を固体潤滑剤などの添加によって向上させ、かじりにいたるまでの摺動長さを増加させる。
しかし、このような潤滑皮膜設計を行っても、厳しい加工の場合はかじりが発生する。本発明者らは、モデル実験や実プレスを用いた調査により、かじりによって金型内に堆積する潤滑処理皮膜の剥離片そのものが型かじりの原因になるということを見いだした。すなわち、どんなに潤滑性の良い皮膜を厚く形成させたとしても、皮膜の密着力が悪ければ、皮膜が根こそぎ剥離し、その剥離した皮膜がさらに型かじりの原因になるのである。従って、皮膜と基材金属の密着性を高めることが型かじり防止に最も重要なポイントであるという結論に達した。
皮膜と基材金属の密着性を高めるための手法として、クロメート処理が一般的に使われる。特開平6−264255号公報においては、ステンレス鋼板にクロメート処理を行い、その上に潤滑剤を添加した有機樹脂層を有する加工性と耐食性に優れたステンレス鋼板が開示されている。また、特開2000−319584号公報においては、ブライト仕上げステンレス鋼板に何らかの塗装前処理を行い、潤滑剤を添加したウレタン系樹脂を施した潤滑性に優れた透明塗装ステンレス鋼板の製造方法が開示されている。
このようにクロメート処理は優れた密着性を有しているのだが、人体に有害な6価クロムを含有しているという問題がある。また、6価クロムは、環境基本法、水質汚濁防止法によって排出量が厳しく制限されているものであり、近年の環境に対する意識の高まりの中で、6価クロムフリー化が、さらには、完全なクロムフリー化が求められている。
本発明者らは、潤滑処理皮膜を構成する樹脂の主成分、添加剤などについて検討を重ねた結果、潤滑処理皮膜にシランカップリング剤を添加し、潤滑処理皮膜と基材金属材との密着力を強化することにより耐型かじり性が飛躍的に向上し、さらに添加剤の適量化によって、アルカリ脱脂液によって脱膜されない非脱膜型の潤滑処理皮膜が生成する場合があることを見出した。ここでいう「アルカリ脱脂液」とは、通常の塑性加工時に用いられる市販の脱脂液のことである。
しかし、添加剤の適量化だけでは上記潤滑処理皮膜を確実に非脱膜化することはできなかったので、さらに鋭意検討を重ねた結果、塗装・乾燥または焼付け後に、40℃以上の温度に長時間保持することにより、安定して非脱膜型の潤滑処理皮膜を形成できるようになることが判明した。
本発明はこのような知見に基づいてなされたもので、その要旨は下記の潤滑処理金属材およびその製造方法にある。
(1)基材金属の少なくとも1つの表面に、(a)ガラス転移温度が10℃以上、85℃以下の少なくとも1種の水溶性または水分散性アクリル系樹脂と、このアクリル系樹脂(a)の樹脂固形分に対して、(b)5質量%以上、10質量%以下のシランカップリング剤と、(c)0.5質量%以上、20質量%以下の固体潤滑剤とを含有する処理剤を乾燥または焼付けを行った後、さらに40℃以上に6時間以上保持し、アルカリ脱脂液により脱膜されない潤滑処理皮膜から形成された、0.5μm以上、10μm以下の膜厚の、非脱膜型の潤滑処理皮膜を有することを特徴とする、潤滑処理金属材。
(2)基材金属の少なくとも1つの表面に、(a)ガラス転移温度が10℃以上、85℃以下の少なくとも1種の水溶性または水分散性アクリル系樹脂と、このアクリル系樹脂(a)の樹脂固形分に対して、(b)質量%以上、10質量%以下のシランカップリング剤と、(c)0.5質量%以上、20質量%以下の固体潤滑剤とを含有する処理剤を、乾燥後の膜厚が0.5μm以上、10μm以下となるように塗布し、乾燥または焼付けを行った後、さらに40℃以上に6時間以上保持することを特徴とする、潤滑処理金属材の製造方法。
(3) 基材金属が帯状であって、「40℃以上に6時間以上保持する」工程が、塗布と乾燥または焼付けを行った帯状基材金属を45℃以上で巻き取ることにより行われる、上記(2) に記載の潤滑処理金属材の製造方法。
本発明の潤滑処理金属材は、クロメート処理を利用しないにもかかわらず、潤滑処理皮膜の密着性がよいため、塑性加工時の金型による耐型かじりを防止することができ、耐ブロッキング性にも優れている。また、潤滑処理皮膜が、塑性加工後に脱脂などの洗浄を行っても塗膜が残存する非脱膜型であることから、成形加工や組立て時の汚れや指紋の付着、傷付き防止、また製品での汚れや指紋付着を防止することが可能となる。従って、本発明の潤滑処理金属材は、クロメート処理が不要であることと、アルカリ脱脂液による脱脂が不要であることの両面から、環境負荷が非常に少ないといえる。
以下、本発明の潤滑処理金属材について詳細に説明する。以下の説明において、%は、特に指定しない限り、質量%である。
[基材金属]
本発明の潤滑処理金属材の基材である金属の形状および種類は特に限定されるものではない。しかし、塑性加工の対象物として主に使用される薄板形状のものが基材金属材として広く適用される。連続処理が可能となるように、基材金属は帯状の薄板形状のものであることがより好ましい。
金属の種類としては、熱延鋼板、冷延鋼板、各種めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板などが例示される。
[基本樹脂]
本発明の潤滑処理金属材の潤滑処理皮膜を構成する基本成分であるアクリル系樹脂は、水溶性または水分散性の熱可塑性アクリル樹脂である。一般に水系塗料用として使用されているものがそのまま使用できる。これらの樹脂を製造するための重合法についても何ら限定はない (アクリル系樹脂およびその製造方法については、例えば、北岡協三著「塗料合成樹脂入門」 (高分子刊行会発行) 参照) 。
上記アクリル系樹脂は、ビニル系不飽和カルボン酸およびビニル系不飽和カルボン酸エステルから選ばれた単量体 (以下、アクリル単量体という) を重合したものである。アクリル単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ソルビン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、メチル (メタ) アクリレート、エチル (メタ) アクリレート、プロピル (メタ) アクリレート、イソプロピル (メタ) アクリレート、プチル (メタ) アクリレート、イソブチル (メタ) アクリレート、2-エチル−ヘキシル (メタ) アクリレート、へキシル (メタ) アクリレート、ラウリル (メタ) アクリレート、ステアリル (メタ) アクリレート、2-ヒドロキシエチル (メタ) アクリレート、2-ヒドロキシプロピル (メタ) アクリレート、グリシジン (メタ) アクリレート、ジメチルアミノエチル (メタ) アクリレートなどが挙げられる。
水溶性または水分散性アクリル系樹脂は、一般に少なくとも1種のビニル系不飽和カルボン酸と少なくとも1種のビニル系不飽和カルボン酸エステルとを含む2成分以上のアクリル単量体の混合物を、溶液重合方法または乳化重合方法などの常法に従って重合させることにより製造することができる。カルボン酸またはカルボン酸エステル以外の他のビニル系不飽和単量体 (例えば、スチレンやその誘導体) も、樹脂が水溶性または水分散性となる限り、アクリル単量体と一緒に重合に用いることができる。上記のように、市販の水系塗料用のアクリル系樹脂を使用してもよい。
重合体のガラス転移温度 (Tg) については、カルボン酸およびカルボン酸エステルの成分を適切に選択し、これらの使用割合を適宜調整することにより所望の値とすることができる。また、2種以上の重合体をブレンドすることにより、Tgを調整することも可能である。重合体は、塗料組成物の安定性を良くするために、アンモニアあるいはアミンなどで中和することもできる。
本発明の潤滑処理金属材で用いる水溶性または水分散性アクリル系樹脂は、ガラス転移温度 (Tg) が10℃以上、85℃以下のものである。樹脂が2種以上のアクリル系重合体のブレンドである場合には、Tgはブレンドとしての値であり、これは各単量体のTgとその含有量とから算出されるTgの加重平均値である。
アクリル系樹脂のガラス転移温度が10℃未満であると、皮膜の耐ブロッキング性が不十分となる、皮膜同士が接触するように潤滑処理金属材を重ねたときに、皮膜が密着してしまうおそれがある上、耐型かじり性も劣化する。一方、ガラス転移温度が85℃を超えると、潤滑処理皮膜の加工性が劣化する。樹脂のガラス転移温度は、好ましくは15℃以上、60℃以下である。
潤滑処理皮膜中のアクリル系樹脂は、1種以上の水溶性アクリル系樹脂または1種以上の水分散性アクリル系樹脂からなるものでもよく、或いは1種以上の水溶性アクリル系樹脂と1種以上の水分散性アクリル系樹脂との混合物であってもよい。
本発明の潤滑処理金属材の潤滑処理皮膜は、後述するように、アクリル系樹脂を水に溶解または分散させた樹脂液を処理剤として基材金属表面に塗布した後、乾燥または焼付けすることにより形成される。この樹脂液には、アクリル系樹脂に加えて、シランカップリング剤と固体潤滑剤とを含有する。
[シランカップリング剤]
処理剤中に含有させたシランカップリング剤は、樹脂皮膜と基材金属との密着力を強化する作用を有し、これによって耐型かじり性が飛躍的に向上するとともに、潤滑処理皮膜の非脱膜化が可能となる。また、多官能のシランカップリング剤には、樹脂の内部架橋を促進する効果も期待できる。
シランカップリング剤の添加量は、樹脂固形分に対して、%以上、10%以下とする。潤滑処理皮膜と基材金属材との密着力を向上させるだけなら、シランカップリング剤の添加量が0.5%以上で目的が達成され、それにより耐型カジリ性が飛躍的に向上する。しかし、非脱膜化も同時に達成するには%以上のシランカップリング剤の添加が必要である。%未満であると、アルカリによる脱膜が可能であるため耐汚れ性に劣る。一方、10%を超えると、潤滑処理皮膜と基材金属材との密着力がかえって低下する傾向が認められる。この原因については調査中であるが、シランカップリング剤同士の結合が起こり、この結合力が弱いために、潤滑処理皮膜と基材金属材との密着力が低下しているのだと考えている。また、過剰添加は経済的に不利であり、さらには樹脂を溶解または分散させた樹脂液の安定性が損なわれ、短時間でゲル化する可能性がある。シランカップリング剤の好ましい添加量は%以上、7%以下である。
添加されるシランカップリング剤の種類は特に限定されるものではない。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、 N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、 N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
[固体潤滑剤]
潤滑処理皮膜の潤滑性を確保するため、樹脂液にはシランカップリング剤に加え、固体潤滑剤が含まれる。固体潤滑剤としてはワックス類および金属石鹸を使用することができる。固体潤滑剤は、樹脂固形分に対して0.5 %以上、20%以下の量で使用する。固体潤滑剤の添加量が0.5 %未満であると、皮膜の潤滑性が不十分となり、20%を超えると、潤滑性の向上効果が飽和するのみならず、樹脂皮膜の凝集強度が低下し、耐型かじり性が劣化する。固体潤滑剤の好ましい添加量は2%以上、10%以下である。
ワックス類としては、ポリエチレンワックス、カルバナワックス、パラフィンワックス、テフロン(R)ワックス等が挙げられる。金属石鹸としては、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどが例示される。固体潤滑剤は1種または2種以上を使用することができる。固体潤滑剤の粒径は特に制限されるものではないが、平均粒径が 0.5〜5μmであるものが好ましい。
[潤滑処理皮膜]
本発明の潤滑処理金属材は、上述したアクリル系樹脂とシランカップリング剤と固体潤滑剤を含有する処理剤を基材金属表面に塗布し、乾燥または焼付けを行い、さらに後述するように40℃以上の温度に長時間保持することにより形成された、非脱膜型の (即ち、アルカリ脱脂液により脱膜されない) 潤滑処理皮膜を有する。
潤滑被膜皮膜の膜厚は0. 5μm以上、10μm以下とする。膜厚が0. 5μmより薄いと、潤滑処理皮膜がその性能を十分に発揮することができない。膜厚が10μmより厚くなると、潤滑処理皮膜の非脱膜化が不十分となり、型かじりが発生し易くなり、耐汚れ性も悪化する。好ましい膜厚は2〜5μmである。この潤滑処理皮膜は透明で、素材の金属表面が見える。但し、膜厚が5μmを超えると、光沢はやや低下する場合がある。
基材金属が板材 (帯材を含む) である場合、潤滑処理皮膜は片面だけに形成してもよいが、好ましくは両面ともに形成する。管材の場合には、通常は外面だけに潤滑処理皮膜を形成すればよい。
この潤滑処理皮膜の形成方法は特に限定されるものではないが、以下に標準的な手法を例示する。
[前処理]
潤滑処理皮膜の形成に使用される処理剤は、アクリル系樹脂を水に溶解または分散させた水系のものなので、基材金属は、前処理としてアルカリ脱脂などで十分に脱脂しておく。この脱脂が不十分であると、形成される皮膜に塗装はじきなどの欠陥が発生する。
[処理剤]
処理剤は、所定のガラス転移温度を示すように調整された樹脂液に、まず金属石鹸等の固体潤滑剤を添加して十分に分散させた後、シランカップリング剤を添加し、攪拌することにより調製する。シランカップリング剤を先に添加すると泡立ちが起こり、調製に支障を生じるおそれがある。調製の際、希釈はイオン交換水を用いて行うが、ぬれ性の改善、消泡・乾燥性の向上のため、水と相溶性のよい有機溶剤を添加してもよい。処理剤の固形分濃度は、形成する潤滑処理皮膜の厚さおよび塗布方法によって調整する。
[処理剤の塗布]
処理剤の塗布方法は基材金属の形状により異なるが、板形状の場合はロールコーターによる塗布が最も好ましい。ロールコーターを用いると、塗布膜厚の調整が容易で、かつ美麗な塗装が可能である。その他、スプレー法、刷毛塗り、浸漬法なども適用できる。特に棲雑な形状のものに対してはスプレー法などが実用的である。
[乾燥または焼付け]
処理剤を塗布した後、乾燥することにより潤滑処理皮膜が形成される。乾燥温度は水が蒸発する程度でよいが、最高到達板温が50℃〜100 ℃となる条件で行うのが効率良く、好ましい。乾燥方法としては、温風乾燥、赤外線による乾燥など、通常用いられる方法が適用できる。
[乾燥または焼付け後の温度保持]
本発明の潤滑処理金属材は、前述したシランカップリング剤の適量添加と、乾燥または焼付け後に、40℃以上の高温で6時間以上保持することによって、皮膜の安定した非脱膜化が可能となる。この原因については調査中であるが、基材金属および樹脂皮膜とのシランカップリング剤の反応が遅く、数秒から数分間の乾燥または焼付けだけでは反応が十分には進んでいないためと考える。この時の保持温度が40℃未満であったり、または温度保持時間が6時間より短いと、シランカップリング剤の反応が十分には進まず、安定した非脱膜化を確保することは困難である。保持温度は50℃前後とすることが特に好ましい。
この温度保持は、切板のように潤滑処理が不連続である場合には、オーブン加熱により実施すればよい。
基材金属が鋼帯のように帯状であって、潤滑処理を連続的に実施する場合には、コイルへの巻き取り時の温度を45℃以上とすることにより、コイル全体の温度を40℃以上に6時間保持することができる。コイルが短い場合には冷却が速くなるので、実際の巻き取り温度は、コイルの長さに応じてコイル全体の温度が40℃以上に6時間以上保持できる温度に設定する。それにより、潤滑処理皮膜の乾燥または焼付け後に加熱を実施しなくても、巻き取り後に潤滑処理皮膜を安定して非脱膜化することができる。好ましい巻き取り温度は50℃以上であり、55℃前後が特に好ましい。
本発明の潤滑処理金属材は、下地クロメート処理を行わないので環境への負荷が少なく、潤滑処理皮膜と基材金属との密着力が強く、優れた耐型かじり性を有しており、後述する実施例に示すように、非脱膜型であるため、耐汚れ性にも優れている。潤滑処理皮膜を有していても、型かじりが起こると皮膜剥離の起点となり、種々の問題が発生する。
表1に示した単量体組成、ならびにガラス転移温度を有する各種の水溶性または水分散性アクリル系樹脂の樹脂液に、まず固体潤滑剤を添加して分散させた後、次にシランカップリング剤添加して、表2に示すような固形分組成 (シランカップリング剤と固体潤滑剤の添加量は樹脂固形分に対する%) を有する処理剤を調製した。処理剤の総固形分濃度は、イオン交換水の添加により20%となるように調整した。
この処理剤を、表面をアルカリ脱脂したステンレス鋼板 (SUS304、2B仕上げ、板厚1.2 mm) の両面にバーコーターで塗布し、最高到達板温が60℃になるように熱風炉で乾燥した後、50℃に設定したオーブン中に12時間保持して、潤滑処理金属材の試験板を作製した。形成された潤滑処理皮膜の膜厚は、リムーバまたは溶剤による除去の前後の重量差から求めた。
この試験板の性能を下記のようにして調査した。
[耐型かじり性]
試験材に対して下記条件で円筒成形を行い、円筒側壁部のキズを目視観察して、下記の判定基準により耐型かじり性を評価した。◎、○であれば良好とした。
<円筒成形条件>
試験片形状:直径90 mm の円板
ポンチ径:50 mm φ、ポンチ肩R:5R
ダイス径:50 mm φ、ダイス肩R:5R
押え圧:20 kN
絞り高さ:25 mm
塗油なし、金型#1200ペーパー研磨有り。
<型かじり性の判定基準>
◎: キズが全くない、
○: 軽微なスリキズ (外観上問題なし) 、
△: 軽度なスリキズ (外観上問題あり) 、
×: 明瞭なキズおよび/または塗膜剥離。
[成形加工後の皮膜残存と汚れ]
試験材にに日本工作油製#620 プレス油を塗布した点を除いて上記と同じ円筒成形条件で成形して得た円筒成形品に、アルカリ脱脂液 (日本パーカライジング製FC-L-4480)の2%水溶液を、温度40℃、スプレー圧1kg/cm2で60秒スプレーした後、温風乾燥し、皮膜残存の有無を目視で評価した。
皮膜残存は、外観上目立つキズが無く、塗膜が残存しているものを○とし、塗膜の一部だけ残っているもの及び完全に脱膜されたものは×とした。○は非脱膜化されていることを意味する。
さらに、脱脂後の成形品側壁部に指紋を付着させ、軽く布きれで拭き取った後の指紋汚れの程度を目視で観察した。指紋汚れがほとんど目立たないものを○、拭き取れずに目立つものを×とした。
[耐ブロッキング性]
耐ブロッキング性試験は、試験板の積み重ね保管時における潤滑処理皮膜どうしの粘着 (ブロッキング) に対する耐性を調べる試験である。この粘着が起こると、作業性が低下し、塑性加工性が悪化する。
耐ブロッキング性試験は、片面のみに皮膜を形成した2枚の試験片の皮膜どうしを重ね合わせ、40℃、200 kg/cm2の圧力で3時間押し付けた後、剥離して、粘着状態を4段階で評価した。◎または○であれば良好とした。
◎: 自重で剥離し、粘着痕がない、
○: 自重で剥離するが、粘着痕が認められる、
△: 粘着するが、軽く叩くと剥離する、
×: 粘着し、叩いても剥離しない。
試験結果を潤滑処理皮膜の膜厚と共に表2に併せて示す。この結果から明らかなように、実施例として示した本発明の潤滑処理金属材は、耐型かじり性に優れるとともに、成形、脱脂後に完全に塗膜が残存しており、耐汚れ性にも優れている。また、耐ブロッキング性も良好であった。
Figure 0004027865
Figure 0004027865
実施例1の表2に示した処理剤No.1を、表面をアルカリ脱脂したステンレス鋼板 (SUS 304 、2B仕上げ、板厚1.2 mm) の両面に、バーコーターで乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗布し、最高到達板温が60℃になるように熱風炉で乾燥した後、各種温度に設定したオーブン中に保持し、潤滑処理金属材の試験板を作製した。この試験板を、皮膜残存と汚れの有無について、実施例1と同様に調査した
試験結果を表3に示す。塗布と乾燥後に、40℃以上の温度に6時間以上保持した、実施例として示した本発明の潤滑処理金属材は、成形と脱脂後に塗膜が完全に残存していて、潤滑処理皮膜は非脱膜型となっており、耐汚れ性にも優れていた。しかし、温度保持時間が短いものや、保持温度が低いものは、アルカリ脱脂により脱膜が起こり、耐汚れ性にも劣っていた。
Figure 0004027865
実施例1の表2に示した処理剤No.1を、ステンレス鋼帯 (SUS304、2B仕上げ、板厚0.8 mm、コイル長さ約100 m)の両面に、実機ロールコータにより、乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗布し、最高到達板温が60℃になるように熱風炉で乾燥した後、コイル状に巻き取った。巻き取り時の板温は55℃であった。6時間後に板温を確認したところ50℃であった。この時点で試験片を採取して、実施例2と同様に評価を行った。
実機で作製した表面処理鋼帯は、成形および脱脂後に完全に塗膜が残存しており、耐汚れ性にも優れていた。

Claims (3)

  1. 基材金属の少なくとも1つの表面に、(a)ガラス転移温度が10℃以上、85℃以下の少なくとも1種の水溶性または水分散性アクリル系樹脂と、このアクリル系樹脂(a)の樹脂固形分に対して、(b)5質量%以上、10質量%以下のシランカップリング剤と、(c)0.5質量%以上、20質量%以下の固体潤滑剤とを含有する処理剤を乾燥または焼付けを行った後、さらに40℃以上に6時間以上保持し、アルカリ脱脂液により脱膜されない潤滑処理皮膜から形成された、0.5μm以上、10μm以下の膜厚の、非脱膜型の潤滑処理皮膜を有することを特徴とする、潤滑処理金属材。
  2. 基材金属の少なくとも1つの表面に、(a)ガラス転移温度が10℃以上、85℃以下の少なくとも1種の水溶性または水分散性アクリル系樹脂と、このアクリル系樹脂(a)の樹脂固形分に対して、(b)5質量%以上、10質量%以下のシランカップリング剤と、(c)0.5質量%以上、20質量%以下の固体潤滑剤とを含有する処理剤を、乾燥後の膜厚が0.5μm以上、10μm以下となるように塗布し、乾燥または焼付けを行った後、さらに40℃以上に6時間以上保持することを特徴とする、潤滑処理金属材の製造方法。
  3. 基材金属が帯状であって、「40℃以上に6時間以上保持する」工程が、塗布と乾燥または焼付けを行った帯状基材金属を45℃以上で巻き取ることにより行われる、請求項2に記載の潤滑処理金属材の製造方法。
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